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審決分類 審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  G01N
審判 全部無効 2項進歩性  G01N
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
管理番号 1357935
審判番号 無効2017-800037  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-03-15 
確定日 2019-11-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5765394号発明「ガスセンサ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5765394号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5765394号の請求項1ないし4に係る発明についての特許の審判請求は、成り立たない。 特許第5765394号の請求項5に係る発明についての特許の審判請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

1 本件特許第5765394号の請求項1?5に係る発明は、平成25年9月25日(優先権主張 平成24年11月20日)に出願され、平成27年6月26日に特許権の設定登録がなされた(請求項の数5。以下、その特許を「本件特許」という。)。

2 本件特許について、平成29年3月15日に利害関係人である日本特殊陶業株式会社から、本件特許を無効にすることを求める旨の無効審判の請求がなされた。
以下に、本件審判の請求以後の経緯を整理して示す。

平成29年 3月15日 審判請求書及び甲第1?8号証の提出(請求人)
同日 証拠説明書の提出(請求人)
平成29年 6月15日 訂正請求書(1)の提出(被請求人)
同日 審判事件答弁書(1)の提出(被請求人)
平成29年 9月29日 審判事件弁駁書及び甲第9?13号証の提出(請
求人)
同日 証拠説明書の提出(請求人)
平成29年10月18日 補正許否の決定(起案日)
平成29年11月20日 審判事件答弁書(2)の提出(被請求人)
平成29年12月25日 審理事項通知書(起案日)
平成30年 2月14日 口頭審理陳述要領書(1)及び甲第14号証の提
出(請求人)
同日 証拠説明書の提出(請求人)
同日 シミュレーション解析資料の提出(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書(1)の提出(被請求人)
平成30年 2月21日 口頭審理陳述要領書(2)及び甲第15?18号
証の提出(請求人)
同日 証拠説明書の提出(請求人)
平成30年 2月26日 口頭審理陳述要領書(2)の提出(被請求人)
平成30年 2月28日 口頭審理の実施
同日 プレゼンテーション資料の提出(請求人)
同日 口頭審理資料の提出(被請求人)
同日 無効理由通知、職権審理結果通知(口頭審理にお
いて告知)
同日 補正許否の決定(口頭審理において告知)
平成30年 3月 7日 訂正請求書(2)の提出(被請求人)
平成30年 3月28日 意見書の提出(請求人)
同日 意見書の提出(被請求人)
なお、訂正請求書、審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書については提出日の順に「訂正請求書(1)」のように括弧数字を付す。

第2 訂正請求について
本件特許の訂正について、平成29年6月15日付け訂正請求書及び平成30年3月7日付け訂正請求書が提出されているが、「訂正の請求がされた場合において、その審判事件において先にした訂正の請求があるときは、当該先の請求は、取り下げられたものとみなす」(特許法第134条の2第6項)と規定されているから、平成30年3月7日付け訂正請求書における訂正の請求のみを審理の対象とする。

1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
平成30年3月7日付け訂正請求は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求めるものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。(下線は当審で付与した。以下、同様である。)

(1)請求項1についての訂正
請求項1を引用する請求項2?4も同様に訂正される。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)と」とあるのを、「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサであって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)と」に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「該インナカバー(4)内に被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」とあるのを、「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」に訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「インナ導入開口部(42)が設けられており」とあるのを、「インナ導入開口部(42)と、インナ排出開口部(43)が設けられており」に訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「軸方向先端側(X1)にある」とあるのを、「軸方向先端側(X1)にあり、
上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、」に訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に「ことを特徴とするガスセンサ(1)。」とあるのを、「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されていることを特徴とするガスセンサ(1)。」に訂正する。

(2)請求項5についての訂正

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(3)明細書についての訂正

キ 訂正事項7
明細書の段落【0008】に、
「本発明の一態様は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子と、
該センサ素子を内側に挿通して保持するハウジングと、
該ハウジングの軸方向先端側に配設された素子カバーとを備え、
上記センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられており、
上記素子カバーは、上記センサ素子の先端部を覆うように配設されたインナカバーと、該インナカバーの外側に配設されたアウタカバーとを有し、
該アウタカバーには、該アウタカバー内に被測定ガスを導入するためのアウタ導入開口部が設けられており、
上記インナカバーには、該インナカバー内に被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部が設けられており、
上記センサ素子の上記ガス導入部の軸方向中間位置は、上記インナカバーの上記インナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向基端側にあり、
上記センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向先端側(X1)にあることを特徴とするガスセンサにある。」とあるのを、
「本発明の一の態様は、多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサであって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)と、
該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)と、
該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)とを備え、
上記センサ素子(2)の先端部(201)には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部(271)が設けられており、
上記素子カバー(3)は、上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)と、該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)とを有し、
該アウタカバー(5)には、該アウタカバー(5)内に被測定ガスを導入するためのアウタ導入開口部(52)が設けられており、
上記インナカバー(4)には、該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)と、インナ排出開口部(43)が設けられており、
上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向中間位置(C1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
上記センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向先端側(X1)にあり、
上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されていることを特徴とするガスセンサにある。」に訂正する。

ク 訂正事項8
明細書の段落【0011】に、
「そして、本発明者らは、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスがセンサ素子のガス導入部に到達するまでの距離を短くするためには、被測定ガスがインナカバー内に導入される部分であるインナ導入開口部の軸方向基端位置を、被測定ガスがセンサ素子の内部に導入される部分であるガス導入部の軸方向中間位置よりも軸方向基端側とすることが非常に有効であることを見出した。」とあるのを、
「そして、本発明者らは、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスがセンサ素子のガス導入部に到達するまでの距離を短くするためには、被測定ガスがインナカバー内に導入される部分であるインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも、被測定ガスがセンサ素子の内部に導入される部分であるガス導入部の軸方向中間位置を、軸方向基端側とすることが非常に有効であることを見出した。」に訂正する。

2 訂正の適否について

(1)請求項1についての訂正

(1-1)訂正事項1について
ア 当審の判断
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1の「ガスセンサ(1)」が「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサ」である、という限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加について
訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の「【0065】・・・本例では、図13に示すごとく、4つの気筒(第1気筒811、第2気筒812、第3気筒813、第4気筒814)を有する直列4気筒型の内燃機関81を準備した。内燃機関81の各気筒811?814は、それぞれ排気管82の排気枝部821に連通している。4つの排気枝部821は、その下流側において集合して排気管82の排気集合部822に連通している。そして、この排気管82の排気集合部822に、ガスセンサ89を取り付けた。」等の記載からみて、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(エ)なお、請求人は、訂正事項1に係る訂正が訂正要件違反である旨の主張をしていない。

イ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項1に係る訂正は、訂正要件を満たしている。

(1-2)訂正事項2について
ア 当審の判断
(ア)訂正の目的について
訂正事項2は、請求項1の「インナ導入開口部(42)」が「インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」であるという限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加について
訂正事項2は、本件特許明細書の「【0010】・・・被測定ガスは、インナ導入開口部からインナカバー内に導入され、センサ素子のガス導入部に到達する。」、「【0050】これにより、図7に示すごとく、・・・ガス導入部271の軸方向中間位置C1が、インナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向基端側X2にあることにより、インナ導入開口部42からインナカバー4内に導入された被測定ガスGをできるだけ短距離で迅速にセンサ素子2のガス導入部271に到達させることができる。」等の記載からみて、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(エ)なお、請求人は、訂正事項2に係る訂正が訂正要件違反である旨の主張をしていない。

イ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項2に係る訂正は、訂正要件を満たしている。

(1-3)訂正事項3について
ア 当審の判断
(ア)訂正の目的について
訂正事項3は、請求項1の「インナカバー(4)」に、「インナ排出開口部(43)が設けられて」いる、という限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、訂正事項3は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加について
訂正事項3は、本件特許明細書の「【0042】・・・インナカバー4は、・・・インナ底面部415とを有する。」、「【0043】・・・インナ底面部415には、インナ排出開口部43が設けられている。」等の記載からみて、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(エ)なお、請求人は、訂正事項3に係る訂正が訂正要件違反である旨の主張をしていない。

イ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項3に係る訂正は、訂正要件を満たしている。

(1-4)訂正事項4について
ア 当審の判断
(ア)訂正の目的について
訂正事項4は、請求項1の「インナ導入開口部(42)」に、「アウタ導入開口部(52)」との配置関係に関する限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、訂正事項4は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加について
訂正事項4は、本件特許の特許請求の範囲の「【請求項5】上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のガスセンサ(1)。」、本件特許明細書の「【0041】図2に示すごとく、・・・アウタ導入開口部52の軸方向先端位置E1は、後述するインナカバー4のインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向基端側X2にある。」等の記載からみて、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(エ)なお、請求人は、訂正事項4に係る訂正が訂正要件違反である旨の主張をしていない。

イ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項4に係る訂正は、訂正要件を満たしている。

(1-5)訂正事項5について
訂正事項5の「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている」については、
・訂正事項5-1:「上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)」と、
・訂正事項5-2:「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、・・・上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている」とに分けて順に検討する。

(1-5-1)訂正事項5-1について

ア 当審の判断
(ア)訂正の目的について
訂正事項5-1は、上記訂正事項3の「インナ排出開口部(43)」に、「インナ導入開口部(42)」との配置関係に関する限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、訂正事項5-1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加について
本件特許明細書には、以下の記載がある。

a「【0042】
同図に示すごとく、インナカバー4は、軸方向基端側X2から順に、軸方向Xに略同径のインナ第1側面部411と、軸方向先端側X1に向かって縮径するテーパ状のインナ第1縮径部412と、軸方向Xに略同径のインナ第2側面部413と、軸方向先端側X1に向かって縮径するテーパ状のインナ第2縮径部414と、軸方向先端側X1を閉塞するインナ底面部415とを有する。
・・・
【0043】
インナ第1縮径部412には、複数のインナ導入開口部42が周方向に所定の間隔で設けられている。複数のインナ導入開口部42は、軸方向Xに直交する平面において、ガスセンサ1の中心軸に対して同心円上に配置されている。すなわち、すべてのインナ導入開口部42は、軸方向位置が同じである。また、すべてのインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1は、アウタカバー5のアウタ導入開口部52の軸方向先端位置E1よりも軸方向先端側X1にある。また、すべてのインナ導入開口部42は、ルーバー形状となっている。すなわち、インナ第1縮径部412には、インナ導入開口部42が設けられたそれぞれの内側位置において、被測定ガスGの流れを遮り、被測定ガスGが軸方向基端側X2へ流れるようにするルーバー部44が設けられている。また、インナ底面部415には、インナ排出開口部43が設けられている。」

上記aの記載によれば、「インナカバー4は、軸方向基端側X2から順に」、「インナ第1縮径部412と」、「インナ底面部415とを有」し、「インナ第1縮径部412には、」「インナ導入開口部42が」「設けられ」、「インナ底面部415には、インナ排出開口部43が設けられている」ことから、軸方向基端側X2から順にインナ導入開口部42、インナ排出開口部43が設けられていること、すなわち、上記インナ排出開口部(43)は、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられていることが理解できる。
そして、下記第8 1(3)イに示したとおり、本件特許明細書の記載によれば、構成H(「構成+アルファベットなどの記号」で表される構成については、下記第8 1(1)を参照。以下、同様。)を備えた請求項1のガスセンサは、係る請求項1のガスセンサに構成Hを加える前の、構成H以外の全ての構成を備えているガスセンサよりも、気筒間インバランスの応答性が向上するという、いわば相対的な効果を奏するガスセンサである。
以上の点を踏まえると、訂正事項5-1の「上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)」を含み、構成Hを備えた請求項1のガスセンサは、係る請求項1のガスセンサに構成Hを加える前の、訂正事項5-1の「上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)」を含み、構成H以外の全ての構成を備えているガスセンサよりも、いわば相対的な効果を奏するガスセンサといえることから、新たな技術上の意義は追加されていないといえる。
そうすると、請求項1に訂正事項5-1を追加する訂正は、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでなく、本件特許明細書等に記載した範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項5-1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5-1は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(エ)請求人の主張について
請求人は、「インナ排出開口部(43)の設置場所を、具体的なインナ底面部から、『インナ導入開口部(42)より軸方向先端側』に抽象化、上位概念化するという、本件特許明細書には記載されていなかった技術的事項を、顕在化し個別化するものである構成X1(当審注:構成X1は訂正事項5-1に相当する。)の本件発明への加入は、いわゆる新規事項追加であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものでなく、『構成X』(構成X1)を加入する訂正は認められるべきでない。」と主張している(下記第4 3(12)を参照。)。
しかしながら、上記(イ)に示したとおりであるから、請求人の上記主張は採用できない。

イ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項5-1に係る訂正は、訂正要件を満たしている。

(1-5-2)訂正事項5-2について

ア 当審の判断
(ア)訂正の目的について
訂正事項5-2は、請求項1の「ガスセンサ(1)」に、「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガス」の「流れ」に関する限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、訂正事項5-2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(イ)新規事項の追加について
本件特許明細書等には、以下の記載がある。

a「【発明の効果】
【0009】
上記ガスセンサにおいて、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられている。また、センサ素子の先端部を覆うインナカバーには、インナカバー内に被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部が設けられている。そして、センサ素子のガス導入部の軸方向中間位置は、インナカバーのインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向基端側にある。
【0010】
すなわち、アウタ導入開口部からアウタカバー内(アウタカバーとインナカバーとの間)に導入された被測定ガスは、インナ導入開口部からインナカバー内に導入され、センサ素子のガス導入部に到達する。
本発明者らは、このような被測定ガスの流れにおいて、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスがセンサ素子のガス導入部に到達するまでの距離が、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度、及び気筒間インバランスを検出する応答性に大きく寄与することを見出した。」

b「【請求項3】上記インナカバー(4)には、上記インナ導入開口部(42)の内側において、被測定ガスの流れを遮り、該被測定ガスが軸方向基端側(X2)へ流れるようにするルーバー部(44)が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスセンサ(1)。」

c「【0025】また、上記インナカバーには、上記インナ導入開口部の内側において、被測定ガスの流れを遮り、該被測定ガスが軸方向基端側へ流れるようにするルーバー部が設けられていてもよい。
この場合には、被測定ガスの多くを、インナ導入開口部からルーバー部を介してインナカバー内の軸方向基端側へ流れ込ませることができる。これにより、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスがセンサ素子のガス導入部に到達するまでの距離をより適切に短くすることができる。」

d「【0041】図2に示すごとく、・・・
【0042】同図に示すごとく、インナカバー4は、・・・インナ底面部415とを有する。・・・
【0043】・・・また、すべてのインナ導入開口部42は、ルーバー形状となっている。すなわち、インナ第1縮径部412には、インナ導入開口部42が設けられたそれぞれの内側位置において、被測定ガスGの流れを遮り、被測定ガスGが軸方向基端側X2へ流れるようにするルーバー部44が設けられている。また、インナ底面部415には、インナ排出開口部43が設けられている。」

e 図2には以下の図面が示されている。

上記aの記載によれば、「被測定ガスの流れにおいて、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスがセンサ素子のガス導入部に到達」し(【0010】)、「センサ素子のガス導入部の軸方向中間位置は、インナカバーのインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向基端側にある」(【0009】)ことから、インナ導入開口部からガス導入部に被測定ガスが到達するためには、訂正事項5-2の記載のうち、「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ」ることが理解できる。
また、上記b?dの記載及び上記eの図2(被測定ガスGの矢印)によれば、ルーバー部を用いて被測定ガスの流れを遮ることにより、訂正事項5-2の記載のうち、「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ」る構成を得ることが明示的に記載されており、上記cの「インナカバーには、上記インナ導入開口部の内側において、被測定ガスの流れを遮り、該被測定ガスが軸方向基端側へ流れるようにするルーバー部が設けられていてもよい。被測定ガスの多くを、インナ導入開口部からルーバー部を介してインナカバー内の軸方向基端側へ流れ込ませることができる。これにより、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスがセンサ素子のガス導入部に到達するまでの距離をより適切に短くすることができる。」との記載を踏まえると、上記構成を得るのに、被測定ガスの流れを遮る機能を有するルーバー部を用いることが一つの実施形態にすぎず、上記ルーバー部を用いることに限定されないことも理解できる。
そして、上記d及び上記eの図2によれば、インナカバー(4)にインナ排出開口部(43)が設けられていることから、訂正事項5-2の記載のうち、インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、「その後、・・・上記インナ排出開口部(43)に向けて流れる」ことも理解できる。
さらに、下記第8 1(3)イに示したとおり、本件特許明細書の記載によれば、本件発明1は、ガスセンサにおいて、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を高め、気筒間インバランスを検出する応答性に優れたものにすることを課題にし(【0007】)、この課題を解決するためには、「従来のA/F変化に対する応答性とは異なり、特にセンサ素子を保護する素子カバーにおいては、センサ素子のガス検出部(被測定ガスを検出するための部分)により多くの被測定ガスを短距離で迅速に到達させることに加え、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気されるA/Fの異なる被測定ガスが混合されにくくすることが不可欠となる」(【0005】)ことから、従来の仕様のガスセンサにおいて、「被測定ガスの流れ」の中で、軸方向距離aをマイナスからプラスに変更して、構成Hの配置にしたものである。
以上の点を踏まえると、請求項1に訂正事項5-2の「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、・・・上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている」という構成を加えることは、従来の仕様のガスセンサにおいても存在していた、上記課題の解決のための前提となる「被測定ガスの流れ」を、見える形として特定したものと理解できることから、新たな技術上の意義は追加されていないといえる。
そうすると、請求項1に訂正事項5-2を追加する訂正は、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでなく、本件特許明細書等に記載した範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項5-2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5-2は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(エ)請求人の主張について
請求人は、「ルーバー部の存在を規定しないで、あるいは、被測定ガスの『流れ』において、『まず、被測定ガスの流れを遮る』点を規定しないで、単に被測定ガスの流れの形態のみを規定する構成X2(当審注:構成X2は訂正事項5-2に相当する。)の本件発明への加入は、いわゆる新規事項追加であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものでなく、『構成X』(構成X2)を加える訂正は認められるべきでない。」と主張している(下記第4 3(13)を参照。)。
しかしながら、上記(イ)に示したとおりであるから、請求人の上記主張は採用できない。

イ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項5-2に係る訂正は、訂正要件を満たしている。

(1-5-3)訂正事項5についてのまとめ
以上のとおりであるから、訂正事項5に係る訂正は、訂正要件を満たしている。

(1-6)請求項1についての訂正のまとめ
以上のとおり、請求項1についての訂正事項1?5は、いずれも訂正要件を満たしている。

(2)請求項5についての訂正

(2-1)訂正事項6について
ア 当審の判断
訂正事項6は、請求項5を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項6は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
なお、請求人は、訂正事項6に係る訂正が訂正要件違反である旨の主張をしていない。

イ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項6に係る訂正は、訂正要件を満たしている。

(2-2)請求項5についての訂正のまとめ
以上のとおり、請求項5についての訂正事項6は、訂正要件を満たしている。

(3)明細書についての訂正

(3-1)訂正事項7について
ア 当審の判断
訂正事項7は、請求項1についての上記訂正事項1?5に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るための訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、訂正事項7は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
なお、請求人は、訂正事項7に係る訂正が訂正要件違反である旨の主張をしていない。

イ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項7に係る訂正は、訂正要件を満たしている。

(3-2)訂正事項8について
ア 当審の判断
訂正事項8は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の「【請求項1】
・・・
上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向中間位置(C1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあ」り、願書に最初に添付した明細書の「【0044】
同図に示すごとく、センサ素子2のガス導入部271の軸方向中間位置C1は、インナカバー4のインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向基端側X2にある。」等の記載からみて、誤りが明らかである記載を正すための訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第2号に規定する「誤記の訂正」を目的とするものである。
そして、訂正事項8は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
なお、請求人は、訂正事項8に係る訂正が訂正要件違反である旨の主張をしていない。

イ 小括
以上のとおりであるから、訂正事項8に係る訂正は、訂正要件を満たしている。

(3-3)明細書についての訂正のまとめ
以上のとおり、明細書についての訂正事項7及び8は、訂正要件を満たしている。

(4)一群の請求項について
特許請求の範囲の請求項1?5は、本件訂正前の請求項1を請求項2?5が引用しているものであるから、一群の請求項であり、訂正事項1?6に係る本件訂正請求は、請求項1?5からなる一群の請求項ごとに特許請求の範囲の訂正を請求するものである。また、訂正事項7は本件特許明細書の段落【0008】の記載を、訂正事項8は本件特許明細書の段落【0011】の記載を、本件訂正後の請求項1に対応させる訂正であって、請求項1及び請求項1を引用する請求項2?5に関係するものであるから、訂正事項7及び8に係る本件訂正請求は、請求項1?5からなる一群の請求項の全てについて行うものである。

3 訂正請求についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法134条の2第1項ただし書き第1号?第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項、及び同条第9項において準用する特許法126条4項から6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記「第2 訂正請求について」のとおり、本件訂正を認めることから、本件特許の請求項5に係る発明は削除されたので、本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」といい、本件発明1?4を総称して「本件発明」という。)は、平成30年3月7日付け訂正請求書(2)に添付された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。

<本件発明1(請求項1)>
多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサであって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)と、
該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)と、
該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)とを備え、
上記センサ素子(2)の先端部(201)には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部(271)が設けられており、
上記素子カバー(3)は、上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)と、該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)とを有し、
該アウタカバー(5)には、該アウタカバー(5)内に被測定ガスを導入するためのアウタ導入開口部(52)が設けられており、
上記インナカバー(4)には、該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)と、インナ排出開口部(43)が設けられており、
上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向中間位置(C1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
上記センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向先端側(X1)にあり、
上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されていることを特徴とするガスセンサ(1)。

<本件発明2(請求項2)>
上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向先端位置(C2)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ(1)。

<本件発明3(請求項3)>
上記インナカバー(4)には、上記インナ導入開口部(42)の内側において、被測定ガスの流れを遮り、該被測定ガスが軸方向基端側(X2)へ流れるようにするルーバー部(44)が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスセンサ(1)。

<本件発明4(請求項4)>
上記ルーバー部(44)は、上記インナ導入開口部(42)の軸方向先端側(X1)の端部(421)から上記インナカバー(4)の内側に折り曲げられ、軸方向基端側(X2)に向かって形成されていることを特徴とする請求項3に記載のガスセンサ(1)。

第4 請求人の主張

1 請求の趣旨
請求人は、審判請求書において、「特許第5765394号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めている。

2 請求人の証拠方法
請求人は、審判請求書に添付して以下の甲第1号証?甲第8号証を、審判事件弁駁書に添付して以下の甲第9号証?甲第13号証を、口頭審理陳述要領書(1)に添付して以下の甲第14号証を、口頭審理陳述要領書(2)に添付して以下の甲第15号証?甲第18号証を提示している。

甲第1号証:特許第5765394号公報(本件特許の特許掲載公報)
甲第2号証:特開平11-248671号公報
甲第3号証:特開2000-171430号公報
甲第4号証:特開2012-127668号公報
甲第5号証:特開2007-316051号公報
甲第6号証:特開2003-43002号公報
甲第7号証:特開2005-227179号公報
甲第8号証:特開2007-101353号公報
甲第9号証:実開昭63-78265号公報
甲第10号証:特許第2641346号公報
甲第11号証:特開2000-304719号公報
甲第12号証:特開2009-127473号公報
甲第13号証:特開平5-272382号公報
甲第14号証:特開2012-211858号公報
甲第15号証:特開2014-122877号公報(本件特許出願の公開特許公報)
甲第16号証:特開2000-220489号公報
甲第17号証:特開2012-21895号公報
甲第18号証:特開2013-117381号公報

以下「甲第1号証」ないし「甲第18号証」をそれぞれ「甲1」ないし「甲18」ということがある。

3 請求人が主張する無効理由
審判請求書、審判事件弁駁書、口頭審理陳述要領書(1)、口頭審理陳述要領書(2)、口頭審理、意見書を総合すると、請求人が主張する無効理由は、次のとおりのものである。
なお、審判請求書の無効理由1?6、7-1?7-3、8-1?8-2、9-1?9-3、10-1?10-3、及び11は、審判事件弁駁書によって、新無効理由1?6、7-1?7-4、8-1?8-3、9-1?9-4、及び10-1?10-4として整理されたところ、新無効理由1?6、7-3、8-2、9-3、及び10-3については許可し、それ以外の新無効理由については許可しない旨の補正許否の決定を文書(平成29年10月18日付け)をもって行い、また、口頭審理陳述要領書(1)及び口頭審理陳述要領書(2)によって追加された新無効理由11?14について許可する旨の補正許否の決定を口頭(平成30年2月28日の口頭審理)にて行った(第1回口頭審理調書 陳述要領 審判長の欄5を参照。)。

(1)新無効理由1(明確性違反)
本件発明1の「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」(構成G1)は、どのようなインナ導入開口部が、構成G1を満たすインナ導入開口部(42)に該当するのか判別できないから、不明確である。
よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、明確であるとはいえないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(審判事件弁駁書第5?7頁、口頭審理陳述要領書(1)第20?21頁、口頭審理陳述要領書(2)第18頁、口頭審理プレゼンテーション資料第24頁、意見書第45?46頁)

(2)新無効理由2(サポート要件違反)
インナ排出開口部(43)の位置あるいはインナカバー(4)内における被測定ガスの流通経路が定まっていないガスセンサ、及びインナ排出開口部(43)がインナカバー(4)の底面部に特定されないガスセンサを含む本件発明1は、本件発明の作用効果を奏するものといえないので、本件発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえず、サポート要件違反である。
よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書第2頁、第16?18頁、審判事件弁駁書第7?12頁、口頭審理陳述要領書(1)第21?22頁、口頭審理陳述要領書(2)第18?19頁、口頭審理プレゼンテーション資料第25頁、意見書第46?47頁)

(3)新無効理由3-1(サポート要件違反)
複数のインナ導入開口部の軸方向の位置が互いに異なっているガスセンサを含む本件発明1は、本件発明の作用効果を奏するものといえないので、本件発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえず、サポート要件違反である。
よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書第2?3頁、第20?23頁、審判事件弁駁書第12?16頁、口頭審理陳述要領書(1)第22?23頁、口頭審理陳述要領書(2)第19頁、口頭審理プレゼンテーション資料第26頁、意見書第47?50頁)

(4)新無効理由3-2(明確性違反)
本件発明1の構成G1、H、I、N及びXは、ガスセンサのインナカバー(4)に複数のインナ導入開口部(42)を有する場合、複数のインナ導入開口部(42)のすべてが構成G1、H、I、N及びXを満たすことを要するのか、少なくとも1つのインナ導入開口部(42)が構成G1、H、I、N及びXを満たせば足りるのか判らない記載となっているから、不明確である。
よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、明確であるとはいえないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書第2?3頁、第23頁、審判事件弁駁書第16頁)

(5)新無効理由4(サポート要件違反)
インナ導入開口部(42)にルーバー部(44)を設けないガスセンサを含む本件発明1は、本件発明の作用効果を奏するものといえないので、本件発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえず、サポート要件違反である。
よって、本件発明1及び請求項1の記載を引用する本件発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書第3頁、第24?25頁、審判事件弁駁書第16?27頁)

(6)新無効理由5(サポート要件違反)
インナカバー(4)及びセンサ素子(2)の径方向寸法に関する構成を特定していないガスセンサを含む本件発明1は、本件発明の作用効果を奏するものといえないので、本件発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえず、サポート要件違反である。
よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書第3頁、第25?28頁、審判事件弁駁書第27?30頁、口頭審理陳述要領書(1)第25頁、口頭審理陳述要領書(2)第19?20頁、口頭審理プレゼンテーション資料第27頁、意見書第50?53頁)

(7)新無効理由6(サポート要件違反)
気筒間インバランス検出用に限定していない本件発明1は、本件発明の作用効果を奏するものといえないので、本件発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえず、サポート要件違反である。
よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書第3?4頁、第28頁、審判事件弁駁書第30?32頁)

(8)新無効理由7-3(進歩性違反)
本件発明1は、甲5の実施例2、3に記載された発明及び甲8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書第7頁、第51?53頁、審判事件弁駁書第45?50頁、意見書第65?69頁)

(9)新無効理由8-2(進歩性違反)
本件発明2は、甲5の実施例2、3に記載された発明及び甲8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書第8頁、第53?54頁、審判事件弁駁書第55?56頁、意見書第65?69頁)

(10)新無効理由9-3(進歩性違反)
本件発明3は、甲5の実施例2、3に記載された発明、甲8に記載された技術的事項に基づいて、甲5の実施例2、3に記載された発明、甲8及び甲6に記載された技術的事項に基づいて、又は、甲5の実施例2、3に記載された発明、甲8に記載された技術的事項及び周知技術(甲6の図2、甲7の図11、図12)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書第8頁、第58?60頁、審判事件弁駁書第63?64頁、意見書第65?69頁)

(11)新無効理由10-3(進歩性違反)
本件発明4は、甲5の実施例2、3に記載された発明、甲8に記載された技術的事項及び周知技術(甲6の図2、甲7の図11、図12)に基づいて、甲5の実施例2、3に記載された発明、甲8、甲6に記載された技術的事項及び周知技術(甲6の図2、甲7の図11、図12)に基づいて、又は、甲5の実施例2、3に記載された発明、甲8に記載された技術的事項及び周知技術(甲6の図2、甲7の図11、図12)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書第9頁、第62?64頁、審判事件弁駁書第66?67頁、意見書第65?69頁)

(12)新無効理由11-1(訂正要件違反)
インナ排出開口部(43)の設置場所を、具体的なインナ底面部から、「インナ導入開口部(42)より軸方向先端側」に抽象化、上位概念化するという、本件特許明細書には記載されていなかった技術的事項を、顕在化し個別化するものである「構成X1」の本件発明への加入は、いわゆる新規事項追加であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものでなく、「構成X」(構成X1)を加入する訂正は認められるべきでない。
「構成X」(構成X1)を加入する訂正が認められない場合には、口頭審理において告知した無効理由通知の理由により、本件発明1?4に係る特許は、無効とすべきである。(口頭審理陳述要領書(1)第8頁、口頭審理陳述要領書(2)第5?8頁、口頭審理プレゼンテーション資料第15?16頁、第28頁、意見書第20?26頁)

(13)新無効理由11-2(訂正要件違反)
ルーバー部の存在を規定しないで、あるいは、被測定ガスの「流れ」において、「まず、被測定ガスの流れを遮る」点を規定しないで、単に被測定ガスの流れの形態のみを規定する「構成X2」の本件発明への加入は、いわゆる新規事項追加であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものでなく、「構成X」(構成X2)を加入する訂正は認められるべきでない。
「構成X」(構成X2)を加入する訂正が認められない場合には、口頭審理において告知した無効理由通知の理由により、本件発明1?4に係る特許は、無効とすべきである。(口頭審理陳述要領書(2)第8?13頁、口頭審理プレゼンテーション資料第17?18頁、意見書第27?35頁)

(14)新無効理由12-1(明確性違反)
本件発明1は、センサ素子(2)のガス導入部(271)への「被測定ガスの到達(構成G1)」と、「被測定ガスの流れ(構成X)」とが、どのような関係になっているのか、不明確である。
よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、明確であるとはいえないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(口頭審理陳述要領書(1)第10?11頁、口頭審理陳述要領書(2)第13?16頁、口頭審理プレゼンテーション資料第22頁、意見書第36?37頁)

(15)新無効理由12-2(明確性違反)
本件発明1において、構成Xにおける被測定ガスの「流れ」は、「主流れ」を指しているとも、「拡張流れ」を指しているとも解釈できるから、構成Xは不明確である。
よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、明確であるとはいえないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(口頭審理プレゼンテーション資料第22頁、意見書第37?38頁)

(16)新無効理由13-1(サポート要件違反)
構成Xで規定する被測定ガスの「流れ」とは別に、傍流や乱流や拡散等による被測定ガスが、センサ素子(2)のガス導入部(271)に到達するように構成されるガスセンサを含む本件発明1は、本件発明の作用効果を奏するものといえないので、本件発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえず、サポート要件違反である。
よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(口頭審理陳述要領書(2)第16?17頁、口頭審理プレゼンテーション資料第23頁、意見書第39?40頁)

(17)新無効理由13-2(サポート要件違反)
構成Xにおいて被測定ガスの「流れ」の形態(軌跡)は規定しているが、「流れ」の量(流量)や流速については規定していないガスセンサを含む本件発明1は、本件発明の作用効果を奏するものといえないので、本件発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえず、サポート要件違反である。
よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(意見書第40?41頁)

(18)新無効理由14-1(進歩性違反)
本件発明1?4は、甲14に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(口頭審理プレゼンテーション資料第19?20頁、意見書第57?61頁)

(19)新無効理由14-2(進歩性違反)
本件発明1?4は、甲5の実施例2、3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(意見書第61?65頁)

(20)新無効理由14-3(進歩性違反)
本件発明1?4は、甲5の実施例3に記載された発明及び甲14に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(意見書第61?65頁)

(21)新無効理由14-4(進歩性違反)
本件発明1?4は、甲5の実施例2に記載された発明及び甲14に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(意見書第61?65頁)

(22)新無効理由14-5(進歩性違反)
本件発明1?4は、甲5の実施例2、3に記載された発明、甲8及び甲14に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(意見書第65?69頁)

(23)新無効理由14-6(進歩性違反)
本件発明1?4は、甲5の実施例2に記載された発明、甲8及び甲14に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(意見書第65?69頁)

第5 当審から通知した無効理由
平成29年6月15日付け訂正請求書における訂正の請求を審理の対象とした当審無効理由は、以下のとおりである。

1 当審無効理由1(サポート要件違反)
「特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすかどうかは、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるか否かによって判断する。

