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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60R
審判 全部申し立て 2項進歩性  B60R
管理番号 1357684
異議申立番号 異議2019-700767  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-09-26 
確定日 2019-12-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6490539号発明「車両用オーナメント」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6490539号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6490539号(以下「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成27年8月25日に出願され、平成31年3月8日にその特許権の設定登録がされ、平成31年3月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和1年9月26日に特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。


第2 本件発明
特許第6490539号の請求項1?7に係る特許(以下「本件発明1?7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
電波透過性を有し且つ金属成分を含まない、表側面にエンボス模様が形成された半透明のフィルムと、
前記フィルムの裏側面に形成されたグレーの印刷膜又は塗装膜と、
光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材と、を備え、
前記フィルムは、数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなるフィルムであり、
前記フィルムがエンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるようにされている、車両用オーナメント。
【請求項2】
前記フィルムの表側面に所定の模様を描くように部分的に光遮断膜が形成されている、請求項1に記載の車両用オーナメント。
【請求項3】
前記光遮断膜が形成された部分とそうでない部分とで明度および/または彩度が異なる、請求項2に記載の車両用オーナメント。
【請求項4】
前記光遮断膜が印刷膜または塗膜である、請求項2または請求項3に記載の車両用オーナメント。
【請求項5】
前記フィルムの厚みは100?200μmである、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の車両用オーナメント。
【請求項6】
前記フィルムは、前記グレーの印刷膜又は塗装膜が該フィルムの裏側面に形成されることで、該フィルムの表側面から見たときに金属色を示すためのものであり、
前記フィルムは、該フィルムの裏側面に前記グレーの印刷膜又は塗装膜が形成され且つ該フィルムの表側面から入射して裏側面まで透過した光が該グレーの印刷膜又は塗装膜で表側面に反射することにより、該グレーの印刷膜又は塗装膜が形成されていない場合に比べてより鮮やかな金属調光沢を呈するものであり、
前記グレーの印刷膜又は塗装膜の明度を変えることにより、前記金属色の明度を調整することができる、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の車両用オーナメント。
【請求項7】
前記車両用オーナメントの少なくとも一部は車載レーダー装置の送受信電波領域内に配置される部材である、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の車両用オーナメント。」


第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、次の甲第1?6号証を提出し、以下の申立理由により、本件発明1?7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開2010-50598号公報
甲第2号証:特開2014-69634号公報
甲第3号証:特開2010-66152号公報
甲第4号証:特開2014-94473号公報
甲第5号証:特開2008-132773号公報
甲第6号証:特開2010-216924号公報

1 申立理由1 特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
本件発明1?7は、甲第1号証に記載された発明、甲第2?6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 申立理由2 特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)
本件発明1?7は、明確でないから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


第4 甲各号証の記載事項等
1 甲第1号証の記載事項、認定事項及び甲1に記載された発明
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証(以下、「甲1」ということもある。甲第2?6号証においても同様。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
(1-1)「【0001】
本発明は、通信機器、電磁波式レーダー等電磁波を利用する機器の外装等の部材に用いることができる金属光沢を有しながらも、電磁波の透過性に優れた電磁波透過性部材に使用される金属光沢調装飾フィルムに関するものである。
・・・
【0007】
本発明は、通信機器、電磁波式レーダー等電磁波を利用する機器の外装等の部材に用いることができ、金属光沢の意匠を有しながら、電磁波の透過性に優れる電磁波透過性部材に使用される電磁波透過性金属光沢調装飾フィルムを提供するとことを課題とする。
・・・
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の詳細を説明する。
・・・
【0012】
本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、図1に示すように、熱可塑性樹脂Aからなる層(A層)1と熱可塑性樹脂Bからなる層(B層)2を交互にそれぞれ30層以上積層した構造を含んでなる。
・・・
【0020】
本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムにおいて、A層とB層を交互に積層した構造を含むとは、A層とB層を厚み方向に交互に積層した構造を有している部分が存在することで定義される
また、本発明ではA層とB層が厚み方向に交互にそれぞれ30層以上積層された構造が望ましい。より好ましくは、200層以上である。さらに、好ましくはA層とB層の総積層数が600層以上である。A層とB層が厚み方向に交互にそれぞれ30層以上積層した構造でないと、十分な反射率が得られなくなり、輝度の高い金属調の外観とはならない。
また、A層とB層が厚み方向に交互にそれぞれ200層以上含まれていると、波長帯域400?1000nmの相対反射率を40%以上とすることが容易となる。また、A層とB層の総積層数が600層以上であると、波長帯域400?1000nmの相対反射率を60%以上とすることが容易となり、非常に輝度の高い金属調の外観を有することが容易となる。また、積層数の上限値としては特に限定するものではないが、装置の大型化や層数が多くなりすぎることによる積層精度の低下に伴う波長選択性の低下を考慮すると、1500層以下であることが好ましい。
・・・
【0023】
本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、150℃における引張試験において、フィルム長手方向、および幅方向の100%伸度時の引張応力がそれぞれ、3MPa以上90MPa以下であることが望ましい。このような場合、成形性に優れたものとなり、真空成形、真空圧空成形、プラグアシスト真空圧空成形、インモールド成形、インサート成形、冷間成形、プレス成形、絞り成形などの各種成形において、任意の形状に成形することが容易となる。より好ましくは、150℃における引張試験において、フィルム長手方向、および幅方向の100%伸度時の引張応力がそれぞれ、3MPa以上50MPa以下である。このような場合、より高い絞り比でも成形可能となる。150℃における引張試験において、フィルム長手方向、および幅方向の100%伸度時の引張応力がそれぞれ、3MPa以上90MPa以下とするためには、熱可塑性樹脂Aが結晶性樹脂であり、熱可塑性樹脂Bがシクロヘキサンジメタノール単位、スピログリコール単位、ネオペンチルグリコール単位などの嵩高い基を有する非晶性樹脂であることが好ましい。このような場合、二軸延伸後においても熱可塑性樹脂Bはほとんど配向および結晶化していないため、引張応力が低くなるものである。また、各樹脂の融点以上でA層とB層からなる積層体を形成し冷却固化せしめるまでの時間が3分以上であることも好ましい。これは、A層とB層の界面に形成される混在層が厚くなるために、引張応力が低くなったものと推察している。さらに、層厚みが20nm以下の層が含まれているのも好ましい。層厚みが20nm以下になると、延伸してもさらに配向や結晶化が進みにくくなるために、引張応力も低下するものである。
【0024】
また、本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、層対厚み10nm以上220nm未満の層の数が層対厚み220nm以上320nm以下の層の数より多い。このようにすることにより、ほとんど色づきのない金属調とすることが可能となる。ここで、層対厚みとは、隣接するA層とB層のそれぞれの層厚みを足した厚みである。また、層対厚みは、A層のみについて一方の表面から数えたm番目のA層と、B層のみについて同表面から数えたm番目のB層の層厚みを足したものである。ここでmは整数を表している。例えば、一方の表面から反対側の表面にA1層/B1層/A2層/B2層/A3層/B3層・・・・の順番で並んでいた際、A1層とB1層が1番目の層対であり、A2層とB2層が2番目の層対であり、A3層とB3層が3番目の層対となる。層対厚み10nm以上220nm未満の層の数が、層厚み220nm以上320nm以下の層の数と同数または少ないと、波長帯域400?1100nmの反射帯域において低波長側ほど反射率が低下するため、赤味をおびた外観となるので好ましくない。これは、低波長側の反射を起こす層対の密度が薄くなるために起こるものである。従って、積層フィルムを構成する層の層対厚みの序列としては、単調に等差数列的に層対厚みが増加もしくは減少するのではなく、上記条件を満たしながら等比数列的に層対厚みが増加もしくは減少することが好ましい。より好ましくは、層対厚み120nm以上220nm未満の層の数が、層対厚み220nm以上320nm以下の層の数の1.05倍以上2.5倍以下であることが好ましい。この場合、まったく色づきのない金属調とすることが可能である。
・・・
【0027】
本発明に係る電磁波発信器から発信される又は電磁波受信器に受信される電磁波の経路上に使用される電磁波透過性部材としては、上記電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムを含む成形体であることが望ましい。本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム以外に、ハードコート層、エンボス層、耐候層(UVカット層)、着色層、接着層、基材樹脂層などのいずれかを含んでなることも好ましい。このような成形体は、すべての層を樹脂などの有機物や酸化ケイ素など電磁波を吸収しない無機化合物で構成することが可能であり、金属や重金属などを含まないため、環境負荷が小さく、リサイクル性にも優れ、電磁波障害を起こさないものである。既存の技術では、アルミなどの金属薄膜層の蒸着等が行なわれているが、電磁波の送受信を必要とする電磁波発信器又は電磁波受信器の電磁波経路上にこれら既存の技術を活用した外装部材を使用すると、意匠性は向上するかも知れないが、本来必要な発信器や受信器の送受信機能を損なう可能性がある。そこで、本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、自動車のミリ波レーダーの機能を損なわないという観点から、76GHzにおける電磁波の減衰率が2.0dB以下であることが望ましい。より好ましくは、76GHzにおける電磁波の減衰率が1.0dB以下である。このような場合、本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムを用いても本来の機能を損なうことのない自動車のミリ波レーダーの電磁波経路上に使用される電磁波透過性部材となることが可能である。このとき、電磁波透過性部材と電磁波送信器あるいは電磁波受信器との距離は10m以内であることが好ましい。
【0028】
本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、その片面または両面に表面に着色層が形成されたものであることが好ましい。本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、可視光線の一部は透過する設計とできるので、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能となる。着色層を設けるには印刷によることが好ましい。」

(1-2)「【0058】
(実施例1)
・・・
【0061】
3.フィルムの作製
次に、本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムを構成する2種類の熱可塑性樹脂として、合成したポリエステル1とポリエステル2を準備した。ポリエステル191.46wt%に、平均2次粒径が1μmの凝集シリカ粒子を0.04wt%、マロン酸エステル系の紫外線吸収剤(クラリアント・ジャパン社製 ”サンデュボアB-CAP”)を8.5wt%混合し、これを熱可塑性樹脂Aとした。次にポリエステル2を熱可塑性樹脂Bとした。これら熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bは、それぞれ乾燥した後、別々の押出機に供給した。
・・・
【0064】
この一軸延伸フィルムをテンターに導き、100℃の熱風で予熱後、110℃の温度で横方向に3.3倍延伸した。延伸したフィルムは、そのまま、テンター内で240℃の熱風にて熱処理を行い、続いて同温度にて幅方向に8%の弛緩処理を施し、その後、室温まで徐冷後、巻き取った。得られたフィルムの厚みは、100μmであり、厚みむらは4.0%であった。ここで得られた電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムを3とする。得られた結果を表1のフィルム特性に示す。
【0065】
4.後加工、成形
次に上記3項の方法で得たフィルムを用いて自動車のミリ波レーダーの電磁波経路上に使用される自動車用エンブレム(電磁波透過性部材)を作製した。フィルムの両面に透明の印刷層を印刷した。このとき、金属光沢調に見せない部分は光を透過しない黒インキを使用した印刷層をさらに設けた。この印刷層を施したフィルムを、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)と一体成形し、続いてアクリロニトル・エチレン・スチレン(AES)と一体成形し、印刷層を施したフィルムが積層された自動車用エンブレムを得た。自動車用エンブレムの断面の一部を図2に示す。得られた結果を表1に示す。
・・・
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明のフィルムの積層構造の一部を示す模式図
【図2】自動車用エンブレムの断面構造の一部を示す模式図」

