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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01F |
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管理番号 | 1357696 |
異議申立番号 | 異議2019-700327 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-04-24 |
確定日 | 2019-12-12 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6412335号発明「α-アルミナフレーク」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6412335号の請求項1?16に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6412335号の請求項1?16に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)4月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年4月30日、欧州特許庁(EP))を出願日として特許出願され、平成30年10月5日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行され、その後、平成31年4月24日付けで全請求項(請求項1?16)に係る特許に対し、特許異議申立人 吉田信彦(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立がされ、令和1年7月2日付けで当審より取消理由が通知され、前記取消理由の通知の指定期間内である同年10月2日付けで特許権者より意見書が提出されたものである。 第2 本件特許発明 本件の請求項1?16に係る発明は、それぞれ、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明16」ということがあり、また、これらを、まとめて、「本件特許発明」ということがある。)。 「【請求項1】 130?400nmの粒子厚さ、15?30μmのD_(50)値、30?45μmのD_(90)値、および9.5μm未満のD_(10)値を有するAl_(2)O_(3)フレーク。 【請求項2】 前記Al_(2)O_(3)フレークがα-アルミナフレークであることを特徴とする請求項1に記載のAl_(2)O_(3)フレーク。 【請求項3】 前記Al_(2)O_(3)フレークが、80nm未満の厚さ分布の標準偏差を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のAl_(2)O_(3)フレーク。 【請求項4】 TiO_(2)、ZrO_(2)、SiO_(2)、SnO_(2)、In_(2)O_(3)、ZnO、またはそれらの組合せでドープされていることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。 【請求項5】 前記ドープの量が、Al_(2)O_(3)フレークを基準にして0.01?5重量%であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。 【請求項6】 前記Al_(2)O_(3)フレークがTiO_(2)によってドープされていることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。 【請求項7】 前記Al_(2)O_(3)フレークが、金属酸化物、少なくとも二つの金属酸化物の混合物、金属、金属硫化物、亜酸化チタン、酸窒化チタン、FeO(OH)、SiO_(2)、金属合金、または希土類化合物の、少なくとも一つの層でコーティングされていることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。 【請求項8】 前記Al_(2)O_(3)フレークが、金属酸化物、または、少なくとも二つの金属酸化物の混合物の、少なくとも一つの層でコーティングされていることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。 【請求項9】 前記Al_(2)O_(3)フレークが、以下の層配列でコーティングされていることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク: Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2)/Fe_(2)O_(3) Al_(2)O_(3)フレーク + Fe_(2)O_(3) Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + Fe_(2)O_(3) Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + Fe_(3)O_(4) Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + SiO_(2) + TiO_(2) Al_(2)O_(3)フレーク + Fe_(2)O_(3) + SiO_(2) + TiO_(2) Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2)/Fe_(2)O_(3) + SiO_(2) + TiO_(2) Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + SiO_(2) + TiO_(2)/Fe_(2)O_(3) Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + SiO_(2) Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + SiO_(2)/Al_(2)O_(3) Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + Al_(2)O_(3) Al_(2)O_(3)フレーク + SnO_(2) Al_(2)O_(3)フレーク + SnO_(2) + TiO_(2) Al_(2)O_(3)フレーク + SnO_(2) + Fe_(2)O_(3) Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2) Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2)/Fe_(2)O_(3) Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + Fe_(2)O_(3) Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2) + Fe_(2)O_(3) Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2) + Fe_(3)O_(4) Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2) + SiO_(2) + TiO_(2) Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + Fe_(2)O_(3) + SiO_(2) + TiO_(2) Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2)/Fe_(2)O_(3) + SiO_(2) + TiO_(2) Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2) + SiO_(2) + TiO_(2)/Fe_(2)O_(3) Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2) + SiO_(2) Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2) + SiO_(2)/Al_(2)O_(3) Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2) + Al_(2)O_(3) Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) +プルシアンブルー Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + カルミンレッド、 ここでTiO_(2)/Fe_(2)O_(3)およびSiO_(2)/Al_(2)O_(3)はそれぞれ、TiO_(2)とFe_(2)O_(3)との混合物の層、および、SiO_(2)とAl_(2)O_(3)との混合物の層を意味する。 【請求項10】 前記Al_(2)O_(3)フレークが、ルチル形態またはアナターゼ形態のTiO_(2)によってコーティングされていることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。 【請求項11】 前記Al_(2)O_(3)フレークが、ルチル形態のTiO_(2)によってコーティングされていることを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。 【請求項12】 前記Al_(2)O_(3)フレークが、顔料全体を基準としてAl_(2)O_(3)フレーク40?90重量%及びコーティング10?60重量%からなることを特徴とする請求項1?11のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。 【請求項13】 以下の工程によって特徴づけられる請求項1?12のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレークの調製方法: (1)少なくとも一つの水溶性及び/又は不溶性のアルミニウム塩の、水溶液またはスラリーの調製、 (2)そのアルミニウム塩溶液にアルカリ溶液を添加して、水酸化アルミニウム粒子を沈殿させること、及び、その沈殿の前、間もしくは後にその水溶液に対してリン化合物を添加すること、 (3)水を蒸発させ、続いて工程(2)の沈殿生成物を乾燥させて、粒子とアルカリ塩を含むアルミナの乾燥物を形成すること、 (4)溶融塩中にAl_(2)O_(3)フレークを得るために、工程(3)で得られた乾燥物をか焼すること、 (5)工程(4)で得られたか焼した物の水溶性部分を除去すること、 (6)粒径および厚さを調整すること。 【請求項14】 塗料、コーティング、自動車用コーティング、自動車仕上げ、工業用コーティング、塗料、粉体塗料、印刷インキ、セキュリティ印刷インキ、プラスチック、セラミック材料、化粧品、ガラス、紙、紙コーティング、電子写真印刷プロセスのためのトナー、種子、温室シート及び防水シート、機械またはデバイスの絶縁のための熱伝導性、自己支持性、電気絶縁性、可撓性のシート、の分野での配合物における効果顔料のための基材としての、紙またはプラスチックのレーザーマーキングにおける吸収体、プラスチックのレーザー溶接における吸収体としての、水、有機および/または水性溶媒との顔料ペーストにおける、顔料調製物および乾燥調製物における、請求項1?12のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレークの使用。 【請求項15】 請求項1?12のいずれかに記載のコーティングされたまたはコーティングされていないAl_(2)O_(3)フレークを、配合物全体を基準として、0.01?95重量%の量で含有する配合物。 【請求項16】 水、ポリオール類、極性および非極性油、脂肪、ワックス、フィルム形成剤、ポリマー、コポリマー、界面活性剤、フリーラジカル捕捉剤、酸化防止剤、安定剤、臭気増強剤、シリコーン油、乳化剤、溶媒、防腐剤、増粘剤、レオロジー添加剤、香料、着色料、効果顔料、UV吸収剤、界面活性助剤および/または化粧用活性化合物、充填剤、結合剤、真珠光沢顔料、着色顔料及び有機染料の群から選ばれた少なくとも一種の成分を含有することを特徴とする、請求項1?12のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレークを含有する配合物。」 第3 特許異議の申立てについて 1. 申立理由の概要 異議申立人は特許異議申立書において、甲第1?4号証を提示して、以下の特許異議申立理由を主張している。 A. 