発明の詳細な説明の記載によれば、本件発明(訂正後の本件発明1?4)の課題は、「内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を高めることができ、気筒間インバランスを検出する応答性に優れたガスセンサを提供しようとするものであ」り(【0007】)、上記本件発明の課題を解決するためには、「内燃機関の各気筒の被測定ガスGを順にセンサ素子2のガス導入部271に到達させ、センサ素子2のガス導入部271に到達するまでの間に各気筒の被測定ガスGが混合されることを抑制する」必要があり(【0050】)、そのためには、「インナ導入開口部42からインナカバー4内に導入された被測定ガスGをできるだけ短距離で迅速にセンサ素子2のガス導入部271に到達させること」が有効であること(【0050】)が理解できる。
そして、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスが、まず、センサ素子の軸方向基端側へ向けて流れ、その後、前記インナ導入開口部より軸方向先端側に設けられたインナ排出開口部に向けて流れるようにし(以下、「構成X」という。)、「センサ素子のガス導入部の軸方向中間位置を、インナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向基端側にすること(【0050】)」(以下、「構成H」という。)により、インナカバー内に導入された被測定ガスがガス導入部に到達するまでの距離を短くすることを達成し、本件発明の課題を解決しているものと認められる。
ここで、上記構成X及び構成Hを備えたガスセンサは、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度/応答性に優れていることが示されている(【0068】?【0071】)ことから、上記本件発明の課題を解決できるものと認められる。
しかしながら、本件発明では、構成Hを特定していても、構成Xが特定されていないため、構成Xを備えていない仕様のガスセンサにおいては、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスがセンサ素子のガス導入部に到達するまでの、被測定ガスの流れにおける距離を短くすることができるとはいえないので、本件発明のガスセンサは、上記課題を解決できないガスセンサを包含するものである。
よって、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。」(第1回口頭審理調書 陳述の要領 審判長の欄3 理由1、審理事項通知 第1 4)

2 当審無効理由2(進歩性違反)
「甲第5号証の【請求項1】に係る発明は、ガスセンサ素子(被測定ガス側電極)と内側開口部との配置関係が特定されていないことから、実施例9(【0067】、図16)以外の配置関係にすることを排除するものでないことが理解できるので、甲第5号証の【請求項1】に係る発明において、インナカバー内に導入された被測定ガスの流れを考慮して、本件発明の配置関係にすることは、当業者が適宜なし得たことである。
そして、本件発明は、上記「4 新無効理由2?6(サポート要件)についての当審の判断」で説示したとおり、内燃機関の気筒間インバランスの検出に適しているとはいえないことから、本件発明によってもたらされる効果は、甲第5号証に記載された事項から当業者が予測し得る程度のものである。
したがって、本件発明は、甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。」(第1回口頭審理調書 陳述の要領 審判長の欄3 理由2、審理事項通知 第1 6)

第6 被請求人の主張
被請求人は、審判事件答弁書(1)において、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めている。

第7 主な証拠の記載事項

1 甲5の記載等
(1)甲5の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲5には、次の事項が記載されている(下線は、当審において付したものである。以下、同様。)。

(甲5-ア)「【0016】
本発明(請求項1)において、上記ガスセンサとしては、自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置して、排気ガスフィードバックシステムに使用する空燃比センサ(A/Fセンサ)、排気ガス中の酸素濃度を測定する酸素センサ(O2センサ)、また排気管に設置する三元触媒の劣化検知等に利用するNOx等の大気汚染物質濃度を調べるNOxセンサ等がある。
・・・
【0017】
また、本明細書において、上記ガスセンサを内燃機関の排気管等に挿入する側を先端側、その反対側を基端側として説明する。」

(甲5-イ)「【0032】
(実施例1)
本発明の実施例に係るガスセンサにつき、図1?図3を用いて説明する。
本例のガスセンサ1は、図1に示すごとく、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子2と、該ガスセンサ素子2を内側に挿通するハウジング3と、該ハウジング3の先端側に固定された素子カバー4とを有する。
【0033】
素子カバー4は、図1、図2に示すごとく、インナーカバー41と該インナーカバー41の外周に配置されたアウターカバー42との二重構造を有している。
アウターカバー42は、側面部に外側開口部421を設けてなると共に、該外側開口部421よりも先端側に排出用開口部422を設けてなる。
また、インナーカバー41は、外側開口部421よりも先端側となる位置に内側開口部411を設けてなる。
【0034】
図2に示すごとく、内側開口部411は、インナーカバー41の外部から内部へ向かう開口方向Aが上記ガスセンサ1の軸方向基端方向の成分(Az)を有する状態に形成されている。即ち、上記開口方向Aのベクトルをガスセンサ1の軸方向成分(Az)と径方向成分(Ar)とに分けたとき、軸方向成分(Az)が、軸方向基端側に正となる。
また、上記開口方向Aは、内側開口部411の輪郭線を含む平面に直交する方向として定義することができる。また、上記輪郭線が単一平面上にない場合には、上記輪郭線に最も近似した平面状の曲線(2次元の曲線)を想定し、この曲線を含む平面に直交する方向を上記開口方向Aとする。
【0035】
また、排出用開口部422は、アウターカバー42の先端部に形成されている。
また、インナーカバー41は、素子カバー4の外部に開口する先端開口部412を、先端部に形成してなる。
アウターカバー42は、先端側へ行くほど縮径するテーパ形状の外側径変部423を形成してなる。
また、インナーカバー41は、先端側へ行くほど縮径するテーパ形状の内側径変部413、414を、軸方向の2箇所に形成してなる。そして、基端側の内側径変部413に、上記内側開口部411が穿設されている。
・・・
【0039】
また、ガスセンサ素子2は、ジルコニアを主成分とする固体電解質体の一方の面と他方の面とに基準ガス側電極及び被測定ガス側電極とを設けてなる(図示略)。また、ガスセンサ素子2には、ヒータが内蔵されており(図示略)、ガスセンサ1の使用時において、ガスセンサ素子2を400℃以上の高温に加熱して、活性状態とする。
【0040】
次に、本例の作用効果につき説明する。
上記素子カバー4は、アウターカバー42に外側開口部421と排出用開口部422とを設けており、インナーカバー41における外側開口部421よりも先端側となる位置に内側開口部411を設けている。そのため、図3に示すごとく、側方から流れて来る被測定ガスGは、外側開口部421からアウターカバー42とインナーカバー41との間に導入され、排出用開口部422から排出される(G1)。また、アウターカバー42とインナーカバー41との間に導入された被測定ガスの一部(G2)が、更に内側開口部からインナーカバー41の内部に導入され、ガスセンサ素子2に到達する。
【0041】
上述のごとく、内側開口部411は、外側開口部421よりも先端側となる位置に形成されていると共に、インナーカバー41の外部から内部へ向かう開口方向Aがガスセンサ1の軸方向基端方向の成分Azを有する状態に形成されている。それ故、アウターカバー42の外側開口部421から導入された被測定ガスGの流れのうち、排出用開口部42へ向かう流れ(G1)は比較的直線的な流れとなるが、内側開口部411からインナーカバー41の内部へ向かう流れ(G2)は曲線的な流れとなる。」

(甲5-ウ)図1には、以下の図面が示されている。

(甲5-エ)「【0050】
(実施例2)
本例は、図4に示すごとく、インナーカバー41における内側開口部411の穿設位置を、より先端側にずらした例である。具体的には、内側開口部411は、アウターカバー42の外側開口部421と排出開口部422との略中間位置に形成されている。
また、インナーカバー41の内側径変部413も同様に、外側開口部421と排出開口部422との略中間位置に形成され、この内側径変部413に内側開口部411が形成されている。
その他は、実施例1と同様である。
【0051】
この場合には、内側開口部411が外側開口部421からより離れた位置に配されることとなる。そのため、外側開口部421から導入された被測定ガスと共に流れる水滴が、内側開口部411からインナーカバー41の内部に浸入することをより防ぐことができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。」

(甲5-オ)図4には、以下の図面が示されている。

(甲5-カ)「【0052】
(実施例3)
本例は、図5、図6に示すごとく、インナーカバー41の側面部の一部に設けた凹部417の基端に、内側開口部411を形成した例である。
即ち、インナーカバー41における内側径変部413の複数箇所に凹部417を設け、該凹部417の基端を開口させることにより、内側開口部411を形成する。即ち、いわゆるルーバー形状の内側開口部411とする。
その他は、実施例1と同様である。
【0053】
本例の場合には、インナーカバー41の幅を大きくすることなく、内側開口部411の開口方向Aを、ガスセンサ1の軸方向基端方向へ近付けることができる。これにより、ガスセンサ素子2の被水を充分に防止すると共に、ガスセンサ1の小型化を容易にすることができる。
その他、実施例1と同様の作用効果を有する。」

(甲5-キ)図5には、以下の図面が示されている。

(甲5-ク)図6には、以下の図面が示されている。

(甲5-ケ)「【0065】
(実施例9)
本例は、図15、図16に示すごとく、インナーカバー41の先端面410とアウターカバー42の先端面420とを、互いに略同一平面上に配したガスセンサ1の例である。
実施例1のガスセンサ1においては、インナーカバー41がアウターカバー42の先端面よりも先端側に突出した形状を有しているが、本例においては、インナーカバー41をアウターカバー42よりも突出させることなく、インナーカバー41の先端面410とアウターカバー420の先端面420とを略同一平面上に配したものである。
・・・
【0067】
また、インナーカバー41の最も直径の小さい部分を含む内側径変部414、即ち先端側の内側径変部414は、その基端部414aがガスセンサ素子2の先端21よりも先端側に配されている。
また、図16に示すごとく、内側開口部411は、ガスセンサ素子2に設けた被測定ガス側電極22の基端部221から該被測定ガス側電極22の軸方向長さLの半分の位置までの間の位置に形成されている。また、より好ましくは、内側開口部411は、被測定ガス側電極22の基端部221から該被測定ガス側電極22の軸方向長さLの3分の1の位置までの間の位置に形成する。
その他は、実施例5(当審注:【0065】?【0067】では、実施例1からの変更点を記載していることから、実施例1の誤記と認める。)と同様である。
なお、図15?図17は、平板状のガスセンサ素子2の主面に対して垂直な方向から見た図である。
・・・
【0072】
また、内側開口部411は、被測定ガス側電極22の基端部221から該被測定ガス側電極22の軸方向長さLの半分の位置までの間の位置に形成されている。これにより、図16に示すごとく、内側開口部411から導入された被測定ガスGを、被測定ガス側電極22に即座に到達させることができると共に、被測定ガス側電極22の全体に行き渡らせることができ、一層応答性に優れたガスセンサ1を得ることができる。
その他、実施例5(当審注:【0065】?【0067】では、実施例1からの変更点を記載していることから、実施例1の誤記と認める。)と同様の作用効果を有する。
【0073】
内側開口部411が、被測定ガス側電極22の軸方向長さの半分の位置よりも先端側に形成されている場合には、内側開口部411から導入された被測定ガスGを、被測定ガス側電極22の全体に行き渡らせることが困難となり、充分な応答性を得ることが困難となるおそれがある。一方、上記内側開口部411が、被測定ガス側電極22の基端部221よりも基端側に形成されている場合には、内側開口部411から導入された被測定ガスが被測定ガス側電極22に到達するまでに時間がかかり、優れた応答性を得ることが困難となるおそれがある。

(甲5-コ)図16には、以下の図面が示されている。


(2)甲5の実施例2に記載された発明
甲5の実施例2は、実施例1に対して、上記(甲5-エ)に記載された事項のみを変更したものであるから、上記(甲5-ア)?(甲5-オ)を総合すると、甲5の実施例2には、次の発明(以下、「甲5実施例2発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、下線部分は、実施例1に対する変更箇所である。

「自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置するガスセンサ1であって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子2と、該ガスセンサ素子2を内側に挿通するハウジング3と、該ハウジング3の先端側に固定された素子カバー4とを有し、
素子カバー4は、インナーカバー41と該インナーカバー41の外周に配置されたアウターカバー42との二重構造を有し、
アウターカバー42は、側面部に外側開口部421を設けてなると共に、該外側開口部421よりも先端側に排出用開口部422を設けてなり、
インナーカバー41は、外側開口部421よりも先端側となる位置に内側開口部411を設けてなり、
インナーカバー41は、素子カバー4の外部に開口する先端開口部412を、先端部に形成してなり、
インナーカバー41は、先端側へ行くほど縮径するテーパ形状の内側径変部413、414を、軸方向の2箇所に形成してなり、基端側の内側径変部413に、上記内側開口部411が穿設されてなり、
ガスセンサ素子2は、ジルコニアを主成分とする固体電解質体の一方の面と他方の面とに基準ガス側電極及び被測定ガス側電極とを設けてなり、
内側開口部411は、アウターカバー42の外側開口部421と排出開口部422との略中間位置に形成されてなり、
側方から流れて来る被測定ガスGは、外側開口部421からアウターカバー42とインナーカバー41との間に導入され、排出用開口部422から排出され(G1)、また、アウターカバー42とインナーカバー41との間に導入された被測定ガスの一部(G2)が、更に内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され、ガスセンサ素子2に到達する、
ガスセンサ1。」

(3)甲5の実施例3に記載された発明又は技術的事項
甲5の実施例3は、実施例1に対して、上記(甲5-カ)に記載された事項のみを変更したものであり、図1(甲5-ウ)から、ガスセンサ素子2の先端位置は、インナーカバー41の内側開口部411よりも先端側にあることが見て取れることから、上記(甲5-ア)?(甲5-ウ)、(甲5-カ)?(甲5-ク)を総合すると、甲5の実施例3には、次の発明(以下、「甲5実施例3発明」という。)又は技術的事項が記載されていると認められる。
なお、下線部分は、実施例1に対する変更箇所である。

「自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置するガスセンサ1であって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子2と、該ガスセンサ素子2を内側に挿通するハウジング3と、該ハウジング3の先端側に固定された素子カバー4とを有し、
素子カバー4は、インナーカバー41と該インナーカバー41の外周に配置されたアウターカバー42との二重構造を有し、
アウターカバー42は、側面部に外側開口部421を設けてなると共に、該外側開口部421よりも先端側に排出用開口部422を設けてなり、
インナーカバー41は、外側開口部421よりも先端側となる位置に内側開口部411を設けてなり、
インナーカバー41は、素子カバー4の外部に開口する先端開口部412を、先端部に形成してなり、
インナーカバー41は、先端側へ行くほど縮径するテーパ形状の内側径変部413、414を、軸方向の2箇所に形成してなり、基端側の内側径変部413に、上記内側開口部411が穿設されてなり、
ガスセンサ素子2は、ジルコニアを主成分とする固体電解質体の一方の面と他方の面とに基準ガス側電極及び被測定ガス側電極とを設けてなり、
ガスセンサ素子2の先端位置は、インナーカバー41の内側開口部411よりも先端側にあり、
インナーカバー41における内側径変部413の複数箇所に凹部417を設け、該凹部417の基端を開口させることにより、内側開口部411を形成し、即ち、いわゆるルーバー形状の内側開口部411とし、
側方から流れて来る被測定ガスGは、外側開口部421からアウターカバー42とインナーカバー41との間に導入され、排出用開口部422から排出され(G1)、また、アウターカバー42とインナーカバー41との間に導入された被測定ガスの一部(G2)が、更に内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され、ガスセンサ素子2に到達する、
ガスセンサ1。」

(4)甲5の実施例2、3に記載された発明
甲5から、実施例2と実施例3を組み合わせた発明も理解できるので、上記(2)及び(3)を総合すると、甲5には、次の発明(以下、「甲5実施例2、3発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、下線部分は、実施例1に対する変更箇所である。

「自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置するガスセンサ1であって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子2と、該ガスセンサ素子2を内側に挿通するハウジング3と、該ハウジング3の先端側に固定された素子カバー4とを有し、
素子カバー4は、インナーカバー41と該インナーカバー41の外周に配置されたアウターカバー42との二重構造を有し、
アウターカバー42は、側面部に外側開口部421を設けてなると共に、該外側開口部421よりも先端側に排出用開口部422を設けてなり、
インナーカバー41は、外側開口部421よりも先端側となる位置に内側開口部411を設けてなり、
インナーカバー41は、素子カバー4の外部に開口する先端開口部412を、先端部に形成してなり、
インナーカバー41は、先端側へ行くほど縮径するテーパ形状の内側径変部413、414を、軸方向の2箇所に形成してなり、基端側の内側径変部413に、上記内側開口部411が穿設されてなり、
ガスセンサ素子2は、ジルコニアを主成分とする固体電解質体の一方の面と他方の面とに基準ガス側電極及び被測定ガス側電極とを設けてなり、
内側開口部411は、アウターカバー42の外側開口部421と排出開口部422との略中間位置に形成されてなり、
インナーカバー41における内側径変部413の複数箇所に凹部417を設け、該凹部417の基端を開口させることにより、内側開口部411を形成し、即ち、いわゆるルーバー形状の内側開口部411とし、
側方から流れて来る被測定ガスGは、外側開口部421からアウターカバー42とインナーカバー41との間に導入され、排出用開口部422から排出され(G1)、また、アウターカバー42とインナーカバー41との間に導入された被測定ガスの一部(G2)が、更に内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され、ガスセンサ素子2に到達する、
ガスセンサ1。」

(5)甲5の実施例9に記載された技術的事項
甲5の実施例9は、実施例1に対して、上記(甲5-ケ)に記載された事項のみを変更したものであり、図16(甲5-コ)から、ガスセンサ素子2の先端位置は、インナーカバー41の内側開口部411よりも先端側にあることが見て取れることから、上記(甲5-ア)?(甲5-ウ)、(甲5-ケ)?(甲5-コ)を総合すると、甲5の実施例9には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
なお、下線部分は、実施例1に対する変更箇所である。

「自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置するガスセンサ1であって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子2と、該ガスセンサ素子2を内側に挿通するハウジング3と、該ハウジング3の先端側に固定された素子カバー4とを有し、
素子カバー4は、インナーカバー41と該インナーカバー41の外周に配置されたアウターカバー42との二重構造を有し、
アウターカバー42は、側面部に外側開口部421を設けてなると共に、該外側開口部421よりも先端側に排出用開口部422を設けてなり、
インナーカバー41は、外側開口部421よりも先端側となる位置に内側開口部411を設けてなり、
インナーカバー41は、素子カバー4の外部に開口する先端開口部412を、先端部に形成してなり、
インナーカバー41は、先端側へ行くほど縮径するテーパ形状の内側径変部413、414を、軸方向の2箇所に形成してなり、基端側の内側径変部413に、上記内側開口部411が穿設されてなり、
ガスセンサ素子2は、ジルコニアを主成分とする固体電解質体の一方の面と他方の面とに基準ガス側電極及び被測定ガス側電極とを設けてなり、
ガスセンサ素子2の先端位置は、インナーカバー41の内側開口部411よりも先端側にあり、
インナーカバー41の最も直径の小さい部分を含む内側径変部414、即ち先端側の内側径変部414は、その基端部414aがガスセンサ素子2の先端21よりも先端側に配されてなり、
内側開口部411は、ガスセンサ素子2に設けた被測定ガス側電極22の基端部221から該被測定ガス側電極22の軸方向長さLの半分の位置までの間の位置に形成されてなり、
側方から流れて来る被測定ガスGは、外側開口部421からアウターカバー42とインナーカバー41との間に導入され、排出用開口部422から排出され(G1)、また、アウターカバー42とインナーカバー41との間に導入された被測定ガスの一部(G2)が、更に内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され、ガスセンサ素子2に到達する、
ガスセンサ1。」

2 甲8の記載等
(1)甲8の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲8には、次の事項が記載されている。

(甲8-ア)「【0021】
(実施例1)
本例の実施例にかかるガスセンサにつき、図1?図4を用いて説明する。
本例のガスセンサ1は、図1に示すごとく、被測定ガス中の特定ガスの濃度を検出するガスセンサ素子2と、該ガスセンサ素子2を素子挿通孔30に貫通させて保持する絶縁碍子3と、該絶縁碍子3が挿入配置されるハウジング5とを有する。
【0022】
また、図1、図4に示すごとく、ガスセンサ素子2と絶縁碍子3とは、素子挿通孔30の基端側において密閉封止材6によって封止固定してある。
また、ガスセンサ素子2は、絶縁碍子3よりも先端側において、被測定ガス側電極23と基準ガス側電極25とを設けたセンシング部200を形成してなる。そして、図2に示すごとく、該センシング部200には、被測定ガス側電極23へ向かう被測定ガスを拡散させる多孔質拡散抵抗層21が配設されている。
・・・
【0024】
本例のガスセンサ1は、自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置して、排気ガス中の酸素濃度を測定する酸素センサである。
図2、図3に示すごとく、ジルコニアよりなる酸素イオン伝導性の固体電解質体24の表面には、開口部220を有すると共にアルミナよりなる緻密でガスを透過しない絶縁層22を設けてある。また、固体電解室体24と絶縁層22との間には、白金よりなる被測定ガス側電極23とこれに接続された電極リード部231と電極端子部232とを設けてある。
・・・
【0027】
また、多孔質拡散抵抗層21は、図1?図4に示すごとく、被測定ガス室形成層29の一部に埋め込まれるように配設されている。即ち、ガスセンサ素子2の軸方向と直交する方向に端面211を露出すると共に、被測定ガス室形成層29の開口部290を挟み込むように開口部290の両側に配設されている。そして、上記短手方向に露出した端面211より、被測定ガスが多孔質拡散抵抗層21を通過して被測定ガス室210へと導入される。」

(甲8-イ)図1には、以下の図面が示されている。

(甲8-ウ)図2には、以下の図面が示されている。


(2)甲8に記載された技術的事項
図1(甲8-イ)には、基端側にガス導入開口部、先端側にガス排出開口部を有するインナカバーが見て取れるから、上記(甲8-ア)?(甲8-ウ)を総合すると、甲8には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置するガスセンサ1であって、
基端側にガス導入開口部、先端側にガス排出開口部を有するインナカバーと、
被測定ガス中の特定ガスの濃度を検出するガスセンサ素子2を有し、
ガスセンサ素子2は、先端側において、被測定ガス側電極23と基準ガス側電極25とを設けたセンシング部200を形成してなり、該センシング部200には、被測定ガス側電極23へ向かう被測定ガスを拡散させる多孔質拡散抵抗層21が配設されており、
多孔質拡散抵抗層21は、ガスセンサ素子2の軸方向と直交する方向に端面211を露出し、露出した端面211より、被測定ガスが多孔質拡散抵抗層21を通過して被測定ガス室210へと導入される、
ガスセンサ1。」

3 甲6の記載等
(1)甲6の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲6には、次の事項が記載されている。

(甲6-ア)「【0024】本実施例の酸素センサは、内燃機関の排気管に取り付けられて、内燃機関の排気中の酸素濃度を検出するためのものであり、酸素濃度検出用の検出素子2と、検出素子2を把持して車両等の排気管に固定するための筒状の主体金具(ケース)4と、主体金具4の後端側に固定された筒状の外筒14と、検出素子2を保護するために主体金具4の先端側に固定された内側プロテクタ30及び外側プロテクタ50とを備える。」

(甲6-イ)「【0031】そして、図2,図3から明らかなように、内側プロテクタ30は、その上から外側プロテクタ50を被せた際に、各プロテクタ30,50の側壁及び主体金具4とは反対側の先端面の間に所定幅の空隙が形成されるように、外側プロテクタ50に比べて小さくなっている。
【0032】また、内側プロテクタ30の側壁において、主体金具4近傍の基端側と、主体金具4から離れた先端側とには、夫々、内側プロテクタ30(延いては酸素センサ)の中心軸Zを中心とする軸周りに、略等間隔で、複数(本実施例では6個)の基端側通気孔32及び先端側通気孔34が形成されており、外側プロテクタ50の側壁にも、中心軸Zを中心とする軸周りに略等間隔で複数(本実施例では6個)の側壁通気孔52が形成されている。
【0033】尚、この側壁通気孔52は、中心軸Z方向に沿って、内側プロテクタ30の基端側通気孔32と先端側通気孔34との間に位置するように、外側プロテクタ50の中心軸Z方向の略中央部分に形成されている。また、これら両プロテクタ30,50の側壁に形成された通気孔の内、内側プロテクタ30の側壁に形成された基端側通気孔32、及び、外側プロテクタ50の側壁に形成された側壁通気孔52には、ルーバー32a,52aが夫々設けられている。
【0034】このルーバー32a,52a付きの基端側通気孔32及び側壁通気孔52は、略半円形状を呈する円弧の中心が主体金具4を向くようにして、各プロテクタ30,50の側壁を略半円の円弧で切り欠き、その半円の弦に当たる部分を中心にして、略半円形状の側壁部分を各プロテクタ30,50の内側に向けて所定角度だけ折り曲げることにより、形成されている。そして、この折り曲げられた略半円形状の側壁部分がルーバー32a,52aとなり、各プロテクタ30,50内に流入する被測定ガスが、主体金具40(当審注:「40」は「4」又は「4の」の誤記と認める。)方向に流れるように、被測定ガスの流れを規定する。」

(甲6-ウ)図2には、以下の図面が示されている。

(2)甲6に記載された技術的事項
上記(甲6-ア)?(甲6-ウ)を総合すると、甲6には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「内燃機関の排気管に取り付けられて、内燃機関の排気中の酸素濃度を検出するための酸素センサであって、
検出素子2を把持して車両等の排気管に固定するための筒状の主体金具(ケース)4と、検出素子2を保護するために主体金具4の先端側に固定された内側プロテクタ30を備え、
プロテクタ30の側壁に形成された通気孔の内、内側プロテクタ30の側壁に形成された基端側通気孔32には、ルーバー32aが設けられ、
このルーバー32a付きの基端側通気孔32は、略半円形状を呈する円弧の中心が主体金具4を向くようにして、プロテクタ30の側壁を略半円の円弧で切り欠き、その半円の弦に当たる部分を中心にして、略半円形状の側壁部分をプロテクタ30の内側に向けて所定角度だけ折り曲げることにより、形成され、そして、この折り曲げられた略半円形状の側壁部分がルーバー32aとなり、プロテクタ30内に流入する被測定ガスが、主体金具4の方向に流れるように、被測定ガスの流れを規定する、
酸素センサ。」

4 甲7の記載等
(1)甲7の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲7には、次の事項が記載されている。

(甲7-ア)「【0001】
本発明は,内燃機関の排気系等に設置して、酸素濃度、A/F、NOx濃度等の検出に利用可能なガスセンサに関する。」

(甲7-イ)「【0005】
そこで、図11、図12に示すごとく、導入穴920をルーバー構成として、被測定ガス流れが直接センサ素子にあたらないような被測定ガス側カバー92が提案された。
すなわち、被測定ガス側カバー92の側面に切り込み922を入れて、付け根923の部分を折り目として被測定ガス側カバー92の内部に折込むことで、ルーバー構成の導入穴920を設ける。
この場合、図11の図面における上側の導入穴920からは矢線nに示す方向で被測定ガスが被測定ガス側カバー92の内部に流れ込むため、直接センサ素子に当たることが防止できる。
また、図示は省略したが、側面の下方にルーバー構成の導入穴を設けた場合は、該導入穴から流入した被測定ガスの流れが周方向に変換されるため、直接センサ素子に当たることが防止できる。」

(甲7-ウ)図11には、以下の図面が示されている。

(甲7-エ)図12には、以下の図面が示されている。


(2)甲7に記載された技術的事項
上記(甲7-ア)?(甲7-エ)を総合すると、甲7には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「内燃機関の排気系等に設置して、酸素濃度、A/F、NOx濃度等の検出に利用可能なガスセンサであって、
被測定ガス側カバー92の側面に切り込み922を入れて、付け根923の部分を折り目として被測定ガス側カバー92の内部に折込むことで、ルーバー構成の導入穴920を設けた、
ガスセンサ。」

5 甲14の記載等
(1)甲14の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲14には、次の事項が記載されている。

(甲14-ア)「【0010】
また、プラントや内燃機関等の実際の設備や機械においてガスセンサが設けられる箇所は、それらの設計仕様やセンサ搭載上の制約等により、必ずしも理想的な箇所ではない場合がある。例えば、内燃機関の排気通路に設けられる空燃比センサの配置は、エキゾーストマニホルドの形状等によって制約される。その結果、例えば、空燃比気筒間インバランスの検出に理想的な箇所に空燃比センサを設けることができず、空燃比気筒間インバランスの検出感度が不十分となる場合がある。」

(甲14-イ)「【0014】
即ち、当該技術分野においては、対象ガス中に含まれる成分の凝縮液や不純物の付着によるガスセンサの汚損や破損を抑制しつつ、従来技術に勝る、より高い検出性能(例えば、検出精度、検出感度、応答速度等)を有するガスセンサに対する継続的な要求が存在する。本発明は、かかる要求に応えるべく創作されたものである。即ち、本発明の目的は、検出対象となる気体(対象ガス)中に含まれる成分の凝縮液や不純物の付着によるガスセンサの汚損や破損を抑制しつつ、より高い検出性能(例えば、検出精度、検出感度、応答速度等)を有するガスセンサを提供することにある。」

(甲14-ウ)「【0021】
(1)第1態様
本発明の第1態様は、
気体の性状及び/又は気体が含有する成分の濃度を検出するためのセンサ素子、及び
前記センサ素子を覆うように設けられ、その内部に前記気体を導入する導入孔を有するカバー、
を備えるガスセンサであって、
前記カバーの外面のうち前記気体が流れる方向における下流側に位置する部分の少なくとも一部を、当該部分との間に予め定められた間隔を空けて覆うように設けられたガイド壁、
を更に備えることを特徴とするガスセンサである。
【0022】
上記センサ素子は、上記ガスセンサが検出しようとする気体の性状や含有成分等に応じて適宜選択されるものであり、特定の種類や構造に限定されるものではない。例えば、対象ガスが含有する酸素の濃度を検出しようとする場合(即ち、上記ガスセンサが酸素センサを構成する場合)、上記センサ素子としては、一般的には、高温に加熱された安定化ジルコニア(セラミックス)の酸素イオン伝導性を利用するタイプのものが採用される。
【0023】
上記カバーは、上記ガスセンサが使用される環境(例えば、温度、圧力、及びガスの流量等)や検出対象となる気体(対象ガス)の性状(例えば、温度、腐食性等)、上記センサ素子の作動条件(例えば、作動温度等)等に耐え、且つ所望の形状及び大きさに加工することが可能である限り、如何なる材料によって構成されていてもよく、特定の材料に限定されるものではない。例えば、上記カバーは、ステンレス鋼によって形成することができる。
【0024】
上記カバーの形状や大きさは、例えば、上記ガスセンサが配設される箇所の形状や大きさ(例えば、対象ガスの通路の形状や太さ等)、上記センサ素子の形状や大きさ、対象ガスの流動性や流速等、種々の要因に応じて適宜設計することができる。また、上記カバーの内側に第2のカバーが設けられていてもよい。即ち、センサ素子のカバーは、多重化されていてもよく、前述のような「ラビリンス構造」を呈するように構成されていてもよい。更に、上記カバー(及び、存在する場合には、第2のカバー)及び上記センサ素子の間の間隔(空隙)もまた、例えば、上記ガスセンサが配設される箇所の形状、上記センサ素子の形状や大きさ、対象ガスの流動性や流速等、種々の要因に応じて適宜設計することができる。
【0025】
尚、上記カバーが有する導入孔の形状及び大きさは、対象ガス中に含まれることが想定される異物や不純物等の大きさや性状、及び上記ガスセンサの検出性能(例えば、検出精度、検出感度、応答速度等)を考慮して適宜設計することができる。例えば、上記ガスセンサが酸素センサを構成する場合、上記導入孔は、例えば、1?3mmの直径を有し、その数が4?8個であることが望ましい。」

(甲14-エ)「【0041】
前述のように、図1は、本発明の1つの実施態様に係るガスセンサの概略構成を示す側断面図(a)及び導入孔を通る平面による断面図(b)である。図1(a)に示すように、本実施態様に係るガスセンサ10は、センサ素子21、センサ素子21を覆うように設けられ、その内部に対象ガスを導入する導入孔32を有するカバー31、及びカバー31の下流側の外面の一部を覆うように設けられたガイド壁51を備えている。
【0042】
加えて、本実施態様に係るガスセンサ10は、センサ素子21とカバー31との間に、内側カバー41を備えている。この内側カバー41は、導入孔32を有するカバー31と共に、ガスセンサの外部からセンサ素子に至る経路を複雑化するためのラビリンス構造を構成している。但し、本実施態様に係るガスセンサ10においては、上記のように、内側カバー41とカバー31とがラビリンス構造を構成しているが、かかる構成は必須の要件ではなく、本発明に係るガスセンサは、本発明の趣旨から逸脱しない限り、種々の構成に変更することができる。
【0043】
尚、図1に示す白抜きの矢印は検出対象となる気体(対象ガス)の流れの方向を表す。また、破線によって囲まれる領域は、ガイド壁51によって対象ガスの圧力が局所的に高められる領域を表す。図1に示す黒い矢印は、この領域に存在する対象ガスが、下流側に位置する導入孔32を通って、センサ10の内部に流入する流れを表す。」

(甲14-オ)図1には、以下の図面が示されている。


(2)甲14に記載された発明又は技術的事項

ア 甲14のガスセンサは、上記(甲14-ア)の「内燃機関の排気通路に設けられる空燃比センサの配置は、エキゾーストマニホルドの形状等によって制約される。その結果、例えば、空燃比気筒間インバランスの検出に理想的な箇所に空燃比センサを設けることができず、空燃比気筒間インバランスの検出感度が不十分となる場合がある」との背景技術についての記載を踏まえると、多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサを含むものである。

イ 図1(甲14-オ)において、ガスセンサが対象ガスに晒される側を先端側、また、その反対側を基端側にすると、甲14のガスセンサは、
センサ素子21を保持するハウジングと、
該ハウジングの先端側に、センサ素子21を覆うように設けられ、その内部に対象ガスを導入する導入孔32を有するカバー31と、
センサ素子21とカバー31との間に、該ハウジングの先端側に、センサ素子21を覆うように設けられ、その内部にセンサ素子21に到達させる対象ガスを導入する内側導入孔と、内側排出孔とを有する内側カバー41とを備え、
前記内側カバー41には、前記内側導入孔の内側において、ルーバー部が設けられており、
前記導入孔32は、前記内側導入孔よりも基端側にあり、前記内側排出孔は、前記内側導入孔よりも先端側にあり、
上記センサ素子21の先端位置は、上記内側導入孔よりも先端側にあり、 前記内側導入孔から前記内側カバー41内に導入された対象ガスは、まず、基端側へ向かって流れることが見て取れる。