(1-3)甲1には、以下の図が示されている。


(2)甲1の認定事項
甲1には、「自動車用エンブレム」に関する技術について開示されているところ、上記摘記事項から次のことが認定できる。

(2-1)上記摘記(1-2)によれば、【図2】は、「自動車用エンブレムの断面構造の一部を示す模式図」(【0074】)であるところ、【図2】における「3」は、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」であり(【0064】)、「黒色インキ層」は、【0065】に記載されている「黒インキを使用した印刷層」に対応し、「4」は同じく【0065】に記載されている「透明の印刷層」に対応している。

(2-2)上記(2-1)及び【0065】の記載内容を踏まえると、
ポリメチルメタクリレート層、黒色インキ層、透明の印刷層、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム、アクリロニトリル・エチレン・スチレン層を備え、自動車のミリ波レーダーの電磁波経路上に使用される自動車用エンブレムであって、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムの両面に透明の透明の印刷層を印刷し、金属光沢調に見せない部分は光を透過しない黒色インキ層の印刷層をさらに設けたフィルムを、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)と一体成形し、続いてアクリロニトル・エチレン・スチレン(AES)と一体成形して得ること。

(2-3)【0027】の記載内容によれば、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは電磁波を吸収しない無機化合物で構成することが可能であり、金属や重金属などを含まないこと。

(2-4)【0028】の記載内容によれば、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、その片面の表面に着色層が形成されたものであることが好ましく、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、可視光線の一部は透過する設計とできるので、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能となるものであり、着色層を設けるには印刷によることが好ましいこと。

(2-5)【0012】の記載内容によれば、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、図1に示すように、熱可塑性樹脂Aからなる層(A層)1と熱可塑性樹脂Bからなる層(B層)2を交互にそれぞれ30層以上積層した構造を含んでなること。

また、【0020】の記載内容によれば、A層とB層が厚み方向に交互にそれぞれ30層以上積層された構造が望ましく、より好ましくは、200層以上であり、さらに、好ましくはA層とB層の総積層数が600層以上であること、及び、積層数の上限値としては、1500層以下であることが好ましいこと。

さらに、【0024】の記載内容によれば、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、層対厚み10nm以上220nm未満の層の数が層対厚み220nm以上320nm以下の層の数より多く、このようにすることにより、ほとんど色づきのない金属調とすることが可能となり、ここで、層対厚みとは、隣接するA層とB層のそれぞれの層厚みを足した厚みであること。

(3)甲1に記載された発明
上記(1)及び(2)から、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「ポリメチルメタクリレート層、黒色インキ層、透明の印刷層、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム、アクリロニトリル・エチレン・スチレン層を備え、自動車のミリ波レーダーの電磁波経路上に使用される自動車用エンブレムであって、
電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムの両面に透明の透明の印刷層を印刷し、金属光沢調に見せない部分は光を透過しない黒色インキ層の印刷層をさらに設けたフィルムを、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)と一体成形し、続いてアクリロニトル・エチレン・スチレン(AES)と一体成形して得るものであり、
電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、
電磁波を吸収しない無機化合物で構成され、金属や重金属などを含まず、
その片面の表面に着色層が形成され、
可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であり、着色層を設けるには印刷によるものであり、
熱可塑性樹脂Aからなる層(A層)1と熱可塑性樹脂Bからなる層(B層)2を交互にそれぞれ30層以上積層した構造を含んでなり、A層とB層が厚み方向に交互にそれぞれ200層以上又は600層以上積層された構造が望ましく、積層数の上限値としては、1500層以下であって、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、層対厚み10nm以上220nm未満の層の数が層対厚み220nm以上320nm以下の層の数より多いものである、
自動車用エンブレム。」

2 甲2の記載事項等
(1)甲2の記載事項
甲2には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、ミリ波レーダの前方に配置される電波透過カバーなどに用いられる車両用加飾部材に関する。
・・・
【0052】
加飾層は、電波透過部の全体又は一部に形成される。加飾層はミリ波透過性を有していることが好ましい。電波透過部全体がミリ波透過性を有することになる。ミリ波透過性を有する加飾層は、0.05?0.1mmと薄い厚みであるとよく、また、ミリ波透過性の低い金属成分を含まないことがよい。金属成分の中でも、インジウムはミリ波を透過しやすいため、加飾層に用いることに適している。
・・・
【0067】
(実施例2)
本例のフロントグリル1は、図5に示すように、樹脂接着層5の後面に、ベース部6が形成されている。ベース部6は、透明部材2とは別の成形体である。ベース部6は、AESからなり、透明である。
【0068】
フロントグリル1の電波透過部12は、透明部材2の後面22に、加飾層3、樹脂接着層5及びベース部材6が積層された積層構造を有している。透明部材2の後面22には、凹凸部23が形成されていて、その凸部24に加飾層3が形成されている。加飾層3及び樹脂接着層5は、透明部材2とベース部材6との間に介在している。ベース部材6の前面は、透明部材2の後面22の凹凸部23の形状を反映した凹凸形状を呈している。ベース部材6の後面は、平坦な平滑面を呈している。電波透過部12を前面から見ると、透明な背景の中に、加飾層3からなる金属調の文字が見える。
【0069】
透明部材2はアクリル系樹脂からなり、加飾層3は。印刷層又は箔からなり、樹脂接着層5は、実施例1と同様のホットメルト接着剤からなる。透明部材2の厚みは3?5.3mm、加飾層3の厚みは10μm、樹脂接着層5の厚みは0.5?1.0mm、ベース部材6の厚みは3.7?0.9mmである。電波透過部12では、透明部材2、加飾層3、樹脂接着層5及びベース部材6を合わせた合計厚みが、7.2mmであり、電波透過部12の全体がこの厚みを有している。この合計厚みは、ミリ波の半波長の整数倍である。
・・・
【0101】
(実施例12)
本例のエンブレム17は、図18、図19に示すように、透明部材2の後面22に2種類の加飾層31、32を形成している点が、実施例7と相違する。透明部材2の後面22の凹凸部23には、文字を形取った形状をなす凹部25が形成されている。第1の加飾層31は、スクリーン印刷で形成された黒色塗料であり、凸部24に形成されている。第2の加飾層32は、インジウムを蒸着した蒸着膜である。第2の加飾層32は、透明部材2の凹凸部23の全体に形成されている。」

甲2には以下の図が示されている。


3 甲3の記載事項等
(1)甲3の記載事項
甲3には図面とともに以下の事項が記載されている。
(1-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されて前記車両周囲の障害物を検知するレーダの検知側に配置され、透明部材を備えると共に、前記透明部材の前記レーダに対向する対向面に金属塗装層が形成されたレドームであって、
前記金属塗装層には、複数の箔状金属片が前記透明部材の前記対向面と各々略平行する姿勢で埋没していることを特徴とするレドーム。」