本件の請求項1?16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第4号証の記載事項とから、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1?16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである(以下、「申立理由A」という。)。 [異議申立人が提出した証拠方法] 甲第1号証:"T60-10 SW Crystal Silver", "T60-20 SW Sunbeam Gold", "T60-21 SW Solaris Red", "T60-23 SW Galaxy Blue", "F60-50 SW Fireside Copper", "F60-51 SW Radiant Red", Technical Data Sheet, MERCK KGaA, October 2002 甲第2号証:特表2008-534753号公報 甲第3号証:特表2010-502539号公報 甲第4号証:"MASTERSIZER 2000 PARTICLE SIZE ANALYSIS REPORT", CQV, 2018 2. 取消理由の概要 本件特許の請求項1?16に係る特許に対して、令和1年7月2日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、取り消すべきものである(以下、「取消理由1」という。)。 3. 取消理由1についての検討 (1) 令和1年7月2日付けの取消理由では、概ね、次のような取消理由1を通知した。 「本件特許の明細書の発明の詳細な説明(以下、単に、「発明の詳細な説明」という。)によれば、α-Al_(2)O_(3)のフレークの表面に金属または金属酸化物をコーティングする場合、均一なコーティングを行うのは通常容易ではなく、その結果光の干渉の効果が減少し、得られる真珠光沢色の光沢度(glossiness)が低下するとの問題があり、また、亜鉛がドープ(dope)されたAl_(2)O_(3)フレークは、酸性条件下では安定でないとの問題がある等、従来技術のAl_(2)O_(3)フレークは、それらが高い化学的安定性を有していないこと、および/または化粧品、塗料用途におけるフレークの使用のための所望の滑らかさを持っていないという、不利な点を有することから、本発明の課題は、高い化学的安定性、滑らかな表面、及び高い白色度を同時に有する改良されたAl_(2)O_(3)フレークを提供することである。 しかしながら、発明の詳細な説明における実施例の記載及び技術常識に照らしても、α-Al_(2)O_(3)フレーク以外のAl_(2)O_(3)フレークや亜鉛がドープされたAl_(2)O_(3)フレークによって、本発明の課題が解決できるとはいえないため、α-Al_(2)O_(3)フレークに限定されておらず、また、亜鉛がドープされたAl_(2)O_(3)フレークも包含する、本件の請求項1に記載のAl_(2)O_(3)フレークは、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、本件の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 また、本件の請求項2?17に係る特許についても、本件の請求項1に係る特許と同様に、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」 (2) そこで、上記(1)に示した取消理由1の妥当性につき、検討するに、発明の詳細な説明によれば、上記(1)に示したとおり、従来技術のAl_(2)O_(3)フレークは、それらが高い化学的安定性を有していないこと、および/または化粧品、塗料用途におけるフレークの使用のための所望の滑らかさを持っていないという、不利な点を有することから、本発明の課題は、高い化学的安定性、滑らかな表面、及び高い白色度を同時に有する改良されたAl_(2)O_(3)フレークを提供することであると認められる(【0002】?【0010】)。 そして、本発明のAl_(2)O_(3)フレークは、発明の詳細な説明によれば、その特性が、正確に規定された寸法および粒径分布を有するAl_(2)O_(3)フレークを使用することによって、高められるとの知見に基づいたものであって、従来技術と比較して、全ての用途において、改良された光学特性を示すと同時に、高い化学的安定性を示すものであるとされており(【0009】?【0024】)、さらに、改良された光学特性を示すと同時に、滑らかな表面を示すものであるとされている(【0073】?【0110】)。 このような本発明のAl_(2)O_(3)フレークに対して、本件の請求項1に記載されているのは、上記第2に示したとおりのAl_(2)O_(3)フレークであり、まさに、正確に規定された寸法および粒径分布を有するAl_(2)O_(3)フレークであるから、前記の本発明の課題を解決できるものであると認められる。 (3) ここで、本件の請求項1記載のAl_(2)O_(3)フレークは、α-Al_(2)O_(3)フレークに限定されたものではないし、また、亜鉛がドープされたAl_(2)O_(3)フレークも包含するものであるが、その特性が、正確に規定された寸法および粒径分布を有するAl_(2)O_(3)フレークを使用することによって、高められるとの知見に基づいたものであって、従来技術と比較して、全ての用途において、改良された光学特性を示すと同時に、高い化学的安定性を示すものであるから、本件出願時の技術常識を参酌しても、本件の請求項1記載のAl_(2)O_(3)フレークをα-Al_(2)O_(3)フレークに限定すべき客観的かつ具体的根拠、本件の請求項1記載のAl_(2)O_(3)フレークから亜鉛がドープされたAl_(2)O_(3)フレークを除外すべき客観的かつ具体的根拠は、いずれも見当たらない。 してみれば、発明の詳細な説明の記載及び本件出願時の技術常識に照らし、本件の請求項1記載のAl_(2)O_(3)フレークは、発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件の請求項1の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 また、本件の請求項2?16に係る特許についても、本件の請求項1に係る特許と同様に、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 (4) 上記(2)?