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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B05B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B05B
管理番号 1357689
異議申立番号 異議2019-700671  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-27 
確定日 2019-12-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6473902号発明「塗装システムおよび塗装方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6473902号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6473902号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし14に係る特許についての出願は、2015(平成27)年8月18日を国際出願日とする出願であって、平成31年2月8日にその特許権の設定登録(請求項の数14)がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和1年8月27日に特許異議申立人 久門 享(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし14)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし14に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が移動しないように固定され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボットと、
前記塗装ブース内において前記塗装ロボットの前記ベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボットと
を備えることを特徴とする塗装システム。
【請求項2】
前記塗装ロボットは、
それぞれの第1軸が前記搬送向きと平行な同一直線上にあり、前記第1軸まわりに回転する第1アームがお互いに離れる向きに延伸するように、少なくとも一対が設置されること
を特徴とする請求項1に記載の塗装システム。
【請求項3】
前記一対の塗装ロボットは、
当該一対の塗装ロボットの中間位置における前記同一直線と垂直な面に対して対称なアーム構成をそれぞれ有すること
を特徴とする請求項2に記載の塗装システム。
【請求項4】
前記一対の塗装ロボットは、
前記車両を前記搬送向きに搬送する搬送装置を挟んで対称な位置に一対ずつ設置され、斜向かいの前記塗装ロボット同士が同一の前記アーム構成であること
を特徴とする請求項3に記載の塗装システム。
【請求項5】
前記車両を前記搬送向きに搬送する搬送装置を挟んで対称な位置にそれぞれ設置されるガイドと、
前記ガイドに沿って走行するとともに、前記移動式操作ロボットを支持する走行台と
を備え、
前記移動式操作ロボットは、
前記ガイドごとに2つずつ設けられ、前記車両の側面における異なる前記開閉部材をそれぞれ操作すること
を特徴とする請求項1?4のいずれか一つに記載の塗装システム。
【請求項6】
前記走行台は、
前記ガイドごとに2つずつ設けられ、1つの前記移動式操作ロボットをそれぞれ支持して独立に走行可能であること
を特徴とする請求項5に記載の塗装システム。
【請求項7】
前記搬送向きについて前記塗装ロボットを外側から挟む位置で前記塗装ブースにそれぞれ固定され、前記車両における前後の前記開閉部材をそれぞれ操作する固定式操作ロボット
を備えることを特徴とする請求項5に記載の塗装システム。
【請求項8】
前記塗装ロボットは、
前記車両の側面における前記開閉部材が前記移動式操作ロボットで開かれることによって開放された部位の塗装を行うとともに、前記車両の前または後ろの前記開閉部材が前記固定式操作ロボットで開かれることによって開放された部位の塗装を行うこと
を特徴とする請求項7に記載の塗装システム。
【請求項9】
前記固定式操作ロボットは、
前記塗装ロボットよりも低い位置で前記塗装ブースにそれぞれ固定されること
を特徴とする請求項7に記載の塗装システム。
【請求項10】
前記固定式操作ロボットは、
前記搬送向きについて前記移動式操作ロボットの移動範囲を外側から挟む位置で前記塗装ブースにそれぞれ固定されること
を特徴とする請求項7に記載の塗装システム。
【請求項11】
塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が移動しないように固定され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボットと、
前記塗装ブース内において前記塗装ロボットの前記ベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって、前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボットと、
前記塗装ロボットおよび前記移動式操作ロボットの動作制御を行うロボット制御装置と
を用い、
前記ロボット制御装置が、前記移動式操作ロボットに前記開閉部材を開かせる工程と、
前記ロボット制御装置が、前記開閉部材を開けた状態で保持した前記移動式操作ロボットを前記車両に追従するように移動させる工程と
前記ロボット制御装置が、前記開閉部材を開けることによって開放された部位を前記塗装ロボットによって塗装させる工程と
を含むことを特徴とする塗装方法。
【請求項12】
前記移動式操作ロボットは、
前記車両の側面における前記開閉部材である側面開閉部材を操作するものであって、
前記塗装ブース内に固定され、前記車両の前方または後方における前記開閉部材である前後開閉部材を操作する固定式操作ロボットをさらに用い、
前記ロボット制御装置が、前記固定式操作ロボットに前記前後開閉部材を開かせる工程と、
前記ロボット制御装置が、前記前後開閉部材を開けた状態で保持した前記固定式操作ロボットのアームを前記車両に追従させる工程と、
前記ロボット制御装置が、前記前後開閉部材を開けることによって開放された部位を前記塗装ロボットによって塗装させる工程と
を含むことを特徴とする請求項11に記載の塗装方法。
【請求項13】
前記移動式操作ロボットが前記側面開閉部材を開いている期間と、前記固定式操作ロボットが前記前後開閉部材を開いている期間とが重なりをもつこと
を特徴とする請求項12に記載の塗装方法。
【請求項14】
前記塗装ロボットは、
前記側面開閉部材を開けることによって開放された部位の塗装と、前記前後開閉部材を開けることによって開放された部位の塗装とを1台で行うこと
を特徴とする請求項12または13に記載の塗装方法。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和1年8月27日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立ての理由1(甲2ないし4を補助証拠とする甲1に基づく新規性)
本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立ての理由2(甲2ないし4を補助証拠とする甲1を主引用例とし、甲5を副引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 申立ての理由3(甲6を主引用文献とし、甲5を副引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

