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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05B
管理番号 1357658
異議申立番号 異議2018-700874  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-29 
確定日 2019-11-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6321435号発明「偏光板および有機ELパネル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6321435号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6321435号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6321435号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成25年6月10日(優先権主張 平成24年6月21日)に出願された特願2013-122175号の一部を、平成26年4月14日に新たな出願としたものであって、平成30年4月13日にその特許権の設定登録がされ、平成30年5月9日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、以下のとおりである。

平成30年10月29日:特許異議申立人 鶴谷裕二(以下「特許異議申立人」という。)による請求項1?7に係る特許に対する特許異議の申立て
平成31年1月21日付け:取消理由通知書
平成31年3月19日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成31年4月24日:特許異議申立人による意見書の提出
令和元年5月30日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和元年7月31日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(この訂正請求書による訂正請求を、以下「本件訂正請求」という。)

なお、令和元年8月7日付けで通知書を送付したが、特許異議申立人による意見書の提出はなかった。
また、平成31年3月19日に提出した訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされる。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容(訂正事項1)
本件訂正請求による訂正の内容は、次のとおりである(下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。)。

特許請求の範囲の請求項1の「偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とを備え、」との記載を、「偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とをこの順に備え、」と訂正し;「該第2の位相差層が、nz>nx≧nyの屈折率特性を示し、」との記載を、「該第2の位相差層が、nz>nx>nyの屈折率特性を示し、Re(550)が10nmを超えて150nm以下であり、」と訂正する。

請求項2?請求項7は、請求項1の記載を引用して記載されているから、上記訂正により、請求項2?請求項7についても、訂正されたこととなる。
なお、本件訂正は、一群の請求項である、請求項1?請求項7を対象として請求された。

2 訂正の適否
以下、訂正前の請求項1に係る発明を「訂正前発明1」という。
(1) 訂正の目的
請求項1についてした訂正は、[A]訂正前発明1における「偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層」の位置関係を、「偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とをこの順に備え」と特定するとともに、[B]訂正前発明1における「第2の位相差層」の「屈折率特性」を、「nz>nx>ny」に限定し、さらに、[C]訂正前発明1における「第2の位相差層」の「Re(550)」を「10nmを超えて150nm以下」に限定するものである。
そうしてみると、上記の訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正である。
また、請求項2?請求項7についてみても、同じことがいえる。

(2) 新規事項について
請求項1についてした訂正は、願書に添付した明細書の【0012】、【0054】、【0055】、実施例6?11及び18?23(【0119】?【0142】、【0199】?【0222】、【0239】及び【0240】)、並びに、願書に添付した図1(a)に基づくものであって、「Re(550)」が「10nm」である場合を除くものである。
そうしてみると、訂正は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)によって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、請求項1についてした訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、請求項2?請求項7についてみても、同じことがいえる。

(3) 拡張、変更について
請求項1についてした訂正は、前記(1)で述べたとおりのものであるから、訂正前発明1の範囲を狭くするものである。
そうしてみると、訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならないといえる。
したがって、請求項1についてした訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
また、請求項2?請求項7についてみても、同じことがいえる。

3 小括
本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。また、訂正は、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。

第3 取消理由の概要
訂正前発明1?7に係る特許に対して、当審が令和元年5月30日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、訂正前発明1?7に係る発明は、甲第1?4号証に記載された発明又は技術、及び周知技術を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前発明1?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである、というものである。

第4 本件特許発明
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなった。そうしてみると、本件特許の請求項1?請求項7に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明7」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?請求項7に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。

「【請求項1】
偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とをこの順に備え、
該第1の位相差層が、nx>ny=nzの屈折率特性を示し、Re(450)<Re(550)の関係を満たし、
該第2の位相差層が、nz>nx>nyの屈折率特性を示し、Re(550)が10nmを超えて150nm以下であり、
該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度θが、35°≦θ≦55°の関係を満たし、
該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?160nmで、Rth(550)が40nm?100nmであり、
該第1の位相差層の吸水率が3%以下であり、
有機ELパネルに用いられる、
偏光板:
ここで、Re(450)およびRe(550)は、それぞれ、23℃における波長450nmおよび550nmの光で測定した面内位相差を表し、Rth(550)は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差を表す。
【請求項2】
前記偏光子と、前記第1の位相差層または前記第2の位相差層との間に光学異方性層を含まない、請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
前記第1の位相差層が、下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂で形成される、請求項1または2に記載の偏光板。
【化1】

(前記一般式(1)中、R_(1)?R_(4)はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1?炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6?炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6?炭素数20のアリール基を表し、Xは置換若しくは無置換の炭素数2?炭素数10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6?炭素数20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6?炭素数20のアリーレン基を表し、m及びnはそれぞれ独立に0?5の整数である。)
【請求項4】
前記第1の位相差層が、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂で形成される、請求項1から3のいずれか1項に記載の偏光板。
【化2】

【請求項5】
前記第1の位相差層が、下記一般式(5)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂で形成される、請求項1から4のいずれか1項に記載の偏光板。
【化3】

(上記一般式(5)中、R_(7)は置換若しくは無置換の炭素数2?炭素数10のアルキレン基を示し、pは2から100の整数である。)
【請求項6】
前記第1の位相差層が斜め延伸して得られた位相差フィルムである、請求項1から5のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の偏光板を備える、有機ELパネル。」

第5 各甲号証の記載事項及び各甲号証に記載された発明
1 甲第1号証の記載事項
本件優先権主張の日(以下、「本件優先日」という。)前の平成16年8月12日に頒布された刊行物である甲第1号証(特開2004-226838号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、甲第1号証に記載された発明の認定や判断に活用した箇所を示す(以下同様。)。
(1) 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学フィルムに関する。本発明の光学フィルムは、単独でまたは他の光学フィルムと組み合わせて、位相差板、視角補償フィルム、光学補償フィルム、楕円偏光板、輝度向上フィルム等の各種光学フィルムとして使用できる。特に、本発明の光学フィルムは、偏光板と積層して楕円偏光板として用いる場合に有用である。また本発明は前記光学フィルム、楕円偏光板等を用いた液晶表示装置、有機EL(エレクトロルミネセンス)表示装置、PDP等の画像表示装置に関する。本発明の積層光学フィルム、楕円偏光板は、上記の通り、各種液晶表示装置等に適用できるが、特に携帯型情報通信機器、パーソナルコンピュータなどに実装され得る反射半透過型液晶表示装置等に特に好適に利用される。
・・・(省略)・・・
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、可視光における広帯域波長領域において、斜めから見たときの着色を抑制することができる、光学フィルムを提供することを目的とする。
・・・(省略)・・・
【0013】
上記本発明の光学フィルムは、ホメオトロピック配向液晶層(1)と位相差板(2)とを積層したものであり、ホメオトロピック配向液晶層(1)によって厚み方向の位相差も制御が可能であり、斜めから見たときの色見の変化を抑制することができる。
・・・(省略)・・・
【0014】
前記光学フィルムにおいて、位相差板(2)が、可視光領域である波長450nm、550nm、650nmにおける面内位相差を、それぞれR(450)、R(550)、R(650)とした場合に、
0.6<{R(450)/R(550)}<0.95を満足し、かつ
1.0<{R(650)/R(550)}<1.3を満足することが好ましい。
【0015】
可視光領域において広い波長の入射光に対して広帯域を補償するには、
0.7<{R(450)/R(550)}<0.9を満足し、かつ
1.05<{R(650)/R(550)}<1.25を満足することがより好ましい。
【0016】
前記光学フィルムにおいて、位相差板(2)が、λ/4板であることが好ましい。位相差板(2)が、λ/4板の場合には、本発明の光学フィルムは、広帯域でλ/4板としてほぼ機能することが可能である。
・・・(省略)・・・
【0019】
前記光学フィルムにおいて、ホメオトロピック配向液晶層(1)が、面内の屈折率が最大となる方向をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率をnx、ny、nzとした場合に、
厚み方向の位相差:{((nx+ny)/2)-nz}×d(厚さ:nm)が、-50nm?-150nmであることが好ましい。」

(2) 「【0023】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の光学フィルムを図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本発明の光学フィルムは、ホメオトロピック配向液晶層(1)と、位相差板(2)とが積層されている。また前記光学フィルムには、偏光板(P)を積層して、楕円偏光板とすることができる。図2は、図1に示す光学フィルムのホメオトロピック配向液晶層(1)側に偏光板(P)を積層した楕円偏光板である。なお、前記光学フィルムに対する偏光板(P)の積層位置は特に制限されないが、液晶表示装置に実装した時に、より視野角が広がる点から、図2のようにホメオトロピック配向液晶層(1)側に積層するのが好ましい。
・・・(省略)・・・
【0025】
ホメオトロピック配向液晶層(1)は、液晶材料を、たとえば、垂直配向剤により配向させることにより得られる。
・・・(省略)・・・
【0040】
ホメオトロピック配向液晶層(1)の作製は、基板上に、ホメオトロピック配向性側鎖型液晶ポリマーを塗工し、次いで当該側鎖型液晶ポリマーを液晶状態においてホメオトロピック配向させ、その配向状態を維持した状態で固定化することにより行う。
・・・(省略)・・・
【0048】
位相差板(2)としては、R(400)<R(500)<R(600)<R(700)<R(800)、を満足するものを用いる。なお、前記R(450)、R(550)、R(650)、R(750)はそれぞれの波長における位相差板の面内位相差である。また、位相差板(2)は、好ましくは、0.6<{R(450)/R(550)}<0.95、1.0<{R(650)/R(550)}<1.3、を満足するものである。
【0049】
面内位相差は、面内屈折率が最大となる方向をX軸、X軸に垂直な方向をY軸とし、それぞれの軸方向の屈折率をnx、ny、フィルムの厚さd(nm)とした場合に、面内位相差:R=(nx-ny)×dにより求められる。これら屈折率は自動複屈折率測定装置(王子計測機器株式会社製,自動複屈折計KOBRA21ADH)により測定した。
・・・(省略)・・・
【0090】
偏光板(P)は、通常、偏光子の片側または両側に保護フィルムを有するものである。偏光子は、特に制限されず、各種のものを使用できる。偏光子としては、たとえば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等があげられる。これらのなかでもポリビニルアルコール系フィルムを延伸して二色性材料(沃素、染料)を吸着・配向したものが好適に用いられる。偏光子の厚さも特に制限されないが、5?80μm程度が一般的である。
・・・(省略)・・・
【0124】
次いで有機エレクトロルミネセンス装置(有機EL表示装置)について説明する。一般に、有機EL表示装置は、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。ここで、有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、あるいはこのような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体や、またあるいはこれらの正孔注入層、発光層、および電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
・・・(省略)・・・
【0128】
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において、透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに、これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。」

(3) 「【0132】
【実施例】
以下に実施例をあげて本発明の一態様について説明するが、本発明は実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0133】
なお、各光学フィルムの屈折率、位相差の測定は、フィルム面内と厚さ方向の主屈折率nx、ny、nzを自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製,自動複屈折計KOBRA21ADH)により、λ=590nmにおける特性を測定した。
【0134】
実施例1
(ホメオトロピック配向液晶層)
【化6】