(1-2)
「【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、製造に大規模又は特別な設備を必要とせず、製造過程における歩留まりを向上させ、レーダによる検知を妨げることなくメッキや金属蒸着等と実質的に同等な鏡面状の金属光輝面を有するレドームを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明のレドームは、車両に搭載されて車両周囲の障害物を検知するレーダの検知側に配置され、透明部材を備えると共に、透明部材のレーダに対向する対向面に金属塗装層が形成されたレドームであって、金属塗装層には、複数の箔状金属片が透明部材の上記対向面と各々略平行する姿勢で埋没しているという構成を採用する。
【0010】
このような構成を採用する本発明では、まず、透明部材のレーダに対向する面に複数の箔状金属片と透明樹脂とを含有する塗料を塗布する。次に、上記塗料を乾燥させつつ箔状金属片を透明部材の上記面と各々略平行する姿勢に配向させる。
【0011】
したがって、本発明では、通常の塗装工程を用いて金属塗装層を形成することができる。また、本発明では、塗膜の透明樹脂内に複数の箔状金属片が透明部材の上記面と各々略平行する姿勢で埋没しているため、上記塗膜の厚みを、従来のメタリック塗装による塗膜に比べて薄くすることができ、レーダによる検知を妨げない程度の厚みに限定することができる。また、本発明では、透明部材の外部から入射する光が箔状金属片によって略同一方向で反射する。
・・・
【0021】
まず、レドーム10が設けられているラジエータグリル1の構成を、図1を参照して説明する。
図1に示すように、ラジエータグリル1は、車両の前面に設けられる車両構成体であり、複数の水平方向に延びる部材及び複数の垂直方向に延びる部材が一体となって構成されている。また、ラジエータグリル1は、その前面中央部にレドーム10を備えている。なお、レドーム10の背面側にはレーダ20(図3参照)が設置されている。
【0022】
本実施形態におけるレーダ20は、車両に搭載され電波を用いて車両周囲の障害物を検知するものであり、より具体的には、車両と車両前方の障害物との距離や相対速度等を計測するものである。
また、レーダ20は、車間距離検知用レーダの適用周波数である76GHz?77GHzの電波(ミリ波)を出射する発信部と、障害物からの反射電波を受信する受信部とを有している。
なお、レーダ20が出射した電波がレドーム10を透過すると電波の減衰が生じるが、レーダ20が安定して動作し車両と障害物との距離等を正しく計測するために、上記減衰はできるだけ低く抑える必要がある。
【0023】
次に、レドーム10の構成を、図2ないし図4を参照して説明する。
図2に示すように、レドーム10は、前面側から見た場合に金属鏡面状を呈する金属部10Aと、黒色を呈する黒色部10Bとを有している。
図3に示すように、レドーム10は、前面側から背面側に向かって、透明(着色透明を含む)部材11、第1着色層12、金属塗装層13、第2着色層14、接着剤層15及びベース部材16が順次配置され一体的に設けられた構成となっている。
【0024】
透明部材11は、前面側から見て略矩形を呈する板状部材であり、その背面側の金属部10Aに対応する部分には凹部11Aが形成されている。この凹部11Aは、前面から見た場合に金属部10Aを立体的に視認させるためのものである。金属部10Aに立体感を付与する必要がない場合には、凹部11Aを形成する必要はない。また、透明部材11は、例えばポリカーボネート等の透明合成樹脂で形成され、その部材厚みは3mm?10mmである。
透明部材11の前面側及び背面側の表面は共に平滑面となるように成形され、凹部11Aの背面側表面である凹部表面(対向面)11B(図4参照)は、特に平滑面となるように成形されている。また、透明部材11の前面側の表面には擦過等に対する耐久性を向上させ傷等の発生を防止するいわゆるハードコート処理がなされている。
【0025】
透明部材11の背面側における凹部11A以外の部分には、第1着色層12が黒色の合成樹脂塗料を塗布することにより形成されている。なお、第1着色層12は黒色以外の色であってもよい。
【0026】
金属塗装層13は、凹部表面11Bに厚み0.2μm以下で形成されており、いわゆるバインダーと称される透明(着色透明を含む)樹脂分13S内に複数の箔状金属片Mが埋没した構成となっている。但し、本実施形態では第1着色層12の背面側表面にも金属塗装層13が形成されており、このような構成であってもよい。
なお、金属塗装層13は、複数の箔状金属片Mと透明樹脂分13Sとを含有する塗料13L(図6(c)参照)の塗膜を乾燥させることで形成される。透明樹脂分13Sとしては、例えばPVC(ポリ塩化ビニル)が使用される。
・・・
【0028】
第2着色層14は、金属部10Aにおける色調の調整及び金属塗装層13の保護のために用いられる塗装層であり、金属塗装層13の背面側表面に灰黒色の合成樹脂塗料を塗布して形成され、その厚みは20μm?30μmである。なお、第2着色層14は、灰黒色以外の色であってもよい。
・・・
【0030】
ベース部材16は、例えばABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)、AES(アクリロニトリル・エチレン・スチレン共重合合成樹脂)等の合成樹脂からなり、その部材厚みは3mm?10mmである。また、ベース部材16は、金型装置内に第1着色層12から接着剤層15までが形成された透明部材11をインサートし射出成形等を用いて接着剤層15の背面側表面に形成される。さらに、ベース部材16は、レドーム10をラジエータグリル1に取り付けるための取付片16Aを有しており、取付片16Aはレドーム10の背面側から紙面上下方向に突出した形状となっている。
・・・
【0043】
ここで、レドーム10に形成された金属塗装層13に求められる電波の減衰の許容値は、レーダ20の性能等により変動する。すなわち、金属塗装層13を透過した電波の減衰が大きいとしても、レーダ20から出射される電波の出力を増加させれば、必要な範囲において障害物を検知することは可能である。しかし、出力の増加にはレーダ20の外形の増大や消費電力の増加等を伴うため、特に設置スペースや消費電力に制限のある車載レーダ等については出力の増加は容易ではない。そして、車載レーダ用レドーム10に形成された金属塗装層13に求められる電波の減衰の最大許容値は、3.0dBである。
この許容値に合致する金属塗装層13の厚みを図7を用いて検討すると、金属塗装層13の厚みを凡そ0.13μm以下とすると車載レーダ用レドーム10には十分使用できることが判明した。
・・・
【0049】
また、上記実施形態では、灰黒色の塗料を金属塗装層13の背面側表面に塗布することで第2着色層14を形成しているが、異なる色の塗料を複数回塗布することで第2着色層14を形成してもよい。例えば灰黒色の塗料を塗布した後に黒色の塗料を塗布してもよい。黒色の塗料を塗布することで、金属部10Aの色調をより鮮明にすることができる。
また、金属塗装層13の背面側に別途成形した有色のベース部材16を貼付し、レドーム10を製造する場合は、第2着色層14は形成せずともよい。
【0050】
また、上記実施形態では、透明部材11の前面側及び背面側には共に平滑面が形成されているが、上記平滑面を透明塗装層により形成してもよい。
【0051】
また、第2着色層14として灰黒色及び黒色以外の色を使用してもよい。前述の通り、金属部10Aの表面側から入射した光は箔状金属片M及び第2着色層14にて反射するが、第2着色層14の色を変更することで金属部10Aの色調を変化させることができる。」

(1-3)甲3には以下の図が示されている。


(2)甲3の認定事項
甲3の上記摘記事項から次のことが認定できる。
【0043】の「ここで、レドーム10に形成された金属塗装層13に求められる電波の減衰の許容値は、レーダ20の性能等により変動する。・・・(中略)・・・金属塗装層13の厚みを凡そ0.13μm以下とすると車載レーダ用レドーム10には十分使用できることが判明した。」との記載から、「厚みを凡そ0.13μm以下と」した「金属塗装層13」が電波透過性を有すること。

(3)甲3に記載の技術的事項
以上から、甲3には以下の技術的事項が記載されている(以下「甲3に記載の技術的事項」ということもある。)。

「前面側から背面側に向かって、透明部材11、第1着色層12、金属塗装層13、第2着色層14、接着剤層15及びベース部材16が順次配置され一体的に設けられた構成となっており、
ベース部材16は、金型装置内に第1着色層12から接着剤層15までが形成された透明部材11をインサートし射出成形等を用いて接着剤層15の背面側表面に形成され、
前面側から見た場合に金属鏡面状を呈する金属部10Aと、黒色を呈する黒色部10Bとを有し、
透明部材11は、前面側から見て略矩形を呈する板状部材であり、その背面側の金属部10Aに対応する部分には凹部11Aが形成され、
透明部材11の背面側における凹部11A以外の部分には、第1着色層12が黒色の合成樹脂塗料を塗布することにより形成され、
金属塗装層13は、凹部11Aの背面側表面である凹部表面11Bに厚み0.2μm以下で形成されており、いわゆるバインダーと称される透明樹脂分13S内に複数の箔状金属片Mが埋没した構成となっており、第1着色層12の背面側表面にも金属塗装層13が形成されており、
第2着色層14は、金属部10Aにおける色調の調整及び金属塗装層13の保護のために用いられる塗装層であり、金属塗装層13の背面側表面に灰黒色の合成樹脂塗料を塗布して形成され、
金属部10Aの表面側から入射した光は箔状金属片M及び第2着色層14にて反射するが、第2着色層14の色を変更することで金属部10Aの色調を変化させることができ、
金属塗装層13は電波透過性を有し、
背面側にはレーダ20が設置されているレドーム10。」

4 甲4の記載事項等
(1)甲4の記載事項
甲4には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0058】
本発明の積層体に用いられる反射防止層は、反射防止層表面でのL^(*)a^(*)b^(*)表示系における明度L^(*)が40以下であり、好ましくは38.5以下、より好ましくは37.5以下である。明度L^(*)が40を超えると、高分子色素の薄い高分子色素の膜を透過した光が反射し、膜での反射光と混ざり合うことで金属光沢調が発現しにくくなる。反射防止層に用いられる材料としては特に限定されず、例えば、樹脂、紙、木材、金属等が好適に用いられる。
・・・
【0064】
本発明の構造体は、基体上に本発明の積層体を具備したものである。本発明の構造体をなす基体は、例えば、各種工業材料、特に、自動車、通信機器(携帯電話、PDA、リモコン、携帯情報端末、電子辞書、電子手帳等)、家電機器、建築部材等があげられるが、電磁波の透過性や金属調光沢を具備することが要求されるものにも用いることができる。
【0065】
本発明の積層体に用いられる高分子色素は、金属を含まないために、従来の、電磁波の透過性や製造過程における環境負荷等の課題を解決することができる。従って、本発明の積層体により、電磁波の透過性が必要とされる基体にも金属調光沢を付与することができ、高級感を高めることで、デザイン性や装飾性を著しく向上することができる。
・・・
【0082】
実施例1?3
2mL容の試験管に、表1に示す高分子色素3mg及びクロロホルム0.448g(0.3mL)を仕込み、溶解させ、均一な溶液を得た。
【0083】
次に、撥水PP(ポリプロピレン)加工を施した灰色上質紙A(L^(*)値 27.31、a^(*)値 0.29、b^(*)値 -0.24、光透過率 1.83%、膜厚 100μm)をガラス板(100mm×100mm、膜厚 200μm)上に貼り付けて、反射防止層を作製した。
【0084】
灰色上質紙の表面にマスキングテープを用いて長方形(10mm×50mm)のパターンを形成し、高分子色素のクロロホルム溶液を流し込み、25℃で、240分間乾燥させることで、高分子色素膜を含む金属光沢調積層体を作製した。」

5 甲5の記載事項等
(1)甲5の記載事項
甲5には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0020】
また、本発明の別の態様による画像形成物は、被転写体上に、昇華型および/または溶融型の熱転写画像が形成された画像形成物であって、
カラー画像、黒色画像、白色画像、およびグレー画像よりなる群から選択される少なくとも1種が形成された画像領域と、その画像領域全体が覆われるように金属光沢画像が形成された画像領域とが、この順で被転写体上に形成されたものであり、
画像形成物表面の、カラー画像、黒色画像、白色画像、およびグレー画像よりなる群から選択される少なくとも1種が形成された画像領域と、それ以外の画像領域との光の反射率が、国際照明委員会(CIE)のL^(*)a^(*)b^(*)表色系におけるL^(*)値の差として、0?20である、ことを特徴とするものである。
・・・
【0071】
(黒色インキ層)
黒色インキ層としては、溶融熱転写記録における公知の熱転写層や、昇華熱転写記録における公知の染料層を、使用することができ、特に限定されるものではない。なお、黒色インキ層を構成する着色剤の含有比率を低下させたり、黒色インキ層の塗布量を少なくしたり、黒色顔料(カーボンブラック)と白色顔料を混ぜて任意のグレー色調に調整して、グレーインキ層を用意して、本発明に利用することが可能である。図6および7に示すように、グレーインキ層を金属光沢層と組み合わせて使用して、金属光沢層の透過率とグレーインキ層の透過率の差を利用した、意匠性の高い画像形成物を形成することもできる。この画像形成物は、光透過量を調整した製品となり、例えば、スモークガラス(スモークフィルム)のような自動車リアウィンドウや、窓ガラスのような用途に使用することができる。
・・・
【0113】
実施例A2
得られたグレーインキリボンを用いて、1回目の熱転写により、PCフィルムの一部分に、星模様のグレー画像を形成した。次いで、得られたメタリックリボンを用いて2回目の熱転写を行い、星模様を覆うように、PCフィルム全面に金属光沢画像を形成した。
・・・
【0125】
また、星印模様の画像を形成した実施例2?5の画像形成物は、いずれも、星印模様がはっきりと認識できるとともに、金属光沢感に優れるものであった。特に、反射光により画像を観察した場合であっても、星印模様がはっきりと認識できるとともに、金属光沢感に優れるものであった。」