4 証拠方法
甲第1号証:スイスABB社(Asea Brown Boveri Ltd.)が2013(平成25)年6月20日に公開した動画「ABB Interlaced Concept for Car Body Painting」を収めたとされるDVD
甲第2号証:インターネットウェブサイト(Automotive Manufacturing Solutions)内にあり、甲第1号証の動画の説明及びリンク先を提供する2013(平成25)年6月20日に公開したウェブページ(https://www.automotivemanufacturingsolutions.com/abb-interlaced-concept-for-car-body-painting/31637.article)
甲第3号証:スイスABB社"SURCAR 2013"発表資料「ABB Interlaced Painting Process」、2013(平成25)年6月10日
甲第4号証:国際会議"SURCAR 2013"講演プログラム、2013(平成25)年6月10日
甲第5号証:特開2014-61589号公報
甲第6号証:国際公開第2008/108401号
以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断
1 甲1ないし6に記載された事項等
(1)甲1に開示された事項及び甲1に開示された発明
ア 甲1に開示された事項
甲1は、動画を録画したものであり、その23分49秒?24分07秒の間に、下記の状況の開示がうかがえる。

・「塗装ブース」において、車両を塗装ロボットが塗装している「塗装システム」の状況。

・上記動画の右上及び左上に、「塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が移動しないように固定され」た「塗装ロボット」が設置されている状況。

・上記「塗装ロボット」が搬送される車両を塗装している状況。

・上記車両のドアが何らかの装置(以下、「車両の開閉部材を操作する装置」という。)により開かれている状況。

なお、特許異議申立人は、甲1の23分49秒?24分07秒の間の動画の右下及び左下に、塗装対象の車両のドア(「開閉部材」)を操作する「操作ロボット」が設置され、該「操作ロボット」は上記「塗装ロボット」のベース部よりも低い位置にベース部が設置され、車両が搬送されるとともに移動する車両の「搬送向きに沿って移動可能」な「移動式」の「操作ロボット」であることが確認できる旨主張する(特許異議申立書第9ページ第21ないし29行)が、甲1の動画からは、塗装対象の車両のドアが何らかの装置により開かれたことは確認できるものの、その装置がどのようなものかは確認できないし、その装置が車両が搬送されるとともに移動する車両の「搬送向きに沿って移動可能」な「移動式」のものかも確認できないので、上記主張は採用できない。

イ 甲1に開示された発明
甲1に開示された「塗装システム」が、「塗装ロボット」及び「車両の開閉部材を操作する装置」を制御する制御装置を有することは当業者にとって明らかであり、前記制御装置が「車両の開閉部材を操作する装置」に前記開閉部材を開かせる工程及び前記制御装置が、前記開閉部材を開けることによって開放された部位を前記塗装ロボットによって塗装させる工程を有することも当業者にとって明らかである。
上記事項を踏まえて、甲1に開示された事項を整理すると、甲1には、次の発明(以下、順に「甲1システム発明」及び「甲1方法発明」という。)が開示されていると認める。

<甲1システム発明>
「塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が移動しないように固定され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボットと、
前記塗装ブース内において設置され、前記車両の開閉部材を操作する装置と
を備える塗装システム。」

<甲1方法発明>
「塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が移動しないように固定され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボットと、
前記塗装ブース内において設置され、前記車両の開閉部材を操作する装置と、
前記塗装ロボットおよび前記車両の開閉部材を操作する装置の動作制御を行う制御装置と
を用い、
前記制御装置が、前記車両の開閉部材を操作する装置に前記開閉部材を開かせる工程と、
前記制御装置が、前記開閉部材を開けることによって開放された部位を前記塗装ロボットによって塗装させる工程と
を含む塗装方法。」

(2)甲2に記載された事項
甲2は、ウェブページであり、左上に「20 June 2013」と記載され、中段に「View webinar」と記載されている。

(3)甲3に記載された事項
甲3は、プレゼンテーション資料であり、第1ページの中段に「SURCAR 2013 Didier Rouaud ABB Interlaced Painting Progress」(訳:SURCAR 2013 ディディエ・ルオー ABB インターレース塗装プロセス)と記載され、第34ページに甲1の23分49秒?24分07秒に映る塗装システムと類似の写真が掲載されている。

(4)甲4に記載された事項
甲4は、2013(平成25)年6月10日及び同年同月11日に実施された国際会議"SURCAR 2013"の講演プログラムであり、第1ページ中央に「26TH INTERNATIONAL CONGRESS ON AUTOMOTIVE BODY FINISHING」(訳:第26回自動車車体仕上げについての国際会議)と記載され、第3ページに2013(平成25)年6月10日の講演プログラムが記載され、同ページ右欄第13ないし15行に「3.00PM New Robotic Concept for Car Body Painting Didier ROUAUD,Manager Paint & Sealer Process Engineering,ABB」(訳:3.00PM 車体塗装のためのロボティクスコンセプト ディディエ・ルオー、塗装&シーラープロセスエンジニアリングマネージャー、ABB」と記載されている。

(5)甲5に記載された事項
甲5には、「ロボット塗装装置」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ロボットを所望の位置及び向きに平行移動させる直線状のレールシステムを不要にすることによって塗装ブースの寸法をより一層縮小することが依然として望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に従って、塗装ブースの寸法を大幅に縮小するロボット塗装システムにおける冗長ロボットが驚くことに見出された。本発明によれば、冗長軸塗装ロボットは、ロボットの利用可能なエンベロープを増大させることによってブースの寸法を縮小することができる。冗長軸線は、塗装ロボットの動作の間に、障害物、車体、及びオープナーロボットを回避するのに使用される。」