上記の化6(式中の数字はモノマーユニットのモル%を示し、便宜的にブロック体で表示している、重量平均分子量5000)に示される側鎖型液晶ポリマー5重量部、ネマチック液晶相を示す重合性液晶(Paliocolor LC242,BASF製)20重量部および光開始剤(イルガキュア907,チバスペシャルティケミカルズ社製)を前記重合性液晶に対して3重量部を、シクロへキサノン75重量部に溶解した溶液を調製した。そして、当該溶液を、レシチンを塗布したポリエチレンテレフタレート基材にバーコーターにて塗布し、100℃で10分間、乾燥配向させた後、メタルハライドランプにて1mJ/cm^(2)の光を照射し、厚さ約0.7μmのホメオトロピック配向液晶層を得た。ホメオトロピック配向液晶層の厚み方向位相差は、-70nmであった。
【0135】
(位相差板)
広帯域位相差板として、帝人(株)製のWRF(正面位相差138nm,550nmにおける位相差)を用いた。これは、R(400)<R(500)<R(600)<R(700)<R(800)を満足するものであった。各波長における位相差は、順に、117nm、133nm、142nm、147nm、151nmであった。
【0136】
また、R(450):120nm、R(550):138nm、R(650):145nm、であり、0.6<{R(450)/R(550)}<0.95、を満足し、かつ、1.0<{R(650)/R(550)}<1.3、を満足するものであった。
【0137】
(光学フィルム)
上記ホメオトロピック配向液晶フィルムと、上記広帯域波長板(製品名:WRFフィルム、帝人製)とを、図1に示すように、粘着剤層(アクリル系粘着剤,厚さ30μm)を介しに積層して光学フィルムを得た。
【0138】
(楕円偏光板)
上記光学フィルムのホメオトロピック配向液晶フィルム側に、図2に示すように、偏光板(日東電工(株)製,SEG1465DU)を粘着剤層(アクリル系粘着剤,厚さ30μm)を介して貼り合わせて楕円偏光板を得た。なお、貼り合わせは、偏光板の吸収軸に対して位相差フィルムの遅相軸が45°になるように行った。」

(4) 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の積層型光学フィルムの断面図の一態様である。
【図2】本発明の楕円偏光板の断面図の一態様である。
【図3】実施例の反射半透過型液晶表示装置例の断面図である。
【符号の説明】
1:ホメオトロピック配向液晶層
2:位相差板
a:粘着剤層
P:偏光板
10:液晶セル
11:液晶セル基板
12:透明電極
13:電極を兼ねる反射層
14:液晶」

(5) 「【図1】

【図2】



2 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の【0134】?【0138】には、実施例1として、図2に示すような楕円偏光板(位相差板、粘着剤層、ホメオトロピック配向液晶層、粘着剤層及び偏光板をこの順に積層してなる、楕円偏光板)が開示されている。また、甲第1号証の【0128】の記載からみて、この楕円偏光板は、有機EL表示装置に用いられるものであるといえる。
そうしてみると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「 位相差板、第1の粘着剤層、ホメオトロピック配向液晶層、第2の粘着剤層及び偏光板をこの順に積層してなる、楕円偏光板であって、
以下の化6(式中の数字はモノマーユニットのモル%を示し、便宜的にブロック体で表示している、重量平均分子量5000)に示される側鎖型液晶ポリマー5重量部、ネマチック液晶相を示す重合性液晶(Paliocolor LC242,BASF製)20重量部および光開始剤(イルガキュア907,チバスペシャルティケミカルズ社製)を前記重合性液晶に対して3重量部を、シクロへキサノン75重量部に溶解した溶液を調製し、当該溶液を、レシチンを塗布したポリエチレンテレフタレート基材にバーコーターにて塗布し、100℃で10分間、乾燥配向させた後、メタルハライドランプにて1mJ/cm^(2)の光を照射し、厚さ約0.7μm、λ=590nmで測定した厚み方向位相差が-70nmのホメオトロピック配向液晶層を得、
広帯域位相差板として、帝人(株)製のWRF(正面位相差138nm,550nmにおける位相差)を用い、
広帯域位相差板は、R(450):120nm、R(550):138nmを満足するものであって、
上記ホメオトロピック配向液晶フィルムと、上記広帯域波長板(製品名:WRFフィルム、帝人製)とを、粘着剤層(アクリル系粘着剤,厚さ30μm)を介しに積層して光学フィルムを得、
上記光学フィルムのホメオトロピック配向液晶フィルム側に、偏光板(日東電工(株)製,SEG1465DU)を粘着剤層(アクリル系粘着剤,厚さ30μm)を介して、偏光板の吸収軸に対して位相差フィルムの遅相軸が45°になるように貼り合わせて得られる、
有機EL表示装置に設ける、
楕円偏光板。
【化6】



3 甲第2号証の記載事項
本件優先日前の2009年2月26日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証(国際公開第2009/025170号)には以下の記載がある。
(1) 「技術分野
[0001] 本発明は、長尺の位相差フィルム、および長尺の楕円偏光フィルム、該楕円偏光板、更にはそれを用いた反射型液晶表示装置、タッチパネル、有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)表示装置等の画像表示装置に関する。
[0002] 従来より、反射型あるいは半透過型液晶表示装置やタッチパネル、有機EL表示装置などの画像表示装置において、外光の映り込みを抑えて明室コントラストを際立たせる手段として、λ/4板(およびλ/2板)と呼ばれる位相差板と直線偏光板を積層した円偏光板を用いることが知られている。
・・・(省略)・・・
[0005] これらの技術により、格段に生産性の良い円偏光フィルムを作ることが可能となった。しかしながら、これらの技術だけでは、画像表示装置表面に配置される円偏光板の重要な特性である優れた視角特性、即ち様々な角度から視たときに正面から視た時と同じ色味やコントラストを得ることは実現できていない。また昨今では、様々な画像表示装置のモバイル化が進み、その使われ方も多様化していることに伴い、種々の環境変化においても同様な光学特性を示すことへのニーズも非常に高まってきている。とりわけ、高温高湿下での色味安定性は重要であるが、このような要求に対し、前述の特許文献1?3の技術は全く応えることはできない。
[0006] 視角特性を改善する方法として、例えば特許文献4に開示されているようなフィルム厚み方向に配向する液晶層を設け、基材の延伸により生じた厚み方向の位相差をほぼ打ち消すような技術が知られている。しかしながら、この技術で改善できるのは視角特性のみであり、高温高湿下での色味安定性を改善することは困難であった。
特許文献1:特開2003-232921号公報
特許文献2:特開2007-94007号公報
特許文献3:特開2007-153926号公報
特許文献4:特開2004-226838号公報
発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0007] 本発明の目的は、製造時の生産性に優れ、画像表示装置に使われた場合の視角特性および高温高湿環境保存時での色味安定性に優れた長尺の楕円偏光フィルムを提供することにあり、それを実現するために必要な長尺の位相差フィルムを提供することにある。また、別の目的は、前記楕円偏光フィルムより切り出した楕円偏光板を用いた画像表示装置を提供することにある。」

(2) 「[0023] 〈本発明の長尺の位相差フィルム〉
本発明で言う位相差フィルムとは、面内の位相差値が、広い波長領域でλ/4またはλ/2を示すようなフィルムを指す。より詳細には、波長550nmで測定した位相差値Ro(550)は、所謂λ/4板の場合、108nm?168nmであることが好ましく、128nm?148nmであることが更に好ましく、138±5nmであることが最も好ましい。また、λ/2板の場合は、245?305nmであることが好ましく、265?285nmであることが更に好ましく、275±5nmであることが最も好ましい。ここで、面内位相差値Roは、下記式に従って算出する。
[0024] Ro=(nx-ny)×d
(式中、nxは、位相差フィルム面内の遅相軸方向の屈折率(面内の最大屈折率)であり、nyは、位相差フィルム面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率であり、dは、位相差フィルムの厚み(nm)である。)
・・・(省略)・・・
[0025] 本発明の位相差フィルムは、面内に前記位相差を有する基材フィルムと、その基材フィルム上に垂直配向液晶層とからなる。ここで垂直配向液晶層とは、フィルムの厚み方向に配向する液晶分子を基材フィルム上に塗工し固定化して得られる層を意味する。該基材フィルム面内の遅相軸と、フィルム長手方向とのなす角度は、10°?80°であることが特徴である。垂直配向液晶層の塗工の際、その塗工方向は基材フィルムの長手方向と一致していることが好ましい。これにより、長手方向に吸収軸を有する長尺の直線偏光フィルムと、該位相差フィルムの長手方向を揃えて積層させることで、生産性よく長尺の楕円偏光フィルムを得ることができる。上記位相差フィルムを構成する、基材フィルム面内の遅相軸とフィルム長手方向との傾きは、20°?70°の範囲、更には30°?60°の範囲であることが好ましく、特に好ましいのは40°?50°の範囲であり、最も好ましいのは実質的に45°である。実質的に45°とは45°±2°の範囲をいう。
[0026] このような特徴の長尺フィルムを作製する方法としては、一般に下記のような基材フィルムの斜め延伸方法が用いられる。
・・・(省略)・・・
[0070] フィルム402をフィルム延伸装置1で斜方延伸して配向フィルムを製造する場合、実際にフィルム402を縦延伸部406および斜方延伸部409で延伸し、得られたフィルム402の配向角を測定し、所望の配向角が得られるように、比率ロール415の速度を増減することで、縦延伸部406における延伸比率を調整する。また、斜方延伸部409における延伸比率を調整することで所望の位相差値を得る。
・・・(省略)・・・
[0232] 本発明の垂直配向液晶層は、液晶材料もしくは液晶の溶液を、本発明の基材フィルム上に塗布し、乾燥と熱処理(配向処理ともいう)を行い紫外線硬化もしくは熱重合などで液晶配向の固定化を行い、垂直方向に配向した棒状液晶による位相差板とすることが好ましい。
[0233] ここで垂直方向に配向するとは、棒状液晶分子がフィルム面に対して70?90°(垂直方向を90°とする)の範囲内に配向していることをいう。棒状液晶は、斜め配向しても、配向角を徐々に変化していてもよい。好ましくは80?90°の範囲である。
[0234] 本発明の垂直配向液晶層は面内方向の位相差値Roが0?10nm、厚み方向の位相差値Rthが-50?-400nmの範囲にある垂直方向に配向した棒状液晶による位相差板であることが好ましい。更にRoは0?5nmの範囲がより好ましい。
[0235] ここでRthは下記式で定義される。
[0236] Rth={(nx+ny)/2-nz}×d
(式中、nxは、位相差フィルム面内の遅相軸方向の屈折率(面内の最大屈折率)であり、nyは、位相差フィルム面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚み方向の屈折率であり、dは位相差フィルムの厚み(nm)である。)
位相差値の測定には自動複屈折計KOBRA-21ADH(王子計測器(株)製)等を用いることができる。
[0237] 垂直配向液晶層のRthは、基材フィルムのRthを相殺するような設定にして、円偏光フィルムの視角特性をよくする意図があり、従って、基材フィルムのRthに応じて垂直配向液晶層の塗工条件(液晶分子の種類、塗工液中の液晶分子濃度、乾燥後の膜厚など)を適切に選択することが重要である。例えば、基材フィルムのRthが互いに異なるものを用いて、同一液晶分子、同一塗布液条件で垂直配向液晶層を形成する場合は、円偏光フィルムとしていずれも優れた視角特性を与えるには、基材フィルムのRthの値に応じて、垂直配向液晶層の厚みを変えることで目的は達成できる。
・・・(省略)・・・
[0281] 〈楕円偏光フィルムの構成〉
本発明の楕円偏光フィルムの断面構成を図で示す。図6?図8は、本発明の実施態様の概略図であるが、本発明はこれに限定されるものではない。ここで、楕円偏光フィルムと呼ぶものは、直線偏光フィルムの吸収軸と、本発明の位相差フィルムの面内の遅相軸とのなす角度が0°?90°のものを指しており、その中で、45°±2°の範囲のものを特に円偏光フィルムと呼ぶものとする。
[0282] 図6は、通常の偏光板(TAC(セルローストリアセテート)/偏光子/TACの構成を有する)に、本発明の垂直配向液晶層を有する位相差フィルムの片面を、粘着剤または接着剤を用いて貼り合せた円偏光フィルムである。この場合、偏光板は市販の偏光板をそのまま使用することができる。
・・・(省略)・・・
[0284] 図8は、本発明の位相差フィルムを片側の偏光板保護フィルムとして、もう一つ別の偏光板保護フィルムとともに直線偏光フィルムを挟む形で積層、貼合した円偏光フィルムである。この際、本発明の位相差フィルムの貼合面は、垂直配向液晶層を設けた面と反対の面である。
・・・(省略)・・・
[0294] 〈EL素子での実施態様〉
図10は、本発明の楕円偏光素子をEL(エレクトロルミネッセンス)素子に使用した場合の、好ましい実施態様の概略図である。
[0295] 図10に示すように、本実施形態に係るEL素子300は、吸収型直線偏光子301と、本発明の位相差フィルム302との積層体である本発明の円偏光フィルム、から切り出した本発明の楕円偏光板303を具備している。
[0296] 吸収型直線偏光子301を透過した直線偏光は、位相差フィルム302によって楕円偏光に変換されることになる。
[0297] また、EL素子300は、楕円偏光板303に対向配置された透明基板304と、透明基板304上に形成された陽極305と、陽極305に対向配置された陰極306と、陽極305及び陰極306の間に配置された発光層307とを備えている。」