6 甲6の記載事項等
(1)甲6の記載事項
甲6には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ異なる周波数帯域の光を不透過とするポリエチレン系樹脂の膜層を積層することで、光を全反射する全反射シートの少なくとも一方の面に図柄を印刷した印刷層が設けられた基材を、所定の金型にセットして、当該基材の表裏面に合成樹脂を注入することで成形された装飾部材であって、
前記基材の表裏面に接着層を設け、前記合成樹脂注入時に溶解し、前記基材と合成樹脂とを密着させることを特徴とする装飾部材。」

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全反射シートが用いられた装飾部材、この装飾部材と距離検出用レーダで構成されたレーダユニット、並びに装飾部材製造方法に関する。
・・・
【0008】
より具体的には、特許文献1のフィルムは、少なくとも2種類以上の可塑性樹脂層が厚み方向に交互に30層以上積層された積層フィルムであって、波長400nm?1000nmにおける反射率が30%以上、150℃における引張試験においてフィルム長手方向および幅方向の100%伸度時の引張応力が3MPa以上90MPa以下、層対厚み10nm以上220nm未満の層の数が層対厚み220nm以上320nm以下の層の数より多く、積層フィルム中にマロン酸エステル系化合物又は蓚酸アニリド系化合物から選ばれた紫外線吸収剤を少なくとも1種類以上含有する。
・・・
【0012】
しかしながら、特許文献1のフィルムは、金属調の外観を持ち、かつ電磁波を透過するが、例えば、車両のエンブレム等の装飾部材として、一部に印刷を施したり、周囲をインジェクション成形等によって合成樹脂で覆った成形品を生成する場合に、注入される合成樹脂とフィルムとの間の密着性に欠け、意匠性が損なわれる。
・・・
【0014】
本発明は上記事実を考慮し、金属調の外観を持ちつつ、例えばミリ波等、特定の周波数の電磁波の通過を抑制することがなく、かつ意匠性に優れた成形品を構成することができる装飾部材、レーダユニット、装飾部材製造方法を得ることが目的である。」

「【0029】
装飾部材10は、大きく分けて、3層構造となっており、その表面側が透明の合成樹脂材(以下、「表面材12」という)で形成され、裏面側が非透明(例えば、黒色でAESやABS等)の合成樹脂材(以下、「裏面材14」という)で形成されている。
・・・
【0031】
基材16は、図2(A)に示される如く、素材として全反射シート22が適用され、その表面(表面材12と対向する面)には、印刷層24が施されている。
【0032】
全反射シート22は、それぞれ異なる周波数帯域の光を不透過とするポリエチレン系樹脂の膜層を積層することで生成されており、光を全反射する、すなわち、鏡面を形成する。鏡面は、研磨された金属面と同様であり、このため、全反射シートは、金属調を持っている。「金属調」ということは、言い換えれば、全く金属を用いずに、金属であるかのような仕上げとなっており、例えば、電磁波の通過を抑制するようなことがない。
【0033】
図3は、全反射シート22の特性を示したものであり、例えば、図3(A)?(C)に示す波長-反射率特性を持つ膜層を積層すると、図4の矢印Aで示されるように、約70?80%の反射率を持ったシートが形成できる。
【0034】
さらに、積層を重ねて17層とすると、図4の矢印Bで示されるように、約90%の反射率を持ったシートが形成できる。
【0035】
本実施の形態では、鏡面仕上げであることが要求されるため、図4の矢印Cで示されるように、膜層を400層又は800層とし、反射率をほぼ100%とした。
【0036】
図2(A)に示される基材16は、図2(B)に示される如く、立体的に加工された状態で、前記表面材12と裏面材14とに挟みこまれており、基材16の凸部が金属調とされ、凹部に印刷層24の黒色領域が位置する。
・・・
【0042】
(装飾部材10の製造方法)
・・・
【0043】
次に、図5(B)に示される如く、この反射シート22を装飾部材10の基材16の外形にカットすると共に、印刷層24を施す。ここでは、反射シート22を楕円形にカットして、2つの島状の領域(対称形)に黒色となった印刷層24を施す。なお、黒色ではない印刷層24は透明であり、反射シート22の表面がむき出しであるため、鏡面となる。
【0044】
なお、印刷層24の印刷パターンは、適用さえる意匠に基づくものであり、上記のような島状の2つの領域(対称形)に限定されるものではない。例えば、楕円の周縁と、意匠対象を強調する頭文字(アルファベット等)を象った部分を鏡面とし、それ以外を背景色(黒色等)としてもよい。
・・・
【0047】
このようにして形成した基材16は、図5(D)に示される如く、表材成形用の金型26にセットする。
【0048】
このとき、下型26Lには、凹凸が形成され、基材16はこの凹凸に応じて立体的に屈曲変形される。屈曲変形した基材16は、凸部が鏡面仕上げとなり、凹部が印刷層24の黒色領域となる。
【0049】
この基材16がセットされた下型26Lに対して、上型26Uをセットする。このとき、基材16の表面側の接着層18と上型26Uの天井面との間に空間が生じており、注入口28から表面材12となる透明の合成樹脂を注入する。
・・・
【0052】
表面材12が固化すると、次に、図5(E)に示される如く、裏面成形用の金型30にセットする。
・・・
【0054】
この基材16と表面材12のアッセンブリがセットされた下型30Lに対して、上型30Uをセットする。このとき、基材16の裏面(ここでは、上面)側の接着層20と上型30Uの天井面との間に空間が生じており、注入口32から裏面材14となる黒色の合成樹脂を注入する。
【0055】
裏材16が固化すると、図5(F)に示される如く、装飾部材10が完成する。
【0056】
この装飾部材10では、視覚的(意匠的)に金属調の見栄えが必要な部材であり、かつ電磁波を通過させる必要がある。
【0057】
そこで、金属調を出すために基材16をポリカーボネイト製等、合成樹脂製の全反射シート22で形成し、金属調をだしたため、電子の移動が制限されるような金属を用いることがなく、ミリ波の電磁波を確実に通過させることができる。
・・・
【0061】
図6至図8には、本発明の装飾部材10を車両50のオーナメント10Aとして適用した実施例が示されている。」

甲6には、以下の図が示されている。


(2)甲6の認定事項
上記記載から、次の事項が認定できる。
ア 【0061】の「装飾部材10を車両50のオーナメント10Aとして適用した」との記載、【0056】及び【0057】の「この装飾部材では、・・・金属調を出すために基材16をポリカーボネイト製等、合成樹脂製の全反射シート22で形成し、金属調をだしたため、電子の移動が制限されるような金属を用いることがなく、ミリ波の電磁波を確実に通過させることができる」との記載から、以下の事項が認定できる。

「車両50のオーナメント10Aとして適用するものである装飾部材10は、ミリ波の電磁波を通過させることができ、金属を用いることがない合成樹脂製の全反射シート22で形成した基材16を備えること。」

イ 【0031】の「基材16は、・・・素材として全反射シート22が適用され、その表面(表面材12と対向する面)には、印刷層24が施され」との記載、【0043】の「反射シート22を装飾部材10の基材16の外形にカットすると共に、・・・2つの島状の領域(対称形)に黒色となった印刷層24を施す。」との記載、【0044】の「なお、印刷層24の印刷パターンは、適用さえる意匠に基づくものであり、」との記載から、「黒色となった印刷層24」は、「基材16」に適用される「全反射シート22の表面」に形成されるものであって、また、「意匠に基づく」「印刷パターン」であり、「2つの島状の領域」に「施した」ものであるといえる。
そして、上記アを踏まえると「基材16」は「装飾部材10」に備えられるものであるから、上記アの「装飾部材10」について、以下の事項が認定できる。

「装飾部材10は、基材16に適用される全反射シート22の表面に意匠に基づく印刷パターンであって2つの島状の領域に施した黒色となった印刷層24を備えること。」

ウ 上記イの「装飾部材10」は、【0029】の「装飾部材10は、・・・その表面側が透明の合成樹脂材(以下、「表面材12」という)で形成され、」との記載から、次のことが認定できる。
「装飾部材10は、透明である表面材12を備えること。」

エ-1 上記アの「装飾部材10」の備える「基材16」に関し、【0036】の記載から、以下の事項が認定できる。

「基材16は、立体的に加工された状態で、表面材12と裏面材14とに挟みこまれていること。」

エ-2 上記図1には、【0036】の「印刷層24の黒色領域が位置する」「凹部」以外の「基材16の凸部」が表面側に形成されていることが示されており、【0036】を踏まえると、以下の事項が認定できる。

「基材16の凸部が金属調とされ表面側に形成され、凹部に印刷層24の黒色領域が位置すること。」

オ 上記エ-1の「表面材12」に関し、【0047】の「基材は、・・・表材成形用の金型26にセットする。」との記載、【0049】の「この基材16がセットされた下型26Lに対して、上型26Uをセットする。このとき、基材16の表面側の接着層18と上型26Uの天井面との間に空間が生じており、注入口28から表面材12となる透明の合成樹脂を注入する。」との記載、【0050】の「表面材12が固化すると、・・・裏面成形用の金型30にセットする」との記載、【0054】の「この基材16と表面材12のアッセンブリがセットされた下型30Lに対して、上型30Uをセットする。このとき、基材16の裏面(ここでは、上面)側の接着層20と上型30Uの天井面との間に空間が生じており、注入口32から裏面材14となる黒色の合成樹脂を注入する。」との記載、【0054】の「この基材16と表面材12のアッセンブリがセットされた下型30Lに対して、上型30Uをセットする。このとき、基材16の裏面(ここでは、上面)側の接着層20と上型30Uの天井面との間に空間が生じており、注入口32から裏面材14となる黒色の合成樹脂を注入する。」との記載、【0055】の「裏材16が固化すると、・・・装飾部材10が完成する。」との記載から、以下の事項が認定できる。

「基材16が金型26にセットされ、表面材12となる透明の合成樹脂を注入し表面材12が固化すると、この基材16と表面材12のアッセンブリを金型30にセットし、裏面材14となる黒色の合成樹脂を注入して、裏材16が固化すると装飾部材10が完成すること。」

