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審決分類 審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  G01R
審判 全部無効 2項進歩性  G01R
管理番号 1357937
審判番号 無効2018-800119  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-09-27 
確定日 2019-11-05 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5839527号発明「超高感度マイクロ磁気センサ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5839527号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 請求項1、3-8についての本件審判の請求は、成り立たない。 請求項2についての本件審判の請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許無効審判請求に係る特許第5839527号(以下「本件特許」という。)は、被請求人によって平成27年2月16日にされた特許出願である特願2015-027092号の請求項1ないし請求項8に係る発明について、同年11月20日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対し、請求人より、平成30年9月27日に本件特許無効審判の請求がされた。本件特許無効審判の主な経緯は、次のとおりである。

平成30年 9月27日付け 審判請求書提出(請求人)
平成30年12月21日付け 答弁書提出(被請求人)
平成30年12月25日付け 訂正請求書提出(被請求人)
平成31年 1月15日付け 手続補正指令(訂正請求書について)
平成31年 1月15日付け 審尋(被請求人に対して)
平成31年 2月 8日付け 手続補正書(訂正請求書について)提出(被請求人)
平成31年 2月 8日付け 回答書提出(被請求人)
平成31年 3月29日付け 弁駁書提出(請求人)
令和 元年 5月14日付け 審理事項の通知
令和 元年 7月10日付け 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
令和 元年 7月10日付け 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
令和 元年 7月24日 第1回口頭審理
令和 元年 7月26日付け 上申書提出(請求人)
令和 元年 7月26日付け 上申書提出(被請求人)


第2 本件訂正の請求について
1 本件訂正の内容
被請求人が平成30年12月25日付け訂正請求書により請求する訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、請求項1ないし請求項8からなる一群の請求項ごとに訂正しようとするものであって、その内容は以下の訂正事項1ないし訂正事項7のとおりである。

(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の
「【請求項1】
基板上に導電性を有する磁界検出用磁性ワイヤとそれに巻回した周回コイルとワイヤ通電用の電極2個とコイル電圧検出用電極2個を設置した磁界検出素子および前記磁性ワイヤにパルス電流を流す手段とパルス電流を流した時に生じるコイル電圧を検知する回路とコイル電圧を外部磁界Hに変換する手段とからなる磁気センサにおいて、
前記磁性ワイヤは、10G以下の異方性磁界を有し、かつ円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を有してなり、
前記磁性ワイヤに通電するパルス電流は、該周波数は0.5GHz?4.0GHzで、該ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上とし、
前記コイルはコイルピッチ10μm以下でコイル内径を25μm以下とすることを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の超高感度マイクロ磁気センサにおいて、
前記磁性ワイヤに前記パルス電流を通電することによって、前記表面磁区内のワイヤ軸方向の磁界により軸方向に傾斜した円周方向スピンを超高速に一斉回転させて、その時に生じる超高速スピン回転現象による前記ワイヤの軸方向の磁化変化のみをコイル出力として取り出し、関係式(1)を使って磁界Hに変換することを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
Vs=Vo・L・πD・p・Nc・f・sin(πH/2Hm) (1)
ここで、Vsはコイル出力電圧、Voは比例定数、制御因子定数としては、Lはワイヤの長さ、Dはワイヤの直径、pはパルス電流の表皮深さ、Ncはコイルの巻き数、fはパルス周波数、Hmはコイル出力電圧が最大値を取る時の外部磁界強度。」
との記載において、請求項2を削除してその内容をそのまま請求項1に加え、請求項1の記載を
「【請求項1】
基板上に導電性を有する磁界検出用磁性ワイヤとそれに巻回した周回コイルとワイヤ通電用の電極2個とコイル電圧検出用電極2個を設置した磁界検出素子および前記磁性ワイヤにパルス電流を流す手段とパルス電流を流した時に生じるコイル電圧を検知する回路とコイル電圧を外部磁界Hに変換する手段とからなる磁気センサにおいて、
前記磁性ワイヤは、10G以下の異方性磁界を有し、かつ円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を有してなり、
前記磁性ワイヤに通電するパルス電流は、該周波数は0.5GHz?4.0GHzで、該ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上とし、
前記コイルはコイルピッチ10μm以下でコイル内径を25μm以下とし、
前記磁性ワイヤに前記パルス電流を通電することによって、前記表面磁区内のワイヤ軸方向の磁界により軸方向に傾斜した円周方向スピンを超高速に一斉回転させて、その時に生じる超高速スピン回転現象による前記ワイヤの軸方向の磁化変化のみをコイル出力として取り出し、関係式(1)を使って磁界Hに変換することを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
Vs=Vo・L・πD・p・Nc・f・sin(πH/2Hm) (1)
ここで、Vsはコイル出力電圧、Voは比例定数、制御因子定数としては、Lはワイヤの長さ、Dはワイヤの直径、pはパルス電流の表皮深さ、Ncはコイルの巻き数、fはパルス周波数、Hmはコイル出力電圧が最大値を取る時の外部磁界強度。」
との記載に訂正する。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3ないし8も同様に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3の
「請求項1または請求項2に記載の超高感度マイクロ磁気センサにおいて、」
との記載を、
「請求項1に記載の超高感度マイクロ磁気センサにおいて、」
との記載に訂正する。
また、請求項3を直接又は間接的に引用する請求項6ないし8も同様に訂正する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4の
「請求項1または請求項2に記載の超高感度マイクロ磁気センサにおいて、」
との記載を、
「請求項1に記載の超高感度マイクロ磁気センサにおいて、」
との記載に訂正する。
また、請求項4を直接又は間接的に引用する請求項6ないし8も同様に訂正する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5の
「請求項1または請求項2に記載の超高感度マイクロ磁気センサにおいて、」
との記載を、
「請求項1に記載の超高感度マイクロ磁気センサにおいて、」
との記載に訂正する。
また、請求項5を直接又は間接的に引用する請求項6ないし8も同様に訂正する。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6の
「請求項1ないし請求項5のいずれかに記載された超高感度磁気マイクロ磁気センサにおいて、」
との記載を、
「請求項1、請求項3ないし請求項5のいずれかに記載された超高感度磁気マイクロ磁気センサにおいて、」
との記載に訂正する。
また、請求項6を直接又は間接的に引用する請求項7及び8も同様に訂正する。

(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7の
「請求項1ないし請求項6のいずれかに記載された超高感度磁気マイクロ磁気センサにおいて、」
との記載を、
「請求項1、請求項3ないし請求項6のいずれかに記載された超高感度磁気マイクロ磁気センサにおいて、」
との記載に訂正する。
また、請求項7を引用する請求項8も同様に訂正する。

(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8の
「請求項1ないし請求項7のいずれかに記載された超高感度磁気マイクロ磁気センサにおいて、」
との記載を、
「請求項1、請求項3ないし請求項7のいずれかに記載された超高感度磁気マイクロ磁気センサにおいて、」
との記載に訂正する。

2 訂正の適否の判断
(1) 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の「超高感度マイクロ磁気センサ」が備える「パルス電流を流した時に生じるコイル電圧を検知する回路」及び「コイル電圧を外部磁界Hに変換する手段」の機能を本件訂正前の請求項2に記載された事項によって具体化し、かつ本件訂正前の請求項2を削除する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。
また、訂正事項2ないし7は、いずれも多数項を引用する請求項の引用請求項数を削減する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。

(2) 新規事項の有無
本件訂正後の請求項1に係る発明は、本件訂正前の請求項2に係る発明と実質的に同一であり、本件訂正後の請求項3ないし7に係る発明も、それらと実質的に同一のものが本件訂正前の請求項3ないし7に係る発明の中に存在する。よって、訂正事項1ないし7は、いずれも願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3) 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
訂正事項1ないし7は、いずれも特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことが明らかであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、同法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件訂正を認める。


第3 本件特許に係る発明
1 本件訂正後の特許発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件訂正発明1」などという。また、これらを総称して「本件訂正発明」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
基板上に導電性を有する磁界検出用磁性ワイヤとそれに巻回した周回コイルとワイヤ通電用の電極2個とコイル電圧検出用電極2個を設置した磁界検出素子および前記磁性ワイヤにパルス電流を流す手段とパルス電流を流した時に生じるコイル電圧を検知する回路とコイル電圧を外部磁界Hに変換する手段とからなる磁気センサにおいて、
前記磁性ワイヤは、10G以下の異方性磁界を有し、かつ円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を有してなり、
前記磁性ワイヤに通電するパルス電流は、該周波数は0.5GHz?4.0GHzで、該ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上とし、
前記コイルはコイルピッチ10μm以下でコイル内径を25μm以下とし、
前記磁性ワイヤに前記パルス電流を通電することによって、前記表面磁区内のワイヤ軸方向の磁界により軸方向に傾斜した円周方向スピンを超高速に一斉回転させて、その時に生じる超高速スピン回転現象による前記ワイヤの軸方向の磁化変化のみをコイル出力として取り出し、関係式(1)を使って磁界Hに変換することを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
Vs=Vo・L・πD・p・Nc・f・sin(πH/2Hm) (1)
ここで、Vsはコイル出力電圧、Voは比例定数、制御因子定数としては、Lはワイヤの長さ、Dはワイヤの直径、pはパルス電流の表皮深さ、Ncはコイルの巻き数、fはパルス周波数、Hmはコイル出力電圧が最大値を取る時の外部磁界強度。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載の超高感度マイクロ磁気センサにおいて、
基板上に右巻きコイルの検出素子と左巻きコイルの検出素子の一対または複数対を設置し、左巻コイルと右巻コイルに反対向きに前記パルス電流が流れるように、ワイヤ通電用の電極2個とワイヤ端子を接続し、またコイル電圧検出用電極2個とコイル端子は前記ワイヤには前記パルス電流を通電した時に、右巻きコイルと左巻きコイルの出力電圧が外部磁界に比例した出力電圧が同符号になり、かつ外部磁界がゼロの場合にパルス通電が作る円周方向磁界によって発生する出力電圧が異符号になるように接続することを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
【請求項4】
請求項1に記載の超高感度マイクロ磁気センサにおいて、
前記基板上の前記磁性ワイヤ1本に、パルス電流の流れてくる方向に向けて一対の左巻きコイルの第1コイルと右巻きコイルの第2コイルとを取り付け、
また、前記第1コイルと前記第2コイルのそれぞれに、パルス電流の流れてくる方向に向けて、第1コイル端子と第2コイル端子とを設けて、
第1コイルの第1コイル端子と第2コイルの第1コイル端子とを接続し、
コイル出力電極と第1コイルの第2コイル端子とを接続するとともにコイルグランド電極と第2コイルの第2コイル端子を接続し、
かつ、
前記第1コイルおよび前記第2コイルの前記第1コイル端子と前記第1コイルおよび前記第2コイルの前記第2コイル端子とは前記磁性ワイヤの両側に配置し、
前記コイル出力電極から前記第1コイルの第2コイル端子への配線とコイルグランド電極から前記第2コイルの第2コイル端子への配線が交差していることを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
【請求項5】
請求項1に記載の超高感度マイクロ磁気センサにおいて、
前記基板上の2本の前記磁性ワイヤは、並列かつパルス電流がお互いに反対方向に流れるように接続して配置し、
一の前記磁性ワイヤにパルス電流の流れてくる方向に向けて一対の左巻きコイルの第1コイルと右巻きコイルの第2コイルとを取り付け、
他の前記磁性ワイヤにパルス電流の流れてくる方向に向けて一対の左巻きコイルの第3コイルと右巻きコイルの第4コイルとを取り付け、
また、前記第1コイルと前記第2コイルと前記第3コイルと前記第4コイルのそれぞれに、パルス電流の流れてくる方向に向けて、第1コイル端子と第2コイル端子とを設けて、
該コイルのコイル端子間の接続は、前記磁性ワイヤの2本の間に配置し、前記第1コイルの第1コイル端子と前記第4コイルの第2コイル端子を接続し、前記第4コイルの第1コイル端子と前記第2コイルの第1コイル端子を接続し、前記第1コイルの第2コイル端子と前記第3コイルの第2コイル端子を接続し、
前記コイルのコイル端子と接続する電極は、前記2本の磁性ワイヤの両側に配置し、コイル出力電極から前記第3コイルの第1コイル端子への配線とコイルグランド電極から前記第2コイルの第2コイル端子への配線が前記2本の磁性ワイヤの間で交差していることを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
【請求項6】
請求項1、請求項3ないし請求項5のいずれかに記載された超高感度磁気マイクロ磁気センサにおいて、
プログラミング演算電子回路またはソフトプログラム演算の手段を用いて、磁界Hにおけるコイル電圧の測定値から、磁界ゼロにおけるコイル誘導電圧を差し引くことを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
【請求項7】
請求項1、請求項3ないし請求項6のいずれかに記載された超高感度磁気マイクロ磁気センサにおいて、
内蔵した温度センサと温度依存性補正プログラムを使ったVsに対する温度の影響を補正する手段を有することを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
【請求項8】
請求項1、請求項3ないし請求項7のいずれかに記載された超高感度磁気マイクロ磁気センサにおいて、
前記磁界検出素子に使用されている前記磁性ワイヤとして、アモルファス構造またはナノ結晶構造を有していて、小さな結晶磁気異方性とゼロまたは弱負磁歪特性を持つ磁性合金からなる高透磁率磁性ワイヤに対して、引張応力を負荷し軸方向と円周方向に異方性を発生させて、円周方向スピン配列を持つ円周表面磁区と軸方向スピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を形成せしめ、さらに十分大きなパルス電流でパルス磁界アニーリング処理を測定毎に行い円周方向に磁化飽和させて磁化履歴を消去することができる磁性ワイヤを用いることを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。」

2 本件特許に係る発明について明細書の記載から把握できる事項
(1) 明細書の記載事項
本件特許の明細書には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、超高速スピン回転効果(英語表記は、GHz Spin Rotation effectである。略称は、GSR効果とする。)を基礎にした超高感度マイクロ磁気センサ(以下、GSRセンサという。)に関するものである。」