(3) 「実施例
[0304] 以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[0305] 実施例1
特開2007-94007号公報の実施例1の長尺の延伸フィルム(A)の作製方法に準じて、ノルボルネン系樹脂の製膜を行い、フィルム幅を300mmとした以外は全て同様の方法により長尺の位相差フィルムRF1を得た。RF1はロールに巻き取った。このRF1ロールからフィルムを繰り出し、片面に下記塗工液Aを押出コーターで塗工し、温風を当てて乾燥後、UV照射して層全体を硬化させ垂直配向液晶層を設けた長尺の位相差フィルムRF1-aを得た。硬化後の垂直配向液晶層の厚みは1.77μmに調整した。
[0306] この際、垂直配向液晶塗工液の塗工方向は、RF1の長手方向と一致させた。その結果、位相差フィルムRF1-a0のフィルム厚み方向のリターデーション値Rthは-3nmであった。
[0307] (塗工液A)
垂直配向液晶化合物:大日本インキ化学工業株式会社製UCL-018
16質量部
メチルエチルケトン 16.8質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 67.2質量部
続いて、図7に示すように、透過軸がフィルム幅方向に平行な長尺の偏光板(サンリッツ社製、HLC2-5618S、厚さ180μm)と、フィルムの長手方向から15°傾いた方向に面内の遅相軸を有する面内リターデーション値Roが270nmである長尺の延伸フィルムRF1-bと、前記RF1-aとを、この順にロール・トゥ・ロールで貼り合わせることにより、長尺の円偏光フィルムPF1を得た。
・・・(省略)・・・
[0308] 上記リターデーション値の測定には自動複屈折計KOBRA-21ADH(王子計測器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が550nmにおいて、試料の幅手方向に1cm間隔で3次元複屈折率測定を行い測定値を次式に代入して求めた。
[0309] リターデーション値Ro=(nx-ny)×d
リターデーション値Rth={(nx+ny)/2-nz}×d
(式中、nxは、位相差フィルム面内の遅相軸方向の屈折率(面内の最大屈折率)であり、nyは、位相差フィルム面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚み方向の屈折率であり、dは位相差フィルムの厚み(nm)である。)
実施例2
特開2003-294942号公報の実施例1に記載されている方法に準じて、ポリカーボネート-ポリスチレン共重合体からなる基材フィルムRF2を作製した。但し、延伸は、実施例1に記載の装置を用い、温度175℃、倍率3.0倍で遅相軸がフィルム幅方向と45°をなす様に斜め方向に行った。
[0310] 上記RF2上に塗工液Aを塗工し、温風を当てて乾燥後、UV照射して層全体を硬化させ垂直配向液晶層を設けた長尺の位相差フィルムRF2-aを得た。硬化後の垂直配向液晶層の厚みは0.44μmとなるように調整した。この際、垂直配向液晶塗工液の塗工方向は、RF2の長手方向と一致させた。
[0311] 実施例1で用いた長尺の偏光板(サンリッツ社製、HLC2-5618S、厚さ180μm)と、フィルムの幅方向から45°傾いた方向に面内の遅相軸を有する面内リターデーション値Roが140nmである長尺の位相差フィルムRF2-aとを、この順にロール・トゥ・ロールで貼り合わせることにより、長尺の円偏光フィルムPF2を得た。
・・・(省略)・・・
[0342] 実施例11〈円偏光板の性能評価〉
〈EL素子の作製〉
特開2003-332068号公報に記載の方法に準じて、有機EL素子を作製した。
[0343] ガラス基板の片面に、ITOセラミックターゲット(In_(2)O_(3):SnO_(2)=90質量%:10質量%)から、DCスバッタリング法を用いて、厚み120nmのITO透明膜からなる陽極を形成した。その後、超音波洗浄を行った後、紫外線オゾン方式で洗浄した。
[0344] 次に、ITO面上に、抵抗加熱式真空蒸着装置内のモリブデン製ボートに配置したN,N’-ジフェニルーN,N’-ビス-(3-メチルフェニル)-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジアミン(TPD)と、別のモリブデン製加工ボートに配置したトリス(8-キノリノール)アルミニウム(Alq)を介して、真空チャンバー内を1×10^(-4)Paの減圧状態としてTPDを220℃に加熱し、厚み60nmのTPD膜からなる正孔輸送層を形成後、その上にAlqを275℃に加熱して厚み60nmのAlq膜を形成した。
[0345] ついで、更にその上にモリブデン製ボートに配置したマグネシウムと、別のモリブデン製加工ボートに配置した銀とを介して、真空チャンバー内を2×10^(-4)Paの減圧状態として2元同時蒸着方式により、Mg・Ag合金(Mg/Ag=9/1)からなる厚み100nmの陰極を形成して、緑色(主波長513nm)に発光する有機EL素子1を作製した。
[0346] 作製した有機EL素子の発光面積は2cm×3cmであった。また、この有機EL素子に6Vの直流電圧を印加した際の正面輝度は1200cd/m^(2)であった。
[0347] 有機EL素子のガラス基板に、本発明の円偏光フィルムPF1?6、10?13より切り出した円偏光板P1?6、10?13、および比較の円偏光フィルムPF7?9より切り出した円偏光板P7?9をアクリル系粘着剤を介して貼付け試料とした。
[0348] なお、円偏光板は、円偏光板の吸収型直線偏光子とガラス基板の間に位相差板が位置するように貼り合わせた。
[0349] 〈外光反射の色味変化角度依存性、高温高湿耐性評価〉
円偏光板を貼り合わせた有機EL素子を23℃55%RHの部屋に48時間保存(状態1)後、電圧を印加せず、発光していない状態にして、照度約100lxの環境下に置き、正面と斜め45度の方向から反射色の黒味レベルを視感評価し、その差を比較した。
[0350] また、正面の黒味レベルの評価は、80℃90%RHの部屋に200時間保存(状態2)後、同様に評価した。結果を表2に示す。
・・・(省略)・・・
[0357][表2]




(4) 「[図6]

・・・(省略)・・・
[図8]

・・・(省略)・・・
[図10]



4 甲第2号証に記載された発明
(1) 甲2-2発明
甲第2号証の[0001]には、甲第2号証にいう本発明は、長尺の楕円偏光フィルムを用いた、有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)表示装置等の画像表示装置に関するものであることが記載されている。そうしてみると、甲第2号証の各実施例の楕円偏光フィルムは、有機EL表示装置に用いられるものであるといえる。
したがって、甲第2号証には、実施例2として、次の発明(以下「甲2-2発明」という。)が記載されている。なお、厚み方向のリターデーション値Rthの数値は、[0357]の[表2]に記載されたものである。

「 遅相軸がフィルム幅方向と45°をなす、ポリカーボネート-ポリスチレン共重合体からなる基材フィルムRF2を作製し、
基材フィルムRF2上に以下の塗工液Aを塗工し、温風を当てて乾燥後、UV照射して層全体を硬化させ垂直配向液晶層を設けた長尺の位相差フィルムRF2-aを得、
透過軸がフィルム幅方向に平行な長尺の偏光板と、
フィルムの幅方向から45°傾いた方向に面内の遅相軸を有し、以下のリターデーションの式で表される、23℃、55%RHの環境下で測定した、波長550nmにおける面内リターデーション値Ro及び厚み方向のリターデーション値Rthが、140nm及び2nmである長尺の位相差フィルムRF2-aとを、この順に貼り合わせることにより得た、
有機EL表示装置に用いられる、
円偏光フィルムPF2。

(塗工液A)
垂直配向液晶化合物:大日本インキ化学工業株式会社製UCL-018
16質量部
メチルエチルケトン 16.8質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 67.2質量部

(リターデーションの式)
Ro=(nx-ny)×d
Rth={(nx+ny)/2-nz}×d
(式中、nxは、位相差フィルム面内の遅相軸方向の屈折率(面内の最大屈折率)であり、nyは、位相差フィルム面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚み方向の屈折率であり、dは位相差フィルムの厚み(nm)である。)」

(2) 甲2-3発明?甲2-13発明
甲第2号証には、実施例3?13として、甲2-2発明とは「使用位相差フィルム」及び「基材フィルムの遅相軸と液晶塗工方向の角度」が、以下の表に記載したとおり相違し、「位相差フィルムのRo(550nm)」及び「位相差フィルムのRth(550nm)」が以下の表に記載されたものである、円偏光フィルムPF3?PF6及びPF10?PF15(以下「甲2-3発明」?「甲2-13発明」といい、「甲2-2発明」?「甲2-13発明」を総称して「甲2発明」という。)が記載されている。


5 甲第3号証の記載事項
本件優先日前の平成13年9月14日に頒布された刊行物である甲第3号証(特開2001-249222号公報)には以下の記載がある。
(1) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、反射防止フィルム及びそれを用いた発光素子に関し、発光素子としては、特に、有機薄膜を電界発光層に用いる有機電界発光ディスプレイに好適な表示素子、及びそれに有用な反射防止フィルムに関するものである。
・・・(省略)・・・
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記のような実状を鑑みてなされたものであって、電界発光表示素子内部に組み込まれた金属電極等の反射性の大きい反射面による光反射を、広帯域の波長で効果的に防止できる反射防止フィルム及びそれを用いてなる表示素子を提供することにある。」