ウ 上記ア、イを含め、上記(甲14-ア)?(甲14-オ)を総合すると、甲14には、次の発明(以下、「甲14発明」という。)又は技術的事項が記載されていると認められる。

「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサ10であって、
対象ガスが含有する成分の濃度を検出するためのセンサ素子21と、
センサ素子21を保持するハウジングと、
該ハウジングの先端側に、センサ素子21を覆うように設けられ、その内部に対象ガスを導入する導入孔32を有するカバー31と、
カバー31の下流側の外面の一部を覆うように設けられたガイド壁51と、
センサ素子21とカバー31との間に、該ハウジングの先端側に、センサ素子21を覆うように設けられ、その内部にセンサ素子21に到達させる対象ガスを導入する内側導入孔と、内側排出孔とを有する内側カバー41とを備え、
前記内側カバー41には、前記内側導入孔の内側において、ルーバー部が設けられており、
前記導入孔32は、前記内側導入孔よりも基端側にあり、前記内側排出孔は、前記内側導入孔よりも先端側にあり、
上記センサ素子21の先端位置は、上記内側導入孔よりも先端側にあり、 前記内側導入孔から前記内側カバー41内に導入された対象ガスは、まず、基端側へ向かって流れる、
ガスセンサ10。」

6 甲4の記載等
(1)甲4の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲4には、次の事項が記載されている。

(甲4-ア)「【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るマルチガスセンサ200Aの長手方向(軸線方向O)に沿う断面図を示す。マルチガスセンサ200Aは、アンモニア濃度及びNOx濃度を検出するガスセンサ素子100Aを組み付けたアッセンブリである。マルチガスセンサ200Aは、軸線方向Oに延びる板状のガスセンサ素子100Aと、排気管に固定されるためのねじ部139が外表面に形成された筒状の主体金具138と、主体金具138の先端部に固定された有底円筒状のプロテクタ141と、ガスセンサ素子100Aの径方向周囲を取り囲むように配置される筒状のセラミックスリーブ106と、軸線方向Oに貫通するコンタクト挿通孔168の内壁面がガスセンサ素子100Aの後端部の周囲を取り囲む状態で配置される絶縁コンタクト部材166と、ガスセンサ素子100Aと絶縁コンタクト部166との間に配置される複数個(図1では2つのみ図示)の接続端子110とを主に備えている。
なお、軸線方向Oに見て図1の下側(ガスセンサ素子100A側)を「先端側」とし、図1の上側(グロメット150側)を「後端側」とする。
【0017】
詳しくは後述するが、ガスセンサ素子100Aは、先端部105にNOxセンサ部30及びアンモニアセンサ部42を有し、アンモニアセンサ部42はガスセンサ素子100Aの外表面に露出している。又、NOxセンサ部30の内部に被測定ガスを導入するためのガス拡散孔8aがガスセンサ素子100Aの側面に開口している。
・・・
【0020】
一方、図1に示すように、主体金具138の先端側(図1における下方)外周には、ガスセンサ素子100Aの先端部105を覆うと共に、複数の外側ガス導入孔142a、内側ガス導入孔143a、内側ガス排出孔143bを有する金属製(例えば、ステンレスなど)の有底円筒状のプロテクタ141が、溶接等によって取り付けられている。なお、プロテクタ141の詳細については、後述するが、この実施形態では、プロテクタ141は、有底筒状の内部プロテクタ143の外側に、筒状の外部プロテクタ142を離間配置した二重構造になっていて、外部プロテクタ142の底壁142tの開口から内部プロテクタ143の先端壁143tが先端側に突出している。」

(甲4-イ)「【0047】
次に、図5を参照し、プロテクタ141の内側ガス導入孔143a、内側ガス排出孔143bと、NOxセンサ部30及びアンモニアセンサ部42との位置関係について説明する。
・・・
【0052】
ここで、マルチガスセンサ200Aは、ねじ部139によって排気管500に固定され、内側ガス排出孔143bが内側ガス導入孔143aよりも排気管500の中心寄りに位置している。そして、排気管500を流れる被測定ガスV2が、内側プロテクタ143のテーパ部143fによりガス流れ方向を変えることにより、内側プロテクタ143の先端壁143t付近に負圧を生じさせる。これにより、被測定ガスはプロテクタ141内を、外側ガス導入孔142aから内側ガス導入孔143aを経て内側ガス排出孔143bへ流れるようになっている(図5の破線の矢印の流れ)。
【0053】
従って、内側ガス導入孔143aとアンモニアセンサ部42との最短距離d1を、内側ガス導入孔143aとガス拡散孔8aとの最短距離d2より短くすると、内側ガス導入孔143aに近いアンモニアセンサ部42にガス室119を通過した被測定ガスが最初に接触する。これにより、内側ガス導入孔143aからガス検出室129内に導入された被測定ガスが昇温されたNOxセンサ部30の近傍を通過した後にアンモニアセンサ部42に到達することが無く、アンモニアが熱分解する前の新鮮な被測定ガスをアンモニアセンサ部42に到達させることができ、アンモニア濃度出力の検知精度が向上する。又、NOxセンサ部30を制御温度に十分昇温することもできるので、NOx濃度出力の検知精度も向上する。
なお、最短距離d1、d2は、3次元的な空間での最短距離をいい、例えばガス導入孔143aやガス拡散孔8aが複数個設けられている場合、それらのうちの最短距離を採用する。
【0054】
又、本発明においては、内側ガス導入孔143aと内側ガス排出孔143bとの軸線方向Oの間の位置R1にアンモニアセンサ部42の少なくとも一部が配置される。このため、内側ガス導入孔143aから内側ガス排出孔143bへの被測定ガスの流路(図2の矢印の流れ)上にアンモニアセンサ部42が存在することになり、アンモニアセンサ部42に十分な被測定ガスが供給(拡散)された状態でアンモニア濃度を測定することができ、被測定ガスのガス流速が変化しても安定してアンモニア濃度を測定でき、その結果、アンモニア濃度出力の検知の応答性も速くなる。これに対し、位置R1にアンモニアセンサ部42が配置されない場合には、内側ガス導入孔143aから内側ガス排出孔143bへの被測定ガスの流路上にアンモニアセンサ部42が存在しない。このため、例えば、乱流等で不安定な流れとなった被測定ガスがアンモニアセンサ部42に到達し、十分な被測定ガスが供給(拡散)されず、被測定ガスのガス流速が変化するとアンモニア濃度出力が安定せず、アンモニア濃度出力の検知の応答性も遅くなる。
ここで、「位置R1にアンモニアセンサ部42の少なくとも一部が配置される」とは、位置R1の領域内にアンモニアセンサ部42の一部が配置されていればよいことをいう。例えば、軸線方向Oに見て、アンモニアセンサ部42が内側ガス導入孔143aに対して最も後端側に位置する場合、アンモニアセンサ部42の先端縁が内側ガス導入孔143aの後端縁と一致する。ここで、アンモニアセンサ部42の占める大きさ(例えば、図2の領域42R)は、既に述べた通りである。
【0055】
又、この実施形態では、ガス拡散孔8aは、内側ガス排出孔143bとアンモニアセンサ部42との軸線方向の間の位置R2に配置されている。このようにすると、内側ガス導入孔143aから内側ガス排出孔143bへの被測定ガスの流路(図2の矢印の流れ)上にガス拡散孔8aが存在することとなり、NOxセンサ部30に十分な被測定ガスが供給(拡散)された状態でNOx濃度出力を測定することができ、NOx検知の応答性が速くなり、その結果、安定してNOxを測定できる。
なお、「ガス排出孔143bとアンモニアセンサ部42との間の位置R2」とは、軸線方向Oにおいてアンモニアセンサ部42を含まない位置、つまりアンモニアセンサ部42の先端より先端側の領域をいう。」

(甲4-ウ)図1には、以下の図面が示されている。


(甲4-エ)図5には、以下の図面が示されている。


(甲4-オ)「【0063】
さらに、上記実施形態では、ガス拡散孔8aは、内側ガス排出孔143bとアンモニアセンサ部42との軸線方向の間の位置R2に配置されていたが、これに限られず、図6(b)、(c)に示すように、ガス拡散孔8aが内側ガス排出孔b(当審注:内側ガス排出孔bは、図6(b)、(c)及び【0065】の記載から、内側ガス導入孔143aの誤記と認める。)よりも後端側に配置されていても良い。
さらに、上記実施形態では、軸線方向Oにおいて、NOxセンサ部30とアンモニアセンサ部42とが重なっていたが、これに限られず、図6(b)、(c)に示すように、NOxセンサ部30とアンモニアセンサ部42とが重ならなくても良い。
さらに、上記実施形態では、アンモニアセンサ部42をガスセンサ素子100Aの外表面から突出させて、最短距離d3を最短距離d4より短くしたが、これに限られず、図6(d)、及び図7(a)、(b)に示すように、内側プロテクタ143の内側側壁143dのうち、アンモニアセンサ部42と最短距離となる部位を、内側プロテクタ143を径方向内側に突出させて縮径部143pを形成しても良い。なお、内側プロテクタ143の縮径部143pの部位にあわせて外側プロテクタ142の外側側壁142dも縮径していても良い。
さらに、上記実施形態では、アンモニアセンサ部42をガスセンサ素子100Aの外表面から突出させたが、これに限られず、図7(b)、(c)、(d)に示すように、アンモニアセンサ部42をガスセンサ素子100Aの先端部105に埋設させると共に、先端部105の外表面にアンモニアセンサ部42を露出させても良い。
【実施例】
【0064】
(1)センサの作製
上記実施形態(図1?図5)に係るマルチガスセンサ200Aを作製した。NOxセンサ部30の内側第1ポンピング電極2b、外側第1ポンピング電極2c、検知電極6b、基準電極6c、内側第2ポンピング電極4b、外側第2ポンピング電極4cは、それぞれ白金を主成分としている。一方、起電力式のアンモニアセンサ部42の一対の電極42aは、Co3O4を10質量%、YSZを5%含み残部金からなる検知電極42a1、白金を主成分とする基準電極42a2をそれぞれ用いた。又、一対の電極42aを覆う拡散層44Bとしてアルミナ(Al2O3)の多孔質層を形成した。図1?図5に示されたマルチガスセンサ200Aを「実施例1」と称する。
また、実施例2?9、又は比較例1?3として、図6?図8に示すような、ガスセンサ素子100AのNOxセンサ部30及びアンモニアセンサ部42の位置や、プロテクタ141の内側ガス導入孔143a及び内側ガス排出孔143bの位置を変更したマルチガスセンサも同様に作製した。
【0065】
ここで、実施例2は、図6(a)に示すように、実施例1における内側ガス導入孔143aの位置を、アンモニアセンサ部42の軸線方向Oの中央に移動させた変形例である。
実施例3は、図6(b)に示すように、実施例1におけるNOxセンサ部30を内側ガス導入孔143aよりも軸線方向O後端側に移動させた変形例である。
実施例4は、図6(c)に示すように、実施例3における内側ガス導入孔143aの位置を、アンモニアセンサ部42の軸線方向Oの中央に移動させた変形例である。
実施例5は、図6(d)に示すように、実施例1におけるアンモニアセンサ部42に対向する内側プロテクタ143の内側側壁143dを縮径させて縮径部143pを形成させた変形例である。
・・・
【0067】
一方、比較例1は、図8(a)に示すように、実施例2において、アンモニアセンサ部42の位置をガス導入孔143aよりもさらに後端側に移動させた変形例である。
比較例2は、図8(b)に示すように、実施例3において、ガス導入孔143aの軸線方向Oの位置をガス拡散孔8aより後端側に移動させた変形例である。
比較例3は、図8(c)に示すように、実施例3において、ガス導入孔143aの軸線方向Oの位置をアンモニアセンサ部42より先端側に移動させた変形例である。
【0073】
表1、図9?図13より、位置R1にアンモニアセンサ部42が少なくとも重なり、かつd1<d2である実施例1?9の場合、内側ガス導入孔143aに近いアンモニアセンサ部42に被測定ガスが最初に接触し、NOxセンサ部30に流入する前の新鮮な被測定ガスをアンモニアセンサ部42に到達させることができ、アンモニア濃度の検知精度が向上した。
一方、アンモニアセンサ部42が位置R1の範囲外に位置する比較例1,3の場合、アンモニア濃度検知の流速依存性が大きくなり、アンモニア検知の応答性が大幅に劣った。これは、内側ガス導入孔143aから内側ガス排出孔143bへの被測定ガスの流路上にアンモニアセンサ部42が存在しないため、例えば、乱流等で十分な被測定ガスがアンモニアセンサ部42に供給(拡散)されず、被測定ガスのガス流速が変化するとアンモニア濃度の測定値が安定せず、アンモニア検知の応答性も遅くなるためと考えられる。
又、d1>d2である比較例2の場合、アンモニア濃度の検知精度が大幅に劣化した。これは、被測定ガスが先に高温のNOxセンサ部30の近傍を通過した後、アンモニアセンサ部42に到達したため、アンモニアが熱分解してしまい、この被測定ガスをアンモニアセンサ部42が検知したためと考えられる。
【0074】
さらに、ガス拡散孔8aを、内側ガス排出孔143bとアンモニアセンサ部42との軸線方向の間の位置R2に配置した実施例1、2、5?7の場合、内側ガス導入孔143aから内側ガス排出孔143bへの被測定ガスの流路(図2の矢印の流れ)上にガス拡散孔8aが存在することとなり、NOxセンサ部30に十分な被測定ガスが供給(拡散)された状態でNOxを測定することができ、NOx検知の応答性が速くなり、その結果、安定してNOxを測定できる。」

(甲4-カ)図6には、以下の図面が示されている。


(甲4-キ)図8には、以下の図面が示されている。


(2)甲4に記載された技術的事項

ア 上記(甲4-ア)?(甲4-エ)を総合すると、甲4には、次の技術的事項(以下、「甲4に記載された技術的事項1」という。)が記載されていると認められる。

「軸線方向Oに延びる板状のガスセンサ素子100Aと、排気管に固定されるためのねじ部139が外表面に形成された筒状の主体金具138と、主体金具138の先端部に固定された有底円筒状のプロテクタ141と、を主に備えているマルチガスセンサ200Aであって、
ガスセンサ素子100Aは、先端部105にNOxセンサ部30及びアンモニアセンサ部42を有し、NOxセンサ部30の内部に被測定ガスを導入するためのガス拡散孔8aがガスセンサ素子100Aの側面に開口しており、
主体金具138の先端側外周には、ガスセンサ素子100Aの先端部105を覆うと共に、複数の外側ガス導入孔142a、内側ガス導入孔143a、内側ガス排出孔143bを有するプロテクタ141が取り付けられており、
被測定ガスはプロテクタ141内を、外側ガス導入孔142aから内側ガス導入孔143aを経て内側ガス排出孔143bへ流れるようになっており、
内側ガス導入孔143aとアンモニアセンサ部42との最短距離d1を、内側ガス導入孔143aとガス拡散孔8aとの最短距離d2より短くすると、内側ガス導入孔143aに近いアンモニアセンサ部42に被測定ガスが最初に接触し、これにより、内側ガス導入孔143aから導入された被測定ガスが昇温されたNOxセンサ部30の近傍を通過した後にアンモニアセンサ部42に到達することが無く、アンモニアが熱分解する前の新鮮な被測定ガスをアンモニアセンサ部42に到達させることができ、アンモニア濃度出力の検知精度が向上し、
ガス拡散孔8aは、内側ガス排出孔143bとアンモニアセンサ部42との軸線方向の間の位置R2に配置されており、このようにすると、内側ガス導入孔143aから内側ガス排出孔143bへの被測定ガスの流路上にガス拡散孔8aが存在することとなり、NOxセンサ部30に十分な被測定ガスが供給(拡散)された状態でNOx濃度出力を測定することができ、NOx検知の応答性が速くなり、その結果、安定してNOxを測定できる、
マルチガスセンサ200A。」

イ また、上記(甲4-オ)の「アンモニアセンサ部42が位置R1の範囲外に位置する比較例1,3の場合、アンモニア濃度検知の流速依存性が大きくなり、アンモニア検知の応答性が大幅に劣った。これは、内側ガス導入孔143aから内側ガス排出孔143bへの被測定ガスの流路上にアンモニアセンサ部42が存在しないため」(【0073】)という記載を踏まえると、実施例3(図6(b))及び実施例4(図6(c))のガス拡散孔8aも、被測定ガスの流路上に存在しないことが理解できる。
してみると、上記(甲4-ア)?(甲4-キ)を総合すると、甲4には、次の技術的事項(以下、「甲4に記載された技術的事項2」という。)が記載されていると認められる。

「甲4に記載された技術的事項1のマルチガスセンサ200Aにおいて、
ガス拡散孔8aは、内側ガス排出孔143bとアンモニアセンサ部42との軸線方向の間の位置R2に配置されることに代えて、ガス拡散孔8aが、被測定ガスの流路上に存在しない、内側ガス導入孔143aよりも後端側に配置されている、
マルチガスセンサ200A。」

7 甲16の記載等
(1)甲16の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲16には、次の事項が記載されている。

(甲16-ア)「【請求項1】 単一の空燃比センサを備えた多気筒エンジンの制御装置において、
前記制御装置は、前記空燃比センサの出力信号に基づいて空燃比を算出する手段と、該空燃比算出手段で算出した値を所定範囲の周波数成分に分析する手段と、該分析した周波数成分に基づいて気筒別の空燃比を推定する手段とを備えたことを特徴とするエンジンの制御装置。」

(甲16-イ)「【0006】本発明は、前記の如き問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、エンジンの排気管集合部に単一のA/Fセンサを配設した多気筒エンジンにおいて、各気筒毎の個別空燃比を算出(推定)することで、気筒毎に空燃比(燃料噴射量等の運転パラメータ)等を制御するエンジンの制御装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために、本発明のエンジンの制御装置は、基本的には、単一の空燃比センサを排気管集合部に備えた多気筒エンジンに適用するものであって、前記制御装置が、前記空燃比センサの出力信号に基づいて空燃比を算出する手段と、該空燃比算出手段で算出した値を所定範囲の周波数成分に分析する手段と、該分析された周波数成分に基づいて気筒別の空燃比を推定する手段とを備えたことを特徴している。
【0008】そして、本発明のエンジンの制御装置の具体的な態様は、該制御装置が、前記推定された気筒別空燃比に基づいてエンジンの運転パラメータを制御する手段を備え、前記周波数成分分析手段が、周波数成分からパワースペクトルと位相スペクロルとを抽出し、前記気筒別空燃比推定手段が、前記抽出されたパワースペクトル及び/又は位相スペクトルに基づいて気筒別の空燃比を推定し、前記運転パラメータ制御手段が、吸入空気量制御手段、燃料供給量制御手段、もしくは点火時期制御手段であり、前記気筒別空燃比推定手段が、エンジンの気筒別に、パワースペクトルと空燃比との関係に基づいて気筒別の空燃比を推定することを特徴としている。
【0009】前述の如く構成された、本発明のエンジンの制御装置は、多気筒エンジンの排気集合部、もしくは少なくとも各気筒の排気ガスを検出可能な場所に取り付けられた空燃比センサ(A/Fセンサ)の出力信号から各気筒毎の空燃比を推定し、該気筒毎に空燃比を補正することで、前記排気集合部におけるサイクル内の変動を抑制して、排気ガスの悪化を防ぐことができる。
【0010】ここで、前記した本発明のエンジンの制御装置の基本的な構成を、図1に基づいて説明する。空燃比算出手段Aは、A/Fセンサの出力信号を入力してエンジン全体の空燃比を算出する。スペクトル検出手段(周波数分析手段)Bでは、前記エンジン全体の空燃比の値から所定範囲のスペクトルを分析してスペクトルの位相とパワーとを算出する。気筒別空燃比算出手段Cでは、前記得られた所定のスペクトルの位相とパワーとから気筒毎の空燃比を推定する。空燃比補正手段Dと点火時期補正手段Fでは、前記推定された各気筒毎の空燃比に基づいて、各気筒毎の空燃比あるいは点火時期を、補正する制御を行い、排気ガスの悪化の低減、燃費向上、エンジンの安定性向上等を図る。
【0011】本発明は、空燃比に対してリニアな出力特性を有するA/Fセンサを用い、該A/Fセンサをエンジンの排気集合部に取り付けたことで、気筒間の空燃比ばらつきによって発生するサイクル内変動を検出することが可能となった。図2は、気筒間に空燃比ばらつきがある場合の排気集合部のA/Fセンサの出力信号であり、A/Fセンサによってサイクル内変動が検出されていることが解る。」

(2)甲16に記載された技術的事項
上記(甲16-ア)?(甲16-イ)を総合すると、甲16には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「単一の空燃比センサを備えた多気筒エンジンの制御装置において、
前記制御装置は、前記空燃比センサの出力信号に基づいて空燃比を算出する手段と、該空燃比算出手段で算出した値を所定範囲の周波数成分に分析する手段と、該分析した周波数成分に基づいて気筒別の空燃比を推定する手段とを備えた、エンジンの制御装置。」

8 甲17の記載等
(1)甲17の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲17には、次の事項が記載されている。

(甲17-ア)「【0006】
近年、ガスセンサの応答性をさらに高めることが要望されている。例えば、多気筒エンジンのインバランスを検知するために使用されるガスセンサには、以下のような理由によって、ガスセンサの応答性をさらに高めることが要望されている。多気筒エンジンのインバランスとは、多気筒エンジンの各気筒間の空燃比がばらつく現象である。インバランス状態は、例えば、多気筒エンジンの各気筒から排出される排気ガスが流通する部分の排気管に取り付けられたガスセンサの出力の振幅が閾値以上か否かに基づき検知される。同じインバランス状態を検知する場合、ガスセンサの応答性が高いほど、ガスセンサの出力の振幅は大きくなる。このため、ガスセンサの応答性が高いほど、インバランス状態であるか否かを判断するための閾値の設定が容易となる。したがって、多気筒エンジンのインバランスを検知するために、ガスセンサの応答性をさらに高めることが要望されている。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、応答性を高めたガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1態様のガスセンサは、軸線方向に延び、検知対象ガス中の特定ガスを検知するための検知部を先端側に有する検知素子と、前記軸線方向において前記検知部の少なくとも一部を囲む第1周壁を有する筒状の内側プロテクタと、前記軸線方向において前記第1周壁の少なくとも一部を囲む第2周壁を有する筒状の外側プロテクタと、を備えるガスセンサにおいて、前記第1周壁及び前記第2周壁の間に設けられた第1空間と、前記ガスセンサの外部とを連通させる、前記外側プロテクタに形成された複数の外側孔であって、前記第2周壁の周方向における孔の長さよりも前記軸線方向における孔の長さが長い外側孔と、前記第1空間と、前記第1周壁によって囲まれる第2空間とを連通させる、前記内側プロテクタに形成された複数の内側孔と、前記第1空間から前記第2空間に導入された前記検知対象ガスを前記外部に直接排出させる、前記内側プロテクタに形成された少なくとも1つの排出孔であって、前記複数の内側孔のそれぞれよりも前記軸線方向先端側に形成された排出孔と、を備え、前記複数の内側孔のそれぞれは、前記軸線方向において、前記複数の外側孔のそれぞれよりも前記軸線方向後端側のみ、且つ、前記検知部の最も前記先端側の部位よりも前記後端側に形成されており、前記複数の外側孔の開口面積のそれぞれは、前記複数の内側孔の開口面積のそれぞれよりも大きく、前記複数の外側孔の前記軸線方向の長さのそれぞれは、前記複数の外側孔と前記複数の内側孔との間の前記軸線方向の最短距離よりも長い。」

(甲17-イ)「【0018】
図1に示すように、検知素子110は、軸線AX方向に延びる板状の素子である。図示しないが、検知素子110は、ガス検知体と、ヒータ体とが、貼り合わされて一体化された公知の素子(例えば、特開2009-210456号公報参照)である。ガス検知体は、固体電解質体、固体電解質体上に配置された検知電極117(図2参照)、及び基準電極118(図2参照)を有するセルを備える。固体電解質体は、ジルコニアを主成分とする。検知電極117及び基準電極118は、白金を主成分とする。検知素子110は、検知素子110の先端側に検知部112を備える。なお、検知部112は、具体的には、検知電極117と基準電極118とが対極する位置におけるガス検知体の全部位のことをさす。検知部112には、ガス導入部111が設けられており、ガス導入部111は、検知素子110の内部に排気ガスを導入するための多孔質体である。ガス導入部111は、例えば、軸線AX方向の長さが2.5mm、幅が0.05mmの矩形状である。検知素子110の後端部116には、ガス検知体又はヒータ体から電気信号を取り出すための5個の電極パッド115(図1ではそのうちの1個を図示している。)が形成されている。排気ガス中の酸素濃度は、電極パッド115を介して、セルから出力される電気信号に基づき検知される。検知部112の表面には、検知電極117を排気ガスによる被毒から保護するための保護層(図示せず)が設けられている。」

(甲17-ウ)「【0030】
第1周壁201は、第1周壁201の後端側の部位に、複数の内側孔203を備える。内側孔203のそれぞれは、第1空間10と、第2空間20とを連通させる。第1空間10は、第1周壁201と、後述する外側プロテクタ210の第2周壁211との間に設けられた空間である。第2空間20は、第1周壁201によって囲まれる空間である。第2空間20には、検知素子110の検知部112が露出されている。内側孔203は、第1空間10に導入された排気ガスを、第2空間20内に導入するための孔である。軸線AX方向において、複数の内側孔203のそれぞれの最も先端側の位置D(図2参照)は、検知部112の最も先端側の位置(より具体的には、検知電極117と基準電極118とが対極する位置の最も先端側の位置)B(図2参照)よりも後端側にある。さらに、軸線AX方向において、位置Dは、検知部112のガス導入部111の最も後端側の部位の位置C(図2参照)よりも後端側にある。なお、位置Dは、位置Cよりも先端側にあってもよい。内側孔203のそれぞれは、後述する複数の外側孔214のそれぞれよりも軸線AX方向後端側のみに形成されている。
【0031】
内側孔203は、複数の第1内側孔204と、複数の第2内側孔205とを備える。第1内側孔204のそれぞれは、例えば、直径2.0mmの円状の形状を有し、第2内側孔205のそれぞれは、例えば、直径1.5mmの円状の形状を有する。第1内側孔204は、第2内側孔205よりも先端側に形成されている。第1内側孔204は、周方向に60度の等間隔で6つ並んで形成されている。各第1内側孔204の軸線AX方向の位置は、全て同じである。第2内側孔205は、周方向に60度の等間隔で6つ並んで形成されている。各第2内側孔205の軸線AX方向の位置は、全て同じである。第2内側孔205のそれぞれは、第1内側孔204のそれぞれと周方向においても重ならないように、ずらして形成されている。」

(甲17-エ)「【0037】
図1から図3を参照して、上記構成を有するガスセンサ100の検知部112の周囲を通過する排気ガスの流れについて説明する。ガスセンサ100が、排気ガスの流通方向に対して軸線AX方向が略直角となるように、自動車の排気管(図示省略)に取り付けられている場合を想定する。排気ガスには、ガス成分と、ガス成分よりも重い水滴とが含まれる。排気ガスは、まず外側プロテクタ210の外側孔214を介して、第1空間10に導入される。第1空間10に導入された排気ガスは、ガイド体215によって、平面視反時計回り(図3の矢印参照)に旋回する。旋回流の慣性力により、排気ガス中のガス成分と、水滴とが分離される。
【0038】
分離された水滴の大部分は、外側プロテクタ210の第2周壁211の内面に付着して下降する。なお、排気ガス中の水滴は、旋回流によって分離される前に、内側プロテクタ200の第1周壁201の外面に付着することがある。第1周壁201の外面に付着した水滴もこのような水滴も、同様に下降する。分離されたガス成分は、内側プロテクタ200の内側孔203を介して、第2空間20に導入される。第2空間20に導入された排気ガスは、検知部112の周囲を通って、ガスセンサ100の先端側に移動する。ガス成分の少なくとも一部は、検知素子110の検知部112のガス導入部111から検知素子110の内部に導入されて、酸素濃度の検知に利用される。
【0039】
ガス成分は、ガスセンサ100の先端側に流れ、内側プロテクタ200の排出孔207から直接ガスセンサ100の外部に排出される。排気管内を流通する排気ガスが内側プロテクタ200の先端部208に衝突すると、先端部208に沿って先端に向かって流れるガス流が生ずる。このガス流により排出孔207付近に負圧が発生するため、第2空間20内に導入された排気ガスは、排出孔207を介し、ガスセンサ100の外部に吸引されるように排出される。第2空間20内の排気ガスがガスセンサ100の外部に排出されることによって、第1空間10内の排気ガスが、内側孔203を介して、第2空間20に吸引されるように導入される。このようにして、第2空間20内のガス交換が行われる。」

(甲17-オ)図2には、以下の図面が示されている。


(2)甲17に記載された技術的事項
上記(甲17-ア)?(甲17-オ)を総合すると、甲17には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「軸線方向に延び、検知対象ガス中の特定ガスを検知するための検知部を先端側に有する検知素子と、前記軸線方向において前記検知部の少なくとも一部を囲む第1周壁を有する筒状の内側プロテクタと、前記軸線方向において前記第1周壁の少なくとも一部を囲む第2周壁を有する筒状の外側プロテクタと、を備えるガスセンサにおいて、前記第1周壁及び前記第2周壁の間に設けられた第1空間と、前記ガスセンサの外部とを連通させる、前記外側プロテクタに形成された複数の外側孔であって、前記第2周壁の周方向における孔の長さよりも前記軸線方向における孔の長さが長い外側孔と、前記第1空間と、前記第1周壁によって囲まれる第2空間とを連通させる、前記内側プロテクタに形成された複数の内側孔と、前記第1空間から前記第2空間に導入された前記検知対象ガスを前記外部に直接排出させる、前記内側プロテクタに形成された少なくとも1つの排出孔であって、前記複数の内側孔のそれぞれよりも前記軸線方向先端側に形成された排出孔と、を備え、前記複数の内側孔のそれぞれは、前記軸線方向において、前記複数の外側孔のそれぞれよりも前記軸線方向後端側のみ、且つ、前記検知部の最も前記先端側の部位よりも前記後端側に形成されており、前記複数の外側孔の開口面積のそれぞれは、前記複数の内側孔の開口面積のそれぞれよりも大きく、前記複数の外側孔の前記軸線方向の長さのそれぞれは、前記複数の外側孔と前記複数の内側孔との間の前記軸線方向の最短距離よりも長い、ガスセンサであって、
検知部112は、具体的には、検知電極117と基準電極118とが対極する位置におけるガス検知体の全部位のことをさし、検知部112には、ガス導入部111が設けられており、ガス導入部111は、例えば、軸線AX方向の長さが2.5mm、幅が0.05mmの矩形状であり、
軸線AX方向において、複数の内側孔203のそれぞれの最も先端側の位置D(図2参照)は、検知部112の最も先端側の位置(より具体的には、検知電極117と基準電極118とが対極する位置の最も先端側の位置)B(図2参照)よりも後端側にあり、さらに、軸線AX方向において、位置Dは、検知部112のガス導入部111の最も後端側の部位の位置C(図2参照)よりも後端側にあり(なお、位置Dは、位置Cよりも先端側にあってもよく)、内側孔203のそれぞれは、複数の外側孔214のそれぞれよりも軸線AX方向後端側のみに形成されており、
内側孔203は、複数の第1内側孔204と、複数の第2内側孔205とを備え、第1内側孔204のそれぞれは、例えば、直径2.0mmの円状の形状を有し、第2内側孔205のそれぞれは、例えば、直径1.5mmの円状の形状を有し、
内側プロテクタ200の内側孔203を介して第2空間20に導入された排気ガスは、検知部112の周囲を通って、ガスセンサ100の先端側に移動し、ガス成分の少なくとも一部は、検知素子110の検知部112のガス導入部111から検知素子110の内部に導入されて、酸素濃度の検知に利用される、
ガスセンサ。」

9 甲18の記載事項
本件特許の優先日後、出願前に頒布された刊行物である甲18には、次の事項が記載されている。

(甲18-ア)「【0008】
一方、内燃機関の排気エミッションに対する規制が強化されており、これに伴い、排ガスの気筒間差をモニタ可能な排気ガスセンサが求められている。気筒間差をモニタするには、気筒毎に排気ガスセンサを設置すればよいが、コスト増となることから、特許文献4には、多気筒エンジンの排気管集合部に単一の空燃比センサを配設したエンジン制御装置において、空燃比センサの信号に基づいて、各気筒の個別空燃比を算出することで、気筒毎の空燃比制御を行なう方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-248351号公報
【特許文献2】特開2006-171013号公報
【特許文献3】特開2009-80110号公報
【特許文献4】特開2000-220489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
内燃機関の排気マニホールド下流の排気管に空燃比センサを配置して、空燃比制御を行う場合、一般には、気筒間ばらつきによる空燃比変動を抑制するために、空燃比センサの出力をなまし補正した値に基づいて、空燃比のフィードバック制御が行われる。ただし、各気筒への燃料噴射量や空気量を一律に補正することは、結果として気筒間ばらつきが大きくなり、排気エミッションが悪化するおそれがある。そこで、特許文献4のように、気筒別の空燃比の不均衡(インバランス)を検出することが重要となっている。
【0011】
ところが、特許文献2、3の構成のガスセンサ素子を用いた空燃比センサでは、例えば10μm程度のセンサ保護層を形成することで、耐被水性、耐被毒性は向上するが、気筒別の空燃比を精度よく検出することが難しいことが判明した。これは、センサ保護層が形成された積層セラミック排気ガスセンサ素子では、排気ガスは、多孔質体であるセンサ保護層および拡散抵抗層の両方を通過して、センサ部へ導入されることになるからである。特許文献2のガスセンサ素子では、厚み方向および側面方向から排気ガスが導入されるために、拡散距離が一定とならず、インバランス検出への応用は難しい。特許文献3のガスセンサ素子は、厚み方向からの侵入を遮断する構成であるものの、センサ部の電極へ到達する間に、各気筒からの排気ガスが混合されてしまい、センサ応答性が低下すると考えられる。
【0012】
そこで、本願発明は、センサ保護層を備える積層セラミック排気ガスセンサ素子について、センサ保護層の耐被水性、耐被毒性を損なうことなくセンサ応答性を向上させることにより、高性能で信頼性の高い積層セラミック排気ガスセンサ素子とその製造方法を実現すること、そして、多気筒内燃機関用の空燃比センサとしても好適に使用されて、気筒間差を検出可能な排気ガスセンサを提供することを目的とする。」