(3)の検討によれば、本件の請求項1?16に係る特許は、上記(1)に示した取消理由1によって、取り消すべきものとはいえない。 4. 申立理由についての検討 (4-1) 甲各号証の記載事項 (甲1) 甲第1号証のうちの「"T60-10 SW Crystal Silver", Technical Data Sheet,MERCK KGaA, October 2002 」の記載事項 「 」 (当審訳:テクニカルデータシート 58028 シラリック(登録商標) T60-10 SWクリスタルシルバー 高彩度でクリスタルな煌めきの顔料 「予備的データ」 化学的組成 % カラーインデックス番号 CAS番号 Al_(2)O_(3) 72?83 1344-28-1 TiO_(2)(ルチル) 17?27 77891 1317-80-2 SnO_(2) 0?1 77861 18282-10-5 形態 乾燥した、さらさらの粉 … 粒径 5?30μm (レーザ回折測定:マルバーン) (>80%の粒径範囲内の粒子) D10 7?13 D50 15?21 D90 26?36 … 発行日 2002年10月 … メルク株式合資会社 顔料および化粧品部門 … ) (甲4) 甲第4号証の記載事項 「 」 (当審訳:CQV株式会社 マルバーンインストルメント株式会社 マスターサイザー2000 粒径分析報告書 製品名:T60-10 測定日時:2006年12月16日 12時4分 … 分析日時:2018年6月7日 5時 粒子名:アルミナ 測定装置:マルバーン2000 … … … 粒径範囲:0.020?83.260μm … … 平均径:D(10%)=8.198μm D(50%)=17.506μm D(90%)=32.671μm ) (4-2) 申立理由Aについて 上記1.に示した、本件特許発明1?16は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第4号証の記載事項とから、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の申立理由Aにつき、以下に検討する。 (4-2-1) 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証のうちの「"T60-10 SW Crystal Silver",Technical Data Sheet,MERCK KGaA, October 2002 」には、上記(4-1)(甲1)の記載によれば、シラリック(登録商標) T60-10 の顔料に注目すると、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「Al_(2)O_(3)が72?83%、TiO_(2)が17?27%、SnO_(2)が0?1%の化学組成であり、乾燥した、さらさらの粉であり、D10が7?13μm、D50が15?21μm、D90が26?36μmである、シラリック(登録商標) T60-10 の高彩度でクリスタルな煌めきの顔料。」 (4-2-2) 本件特許発明と甲1発明との対比・判断 ア. 本件特許発明1と甲1発明との対比・判断 (ア) 本件特許発明1と甲1発明とを対比するに、本件特許発明1は「Al_(2)O_(3)フレーク」であるのに対し、甲1発明は、上記(4-2-1)に示したとおりの、シラリック(登録商標) T60-10 の高彩度でクリスタルな煌めきの顔料であり、その化学組成からして、Al_(2)O_(3)のみからなっていないことは明らかであるし、また、その形態からして、乾燥した、さらさらの粉であり、フレークとはいえないことから、両者は、以下の点で相違していると認める。 <相違点> 相違点A: 本件特許発明1は、「130?400nmの粒子厚さ、15?30μmのD_(50)値、30?45μmのD_(90)値、および9.5μm未満のD_(10)値を有する」との発明特定事項を備えた「Al_(2)O_(3)フレーク」であるのに対し、甲1発明は、前記の発明特定事項を備えた「Al_(2)O_(3)フレーク」ではない点。 (イ) そこで、上記相違点Aについて検討するに、当該相違点は、本件特許発明1の全体において、甲1発明とは異なることを意味しているところ、甲第2?4号証を参照しても、本件特許発明1自体は記載も示唆もされていないのであるから、甲1発明に甲第2?4号証の記載事項を組み合わせたところで、上記相違点Aは解消し得ない。 (ウ) なお、異議申立人は、特許異議申立書において、甲第4号証には、甲1発明のシラリック(登録商標) T60-10 の顔料の粒子分布を分析した結果が示されており、その顔料は、D_(10)が8.198μm、D_(50)が17.506μm、D_(90)が32.671μmであるので、本件特許発明1の粒子分布と同一であり、その顔料の厚さは開示されていないが、甲第2号証の段落0020に開示されている合成小片の厚さが0.1?5μmであることを組み合わせることによって、本件特許発明1とすることは、当業者が容易に発明できる旨主張している。 (エ) しかしながら、上記(ア)での検討のとおり、甲第1号証には、シラリック(登録商標)T60-10 の顔料が、Al_(2)O_(3)のみからなっているわけではない、乾燥した、さらさらの粉であることが記載されているだけであり、Al_(2)O_(3)フレークについての記載は見当たらないし、また、甲第4号証を参照してみても、シラリック(登録商標)T60-10 の顔料がAl_(2)O_(3)フレークであることは把握できない。 (オ) ここで、仮に、シラリック(登録商標)T60-10 の顔料が、TiO_(2)等のコーティングを有するAl_(2)O_(3)フレークであるとの技術常識が本件の出願前にあったとしてみても、甲1発明における「D10が7?13μm、D50が15?21μm、D90が26?36μmである」というのは、TiO_(2)等のコーティングを有する、顔料の粒子分布であるし、また、甲第4号証に示されている、「D_(10)が8.198μm、D_(50)が17.506μm、D_(90)が32.671μmである」というのも、TiO_(2)等のコーティングを有する、顔料の粒子分布であって、「Al_(2)O_(3)フレーク」自体の粒子分布ではないから、本件特許発明1における、「15?30μmのD_(50)値、30?45μmのD_(90)値、および9.5μm未満のD_(10)値を有する」との発明特定事項を備えた「Al_(2)O_(3)フレーク」である点で、甲1発明と同一とはいえない。 