(2) 「【0042】
【発明の実態の形態】本発明の反射防止フィルムは、1枚の高分子配向フィルムからなり、波長 450nm及び 550nmにおける位相差が下記式(1)を満たす位相差フィルムと偏光板とからなることを特徴としている。R(450)、R(550)は同符号である必要がある。
【0043】
【数5】
|R(450)|<|R(550)| (1)
・・・(省略)・・・
【0045】位相差フィルムの位相差波長分散として好ましくは、測定波長450nm,550nm,650nmの位相差値R(450)、R(550)、R(650)で表すと、下記式(2)及び(3)
【0046】
【数6】
0.6<R(450)/R(550)<0.97 (2)
1.01<R(650)/R(550)<1.4 (3)
を満足することである。より好ましくは下記式(4)及び(5)を満足することである。
・・・(省略)・・・
【0050】高分子配向フィルムはガラス転移点温度が120℃以上、好ましくは140℃以上であることが好ましい。120℃未満では、発光素子の使用条件にもよるが配向緩和等の問題が発生する場合がある。また、吸水率は1重量%以下であることが好ましい。高分子配向フィルムの吸水率が1重量%以下でないと位相差フィルムとして実用する上で問題がある場合があり、フィルム材料はフィルムの吸水率が1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下の条件を満たすように選択することが良い。
・・・(省略)・・・
【0052】本発明に用いられる高分子配向フィルムを構成する高分子材料は特に限定されず、耐熱性に優れ、光学性能が良好で、溶液製膜ができる材料、例えばポリアリレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリスルフィン系共重合体、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどの熱可塑性ポリマーが好適である。
・・・(省略)・・・
【0089】本発明の1つの側面として、本発明の反射防止フィルムには、さらに、上記式(1)を満たす他の位相差フィルムを1枚以上積層することができる。具体的には、上記位相差フィルムとしてλ/4板を用い、かかる他の位相差フィルムとしてλ/2板を用い、これらを積層して用いた反射防止フィルムが好適である。(このようなλ/4板とλ/2板とを積層した位相差フィルムは積層位相差フィルムと呼ぶことがある。) この場合λ/4板及びλ/2板は、いずれも下記式(10)(11)
【0090】
【数8】
0.6<R(450)/R(550)<1 (10)
1<R(650)/R(550)<1.4 (11)
を満たすことが好ましい。
・・・(省略)・・・
【0094】本発明の反射防止フィルムは、上記位相差フィルムと偏光板との組み合わせからなる。偏光板とこの位相差フィルムは密着していることが好ましく、粘着剤を介して貼り合わせて用いることができる。粘着剤は公知のものを使用し得るが、界面反射を低減するために、偏光板と位相差フィルムの中間の屈折率を取るような粘着剤を選択することがより好ましい。位相差フィルムの遅相軸または進相軸と偏光板の偏光軸とのなす角が45度であることが好ましい。偏光板はヨウ素系、色素系等公知のものが使用可能である。
・・・(省略)・・・
【0097】位相差フィルムには一般に斜めからの入射光に対しては、正面入射光と比較して異なる位相差値を与えることが知られている。本発明の反射防止フィルムが円偏光板により構成されることから、このことは斜めからの入射光に対しての反射防止効果が劣ることを示している。しかし、この問題についても鋭意検討したところ、位相差フィルムの三次元屈折率を制御することによりこのような問題を回避することが可能であることを見出した。ここで位相差フィルムの三次元屈折率とは、nx,ny,nzで表され、それぞれの定義は、
nx:位相差フィルム面内における主延伸方向の屈折率
ny:位相差フィルム面内における主延伸方向に直交する方位の屈折率
nz:位相差フィルム表面の法線方向の屈折率
とする。ここで、主延伸方向とは、該位相差フィルムが高分子配向フィルムを一軸延伸した場合には延伸方向、二軸延伸の場合にはより配向度が上がるように延伸した方向を意味しており、化学構造的には高分子主鎖の配向方向を指す。ここではnx>nzのときを光学異方性が正、nx 【0098】
【数9】
Nz=(nx-nz)/(nx-ny) (6)
があるが、これを用いて三次元屈折率を定義するならば、 Nzが0.3?1.5の範囲にあるとき、非常に位相差値の入射角依存性が小さくなり好ましい。より好ましくはNzが0.4から1.1であるが、特にNz=0.5のときは位相差値の入射角依存性が実質的に無くなり、どの角度から光が入っても同じ位相差値を与えるので特に好ましい。」

(3) 「【0110】(3)吸水率の測定
乾燥させたフィルムの状態で膜厚を 130±50μmとした以外は、JIS K 7209記載の『プラスチックの吸水率及び沸騰吸水率試験方法』に準拠して測定した。試験片の大きさは50mm正方形で、水温25℃、24時間サンプルを浸水させた後、重量変化を測定した。単位は%である。
・・・(省略)・・・
【0114】また、以下の実施例、比較例で用いたポリカーボネートのモノマー構造を以下に記す。
【0115】
【化8】

【0116】[実施例1]攪拌機、温度計及び還流冷却器を備えた反応槽に水酸化ナトリウム水溶液及びイオン交換水を仕込み、これに上記構造を有するモノマー[A]と[F]を表2のモル比で溶解させ、少量のハイドロサルファイトを加えた。次にこれに塩化メチレンを加え、20℃でホスゲンを約60分かけて吹き込んだ。さらに、p-tert-ブチルフェノールを加えて乳化させた後、トリエチルアミンを加えて30℃で約3時間攪拌して反応を終了させた。反応終了後有機相分取し、塩化メチレンを蒸発させてポリカーボネート共重合体を得た。得られた共重合体の組成比はモノマー仕込み量比とほぼ同様であった。
【0117】この共重合体をメチレンクロライドに溶解させ、固形分濃度20重量%のドープ溶液を作製した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し、温度230℃で2倍で一軸延伸し位相差板を得た。
【0118】表2に測定結果をまとめる。このフィルムは、測定波長が短波長ほど位相差が小さくなりかつ、屈折率異方性は正であることを確認した。
【0119】この位相差フィルムの遅相軸と偏光板の偏光軸が45度となるように粘着剤にて貼り合わせ、それを図7のように粘着剤を介して発光素子を貼り合わせた。
・・・(省略)・・・
【0122】[実施例3]表2記載のモノマーを使った以外は実施例1と同様の方法にてポリカーボネート共重合体を得た。得られた共重合体の組成比はモノマー仕込み量比とほぼ同様であった。実施例2と同様に製膜、温度200℃1.9倍で一軸延伸し位相差板を得た。表2に測定結果をまとめる。このフィルムは、測定波長が短波長ほど位相差が小さくなりかつ、屈折率異方性は正であることを確認した。有機電界発光素子は広帯域の波長で反射率が低く、電圧非印加状態において外光があっても良好な黒表示が可能となることが分かった。
【0123】[実施例4]表2記載のモノマーを使った以外は実施例1と同様の方法にてポリカーボネート共重合体を得た。得られた共重合体の組成比はモノマー仕込み量比とほぼ同様であった。実施例1と同様に製膜、温度240℃2倍で一軸延伸し位相差板を得た。表2に測定結果をまとめる。このフィルムは、測定波長が短波長ほど位相差が小さくなりかつ、屈折率異方性は正であることを確認した。有機電界発光素子は広帯域の波長で反射率が低く、電圧非印加状態において外光があっても良好な黒表示が可能となることが分かった。
【0124】[実施例5]表2記載のモノマーを使った以外は実施例1と同様の方法にてポリカーボネート共重合体を得た。得られた共重合体の組成比はモノマー仕込み量比とほぼ同様であった。実施例1と同様に製膜、温度250℃、1.9倍で一軸延伸し位相差板を得た。表2に測定結果をまとめる。このフィルムは、測定波長が短波長ほど位相差が小さくなりかつ、屈折率異方性は正であることを確認した。
【0125】有機電界発光素子は広帯域の波長で反射率が低く、電圧非印加状態において外光があっても良好な黒表示が可能となることが分かった。
【0126】[実施例6]表2記載のモノマーを使った以外は実施例1と同様の方法にてポリカーボネート共重合体を得た。得られた共重合体の組成比はモノマー仕込み量比とほぼ同様であった。実施例1と同様に製膜、温度230℃2.2倍で一軸延伸し位相差板を得た。表2に測定結果をまとめる。このフィルムは、測定波長が短波長ほど位相差が小さくなりかつ、屈折率異方性は正であることを確認した。
【0127】有機電界発光素子は広帯域の波長で反射率が低く、電圧非印加状態において外光があっても良好な黒表示が可能となることが分かった。
【0128】
【表2】



(4) 「【0149】
【発明の効果】以上説明したように、一枚で短波長ほど位相差値が小さくなるような、高分子からなる従来一般に使用されていた位相差フィルムには無かった特性を有する位相差フィルムを、反射防止フィルムの四分の一波長板として偏光板と組合せることにより、広帯域の波長で反射防止効果に優れた反射防止フィルムを生産性よく提供することが出来る。また、このような反射防止フィルムを、素子内部に組み込まれた金属電極等の光反射性の大きい発光素子、特に有機電界発光素子に用いることにより、外光の存在下でも優れた視認性を有する発光素子を安価で提供することが出来るといった効果を有する。
【図面の簡単な説明】
・・・(省略)・・・
【図7】実施例、比較例における有機電界発光素子の該略図
・・・(省略)・・・
20;偏光板
21;位相差フィルム(四分の一波長板)
22;透明基板
23;透明電極(ITO)
24;ホール輸送層
25;発光層
26;金属電極
27;反射防止フィルム」

(5) 「【図7】



6 甲第3号証に記載された発明
(1) 甲3-1発明
甲第3号証の【0001】には、甲第3号証にいう本発明の反射防止フィルムは、有機電界発光ディスプレイに用いられるものであることが記載されている。
そうしてみると、甲第3号証の、特に【0042】、【0045】、【0046】、【0050】、【0052】及び【0094】の記載からみて、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3-1発明」という。)が記載されている。

「 1枚の高分子配向フィルムからなる位相差フィルムと、偏光板とからなり、
位相差フィルムの位相差波長分散として、測定波長450nm,550nmの位相差値R(450)、R(550)で表すと、下記式(2)
0.6<R(450)/R(550)<0.97 (2)
を満足し、
高分子配向フィルムは、吸水率は1重量%以下であり、
高分子配向フィルムを構成する高分子材料は、ポリカーボネートが好適であり、
位相差フィルムの遅相軸または進相軸と偏光板の偏光軸とのなす角が45度である、
有機電界発光ディスプレイに用いられる、
反射防止フィルム。」

(2) 甲3-2発明
甲第3号証の【0001】には、甲第3号証にいう本発明の反射防止フィルムは、有機電界発光ディスプレイに用いられるものであることが記載されている。
そうしてみると、甲第3号証には、実施例3?6として、次の発明(以下「甲3-2発明」と総称する。)が記載されている。なお、R(550)及びR(450)/R(550)の数値は、【0128】の表2に記載されたものである。

「 攪拌機、温度計及び還流冷却器を備えた反応槽に水酸化ナトリウム水溶液及びイオン交換水を仕込み、これに以下の構造を有するモノマー[B]?[F]を表2のモル比で溶解させ、少量のハイドロサルファイトを加え、次にこれに塩化メチレンを加え、ホスゲンを吹き込み、さらに、p-tert-ブチルフェノールを加えて乳化させた後、トリエチルアミンを加えて攪拌して反応を終了させ、有機相分取し、塩化メチレンを蒸発させてポリカーボネート共重合体を得、
この共重合体をメチレンクロライドに溶解させ、固形分濃度20重量%のドープ溶液を作製し、このドープ溶液からキャストフィルムを作製し、一軸延伸し位相差板を得、
この位相差板の遅相軸と偏光板の偏光軸が45度となるように粘着剤にて貼り合わせて得た、
R(550)及びR(450)/R(550)が以下の表に記載されたものであって、(nx-nz)/(nx-ny)で算出される、Nz(550)が1.0、吸水率が0.2重量%であり、
有機電界発光ディスプレイに用いられる、
反射防止フィルム。


【表2】



7 甲第4号証の記載事項
本件優先日前の2011年5月26日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証(国際公開第2011/062163号)には以下の記載がある。
(1) 「技術分野
[0001] 本発明は、ポリカーボネート樹脂及びそれよりなる透明フィルムに関する。
・・・(省略)・・・
発明が解決しようとする課題
[0005] 近年、液晶用ディスプレイ機器やモバイル機器等に用いられる位相差フィルム等の光学フィルムを含む透明フィルムの分野では、機器の薄型化に伴い、より配向性の高い材料、即ち、フィルム厚みが薄くても大きな位相差が得られるような材料が求められている。
従来技術のポリカーボネート樹脂は、前記特許文献等においては透明性が高く、光弾性係数が低いとされているものの、フィルムとした時に靭性が不充分であり、また配向性や光弾性係数も満足できるものではなかった。これらのポリカーボネート樹脂を位相差フィルムとして使用しようとした場合、フィルムの靭性が無いため延伸倍率を高くできず、配向性が劣るため、フィルムの厚みを薄くできず、薄型の機器には適していなかった。
[0006] 本発明の目的は、上記従来の課題を解消し、フィルムの靭性に優れ、光弾性係数が低く、かつ配向性に優れ、複屈折が大きいポリカーボネート樹脂及びそれからなる透明フィルムを提供することにある。
・・・(省略)・・・
発明の効果
[0032] 本発明のポリカーボネート樹脂及びそれからなる透明フィルムは、低い光弾性係数を有し、且つ適度なガラス転移温度を持ち、フィルム成形性に優れ、フィルムにしたときに靭性が高いことにより、耐久性が高く、配向性に優れているので、位相差フィルム等の光学フィルムに好適に使用できる。」