10 甲2、甲3、甲9?13の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲2(図1)及び甲3(図9)には、複数のインナ導入開口部の軸方向の位置が互いに異なっている素子カバーを用いたガスセンサについて記載されている。
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲9(図4(a))、甲10(図1)及び甲11(図11)には、ガスセンサの素子カバーの形態として、インナカバーのインナ底面部あるいはその近傍に、インナ排出開口部を設けない形態のガスセンサについて記載されている。
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲12(図1)及び甲13(図11)には、多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサについて記載されている。

第8 当審の判断
当審は、以下に示すとおり、請求人の主張する無効理由、及び当審で通知した無効理由には、理由がないものと判断する。

1 本件発明1の構成について

(1)発明特定事項ごとの分説
本件発明1を発明特定事項ごとに「構成+記号(Pなど):」を付して分説すると、以下のとおりである。
なお、本件発明1の構成X:「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている」については、
構成X1:「上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)」と、
構成X2:「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、・・・上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている」とに分けて説明することがある。

<本件発明1(請求項1)>
構成P:多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサであって、
構成A:被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)と、
構成B:該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)と、
構成C:該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)とを備え、
構成D:上記センサ素子(2)の先端部(201)には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部(271)が設けられており、
構成E:上記素子カバー(3)は、
構成E1:上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)と、
構成E2:該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)とを有し、
構成F:該アウタカバー(5)には、該アウタカバー(5)内に被測定ガスを導入するためのアウタ導入開口部(52)が設けられており、
構成G:上記インナカバー(4)には、
構成G1:該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)と、
構成G2:インナ排出開口部(43)が設けられており、
構成H:上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向中間位置(C1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
構成I:上記センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向先端側(X1)にあり、
構成N:上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
構成X:上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている
構成J:ことを特徴とするガスセンサ(1)。

(2)本件特許明細書の記載
本件特許明細書の【発明の詳細な説明】には、以下の事項が記載されている。

ア 技術分野及び発明が解決しようとする課題
本件発明は、「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサ」に関するものである(【0001】)。
「多気筒の内燃機関では、気筒間の燃料噴射量のばらつき等により、気筒間において空燃比のばらつき(気筒間インバランス)が生じる。」「したがって、気筒間インバランスの指標となるガスセンサの出力値(空燃比:A/F)の変化をより正確に把握するため、各気筒の空燃比変化に伴うガスセンサの応答性をさらに高めることが必要となる。具体的には、従来のA/F変化に対する応答性とは異なり、特にセンサ素子を保護する素子カバーにおいては、センサ素子のガス検出部(被測定ガスを検出するための部分)により多くの被測定ガスを短距離で迅速に到達させることに加え、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気されるA/Fの異なる被測定ガスが混合されにくくすることが不可欠となる」(【0005】)。
しかしながら、従来の「ガスセンサでは、主にセンサ素子の被水を防止することに重点が置かれていたため、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を考えた場合には、気筒間インバランスを検出する応答性が十分でない。この要因としては、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスがセンサ素子のガス導入部に到達するまでの距離が長いことなどが考えられる。この距離が長いと、時間的に前後して排気され、センサ素子のガス検出部に前後して到達する被測定ガスが混ざりやすくなってしまう」(【0006】)。
そこで、本件発明の解決しようとする課題は、「内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を高めることができ、気筒間インバランスを検出する応答性に優れたガスセンサを提供しようとするものである」(【0007】)。

イ 発明の効果
「被測定ガスの流れにおいて、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスがセンサ素子のガス導入部に到達するまでの距離が、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度、及び気筒間インバランスを検出する応答性に大きく寄与することを見出し」(【0010】)、その「距離を短くするためには、被測定ガスがインナカバー内に導入される部分であるインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも、被測定ガスがセンサ素子の内部に導入される部分であるガス導入部の軸方向中間位置を、軸方向基端側とすることが非常に有効であ」り(【0011】)、「これにより、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスをできるだけ短距離で迅速にセンサ素子のガス導入部に到達させることができ」、「内燃機関の各気筒の被測定ガスを順にセンサ素子のガス導入部に到達させ、センサ素子のガス導入部に到達するまでの間に各気筒の被測定ガスが混合されることを抑制することができる」(【0012】)。

ウ 発明を実施するための形態
実施例1では、「ガスセンサ1において、センサ素子2の先端部201には、その内部に被測定ガスGを導入するためのガス導入部271が設けられている。また、センサ素子2の先端部201を覆うインナカバー4には、インナカバー4内に被測定ガスGを導入するためのインナ導入開口部42が設けられている。そして、センサ素子2のガス導入部271の軸方向中間位置C1は、インナカバー4のインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向基端側X2にある。また、インナカバー4におけるインナ導入開口部42の内側位置には、インナ導入開口部42からインナカバー4内に流入する被測定ガスGが、軸方向基端側X2へ流れるようにするルーバー部44が設けられている」(【0049】)。
また、実施例3は、「インナカバーのインナ導入開口部の軸方向基端位置からセンサ素子のガス導入部の軸方向中間位置までの軸方向距離a(図2参照)が異なる複数のガスセンサを準備し」、「準備したガスセンサのその他の基本的な構成は、実施例1のガスセンサ(図1?図4等参照)と同様である」「ガスセンサについて、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を評価したものである」(【0064】)。
具体的には、「軸方向距離aが-1.5mmのガスセンサ(従来の仕様のガスセンサ)のインバランス応答値を基準(=100%)とし、その他のガスセンサのインバランス応答値比(%)を求めた」(【0068】)。「なお、軸方向距離aが0mmの場合は、センサ素子のガス導入部の軸方向中間位置とインナカバーのインナ導入開口部の軸方向基端位置とが同じ位置であることを示し」、「また、軸方向距離aが0mm未満の場合は、センサ素子のガス導入部の軸方向中間位置がインナカバーのインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向先端側にあることを示す」(【0069】)。
「内燃機関の気筒間インバランスの検出精度の評価結果を示す」「図15(当審注:下記参照。)」「から、軸方向距離aが0mmを超えると、すなわちセンサ素子のガス導入部の軸方向中間位置がインナカバーのインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向基端側にあると、インバランス応答値比が高くなること」、「また、軸方向距離aが0.7mmあたりを超えると、インバランス応答値比がさらに高くなり、そのインバランス応答値比が安定していること」、「 一方、軸方向距離aが3.0mmあたりを超えると、インバランス応答値比が少し低くなることがわか」り(【0069】、【0070】)、「以上の結果から、センサ素子のガス導入部の軸方向中間位置がインナカバーのインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向基端側にあることにより、ガスセンサの応答性を高めることができ、ガスセンサにおける内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を向上させることができることがわかった」(【0071】)。

(3)構成Hの技術的意味

ア 構成Hは、「上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向中間位置(C1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、」というものである。

イ 上記(2)の本件特許明細書の記載によれば、本件発明1は、ガスセンサにおいて、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を高め、気筒間インバランスを検出する応答性に優れたものにすることを課題にし(【0007】)、この課題を解決するためには、「従来のA/F変化に対する応答性とは異なり、特にセンサ素子を保護する素子カバーにおいては、センサ素子のガス検出部(被測定ガスを検出するための部分)により多くの被測定ガスを短距離で迅速に到達させることに加え、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気されるA/Fの異なる被測定ガスが混合されにくくすることが不可欠となる」(【0005】)ことから、従来の仕様のガスセンサ(例えば、構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、H、I、N、X、Jを含む、軸方向距離aがマイナスのガスセンサ)において、構成Xの「被測定ガスの流れ」の中で、軸方向距離aをマイナスからプラスに変更して、構成Hの配置にしたものと認められる。
以上のことから、構成Hは、ガスセンサにおいて、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気される被測定ガスが混合されにくい、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を定めたものと理解できる。
そして、「構成Hを備えた本件発明1(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、H、I、N、X、Jを含む)は、構成Hを加える前の、構成H以外の全ての構成(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、I、N、X、Jを含む)を備えているガスセンサよりも、気筒間インバランスの応答性が向上する」という、いわば相対的な応答性向上の効果を奏するガスセンサであることも理解できる(【0070】、図15)。

2 新無効理由1(明確性違反)について

(1)請求人は、「『該インナカバー内に被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部』のうち、
(ア)「該インナカバー内に上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部」(構成G1)と、
(イ)「それ以外の「該インナカバー内に被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部」とは、
明確に区別されるべきである。そして、この構成G1を満たす「(ア)のインナ導入開口部」が他の構成(H、I、N、X、K、L、M)をも満たすはずである。
しかるに、或るインナ導入開口部が、「(ア)のインナ導入開口部」であるのか、「(イ)のインナ導入開口部」であるのか、即ち、「インナカバー内にセンサ素子のガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものである」か否かを判断する手法について、本件明細書には何ら記載は無く、構成G1の該当性を判断できない場合を含むのである。従って、構成G1「該インナカバー内に上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部」不明確である。
(3)特に、本件【0019】、【0020】・・・の記載から、逆に、本件再訂正発明には、複数のインナ導入開口部の軸方向位置が互いに異なる場合や、複数のインナ導入開口部からガス導入部までの径方向距離が互いに異なる場合が含まれることが理解できる。この場合、本件再訂正発明の技術的範囲に属するか否かを判断するには、それぞれのインナ導入開口部が上記(ア)に該当するか否かを判別できなければならないが、その手法について記載は無い。」(意見書第45?46頁)と主張する。

(2)特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断される。そこで、請求人の上記主張のとおり、本件発明1に係る特許請求の範囲の記載のうち、構成G1の「インナ導入開口部(42)」の記載が不明確であるか以下検討する。

本件発明1の「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」は、この記載のとおり、機能的に「インナ導入開口部(42)」を特定したものである。
そして、上記1(3)イに示したとおり、本件発明1は、従来の仕様のガスセンサにおいて、構成Xの「被測定ガスの流れ」の中で、構成Hの配置にしたものであるから、本件発明1において、上記の機能を有する「インナ導入開口部(42)」(G1)であるかどうかは、インナ導入開口部から導入された被測定ガスの流れが、センサ素子(2)のガス導入部(271)の周囲を通過するかどうかで判断され、最終的には、構成Aの「センサ素子(2)」が、インナ導入開口部から導入された「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する」かどうかで判別されることになる。
また、インナ導入開口部が複数個設けられている場合であっても、個々のインナ導入開口部から導入された被測定ガスの流れが、センサ素子(2)のガス導入部(271)の周囲を通過するかどうかで判断され、最終的には、構成Aの「センサ素子(2)」が、個々のインナ導入開口部から導入された「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する」かどうかで、個々のインナ導入開口部が、構成G1の「インナ導入開口部(42)」であるかどうかは判別されることになる。
してみると、本件発明1において、上記の機能を有する「インナ導入開口部(42)」(G1)であるかどうかは判別できるといえる。
したがって、本件発明1に係る特許請求の範囲の記載のうち、「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」という記載が、不明確であるとはいえない。

(3)よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、不明確であるとはいえないことから、新無効理由1には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、新無効理由1により無効とすべきものではない。

3 新無効理由2(サポート要件違反)について

(1)請求人は、「『インナ排出開口部』の位置を『インナ導入開口部より軸方向先端側』とした場合の例として、『仮想ガスセンサ』(インナカバー4の側部のうち、インナ導入開口部42より軸方向先端側(図中下方)で、かつ、インナ底面部415よりも軸方向基端側(図中上方)の部位に仮想のインナ排出開口部を設けて、ここからアウタカバー5とインナカバー4との隙間を通って被測定ガスGを排出する構成のガスセンサ)を想定する。
すると、この仮想ガスセンサでは、インナ排出開口部から吸い出されるインナカバー4内の被測定ガスの量が、実施例のガスセンサよりも減少する。ひいては、インナカバー4内に導入される被測定ガスの量が減少し、流速も低下する。従って、仮想ガスセンサの応答性は、実施例のガスセンサよりも大幅に低下すると見込まれる。
このため、この仮想ガスセンサは、本件発明の目的である、応答性の優れたガスセンサとはならない。
このように、本件明細書に記載の実施例1、2(図1、図2、図12)において「インナカバー4のインナ底面部415」に設けていた「インナ排出開口部」の位置を、単純に「インナ導入開口部より軸方向先端側」に上位概念化することはできないのであり、この構成X(構成X1)を含む本件再訂正発明は、発明の作用効果(ガスセンサの応答性向上)を奏しないガスセンサを含む。」(意見書第47頁)と主張する。

(2)本件発明1は、本件訂正により構成X(X1、X2)が加えられたことによって、インナ排出開口部(43)の位置、及びインナカバー(4)内における被測定ガスの流通経路が定められたガスセンサとなった。

(3)そして、請求人の上記主張のとおり、インナ排出開口部(43)を、インナ導入開口部(42)より先端側で、かつ、インナカバー(4)の底面部よりも基端側に設けた本件発明1にあっては、インナ排出開口部(43)をインナカバー(4)の底面部に設けた本件発明1より、気筒間インバランスの応答性の低下が見込まれるかもしれない。
しかしながら、本件発明1は、上記1(3)イに示したとおり、「構成Hを備えた本件発明1(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、H、I、N、X、Jを含む)は、構成Hを加える前の、構成H以外の全ての構成(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、I、N、X、Jを含む)を備えているガスセンサよりも、気筒間インバランスの応答性が向上する」という、いわば相対的な応答性向上の効果を奏するものであることから、インナ排出開口部(43)を、インナ導入開口部(42)より先端側で、かつ、インナカバー(4)の底面部よりも基端側に設けた本件発明1にあっても、係る本件発明1に構成Hを加える前のガスセンサより、相対的に、気筒間インバランスの応答性が向上することは、当業者が予測し得ることである。

(4)以上のことから、インナ排出開口部(43)の位置あるいはインナカバー(4)内における被測定ガスの流通経路が定まっているガスセンサ、及びインナ排出開口部(43)がインナカバー(4)の底面部に特定されないガスセンサを含む本件発明1は、本件発明の作用効果を奏するものといえるので、本件発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえず、サポート要件違反であるとはいえない。

(5)よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえることから、新無効理由2には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、新無効理由2により無効とすべきものではない。

4 新無効理由3-1(サポート要件違反)について

(1)請求人は、「本件特許明細書の【0019】、【0020】の記載から理解できるように、本件再訂正発明1?4には、インナカバーに軸方向の位置が互いに異なる複数のインナ導入開口部が設けられており、しかも、複数のインナ導入開口部のうちいずれかは構成G1及び構成H、I、N、Xをいずれも満たすが、残りのインナ導入開口部は構成G1、H、I、N、Xの少なくともいずれかを満たさない形態のガスセンサも含まれる。
しかるに、このような形態のガスセンサの中には、本件再訂正発明1に含まれているにも拘わらず、発明の効果を奏しないガスセンサも含み得る。」(意見書第48頁)と主張する。

(2)本件発明1の「インナ導入開口部(42)」は、構成G1、H、I、N、Xのすべての要件を満たしたインナ導入開口部のみであり、構成G1、H、I、N、Xの少なくともいずれかを満たさないインナ導入開口部は、本願発明1の「インナ導入開口部(42)」ではない。
また、本件発明1は、本件発明1の「インナ導入開口部(42)」ではないインナ導入開口部の存在を排除するものでなく、本件発明1の「インナ導入開口部(42)」の個数や複数ある場合の配置を特定するものでもない。
そして、本件特許明細書には、「上記インナ導入開口部が複数設けられている場合には、そのすべてのインナ導入開口部の軸方向位置が同じであることが好ましい。また、インナ導入開口部からガス導入部までの径方向距離が同じであることが好ましい。
この場合には、インナ導入開口部からセンサ素子のガス導入部までの距離のばらつきを抑制し、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度、及び気筒間インバランスを検出する応答性をより一層高めることができる。」(【0020】)と記載されていることから、複数のインナ導入開口部が軸方向に異なる位置にある場合、距離のばらつきにより、気筒間インバランスの応答性が低下することが予想される。
これらの点を踏まえると、請求人の上記主張のとおり、本件発明1のインナ導入開口部(42)以外のインナ導入開口部を設けた本件発明1にあっては、本件発明1のインナ導入開口部(42)以外のインナ導入開口部を設けていない本件発明1より、気筒間インバランスの応答性が低下するかもしれない。
しかしながら、本件発明1は、上記1(3)イに示したとおり、「構成Hを備えた本件発明1(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、H、I、N、X、Jを含む)は、構成Hを加える前の、構成H以外の全ての構成(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、I、N、X、Jを含む)を備えているガスセンサよりも、気筒間インバランスの応答性が向上する」という、いわば相対的な応答性向上の効果を奏するガスセンサであることから、本件発明1のインナ導入開口部(42)以外のインナ導入開口部を設けた本件発明1にあっても、係る本件発明1に構成Hを加える前のガスセンサより、相対的に、気筒間インバランスの応答性が向上することは、当業者が予測し得ることである。
以上のことから、複数のインナ導入開口部の軸方向の位置が互いに異なっているガスセンサを含む本件発明1は、本件発明の作用効果を奏するものといえるので、本件発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえず、サポート要件違反であるとはいえない。

(3)よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえることから、新無効理由3-1には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、新無効理由3-1により無効とすべきものではない。

5 新無効理由3-2(明確性違反)について

上記4(2)に示したとおり、本件発明1は、構成G1、H、I、N、Xのすべての要件を満たしている「インナ導入開口部(42)」が、少なくとも1つあればよいことが理解できるから、不明確であるとはいえない。
よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、不明確であるとはいえないことから、新無効理由3-2には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、新無効理由3-2により無効とすべきものではない。

6 新無効理由4(サポート要件違反)について

(1)請求人は、「『本件図2』に記載のガスセンサ1において、被測定ガスGの流れが、本件図2(当審注:上記第2 2(1)(1-5-2)ア(イ)eを参照。)に黒矢印で示す流路を流れるのは、ルーバー部44により、被測定ガスの流れが遮られ、被測定ガスGが軸方向基端側X2(図中上方)に流れるように誘導されているからである。
(3)逆に言えば、ルーバー部44が、被測定ガスGの流れを遮らなければ(ルーバー部44が無ければ)、本件図2において黒矢印で示すように軸方向基端側X2(図中上方)には流れず、・・・軸方向先端側X1(図中下方)に流れることは明らかであり、この場合に、構成H及び構成Iを満たす位置にガス導入部271を設けた上図のガスセンサが、応答性が優れるなど効果a?eを奏しないことも明らかである。」(審判請求書第24?25頁)、
「有り体に言えば、本件明細書の各実施例において、インナ導入開口部42にルーバー部44を設けたガスセンサ1の検討をしたに過ぎないにも拘わらず、本件訂正発明1、2では、その範囲を、インナ導入開口部42にルーバー部44を設けないガスセンサを含むものにまで安易に拡張しているのである。インナ導入開口部42にルーバー部44を設けないガスセンサを含む本件訂正発明1、2は、本件訂正明細書にサポートされていない。」(審判事件弁駁書第23頁)と主張する。

(2)本件発明1は、本件訂正により構成Xが追加され、これにより、被測定ガスの流れが、本件図2に黒矢印で示す流路を流れることが特定された。また、上記第2 2(1)(1-5-2)ア(イ)に示したとおり、本件特許明細書等の記載によれば、本件発明1は、構成Xを得るのに、被測定ガスの流れを遮る機能を有するルーバー部を用いることが一つの実施形態にすぎず、上記ルーバー部を用いることに限定されない。
それでも、請求人の上記主張のとおり、インナ導入開口部(42)にルーバー部(44)を設けていない本件発明1にあっては、インナ導入開口部(42)にルーバー部(44)を設けた本件発明1より、気筒間インバランスの応答性が低下するかもしれない。
しかしながら、本件発明1は、上記1(3)イに示したとおり、「構成Hを備えた本件発明1(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、H、I、N、X、Jを含む)は、構成Hを加える前の、構成H以外の全ての構成(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、I、N、X、Jを含む)を備えているガスセンサよりも、気筒間インバランスの応答性が向上する」という、いわば相対的な応答性向上の効果を奏するガスセンサであることから、インナ導入開口部(42)にルーバー部(44)を設けていない本件発明1にあっても、係る本件発明1に構成Hを加える前のガスセンサより、相対的に、気筒間インバランスの応答性が向上することは、当業者が予測し得ることである。
以上のことから、インナ導入開口部(42)にルーバー部(44)を設けていないガスセンサを含む本件発明1は、本件発明の作用効果を奏するものといえるので、本件発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえず、サポート要件違反であるとはいえない。

(3)よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえることから、新無効理由4には、理由がなく、本件発明1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、新無効理由4により無効とすべきものではない。

7 新無効理由5(サポート要件違反)について

(1)請求人は、「本件再訂正発明1-4のいずれにも、インナカバー4及びセンサ素子2の径方向の寸法に関する規定をしていない。
従って、本件再訂正発明1-4は、素子カバーの径方向寸法を変更したガスセンサ・・・をも包含している。
・・・インナカバー4の径方向寸法が大きい(径大である)ほど、ガス導入部271を軸方向先端側X1(図中下方)に配置した場合に応答性が良好になると考えられる。
・・・構成H、Iを満たす位置にガス導入部271を配置した本件再訂正発明1-4のガスセンサの応答性が、構成H、Iを満たさない位置にガス導入部271を配置したガスセンサに比して、応答性が優れたものとなるには(即ち、本件図15(当審注:上記1(2)ウを参照。)に記載の結果が得られるのは)、インナカバー4の径方向寸法が特定の範囲である場合、具体的には、本件図15を得るべく試験を行ったガスセンサに用いたインナカバーの径方向寸法及びその付近の寸法に限られることは明らかである。つまり、インナカバー4の径方向寸法に関する構成を加重して限定していない現在の本件再訂正発明1-4のガスセンサは、発明の効果を奏しないガスセンサを含む。」 (意見書第50?52頁) と主張する。

(2)請求人の上記主張を踏まえると、確かに、本件図15の試験に用いたインナカバー(4)及びセンサ素子(2)の径方向寸法と異なる径方向寸法を採用した本件発明1にあっては、本件図15の試験に用いたインナカバー(4)及びセンサ素子(2)の径方向寸法と同じ径方向寸法を採用した本件発明1より、気筒間インバランスの応答性が低下するかもしれない。
しかしながら、本件発明1は、上記1(3)イに示したとおり、「構成Hを備えた本件発明1(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、H、I、N、X、Jを含む)は、構成Hを加える前の、構成H以外の全ての構成(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、I、N、X、Jを含む)を備えているガスセンサよりも、気筒間インバランスの応答性が向上する」という、いわば相対的な応答性向上の効果を奏するガスセンサであることから、本件図15の試験に用いたインナカバー(4)及びセンサ素子(2)の径方向寸法と異なる径方向寸法を採用した本件発明1にあっても、係る本件発明1に構成Hを加える前のガスセンサより、相対的に、気筒間インバランスの応答性が向上することは、当業者が予測し得ることである。
以上のことから、インナカバー(4)及びセンサ素子(2)の径方向寸法に関する構成を特定していないガスセンサを含む本件発明1は、本件発明の作用効果を奏するものといえるので、本件発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえず、サポート要件違反であるとはいえない。

(3)よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえることから、新無効理由5には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、新無効理由5により無効とすべきものではない。

8 新無効理由6(サポート要件違反)について

本件発明1は、上記1(3)イに示したとおり、「構成Hを備えた本件発明1(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、H、I、N、X、Jを含む)は、構成Hを加える前の、構成H以外の全ての構成(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、I、N、X、Jを含む)を備えているガスセンサよりも、気筒間インバランスの応答性が向上する」という、いわば相対的な応答性向上の効果を奏するガスセンサであることから、用途として、気筒間インバランス検出用に限定することを必要としない。
以上のことから、気筒間インバランス検出用に限定していない本件発明1は、本件発明の作用効果を奏するものといえるので、本件発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえず、サポート要件違反であるとはいえない。
よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえることから、新無効理由6には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、新無効理由6により無効とすべきものではない。

9 新無効理由7-3(進歩性違反)について

(1)対比・判断
ア 対比
本件発明1と甲5実施例2、3発明(上記第7 1(4)を参照。)とを対比する。

(ア)構成P、構成J
甲5実施例2、3発明の「自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置するガスセンサ1」は、「自動車エンジン」が多気筒の内燃機関であるから、本件発明1の「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサ」に相当する。

(イ)構成A
甲5実施例2、3発明の「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子2」は、本件発明1の「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)」に相当する。

(ウ)構成B
甲5実施例2、3発明の「該ガスセンサ素子2を内側に挿通するハウジング3」は、本件発明1の「該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)」に相当する。

(エ)構成C
甲5実施例2、3発明の「該ハウジング3の先端側に固定された素子カバー4」は、本件発明1の「該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)」に相当する。

(オ)構成E、構成E1
甲5実施例2、3発明の「素子カバー4」が有する「インナーカバー41」は、本件発明1の「上記素子カバー(3)」が有する「上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)」に相当する。

(カ)構成E、構成E2
甲5実施例2、3発明の「素子カバー4」が有する「該インナーカバー41の外周に配置されたアウターカバー42」は、本件発明1の「上記素子カバー(3)」が有する「該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)」に相当する。

(キ)構成G、構成G1
甲5実施例2、3発明は、「被測定ガスの一部(G2)が、更に内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され、ガスセンサ素子2に到達する」ことから、甲5実施例2、3発明の「インナーカバー41」に設けられる「内側開口部411」と、本件発明1の「上記インナカバー(4)」に設けられる「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」とは、「上記インナカバー(4)」に設けられる「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」の点で共通する。

(ク)構成G、構成G2
甲5実施例2、3発明の「インナーカバー41」に形成する「素子カバー4の外部に開口する先端開口部412」は、本件発明1の「上記インナカバー(4)」に設けられる「インナ排出開口部(43)」に相当する。

(ケ)構成N
甲5実施例2、3発明の「外側開口部421よりも先端側となる位置に内側開口部411を設けてな」ることは、本件発明1の「上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあ」ることに相当する。

(コ)構成X
甲5実施例2、3発明の「先端開口部412」は、「先端部に形成して」いることから、「内側開口部411」より先端側となる位置にあることが理解できる。また、甲5実施例2、3発明の「ルーバー形状の内側開口部411」は、「インナーカバー41」に設けられた「凹部417の基端を開口させ」ている。よって、甲5実施例2、3発明は、「内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され」た「被測定ガスの一部(G2)」が、まず、基端側へ向かって流れ、その後、「先端開口部412」に向けて流れることは明らかである。
したがって、甲5実施例2、3発明は、本件発明1の「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている」ことを備えていると認められる。

イ 一致点・相違点
よって、本件発明1と甲5実施例2、3発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサであって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)と、
該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)と、
該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)とを備え、
上記素子カバー(3)は、上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)と、該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)とを有し、
該アウタカバー(5)には、該アウタカバー(5)内に被測定ガスを導入するためのアウタ導入開口部(52)が設けられており、
上記インナカバー(4)には、該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)と、インナ排出開口部(43)が設けられており、
上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている、ガスセンサ(1)。」

(相違点1)
センサ素子(2)及びインナ導入開口部(42)について、本件発明1では、(構成D)「上記センサ素子(2)の先端部(201)には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部(271)が設けられ」、構成G1のインナ導入開口部(42)が、上記センサ素子(2)の「上記ガス導入部(271)」に到達させる被測定ガスを導入するためのものであるのに対し、甲5実施例2、3発明では、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けているかの特定がないため、内側開口部411が、上記ガスセンサ素子2の「上記ガス導入部」に到達させる被測定ガスを導入するためのものであるかも特定されない点。

(相違点2)
センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について、本件発明1では、(構成H)「上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向中間位置(C1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあ」るのに対し、甲5実施例2、3発明では、この位置関係についての特定がない点。

(相違点3)
センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について、本件発明1では、(構成I)「上記センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向先端側(X1)にあ」るのに対し、甲5実施例2、3発明では、この位置関係についての特定がない点。

ウ 判断

(ア)請求人の主張について
請求人は、「

c)そこで、甲第5号証の図4におけるインナーカバー41を、図5、6のルーバー部を有するインナ-カバー41に代えた実施例3のガスセンサ1(以下、I、IIのガスセンサ)において、あるいは、甲第5号証の図4の実施例2に係るガスセンサ1(以下、IIIのガスセンサ)において、ガスセンサ素子2として、甲第8号証の図1、図4に記載の(多孔質拡散抵抗層21を有する)ガスセンサ素子2を用いることは容易である。
d)すると、上記I、II及びIIIのガスセンサには、上掲の『拡散抵抗層及び補助線を加えた甲5の図4』に示すように、青四角で示す多孔質拡散抵抗層21(本件発明の1のガス導入孔)が現れる。そして、この多孔質拡散抵抗層21の軸方向中間位置C1は、青線で示す位置となる。よって、ガスセンサ素子2の多孔質拡散抵抗層21(ガス導入部)の軸方向中間位置C1(青線)は、インナーカバー41(インナカバー)の内側開口部411(インナ導入開口部)の軸方向基端位置D1(赤線)よりも軸方向基端側(軸方向基端側X2:図中上方)にあるものとなり、構成D、G’、Hを充足する。(当審注:審決書では、青四角は黒四角、青線及び赤線は黒線で示す。)
・・・
f)しかも、上記7-6-2-3(3)欄で説明したのと同様に、
・甲5の実施例3のガスセンサ(Iのガスセンサ)はルーバー部を有しているので、構成Xをも充足する。
・甲5の実施例3のガスセンサ(IIのガスセンサ)は、甲第14号証の図1(a)に記載の矢印のように、被測定ガスの流れを顕在化させた場合に、甲第14号証と同じく、構成Xに記載の形態の流れとなる。また構成Mも充足する。もしくは、構成Mは周知技術(あるいは甲第6号証,甲第7号証に記載の技術)を用いてルーバー部を形成することを規定するに過ぎず、当業者が容易に採用できるものである。
・甲5の実施例2のガスセンサ1において、実施例3(図5,図6)のようにルーバー部を設けるにあたり、折り曲げ型の甲14のルーバー部を採用したガスセンサ(IIIのガスセンサ)も、構成Xに記載の形態の流れとなる。しかも、構成Mをも充足する。
即ち、I、II、IIIのガスセンサは、本件再訂正発明の構成P、A?J、N、X、L、Mのすべてを満たしている。
I:甲第5号証の図4、図5及び図6で示される実施例3のガスセンサ1において、甲第8号証の図1のガスセンサ素子2を用いたガスセンサ
II:更に甲第14号証を加えたガスセンサ
III:甲第5号証の図4で示される実施例2のガスセンサ1において、甲第8号証の図1のガスセンサ素子2を用い、更に甲第14号証のルーバー部を用いたガスセンサ」(意見書第66?68頁)と主張する。

なお、上記Iは新無効理由7-3、8-2、9-3、10-3に、上記IIは新無効理由14-5に、上記IIIは新無効理由14-6に対応する。

(イ)相違点1について
まず、相違点1について検討する。

甲8に記載された技術的事項(上記第7 2(2)を参照。)によれば、ガスセンサ素子2の先端側には、被測定ガスを被測定ガス室210へと導入するための多孔質拡散抵抗層21が一部露出して配設されており、インナカバーのガス導入開口部が、前記ガスセンサ素子2の前記多孔質拡散抵抗層21に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが理解できる。
そして、甲8に記載された技術的事項の「多孔質拡散抵抗層21」及び「ガス導入開口部」は、それぞれ、本件発明1の「ガス導入部(271)」及び「インナ導入開口部(42)」に相当するから、上記甲8に記載された技術的事項は、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられ、インナ導入開口部が、上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが示されているといえる。
よって、甲5実施例2、3発明において、甲8に記載された技術的事項を適用し、上記相違点1に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易になし得ることである。

(ウ)相違点2について
次に、上記相違点2について検討する。

a 甲8に記載された技術的事項は、上記相違点2に係る本件発明1の構成を備えておらず、甲5実施例2、3発明において、甲8に記載された技術的事項を適用しても、上記相違点2に係る本件発明1の構成は得られない。

b 請求人は、要するに、上掲の<拡散抵抗層及び補助線を加えた甲5の図4>を用いて、甲第5号証の図4のガスセンサ1において、そのガスセンサ素子2を甲第8号証の図1のガスセンサ素子2に代えたガスセンサは、本件発明1の構成Hを満たすと主張する。
しかしながら、甲5の図4は、実施例2において、実施例1よりも、「内側開口部411が外側開口部421からより離れた位置に配される」ことで、「外側開口部421から導入された被測定ガスと共に流れる水滴が、内側開口部411からインナーカバー41の内部に浸入することをより防ぐことができる」(【0051】)ことを説明するためのものであるから、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を説明するための問題意識をもって正確に記載されていると考えることはできない。そもそも特許願書添付の図面は、当該発明の技術内容を説明する便宜のために描かれるものであるから、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。よって、甲5の図4において、補助線を加えてまでする「ガスセンサ素子2の軸方向先端位置は、インナカバー41の内側開口部411の軸方向基端位置よりも軸方向先端側にある」とする主張は認められない。
そうなると、甲5の実施例2は、甲5の図4から、ガスセンサ素子2の軸方向先端位置は、インナカバー41の内側開口部411の軸方向基端位置よりも、「少しだけ」軸方向先端側にあるといえないので、甲5実施例2、3発明において、ガスセンサ素子2の先端側のどこかの位置に、甲8の多孔質拡散抵抗層21を加えたとしても、構成Hの配置が得られないことは明らかである。
なお、甲5の実施例1又は3であれば、甲5の図1(甲5-ウ)から、ガスセンサ素子2の軸方向先端位置は、インナカバー41の内側開口部411の軸方向基端位置よりも軸方向先端側にあることが見て取れるが(上記第7 1(3)を参照。)、ガスセンサ素子2の軸方向先端位置は、インナカバー41の内側開口部411の軸方向基端位置よりも、「少しだけ」軸方向先端側にあることまでは見て取れないので、甲5の図1のガスセンサ素子2の先端側のどこかの位置に、甲8の多孔質拡散抵抗層21を加えたとしても、構成Hの配置は得られない。

c そして、上記1(3)イに示したとおり、構成Hは、ガスセンサにおいて、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気される被測定ガスが混合されにくい、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を定めたものであるところ、請求人が提示する証拠の中に、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気される被測定ガスが混合されにくくすべく、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を定めたものは見当たらない。

d 以上a?cより、甲5実施例2、3発明において、甲8に記載された技術的事項を適用して、上記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことでない。