(3)甲6に記載の技術的事項
以上から、甲6には以下の技術的事項が記載されている(以下「甲6に記載の技術的事項」ということもある。)。

「車両50のオーナメント10Aとして適用するものである装飾部材10は、
ミリ波の電磁波を通過させることができ、金属を用いることがない合成樹脂製の全反射シート22で形成した基材16と、
基材16に適用される全反射シート22の表面に意匠に基づく印刷パターンであって2つの島状の領域に施した黒色となった印刷層24と、
透明である表面材12と、を備え、
基材16は、立体的に加工された状態で、表面材12と裏面材14とに挟みこまれており、
基材16が金型26にセットされ、表面材12となる透明の合成樹脂を注入し表面材12が固化すると、この基材16と表面材12のアッセンブリを金型30にセットし、裏面材14となる黒色の合成樹脂を注入して、裏材16が固化すると装飾部材10が完成するものであって、
基材16の凸部が金属調とされ表面側に形成され、凹部に印刷層24の黒色領域が位置する技術。」

第5 当審の判断
1 申立理由1(特許法第29条第2項)について
1-1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

ア 甲1発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は、「電磁波を吸収しない無機化合物で構成され、金属や重金属などを含ま」ないものであり、また、「可視光線の一部は透過する設計とし」たものであるから、半透明であるといえる。
そうすると、甲1発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」と、本件発明1の「電波透過性を有し且つ金属成分を含まない、表側面にエンボス模様が形成された半透明のフィルム」とは、「電波透過性を有し且つ金属成分を含まない半透明のフィルム」の限度で共通する。

イ 甲1発明において「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、その片面に表面に着色層が形成され、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であり、着色層を設けるには印刷によるものであ」ることが特定された「着色層」と、本件発明1の「前記フィルムの裏側面に形成されたグレーの印刷膜又は塗装膜」とは、「前記フィルムの片面に形成された着色のある印刷膜又は塗装膜」の限度で共通する。

ウ 「自動車用エンブレム」では、「アクリロニトル・エチレン・スチレン層」が、車体側のベース部を、「ポリメチルメタクリレート層」などの透明なアクリル系の樹脂が車外側の外装部などの表面部材を構成することが、技術常識である(甲2の段落【0067】?【0069】及び図5、特にベース部6、透明部材2の配置と材質を参照。)から、甲1発明の「自動車用エンブレム」の「アクリロニトル・エチレン・スチレン層」側面は、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」の裏側面であり、「ポリメチルメタクリレ-ト層」側面は、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」の表側面であるといえる。

エ 上記ウで述べたように「ポリメチルメタクリレ-ト層」は光透過性であることは技術常識であるから、甲1発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムの両面に透明の透明の印刷層を印刷し、金属光沢調に見せない部分は光を透過しない黒色インキ層の印刷層をさらに設けたフィルム」と「一体成形」される「ポリメチルメタクリレ-ト層」は、本件発明1の「光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材」に相当する。

オ 甲1発明の「自動車用エンブレム」は、本件発明1の「車両用オーナメント」に相当する。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点1?3において相違する。

<一致点>
「電波透過性を有し且つ金属成分を含まない半透明のフィルムと、
前記フィルムの片面に形成された着色のある印刷膜又は塗装膜と、
光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材と、
を備える、車両用オーナメント。」

<相違点1>
「電波透過性を有し且つ金属成分を含まない半透明のフィルム」に関し、本件発明1は「表側面にエンボス模様が形成された」ものであり、「前記フィルムがエンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるようにされている」のに対して、甲1発明はエンボス模様が形成されていない点。

<相違点2>
「着色のある印刷膜又は塗装膜」に関して、
本願発明1は、着色が「グレー」であり、フィルムの「裏側面」に形成されたものであるのに対して、甲1発明の「着色層」は、具体的な着色の色が特定されておらず、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムの「片面の表面」に形成されたものである点。

<相違点3>
「電波透過性を有し且つ金属成分を含まない半透明のフィルム」に関し、
本件発明1は、「数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなる」のに対し、
甲1発明は、「熱可塑性樹脂Aからなる層(A層)1と熱可塑性樹脂Bからなる層(B層)2を交互にそれぞれ30層以上積層した構造を含んでなり、A層とB層が厚み方向に交互にそれぞれ200層以上又は600層以上積層された構造が望ましく、積層数の上限値としては、1500層以下であって、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、層対厚み10nm以上220nm未満の層の数が層対厚み220nm以上320nm以下の層の数より多いものであ」る点。

(2)判断
(2-1)上記相違点について
相違点1について検討する。

ア 本件発明1の技術的意義について
(ア)本件発明1は、本件特許の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0006】に記載される、「インジウムは高価なレアメタルであることから、オーナメントにインジウムを使用することはオーナメントのコスト高の要因とな」り、「インジウムは銀白色の金属調光沢を呈するが、色調を明るめまたは暗めにするといった調整が困難である」ため、「インジウムを使用したオーナメントは、色調が単調で所望の意匠性を実現することが困難である」との問題に鑑み、本件明細書の段落【0007】に記載される「自動車のオーナメントに好適な車両用部材を提供すること」を課題とするものである。

(イ)また、本件発明1の構成に関連する実施形態として、本願明細書には以下の記載がある。
「【0029】
膜状体12の裏側面に光沢膜122を形成してもよい。光沢膜122の厚みは任意である。光沢膜122の明度は0%よりも大きく100%よりも小さければよい。すなわち、光沢膜122は光沢グレーであればよく、必要に応じて色彩や模様を付ければよい。膜状体12の裏側面に光沢膜122を形成することにより、膜状体12の表側面から入射して裏側面まで透過した光が表側面に反射して、膜状体12のうち光沢膜122が形成された部分はより鮮やかな金属調光沢を帯びるようになる。
・・・
【0033】
光遮断膜123で描かれる模様に合わせて、膜状体12の表側面にエンボス(浮き出し)模様124を形成してもよい。これにより、光遮断膜123で描かれた模様を立体的に表して意匠性をさらに高めることができる。
・・・
【0035】
また、光遮断膜123で描かれる模様とエンボス模様124とを一致させなくてもよい。光遮断膜123とエンボスとでそれぞれ別の模様を形成することにより、膜状体12が違った印象の意匠性を呈することとなる。」

(ウ)上記(イ)に示す本願明細書の記載の「膜状体12」は本件発明1の「フィルム」の実施の態様、「光沢グレーであればよ」い「光沢膜122」は「グレーの印刷膜又は塗装膜」の実施の態様、「光遮断膜123」は「光遮断膜」の実施の態様、「エンボス(浮き出し)模様124」は「エンボス模様」の実施の態様としてそれぞれ構成されたものと理解することができる。

(エ)上記(ウ)を踏まえると、上記(イ)に示す本願明細書の記載から、本件発明1は、
「エンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるようにされている」、「表側面にエンボス模様が形成された半透明のフィルム」、「グレーの印刷膜又は塗装膜」及び「表面部材」の相互作用により、「フィルム(膜状体12)の表側面から入射して裏側面まで透過した光が表側面に反射して、フィルム(膜状体12)のうちグレーの印刷膜又は塗装膜(光沢膜122)が形成された部分はより鮮やかな金属調光沢を帯びるよう」構成し、「模様を立体的に表して意匠性をさらに高め」るとの作用効果(以下「作用効果A」ということもある。)を奏するものといえる。

イ 甲1?甲6について
イ-1 甲1について
(ア)上記「第4 1(1-1)」に示すように、甲1【0023】には「本発明の電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、150℃における引張試験において、フィルム長手方向、および幅方向の100%伸度時の引張応力がそれぞれ、3MPa以上90MPa以下であることが望ましい。このような場合、成形性に優れたものとなり、真空成形、真空圧空成形、プラグアシスト真空圧空成形、インモールド成形、インサート成形、冷間成形、プレス成形、絞り成形などの各種成形において、任意の形状に成形することが容易となる。・・・」と記載されており、甲1発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」について、成形性に優れることが示されているとまではいえる。
しかしながら、甲1には、「表側面にエンボス模様が形成され」、「エンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるよう」に「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」を構成することで、甲1発明に上記相違点1に係る本件発明1の構成を具備させる点は記載されていない。

イ-2 甲3について
(ア)甲3に記載の技術的事項について
甲3に記載の技術的事項は上記「第4 3(3)」に示すとおりのものである。

(イ)本件発明1と甲3に記載の技術的事項との相当関係について
[上記相違点1に係る本件発明1の構成に関連した構成について]
(イ-1)甲3に記載の技術的事項における「前面側から背面側に向かって」、「順次配置され」る「金属塗装層13」と「第2着色層14」とは「金属部10Aの表面側から入射した光は箔状金属片M及び第2着色層14にて反射する」ものであるところ、当該「金属塗装膜13」は少なくとも部分的に透き通ったものといえるから、「半透明」といえる。
そうすると、甲3に記載の「電波透過性を有」する「金属塗装膜13」と、本件発明1の「電波透過性を有し且つ金属成分を含まない半透明のフィルム」とは、「電波透過性を有する半透明のフィルム」である点で共通する。

(イ-2)甲3に記載の技術的事項における「透明部材11」は、透明であるから光透過性を有するといえる。
また、当該「透明部材11」は、「前面側から見て略矩形を呈する板状部材であり、その背面側の金属部10Aに対応する部分には凹部11Aが形成され」、「凹部11Aの背面側表面である凹部表面11Bに」「金属塗装層13」が形成されるものであるから、「金属塗装層13」の前面を被覆するものといえる。
さらに、当該「透明部材11」は、「前面側から背面側に向かって、透明部材11、第1着色層12、金属塗装層13、第2着色層14、接着剤層15及びベース部材16が順次配置され一体的に設けられた構成となっており、ベース部材16は、金型装置内に第1着色層12から接着剤層15までが形成された透明部材11をインサートし射出成形等を用いて接着剤層15の背面側表面に形成され」るものであるから、「金属塗装層13」と一体成形されたものといえる。
そして、上記(イ-1)の対比も踏まえると、当該「透明部材11」は本件発明1の「前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材」に相当する。

(イ-3)甲3に記載の技術的事項において、「透明部材11」には「その背面側の金属部10Aに対応する部分には凹部11Aが形成され」、「凹部11Aの背面側表面である凹部表面11Bに」「金属塗装層13」が形成される。
また、「金属塗装層13」は、「透明部材11の背面側における凹部11A以外の部分」に形成される「第1着色層12の背面側表面」にも形成される。
そして、「金属塗装層13」において、「透明部材11」の「凹部11Aの背面側表面である凹部表面11Bに」対応する部位(以下「突出部位A」という。)は、「透明部材11」の「背面側における凹部11A以外の部分に」「形成され」た部位(以下「それ以外の部位B」という。)よりも前面側に突出することとなる。
そうすると、当該「金属塗装層13」は、上記それ以外の部位Bよりも前面側に突出する上記突出部位Aを有するものということができ、甲3に記載の技術的事項の「前面側」は本件発明1の「表側面」に相当するから、当該「金属塗装層13」は、本件発明1の「表側面にエンボス模様を備える」ことに相当する構成を備えたものといえる。