(2) 「[0055] また、前記透明フィルムの平面内の2方向の屈折率nx、ny及び厚み方向の屈折率nzの関係が、下記式〔6〕?〔8〕のいずれかを満足することが好ましい。
nx>ny=nz 〔6〕
nx>ny>nz 〔7〕
nx>nz>ny 〔8〕
屈折率の関係が、nx>ny=nzであれば、λ板やλ/2板、λ/4板などの一軸性の位相差フィルムが得られ、液晶ディスプレイの視野角補償板や、反射又は半透過型ディスプレイや有機ELなどの、反射色相補正に使用することができる。
屈折率の関係が、nx>ny>nzであれば、液晶ディスプレイの視野角補償板として特に、VAモードにおける視野角補償板として、1枚で補償を行うタイプや2枚で補償を行うタイプに使用することができる。また、上記同様、反射色相補正用フィルムとして用いることもできる。
屈折率の関係が、nx>nz>nyであれば、偏光板の視野角補正フィルムや円偏光板の視野角補正フィルムとして用いることができ、また上記同様、反射色相補正用フィルムとして用いることができる。そして、正面だけでなく視野角の補償も行うことができる。
・・・(省略)・・・
[0058] また、前記透明フィルムは、吸水率が1.0重量%より大きいことが好ましい。吸水率が1.0重量%より大きければ、前記透明フィルムを他のフィルムなどと貼りあわせるとき、容易に接着性を確保することができる。例えば、偏光板と貼りあわせる時、透明フィルムが親水性であるため、水の接触角も低く、接着剤を自由に設計し易く、高い接着設計ができる。吸水率が1.0重量%以下の場合は、疎水性となり、水の接触角も高く、接着性の設計が困難になる場合がある。また、フィルムが帯電し易くなり、異物の巻き込み等、偏光板、表示装置に組み込んだ際、外観欠点が多くなるという問題が生じる場合がある。
一方、吸水率が2.0重量%より大きくなると湿度環境下での光学特性の耐久性が悪くなるためにあまり好ましくない。
それ故、本発明における透明フィルムは、吸水率が1.0重量%より大きく2.0重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは1.1重量%以上1.5重量%以下である。
・・・(省略)・・・
[0060] また、前記透明フィルムを偏光子と積層することによって偏光板を構成することができる。
前記偏光子としては、公知の様々な構成のものを採用することができる。例えば、従来公知の方法により、各種フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて染色し、架橋、延伸、乾燥することによって調製したもの等が使用できる。
[0061] 次に、本発明の透明フィルムは、上述した特定のポリカーボネート樹脂に限定しない場合であっても、ポリカーボネート樹脂より成形され、複屈折が0.001以上であり、吸水率が1.0重量%より大きく、波長450nmで測定した位相差R450と波長550nmで測定した位相差R550の比が下記式〔11〕を満足するものである。
0.75≦R450/R550≦0.98 〔11〕
複屈折を0.001以上とし、吸水率を1.0重量%より大きくすることにより、上述した優れた作用効果が得られ、かつ、前記比率(R450/R550)を0.75以上0.98以下に限定することにより、短波長ほど位相差が発現し、可視領域の各波長において理想的な位相差特性を得るという優れた効果を十分に得ることができる。例えば1/4λ板としてこのような波長依存性を有する位相差フィルムを作製し、偏光板と貼り合わせることにより、円偏光板等を作製することができ、色相の波長依存性がない、ニュートラルな偏光板および表示装置の実現が十分に可能である。
・・・(省略)・・・
[0091]<透明フィルムの作製方法>
本発明において、ポリカーボネート樹脂を用いて透明フィルムを作製する方法としては、溶融押出し法(例えば、Tダイ成形法)、キャスト塗工法(例えば、流延法)、カレンダー成形法、熱プレス法、共押出し法、共溶融法、多層押出し、インフレーション成形法等、様々な製膜方法を用いることができ、特に限定されない。好ましくは、Tダイ成形法、インフレーション成形法および流延法が挙げられる。
本発明の透明フィルムは、少なくとも一方向に延伸されていることで位相差板として用いることができる。延伸の方法は、自由端延伸、固定端延伸、自由端収縮又は固定端収縮等、様々な延伸方法を、単独で用いることも、同時もしくは逐次で用いることもできる。
また、延伸方向に関しても、水平方向、垂直方向、厚さ方向又は対角方向等、様々な方向や次元に行なうことが可能であり、特に限定されない。
延伸の温度もポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)±20℃の範囲において、延伸の方法、フィルムの厚み、目的の位相差に応じて適宜設定することができる。」

(3) 「[0101](7)吸水率
吸水率は、厚さ130±50μmの延伸フィルムをJIS K 7209に記載の「プラスティックの吸水率及び沸騰吸水率試験方法」に準拠して測定した。
[0102]
[実施例1]
イソソルビド(以下、「ISB」と略記することがある。)を26.2重量部、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン(以下、「BHEPF」と略記することがある。)を100.5重量部、1,4-シクロヘキサンジメタノール(以下、「1,4-CHDM」と略記することがある。)を10.7重量部、ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と略記することがある。)を105.1重量部、及び触媒として、炭酸セシウム(0.2重量%水溶液)を0.591重量部のそれぞれを反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、反応の第1段目の工程として、反応容器の熱媒温度を150℃にし、必要に応じて攪拌しながら、原料を溶解させた(約15分)。
[0103] 次いで、反応容器内の圧力を常圧から13.3kPaにし、反応容器の熱媒温度を190℃まで1時間で上昇させながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。
反応容器内温度を190℃で15分保持した後、第2段目の工程として、反応容器内の圧力を6.67kPaとし、反応容器の熱媒温度を230℃まで、15分で上昇させ、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。攪拌機の攪拌トルクが上昇してくるので、8分で250℃まで昇温し、さらに発生するフェノールを取り除くため、反応容器内の圧力を0.200kPa以下に減圧した。所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を水中に押し出した後に、ペレット化を行い、BHEPF/ISB/1,4-CHDM=47.4モル%/37.1モル%/15.5モル%のポリカーボネート樹脂Aを得た。得られたポリカーボネート樹脂Aの還元粘度等の物性を測定し、測定値を表1に示した。
[0104] 得られたポリカーボネート樹脂Aを80℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(いすず化工機社製、スクリュー径25mm、シリンダー設定温度:220℃)、Tダイ(幅200mm、設定温度:220℃)、チルロール(設定温度:120?130℃)及び巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み100μmのフィルムを作製した。このフィルムから幅6cm、長さ6cmの試料を切り出した。この試料を、バッチ式二軸延伸装置(東洋精機社製)で、延伸温度をガラス転移温度+15℃で、延伸速度720mm/分(ひずみ速度1200%/分)で、1×2.0倍の一軸延伸を行い、透明フィルムを得た。このとき延伸方向に対して垂直方向は、保持した状態(延伸倍率1.0)で延伸を行った。
得られた延伸された透明フィルムの複屈折等の物性を測定し、測定値を表1に示した。
[0105][実施例2]
実施例1においてISBを35.1重量部、BHEPFを90.2重量部、ジエチレングリコール(以下、「DEG」と略記することがある。)を10.6重量部、DPCを118.6重量部、触媒として炭酸セシウム水溶液を0.666重量部とした以外は、実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂Bを得た。得られたポリカーボネート樹脂Bの組成は、BHEPF/ISB/DEG=37.7モル%/44.0モル%/18.3モル%であった。ポリカーボネート樹脂Bの物性を測定し、また実施例1と同様に透明フィルムを作製してその物性を測定した。結果を表1に示した。
[0106][実施例3]
実施例1においてISBを27.8重量部、BHEPFを82.1重量部、1,4-CHDMを25.6重量部、DPCを120.8重量部、触媒として炭酸セシウム水溶液を0.679重量部とした以外は、実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂Cを得た。得られたポリカーボネート樹脂Cの組成は、BHEPF/ISB/1,4-CHDM=33.7モル%/34.3モル%/32.0モル%であった。ポリカーボネート樹脂Cの物性を測定し、また実施例1と同様に透明フィルムを作製してその物性を測定した。結果を表1に示した。
[0107][実施例4]
実施例1においてISBを37.5重量部、BHEPFを91.5重量部、平均分子量400のポリエチレングリコール(以下、「PEG#400」と略記することがある。)を8.4重量部、DPCを105.7重量部、触媒として炭酸セシウム水溶液を0.594重量部とした以外は、実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂Dを得た。得られたポリカーボネート樹脂Dの組成は、BHEPF/ISB/PEG#400=42.9モル%/52.8モル%/4.3モル%であった。ポリカーボネート樹脂Dの物性を測定し、また実施例1と同様に透明フィルムを作製してその物性を測定した。結果を表1に示した。
[0108][実施例5]
実施例1においてISBを44.8重量部、BHEPFを85.6重量部、PEG#400を6.2重量部、DPCを112.3重量部、触媒として炭酸セシウム水溶液を0.631重量部とした以外は、実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂Eを得た。得られたポリカーボネート樹脂Eの組成は、BHEPF/ISB/PEG#400=37.8モル%/59.3モル%/2.9モル%であった。ポリカーボネート樹脂Eの物性を測定し、また実施例1と同様に透明フィルムを作製してその物性を測定した。結果を表1に示した。
[0109][実施例6]
実施例1においてISB41.8を重量部、BHEPFを88.1重量部、DEGを5.9重量部、DPCを118.1重量部、触媒として炭酸セシウム水溶液を0.664重量部とした以外は、実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂Fを得た。得られたポリカーボネート樹脂Fの組成は、BHEPF/ISB/DEG=37.0モル%/52.7モル%/10.3モル%であった。ポリカーボネート樹脂Fの物性を測定し、また実施例1と同様に透明フィルムを作製してその物性を測定した。結果を表1に示した。
・・・(省略)・・・
[0119][実施例7]
実施例1において用いた樹脂を、80℃で5時間真空乾燥をしたポリカーボネート樹脂を、単軸押出機(いすず化工機社製、スクリュー径25mm、シリンダー設定温度:220℃)、Tダイ(幅200mm、設定温度:220℃)、チルロール(設定温度:120?130℃)及び巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み90μmのフィルムを作製した。このフィルムをバッチ式二軸延伸装置(東洋精機社製)で、延伸温度を142℃で、2.0倍の自由端一軸延伸を行い、Δnd=140nmで厚み61μm、R450/R550nm=0.851の位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムの物性を測定し、結果を表2に示した。また、この位相差フィルムを偏光板に貼り合せ、更に表示装置に搭載しところ、非常に高い表示品位が得られた。
[0120][実施例8]
実施例2において用いた樹脂を、実施例7と同様にフィルム製膜し、厚み90μmのフィルムを作製した。このフィルムを実施例7で用いた延伸機で、延伸温度を129℃で、2.0倍の自由端一軸延伸を行い、Δnd=139nmで厚み46μm、R450/R550nm=0.889の位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムの物性を測定し、結果を表2に示した。また、この位相差フィルムを偏光板に貼り合せ、更に表示装置に搭載したところ、非常に高い表示品位が得られた。
[0121][実施例9]
実施例3において用いた樹脂を、実施例7と同様にフィルム製膜し、厚み90μmのフィルムを作製した。このフィルムを実施例7で用いた延伸機で、延伸温度を129℃で、2.0倍の自由端一軸延伸を行い、Δnd=140nmで厚み40μm、R450/R550nm=0.954の位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムの物性を測定し、結果を表2に示した。また、この位相差フィルムを偏光板に貼り合せ、更に表示装置に搭載したところ、非常に高い表示品位が得られた。
[0122][実施例10]
実施例4において用いた樹脂を、実施例7と同様にフィルム製膜し、厚み70μmのフィルムを作製した。このフィルムを実施例7で用いた延伸機で、延伸温度を131℃で、2.0倍の自由端一軸延伸を行い、Δnd=140nmで厚み46μm、R450/R550nm=0.879の位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムの物性を測定し、結果を表2に示した。また、この位相差フィルムを偏光板に貼り合せ、更に表示装置に搭載したところ、非常に高い表示品位が得られた。
[0123][実施例11]
実施例5において用いた樹脂を、実施例7と同様にフィルム製膜し、厚み70μmのフィルムを作製した。このフィルムを実施例7で用いた延伸機で、延伸温度を135℃で、2.0倍の自由端一軸延伸を行い、Δnd=139nmで厚み43μm、R450/R550nm=0.914の位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムの物性を測定し、結果を表2に示した。また、この位相差フィルムを偏光板に貼り合せ、更に表示装置に搭載したところ、非常に高い表示品位が得られた。
[0124][実施例12]
実施例6において用いた樹脂を、実施例7と同様にフィルム製膜し、厚み70μmのフィルムを作製した。このフィルムを実施例7で用いた延伸機で、延伸温度を140℃で、2.0倍の自由端一軸延伸を行い、Δnd=141nmで厚み49μm、R450/R550nm=0.906の位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムの物性を測定し、結果を表2に示した。また、この位相差フィルムを偏光板に貼り合せ、更に表示装置に搭載したところ、非常に高い表示品位が得られた。
[0125][実施例13]
実施例6において用いた樹脂を、実施例7と同様にフィルム製膜し、厚み130μmのフィルムを作製した。このフィルムと、収縮性フィルム(PPの二軸性延伸フィルム)を粘着剤で積層し、実施例7で用いた延伸機で、延伸温度を135℃で、20%の収縮を行い、さらに、1.2倍の固定端一軸延伸を行い、Δnd=140nmで厚み128μm、R450/R550nm=0.906の位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムの物性を測定し、結果を表2に示した。また、この位相差フィルムを偏光板に貼り合せ、更に表示装置に搭載したところ、非常に高い表示品位が得られた。
[0126][実施例14]
実施例6において用いた樹脂を、実施例7と同様にフィルム製膜し、厚み170μmのフィルムを作製した。このフィルムを、実施例7で用いた延伸機で、延伸温度を126℃で、1.3倍の自由端縦延伸を行い、さらに、140℃で1.5倍の固定端一軸延伸を行い、Δnd=54nmで厚み60μm、R450/R550nm=0.906の位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムの物性を測定し、結果を表2に示した。また、この位相差フィルムを偏光板に貼り合せ、更に表示装置に搭載したところ、非常に高い表示品位が得られた。
・・・(省略)・・・
[0128][比較例5]
帝人化成株式会社製「WRF」を用い、光学特性及びフィルム物性を測定した。結果を表2に示す。この位相差フィルムを偏光板と組合し、表示装置と組み合わせたところ、不均一な光りぬけ(すなわち、ムラ)が確認され、ユニフォミティの悪い表示となった。
[0129]
[表2]