(2)小括
以上のとおり、本件発明1は、相違点3を検討するまでもなく、甲5実施例2、3発明及び甲8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことから、新無効理由7-3には、理由がなく、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、新無効理由7-3により無効とすべきものではない。

10 新無効理由8-2(進歩性違反)について
本件発明2は、本件発明1の構成と同一の構成を備えるものであるから、本件発明2は、上記9と同じ理由により、甲5実施例2、3発明及び甲8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
よって、新無効理由8-2には、理由がなく、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、新無効理由8-2により無効とすべきものではない。

11 新無効理由9-3(進歩性違反)について
甲6に記載された技術的事項(第7 3(2)を参照。)、甲7に記載された技術的事項(第7 4(2)を参照。)は、いずれも、上記相違点2に係る本件発明1の構成を備えていない。
そして、本件発明3は、本件発明1又は2の構成と同一の構成を備えるものであるから、上記9又は10と同じ理由により、甲5実施例2、3発明、甲8に記載された技術的事項に基づいて、甲5実施例2、3発明、甲8及び甲6に記載された技術的事項に基づいて、又は、甲5実施例2、3発明、甲8に記載された技術的事項及び周知技術(甲6の図2、甲7の図11、図12)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
よって、新無効理由9-3には、理由がなく、本件発明3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、新無効理由9-3により無効とすべきものではない。

12 新無効理由10-3(進歩性違反)について
本件発明4は、本件発明3の構成と同一の構成を備えるものであるから、上記11と同じ理由により、甲5実施例2、3発明、甲8に記載された技術的事項及び周知技術(甲6の図2、甲7の図11、図12)に基づいて、甲5実施例2、3発明、甲8、甲6に記載された技術的事項及び周知技術(甲6の図2、甲7の図11、図12)に基づいて、又は、甲5の実施例2、3に記載された発明、甲8に記載された技術的事項及び周知技術(甲6の図2、甲7の図11、図12)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
よって、新無効理由10-3には、理由がなく、本件発明4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、新無効理由10-3により無効とすべきものではない。

13 新無効理由11-1(訂正要件違反)について
上記第2 2(1)(1-5-1)ア(イ)に示したとおり、新無効理由11-1は採用できない。

14 新無効理由11-2(訂正要件違反)について
上記第2 2(1)(1-5-2)ア(イ)に示したとおり、新無効理由11-2は採用できない。

15 新無効理由12-1(明確性違反)について

(1)請求人は、「センサ素子のガス導入部へ『到達する被測定ガス』と、構成Xで規定される形態に『流れる(主流れの)被測定ガス』とが、どのような関係になっているのか不明確である。
即ち、構成Xで規定される形態に『流れた』(主流れの)被測定ガスが、センサ素子のガス導入部へ『到達』するのか、あるいは、構成Xで規定される形態に『流れた』(主流れの)被測定ガスとは異なる(傍流、拡散などの)被測定ガスが、センサ素子のガス導入部へ『到達』するのか不明確である。」(意見書第37頁)と主張する。

(2)上記1(3)イに示したとおり、本件発明1は、従来の仕様のガスセンサにおいて、構成Xの「被測定ガスの流れ」の中で、構成Hの配置にしたものであるから、本件発明1は、構成Xの「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている」被測定ガスの流れの中で、被測定ガスを構成G1の「センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる」ものである。
そして、本件発明1は、構成Xの被測定ガスの流れが、「センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達」(構成G1)すればよいので、被測定ガスの流れの形態(主流れ、傍流、拡散など)の特定は必要でない。 したがって、本件発明1において、センサ素子(2)のガス導入部(271)への「被測定ガスの到達(構成G1)」と、「被測定ガスの流れ(構成X)」との技術的な関係が、不明確であるとはいえない。

(3)よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、不明確であるとはいえないことから、新無効理由12-1には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、新無効理由12-1により無効とすべきものではない。

16 新無効理由12-2(明確性違反)について

(1)請求人は、「構成Xにおける『被測定ガスの流れ』を『被測定ガスの多くがたどる流れ』とするなど、『主流れ』であることを明確にする記載としない限り、この構成Xの記載が不明確であることは明らかである。」(意見書第37頁)と主張する。

(2)上記15(2)に示したとおり、本件発明1は、構成Xの被測定ガスの流れが、「センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達」(構成G1)すればよいので、構成Xの被測定ガスの流れを、主流れに特定する必要はない。
したがって、本件発明1において、構成Xが、不明確であるとはといえない。

(3)よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、不明確であるとはいえないことから、新無効理由12-2には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、新無効理由12-2により無効とすべきものではない。

17 新無効理由13-1(サポート要件違反)について

(1)請求人は、「a)本件再訂正発明によれば、例えば、被測定ガスの流れとしては、『構成X』に規定するごとく『まず、上記センサ素子(2)の基端側へ向かって流れ、その後、…上記インナ排出開口部(43)に向けて流れる』。その一方、『センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガス』について、構成Xで規定する被測定ガスの『流れ』(主流れ)との関係は、何ら記載されていない。
b)従って、構成Xで規定する被測定ガスの『流れ』とは別に、『センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガス』は、乱流や拡散によって到達させるように構成されたガスセンサも、本件再訂正発明に含まれる。
c)しかるに、このようなガスセンサでは、構成Xに記載する被測定ガスの『流れ』(主流れ)に乗った被測定ガスの移動速度に比して、乱流や拡散によって到達する、肝心のセンサ素子のガス導入部に到達する被測定ガスは、遅い移動速度となる。しかも、構成Xの被測定ガスの『流れ』(主流れ)によって移動する被測定ガスの量に比して、ガス導入部に到達する被測定ガスの量が少ない。
このように、新たな気筒からの被測定ガスが、遅く、少量しかガス導入部に届かないガスセンサでは、センサ素子に生じるセンサ信号の変化も遅くなるから、ガスセンサの応答性は低下せざるを得ず、本件発明の課題を解決することはできない。」(意見書第39?40頁)と主張する。

(2)請求人の上記主張は、本件発明1には、構成Xの被測定ガスの流れが、センサ素子(2)のガス導入部(271)に到達せずに、構成Xの被測定ガスの流れ以外の傍流や乱流や拡散等による被測定ガスが、センサ素子(2)のガス導入部(271)に到達するように構成されたガスセンサが含まれることを前提にしたものと理解するが、上記15(2)に示したとおり、本件発明1は、構成Xの被測定ガスの流れが、センサ素子(2)のガス導入部(271)に到達するので、請求人が主張の前提とするガスセンサは、本件発明1に含まれない。
よって、請求人の上記主張は、その前提において失当であり、新無効理由13-1は採用できない。

(3)仮に、請求人の上記主張が、本件発明1に、構成Xに加えて構成X以外の被測定ガスの流れが、センサ素子(2)のガス導入部(271)に到達するように構成されたガスセンサが含まれることを前提にしたものと理解すると、構成Xに加えて構成X以外の被測定ガスの流れが、センサ素子(2)のガス導入部(271)に到達するように構成された本件発明1にあっては、構成Xの被測定ガスの流れのみが、センサ素子(2)のガス導入部(271)に到達するように構成された本件発明1より、気筒間インバランスの応答性が低下するかもしれない。
しかしながら、本件発明1は、上記1(3)イに示したとおり、「構成Hを備えた本件発明1(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、H、I、N、X、Jを含む)は、構成Hを加える前の、構成H以外の全ての構成(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、I、N、X、Jを含む)を備えているガスセンサよりも、気筒間インバランスの応答性が向上する」という、いわば相対的な応答性向上の効果を奏するガスセンサであることから、構成Xに加えて構成X以外の被測定ガスの流れが、センサ素子(2)のガス導入部(271)に到達するように構成された本件発明1にあっても、係る本件発明1に構成Hを加える前のガスセンサより、相対的に、気筒間インバランスの応答性が向上することは、当業者が予測し得ることである。

(4)以上のことから、構成Xで規定する被測定ガスの流れとは別に、傍流や乱流や拡散等による被測定ガスが、センサ素子(2)のガス導入部(271)に到達するように構成されるガスセンサは、本件発明1に含まれるものでなく、また、構成Xで規定する被測定ガスの流れに加えて、構成X以外の傍流や乱流や拡散等による被測定ガスが、センサ素子(2)のガス導入部(271)に到達するように構成されるガスセンサを含む本件発明1は、本件発明の作用効果を奏するものといえるので、本件発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえず、サポート要件違反であるとはいえない。

(5)よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえることから、新無効理由13-1には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、新無効理由13-1により無効とすべきものではない。

18 新無効理由13-2(サポート要件違反)について

(1)請求人は、「構成Xに規定する被測定ガスの『流れ』の量が少なく、センサ素子のガス導入部にごく少量の『新たな気筒の被測定ガス』が到達するに止まったり、構成Xに規定する『流れ』の形態が移動速度の遅い拡散等となるガスセンサも含まれるが、これらの場合には、ガスセンサの出力するセンサ信号の変化が生じにくく、応答性が低下する。即ち、本件再訂正発明は、応答性の低いガスセンサも含んでいることになる。」(意見書第41頁)と主張する。

(2)請求人の上記主張のとおり、構成Xの被測定ガスの流れが、小量で遅く、センサ素子(2)のガス導入部(271)に到達するように構成された本件発明1にあっては、構成Xの被測定ガスの流れが、大量で迅速に、センサ素子(2)のガス導入部(271)に到達するように構成された本件発明1より、気筒間インバランスの応答性が低下するかもしれない。
しかしながら、本件発明1は、上記1(3)イに示したとおり、「構成Hを備えた本件発明1(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、H、I、N、X、Jを含む)は、構成Hを加える前の、構成H以外の全ての構成(構成P、A、B、C、D、E(E1、E2)、F、G(G1、G2)、I、N、X、Jを含む)を備えているガスセンサよりも、気筒間インバランスの応答性が向上する」という、いわば相対的な応答性向上の効果を奏するガスセンサであることから、構成Xの被測定ガスの流れが、小量で遅く、センサ素子(2)のガス導入部(271)に到達するように構成された本件発明1にあっても、係る本件発明1に構成Hを加える前のガスセンサより、相対的に、気筒間インバランスの応答性が向上することは、当業者が予測し得ることである。
以上のことから、構成Xにおいて被測定ガスの流れの形態(軌跡)は規定しているが、流れの量(流量)や流速については規定していないガスセンサを含む本件発明1は、本件発明の作用効果を奏するものといえるので、本件発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえず、サポート要件違反であるとはいえない。

(3)よって、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえることから、新無効理由13-2には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、新無効理由13-2により無効とすべきものではない。

19 新無効理由14-1(進歩性違反)について

(1)対比・判断
ア 対比
本件発明1と甲14発明(上記第7 5(2)ウを参照。)とを対比する。

(ア)構成P、構成J
甲14発明の「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサ10」は、本件発明1の「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサ」に相当する。

(イ)構成A
甲14発明の「対象ガスが含有する成分の濃度を検出するためのセンサ素子21」は、本件発明1の「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)」に相当する。

(ウ)構成B
甲14発明の「センサ素子21を保持するハウジング」と、本件発明1の「該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)」とは、「該センサ素子(2)を保持するハウジング(13)」の点で共通する。

(エ)構成C
甲14発明の「該ハウジングの先端側に、センサ素子21を覆うように設けられ」た「カバー31」と「内側カバー41」は、本件発明1の「該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)」に相当する。

(オ)構成E、構成E1
甲14発明の「センサ素子21を覆うように設けられ」た「内側カバー41」は、本件発明1の「上記素子カバー(3)」が有する「上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)」に相当する。

(カ)構成E、構成E2
甲14発明の「カバー31」は、本件発明1の「上記素子カバー(3)」が有する「該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)」に相当する。

(キ)構成G、構成G1
甲14発明の「内側カバー41」が有する「その内部にセンサ素子21に到達させる対象ガスを導入する内側導入孔」と、本件発明1の「上記インナカバー(4)」に設けられる「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」とは、「上記インナカバー(4)」に設けられる「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」の点で共通する。

(ク)構成G、構成G2
甲14発明の「内側カバー41」が有する「内側排出孔」は、本件発明1の「上記インナカバー(4)」に設けられる「インナ排出開口部(43)」に相当する。

(ケ)構成I
甲14発明の「上記センサ素子21の先端位置は、上記内側導入孔よりも先端側にあ」ることは、本件発明1の「上記センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向先端側(X1)にあ」ることに相当する。

(コ)構成N
甲14発明の「前記導入孔32は、前記内側導入孔よりも基端側にあ」ることは、本件発明1の「上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあ」ることに相当する。

(サ)構成X
甲14発明は、「前記内側導入孔から前記内側カバー41内に導入された対象ガスは、まず、基端側へ向かって流れる」ものである。そして、その後、「前記内側導入孔よりも先端側にあ」る「前記内側排出孔」に向けて流れることは明らかである。
したがって、甲14発明は、本件発明1の「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている」ことを備えていると認められる。

イ 一致点・相違点
よって、本件発明1と甲14発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサであって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)と、
該センサ素子(2)を保持するハウジング(13)と、
該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)とを備え、
上記素子カバー(3)は、上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)と、該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)とを有し、
該アウタカバー(5)には、該アウタカバー(5)内に被測定ガスを導入するためのアウタ導入開口部(52)が設けられており、
上記インナカバー(4)には、該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)と、インナ排出開口部(43)が設けられており、
上記センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向先端側(X1)にあり、
上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている、ガスセンサ(1)。」

(相違点4)
センサ素子(2)を保持するハウジング(13)は、本件発明1では、センサ素子(2)を「内側に挿通して」保持する(構成B)のに対し、甲14発明では、その具体的な保持手段についての特定がない点。

(相違点5)
センサ素子(2)及びインナ導入開口部(42)について、本件発明1では、(構成D)「上記センサ素子(2)の先端部(201)には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部(271)が設けられ」、構成G1のインナ導入開口部(42)が、上記センサ素子(2)の「上記ガス導入部(271)」に到達させる被測定ガスを導入するためのものであるのに対し、甲14発明では、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けているかの特定がないため、内側導入孔が、上記ガスセンサ素子21の「上記ガス導入部」に到達させる被測定ガスを導入するためのものであるかも特定されない点。

(相違点6)
センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について、本件発明1では、(構成H)「上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向中間位置(C1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあ」るのに対し、甲14発明では、この位置関係についての特定がない点。

ウ 判断
(ア)請求人の主張について

請求人は、「(3)検討1:ガス導入部について(構成D、G’)
甲第14号証の実施例1(図1)のセンサ素子21には、その先端部に、センサ素子21の内部に対象ガスを導入するためのガス導入部が設けられている点について記載は無い。
しかしながら、センサ素子の内部に対象ガス(被測定ガスに対応)を導入するためのガス導入部を、センサ素子の先端部に設けることは技術常識であり、例えば甲4(図1、3、5-8)、甲8(図1)、甲17(図1、2、5)、甲18(図1)などにも記載されている。従って、甲第14号証の図1に記載のガスセンサ10において、構成Dに相当する『上記センサ素子21の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられて』いることは、技術常識であり、実質的に甲14に記載されていることである、あるいは当業者が容易に設け得ることである。
そして、ガス導入部が定まれば、この『ガス導入部』に到達させる対象ガスを導入するためのインナ導入開口部も定められる。従って、構成G’も、実質的に甲14に記載されていること、あるいは当業者が容易に設け得ることと言える。

(4)検討2:ガス導入部の軸方向中間位置(C1)及び軸方向先端位置(C2)と、内側カバー41のインナ導入開口部の軸方向基端位置(D1)との位置関係について(構成H、K)
甲第14号証のガスセンサ10のセンサ素子21には、ガス導入部の位置が明示されていないことから、ガスセンサ10(センサ素子21)が構成H及び構成Kを充足しているか否かについては不明である。
しかしながら、甲14の図1に記載のガスセンサ10において、センサ素子21のガス導入部をどこに配置するかは,例えば甲4(図5-8)で適宜選択しているように、当業者が適宜行う設計事項であり、その際に、矢印で示された、内側カバー(インナカバー)41内の対象ガス(被測定ガス)の流れを考慮して、センサ素子21のガス導入部の配置を、構成Hあるいは構成Kに相当する配置とすることは、当業者が適宜なし得たことである。」(意見書第58?59頁)と主張する。

(イ)相違点5について、
事案に鑑み、まず、上記相違点5について検討する。

甲8に記載された技術的事項(上記第7 2(2)を参照。)によれば、ガスセンサ素子2の先端側には、被測定ガスを被測定ガス室210へと導入するための多孔質拡散抵抗層21が一部露出して配設されており、インナカバーのガス導入開口部が、前記ガスセンサ素子2の前記多孔質拡散抵抗層21に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが理解できる。
そして、甲8に記載された技術的事項の「多孔質拡散抵抗層21」及び「ガス導入開口部」は、それぞれ、本件発明1の「ガス導入部(271)」及び「インナ導入開口部(42)」に相当するから、上記甲8に記載された技術的事項は、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられ、インナ導入開口部が、上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが示されているといえる。
また、甲4に記載された技術的事項1(上記第7 6(2)アを参照。)は、「ガスセンサ素子100Aは、先端部105にNOxセンサ部30・・・を有し、NOxセンサ部30の内部に被測定ガスを導入するためのガス拡散孔8aがガスセンサ素子100Aの側面に開口しており、・・・内側ガス導入孔143aから内側ガス排出孔143bへの被測定ガスの流路上にガス拡散孔8aが存在する」ことを備えており、甲17に記載された技術的事項(上記第7 8(2)を参照。)は、「検知対象ガス中の特定ガスを検知するための検知部を先端側に有する検知素子と、・・・検知部112には、ガス導入部111が設けられており、・・・内側プロテクタ200の内側孔203を介して第2空間20に導入された排気ガスは、検知部112の周囲を通って、ガスセンサ100の先端側に移動し、ガス成分の少なくとも一部は、検知素子110の検知部112のガス導入部111から検知素子110の内部に導入され」ることを備えている。
そして、甲4に記載された技術的事項1の「ガス拡散孔8a」及び「内側ガス導入孔143a」、並びに甲17に記載された技術的事項の「ガス導入部111」及び「内側孔203」は、いずれもそれぞれ、本件発明1の「ガス導入部(271)」及び「インナ導入開口部(42)」に相当するから、上記甲4に記載された技術的事項1、及び上記甲17に記載された技術的事項は、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられ、インナ導入開口部が、上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが示されているといえる。
してみると、ガスセンサにおいて、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられ、インナ導入開口部が、上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることは、本件特許の優先日前において技術常識であったといえる。
よって、甲14発明において、上記技術常識を踏まえると、上記相違点5に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易になし得ることである。

(ウ)相違点6について
次に、上記相違点6について検討する。

a 上記(イ)に示したとおり、甲14発明において、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けること(以下、「センサ素子21の先端部に『ガス導入部』を設けた甲14発明」という。)は容易になし得ると判断したことから、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲14発明において、ガス導入部の配置を決める際、請求人が提示する証拠に基づいて構成Hの配置が容易になし得るか、まず、以下に検討する。

(a)請求人の上記主張に示された甲4には、ガスセンサ素子100Aのガス拡散孔8aと、プロテクタ141の内側ガス導入孔143aとの軸方向位置関係について、甲4に記載された技術的事項1(上記第7 6(2)アを参照。)と、甲4に記載された技術的事項2(上記第7 6(2)イを参照。)とにそれぞれ記載されている。

甲4に記載された技術的事項1は、「ガス拡散孔8a」を、「内側ガス導入孔143a」より軸線方向先端側に設けられた「内側ガス排出孔143bとアンモニアセンサ部42との軸線方向の間の」「被測定ガスの流路上」「の位置R2に配置」するもの、すなわち、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがマイナスのものであるから、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲14発明において、対象ガスの流れのどの位置に、ガス導入部を配置するかを決める際、甲4に記載された技術的事項1に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。
また、甲4に記載された技術的事項2は、「ガス拡散孔8aが、被測定ガスの流路上に存在しない、内側ガス導入孔143aよりも後端側に配置されている」ことから、一見、構成Hの配置を備えているようにみえるが、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲14発明は、対象ガスの流れの中に「ガス導入部」を配置するものであり、一方、甲4に記載された技術的事項2は、「ガス拡散孔8a」を「被測定ガスの流路上に存在しない」位置に配置するものである。したがって、甲4に記載された技術的事項2は、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲14発明に適用するための、対象ガスの流れに「ガス導入部」を配置するいう前提を欠くものであるから、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲14発明が、甲4に記載された技術的事項2の適用を排斥しているといえる。
そして、甲4に記載された技術的事項2は、「内側ガス導入孔143aに近いアンモニアセンサ部42に被測定ガスが最初に接触し、これにより、内側ガス導入孔143aから導入された被測定ガスが昇温されたNOxセンサ部30の近傍を通過した後にアンモニアセンサ部42に到達することが無く、アンモニアが熱分解する前の新鮮な被測定ガスをアンモニアセンサ部42に到達させることができ」る「マルチガスセンサ200A」、すなわち、流路上の最短距離に「アンモニアセンサ部42」を配置するために、NOxセンサ部30の「ガス拡散孔8a」を流路外に配置しているが、アンモニアセンサ部を有しない、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲14発明において、甲4に記載された技術的事項2を採用する動機付けもない。

(b)甲5には、ガスセンサ素子2の被測定ガス電極22と、インナカバー41の内側開口部411との軸方向位置関係について、甲5の実施例9に記載された技術的事項(第7 1(5)を参照。)に記載されている。なお、甲5の実施例9に記載された技術的事項「被測定ガス側電極22」は、ガス検出部の一部であることから、「ガス導入部」に対応するものとした上で検討する。

甲5の実施例9に記載された技術的事項は、「内側開口部411は、ガスセンサ素子2に設けた被測定ガス側電極22の基端部221から該被測定ガス側電極22の軸方向長さLの半分の位置までの間の位置に形成されて」いるもの、すなわち、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがマイナスのものであるから、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲14発明において、対象ガスの流れのどの位置に、ガス導入部(被測定ガス側電極22)を配置するかを決める際、甲5の実施例9に記載された技術的事項に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。

(c)甲17には、検知素子110の検知部112のガス導入部111と、内側プロテクタ200の内側孔203との軸方向位置関係について、甲17に記載された技術的事項(第7 8(2)を参照。)に記載されている。

甲17に記載された技術的事項は、「軸線AX方向において、複数の内側孔203のそれぞれの最も先端側の位置D(図2参照)は、・・・検知部112のガス導入部111の最も後端側の部位の位置C(図2参照)よりも後端側にあ」るもの、すなわち、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがマイナスのものであるから、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲14発明において、対象ガスの流れのどの位置に、ガス導入部を配置するかを決める際、甲17に記載された技術的事項に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。
また、甲17に記載された技術的事項は、「軸線AX方向において、複数の内側孔203のそれぞれの最も先端側の位置D(図2参照)は、・・・(なお、位置Dは、位置Cよりも先端側にあってもよく)」とあるので、この場合、「検知部112」と「ガス導入部111」の軸線AX方向がほぼ同じ位置関係にあるとすると、「ガス導入部111は、例えば、軸線AX方向の長さが2.5mm」であり、「第1内側孔204のそれぞれは、例えば、直径2.0mmの円状の形状を有し」ているから、軸方向距離aがプラスである構成Hの配置するためには、「軸線AX方向において、複数の内側孔203のそれぞれの最も先端側の位置D(図2参照)は、検知部112の最も先端側の位置(より具体的には、検知電極117と基準電極118とが対極する位置の最も先端側の位置)B(図2参照)よりも後端側にあ」るという要件は満たせなくなる。よって、この場合を考えてみても、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲14発明において、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。

(d)そして、請求人が提示するその他の証拠の中に、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について記載したものは見当たらない。

(e)以上(a)?(d)の検討を踏まえると、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲14発明において、甲4に記載された技術的事項1、2、甲5の実施例9に記載された技術的事項、及び甲17に記載された技術的事項を含め、請求人が提示する証拠に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で構成Hの配置にすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。

b さらに、上記1(3)イに示したとおり、構成Hは、ガスセンサにおいて、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気される被測定ガスが混合されにくい、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を定めたものであるところ、請求人が提示する証拠の中に、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気される被測定ガスが混合されにくくすべく、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を定めたものも見当たらない。

c 以上a及びbより、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲14発明において、上記相違点6に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことでない。

(2)小括
以上のとおり、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、相違点4を検討するまでもなく、甲14発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことから、新無効理由14-1には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、新無効理由14-1により無効とすべきものではない。

20 新無効理由14-2(進歩性違反)について

(1)対比・判断
ア 対比
本件発明1と甲5実施例2、3発明(上記第7 1(4)を参照。)とを対比する。

(ア)構成P、構成J
甲5実施例2、3発明の「自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置するガスセンサ1」は、「自動車エンジン」が多気筒の内燃機関であるから、本件発明1の「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサ」に相当する。

(イ)構成A
甲5実施例2、3発明の「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子2」は、本件発明1の「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)」に相当する。

(ウ)構成B
甲5実施例2、3発明の「該ガスセンサ素子2を内側に挿通するハウジング3」は、本件発明1の「該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)」に相当する。

(エ)構成C
甲5実施例2、3発明の「該ハウジング3の先端側に固定された素子カバー4」は、本件発明1の「該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)」に相当する。

(オ)構成E、構成E1
甲5実施例2、3発明の「素子カバー4」が有する「インナーカバー41」は、本件発明1の「上記素子カバー(3)」が有する「上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)」に相当する。

(カ)構成E、構成E2
甲5実施例2、3発明の「素子カバー4」が有する「該インナーカバー41の外周に配置されたアウターカバー42」は、本件発明1の「上記素子カバー(3)」が有する「該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)」に相当する。

(キ)構成G、構成G1
甲5実施例2、3発明は、「被測定ガスの一部(G2)が、更に内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され、ガスセンサ素子2に到達する」ことから、甲5実施例2、3発明の「インナーカバー41」に設けられる「内側開口部411」と、本件発明1の「上記インナカバー(4)」に設けられる「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」とは、「上記インナカバー(4)」に設けられる「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」の点で共通する。

(ク)構成G、構成G2
甲5実施例2、3発明の「インナーカバー41」に形成する「素子カバー4の外部に開口する先端開口部412」は、本件発明1の「上記インナカバー(4)」に設けられる「インナ排出開口部(43)」に相当する。

(ケ)構成N
甲5実施例2、3発明の「外側開口部421よりも先端側となる位置に内側開口部411を設けてな」ることは、本件発明1の「上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあ」ることに相当する。

(コ)構成X
甲5実施例2、3発明の「先端開口部412」は、「先端部に形成して」いることから、「内側開口部411」より先端側となる位置にあることが理解できる。また、甲5実施例2、3発明の「ルーバー形状の内側開口部411」は、「インナーカバー41」に設けられた「凹部417の基端を開口させ」ている。よって、甲5実施例2、3発明は、「内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され」た「被測定ガスの一部(G2)」が、まず、基端側へ向かって流れ、その後、「先端開口部412」に向けて流れることは明らかである。
したがって、甲5実施例2、3発明は、本件発明1の「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている」ことを備えていると認められる。

イ 一致点・相違点
よって、本件発明1と甲5実施例2、3発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサであって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)と、
該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)と、
該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)とを備え、
上記素子カバー(3)は、上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)と、該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)とを有し、
該アウタカバー(5)には、該アウタカバー(5)内に被測定ガスを導入するためのアウタ導入開口部(52)が設けられており、
上記インナカバー(4)には、該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)と、インナ排出開口部(43)が設けられており、
上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている、ガスセンサ(1)。」

(相違点7:相違点1と同じ)
センサ素子(2)及びインナ導入開口部(42)について、本件発明1では、(構成D)「上記センサ素子(2)の先端部(201)には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部(271)が設けられ」、構成G1のインナ導入開口部(42)が、上記センサ素子(2)の「上記ガス導入部(271)」に到達させる被測定ガスを導入するためのものであるのに対し、甲5実施例2、3発明では、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けているかの特定がないため、内側開口部411が、上記ガスセンサ素子2の「上記ガス導入部」に到達させる被測定ガスを導入するためのものであるかも特定されない点。

(相違点8:相違点2と同じ)
センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について、本件発明1では、(構成H)「上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向中間位置(C1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあ」るのに対し、甲5実施例2、3発明では、この位置関係についての特定がない点。

(相違点9:相違点3と同じ)
センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について、本件発明1では、(構成I)「上記センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向先端側(X1)にあ」るのに対し、甲5実施例2、3発明では、この位置関係についての特定がない点。

ウ 判断
(ア)請求人の主張について

請求人は、「(2)検討1:ガス導入部について(構成D、G’)
甲第5号証の実施例1?3(図2?4)に記載のガスセンサ素子2には、その先端部に、ガスセンサ素子2の内部に対象ガスを導入するためのガス導入部が設けられている点について記載は無い。
但し、ガスセンサ素子2の内部に対象ガス(被測定ガスに対応)を導入するためのガス導入部を、センサ素子の先端部に設けることは技術常識であり、例えば甲4(図1、3、5-8)、甲8(図1)、甲17(図1、2、5)、甲18(図1)などにも記載されている。従って、甲第5号証のガスセンサ1において、構成Dに相当する『上記ガスセンサ素子2の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられて』いることは、技術常識であり、実質的に甲5に記載されていることである、あるいは当業者が容易に設け得ることである。
そして、ガス導入部が定まれば、この『ガス導入部』に到達させる対象ガスを導入するためのインナ導入開口部も定められる。従って、構成G’も、実質的に甲5に記載されていること、あるいは当業者が容易に設け得ることである。

(3)甲第5号証、または甲第5号証と甲第14号証との組み合わせ
a)上述の甲5の図2、3、4(例えば図4)に記載のルーバー部を有さないインナーカバー42を、ルーバー形状の内側開口部411を有するインナーカバー41に変更した実施例3のガスセンサ、即ち、インナーカバー42にルーバー部を有するガスセンサでは、内側開口部(インナ導入開口部)411からインナーカバー(インナカバー)41内に導入された被測定ガスG2は、まず、軸方向基端側(図4中上方)へ向かって流れ、その後、内側開口部(インナ導入開口部)411より軸方向先端側(図4中下方)に設けられた先端開口部(インナ排出開口部)412に向けて流れる。従って、この甲5実施例3のガスセンサ1は、構成Xをも充足している。
b)あるいは、上述の甲5実施例3のガスセンサ1において、甲第14号証の図1(a)に記載の矢印のように、被測定ガスの流れを顕在化させた場合に、甲第14号証と同じく、構成Xに記載の形態の流れとなることは明らかである。従って、このガスセンサは、構成Xをも充足している。加えて、甲14に記載の形態のルーバー部を採用すれば、構成Mをも充足する。もしくは、構成Mは周知技術(あるいは甲第6号証、甲第7号証に記載の技術)を用いてルーバー部を形成することを規定するに過ぎず、当業者が容易に採用できるとも言える。
c)あるいは、上述の甲5の図4に記載の、内側開口部411にルーバー部を有さないインナーカバー42を有する実施例2のガスセンサ1において、実施例3(図5、図6)のように内側開口部411にルーバー部を設けるにあたり、図5、6のルーバー部でなく、甲第14号証の図1(a)に記載のように折り曲げによって形成したルーバー部を内側開口部411に設けることは容易である。この場合にも、甲14の図1(a)に示されている矢印のように、被測定ガスが流れることとなるから、構成Xに記載の形態の流れとなることは明らかである。しかも、甲14に記載の形態のルーバー部の採用により、構成L、Mをも充足する。

(4)検討2:ガス導入部の軸方向中間位置(C1)及び軸方向先端位置(C2)と、インナーカバー41のインナ導入開口部の軸方向基端位置(D1)との位置関係について(構成H、K)
甲第5号証のガスセンサ1のガスセンサ素子2及び甲12(当審注:甲14の誤記と認める。)のガスセンサ10のセンサ素子21には、ガス導入部の位置が明示されていないことから、ガスセンサ1(ガスセンサ素子2)が構成H及び構成Kを充足しているか否かについては不明である。
しかしながら、ガスセンサ素子2のガス導入部を先端部のどこに配置するかは、当業者が行う設計事項であり、構成Xを充足する甲5の図2?6のガスセンサ1または甲5に甲14を適用したガスセンサにおいて、構成Xの被測定ガスG2の流れを考慮して、ガスセンサ素子2の先端部に設けるガス導入部の配置を、構成Hあるいは構成Kに相当する配置とすることは、当業者が適宜なし得たことである。」(意見書第62?64頁)

