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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60K
管理番号 1357685
異議申立番号 異議2019-700652  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-20 
確定日 2019-12-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6471626号発明「トラクタ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6471626号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6471626号(以下「本件特許」という。)の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成27年6月25日に出願され、平成31年2月1日にその特許権の設定登録がされ、平成31年2月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和1年8月20日に特許異議申立人小川鐵夫(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。


第2 本件発明
特許第6471626号の請求項1?2に係る特許(以下「本件発明1?2」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
車体(1)の前後に左右の前輪(2,2)および左右の後輪(6,6)を備え、
左右に平行して設けられる車体フレーム(10,10)を備え、
車体フレーム(10,10)の前後中間部にステップフロア(11)を備え、
ステップフロア(11)上の操縦部には座席(12)を備え、
車体(1)の前部には開閉可能なボンネット(20)を備え、
バッテリー(B)から電力の供給を受けて回転駆動する電動モータ(62)を備え、該電動モータ(62)を駆動源として走行するトラクタにおいて、
前記電動モータ(62)の回転動力を油圧式無段変速装置(74)に入力し、この油圧式無段変速装置(74)から車両を走行させる回転動力を出力する構成とし、
前記電動モータ(62)の回転動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし、
前記左右の車体フレーム(10,10)の間に前記電動モータ(62)を設け、
前記左右の車体フレーム(10,10)にバッテリー(B)を載置するバッテリー収納ケース(61)を取り付け、
バッテリー収納ケース(61)は電動モータ(62)の上方にあって、その間に空間部(K)を形成し、該空間部(K)の前方には空気取入れ口(K1)を構成し、
前記バッテリー収納ケース(61)の上方にバッテリー(B)の上方を覆う上板(61u)を着脱可能に備え、
該上板(61u)の上方にボンネット(20)を備え、
前記油圧式無段変速装置(74)を座席(12)の下方に備え、
前記油圧式無段変速装置(74)の動力伝達下流側に変速機構(88)を内装したトランスミッションケース(T)を備えたことを特徴とするトラクタ。
【請求項2】
バッテリー(B)の異常の有無を検出するバッテリーマネージメントシステム(123)をバッテリー(B)の上方に設けることを特徴とする請求項1記載のトラクタ。」


第3 申立理由の概要
1 申立人の主張の概要
申立人は、証拠として、次の甲第1?8号証を提出し、以下の申立理由により、本件発明1?2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲第 1号証:韓国公開特許第10-2013-0040286号公報
甲第 2号証:特開2014-36591号公報
甲第 3号証:特開2015-19640号公報
甲第 4号証:実開平5-22158号公報
(当審注:平成5年1月8日以降に発行されたものであって、特許異議申立書(以下「申立書」という。)19ページの(2-3)において、考案の詳細な説明の【0001】及び【0009】が引用されていることから、実願平3-80279号(実開平5-22158号)のCD-ROMの誤記と認める。)
甲第 5号証:特開平10-131985号公報
甲第 6号証:特開平5-330459号公報
甲第 7号証:特開2014-190440号公報
甲第 8号証:特開2002-133979号公報
甲第 9号証:特開2012-84445号公報
甲第10号証:特開平10-255746号公報
甲第11号証:特開2013-248918号公報
甲第12号証:特開2012-201188号公報
甲第13号証:実公昭49-24090号公報
甲第14号証:特開2004-168149号公報
甲第15号証:特開2015-24696号公報
甲第16号証:特開2014-227084号公報

[申立理由(特許法第29条第2項)]
申立人は、主たる証拠として甲第1号証を示し、以下の旨主張する。

(1)本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証?甲第4号証に記載された周知技術(周知技術1)及び甲第8号証?甲第10号証に記載された周知技術(周知技術3)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明、甲第5号証?甲第7号証に記載された周知技術(周知技術2)及び甲第8号証?甲第10号証に記載された周知技術(周知技術3)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3-1)本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証?甲第4号証に記載された周知技術(周知技術1)及び甲第8号証?甲第10号証に記載された周知技術(周知技術3)に加えて、甲第11号証に記載された技術的事項(引用発明2)、甲第2,11?12号証に記載された周知技術(周知技術4)、又は甲第5?7号証に記載された周知技術(周知技術5)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3-2)本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明、甲第5号証?甲第7号証に記載された周知技術(周知技術2)及び甲第8号証?甲第10号証に記載された周知技術(周知技術3)に加えて、甲第11号証に記載された技術的事項(引用発明2)、甲第2,11?12号証に記載された周知技術(周知技術4)、又は甲第5?7号証に記載された周知技術(周知技術5)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4-1)本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証?甲第4号証に記載された周知技術(周知技術1)及び甲第8号証?甲第10号証に記載された周知技術(周知技術3)に加えて、甲第13号証に記載された技術的事項(引用発明3)、甲第14号証に記載された技術的事項(引用発明4)、又は甲第7,15?16号証に記載された周知技術(周知技術6)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4-2)本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明、甲第5号証?甲第7号証に記載された周知技術(周知技術2)及び甲第8号証?甲第10号証に記載された周知技術(周知技術3)に加えて、甲第13号証に記載された技術的事項(引用発明3)、甲第14号証に記載された技術的事項(引用発明4)、又は甲第7,15?16号証に記載された周知技術(周知技術6)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4-3-1)本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証?甲第4号証に記載された周知技術(周知技術1)及び甲第8号証?甲第10号証に記載された周知技術(周知技術3)に加えて、甲第11号証に記載された技術的事項(引用発明2)、甲第2,11?12号証に記載された周知技術(周知技術4)、又は甲第5?7号証に記載された周知技術(周知技術5)、さらに加えて、甲第13号証に記載された技術的事項(引用発明3)、甲第14号証に記載された技術的事項(引用発明4)、又は甲第7,15?16号証に記載された周知技術(周知技術6)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4-3-2)本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明、甲第5号証?甲第7号証に記載された周知技術(周知技術2)及び甲第8号証?甲第10号証に記載された周知技術(周知技術3)に加えて、甲第11号証に記載された技術的事項(引用発明2)、甲第2,11?12号証に記載された周知技術(周知技術4)、又は甲第5?7号証に記載された周知技術(周知技術5)、さらに加えて、甲第13号証に記載された技術的事項(引用発明3)、甲第14号証に記載された技術的事項(引用発明4)、又は甲第7,15?16号証に記載された周知技術(周知技術6)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

上記(1)?(4-3-2)から、本件発明1及び2は取消しの理由(特許法第29条第2項)が存在し、同法第113条第2号の規定によりこれを取り消すべきである。


第4 甲各号証の記載事項等
1 甲第1号証(以下、「甲1」ということもある。甲第2?16号証においても同様。)の記載事項、認定事項及び甲1に記載された発明
(1)甲1の記載事項
甲1には図面とともに以下の事項が記載されている。なお、申立人が提出した甲第1号証の訳文を参考に当審が作成した訳文を{}内に示す。また、下線は当審で付した。以下同様。



{背景技術
[0002]「トラクター(Tractor)」と呼ばれる農業用作業車、構造的に一般的な自動車に似ていますが、強力なエンジンを搭載しており、牽引力が良く、丈夫で耕作用に主に利用されており、耕作に使うために機体後方に多様な形態の作業機、例えば、耕耘ないしは整地のためのロータリー装置を必要に応じて選択的に付着又は取り外しできるようになっている。
[0003]機械式エンジンを搭載していた従来とは異なり、最近では、環境に優しい技術の実装とエネルギー枯渇などの問題を解決するために、排気ガスが全く発生されず、ノイズが極めて少ない電気エネルギーを利用する電気駆動式の研究開発が活発に進められている。しかし、機械式と電気駆動式は駆動方式の相違することによって、これを構成するコンポーネントが異なり、全体的な車両の構造においても異なっている。
[0004]したがって、機械式だった従来の農業用作業車を電気駆動式に切り替えて量産するためには、電気駆動式に合わせて、全体的に設計変更をしなければならず、全体的な設計が変更されると、それに合わせて、全体的な生産ラインも改築又は増築しなければならないなど莫大な初期の開発投資費用が発生することになる。これを解決するためには、従来の機械式作業車の構造を大きく変えずに、電気駆動式を実装できる構造が必要である。
[0005]
発明の内容
解決しようとする課題
[0006]本発明が解決しようとする課題は、電気駆動式の実装のための部品の効率的配置を通じ、従来の機械式農業用作業車の構造を大幅に変更することなく、電気駆動式への転換を図ることができる電動農業用作業車構造を提供しようとするものである。}



{[0018]図1?図4を参照して、本発明の実施形態に係る電気駆動式農業用作業車の構造を見ると、車両起動のための電気エネルギーを保存したバッテリーパック(2)が上方観音開き式ボンネットによって保護される前輪(1a)側ボンネット空間(10)(従来のエンジンルーム)に配置される。上記バッテリーパック(2)は、直列に接続されている多数のバッテリーセル(battery cell)として成り立って車体フレーム(4)から上方離間されているバッテリートレイ(20)に着脱可能に搭載される。
[0019]ボンネット空間(10)にバッテリーパック(2)を配置することにおいては、従来の機械式のエンジン作業車のレイアウトはそのまま維持しながら、空間をより効率的に活用できるように、上記バッテリーパック(2)を構成する電池セルが機体の長さ方向に沿って一列に種(縦)の配置をなすように配置されると好ましく、バッテリーパック(2)の全体的な制御と管理のためのBMS(Battery Management System、22)がバッテリーパック(2)のいずれかのモジュールの形で用意されることができる。
[0020]機体駆動のための動力を発生させる駆動モータ(3)は、ボンネット空間(10)に配置された前記バッテリーパック(2)下方に配置される。具体的には、機体の幅方向の中央に駆動モータ(3)が配置されることにより、その出力軸(30)が機体中心線(C)に一致し、機体の長さ方向に向かって配置され、これらの駆動モータ(3)後方の車体フレーム(4)には、駆動モータ(3)の出力を走行に適した速度で増減させる変速機(5)が搭載されて駆動モータ(3)と直結される。
[0021]駆動モータ(3)後方に上記変速機(5)が配置されることにおいて、上記二つの構成要素(駆動モータ(3)と変速機(5))が機体の長さ方向に沿って直結されて直列に配置されている構造をなすようにすることで、従来の機械式のエンジン作業車の車体フレーム(4)を幅方向に伸ばすことなく変速機(5)が配置されるようにし、ステアリングと作業車に付加装着される作業機などを駆動させるのに必要な油圧を発生させる油圧発生器(6)が、後輪(1b)側に近接した運転席の下方に配置される。}



{[0022]バッテリーパック(2)で提供されるのは直流電流であり、前記駆動モータ(3)と油圧発生器(6)は、交流電流として駆動される。したがって、電気駆動式の場合は、バッテリーパック(2)から供給される電流を駆動モータ(3)と油圧発生器(6)の駆動に適した交流に変換するインバータ(7)が必ず要求される。本実施例では、ボンネットによって保護されているボンネット空間(10)に駆動モータ(3)より前の位置の機体最前側車体フレーム(4)上にインバータ(7)を配置している。
[0023]駆動モータ(3)より前の位置の機体最前方側にインバータ(7)を配置すると、機体走行中の走行風を利用した効果的な冷却が実現されることができ、ファンのような別の冷却手段が追加で要求されず、これにより全体的な構造簡素化によるコスト削減と車体軽量化を図ることができる。
[0024]図面符号8と9はそれぞれ、バッテリーパック(2)による電圧を外部機器の駆動に必要な直流電流へ昇圧又は降圧させるDCコンバータおよび商品とバッテリーパック(2)との電気的接続のためのメインコネクタを示しており、限られた空間のより効率的な活用のために、図面の図示のように、上記DCコンバータとメインコネクタは、バッテリーパック(2)と車体フレーム(4)に設置されている上記のインバータ(7)との間の余裕空間に配置される。}

エ 甲1には、以下の図が示されている。
図1(上)及び図2(下)


図3(上)及び図4(下)

オ 図1には、「ステップフロア」、「座席」、「ハンドル」が示されている。また、図1には、「車体フレーム(4)を構成する板状部材」よりも後輪側に「ステップフロア」を備え、「ステップフロア」上の「ハンドル」近傍には「座席」を備えることも示されている。

カ 図2には、以下の事項が示されている。
「バッテリートレイ(20)の上方にボンネットを備えること。」
「変速機(5)が座席の前輪側下方に配置されたこと。」

(2)甲1の認定事項
甲1の上記摘記における[0018]に記載される「電気駆動式農業用作業車」は、[0002]の「トラクター(Tractor)」と呼ばれる農業用作業車」との背景技術に関する記載からみて、「電気駆動式」の「トラクター」といえる。

そして、甲1の当該「電気駆動式」の「トラクター」について、上記摘記及び図面から、以下の事項が認定できる。


(ア)[0018]に記載される「前輪(1a)」、並びに、[0021]に記載される「後輪(1b)」に関し、図3には、車体に左右の「前輪(1a)」及び「後輪(1b)」を備えることが示されており、車体の前後に「前輪(1a)」及び「後輪(1b)」を備えることは技術的に明らかであるから、次の事項が認定できる。
「車体の前後に左右の前輪(1a,1a)および左右の後輪(1b,1b)を備え」ること。

(イ)[0018]に記載の「車体フレーム(4)」に関し、図4には、車体フレーム(4)が左右に平行して設けられる板状部材を含んで構成されることが示されているから、上記(ア)も踏まえると、次の事項が認定できる。
「左右に平行して設けられる車体フレーム(4)を構成する板状部材を備え」ること。

(ウ)上記(ア)も踏まえると、上記「(1)オ」に示すように、図1から、次の事項が認定できる。
「電気駆動式のトラクターが、車体フレーム(4)を構成する板状部材よりも後輪(1b,1b)側にステップフロアを備え、ステップフロア上のハンドル近傍には座席を備え」ること。

(エ)[0018]に記載の「上方観音開き式ボンネット」に関して、図1から、次の事項が認定できる。
「車体の前輪(1a,1a)側には上方観音開き式ボンネットを備え」ること。

(オ)[0022]の「バッテリーパック(2)で提供されるのは直流電流であり、前記駆動モータ(3)と油圧発生器(6)は、交流電流として駆動される。」、及び、「バッテリーパック(2)から供給される電流を駆動モータ(3)と油圧発生器(6)の駆動に適した交流に変換するインバータ(7)」との記載から、「駆動モータ(3)」は、「バッテリーパック(2)で提供される」「直流電流」を、「インバータ(7)」により変換された「交流電流として駆動される」ものといえるから、次の事項が認定できる。
「バッテリーパック(2)で提供される直流電流をインバータ(7)により変換された交流電流として駆動される駆動モータ(3)を備え」ること。

(カ)[0020]の「機体駆動のための動力を発生させる駆動モータ(3)」との記載から、次の事項が認定できる。
「駆動モータ(3)が機体駆動のための動力を発生させる」こと。

イ [0020]の「車体フレーム(4)には、駆動モータ(3)の出力を走行に適した速度で増減させる変速機(5)が搭載されて駆動モータ(3)と直結される」との記載、[0021]の「上記二つの構成要素(駆動モータ(3)と変速機(5))が機体の長さ方向に沿って直結されて直列に配置されている構造をなすようにすることで、従来の機械式のエンジン作業車の車体フレーム(4)を幅方向に伸ばすことなく変速機(5)が配置されるようにし、ステアリングと作業車に付加装着される作業機などを駆動させるのに必要な油圧を発生させる油圧発生器(6)が、後輪(1b)側に近接した運転席の下方に配置され」、との記載から、次の事項が認定できる。
「駆動モータ(3)の出力を走行に適した速度で増減させる変速機(5)が搭載されて駆動モータ(3)と機体の長さ方向に沿って直結されて直列に配置されている構造をなすようにすることで、従来の機械式のエンジン作業車の車体フレーム(4)を幅方向に伸ばすことなく変速機(5)が配置されるようにし、
作業機などを駆動させるのに必要な油圧を発生させる油圧発生器(6)が、運転席の下方に配置され」ること。

ウ [0020]に記載される「駆動モータ(3)」に関し、図1,4には、駆動モータを間に挟み、左右に平行して設けられる板状部材が車体フレーム(4)を構成していることが示されているから、次の事項が認定できる。
「左右に平行して設けられる車体フレーム(4)を構成する板状部材の間に前記駆動モータ(3)を設け」たこと。

エ 上記[0018]の「上記バッテリーパック(2)は、・・・(中略)・・・車体フレーム(4)から上方離間されているバッテリートレイ(20)に着脱可能に搭載される」との記載から、次の事項が認定できる。
「車体フレーム(4)から上方離間され、バッテリーパック(2)が搭載されるバッテリートレイ(20)を備え」ること。

オ 上記[0018]の「上記バッテリーパック(2)は、・・・(中略)・・・車体フレーム(4)から上方離間されているバッテリートレイ(20)に着脱可能に搭載される」との記載と、上記[0020]の「機体駆動のための動力を発生させる駆動モータ(3)は、ボンネット空間(10)に配置された前記バッテリーパック(2)下方に配置される」との記載から、次の事項が認定できる。
「バッテリートレイ(20)は駆動モータ(3)の上方にあ」ること。