・「【0017】
図1は、本発明に係る7軸塗装ロボット20の正面図である。7軸塗装ロボット20は、レールシステムを使用することなくロボットの使用可能なエンベロープを増大させることによってブース寸法の縮小を可能にする冗長回転軸を含んでいる。冗長軸線によって、7軸塗装ロボット20が所望の位置及び向きまで作動されるときに、7軸塗装ロボット20が、塗装ブースにおける障害物、例えば、ワークピース、及びパネル用のオープナーデバイスを回避できるようになる。同様に、冗長軸線によって、レール無しでも、ドア用の5軸オープナー及びボンネット乃至デッキ用の5軸オープナーを使用できるようになる。
【0018】
7軸塗装ロボット20は、モジュール式の基部21に設置された7軸作動式のロボットアームであり、モジュール式の基部21は、種々の設置位置、例えば、壁面設置又は頭上設置に対応可能である。図1において、モジュール式の基部21は、鉛直面(図示しない)、例えば、塗装ブースの壁部、又は塗装ブースにおいて使用される鉛直ポスト又はカラムに取り付けられるように方向付けされている。7軸塗装ロボット20はモジュール式の基部21から下方に延在しているので、図1に示される7軸塗装ロボット20の設置の際の立体配置は、転倒設置型の立体配置であるとみなされる。
【0019】
図1に示される通り、7軸塗装ロボット20が「胴部(waist)」の回転軸線とも称される第1の回転軸線A1回りに回転するように、7軸塗装ロボット20はモジュール式の基部21に回転可能に結合される。第1の回転軸線A1は鉛直方向に整列された回転軸として示されており、第1の回転軸線A1によって、ロボットアーム20が、水平方向に整列された平面において第1の回転方向R1に回転できるようになる。「肩部(shoulder)」の回転軸線とも称される第2の回転軸線A2は、第1の回転軸線A1に対して直角をなして交差するとともに第1の回転軸線A1を横切るように延在しており、第2の回転軸線A2によって、図1に示される通り、第2の回転方向R2におけるロボットアーム20の鉛直面に沿った回転運動が可能になる。設置の際の異なる立体配置によって、図1に示されるものとは異なる空間的な向きを有する第1及び第2の回転軸線A1,A2が得られることが理解されるべきである。」