なお、上記(3)a)は新無効理由14-2に、上記(3)b)は新無効理由14-3に、上記(3)c)は新無効理由14-4に対応する。

(イ)相違点7について、
まず、相違点7について検討する。

甲8に記載された技術的事項(上記第7 2(2)を参照。)によれば、ガスセンサ素子2の先端側には、被測定ガスを被測定ガス室210へと導入するための多孔質拡散抵抗層21が一部露出して配設されており、インナカバーのガス導入開口部が、前記ガスセンサ素子2の前記多孔質拡散抵抗層21に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが理解できる。
そして、甲8に記載された技術的事項の「多孔質拡散抵抗層21」及び「ガス導入開口部」は、それぞれ、本件発明1の「ガス導入部(271)」及び「インナ導入開口部(42)」に相当するから、上記甲8に記載された技術的事項は、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられ、インナ導入開口部が、上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが示されているといえる。
また、甲4に記載された技術的事項1(上記第7 6(2)アを参照。)は、「ガスセンサ素子100Aは、先端部105にNOxセンサ部30・・・を有し、NOxセンサ部30の内部に被測定ガスを導入するためのガス拡散孔8aがガスセンサ素子100Aの側面に開口しており、・・・内側ガス導入孔143aから内側ガス排出孔143bへの被測定ガスの流路上にガス拡散孔8aが存在する」ことを備えており、甲17に記載された技術的事項(上記第7 8(2)を参照。)は、「検知対象ガス中の特定ガスを検知するための検知部を先端側に有する検知素子と、・・・検知部112には、ガス導入部111が設けられており、・・・内側プロテクタ200の内側孔203を介して第2空間20に導入された排気ガスは、検知部112の周囲を通って、ガスセンサ100の先端側に移動し、ガス成分の少なくとも一部は、検知素子110の検知部112のガス導入部111から検知素子110の内部に導入され」ることを備えている。
そして、甲4に記載された技術的事項1の「ガス拡散孔8a」及び「内側ガス導入孔143a」、並びに甲17に記載された技術的事項の「ガス導入部111」及び「内側孔203」は、いずれもそれぞれ、本件発明1の「ガス導入部(271)」及び「インナ導入開口部(42)」に相当するから、上記甲4に記載された技術的事項1、及び上記甲17に記載された技術的事項は、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられ、インナ導入開口部が、上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが示されているといえる。
してみると、ガスセンサにおいて、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられ、インナ導入開口部が、上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることは、本件特許の優先日前において技術常識であったといえる。
よって、甲5実施例2、3発明において、上記技術常識を踏まえると、上記相違点7に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易になし得ることである。

(ウ)相違点8について
次に、相違点8について検討する。

a 上記(イ)に示したとおり、甲5実施例2、3発明において、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けること(以下、「ガスセンサ素子2の先端部に『ガス導入部』を設けた甲5実施例2、3発明」という。)は容易になし得ると判断したことから、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2、3発明において、ガス導入部の配置を決める際、請求人が提示する証拠に基づいて構成Hの配置が容易になし得るか、まず、以下に検討する。

(a)甲4には、ガスセンサ素子100Aのガス拡散孔8aと、プロテクタ141の内側ガス導入孔143aとの軸方向位置関係について、甲4に記載された技術的事項1(上記第7 6(2)アを参照。)と、甲4に記載された技術的事項2(上記第7 6(2)イを参照。)とにそれぞれ記載されている。

甲4に記載された技術的事項1は、「ガス拡散孔8a」を、「内側ガス導入孔143a」より軸線方向先端側に設けられた「内側ガス排出孔143bとアンモニアセンサ部42との軸線方向の間の」「被測定ガスの流路上」「の位置R2に配置」するもの、すなわち、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがマイナスのものであるから、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2、3発明において、対象ガスの流れのどの位置に、ガス導入部を配置するかを決める際、甲4に記載された技術的事項1に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。
また、甲4に記載された技術的事項2は、「ガス拡散孔8aが、被測定ガスの流路上に存在しない、内側ガス導入孔143aよりも後端側に配置されている」ことから、一見、構成Hの配置を備えているようにみえるが、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲14発明は、対象ガスの流れの中に「ガス導入部」を配置するものであり、一方、甲4に記載された技術的事項2は、「ガス拡散孔8a」を「被測定ガスの流路上に存在しない」位置に配置するものである。したがって、甲4に記載された技術的事項2は、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2、3発明に適用するための、対象ガスの流れに「ガス導入部」を配置するいう前提を欠くものであるから、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2、3発明が、甲4に記載された技術的事項2の適用を排斥しているといえる。
そして、甲4に記載された技術的事項2は、「内側ガス導入孔143aに近いアンモニアセンサ部42に被測定ガスが最初に接触し、これにより、内側ガス導入孔143aから導入された被測定ガスが昇温されたNOxセンサ部30の近傍を通過した後にアンモニアセンサ部42に到達することが無く、アンモニアが熱分解する前の新鮮な被測定ガスをアンモニアセンサ部42に到達させることができ」る「マルチガスセンサ200A」、すなわち、流路上の最短距離に「アンモニアセンサ部42」を配置するために、NOxセンサ部30の「ガス拡散孔8a」を流路外に配置しているが、アンモニアセンサ部を有しない、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2、3発明において、甲4に記載された技術的事項2を採用する動機付けもない。

(b)甲5には、ガスセンサ素子2の被測定ガス電極22と、インナカバー41の内側開口部411との軸方向位置関係について、甲5の実施例9に記載された技術的事項(第7 1(5)を参照。)に記載されている。なお、甲5の実施例9に記載された技術的事項「被測定ガス側電極22」は、ガス検出部の一部であることから、「ガス導入部」に対応するものとした上で検討する。

甲5の実施例9に記載された技術的事項は、「内側開口部411は、ガスセンサ素子2に設けた被測定ガス側電極22の基端部221から該被測定ガス側電極22の軸方向長さLの半分の位置までの間の位置に形成されて」いるもの、すなわち、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがマイナスのものであるから、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2、3発明において、対象ガスの流れのどの位置に、ガス導入部(被測定ガス側電極22)を配置するかを決める際、甲5の実施例9に記載された技術的事項に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。

(c)甲17には、検知素子110の検知部112のガス導入部111と、内側プロテクタ200の内側孔203との軸方向位置関係について、甲17に記載された技術的事項(第7 8(2)を参照。)に記載されている。

甲17に記載された技術的事項は、「軸線AX方向において、複数の内側孔203のそれぞれの最も先端側の位置D(図2参照)は、・・・検知部112のガス導入部111の最も後端側の部位の位置C(図2参照)よりも後端側にあ」るもの、すなわち、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがマイナスのものであるから、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2、3発明において、対象ガスの流れのどの位置に、ガス導入部を配置するかを決める際、甲17に記載された技術的事項に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。
また、甲17に記載された技術的事項は、「軸線AX方向において、複数の内側孔203のそれぞれの最も先端側の位置D(図2参照)は、・・・(なお、位置Dは、位置Cよりも先端側にあってもよく)」とあるので、この場合、「検知部112」と「ガス導入部111」の軸線AX方向がほぼ同じ位置関係にあるとすると、「ガス導入部111は、例えば、軸線AX方向の長さが2.5mm」であり、「第1内側孔204のそれぞれは、例えば、直径2.0mmの円状の形状を有し」ているから、軸方向距離aがプラスである構成Hの配置するためには、「軸線AX方向において、複数の内側孔203のそれぞれの最も先端側の位置D(図2参照)は、検知部112の最も先端側の位置(より具体的には、検知電極117と基準電極118とが対極する位置の最も先端側の位置)B(図2参照)よりも後端側にあ」るという要件は満たせなくなる。よって、この場合を考えてみても、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2、3発明において、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。

(d)そして、請求人が提示するその他の証拠の中に、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について記載したものは見当たらない。

(e)以上(a)?(d)の検討を踏まえると、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2、3発明において、甲4に記載された技術的事項1、2、甲5の実施例9に記載された技術的事項、及び甲17に記載された技術的事項を含め、請求人が提示する証拠に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で構成Hの配置にすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。

b さらに、上記1(3)イに示したとおり、構成Hは、ガスセンサにおいて、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気される被測定ガスが混合されにくい、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を定めたものであるところ、請求人が提示する証拠の中に、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気される被測定ガスが混合されにくくすべく、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を定めたものも見当たらない。

c 以上a及びbより、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2、3発明において、上記相違点8に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことでない。

(2)小括
以上のとおり、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、相違点9を検討するまでもなく、甲5実施例2、3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことから、新無効理由14-2には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、新無効理由14-2により無効とすべきものではない。

21 新無効理由14-3(進歩性違反)について

(1)対比・判断
ア 対比
本件発明1と甲5実施例3発明(上記第7 1(3)を参照。)とを対比する。

(ア)構成P、構成J
甲5実施例3発明の「自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置するガスセンサ1」は、「自動車エンジン」が多気筒の内燃機関であるから、本件発明1の「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサ」に相当する。

(イ)構成A
甲5実施例3発明の「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子2」は、本件発明1の「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)」に相当する。

(ウ)構成B
甲5実施例3発明の「該ガスセンサ素子2を内側に挿通するハウジング3」は、本件発明1の「該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)」に相当する。

(エ)構成C
甲5実施例3発明の「該ハウジング3の先端側に固定された素子カバー4」は、本件発明1の「該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)」に相当する。

(オ)構成E、構成E1
甲5実施例3発明の「素子カバー4」が有する「インナーカバー41」は、本件発明1の「上記素子カバー(3)」が有する「上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)」に相当する。

(カ)構成E、構成E2
甲5実施例3発明の「素子カバー4」が有する「該インナーカバー41の外周に配置されたアウターカバー42」は、本件発明1の「上記素子カバー(3)」が有する「該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)」に相当する。

(キ)構成G、構成G1
甲5実施例3発明は、「被測定ガスの一部(G2)が、更に内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され、ガスセンサ素子2に到達する」ことから、甲5実施例3発明の「インナーカバー41」に設けられる「内側開口部411」と、本件発明1の「上記インナカバー(4)」に設けられる「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」とは、「上記インナカバー(4)」に設けられる「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」の点で共通する。

(ク)構成G、構成G2
甲5実施例3発明の「インナーカバー41」に形成する「素子カバー4の外部に開口する先端開口部412」は、本件発明1の「上記インナカバー(4)」に設けられる「インナ排出開口部(43)」に相当する。

(ケ)構成I
甲5実施例3発明の「ガスセンサ素子2の軸方向先端位置は、インナーカバー41の内側開口部411の軸方向基端位置よりも先端側にあ」ることは、本件発明1の「上記センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向先端側(X1)にあ」ることに相当する。

(コ)構成N
甲5実施例3発明の「外側開口部421よりも先端側となる位置に内側開口部411を設けてな」ることは、本件発明1の「上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあ」ることに相当する。

(サ)構成X
甲5実施例3発明の「先端開口部412」は、「先端部に形成して」いることから、「内側開口部411」より先端側となる位置にあることが理解できる。また、甲5実施例3発明の「ルーバー形状の内側開口部411」は、「インナーカバー41」に設けられた「凹部417の基端を開口させ」ている。よって、甲5実施例3発明は、「内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され」た「被測定ガスの一部(G2)」が、まず、基端側へ向かって流れ、その後、「先端開口部412」に向けて流れることは明らかである。
したがって、甲5実施例3発明は、本件発明1の「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている」ことを備えていると認められる。

イ 一致点・相違点
よって、本件発明1と甲5実施例3発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサであって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)と、
該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)と、
該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)とを備え、
上記素子カバー(3)は、上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)と、該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)とを有し、
該アウタカバー(5)には、該アウタカバー(5)内に被測定ガスを導入するためのアウタ導入開口部(52)が設けられており、
上記インナカバー(4)には、該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)と、インナ排出開口部(43)が設けられており、
上記センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向先端側(X1)にあり、
上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている、ガスセンサ(1)。」

(相違点10)
センサ素子(2)及びインナ導入開口部(42)について、本件発明1では、(構成D)「上記センサ素子(2)の先端部(201)には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部(271)が設けられ」、構成G1のインナ導入開口部(42)が、上記センサ素子(2)の「上記ガス導入部(271)」に到達させる被測定ガスを導入するためのものであるのに対し、甲5実施例3発明では、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けているかの特定がないため、内側開口部411が、上記ガスセンサ素子2の「上記ガス導入部」に到達させる被測定ガスを導入するためのものであるかも特定されない点。

(相違点11)
センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について、本件発明1では、(構成H)「上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向中間位置(C1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあ」るのに対し、甲5実施例3発明では、この位置関係についての特定がない点。

ウ 判断
(ア)請求人の主張について

請求人は、「(2)検討1:ガス導入部について(構成D、G’)
甲第5号証の実施例1?3(図2?4)に記載のガスセンサ素子2には、その先端部に、ガスセンサ素子2の内部に対象ガスを導入するためのガス導入部が設けられている点について記載は無い。
但し、ガスセンサ素子2の内部に対象ガス(被測定ガスに対応)を導入するためのガス導入部を、センサ素子の先端部に設けることは技術常識であり、例えば甲4(図1、3、5-8)、甲8(図1)、甲17(図1、2、5)、甲18(図1)などにも記載されている。従って、甲第5号証のガスセンサ1において、構成Dに相当する『上記ガスセンサ素子2の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられて』いることは、技術常識であり、実質的に甲5に記載されていることである、あるいは当業者が容易に設け得ることである。
そして、ガス導入部が定まれば、この『ガス導入部』に到達させる対象ガスを導入するためのインナ導入開口部も定められる。従って、構成G’も、実質的に甲5に記載されていること、あるいは当業者が容易に設け得ることである。

(3)甲第5号証、または甲第5号証と甲第14号証との組み合わせ
a)上述の甲5の図2、3、4(例えば図4)に記載のルーバー部を有さないインナーカバー42を、ルーバー形状の内側開口部411を有するインナーカバー41に変更した実施例3のガスセンサ、即ち、インナーカバー42にルーバー部を有するガスセンサでは、内側開口部(インナ導入開口部)411からインナーカバー(インナカバー)41内に導入された被測定ガスG2は、まず、軸方向基端側(図4中上方)へ向かって流れ、その後、内側開口部(インナ導入開口部)411より軸方向先端側(図4中下方)に設けられた先端開口部(インナ排出開口部)412に向けて流れる。従って、この甲5実施例3のガスセンサ1は、構成Xをも充足している。
b)あるいは、上述の甲5実施例3のガスセンサ1において、甲第14号証の図1(a)に記載の矢印のように、被測定ガスの流れを顕在化させた場合に、甲第14号証と同じく、構成Xに記載の形態の流れとなることは明らかである。従って、このガスセンサは、構成Xをも充足している。加えて、甲14に記載の形態のルーバー部を採用すれば、構成Mをも充足する。もしくは、構成Mは周知技術(あるいは甲第6号証、甲第7号証に記載の技術)を用いてルーバー部を形成することを規定するに過ぎず、当業者が容易に採用できるとも言える。
c)あるいは、上述の甲5の図4に記載の、内側開口部411にルーバー部を有さないインナーカバー42を有する実施例2のガスセンサ1において、実施例3(図5、図6)のように内側開口部411にルーバー部を設けるにあたり、図5、6のルーバー部でなく、甲第14号証の図1(a)に記載のように折り曲げによって形成したルーバー部を内側開口部411に設けることは容易である。この場合にも、甲14の図1(a)に示されている矢印のように、被測定ガスが流れることとなるから、構成Xに記載の形態の流れとなることは明らかである。しかも、甲14に記載の形態のルーバー部の採用により、構成L、Mをも充足する。

(4)検討2:ガス導入部の軸方向中間位置(C1)及び軸方向先端位置(C2)と、インナーカバー41のインナ導入開口部の軸方向基端位置(D1)との位置関係について(構成H、K)
甲第5号証のガスセンサ1のガスセンサ素子2及び甲12(当審注:甲14の誤記と認める。)のガスセンサ10のセンサ素子21には、ガス導入部の位置が明示されていないことから、ガスセンサ1(ガスセンサ素子2)が構成H及び構成Kを充足しているか否かについては不明である。
しかしながら、ガスセンサ素子2のガス導入部を先端部のどこに配置するかは、当業者が行う設計事項であり、構成Xを充足する甲5の図2?6のガスセンサ1または甲5に甲14を適用したガスセンサにおいて、構成Xの被測定ガスG2の流れを考慮して、ガスセンサ素子2の先端部に設けるガス導入部の配置を、構成Hあるいは構成Kに相当する配置とすることは、当業者が適宜なし得たことである。」(意見書第62?64頁)

なお、上記(3)a)は新無効理由14-2に、上記(3)b)は新無効理由14-3に、上記(3)c)は新無効理由14-4に対応する。

(イ)相違点10について、
まず、相違点10について検討する。

甲8に記載された技術的事項(上記第7 2(2)を参照。)によれば、ガスセンサ素子2の先端側には、被測定ガスを被測定ガス室210へと導入するための多孔質拡散抵抗層21が一部露出して配設されており、インナカバーのガス導入開口部が、前記ガスセンサ素子2の前記多孔質拡散抵抗層21に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが理解できる。
そして、甲8に記載された技術的事項の「多孔質拡散抵抗層21」及び「ガス導入開口部」は、それぞれ、本件発明1の「ガス導入部(271)」及び「インナ導入開口部(42)」に相当するから、上記甲8に記載された技術的事項は、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられ、インナ導入開口部が、上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが示されているといえる。
また、甲4に記載された技術的事項1(上記第7 6(2)アを参照。)は、「ガスセンサ素子100Aは、先端部105にNOxセンサ部30・・・を有し、NOxセンサ部30の内部に被測定ガスを導入するためのガス拡散孔8aがガスセンサ素子100Aの側面に開口しており、・・・内側ガス導入孔143aから内側ガス排出孔143bへの被測定ガスの流路上にガス拡散孔8aが存在する」ことを備えており、甲17に記載された技術的事項(上記第7 8(2)を参照。)は、「検知対象ガス中の特定ガスを検知するための検知部を先端側に有する検知素子と、・・・検知部112には、ガス導入部111が設けられており、・・・内側プロテクタ200の内側孔203を介して第2空間20に導入された排気ガスは、検知部112の周囲を通って、ガスセンサ100の先端側に移動し、ガス成分の少なくとも一部は、検知素子110の検知部112のガス導入部111から検知素子110の内部に導入され」ることを備えている。
そして、甲4に記載された技術的事項1の「ガス拡散孔8a」及び「内側ガス導入孔143a」、並びに甲17に記載された技術的事項の「ガス導入部111」及び「内側孔203」は、いずれもそれぞれ、本件発明1の「ガス導入部(271)」及び「インナ導入開口部(42)」に相当するから、上記甲4に記載された技術的事項1、及び上記甲17に記載された技術的事項は、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられ、インナ導入開口部が、上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが示されているといえる。
してみると、ガスセンサにおいて、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられ、インナ導入開口部が、上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることは、本件特許の優先日前において技術常識であったといえる。
よって、甲5実施例3発明において、上記技術常識を踏まえると、上記相違点10に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易になし得ることである。

(ウ)相違点11について
次に、相違点11について検討する。

a 上記(イ)に示したとおり、甲5実施例3発明において、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けること(以下、「ガスセンサ素子2の先端部に『ガス導入部』を設けた甲5実施例3発明」という。)は容易になし得ると判断したことから、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例3発明において、ガス導入部の配置を決める際、請求人が提示する証拠に基づいて構成Hの配置が容易になし得るか、まず、以下に検討する。

(a)甲4には、ガスセンサ素子100Aのガス拡散孔8aと、プロテクタ141の内側ガス導入孔143aとの軸方向位置関係について、甲4に記載された技術的事項1(上記第7 6(2)アを参照。)と、甲4に記載された技術的事項2(上記第7 6(2)イを参照。)とにそれぞれ記載されている。

甲4に記載された技術的事項1は、「ガス拡散孔8a」を、「内側ガス導入孔143a」より軸線方向先端側に設けられた「内側ガス排出孔143bとアンモニアセンサ部42との軸線方向の間の」「被測定ガスの流路上」「の位置R2に配置」するもの、すなわち、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがマイナスのものであるから、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例3発明において、対象ガスの流れのどの位置に、ガス導入部を配置するかを決める際、甲4に記載された技術的事項1に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。
また、甲4に記載された技術的事項2は、「ガス拡散孔8aが、被測定ガスの流路上に存在しない、内側ガス導入孔143aよりも後端側に配置されている」ことから、一見、構成Hの配置を備えているようにみえるが、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲14発明は、対象ガスの流れの中に「ガス導入部」を配置するものであり、一方、甲4に記載された技術的事項2は、「ガス拡散孔8a」を「被測定ガスの流路上に存在しない」位置に配置するものである。したがって、甲4に記載された技術的事項2は、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例3発明に適用するための、対象ガスの流れに「ガス導入部」を配置するいう前提を欠くものであるから、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例3発明が、甲4に記載された技術的事項2の適用を排斥しているといえる。
そして、甲4に記載された技術的事項2は、「内側ガス導入孔143aに近いアンモニアセンサ部42に被測定ガスが最初に接触し、これにより、内側ガス導入孔143aから導入された被測定ガスが昇温されたNOxセンサ部30の近傍を通過した後にアンモニアセンサ部42に到達することが無く、アンモニアが熱分解する前の新鮮な被測定ガスをアンモニアセンサ部42に到達させることができ」る「マルチガスセンサ200A」、すなわち、流路上の最短距離に「アンモニアセンサ部42」を配置するために、NOxセンサ部30の「ガス拡散孔8a」を流路外に配置しているが、アンモニアセンサ部を有しない、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例3発明において、甲4に記載された技術的事項2を採用する動機付けもない。

(b)甲5には、ガスセンサ素子2の被測定ガス電極22と、インナカバー41の内側開口部411との軸方向位置関係について、甲5の実施例9に記載された技術的事項(第7 1(5)を参照。)に記載されている。なお、甲5の実施例9に記載された技術的事項「被測定ガス側電極22」は、ガス検出部の一部であることから、「ガス導入部」に対応するものとした上で検討する。

甲5の実施例9に記載された技術的事項は、「内側開口部411は、ガスセンサ素子2に設けた被測定ガス側電極22の基端部221から該被測定ガス側電極22の軸方向長さLの半分の位置までの間の位置に形成されて」いるもの、すなわち、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがマイナスのものであるから、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例3発明において、対象ガスの流れのどの位置に、ガス導入部(被測定ガス側電極22)を配置するかを決める際、甲5の実施例9に記載された技術的事項に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。

(c)甲17には、検知素子110の検知部112のガス導入部111と、内側プロテクタ200の内側孔203との軸方向位置関係について、甲17に記載された技術的事項(第7 8(2)を参照。)に記載されている。

甲17に記載された技術的事項は、「軸線AX方向において、複数の内側孔203のそれぞれの最も先端側の位置D(図2参照)は、・・・検知部112のガス導入部111の最も後端側の部位の位置C(図2参照)よりも後端側にあ」るもの、すなわち、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがマイナスのものであるから、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例3発明において、対象ガスの流れのどの位置に、ガス導入部を配置するかを決める際、甲17に記載された技術的事項に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。
また、甲17に記載された技術的事項は、「軸線AX方向において、複数の内側孔203のそれぞれの最も先端側の位置D(図2参照)は、・・・(なお、位置Dは、位置Cよりも先端側にあってもよく)」とあるので、この場合、「検知部112」と「ガス導入部111」の軸線AX方向がほぼ同じ位置関係にあるとすると、「ガス導入部111は、例えば、軸線AX方向の長さが2.5mm」であり、「第1内側孔204のそれぞれは、例えば、直径2.0mmの円状の形状を有し」ているから、軸方向距離aがプラスである構成Hの配置するためには、「軸線AX方向において、複数の内側孔203のそれぞれの最も先端側の位置D(図2参照)は、検知部112の最も先端側の位置(より具体的には、検知電極117と基準電極118とが対極する位置の最も先端側の位置)B(図2参照)よりも後端側にあ」るという要件は満たせなくなる。よって、この場合を考えてみても、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例3発明において、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。

(d)そして、請求人が提示するその他の証拠の中に、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について記載したものは見当たらない。

(e)以上(a)?(d)の検討を踏まえると、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例3発明において、甲4に記載された技術的事項1、2、甲5の実施例9に記載された技術的事項、及び甲17に記載された技術的事項を含め、請求人が提示する証拠に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で構成Hの配置にすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。

b さらに、上記1(3)イに示したとおり、構成Hは、ガスセンサにおいて、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気される被測定ガスが混合されにくい、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を定めたものであるところ、請求人が提示する証拠の中に、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気される被測定ガスが混合されにくくすべく、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を定めたものも見当たらない。

c 以上a及びbより、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例3発明において、上記相違点11に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことでない。

(2)小括
以上のとおり、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、甲5実施例3発明及び甲14に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことから、新無効理由14-3には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、新無効理由14-3により無効とすべきものではない。

22 新無効理由14-4(進歩性違反)について

(1)対比・判断
ア 対比
本件発明1と甲5実施例2発明(上記第7 1(2)を参照。)とを対比する。

(ア)構成P、構成J
甲5実施例2発明の「自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置するガスセンサ1」は、「自動車エンジン」が多気筒の内燃機関であるから、本件発明1の「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサ」に相当する。

(イ)構成A
甲5実施例2発明の「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子2」は、本件発明1の「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)」に相当する。

(ウ)構成B
甲5実施例2発明の「該ガスセンサ素子2を内側に挿通するハウジング3」は、本件発明1の「該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)」に相当する。

(エ)構成C
甲5実施例2発明の「該ハウジング3の先端側に固定された素子カバー4」は、本件発明1の「該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)」に相当する。

(オ)構成E、構成E1
甲5実施例2発明の「素子カバー4」が有する「インナーカバー41」は、本件発明1の「上記素子カバー(3)」が有する「上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)」に相当する。

(カ)構成E、構成E2
甲5実施例2発明の「素子カバー4」が有する「該インナーカバー41の外周に配置されたアウターカバー42」は、本件発明1の「上記素子カバー(3)」が有する「該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)」に相当する。

(キ)構成G、構成G1
甲5実施例2発明は、「被測定ガスの一部(G2)が、更に内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され、ガスセンサ素子2に到達する」ことから、甲5実施例2発明の「インナーカバー41」に設けられる「内側開口部411」と、本件発明1の「上記インナカバー(4)」に設けられる「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」とは、「上記インナカバー(4)」に設けられる「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」の点で共通する。

(ク)構成G、構成G2
甲5実施例2発明の「インナーカバー41」に形成する「素子カバー4の外部に開口する先端開口部412」は、本件発明1の「上記インナカバー(4)」に設けられる「インナ排出開口部(43)」に相当する。

(ケ)構成N
甲5実施例2発明の「外側開口部421よりも先端側となる位置に内側開口部411を設けてな」ることは、本件発明1の「上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあ」ることに相当する。

(コ)構成X
甲5実施例2発明の「先端開口部412」は、「先端部に形成して」いることから、「内側開口部411」より先端側となる位置にあることが理解できる。よって、甲5実施例2発明は、「内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され」た「被測定ガスの一部(G2)」が、「先端開口部412」に向けて流れることは明らかである。
したがって、甲5実施例2発明は、本件発明1の「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている」ことのうち、「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている」ことを備えていると認められる。

イ 一致点・相違点
よって、本件発明1と甲5実施例2発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサであって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)と、
該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)と、
該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)とを備え、
上記素子カバー(3)は、上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)と、該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)とを有し、
該アウタカバー(5)には、該アウタカバー(5)内に被測定ガスを導入するためのアウタ導入開口部(52)が設けられており、
上記インナカバー(4)には、該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)と、インナ排出開口部(43)が設けられており、
上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている、ガスセンサ(1)。」

(相違点12)
センサ素子(2)及びインナ導入開口部(42)について、本件発明1では、(構成D)「上記センサ素子(2)の先端部(201)には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部(271)が設けられ」、構成G1のインナ導入開口部(42)が、上記センサ素子(2)の「上記ガス導入部(271)」に到達させる被測定ガスを導入するためのものであるのに対し、甲5実施例2発明では、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けているかの特定がないため、内側開口部411が、上記ガスセンサ素子2の「上記ガス導入部」に到達させる被測定ガスを導入するためのものであるかも特定されない点。

(相違点13)
センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について、本件発明1では、(構成H)「上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向中間位置(C1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあ」るのに対し、甲5実施例2発明では、この位置関係についての特定がない点。

(相違点14)
センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について、本件発明1では、(構成I)「上記センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向先端側(X1)にあ」るのに対し、甲5実施例2発明では、この位置関係についての特定がない点。

(相違点15)
被測定ガスの流れについて、本件発明1では、インナ導入開口部(42)からインナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、(構成X)「まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ」るように構成されているのに対し、甲5実施例2発明では、この流れについての特定がない点。

ウ 判断
(ア)請求人の主張について

請求人は、「(2)検討1:ガス導入部について(構成D、G’)
甲第5号証の実施例1?3(図2?4)に記載のガスセンサ素子2には、その先端部に、ガスセンサ素子2の内部に対象ガスを導入するためのガス導入部が設けられている点について記載は無い。
但し、ガスセンサ素子2の内部に対象ガス(被測定ガスに対応)を導入するためのガス導入部を、センサ素子の先端部に設けることは技術常識であり、例えば甲4(図1、3、5-8)、甲8(図1)、甲17(図1、2、5)、甲18(図1)などにも記載されている。従って、甲第5号証のガスセンサ1において、構成Dに相当する『上記ガスセンサ素子2の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられて』いることは、技術常識であり、実質的に甲5に記載されていることである、あるいは当業者が容易に設け得ることである。
そして、ガス導入部が定まれば、この『ガス導入部』に到達させる対象ガスを導入するためのインナ導入開口部も定められる。従って、構成G’も、実質的に甲5に記載されていること、あるいは当業者が容易に設け得ることである。

(3)甲第5号証、または甲第5号証と甲第14号証との組み合わせ
a)上述の甲5の図2、3、4(例えば図4)に記載のルーバー部を有さないインナーカバー42を、ルーバー形状の内側開口部411を有するインナーカバー41に変更した実施例3のガスセンサ、即ち、インナーカバー42にルーバー部を有するガスセンサでは、内側開口部(インナ導入開口部)411からインナーカバー(インナカバー)41内に導入された被測定ガスG2は、まず、軸方向基端側(図4中上方)へ向かって流れ、その後、内側開口部(インナ導入開口部)411より軸方向先端側(図4中下方)に設けられた先端開口部(インナ排出開口部)412に向けて流れる。従って、この甲5実施例3のガスセンサ1は、構成Xをも充足している。
b)あるいは、上述の甲5実施例3のガスセンサ1において、甲第14号証の図1(a)に記載の矢印のように、被測定ガスの流れを顕在化させた場合に、甲第14号証と同じく、構成Xに記載の形態の流れとなることは明らかである。従って、このガスセンサは、構成Xをも充足している。加えて、甲14に記載の形態のルーバー部を採用すれば、構成Mをも充足する。もしくは、構成Mは周知技術(あるいは甲第6号証、甲第7号証に記載の技術)を用いてルーバー部を形成することを規定するに過ぎず、当業者が容易に採用できるとも言える。
c)あるいは、上述の甲5の図4に記載の、内側開口部411にルーバー部を有さないインナーカバー42を有する実施例2のガスセンサ1において、実施例3(図5、図6)のように内側開口部411にルーバー部を設けるにあたり、図5、6のルーバー部でなく、甲第14号証の図1(a)に記載のように折り曲げによって形成したルーバー部を内側開口部411に設けることは容易である。この場合にも、甲14の図1(a)に示されている矢印のように、被測定ガスが流れることとなるから、構成Xに記載の形態の流れとなることは明らかである。しかも、甲14に記載の形態のルーバー部の採用により、構成L、Mをも充足する。

(4)検討2:ガス導入部の軸方向中間位置(C1)及び軸方向先端位置(C2)と、インナーカバー41のインナ導入開口部の軸方向基端位置(D1)との位置関係について(構成H、K)
甲第5号証のガスセンサ1のガスセンサ素子2及び甲12(当審注:甲14の誤記と認める。)のガスセンサ10のセンサ素子21には、ガス導入部の位置が明示されていないことから、ガスセンサ1(ガスセンサ素子2)が構成H及び構成Kを充足しているか否かについては不明である。
しかしながら、ガスセンサ素子2のガス導入部を先端部のどこに配置するかは、当業者が行う設計事項であり、構成Xを充足する甲5の図2?6のガスセンサ1または甲5に甲14を適用したガスセンサにおいて、構成Xの被測定ガスG2の流れを考慮して、ガスセンサ素子2の先端部に設けるガス導入部の配置を、構成Hあるいは構成Kに相当する配置とすることは、当業者が適宜なし得たことである。」(意見書第62?64頁)

なお、上記(3)a)は新無効理由14-2に、上記(3)b)は新無効理由14-3に、上記(3)c)は新無効理由14-4に対応する。

(イ)相違点12について、
まず、相違点12について検討する。

甲8に記載された技術的事項(上記第7 2(2)を参照。)によれば、ガスセンサ素子2の先端側には、被測定ガスを被測定ガス室210へと導入するための多孔質拡散抵抗層21が一部露出して配設されており、インナカバーのガス導入開口部が、前記ガスセンサ素子2の前記多孔質拡散抵抗層21に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが理解できる。
そして、甲8に記載された技術的事項の「多孔質拡散抵抗層21」及び「ガス導入開口部」は、それぞれ、本件発明1の「ガス導入部(271)」及び「インナ導入開口部(42)」に相当するから、上記甲8に記載された技術的事項は、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられ、インナ導入開口部が、上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが示されているといえる。
また、甲4に記載された技術的事項1(上記第7 6(2)アを参照。)は、「ガスセンサ素子100Aは、先端部105にNOxセンサ部30・・・を有し、NOxセンサ部30の内部に被測定ガスを導入するためのガス拡散孔8aがガスセンサ素子100Aの側面に開口しており、・・・内側ガス導入孔143aから内側ガス排出孔143bへの被測定ガスの流路上にガス拡散孔8aが存在する」ことを備えており、甲17に記載された技術的事項(上記第7 8(2)を参照。)は、「検知対象ガス中の特定ガスを検知するための検知部を先端側に有する検知素子と、・・・検知部112には、ガス導入部111が設けられており、・・・内側プロテクタ200の内側孔203を介して第2空間20に導入された排気ガスは、検知部112の周囲を通って、ガスセンサ100の先端側に移動し、ガス成分の少なくとも一部は、検知素子110の検知部112のガス導入部111から検知素子110の内部に導入され」ることを備えている。
そして、甲4に記載された技術的事項1の「ガス拡散孔8a」及び「内側ガス導入孔143a」、並びに甲17に記載された技術的事項の「ガス導入部111」及び「内側孔203」は、いずれもそれぞれ、本件発明1の「ガス導入部(271)」及び「インナ導入開口部(42)」に相当するから、上記甲4に記載された技術的事項1、及び上記甲17に記載された技術的事項は、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられ、インナ導入開口部が、上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが示されているといえる。
してみると、ガスセンサにおいて、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられ、インナ導入開口部が、上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることは、本件特許の優先日前において技術常識であったといえる。
よって、甲5実施例2発明において、上記技術常識を踏まえると、上記相違点12に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易になし得ることである。