カ 上記[0021]の「駆動モータ(3)後方に上記変速機(5)が配置される」との記載と、上記「(1)カ」の図2に示されたことから、次の事項が認定できる。
「駆動モータ(3)後方に上記変速機(5)が配置され、変速機(5)が座席の前輪(1a,1a)側下方に配置された」こと。

(3)甲1に記載された発明
上記(1)及び(2)から、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「車体の前後に左右の前輪(1a,1a)および左右の後輪(1b,1b)を備え、
左右に平行して設けられる車体フレーム(4)を構成する板状部材を備え、
車体フレーム(4)を構成する板状部材よりも後輪(1b,1b)側にステップフロアを備え、
ステップフロア上のハンドル近傍には座席を備え、
車体の前輪(1a,1a)側には上方観音開き式ボンネットを備え、
バッテリーパック(2)で提供される直流電流をインバータ(7)により変換された交流電流として駆動される駆動モータ(3)を備え、
駆動モータ(3)が機体駆動のための動力を発生させる電気駆動式のトラクターにおいて、
駆動モータ(3)の出力を走行に適した速度で増減させる変速機(5)が搭載されて駆動モータ(3)と機体の長さ方向に沿って直結されて直列に配置されている構造をなすようにすることで、従来の機械式のエンジン作業車の車体フレーム(4)を幅方向に伸ばすことなく変速機(5)が配置されるようにし、
作業機などを駆動させるのに必要な油圧を発生させる油圧発生器(6)が、運転席の下方に配置され、
左右に平行して設けられる車体フレーム(4)を構成する板状部材の間に前記駆動モータ(3)を設け、
車体フレーム(4)から上方離間され、バッテリーパック(2)が搭載されるバッテリートレイ(20)を備え、
バッテリートレイ(20)は駆動モータ(3)の上方にあって、
バッテリートレイ(20)の上方にボンネットを備え、
駆動モータ(3)後方に上記変速機(5)が配置され、変速機(5)が座席の前輪(1a,1a)側下方に配置された、
電気駆動式のトラクター。」

2 甲2の記載事項等
(1)甲2の記載事項
甲2には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0005】
本発明の課題は、高負荷の圃場作業の安定化とともに、低負荷の路上走行の省エネ化および操作性の確保とにより、幅広い動力条件に対応することができる作業車両を提供することにある。」

「【0019】
以下、図面に基づき、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
まず、本発明の適用対象となる作業車両の一例である苗移植機について説明する。
図1及び図2は苗移植機の側面図と平面図である。この苗移植機1は、機体の後側に昇降リンク装置3を介して本件物品の作業装置の一例である移植部4が昇降可能に装着され、機体の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられ、機体中央配置の座席6の前側に操向用のハンドル7、その両側方に補給用の苗を載せておく左右の予備苗枠8,8を備えて構成される。なお、搭乗オペレータが苗移植機1の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向と後進方向をそれぞれ前、後という。」

「【0021】
座席6の下には、電動モータによる原動部20を構成し、その回転動力が走行伝動装置であるトランスミッション12に伝達される。トランスミッション12に伝達された回転動力は、変速されて走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。そして、走行動力は、一部が前輪ファイナルケース13,13に伝達されて前輪10,10を駆動すると共に、残りが後輪ギヤケース18,18に伝達されて後輪11,11を駆動する。また、外部取出動力は、機体の後部に設けた植付クラッチケース25に伝達され、それから植付伝動軸26によって移植部4へ伝動されるとともに、施肥伝動機構28によって施肥装置5へ伝動される。」

「【0029】
(原動部)
原動部20は、その伝動構成例の伝動系統線図を図3に示すように、高負荷用の高出力モータ71と低負荷用の低出力モータ72とによって電動式に構成し、これら2系統の動力を組み合わせて走行系と作業系に駆動力を供給する。高出力モータ71は、走行伝動装置であるトランスミッション12に入力して走行装置である各々左右一対の前輪10,10及び後輪11,11を変速駆動可能に構成する。低出力モータ72は、油圧源であるオイルポンプ等の送油装置73に作業動力を供給し、その作動油によって移植部4等の作業装置を駆動するとともに、走行伝動装置12に動力を分岐伝動可能に構成する。必要により、高出力モータ71と低出力モータ72は、対応する電磁クラッチ71a,72aを介して回転動力を遮断可能に構成する。」

「【0030】
走行伝動装置12は、非伝動の「中立モード」と、低速域伝動用の「作業モード」と、高速域伝動用の「路上モード」とによる3つの走行モードを副変速レバー12aの選択操作によって切り替え可能に構成する。また、走行伝動装置12の動力入力側にHSTと略称される油圧式無段変速装置23を一体に設けて走行伝動ユニットを構成し、油圧式無段変速装置23は制御モータ23mの駆動制御を介して回転出力の停止を含む正転から逆転までの無段変速を行い、また、走行操作レバー23aの操作位置を検出可能にポテンショメータ等の位置センサ23sを介して制御モータ23mを駆動することにより、レバー操作に応じて中立位置による走行停止を含む前進走行から後進走行までを無段変速する。」

甲2には以下の図が示されている。

上記図1には、「油圧式無段変速装置23を、座席6の下方かつ前輪10,10側に備えること」が示されている。

(2)甲2の認定事項
上記(1)の記載から、【0019】に記載の「苗移植機」について、以下の事項が認定できる。
ア 【0021】の「電動モータによる原動部20を構成し、その回転動力が走行伝動装置であるトランスミッション12に伝達される」との記載、【0030】の「走行伝動装置12の動力入力側に・・・(中略)・・・油圧式無段変速装置23を一体に設けて走行伝動ユニットを構成し」との記載から、次の事項が認定できる。
「電動モータの回転動力を、動力入力側に油圧式無段変速装置23を設けた走行伝動装置であるトランスミッション12に入力する構成とし」たこと。

イ 上記アに示す【0021】,【0030】の記載に加え、【0021】の「トランスミッション12に伝達された回転動力は、変速されて走行動力と外部取出動力に分離して取り出される」、「走行動力は、・・・(中略)・・・前輪10,10を駆動すると共に、・・・(中略)・・・後輪11,11を駆動する。」、及び、「また、外部取出動力は、・・・(中略)・・・移植部4へ伝動されるとともに、施肥伝動機構28によって施肥装置5へ伝動される。」との記載から、次の事項が認定できる。
「動力入力側に油圧式無段変速装置23を設けた走行伝動装置であるトランスミッション12に伝達された回転動力は、変速されて走行動力と外部取出動力に分離して取り出され、走行動力は前輪10,10を駆動すると共に後輪11,11を駆動し、外部取出動力は移植部4へ伝動されるとともに施肥装置5へ伝動され」ること。

ウ 【0030】の「走行伝動装置12の動力入力側にHSTと略称される油圧式無段変速装置23を一体に設けて走行伝動ユニットを構成し」との記載から、「油圧式無段変速装置23」は「走行伝動装置であるトランスミッション12」の「動力入力側」に設けられるものであり、すなわち、「油圧式無段変速装置23の動力出力側に走行伝動装置であるトランスミッション12が設けられ」ているといえる。
また、当該「トランスミッション12」が、変速機構を内装したトランスミッションケースを備えることは技術的に明らかである。

(3)甲2に記載された技術的事項
以上から、次の技術的事項が認定できる(以下「甲2事項」という。)。
「苗移植機において、
電動モータの回転動力を、動力入力側に油圧式無段変速装置23を設けた走行伝動装置であるトランスミッション12に入力する構成とし、
動力入力側に油圧式無段変速装置23を設けた走行伝動装置であるトランスミッション12に伝達された回転動力は、変速されて走行動力と外部取出動力に分離して取り出され、走行動力は前輪10,10を駆動すると共に後輪11,11を駆動し、外部取出動力は移植部4へ伝動されるとともに施肥装置5へ伝動され、
油圧式無段変速装置23を、座席6の下方かつ前輪10,10側に備え、
油圧式無段変速装置23の動力出力側に走行伝動装置であり変速機構を内装したトランスミッションケースを備えるトランスミッション12が設けられること。」

3 甲3の記載事項等
(1)甲3の記載事項
甲3には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0006】
上述したように、従来から、作業車の走行にともなって得られる情報を位置情報と関係づける技術は知られているが、そのような情報を、作業地を作業しながら走行する作業走行と作業地間を結ぶ一般道路を走行する道路走行とで区分けして管理することは行われていない。しかしながら、遠く離れて点在している作業地を、自らの道路走行によって移動するような車輪駆動式作業車において取得される情報を、道路走行と作業走行に区分けして管理したいという要望が生じている。」

「【0019】
本発明による車輪駆動式作業車の具体的な実施形態を説明する前に、図1を用いて本発明を特徴付けている基本的な構成を説明する。
図示されている車輪駆動式作業車は車輪駆動式収穫機であり、エンジン31によって駆動される車輪を有する車輪走行装置3Aと、作業装置3Bとして農作物を収穫する収穫装置とを備えている。エンジン31と車輪走行装置3Aとの間には、パワートレインとも呼ばれる動力伝達機構2が介装されており、動力伝達機構2には変速装置2Aが含まれている。作業装置3Bにもエンジン31から動力を供給され、作業地を走行しながら、収穫作業が行われる。」

「【0042】
第2ベルト伝動機構31Bを通じて供給されたエンジン動力は、走行用の動力伝達機構2を構成する変速装置2Aに入力する。変速装置2Aによって変速された動力はさらにギヤ変速装置2Bによって変速される。」
【0043】
図5に示めすように、運転部17には、キャビン16の内部の走行機体横方向での中央部に運転座席17aが設けられている。運転座席17aの右横側方にはサイドパネル17bが、運転座席17aの前方にはステアリングホイール176が配置されている。さらに、サイドパネル17bの右横側方には、各種電子機器や給電機器を収納している電装ボックス17cが配置されている。サイドパネル17bの上面には、アクセルレバー177、主変速レバー171、副変速レバー172及び作業クラッチレバー175が配置されている。ステアリングホイール176を取り付けているハンドルポストの右横側方に、ブレーキペダル174及びアクセルペダル173が配置されている。
【0044】
主変速レバー171は、この実施形態ではHSTである無段変速装置2Aの斜板角を調整する斜板調節機構に連係されている。主変速レバー171の操作変位により無段変速装置2Aが変速され車速が変化する。主変速レバー171は、搖動式レバーであり、その搖動範囲には、前進高速操作域と前進低速操作域と中立操作域と後進操作域とが含まれている。主変速レバー171が前進高速操作域に搖動操作されると、無段変速装置2Aが移動走行用の前進高速の駆動状態になる。主変速レバー171が前進低速操作域に操作されると、無段変速装置2Aが作業走行用の前進低速の駆動状態になる。主変速レバー171が中立操作域に操作されると、無段変速装置2Aが中立状態になる。主変速レバー171が後進操作域に操作されると、無段変速装置2Aが後進走行用の駆動状態になる。
【0045】
副変速レバー172も搖動式レバーであり、高低2段のギヤ変速装置2Bの変速操作部に連係されている。一般的な運転操作においては、路上走行にはギヤ変速装置2Bは高速段に設定され、圃場走行などの作業走行時にはギヤ変速装置2Bは低速段に設定される。」

「【0055】
走行判別部53には、作業装置3Bの動作機器に対するセンサ群やスイッチ群から車両が作業中であるかどうかを示す作業状態信号と、動力伝達機構2の変速装置2Aやギヤ変速装置2Bを含む変速機器に対するセンサ群やスイッチ群から動力伝達機構2の変速状態を示す変速状態信号とが入力される。例えば、作業クラッチ40の入り切り状態を検出する作業クラッチセンサからの作業クラッチ検出信号や車速検出センサからの車速信号が入力される。車速検出センサの一例は、動力伝達機構2の変速後の回転数を示すギヤ(例えばディファレンシャル機構のギヤ)の回転数を検出する回転数センサである。変速位置検出センサの一例は、高低2段のギヤ変速装置(副変速装置)2Bが高速段または低速段の
いずれの変速位置であるかを検出する副変速センサ93bからの検出信号から変速状態信号を生成する。走行判別部53での判定結果は、車載LAN50や専用信号線などを通じて必要とする機能部に送られる。」

「【0071】
〔別実施の形態〕
(1)車輪駆動式作業車は、車輪のみで走行する作業車に限定されているわけではなく、車輪以外の走行装置が付加されていてもよい。重要な点は、道路を自走することによって各地の作業地を移動できることである。
(2)位置情報生成部は、GPS方式でもジャイロ方式でもよい。また、道路走行ではGPS方式を、作業走行ではジャイロ方式をといったように適時選択して使用するようにしてもよい。さらには、車輪の回転と操向角とによる走行軌跡にGPSによる位置をマッピングして、正確な圃場位置を取得する構成を採用してもよい。
(3)作業走行での走行軌跡や車輪のスリップ率といった運転能力に関係する情報を作業車情報に含め、これらの情報を運転者管理のために利用してもよい。
(4)図7の機能ブロック図で示された作業車制御系の機能部は、説明目的を第1として記載されている。したがって、ここで示された機能部は、それぞれ任意に組み合わされてもよいし、単一の機能部をさらに分割してもよい。例えば、管理ユニット7は、通信ユニット6や管理情報生成部72などに組み込んでもよい。また、走行判別部53、作業走行情報生成部51a、道路走行情報生成部51b、さらに管理情報生成部72は、自由に統合化される。
(5)本発明におけるエンジン31は、広義に解釈されるべきものであり、内燃機関のみならず、電気モータ、あるいはそれらを複合化したハイブリッドエンジンも含むものである。」

甲3には以下の図が示されている。

上記図4には「エンジン31」と「第2ベルト伝動機構31B」を通じて動力が入力される「変速装置2A」の位置関係が示されており、当該位置関係を踏まえると、上記図2においては図番と引出線が記載された「エンジン31」から「運転部17」寄りの地面へと延びるベルト状の装置は「第2ベルト伝動機構31B」であり、当該「第2ベルト伝動機構31B」の動力が入力される装置であって、「運転部17」の下方に備える「車輪走行装置3a」と図面上重複して点線で描かれた装置が「変速装置2A」を含む「動力伝達機構2」といえる。
そうすると、上記図2,4には、「変速装置2A」を含む「動力伝達機構2」を、「キャビン16」の内部に設けられる「運転部17」の下方に備えることが示されている。

(2)甲3の認定事項
上記(1)の記載から、【0019】に記載の「車輪駆動式収穫機」について、以下の事項が認定できる。
ア 【0071】の「(5)本発明におけるエンジン31は、広義に解釈されるべきものであり、内燃機関のみならず、電気モータ、あるいはそれらを複合化したハイブリッドエンジンも含むものである。」との記載から、「エンジン31は電気モータを含」むこと。

イ 【0042】の「エンジン動力は、走行用の動力伝達機構2を構成する変速装置2Aに入力する。変速装置2Aによって変速された動力はさらにギヤ変速装置2Bによって変速される。」との記載と、【0044】の「HSTである無段変速装置2A」との記載、【0055】の「動力伝達機構2の変速装置2Aやギヤ変速装置2B」との記載から、「エンジン動力は、走行用の動力伝達機構2を構成しHSTである無段変速装置2Aに入力し、無段変速装置2Aによって変速された動力はさらに走行用の動力伝達機構2を構成するギヤ変速装置2Bによって変速され」ること。

ウ 【0019】の「エンジン31によって駆動される車輪を有する車輪走行装置3Aと、作業装置3Bとして農作物を収穫する収穫装置とを備えている。エンジン31と車輪走行装置3Aとの間には、パワートレインとも呼ばれる動力伝達機構2が介装されており、動力伝達機構2には変速装置2Aが含まれている。作業装置3Bにもエンジン31から動力を供給され、作業地を走行しながら、収穫作業が行われる。」との記載から、上記イを踏まえると、次の事項が認定できる。
「エンジン動力は、走行用の動力伝達機構2を構成しHSTである無段変速装置2Aに入力し、HSTである無段変速装置2Aによって変速された動力はさらに走行用の動力伝達機構2を構成するギヤ変速装置2Bによって変速され、エンジン31によって動力伝達機構2を間に介装した車輪を有する車輪走行装置3Aを駆動し、作業装置3Bにもエンジン31から動力を供給され」ること。

エ 上記図2,4-5に示された事項と、【0043】の「運転部17には、キャビン16の内部の走行機体横方向での中央部に運転座席17aが設けられている」との記載から、上記ウも踏まえると、次の事項が認定できる。
「HSTである無段変速装置2Aを含む動力伝達機構2を、キャビン16の内部に設けられる運転座席17aが設けられる運転部17の下方に備え」ること。

オ 【0042】に記載される「ギヤ変速装置2B」が変速機構を内装したトランスミッションケースを備えることは技術的に明らかであるから、上記ウの認定事項における「HSTである無段変速装置2Aによって変速された動力はさらに走行用の動力伝達機構2を構成するギヤ変速装置2Bによって変速され」ることを踏まえると、次の事項が認定できる。
「HSTである無段変速装置2Aの動力伝達下流側に変速機構を内装したトランスミッションケースを備えるギヤ変速装置2Bを備えた」たこと。