・「【0037】
図9は、図8Bに示される塗装ブース40において使用される本発明に係る塗装ロボットシステム10斜視図である。複数の鉛直カラム28(8つのカラムが示される)が上端部で水平梁によって連結されてロボット支持構造部を形成している。図9に示されるように、塗装ロボットシステム10は、車体31が塗装ブース40を通過するときの車体31の移動経路に隣接する塗装ブース40の長手方向の各側部に4つずつ設けられた鉛直向きのカラム28を含んでいる。塗装ブース40の長手方向の各側部に整列されたカラム28は、車体31の移動経路に対して平行をなす直線に沿って概ね配列される。塗装ブース40の長手方向の各側部に設けられた4つのカラム28の各々は、塗装ブース40の長手方向において隣接する少なくとも1つのカラム28に、水平梁29のうちのいずれか1つによって連結される。カラム28の4つの対が形成されるように、塗装ブース40の長手方向の側部に設けられた各カラム28は、塗装ブース40の長手方向の第2の側部に設けられた対向カラム28又は対向カラム28を有しており、カラム28の各々の対は、水平梁29のいずれか1つによって相互に連結されている。それらカラム28は、車体31がカラム28の長手方向の列どうしの間に形成された経路の下流に移動するときに、カラム28の上端部を連結する水平梁29が車体31の上部平面の上方に配列されるようになる高さを有する。ロボット6,20,50,60への配線又は供給導管の経路決めが、塗装ロボットシステム10の残りの部分との干渉を伴わずに実行されるように、鉛直カラム28及び水平梁29が中空の内部空間を有する管状にされうることが理解されるべきである。
【0038】
塗装ブース40の入口(左側の端部)に形成された塗装ブース40の第1の区域は、カラム28の第1の対を含んでいる。車体31に塗布されるべき第1の外部塗膜を形成する6軸外部塗装ロボット6が、第1の区域に配置されたカラム28のうちの対応するカラムに2つずつ設置されている。塗装ブース40の出口(右側の端部)に形成された塗装ブース40の第3の区域は、カラム28の第2の対を含んでいる。第2の外部塗膜を形成するさらに2つの6軸外部塗装ロボット6が、第3の区域に配置されたカラムのうちの対応するカラムに設置されている。7軸塗装ロボット20が、要望に応じて、塗装ブース40の第1及び第3の区域における外部塗装の目的のために、6軸塗装ロボット6の代わりに同様に使用されることができる。図9に示される通り、各々の6軸塗装ロボット6の胴部の回転軸線がブース40の長手方向軸線に対して平行かつ水平に方向付けされるように、6軸塗装ロボット6がカラム28に装着される。
【0039】
塗装ブース40の第2の区域は、塗装ブース40の入口と出口との間の塗装ブース40の中央部分に形成される。塗装ブースの第2の区域はカラム28のうちの4つを含んでおり、それらはカラム28の第2の対を形成している。塗装ブース40の第2の区域では、7軸内部塗装ロボット20のうちの1つと、ドア用の5軸オープナーロボット50とが4つのカラムの各々に装着されている。7軸塗装ロボット20とドア用の5軸オープナーロボット50との間の干渉が防止されるように、ドア用の5軸オープナーロボット50は、カラム28における転倒設置型の7軸塗装ロボット20の下方に設置されている。さらに、図9に示される通り、ドア用のオープナーロボット50のリンク52,53,54を連結する3つの鉛直向きの回転軸線を採用することによって、使用しないときに、ドア用のオープナーロボット50の各々を対応するカラム28の各々に向かって後退させることができるので、7軸塗装ロボット20とドア用の5軸オープナーロボットとの間の干渉がさらに防止される。システム10の中央部分の右側の端部に位置するカラム28のうちの1つのカラム、及び中央部分の左側の端部に位置するカラム28のうちの1つのカラムには、ボンネット乃至デッキ用の5軸オープナーロボットアーム60がそれぞれ設置されている。各ロボット6,20,50,60が固定式の基部に設置されることによって全てのロボット6,20,50,60がカラム28に設置されるので、システム10によると、図8Aに示された従来技術による塗装ブース30において使用されるレール36が除外されるし、それゆえに、塗装ブース40の長さが縮小される。
【0040】
図10は、本発明に係る7軸塗装ロボット20とボンネット乃至デッキ用の5軸オープナーロボット60とを含む2アーム式の共通基部ロボットの斜視図である。ロボットアーム2及びロボットアーム60は、共通基部12における共通基部12の両端部に回転可能に設置されており、それにより、各ロボット20,60が、図10に示されるように第1の回転軸線A1として示される「胴部」の共通の回転軸線を共有するようになる。この立体配置では、7軸塗装ロボット20が、鉛直向きの面、例えば、壁部又は鉛直カラム28に転倒式に設置されており、ボンネット乃至デッキ用の5軸オープナーロボット60は、直立状態になるように設置されている。しかしながら、2つの同一タイプのロボット6,20,50,60が共通基部12に結合されることを含めて、6軸塗装ロボット6、7軸塗装ロボット20、ドア用の5軸オープナーロボット50、及びボンネット乃至デッキ用の7軸オープナーロボット60の任意の組み合わせが、要望に応じて、共通基部12の両端部に回転可能に結合されうることが理解されるべきである。さらに、共通基部12が任意の向き、例えば、ロボット6,20,50,60のいずれかに共通基部12を共有させて「胴部」の水平回転軸線を共有させるような水平の設置向きに設置されうることが理解されるべきである。加えて、追加のロボットアーム及び開放デバイスの少なくともいずれか一方が、鉛直向きの設置構造部に追加されうる。2つのロボットアームの共通基部12は、2つの塗装ロボットアーム6,20のパージが共通化され、エンベロープが小型化され、そして、製造コストが削減されるという利点を有する。
【0041】
図9に示されるように、ボンネット乃至デッキ用のオープナーロボット60の各々は、共通基部12のうちのいずれか1つの一端部に直立に設置されており、7軸塗装ロボット20のうちのいずれか1つは、当該1つの共通基部12の第2の端部に転倒式に設置されている。次いで、共通基部12は、塗装ブース40の中央部分に配置されたカラム28のうちのいずれか1つに設置されている。ボンネット乃至デッキ用のオープナーロボット60は、ボンネット乃至デッキ用の各オープナーロボット60が、塗装ブース40の長手方向の両側部に配置されたカラム28の各々の対どうしを連結する鉛直梁29の下方の水平面に沿って回転しうるように、共通基部12に設置される。図9及び図10に示されるように、ボンネット乃至デッキ用のオープナーロボット60が共通基部12において7軸塗装ロボット20の上方に設置されると、ボンネット乃至デッキ用のオープナーロボット60の配置が最適化されて、7軸塗装ロボットアーム20との干渉が回避される。また、この配置は、ボンネット乃至デッキ用のオープナーロボット60が共通の稼働エンベロープを7軸塗装ロボットと共有するのにも最適である。付加的に、ボンネット乃至デッキ用のオープナーロボット60内に形成された冗長軸線は、ボンネット乃至デッキ用のオープナーロボット60が使用されないときに、ボンネット乃至デッキ用のオープナーロボット60がカラム28のうちの関連する1つに向かって後退するのを補助しうるので、塗装ブース40において使用される他のロボット6,20,50との干渉がさらに回避される。」

・「【図1】



・「【図8B】

」(当審注:右に90度回転させている。)

・「【図9】

」(当審注:右に90度回転させている。)

(6)甲6に記載された事項及び甲6発明
ア 甲6に記載された事項
甲6には、「塗装システム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「背景技術
[0002] 従来の塗装システムしては、塗装ブースの側壁に備えられた高さの違う2つの走行ガイドレール上に塗装ロボットとドア開閉ロボットが配置されたものが提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
第1の従来の塗装システムについて図9を用いて説明する。コンベア8上に車体7が載置され、塗装ブース2へ移動する。また、塗装ブース2の側壁には走行ガイドレール3が取り付けられ、走行ガイドレール3上にドア開閉ロボット11および塗装ロボット12が取り付けられており、車体7の塗装作業を行う。ドア開閉ロボット11と塗装ロボット12は、上下に高さの異なる走行ガイドレール3に取り付けられ、干渉することなく交差して移動することができる。本従来の技術では、塗装ロボット12が上段の走行ガイドレール3に配置され、下段の走行ガイドレール3にドア開閉ロボット11が配置されている。
[0003] 第2の従来の塗装システムについて図10を用いて説明する。コンベア100上に車体102が載置され、塗装ブースへ移動する。また、塗装ブースの側壁には走行ガイドレール120が取り付けられ、走行ガイドレール上にドア開閉ロボット(4、11)および塗装ロボット12が取り付けられており、車体7の塗装作業を行う。ドア開閉ロボット(4、11)と塗装ロボット12は、上下に高さの異なる走行ガイドレール8に取り付けられ、干渉することなく交差して移動することができる。ここでは、塗装ロボット12が上段の走行ガイドレール3に配置され、下段の走行ガイドレール3にドア開閉ロボット(4、11)が配置されている。
特許文献1:WO2001/68267号公報
特許文献2:WO2005/46880号公報」