(4) 「[請求項1] 下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、
下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位と、
下記一般式(3)で表されるジヒドロキシ化合物、下記一般式(4)で表されるジヒドロキシ化合物、下記一般式(5)で表されるジヒドロキシ化合物及び下記一般式(6)で表されるジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれた一種以上のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とを含むポリカーボネート樹脂であって、
前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が、前記ポリカーボネート樹脂中の18モル%以上であるポリカーボネート樹脂。
[化1]

(上記一般式(1)中、R_(1)?R_(4)はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1?炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6?炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6?炭素数20のアリール基を表し、Xは置換若しくは無置換の炭素数2?炭素数10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6?炭素数20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6?炭素数20のアリーレン基を表し、m及びnはそれぞれ独立に0?5の整数である。)
[化2]

[化3]

(上記一般式(3)中、R_(5)は炭素数4?炭素数20の置換若しくは無置換の単環構造のシクロアルキレン基を示す。)
[化4]

(上記一般式(4)中、R_(6)は炭素数4?炭素数20の置換若しくは無置換の単環構造のシクロアルキレン基を示す。)
[化5]

(上記一般式(5)中、R_(7)は置換若しくは無置換の炭素数2?炭素数10のアルキレン基を示し、pは2から15の整数である。)
[化6]

(上記一般式(6)中、R_(11)は炭素数2?炭素数20のアルキル基又は下記式(7)に示す基を表す。)
[化7]




8 甲第5号証の記載事項
本件優先日前の2006年7月31日に発行された甲第5号証(液晶ポリマーの改質と最新応用技術、第1版第1刷、株式会社技術情報協会)には以下の記載がある。なお、枠線は特許異議申立人が付したものである。





9 甲第6号証の記載事項
本件優先日前の平成20年11月13日に頒布された刊行物である甲第6号証(特開2008-273925号公報)には以下の記載がある。
「【0067】
以下に、前記一般式(1)又は(2)で表される化合物の具体例を示すが、本発明は以下の具体例によって何ら限定されることはない。下記化合物に関しては、指定のない限り括弧( )内の数字にて例示化合物(X)と示す。
【0068】
【化10】

・・・(省略)・・・
【0252】
実施例6
[例示化合物(2)を用いた略垂直配向させた重合性膜(Cプレート)の調製] (配向膜の形成)
ポリイミド系液晶配向材(JALS684、商品名、JSR(株)製)をγ-ブチロラクトンで希釈し、ガラス板上に塗布した。80℃で15分間乾燥後、200℃で60分間加熱し、冷却後ラビング処理を行い、配向膜を形成した。得られた配向膜の膜厚は0.1μmであった。
得られたJALS684面付きガラス基板上に、例示化合物(2)100質量部、下記重合開始剤2質量部をクロロホルム350質量部に溶解させ、バー塗布した後に140℃に加熱し、液晶化合物を配向させた。その後、1200mJ/cm^(2)の紫外線を照射して液晶化合物を重合させ、これを冷却することによって液晶化合物の配向状態を固定化させた重合性膜を形成させた。塗布バーの番手および塗布液濃度を調整することにより、厚さがそれぞれ4.43μm(膜c)、2.49μm(膜d)又は2.41μm(膜d-2)である膜を得た。
【0253】
【化39】

【0254】
作製した膜c、膜d及び膜d-2を自動複屈折率計(KOBRA-21ADH、商品名、王子計測機器(株)社製)を用いて測定した結果を表3に示す。
【0255】
【表3】



第6 当審の判断
1 甲1発明との対比及び判断
(1) 本件特許発明1
ア 対比
(ア) 偏光板の積層構造
甲1発明の「楕円偏光板」は、「位相差板、第1の粘着剤層、ホメオトロピック配向液晶層、第2の粘着剤層及び偏光板をこの順に積層してなる」ものである。また、甲1発明の「偏光板と位相差板は、偏光板の吸収軸に対して位相差板の遅相軸が45°になるように貼り合わせられて」いる。
甲1発明の「偏光板」、「位相差板」、「ホメオトロピック配向液晶層」及び「楕円偏光板」は、その機能及び貼り合わせの角度等からみて、それぞれ、本件特許発明1の「偏光子」、「第1の位相差層」、「第2の位相差層」及び「偏光板」に相当する。また、甲1発明の「位相差板」と「ホメオトロピック配向液晶層」を併せたものは、本件特許発明1の「該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体」ということができる。加えて、上記の構成からみて、甲1発明の「楕円偏光板」と本件特許発明1の「偏光板」は、「偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とを」「備え」る点で共通する。さらに、甲1発明の「楕円偏光板」は、上記の「偏光板」と「位相差板」の貼り合わせ角度からみて、本件特許発明1の「該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度θが、35°≦θ≦55°の関係を満たし」という構成を具備する。
そうしてみると、甲1発明の「楕円偏光板」は、本件特許発明1でいう、「偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とを」「備え」、「該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度θが、35°≦θ≦55°の関係を満た」す、「偏光板」という要件を満たす。

(イ) 第1の位相差層の屈折率特性、位相差、吸水率
甲1発明の「楕円偏光板」は、「位相差板」として、「帝人(株)製のWRF」を用いるものである。また、甲1発明の「位相差板」は、「R(450):120nm、R(550):138nmを満足する」ものである。
甲1発明の「位相差板」は、その名のとおり、本件特許発明1でいう「位相差板」である。また、甲第1号証の【0048】及び【0049】に測定温度の特記がないこと、並びに、当業者における技術常識を考慮すると、甲1発明の「位相差板」の上記「R(450)」及び「R(550)」(波長450nm及び550nmにおける面内位相差)は室温で測定されたものと解されるから、甲1発明の「位相差板」の23℃における面内位相差は、上記数値と同程度であるといえる(以下同様。)。そうしてみると、甲1発明の「R(450)」及び「R(550)」は、「R(450)<R(550)」なる関係を満たす。加えて、甲1発明の「製品名:WRFフィルム、帝人製」に関して、甲第4号証の[0128]及び[0129]の表2には、「帝人(株)製のWRF」の吸水率は0.2%であって、nx>ny=nzであることが記載されている。
そうしてみると、甲1発明の「広帯域位相差板」は、本件特許発明1でいう「該第1の位相差層が、nx>ny=nzの屈折率特性を示し、Re(450)<Re(550)の関係を満たし」、「該第1の位相差層の吸水率が3%以下であり」という要件を満たす。

(ウ) 積層体の面内位相差
前記(ア)で述べたとおり、甲1発明の「楕円偏光板」は、「位相差板」と「ホメオトロピック配向液晶層」を併せた構成を有する。
甲1発明の「位相差板」の「R(550)」は、「138nm」である。また、甲1発明の「ホメオトロピック配向液晶層」における液晶の配向は、その文言が意味するとおり「ホメオトロピック」であるから、その面内位相差は、概ね0nmである(当合議体注:液晶の配向が「ホメオトロピック」である位相差フィルムは、ポジティブCプレート(nz>nx=ny)である(甲第5号証参照。)から、面内位相差((nx-ny)×d)の値は、概ね0nmとなる。)。したがって、甲1発明において、「位相差板」と「ホメオトロピック配向液晶層」を併せたものの面内位相差は、理論上は、138nm+0nm=138nmと計算される(当合議体注:仮に、理論どおりにならないとしても、甲1発明の「ホメオトロピック配向液晶層」の面内位相差が22nmを超えることはないと考えられる。)。
そうしてみると、甲1発明の「位相差板」と「ホメオトロピック配向液晶層」を併せたものは、本件特許発明1の「該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?160nm」であるという要件を満たす。

(エ) 積層体の厚み方向の位相差
前記(ア)で述べたとおり、甲1発明の「楕円偏光板」は、「位相差板」と「ホメオトロピック配向液晶層」を併せた構成を有する。
前記(イ)で述べたとおり、「帝人(株)製のWRF」は、nx>ny=nzである。そうしてみると、甲1発明の「位相差板」の厚み方向の位相差((nx-nz)×d))は、面内位相差((nx-ny)×d)に等しく、「138nm」である。また、甲1発明の「ホメオトロピック配向液晶層」は、本件特許の明細書の段落【0010】で定義された「厚み方向位相差」が「-70nm」となる(当合議体注:甲第1号証の段落【0019】の記載によると、甲1発明の「厚み方向の位相差」は、((nx+ny)/2)-nz}×dで求められたものであり、その値は-70nmである。したがって、この値を、本件特許発明1の厚み方向の位相差「Rth」に換算すると、Rth=(nx-nz)×d(本件特許の明細書の段落【0010】を参照。)=1/2×(nx-ny)×d+[((nx+ny)/2)-nz]×d=1/2×(面内位相差)+(甲1発明の厚み方向位相差)=1/2×(0nm:前記a参照。)+(-70nm)=-70nmとなる。)。ここで、甲1発明の「ホメオトロピック配向液晶層」の「厚み方向位相差」は、「λ=590nmで測定した」ものであるところ、この値が「λ=550nm」においても同程度であることは、技術的にみて明らかである。(当合議体注:例えば、甲第6号証の【0255】の表3からは、垂直配向(ホメオトロピック配向)させた重合性膜(Cプレート)におけるRthが、波長550nmと波長650nmとで、約7%しか変化しなかったことが理解される(前記(9)参照。)。) したがって、甲1発明において、「位相差板」と「ホメオトロピック配向液晶層」を併せたものの厚み方向の位相差は、138nm+(-70nm)=68nm程度と考えられる。
そうしてみると、甲1発明の「位相差板」と「ホメオトロピック配向液晶層」を併せたものは、本件特許発明1の「該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体」の「Rth(550)が40nm?100nmであり」という要件を満たす。