(ウ)相違点13について
次に、相違点13について検討する。

a 上記(イ)に示したとおり、甲5実施例2発明において、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けること(以下、「ガスセンサ素子2の先端部に『ガス導入部』を設けた甲5実施例2発明」という。)は容易になし得ると判断したことから、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2発明において、ガス導入部の配置を決める際、請求人が提示する証拠に基づいて構成Hの配置が容易になし得るか、まず、以下に検討する。

(a)甲4には、ガスセンサ素子100Aのガス拡散孔8aと、プロテクタ141の内側ガス導入孔143aとの軸方向位置関係について、甲4に記載された技術的事項1(上記第7 6(2)アを参照。)と、甲4に記載された技術的事項2(上記第7 6(2)イを参照。)とにそれぞれ記載されている。

甲4に記載された技術的事項1は、「ガス拡散孔8a」を、「内側ガス導入孔143a」より軸線方向先端側に設けられた「内側ガス排出孔143bとアンモニアセンサ部42との軸線方向の間の」「被測定ガスの流路上」「の位置R2に配置」するもの、すなわち、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがマイナスのものであるから、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2発明において、対象ガスの流れのどの位置に、ガス導入部を配置するかを決める際、甲4に記載された技術的事項1に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。
また、甲4に記載された技術的事項2は、「ガス拡散孔8aが、被測定ガスの流路上に存在しない、内側ガス導入孔143aよりも後端側に配置されている」ことから、一見、構成Hの配置を備えているようにみえるが、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲14発明は、対象ガスの流れの中に「ガス導入部」を配置するものであり、一方、甲4に記載された技術的事項2は、「ガス拡散孔8a」を「被測定ガスの流路上に存在しない」位置に配置するものである。したがって、甲4に記載された技術的事項2は、センサ素子21の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2発明に適用するための、対象ガスの流れに「ガス導入部」を配置するいう前提を欠くものであるから、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2発明が、甲4に記載された技術的事項2の適用を排斥しているといえる。
そして、甲4に記載された技術的事項2は、「内側ガス導入孔143aに近いアンモニアセンサ部42に被測定ガスが最初に接触し、これにより、内側ガス導入孔143aから導入された被測定ガスが昇温されたNOxセンサ部30の近傍を通過した後にアンモニアセンサ部42に到達することが無く、アンモニアが熱分解する前の新鮮な被測定ガスをアンモニアセンサ部42に到達させることができ」る「マルチガスセンサ200A」、すなわち、流路上の最短距離に「アンモニアセンサ部42」を配置するために、NOxセンサ部30の「ガス拡散孔8a」を流路外に配置しているが、アンモニアセンサ部を有しない、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2発明において、甲4に記載された技術的事項2を採用する動機付けもない。

(b)甲5には、ガスセンサ素子2の被測定ガス電極22と、インナカバー41の内側開口部411との軸方向位置関係について、甲5の実施例9に記載された技術的事項(第7 1(5)を参照。)に記載されている。なお、甲5の実施例9に記載された技術的事項「被測定ガス側電極22」は、ガス検出部の一部であることから、「ガス導入部」に対応するものとした上で検討する。

甲5の実施例9に記載された技術的事項は、「内側開口部411は、ガスセンサ素子2に設けた被測定ガス側電極22の基端部221から該被測定ガス側電極22の軸方向長さLの半分の位置までの間の位置に形成されて」いるもの、すなわち、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがマイナスのものであるから、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2発明において、対象ガスの流れのどの位置に、ガス導入部(被測定ガス側電極22)を配置するかを決める際、甲5の実施例9に記載された技術的事項に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。

(c)甲17には、検知素子110の検知部112のガス導入部111と、内側プロテクタ200の内側孔203との軸方向位置関係について、甲17に記載された技術的事項(第7 8(2)を参照。)に記載されている。

甲17に記載された技術的事項は、「軸線AX方向において、複数の内側孔203のそれぞれの最も先端側の位置D(図2参照)は、・・・検知部112のガス導入部111の最も後端側の部位の位置C(図2参照)よりも後端側にあ」るもの、すなわち、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがマイナスのものであるから、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2発明において、対象ガスの流れのどの位置に、ガス導入部を配置するかを決める際、甲17に記載された技術的事項に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。
また、甲17に記載された技術的事項は、「軸線AX方向において、複数の内側孔203のそれぞれの最も先端側の位置D(図2参照)は、・・・(なお、位置Dは、位置Cよりも先端側にあってもよく)」とあるので、この場合、「検知部112」と「ガス導入部111」の軸線AX方向がほぼ同じ位置関係にあるとすると、「ガス導入部111は、例えば、軸線AX方向の長さが2.5mm」であり、「第1内側孔204のそれぞれは、例えば、直径2.0mmの円状の形状を有し」ているから、軸方向距離aがプラスである構成Hの配置するためには、「軸線AX方向において、複数の内側孔203のそれぞれの最も先端側の位置D(図2参照)は、検知部112の最も先端側の位置(より具体的には、検知電極117と基準電極118とが対極する位置の最も先端側の位置)B(図2参照)よりも後端側にあ」るという要件は満たせなくなる。よって、この場合を考えてみても、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2発明において、「被測定ガスの流れ」の中で軸方向距離aがプラスである構成Hの配置は採用されない。

(d)そして、請求人が提示するその他の証拠の中に、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について記載したものは見当たらない。

(e)以上(a)?(d)の検討を踏まえると、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2発明において、甲4に記載された技術的事項1、2、甲5の実施例9に記載された技術的事項、及び甲17に記載された技術的事項を含め、請求人が提示する証拠に基づいて、「被測定ガスの流れ」の中で構成Hの配置にすることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。

b さらに、上記1(3)イに示したとおり、構成Hは、ガスセンサにおいて、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気される被測定ガスが混合されにくい、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を定めたものであるところ、請求人が提示する証拠の中に、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気される被測定ガスが混合されにくくすべく、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を定めたものも見当たらない。

c 以上a及びbより、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けた甲5実施例2発明において、上記相違点13に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことでない。

(2)小括
以上のとおり、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、相違点14及び15を検討するまでもなく、甲5実施例2発明及び甲14に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことから、新無効理由14-4には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、新無効理由14-4により無効とすべきものではない。

23 新無効理由14-5(進歩性違反)について

(1)対比・判断
ア 対比
本件発明1と甲5実施例2、3発明(上記第7 1(4)を参照。)とを対比する。

(ア)構成P、構成J
甲5実施例2、3発明の「自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置するガスセンサ1」は、「自動車エンジン」が多気筒の内燃機関であるから、本件発明1の「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサ」に相当する。

(イ)構成A
甲5実施例2、3発明の「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子2」は、本件発明1の「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)」に相当する。

(ウ)構成B
甲5実施例2、3発明の「該ガスセンサ素子2を内側に挿通するハウジング3」は、本件発明1の「該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)」に相当する。

(エ)構成C
甲5実施例2、3発明の「該ハウジング3の先端側に固定された素子カバー4」は、本件発明1の「該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)」に相当する。

(オ)構成E、構成E1
甲5実施例2、3発明の「素子カバー4」が有する「インナーカバー41」は、本件発明1の「上記素子カバー(3)」が有する「上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)」に相当する。

(カ)構成E、構成E2
甲5実施例2、3発明の「素子カバー4」が有する「該インナーカバー41の外周に配置されたアウターカバー42」は、本件発明1の「上記素子カバー(3)」が有する「該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)」に相当する。

(キ)構成G、構成G1
甲5実施例2、3発明は、「被測定ガスの一部(G2)が、更に内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され、ガスセンサ素子2に到達する」ことから、甲5実施例2、3発明の「インナーカバー41」に設けられる「内側開口部411」と、本件発明1の「上記インナカバー(4)」に設けられる「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」とは、「上記インナカバー(4)」に設けられる「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」の点で共通する。

(ク)構成G、構成G2
甲5実施例2、3発明の「インナーカバー41」に形成する「素子カバー4の外部に開口する先端開口部412」は、本件発明1の「上記インナカバー(4)」に設けられる「インナ排出開口部(43)」に相当する。

(ケ)構成N
甲5実施例2、3発明の「外側開口部421よりも先端側となる位置に内側開口部411を設けてな」ることは、本件発明1の「上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあ」ることに相当する。

(コ)構成X
甲5実施例2、3発明の「先端開口部412」は、「先端部に形成して」いることから、「内側開口部411」より先端側となる位置にあることが理解できる。また、甲5実施例2、3発明の「ルーバー形状の内側開口部411」は、「インナーカバー41」に設けられた「凹部417の基端を開口させ」ている。よって、甲5実施例2、3発明は、「内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され」た「被測定ガスの一部(G2)」が、まず、基端側へ向かって流れ、その後、「先端開口部412」に向けて流れることは明らかである。
したがって、甲5実施例2、3発明は、本件発明1の「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている」ことを備えていると認められる。

イ 一致点・相違点
よって、本件発明1と甲5実施例2、3発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサであって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)と、
該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)と、
該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)とを備え、
上記素子カバー(3)は、上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)と、該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)とを有し、
該アウタカバー(5)には、該アウタカバー(5)内に被測定ガスを導入するためのアウタ導入開口部(52)が設けられており、
上記インナカバー(4)には、該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)と、インナ排出開口部(43)が設けられており、
上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている、ガスセンサ(1)。」

(相違点16:相違点1と同じ)
センサ素子(2)及びインナ導入開口部(42)について、本件発明1では、(構成D)「上記センサ素子(2)の先端部(201)には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部(271)が設けられ」、構成G1のインナ導入開口部(42)が、上記センサ素子(2)の「上記ガス導入部(271)」に到達させる被測定ガスを導入するためのものであるのに対し、甲5実施例2、3発明では、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けているかの特定がないため、内側開口部411が、上記ガスセンサ素子2の「上記ガス導入部」に到達させる被測定ガスを導入するためのものであるかも特定されない点。

(相違点17:相違点2と同じ)
センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について、本件発明1では、(構成H)「上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向中間位置(C1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあ」るのに対し、甲5実施例2、3発明では、この位置関係についての特定がない点。

(相違点18:相違点3と同じ)
センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について、本件発明1では、(構成I)「上記センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向先端側(X1)にあ」るのに対し、甲5実施例2、3発明では、この位置関係についての特定がない点。

ウ 判断

(ア)請求人の主張について
請求人は、「

c)そこで、甲第5号証の図4におけるインナーカバー41を、図5、6のルーバー部を有するインナ-カバー41に代えた実施例3のガスセンサ1(以下、I、IIのガスセンサ)において、あるいは、甲第5号証の図4の実施例2に係るガスセンサ1(以下、IIIのガスセンサ)において、ガスセンサ素子2として、甲第8号証の図1、図4に記載の(多孔質拡散抵抗層21を有する)ガスセンサ素子2を用いることは容易である。
d)すると、上記I、II及びIIIのガスセンサには、上掲の『拡散抵抗層及び補助線を加えた甲5の図4』に示すように、青四角で示す多孔質拡散抵抗層21(本件発明の1のガス導入孔)が現れる。そして、この多孔質拡散抵抗層21の軸方向中間位置C1は、青線で示す位置となる。よって、ガスセンサ素子2の多孔質拡散抵抗層21(ガス導入部)の軸方向中間位置C1(青線)は、インナーカバー41(インナカバー)の内側開口部411(インナ導入開口部)の軸方向基端位置D1(赤線)よりも軸方向基端側(軸方向基端側X2:図中上方)にあるものとなり、構成D、G’、Hを充足する。(当審注:審決書では、青四角は黒四角、青線及び赤線は黒線で示す。)
・・・
f)しかも、上記7-6-2-3(3)欄で説明したのと同様に、
・甲5の実施例3のガスセンサ(Iのガスセンサ)はルーバー部を有しているので、構成Xをも充足する。
・甲5の実施例3のガスセンサ(IIのガスセンサ)は、甲第14号証の図1(a)に記載の矢印のように、被測定ガスの流れを顕在化させた場合に、甲第14号証と同じく、構成Xに記載の形態の流れとなる。また構成Mも充足する。もしくは、構成Mは周知技術(あるいは甲第6号証,甲第7号証に記載の技術)を用いてルーバー部を形成することを規定するに過ぎず、当業者が容易に採用できるものである。
・甲5の実施例2のガスセンサ1において、実施例3(図5,図6)のようにルーバー部を設けるにあたり、折り曲げ型の甲14のルーバー部を採用したガスセンサ(IIIのガスセンサ)も、構成Xに記載の形態の流れとなる。しかも、構成Mをも充足する。
即ち、I、II、IIIのガスセンサは、本件再訂正発明の構成P、A?J、N、X、L、Mのすべてを満たしている。
I:甲第5号証の図4、図5及び図6で示される実施例3のガスセンサ1において、甲第8号証の図1のガスセンサ素子2を用いたガスセンサ
II:更に甲第14号証を加えたガスセンサ
III:甲第5号証の図4で示される実施例2のガスセンサ1において、甲第8号証の図1のガスセンサ素子2を用い、更に甲第14号証のルーバー部を用いたガスセンサ」(意見書第66?68頁)と主張する。

なお、上記Iは新無効理由7-3、8-2、9-3、10-3に、上記IIは新無効理由14-5に、上記IIIは新無効理由14-6に対応する。

(イ)相違点16について
まず、相違点16について検討する。

甲8に記載された技術的事項(上記第7 2(2)を参照。)によれば、ガスセンサ素子2の先端側には、被測定ガスを被測定ガス室210へと導入するための多孔質拡散抵抗層21が一部露出して配設されており、インナカバーのガス導入開口部が、前記ガスセンサ素子2の前記多孔質拡散抵抗層21に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが理解できる。
そして、甲8に記載された技術的事項の「多孔質拡散抵抗層21」及び「ガス導入開口部」は、それぞれ、本件発明1の「ガス導入部(271)」及び「インナ導入開口部(42)」に相当するから、上記甲8に記載された技術的事項は、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられ、インナ導入開口部が、上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが示されているといえる。
よって、甲5実施例2、3発明において、甲8に記載された技術的事項を適用し、上記相違点16に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易になし得ることである。

(ウ)相違点17について
次に、上記相違点17について検討する。

a 甲8に記載された技術的事項は、上記相違点17に係る本件発明1の構成を備えておらず、甲5実施例2、3発明において、甲8に記載された技術的事項を適用しても、上記相違点17に係る本件発明1の構成は得られない。

b 請求人は、要するに、上掲の<拡散抵抗層及び補助線を加えた甲5の図4>を用いて、甲第5号証の図4のガスセンサ1において、そのガスセンサ素子2を甲第8号証の図1のガスセンサ素子2に代えたガスセンサは、本件発明1の構成Hを満たすと主張する。
しかしながら、甲5の図4は、実施例2において、実施例1よりも、「内側開口部411が外側開口部421からより離れた位置に配される」ことで、「外側開口部421から導入された被測定ガスと共に流れる水滴が、内側開口部411からインナーカバー41の内部に浸入することをより防ぐことができる」(【0051】)ことを説明するためのものであるから、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を説明するための問題意識をもって正確に記載されていると考えることはできない。そもそも特許願書添付の図面は、当該発明の技術内容を説明する便宜のために描かれるものであるから、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。よって、甲5の図4において、補助線を加えてまでする「ガスセンサ素子2の軸方向先端位置は、インナカバー41の内側開口部411の軸方向基端位置よりも軸方向先端側にある」とする主張は認められない。
そうなると、甲5の実施例2は、甲5の図4から、ガスセンサ素子2の軸方向先端位置は、インナカバー41の内側開口部411の軸方向基端位置よりも、「少しだけ」軸方向先端側にあるといえないので、甲5実施例2、3発明において、ガスセンサ素子2の先端側のどこかの位置に、甲8の多孔質拡散抵抗層21を加えたとしても、構成Hの配置が得られないことは明らかである。
なお、甲5の実施例1又は3であれば、甲5の図1(甲5-ウ)から、ガスセンサ素子2の軸方向先端位置は、インナカバー41の内側開口部411の軸方向基端位置よりも軸方向先端側にあることが見て取れるが(上記第7 1(3)を参照。)、ガスセンサ素子2の軸方向先端位置は、インナカバー41の内側開口部411の軸方向基端位置よりも、「少しだけ」軸方向先端側にあることまでは見て取れないので、甲5の図1のガスセンサ素子2の先端側のどこかの位置に、甲8の多孔質拡散抵抗層21を加えたとしても、構成Hの配置は得られない。

c そして、上記1(3)イに示したとおり、構成Hは、ガスセンサにおいて、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気される被測定ガスが混合されにくい、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を定めたものであるところ、請求人が提示する証拠の中に、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気される被測定ガスが混合されにくくすべく、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を定めたものは見当たらない。

d 以上a?cより、甲5実施例2、3発明において、甲8に記載された技術的事項を適用して、上記相違点17に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことでない。

(2)小括
以上のとおり、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、相違点18を検討するまでもなく、甲5実施例2、3発明、甲8及び甲14に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことから、新無効理由14-5には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、新無効理由14-5により無効とすべきものではない。

24 新無効理由14-6(進歩性違反)について

(1)対比・判断
ア 対比
本件発明1と甲5実施例2発明(上記第7 1(2)を参照。)とを対比する。

(ア)構成P、構成J
甲5実施例2発明の「自動車エンジン等の各種車両用内燃機関の排気管に設置するガスセンサ1」は、「自動車エンジン」が多気筒の内燃機関であるから、本件発明1の「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサ」に相当する。

(イ)構成A
甲5実施例2発明の「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサ素子2」は、本件発明1の「被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)」に相当する。

(ウ)構成B
甲5実施例2発明の「該ガスセンサ素子2を内側に挿通するハウジング3」は、本件発明1の「該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)」に相当する。

(エ)構成C
甲5実施例2発明の「該ハウジング3の先端側に固定された素子カバー4」は、本件発明1の「該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)」に相当する。

(オ)構成E、構成E1
甲5実施例2発明の「素子カバー4」が有する「インナーカバー41」は、本件発明1の「上記素子カバー(3)」が有する「上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)」に相当する。

(カ)構成E、構成E2
甲5実施例2発明の「素子カバー4」が有する「該インナーカバー41の外周に配置されたアウターカバー42」は、本件発明1の「上記素子カバー(3)」が有する「該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)」に相当する。

(キ)構成G、構成G1
甲5実施例2発明は、「被測定ガスの一部(G2)が、更に内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され、ガスセンサ素子2に到達する」ことから、甲5実施例2発明の「インナーカバー41」に設けられる「内側開口部411」と、本件発明1の「上記インナカバー(4)」に設けられる「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」とは、「上記インナカバー(4)」に設けられる「該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)」の点で共通する。

(ク)構成G、構成G2
甲5実施例2発明の「インナーカバー41」に形成する「素子カバー4の外部に開口する先端開口部412」は、本件発明1の「上記インナカバー(4)」に設けられる「インナ排出開口部(43)」に相当する。

(ケ)構成N
甲5実施例2発明の「外側開口部421よりも先端側となる位置に内側開口部411を設けてな」ることは、本件発明1の「上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあ」ることに相当する。

(コ)構成X
甲5実施例2発明の「先端開口部412」は、「先端部に形成して」いることから、「内側開口部411」より先端側となる位置にあることが理解できる。よって、甲5実施例2発明は、「内側開口部411からインナーカバー41の内部に導入され」た「被測定ガスの一部(G2)」が、「先端開口部412」に向けて流れることは明らかである。
したがって、甲5実施例2発明は、本件発明1の「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている」ことのうち、「上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている」ことを備えていると認められる。

イ 一致点・相違点
よって、本件発明1と甲5実施例2発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサであって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)と、
該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)と、
該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)とを備え、
上記素子カバー(3)は、上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)と、該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)とを有し、
該アウタカバー(5)には、該アウタカバー(5)内に被測定ガスを導入するためのアウタ導入開口部(52)が設けられており、
上記インナカバー(4)には、該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)と、インナ排出開口部(43)が設けられており、
上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されている、ガスセンサ(1)。」

(相違点19:相違点12と同じ)
センサ素子(2)及びインナ導入開口部(42)について、本件発明1では、(構成D)「上記センサ素子(2)の先端部(201)には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部(271)が設けられ」、構成G1のインナ導入開口部(42)が、上記センサ素子(2)の「上記ガス導入部(271)」に到達させる被測定ガスを導入するためのものであるのに対し、甲5実施例2発明では、ガスセンサ素子2の先端部に「ガス導入部」を設けているかの特定がないため、内側開口部411が、上記ガスセンサ素子2の「上記ガス導入部」に到達させる被測定ガスを導入するためのものであるかも特定されない点。

(相違点20:相違点13と同じ)
センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について、本件発明1では、(構成H)「上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向中間位置(C1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあ」るのに対し、甲5実施例2発明では、この位置関係についての特定がない点。

(相違点21:相違点14と同じ)
センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係について、本件発明1では、(構成I)「上記センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向先端側(X1)にあ」るのに対し、甲5実施例2発明では、この位置関係についての特定がない点。

(相違点22:相違点15と同じ)
被測定ガスの流れについて、本件発明1では、インナ導入開口部(42)からインナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、(構成X)「まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ」るように構成されているのに対し、甲5実施例2発明では、この流れについての特定がない点。

ウ 判断

(ア)請求人の主張について
請求人は、「

c)そこで、甲第5号証の図4におけるインナーカバー41を、図5、6のルーバー部を有するインナ-カバー41に代えた実施例3のガスセンサ1(以下、I、IIのガスセンサ)において、あるいは、甲第5号証の図4の実施例2に係るガスセンサ1(以下、IIIのガスセンサ)において、ガスセンサ素子2として、甲第8号証の図1、図4に記載の(多孔質拡散抵抗層21を有する)ガスセンサ素子2を用いることは容易である。
d)すると、上記I、II及びIIIのガスセンサには、上掲の『拡散抵抗層及び補助線を加えた甲5の図4』に示すように、青四角で示す多孔質拡散抵抗層21(本件発明の1のガス導入孔)が現れる。そして、この多孔質拡散抵抗層21の軸方向中間位置C1は、青線で示す位置となる。よって、ガスセンサ素子2の多孔質拡散抵抗層21(ガス導入部)の軸方向中間位置C1(青線)は、インナーカバー41(インナカバー)の内側開口部411(インナ導入開口部)の軸方向基端位置D1(赤線)よりも軸方向基端側(軸方向基端側X2:図中上方)にあるものとなり、構成D、G’、Hを充足する。(当審注:審決書では、青四角は黒四角、青線及び赤線は黒線で示す。)
・・・
f)しかも、上記7-6-2-3(3)欄で説明したのと同様に、
・甲5の実施例3のガスセンサ(Iのガスセンサ)はルーバー部を有しているので、構成Xをも充足する。
・甲5の実施例3のガスセンサ(IIのガスセンサ)は、甲第14号証の図1(a)に記載の矢印のように、被測定ガスの流れを顕在化させた場合に、甲第14号証と同じく、構成Xに記載の形態の流れとなる。また構成Mも充足する。もしくは、構成Mは周知技術(あるいは甲第6号証,甲第7号証に記載の技術)を用いてルーバー部を形成することを規定するに過ぎず、当業者が容易に採用できるものである。
・甲5の実施例2のガスセンサ1において、実施例3(図5,図6)のようにルーバー部を設けるにあたり、折り曲げ型の甲14のルーバー部を採用したガスセンサ(IIIのガスセンサ)も、構成Xに記載の形態の流れとなる。しかも、構成Mをも充足する。
即ち、I、II、IIIのガスセンサは、本件再訂正発明の構成P、A?J、N、X、L、Mのすべてを満たしている。
I:甲第5号証の図4、図5及び図6で示される実施例3のガスセンサ1において、甲第8号証の図1のガスセンサ素子2を用いたガスセンサ
II:更に甲第14号証を加えたガスセンサ
III:甲第5号証の図4で示される実施例2のガスセンサ1において、甲第8号証の図1のガスセンサ素子2を用い、更に甲第14号証のルーバー部を用いたガスセンサ」(意見書第66?68頁)と主張する。

なお、上記Iは新無効理由7-3、8-2、9-3、10-3に、上記IIは新無効理由14-5に、上記IIIは新無効理由14-6に対応する。

(イ)相違点19について
まず、相違点19について検討する。

甲8に記載された技術的事項(上記第7 2(2)を参照。)によれば、ガスセンサ素子2の先端側には、被測定ガスを被測定ガス室210へと導入するための多孔質拡散抵抗層21が一部露出して配設されており、インナカバーのガス導入開口部が、前記ガスセンサ素子2の前記多孔質拡散抵抗層21に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが理解できる。
そして、甲8に記載された技術的事項の「多孔質拡散抵抗層21」及び「ガス導入開口部」は、それぞれ、本件発明1の「ガス導入部(271)」及び「インナ導入開口部(42)」に相当するから、上記甲8に記載された技術的事項は、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられ、インナ導入開口部が、上記センサ素子の上記ガス導入部に到達させる被測定ガスを導入するためのものであることが示されているといえる。
よって、甲5実施例2発明において、甲8に記載された技術的事項を適用し、上記相違点19に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易になし得ることである。

(ウ)相違点20について
次に、上記相違点20について検討する。

a 甲8に記載された技術的事項は、上記相違点20に係る本件発明1の構成を備えておらず、甲5実施例2発明において、甲8に記載された技術的事項を適用しても、上記相違点20に係る本件発明1の構成は得られない。

b 請求人は、要するに、上掲の<拡散抵抗層及び補助線を加えた甲5の図4>を用いて、甲第5号証の図4のガスセンサ1において、そのガスセンサ素子2を甲第8号証の図1のガスセンサ素子2に代えたガスセンサは、本件発明1の構成Hを満たすと主張する。
しかしながら、甲5の図4は、実施例2において、実施例1よりも、「内側開口部411が外側開口部421からより離れた位置に配される」ことで、「外側開口部421から導入された被測定ガスと共に流れる水滴が、内側開口部411からインナーカバー41の内部に浸入することをより防ぐことができる」(【0051】)ことを説明するためのものであるから、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を説明するための問題意識をもって正確に記載されていると考えることはできない。そもそも特許願書添付の図面は、当該発明の技術内容を説明する便宜のために描かれるものであるから、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。よって、甲5の図4において、補助線を加えてまでする「ガスセンサ素子2の軸方向先端位置は、インナカバー41の内側開口部411の軸方向基端位置よりも軸方向先端側にある」とする主張は認められない。
そうなると、甲5の実施例2は、甲5の図4から、ガスセンサ素子2の軸方向先端位置は、インナカバー41の内側開口部411の軸方向基端位置よりも、「少しだけ」軸方向先端側にあるといえないので、甲5実施例2発明において、ガスセンサ素子2の先端側のどこかの位置に、甲8の多孔質拡散抵抗層21を加えたとしても、構成Hの配置が得られないことは明らかである。
なお、甲5の実施例1又は3であれば、甲5の図1(甲5-ウ)から、ガスセンサ素子2の軸方向先端位置は、インナカバー41の内側開口部411の軸方向基端位置よりも軸方向先端側にあることが見て取れるが(上記第7 1(3)を参照。)、ガスセンサ素子2の軸方向先端位置は、インナカバー41の内側開口部411の軸方向基端位置よりも、「少しだけ」軸方向先端側にあることまでは見て取れないので、甲5の図1のガスセンサ素子2の先端側のどこかの位置に、甲8の多孔質拡散抵抗層21を加えたとしても、構成Hの配置は得られない。

c そして、上記1(3)イに示したとおり、構成Hは、ガスセンサにおいて、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気される被測定ガスが混合されにくい、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を定めたものであるところ、請求人が提示する証拠の中に、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気される被測定ガスが混合されにくくすべく、センサ素子(2)のガス導入部(271)と、インナカバー(4)のインナ導入開口部(42)との軸方向位置関係を定めたものは見当たらない。

d 以上a?cより、甲5実施例2発明において、甲8に記載された技術的事項を適用して、上記相違点20に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことでない。

(2)小括
以上のとおり、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、相違点21及び22を検討するまでもなく、甲5実施例2発明、甲8及び甲14に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことから、新無効理由14-6には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、新無効理由14-6により無効とすべきものではない。

25 当審無効理由1(サポート要件違反)について
本件発明1?4は、本件訂正により、構成X及び構成Hを備えたガスセンサとなったことから、当審無効理由1は解消した。
よって、当審無効理由1には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号に該当せず、当審無効理由1により無効とすべきものではない。