・「発明が解決しようとする課題
[0004] 塗装システムには、塗装ブースを小さくすることと、ロボットの台数を少なくすることが望まれている。通常、塗装する際には、塗装ブース内がダウンフローの空調がされているので、塗装ブースが大型化すると、それだけ流量が多くなり、空調設備のランニングコストが高くなる問題がある。このために、塗装ブースを小さくして、空調設備のランニングコストを低減する動きがある。
また、塗装ブースを小さくするためには、ロボットの台数を少なくするか、または配置する密度を上げるかのいずれかを選択する必要がある。車体を塗装することを想定した場合、従来の塗装システムで開示されているように、2台のドア開閉ロボットと塗装ロボットが必要となっており、上下段にロボットを配置することで、配置密度を上げている。
しかしながら、従来の塗装システムには以下の課題がある。第1には、上段の走行ガイドレール上に塗装ロボットが配置され、下段の走行ガイドレール上にドア開閉ロボットが配置された構成の場合、塗装ブース内は、ダウンフローの流路が形成されているので、塗装ロボットから噴射された塗料は、車体面に吹き付けられるとともに、吹き付けられなかった塗料は下段のドア開閉ロボットにも付着することになる。そのような場合、塗料のついたドア開閉ロボットの開閉部がドアに触れることで、異色が付着するという問題が生じていた。また、このような異色の付着が生じないように日々メンテナンスする必要があり、保守性に問題が生じていた。また、連続塗装中でもドア開閉ロボットの開閉部が汚れてくるのを監視して、汚れを落とすようなメンテナンスをする必要があり、数百台といった連続塗装の途中でメンテナンスのための中断時間が生じ、生産性が低下するといった問題が生じていた。
第2には、従来の塗装システムは、塗装ブースの片側の壁に1台の塗装ロボットと2台のドア開閉ロボットが配置された構成で説明されている。1台の塗装ロボットでドアの内面からトランクやフロントボディを塗装しようとすると、この塗装ロボットのストロークは、最長がトランクやフロントボディが塗装できる長さとなり、かなり長いアーム長を必要とする。一方でドア部を塗装しようとするとアームを縮めた形状を取らないとならないが、可動範囲外の形状になることが予想され、塗装ブースの壁からの車体までの距離を広くせざるを得なくなる。そうすると塗装ブースは大型化していくために流量の多い空調設備を備える必要があり、本来求めていた塗装システムが提供できないという問題が生じていた。また、仮にドア部を塗装する際にアームが塗装できるように稼動したとしても、1台のロボットで塗装するには時間がかかり、生産性が低下するといった問題が生じていた。その場合、従来の塗装システムは、もう一台の塗装ロボットを追加して塗装作業を効率的に行っていたと考えられる。しかしながら、これも本来の目的あるロボットの台数を少なくすることとは相反する方向であり、本来求めていた塗装システムが提供できないという問題が生じていた。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、塗装ブース内のロボットの台数と配置を最適化することにより、生産性を向上させた塗装システムを提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0005] 上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したものである。
請求項1に記載の発明は、自動車車両本体等の物品を塗装するシステムであって、密閉した塗装ブースと、前記塗装ブースを介して物品を移送するコンベアと、前記コンベアの側方に配置されてこれに沿って延びる第1の走行ガイドレールと、前記第1の走行ガイドレールの高さとは異なる高さで前記コンベアの側方に配置されてこれに沿って延びる第2の走行ガイドレールと、前記第1の走行ガイドレール上に装着され前記第1の走行ガイドレールに沿って移動する塗装ロボットと、前記第2の走行ガイドレール上に装着され前記第2の走行ガイドレールに沿って移動するオープナーロボットで、前記塗装ロボットと前記オープナーロボットが前記第1の走行ガイドレールと前記第2の走行ガイドレール上を干渉されることなくそれぞれ相互に通過するようにした塗装システムにおいて、前記第1の走行ガイドレールが、前記第2の走行ガイドレールよりも低い位置に配置され、前記第1の走行ガイドレール上に前記塗装ロボットが配置され、前記第2の走行ガイドレール上に前記オープナーロボットが配置されたものである。」

・「



・「



イ 甲6に記載された発明
甲6の[0002]、[0003]、図9及び図10に記載された塗装システムがロボット制御装置を有することは当業者にとって明らかであり、前記ロボット制御装置がドア開閉ロボットにドアを開かせる工程、前記ロボット制御装置が前記ドアを空けた状態で保持した前記ドア開閉ロボットを車体に追従するように移動させる工程及び前記ロボット制御装置が前記ドアを空けることによって開放された部位を前記塗装ロボットに塗装させる工程を有することも当業者にとって明らかである。
上記事項を踏まえて、甲6に記載された事項を整理すると、甲6には次の発明(以下、順に「甲6システム発明」及び「甲6方法発明」という。)が記載されていると認める。

<甲6システム発明>
「コンベア上に車体が載置され、塗装ブースへ移動し、塗装ブースの側壁には上下に高さの異なる走行ガイドレールが取り付けられ、上段の走行ガイドレールに移動することができるように配置された塗装ロボットと、
下段の走行ガイドレールに移動することができるように配置されたドア開閉ロボットと
を備えている車体の塗装作業を行う塗装システム。」

<甲6方法発明>
「コンベア上に車体が載置され、塗装ブースへ移動し、塗装ブースの側壁には上下に高さの異なる走行ガイドレールが取り付けられ、上段の走行ガイドレールに移動することができるように配置された塗装ロボットと、
下段の走行ガイドレールに移動することができるように配置されたドア開閉ロボットと
前記塗装ロボットおよび前記ドア開閉ロボットの動作制御を行うロボット制御装置と
を用い、
前記ロボット制御装置が前記ドア開閉ロボットにドアを開かせる工程と、
前記ロボット制御装置が前記ドアを空けた状態で保持した前記ドア開閉ロボットを車体に追従するように移動させる工程と、
前記ドアを空けることによって開放された部位を前記塗装ロボットに塗装させる工程と
を含む塗装方法。」

