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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01F
管理番号 1357706
異議申立番号 異議2019-700326  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-24 
確定日 2019-12-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6412334号発明「α-アルミナフレーク」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6412334号の請求項1?17に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6412334号(以下、「本件」という。)の請求項1?17に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)4月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年4月30日、欧州特許庁(EP))を出願日として特許出願され、平成30年10月5日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行され、その後、平成31年4月24日付けで全請求項(請求項1?17)に係る特許に対し、特許異議申立人 吉田信彦(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立がされ、令和1年7月2日付けで当審より取消理由が通知され、前記取消理由の通知の指定期間内である同年10月2日付けで特許権者より意見書が提出されたものである。


第2 本件特許発明
本件の請求項1?17に係る発明は、それぞれ、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明17」ということがあり、また、これらを、まとめて、「本件特許発明」ということがある。)。

「【請求項1】
550?1000nmの粒子厚さ、15?30μmのD_(50)値、30?45μmのD_(90)値、および9.5μm未満のD_(10)値を有するAl_(2)O_(3)フレーク。
【請求項2】
前記Al_(2)O_(3)フレークがα-アルミナフレークであることを特徴とする請求項1に記載のAl_(2)O_(3)フレーク。
【請求項3】
D_(90)値が30?40μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のAl_(2)O_(3)フレーク。
【請求項4】
TiO_(2)、ZrO_(2)、SiO_(2)、SnO_(2)、In_(2)O_(3)、ZnO、またはそれらの組合せでドープされていることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。
【請求項5】
前記ドープの量が、Al_(2)O_(3)フレークを基準にして0.01?5重量%であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。
【請求項6】
前記Al_(2)O_(3)フレークがTiO_(2)によってドープされていることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。
【請求項7】
前記Al_(2)O_(3)フレークが、金属酸化物、少なくとも二つの金属酸化物の混合物、金属、金属硫化物、亜酸化チタン、酸窒化チタン、FeO(OH)、金属合金、または希土類化合物の、少なくとも一つの層でコーティングされていることを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。
【請求項8】
前記Al_(2)O_(3)フレークが、金属酸化物、または、少なくとも二つの金属酸化物の混合物の、少なくとも一つの層でコーティングされていることを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。
【請求項9】
前記Al_(2)O_(3)フレークが、以下の層配列でコーティングされていることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク:
Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2)
Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2)/Fe_(2)O_(3)
Al_(2)O_(3)フレーク + Fe_(2)O_(3)
Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + Fe_(2)O_(3)
Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + Fe_(3)O_(4)
Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + SiO_(2) + TiO_(2)
Al_(2)O_(3)フレーク + Fe_(2)O_(3) + SiO_(2) + TiO_(2)
Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2)/Fe_(2)O_(3) + SiO_(2) + TiO_(2)
Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + SiO_(2) + TiO_(2)/Fe_(2)O_(3)
Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + SiO_(2)
Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + SiO_(2)/Al_(2)O_(3)
Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + Al_(2)O_(3)
Al_(2)O_(3)フレーク + SnO_(2)
Al_(2)O_(3)フレーク + SnO_(2) + TiO_(2)
Al_(2)O_(3)フレーク + SnO_(2) + Fe_(2)O_(3)
Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2)
Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2)
Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2)/Fe_(2)O_(3)
Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + Fe_(2)O_(3)
Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2) + Fe_(2)O_(3)
Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2) + Fe_(3)O_(4)
Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2) + SiO_(2) + TiO_(2)
Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + Fe_(2)O_(3) + SiO_(2) + TiO_(2)
Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2)/Fe_(2)O_(3) + SiO_(2) + TiO_(2)
Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2) + SiO_(2) + TiO_(2)/Fe_(2)O_(3)
Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2) + SiO_(2)
Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2) + SiO_(2)/Al_(2)O_(3)
Al_(2)O_(3)フレーク + SiO_(2) + TiO_(2) + Al_(2)O_(3)
Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) +プルシアンブルー
Al_(2)O_(3)フレーク + TiO_(2) + カルミンレッド、
ここでTiO_(2)/Fe_(2)O_(3)およびSiO_(2)/Al_(2)O_(3)はそれぞれ、TiO_(2)とFe_(2)O_(3)との混合物の層、および、SiO_(2)とAl_(2)O_(3)との混合物の層を意味する。
【請求項10】
前記Al_(2)O_(3)フレークが、ルチル形態またはアナターゼ形態のTiO_(2)によってコーティングされていることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。
【請求項11】
前記Al_(2)O_(3)フレークが、ルチル形態のTiO_(2)によってコーティングされていることを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。
【請求項12】
前記Al_(2)O_(3)フレークが、顔料全体を基準としてAl_(2)O_(3)フレーク40?90重量%及びコーティング10?60重量%からなることを特徴とする請求項1?11のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレーク。
【請求項13】
以下の工程によって特徴づけられる請求項1?12のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレークの調製方法:
(1)少なくとも一つの水溶性及び/又は不溶性のアルミニウム塩の、水溶液またはスラリーの調製、
(2)そのアルミニウム塩溶液にアルカリ溶液を添加して、水酸化アルミニウム粒子を沈殿させること、及び、その沈殿の前、間もしくは後にその水溶液に対してリン化合物を添加すること、
(3)水を蒸発させ、続いて工程(2)の沈殿生成物を乾燥させて、粒子とアルカリ塩を含むアルミナの乾燥物を形成すること、
(4)溶融塩中にAl_(2)O_(3)フレークを得るために、工程(3)で得られた乾燥物をか焼すること、
(5)工程(4)で得られたか焼した物の水溶性部分を除去すること、
(6)粒径および厚さを調整すること。
【請求項14】
工程(2)において、前記沈殿の前、間もしくは後にその水溶液に対して少なくとも1種のドーパントを添加する、請求項13に記載の調製方法。
【請求項15】
塗料、コーティング、自動車用コーティング、自動車仕上げ、工業用コーティング、塗料、粉体塗料、印刷インキ、セキュリティ印刷インキ、プラスチック、セラミック材料、化粧品、ガラス、紙、紙コーティング、電子写真印刷プロセスのためのトナー、種子、温室シート及び防水シート、機械またはデバイスの絶縁のための熱伝導性、自己支持性、電気絶縁性、可撓性のシート、の分野での配合物における効果顔料のための基材としての、紙またはプラスチックのレーザーマーキングにおける吸収体、プラスチックのレーザー溶接における吸収体としての、水、有機および/または水性溶媒との顔料ペーストにおける、顔料調製物および乾燥調製物における、請求項1?12のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレークの使用。
【請求項16】
請求項1?12のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレークを、配合物全体を基準として、0.01?95重量%の量で含有する配合物。
【請求項17】
水、ポリオール類、極性および非極性油、脂肪、ワックス、フィルム形成剤、ポリマー、コポリマー、界面活性剤、フリーラジカル捕捉剤、酸化防止剤、安定剤、臭気増強剤、シリコーン油、乳化剤、溶媒、防腐剤、増粘剤、レオロジー添加剤、香料、着色料、効果顔料、UV吸収剤、界面活性助剤および/または化粧用活性化合物、充填剤、結合剤、真珠光沢顔料、着色顔料及び有機染料の群から選ばれた少なくとも一種の成分を含有することを特徴とする、請求項1?12のいずれかに記載のAl_(2)O_(3)フレークを含有する配合物。」