(3)甲3に記載された技術的事項
以上から、次の技術的事項が認定できる(以下「甲3事項」という。)。
「車輪駆動式収穫機において、
エンジン31は電気モータを含み、
エンジン動力は、走行用の動力伝達機構2を構成しHSTである無段変速装置2Aに入力し、HSTである無段変速装置2Aによって変速された動力はさらに走行用の動力伝達機構2を構成するギヤ変速装置2Bによって変速され、エンジン31によって動力伝達機構2を間に介装した車輪を有する車輪走行装置3Aを駆動し、作業装置3Bにもエンジン31から動力を供給され、
HSTである無段変速装置2Aを含む動力伝達機構2を、キャビン16の内部に設けられる運転座席17aが設けられる運転部17の下方に備え、
HSTである無段変速装置2Aの動力伝達下流側に変速機構を内装したトランスミッションケースを備えるギヤ変速装置2Bを備えたこと。」

4 甲4の記載事項等
(1)甲4の記載事項
甲4には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、果樹園における高所果実の収穫作業や、屋外高所における各種作業などに使用する高所作業車の操作装置に関する。」

「【0003】
【考案が解決しようとする課題】
しかし乍らこのような従来手段の場合、駐車ブレーキレバーを設ける分構造が複雑となるばかりでなく、操作忘れした場合には不測に機体が走行するなどの問題があった。」

「【0004】
【課題を解決するための手段】
したがって本考案は、電動モータでもって走行用ミッションを駆動して機体の走行を行うようにした構造において、走行クラッチを「切」時に駐車ブレーキを「入」、また走行クラッチを「入」時に駐車ブレーキを「切」動作するクラッチ操作部材を設けることによって、別途駐車ブレーキレバーを設けることなく走行クラッチの入切操作に連動して駐車ブレーキを動作させることができて操作性を向上させることができると共に、走行停止中の通常時には駐車ブレーキを常に作動状態に保持して安全性を一層向上させることができる。」

「【0005】
【実施例】
以下、本考案の実施例を図面に基づいて詳述する。図1は駐車ブレーキ操作系の説明図、図2は高所作業車の外観斜視図、図3は同側面図、図4は同正面図、図5は同平面説明図、図6は同ブーム拡張状態の説明図を示し、図中(1)は本考案に係る高所作業車であり、(2)はトラックフレーム(3)の左右外側に装備する走行クローラ、(4)は前記トラックフレーム(2)の略中央部に旋回軸受台(5)及び垂直旋回軸(6)を介し水平回動自在に支持する走行機台であるターンテーブル、(7)は前記ターンテーブル(4)上の固定ブラケット(8)に枢軸(9)を介し基端側を揺動自在に支持する第1ブーム、(10)は前記第1ブーム(7)先端に枢軸(11)を介し折畳み自在に基端を連結させる第2ブーム、(12)は前記第2ブーム(10)先端に枢軸(13)を介し回動自在に取付ブラケット(14)を連結させる運転操作部である運転デッキであり、前記トラックフレーム(3)とテーブル(4)間に介設する旋回油圧シリンダ(15)の伸縮動作によりテーブル(4)と一体に運転デッキ(12)を左右に旋回可能とするように構成している。」

「【0006】
また、(16)は前記ターンテーブル(4)と第1ブーム(7)先端部間に介設する昇降用油圧シリンダ、(17)は前記枢軸(11)に連結支持する三角形状の平行保持板、(18)は前記ターンテーブル(4)と平行保持板(17)と間に介設する第1平行リンク、(19)は前記ブラケット(14)と平行保持板(17)間に介設する第2平行リンク、(20)は前記ターンテーブル(4)と第2ブーム(10)の後端部間を連結するブーム連動リンクであり、前記シリンダ(16)の伸縮動作でもって第1及び第2ブーム(7)(10)を折畳み或いは拡張させて運転デッキ(12)を水平に保った状態での昇降を行わしめるように構成している。」

「【0009】
また、トラックフレーム(3)で構成する機台後部に走行駆動部(37)を設けるもので、図7及び図9に示す如く電動モータ(38)で駆動するHST(油圧式無段変速機構)(39)及び走行用ミッションであるミッションケース(40)とを備え、前記ミッションケース(40)には該ケース(40)内の左右サイドクラッチと駐車ブレーキの操作を行う左右サイドクラッチアーム(41a)(41b)と左右駐車ブレーキアーム(42a)(42b)とを設け、前記運転デッキ(12)に設ける左右サイドクラッチレバー(43a)(43b)にクラッチワイヤ(44)を介して前記左右サイドクラッチアーム(41a)(41b)を連動連結させると共に、運転デッキ(12)に設けるクラッチ操作部材である走行クラッチレバー(45)と走行クラッチペダル(46)にクラッチワイヤ(47)を介して前記左右駐車ブレーキアーム(42a)(42b)を連動連結させるように構成している。」

「【0016】
また、前記シリンダ(15)(16)に各油圧切換弁(73)(74)を介し油圧を供給する油圧ポンプ(75)にも前記電動モータ(38)は駆動連結させて、1つのモータ(38)でHST(39)と油圧ポンプ(75)の両方の駆動を行う一方、前記切換弁(73)(74)の切換ソレノイド(73a)(74a)を励磁動作させる前記クロスレバー(62)の旋回及び昇降スイッチ部材(62a)(62b)と前記昇降レバー(71)の昇降スイッチ部材(71a)を前記各スイッチ(63)(64a)(72)・(69)(70)を介して前記バッテリ(34)に接続させて、前記モータ(38)による油圧ポンプ(75)の駆動時これら各レバー(62)(71)によって切換弁(73)(74)の切換動
作を可能とするように構成している。」

「【0022】
【考案の効果】
以上実施例からも明らかなように本考案は、電動モータ(38)でもって走行用ミッション(40)を駆動して機体の走行を行うようにした構造において、走行クラッチを「切」時に駐車ブレーキを「入」、また走行クラッチを「入」時に駐車ブレーキを「切」動作するクラッチ操作部材(45)(46)を設けたものであるから、極めて簡単な手段によって走行クラッチ「切」の通常の走行停止中は、常に駐車ブレーキを作動状態に維持させることができて、作業での安全性を向上させることができるなど顕著な効果を奏する。」

(2)甲4の認定事項
上記(1)の記載から、【0001】の「高所作業車」に関し、以下の事項が認定できる。
ア 【0016】の「1つのモータ(38)でHST(39)と油圧ポンプ(75)の両方の駆動を行う」との記載、【0022】の「本考案は、電動モータ(38)でもって走行用ミッション(40)を駆動して機体の走行を行うようにした」との記載、【0009】の「機台後部に走行駆動部(37)を設け・・・(中略)・・・電動モータ(38)で駆動するHST(油圧式無段変速機構)(39)及び走行用ミッションであるミッションケース(40)とを備え」との記載から、次の事項が認定できる。
「1つのモータ(38)でHST(39)と油圧ポンプ(75)の両方の駆動を行い、機台後部に走行駆動部(37)を設け、電動モータ(38)で駆動するHST(39)及び走行用ミッションであるミッションケース(40)とを備え、電動モータ(38)でもって走行用ミッション(40)を駆動して機体の走行を行うようにし」たこと。

イ 【0006】の「前記シリンダ(16)の伸縮動作でもって第1及び第2ブーム(7)(10)を折畳み或いは拡張させて運転デッキ(12)を水平に保った状態での昇降を行わしめるように構成している」との記載、【0016】の「前記シリンダ(15)(16)に各油圧切換弁(73)(74)を介し油圧を供給する油圧ポンプ(75)にも前記電動モータ(38)は駆動連結させて、1つのモータ(38)でHST(39)と油圧ポンプ(75)の両方の駆動を行う」との記載から、次の事項が認定できる。
「前記電動モータ(38)は第1及び第2ブームの昇降を行わしめるシリンダ(16)に油圧を供給する油圧ポンプ(75)に駆動連結させ」ていること。

(3)甲4に記載された技術的事項
以上から、次の技術的事項が認定できる(以下「甲4事項」という。)。
「高所作業車において、
1つのモータ(38)でHST(39)と油圧ポンプ(75)の両方の駆動を行い、機台後部に走行駆動部(37)を設け、電動モータ(38)で駆動するHST(39)及び走行用ミッションであるミッションケース(40)とを備え、電動モータ(38)でもって走行用ミッション(40)を駆動して機体の走行を行うようにし
前記電動モータ(38)は第1及び第2ブームの昇降を行わしめるシリンダ(16)に油圧を供給する油圧ポンプ(75)に駆動連結させたこと。」
「高所作業車において、
1つのモータ(38)でHST(39)と油圧ポンプ(75)の両方の駆動を行い、機台後部に走行駆動部(37)を設け、電動モータ(38)で駆動するHST(39)及び走行用ミッションであるミッションケース(40)とを備え、電動モータ(38)でもって走行用ミッション(40)を駆動して機体の走行を行うようにし
前記電動モータ(38)は第1及び第2ブームの昇降を行わしめるシリンダ(16)に油圧を供給する油圧ポンプ(75)に駆動連結させたこと。」

5 甲5の記載事項等
(1)甲5の記載事項
甲5には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0004】
【課題を解決するための技術手段】この発明は前記した問題点に鑑みて提案するものであって、特に、油圧クラッチが焼き付いたりしないようにすべく強制潤滑を安定的に行ない、油圧クラッチの入切を良好に行なえるようにしたものである。このためこの発明は次のような技術的手段を講じた。即ち、静油圧式の無段変速装置を備え、この無段変速装置のモ-タ軸から取り出された回転動力を走行車輪に伝えて機体を走行可能に構成した動力車両において、この動力車両に装備された動力取出軸への動力を入切する油圧クラッチを設け、前記無段変速装置のチャ-ジ回路からの作動油の一部を前記油圧クラッチに導いて潤滑油として利用したことを特徴とする動力車両における油圧クラッチの潤滑装置の構成とする。
【0005】
【実施例】以下、図面に基づきこの発明の実施例を説明する。まず、構成から説明すると、1はトラクターで前輪2と後輪3を備え、機体前部に搭載したエンジン5の回転動力をミッションケ-ス28内の静油圧式無段変速装置8(HST)に伝え、さらに無段変速装置8のモ-タ軸9の回転を後述する副変速装置10に伝達すべく構成している。11は無段変速装置8のポンプ軸であり、動力取出軸12、13に対する回転動力を入切する油圧クラッチ15に接続されている。」

甲5には次の図が示されている。

上記図1には、「ミッションケース28が座席の下方に位置する」ことが示されている。

(2)甲5に記載された技術的事項
上記(1)から、以下の事項が認定できる(以下「甲5事項」という。)。
「トラクターにおいて、エンジン5の回転動力をミッションケ-ス28内の静油圧式無段変速装置8に伝え、無段変速装置8のモ-タ軸9の回転を副変速装置10に伝達すべく構成し、無段変速装置8のポンプ軸を、動力取出軸12、13に対する回転動力を入切する油圧クラッチ15に接続し、ミッションケース28が座席の下方に位置すること。」

6 甲6の記載事項等
(1)甲6の記載事項
甲6には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】トラクターに装備される前記静油圧式無段変速装置(hydrostaticpower transmission)は、多数個のポンプ側プランジャ群から順次的に圧油を送り出して、この圧油で多数個のモータ側プランジャ群を順次作動させて回転出力を得る構成上、油圧の脈動等が原因で振動や騒音を発生しやすく、その振動騒音が、中空ハウジングの内面と上下のボス部との間に形成される間隙を介して外部に洩れ出し、ギヤトランスミッションケースの上部に配設の運転座席に着座の操縦者に対する運転環境を悪化させることがあった。そこで、前記中空ハウジングを前記ギヤトランスミッションケースに取付けるに当たって、前記ボス部の代わりに、ミッションケースの外周に環状の取付部を設けて取付けることが考えられるが、斯かる場合には、ギヤトランスミッションケースの重量増大を招く不都合がある。本発明は、ギヤトランスミッションケースの重量増大の抑制を図りながら前記騒音の洩れ出しを防止することを目的とする。
・・・
【0007】
【実施例】図6は、本発明を適用したトラクターを示し、車体前部のエンジン1、これに直結した主クラッチケース2、車体後部のギヤトランスミッションケース3を中空の板金製のハウジング4で連結して車体を構成し、エンジン1から前方に突出した前フレーム5に前輪6を、又、ギヤトランスミッションケース3に後輪7を夫々軸支した車体構造となっている。前記ハウジング4の後部内にはギヤトランスミッションケース3の前面に取付けられた静油圧式無段変速装置(HST)8が収容され、主クラッチケース2から伝動軸9を介して静油圧式無段変速装置8に入力された動力を無段に変速及び正逆転に切換えてギヤトランスミッションケース3に入力し、更に適宜ギヤ変速して後輪7とリヤPTO軸Pとを駆動し、かつ、後輪駆動系に連動連結した前輪伝動軸10を前方に導出して前輪6を同調駆動するように構成されている。」

甲6には次の図が示されている。

上記図6には、「静油圧式無段変速装置8が座席の下方に位置する」ことが示されている。

(2)甲6に記載された技術的事項
上記(1)から、以下の技術的事項が認定できる(以下「甲6事項」という。)。
「トラクターにおいて、エンジン1に直結した主クラッチケース2から伝動軸9を介して静油圧式無段変速装置8に入力された動力を無段に変速及び正逆転に切換えてギヤトランスミッションケース3に入力し、更に適宜ギヤ変速して後輪7とリヤPTO軸Pとを駆動し、かつ、後輪駆動系に連動連結した前輪伝動軸10を前方に導出して前輪6を同調駆動するものであって、静油圧式無段変速装置8が座席の下方に位置すること。」

7 甲7の記載事項等
(1)甲7の記載事項
甲7には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0005】
しかし、特許文献3に記載のような作業車両では、クラッチを半クラッチ状態とすることによる微速走行はできないため、微速走行をする場合においても変速レバーの操作によって走行速度の調節を行う。したがって、微速走行であって、走行速度の変更と作業機用昇降機構の操作などを同時にかつ微細に行う作業の場合、例えば、作業車両の後方に作業機を連結する作業などの場合においては、変速レバーとリフトレバーなどとを交互に持ち替えて操作することになり、操作が煩雑になるという問題がある。そこでこの発明は、作業車両の制御装置の構成を大きく変更することなく、クラッチペダルの踏み込み操作に応じて無段変速装置の変速比を変更し、走行速度を変速可能とする作業車両の制御装置を提供することにある。
・・・
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、この発明の実施の形態について詳述する。図1は、この発明の作業車両の制御装置を備えるトラクタの側面図であり、図2は、トラクタの運転席フロアの一部拡大図である。トラクタ10(作業車両)は、ボンネット11内にエンジンE、ラジエータ、冷却ファン、エアクリーナ、バッテリーなどを備える。また、ボンネット11の前部には、前照灯12、ボンネット11内に外気を取り入れるためのフロントグリル13を備える。エンジンE、ラジエータ、バッテリーは、シャーシ14上に載置される。また、機体の前部左右には前輪15,15を、後部左右には後輪16,16を備える。左右の後輪16,16をそれぞれ上方と内側から覆うようにフェンダー17,17を設ける。
・・・
【0018】
ステアリングコラムカバー20の後方には一定距離を隔てて運転席27を設ける。運転席27は、左右のフェンダー17,17の間に配置される。運転席27は、運転台28上に取り付けられる。運転席27の右側方には、主変速レバー31およびリフトレバー32を備える。一方、運転席27の左側方には、副変速レバー33およびPTOレバー34を備える。
【0019】
運転台28とボンネット11との間にはフロア35を備える。フロア35は、運転者がトラクタ10に乗降する際や、運転中に足を置くためのものである。フロア35の右側部には、アクセルペダル26を備える。フロア35の下方には、駆動力伝達機構の一部を内蔵するトランスミッションケースTMが配置されている。トランスミッションケースTMはシャーシ14の後部に固定されている。また、トランスミッションケースTMの後部上面には、作業機を昇降するための作業機用昇降機構36が取り付けられている。作業機にエンジンEからの駆動力を伝達するためのPTO軸37は、トランスミッションケースTMの後側面に、後ろ向きに突出している。
【0020】
次に、図3を用いて、トラクタの動力の伝達構造について説明する。エンジンEの動力は、エンジン出力軸40から主クラッチ41、動力伝達軸42を介して主変速入力軸43に伝達される。次に、無段変速装置44で適宜変速され、前後進切換機構45を介し副変速機構46に伝達される。そして、副変速機構46で適宜変速され、後輪差動機構47を介して後輪16,16に伝達される。副変速機構46で適宜変速された動力は、前輪駆動切換機構48、前輪差動機構49を介して前輪15,15にも伝達される。なお、無段変速装置44は、油圧式無段変速装置により構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、ベルト式やトロイダル式のCVTなどで構成されたものであってもよい。
前後進切換機構45は、前進クラッチ45Fと後進クラッチ45Rなどで構成される。主クラッチ41、前進クラッチ45F、後進クラッチ45Rは、滑りながら繋がるというような半クラッチ状態を意図的に作り出すことができる構成ではなく、動力の伝達を完全な接続状態とする「接」または完全な切断状態とする「断」のいずれかのみに操作できるクラッチの構成である。上述のようにエンジンEの動力が前輪15,15や後輪16,16に伝達され、トラクタ10が走行する。また、エンジンEの動力は、PTOクラッチ50、PTO変速機構51などを順次介して、PTO軸37に伝達される。」