(オ) 有機EL表示装置に用いられる偏光板
甲1発明の「楕円偏光板」は、「有機EL表示装置に用いられる」ものである。
そうしてみると、甲1発明の「楕円偏光板」は、本件特許発明1の「有機ELパネルに用いられる、偏光板」という要件を満たすものである。

イ 一致点
以上のことから、本件特許発明1と甲1発明は、次の構成で一致する。
(一致点)
「 偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とを備え、
該第1の位相差層が、nx>ny=nzの屈折率特性を示し、Re(450)<Re(550)の関係を満たし、
該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度θが、35°≦θ≦55°の関係を満たし、
該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?160nmで、Rth(550)が40nm?100nmであり、
該第1の位相差層の吸水率が3%以下であり、
有機ELパネルに用いられる、
偏光板:
ここで、Re(450)およびRe(550)は、それぞれ、23℃における波長450nmおよび550nmの光で測定した面内位相差を表し、Rth(550)は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差を表す。」

ウ 相違点
本件特許発明1と甲1発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
「偏光板」が、本件特許発明1は、「偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とをこの順に備え」るのに対し、甲1発明は、「位相差板」、「ホメオトロピック配向液晶層」及び「偏光板」をこの順に積層してなる」ものである点。

(相違点2)
「第2の位相差層」が、本件特許発明1は、「nz>nx>nyの屈折率特性を示し、Re(550)が10nmを超えて150nm以下」であるのに対し、甲1発明は、理論上は、「nz>nx=ny(ホメオトロピック配向液晶層)」であり、「Re(550)が0nm」である点。

エ 判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
(ア) 甲第1号証には、甲1発明の「ホメオトロピック配向液晶層」の面内位相差を、「10nmを超えて150nm以下」にすることについて、記載も示唆もない。

(イ) 甲1発明の「ホメオトロピック配向液晶層」は、その名のとおり、液晶材料が基板に対して垂直に配向した層であり、通常、nz>nx=nyという屈折率特性を有する(甲第5号証を参照。)。
そして、甲1発明の「光学フィルム」は、「ホメオトロピック配向液晶層」によって「厚み方向の位相差」を「制御」し、「斜めから見たときの色見の変化を抑制することができる」ようにしたものである(甲第1号証の段落【0013】を参照。)。
そうしてみると、甲1発明の「ホメオトロピック配向液晶層」において、液晶材料が垂直配向しないようにする動機づけがなく、nx>nyとなるように調整することや、面内位相差が「10nmを超え」るように調整することの動機づけがない。

(ウ) 甲第2号証の段落[0232]には、「垂直方向に配向した棒状液晶による位相差板」が記載されている。また、甲第2号証の段落[0234]には、「垂直配向液晶層は面内方向の位相差値Roが0?10nm」であることが好ましいことが記載されている。
しかしながら、甲第2号証には、「垂直配向液晶層」の「面内方向の位相差値Ro」を「10nmを超え」るようにすることについては記載されておらず、甲1発明に甲第2号証の記載を適用しても、本件特許発明1には到らない。
(当合議体注:甲第2号証の上記の記載は、垂直配向液晶層の面内方向の位相差Roは、本来ならば0になる(当業者なら限りなく0となるように垂直配向液晶層を形成する)ことを前提としつつ、製造誤差等を考慮して、その上限値を10nmとしたものであるから、上記の記載は、垂直配向液晶層の面内方向の位相差値Roが10nmを超えてはならないことを示唆するものと理解すべきである。)
また、甲1発明にその他の周知技術を適用しても、本件特許発明1には到らない。

(エ) 甲第1号証の段落【0013】の記載によると、甲1発明の「ホメオトロピック配向液晶層」は、「厚み方向の位相差」を「制御」することにより、「斜めから見たときの色見の変化を抑制することができる」ようにするためのものである。
したがって、甲1発明の「ホメオトロピック配向液晶層」において、液晶材料の垂直配向性がなくなると認められる程度となるまでに面内位相差を大きくすると、「斜めから見たときの色見の変化を抑制する」という効果が得られなくなる。
そうしてみると、甲1発明の「ホメオトロピック配向液晶層」において、その屈折率特性について、「10nmを超え」るように調整することについては、阻害要因がある。

オ 小括
したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。

(2) 本件特許発明2?7
本件特許発明2?7は、「第2の位相差層が、nz>nx>nyの屈折率特性を示し、Re(550)が10nmを超えて150nm以下」とする構成と同一の構成を備えるものである。したがって、本件特許発明2?7も、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。

2 甲2発明との対比及び判断
(1) 本件特許発明1について
ア 対比
(ア) 偏光板の積層構造
甲2発明の「円偏光フィルムPF2」は、「基材フィルムRF2」上に「垂直配向液晶層」を設けて「位相差フィルムRF2-a」を得、「偏光板」と「位相差フィルムRF2-a」をこの順に貼り合わせて得られるものである。
甲2発明の「偏光板」、「基材フィルムRF2」及び「垂直配向液晶層」は、それぞれ、本件特許発明1の「偏光子」、「第1の位相差層」及び「第2の位相差層」に相当する。また、甲第2号証の[図6]の記載によると、甲2発明の「円偏光フィルムPF2」は、本件特許発明1の「偏光板」における「偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とをこの順に備え」るという要件を満たす。加えて、甲2発明の「位相差フィルムRF2-a」は、本件特許発明1の「該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体」に相当する。さらに、甲2発明の「円偏光フィルムPF2」は、本件特許発明1の「該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度θが、35°≦θ≦55°の関係を満た」すという要件を満たす(当合議体注:甲2-2発明は、「遅相軸がフィルム幅方向と45°をなす」、「基材フィルム」と「透過軸がフィルム幅方向に平行な長尺の偏光板」を貼り合わせたものであることからも、上記要件を満たすといえる。)。
そうしてみると、甲2発明の「円偏光フィルムPF2」は、本件特許発明1の「偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とを備え」、「該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度θが、35°≦θ≦55°の関係を満た」す、「偏光板」という要件を満たす。

(イ) 積層体の面内位相差
甲2発明の「位相差フィルムRF2-a」は、「波長550nmにおける面内リターデーション値Ro」が「140nm」である。
甲2発明の「波長550nmにおける面内リターデーション値Ro」は、技術常識からみて、本件特許発明1でいう「Re(550)」に該当する。
そうしてみると、甲2発明の「位相差フィルムRF2-a」は、本件特許発明1の「該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?160nm」であるという要件を満たす。

(ウ) 積層体の厚み方向の位相差
甲2発明の「位相差フィルムRF2-a」は、「波長550nmにおける」「厚み方向のリターデーション値Rth」が「2nm」である。
前記1(1)ア(エ)で述べたとおり、甲2発明の「波長550nmにおける」「厚み方向のリターデーション値Rth」を、本件特許の明細書の段落【0010】で定義された「厚み方向位相差」に換算すると、72nmとなる(当合議体注:厚み方向位相差は、1/2×140+2=72nm。)。
そうしてみると、甲2発明の「位相差フィルムRF2-a」は、本件特許発明1における「該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体」の「Rth(550)が40nm?100nm」であるという要件を満たす。

(エ) 有機ELパネルに用いられる偏光板
甲2発明の「円偏光フィルム」は、「有機EL表示装置に用いられる」ものである。
そうしてみると、甲2発明の「円偏光フィルム」は、本件特許発明1の「有機ELパネルに用いられる、偏光板」という要件を満たすものである。

イ 一致点
本件特許発明1と甲2発明とは、次の構成で一致する。
「 偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とを備え、
該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度θが、35°≦θ≦55°の関係を満たし、
該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?160nmで、Rth(550)が40nm?100nmであり、
有機ELパネルに用いられる、
偏光板:
ここで、Re(450)およびRe(550)は、それぞれ、23℃における波長450nmおよび550nmの光で測定した面内位相差を表し、Rth(550)は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差を表す。」

ウ 相違点
本件特許発明1と甲2発明は、次の点で相違、または一応相違する。
(相違点1)
「第1の位相差層」が、本件特許発明1は、「nx>ny=nzの屈折率特性を示し、Re(450)<Re(550)の関係を満たし」、「吸水率が3%以下であ」るのに対して、甲2発明は、このように特定されたものではない点。

(相違点2)
「第2の位相差層」が、本件特許発明1は、「nz>nx>nyの屈折率特性を示、Re(550)が10nmを超えて150nm以下」であるのに対し、甲2発明は、これが明らかでない点。

エ 判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
(ア) 甲第2号証には、甲2発明の「垂直配向液晶層」の面内位相差を、「10nmを超えて150nm以下」にすることについて、記載も示唆もない。

(イ) 甲第2号証の段落[0232]には、「垂直方向に配向した棒状液晶による位相差板」が記載されている。また、甲第2号証の段落[0234]には、「垂直配向液晶層は面内方向の位相差値Roが0?10nm」であることが好ましいことが記載されている。
しかしながら、甲第2号証には、「垂直配向液晶層」の「面内方向の位相差値Ro」を「10nmを超え」るようにすることについては記載されていない。
そうしてみると、甲2発明の「垂直配向液晶層」において、液晶材料が垂直配向しないようにする動機づけがなく、nx>nyとなるように調整することや、面内位相差が「10nmを超え」るように調整することの動機づけがない。
また、甲2発明にその他の周知技術を適用しても、本件特許発明1には到らない。

(ウ) 甲2発明の「円偏光フィルムPF2」は、「基材フィルムRF2」上に「垂直配向液晶層」を設けて「位相差フィルムRF2-a」を得、「偏光板」と「位相差フィルムRF2-a」をこの順に貼り合わせて得られるものである。
甲2発明の「垂直配向液晶層」は、「視角特性を改善する方法として」、「基材の延伸により生じた厚み方向の位相差をほぼ打ち消」し、「視角特性を改善する」ための層である(甲第2号証の段落【0006】を参照。)。したがって、甲2発明の「垂直配向液晶層」において、液晶材料の垂直配向性がなくなると認められる程度となるまでに面内位相差を大きくすると、「厚み方向の位相差をほぼ打ち消す」ことができなくなるから、「視覚特性を改善する」という効果が得られなくなる。
そうしてみると、甲2発明の「垂直配向液晶層」において、その屈折率特性について、「10nmを超え」るように調整することについては、阻害要因がある。

オ 小括
したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、甲2発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。

(2) 本件特許発明2?7
本件特許発明2?7は、「第2の位相差層が、nz>nx>nyの屈折率特性を示し、Re(550)が10nmを超えて150nm以下」とする構成と同一の構成を備えるものである。したがって、本件特許発明2?7も、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲2発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。