第3 特許異議の申立てについて
1. 申立理由の概要
異議申立人は特許異議申立書において、甲第1?5号証を提示して、以下の特許異議申立理由を主張している。

A. 本件の請求項1?17に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第5号証の記載事項とから、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1?17に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである(以下、「申立理由A」という。)。

[異議申立人が提出した証拠方法]

甲第1号証:"T60-10 SW Crystal Silver", "T60-20 SW Sunbeam Gold",
"T60-21 SW Solaris Red", "T60-23 SW Galaxy Blue",
"F60-50 SW Fireside Copper", "F60-51 SW Radiant Red",
Technical Data Sheet, MERCK KGaA, October 2002
甲第2号証:特表2008-534753号公報
甲第3号証:特表2010-502539号公報
甲第4号証:特表2011-515508号公報
甲第5号証:"MASTERSIZER 2000 PARTICLE SIZE ANALYSIS REPORT", CQV,
2018


2. 取消理由の概要
本件特許の請求項1?17に係る特許に対して、令和1年7月2日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1) 本件特許の請求項1に係る発明は、下記の刊行物1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先権主張の基礎とされた先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものであり、本件特許は取り消すべきものである。(以下、「取消理由1」という。)。
(2) 本件特許の請求項2?17に係る発明は、下記の刊行物1?2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先権主張の基礎とされた先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものであり、本件特許は取り消すべきものである(以下、「取消理由2」という。)。

(3) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、取り消すべきものである(以下、「取消理由3」という。)。


刊行物1:特表2011-515508号公報(甲第4号証)
刊行物2:特許第3242561号公報


3. 取消理由についての検討
3.1 取消理由1?2についての検討
(1) 刊行物1の記載事項、及び、刊行物1記載の発明(当審注:「…」
は記載の省略を表す。以下、同じ。)
1ア. 「【請求項1】
少なくとも1種の光学活性なコーティングを有する人工的な微小板形状の基材を含む効果顔料であって、
前記効果顔料が、特性値のD_(10)、D_(50)およびD_(90)を有する体積平均累積篩下分布曲線を有し、前記累積篩下分布曲線が0.7?1.4のスパンΔDを有し、前記スパンΔDが式(I)により計算され、そして、前記人工的な微小板形状の基材の平均厚みが500nm?2000nmであることを特徴とする、効果顔料。
ΔD=(D_(90)-D_(10))/D_(50) (I)

【請求項9】
前記人工基材が、実質的に透明であり、好ましくは、ガラス微小板、合成マイカの微小板、SiO_(2)微小板、ポリマー微小板、微小板形状のオキシ塩化ビスマス、微小板形状の酸化アルミニウム、およびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、先行する請求項のいずれかに記載の効果顔料。」