甲7には次の図が示されている。


上記【0018】の「運転席27」、上記【0019】の「トランスミッションケースTM」との記載を踏まえると、上記図1には、「トランスミッションケースTMが運転席27の下方に位置する」ことが示されている。

(2)甲7に記載された技術的事項
上記(1)から、以下の技術的事項が認定できる(以下「甲7事項」という。)。
「トラクタにおいて、エンジンEの動力は、前後進切換機構45を介し副変速機構46に伝達され、無段変速装置44で適宜変速され、前後進切換機構45を介し副変速機構46に伝達され、副変速機構46で適宜変速され、後輪差動機構47を介して後輪16,16に伝達され、副変速機構46で適宜変速された動力は、前輪駆動切換機構48、前輪差動機構49を介して前輪15,15にも伝達されるものであり、また、エンジンEの動力は、PTOクラッチ50、PTO変速機構51などを順次介して、PTO軸37に伝達されるものであって、トランスミッションケースTMが運転席27の下方に位置し、
ボンネット11内にエンジンE、ラジエータ、冷却ファン、エアクリーナ、バッテリーなどを備え、ボンネット11の前部には、前照灯12、ボンネット11内に外気を取り入れるためのフロントグリル13を備えること。」

8 甲8の記載事項等
(1)甲8の記載事項
甲8には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は安全プラグボックスに関し、特に、モータ駆動のための高電圧回路を有する電気自動車やハイブリッド車等の点検整備に際して、回路電流を安全プラグで遮断可能に構成した安全プラグボックスに関するものである。」

「【0006】従って、本発明の目的は上記課題を解消することに係り、バッテリや電装品のメンテナンス作業時における安全性を確実に確保することができる良好な安全プラグボックスを提供することである。」

「【0011】本実施形態の安全プラグボックス1は、図1に示すように、ケース2及び蓋10からなるボックス本体15と、該ボックス本体15に収容されるバッテリ20及び該バッテリ20に接続されてメンテナンスが必要な電装品である電源分配ボックス25及び電圧変換器35と、前記電源分配ボックス25内の電源路34(図4参照)を切断又は接続する安全プラグ40とを備える。
【0012】前記ケース2は、上面が開口された略矩形状の函体であり、底板3には前記バッテリ20や電源分配ボックス25及び電圧変換器35等をネジ止め固定する為のねじ孔4が設けられている(図3参照)。前記ケース2の上方開口を覆う略矩形状の前記蓋10は、略中央にプラグ挿通孔11が穿設されており、前記ケース2の上方開口に被せることで、図2に示すように、周縁部に設けた嵌合溝がケース2の上端開口縁に嵌合される。前記プラグ挿通孔11の外周部には、図3に示すように、環状段部12が形成されており、該環状段部12には、Oリング13が装着されている。」

「【0019】従って、本実施形態の安全プラグボックス1における前記ボックス本体15内に収容されたバッテリ20、電源分配ボックス25及び電圧変換器35をメンテナンスする為には、前記蓋10を開放する必要があり、該蓋10を開放する為には前記安全プラグ40を引き抜く必要がある。即ち、前記安全プラグ40をボックス本体15に取り付けた状態で蓋10を開放しようとしても、安全プラグ40のフランジ部41が邪魔をして蓋10を開放することができない。」

(2)甲8に記載された技術的事項
上記(1)から、以下の技術的事項が認定できる(以下「甲8事項」という。)。
「モータ駆動のための高電圧回路を有する電気自動車において、安全プラグボックス1は、ケース2及び蓋10からなるボックス本体15と、該ボックス本体15に収容されるバッテリ20を備え、前記ケース2は、上面が開口された略矩形状の函体であり、略矩形状の蓋10は前記ケース2の上方開口を覆うものであり、バッテリ20をメンテナンスする為には、前記蓋10を開放する必要があること。」

9 甲9の記載事項等
(1)甲9の記載事項
甲9には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたもので、軽量化が図れ、十分な剛性と靭性を備え、しかも電磁波の外部への放出を生じさせない車両用電池容器を提供することを目的とする。」

「【0026】
電池容器10は、図2に示すように容器本体32と蓋体34から構成され、内部に駆動用蓄電池36および冷却機構38が収納されている。」

「【0039】
蓋体34の外層70と内層72の構成は、容器本体32の構成と同様であり、内層72の内面に塗布されている導電性塗布材73も同様の構成である。これにより蓋体34は、所定の強度と剛性、及び靱性を具え、かつ、駆動用蓄電池36が発生する電磁波を遮断する電磁波遮断性を有している。尚蓋体34は、容器本体32と別体としても、ヒンジ等で容器本体32に開閉自在に取り付けてもよい。」

「【0057】
本発明は、駆動用蓄電池を搭載した、電気車両やハイブリッド車両等に用いることができる。」

(2)甲9に記載された技術的事項
上記(1)から、以下の技術的事項が認定できる(以下「甲9事項」という。)。
「駆動用蓄電池を搭載した、電気車両において、電池容器10は容器本体32と蓋体34から構成され、内部に駆動用蓄電池36が収納され、蓋体34は、ヒンジ等で容器本体32に開閉自在に取り付けたこと。」

10 甲10の記載事項等
(1)甲10の記載事項
甲10には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電気自動車に関し、特に、車両駆動等に用いられるバッテリの搭載構造に関する。」

「【0007】本発明は上記課題にかんがみてなされたものであって、その目的は、バッテリの破壊防止及び防水に優れ、バッテリ関連機器のメンテナンスが容易な電気自動車を提供することにある。」

「【0017】図1は、本実施の形態にかかる電気自動車のバッテリケースを示す斜視図である。同図に示すように、本バッテリケース10は、開口部12と収納部14とを有する箱状のケースリア16と、平板状のケースフロント18と、を含んで構成される。
【0018】前記ケースリア16はABS等の樹脂材料により一体形成されており、その開口部12の周縁には外方向に延設された取付部20が形成されている。そして、該取付部20にはケースフロント18とのボルト接合のために複数のボルト穴が穿設されており、裏面にそれぞれナットが固着されている。さらに、ケースリア16の収納部14の底部(車両下側に位置)には想像線で示すバッテリ22a,22bを車両側と固定するためのボルト穴が穿設されている。このようにバッテリ22a,22bを収納するケースリア16を樹脂材料により形成すれば、万一バッテリ22a,22bから液漏れが生じた場合にも、バッテリ液等が外部に漏れ出ることを防ぐことができる。また、車両衝突時においてもケースリア16が適宜変形して破断することがない。したがって、車両衝突時にバッテリ22a,22bが破損した場合にもバッテリ液等が外部に漏れ出ることを防ぐことができる。」

「【0022】一方、前記ケースフロント18よりもラゲージ38の側のフロア36の上には中央部が上方に盛り上がって形成されたバッテリステー40がその端部にてボルトで固定されている。そうして、前記ケースリア16は該バッテリステー40に載置され、取付部20に穿設されたボルト穴がケースフロント18の対応するボルト穴と一致するようにして配置され、それらがボルト固定されて取り付けられている。さらに、その内部にはバッテリ22bが配置され、該バッテリの側面下方に形成された取付脚42,44がケースリア16の底部のボルト穴を介してバッテリステー40とボルト固定されている。また、バッテリ22bの上部に設けられた支持部46がケースフロント18の中央部上方のボルト穴とボルト固定されている。なお、ここではバッテリ22bの取付状態について説明したが、車両反対側に配置されるバッテリ22aについても同様にしてバッテリケース10及びフロア36に取り付けられる。
。」

(2)甲10に記載の技術的事項
上記(1)から、以下の技術的事項が認定できる(以下「甲10事項」という。)。
「電気自動車における車両駆動等に用いられるバッテリの搭載構造に関し、バッテリケース10は、開口部12と収納部14とを有する箱状のケースリア16と、平板状のケースフロント18と、を含んで構成され、ケースリア16はバッテリ22a,22bを収納し、前記ケースリア16は取付部20に穿設されたボルト穴がケースフロント18の対応するボルト穴と一致するようにして配置され、それらがボルト固定されて取り付けられていること。」

11 甲11の記載事項等
(1)甲11の記載事項
甲11には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0004】
前記公報の技術においては、前輪の軸芯よりも後方に電動モータが配置されており、このため機体後部に作業機を装着して作業走行する場合、機体の重心位置が機体後部側寄りに移動してしまい、さらに前進で作業走行すると駆動反力が加わることで、機体前部に上向きの力が作用し機体後部に下向きに力が作用することで、機体の前後バランスが機体後部側寄りになってしまい、安定した作業走行ができないという欠点がある。特に、湿田等
での4輪駆動での走行時には、前輪の駆動力が圃場面に伝達されにくくなるという欠点がある。
・・・
【0008】
本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は、作業車両1(機体)の具体例として、農業機械であるトラクタの側面図を示している。
農用トラクタ1の機体後部に作業機2を昇降自在に取り付けている。
図2はトラクタ1を機体上方から見た平面図である。図3はトラクタ1の正面図を示している。
農用トラクタ1は機体の前後に左右一対の前輪3と後輪4を設けており、左右の前輪3,3間の上方に機体フレーム5(1個でも複数でもよい)を構成し、この機体フレーム5で電動モータ6を支持する構成としている。電動モータ6の上方にバッテリ9を収納したバッテリ収納箱体8を設けており、このバッテリ収納箱体8を覆うようにボンネット7を設けている。符号7aは、ボンネット7に取り付けている前照灯である。
前記電動モータ6の後方にミッションケース19を設けており、電動モータ6からミッションケース19内の伝動装置に伝動された動力を左右前輪3,3と左右後輪4,4に伝達する構成としている。ミッションケース19内の伝動装置としては、主変速装置29,副変速装置30,作業機2へ動力伝達するPTO軸の変速を行うPTO変速装置34等(図4参照)を構成しているが、主変速装置や副変速装置等を設けなくても、電動モータ9の回転を制御することで対応するように構成してもよい。
10は計器盤、11は左右前輪3,3の操向を行うステアリングハンドルである。左右の後輪6,6上方と両者間の内方はフェンダー12,12で覆われ、この左右のフェンダー12,12間の機体上に座席13を設けており、運転者が着座して運転する。
農用トラクタ1の機体後端に設けた左右のリンク14,14で作業機2を昇降自在に支持している。作業機2の例として圃場を耕すロータリを示しているが、ロータリ以外の作業機(鋤,代掻き装置等)を連結するように構成してもよい。
符号15はミッションケース19内の主変速装置29を変速する主変速レバー、符号16はPTO変速装置34を変速してPTO軸の回転数を変更するPTO変速レバーである。符号17は作業機2の昇降を行う作業機昇降レバー、符号18は作業機2で耕す深さを調整する耕深調整レバーである。符号20副変速装置30を変速する副変速レバーである。20は安全フレームであり、トラクタ1が転倒したときに座席13に着座している運転者を保護するものである。
主変速装置29は、中立、前進3段変速、後進1段変速を選択可能に構成している。また、副変速装置30は、中立、低速、高速を選択可能に構成している。PTO変速装置34は、中立、1段変速、2段変速、3段変速、逆転変速を選択可能に構成している。
符号21は電動モータ6の回転数を変更するアクセルペダルであり、符号22は電動モータ22の回転数を制御するアクセルレバーである。符号23はクラッチペダルであり、ミッションケース19内に設けているクラッチ26の断続を行う。符号24は右側後輪4にブレーキを掛ける右ブレーキペダルであり、符号25は左側後輪4にブレーキを掛ける左ブレーキペダルである。路上走行時には、左右のブレーキペダル24,25を連結して走行し、圃場内を作業走行するときには左右のブレーキペダル24,25の連結を解除して作業走行する。このようにすることで、作業走行時に旋回するときには、旋回内側の後輪にブレーキを掛けることで、旋回半径を小さくして旋回できる。」

(2)甲11に記載された技術的事項
上記(1)から、以下の技術的事項が認定できる(以下「甲11事項」という。)。
「農用トラクタ1において、前記電動モータ6の後方にミッションケース19を設けており、電動モータ6からミッションケース19内の伝動装置に伝動された動力を左右前輪3,3と左右後輪4,4に伝達する構成とし、ミッションケース19内の伝動装置としては、主変速装置29,副変速装置30,作業機2へ動力伝達するPTO軸の変速を行うPTO変速装置34等を構成したこと。」

12 甲12の記載事項等
(1)甲12の記載事項
甲12には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、バッテリ駆動のホイールローダに係り、特に多数用いられるバッテリの車両への積載構造に関する。」

「【0005】
本発明の目的は、より多くのバッテリを積載した場合でも、バッテリを効率的に冷却できるバッテリ駆動のホイールローダを提供することである。」

「【0018】
〔ホイールローダの概略全体説明〕
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1において、ホイールローダ1は、車両前方側の前部車体2と、車両後方側の後部車体3とで構成され、前部車体2および後部車体3がアーティキュレートピン4にて屈曲可能に連結されている。
・・・
【0020】
後部車体3は、上方に開口した矩形枠状の後部フレーム15を備えている。後部フレーム15の前後方向の略中央で、かつその上部には、門形状のROPS(Roll-Over Protective Structure)フレーム16が接合されている。ROPSフレーム16の前方側のデッキ上にはシート17が設けられ、シート17の前方にはステアリング18が、側方には作業機レバー19等がそれぞれ設けられている。ROPSフレーム16には、シート17の上方を覆うキャノピ20が設けられている。ただし、本発明のホイールローダとしては、キャノピ20を有するものの他、箱状のキャブを有したものであってもよい。」

「【0025】
後部フレーム15の前後方向の略中央であって、その内部には電動モータ30が収容されている。電動モータ30の駆動軸には、カップリング31を介してHST(Hydro Static Transmission)ポンプ32および作業機ポンプ33が直列に接続されている。作業機ポンプ33の前方下部には一対のHSTモータ34が配置され、HSTポンプ32からの作動油がHSTモータ34に供給され、作業機ポンプ33からの作動油が作業機5に供給される。HSTモータ34からの出力は、トランスファを経由した後に前後のプロペラシャフトを介してフロントアクスルおよびリヤアクスルに伝達され、前輪13および後輪21が駆動される。また、作業機ポンプ33の近傍には、コントロールバルブ35が設けられ、このコントロールバルブ35によって作動油の作業機5への供給や、HSTモータ34への供給、あるいは作動油タンクへの戻りを切り換えている。
【0026】
従って、作業機5や、前輪13、後輪21は、直接的には油圧駆動であるが、油圧源であるHSTポンプ32、作業機ポンプ33は電動モータ30で駆動されることから、本実施形態のホイールローダ1の駆動源は電動モータ30であるといえる。なお、本発明は、後輪21のみが駆動される後輪駆動のホイールローダにも適用可能である。」

甲12には次の図が示されている。

図1には「アーティキュレートピン4」が示されており、上記【0020】に記載される「シート17」に関して、当該図1には、「シート17のの下方かつ前輪13側にアーティキュレートピン4が配置され」ることが示されている。
また、図2の図面下方に図番及び引出線なく示された「アーティキュレートピン4」の近傍に、上記【0025】の「HSTモータ34」が配置されていることが示されているといえる。

(2)甲12に記載された技術的事項
上記(1)から、以下の技術的事項が認定できる(以下「甲12事項」という。)。
「ホイールローダにおいて、電動モータ30の駆動軸には、カップリング31を介してHSTポンプ32および作業機ポンプ33が直列に接続され、HSTポンプ32からの作動油がHSTモータ34に供給され、作業機ポンプ33からの作動油が作業機5に供給され、HSTモータ34からの出力は、トランスファを経由した後に前後のプロペラシャフトを介してフロントアクスルおよびリヤアクスルに伝達され、前輪13および後輪21が駆動されるものであって、作業機5や、前輪13、後輪21は、直接的には油圧駆動であるが、油圧源であるHSTポンプ32、作業機ポンプ33は電動モータ30で駆動されることから、本実施形態のホイールローダ1の駆動源は電動モータ30であり、
シート17の下方かつ前輪13側にアーティキュレートピン4が配置され、アーティキュレートピン4の近傍に、HSTモータ34が配置されていること。」

13 甲13の記載事項等
(1)甲13の記載事項
甲13には図面とともに以下の事項が記載されている。
(1欄23?29行)
「この考案は上記した要望に応えるため、冷却用空気の取入れ口を機の最前部に設けて、ここに集塵フイルタを配し、一方モータを設置する保護ケースの側壁を開閉自在となして、該ケース内からの除塵に便ならしめるようにした、電動式ハンドトラクタの空冷装置に関し、以下これを図面に示す実施例について詳述する。」