イ 「【0004】
MIセンサ(特許文献3)は、1993年に発見されたMI現象(magneto-impedance現象)を基礎にしたものである。この現象は、表面の円周方向に磁化した表面磁区(厚みは0.2μm程度)と中心部の軸方向に磁化したコア磁区の二つの構造を持つ磁性ワイヤ(直径30μm)または磁性薄膜に、1MHzから30MHzの高周波あるいはパルス電流を通電し、二つの磁区の間にある90度磁壁を振動させる。磁壁振動の平均的深さは1μmから4μmで、磁化の増大に比例して円周方向透磁率が増加し表皮深さが著しく縮小し、ワイヤの磁気インピーダンスが大きく変化する電磁現象である。そのインピーダンス(交流抵抗)の変化量から外部磁界Hをもとめるタイプである。
90度磁壁がコア磁区に浸透することでコア磁区内のスピンが円周方向に回転、すなわち磁化が回転することで磁化が変化するので、反磁界の影響はFGセンサに比べて小さい。その結果磁性ワイヤの長さを50mmから5mmと大幅に縮小することが実現した。
また、出力特性は、ワイヤのヒステリシスの影響を強く受け、しかも反対称性かつ非直線的であるという欠点があった。これらの問題は、負帰還回路を用いて解決したが、消費電力の点で問題であった。MIセンサ技術については、毛利教授の著作「磁気センサ理工学」(コロナ社出版、毛利佳年雄著、1998年)において詳しく紹介されている。
【0005】
コイル検出型のMIセンサ(特許文献4;1999年)は、MI現象をコイルで検知した改良方式で、直線的出力を実現した。構造的には、縦型FGセンサと同じである。パルス通電時に円周方向磁界によって90度磁壁がコア部に浸透し、軸方向磁化が円周方向に回転し、軸方向の磁化の変化が起きる。この変化をコイルで検出する。90度磁壁の浸透は、通電電流の強さ、周波数、およびワイヤの透磁率などによって決まるが、1.3μmから4μm程度である。FGセンサは素材全体の磁化の回転を利用するため、感磁体であるワイヤの体積に比例するが、MIセンサの場合10MHzの高周波を利用するため、表皮深さが非常に浅く、出力は直径に比例する。高感度化のためには、FGセンサはワイヤ長さの増加することが必要であるが、MIセンサは高い周波数を活用して高感度化を図っているため、磁性ワイヤを直径30μmで、長さをFGセンサの50mmから3mmへと大幅に小型化できる。コイル内径は3mmであった。
コイル型MIセンサについて、構造がFGセンサと同じであるので、FGセンサの改良タイプという意見があるが、適用周波数が高く90度磁壁の振動という電磁現象を検出している点を考えれば、MIセンサの改良タイプというべきである。しかし、ヒステリシス低減のために負帰還回路を使用しており、消費電力が大きくなり問題であった。」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、MIセンサの100倍程度の性能向上を実現する磁気センサ原理と具現化条件を見出すことである。そのために、本発明者らは、基板上に導電性を有する磁界検出用磁性ワイヤとそれに巻回した周回コイルとワイヤ通電用の電極2個とコイル電圧検出用電極2個を設置した磁界検出素子および該磁性ワイヤにパルス電流を流す手段とパルス電流を流した時に生じるコイル電圧を検知する回路とコイル電圧を外部磁界Hに変換する手段とを基本構成にした超高感度マイクロ磁気センサにおいて、ワイヤの磁気特性、磁界検出素子の小型化、特に検出用コイルの微細化、パルスの周波数と形状、ワイヤ内部でおこる電磁現象とコイルとの電磁結合、コイル電圧の処理方法およびコイル電圧と磁界の関連性などについて、総合的に研究を行うことにした。
【0015】
ワイヤについては、従来のテンション熱処理ワイヤに変えて、ガラス付ワイヤを採用した。磁界検出素子は、コイルピッチを30μmから10μm以下、コイル内径を従来の30μmから15μm以下、つまりワイヤ径の1.5倍以下と微細化、パルスは、形状は台形状で、立上りの周波数は0.5GHzから4GHz、パルス電流強度は、50mAから300mA、パルス電流が誘起する電磁現象とコイル電圧との関係およびコイル電圧と磁界との関係、さらにはコイル電圧とコイル誘起電流による電圧降下の問題、高周波パルスによる誘導電圧の問題、信号検波方式の見直し、温度補正法の検討およびコイル電圧と磁界との数学的関係の調査など全面的な検討を行うことであった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、コイル出力電圧と外部磁界Hの関係に及ぼすワイヤの磁気特性、磁性ワイヤの大きさ、コイル巻き数およびパルス電流特性の影響を詳細に調査した結果、本発明センサにおいて、表面磁区とコア磁区の2相構造で異方性磁界が5Gの磁性ワイヤを使った微細コイルに0.5GHz以上の周波数の台形状パルスを与えた時、コイルの発生する電圧と外部磁界との間に、式(1)なる実験式が存在することを発見した。
Vs=Vo・L・πD・p・Nc・f・sin(πH/2Hm) (1)
【0017】
ここで、Vsはコイル出力電圧、Voはワイヤ透磁率、飽和磁束密度のワイヤ素材の磁気特性およびパルス電強度等で決まる比例定数、制御因子定数としては、Lはワイヤの長さ、Dはワイヤの直径、pはパルス電流の表皮深さ、Ncはコイルの巻き数、fはパルス周波数、Hは外部磁界、Hmはコイル出力電圧が最大値を取る外部磁界強度である。
【0018】
磁性ワイヤの表面磁区内に存在する円周方向の内部磁界によって円周方向に強制されていたスピンが、外部磁界Hによってθだけ傾いたとする。この状態に周波数0.5GHz以上のパルス電流が印加されると、スピンは円周方向に一斉にθ回転する。この磁気変化をコイル電圧として検知すると、
V=Vosin2θ (2)
となる。したがって実験式(1)はこのスピンの一斉高速回転を検知していると考えることができる。つまり同じ表皮効果でもMIセンサは90度磁壁の移動による磁化回転を検知するが、本発明センサは表面磁区内のスピンの回転のみを純粋に検知する全く新しい原理、つまり発明者は超高速スピン回転現象に基づく新型のGSRセンサであると考えられる。
この原理に基づくと、以下の実施例1で詳細に紹介するように、MIセンサに比較して、コイル出力が大幅に向上し、性能指数で試算すると、K=0.2mG、W=40G、L=0.2mm、D=0.01mmでS=10万となって、コイル式MIセンサの120倍程度の飛躍的改善が実現できることを見出した。」

エ 「【0023】
パルス電流は、円周方向に磁化飽和を実現する十分な電流強さで、周波数は、0.5GHz?4GHzのパルス周波数(パルス周波数は、f=1/2dtで定義した。ここで立上り、立下り瞬間の遷移時間をdtとした。)とした。これにより電流の表皮深さを0.2μm?1μmに制御して、円周表面磁区の厚み以下とした。パルス時間間隔はコイル信号干渉を避けることのできる十分な長さ5n秒とした。
【0024】
上記の2相の磁区構造を持つアモルファスワイヤに、ワイヤ軸方向の外部磁界Hをかけると、円周表面磁区内の円周方向スピンは軸方向にθ角度ほど傾斜し軸方向に磁化Ms(=Ns・ms・sinθ)が生じる。Nsは、表面磁区内の単位体積当たりのスピン数、msはスピンが持つ磁化である。中央部のコア磁区では磁壁が移動し磁化Mcが発生する。
【0025】
この状態のワイヤに上記パルス電流を通電すると、パルスが作る60G程度の大きな円周磁界によって、超高速(パルスの遷移時間dt内をいう。)でスピンが円周方向に一斉回転する。その際に生じるワイヤの磁化変化をコイル出力電圧Vsとして検知する。そのコイル出力電圧は、周波数に比例するが、一方、表皮深さがf^(-1/2)で小さくなり、両効果を合わせてコイル出力はf/p=f^(1/2) に比例して増加する。コイル巻き数Ncに比例し両者を合わせると驚異的な出力となる。
この超高速スピン回転効果は将来の超高感度マイクロ磁気センサの新原理と期待される。なおコア磁区部の磁化Mcは、表皮効果により影響を受けず、また磁壁の移動は生じない。」

オ 「【0038】
(6)次に、新電磁現象である超高速スピン回転現象が発現する条件を説明する。
発現条件は、表面に円周方向スピン配列を持った表面磁区が存在す磁性ワイヤを用いて、GHzの周波数を持つ十分大きな電流の励磁パルスを印加して、表皮深さpが表面磁区の厚さdよりも小さくして、円周方向スピンの一斉回転を惹起し、その変化を微細コイルで検知することであることを説明する。
【0039】
コイル出力電圧の原因としては、90度磁壁の移動による磁化回転と表面磁区のスピン回転が考えられる。90度磁壁は小さな磁界で移動できるが、周波数が高くなると渦電流による電磁ブレーキのため著しく遅くなる。一方表面磁区内のスピン回転は、集団で一斉回転しその移動は瞬時に完了する。回転に参加するスピン数が限られ出力信号は微弱である。
【0040】
MI現象は、表面磁区とコア磁区の境界である90度磁壁が最表面に存在し、1MHzから30MHzの周波数域で表皮深さp(この場合、1μm?4μmである。)の幅で振動する。表面磁区の厚みは0.2μm?0.8μmと考えられる。周波数が0.5GHz以上と増加すると、90度磁壁の移動は渦電流による電磁ブレーキのため著しく遅くなる。しかも表皮深さpが0.2μm?0.8μmとなって、表面磁区の厚み程度となり、磁壁振動は停止する。
一方GSR現象は、表面磁区の厚みを1μmとして、周波数0.5GHz以上、磁性ワイヤの透磁率を3000以上として、表皮深さを0.2μm程度にして、表面スピンの一斉回転を惹起せしめる。
【0041】
式(1)から分かるように、表面磁区の厚みdが1μm程度あり、表皮深さpが0.1μから1μ以下の場合、コイル出力電圧は周波数の平方根に比例する。理由はスピン回転する深さである表皮深さpが周波数の平方根の逆数に比例するためである。
一方厚みdが0.2μmと表皮深さpより小さい場合、スピン回転する深さはpまでは浸透せず、90度磁壁の位置dで固定されるので、p=dと一定となって、コイル出力電圧は周波数に一次比例する。ガラス付ワイヤを使った実験では、コイル出力電圧は周波数の平方根に比例しており、表面磁区の厚みは1μm程度と十分な深さを有していると考えられる。
【0042】
使用した磁性ワイヤは、直径10μmで、アモルファス構造を有し、弱負磁歪特性を持つ磁性Co合金からなり、磁気異方性は1Gまたは5G、比透磁率は2万と3000の高透磁率磁性ワイヤである。そのワイヤに、引張応力を負荷し軸方向と円周方向にそれぞれ磁気異方性Kuと磁気異方性Kθを発生させて、円周方向スピン配列を持つ円周表面磁区と軸方向スピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を形成した。パルス電流の表皮深さpは0.5μmを考慮して、表面磁区の厚みdを1μm程度に制御した。
さらに十分大きなパルス電流で、異方性磁界Hkの1.5倍を超える磁界を発生させて、パルス磁界アニーリング処理を測定毎に行い円周方向に磁化飽和させて磁化履歴を消去した。
【0043】
以上の条件で、純粋にスピンの一斉回転現象のみを惹起することができる。微弱で高速な信号をコイルで検知するためには、微細コイルが必要である。単位長さ当たりのコイルピッチを30μmから10μm以下としコイル内径を15μm以下とし、磁性ワイヤとコイルとの間隔をコイル式MIセンサの10μmから3μm以下として、ワイヤとコイルとの電磁結合を強めて、コイル数Nに比例した出力電圧を得ることに成功した。
【0044】
(7)超高速スピン回転効果型のGSRセンサとコイル検出型のMIセンサを比較して、新原理の特徴を明確にする。
MIセンサは外部磁界H中にある磁性ワイヤまたは磁性薄膜に周波数1MHzから30MHzの高周波電流またはパルス電流を通電した時、インピーダンスが表皮効果のため大きく変化する現象を利用したものである。表面磁区とコア磁区の境界に存在する90度磁壁が振動した時に、透磁率が外部磁界Hに大きく依存して変化し、表皮深さを小さくして大きなインピーダンス変化が起こる。その変化量から外部磁界Hを検知する。センサ長さを5mmのセンサで1mGの優れた感度を実現した。
【0045】
出力は外部磁界に対して正負対称でしかも外部磁界の大きさに対して単調増加し、ある臨界磁界以上では漸減するという非線形特性を持つ。さらに出力は、磁性ワイヤのヒステリシスの影響も強く受けるので、負帰還回路を利用して、そのフィードバック電流の強さから直線的でヒステリシスに小さな出力を得ることが前提となっている。
先行技術であるFGセンサは、一般的な磁区構造を持つパーマロイ等の磁性材料を用いて、周波数30KHzの交流を使って外部磁界Hに比例したコイル出力電圧を取る。MIセンサは30MHzの高周波を活用して1000倍程度の高性能化を実現した画期的な発明であった。表面磁区とコア磁区の境界に存在する90度磁壁が振動するという画期的な発明がその基礎にあった。
【0046】
発明者らが開発したコイル付の改良型MIセンサは、台形状のパルス電流を与えてパルス磁界アニーリングを施して負帰還回路を省略して消費電流の低減に成功したタイプである。またMI素子をMEMSプロセスで製作して長さを3mmから0.6mmへと小型化している。パルス周波数を200MHzにあげることによってコイル出力の向上を図った。同時に磁性ワイヤの異方性磁界を20Gと著しく大きくして測定レンジを拡大した。以上のように小型化と測定レンジの拡大を図ったために、トレードオフ関係にある感度が2mGと大幅に低下している。今後感度の改善とさらなる小型化・測定レンジ拡大が今後の課題となっている。
【0047】
200MGzの周波数は、MI現象を現出する周波数域を超えている。そこで、台形形状のパルス電流のパルスの立下りを利用して、90度磁壁の移動を可能にした。コア内部に浸透した90度磁壁はパルス遮断時に円周方向磁界が消失に伴って、外部磁界の力で90度磁壁がゆっくり表面方向に移動していく。
一方、パルスの立下り時に、表面磁区内のスピンは円周方向磁界の消失に伴って傾斜し始めるが、強い異方性磁界によって傾斜が小さくまた回転速度も遅いものとなってコイル出力の増化が抑制されている。コイル出力は主にMI現象である90度磁壁の移動に起因するが、一部GSR現象であるスピン回転の影響も検出している。
【0048】
MI効果を基礎にしたコイル出力電圧の最大値は外部磁界Hに比例する。本方式はMI現象とGSR現象が混合しているため、直線域が測定領域の1/3程度までに小さくなっている。一方GSRセンサの出力は明確な数学的式が成立しているので、演算処理によって測定領域のすべての範囲で使用することができる。
【0049】
MIセンサの電子回路は、積分回路のコンデンサにコイル電流を蓄積してコイル信号を受けて、その積分電圧を求め、その最大値をピークホールド回路で求めて出力する。MEMSコイルにしたためコイルの抵抗が増加し、積分電圧を獲得する過程で電圧降下(IRドロップ)が生じてしまい問題である。またコイルをメッキプロセスで形成し膜厚を厚くし抵抗を下げる対処しているため、大幅のコストアップになってしまっている。
【0050】
さらに本発明者は、上記MEMSコイル型MIセンサにおいて、パルス周波数を0.2GHzから1GHzと高めることを検討した(特許文献6)。0.5GHzとすると出力を2倍程度向上することができるが、1GHz以上では逆に出力が低下する。これは、MI現象を前提に周波数を高めていくと、コア磁区の90度磁壁の移動による磁化回転と表面磁区の傾斜スピンの一斉回転の両方をコイル電圧として検知するようになる。高周波化しても磁壁の移動は緩慢のままで、表面磁区のスピン回転の影響の方が大きくなる。しかしスピン回転は高速回転が可能であるが磁気信号は微弱であり、内径30μmのコイルではワイヤとコイル間が10μmもあり、電磁結合が弱く十分検知することが出来なかった。スピン回転現象を検知するためには、コイルとワイヤ間の距離を10μmから3μm以下と接近させ、かつ単位長さ当たりのコイルピッチを増やしてワイヤ表面のスピン回転とコイルとの電磁結合を強化する必要がある。
【0051】
また感度と測定レンジの背反問題が存在する中で、MIセンサでは測定レンジは直線近似できる範囲に限られているため広くすることが困難であった。高周波化によって2倍程度の改善はなされている。しかし、それ以上に高周波化に伴う技術課題が噴出し商品化にまでは至らなかった。
高周波パルス発振回路の技術的課題は、コイルと配線回路に付随する寄生容量が増加して、パルス立ち上がりの平滑化、IRドロップによる出力の減衰が発生し、大出力回路が必要となり実用的でなかった。高周波化に伴う電磁誘導電圧の増加は、表面の磁化変化によるコイル電圧よりも大きくなり、その除去が最大の問題となっている。大きな電磁誘導電圧は、信号の増幅度の制約、検出信号の直線性と精度の低下、温度特性の劣化などに大きな誤差を生じさせてしまい、実用的な感度はむしろ低下した。MIセンサを前提にして、周波数を高めるという発想ではトレードオフの網の目に迷い込み性能アップに向けた改善策は発見できないと発明者は判断した。
【0052】
(8)GSRセンサの原理とMIセンサの原理の基本的な違いをまとめる。
MI現象は、周波数を1MHzから30MHzで発現し、表面磁区とコア磁区の境界に存在する90度磁壁の振動に起因するが、GSR現象は0.5GHzから4GHzで生じて、表面磁区のスピン回転に起因する。MIセンサのコイル出力は、出力電圧を積分回路のコンデンサに蓄積し、その電圧と磁界との比例関係から磁界を求める。GSRセンサは、コイルの瞬間電圧をバッハー回路で直接検知し、その電圧と磁界とが式(1)の数学的関係にあることから磁界を求める。MIセンサのコイルを微細化すると抵抗が増加してIRドロップが生じる。そのためコイルの微細化およびコイル巻き数Ncの増加による効果は限定的になる。GSRセンサは、コイルの抵抗が著しく大きくコイルにはごく微量電流しか流れない。コイル出力電圧を電圧のまま直接検知する必要があるのでバッハー回路を介して検知する。コイル巻き数およびコイル微細化による抵抗増加の問題の影響をほとんど受けず、コイルによる検出力を増加させることができる。
【0053】
一方GSR現象を基礎にしたGSRセンサは、駆動パルス周波数を0.5GHzから3GHzと高めて、表面磁区内のスピンを一斉に高速回転させ、発生する高速信号を微細コイルで検出することによって、周波数とコイル巻き数に比例して大きな出力を実現すること
ができる。具体的にはパルスの表皮深さpより表面磁区の深さdを大きくすることで、コイル出力が周波数の平方根に比例して増加することを発見し、かつ微細コイル製作技術と融合することで、驚異的な出力を引出すことに成功した。
【0054】
さらにコイル出力電圧と外部磁界Hは、測定領域±Hmの範囲で、式(1)に示すような明瞭な数学的関係が存在し、ヒステリシスもほとんど生じないので、図3に示すように広い測定範囲の優れた出力特性と低消費電流特性を得ることができる。図3-a)は、外部磁界とコイル出力電圧Vsとの関係を示した。図3-b)は、コイル出力電圧Vsのarcsin変換した換算値と外部磁界Hとの関係を示した。換算電圧値と外部磁界とは測定範囲(最大値から最小値までの範囲)で直線的関係が存在することが良く分かる。
【0055】
この数学的関係の成立は、外部磁界Hに対する表面の円周方向スピンをもつ表面磁区と中央コア部の軸方向スピン磁区の2相の磁区の持つ磁化挙動の違いに着目して、異方性磁界を8G以下にして表面磁区深さを表皮深さ以上に調整し、パルス電流の周波数を0.5GH以上、表皮効果深さを1μm以下として、超高速で円周方向スピン回転のみを純粋に検知できる条件を設定したことに起因している。」