1イ. 「【0011】
現時点で知られている従来技術における効果顔料の欠点は、それらの色純度が低いということである。したがって、光学顕微鏡の下に一つのバッチからの複数の効果顔料を観察すると、効果顔料が各種の色彩を有していることが観察されるであろう。このことは、一粒ずつ色が異なっていることを示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一つの目的は、改良された光学的性質、より詳しくは、光の入射角および視野角が一定のときに、従来技術よりも高い色純度を有する新規な効果顔料を提供することである。…」

1ウ. 「【0026】
【表1】


【0027】
驚くべきことには、D_(90)値とD_(50)値とD_(10)値の範囲を表2で特定するように組み合わせると、極端に高い色純度の効果顔料が得られることが見出された。
【0028】
この文脈において、驚くべきことには、決定的に重要なことは、効果顔料の絶対的なサイズではなく、むしろサイズ相互の間の比率であるということが判明した。スパンΔD=(D_(90)-D_(10))/D_(50)が、0.7?1.4という狭い範囲の中にあるということが、決定的に重要である。この範囲の中にあるのであれば、その効果顔料のD50値が、たとえば15、20、25、30μm…であってもよい。驚くべきことには、…そのスパンΔDが0.7?1.4の範囲に定められれば、色純度の高い効果顔料が得られるということが見出された。
【0029】
人工的な微小板形状の基材の平均厚みは、500nm?2000nm、好ましくは750?1500nmである。」

1エ. 「【0015】
本発明の目的は、さらに、本発明の効果顔料を製造するためのプロセスを提供することによっても達成されたが、そのプロセスには以下の工程が含まれる:
a)その人工基材を分級する工程、
b)その人工基材をコーティングする工程。
【0016】
工程b)における基材のコーティングは、工程a)の分級の後に実施するのが好ましい。
【0017】
本発明によってさらに提供されるのは、化粧料、プラスチック、およびコーティング組成物、たとえば塗料、印刷インキ、ワニス、粉体コーティング材料、およびエレクトロコート材料における、本発明の効果顔料の使用である。したがって、本発明は、本発明の効果顔料を含む組成物も提供する。
【0018】
本発明の目的においては、改良された光学的性質を有する効果顔料は、光の入射角および視野角が一定のときに、特に高い色純度を特徴とする効果顔料である。したがって、それらそれぞれをまとめると、本発明の効果顔料は、均質な色彩、または均質な色相を有する。それ故、観察する者にとって、本発明の一つの効果顔料が本発明の次の効果顔料と、全体として顕著な色の差が存在しない。」

1オ. 「【0057】
本発明の効果顔料では、層の材料と層の厚みを、たとえば表1に示すようにして選択することによって、色の変化を与えることが可能である。
【0058】
【表2】

【0059】
本発明の効果顔料が二酸化チタンを用いたコーティングを有する場合、二酸化チタンは、ルチル型またはアナターゼ型の結晶多形で存在していてよい。二酸化チタン層がルチル型である場合に、最高の品質で最も安定な真珠光沢顔料が得られる。ルチル型は、たとえば、基材または顔料にSnO_(2)の層を適用した後で、二酸化チタンの層を適用することによって得ることができる。SnO_(2)の層に対して適用すると、TiO_(2)はルチル多形の形で結晶化する。」

1カ. 上記1ア.によれば、刊行物1には、少なくとも1種の光学活性なコーティングを有する人工的な微小板形状の基材を含む効果顔料であって、前記効果顔料が、特性値のD_(10)、D_(50)およびD_(90)を有する体積平均累積篩下分布曲線を有し、前記累積篩下分布曲線が0.8?1.4のスパンΔDを有し、前記スパンΔDが式(I)により計算され、そして、前記人工的な微小板形状の基材の平均厚みが500nm?2000nmであり、前記人工的な微小板形状の基材が、実質的に透明であり、好ましくは、微小板形状の酸化アルミニウムである、効果顔料が記載されていると認められる。
ΔD=(D_(90)-D_(10))/D_(50) (I)

1キ. 上記1イ.?1ウ.によれば、上記1カ.に示した効果顔料は、そのD_(50)値が、たとえば15、20、25、30μmであっても、そのスパンΔDが0.7?1.4の範囲となるように、D_(90)値とD_(10)値とを、それぞれ、20?45μmの範囲内、5?25μmの範囲内にすることによって、光の入射角および視野角が一定のときに従来技術よりも色純度が極端に高くなるというものであり、前記人工的な微小板形状の基材の平均厚みは、500nm?2000nm、好ましくは750?1500nmというものである。

1ク. 上記1エ.によれば、上記1カ.に示した効果顔料を製造するためのプロセスとして、人工的な微小板形状の基材を分級する工程と、その分級の後に実施する、前記人工的な微小板形状の基材をコーティングする工程とを含む、前記効果顔料を製造するためのプロセスも記載されており、さらには、上記1キ.に示した効果顔料の使用として、塗料、印刷インキ、ワニス、粉体コーティング材料、およびエレクトロコート材料における、上記1カ.に示した効果顔料の使用も記載されており、そして、塗料、印刷インキ、ワニス、粉体コーティング材料、およびエレクトロコート材料に使用するための上記1オ.に示した効果顔料を含む組成物も記載されていると認められる。