(イ-5)上記(イ-1)?(イ-4)における対比を踏まえると、上記甲3に記載の技術的事項の「背面側にはレーダ20が設置されているレドーム10」は、本件発明1における「電波透過性を有する半透明のフィルムと、光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材と、を備える」ことに相当する構成を具備し、さらに、上記相違点1に係る本件発明1の「前記フィルム」が「表側面にエンボス模様が形成された」ことに相当する構成を備えたものといえる。

(イ-6-1)一方、甲3の明細書には、甲3に記載の技術的事項の上記突出部位Aと、上記それ以外の部位Bとで、「透明部材11」を透過して入射された光の反射が異なるように構成することの記載はされていない。

(イ-6-2)また、上記「第4 3(1-3)」に示す甲3の【図3】には、上記それ以外の部位Bが平面状であり、上記突出部位Aが、前面側に突出するよう傾斜した部位(以下「突出部位Aの移行部位」という。)と、傾斜部の前面側に位置する上記それ以外の部位Bと平行な部位(以下「突出部位Aの平面部位」という。)を有する実施形態が示されている。
ここで、「透明部材11」を透過して入射される光の条件が同じであれば、当該光とのなす角度が上記突出部位Aの平面部位と上記それ以外の部位Bとで同じとなり、当該光の反射は通常異ならないものと解される。
そうすると、甲3の【図3】の実施形態は、仮に上記突出部位Aの移行部位と上記それ以外の部位Bとで当該光とのなす角度が異なることで当該光の反射が異なるとしても、甲3に記載の技術的事項の上記突出部位Aは、上記それ以外の部位Bと、「透明部材11」を透過して入射された光の反射が異ならない部位を含むものと解されるから、上記相違点1における本件発明1の「前記フィルムがエンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるようにされている」ことを示唆しているとはいえない。

(イ-6-3)そして、甲3において、上記相違点1における本件発明1の「前記フィルムがエンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるようにされている」ことを示唆する他の記載及び図面もない。
よって、甲3には、上記相違点1における本件発明1の「前記フィルムがエンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるように」構成することの記載も示唆もない。

(ウ)甲1発明に甲3に記載の技術的事項を適用することの容易想到性について
a 課題及び構造上の共通点について
(a)課題の共通点について
上記「第4 3(1-2)」に示した甲3【0008】に記載される「製造に大規模又は特別な設備を必要とせず、製造過程における歩留まりを向上させ、レーダによる検知を妨げることなくメッキや金属蒸着等と実質的に同等な鏡面状の金属光輝面を有するレドームを提案すること」なる課題と、上記「第4 1(1-1)」に示した甲1【0007】に記載される「通信機器、電磁波式レーダー等電磁波を利用する機器の外装等の部材に用いることができ、金属光沢の意匠を有しながら、電磁波の透過性に優れる電磁波透過性部材に使用される電磁波透過性金属光沢調装飾フィルムを提供するとこと」なる課題とは、レーダー等の機器に用いる、金属光沢の意匠を有しながら、電磁波の透過性に優れる電磁波透過性部材に使用される部材を提供する点で共通している。

(b)構造上の共通点について
甲1発明と甲3に記載の技術的事項とは、「電波透過性を有する半透明のフィルムと、光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材と、を備える」限度では、構成上共通点を有するものである。

b 動機付け及び阻害要因
(a)本件発明1の「フィルム」に相当する構成に関する甲1発明と甲3に記載の技術的事項との差異について
甲1発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は「金属成分を含まない」ものであって「熱可塑性樹脂Aからなる層(A層)1と熱可塑性樹脂Bからなる層(B層)2を交互にそれぞれ30層以上積層した構造を含んでなり、A層とB層が厚み方向に交互にそれぞれ200層以上又は600層以上積層された構造が望ましく、積層数の上限値としては、1500層以下であって、電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルムは、層対厚み10nm以上220nm未満の層の数が層対厚み220nm以上320nm以下の層の数より多いものであ」るものであり、具体的な実施例として上記「第4 1(1-2)」の甲1【0064】には、「得られたフィルムの厚みは、100μmであり」と記載されている。
一方、甲3に記載の技術的事項の「金属塗装層13」は「凹部表面11Bに厚み0.2μm以下で形成されており、いわゆるバインダーと称される透明樹脂分13S内に複数の箔状金属片Mが埋没した構成」である。
そうすると、両者は、金属成分の有無を含めた構造、及び、厚みのオーダーにおいて相違するものである。

(b)甲1発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」と甲3に記載の技術的事項の「金属塗装層13」との光の反射態様の共通点について
甲1発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は「可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であ」るものである。
一方、甲3に記載の技術的事項の「金属塗装層13」は「箔状金属片M」を備えるものであって、上記「第4 3(1-2)」に示す甲3【0011】には「透明部材の外部から入射する光が箔状金属片によって略同一方向で反射する」と記載されるものである。
そうすると、フィルムの持つ光の反射態様が「可視光線の一部は透過する設計」とすることと、「透明部材の外部から入射する光が箔状金属片によって略同一方向で反射する」こととの間において光の反射態様が必ずしも共通するともいえないから、甲1発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」と甲3に記載の技術的事項の「金属塗装層13」とにそれぞれ凹凸を施した際、両者の光の反射態様が必ずしも共通するともいえない。
そして、上記「a(a)」に示すように、甲1発明は「金属光沢の意匠を有」することを課題に含むものであるから、「意匠性に優れた成形品を構成する」との課題を内在するものといえるところ、フィルムの光の反射態様に相違を生じることは、意匠の見え方、すなわち意匠性に影響を与えることといえる。

(c)そうすると、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は「可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であ」る甲1発明において、構造及び厚みのオーダーにおいて相違し、光の反射態様が共通しているとはいえない、甲3に記載された技術的事項の「金属塗装層13」を参考に、上記相違点1に係る本件発明1の構成を具備させることには、動機がなく、阻害要因があるともいえる。

(d)さらに、上記「第4 3(1-1)」に示す甲3【請求項1】には構成として「前記金属塗装層には、複数の箔状金属片が前記透明部材の前記対向面と各々略平行する姿勢で埋没していること」が特定されるように、甲3に記載の技術的事項において、「箔状金属片」は必須の構成といえる。
そうすると、甲1発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」を、甲3に記載の技術的事項から、必須の構成である「箔状金属片」の構成を欠落させた上で、前面側に突出する「透明部材11」の「凹部11Aの背面側表面である凹部表面11Bに」対応する部位を有する「金属塗装膜13」を参考として、「表側面にエンボス模様が形成された」よう構成することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

c 加えて、上記(イ-6-3)に示すように、甲3には、上記相違点1における本件発明1の「前記フィルムがエンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるように」構成することの記載も示唆もないから、仮に甲1発明に甲3に記載の技術的事項を適用したとしても、上記相違点1における本件発明1に至らない。

イ-3 甲6について
(ア)甲6に記載の技術的事項について
甲6に記載の技術的事項は上記「第4 6(3)」に示すとおりのものである。

(イ)本件発明1と甲6に記載の技術的事項との相当関係について
(イ-1)甲6に記載の技術的事項の「車両50のオーナメント10Aとして適用するものである装飾部材10」は、本件発明1の「車両用オーナメント」に相当する。

(イ-2)甲6に記載の技術的事項の「ミリ波の電磁波を通過させることができ」ること、「金属を用いることがない」ことは、それぞれ、本件発明1の「電波透過性を有し」ていること、「金属成分を含まない」ことに相当する。
また、甲6に記載の技術的事項の「表面側に形成され」た「凸部」は、本件発明1の「表側面に」「形成された」「エンボス模様」に相当する。
そうすると、甲6の「ミリ波の電磁波を通過させることができ、金属を用いることがない合成樹脂製の全反射シート22で形成した基材16」であって「基材16の凸部が金属調とされ表面側に形成され、凹部に印刷層24の黒色領域が位置する」ものは、本件発明1の「電波透過性を有し且つ金属成分を含まない、表側面にエンボス模様が形成された半透明のフィルム」に相当する。

(イ-3)甲6に記載の技術的事項の「表面材12」は、「透明であ」るから光透過性を有するということができる。また、当該「表面材12」は、「裏面材14」とで「基材16」を「挟みこ」んで「立体的に加工」されるものであり、甲6に記載の技術的事項における「基材16が金型26にセットされ、表面材12となる透明の合成樹脂を注入し表面材12が固化すると、この基材16と表面材12のアッセンブリを金型30にセットし、裏面材14となる黒色の合成樹脂を注入して、裏材16が固化すると装飾部材10が完成する」ことを踏まえると、当該「表面材12」は、「基材16」の表側面を被覆するように「基材16」と一体成形されているといえる。
そうすると、甲6に記載の技術的事項の「表面材12」は、本件発明1の「光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材」に相当する。

(イ-4)上記(イ-1)?(イ-3)における対比を踏まえると、上記甲6に記載の技術的事項は、本件発明1における「電波透過性を有し且つ金属成分を含まないフィルムと、光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材と、を備える、車両用オーナメント」に相当する構成を具備し、さらに、上記相違点1に係る本件発明1の「電波透過性を有し且つ金属成分を含まない半透明のフィルム」に関し「表側面にエンボス模様が形成された」ことに相当する構成を備えたものといえる。

(イ-5-1)一方、甲6には、甲6に記載の技術的事項の「基材16」が「表面側に形成され」た「凸部」と、「印刷層24の黒色領域が位置する」「凹部」とで、「表面材12」を透過して入射された光の反射が異なるようにされていることの記載はされていない。

(イ-5-2)また、上記「第4 6(1)」に示す甲6の【図1】及び【図5】には、「基材16」の上記「印刷層24の黒色領域が位置する」「凹部」が平面状であり、上記「表面側に形成され」た「凸部」が、表面側に突出するよう傾斜した部位(以下「凸部の移行部位」という。)と、傾斜部の前面側に位置する凹部と平行な部位(以下「凸部の平面部位」という。)を有する実施形態が示されている。
ここで、「表面材12」を透過して入射される光の条件が同じであれば、当該光とのなす角度が上記凸部の平面部位と上記凹部とで同じとなり、当該光の反射は通常異ならないものと解される。
そうすると、甲6の【図1】及び【図5】の実施形態は、仮に上記凸部の移行部位と上記凹部とで当該光とのなす角度が異なることで当該光の反射が異なるとしても、甲6に記載の技術的事項の「基材16」は、上記「表面側に形成され」た「凸部」と、上記凹部とで、「表面材12」を透過して入射された光の反射が異ならない部位(上記凸部の平面部位)を含むものと解されるから、上記相違点1における本件発明1の「前記フィルムがエンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるようにされている」ことを示唆しているとはいえない。