カ 「【発明の効果】
【0077】
超高速スピン回転効果を基礎にした超高感度マイクロ磁気センサは、FGセンサ、MIセンサおよびコイル検出式の改良型MIセンサなどに比べて、センサ出力電圧、センサ感度とセンサ検出力の向上、ノイズ低減、測定レンジの拡大、低消費電流化、温度安定性改善、ヒステリシス特性と直線性の改善およびマイクロサイズ化を実現し、産業上の普及に資する極めて有用なものである。」

キ 「【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の超高速スピン回転現象を基礎とした超高感度マイクロ磁気センサは、微小磁界検知能力、高速測定、高感度、低消費電流、および良質な磁気信号を提供し、電子コンパス、磁気ジャイロ等の微小な地磁気を測定して、3次元方位計およびリアルタイム三次元方位計への応用、生体磁気を測定した医療用センサ、マイクロサイズ化して生体内部での応用、高速測定能力を活用した磁気マッピング応用、さらに測定範囲を拡大した産業用磁気センサなど、幅広い用途で、その使用が期待される。」

(2) 明細書の記載から把握できる事項
上記(1)によれば、本件訂正発明について次の事項が把握できる。

ア 技術分野について
「本件訂正発明は、超高速スピン回転効果(GSR効果)を基礎にした超高感度マイクロ磁気センサ(GSRセンサ)に関する(段落0001)。本件訂正発明の超高感度マイクロ磁気センサは、微小磁界検知能力、高速測定、高感度、低消費電流、及び良質な磁気信号を提供し、電子コンパス、磁気ジャイロ等の微小な地磁気を測定して、3次元方位計及びリアルタイム三次元方位計への応用、生体磁気を測定した医療用センサ、マイクロサイズ化して生体内部での応用、高速測定能力を活用した磁気マッピング応用、さらに測定範囲を拡大した産業用磁気センサなど、幅広い用途で、その使用が期待される(段落0123)。」

イ 解決しようとする課題及び効果について
「本件訂正発明の解決しようとする課題は、MIセンサの100倍程度の性能の磁気センサを実現することである(段落0014)。本件訂正発明の効果は、FGセンサ、MIセンサ及びコイル検出式の改良型MIセンサなどに比べて、センサ出力電圧、センサ感度とセンサ検出力の向上、ノイズ低減、測定レンジの拡大、低消費電流化、温度安定性改善、ヒステリシス特性と直線性の改善及びマイクロサイズ化を実現したことである(段落0077)。」

ウ 超高速スピン回転現象について
「MIセンサは、表面磁区とコア磁区の間にある90度磁壁の振動であるMI現象(magneto-impedance現象)を検知するものであり、特にコイル検出型のMIセンサは、MI現象をコイルで検知することで直線的出力を実現したものであるが、本件訂正発明のセンサは、それとは違い、表面磁区内のスピンの回転のみを純粋に検知する全く新しい原理、つまり超高速スピン回転現象(GSR現象)に基づく新型のGSRセンサであると考えられる(段落0001、0004、0005、0018、0052)。GSR現象においては、コイル出力電圧Vsと外部磁界Hとが、関係式(1)(実験式)を満たす(段落0016、0017、0018)。
関係式(1): Vs=Vo・L・πD・p・Nc・f・sin(πH/2Hm)
MI現象では、表面磁区(厚み0.2μm?0.8μmと考えられる)とコア磁区の境界である90度磁壁が、1MHzから30MHzの周波数域で表皮深さp(1μm?4μm)の幅で振動するが、周波数が0.5GHz以上に増加すると、90度磁壁の移動は渦電流による電磁ブレーキのため著しく遅くなり、しかも表皮深さpが0.2μm?0.8μmとなって表面磁区の厚み程度となるため、磁壁振動が停止してしまうのに対し、GSR現象では、表面磁区の厚みを1μmとして、周波数0.5GHz以上、磁性ワイヤの透磁率を3000以上、表皮深さを0.2μm程度にして、表面スピンの一斉回転を惹起せしめる(段落0040)。つまり、GSR現象は、表面に円周方向スピン配列を持った表面磁区が存在する磁性ワイヤを用いて、GHzの周波数を持ち、かつパルス磁界アニーリング処理を行うのに十分な大きさの電流の励磁パルスを印加し、表皮深さpを表面磁区の厚さdよりも小さくして、円周方向スピンの一斉回転を惹起することで発現する(段落0038、0042、0043)。コイル検出型のMIセンサでは、コイル出力が主にMI現象である90度磁壁の移動に起因し、コイル出力電圧と磁界との比例関係から磁界を求めるものであるが、一部GSR現象であるスピン回転の影響も検出しており、つまりMI現象とGSR現象が混合しているために、直線域が測定領域の1/3程度までに小さくなっているのに対し、GSRセンサでは、電圧と磁界とが関係式(1)の数学的関係にあるので、演算処理によって測定領域のすべての範囲で使用することができる(段落0044、0047、0048、0052)。」

エ パルス電流の周波数について
「本件訂正発明におけるパルス電流の周波数は、f=1/2dt(ただし、dtは立上り、立下り瞬間の遷移時間)で定義される(段落0023)。」


第4 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、「特許第5839527号の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項8に係る発明についての特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求めており、その無効理由の概要は、審判請求書、弁駁書、口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書及び上申書の記載内容を総合すれば、以下の理由1及び理由2のとおりである。

理由1(甲第1号証に記載された発明を引用発明とする無効理由):
本件訂正発明1ないし8は、後記の甲第1号証に記載された発明、並びに甲第2号証ないし甲第19号証、甲第22号証、甲第25号証及び甲第27号証ないし甲第31号証に記載された技術事項に基づき、本件特許の出願前に当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

理由2(甲第4号証に記載された発明を引用発明とする無効理由):
本件訂正発明1ないし8は、後記の甲第4号証に記載された発明、並びに甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証ないし甲第13号証、甲第15号証ないし甲第22号証、甲第25号及び甲第27号証ないし甲第31号証に記載された技術事項に基づき、本件特許の出願前に当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

請求人は、証拠物件として以下の文書を提出した。

甲第1号証: 特開2006-300906号公報
甲第2号証: 国際公開第2009/119081号
甲第3号証: 特開2009-133789号公報
甲第4号証: 国際公開第2010/097932号
甲第5号証: S.Sandacciほか、“Off-Diagonal Impedance in Amorphous Wires and Its Application to Linear Magnetic Sensors”、IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS、IEEE、平成16年11月発行、Vol.40、No.6、p.3505-3511
甲第6号証: T.Uchiyamaほか、“Recent Advances of Pico-Tesla Resolution Magneto-Impedance Sensor Based on Amorphous Wire CMOS IC MI Sensor”、IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS、IEEE、平成24年10月18日掲載、Vol.48、No.11、p.3833-3839
甲第6号証の2: 甲第6号証のダウンロードページ(IEEE Xplore)
甲第7号証: 特開2009-236803号公報
甲第8号証: 毛利佳年雄、“新たな計測制御の世界を開くアモルファスマイクロ磁気センサー”、機能材料、CMC出版、平成12年発行、Vol.20、No.6、p.42-61
甲第9号証: A.Zhukovほか、“High Frequency Giant Magnetoimpedance Effect of amorphous microwires for magnetic sensors applications”、Proceedings of the 8th International Conference on Sensing Technology、平成26年9月4日掲載、p.624-629
甲第9号証の2: 甲第9号証のダウンロードページ(Google)
甲第10号証: L.V.Paninaほか、“Magnetoimpedance in amorphous wires and multifunctional applications: from sensors to tunable artificial microwave materials”、Journal of Magnetism and Magnetic Materials 272-276、ELSEVIER、平成16年発行、p.1452-1459
甲第11号証: 特開2010-256109号公報
甲第12号証: 郡司智行ほか、“アモルファスワイヤの非対称磁気-インピーダンス効果”、日本応用磁気学会誌、(社)日本応用磁気学会、平成9年4月15日発行、Vol.21、No.4-2、p.793-796
甲第13号証: 国際公開第2014/054371号
甲第14号証: 国際公開第03/071299号
甲第15号証: 特開2006-184122号公報
甲第16号証: 特開2001-221839号公報
甲第17号証: 特開2010-273799号公報
甲第18号証: 李昇珍ほか、“ナノ結晶のランダム磁気異方性のシミュレーション”、第38回日本磁気学会学術講演概要集、公益財団法人日本磁気学会、平成26年8月19日発行、p.87
甲第19号証: Manh-Huong Phanほか、“Giant magnetoimpedance materials: Fundamentals and applications”、Progress in Materials Science 53、ELSEVIER、平成19年9月21日掲載、p.323-420
甲第19号証の2: 甲第19号証のダウンロードページ(Science Direct)
甲第20号証: 特開2010-271081号公報
甲第21号証: 国際公開第2012/081377号
甲第22号証: 毛利佳年雄監修、「新しい磁気センサとその応用」、株式会社トリケップス、平成25年9月11日発行
(以上、審判請求書に添付して提出された。)
甲第23号証: “磁気センサーで自動運転 愛知製鋼 20年度めど事業化”、日本経済新聞、日本経済新聞社、平成31年2月27日発行、地方経済面、中部
甲第24号証: 特許第6254326号公報
甲第25号証: 国際公開第2014/115765号
甲第26号証: Wikipedia、“検量線”、平成31年3月22日出力
甲第27号証: 島谷信ほか、“指数関数による磁化曲線の近似法”、電気学会論文誌A、社団法人電気学会、昭和56年9月20日発行、Vol.101、No.9、p.463-470
甲第28号証: 特開2008-134236号公報
(以上、弁駁書に添付して提出された。)
甲第29号証: 毛利佳年雄、“MIマイクロ磁気センサの開発システム-産学官連携のありかた-”、日本応用磁気学会誌、(社)日本応用磁気学会、平成11年8月1日発行、Vol.23、No.8、p.1887-1894
甲第30号証: 特開昭59-7269号公報
甲第31号証: 特開2012-048962号公報
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出された。)

なお、甲第24号証は、本件特許の出願後に発行された文献である。
また、甲第11号証は、後記乙第5号証である特許第4655247号公報に対応する公開特許公報であり、甲第25号証は、後記乙第6号証である特許第5678358号公報に対応する国際公開である。

2 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めており、上記請求人の主張する無効理由の理由1及び理由2について、答弁書、口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書及び上申書の記載内容を総合すれば、概略、以下のとおり主張している。

理由1及び理由2について:
本件訂正発明は、新たに発見した「GSR効果」に基づいて実現されたものであって、従来のMIセンサとは原理的に大きく異なり、かつ顕著な効果を有するものであるから、従来のMIセンサを開示する、請求人が証拠物件として提出した文書に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が本件訂正発明を容易に発明できたということはできない。

被請求人は、証拠物件として以下の文書を提出した。

乙第1号証: V.E.MAKHOTKINほか、“Magnetic Field Sensors Based on Amorphous Ribbons”、Sensors and Actuators A、平成3年発行、No.25-27、p.759-762
乙第2号証: 特許第2617498号公報
乙第3号証: 特許第3645116号公報
乙第4号証: 特許第3801194号公報
乙第5号証: 特許第4655247号公報
乙第6号証: 特許第5678358号公報
乙第7号証: 特許第5747294号公報
乙第8号証: 本藏義信、“GSR効果を活用した高感度マイクロ磁気センサの開発”、磁性材料・部品の最新開発事例と応用技術、株式会社技術情報協会、平成30年3月30日発行、第5節、p.221-229
乙第9号証: Y.Honkuraほか、“The Development of ASIC Type GSR Sensor Driven by GHz Pulse Current”、SENSORDEVICES2018:The Ninth International Conference on Sensor Device Technologies and Applications、平成30年発行
乙第10号証: 上原祐二、「マイクロマグネティックスの手法によるアモルファスワイヤーの動的磁化過程の解析」、第1回日本磁気学会超高感度マイクロ磁気センサ専門研究会、平成27年6月26日公開
乙第21号証: 愛知製鋼株式会社第114回定時株主総会招集ご通知、平成30年発行
乙第22号証: AICHI STEEL、“株主・投資家の皆様へ”(愛知製鋼株式会社ホームページ)、平成30年12月13日出力
乙第23号証: AICHI MI(アイチ・マイクロ・インテリジェント株式会社ホームページ)、平成30年12月13日出力
乙第24号証: 売上高の推移(ローム株式会社ホームページ)、平成30年12月13日出力
(以上、答弁書に添付して提出された。)
乙第11号証: Y.Honkuraほか、“The Development of a High Sensitive Micro Size Magnetic Sensor Named as GSR Sensor Excited by GHz Pulse Current”、2018 PIERS Toyama、IEICE、平成30年発行
乙第12号証: 菅野崇樹ほか、“C-MOSマルチバイブレータ発振形アモルファスワイヤMIマイクロ磁界センサ”、電気学会論文誌E、電気学会、平成8年発行、Vol.116、No.10、p.435-440
乙第13号証: AICHI MI(アイチ・マイクロ・インテリジェント株式会社ホームページ)、令和元年6月8日出力
乙第14号証: 文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム平成28年度利用6大成果賞(賞状)、平成29年2月17日表彰
乙第15号証: AICHI STEEL News Release、“超高感度“MIセンサ”を用いた「磁気マーカシステム」自動運転実証実験開始-国土交通省推進の道の駅「奥永源寺渓流の里」実証実験 同システムで全国初の公道走行-”、愛知製鋼株式会社ホームページ、平成29年11月10日掲載
乙第16号証: 上原祐二、“LLG方程式を使ったGSR効果の理論的検証”、令和元年6月28日作成
乙第17号証: 特許第6506466号公報
乙第18号証: 毛利佳年雄著、「磁気センサ理工学」、株式会社コロナ社、平成10年3月10日発行、p.63-64
乙第19号証: ROHM SEMICONDUCTOR、“インドアナビで最高性能を実現する新型地磁気センサ(MIセンサ)を開発 業界最高精度と最小消費電流で、モバイル機器アプリに進化を提供”、ローム株式会社ホームページ、平成27年6月17日掲載
(以上、口頭陳述要領書に添付して提出された。)