1ケ. 上記1カ.?1キ.の検討を踏まえると、刊行物1には、光の入射角および視野角が一定のときに従来技術よりも色純度が極端に高くなるものとして、次の発明(以下、「刊行物1記載の発明1」という。)が記載されていると認められる。
「少なくとも1種の光学活性なコーティングを有する人工的な微小板形状の基材を含む効果顔料であって、前記効果顔料のD_(50)値が15?30μmであり、式(I)により計算されるスパンΔDが0.7?1.4となるように、D_(90)値とD_(10)値とが、それぞれ、20?45μmの範囲内、5?25μmの範囲内にされており、前記人工的な微小板形状の基材の平均厚みが750nm?1500nmであり、前記人工的な微小板形状の基材が実質的に透明な微小板形状の酸化アルミニウムである、効果顔料。
ΔD=(D_(90)-D_(10))/D_(50) (I) 」

1コ. また、上記1カ.?1ケ.の検討を踏まえ、上記1カ.の効果顔料を製造するためのプロセスに注目すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1記載の発明2」という。)も記載されていると認められる。
「刊行物1記載の発明1の効果顔料を製造するための実質的に透明な微小板形状の酸化アルミニウムを分級する工程と、その分級の後に実施する、前記実質的に透明な微小板形状の酸化アルミニウムをコーティングする工程とを含む、効果顔料を製造するためのプロセス。」

1サ. また、上記1カ.?1ケ.の検討を踏まえ、上記1カ.の効果顔料の使用に注目すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1記載の発明3」という。)も記載されていると認められる。
「塗料、印刷インキ、ワニス、粉体コーティング材料、およびエレクトロコート材料における、刊行物1記載の発明1の効果顔料の使用。」

1シ. また、上記1カ.?1ケ.の検討を踏まえ、上記1カ.の効果顔料を含む組成物に注目すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1記載の発明4」という。)も記載されていると認められる。
「印刷インキ、ワニス、粉体コーティング材料、およびエレクトロコート材料に使用するための刊行物1記載の発明1の効果顔料を含む組成物。」


(2) 刊行物2の記載事項
2ア. 「【請求項1】 薄片状酸化アルミニウムであって、該薄片状酸化アルミニウム中に酸化チタンを0.1?4重量%含有し、無色透明であることを特徴とする、前記薄片状酸化アルミニウム。
【請求項2】 粒子の大きさが平均粒子径で5?60μ、厚みが1μ以下、アスペクト比(粒子径/厚み)が20以上である請求項1記載の薄片状酸化アルミニウム。

【請求項4】 真珠光沢顔料の基質であることを特徴とする、請求項1?3のいずれかに記載の薄片状酸化アルミニウム。」

2イ. 上記2ア.によれば、刊行物2には、真珠光沢顔料の基質である薄片状酸化アルミニウムであって、該薄片状酸化アルミニウム中に酸化チタンを0.1?4重量%含有し、無色透明であり、平均粒子径で5?60μ、厚みが1μ以下、アスペクト比(粒子径/厚み)が20以上である、薄片状酸化アルミニウムが記載されていると認められる。



(3) 本件特許発明と刊行物1記載の発明との対比・判断
(3-1) 本件特許発明1と刊行物1記載の発明1との対比・判断
ア. 本件特許発明1と、上記(1)の1ケ.に示される、刊行物1記載の発明1とを対比するに、刊行物1記載の発明1における、人工的な微小板形状の基材である、「実質的に透明な微小板形状の酸化アルミニウム」は、本件特許発明1における「Al_(2)O_(3)フレーク」に相当し、また、刊行物1記載の発明1における「前記人工的な微小板形状の基材の平均厚み」は、本件特許発明1における「粒子厚さ」に相当することから、刊行物1記載の発明1における「前記人工的な微小板形状の基材の平均厚みが750nm?1500nmであ」ることは、本件特許発明1における「550?1000nmの粒子厚さ」とは、「750?1000nmの粒子厚さ」で重複する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。
<一致点>
「750?1000nmの粒子厚さを有するAl_(2)O_(3)フレーク」である点。

<相違点>
相違点1: 15?30μmのD_(50)値を有するのが、本件特許発明1では「30?45μmのD_(90)値、および9.5μm未満のD_(10)値を有するAl_(2)O_(3)フレーク」であるのに対し、刊行物1記載の発明1では、少なくとも1種の光学活性なコーティングを有する効果顔料であって、Al_(2)O_(3)フレーク自体のD_(50)値、D_(90)値、D_(10)値のそれぞれの数値範囲は明らかではない点。