(1欄30?36行)
「図に於て1は電動式ハンドトラクタの車台で、これの前部には内部に進行方向に対し横向きとしてモータ2を設置した保護ケース3が設けられ、該ケースの左右両側端のうち一方は機の最前部に前方へ向け開設された空気取入れ口4に導風路5を介して連通され、また他方は側壁5に開設された排気窓7を介して外部に開放されている。」

(2欄5?10行)
「なお図中の13はモータ2に備えられたフアン、14は排気窓7に張設されて保護網、15は車台1の上部から保護ケース3の上部にかけて設けられた蓄電池16もしくは燃料電池のための収納ケース、17は車輪、18は操向ハンドルである。」

甲13には次の図が示されている。

上記甲13の1欄30?36行及び2欄5?10行に記載される「蓄電池16」、「収納ケース15」、「モータ2」、及び「空気取り入れ口4」に関し、第2図及び第3図には、「蓄電池16の収納ケース15はモータ2の上方にあって、その間に領域が形成され、該領域の前方には空気取り入れ口4を構成し」たことが示されている。

(2)甲13に記載された技術的事項
上記(1)から、以下の技術的事項が認定できる(以下「甲13事項」という。)。
「電動式ハンドトラクタにおいて、蓄電池16の収納ケース15はモータ2の上方にあって、その間に領域が形成され、該領域の前方には空気取り入れ口4を構成したこと。」

14 甲14の記載事項等
(1)甲14の記載事項
甲14には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0009】
本発明の第1の目的は、発電機、インバータ、バッテリ、電動モータを適切に配置することでそれらの接続ケーブルを短くすることができ、動作の信頼性を向上することができる電動駆動のホイール式作業車両を提供することである。
【0010】
本発明の第2の目的は、バッテリやインバータ/コンバータを車体内部の温度変化による影響が少なくスペース的に余裕のある場所に配置することで、バッテリの性能を十分に発揮することができかつバッテリ及びインバータ/コンバータのメインテナンスが容易となる電動駆動のホイール式作業車両を提供することである。
【0011】
本発明の第3の目的は、バッテリを冷却した空気を発電機及び電動モータの配置空間に導くことで発電機及び電動モータを適切に冷却することができる電動駆動のホイール式作業車両を提供することである。」

「【0032】
図1は本発明の第1の実施の形態に係わる電動駆動のホイール式作業車両であるホイールローダの部分透視側面図であり、図2はホイールローダ車体後部の運転室を取り除いた上面図である。」

「【0034】
車体後部102は後車輪105と車体フレームを構成する箱形のリヤフレーム106とを備え、リヤフレーム106の前部上側には図2に示すように4本の支柱107が設けられ、この支柱107を介して運転室フロア108が設置され、フロア108に運転室110が配置されている。つまり、運転室110はリヤフレーム106の前部上側に搭載されている。運転室110内にはシート(座席)111aを備えた運転席111が配置され、シート111aはブラケット16によりフロア108上に固定されている。」

「【0036】
ホイールローダ100は電動駆動であり、運転室110の下側に位置するリヤフレーム106の前部空間124には発電機11と電動モータ12及びミッション13が配置され、リヤフレーム106の横側部両外側にバッテリ14a,14b(以下「14」で代表する)を収納したバッテリケース15a,15b(以下「15」で代表する)が左右対称に配置されている。エンジン121と発電機11と電動モータ12及びミッション13が設置される空間124との間には仕切り(図示せず)が設けられ、発電機11及び電動モータ12に対するエンジン121の熱の影響を最小にしている。また、バッテリ14にはバッテリ14の温度などを監視するバッテリコントローラ(図示せず)が付属している。
【0037】
一方、運転室110内の運転席シート111aの下側であるブラケット16内のフロア108上にはインバータ/コンバータ17が配置されている。電動モータ12の出力軸はミッション13に接続され、ミッション13の出力軸は後車輪105に連結され、電動モータ12を駆動することで後車輪105が回転駆動され、走行が行われる。
【0038】
バッテリケース15の車体進行方向前面には冷却風入口41(後述)が設けられ、バッテリケース15のリヤフレーム106側の側面には冷却風出口43(後述)が設けられ、冷却風入口41より流入した空気はバッテリ14を冷却し、冷却風出口43より空間124に空気を流出する。」

「【0049】
4.バッテリ14を冷却した空気はバッテリケース5の冷却風出口43より流出し、ファン122によりリヤフレーム106の前部や下部から吸引される空気と共にリヤフレーム106の前部空間124に流入するので、空間124に流入する空気量が増加し、空間124に配置された発電機11及び電動モータ12を適切に冷却することができる。」

甲14には次の図が示されている。

上記【0036】の「運転室110の下側に位置するリヤフレーム106の前部空間124には発電機11と電動モータ12及びミッション13が配置され、リヤフレーム106の横側部両外側にバッテリ14a,14b(以下「14」で代表する)を収納したバッテリケース15a,15b(以下「15」で代表する)が左右対称に配置されている」との記載を踏まえると、図1には次の事項が示されているといえる。

「電動モータ12の上方かつ電動モータ12の車幅方向両外側にバッテリ14が配置され、その間に領域が形成され」ること。

(2)甲14に記載された技術的事項
上記(1)から、以下の技術的事項が認定できる(以下「甲14事項」という。)。
「電動駆動のホイールローダにおいて、電動モータ12の上方かつ電動モータ12の車幅方向両外側にバッテリ14が配置され、その間に領域が形成され、バッテリ14を収納したバッテリケース15の車体進行方向前面には冷却風入口41が設けられ、バッテリケース15のリヤフレーム106側の側面には冷却風出口43が設けられ、冷却風入口41より流入した空気はバッテリ14を冷却し、冷却風出口43より空間124に空気を流出し、電動モータ12が配置されるリヤフレーム106の前部空間124に流入すること。」

15 甲15の記載事項等
(1)甲15の記載事項
甲15には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0018】
図1と図2に示すように、トラクター1は、種々の作業機(ロータリ等)を装着し、種々の作業を行うものである。トラクター1は、長手方向を前後方向とする機体フレーム2に、エンジン3、ボンネット7、図示しないトランスミッションケース、フロントアクスル、リアアクスル、キャビン26および運転操作部37等が配置されている。」

「【0036】
図12に示すように、フロントグリル8は、エンジン3等の冷却風を外部からエンジンルーム内に取り込む供給口を覆うものである。フロントグリル8は、ボンネット7の前端部に形成されている供給口である開口部に設けられている。フロントグリル8は、樹脂又は金属から構成されている。フロントグリル8には、左右方向を長手方向とする長孔8aが複数形成されている。」

(2)甲15に記載された技術的事項
上記(1)から、以下の技術的事項が認定できる(以下「甲15事項」という。)。
「トラクター1において、エンジン3等の冷却風を外部からエンジンルーム内に取り込む供給口は、ボンネット7の前端部に形成されていること。」

16 甲16の記載事項等
(1)甲16の記載事項
甲16には図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0025】
以下、図面を参照しつつ、この発明の実施の形態について詳述する。図1は本実施形態が適用される車両の一例としてのトラクタ10の斜視図である。トラクタ10は、ボンネット11内に、エンジンEや、図示せぬラジエータ、冷却ファン、エアクリーナ、バッテリーなどを備える。ボンネット11の前部には、前照灯12、及びエンジンEに外気を取り入れるためのフロントグリル13が備えられる。エンジンE、ラジエータ、バッテリーはシャーシ14上に載置される。トラクタ10は、機体の進行方向に当たる前部の左右に前輪15,15を備え、後部左右には後輪16,16を備える。左右の後輪16,16をそれぞれ上方、及びトラクタ10の内側から覆うようにフェンダー17,17が設けられる。」

(2)甲16に記載された技術的事項
上記(1)から、以下の技術的事項が認定できる(以下「甲16事項」という。)。
「トラクタ10において、ボンネット11内に、エンジンEや、ラジエータ、冷却ファン、エアクリーナ、バッテリーなどを備え、ボンネット11の前部には、エンジンEに外気を取り入れるためのフロントグリル13が備えられること。」

第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

ア 甲1発明の「車体」は本件発明1の「車体」に相当し、以下同様に、「左右の前輪(1a,1a)」は「左右の前輪」に、「左右の後輪(1b,1b)」は「左右の後輪」に相当する。

イ 甲1発明の「左右に平行して設けられる車体フレーム(4)を構成する板状部材」は本件発明1の「左右に平行して設けられる車体フレーム」に相当する。

ウ 甲1発明の「ステップフロア」は本件発明1の「ステップフロア」に相当し、上記イを踏まえると、甲1発明の「車体フレーム(4)を構成する板状部材よりも後輪(1b,1b)側にステップフロアを備え」ることと、本件発明1の「車体フレームの前後中間部にステップフロアを備え」ることとは、「ステップフロアを備え」ることにおいて共通する。

エ 甲1発明の「ハンドル」は操縦を行うためのものであり、その近傍は操縦を行う部位であるから、甲1発明の「ハンドル近傍」は本件発明1の「操縦部」に相当し、甲1発明の「座席」は本件発明1の「座席」に相当する。
そして、甲1発明の「ステップフロア上のハンドル近傍には座席を備え」ることは、本件発明1の「ステップフロア上の操縦部には座席を備え」ることに相当する。


オ 甲1発明の「車体の前輪(1a,1a)側」は本件発明1の「車体の前部」に相当する。
また、甲1発明の「上方観音開き式ボンネット」は「上方観音開き」に開くことが可能であり、ボンネットを閉じることが可能であることは技術的に明らかであるから、本件発明1の「開閉可能なボンネット」に相当する。


(ア)甲1発明の「バッテリーパック(2)」は本件発明1の「バッテリー」に相当し、甲1発明の「駆動モータ(3)」は本件発明1の「電動モータ」に相当し、甲1発明の「駆動モータ(3)」が「バッテリーパック(2)で提供される直流電流をインバータ(7)により変換された交流電流として駆動される」ることは、バッテリーパック(2)から電力の供給を受けて駆動するものであることといえ、当該駆動が回転駆動であることは技術的に明らかであるから、本件発明1の「電動モータ」が「バッテリーから電力の供給を受けて回転駆動する」ことに相当する。
したがって、甲1発明の「バッテリーパック(2)で提供される直流電流をインバータ(7)により変換された交流電流として駆動される駆動モータ(3)を備え」ることは、本件発明1の「バッテリーから電力の供給を受けて回転駆動する電動モータを備え」ることに相当する。

(イ)上記(ア)を踏まえると、甲1発明の「駆動モータ(3)が機体駆動のための動力を発生させる」ことは、本件発明1の「該電動モータを駆動源として走行する」ことに相当する。


(ア)甲1発明は「変速機(5)が搭載されて駆動モータ(3)と機体の長さ方向に沿って直結されて直列に配置されている」から、「駆動モータ(3)」の回転動力を「変速機(5)」に入力しているといえる。ここで、甲1発明の「変速機(5)」と、本件発明1の「油圧式無段変速装置」とは、「変速装置」である点において共通する。

(イ)また、甲1発明の「変速機(5)」は「駆動モータ(3)の出力を走行に適した速度で増減させる」ものであって、「変速機(5)」から「トラクター」を走行させる回転動力を出力する構成であることは技術的に明らかである。

(ウ)甲1発明の「トラクター」は本件発明1の「車両」及び「トラクタ」に相当する。

(エ)上記(ア)?(ウ)を踏まえると、甲1発明の「駆動モータ(3)の出力を走行に適した速度で増減させる変速機(5)が搭載されて駆動モータ(3)と機体の長さ方向に沿って直結されて直列に配置されている構造をなすようにすることで、従来の機械式のエンジン作業車の車体フレーム(4)を幅方向に伸ばすことなく変速機(5)が配置されるようにし」たことと、本件発明1の「前記電動モータの回転動力を油圧式無段変速装置に入力し、この油圧式無段変速装置から車両を走行させる回転動力を出力する構成とし」たこととは、「前記電動モータの回転動力を変速装置に入力し、この変速装置から車両を走行させる回転動力を出力する構成とし」たことにおいて共通する。

ク 甲1発明の「作業機」は、車両に装着したものであることは技術的に明らかであるから、本件発明1の「車両に装着した作業機」に相当する。
また、甲1発明の「油圧発生器(6)」は「作業機などを駆動させるのに必要な油圧を発生させる」ものであるから、「油圧発生器(6)」の動力で「作業機」を駆動させているといえる。
そうすると、甲1発明の「作業機などを駆動させるのに必要な油圧を発生させる油圧発生器(6)が、運転席の下方に配置され」ることと、本件発明1の「前記電動モータの回転動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」たこととは、「動力装置の動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」たことにおいて共通する。

ケ 甲1発明の「左右に平行して設けられる車体フレーム(4)を構成する板状部材の間に前記駆動モータ(3)を設け」ることは、上記イ及びカの対比を踏まえると、本件発明1の「前記左右の車体フレームの間に前記電動モータを設け」ることに相当する。

コ 甲1発明の「バッテリーパック(2)が搭載されるバッテリートレイ(20)」は、本件発明1の「バッテリーを載置するバッテリー収納ケース」に相当する。
そして、上記イ及びカの対比を踏まえると、甲1発明の「車体フレーム(4)から上方離間され、バッテリーパック(2)が搭載されるバッテリートレイ(20)を備え」ることと、本件発明1の「前記左右の車体フレームにバッテリーを載置するバッテリー収納ケースを取り付け」ることとは、「バッテリーを載置するバッテリー収納ケースを設け」ることにおいて共通する。

サ 上記カ及びコの対比を踏まえると、甲1発明の「バッテリートレイ(20)は駆動モータ(3)の上方にあ」ることと、本件発明1の「バッテリー収納ケースは電動モータの上方にあって、その間に空間部を形成し、該空間部の前方には空気取入れ口を構成し」ていることとは、「バッテリー収納ケースは電動モータの上方にあ」ることにおいて共通する。

シ 上記オ及びコの対比を踏まえると、甲1発明の「バッテリートレイ(20)の上方にボンネットを備え」ることと、本件発明1の「前記バッテリー収納ケースの上方にバッテリーの上方を覆う上板を着脱可能に備え、該上板の上方にボンネットを備え」ることとは、「前記バッテリー収納ケースの上方にボンネットを備え」たことにおいて共通する。

ス 上記エ及びキの対比を踏まえると、甲1発明の「駆動モータ(3)後方に上記変速機(5)が配置され、変速機(5)が座席の前輪(1a,1a)側下方に配置された」ことと、「前記油圧式無段変速装置を座席の下方に備え、前記油圧式無段変速装置の動力伝達下流側に変速機構を内装したトランスミッションケースを備えたこと」とは、「変速装置を座席よりも垂直方向下側の範囲に備える」ことにおいて共通する。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点1?5において相違する。

[一致点]
「車体の前後に左右の前輪および左右の後輪を備え、
左右に平行して設けられる車体フレームを備え、
ステップフロアを備え、
ステップフロア上の操縦部には座席を備え、
車体の前部には開閉可能なボンネットを備え、
バッテリーから電力の供給を受けて回転駆動する電動モータを備え、該電動モータを駆動源として走行するトラクタにおいて、
前記電動モータの回転動力を変速装置に入力し、この変速装置から車両を走行させる回転動力を出力する構成とし、
動力装置の動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし、
前記左右の車体フレームの間に前記電動モータを設け、
バッテリーを載置するバッテリー収納ケースを設け、
バッテリー収納ケースは電動モータの上方にあって、
前記バッテリー収納ケースの上方にボンネットを備え、
変速装置を座席よりも垂直方向下側の範囲に備える、
トラクタ。」

[相違点1]
「ステップフロア」に関し、本件発明1は、「車体フレームの前後中間部にステップフロアを備え」るのに対して、甲1発明は、「車体フレーム(4)を構成する板状部材よりも後輪(6,6)側にステップフロアを備え」るものである点。

[相違点2]
「前記電動モータの回転動力を変速装置に入力し、この変速装置から車両を走行させる回転動力を出力する構成とし、動力装置の動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」、「変速装置を座席よりも垂直方向下側の範囲に備える」点に関し、
本件発明1は、「前記電動モータの回転動力を油圧式無段変速装置に入力し、この油圧式無段変速装置から車両を走行させる回転動力を出力する構成とし、前記電動モータの回転動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」たものであり、「前記油圧式無段変速装置を座席の下方に備え、前記油圧式無段変速装置の動力伝達下流側に変速機構を内装したトランスミッションケースを備えた」ものであるのに対して、
甲1発明は、「駆動モータ(3)の出力を走行に適した速度で増減させる変速機(5)が搭載されて駆動モータ(3)と直結され、従来の機械式のエンジン作業車の車体フレーム(4)を幅方向に伸ばすことなく変速機(5)が配置されるようにし、作業機などを駆動させるのに必要な油圧を発生させる油圧発生器(6)が、運転席の下方に配置され」るものであって「駆動モータ(3)後方に上記変速機(5)が配置され、変速機(5)が座席の前輪(1a,1a)側下方に配置された」ものである点。

[相違点3]
「バッテリーを載置するバッテリー収納ケース」を設けた点に関し、
本件発明1は、「前記左右の車体フレームにバッテリーを載置するバッテリー収納ケースを取り付け」たものであるのに対して、
甲1発明は、「車体フレーム(4)から上方離間され、バッテリーパック(2)が搭載されるバッテリートレイ(20)を備え」るものの、「車体フレーム(4)」に「バッテリートレイ(20)」を取り付けることの特定がない点。