第5 請求人が証拠物件として提出した文書の記載事項
1 甲第1号証について
(1) 記載事項
甲第1号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、作用する磁界の大きさに応じて特性が変化する感磁体を用いて微小な磁界を高い感度で検出するマグネト・インピーダンス・センサ素子に関する。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明(請求項1)において、上記感磁体は、例えば、アモルファスワイヤによって構成することができる。また、この場合、感磁体の直径は、50μm以下であることが好ましい。更には、30μm以下であることが好ましい。この場合には、マグネト・インピーダンス・センサ素子の小型化を図ることができる。また、感磁体の材質としては、例えば、FeCoSiB、NiFe等を採用することができる。
【0017】
また、上記マグネト・インピーダンス・センサ素子は、上記感磁体に通電する電流の変化に伴い、素子に作用する磁界の大きさに応じた誘起電圧が検出コイルに生じる、いわゆるMI(Magneto-impedance)現象を利用して磁気センシングを行うものである。このMI現象は、供給する電流方向に対して周回方向に電子スピン配列を有する磁性材料からなる感磁体について生じるものである。この感磁体の通電電流を急激に変化させると、周回方向の磁界が急激に変化し、その磁界変化の作用によって周辺磁界に応じて電子のスピン方向の変化が生じる。そして、その際の感磁体の内部磁化及びインピーダンス等の変化が生じる現象が上記のMI現象である。
【0018】
また、上記マグネト・インピーダンス・センサ素子は、上記感磁体に通電する電流を10ナノ秒以下で立ち上げたとき、或いは、立ち下げたときに、上記検出コイルの両端に発生する誘起電圧の大きさを計測することで作用する磁界強度を計測し得るように構成することが好ましい。
この場合には、上記のような急激な通電電流の変化により、上記感磁体について、電子スピン変化の伝播速度に近い速度に見合う周回方向の磁場変化を生じさせることができ、それにより充分なMI現象を発現させることができる。
【0019】
10ナノ秒以下で通電電流の立ち上げあるいは立ち下げを実施すれば、およそ0.1GHzの高周波成分を含む電流変化を上記感磁体に作用することができる。そして、上記検出コイルの両端に発生する誘起電圧を計測すれば、周辺磁界に応じて上記感磁体に生じる内部磁界変化を、上記誘起電圧の大きさとして計測でき、さらに精度良く周辺磁界の強度を計測することができる。ここで、通電電流の立ち上げ或いは立ち下げとは、例えば、感磁体に通電する電流の電流値を、定常電流値の10%以下(90%以上)から90%以上(10%以下)に変化させることをいう。
【0020】
また、上記マグネト・インピーダンス・センサ素子は、上記感磁体に通電する電流を立ち下げたときに上記検出コイルの両端に発生する誘起電圧を計測するように構成されていることが好ましい。
通電電流を立ち上げる場合に比べて、通電電流を急激に立ち下げる場合は、磁界の強さに対してマグネト・インピーダンス・センサ素子による計測信号の直線性が良好になる。」

ウ 「【0027】
(実施例1)
本発明の実施例に係るマグネト・インピーダンス・センサ素子につき、図1?図7を用いて説明する。
本例のマグネト・インピーダンス・センサ素子1は、図1に示すごとく、作用する磁界の大きさに応じて特性が変化する感磁体2と、該感磁体2の外周に巻回した検出コイル31、32とを有する。そして、感磁体2に通電する電流の変化に伴い検出コイル31、32のそれぞれの両端に上記磁界の大きさに応じた電位差を発生する。
【0028】
該マグネト・インピーダンス・センサ素子1は、第1磁界検出部11及び第2磁界検出部12を有する。第1磁界検出部11及び第2磁界検出部12は、1本の感磁体2を共有している。この一本の感磁体24の外周に、検出コイル31、32を巻回し、検出コイル31を巻回した部分が第1磁界検出部11となり、検出コイル32を巻回した部分が第2磁界検出部12となる。
【0029】
第1磁界検出部11における検出コイル31の一端は、第2磁界検出部12における検出コイル32の一端と接続されている。そして、図1、図2に示すごとく、第1磁界検出部11における検出コイル31と第2磁界検出部12における検出コイル32とは、逆向きに巻回してある。換言すると、検出コイル31の一端と検出コイル32の一端との接続部分が巻回方向転換部33であり、この巻回方向転換部33を境にコイルの巻回方向が逆転している。この巻回の仕方は、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とのそれぞれに同じ磁界が作用したときに第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とに逆向きの出力電圧が生じるような巻回の仕方となっている。
【0030】
また、図2、図3に示すごとく、マグネト・インピーダンス・センサ素子1は、感磁体2を貫通させるように形成された絶縁体13を有し、上記検出コイル31、32は、絶縁体13の外周面に配設されている。
上記感磁体としては、長さ1.0mm、線径20μmのアモルファスワイヤを利用する。また、絶縁体13としては、エポキシ樹脂を用いる。
【0031】
本例のマグネト・インピーダンス・センサ素子1は、上述したMI現象を利用したものである。そして、本例では、感磁体2に図7(a)に示すパルス状の電流(以下、適宜パルス電流と記載する。)を通電したときに検出コイル31、32の両端の電極341と電極342との間に生じる誘起電圧e(図7(b))を計測することで、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12との間の磁界の強度の差を検出している。
この磁気検出方法は、図7に示すごとく、感磁体2に通電したパルス電流(図7(a))の立ち下がり時に、検出コイル31、32に発生する誘起電圧e(図7(b))を計測するものである。
なお、図7(b)において、実線の曲線と破線の曲線とは、それぞれ一様な磁界が作用したときの第1磁界検出部11及び第2磁界検出部12の検出コイル31、32に生ずる
出力電圧を表す。
【0032】
また、マグネト・インピーダンス・センサ素子1は、図3に示すごとく、深さ5?200μmの断面略矩形状を呈する溝状の凹部15を設けた素子基板14上に形成してある。この凹部15の内周面のうちの相互に対面する各溝側面15aには、溝の深さ方向の導電パターン3aを均一ピッチで複数、配設してある。また、凹部15の溝底面15bには、同一ピッチの導電パターン3aを電気的に接続する導電パターン3bを、溝の幅方向に対して若干斜めとなる方向に設けてある。
【0033】
図2、図3に示すごとく、各溝側面15a及び溝底面15bに導電パターン3a、3bを配設した凹部15の内部には、エポキシよりなる絶縁体13中に、感磁体2を埋設してある。そして、凹部15に充填した絶縁体13の外表面には、相互に対面する溝側面15aの1ピッチずれた導電パターン3aを電気的に接続する導電パターン3cを、溝の幅方向に対して若干斜めとなる方向に設けてある。このようにして、導電パターン3a、3b、3cが一体となることにより、ら旋状に巻回された検出コイル31、32が形成されている。
ただし、図1、図2に示すごとく、検出コイル31と検出コイル32とは、巻回方向転換部33を境にコイルの巻き線方向が反転するように形成されている。
【0034】
なお、検出コイル31、32を形成する方法としては、例えば以下のような方法がある。即ち、凹部15の内周面15a、15bの全面に、導電性の金属薄膜を蒸着したのち、エッチング処理を実施して導電パターン3a及び3bを形成する。そして、導電パターン3cは、絶縁体13の表面全面に、導電性の金属薄膜(図示略。)を蒸着したのち、エッチング処理を実施することにより形成する。
【0035】
本例の検出コイル31、32の捲線内径は、凹部15の断面積と同一断面積を呈する円の直径である円相当内径として66μmを有する。そして、検出コイル31、32の線幅及び線間幅は共に25μmとしてある。なお、図2においては、便宜上線間幅を広く描いてある。
【0036】
また、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とに作用する磁界の感磁体2の軸方向成分に差が生じたとき、連続形成された検出コイル31、32の両端の電極341、342に電位差を生じるよう構成してある。
即ち、上記マグネト・インピーダンス・センサ素子1は、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とを対称性を持たせた状態で形成しており、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とに同じ磁界が作用したときには、連続形成された検出コイル31、32の両端における電極251、253には、電位差が生じないように構成されている。
【0037】
これは、図4の破線B1、B2に示すごとく、周辺磁界が第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とのそれぞれに同様に作用した場合には、同じ大きさであると共に互いに反対符号の出力電圧が生じる。これらの出力電圧(B1、B2)は、それぞれ、電極341と巻回方向転換部33との間、巻回方向転換部33と電極342との間において生じる電圧である。
ところが、図1、図2に示すごとく、第1磁界検出部11の検出コイル31の一端と第2磁界検出部12の検出コイル32の一端とが巻回方向転換部33において接続されているため、上記二つの出力電圧は打ち消し合い、結局、図4の実線B0に示すごとく、マグネト・インピーダンス・センサ素子1全体としての出力電圧は生じないこととなる。
【0038】
そして、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とに作用する磁界の感磁体24の軸方向成分に差が生じたとき、図1に示す検出コイル31、32の両端の電極341、342に電位差を生じる。即ち、例えば、周辺磁界以外の磁界として、計測対象磁界が、第1磁界検出部11に作用し、第2磁界検出部12に作用しないとき、マグネト・インピーダンス・センサ素子1における検出コイル31、32の両端の電極341、342に電位差を生じる。
【0039】
上記マグネト・インピーダンス・センサ素子1は、図6に示すような電子回路5に組み込まれる。即ち、該電子回路5は、マグネト・インピーダンス・センサ素子1と信号発生器52と信号処理部53とからなる。
信号発生器52から発生させたパルス信号は、マグネト・インピーダンス・センサ素子1の感磁体2に入力される。上記信号処理部53は、マグネト・インピーダンス・センサ素子1の検出コイル31、32からの出力電圧を、パルス信号の入力に連動して開閉する同期検波531を介して取出し、増幅器532にて増幅する。
【0040】
また、マグネト・インピーダンス・センサ素子1は、例えば、加速度を検出する加速度センサに組み込んで用いることができる。
加速度センサは、図5に示すごとく、加速度計測の対象物に固定された支持部材41と、該支持部材41に片持梁状に固定端421を固定したカンチレバー42と、該カンチレバー42の自由端422に設けた磁石体43とからなる加速度感知部品4を有する。」

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


「感磁体2」にパルス電流が通電される(段落0031)ということを踏まえて図1を見ると、「マグネト・インピーダンス・センサ素子1」の左右端部近傍の網かけ部分は、「感磁体2」にパルス電流を通電するための「感磁体2の両端の2つの電極」を表していると解される。ここで、図面の簡単な説明(段落0056)の記載によれば、図3は「図1のA-A線矢視断面図」であるが、この図3及び図1によれば、「検出コイル31、32の両端の電極341と電極342」(段落0031)及び「感磁体2の両端の2つの電極」は、「素子基板14」(段落0032)上に形成されることが理解できる。
段落0036には「電極341、342」及び「電極251、253」との記載があるが、両者とも図1に示された電極「341、342」のことであることが明らかであり、また、段落0028等には「感磁体2」及び「感磁体24」との記載があるが、両者とも図1ないし3に示された感磁体「2」のことであることが明らかである。

エ 「【0043】
次に、本例の作用効果につき説明する。
上記マグネト・インピーダンス・センサ素子1は、上記第1磁界検出部11と上記第2磁界検出部12とを有する。そして、第1磁界検出部11における検出コイル31と第2磁界検出部12における検出コイル32とは、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とのそれぞれに同じ磁界が作用したときに第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とに逆向きの出力電圧が生じるような向きに巻回されている。
【0044】
地磁気等の周辺磁界がマグネト・インピーダンス・センサ素子1に作用する場合、周辺磁界は第1磁界検出部11と第2磁界検出部12との双方に同様に作用する。このとき、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とには、互いに逆向きの出力電圧が生じることとなる。ところが、第1磁界検出部11の検出コイル31と第2磁界検出部12の検出コイル32とは、それぞれの一端を接続しているため、逆向きに生じた出力電圧は、互いに打ち消し合うこととなる。その結果、マグネト・インピーダンス・センサ素子1全体の検出コイル31、32の両端の電極341、342から生じる出力電圧としては、上述の打ち消し合った後の出力電圧、即ち第1磁界検出部11の出力と第2磁界検出部12の出力の差分が生じることとなる。
【0045】
特に、同じ磁界が作用したときに第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とに逆向きの同じ大きさの出力電圧が生じるように、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とが形成されていれば、周辺磁界が一様に作用したときに、マグネト・インピーダンス・センサ素子1全体からの出力電圧は出ないこととなる。
【0046】
それ故、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とのいずれか一方を計測対象磁界が作用する位置に配置し、他方を計測対象磁界が作用しない或いは作用しにくい位置に配置して、マグネト・インピーダンス・センサ素子1を使用することができる。これにより、周辺磁界の影響を抑制した状態で、計測対象磁界を高精度で計測することができる。」

オ 「【0055】
また、本発明のマグネト・インピーダンス・センサ素子は、上述した加速度センサの他にも、例えば、圧力センサ、加重センサ等、種々のセンサに用いることができる。」