26 当審無効理由2(進歩性違反)について
上記20?22に示した同様の理由により、また、本件発明によってもたらされる効果は、甲5に記載された事項から当業者が予測し得る程度のものでないことから、本件発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2?4は、甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、当審無効理由2には、理由がなく、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、当審無効理由2により無効とすべきものではない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正を認める。
本件発明1?4の特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当せず、請求人の主張する無効理由及び当審で通知した無効理由によって無効とすべきものではない。
本件発明1?4の特許は、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、同法第123条第1項第4号に該当せず、請求人の主張する無効理由及び当審で通知した無効理由によって無効とすべきものではない。
請求項5に係る発明は、本件訂正により削除されたので、特許法第135条の規定により、請求項5についての審判請求を却下する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ガスセンサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の内燃機関の排気管等に設けられ、被測定ガスである排ガス中の特定ガス濃度を検出するためのガスセンサが知られている。
ガスセンサとしては、例えば、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子と、センサ素子を内側に挿通して保持するハウジングと、ハウジングの先端側に配設された素子カバーとを備えたものがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、センサ素子の被水防止等のため、ガス導入部が設けられたセンサ素子の先端部を覆うインナカバーと、インナカバーの外側に配設されたアウタカバーとからなる二重構造の素子カバーを備えたガスセンサが開示されている。
このガスセンサにおいて、アウタカバーには、アウタカバー内に被測定ガスを導入するためのアウタ導入開口部が設けられている。また、インナカバーには、インナカバー内に被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-25076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、多気筒の内燃機関では、気筒間の燃料噴射量のばらつき等により、気筒間において空燃比のばらつき(気筒間インバランス)が生じる。近年、さらなる排ガス規制、燃費規制により、内燃機関の気筒間インバランスをガスセンサにおいてより精度良く検出し、内燃機関の各気筒の空燃比制御を行うことが求められている。したがって、気筒間インバランスの指標となるガスセンサの出力値(空燃比:A/F)の変化をより正確に把握するため、各気筒の空燃比変化に伴うガスセンサの応答性をさらに高めることが必要となる。具体的には、従来のA/F変化に対する応答性とは異なり、特にセンサ素子を保護する素子カバーにおいては、センサ素子のガス検出部(被測定ガスを検出するための部分)により多くの被測定ガスを短距離で迅速に到達させることに加え、センサ素子の検出部に到達するまでの間に、各気筒から順次排気されるA/Fの異なる被測定ガスが混合されにくくすることが不可欠となる。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のガスセンサでは、主にセンサ素子の被水を防止することに重点が置かれていたため、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を考えた場合には、気筒間インバランスを検出する応答性が十分でない。この要因としては、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスがセンサ素子のガス導入部に到達するまでの距離が長いことなどが考えられる。この距離が長いと、時間的に前後して排気され、センサ素子のガス検出部に前後して到達する被測定ガスが混ざりやすくなってしまう。この被測定ガスの混合が生じると、いずれかの気筒から排気される被測定ガスの空燃比がリッチ側に変動し、他のいずれかの気筒から排気される被測定ガスの空燃比がリーン側に変動していたとしても、これらの被測定ガスが混合された状態の空燃比を検出することになってしまう。その結果、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度が低下し、気筒間インバランスを検出するためのガスセンサの応答性が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を高めることができ、気筒間インバランスを検出する応答性に優れたガスセンサを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の態様は、多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサであって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)と、
該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)と、
該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)とを備え、
上記センサ素子(2)の先端部(201)には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部(271)が設けられており、
上記素子カバー(3)は、上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)と、該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)とを有し、
該アウタカバー(5)には、該アウタカバー(5)内に被測定ガスを導入するためのアウタ導入開口部(52)が設けられており、
上記インナカバー(4)には、該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)と、インナ排出開口部(43)が設けられており、
上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向中間位置(C1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
上記センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向先端側(X1)にあり、
上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されていることを特徴とするガスセンサにある。
【発明の効果】
【0009】
上記ガスセンサにおいて、センサ素子の先端部には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部が設けられている。また、センサ素子の先端部を覆うインナカバーには、インナカバー内に被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部が設けられている。そして、センサ素子のガス導入部の軸方向中間位置は、インナカバーのインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向基端側にある。
【0010】
すなわち、アウタ導入開口部からアウタカバー内(アウタカバーとインナカバーとの間)に導入された被測定ガスは、インナ導入開口部からインナカバー内に導入され、センサ素子のガス導入部に到達する。
本発明者らは、このような被測定ガスの流れにおいて、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスがセンサ素子のガス導入部に到達するまでの距離が、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度、及び気筒間インバランスを検出する応答性に大きく寄与することを見出した。
【0011】
そして、本発明者らは、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスがセンサ素子のガス導入部に到達するまでの距離を短くするためには、被測定ガスがインナカバー内に導入される部分であるインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも、被測定ガスがセンサ素子の内部に導入される部分であるガス導入部の軸方向中間位置を、軸方向基端側とすることが非常に有効であることを見出した。
【0012】
これにより、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスをできるだけ短距離で迅速にセンサ素子のガス導入部に到達させることができる。また、被測定ガスを他のインナ導入開口部から流れ込んだ被測定ガスと混合させることなく、センサ素子のガス導入部に到達させることができる。そして、内燃機関の各気筒の被測定ガスを順にセンサ素子のガス導入部に到達させ、センサ素子のガス導入部に到達するまでの間に各気筒の被測定ガスが混合されることを抑制することができる。
【0013】
その結果、ガスセンサの応答性を高めることができ、内燃機関の気筒間インバランスの指標となるガスセンサの出力値(例えば、空燃比:A/F等)の変化をより正確に把握することができる。そして、ガスセンサにおける内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を向上させることができる。
【0014】
このように、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を高めることができ、気筒間インバランスを検出する応答性に優れたガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における、ガスセンサ全体の構造を示す断面説明図。
【図2】実施例1における、ガスセンサの素子カバーの構造を示す断面説明図。
【図3】実施例1における、インナカバーのインナ導入開口部及びルーバー部を示す断面説明図。
【図4】実施例1における、センサ素子の先端部の構造を示す断面説明図。
【図5】実施例1における、ルーバー部をインナ導入開口部と同一平面上に投影した状態を示す説明図。
【図6】実施例1における、インナ導入開口部と同一平面上に投影したルーバー部を示す説明図。
【図7】実施例1における、インナ導入開口部からルーバー部を介してインナカバー内に流れ込む被測定ガスの流れを示す説明図。
【図8】実施例1における、多気筒の内燃機関における被測定ガスの流れを示す説明図。
【図9】実施例1における、横軸に時間をとり、縦軸に被測定ガスのガス濃度をとって、ガス濃度の時間変化を示すグラフ。
【図10】実施例1における、インナ導入開口部と同一平面上に投影した別例のルーバー部を示す説明図。
【図11】実施例1における、インナ導入開口部から別例のルーバー部を介してインナカバー内に流れ込む被測定ガスの流れを示す説明図。
【図12】実施例2における、ガスセンサの素子カバーの構造の一例を示す断面説明図。
【図13】実施例3における、ガスセンサを取り付けた内燃機関の排気管を示す説明図。
【図14】実施例3における、クランク角及びA/Fの時間ごとの変化を示すグラフ。
【図15】実施例3における、インナ導入開口部の軸方向基端位置とガス導入部の軸方向中間位置との間の軸方向距離aとインバランス応答値比との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記ガスセンサにおいて、「軸方向先端側」とは、ガスセンサの軸方向の一方側であり、ガスセンサが被測定ガスに晒される側をいう。また、「軸方向基端側」とは、その反対側をいう。
【0017】
また、上記センサ素子としては、例えば、被測定ガス側電極及び基準ガス側電極を設けた酸素イオン伝導性の固体電解質体、被測定ガス側電極に接触させる被測定ガスを透過させる多孔質の拡散抵抗層等を積層して構成された積層型のセンサ素子を用いることができる。上記構成の場合、センサ素子の外表面に拡散抵抗層の一部が露出しており、その露出した部分が上記ガス導入部となる。
【0018】
また、上記センサ素子の先端部には、上記ガス導入部が複数箇所設けられていてもよい。
また、上記センサ素子の外表面には、少なくとも拡散抵抗層の露出した部分(ガス導入部)を覆うように、被測定ガス中の被毒成分を捕獲するための保護層等が設けられていてもよい。
【0019】
また、上記アウタカバーには、上記アウタ導入開口部が周方向に並んで複数設けられていてもよい。
また、上記インナカバーには、上記インナ導入開口部が周方向に並んで複数設けられていてもよい。
また、上記インナ導入開口部が複数設けられている場合には、上記センサ素子の上記ガス導入部の軸方向中間位置は、そのすべてのインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向基端側にあることが好ましい。
【0020】
また、上記インナ導入開口部が複数設けられている場合には、そのすべてのインナ導入開口部の軸方向位置が同じであることが好ましい。また、インナ導入開口部からガス導入部までの径方向距離が同じであることが好ましい。
この場合には、インナ導入開口部からセンサ素子のガス導入部までの距離のばらつきを抑制し、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度、及び気筒間インバランスを検出する応答性をより一層高めることができる。
【0021】
また、上記インナカバーの上記インナ導入開口部の軸方向基端位置から上記センサ素子の上記ガス導入部の軸方向中間位置までの軸方向距離aは、例えば、0mm<a≦3.0mmとすることが好ましく、さらに0.7mm≦a≦3.0mmとすることがより好ましい。
この場合には、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスをより一層短距離で迅速にセンサ素子のガス導入部に到達させることができる。そして、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度、及び気筒間インバランスを検出する応答性をさらに高めることができる。
【0022】
上記センサ素子の上記ガス導入部の軸方向中間位置と上記インナカバーの上記インナ導入開口部の軸方向基端位置との間の軸方向距離aが0mm以下の場合、3.0mmを超える場合には、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスがセンサ素子のガス導入部に到達するまでの距離が長くなってしまうおそれがあり、ガスセンサの気筒間インバランスを検出する応答性の低下を招く場合がある。
【0023】
また、上記センサ素子の上記ガス導入部の軸方向先端位置は、上記インナカバーの上記インナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向基端側にあってもよい。
この場合には、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスをより一層短距離で迅速にセンサ素子のガス導入部に到達させることができる。そして、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度、及び気筒間インバランスを検出する応答性をさらに高めることができる。
また、センサ素子のガス導入部の軸方向先端位置は、インナ導入開口部が複数設けられている場合、そのすべてのインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向基端側にあることが好ましい。
【0024】
また、上記センサ素子の軸方向先端位置は、上記インナカバーの上記インナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向先端側にある。
これにより、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスをより一層短距離で迅速にセンサ素子のガス導入部に到達させることができる。そして、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度、及び気筒間インバランスを検出する応答性をさらに高めることができる。
また、センサ素子の軸方向先端位置は、インナ導入開口部が複数設けられている場合、そのすべてのインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向先端側にあることが好ましい。
【0025】
また、上記インナカバーには、上記インナ導入開口部の内側において、被測定ガスの流れを遮り、該被測定ガスが軸方向基端側へ流れるようにするルーバー部が設けられていてもよい。
この場合には、被測定ガスの多くを、インナ導入開口部からルーバー部を介してインナカバー内の軸方向基端側へ流れ込ませることができる。これにより、インナ導入開口部からインナカバー内に導入された被測定ガスがセンサ素子のガス導入部に到達するまでの距離をより適切に短くすることができる。
【0026】
また、上記ルーバー部は、上記インナ導入開口部の軸方向先端側の端部から上記インナカバーの内側に折り曲げられ、軸方向基端側に向かって形成されていてもよい。
この場合には、ルーバー部は、インナカバーから切り開くことによって、容易に形成することができる。
なお、上記ルーバー部が軸方向基端側に向かって形成されている状態には、ルーバー部がインナ導入開口部の軸方向先端側の端部から軸方向基端側へ向けて、軸方向に平行に伸びる状態、又はルーバー部がインナ導入開口部の軸方向先端側の端部から軸方向基端側へ向けて、軸方向に傾斜して伸びる状態がある。
【0027】
また、上記インナカバーにおける上記インナ導入開口部よりも軸方向基端側の部分と上記ルーバー部との間の最短距離であるルーバー開度は、例えば、2.0mm以下とすることができる。これにより、インナ導入開口部からルーバー部を介してインナカバー内に流れ込む被測定ガスの流量を適切に制御することができ、ガスセンサの気筒間インバランスを検出する応答性をより一層高めることができる。
上記ルーバー開度が2.0mmを超える場合には、インナ導入開口部からルーバー部を介してインナカバー内に流れ込む被測定ガスの流量を適切に制御することが困難となるおそれがある。
【0028】
また、上記アウタカバーの上記アウタ導入開口部の軸方向先端位置は、上記インナカバーの上記インナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向基端側にあってもよい。
この場合には、アウタ導入開口部からアウタカバー内(アウタカバーとインナカバーとの間)に導入された被測定ガスは、軸方向先端側に向かって流れ、途中で向きを変えてインナ導入開口部からインナカバー内に流れ込む。このとき、被測定ガスと共に流れる水滴は、被測定ガスよりも質量が大きいため、その自重によってそのまま軸方向先端側に流れる。そのため、被測定ガスと水滴とをより分離しやすくなり、水滴がインナカバー内に侵入することを防止する効果をより高めることができる。これにより、センサ素子の被水及びそれに伴うセンサ素子の割れをより一層防止することができる。そして、耐被水性を向上させながら、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度、及び気筒間インバランスを検出する応答性を十分に確保することができる。
なお、アウタカバーのアウタ導入開口部の軸方向先端位置をインナカバーのインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向先端側とすることもできる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
上記ガスセンサにかかる実施例について、図を参照して説明する。
図1、図2に示すごとく、本例のガスセンサ1は、被測定ガスG中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子2と、センサ素子2を内側に挿通して保持するハウジング13と、ハウジング13の軸方向先端側X1に配設された素子カバー3とを備えている。
センサ素子2の先端部201には、その内部に被測定ガスGを導入するためのガス導入部271が設けられている。
【0030】
同図に示すごとく、素子カバー3は、センサ素子2の先端部201を覆うように配設されたインナカバー4と、インナカバー4の外側に配設されたアウタカバー5とを有する。アウタカバー5には、アウタカバー5内に被測定ガスGを導入するためのアウタ導入開口部52が設けられている。インナカバー4には、インナカバー4内に被測定ガスGを導入するためのインナ導入開口部42が設けられている。
センサ素子2のガス導入部271の軸方向中間位置C1は、インナカバー4のインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向基端側X2にある。
以下、本例のガスセンサ1についてさらに詳説する。
【0031】
図1に示すごとく、本例において、「軸方向先端側X1」とは、ガスセンサ1の軸方向Xの一方側であり、ガスセンサ1が被測定ガスGに晒される側をいう。また、「軸方向基端側X2」とは、その反対側をいう。
同図に示すごとく、ガスセンサ1において、板状のセンサ素子2は、第1絶縁碍子11の内側に挿通して保持されている。また、第1絶縁碍子11は、ハウジング13の内側に保持されている。
【0032】
図4に示すごとく、センサ素子2は、被測定ガスG(排ガス)中の特定ガス濃度(酸素濃度)に依存して電極(後述する被測定ガス側電極22、基準ガス側電極23)間を流れる限界電流をもとに内燃機関に供給される混合気の空燃比(A/F)を検出するA/Fセンサ素子である。
なお、図4は、センサ素子2の先端部201における軸方向Xに直交する断面を示したものである。
【0033】
同図に示すごとく、センサ素子2は、ジルコニアからなる酸素イオン伝導性の固体電解質体21を有する。板状の固体電解質体21の一方の面には、被測定ガスGを接触させる被測定ガス側電極22が設けられ、他方の面には、基準ガス(大気)を接触させる基準ガス側電極23が設けられている。
【0034】
同図に示すごとく、固体電解質体21の基準ガス側電極23の側には、アルミナからなる基準ガス室形成層24が積層されている。基準ガス室形成層24には、溝部241が設けられており、この溝部241によって基準ガス室249が形成されている。基準ガス室249は、基準ガスを導入することができるよう構成されている。
【0035】
基準ガス室形成層24における固体電解質体21とは反対側の面には、ヒータ基板25が積層されている。ヒータ基板25には、通電により発熱する発熱体(ヒータ)251が基準ガス室形成層24と対面するよう設けられている。発熱体251は、通電によって発熱させることにより、センサ素子2を活性温度まで加熱することができるよう構成されている。
【0036】
同図に示すごとく、固体電解質体21の被測定ガス側電極22の側には、アルミナからなる絶縁層26が積層されている。絶縁層26は、開口部261を有する。また、絶縁層26における固体電解質体21とは反対側の面には、被測定ガスGを透過させるアルミナ多孔体からなる多孔質の拡散抵抗層27が積層されている。拡散抵抗層27の一部は、センサ素子2の外表面に露出しており、その露出した部分にガス導入部271が複数箇所形成されている。
【0037】
固体電解質体21と絶縁層26と拡散抵抗層27とにより覆われた場所には、被測定ガス室269が形成されている。被測定ガス室269は、拡散抵抗層27を透過した被測定ガスGを導入することができるよう構成されている。また、拡散抵抗層27における絶縁層26とは反対側の面には、アルミナからなる遮蔽層28が積層されている。
なお、図示を省略したが、センサ素子2の外表面には、拡散抵抗層27の露出した部分(ガス導入部271)を覆うように、被測定ガスG中の被毒成分を捕獲するための保護層等が設けられていてもよい。
【0038】
図1に示すごとく、ハウジング13の軸方向基端側X2には、センサ素子2の基端部202を覆うように第1基端側カバー14が固定されており、さらに第1基端側カバー14の軸方向基端側X2には、第2基端側カバー15が固定されている。第2基端側カバー15には、大気を導入する通気孔151が設けられている。また、第2基端側カバー15の基端側開口部は、ゴムブッシュからなる封止部材16によって閉塞されている。封止部材16には、外部に接続される複数のリード部材17が貫通配置されている。
【0039】
また、第1基端側カバー14の内部において、第1絶縁碍子11の軸方向基端側X2には、センサ素子2の基端部202を覆う第2絶縁碍子12が配設されている。第2絶縁碍子12には、リード部材17に接続された金属端子18が配設されている。金属端子18は、センサ素子2の電極端子に接触して電気的な導通を図っている。
【0040】
同図に示すごとく、ハウジング13の先端側には、センサ素子2を保護するための素子カバー3が配設されている。素子カバー3は、センサ素子2の先端部201を覆うように配設された有底略円筒状のインナカバー4と、インナカバー4の外側に配設された有底略円筒状のアウタカバー5とを有する。インナカバー4は、ハウジング13の先端部に固定されている。また、アウタカバー5は、インナカバー4の基端部に固定されている。
【0041】
図2に示すごとく、アウタカバー5は、軸方向基端側X2から順に、軸方向Xに略同径のアウタ側面部511と、軸方向先端側X1に向かって縮径するテーパ状のアウタ縮径部512と、軸方向先端側X1を閉塞するアウタ底面部513とを有する。
アウタ側面部511には、複数のアウタ導入開口部52が周方向に所定の間隔で設けられている。アウタ導入開口部52の軸方向先端位置E1は、後述するインナカバー4のインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向基端側X2にある。また、アウタ底面部513には、アウタ排出開口部53が設けられている。
【0042】
同図に示すごとく、インナカバー4は、軸方向基端側X2から順に、軸方向Xに略同径のインナ第1側面部411と、軸方向先端側X1に向かって縮径するテーパ状のインナ第1縮径部412と、軸方向Xに略同径のインナ第2側面部413と、軸方向先端側X1に向かって縮径するテーパ状のインナ第2縮径部414と、軸方向先端側X1を閉塞するインナ底面部415とを有する。
インナ底面部415は、アウタカバー5のアウタ底面部513と略同一平面上であって、アウタ底面部513のアウタ排出開口部53内に配置されている。
【0043】
インナ第1縮径部412には、複数のインナ導入開口部42が周方向に所定の間隔で設けられている。複数のインナ導入開口部42は、軸方向Xに直交する平面において、ガスセンサ1の中心軸に対して同心円上に配置されている。すなわち、すべてのインナ導入開口部42は、軸方向位置が同じである。また、すべてのインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1は、アウタカバー5のアウタ導入開口部52の軸方向先端位置E1よりも軸方向先端側X1にある。また、すべてのインナ導入開口部42は、ルーバー形状となっている。すなわち、インナ第1縮径部412には、インナ導入開口部42が設けられたそれぞれの内側位置において、被測定ガスGの流れを遮り、被測定ガスGが軸方向基端側X2へ流れるようにするルーバー部44が設けられている。また、インナ底面部415には、インナ排出開口部43が設けられている。
【0044】
同図に示すごとく、センサ素子2のガス導入部271の軸方向中間位置C1は、インナカバー4のインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向基端側X2にある。本例では、すべてのインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向基端側X2にある。
また、センサ素子2の軸方向先端位置C3は、インナカバー4のインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向先端側X1にある。本例では、すべてのインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向先端側X1にある。
【0045】
また、インナカバー4のインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1からセンサ素子2のガス導入部271の軸方向中間位置C1までの軸方向距離aは、0mm<a≦3.0mmとしている。なお、軸方向距離aは、0mm<a≦3.0mmであることが好ましく、0.7mm≦a≦3.0mmであることがより好ましい。
【0046】
図3に示すごとく、ルーバー部44は、インナ導入開口部42の軸方向先端側X1の端部421からインナカバー4の内側に折り曲げられ、軸方向基端側X2に向かって形成されている。ルーバー部44は、略四角形状に形成されている。また、ルーバー部44は、インナカバー4の一部を金型等によって内側方向に押し出して形成されている。
また、インナカバー4におけるインナ導入開口部42よりも軸方向基端側X2の部分(本例のインナ第1側面部411)とルーバー部44との間の最短距離であるルーバー開度Aは、2.0mm以下に設定されている。
【0047】
図5、図6に示すごとく、ルーバー部44をインナ導入開口部42と同一平面(平面H)上に投影した場合、ルーバー部44は、先端側端縁441a、根元側端縁442a、一対の側端縁443a、444aを有する。一対の側端縁443a、444aは、ルーバー部44の根元側から先端側に向かうルーバー形成方向Vに対して略平行に、略直線状に形成されている。そして、ルーバー部44の根元側端縁442aと一対の側端縁443a、444aとの間の角度B1、B2が90度である。
なお、図5、図6は、インナカバー4からルーバー部44を取り出して示したものである。
【0048】
図2に示すごとく、ルーバー部44の軸方向基端側X2の端部は、インナ導入開口部42の軸方向基端側X2の端部と、軸方向Xのほぼ同じ位置にある。そして、アウタカバー5とインナカバー4との間の空間からインナ導入開口部42を通過してインナカバー4内へ流れようとする被測定ガスGは、ルーバー部44によって遮られて、軸方向先端側X1へは流れない。この被測定ガスGの一部は、一対の側端縁443a、444aからインナカバー4内へ流れようとするものの、この被測定ガスGの多くは、ルーバー部44に沿って軸方向基端側X2へ流れる。
【0049】
次に、本例のガスセンサ1における作用効果について説明する。
本例のガスセンサ1において、センサ素子2の先端部201には、その内部に被測定ガスGを導入するためのガス導入部271が設けられている。また、センサ素子2の先端部201を覆うインナカバー4には、インナカバー4内に被測定ガスGを導入するためのインナ導入開口部42が設けられている。そして、センサ素子2のガス導入部271の軸方向中間位置C1は、インナカバー4のインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向基端側X2にある。また、インナカバー4におけるインナ導入開口部42の内側位置には、インナ導入開口部42からインナカバー4内に流入する被測定ガスGが、軸方向基端側X2へ流れるようにするルーバー部44が設けられている。
【0050】
これにより、図7に示すごとく、インナ導入開口部42からインナカバー4内へ流れようとする被測定ガスGの多くは、ルーバー部44によってインナカバー4内の軸方向基端側X2へ流れ込ませることができる。また、ガス導入部271の軸方向中間位置C1が、インナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向基端側X2にあることにより、インナ導入開口部42からインナカバー4内に導入された被測定ガスGをできるだけ短距離で迅速にセンサ素子2のガス導入部271に到達させることができる。また、被測定ガスGを他のインナ導入開口部42から流れ込んだ被測定ガスGと混合させることなく、センサ素子2のガス導入部271に到達させることができる。そして、内燃機関の各気筒の被測定ガスGを順にセンサ素子2のガス導入部271に到達させ、センサ素子2のガス導入部271に到達するまでの間に各気筒の被測定ガスGが混合されることを抑制することができる。
【0051】
その結果、ガスセンサ1の応答性を高めることができ、内燃機関の気筒間インバランスの指標となるガスセンサ1の出力値(空燃比:A/F)の変化をより正確に把握することができる。そして、ガスセンサ1における内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を向上させることができる。
【0052】
図8には、多気筒の内燃機関において、いずれかの気筒71aの空燃比が理論空燃比に対してリッチ側にあり、他の気筒71bの空燃比が理論空燃比に対してリーン側にあるときの排気管82における被測定ガスG(排気ガス)の流れを示す。同図に示すごとく、各気筒71a、71bからの排気は順次行われ、排気管82内のガスセンサ1には、リッチ側の被測定ガスG1とリーン側の被測定ガスG2とが順次到達すると考えられる。
図9には、ガスセンサ1によって測定される被測定ガスGのガス濃度の時間変化を示す。同図に示すごとく、ガスセンサ1においては、リッチ側の被測定ガスG1とリーン側の被測定ガスG2とが交互に測定されることになると考えられる。
【0053】
そして、時間的に前後して排気され、インナカバー4内に前後して流入する被測定ガスGが混ざりにくい状態にあることにより、所定の時間間隔で到達すると考えられるリッチ側の被測定ガスG1とリーン側の被測定ガスG2とが混ざりにくくすることができる。
本例においては、ルーバー部44に沿って軸方向基端側X2へ流れる被測定ガスGが、センサ素子2のガス導入部271に到達するまでの距離を短くしている。これにより、時間的に前後して排気された被測定ガスGの混ざり合いを抑制し、ガスセンサ1における内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を向上させることができると考えられる。
【0054】
また、本例において、センサ素子2の軸方向先端位置C3は、インナカバー4のインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向先端側X1にある。そのため、インナ導入開口部42からインナカバー4内に導入された被測定ガスGをより一層短距離で迅速にセンサ素子2のガス導入部271に到達させることができる。これにより、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度、及び気筒間インバランスを検出する応答性をさらに高めることができる。
【0055】
また、ルーバー部44をインナ導入開口部42と同一平面(平面H)上に投影した場合、ルーバー部44の一対の側端縁443a、444aは、ルーバー形成方向Vに対して略平行に、略直線状に形成されている。
そのため、図7に示すごとく、被測定ガスGがルーバー部44の表面に沿って、ルーバー部44の根元側から先端側に向かって流れやすくなる。そして、被測定ガスGの一部がルーバー部44の側端部443、444から両側に漏れてインナカバー4内に流れ込むことを抑制することができる。つまり、ルーバー部44の先端部441を通過して流れ込む被測定ガスGの流量の割合をさらに高めることができる。
【0056】
また、インナカバー4におけるインナ導入開口部42よりも軸方向基端側X2の部分(インナ第1側面部411)とルーバー部44との間の最短距離であるルーバー開度Aは、2.0mm以下である。そのため、インナ導入開口部42からルーバー部44を介してインナカバー4内に流れ込む被測定ガスGの流量を適切に制御することができ、ガスセンサ1の応答性をより一層高めることができる。
【0057】
また、アウタカバー5のアウタ導入開口部52の軸方向先端位置E1は、インナカバー4のインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向基端側X2にある。
そのため、図7に示すごとく、アウタ導入開口部52からアウタカバー5内(アウタカバー5とインナカバー4との間)に導入された被測定ガスGは、軸方向先端側X1に向かって流れ、途中で向きを変えてインナ導入開口部42からインナカバー4内に流れ込む。このとき、被測定ガスGと共に流れる水滴Wは、被測定ガスGよりも質量が大きいため、その自重によってそのまま軸方向先端側X1に流れる。
【0058】
これにより、同図に示すごとく、被測定ガスGと水滴Wとをより分離しやすくなり、水滴Wがインナカバー4内に侵入することを防止する効果をより高めることができる。その結果、センサ素子2の被水及びそれに伴うセンサ素子2の割れを防止することができる。そして、耐被水性を向上させながら、ガスセンサ1の応答性、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を十分に確保することができる。なお、分離された水滴Wは、アウタカバー5のアウタ排出開口部53から外部に排出される。
【0059】
このように、本例によれば、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度、及び気筒間インバランスを検出する応答性に優れたガスセンサ1を提供することができる。
【0060】
なお、本例では、図5、図6に示すごとく、ルーバー部44をインナ導入開口部42と同一平面(平面H)上に投影した場合、ルーバー部44の一対の側端縁443a、444aは、ルーバー形成方向Vに対して略平行に、略直線状に形成されている。これ以外にも、例えば、図10に示すごとく、ルーバー部44の一対の側端縁443a、444aは、ルーバー形成方向Vに対して外側に傾斜して、略直線状に形成されていてもよい。すなわち、ルーバー部44の根元側端縁442aと一対の側端縁443a、444aとの間の角度B1、B2が90度を超えた角度(例えば、90度超え95度以下)であってもよい。
【0061】
上記構成の場合には、図11に示すごとく、被測定ガスGがルーバー部44の表面に沿って、ルーバー部44の根元側から先端側に向かってより一層流れやすくなる。そして、被測定ガスGの一部がルーバー部44の側端部443、444から両側に漏れてインナカバー4内に流れ込むことをさらに抑制することができる。つまり、ルーバー部44の先端部441を通過して流れ込む被測定ガスGの流量の割合をさらに高めることができる。これにより、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度、及び気筒間インバランスを検出する応答性をより一層向上させることができる。
【0062】
(実施例2)
本例は、図12に示すごとく、センサ素子2のガス導入部271とインナカバー4のインナ導入開口部42との位置関係を変更した例である。
同図に示すごとく、センサ素子2のガス導入部271の軸方向先端位置C2は、インナカバー4のインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向基端側X2にある。本例では、ガス導入部271の軸方向先端位置C2は、すべてのインナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向基端側X2にある。
その他の基本的な構成は、実施例1と同様である。また、実施例1と同様の構成については、同様の符号を付し、その説明を省略している。
【0063】
本例のインナカバー4におけるインナ導入開口部42の内側位置には、実施例1と同様に、インナ導入開口部42からインナカバー4内に流入する被測定ガスGが、軸方向基端側X2へ流れるようにするルーバー部44が設けられている。そして、インナ導入開口部42からインナカバー4内に流れる被測定ガスGの多くは、軸方向基端側X2へ流れる。そのため、ガス導入部271の軸方向先端位置C2を、インナ導入開口部42の軸方向基端位置D1よりも軸方向基端側X2にすることにより、ルーバー部44に沿って軸方向基端側X2へ流れる被測定ガスGが、より一層短距離で迅速にセンサ素子2のガス導入部271に到達するようにできる。これにより、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度、及び気筒間インバランスを検出する応答性をさらに高めることができる。
その他の基本的な作用効果は、実施例1と同様である。
【0064】
(実施例3)
本例は、ガスセンサについて、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を評価したものである。
本例では、インナカバーのインナ導入開口部の軸方向基端位置からセンサ素子のガス導入部の軸方向中間位置までの軸方向距離a(図2参照)が異なる複数のガスセンサを準備した。準備したガスセンサのその他の基本的な構成は、実施例1のガスセンサ(図1?図4等参照)と同様である。
【0065】
次に、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度の評価方法について説明する。
本例では、図13に示すごとく、4つの気筒(第1気筒811、第2気筒812、第3気筒813、第4気筒814)を有する直列4気筒型の内燃機関81を準備した。内燃機関81の各気筒811?814は、それぞれ排気管82の排気枝部821に連通している。4つの排気枝部821は、その下流側において集合して排気管82の排気集合部822に連通している。そして、この排気管82の排気集合部822に、ガスセンサ89を取り付けた。
【0066】
次いで、内燃機関を所定の条件で運転させた。本例では、回転数を1600rpmに設定し、排気管内の単位断面積当たりのガス流量が20g/秒となるように調整した。そして、内燃機関の4つの気筒のうち、第2気筒の燃料噴射量を他の気筒に比べて過剰に増加させた。本例では、第2気筒の空燃比が理論空燃比に対してリッチ側に40%ずらした状態(燃料噴射量を40%増加した状態)となるように調整した。
【0067】
そして、図14に示すごとく、時間経過ごとにガスセンサの出力値(空燃比:A/F)を取得した。
ここで、ガスセンサの出力値の波形は、内燃機関の1燃焼サイクルを1周期として変動する。内燃機関の1燃焼サイクルは、クランク角が0度の時に開始され、クランク角が720度のときに終了する。また、1燃焼サイクルの間、第1気筒、第3気筒、第4気筒、第2気筒の順に燃焼が行われる。また、各気筒では、燃焼の後に排気が行われるため、1燃焼サイクルの間、第2気筒、第1気筒、第3気筒、第4気筒の順に排気が行われる。したがって、理想的には、第2気筒、第1気筒、第3気筒、第4気筒の順に、各気筒から排出された排ガスがガスセンサのセンサ素子のガス導入部に到達する。
【0068】
次に、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度の評価方法について説明する。
図14に示すごとく、取得したガスセンサの出力値(空燃比:A/F)の波形から、1燃焼サイクル中の波形の振幅P(最大値と最小値との差)をインバランス応答値として求めた。
本例では、軸方向距離aが異なるガスセンサに対して、それぞれ上述したインバランス応答値を求めた。そして、軸方向距離aが-1.5mmのガスセンサ(従来の仕様のガスセンサ)のインバランス応答値を基準(=100%)とし、その他のガスセンサのインバランス応答値比(%)を求めた。なお、インバランス応答値比が高いほうが内燃機関の気筒間インバランスの検出精度がより高いことを示す。
【0069】
図15に、内燃機関の気筒間インバランスの検出精度の評価結果を示す。同図の横軸は軸方向距離a(mm)、縦軸はインバランス応答値比(%)である。
なお、軸方向距離aが0mmの場合は、センサ素子のガス導入部の軸方向中間位置とインナカバーのインナ導入開口部の軸方向基端位置とが同じ位置であることを示す。また、軸方向距離aが0mm未満の場合は、センサ素子のガス導入部の軸方向中間位置がインナカバーのインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向先端側にあることを示す。
【0070】
同図から、軸方向距離aが0mmを超えると、すなわちセンサ素子のガス導入部の軸方向中間位置がインナカバーのインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向基端側にあると、インバランス応答値比が高くなることがわかった。また、軸方向距離aが0.7mmあたりを超えると、インバランス応答値比がさらに高くなり、そのインバランス応答値比が安定していることがわかった。
一方、軸方向距離aが3.0mmあたりを超えると、インバランス応答値比が少し低くなることがわかった。
【0071】
以上の結果から、センサ素子のガス導入部の軸方向中間位置がインナカバーのインナ導入開口部の軸方向基端位置よりも軸方向基端側にあることにより、ガスセンサの応答性を高めることができ、ガスセンサにおける内燃機関の気筒間インバランスの検出精度を向上させることができることがわかった。
また、このような効果を十分に得るためには、センサ素子のガス導入部の軸方向中間位置からインナカバーのインナ導入開口部の軸方向基端位置までの軸方向距離aを0.7mm以上とすることが好ましく、3.0mm以下とすることが好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0072】
1 ガスセンサ
13 ハウジング
2 センサ素子
201 先端部(センサ素子の先端部)
271 ガス導入部
3 素子カバー
4 インナカバー
42 インナ導入開口部
5 アウタカバー
52 アウタ導入開口部
C1 軸方向中間位置(ガス導入部の軸方向中間位置)
D1 軸方向基端位置(インナ導入開口部の軸方向基端位置)
X1 軸方向先端側
X2 軸方向基端側
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒の内燃機関に用いられるガスセンサであって、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するセンサ素子(2)と、
該センサ素子(2)を内側に挿通して保持するハウジング(13)と、
該ハウジング(13)の軸方向先端側(X1)に配設された素子カバー(3)とを備え、
上記センサ素子(2)の先端部(201)には、その内部に被測定ガスを導入するためのガス導入部(271)が設けられており、
上記素子カバー(3)は、上記センサ素子(2)の先端部(201)を覆うように配設されたインナカバー(4)と、該インナカバー(4)の外側に配設されたアウタカバー(5)とを有し、
該アウタカバー(5)には、該アウタカバー(5)内に被測定ガスを導入するためのアウタ導入開口部(52)が設けられており、
上記インナカバー(4)には、該インナカバー(4)内に上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)に到達させる被測定ガスを導入するためのインナ導入開口部(42)と、インナ排出開口部(43)が設けられており、
上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向中間位置(C1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
上記センサ素子(2)の軸方向先端位置(C3)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向先端側(X1)にあり、
上記アウタカバー(5)の上記アウタ導入開口部(52)の軸方向先端位置(E1)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあり、
上記インナ導入開口部(42)から上記インナカバー(4)内に導入された被測定ガスが、まず、軸方向基端側(X2)へ向かって流れ、その後、上記インナ導入開口部(42)より軸方向先端側(X1)に設けられた上記インナ排出開口部(43)に向けて流れるように構成されていることを特徴とするガスセンサ(1)。
【請求項2】
上記センサ素子(2)の上記ガス導入部(271)の軸方向先端位置(C2)は、上記インナカバー(4)の上記インナ導入開口部(42)の軸方向基端位置(D1)よりも軸方向基端側(X2)にあることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ(1)。
【請求項3】
上記インナカバー(4)には、上記インナ導入開口部(42)の内側において、被測定ガスの流れを遮り、該被測定ガスが軸方向基端側(X2)へ流れるようにするルーバー部(44)が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスセンサ(1)。
【請求項4】
上記ルーバー部(44)は、上記インナ導入開口部(42)の軸方向先端側(X1)の端部(421)から上記インナカバー(4)の内側に折り曲げられ、軸方向基端側(X2)に向かって形成されていることを特徴とする請求項3に記載のガスセンサ(1)。
【請求項5】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-05-15 
結審通知日 2018-05-17 
審決日 2018-06-05 
出願番号 特願2013-198541(P2013-198541)
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (G01N)
P 1 113・ 121- YAA (G01N)
P 1 113・ 841- YAA (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 黒田 浩一  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
渡戸 正義
登録日 2015-06-26 
登録番号 特許第5765394号(P5765394)
発明の名称 ガスセンサ  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  
代理人 特許業務法人コスモス特許事務所  

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