(イ-5-3)そして、甲6において、上記相違点1における本件発明1の「前記フィルムがエンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるようにされている」ことを示唆する他の記載及び図面もない。
よって、甲6には、上記相違点1における本件発明1の「前記フィルムがエンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるように」構成することの記載も示唆もない。

(ウ)甲1発明に甲6に記載の技術的事項を適用することの容易想到性について
a 課題及び構造上の共通点について
(a)課題の共通点について
上記「第4 6(1)」に示した甲6【0014】に記載される「金属調の外観を持ちつつ、例えばミリ波等、特定の周波数の電磁波の通過を抑制することがなく、かつ意匠性に優れた成形品を構成することができる装飾部材、レーダユニット、装飾部材製造方法を得ること」なる課題と、上記「第4 1(1-1)」に示した甲1【0007】に記載される「通信機器、電磁波式レーダー等電磁波を利用する機器の外装等の部材に用いることができ、金属光沢の意匠を有しながら、電磁波の透過性に優れる電磁波透過性部材に使用される電磁波透過性金属光沢調装飾フィルムを提供するとこと」なる課題とは、レーダー等の機器に用いる、金属光沢の意匠を有しながら、電磁波の透過性に優れる電磁波透過性部材に使用される部材を提供する点で共通している。
さらに、当該甲1【0007】に記載される課題には「金属光沢の意匠を有」することが含まれており、上記「第4 1(1-2)」に示した甲1【0065】に「この印刷層を施したフィルムを、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)と一体成形し、続いてアクリロニトル・エチレン・スチレン(AES)と一体成形し、印刷層を施したフィルムが積層された自動車用エンブレムを得た」と成形方法が記載されるように、甲1発明の「自動車用エンブレム」は「成形品」であって、金属光沢の意匠が意匠性に優れることは技術的に明らかであるところ、「金属光沢の意匠を有」する「成形品」を構成する甲1発明は、甲6【0014】に記載される「意匠性に優れた成形品を構成する」との課題を内在するとまではいえる。

(b)構造上の共通点について
甲1発明と甲6に記載の技術的事項とは、「電波透過性を有し且つ金属成分を含まないフィルムと、光透過性を有し、前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材と、を備える、車両用オーナメント」である限度では、構成上共通点を有するものである。

b 動機付け及び阻害要因
(a)しかしながら、甲1発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は「可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であ」るものである一方、甲6に記載の技術的事項は「全反射シート22」を備えるものであって、当該「全反射シート22」は、上記「第4 6(1)」に示す甲6【0032】の「全反射シート22は、・・・光を全反射する、すなわち、鏡面を形成する」との記載及び甲6段落【0035】の「本実施の形態では、鏡面仕上げであることが要求されるため、・・・反射率をほぼ100%とした」との記載に示されるように、「光を全反射する」ものであるから、両者は、「可視光線の一部は透過する設計」としたものであるか「光を全反射する」ものであって可視光線を透過しないものであるかの点で機能上異なり、当該機能を実現するための層構造も異なるものといえる。
また、フィルムの持つ光の反射態様が「可視光線の一部は透過する設計」か「光を全反射する」かに応じて、当該フィルムに凹凸を施した際の光の反射態様に差異を生じることは技術的に明らかである。
そして、上記「a(a)」に示すように、甲1発明は「金属光沢の意匠を有」することを課題に含み、「意匠性に優れた成形品を構成する」との課題を内在するものといえるところ、フィルムの光の反射態様に差異を生じることは、意匠の見え方、すなわち意匠性に影響を与えることといえる。
そうすると、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は「可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であ」る甲1発明において、光の反射態様に差異を生じる「光を全反射する」ものである「全反射シート22」に「基材16の凸部」及び「凹部」を設けた甲6に記載の技術的事項を参考とすることには、動機がなく、阻害要因があるともいえる。

(b)さらに、上記「第4 6(1)」に示す甲6の【請求項1】には構成として「光を全反射する全反射シート」が特定され、段落【0001】に「本発明は、全反射シートが用いられた装飾部材・・・に関する」と記載されるように、甲6に記載の技術的事項において、「全反射シート」は必須の構成といえる。
そうすると、甲1発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」を、甲6に記載の技術的事項から、必須の構成である「全反射シート」の構成を欠落させた上で「基材16の凸部が金属調とされ表面側に形成され、凹部に印刷層24の黒色領域が位置する」との構成を参考として、「フィルム」を「表側面にエンボス模様が形成された」よう構成することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

c 加えて、上記(イ-5-3)に示すように、甲6には、上記相違点1における本件発明1の「前記フィルムがエンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるように」構成することの記載も示唆もないから、仮に甲1発明に甲6に記載の技術的事項を適用したとしても、上記相違点1における本件発明1に至らない。

イ-4 甲2、4?5について
(ア)甲2について
a 甲2は、上記「(1)ウ」に示したように、「自動車用エンブレム」では、「アクリロニトル・エチレン・スチレン層」が、車体側のベース部を、「ポリメチルメタクリレート層」などの透明なアクリル系の樹脂が車外側の外装部などの表面部材を構成することが、技術常識であることを示す文献であり、申立人も、特許異議申立書(以下「申立書」という。)の12ページ下から6行?13ページ1行において、甲2に対して同様の記載事項を甲2発明として認定している。

b 一方、上記「第4 2(1)」の記載から、甲2には「ミリ波レーダの前方に配置される電波透過カバーなどに用いられる車両用加飾部材において、透明部材2の後面の凹凸部23に、インジウムを蒸着した蒸着膜である第2の加飾層32を形成したこと」との技術的事項が記載されていると認められる。
以下、当該甲2に記載の技術的事項につき検討する。
(a-1)上記「第4 2(1)」に示す甲2【0052】の「インジウムはミリ波を透過しやすい」との記載を踏まえると、上記甲2に記載の技術的事項の「インジウムを蒸着した蒸着膜である第2の加飾層32」と本件発明1の「電波透過性を有し且つ金属成分を含まない半透明のフィルム」とは、「電波透過性を有するフィルム」である点で共通する。
上記甲2に記載の技術的事項の「透明部材2」は、「後面の凹凸部23に、インジウムを蒸着した蒸着膜である第2の加飾層32を形成」しており、「第2の加飾層32」の前面を被覆するように当該「第2の加飾層32」と一体成形されているから、本件発明1の「前記フィルムの表側面を被覆するように前記フィルムと一体成形された表面部材」に相当する。
そして、上記「第2の加飾層32」は「透明部材2の後面の凹凸部23」に「蒸着」されるものであるから、透明部材2の後面の凹凸部23の凸部に形成される部位(以下「第2の加飾層32の後面部位A」という。)と、透明部材2の後面の凹凸部23の凹部に形成され前面に突出する部位(以下「第2の加飾層32の前面部位B」という。)と、を含むものであるから、当該「第2の加飾層32」は本件発明1の「表側面にエンボス模様を備える」ことに相当する構成を備えたものといえる。

(a-2)これらの対比を踏まえると、上記甲2に記載の技術的事項は、上記イ-2にて示した甲3に記載の技術的事項と同様に、上記相違点1に係る本件発明1の「前記フィルム」が「表側面にエンボス模様が形成された」ことに相当する構成を備えたものといえる。
一方、上記イ-2にて示した甲3に記載の技術的事項と同様に、甲2においても、上記相違点1における本件発明1の「前記フィルムがエンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるように」構成することは、記載も示唆もない。

(b-1)上記甲2に記載の技術的事項の「第2の加飾層32」は「インジウム」との金属成分を含むものであり、上記「第4 2(1)」に示す甲2【0052】に記載されるように「ミリ波透過性を有する加飾層は、0.05?0.1mmと薄い厚みであるとよ」いものであるから、具体的な実施例として上記「第4 1(1-2)」の甲1【0064】には、「得られたフィルムの厚みは、100μmであり」と記載されており、「金属成分を含まない」ものである甲1発明と金属成分の有無を含めた構造、及び、厚みのオーダーにおいて相違するものである。

(b-2)甲1発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は「可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であ」るものである一方、甲2に記載の技術的事項の「第2の加飾層32」は、光の透過及び反射態様が不明である。そうすると、甲1発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」と甲2に記載の技術的事項の「第2の加飾層32」とに、それぞれ凹凸を施した際、両者の光の反射態様が必ずしも共通するともいえない。
そして、上記「イ-2(ウ)a(a)」に示すように、甲1発明は「金属光沢の意匠を有」することを課題に含むものであるから、「意匠性に優れた成形品を構成する」との課題を内在するものといえるところ、フィルムの光の反射態様に相違を生じることは、意匠の見え方、すなわち意匠性に影響を与えることといえる。

(b-3)そうすると、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は「可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であ」る甲1発明において、構造及び厚みのオーダーにおいて相違し、光の反射態様が共通しているとはいえない、甲2に記載された技術的事項の「第2の加飾層32」を参考に、上記相違点1に係る本件発明1の構成を具備させることには、動機がなく、阻害要因があるともいえる。

(b-4)加えて、上記(a-2)に示すように、甲2には、上記相違点1における本件発明1の「前記フィルムがエンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるように」構成することの記載も示唆もないから、仮に甲1発明に甲2に記載の技術的事項を適用したとしても、上記相違点1における本件発明1に至らない。

(イ)甲4、甲5について
甲4及び甲5は、上記相違点2に係る本件発明1の構成の容易想到性を示すために申立人に引用された文献であって、上記相違点1に係る本件発明1の構成を具備させることは、甲4又は甲5のいずれにも記載されていない。

イ-5 以上のとおり、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲2?6には記載されておらず、本願出願前において周知技術であるともいえない。また、甲2、甲3及び甲6に記載の技術的事項を甲1発明に適用する動機付けはなく、阻害要因があるともいえる。

ウ 本件発明1の作用効果Aの示唆について
「エンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるようにされている」、「表側面にエンボス模様が形成された半透明のフィルム」、「グレーの印刷膜又は塗装膜」及び「表面部材」の相互作用により、上記「ア(エ)」に示した本件発明1と同様の作用効果Aを奏させることについては、甲1?6のいずれにも記載されていない。