(2) 甲第1号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「 微小な磁界を高い感度で検出するマグネト・インピーダンス・センサ素子1を組み込んだセンサであって(段落0001、0040、0055)、
マグネト・インピーダンス・センサ素子1、信号発生器52及び信号処理部53からなる電子回路5を備え(段落0039)、
マグネト・インピーダンス・センサ素子1は、作用する磁界の大きさに応じて特性が変化する1本の感磁体2と、該感磁体2の外周に巻回した検出コイル31、32とを有し、感磁体2に通電する電流の変化に伴い検出コイル31、32のそれぞれの両端に上記磁界の大きさに応じた電位差を発生するものであり(段落0027、0028)、
感磁体2の検出コイル31を巻回した部分が第1磁界検出部11となり、検出コイル32を巻回した部分が第2磁界検出部12となり、第1磁界検出部11における検出コイル31の一端は、第2磁界検出部12における検出コイル32の一端と接続され、第1磁界検出部11における検出コイル31と第2磁界検出部12における検出コイル32とは、逆向きに巻回してあり、この巻回の仕方は、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とのそれぞれに同じ磁界が作用したときに第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とに逆向きの出力電圧が生じるような巻回の仕方であって(段落0028、0029)、
マグネト・インピーダンス・センサ素子1は、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とを対称性を持たせた状態で形成しており、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とに同じ磁界が作用したときには、連続形成された検出コイル31、32の両端における電極341、342に電位差が生じず、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とに作用する磁界の感磁体2の軸方向成分に差が生じたときに、連続形成された検出コイル31、32の両端の電極341、342に電位差を生じるよう構成してあり(段落0035、0036)、
感磁体2は、マグネト・インピーダンス・センサ素子の小型化を図るために直径30μm以下であることが好ましいことから、長さ1.0mm、線径20μmのアモルファスワイヤとし、その材質としては、例えば、FeCoSiB、NiFe等を採用することができ(段落0016、0030)、
マグネト・インピーダンス・センサ素子1は、深さ5?200μmの断面略矩形状を呈する溝状の凹部15を設けた素子基板14上に形成してあり、この凹部15の内周面のうちの相互に対面する各溝側面15aには、溝の深さ方向の導電パターン3aを均一ピッチで複数、配設してあり、また、凹部15の溝底面15bには、同一ピッチの導電パターン3aを電気的に接続する導電パターン3bを、溝の幅方向に対して若干斜めとなる方向に設けてあり、各溝側面15a及び溝底面15bに導電パターン3a、3bを配設した凹部15の内部には、エポキシよりなる絶縁体13中に、感磁体2を埋設してあり、そして、凹部15に充填した絶縁体13の外表面には、相互に対面する溝側面15aの1ピッチずれた導電パターン3aを電気的に接続する導電パターン3cを、溝の幅方向に対して若干斜めとなる方向に設けてあり、このようにして、導電パターン3a、3b、3cが一体となることにより、ら旋状に巻回された検出コイル31、32が形成され、更に、検出コイル31、32の両端の電極341と電極342及び感磁体2の両端の2つの電極が、素子基板14上に形成されており、検出コイル31、32の捲線内径は、凹部15の断面積と同一断面積を呈する円の直径である円相当内径として66μmを有し、検出コイル31、32の線幅及び線間幅は共に25μmとしてあり(段落0032、0033、0035、図1、3)、
マグネト・インピーダンス・センサ素子1は、いわゆるMI(Magneto-impedance)現象を利用して磁気センシングを行うものであり、感磁体2にパルス状の電流(パルス電流)を通電して、パルス電流の立ち下がり時に検出コイル31、32の両端の電極341と電極342との間に生じる誘起電圧eを計測することで、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12との間の磁界の強度の差を検出しており、このMI現象は、供給する電流方向に対して周回方向に電子スピン配列を有する磁性材料からなる感磁体の通電電流を急激に変化させると、周回方向の磁界が急激に変化し、その磁界変化の作用によって周辺磁界に応じて電子のスピン方向の変化が生じて、感磁体の内部磁化及びインピーダンス等の変化が生じる現象であって(段落0017、0031)、
マグネト・インピーダンス・センサ素子1は、感磁体に通電する電流を10ナノ秒以下で立ち下げたときに、検出コイルの両端に発生する誘起電圧の大きさを計測することで作用する磁界強度を計測し得るように構成することが好ましく、10ナノ秒以下で通電電流の立ち下げを実施すれば、およそ0.1GHzの高周波成分を含む電流変化を感磁体に作用することができ、ここで、通電電流の立ち下げとは、例えば、感磁体に通電する電流の電流値を、定常電流値の90%以上から10%以下に変化させることをいい(段落0018、0019)、
信号発生器52から発生させたパルス信号が、マグネト・インピーダンス・センサ素子1の感磁体2に入力され、信号処理部53が、マグネト・インピーダンス・センサ素子1の検出コイル31、32からの出力電圧を、パルス信号の入力に連動して開閉する同期検波531を介して取出し、増幅器532にて増幅するようになっており(段落0039)、
第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とのいずれか一方を計測対象磁界が作用する位置に配置し、他方を計測対象磁界が作用しない或いは作用しにくい位置に配置して使用することで、地磁気等の周辺磁界がマグネト・インピーダンス・センサ素子1に作用する場合、周辺磁界は第1磁界検出部11と第2磁界検出部12との双方に同様に作用するため、第1磁界検出部11と第2磁界検出部12とに、互いに逆向きの出力電圧が生じて打ち消し合うこととなり、これにより、周辺磁界の影響を抑制した状態で、計測対象磁界を高精度で計測することができる(段落0044、0046)、
センサ。」

2 甲第2号証について
(1) 記載事項
甲第2号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

「技術分野
[0001] 本発明は、ヒステリシス特性に優れた感磁ワイヤ、その感磁ワイヤを用いたマグネトインピーダンス素子(以下、「MI素子」と記す)およびマグネトインピーダンスセンサ(以下、「MIセンサ」と記す)に関する。
背景技術
[0002] CoFeSiB系合金のアモルファスワイヤに高周波のパルス電流を流すと表皮効果により、インピーダンスが磁界によって変化するマグネトインピーダンス効果(以下、「MI効果」と記す)が知られている。この変化をアモルファスワイヤに巻回した検出コイルによって検出するMI素子を利用した高感度磁気センサ、すなわちMIセンサは、現在、携帯電話などに使用されている。しかし、従来のセンサは、ヒステリシス特性が悪いという問題がある。この問題は、感磁ワイヤであるアモルファスワイヤの磁区構造に起因する。
[0003] 従来のMIセンサに使用されていた感磁ワイヤとして、例えば、再公表特許WO2005/019851号公報に開示がある。そこには、張力アニールした20μmを有するアモルファスワイヤおよびこれを用いた長さ1mm以下、高さ0.5mmのMI素子が開示されている。しかし、その公報に開示されたアモルファスワイヤのヒステリシス特性は約2%程度と大きい。
このような従来の感磁ワイヤを構成するアモルファスワイヤ内部の磁区構造を模式的に示した斜視図を図6に示す。感磁ワイヤ9は、磁区構造の違いにより表層部91とコア部92の2層に分かれる。表層部91では、スピンが一定の円周方向へ向いている。それゆえ、スピン全体が円周として閉じた状態となっているため、表層部91に磁壁は全く存在しない。
一方、表層部91の内周側にあるコア部92では、多磁区構造を有し、多くの磁壁が存在する。また、表層部91とコア部92の界面でも、各スピンの向きが不連続的に変化するため、磁壁が存在する。
このように従来の感磁ワイヤ9は、表層部91ではスピンが一定の円周方向を向いたスピン構造(配列)をもつが、コア部92では多磁区構造を有し、全体として磁気的複合構造となっていた。そして、コア部92の多磁区構造部分に存在する磁壁および表層部91とコア部92の界面に存在する磁壁が、感磁ワイヤ9またはそれを用いたセンサのヒステリシス特性を劣化させる原因となっていた。
特許文献1:再公表特許WO2005/019851号公報
発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0004] 本発明は、磁気センサなどに好適なヒステリシス特性に優れる感磁ワイヤと、それを用いたMI素子およびMIセンサを提供する。
課題を解決するための手段
[0005] ヒステリシスの発現は、多磁区構造をもつ感磁ワイヤ内部の磁壁が、磁場印加時に移動することに起因する。そこで本発明者は、先ず、磁壁を有する多磁区構造を、磁壁を全く有しないボルテックススピン構造にすることを思いつき、ボルテックススピン構造の感磁ワイヤを得ることに初めて成功した。この成果を発展させることで、以下に述べる一連の本発明を完成させるに至った。
《感磁ワイヤ》
(1)本発明の感磁ワイヤは、ボルテックススピン構造を有することを特徴とする。
ここで「ボルテックススピン構造」とは、ワイヤ表層部で各スピンが一定の円周方向に連続的に配列していると共に、その表層部の内周側である内側部では各スピンがアモルファスワイヤの中心に近づくに従って徐々に円周方向から軸方向に回転していきそのワイヤ中心では軸方向に向く、連続的なスピン配列となる構造をいう。なお、ここでいう「スピン」とは、1原子当たりの磁気モーメントをいう。また、ボルテックススピン構造は、上記内側部の構造のみからなってもよい。内側部が占める領域は、ワイヤの組成、内部応力、形状により大きくなったり、小さくなったりする。
[0006](2)図1は、ボルテックススピン構造を有する感磁ワイヤを模式的に説明する斜視断面図である。断面Aはワイヤの軸方向に垂直な面であり、断面Bはワイヤの軸方向に沿った中央部で切断した面である。
感磁ワイヤ1は、スピン配列の異なる表層部11と内側部12の2層からなる。先ず表層部11について説明する。断面Aの表層部11では、スピンが一定の円周方向へ向いている。それゆえ、スピンは全体として連続的に配列し円周方向に閉じて(循環または還流して)おり、表層部11に磁壁は全く存在しない。そして表層部11を構成する断面BのX1-X2-X3-Y1領域(図1では、代表例としてX1-X5線で示す)に存在する各スピンは、表層部11の最表面と同じスピン配列となっている。
[0007] 次に内側部12のスピン配列を説明する。断面B上のY1-X3-X6-Y3領域(図1では、代表例としてX5-X6線で示す)で、表層部11と内側部12との境界(X5)でのスピンは、表層部11のスピンと同じ向きである。X5からX6に向かうにつれて、すなわち、軸中心に近づくにつれて、スピンはその向きを円周方向から軸方向に向けて徐々に傾斜していき、軸中心(X6)において軸方向(感磁ワイヤ1の中心線方向)に向きが一致する。このようなスピン傾斜配列は、断面B上のY1-Y2線上においても、さらには断面BのY1-X3-X6-Y3領域中のいずれの部分でも同様に存在する。
このように本発明に係る感磁ワイヤ1の内側部12には磁壁が存在しない。また、表層部11と内側部12の界面でも、スピンは連続的に配列しており磁壁が存在しない。このようなスピン配列全体を本発明ではボルテックスピン構造と呼んでいる。なお、本明細書でいう「スピン配列」は、主に、各スピンの磁気モーメントの分布状況を意味するが、適宜単に「スピン配列」を「スピン」とも呼ぶ。
[0008](3)本発明の感磁ワイヤは、例えば、MIセンサに使用される。MIセンサの概略は次の通りである。
すべてのスピンは、印加された磁場である印加磁場の大きさに応じて、その印加磁場の方向に傾く。感磁ワイヤにパルス電流が流れると、そのパルス電流により、感磁ワイヤの円周方向に磁場が形成され、感磁ワイヤ中のスピンは円周方向に向く。この感磁ワイヤのスピンの回転による変化を、MIセンサは、ピックアップコイルで検出したり、ワイヤのインピーダンス変化を検出したりする。
[0009]《感磁ワイヤの付加的構成》
本発明をより具体的にする付加的構成について説明する。なお、以下に述べる内容は、本発明に係る感磁ワイヤのみならず、それを用いたMI素子やMIセンサにも適宜適用される。そして本発明の感磁ワイヤは、下記の内容から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成が、上述した構成に加えられ得る。なお、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
(1)ここで内側部の厚さ(図1の内側部11の「d」)は、最大でワイヤの半径までを取ることができる。
本発明のボルテックススピン構造は、薄膜などの2次元の構造(ナノドットの分野)ではなく、3次元の構造である。この3次元のボルテックススピン構造に関する知見は本発明が初めてである。
スピンの回転だけでなく磁壁の移動も検出していた従来の3次元の構造と異なり、本発明のボルテックススピン構造では磁壁(磁区)が存在しない。このため、本発明のMIセンサでは、完全にスピンの回転だけが検出され、ヒステリシスがゼロという優れた効果を有する。よって、本発明は磁壁(磁区)を有しない感磁ワイヤでもある。」

【図6】

【図1】


(2) 甲第2号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第2号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「従来のMIセンサに使用されていた感磁ワイヤは、磁区構造の違いにより表層部とコア部の2層に分かれ、表層部では、スピンが一定の円周方向へ向いて、スピン全体が円周として閉じた状態となっているため、表層部に磁壁は全く存在しないのに対し、表層部の内周側にあるコア部では、多磁区構造を有し、多くの磁壁が存在しており、これが感磁ワイヤまたはそれを用いたセンサのヒステリシス特性を劣化させる原因となっていたことから、これを解決するため、磁壁を全く有さず、ワイヤ表層部で各スピンが一定の円周方向に連続的に配列していると共に、その表層部の内周側である内側部では各スピンがアモルファスワイヤの中心に近づくに従って徐々に円周方向から軸方向に回転していきそのワイヤ中心では軸方向に向く、連続的なスピン配列となる構造(ボルテックススピン構造)の感磁ワイヤをMIセンサに使用する(段落0003、0004、0005、0008)。」

3 甲第3号証について
(1) 記載事項
甲第3号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度に磁気を検出することが可能な磁気センサを用いた外部磁界の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小な磁界を高精度に検出する磁気センサとして、磁気インピーダンス効果素子(MI素子)を利用したMIセンサがある。MIセンサは、MI素子の感磁体であるアモルファスワイヤや磁性体薄膜の周囲または近傍に検出コイルを配置して、直交フラックスゲートセンサのように使用することがある。具体的には、MI素子に矩形パルスのような高周波パルス電流を印加した状態で、感磁体に外部磁界がかかると、その外部磁界に応じた磁化の回転が起こり、検出コイルに誘起電圧が生じる。この誘起電圧の大きさを、例えばサンプルホールド回路を用いて測定することにより、感磁体にかかった外部磁界の大きさを測定することができる。
【0003】
このタイプの磁気センサの精度を向上させるために、帰還回路を利用したり、通電電流の遮断に同期して誘起電圧を測定する(例えば特許文献1を参照)等の方法が取られてきた。
【特許文献1】特許第3801194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通電電流の遮断に同期して誘起電圧を測定する場合、図1に示すように、磁化の向きが一方向に揃っている通電状態(図1(a)参照)から、電流遮断により一斉に磁化の回転が起こる(図1(b)参照)ので、リニアリティやヒステリシスが向上すると考えられる。遮断とは逆に、電流印加のタイミングで誘起電圧を測定する場合は、磁化の向きが統一されていない無通電状態(図2(a)参照)から、電流印加により磁化の回転が起こる(図2(b)参照)ので、リニアリティやヒステリシスが悪い。
【0005】
しかし、パルス電流の遮断に同期して誘起電圧を測定する場合、磁化の向きの初期状態は通電により一方向に揃っている状態となるが、遮断後の磁化の状態は統一されていない。よって、より高い精度を求める場合には限界がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、より高精度に磁気を検出することが可能な磁気センサを用いた外部磁界の測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、外部磁界により磁気特性が変化する感磁体と、前記感磁体に電流を供給する駆動回路と、前記感磁体の周囲または近傍に配され、前記感磁体の磁気特性の変化を電圧の変化として誘起する検出コイルと、前記検出コイルに誘起された電圧の大きさである誘起電圧値をサンプルホールドするサンプルホールド回路を備えた磁気センサを用いて、前記誘起電圧値に基づき、外部磁界の大きさを測定する方法であって、前記駆動回路から前記感磁体に供給される電流は、通電方向が第1の方向からその反対である第2の方向に逆転する波形を有するパルス電流であり、前記サンプルホールド回路は、前記通電方向が前記第1の方向からその反対である第2の方向に逆転する期間のうち前記第2の方向に反転しているときに同期して前記誘起電圧値をサンプルホールドするものであることを特徴とする磁気センサを用いた外部磁界の測定方法を提供する。
本発明において、前記パルス電流は、前記通電方向が逆転される前および後において前記感磁体が単磁区構造となる電流値をとる波形を有するものであることが好ましい。」