また、シラリック(登録商標)T60-10 の顔料における、TiO_(2)等のコーティングがAl_(2)O_(3)フレークに対して無視できる程度の量である場合には、甲第4号証に示されている、「D_(10)が8.198μm、D_(50)が17.506μm、D_(90)が32.671μmである」という顔料の粒子分布を、「Al_(2)O_(3)フレーク」自体の粒子分布と同一視できるかもしれないが、甲第1号証に示されているシラリック(登録商標)T60-10 の顔料の化学組成からみて、TiO_(2)等のコーティングがAl_(2)O_(3)フレークに対して無視できる程度の量であるとはいえない。 また、甲第2号証の開示から、合成小片の厚さが0.1?5μmであることのみを抽出することに合理性があるとはいえないし、それらの厚さを抽出し得たと仮定しても、それらの厚さは、本件特許発明1における「130?400nmの粒子厚さ」と比べて、かなりの広範囲であるから、必ずしも、本件特許発明1における「130?400nmの粒子厚さ」との発明特定事項を備えたものになるとはいえない。 (カ) そして、本件特許明細書【0009】?【0024】によれば、本件特許発明1のAl_(2)O_(3)フレークは、その特性が、正確に規定された寸法および粒径分布を有することによって、高められるとの知見に基づいており、130?400nmの粒子厚さ、15?30μmのD_(50)値、30?45μmのD_(90)値、および9.5μm未満のD_(10)値という発明特定事項を備えることによって、従来技術のAl_(2)O_(3)フレークと比較して、全ての用途において、改良された光学特性を示すと同時に、高い化学的安定性を示すものであることを考慮すると、異議申立人の上記(ウ)に示した主張は、本件特許発明1のAl_(2)O_(3)フレークが、このような発明であることを正解しない主張であり、採用し得ない。 (キ) 付言するに、異議申立人は、甲第1号証として、上記1.A.に示したとおり、"T60-10 SW Crystal Silver",Technical Data Sheet,MERCK KGaA, October 2002 以外に、"T60-20 SW Sunbeam Gold", "T60-21 SW Solaris Red", "T60-23 SW Galaxy Blue", "F60-50 SW Fireside Copper", "F60-51 SW Radiant Red", Technical Data Sheet,MERCK KGaA, October 2002 (以下、「T60-10以外のテクニカルデータシート」という。)も提出しているが、T60-10以外のテクニカルデータシートに記載されている顔料も、甲1発明と同様、化学組成からして、Al_(2)O_(3)のみからなっていないことは明らかであるし、また、その形態からして、乾燥した、さらさらの粉であり、フレークとはいえないことから、それらの顔料を、甲1発明と置き換えて検討してみても、本件特許発明1のAl_(2)O_(3)フレークとは上記相違点Aの点で相違していると認められる。 そして、それらの顔料について甲第4号証の同様の分析データがあったとしても、上記(イ)?(カ)と同様の検討により、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第4号証の記載事項とから、当業者が容易に発明をすることができたものでないことは明らかである。 (ク) 上記(イ)?(キ)の検討によれば、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第4号証の記載事項とから、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ. 本件特許発明2?16と甲1発明との対比・判断 本件特許発明2?16と甲1発明とを対比するに、本件特許発明2?16と甲1発明とを対比すると、本件特許発明2?16は、本件発明1の発明特定事項の全てを備えたものであるから、両者は、少なくとも上記相違点Aの点で相違していると認められる。 そして、上記ア.(イ)?(キ)での検討と同様にして、上記相違点Aに係る本件特許発明2?16の発明特定事項は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第4号証の記載事項とから、当業者が容易になし得ることではない。 よって、本件特許発明2?16は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第4号証の記載事項とから、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4-3) 小括 上記(4-2)の検討によれば、本件特許発明1?16は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第4号証の記載事項とから、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、申立理由Aには理由がない。 第4 むすび 以上のとおり、本件の特許請求の範囲の請求項1?16に係る特許については、取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件の特許請求の範囲の請求項1?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-12-04 |
出願番号 | 特願2014-93923(P2014-93923) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C01F)
P 1 651・ 537- Y (C01F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 手島 理 |
特許庁審判長 |
服部 智 |
特許庁審判官 |
小川 進 後藤 政博 |
登録日 | 2018-10-05 |
登録番号 | 特許第6412335号(P6412335) |
権利者 | メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング |
発明の名称 | α-アルミナフレーク |
代理人 | 緒方 雅昭 |
代理人 | 宮崎 昭夫 |