[相違点4]
本件発明1は、「バッテリー収納ケースは電動モータの上方にあって、その間に空間部を形成し、該空間部の前方には空気取入れ口を構成し」たものであるのに対して、
甲1発明は、「バッテリートレイ(20)は駆動モータ(3)の上方にあ」るものの、その間に空間部を形成し、該空間部の前方に空気取り入れ口を構成しているか明らかでない点。

[相違点5]
「前記バッテリー収納ケースの上方にボンネットを備え」る点に関し、本件発明1は、「前記バッテリー収納ケースの上方にバッテリーの上方を覆う上板を着脱可能に備え、該上板の上方にボンネットを備え」るものであるのに対して、甲1発明は、上板についての特定がない点。

(2)判断
ア 事案に鑑み、相違点2、4、5について検討する。

(ア)本件発明1の解決しようとする課題等について
a 本件特許の願書に添付された明細書(以下「特許明細書」という。)には、以下の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
動力源として電動モータを使用し、電動モータから走行系と車両に装着した作業機系を駆動する構成である(特許文献1)。
【0003】
また、動力源として電動モータを使用し、電動モータの回転動力を油圧式無段変速装置に入力し、油圧式無段変速装置から走行系の回転動力を出力する構成である(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-248918号公報
【特許文献2】特開2012-177401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1の公報の技術においては、電動モータの回転数によってトルクが変動するため、電動モータの能力を最大限発揮できない。
【0006】
前記特許文献1の公報の技術においては、走行系以外の回転動力の駆動、即ち作業機系を一定回転で回転させる技術が開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
・・・
【0011】
請求項1記載の発明によれば、回転動力を効率良く伝達できる。
また、車体が走行すると空間部Kに空気が流れるので、電動モータ62の発熱がバッテリー収納ケース61側に伝わるのを防止できる。
また、ボンネット20を開けて前記バッテリー収納ケース61の上板61uを外すと、バッテリーBの保守点検が容易にできる。」

b 上記特許明細書【0002】?【0007】の記載から、本件発明1は、「電動モータの回転動力を油圧式無段変速装置に入力し、油圧式無段変速装置から走行系の回転動力を出力する構成である」従来技術においては「電動モータの回転数によってトルクが変動するため、電動モータの能力を最大限発揮できず、走行系以外の回転動力の駆動、即ち作業機系を一定回転で回転させる技術が開示されていないこと」を課題として解決したものと理解できる。
そして、上記課題の前提構成として記載される「電動モータ」や「油圧式無段変速装置」の「回転動力」の「入力」及び「出力」の対象となる「走行系の回転動力」や「走行系以外の回転動力」としての「作業機系の回転動力」について特定した上記相違点2に係る本件発明1の構成は、ひとまとまりの構成ないし技術思想として上記課題を解決し、上記特許明細書【0011】の「回転動力を効率良く伝達できる」との作用効果を奏するものといえる。

c また、上記相違点4に係る本件発明1の構成は、上記特許明細書【0011】の「車体が走行すると空間部Kに空気が流れるので、電動モータ62の発熱がバッテリー収納ケース61側に伝わるのを防止できる」との作用効果を奏するものといえる。

d さらに、上記相違点5に係る本件発明1の構成は、上記特許明細書【0011】の「ボンネット20を開けて前記バッテリー収納ケース61の上板61uを外すと、バッテリーBの保守点検が容易にできる」との作用効果を奏するものといえる。

(イ)相違点2について
a 甲1について
[動機付け及び阻害要因について]
(a)甲1発明は、上記「第4 1(1)ア」の甲1[0006]に記載されるように、「電気駆動式の実装のための部品の効率的配置を通じ、従来の機械式農業用作業車の構造を大幅に変更することなく、電気駆動式への転換を図ることができる電動農業用作業車構造を提供しようとする」ことを「解決しようとする課題」とするものである。

(b)一方、甲1発明に相違点2に係る本件発明1の構成を具備させると、新たに油圧式無段変速装置を設け、「駆動モータ(3)」の出力を当該油圧式無段変速装置に入力し、この油圧式無段変速装置から車両を走行させる回転動力を出力する構成とし、さらに、「油圧発生器(6)」の油圧に代えて又は加えて「駆動モータ(3)」の回転動力で作業機を駆動させる構成とし、さらに、当該油圧式無段変速装置を座席の下方に具備させ、当該油圧式無段変速装置の動力伝達下流側に「変速機(5)」を備えさせて変速機構を内装したトランスミッションケースを具備させることとなる。

(c)そうすると、従来の機械式農業用作業車の構造を大幅に変更することなく部品の効率的配置がなされたものとして甲1が想定する甲1発明に対して、当該相違点2に係る本件発明1の構成を具備した甲1発明は、上記(b)に示すように「油圧発生器(6)」が既に配置される運転席の下方に新たに「油圧式無段変速装置」を設けることを含め、部品の配置及び農業用作業車の構造を大きく異ならせるものといえる。
したがって、甲1発明に、上記相違点2に係る本件発明1の構成を具備させる動機付けは存在せず、阻害要因があるといえる。

b 甲2事項について
(a)上記相違点2に係る本件発明1の構成に相当する構成について
(a-1)甲2事項の「電動モータ」、「油圧式無段変速装置23」は本件発明1の「電動モータ」、「油圧式無段変速装置」にそれぞれ相当し、甲2事項の「電動モータの回転動力を、動力入力側に油圧式無段変速装置23を設けた走行伝動装置であるトランスミッション12に入力する構成とし」たことは、本件発明1の「前記電動モータの回転動力を油圧式無段変速装置に入力し」たことに相当する。

(a-2)甲2事項の「動力入力側に油圧式無段変速装置23を設けた走行伝動装置であるトランスミッション12に伝達された回転動力は、変速されて走行動力と外部取出動力に分離して取り出され、走行動力は前輪10,10を駆動すると共に後輪11,11を駆動し、外部取出動力は移植部4へ伝動されるとともに施肥装置5へ伝動され」ることは、すなわち、油圧式無段変速装置23から回転動力を出力する構成とされているといえ、甲2事項の「回転動力は、変速されて走行動力と外部取出動力に分離して取り出され、走行動力は前輪10,10を駆動すると共に後輪11,11を駆動し」たことと、本件発明1の「前記電動モータの回転動力を油圧式無段変速装置に入力し、この油圧式無段変速装置から車両を走行させる回転動力を出力する構成」としたこととは、「回転動力が車両を走行させる」ことにおいて共通する。

また、上記(a-1)を踏まえると、甲2事項の「電動モータの回転動力」は、「油圧式無段変速装置23」を介して「トランスミッション12に伝達され」、「外部取出動力に分離して取り出され」、「外部取出動力は移植部4へ伝動されるとともに施肥装置5へ伝動され」るものである。ここで、甲2事項の「移植部4」及び「施肥装置5」は本件発明1の「車両に装着した作業機」に相当し、甲2事項の「電動モータの回転動力」は、「油圧式無段変速装置23」を介して「トランスミッション12に伝達され」、「外部取出動力に分離して取り出され」、「外部取出動力は移植部4へ伝動されるとともに施肥装置5へ伝動され」ることは、本件発明1の「前記電動モータの回転動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」たことに相当する。

(a-3)甲2事項の「座席6」は本件発明1の「座席」に相当する。
そして、甲2事項の「油圧式無段変速装置23を、座席6の下方かつ前輪10,10側に備え」ることと、本件発明1の「前記油圧式無段変速装置を座席の下方に備え」ることとは、「前記油圧式無段変速装置を座席よりも垂直方向下側の範囲に備える」ことにおいて共通する。

(a-4)甲2事項の「油圧式無段変速装置23の動力出力側」、「変速機構を内装したトランスミッションケース」は本件発明1の「前記油圧式無段変速装置の動力伝達下流側」、「変速機構を内装したトランスミッションケース」にそれぞれ相当する。
そして、甲2事項の「油圧式無段変速装置23の動力出力側に」「変速機構を内装したトランスミッションケースを備えるトランスミッション12が設けられること」は、本件発明1の「前記油圧式無段変速装置の動力伝達下流側に変速機構を内装したトランスミッションケースを備えた」ことに相当する。

(a-5)以上から、甲2事項は、上記相違点2に係る本件発明1の構成における、「前記電動モータの回転動力を油圧式無段変速装置に入力し、この油圧式無段変速装置から車両を走行させる回転動力を出力する構成とし、前記電動モータの回転動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」たものであり、「前記油圧式無段変速装置を座席よりも垂直方向下側の範囲に備え、前記油圧式無段変速装置の動力伝達下流側に変速機構を内装したトランスミッションケースを備えた」ことと共通する構成を具備するものといえる。
一方、甲2事項は、上記相違点2に係る本件発明1の構成における、「前記油圧式無段変速装置を座席よりも垂直方向下側の範囲」として「座席の下方」に備える構成を欠くものといえる。

(b)甲1発明への甲2事項の適用について
甲1発明は「トラクタ」であるのに対して、甲2事項は「苗移植機」であるから、両者は農作業機である点で一応共通する。
しかしながら、甲1発明の解決しようとする課題は、上記「第4 1(1)ア」の[0006]に示す「電気駆動式の実装のための部品の効率的配置を通じ、従来の機械式農業用作業車の構造を大幅に変更することなく、電気駆動式への転換を図ることができる電動農業用作業車構造を提供しようとする」ことである(以下、「甲1発明の課題A」という。)のに対して、甲2に記載される課題は、上記「第4 2(1)」の【0005】に記載される「高負荷の圃場作業の安定化とともに、低負荷の路上走行の省エネ化および操作性の確保とにより、幅広い動力条件に対応することができる作業車両を提供すること」であり、甲1発明と甲2事項とは解決しようとする課題が異なる。
そして、甲1発明に新たに「油圧式無段変速装置」を設けることを含め、変速機を追加したり種類を変えると、伝導機構の配置やその周辺の部品の配置、構造までも変更する必要があり、大幅な変更となって甲1発明の課題Aに反することになる(以下、「甲1発明の大幅な変更が課題Aに反すること」と単に記載することもある)。
以上から、甲1発明に、甲2事項を適用することに動機付けは存在せず、阻害要因もあるといえる。

また、甲2事項は上記相違点2に係る本件発明1の構成における、「前記油圧式無段変速装置(74)を座席(12)よりも垂直方向下側の範囲」として「座席(12)の下方」に備える構成を欠くから、仮に甲1発明に甲2事項を適用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至らない。

c 甲3事項について
(a)上記相違点2に係る本件発明1の構成に相当する構成について
(a-1)甲3事項の「電気モータを含」む「エンジン31」は本件発明1の「電動モータ」に、甲3事項の「HSTである無段変速装置2A」は本件発明1の「油圧式無段変速装置」にそれぞれ相当する。
そして、甲3事項の「エンジン動力は、走行用の動力伝達機構2を構成しHSTである無段変速装置2Aに入力し」たことは、本件発明1の「前記電動モータの回転動力を油圧式無段変速装置に入力し」たことに相当する。

(a-2)甲3事項の「車輪を有する車輪走行装置3Aを駆動し」たことは、本件発明1の「車両を走行させる回転動力を出力する構成とし」たことに相当する。
そして、甲3事項の「エンジン31によって動力伝達機構2を間に介装した車輪を有する車輪走行装置3Aを駆動し」たことは、「動力伝達機構2」に「HSTである無段変速装置2A」が含まれることから、上記(a-1)の対比も踏まえると、本件発明1の「この油圧式無段変速装置から車両を走行させる回転動力を出力する構成とし」たことに相当する。

また、甲3事項の「作業装置3B」は本件発明1の「車両に装着した作業機」に相当する。
そして、上記(a-1)の対比を踏まえると、甲3事項の「作業装置3Bにもエンジン31から動力を供給され」ることは、「エンジン31」の回転動力で「作業装置3B」を駆動させる構成としたものといえるから、本件発明1の「前記電動モータの回転動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」たことに相当する。

(a-3)甲3事項の「運転座席17a」は本件発明1の「座席」に相当する。
そして、上記(a-1)の対比も踏まえると、甲3事項の「HSTである無段変速装置2Aを含む動力伝達機構2を、キャビン16の内部に設けられる運転座席17aが設けられる運転部17の下方に備え」ることは、本件発明1の「前記油圧式無段変速装置を座席の下方に備え」ることに相当する。

(a-4)甲3事項の「ギヤ変速装置2B」の「変速機構を内装したトランスミッションケース」は本件発明1の「変速機構を内装したトランスミッションケース」に相当する。
そして、上記(a-1)における対比を踏まえると、甲3事項の「HSTである無段変速装置2Aの動力伝達下流側に変速機構を内装したトランスミッションケースを備えるギヤ変速装置2Bを備えたこと」は、本件発明1の「前記油圧式無段変速装置の動力伝達下流側に変速機構を内装したトランスミッションケースを備えた」ことに相当する。

(a-5)以上から、甲3事項は、上記相違点2に係る本件発明1の構成を具備したものといえる。

(b)甲1発明への甲3事項の適用について
上記「b(b)」に示した上記「第4 1(1)ア」の甲1[0006]に記載される甲1発明の課題Aに対して、甲3に記載される課題は、上記「第4 3(1)」の【0006】に記載される「遠く離れて点在している作業地を、自らの道路走行によって移動するような車輪駆動式作業車において取得される情報を、道路走行と作業走行に区分けして管理」することであり、甲1発明と甲3事項とは解決しようとする課題が異なる。
また、甲3事項は「キャビン16の内部」の「運転部17」に「運転座席17a」を備える「車輪駆動式収穫機」であるから、キャビンを有しない「トラクター」である甲1発明と車両構造も異なるものといえる。
そして、上記「b(b)」に示した甲1発明の大幅な変更が課題Aに反することも踏まえると、甲1発明に、甲3事項を適用することに動機付けは存在せず、阻害要因もあるといえる。

d 甲4事項について
(a)上記相違点2に係る本件発明1の構成に相当する構成について
(a-1)甲4事項の「1つのモータ(38)」は本件発明1の「電動モータ」に、甲4事項の「HST(39)」は本件発明1の「油圧式無段変速装置」にそれぞれ相当し、甲4事項の「電動モータ(38)で駆動するHST(39)」「を備え」たことは、電動モータ(38)の回転動力をHST(39)に入力していることが技術的に明らかであるから、本件発明1の「前記電動モータの回転動力を油圧式無段変速装置に入力し」たものに相当する。

(a-2)甲4事項の「第1及び第2ブーム」は本件発明1の「車両に装着した作業機」に相当し、甲4事項の「第1及び第2ブームの昇降を行わしめるシリンダ(16)に油圧を供給する」ことは本件発明1の「作業機を駆動させる構成とし」たことに相当する。
そして、上記(a-1)の対比を踏まえると、甲4事項の「前記電動モータ(38)は第1及び第2ブームの昇降を行わしめるシリンダ(16)に油圧を供給する油圧ポンプ(75)に駆動連結させたこと」は、「前記電動モータ(38)」の回転動力で駆動連結された「油圧ポンプ(75)」を駆動し「第1及び第2ブームの昇降を行わしめるシリンダ(16)に油圧を供給する」ものといえるから、本件発明1の「前記電動モータの回転動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」たことに相当する。

(a-3)以上から、甲4事項は、上記相違点2に係る本件発明1の構成における、「前記電動モータの回転動力を油圧式無段変速装置に入力し、前記電動モータの回転動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」たものであることと共通する構成を具備するものといえる。
一方、甲4事項は、上記相違点2に係る本件発明1の構成における、「この油圧式無段変速装置から車両を走行させる回転動力を出力する構成とし」、「前記油圧式無段変速装置を座席よりも垂直方向下側の範囲に備え、前記油圧式無段変速装置の動力伝達下流側に変速機構を内装したトランスミッションケースを備えた」ことに相当する構成を欠くものといえる。

(b)甲1発明への甲4事項の適用について
甲1発明は「トラクタ」であるのに対して、甲4事項は「高所作業車」であるから、両者は作業機である点で一応共通する。
しかしながら、上記b(b)に示した上記「第4 1(1)ア」の甲1[0006]に記載される甲1発明の課題Aに対して、甲4に記載される課題は、上記「第4 4(1)」の【0003】に記載される「駐車ブレーキレバーを設ける分構造が複雑となるばかりでなく、操作忘れした場合には不測に機体が走行する」ことであり、甲1発明と甲4事項とは解決しようとする課題が異なる。
そして、上記「b(b)」に示した甲1発明の大幅な変更が課題Aに反することも踏まえると、甲1発明に、甲4事項を適用することに動機付けは存在せず、阻害要因もあるといえる。