イ 「【0029】
図7に示すように電流遮断のタイミングで磁気検出を行う方法は、図6に示すように電流印加のタイミングで磁気検出を行う方法に比べ、リニアリティ特性およびヒステリシス特性がともに優れているが、図8に示すように、通電方向を逆転させ、反転のタイミングで磁気検出を行う方法では、リニアリティ特性およびヒステリシス特性がさらに向上しており、感度も上昇している。図8の例における反転後の電流値(75mA)は、図6,図7の電流値(150mA)の半分であるが、驚くべきことに、より高い感度が得られたのである。また、反転後の電流値を図6,図7に示す例と同じ150mAまで上げた図9の例では、感度は、図6,図7の3倍近くにも上昇した。
【0030】
このような磁気センサは、通電する電流値が高いほど高感度になるが、必要な感度、リニアリティおよびヒステリシス特性が得られる場合、通電電流値を落とすことも可能であり、消費電力も従来より低減することが可能になると考えられる。」

(2) 甲第3号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第3号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「磁気インピーダンス効果素子(MI素子)を利用したMIセンサにおいて、駆動回路から感磁体に供給される電流を、通電方向が第1の方向からその反対である第2の方向に逆転する波形を有するパルス電流とし、通電方向が第2の方向に反転しているときに同期して誘起電圧値をサンプルホールド回路によりサンプルホールドするようにし、パルス電流を、通電方向が逆転される前及び後において感磁体が単磁区構造となる電流値をとる波形を有するものとすることで、リニアリティ特性及びヒステリシス特性を向上させることができ、また、通電する電流値が高いほど高感度になるが、必要な感度、リニアリティ及びヒステリシス特性が得られる場合は、通電電流値を落とすことで消費電力を低減することも可能である(段落0002、0007、0029、0030)。」

4 甲第4号証について
(1) 記載事項
甲第4号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、磁気センサに用いられるアモルファスワイヤを組み込んだマグネトインピーダンスセンサ素子(以下、MI素子という。)の小型化、薄型化に関する。
背景技術
[0002] 図12に、従来のMI素子の構造を示す(特許文献1)。
MI素子9は、基板上91の中心部にアモルファスワイヤ92を固定し、その基板周辺を検出コイル93が巻きつけられている。アモルファスワイヤ92は長さ4mm、直径30μmを使用し、MI素子の大きさは幅3mm、高さ2mm、長さ4mmなどが一般的である。
上記従来のMI素子は、磁気センサとして適用すると高感度化、小型化はある程度達成したが、高性能磁気センサ(以下、MIセンサという。)として小型化は必ずしも十分ではなかった。
MI素子の磁性体コアであるアモルファスワイヤは加熱によるはんだ接合では結晶化がおこるために、アモルファスワイヤの両端と電極との間には超音波ボンディングなどによる電気的結合を行っている。アモルファスワイヤの両端にこの電気的結合部を必要とするためにアモルファスワイヤは長くなる。
また、アモルファスワイヤの磁気的性質は外部応力による歪みの影響を受けやすいのでアモルファスワイヤをゲル状物質で被覆している。そして、検出コイルは基板の上にてゲル状物質で被覆したアモルファスワイヤと基板とを外周から巻く構造のため太くなる。
そのためにMI素子のサイズは大きなものとなり、小型化には困難であった。
特許文献1:特開2001-296127号公報」

イ 「[0030] 本発明のMI素子は、小型化、薄型化を達成するために基板の厚さを薄くするとともに基板上に配設されるバルクのアモルファスワイヤの大きさを小さくする必要がある。
すなわち、バルクのアモルファスワイヤの直径(円相当直径を意味するが、以下、直径と記す)を小さくすることであり、現在製造されている直径としては8?30μmが容易に適用でき、長さは1mm以下が好ましい。アモルファスワイヤの直径を大きくするとMI素子の高さが高くなり、薄型化が達成できない。
また、MIセンサのヒステリシスは少ない方が好ましいためにアモルファスワイヤの直径は20μm以下とすることがよい。」

ウ 「[0039] (実施例1)
本発明の平面型MI素子の第1実施例について、図1および図2を用いて説明する。図1は、平面型MI素子1の正面を示す概念図であり、図2は、第1図のB-B矢視図である。
[0040] 図1、図2に示すごとく、本発明のマグネトインピーダンスセンサ素子1は、非磁性体からなる基板11を備える。また、基板表面の平坦面に配列された複数の第1導体膜311からなる平面パターン31を備える。そして、複数の第1導体膜311を横断するように平面パターン31の配列方向に沿って配設された断面円形状のアモルファスワイヤ2を備える。さらに、アモルファスワイヤ2の外周面を覆うとともに、アモルファスワイヤ2を平面パターン31上に固定する絶縁体4を備える。
また、絶縁体4の外表面と平面パターン31の表面とに渡って形成されると共にアモルファスワイヤ2を横断するように配列された複数の第2導体膜321からなる立体パターン32を備える。
また、平面パターン31と立体パターン32とは、第1導体膜311の端部と第2導体膜321の端部とを積層した状態で接合してなる積層接合部を基板表面の平坦面上におけるアモルファスワイヤ2の両脇に形成することにより、平面パターン31と立体パターン32とが一体化してなる検出コイル3を絶縁体4の周囲に形成してなる。
絶縁体4は、アモルファスワイヤ2の軸線に垂直な断面において、平面パターンに平行な方向の幅寸法が、平面パターンに近づくほど大きくなる裾広がり形状を呈している。
[0041] また、図2に示すごとく、絶縁体4は、アモルファスワイヤ2の軸線に垂直な断面における平面パターン31に平行な方向の幅寸法の最大値をLとし、アモルファスワイヤ2の直径をdとした場合、L/dが1.3?5の範囲内に収まる形状に構成されている。
[0042] また、図2に示すごとく、絶縁体4は、平面パターン31の表面を覆う平面絶縁部41と、平面絶縁部41とアモルファスワイヤ2との間に介在し、アモルファスワイヤ2を基板11に対して固定するワイヤ固定部42と、アモルファスワイヤ2と立体パターン32との間に介在し両者の間を絶縁する立体絶縁部43との3部分を有し、少なくともワイヤ固定部42は、固化前において液状樹脂を用いて形成されている。
[0043] また、平面絶縁部41は、ワイヤ固定部42形成前にワイヤ固定部42とは別個に形成された膜状形状を呈する。
また、立体絶縁部43は、ワイヤ固定部42とは別個に形成された膜状形状を呈する。
[0044] 図1、図2に示すごとく、基板11は、非磁性かつ絶縁性を有するアルミナ基板にて幅0.3mm、厚さ0.3mm、長さ1.0mmの大きさからなる。
アモルファスワイヤ2は零磁歪であり、合金組成は(Co_(94)Fe_(6))_(72.5)Si_(12.5)B_(15))であって、主相がアモルファス相からなり、直径30μm、長さ0.9mmである。このアモルファスワイヤ2は回転液中紡糸法で作製した。アモルファスワイヤ2は、下記に説明する第1導体膜311を横断するように平面パターン31の配列方向に沿って、第1導体膜311の上面に形成された絶縁層である平面絶縁部41の上面に配設されている。なお、ガラス被覆付きワイヤ以外の他の実施例等に用いられるアモルファスワイヤも同様に作製した。
[0045] 検出コイル3は、平面パターン31と立体パターン32とからなり螺旋状に形成されている。
平面パターン31は、基板11の平坦面上に導電性を有する幅15μm、厚さ2μmのリボン状の第1導体膜311を15本配列されている。
一方、立体パターン32はアモルファスワイヤ2を内包するように形成された立体絶縁部43の外表面と平面パターン31の表面に渡って形成されると共に第1導体膜311と同じ方向に配列された15本の導電性を有する幅15μm、厚さ2μmのリボン状の第2導体膜321からなる。
[0046] すなわち、平面パターン31と立体パターン32とは、第1導体膜311の端部と第2導体膜321の端部とを積層した状態で接合してなる積層結合部をアモルファスワイヤ2の両脇に形成することにより、平面パターン31と立体パターン32とが一体となって15回の巻数からなる螺旋状の検出コイル3を形成する。
…(略)…
[0048] 絶縁体4は、基板表面11の平坦面上に形成された平面パターン31とアモルファスワイヤ2との絶縁のために平面パターン31の上面に形成する平面絶縁部41と、平面絶縁部の上面にアモルファスワイヤ2を固定するワイヤ固定部42と、ワイヤ固定部42の上面に配設したアモルファスワイヤ2と立体パターン32との絶縁のためにアモルファスワイヤ2を内包する立体絶縁部43とから形成されている。
…(略)…
[0052] 電極5は基板11の平坦面上にアモルファスワイヤ2の端子51と検出コイル3の端子52の計4個が焼き付けられている。その電極にはアモルファスワイヤ2の両端と検出コイル3の両端とが接続されている。
[0053] 前記のように構成されているMI素子の大きさは、基板11の大きさである幅0.3mm、長さ1.0mmと、厚さは基板11の厚さ0.3mmにアモルファスワイヤ2の直径30μm、長さ0.9mm、平面絶縁部41の厚さ2μm、立体絶縁部43の厚さ2μmと平面パターン31および立体パターン32の厚さ2μmの和からなる約0.35mmである。検出コイルの捲線数は15回である。
[0054] 本発明のマグネトインピーダンスセンサ素子(MI素子)を使用したMIセンサ6の電子回路を図3を用いて説明する。MIセンサ6は、MI素子1、パルス発振回路61、信号処理回路62からなる。センサの動作は以下のようである。パルス発振回路61により発生した約200MHz相当の高周波のパルス電流をMI素子1中の感磁ワイヤ2へ供給すると、検出コイル3に外部磁場とパルス電流によるワイヤ円周方向の磁場との作用による外部磁場に対応した電圧が発生する。ここでの周波数は、図4(a)にしめすようにパルス電流波形7中のパルスの立ち上がり、若しくは、立り下りの時間Δtを求め、そのΔtを、図4(b)に示すように、波の4分の1周期に相当するとして求めたものである。次に、サンプルタイミング調整回路621により前記パルス電流が立ち上がったあと、所定のタイミングでアナログスイッチ622を短時間スイッチをオンーオフする。これによりアナログスイッチ622は、検出コイル3に発生した外部磁場に対応した電圧をサンプリングし増幅器623に伝える。パルス電流を遮断するとき(立ち下がりのとき)も同様のことが行える。この構成は一例であり、公知のMIセンサの電子回路においても同様の効果を得ることができる。本明細書においては、立下り時を測定している。
本例においてはアモルファスワイヤ2に200MHzに相当する170mAのパルス信号を入力し、検出コイル3に外部磁界により発生する電圧を測定した。
なお、溝方式のMI素子における基板の大きさは、基板の大きさは幅0.5mm、厚さ(高さ)0.5mm、長さ1.0mmである。なお、基板上の溝の深さ0.05mm、幅0.07mmである。そして、アモルファスワイヤは長さ0.9mm、直径30μmと実施例1と同じ物を使用し、検出コイルの巻線数は実施例1と同じ15回である。
…(略)…
ここで、実施例1の検出コイルの円相当径は約43μmである。ここで円相当径は、検出コイル厚さの中心部で囲まれる断面と同一面積となる円の直径をいう。また、アモルファスワイヤに対する検出コイルの近接度を示す近接指数n=検出コイルの円相当径/アモルファスワイヤ直径は、実施例1において、n=1.4となった。
一方、従来例においての検出コイルの円相当径は67μmである。アモルファスワイヤに対する検出コイルの近接度を示す近接指数n=検出コイルの円相当径/アモルファスワイヤ直径は、従来例において、n=2.2となった。
両者を比較すると本発明は従来例に比べ非常に近接して巻くことできた。更に、本実施例においては、L/dは2.2と1.3?5の範囲内である。
本明細書において、MI素子の能力は、±3Gの交番磁界を印加したときの±の出力から求めた感度で評価した。
実施例1におけるMI素子の感度は51mV/Gaussであった。一方、従来例の溝型のMI素子の感度は40mV/Gaussであった。
以上の結果より、本発明の実施例は、小型化・薄型化しているにも係わらず従来のMI素子以上の感度が得られた。」

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


図3では、「サンプルタイミング調整回路621」、「アナログスイッチ622」及び「増幅器623」が「信号処理回路62」の構成であることが示されている。

エ 「[0060](実施例2)
実施例2は、実施例1及び従来例のアモルファスワイヤの材質は同じまま、ワイヤの直径を30μmから10μmと小径化し、長さを0.9mmから0.57mmへと短く変更し、それに伴い、基板の長さも1.0mmから0.6mmへと短くしたものである。その他の条件は実施例1と同じである。
その結果、実施例2の検出コイルの円相当径は約19μmと、実施例1の約43μmに比べ大幅に小型化でき、全体としての基板高さを更に小型化できる。また、近接指数n=検出コイルの円相当径/アモルファスワイヤ直径は、実施例1において、n=1.9となり、実施例1よりは劣るものの、従来例のn=2.2に比べ近接巻きとなっている。
更に、L/d=2.8と1.3?5の範囲内である。
また、実施例2におけるMI素子の感度は49mV/Gaussであり、従来例の溝型のMI素子の感度の40mV/Gaussを超える優れた特性が得られた。
…(略)…」

オ 「[0068](実施例6)
本発明の平面型MI素子の第6実施例について、図10を用いて説明する。図10は、第6実施例における図1のB-B矢視図である。
[0069] 本例においては、図10に示すように第1実施例における立体パターン32を構成する第2導体膜321の一部は、アモルファスワイヤ2の外周面に膜状に形成された立体絶縁部43を介してアモルファスワイヤ2の外周面の形状に沿った形状に形成されている。
また、第2導体膜321の円弧状の部分から第1導体膜に渡って、アモルファスワイヤ2から離れる曲面状ではなく平面状に形成されている。
…(略)…
[0073] 前記のように構成されているMI素子の大きさは、基板11の大きさである幅0.3mm、長さ0.6mmと、厚さは基板11の厚さ0.3mmにアモルファスワイヤ2の直径10μm、長さ0.57mm、平面絶縁部41の厚さ1.5μm、立体絶縁部43の厚さ1.5μmと平面パターン31および立体パターン32の厚さ2μmの和からなる約0.32mmである。
[0074] 次に、本発明の超小型MI素子の特性を評価した。アモルファスワイヤ2に200MHzに相当する170mAのパルス信号を入力し、検出コイル3に外部磁界により発生する電圧を測定した。
本実施例6は、実施例1を変形した実施例2の絶縁部の材質、厚さ、形状を変化させ、その他は同一緒元、同1条件であり、検出コイルを最近接構造としたものである。本実施例6の円相当径は16μmと、実施例2の19μmに対して更に小径化され、検出コイルの近接指数nは、実施例6において、n=1.6と実施例2のn=1.9に対して近接巻きできている。
その結果、本実施例のMI素子の感度は53mV/Gaussであり、比較対象である実施例2の感度49mV/Gaussよりセンサ特性が向上している。」

【図10】


(2) 甲第4号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第4号証には、以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