イ. そこで、上記相違点1につき検討するに、本件特許明細書によれば、従来技術のAl_(2)O_(3)フレークは、それらが高い化学的安定性を有していないこと、および/または化粧品、塗料用途におけるフレークの使用のための所望の滑らかさを持っていないという、不利な点を有するのであるが、本件特許発明1のAl_(2)O_(3)フレークは、その特性が、正確に規定された寸法および粒径分布を有することによって、高められるとの知見に基づいており、550?1000nmの粒子厚さ、15?30μmのD_(50)値、30?45μmのD_(90)値、および9.5μm未満のD_(10)値という発明特定事項を備えることによって、区別されるものであって、従来技術のAl_(2)O_(3)フレークと比較して、全ての用途において、改良された光学特性を示すと同時に、高い化学的安定性を示すものであるとされている(【0009】?【0025】)。

ウ. 上記イ.で検討したような本件特許発明1のAl_(2)O_(3)フレークに対して、刊行物1記載の発明1において、D_(50)値が15?30μmであるのは、上記(1)の1ケ.に示されるとおり、少なくとも1種の光学活性なコーティングを有する人工的な微小板形状の基材を含む効果顔料である。そして、刊行物1記載の発明1における、前記光学活性なコーティングの厚さは、例えば、上記(1)の1オ.に示される、シルバーホワイト真珠光沢顔料の40?60nmという数値範囲であり、その厚さの前記D_(50)値への影響は無視できることを考慮するとから、その効果顔料における、Al_(2)O_(3)フレーク自体のD_(50)値は15?30μmであり、さらに、ΔD=(D_(90)-D_(10))/D_(50) により計算されるスパンΔDが0.7?1.4となるように、前記Al_(2)O_(3)フレーク自体のD_(90)値とD_(10)値も、それぞれ、20?45μmの範囲内と、5?25μmの範囲内にされているということが導出できることから、刊行物1記載の発明1におけるAl_(2)O_(3)フレークと本件特許発明1のAl_(2)O_(3)フレークとは、D_(50)値の数値範囲で一致し、そして、粒子厚さの数値範囲とD_(90)値の数値範囲とD_(10)値の数値範囲とで一応、重複しているとはいえる。

エ. しかしながら、刊行物1記載の発明1におけるAl_(2)O_(3)フレークのD_(90)値とD_(10)値は、ΔD=(D_(90)-D_(10))/D_(50) というスパンΔDが0.7?1.4となるように、それぞれ、20?45μmの範囲内、5?25μmの範囲内にされるのであるから、D_(90)値とD_(10)値の数値範囲は、本件特許発明1における数値範囲よりも広範囲であるし、それらの数値の組合せは、スパンΔDを0.7?1.4の範囲のどの数値を選択するかによって変動し得、必ずしも、本件特許発明1の数値範囲内となるわけではない。換言すると、上記イ.の検討によれば、刊行物1記載の発明1のAl_(2)O_(3)フレークは、D_(90)値とD_(10)値と粒子厚さのそれぞれの数値範囲において、本件特許発明1の範囲外の粒径分布を備えるAl_(2)O_(3)フレークを含むことから、光学特性と化学的安定性の観点において、本件特許発明1とは区別されるものである。
そして、本件特許発明1のAl_(2)O_(3)フレークは、上記イ.に示した発明特定事項を備えることによって、従来技術のAl_(2)O_(3)フレークと比較して、全ての用途において、改良された光学特性を示すと同時に、高い化学的安定性を示すとの発明の効果を奏するものであり、特に、その粒径分布を備えることによって、増加した彩度(chroma)と光沢(luster)と組み合わされたきらめき(shimmer)または微光(glimmer)を示すとの改良された光学特性を示し、高度な艶(gloss)を強い干渉色および非常に顕著な光輝(glitter)との組合せを、種々の適用媒体において達成できるものである(【0009】?【0015】)。

オ. してみると、本件特許発明1は、刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


(3-2) 本件特許発明2?17と刊行物1記載の発明との対比・判断
ア. 本件特許発明2?12のAl_(2)O_(3)フレークと刊行物1記載の発明1、本件特許発明13?14のAl_(2)O_(3)フレークの調製方法と刊行物1記載の発明2、本件特許発明15のAl_(2)O_(3)フレークの使用と刊行物1記載の発明3、本件特許発明16?17のAl_(2)O_(3)フレークを含有する配合物と刊行物1記載の発明4とを対比するに、本件特許発明2?17は、いずれも、本件発明1の発明特定事項の全てを備えたものであるから、少なくとも上記相違点1で相違していると認められる。

イ. そして、上記相違点1について上記(3-1)イ.?エ.で検討したとおり、上記相違点1に係る本件特許発明2?17の発明特定事項は、刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得ることとはいえない。さらに、刊行物2には、上記(2)の2イ.に示されるように、真珠光沢顔料の基質である薄片状酸化アルミニウムであって、該薄片状酸化アルミニウム中に酸化チタンを0.1?4重量%含有し、無色透明であり、平均粒子径で5?60μ、厚みが1μ以下、アスペクト比(粒子径/厚み)が20以上である、薄片状酸化アルミニウムが記載されているだけで、当該「薄片状酸化アルミニウム」は、本件特許発明における「Al_(2)O_(3)フレーク」に相当しているが、その寸法および粒径分布は、刊行物1に記載された発明と同様に、本件特許発明のものよりも広範囲であるから、Al_(2)O_(3)フレークについての刊行物2記載の事項を刊行物1記載の発明と組み合わせたところで、上記相違点1に係る本件特許発明2?17の発明特定事項が、当業者の容易になし得ることとなるわけではない。