また、甲4事項は上記相違点2に係る本件発明1の構成における、「この油圧式無段変速装置から車両を走行させる回転動力を出力する構成とし」、「前記油圧式無段変速装置を座席よりも垂直方向下側の範囲に備え、前記油圧式無段変速装置の動力伝達下流側に変速機構を内装したトランスミッションケースを備えた」との構成を欠くから、仮に甲1発明に甲4事項を適用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至らない。

e 甲5事項、甲6事項、甲7事項について
(a)上記相違点2との相当関係について
(a-1)甲5事項の「静油圧式無段変速装置8」及び「無段変速装置8」、甲6事項の「静油圧式無段変速装置8」及び甲7事項の「無段変速装置44」は本件発明1の「油圧式無段変速装置」に相当する。そして、甲5事項の「エンジン5の回転動力をミッションケ-ス28内の静油圧式無段変速装置8に伝え」ること、甲6事項の「エンジン1に直結した主クラッチケース2から伝動軸9を介して静油圧式無段変速装置8に」「動力」を「入力」すること、甲7事項の「エンジンEの動力」が「前後進切換機構45を介し副変速機構46に伝達され、無段変速装置44で適宜変速され」ることと、本件発明1の「前記電動モータの回転動力を油圧式無段変速装置に入力し」ていることとは、「動力装置の回転動力を油圧式無段変速装置に入力し」ていることにおいて共通する。

(a-2)甲5事項の「副変速装置10」が車両を走行させる回転動力を出力することは技術的に明らかであり、甲5事項の「無段変速装置8」が「モ-タ軸9の回転を副変速装置10に伝達すべく構成し」ていること、甲6事項の「静油圧式無段変速装置8」は「後輪7」と「前輪6」を駆動するものであること、甲7事項の「無段変速装置44」は「後輪16,16」と「前輪15,15」に動力を伝達するものであることは、本件発明1の「油圧式無段変速装置から車両を走行させる回転動力を出力する構成とし」たことに相当する。

(a-3)甲5事項の「動力取出軸12、13」、甲6事項の「リヤPTO軸P」、甲7事項の「PTO軸37」が車両に装着した作業機を駆動させる構成であることは技術的に明らかである。甲5事項の「無段変速装置8のポンプ軸を、動力取出軸12、13に対する回転動力を入切する油圧クラッチ15に接続し」たこと、甲6事項の「静油圧式無段変速装置8」が「リヤPTO軸P」を駆動すること、甲7事項の「エンジンEの動力」が「PTO軸37に伝達されるものであ」ることと、本件発明1の「前記電動モータの回転動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」たこととは、「前記動力装置の動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」たことにおいて共通する。

(a-4)甲5事項は「ミッションケース28内」に「静油圧式無段変速装置8」を有するものである。そして、甲5事項の「ミッションケース28が座席の下方に位置すること」、及び、甲6事項の「静油圧式無段変速装置8が座席の下方に位置すること」は、本件発明1における「前記油圧式無段変速装置を座席の下方に備え」ることに相当する。

(a-5)甲5事項は「無段変速装置8のモ-タ軸9の回転を副変速装置10に伝達すべく構成し」、甲6事項は「静油圧式無段変速装置8に入力された動力を無段に変速及び正逆転に切換えてギヤトランスミッションケース3に入力し、更に適宜ギヤ変速して」いるものであり、甲7事項は「無段変速装置44で適宜変速され、前後進切換機構45を介し副変速機構46に伝達され、副変速機構46で適宜変速され」るものであって、甲5事項の「副変速装置10」、甲6事項の「適宜ギヤ変速」する「ギヤトランスミッションケース3」における変速機構、甲7事項の「副変速機構46」は、本件発明1の「前記油圧式無段変速装置の動力伝達下流側」の「変速機構」に相当し、甲6事項の「ギヤトランスミッションケース3」は本件発明1の「トランスミッションケース」に相当し、甲5事項の「副変速装置10」、甲7事項の「副変速機構46」が内装されるトランスミッションケースを具備することは技術的に明らかである。
そうすると、甲5?7事項は、「動力装置の回転動力を油圧式無段変速装置に入力し、この油圧式無段変速装置から車両を走行させる回転動力を出力する構成とし、前記動力装置の回転動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」たものであるから、上記相違点2に係る本件発明1の構成と、「前記油圧式無段変速装置の動力伝達下流側に変速機構を内装したトランスミッションケースを備えた」点において共通する構成を備えたものといえる。
そして、甲5?6事項と、上記相違点2に係る本件発明1の構成とは、「前記油圧式無段変速装置(74)を座席(12)の下方に備え」た点においても本件発明1と共通する構成を備えたものといえる。
一方、甲7事項において「無段変速装置44」と「運転席27」との配置が明らかでないから、甲7事項は上記相違点2に係る本件発明1の構成における、「前記油圧式無段変速装置(74)を座席(12)の下方に備え」ることに相当する構成を備えるか不明である。

(b)甲1発明への甲5?7事項の適用について
上記b(b)に示した上記「第4 1(1)ア」の甲1[0006]に記載される甲1発明の課題Aに対して、甲5に記載される課題は、上記「第4 5(1)」の【0004】に記載される「油圧クラッチが焼き付いたりしないようにすべく強制潤滑を安定的に行ない、油圧クラッチの入切を良好に行なえるように」することであり、甲6に記載される課題は、上記「第4 6(1)」の「ギヤトランスミッションケースの重量増大の抑制を図りながら前記騒音の洩れ出しを防止すること」であり、甲7に記載される課題は、上記「第4 7(1)」の【0005】に記載される「作業車両の制御装置の構成を大きく変更することなく、クラッチペダルの踏み込み操作に応じて無段変速装置の変速比を変更し、走行速度を変速可能とする作業車両の制御装置を提供すること」であるから、甲1発明と甲5?7事項とは解決しようとする課題が異なる。

また、上記相違点2に係る本件発明1の「車両を走行させる回転動力を出力する構成」に、甲1発明は「駆動モータ(3)の出力」を用いるのに対して、上記(a-1)及び(a-2)に示すように甲5?7事項は「エンジン5の回転動力」、「エンジン1」の「動力」、「エンジンEの動力」を用いており、甲1発明と甲5?7事項とは、「車両を走行させる回転動力を出力する構成」の入力側に用いられる動力装置においても相違している。

そして、上記「b(b)」に示した甲1発明の大幅な変更が課題Aに反することも踏まえると、甲1発明に、甲5?7事項を適用することに動機付けは存在せず、阻害要因もあるといえる。

また、上記(a-5)を踏まえると、甲7事項は上記相違点2に係る本件発明1の構成における、「前記油圧式無段変速装置を座席よりも垂直方向下側の範囲に備え」ることに相当する構成を欠くから、仮に甲1発明に甲7事項を適用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至らない。

f 甲11事項について
(a)上記相違点2との相当関係について
甲11事項の「電動モータ6」は本件発明1の「前記電動モータ」に相当し、甲11事項は「電動モータ6からミッションケース19内の伝動装置」に「動力」が「伝道され」、「ミッションケース19内の伝動装置として」、「作業機2へ動力伝達するPTO軸の変速を行うPTO変速装置34等を構成した」ものであるから、上記相違点2に係る本件発明1の「前記電動モータの回転動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」たものに相当する構成を備えるといえる。
一方、甲11事項は、上記相違点2に係る本件発明の「油圧式無段変速装置」に相当する構成を欠くものである。

(b)甲1発明への甲11事項の適用について
上記b(b)に示した上記「第4 1(1)ア」の甲1[0006]に記載される甲1発明の課題Aに対して、甲11に記載される課題は、上記「第4 11(1)」の【0004】に記載される「前輪の軸芯よりも後方に電動モータが配置されており、このため機体後部に作業機を装着して作業走行する場合、機体の重心位置が機体後部側寄りに移動してしまい、さらに前進で作業走行すると駆動反力が加わることで、機体前部に上向きの力が作用し機体後部に下向きに力が作用することで、機体の前後バランスが機体後部側寄りになってしまい、安定した作業走行ができない」ことであり、甲1発明と甲11事項とは解決しようとする課題が異なる。
そして、上記「b(b)」に示した甲1発明の大幅な変更が課題Aに反することも踏まえると、甲1発明に、甲11事項を適用することに動機付けは存在せず、阻害要因もあるといえる。

また、甲11事項は上記相違点2に係る本件発明1の構成における、「油圧式無段変速装置」に相当する構成を欠くものであるから、仮に甲1発明に甲11事項を適用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至らない。

g 甲12事項について
(a)上記相違点2との相当関係について
(a-1)甲12事項の「電動モータ30」、「HSTモータ34」は本件発明1の「前記電動モータ」、「油圧式無段変速装置」にそれぞれ相当する。
そして、甲12事項の「電動モータ30の駆動軸には、カップリング31を介してHSTポンプ32および作業機ポンプ33が直列に接続され、HSTポンプ32からの作動油がHSTモータ34に供給され」ることは、本件発明1の「前記電動モータの回転動力を変速装置に入力し」たことに相当する。

(a-2)甲12事項の「HSTモータ34からの出力は、トランスファを経由した後に前後のプロペラシャフトを介してフロントアクスルおよびリヤアクスルに伝達され、前輪13および後輪21が駆動されるものであ」ることは、本件発明1の「この油圧式無段変速装置から車両を走行させる回転動力を出力する構成とし」たことに相当する。

また、甲12事項の「作業機5」は本件発明1の「車両に装着した作業機」に相当する。
そして、甲12事項の「作業機ポンプ33からの作動油が作業機5に供給され」、「作業機ポンプ33は電動モータ30で駆動されること」は、本件発明1の「前記電動モータの回転動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」たことに相当する。

(a-3)甲12事項の「シート17」は本件発明1の「座席」に相当する。
そして、上記(a-1)の対比も踏まえると、甲12事項の「シート17の下方かつ前輪13側にアーティキュレートピン4が配置され、アーティキュレートピン4の近傍に、HSTモータ34が配置されている」ことと、本件発明1の「前記油圧式無段変速装置を座席の下方に備え」ることは、「油圧式無段変速装置を座席よりも垂直方向下側の範囲に備える」点で共通している。一方で、甲12事項の「HSTモータ34」が、「シート17の下方」に備えられるか否かは不明である。

(a-4)甲12事項は「HSTモータ34からの出力は、トランスファを経由した後に前後のプロペラシャフトを介してフロントアクスルおよびリヤアクスルに伝達され、前輪13および後輪21が駆動されるものであ」るから、本件発明1の「前記油圧式無段変速装置の動力伝達下流側に変速機構を内装したトランスミッションケースを備える」との構成を欠くものといえる。

(b)甲1発明への甲12事項の適用について
上記b(b)に示した上記「第4 1(1)ア」の甲1[0006]に記載される甲1発明の課題Aに対して、甲12に記載される課題は、上記「第4 12(1)」の【0005】に記載される「より多くのバッテリを積載した場合でも、バッテリを効率的に冷却できるバッテリ駆動のホイールローダを提供すること」ことであり、甲1発明と甲12事項とは解決しようとする課題が異なる。
また、上記「第4 12(1)」の甲12の【0025】に「後部フレーム15の前後方向の略中央であって、その内部には電動モータ30が収容されている」と記載されるように、甲12事項の電動モータ30は後部フレームに位置するものであるから、甲1発明の「左右に平行して設けられる車体フレームを構成する板状部材の間に前記駆動モータを設け」、「バッテリートレイは駆動モータの上方にあって、バッテリートレイの上方にボンネットを備え」た配置と電動モータの配置においても異なるものである。
そして、上記「b(b)」に示した甲1発明の大幅な変更が課題Aに反することも踏まえると、甲1発明に、甲12事項を適用することに動機付けは存在せず、阻害要因もあるといえる。

また、甲12事項は上記相違点2に係る本件発明1の「前記油圧式無段変速装置を座席の下方に備え」ることに相当する構成を具備するか不明であり、上記相違点2に係る本件発明1の「前記油圧式無段変速装置の動力伝達下流側に変速機構を内装したトランスミッションケースを備える」ことに相当する構成を欠くものであるから、仮に甲1発明に甲12事項を適用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至らない。

h 甲第8?10号証について
甲第8?10号証は、上記相違点5に係る本件発明1の構成の容易想到性を示すために提出された証拠であり、上記相違点2に係る本件発明1の構成に相当する構成は開示されていない。

i 甲第13?16号証について
甲第13?16号証は上記相違点4に係る本件発明1の構成の容易想到性を示すために提出された証拠であり、上記相違点2に係る本件発明1の構成に相当する構成は開示されていない。

j 本件発明1の奏する効果の開示について
甲第1?16号証のいずれにも、上記「(ア)b」の課題の前提構成として記載される「電動モータ」や「油圧式無段変速装置」の「回転動力」の「入力」及び「出力」の対象となる「走行系の回転動力」や「走行系以外の回転動力」としての「作業機系の回転動力」について特定した上記相違点2に係る本件発明1の構成を具備することで、ひとまとまりの構成ないし技術思想として、特許明細書【0011】の「回転動力を効率良く伝達できる」との作用効果を奏することの記載を見いだすことはできない。

k 小括
したがって、上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは甲1発明及び甲2?16事項を考慮しても容易想到とはいえないものである。

(ウ)相違点4について
a 甲13事項について
(a)上記相違点4との相当関係について
甲13事項の「蓄電池16」は本件発明1の「バッテリー」に、甲13事項の「収納ケース15」は本件発明1の「バッテリー収納ケース」に、甲13事項の「モータ2」は本件発明1の「電動モータ」に、甲13事項の「空気取り入れ口4」は本件発明1の「空気取入れ口」にそれぞれ相当し、甲13事項の「蓄電池16の収納ケース15はモータ2の上方にあって、その間に領域が形成され、該領域の前方には空気取り入れ口4を構成したこと」と、本件発明1の「バッテリー収納ケースは電動モータの上方にあって、その間に空間部を形成し、該空間部の前方には空気取入れ口を構成し」たこととは、「バッテリー収納ケースは電動モータの上方にあって、その間に領域を形成し、該領域の前方には空気取入れ口を構成し」たことにおいて共通する。
一方、甲13事項には、「収納ケース15」と「モータ2」の間の「領域」が「空間部」であることは特定されておらず、甲13事項は、上記相違点4に係る本件発明1の「バッテリー収納ケース」と「電動モータ」の間に「空間部」を形成しているとの構成を欠くものである。

(b)甲1発明への甲13事項の適用について
上記「(イ)b(b)」に示した上記「第4 1(1)ア」の甲1[0006]に記載される甲1発明の課題Aに対して、甲13に記載される課題は、上記「第4 13(1)」の1欄23?29行に記載される「冷却用空気の取入れ口を機の最前部に設けて、ここに集塵フイルタを配し、一方モータを設置する保護ケースの側壁を開閉自在となして、該ケース内からの除塵に便ならしめるようにした」ことであり、甲1発明と甲13事項とは解決しようとする課題が異なる。
また、甲13事項は「電動式ハンドトラクタ」であるから、甲1発明の「車体フレーム(4)を構成する板状部材よりも後輪側にステップフロアを備え、ステップフロア上のハンドル近傍には座席を備え」た、「電気駆動式のトラクター」とは大きさ自体が大幅に異なり機能も異なるものであって、電動モータやバッテリー、その周辺部品の寸法、配置においても異なるものである。
そうすると、甲1発明に、甲13事項を適用する動機付けは存在しない。

また、甲13事項は上記相違点4に係る本件発明1の構成における「バッテリー収納ケース」と「電動モータ」の間の「領域」が「空間部」であることに相当する構成を欠くものであるから、仮に甲1発明に甲13事項を適用したとしても、上記相違点4に係る本件発明1の構成に至らない。

b 甲14事項について
(a)上記相違点4との相当関係について
甲14事項の「バッテリ14」は本件発明1の「バッテリー」に、甲14事項の「バッテリケース15」は本件発明1の「バッテリー収納ケース」に、甲14事項の「電動モータ12」は本件発明1の「電動モータ」に、甲14事項の「冷却風入口41」及び「冷却風出口43」は本件発明1の「空気取入れ口」に、それぞれ相当し、甲14事項の「電動モータ12の上方かつ電動モータ12の車幅方向両外側にバッテリ14が配置され、その間に領域が形成され、バッテリ14を収納したバッテリケース15の車体進行方向前面には冷却風入口41が設けられ、バッテリケース15のリヤフレーム106側の側面には冷却風出口43が設けられ、冷却風入口41より流入した空気はバッテリ14を冷却し、冷却風出口43より空間124に空気を流出し、電動モータ12が配置されるリヤフレーム106の前部空間124に流入すること」と、本件発明1の「バッテリー収納ケースは電動モータの上方にあって、その間に空間部を形成し、該空間部の前方には空気取入れ口を構成し」たこととは、「バッテリー収納ケースは電動モータの垂直方向上側の範囲にあって、その間に領域を形成し、空気取入れ口を構成し」たことにおいて共通する。
一方、甲14事項には、「バッテリケース15」が「電動モータ12」の上方にあること、「領域」が「空間部」であって、「該空間部」の前方に「冷却風入口41」及び「冷却風出口43」を構成したものであることまでは特定されておらず、甲14事項は、上記相違点4に係る本件発明1の「バッテリー収納ケース」が「電動モータ」の上方にあるとの構成、及び、その間に「空間部」を形成し、該「空間部」の前方には「空気取入れ口」を構成したものである、との構成を欠くものである。