「 MI素子(マグネトインピーダンスセンサ素子)1、パルス発振回路61、信号処理回路62からなるMIセンサ(高性能磁気センサ)6であって(段落0001、0002、0054)、
MI素子1は、非磁性体からなる基板11、基板表面の平坦面に配列された複数の第1導体膜311からなる平面パターン31、複数の第1導体膜311を横断するように平面パターン31の配列方向に沿って配設された断面円形状のアモルファスワイヤ2、アモルファスワイヤ2の外周面を覆うとともに、アモルファスワイヤ2を平面パターン31上に固定する絶縁体4、絶縁体4の外表面と平面パターン31の表面とに渡って形成されると共にアモルファスワイヤ2を横断するように配列された複数の第2導体膜321からなる立体パターン32、及び基板11の平坦面上に焼き付けられているアモルファスワイヤ2の端子51と検出コイル3の端子52とからなる計4個の電極5を備え、平面パターン31と立体パターン32とは、第1導体膜311の端部と第2導体膜321の端部とを積層した状態で接合してなる積層接合部を基板表面の平坦面上におけるアモルファスワイヤ2の両脇に形成することにより、平面パターン31と立体パターン32とが一体となって15回の巻数からなる螺旋状の検出コイル3を絶縁体4の周囲に形成し(段落0040、0046、0052)、
絶縁体4は、平面パターン31の表面を覆う平面絶縁部41と、平面絶縁部41とアモルファスワイヤ2との間に介在し、アモルファスワイヤ2を基板11に対して固定するワイヤ固定部42と、アモルファスワイヤ2と立体パターン32との間に介在し両者の間を絶縁する立体絶縁部43との3部分を有し、立体パターン32を構成する第2導体膜321の一部は、アモルファスワイヤ2の外周面に膜状に形成された立体絶縁部43を介してアモルファスワイヤ2の外周面の形状に沿った形状に形成され、第2導体膜321の円弧状の部分から第1導体膜に渡って、アモルファスワイヤ2から離れる曲面状ではなく平面状に形成され(段落0042、0069)、
アモルファスワイヤ2は零磁歪であり、合金組成は(Co_(94)Fe_(6))_(72.5)Si_(12.5)B_(15))であって、主相がアモルファス相からなり、回転液中紡糸法で作製され(段落0044)、
MI素子の小型化、薄型化を達成するためには基板の厚さを薄くするとともに基板上に配設されるバルクのアモルファスワイヤの大きさを小さくする必要があるため、アモルファスワイヤの直径を10μmと小径化し、長さを0.57mmと短くし、その結果、検出コイルの円相当径は16μmと小径化され(段落0030、0060、0073、0074)、
パルス発振回路61により発生した約200MHz相当の高周波で170mAのパルス電流をMI素子1中の感磁ワイヤであるアモルファスワイヤ2へ供給すると、検出コイル3に外部磁場とパルス電流によるワイヤ円周方向の磁場との作用による外部磁場に対応した電圧が発生し、ここでの周波数は、パルス電流波形7中のパルスの立ち上がり、若しくは、立ち下りの時間Δtを求め、そのΔtを波の4分の1周期に相当するとして求めたものであり、次に、信号処理回路62では、サンプルタイミング調整回路621により前記パルス電流の立下り時に、所定のタイミングでアナログスイッチ622を短時間スイッチをオンーオフし、これによりアナログスイッチ622は、検出コイル3に発生した外部磁場に対応した電圧をサンプリングして増幅器623に伝える(段落0054)、
MIセンサ6。」

5 甲第5号証について
(1) 記載事項
甲第5号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものであり、訳文は請求人が記載したものを参考に合議体が作成したものである。

ア 第3505頁右欄第8行ないし第3506頁第4行
「 Generally, impedance Zw in a wire is understood as a ratio of voltage Vw measured across it to a passing ac current i, as shown in Fig. 1(a). In wires with a circumferential anisotropy this quantity is very sensitive to a dc axial magnetic field Hex, as a result of the skin effect and ac transverse magnetization. In the megahertz range, the real and imaginary parts of the function Zw(Hex) are symmetrical having two identical peaks at Hex=±HK, where HK is the characteristic anisotropy field. For a helical static magnetization, the ac current induces also a voltage Vc in the coil wound on the wire [see Fig. 1(a)], since the current flow gives rise to ac axial magnetization. The ratio Zc=Vc/i may be referred to as "the off-diagonal impedance." In contrast, if the wire is placed in an ac longitudinal magnetic field hex=n1i~c induced by the ac coil current i~c (n1 is the number of coil turns per unit length), the circulatory ac magnetization contributes to Vw [see Fig. 1(b)]. The ratio Z~w=Vw/i~c also may be called the off-diagonal impedance. The crossed magnetization processes, which are responsible for the voltages Vw and Vc, are known as the inverse Wiedemann and Matteucci effects [13]. In single-domain wires with a circumferential anisotropy, the real and imaginary parts of the functions Zc(Hex) and Z~w(Hex)are antisymmetrical with a near-linear region around zero field point [11], [12]. These field characteristics can be used in linear sensing. A practical design of such a sensor is reported in [14], where the wire element is exited by a pulse current of CMOS IC multivibrator and the output signal is measured in a pickup coil wound on the wire. Therefore, the sensor operation is based on the off-diagonal impedance Zc(Hex).
(訳文: 一般に、ワイヤにおけるインピーダンスZwは、図1(a)に示されるように、それを横切って測定される電圧Vwの、通過する交流電流iに対する比として理解される。周方向に異方性を有するワイヤにおいて、この量は、表皮効果及び交流横磁化の結果として、直流の軸方向磁界Hexに対して非常に敏感なものとなる。メガヘルツ範囲では、関数Zw(Hex)の実部及び虚部は、Hex=±HKで2つの同一のピークを有して対称となり、ここでHKは特有の異方性磁界である。らせん状の磁化の場合にも、ワイヤに巻回されたコイルにおいて、交流電流が電圧Vcを誘起する(図1(a)参照)。なぜなら、電流の流れが交流の軸方向磁化を生じさせるためである。比率Zc=Vc/iは、「非対角インピーダンス」と呼ばれることがある。これに対し、交流コイル電流i~cによって誘起される交流縦界hex=n1i~c(n1は単位長さ当たりのコイルターンの数である)にワイヤが配置される場合、循環する交流磁化がVwに寄与する(図1(b)参照)。このときの比率Z~w=Vw/i~cも、非対角インピーダンスと呼ばれることがある。電圧Vw及びVcの原因となる交差磁化プロセスは、逆ウィーデマン・マテウチ効果として知られている[13]。周方向の異方性を有する単一磁区のワイヤにおいて、関数Zc(Hex)及びZ~w(Hex)の実部および虚部は、0磁界点の近傍におけるほぼ線形の領域で反対称である[11]、[12]。これらの磁界特性を線形のセンシングに使用することができる。このようなセンサの実際的な設計は[14]に報告されており、ここでは、ワイヤ要素がCMOS ICマルチバイブレータのパルス電流によって励起され、出力信号はワイヤに巻回されたピックアップコイルにおいて測定される。したがって、センサ動作は、非対角インピーダンスZc(Hex)に基づいている。)」

【図1】


イ 第3506頁左欄第24行ないし右欄第50行
「II. VOLTAGE RESPONSE AND IMPEDANCE TENSOR
…(略)…Equations (1) and (2) can be understood as generalized Ohm's law introducing the impedance tensor Z^(^), which relates the voltage vector V=(V_(w),V_(c)) to the current vector i=(i,i^(~)_(c))

In the terms of the previous designations, the tensor components are Z_(zz)≡Z_(w),Z_(zφ)≡Z^(~)_(w), and Z_(φz)≡Z_(c). The second diagonal component Z_(φφ)relates the ac current i^(~)c in the excitation (primary) coil with the induced voltage V_(c) in the pickup (secondary) coil. This impedance component ("coil-to-coil") is not considered in our present work; however, some experimental and theoretical results can be found in [11] and [12].
…(略)…The diagonal components Z_(zz) and Z_(φφ) do not change when the direction of the equilibrium dc magnetization M_(0) is reversed. To the contrary, the off-diagonal components Z_(zφ) and Z_(φz) have the same functional dependence on the angle θ and change the sign together with M_(0). Therefore, the off-diagonal impedances are antisymmetrical with respect to M_(0). In fact, the permeability parameter may also depend on the magnetization angle θ but this does not alter the conclusion made.
In a wire with a circumferential anisotropy, the axial magnetic field is a hard axis field that will produce a linear magnetization curve in the range of -H_(K<)H_(ex<)H_(K), where H_(K) is the anisotropy field. Therefore, we can expect a linear field behavior of the off-diagonal impedances in this field interval for such magnetic configuration. …(略)… A typical field behavior of the off-diagonal impedance is demonstrated in Fig. 2, where the result of calculations for a single domain wire with a circumferential anisotropy is given [11].
(訳文: 2.電圧応答とインピーダンステンソル
…(略)…式1及び2は、電圧ベクトルV=(Vw,Vc)を電流ベクトルi=(i,i~c)に関連付けるインピーダンステンソルZ^を導入する、一般化したオームの法則として理解することができる。

先の記号で言えば、テンソル成分は、Z_(zz)≡Z_(w)、Z_(zφ)≡Z~_(w)及びZ_(φz)≡Z_(c)である。第2の対角成分Zφφは、励起(一次)コイルにおける交流電流i~_(c)を、ピックアップ(二次)コイルにおける誘導電圧Vcとを関係づける。このインピーダンス成分(コイル対コイル)は、我々の今回の研究では考慮されないが、いくつかの実験的及び理論的結果は[11]及び[12]に見出すことができる。
…(略)…対角線成分Z_(zz)及びZ_(φφ)は、平衡直流磁化M_(0)の方向が反転しても変化しない。これに対し、非対角成分Z_(zφ)およびZ_(φZ)は、角度θに対して同じ関数依存性を有しており、その符号をM_(0)と共に変化させる。したがって、非対角のインピーダンスは、M_(0)に対して反対称である。 実際は、透磁率パラメータが磁化角度θに依存することもあるが、このことは上の結論を変更しない。
周方向に異方性を有するワイヤにおいて、軸方向の磁界は、-H_(K)<H_(ex)<H_(K)の範囲で線形の磁化曲線を生成する困難軸方向の磁界である。ここでH_(K)は異方性磁界である。したがって、このような磁気的配置では、この磁界の区間において、非対角インピーダンスの直線的な磁界挙動を期待することができる。…(略)…非対角インピーダンスの典型的な磁界挙動が図2に示されており、ここでは、周方向に異方性を有する単一磁区のワイヤについての計算結果が示されている[11]。)」

【図2】


ウ 第3508頁右欄第4行ないし第3510頁左欄第13行
「IV. CMOS SENSOR - PULSE EXCITATION OF MI WIRES
…(略)…Analyzing the MI characteristics obtained under a sinusoidal excitation the optimal frequency of 50 MHz has been identified, for which the maximal sensitivity (and the best linearity in the case of the off-diagonal impedance) has been achieved. In the case of a pulsed excitation, such parameters as a rise time and a fall time determine the frequency of the principle harmonic. The time parameter of 5 ns corresponds to the optimal frequency of 50 MHz. …(略)…
…(略)…Fig. 12 shows the integrated diagonal (V_(w)) and off-diagonal (V_(c)) responses after the rectification and amplification as a function of H_(ex). In the case of the diagonal response [Fig. 12(a)], the field characteristics are symmetrical showing two maximums at H_(ex)=±4 Oe. This behavior is very similar to that shown in Fig. 6 for the diagonal impedance. The off-diagonal voltage output as a function of Hex, shown in Fig. 12(b), has almost linear portion in the field range H_(ex)=±2 Oe. This is similar to the off-diagonal impedance versus Hex, shown in Fig. 7. Therefore, we can conclude that the off-diagonal voltage response in amorphous wires with a circumferential anisotropy obtained under pulsed excitation can be linear with respect to the sensed axial field without using any bias fields or currents. In fact, the pulse current applied to the wire itself does two jobs: it causes a high-frequency magnetization that is responsible for the voltage-field dependence, and it also partially eliminates circular domains making the off-diagonal response possible.
(訳文: 4.CMOSセンサ-MIワイヤのパルス励起
…(略)…正弦波励起下で得られたMI特性を分析すると、最大感度(及び非対角インピーダンスの場合における最良の線形性)が達成される、最適周波数の50MHzが同定される。パルス励起の場合には、立ち上がり時間や立ち下がり時間のようなパラメータが、基本調波の周波数を決定する。5nsの時間パラメータは、50MHzの最適周波数に対応する。…(略)…
…(略)…図12は、H_(ex)の関数としての整流及び増幅後の積分された対角(V_(w))及び非対角(V_(c))の成分の応答を示す。対角成分の応答の場合(図12(a))、磁界特性は対称で、H_(ex)=±4Oeにおいて2つの最大値を示す。この挙動は、図6に示した対角インピーダンスの挙動と非常に類似している。Hexの関数としての非対角成分の電圧出力は、図12(b)に示されるように、H_(ex)=±2Oeの間の磁界範囲においてほぼ直線的な部分を有する。これは、図7に示されている、Hexに対する非対角インピーダンスと同様である。したがって、パルス励起のもとで得られる周方向の異方性を有するアモルファスワイヤにおける非対角成分の電圧応答は、バイアス磁界や電流を使用しなくとも、検出された軸方向の磁界に関して線形であることができると結論付けることができる。実際、ワイヤ自体に印加されるパルス電流は2つの仕事をしており、それは、電圧場依存性の原因である高周波磁化を引き起こすことと、非対角成分の応答を可能にする円形領域を部分的に除去することである。)」

【図12】


(2) 甲第5号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第5号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「周方向に異方性を有するワイヤをパルス電流によって励起し、出力信号をワイヤに巻回されたピックアップコイルにおいて測定するセンサにおいて、出力信号は非対角インピーダンスZ_(c)(H_(ex))に基づくところ、-H_(K)<H_(ex)<H_(K)(H_(K)はワイヤ特有の異方性磁界、H_(ex)は直流の軸方向磁界)の範囲で、インピーダンスの非対角成分の直線的な磁界挙動を期待することができ、このような特性を線形のセンシングに使用することができる。」

6 甲第6号証について
(1) 記載事項
甲第6号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものであり、訳文は請求人が記載したものを参考に合議体が作成したものである。

第3833頁左欄第12行ないし右欄第1行
「 We have summarized three principal advantageous features of the amorphous wire MI sensor [24]-[26] as:
1) submillimeter size sensor head is realized with a high sensitivity of several nT resolution. Thus, we designed 3-axis electronic compass chips having 0.4 mm length with 10 μm diameter amorphous wire heads, compatible with the advanced integrated circuitry for smart phones, in which a power consumption is around 0.8 mW [24];
2) ultrahigh sensitivity with a resolution of 1 pT without any magnetic shielding in a portable type MI sensor operating at room temperature [27]-[33];
3) ultraquick response for magnetic field signal frequencies ranging from 0 to several GHz [10].
The three features are based on the magnetoimpedance effect originated from the skin effect in amorphous wires with a circular domain structure as illustrated in Fig. 1. for the pulse-current magnetoimpedance, the magnetization dynamics in such amorphous wire is limited by the magnetization rotation in the surface layer (outer layer region).
(訳文: アモルファスワイヤMIセンサの3つの主要な有利な特徴を以下に要約した[24]-[26]。
1) 数nTの分解能を有する高感度でサブミリメータサイズのセンサヘッドを実現。これにより、我々は、消費電力が約0.8mWであり、スマートフォン用の先進集積回路にも対応する、長さ0.4mm、直径10μmのアモルファスワイヤヘッドを備えた3軸電子コンパスチップを設計した。
2) 室温で動作する携帯型MIセンサにおいて、磁気シールドなしで1pTの分解能を有する超高感度性[27]-[33]。
3) 0から数GHzの範囲の磁場信号周波数に対する超高速応答性[10]。
上記3つの特徴は、図1に示されるような周方向の磁区構造を有するアモルファスワイヤの表皮効果に起因するMI効果に基づいている。パルス電流に対する磁気インピーダンスにとって、アモルファスワイヤ中における磁化ダイナミクスは表面層(外側領域)における磁化回転に限定される。)」