ウ. してみれば、本件特許発明2?17は、刊行物1?2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


(4) 小括
上記(3-1)?(3-2)の検討によれば、本件の請求項1?17に係る特許は、上記2.(1)?(2)の取消理由1?2によって、取り消すべきものとはいえない。


3.2 取消理由3についての検討
(1) 令和1年7月2日付けの取消理由では、概ね、次のような取消理由3を通知した。

「本件特許の明細書の発明の詳細な説明(以下、単に、「発明の詳細な説明」という。)によれば、α-Al_(2)O_(3)のフレークの表面に金属または金属酸化物をコーティングする場合、均一なコーティングを行うのは通常容易ではなく、その結果光の干渉の効果が減少し、得られる真珠光沢色の光沢度(glossiness)が低下するとの問題があり、また、亜鉛がドープ(dope)されたAl_(2)O_(3)フレークは、酸性条件下では安定でないとの問題がある等、従来技術のAl_(2)O_(3)フレークは、それらが高い化学的安定性を有していないこと、および/または化粧品、塗料用途におけるフレークの使用のための所望の滑らかさを持っていないという、不利な点を有することから、本発明の課題は、高い化学的安定性、滑らかな表面、及び高い白色度を同時に有する改良されたAl_(2)O_(3)フレークを提供することである。
しかしながら、発明の詳細な説明における実施例の記載及び技術常識に照らしても、α-Al_(2)O_(3)フレーク以外のAl_(2)O_(3)フレークや亜鉛がドープされたAl_(2)O_(3)フレークによって、本発明の課題が解決できるとはいえないため、α-Al_(2)O_(3)フレークに限定されておらず、また、亜鉛がドープされたAl_(2)O_(3)フレークも包含する、本件の請求項1に記載のAl_(2)O_(3)フレークは、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、本件の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本件の請求項2?17に係る特許についても、本件の請求項1に係る特許と同様に、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」

(2) そこで、上記(1)に示した取消理由3の妥当性につき、検討するに、発明の詳細な説明によれば、上記(1)に示したとおり、従来技術のAl_(2)O_(3)フレークは、それらが高い化学的安定性を有していないこと、および/または化粧品、塗料用途におけるフレークの使用のための所望の滑らかさを持っていないという、不利な点を有することから、本発明の課題は、高い化学的安定性、滑らかな表面、及び高い白色度を同時に有する改良されたAl_(2)O_(3)フレークを提供することであると認められる(【0002】?【0010】)。
そして、本発明のAl_(2)O_(3)フレークは、発明の詳細な説明によれば、その特性が、正確に規定された寸法および粒径分布を有するAl_(2)O_(3)フレークを使用することによって、高められるとの知見に基づいたものであって、従来技術と比較して、全ての用途において、改良された光学特性を示すと同時に、高い化学的安定性を示すものであるとされており(【0009】?【0025】)、さらに、改良された光学特性を示すと同時に、滑らかな表面を示すものであるとされている(【0076】?【0107】)。
このような本発明のAl_(2)O_(3)フレークに対して、本件の請求項1に記載されているのは、上記第2に示したとおりのAl_(2)O_(3)フレークであり、まさに、正確に規定された寸法および粒径分布を有するAl_(2)O_(3)フレークであるから、前記の本発明の課題を解決できるものであると認められる。

(3) ここで、本件の請求項1記載のAl_(2)O_(3)フレークは、α-Al_(2)O_(3)フレークに限定されたものではないし、また、亜鉛がドープされたAl_(2)O_(3)フレークも包含するものであるが、その特性が、正確に規定された寸法および粒径分布を有するAl_(2)O_(3)フレークを使用することによって、高められるとの知見に基づいたものであって、従来技術と比較して、全ての用途において、改良された光学特性を示すと同時に、高い化学的安定性を示すものであるから、本件出願時の技術常識を参酌しても、本件の請求項1記載のAl_(2)O_(3)フレークをα-Al_(2)O_(3)フレークに限定すべき客観的かつ具体的根拠、本件の請求項1記載のAl_(2)O_(3)フレークから亜鉛がドープされたAl_(2)O_(3)フレークを除外すべき客観的かつ具体的根拠は、いずれも見当たらない。
してみれば、発明の詳細な説明の記載及び本件出願時の技術常識に照らし、本件の請求項1記載のAl_(2)O_(3)フレークは、発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件の請求項1の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
また、本件の請求項2?17に係る特許についても、本件の請求項1に係る特許と同様に、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(4) 上記(2)?(3)の検討によれば、本件の請求項1?17に係る特許は、上記(1)に示した取消理由3によって、取り消すべきものとはいえない。


4. 申立理由についての検討
(4-1) 甲各号証の記載事項
(甲1) 甲第1号証のうちの「"T60-10 SW Crystal Silver",
Technical Data Sheet,MERCK KGaA, October 2002 」に記載事項