3 甲3-1発明との対比及び判断
(1) 本件特許発明1
ア 対比
(ア) 偏光板の積層構造
甲3-1発明の「反射防止フィルム」は、「1枚の高分子配向フィルムからなる位相差フィルムと、偏光板」からなり、「位相差フィルムの遅相軸または進相軸と偏光板の偏光軸とのなす角が45度である」。
甲3-1発明の「偏光板」及び「位相差フィルム」は、それぞれ、本件特許発明1の「偏光子」及び「第1の位相差層」に相当する。 また、甲3-1発明の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「偏光板」における「偏光子と第1の位相差層とを備え」るという要件を満たすものである。さらに、甲3-1発明の「反射防止フィルム」は、「位相差フィルムの遅相軸または進相軸と偏光板の偏光軸とのなす角が45度」であるから、本件特許発明1の「該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度θが、35°≦θ≦55°の関係を満た」すという要件を満たす。
そうしてみると、甲3-1発明の「反射防止フィルム」は、「偏光子と第1の位相差層」とを備え、「該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度θが、35°≦θ≦55°の関係を満た」す、「偏光板」という要件を満たす。

(イ) 第1の位相差層の屈折率特性、位相差、吸水率
甲3-1発明の「位相差フィルム」は、「0.6<R(450)/R(550)<0.97」を満足し、「吸水率は1重量%以下」である。
甲3-1発明の「位相差フィルム」は、「0.6<R(450)/R(550)<0.97」を満足するから、本件特許発明1の「第1の位相差層」における「Re(450)<Re(550)の関係を満た」す。また、甲3-1発明の「位相差フィルム」は、「吸水率」が「1重量%以下」であるから、本件特許発明1の「第1の位相差層」における「吸水率が3%以下で」あるという要件を満たす。
そうしてみると、甲3-1発明の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1でいう「該第1の位相差層が」、「Re(450)<Re(550)の関係を満たし」、「該第1の位相差層の吸水率が3%以下であり」という要件を満たす。

(ウ) 有機ELパネルに用いられる偏光板
甲3-1発明の「反射防止フィルム」は、「有機EL表示装置に用いられる」ものである。
そうしてみると、甲3-1発明の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「有機ELパネルに用いられる、偏光板」という要件を満たすものである。

イ 一致点
以上のことから、本件特許発明1と甲3-1発明は、次の構成で一致する。
「 偏光子と第1の位相差層とを備え、
該第1の位相差層が、Re(450)<Re(550)の関係を満たし、
該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度θが、35°≦θ≦55°の関係を満たし、
該第1の位相差層の吸水率が3%以下であり、
有機ELパネルに用いられる、
偏光板:
ここで、Re(450)およびRe(550)は、それぞれ、23℃における波長450nmおよび550nmの光で測定した面内位相差を表し、Rth(550)は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差を表す。」

ウ 相違点
本件特許発明1と甲3-1発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1は、「偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とをこの順に備え」るのに対して、甲3-1発明は、このように特定されたものではない点。

(相違点2)
本件特許発明1は、「第1の位相差層」が、「nx>ny=nzの屈折率特性を示」すのに対して、甲3-1発明は、このように特定されたものではない点。

(相違点3)
本件特許発明1は、「該第2の位相差層が、nz>nx>nyの屈折率特性を示し、Re(550)が10nmを超えて150nm以下」であるのに対して、甲3-1発明は、このように特定されたものではない点。

(相違点4)
本件特許発明1は、「該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?160nmで、Rth(550)が40nm?100nmであ」るのに対して、甲3-1発明は、このように特定されたものではない点。

エ 判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
(ア) 甲第3号証には、「第2の位相差層」を設けることについて、記載も示唆もない。

(イ) 甲3-1発明が解決しようとする課題は、「電界発光表示素子内部に組み込まれた金属電極等の反射性の大きい反射面による光反射を、広帯域の波長で効果的に防止できる反射防止フィルム及びそれを用いてなる表示素子を提供すること」(甲第3号証の段落【0006】を参照。)である。
そして、甲3-1発明においては、「反射防止フィルム」を、「|R(450)|<|R(550)|」を満たす「1枚の高分子配向フィルム」からなる「位相差フィルム」と「偏光板」で構成することにより、上記課題を解決している。
そうしてみると、甲3発明の「反射防止フィルム」において、「位相差フィルム」とは別に、「nz>nx>nyの屈折率特性を示し、Re(550)が10nmを超えて150nm以下」である「第2の位相差層」を設ける動機づけがない。

(ウ) 甲第2号証には、「視角特性を改善する」(段落[0006]を参照。)ために、「基材フィルムRF2」上に「垂直配向液晶層」を設けて「位相差フィルムRF2-a」を得、「偏光板」と「位相差フィルムRF2-a」をこの順に貼り合わせて得た「円偏光フィルムPF2」が記載されている。
甲第2号証の段落[0232]には、「垂直方向に配向した棒状液晶による位相差板」が記載されている。また、甲第2号証の段落[0234]には、「垂直配向液晶層は面内方向の位相差値Roが0?10nm」であることが好ましいことが記載されている。しかしながら、甲第2号証には、「垂直配向液晶層」の「面内方向の位相差値Ro」を「10nmを超え」るようにすることについては記載されていない。
したがって、甲3-1発明に甲第2号証の記載を適用しても、本件特許発明1には到らない。また、甲3-1発明にその他の周知技術を適用しても、本件特許発明1には到らない。

オ 小括
したがって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。

(2) 本件特許発明2?7
本件特許発明2?7は、「第2の位相差層が、nz>nx>nyの屈折率特性を示し、Re(550)が10nmを超えて150nm以下」とする構成と同一の構成を備えるものである。したがって、本件特許発明2?7も、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲3-1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。

4 甲3-2発明との対比及び判断
(1) 本件特許発明1について
ア 対比
(ア) 偏光板の積層構造
甲3-2発明の「反射防止フィルム」は、「1枚の高分子配向フィルムからなる位相差フィルムと、偏光板」からなり、「位相差フィルムの遅相軸または進相軸と偏光板の偏光軸とのなす角が45度である」。
甲3-2発明の「偏光板」及び「位相差フィルム」は、それぞれ、本件特許発明1の「偏光子」及び「第1の位相差層」に相当する。 また、甲3-1発明の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「偏光板」における「偏光子と第1の位相差層とを備え」るという要件を満たすものである。さらに、甲3-1発明の「反射防止フィルム」は、「位相差フィルムの遅相軸または進相軸と偏光板の偏光軸とのなす角が45度」であるから、本件特許発明1の「該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度θが、35°≦θ≦55°の関係を満た」すという要件を満たす。
そうしてみると、甲3-2発明の「反射防止フィルム」は、「偏光子と第1の位相差層」とを備え、「該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度θが、35°≦θ≦55°の関係を満た」す、「偏光板」という要件を満たす。

(イ) 第1の位相差層の屈折率特性、位相差、吸水率
甲3-2発明の「反射防止フィルム」は、「R(450)/R(550)が0.790?0.810であって、(nx-nz)/(nx-ny)で算出される、Nz(550)が1.0、吸水率が0.2重量%」である。
甲3-2発明の「反射防止フィルム」は、Nz(550)の値からみて、本件特許発明1の「第1の位相差層」における「nx>ny=nzの屈折率特性を示」すという要件を満たす。また、甲3-2発明の「反射防止フィルム」は、R(450)/R(550)の値からみて、本件特許発明1の「第1の位相差層」における「Re(450)<Re(550)の関係を満た」すという要件を満たす。さらに、甲3-2発明の「反射防止フィルム」は、「吸水率が0.2重量%」であるから、本件特許発明1の「第1の位相差層」における「吸水率が3%以下で」あるという要件を満たす。
そうしてみると、甲3-2発明の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1でいう「該第1の位相差層が、nx>ny=nzの屈折率特性を示し、Re(450)<Re(550)の関係を満たし」、「該第1の位相差層の吸水率が3%以下であり」という要件を満たす。

(ウ) 有機EL表示装置に用いられる偏光板
甲3-2発明の「反射防止フィルム」は、「有機EL表示装置に用いられる」ものである。
そうしてみると、甲3-2発明の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「有機ELパネルに用いられる、偏光板」という要件を満たすものである。

イ 一致点
以上のことから、本件特許発明1と甲3-2発明は、次の構成で一致する。
「 偏光子と第1の位相差層とを備え、
該第1の位相差層が、nx>ny=nzの屈折率特性を示し、Re(450)<Re(550)の関係を満たし、
該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度θが、35°≦θ≦55°の関係を満たし、
該第1の位相差層の吸水率が3%以下であり、
有機ELパネルに用いられる、
偏光板:
ここで、Re(450)およびRe(550)は、それぞれ、23℃における波長450nmおよび550nmの光で測定した面内位相差を表し、Rth(550)は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差を表す。」

ウ 相違点
本件特許発明1と甲3-2発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1は、「偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とをこの順に備え」るのに対して、甲3-1発明は、このように特定されたものではない点。

(相違点2)
本件特許発明1は、「偏光板」が「該2の位相差層」を備え、「該第2の位相差層が、nz>nx>nyの屈折率特性を示し、Re(550)が10nmを超えて150nm以下」であるのに対し、甲3-2発明は、このように特定されたものではない点。

(相違点3)
本件特許発明1は、「該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?160nmで、Rth(550)が40nm?100nmであ」るのに対して、甲3-2発明は、このように特定されたものではない点。

エ 判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
前記3と同じ理由により、その余の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。

(2) 本件特許発明2?7
本件特許発明2?7は、「第2の位相差層が、nz>nx>nyの屈折率特性を示し、Re(550)が10nmを超えて150nm以下」とする構成と同一の構成を備えるものである。したがって、本件特許発明2?7も、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲3-2発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。

5 その他
上記の1?4で記載した本件特許発明1?7についての判断は、特許異議申立人が提出した他の証拠(甲第7号証)及び当合議体が取消理由通知書で挙げた他の証拠(引用文献A?D)を考慮しても、同様である。

第7 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1?7を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1?7を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子と第1の位相差層と第2の位相差層とをこの順に備え、
該第1の位相差層が、nx>ny=nzの屈折率特性を示し、Re(450)<Re(550)の関係を満たし、
該第2の位相差層が、nz>nx>nyの屈折率特性を示し、Re(550)が10nmを超えて150nm以下であり、
該偏光子の吸収軸と該第1の位相差層の遅相軸とのなす角度θが、35°≦θ≦55°の関係を満たし、
該第1の位相差層と該第2の位相差層との積層体のRe(550)が120nm?160nmで、Rth(550)が40nm?100nmであり、
該第1の位相差層の吸水率が3%以下であり、
有機ELパネルに用いられる、
偏光板:
ここで、Re(450)およびRe(550)は、それぞれ、23℃における波長450nmおよび550nmの光で測定した面内位相差を表し、Rth(550)は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差を表す。
【請求項2】
前記偏光子と、前記第1の位相差層または前記第2の位相差層との間に光学異方性層を含まない、請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
前記第1の位相差層が、下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂で形成される、請求項1または2に記載の偏光板。
【化1】

(前記一般式(1)中、R_(1)?R_(4)はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1?炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6?炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6?炭素数20のアリール基を表し、Xは置換若しくは無置換の炭素数2?炭素数10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6?炭素数20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6?炭素数20のアリーレン基を表し、m及びnはそれぞれ独立に0?5の整数である。)
【請求項4】
前記第1の位相差層が、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂で形成される、請求項1から3のいずれか1項に記載の偏光板。
【化2】

【請求項5】
前記第1の位相差層が、下記一般式(5)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂で形成される、請求項1から4のいずれか1項に記載の偏光板。
【化3】

(上記一般式(5)中、R_(7)は置換若しくは無置換の炭素数2?炭素数10のアルキレン基を示し、pは2から100の整数である。)
【請求項6】
前記第1の位相差層が斜め延伸して得られた位相差フィルムである、請求項1から5のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の偏光板を備える、有機ELパネル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-10-30 
出願番号 特願2014-83128(P2014-83128)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H05B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
高松 大
登録日 2018-04-13 
登録番号 特許第6321435号(P6321435)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 偏光板および有機ELパネル  
代理人 籾井 孝文  
代理人 籾井 孝文  

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