エ したがって、当該相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、甲1発明及び甲2?6に記載の技術的事項から当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(2-2)申立人の主張について
申立人は、本件発明1と申立書の13ページ8?22行で特定している甲1発明(以下「申立人甲1発明」という。)との相違点1?3を申立書29ページ1?8行で特定している(以下「申立人相違点1?3」という。)。
当該「申立人相違点1」は、上記(1)で示した<相違点1>と同様である。
そして、当該「申立人相違点1」に関して、申立人は申立書29ページ9?30ページ12行において、申立人甲1発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」を、申立書29ページ11?17行に特定する甲6発明に記載の技術的事項を参考として、「表側面にエンボス模様が形成され」るように構成し、「前記フィルムがエンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるようにされている」よう構成することで、上記申立人相違点1に係る本件発明1の構成を具備させることは、当業者が容易に想到し得るものである旨主張している。

しかしながら、上記「(2-1)イ-4」において甲6に関して述べたとおり、「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」は「可視光線の一部は透過する設計とし、着色層を設けることにより、外装部材の色目を調整することが可能であ」る甲1発明において、光の反射態様に差異を生じる「光を全反射する」ものである「全反射シート22」に「基材16の凸部」及び「凹部」を設けた甲6に記載の技術的事項を参考とすることには、動機がなく、阻害要因があるともいえる。
また、甲1発明の「電磁波透過性部材用金属光沢調装飾フィルム」を、甲6に記載の技術的事項から、必須の構成である「全反射シート」の構成を欠落させた上で「基材16の凸部が金属調とされ表面側に形成され、凹部に印刷層24の黒色領域が位置する」との構成を参考として、「フィルム」を「表側面にエンボス模様が形成された」よう構成することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
加えて、甲6には、上記相違点1における本件発明1の「前記フィルムがエンボス模様とそれ以外の部分とで前記表面部材を透過して入射された光の反射が異なるように」構成することの記載も示唆もないから、仮に甲1発明に甲6に記載の技術的事項を適用したとしても、上記相違点1における本件発明1に至らない。

したがって、申立人の主張は採用できない。

(2-3)小括
したがって、少なくとも、上記相違点1に係る本件発明1の構成は容易想到とはいえないものであるから、その余の相違点2、3を検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明、甲第2?6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

1-2 本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明、甲第2?6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 申立理由2(特許法第36条第6項第2号)について
(1)概略、申立人は、申立書において次の旨を主張する。
ア 本件発明1では発明特定事項として「印刷膜又は塗装膜」が「グレー」であるとしている。本件明細書【0029】-【0030】の記載を見ても、色相や彩度についての規定がないため、彩度が「0」以外のものも含みうるのか否かが明確ではない。本件発明1の従属項である本件発明2?7も同様に明確ではない。

イ 本件発明1では発明特定事項として「数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなる」との記載がある。しかしながら、本件明細書【0027】の記載があるのみで、「東レ株式会社製のフィルムP!CASUS(登録商標)」以外に当該要件を満たすフィルムが明確でない。
また、「数百から数千」との発明特定事項はその上限及び下限が定かではなく、「ナノレベル」との用語についても、その上限及び下限が不明確であり、「さまざまな層厚み」との記載についても、具体的にどのような組み合わせの層厚みであるのか、含みうる層厚みの上限及び下限が明確でなく、発明の範囲が不明確である。

ウ 上記ア及びイから、本件発明1?7における「グレー」、「数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなる」という発明特定事項は、いかなるものが上記の発明特定事項に該当するのか、本件発明の詳細な説明及び図面、当業者の出願時の技術常識を参酌しても把握することができないから、本件特許1?7は、不明確である。

(2)上記(1)に示す申立人の主張につき検討する。
ア 本件明細書には、以下の記載がある。
「【0027】
膜状体12は、電波透過性を有し、さらに、光を複雑に反射して特別な光沢や質感を呈するような半透明の素材でできている。そのような膜状体12として、例えば、東レ株式会社製のフィルムP!CASUS(登録商標)を用いることができる。当該フィルムは、数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みパターンで積層されて成形されており、入射光がこれら各層表面で反射されることで自然な金属調光沢を呈することができる。しかも当該フィルムは金属成分を含んでいないため、電波透過性に優れる。」

「【0029】
膜状体12の裏側面に光沢膜122を形成してもよい。光沢膜122の厚みは任意である。光沢膜122の明度は0%よりも大きく100%よりも小さければよい。すなわち、光沢膜122は光沢グレーであればよく、必要に応じて色彩や模様を付ければよい。膜状体12の裏側面に光沢膜122を形成することにより、膜状体12の表側面から入射して裏側面まで透過した光が表側面に反射して、膜状体12のうち光沢膜122が形成された部分はより鮮やかな金属調光沢を帯びるようになる。」
【0030】
光沢膜122の明度の階調を変えることで膜状体12の見た目が違ってくる。例えば、光沢膜122を淡いグレーにすると、膜状体12は明るめの金属色を放つようになる。一方、光沢膜122を濃いグレーにすると、膜状体12は暗めの金属色を放つようになる。したがって、膜状体12に対する所望の色調に応じて光沢膜122の明度を適宜決定すればよい。」

イ 検討
(ア)特許法36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載において、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定する。同号がこのように規定した趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許発明の技術的範囲、すなわち、特許によって付与された独占の範囲が不明となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあるので、そのような不都合な結果を防止することにある。
そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。(例えば、知財高裁平成20年(行ケ)第10107号、同平成29年(行ケ)第10138号等参照。)

(イ)「印刷膜又は塗装膜」が「グレー」であることについて(上記「(1)ア」の主張について)
上記アに示す【0029】の「光沢膜122の明度は0%よりも大きく100%よりも小さければよい。すなわち、光沢膜122は光沢グレーであればよく」との記載、【0030】の「光沢膜122を淡いグレーにすると、膜状体12は明るめの金属色を放つようになる。一方、光沢膜122を濃いグレーにすると、膜状体12は暗めの金属色を放つようになる。したがって、膜状体12に対する所望の色調に応じて光沢膜122の明度を適宜決定すればよい。」との記載は、「グレー」である「光沢膜122」の明度が0%よりも大きく100%よりも小さければよく、当該明度は所望の色調に応じて適宜決定すればよいことを記載したものと理解できる。
本願明細書の「光沢膜122」は本件発明1?7の「印刷膜又は塗装膜」の実施形態に相当するから、上記【0029】及び【0030】の両記載から、本件発明1?7の発明特定事項の「印刷膜又は塗装膜」が明度が0%よりも大きく100%よりも小さい「グレー」であることが理解できる。
また、当該「グレー」の語義は、「灰色。ねずみ色。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]であり、「灰色」の語義は「灰のような薄黒い色。鼠色。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]であり、「鼠色」の語義は「鼠の毛のような、青ばんだ淡い黒色。灰色。ねずいろ。」[株式会社岩波書 広辞苑第六版]であるところ、申立人の主張する色相や彩度についての規定がなくとも、一般的に、「グレー」なる色は、灰のような薄黒い色又は青ばんだ淡い黒色として他の色と識別されているといえる。
そうすると、「印刷膜又は塗装膜」が「グレー」であるとの構成は、本件明細書及び本件図面を考慮し、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である、とはいえない。

(ウ)「数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなる」ことについて(上記「(1)イ」の主張について)
a 当該「数百」及び「数千」における「数」の語義は、「少ない数を漠然と示す語。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]であるところ、申立人の主張する上下限の特定を必ずしも特定しなくとも、「数百から数千」について、上記【0027】の「入射光がこれら各層表面で反射されることで自然な金属調光沢を呈することができる」との作用を奏する程度の百?千の位を用いる数値範囲と理解することができる。

b 「ナノレベル」の語義は、「ナノ」が「nmの尺度」と理解でき、「レベル」の語義は「水準。標準。段階。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]であり、「水準」の語義は「世間で通用している標準。世間で普通の程度。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]であるから、「ナノレベル」は「nmの尺度を用いることが世間で普通の程度」と理解できる。また、例えば特開2013-135834号公報(【0266】)、特開2013-231208号公報(【0025】)、特開2007-204682号公報(【0175】)においても、「ナノレベル」との用語を、nmの尺度を用いることが世間で普通の程度といえる、1μm以下の範囲に対して用いている。

c 「さまざまな」の語義は「あれこれ異なっているさま。いろいろ。しゅじゅ。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]であり、「いろいろ」の語義は「種類の多いさま。さまざま。くさぐさ。種々。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]であるから、「さまざまな層厚み」は、「複数の層厚みの種類を含」むものと理解できる。

d 上記a?cから、「数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなる」こと(以下「構成A」という。)は、「『入射光がこれら各層表面で反射されることで自然な金属調光沢を呈することができる』との作用を奏する程度の百?千の位を用いる数値範囲」の「nmの尺度を用いることが世間で普通の程度」の「ポリマー薄膜が」「複数の層厚みの種類を含」んで「積層されてなる」ことを特定するものと理解できる。

e また、申立人は東レ株式会社製のフィルムP!CASUS(登録商標)以外に上記構成Aの要件を満たすフィルムが明確でない旨主張する。
しかしながら、本件発明1?7には、上記a?dに示すように本件発明1?7の「フィルム」について上記構成Aが特定され、本件明細書【0027】には、当該特定を満たす本件発明1?7の「フィルム」の実施形態として、東レ株式会社製のフィルムP!CASUS(登録商標)が記載されているから、少なくとも実施形態に記載の東レ株式会社製のフィルムP!CASUS(登録商標)は上記構成Aの要件を満たすものであり、実施例以外のフィルムについても適用可能であることが、当業者に理解できる程度に記載されているといえ、この実施例から類推して当業者が上記構成Aの要件を満たすフィルムを構成できないとまではいえない。
してみれば、単に実施例の数が少ないという理由だけで明細書の記載に不備があるとはいえない。

f そうすると、「数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなる」との構成は、本件明細書及び本件図面を考慮し、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である、とはいえない。

(エ)以上のとおり、本件発明1?7における「グレー」、「数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなる」という発明特定事項は、その構成が不明確である、とはいえない。
したがって、申立人の、本件発明1?7における「グレー」、「数百から数千のナノレベルのポリマー薄膜がさまざまな層厚みで積層されてなる」という発明特定事項は、いかなるものが上記の発明特定事項に該当するのか、本件発明の詳細な説明及び図面、当業者の出願時の技術常識を参酌しても把握することができないから、本件特許1?7は、不明確である、との主張は採用できない。

そして、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、とはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由1?2及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-11-28 
出願番号 特願2015-165394(P2015-165394)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B60R)
P 1 651・ 537- Y (B60R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高島 壮基  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 氏原 康宏
岡▲さき▼ 潤
登録日 2019-03-08 
登録番号 特許第6490539号(P6490539)
権利者 マツダ株式会社
発明の名称 車両用オーナメント  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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