(b)甲1発明への甲14事項の適用について
上記「(イ)b(b)」に示した上記「第4 1(1)ア」の甲1[0006]に記載される甲1発明の課題Aに対して、甲14に記載される課題は、上記「第4 14(1)」の【0009】に記載される「発電機、インバータ、バッテリ、電動モータを適切に配置することでそれらの接続ケーブルを短くすることができ、動作の信頼性を向上することができる電動駆動のホイール式作業車両を提供する」こと、【0010】に記載される「バッテリやインバータ/コンバータを車体内部の温度変化による影響が少なくスペース的に余裕のある場所に配置することで、バッテリの性能を十分に発揮することができかつバッテリ及びインバータ/コンバータのメインテナンスが容易となる電動駆動のホイール式作業車両を提供すること」、及び、【0011】に記載される、「バッテリを冷却した空気を発電機及び電動モータの配置空間に導くことで発電機及び電動モータを適切に冷却することができる電動駆動のホイール式作業車両を提供すること」であり、甲1発明と甲14事項とは解決しようとする課題が異なる。
また、甲14事項は上記「第4 14(1)」の【0036】に記載されるように「運転室110の下側に位置するリヤフレーム106の前部空間124には発電機11と電動モータ12及びミッション13が配置され」るものであるから、甲1発明の「左右に平行して設けられる車体フレームを構成する板状部材の間に前記駆動モータを設け、車体フレームから上方離間され、バッテリーパックが搭載されるバッテリートレイを備え、バッテリートレイは駆動モータの上方にあって、バッテリートレイの上方にボンネットを備え」るものとは電動モータ12の配置が大きく異なるものである。
そうすると、甲1発明に、甲14事項を適用する動機付けは存在しない。

また、甲14事項は上記相違点4に係る本件発明1の構成における「バッテリー収納ケース」が「電動モータ」の上方にあるとの構成、及び、その間に「空間部」を形成し、該「空間部」の前方には「空気取入れ口」を構成したものである、との構成を欠くものであるから、仮に甲1発明に甲14事項を適用したとしても、上記相違点4に係る本件発明1の構成に至らない。

c 甲7、15?16事項について
甲7事項における「ボンネット11内にエンジンE、ラジエータ、冷却ファン、エアクリーナ、バッテリーなどを備え、ボンネット11の前部には、前照灯12、ボンネット11内に外気を取り入れるためのフロントグリル13を備えること」なる構成、甲15?甲16事項の構成から、「エンジン駆動式トラクタにおいてボンネットの前部にボンネット内に外気を取り入れるための開口部を設けること」は、周知技術といえる(以下「周知技術A」という。)。

しかしながら、甲1発明は「駆動モータが機体駆動のための動力を発生させる電気駆動式のトラクター」であるのに対して、上記周知技術Aは「エンジン駆動式トラクタ」であって「機体駆動のための動力を発生させる」「駆動モータ」は存在せず、両者はエンジンないし電動モータやバッテリー、その周辺部品の寸法、配置において大幅に構造が異なるものである。そうすると、甲1発明に、上記周知技術Aを適用する動機付けは存在しない。

また、上記周知技術Aは「エンジン駆動式トラクタ」を備えるものであって「機体駆動のための動力を発生させる」「電動モータ」を備えないから、上記相違点4に係る本件発明1の構成における「バッテリー収納ケース」と「電動モータ」の間の「領域」が「空間部」であること、及び、「該空間部の前方に空気取り入れ口を構成している」ことに相当する構成を欠くものであるから、仮に甲1発明に上記周知技術Aを適用したとしても、上記相違点4に係る本件発明1の構成に至らない。

d 甲第2?6,8?12号証について
甲第2?6,11?12号証は、上記相違点2に係る本件発明1の構成の容易想到性を示すために提出された証拠であり、上記相違点4に係る本件発明1の構成に相当する構成は開示されていない。
また、甲第8?10号証は、上記相違点5に係る本件発明1の構成の容易想到性を示すために提出された証拠であり、上記相違点4に係る本件発明1の構成に相当する構成は開示されていない。

e 本件発明1の奏する効果の開示について
甲第1?16号証のいずれにも、上記相違点4に係る本件発明1の構成を具備することで、上記「(ア)c」に示すように特許明細書【0011】の「車体が走行すると空間部Kに空気が流れるので、電動モータ62の発熱がバッテリー収納ケース61側に伝わるのを防止できる」との作用効果を奏することの記載を見いだすことはできない。

f 小括
したがって、上記相違点4に係る本件発明1の構成とすることは甲1発明及び甲2?16事項を考慮しても容易想到とはいえないものである。

(エ)相違点5について
a 甲8?10事項について
(a)上記相違点5との相当関係について
甲8事項の「バッテリ20」、甲9事項の「駆動用蓄電池36」、甲10事項の「バッテリ22a,22b」は本件発明1の「バッテリー」に相当する。
また、甲8事項の「ボックス本体15」、甲9事項の「電池容器10」、甲10事項の「バッテリケース10」は本件発明1の「バッテリー収納ケース」に相当する。
さらに、甲8事項の「蓋10」、甲9事項の「蓋体34」、甲10事項の「ケースフロント18」は本件発明1の「上板」に、それぞれ相当する。
そして、「電気車両」に関する甲8?10事項は、それぞれ、上記相違点5における本件発明1の「前記バッテリー収納ケースの上方にバッテリーの上方を覆う上板を着脱可能に備え」た構成を有しているといえる。
一方で、甲8?10事項には、本件発明1の「該上板の上方にボンネットを備え」ることに相当する構成は記載されていない。

(b)甲1発明への甲8?10事項の適用について
上記「(イ)b(b)」に示した上記「第4 1(1)ア」の甲1[0006]に記載される甲1発明の課題Aに対して、甲8に記載される課題は、上記「第4 8(1)」の【0007】に記載される「バッテリや電装品のメンテナンス作業時における安全性を確実に確保することができる良好な安全プラグボックスを提供すること」することであり、甲9に記載される課題は、上記「第4 9(1)」の【0009】に記載される「軽量化が図れ、十分な剛性と靭性を備え、しかも電磁波の外部への放出を生じさせない車両用電池容器を提供すること」することであり、甲10に記載される課題は、上記「第4 10(1)」の【0007】に記載される「バッテリの破壊防止及び防水に優れ、バッテリ関連機器のメンテナンスが容易な電気自動車を提供すること」であるから、甲1発明と甲8?10事項とは解決しようとする課題が異なる。

また、甲1発明は「駆動モータ(3)が機体駆動のための動力を発生させる電気駆動式のトラクター」であるのに対して、甲8?10事項は「電気車両」であって、両者は電動モータ、バッテリー、及びそれらの周辺部品に関しての寸法や、配置においても明らかに異なるものである。そうすると、甲1発明に、甲8?10事項を適用する動機付けは存在しない。

また、上記(a)を踏まえると、甲8?10事項は上記相違点5に係る本件発明1の構成における、「該上板の上方にボンネットを備え」ることに相当する構成を欠くから、仮に甲1発明に甲8?10事項を適用したとしても、上記相違点5に係る本件発明1の構成に至らない。

b 甲第2?7,11?16号証について
甲第2?7,11?12号証は、上記相違点2に係る本件発明1の構成の容易想到性を示すために提出された証拠であり、上記相違点5に係る本件発明1の構成に相当する構成は開示されていない。
また、甲第13?16号証は、上記相違点4に係る本件発明1の構成の容易想到性を示すために提出された証拠であり、上記相違点5に係る本件発明1の構成に相当する構成は開示されていない。

c 本件発明1の奏する効果の開示について
甲第1?16号証のいずれにも、上記相違点5に係る本件発明1の構成を具備することで、上記「(ア)d」に示すように特許明細書【0011】の「ボンネット20を開けて前記バッテリー収納ケース61の上板61uを外すと、バッテリーBの保守点検が容易にできる」との作用効果を奏することの記載を見いだすことはできない。

d 小括
したがって、上記相違点5に係る本件発明1の構成とすることは甲1発明及び甲2?16事項を考慮しても容易想到とはいえないものである。

イ 申立人の主張について
(ア)上記相違点2に関して
a 申立人は、上記相違点2に関して以下のように主張している。
(a)甲第2号証?甲第4号証から、「電気駆動式農業用作業車において電動モータの回転動力を油圧式無段変速装置に入力し、この油圧式無段変速装置から車両を走行させる回転動力を出力し、油圧式無段変速装置の動力伝達下流側に変速機構を内装したトランスミッションケースを備える構成」は周知技術(以下「周知技術1」という。)であり(異議申立書16ページ16行?20ページ6行)、甲1号証に記載された発明に周知技術1を適用して、変速機(5)を油圧式無段変速装置及び変速機構に置換することに困難性はなく、油圧式無段変速装置の位置を座席の前斜め下にするか座席の下方にするかは、当業者が適宜なし得た設計事項である(異議申立書39ページ1?13行)。

(b)甲第5号証?甲第7号証から、「エンジン駆動式農業用作業車においてエンジンの回転動力を油圧式無段変速装置に入力し、この油圧式無段変速装置から車両を走行させる回転動力を出力し、油圧式無段変速装置を座席の下方に備え、油圧式無段変速装置の動力伝達下流側に変速機構を内装したトランスミッションケースを備える構成」は周知技術(以下「周知技術2」という。)であり(異議申立書20ページ7行?23ページ9行)、甲1号証に記載された発明に周知技術2を適用して、変速機(5)を油圧式無段変速装置及び変速機構に置換し、油圧式無段変速装置の位置を座席の下方に配置することに困難性はない(異議申立書39ページ14?23行)。
あわせて、甲1に接した当業者は[0003]、[0004]、[0006]の記載に導かれて、従来の機械式(エンジン式)農業用作業車の構造を大幅に変更することなく電気駆動式への転換を図るべく、甲第1号証に記載された発明にエンジン式の周知技術2を適用すると考えられるから、引用発明1に周知技術2を適用する動機付けが存在する(異議申立書39ページ24行?40ページ19行)。

(c)上記相違点2に係る本件発明1の「前記電動モータ(62)の回転動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」との構成に関して、甲第2,11,12号証から、「電気駆動式作業車において電動モータの回転動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成」は周知技術(以下「周知技術4」という。)であり(異議申立書26ページ5行?28ページ末行)、甲第1号証に記載された発明に周知技術4を適用して当該構成に係る相違点を解消することは当業者にとって容易である(異議申立書41ページ11?19行)。

(d)上記相違点2に係る本件発明1の「前記電動モータ(62)の回転動力で車両に装着した作業機を駆動させる構成とし」との構成に関して、車両走行の駆動源である電動モータにより作業機を駆動させる構成に限定解釈されるとしても、甲第1号証に記載された発明に、甲第11号証に記載された事項又は甲第5?7号証に記載される「エンジン駆動式トラクタにおいて走行車輪と作業機とがエンジンの回転動力により駆動される構成」との周知技術(以下「周知技術5」という。異議申立書29ページ16行?32ページ4行参照。)を適用して、駆動モータ(3)の回転動力により作業機を駆動させる構成にすることは当業者にとって容易である(異議申立書41ページ下から6行?42ページ19行)。

b しかしながら、上記「ア(イ)a」に示すように甲1号証に記載された発明(甲1発明)に、上記相違点2に係る本件発明1の構成を具備させる動機付けは存在せず、阻害要因があるといえる。
また、甲1号証に記載された発明(甲1発明)への、甲2?7,11,12に記載された事項(甲2?7,11,12事項)の適用についても、上記「ア(イ)b」?「ア(イ)i」に示すように、動機付けは存在せず、阻害要因があるといえるか、仮に適用したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成に至らないものである。
さらに、上記「ア(イ)j」に示すように、甲第1?16号証のいずれにも、上記「ア(ア)b」の課題の前提構成として記載される「電動モータ」や「油圧式無段変速装置」の「回転動力」の「入力」及び「出力」の対象となる「走行系の回転動力」や「走行系以外の回転動力」としての「作業機系の回転動力」について特定した上記相違点2に係る本件発明1の構成を具備することで、ひとまとまりの構成ないし技術思想として、特許明細書【0011】の「回転動力を効率良く伝達できる」との作用効果を奏することの記載を見いだすことはできない。
したがって、申立人の当該主張は採用することができない。

(イ)上記相違点4に関して
a 申立人は、上記相違点4に関して以下のように主張している。
(a)電動式ハンドトラクタに係る甲第13号証に記載された発明(異議申立書32ページ5?末行)と、電気駆動式農業用作業車(トラクター)に係る甲第1号証に記載された発明とは、電気駆動式のトラクタである点において技術分野が共通し、バッテリー及び電動モータを冷却する必要があることは周知の課題であるから甲第13号証に記載された発明と甲第1号証に記載された発明とは課題においても共通する。従って、甲第1号証に記載された発明に甲第13号証に記載された発明を適用して、空気取入れ口に係る相違点を解消することに困難性はない(異議申立書42ページ末行?43ページ10行)。

(b)電動駆動の作業車両に係る甲第14号証に記載された発明(異議申立書33ページ1行?下から2行)と、電気駆動式農業用作業車(トラクター)に係る甲第1号証に記載された発明とは、電動駆動の作業車両である点において技術分野が共通し、モータ冷却を要する点において課題も共通するから、甲第1号証に記載された発明に甲第14号証に記載された発明を適用して、空気取入れ口に係る相違点を解消することに困難性はない(異議申立書43ページ11?17行)。

(c)甲第7、15?16号証から、「エンジン駆動式トラクタにおいてボンネットの前部にボンネット内に外気を取り入れるための開口部を設ける技術」は周知技術(以下「周知技術6」とする。)であり(異議申立書33ページ末行?35ページ下から3行)、甲第1号証に記載された発明と周知技術6とはトラクタである点で技術分野が共通し、甲第1号証には従来のエンジン式トラクタの構造を大きく変えずに電気駆動式へ適用することを促す動機付けが存在するから、甲第1号証に記載された発明に周知技術6を適用して、空気取入れ口に係る相違点を解消することに困難性はない(異議申立書43ページ18?末行)。

b しかしながら、上記「ア(ウ)」に示すように、甲1号証に記載された発明(甲1発明)への、甲7,13?16に記載された事項(甲7,13?16事項)の適用については、動機付けは存在せず、阻害要因があるといえるか、仮に適用したとしても、上記相違点4に係る本件発明1の構成に至らないものである。
さらに、上記「ア(ウ)e」に示すように、甲第1?16号証のいずれにも、上記相違点4に係る本件発明1の構成を具備することで、特許明細書【0011】の「車体が走行すると空間部Kに空気が流れるので、電動モータ62の発熱がバッテリー収納ケース61側に伝わるのを防止できる」との作用効果を奏することの記載を見いだすことはできない。
したがって、申立人の当該主張は採用することができない。

(ウ)上記相違点5に関して
a 申立人は、上記相違点5に関して以下のように主張している。
甲第8?10号証から、「電気駆動式車両の駆動用バッテリーが着脱可能な上板を備えたバッテリー収納ケースに載置される構成」は周知技術(以下「周知技術3」とする。)であり(異議申立書23ページ10行?26ページ4行)、電気駆動式車両に係る周知技術1(当審注:周知技術3の誤記と認める)と、電気駆動式農業用作業車(トラクター)に係る引用発明1とは、電気駆動式の車両である点において技術分野が共通するから、甲第1号証に記載された発明に周知技術1(当審注:周知技術3の誤記と認める)を適用して、バッテリートレイ(20)を着脱可能な上板を備えたバッテリー収納ケースに置換することに困難性はない(異議申立書40ページ20行?41ページ1行)。

b しかしながら、上記「ア(エ)」に示すように、甲1号証に記載された発明(甲1発明)への、甲8?10に記載された事項(甲8?10事項)の適用については、動機付けは存在せず、阻害要因があるといえ、さらに、仮に適用したとしても、上記相違点5に係る本件発明1の構成に至らないものである。
加えて、上記「ア(エ)c」に示すように、甲第1?16号証のいずれにも、上記相違点5に係る本件発明1の構成を具備することで、特許明細書【0011】の「ボンネット20を開けて前記バッテリー収納ケース61の上板61uを外すと、バッテリーBの保守点検が容易にできる」との作用効果を奏することの記載を見いだすことはできない。
したがって、申立人の当該主張は採用することができない。

ウ 小括
以上のとおり、上記相違点2,4,5に係る本件発明1の構成とすることは甲1発明及び甲2?16事項を考慮しても容易想到とはいえないものである。
してみれば、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2?16に記載された技術的事項、周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに減縮したものであるから、
本件発明1と同様に、本件発明2は、甲1発明及び甲2?16に記載された技術的事項、周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 小括
以上のとおり、本件発明1?2は、甲1発明及び甲2?16に記載された技術的事項、周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、上記「第3 1[申立理由(特許法第29条第2項)]」において主張する申立理由(1)?(4-3-2)は成り立たない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-11-25 
出願番号 特願2015-127956(P2015-127956)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B60K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 稲垣 彰彦山尾 宗弘  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 岡▲さき▼ 潤
出口 昌哉
登録日 2019-02-01 
登録番号 特許第6471626号(P6471626)
権利者 井関農機株式会社
発明の名称 トラクタ  

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