2 申立ての理由1(甲2ないし4を補助証拠とする甲1に基づく新規性)及び申立ての理由2(甲2ないし4を補助証拠とする甲1を主引用例とし、甲5を副引用文献とする進歩性)について
(1)甲1の動画が、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるか否かについて
まず、甲1の動画が、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるか否かについて検討する。

ア 甲1の動画自体には、甲1の動画が、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったことを示すものは、映っていない。

イ 特許異議申立人は、甲2には、「20 June 2013」という記載があり、甲2が同日に公開されていたことがわかる旨主張し、さらに、「View Webinar」と書かれたリンクをクリックすることで、「Go To Webinar Viewer」という動画視聴用のソフトが開き、甲1の動画をストリーミングで視聴が可能となる旨主張する。しかし、その動画が2013年6月20日に公開されていたものと同じものであることは確認できないし、職権で調査するに、「View Webinar」と書かれたリンクをクリックしても、甲1の動画がストリーミングで視聴が可能となることは確認できない。

ウ 特許異議申立人は、甲3及び甲4を示し、甲1の動画と同じ内容の甲3が2013年6月10日の国際会議の講演で使用されたことから、甲1の動画が2013年6月20日に公開されていたことが裏付けられる旨主張するが、甲3及び甲4からは、甲3が2013年6月10日に公開されたことがわかるだけで、甲1の動画が2013年6月20日に公開されていたことが裏付けられるものではない。

エ したがって、甲2ないし4を補助証拠として参酌しても、甲1の動画が、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるとはいえない。

(2)新規性及び進歩性について
また、仮に、甲1の動画が、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるとしても、以下述べるように、本件特許発明1ないし14は新規性及び進歩性を有すると判断される。

ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1システム発明を対比する。
甲1システム発明における「前記塗装ブース内において設置され、前記車両の開閉部材を操作する装置」は本件特許発明1における「前記塗装ブース内において前記塗装ロボットの前記ベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボット」と、「前記塗装ブース内において設置され、前記車両の開閉部材を操作する装置」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が移動しないように固定され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボットと、
前記塗装ブース内において設置され、前記車両の開閉部材を操作する装置と
を備える塗装システム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
「前記塗装ブース内において設置され、前記車両の開閉部材を操作する装置」に関して、本件特許発明1においては、「前記塗装ブース内において前記塗装ロボットの前記ベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボット」であるのに対し、甲1システム発明においては、「前記塗装ブース内において設置され、前記車両の開閉部材を操作する装置」である点(当審注:下線は当審で付した。)。

(イ)判断
そこで、相違点1について検討する。

a 甲1の23分49秒?24分07秒の間の動画は、上記1(1)アのとおりであり、甲1の他の部分の動画にも、「前記塗装ブース内において前記塗装ロボットの前記ベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボット」は開示されていないし、それを有することを示唆するものも開示されていない。

b また、甲5の記載は、上記1(5)のとおりであり、甲1システム発明において、「前記塗装ブース内において前記塗装ロボットの前記ベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボット」を有することの動機付けとなるような記載はない。

c 以上のとおりであるから、相違点1は実質的な相違点であり、また、甲1システム発明において、甲5に記載された事項を適用する動機がないため、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項には至らず、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(ウ)まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲1システム発明、すなわち甲1に開示された発明であるとはいえないし、また、甲1に開示された発明及び甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件特許発明2ないし10について
請求項2ないし10は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明2ないし10は、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1に開示された発明であるとはいえないし、また、甲1に開示された発明及び甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件特許発明11について
(ア)対比
本件特許発明11と甲1方法発明を対比する。
甲1方法発明における「前記塗装ブース内において設置され、前記車両の開閉部材を操作する装置」は本件特許発明11における「前記塗装ブース内において前記塗装ロボットの前記ベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボット」と、「前記塗装ブース内において設置され、前記車両の開閉部材を操作する装置」という限りにおいて一致する。
また、甲1方法発明における「前記塗装ロボットおよび前記車両の開閉部材を操作する装置の動作制御を行う制御装置」は本件特許発明11における「前記塗装ロボットおよび前記移動式操作ロボットの動作制御を行うロボット制御装置」と、「前記塗装ロボットおよび前記車両の開閉部材を操作する装置の動作制御を行う制御装置」という限りにおいて一致する。
さらに、甲1方法発明における「前記制御装置が、前記車両の開閉部材を操作する装置に前記開閉部材を開かせる工程と、
前記制御装置が、前記開閉部材を開けることによって開放された部位を前記塗装ロボットによって塗装させる工程と
を含む」は、本件特許発明11における「前記ロボット制御装置が、前記移動式操作ロボットに前記開閉部材を開かせる工程と、
前記ロボット制御装置が、前記開閉部材を開けた状態で保持した前記移動式操作ロボットを前記車両に追従するように移動させる工程と
前記ロボット制御装置が、前記開閉部材を開けることによって開放された部位を前記塗装ロボットによって塗装させる工程と
を含む」と、「前記制御装置が、前記車両の開閉部材を操作する装置に前記開閉部材を開かせる工程と、
前記制御装置が、前記開閉部材を開けることによって開放された部位を前記塗装ロボットによって塗装させる工程と
を含む」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が移動しないように固定され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボットと、
前記塗装ブース内において設置され、前記車両の開閉部材を操作する装置と
前記塗装ロボットおよび前記車両の開閉部材を操作する装置の動作制御を行う制御装置と
を用い、
前記制御装置が、前記車両の開閉部材を操作する装置に前記開閉部材を開かせる工程と、
前記制御装置が、前記開閉部材を開けることによって開放された部位を前記塗装ロボットによって塗装させる工程と
を含む塗装方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-1>
「前記塗装ブース内において設置され、前記車両の開閉部材を操作する装置」に関して、本件特許発明11においては、「前記塗装ブース内において前記塗装ロボットの前記ベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボット」であるのに対し、甲1方法発明においては、「前記塗装ブース内において設置され、前記車両の開閉部材を操作する装置」である点(当審注:下線は当審で付した。)。