(当審訳:テクニカルデータシート
58028 シラリック(登録商標) T60-10 SWクリスタルシルバー
高彩度でクリスタルな煌めきの顔料
「予備的データ」
化学的組成 % カラーインデックス番号 CAS番号
Al_(2)O_(3) 72?83 1344-28-1
TiO_(2)(ルチル) 17?27 77891 1317-80-2
SnO_(2) 0?1 77861 18282-10-5

形態 乾燥した、さらさらの粉

粒径 5?30μm
(レーザ回折測定:マルバーン) (>80%の粒径範囲内の粒子)
D10 7?13
D50 15?21
D90 26?36

発行日 2002年10月

メルク株式合資会社
顔料および化粧品部門
… )


(甲5) 甲第5号証の記載事項



(当審訳:CQV株式会社 マルバーンインストルメント株式会社 マスターサイザー2000
粒径分析報告書
製品名:T60-10 測定日時:2006年12月16日 12時4分
… 分析日時:2018年6月7日 5時
粒子名:アルミナ 測定装置:マルバーン2000 …

… 粒径範囲:0.020?83.260μm …

平均径:D(10%)=8.198μm
D(50%)=17.506μm
D(90%)=32.671μm )


(4-2) 申立理由Aについて
上記1.に示した、本件特許発明1?17は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第5号証の記載事項とから、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の申立理由Aにつき、以下に検討する。

(4-2-1) 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証のうちの「"T60-10 SW Crystal Silver",Technical Data Sheet,MERCK KGaA, October 2002 」には、上記(4-1)(甲1)の記載によれば、シラリック(登録商標) T60-10 の顔料に注目すると、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「Al_(2)O_(3)が72?83%、TiO_(2)が17?27%、SnO_(2)が0?1%の化学組成であり、乾燥した、さらさらの粉であり、D10が7?13μm、D50が15?21μm、D90が26?36μmである、シラリック(登録商標) T60-10 の高彩度でクリスタルな煌めきの顔料。」


(4-2-2) 本件特許発明と甲1発明との対比・判断
ア. 本件特許発明1と甲1発明との対比・判断
(ア) 本件特許発明1と甲1発明とを対比するに、本件特許発明1は「Al_(2)O_(3)フレーク」であるのに対し、甲1発明は、上記(4-2-1)に示したとおりの、シラリック(登録商標) T60-10 の高彩度でクリスタルな煌めきの顔料であり、その化学組成からして、Al_(2)O_(3)のみからなっていないことは明らかであるし、また、その形態からして、乾燥した、さらさらの粉であり、フレークとはいえないことから、両者は、以下の点で相違していると認める。
<相違点>
相違点A: 本件特許発明1は、「550?1000nmの粒子厚さ、15?30μmのD_(50)値、30?45μmのD_(90)値、および9.5μm未満のD_(10)値を有する」との発明特定事項を備えた「Al_(2)O_(3)フレーク」であるのに対し、甲1発明は、前記の発明特定事項を備えた「Al_(2)O_(3)フレーク」ではない点。

(イ) そこで、上記相違点Aについて検討するに、当該相違点は、本件特許発明1の全体において、甲1発明とは異なることを意味しているところ、甲第2?5号証を参照しても、本件特許発明1自体は記載も示唆もされていないのであるから、甲1発明に甲第2?5号証の記載事項を組み合わせたところで、上記相違点Aは解消し得ない。

(ウ) なお、異議申立人は、特許異議申立書において、甲第5号証には、甲1発明のシラリック(登録商標) T60-10 の顔料の粒子分布を分析した結果が示されており、その顔料は、D_(10)が8.198μm、D_(50)が17.506μm、D_(90)が32.671μmであるので、本件特許発明1の粒子分布と同一であり、その顔料の厚さは開示されていないが、甲第2号証の段落0020に開示されている合成小片の厚さが0.1?5μmであること、あるいは、甲第4号証の請求項1、9に開示されている微小板形状の基材の厚さが500nm?2000nmであることを組み合わせることによって、本件特許発明1とすることは、当業者が容易に発明できる旨主張している。

(エ) しかしながら、上記(ア)での検討のとおり、甲第1号証には、シラリック(登録商標)T60-10 の顔料が、Al_(2)O_(3)のみからなっているわけではない、乾燥した、さらさらの粉であることが記載されているだけであり、Al_(2)O_(3)フレークについての記載は見当たらないし、また、甲第5号証を参照してみても、シラリック(登録商標)T60-10 の顔料がAl_(2)O_(3)フレークであることは把握できない。