<相違点2-2>
「前記塗装ロボットおよび前記車両の開閉部材を操作する装置の動作制御を行う制御装置」に関して、本件特許発明11においては、「前記塗装ロボットおよび前記移動式操作ロボットの動作制御を行うロボット制御装置」であるのに対し、甲1方法発明においては、「前記塗装ロボットおよび前記車両の開閉部材を操作する装置の動作制御を行う制御装置」である点。

<相違点2-3>
「前記制御装置が、前記車両の開閉部材を操作する装置に前記開閉部材を開かせる工程と、
前記制御装置が、前記開閉部材を開けることによって開放された部位を前記塗装ロボットによって塗装させる工程と
を含む」に関して、本件特許発明11においては、「前記ロボット制御装置が、前記移動式操作ロボットに前記開閉部材を開かせる工程と、
前記ロボット制御装置が、前記開閉部材を開けた状態で保持した前記移動式操作ロボットを前記車両に追従するように移動させる工程と
前記ロボット制御装置が、前記開閉部材を開けることによって開放された部位を前記塗装ロボットによって塗装させる工程と
を含む」であるのに対し、甲1方法発明においては、「前記制御装置が、前記車両の開閉部材を操作する装置に前記開閉部材を開かせる工程と、
前記制御装置が、前記開閉部材を開けることによって開放された部位を前記塗装ロボットによって塗装させる工程と
を含む」である点。

(イ)判断
まず、相違点2-1から検討する。

a 上記ア(イ)aのとおり、甲1の動画には「前記塗装ブース内において前記塗装ロボットの前記ベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボット」は開示されていないし、それを有することを示唆するものも開示されていない。

b 上記ア(イ)bのとおり、甲5にも、甲1方法発明において、「前記塗装ブース内において前記塗装ロボットの前記ベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボット」を有することの動機付けとなるような記載はない。

c 以上のとおりであるから、相違点2-1は実質的な相違点であり、また、甲1方法発明において、甲5に記載された事項を適用する動機がなく、相違点2-1に係る本件特許発明11の発明特定事項には至らず、相違点2-1に係る本件特許発明11の発明特定事項を当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(ウ)まとめ
したがって、相違点2-2及び2-3について検討するまでもなく、本件特許発明11は、甲1方法発明、すなわち甲1に開示された発明であるとはいえないし、また、甲1に開示された発明及び甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
なお、特許異議申立人は、「特許発明11については、特許発明1の構成を具体的に行う方法を発明とするものであるが、特許発明1を実施する場合には通常行われる方法に変わりはなく、特許発明1が甲第1号証により新規性がない以上、当業者であれば、特許発明11に容易に想到する。」(特許異議申立書第22ページ第10ないし13行)と主張するが、上記アのとおり、本件特許発明1が甲1により新規性がないとはいえないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

エ 本件特許発明12ないし14について
請求項12ないし14は請求項11を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明12ないし14は、本件特許発明11をさらに限定したものであるから、本件特許発明11と同様に、甲1に開示された発明であるとはいえないし、また、甲1に開示された発明及び甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)申立ての理由1及び申立ての理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1ないし14は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるとはいえないし、また、該発明及び本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲5に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

3 申立ての理由3(甲6を主引用文献とし、甲5を副引用文献とする進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲6システム発明を対比する。
甲6システム発明における「コンベア上に車体が載置され、塗装ブースへ移動し、塗装ブースの側壁には上下に高さの異なる走行ガイドレールが取り付けられ」た「塗装システム」の「上段の走行ガイドレール」に「移動することができるように配置され」た「塗装ロボット」は本件特許発明1における「塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が移動しないように固定され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボット」と、「塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が配置され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボット」という限りにおいて一致する。
また、甲6システム発明における「コンベア上に車体が載置され、塗装ブースへ移動し、塗装ブースの側壁には上下に高さの異なる走行ガイドレールが取り付けられ」た「塗装システム」の「下段の走行ガイドレールに移動することができるように配置されたドア開閉ロボット」は本件特許発明1における「前記塗装ブース内において前記塗装ロボットの前記ベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボット」と、「前記塗装ブース内において前記塗装ロボットのベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボット」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が設置され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボットと、
前記塗装ブース内において前記塗装ロボットの前記ベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボットと
を備える塗装システム。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3>
「塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が配置され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボット」に関して、本件特許発明1においては、「塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が移動しないように固定され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボット」であるのに対し、甲6システム発明においては、「コンベア上に車体が載置され、塗装ブースへ移動し、塗装ブースの側壁には上下に高さの異なる走行ガイドレールが取り付けられ」た「塗装システム」の「上段の走行ガイドレール」に「移動することができるように配置され」た「塗装ロボット」である点(当審注:下線は当審で付した。)。

イ 判断
そこで、相違点3について検討する。

(ア)甲6の[0002]、[0003]、図9及び図10(甲6における従来技術が記載された箇所である。)には、「塗装ロボット」を「上段の走行ガイドレール」に「移動することができる」ように配置することが記載されているが、「塗装ロボット」を「塗装ブース」に対して「移動しないように固定」することは記載も示唆もされていない。
また、甲6の[0004]及び[0005](甲6における発明が記載された箇所である。)には、「塗装ロボット」を「オープナーロボット」よりも低い位置に配置された走行ガイドレールに移動することができるように配置することが記載されているが、「塗装ロボット」を「塗装ブース」に対して「移動しないように固定」することは記載も示唆もされていない。
したがって、甲6には、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項は記載も示唆もされていない。

(イ)甲5には、ロボットを所望の位置及び向きに平行移動させる直線状のレールシステムを不要にすることによって塗装ブースの寸法をより一層縮小することを発明が解決しようとする課題として、該課題を解決するために、「塗装ロボット」及び「塗装ロボット」の下方に設置される「オープナーロボット」等の「ロボット」を「塗装ブース」の「カラム」に固定することが記載されているが、「オープナーロボット」は「移動することができる」ようにし、「塗装ロボット」だけを固定することは記載も示唆もされていない。
したがって、甲5には、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項は記載も示唆もされていない。

(ウ)以上のとおりであるから、甲6システム発明において、甲5に記載された事項を適用しても、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項には至らず、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
したがって、本件特許発明1は、甲6システム発明、すなわち甲6に記載された発明及び甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし10について
請求項2ないし10は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明2ないし10は、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲6に記載された発明及び甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件特許発明11について
ア 対比
本件特許発明11と甲6方法発明を対比する。
甲6方法発明における「コンベア上に車体が載置され、塗装ブースへ移動し、塗装ブースの側壁には上下に高さの異なる走行ガイドレールが取り付けられ、上段の走行ガイドレールに移動することができるように配置された塗装ロボット」は本件特許発明11における「塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が移動しないように固定され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボット」と、「塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が配置され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボット」という限りにおいて一致する。
また、甲6方法発明における「下段の走行ガイドレールに移動することができるように配置されたドア開閉ロボット」は本件特許発明11における「前記塗装ブース内において前記塗装ロボットの前記ベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボット」と、「前記塗装ブース内において前記塗装ロボットのベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボット」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が設置され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボットと、
前記塗装ブース内において前記塗装ロボットの前記ベース部よりも低い位置にベース部が設置され、前記搬送向きに沿って移動可能であって前記車両の開閉部材を操作する移動式操作ロボットと
前記塗装ロボットおよび前記移動式操作ロボットの動作制御を行うロボット制御装置と
を用い、
前記ロボット制御装置が、前記移動式操作ロボットに前記開閉部材を開かせる工程と、
前記ロボット制御装置が、前記開閉部材を開けた状態で保持した前記移動式操作ロボットを前記車両に追従するように移動させる工程と
前記ロボット制御装置が、前記開閉部材を開けることによって開放された部位を前記塗装ロボットによって塗装させる工程と
を含む塗装方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点4>
「塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が配置され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボット」に関して、本件特許発明11においては、「塗装ブース内に該塗装ブースに対してベース部が移動しないように固定され、所定の搬送向きに搬送される車両を塗装する塗装ロボット」であるのに対し、甲6方法発明においては、「コンベア上に車体が載置され、塗装ブースへ移動し、塗装ブースの側壁には上下に高さの異なる走行ガイドレールが取り付けられ、上段の走行ガイドレールに移動することができるように配置された塗装ロボット」である点(当審注:下線は当審で付した。)。

イ 判断
そこで、相違点4について検討する。

(ア)上記(1)イ(ア)のとおり、甲6には、「塗装ロボット」を「塗装ブース」に対して「移動しないように固定」することは記載も示唆もされていない。
したがって、甲6には、相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項は記載も示唆もされていない。

(イ)上記(1)イ(イ)のとおり、甲5には、「オープナーロボット」は「移動することができる」ようにし、「塗装ロボット」だけを固定することは記載も示唆もされていない。
したがって、甲5には、相違点4に係る本件特許発明11の発明特定事項は記載も示唆もされていない。

(ウ)以上のとおりであるから、甲6方法発明において、甲5に記載された事項を適用しても、相違点4に係る本件特許発明11の発明特定事項には至らず、相違点4に係る本件特許発明11の発明特定事項を当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
したがって、本件特許発明1は、甲6方法発明、すなわち甲6に記載された発明及び甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、特許異議申立人は、「特許発明11については、特許発明1の構成を具体的に行う方法を発明とするものであるが、特許発明1を実施する場合には通常行われる方法に変わりはなく、特許発明1が甲第6号証及び甲第5号証により進歩性が認められない以上、当業者であれば、特許発明11に容易に想到する。」(特許異議申立書第26ページ第12ないし15行)と主張するが、上記(1)のとおり、本件特許発明1が甲第6号証及び甲第5号証により進歩性がないとはいえないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(4)本件特許発明12ないし14について
請求項12ないし14は請求項11を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明12ないし14は、本件特許発明11をさらに限定したものであるから、本件特許発明11と同様に、甲6に記載された発明及び甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない

(5)申立ての理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1ないし14は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲6に記載された発明及び甲5に記載された事項に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立書に記載した申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-11-27 
出願番号 特願2017-535179(P2017-535179)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B05B)
P 1 651・ 113- Y (B05B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 市村 脩平  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 加藤 友也
大畑 通隆
登録日 2019-02-08 
登録番号 特許第6473902号(P6473902)
権利者 株式会社安川電機
発明の名称 塗装システムおよび塗装方法  
代理人 酒井 宏明  

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