(オ) ここで、仮に、シラリック(登録商標)T60-10 の顔料が、TiO_(2)等のコーティングを有するAl_(2)O_(3)フレークであるとの技術常識が本件の出願前にあったとしてみても、甲1発明における「D10が7?13μm、D50が15?21μm、D90が26?36μmである」というのは、TiO_(2)等のコーティングを有する、顔料の粒子分布であるし、また、甲第5号証に示されている、「D_(10)が8.198μm、D_(50)が17.506μm、D_(90)が32.671μmである」というのも、TiO_(2)等のコーティングを有する、顔料の粒子分布であって、「Al_(2)O_(3)フレーク」自体の粒子分布ではないから、本件特許発明1における、「15?30μmのD_(50)値、30?45μmのD_(90)値、および9.5μm未満のD_(10)値を有する」との発明特定事項を備えた「Al_(2)O_(3)フレーク」である点で、甲1発明と同一とはいえない。
また、シラリック(登録商標)T60-10 の顔料における、TiO_(2)等のコーティングがAl_(2)O_(3)フレークに対して無視できる程度の量である場合には、甲第5号証に示されている、「D_(10)が8.198μm、D_(50)が17.506μm、D_(90)が32.671μmである」という顔料の粒子分布を、「Al_(2)O_(3)フレーク」自体の粒子分布と同一視できるかもしれないが、甲第1号証に示されているシラリック(登録商標)T60-10 の顔料の化学組成からみて、TiO_(2)等のコーティングがAl_(2)O_(3)フレークに対して無視できる程度の量であるとはいえない。
また、甲第2号証の開示から、合成小片の厚さが0.1?5μmであることのみ、あるいは、甲第4号証の開示から、微小板形状の基材の厚さが500nm?2000nmであることのみを抽出することに合理性があるとはいえないし、それらの厚さを抽出し得たと仮定しても、それらの厚さは、本件特許発明1における「550?1000nmの粒子厚さ」と比べて、かなりの広範囲であるから、必ずしも、本件特許発明1における「550?1000nmの粒子厚さ」との発明特定事項を備えたものになるとはいえない。

(カ) そして、上記3.1(3)(3-1)イ.に示したとおり、本件特許明細書【0009】?【0025】によれば、本件特許発明1のAl_(2)O_(3)フレークは、その特性が、正確に規定された寸法および粒径分布を有することによって、高められるとの知見に基づいており、550?1000nmの粒子厚さ、15?30μmのD_(50)値、30?45μmのD_(90)値、および9.5μm未満のD_(10)値という発明特定事項を備えることによって、従来技術のAl_(2)O_(3)フレークと比較して、全ての用途において、改良された光学特性を示すと同時に、高い化学的安定性を示すものであることを考慮すると、異議申立人の上記(ウ)に示した主張は、本件特許発明1のAl_(2)O_(3)フレークが、このような発明であることを正解しない主張であり、採用し得ない。

(キ) 付言するに、異議申立人は、甲第1号証として、上記1.A.に示したとおり、"T60-10 SW Crystal Silver",Technical Data Sheet,MERCK KGaA, October 2002 以外に、"T60-20 SW Sunbeam Gold", "T60-21 SW Solaris Red", "T60-23 SW Galaxy Blue", "F60-50 SW Fireside Copper", "F60-51 SW Radiant Red", Technical Data Sheet,MERCK KGaA, October 2002 (以下、「T60-10以外のテクニカルデータシート」という。)も提出しているが、T60-10以外のテクニカルデータシートに記載されている顔料も、甲1発明と同様、化学組成からして、Al_(2)O_(3)のみからなっていないことは明らかであるし、また、その形態からして、乾燥した、さらさらの粉であり、フレークとはいえないことから、それらの顔料を、甲1発明と置き換えて検討してみても、本件特許発明1のAl_(2)O_(3)フレークとは上記相違点Aの点で相違していると認められる。
そして、それらの顔料について甲第5号証の同様の分析データがあったとしても、上記(イ)?(カ)と同様の検討により、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第5号証の記載事項とから、当業者が容易に発明をすることができたものでないことは明らかである。

(ク) 上記(イ)?(キ)の検討によれば、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第5号証の記載事項とから、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


イ. 本件特許発明2?17と甲1発明との対比・判断
本件特許発明2?17と甲1発明とを対比するに、本件特許発明2?17と甲1発明とを対比すると、本件特許発明2?17は、本件発明1の発明特定事項の全てを備えたものであるから、両者は、少なくとも上記相違点Aの点で相違していると認められる。
そして、上記ア.(イ)?(キ)での検討と同様にして、上記相違点Aに係る本件特許発明2?17の発明特定事項は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第5号証の記載事項とから、当業者が容易になし得ることではない。
よって、本件特許発明2?17は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第5号証の記載事項とから、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


(4-3) 小括
上記(4-2)の検討によれば、本件特許発明1?17は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第5号証の記載事項とから、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、申立理由Aには理由がない。


第4 むすび
以上のとおり、本件の特許請求の範囲の請求項1?17に係る特許については、取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件の特許請求の範囲の請求項1?17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-12-04 
出願番号 特願2014-93904(P2014-93904)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C01F)
P 1 651・ 121- Y (C01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 手島 理  
特許庁審判長 服部 智
特許庁審判官 後藤 政博
小川 進
登録日 2018-10-05 
登録番号 特許第6412334号(P6412334)
権利者 メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
発明の名称 α-アルミナフレーク  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  

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