【図1】

(訳文: 図1.アモルファスワイヤの磁区構造。外側領域に円形磁区が存在し、内部コアは軸方向の磁化を有する。駆動交流電流I(ω)は円形の磁界を発生し、これに対する応答が、周方向(横断方向)透磁率μによって特徴づけられる。この応答は、印加磁界Hexに対して非常に敏感であり、ワイヤ端部に誘起される電圧Vとして測定することができる。)

(2) 甲第6号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第6号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「アモルファスワイヤMIセンサの超高感度性、超高速応答性などの特徴は、周方向の磁区構造を有するアモルファスワイヤの表皮効果に起因するMI効果に基づいている。アモルファスワイヤは、外側領域に円形磁区が存在し、内部コアが軸方向の磁化を有する、磁区構造を有している。」

7 甲第7号証について
(1) 記載事項
甲第7号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

「【0018】
Z軸用MI素子に用いられるバルクの磁性アモルファスワイヤは、MI効果を発揮できるゼロ磁歪のアモルファスワイヤである。MIセンサのヒステリシスはない方が好ましいために磁性アモルファスワイヤの直径は20μm以下とすることがよい。」

(2) 甲第7号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第7号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「MIセンサのヒステリシスはない方が好ましい。」

8 甲第8号証について
(1) 記載事項
甲第8号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

第44頁右欄第15行ないし第45頁左欄第5行
「 図1は,零磁歪アモルファスワイヤー(FeCoSiB:30μm径,2kg/mm^(2)張力・520℃・2sアニール,H_(c)=0.2Oe,5mm長)の磁気インピーダンス効果の周波数特性(a),1MHz,5mA通電時の外部磁界H_(ex)に対する変化特性(b)および10MHz通電時の特性(c)の測定結果である。
…(略)…
(b)では,10%/Oe程度の減少率を示す。このインピーダンスの減少は,BHヒステリシスループからわかるように磁壁振動によると考えられる。ワイヤーはわずかに負磁歪(-10^(-7))であり,張力アニールによって円周方向に磁気異方性が誘導されており,円周方向の180°磁壁に垂直にH_(ex)が印加されると,保磁力H_(c)が減少すると同時に,磁化ベクトルがワイヤー長さ方向に傾斜するので,μが減少する。
一方,(c)のように高周波(10MHz)通電では磁壁移動は抑制されて磁化は主として磁化ベクトルの回転で生じ,H_(ex)≒H_(k)(異方性磁界)でインピーダンスは最大となる。さらに直流を重畳させると,磁壁移動による磁束変化分はほとんどなくなり,H_(ex)=0でのインピーダンスが減少して,交流振幅の1/2の直流を重畳させることにより,インピーダンス変化は100%/Oe以上になり,高感度のMI効果となる。」

(2) 甲第8号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第8号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「零磁歪アモルファスワイヤー(FeCoSiB:30μm径、2kg/mm^(2)張力・520℃・2sアニール、Hc=0.2Oe、5mm長)の磁気インピーダンス効果において、1MHz通電時の外部磁界H_(ex)に対するインピーダンス変化は磁壁振動によると考えられ、10%/Oe程度であるが、10MHzの高周波通電時には磁壁移動は抑制されて磁化は主として磁化ベクトルの回転で生じることとなり、H_(ex)≒H_(k)(異方性磁界)でインピーダンスは最大となり、直流を重畳させることで100%/Oe以上の高感度のMI効果が得られる。」

9 甲第9号証について
(1) 記載事項
甲第9号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものであり、訳文は請求人が記載したものを参考に合議体が作成したものである。

ア 第624頁左欄第1行ないし第8行
「Abstract - We studied the Giant magnetoimpedance (GMI) effect and magnetic properties of amorphous Fe-Co rich magnetic microwires prepared by the Taylor-Ulitovski technique. We observed that these properties can be tailored either controlling magnetoelastic anisotropy of as-prepared Co-rich microwires or controlling their magnetic anisotropy by heat treatment. High GMI effect even at GHz frequencies has been observed in Co-rich microwires.
(訳文: 要約 - 我々は、Taylor-Ulitovskiの技術によって作製されたアモルファスFe-Coリッチ磁気マイクロワイヤの巨大磁気インピーダンス(GMI)効果及び磁気特性について研究した。我々は、作製されたままのCoリッチマイクロワイヤの磁気弾性異方性を制御するか、または熱処理によって磁気異方性を制御するかのいずれかで、これらの特性を調整できることを観察した。GHz周波数においても高いGMI効果が、Coリッチなマイクロワイヤにおいて観察された。)」

イ 第625頁右欄第11行ないし第46行
「Depending on the frequency f of the driving AC current Iac flowing through the sample, the giant magnetoimpedance can be roughly four different regimes might be considered. In fact we should consider mostly comparison of the skin depth with the radius or half thickness of the sample:
(i) At low frequency range of 1-10 kHz when the skin depth is larger than the radius or half thickness of the sample (rather weak skin effect) the Matteucci effect and magnetoinductive effect have been observed. …(略)…
(ii) At frequencies, ranging from 10-100 kHz to 1-10 MHz, the frequency range where the GMI effect has been first reported and described, the giant magnetoimpedance, originates basically from variations of the magnetic penetration depth due to strong changes of the effective magnetic permeability caused by a DC magnetic field [1,9- 11]. It is widely believed that in this case both domain walls and magnetization rotation contribute to changes of the circular permeability and consequently to the skin effect.
(iii) For frequencies ranging in the MHz band (from 1-10 MHz to 100-1000 MHz depending on the geometry of the sample), the GMI effect is also originated by the skin effect of the soft magnetic conductor, i.e. must be attributed to the GMI. But at these frequencies the domain walls are strongly damped. Therefore the magnetization rotation must be considered as responsible for the magnetic permeability change induced by an external magnetic field [1,2,9].
(iv) At high frequencies, of the order of GHz, the magnetization rotation is strongly influenced by the gyromagnetic effect. With increasing the frequency the GMI peaks are shifted to higher fields where sample is magnetically saturated. At this frequency range strong changes of the sample's impedance have been attributed to the ferromagnetic resonance (FMR)[9,22].
Recently major attention is focused on high frequencies(GHz range) GMI applications owing to the development of thin magnetically soft materials and recent tendency in miniaturization of magnetic field sensors [23,24]
(訳文:試料に流す駆動交流電流Iacの周波数によって、巨大磁気インピーダンスは、大まかに4つの異なるモードに分けられる。実際には、我々は、試料の表皮深さを、半径又半厚さと比較することを考慮すべきである。
(i)1-10kHzの低い周波数範囲では、表皮深さが試料の半径または半厚さよりも大きく(弱い表皮効果)、マテウチ効果及び磁気誘導効果が観察されている。…(略)…
(ii)10-100kHzから1-10MHzまでの範囲の周波数は、GMI効果が最初に報告され説明された周波数範囲であり、巨大磁気インピーダンスが、基本的に、直流磁界によって引き起こされる実効透磁率の強い変化による磁気浸透深さの変化から生じる[1、9-11]。この場合、磁壁と磁化回転の両方が、円形透過性の変化に寄与し、その結果として表皮効果に寄与すると広く信じられている。
(iii)MHz帯(試料の幾何学的形状に応じて1-10MHzから100-1000MHzまで)の周波数では、GMI効果は軟磁性導体の表皮効果にも起因する。しかし、これらの周波数では磁壁が強く減衰される。したがって、磁化回転が外部磁界に誘起される透磁率変化の原因となるものとして考慮されなければならない[1,2,9]。
(iv)GHzオーダーの高周波数領域では、磁化回転が、磁気回転効果の影響を強く受ける。周波数を増加させると、GMIピークは、試料が磁気的に飽和されるより高い磁界にシフトされる。この波数範囲では、試料のインピーダンスの大きな変化が、強磁性共鳴(FMR)に起因している[9,22]。
最近、薄くて磁気的に柔らかい材料の開発と最近の磁場センサの小型化の傾向に起因して、高周波(GHz範囲)のGMI用途に大きな注目が集まっている[23,24]。)」

(2) 甲第9号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第9号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「アモルファス磁気マイクロワイヤの巨大磁気インピーダンス(GMI)効果は、駆動交流電流Iacの周波数によって大まかに4つの異なるモードに分けられ、1-10kHzの低い周波数範囲では、表皮深さが試料の半径または半厚さよりも大きく(弱い表皮効果)、マテウチ効果及び磁気誘導効果が観察され、10-100kHzから1-10MHzまでの範囲の周波数では、磁壁と磁化回転の両方が表皮効果に寄与すると考えられ、MHz帯(試料の幾何学的形状に応じて1-10MHzから100-1000MHzまで)の周波数では、磁壁が強く減衰され、したがって、磁化回転が外部磁界に誘起される透磁率変化の原因となり、GHzオーダーの高周波数領域では、磁化回転が、磁気回転効果の影響を強く受け、試料のインピーダンスの大きな変化は強磁性共鳴(FMR)に起因し、最近、薄くて磁気的に柔らかい材料の開発と最近の磁場センサの小型化の傾向に起因して、高周波(GHz範囲)のGMI用途に大きな注目が集まっている。」

10 甲第10号証について
(1) 記載事項
甲第10号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものであり、訳文は請求人が記載したものを参考に合議体が作成したものである。

ア 第1453頁右欄第22行ないし第39行
「First experiments on MI dated to 1993 utilized a simple concept of measuring the AC voltage across the wire subjected to an AC current i=i_(0) exp(-jωT) and a DC magnetic field H_(ex) applied in parallel with the current. It was found, that even in the case of a circumferential anisotropy the MI behavior can be completely different depending on the current amplitude i_(0) and frequency ω [3]. The typical characteristics are given in Fig. 1.…(略)…This suggests that the central maximum in Fig. 1 is due to domain wall processes which are suppressed by either applying I_(b), decreasing i_(0) or increasing frequency.
(訳文:1993年に行われたMIに関する最初の実験は、交流電流i=i_(0)exp(-jωT)及びその電流に平行な直流磁界H_(ex)が印加されたワイヤを横切る交流電圧を測定するという単純な考え方に基づくものであった。周方向に異方性を有する場合におけるMIの挙動は、電流強度i_(0)及び周波数ωに依存して完全に異なりうるということが分かった[3]。その典型的な特性が図1に示されている。…(略)…このことは、図1の中央の最大値が、I_(b)の印加、i_(0)の減少、又は周波数の増加のいずれかによって抑制される磁壁過程に起因しているということを示唆している。)」

【図1】

【図2】


イ 第1454頁左欄第1行ないし第22行
「 Recently, MI at much higher frequencies was investigated [11-13]. In this case, proper care has to be taken for calibrating the total measurement cell. Typical impedance plots are shown in Fig. 3. The two-peak characteristics are still seen for hundreds MHz. Their low-field behavior (H_(ex) < H_(K)) preserves high sensitivity, whereas the characteristics flatten in the high-field region (H_(ex) > H_(K)) and for frequency f > 2GHz they remain constant for any H_(ex) > H_(K) where H_(K) is the effective anisotropy field. This unusual behavior can be referred to as valve-like for which the impedance becomes insensitive to the field when the wire is axially magnetized. There is no correlation with ferromagnetic resonance for which much higher fields would be needed [26].
We can conclude that the MI effect remains very sensitive in a wide frequency range; also the field-plot appearance may change substantially. Megahertz frequency MI characteristics, for which extremely high sensitivity can be reached, are utilized in various magnetic, current and stress sensors. Microwave MI is very promising for remote sensing and tunable microwave materials.
(訳文: 最近、より高い周波数でのMIが調査されている[11-13]。この場合には、測定セル全体の較正に適切な注意を払う必要がある。典型的なインピーダンスのプロットが図3に示されている。二つのピークの特性が、数百MHzにおいても依然として見られている。それらの低い磁界(H_(ex)<H_(K))での挙動は高感度を維持している一方で、高い磁界(H_(ex)>H_(K))の領域では特性が平坦化し、周波数がf>2GHzでは、H_(ex)>H_(K)のいかなる値においても一定のままとなる。ここでH_(K)は実効的な異方性磁界である。この異常な挙動はバルブ的と呼ぶことができ、ワイヤが軸方向に磁化されたときにインピーダンスが磁界に対して鈍感になる。非常に高い磁界が必要とされる強磁性共鳴との相関はない[26]。
MI効果は広い周波数範囲において非常に敏感なままであると結論づけることができる。ただし、磁界によるプロットの外観は実質的に変化し得る。メガヘルツ周波数のMI特性は、特に高い感度を達成することができ、様々な磁気、電流及び応力センサに利用される。マイクロ波のMIは、リモートセンシング及び同調可能なマイクロ波材料にとって非常に有望である。)」

【図3】


ウ 第1454頁右欄第47行ないし第1455頁左欄第10行
「 It has been recently proposed to utilize for sensor applications the voltage response V_(c) detected in the coil mounted around the wire whilst the wire is still driven by the passing current i [10]. This operation is based on the other cross-magnetization process m_(z)(h_(φ)) which causes the current flow to induce an AC axial magnetization and hence voltage V_(c). The ratio Z_(c)=V_(c)/i may be referred to as off-diagonal impedance. …(略)… The output signal Vc is very small if no axial field Hex is applied. In the presence of the field, the voltage pulse rapidly increases and when the field is reversed the direction of the pulse is reversed as well. After rectification, antisymmetrical MI characteristic can be obtained with almost linear region within field interval ±H_(K).
(訳文: 最近、ワイヤが通過電流iによって駆動されている間にワイヤの周囲に取り付けられたコイルで検出された電圧応答V_(c)をセンサ用途に利用することが提案されている[10]。この動作は、電流が交流の軸方向磁化を誘起し、それによって電圧Vcを誘起するようにする他の交差磁化プロセスm_(z)(h_(φ))に基づいている。比Z_(c)=V_(c)/iは、非対角インピーダンスと呼ばれることがある。…(略)…出力信号V_(c)は、軸方向磁界Hexが印加されていない場合には非常に小さい。磁界が存在する場合、電圧パルスは急速に増加し、磁界が反転されると、パルスの方向も反転される。整流後、磁界±H_(K)の間のほぼ直線的な領域において、反対称的なMI特性を得ることができる。)」

(2) 甲第10号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第10号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「周方向に異方性を有する場合におけるMIの挙動は、電流強度i_(0)及び周波数ωに依存して完全に異なりうるということが知られているところ、最近、より高い周波数でのMIが調査されており、その結果、MI効果は広い周波数範囲において非常に敏感なままであると結論づけることができるが、磁界によるプロットの外観は実質的に変化し、メガヘルツ周波数のMI特性は、特に高い感度を達成することができ、様々な磁気、電流及び応力センサに利用される一方、マイクロ波のMIは、リモートセンシング及び同調可能なマイクロ波材料にとって非常に有望である。最近、ワイヤが通過電流iによって駆動されている間にワイヤの周囲に取り付けられたコイルで検出された電圧応答V_(c)をセンサ用途に利用することが提案されており、この場合、出力信号V_(c)の整流後、磁界±H_(K)(H_(K)は実効的な異方性磁界)の間のほぼ直線的な領域において、反対称的なMI特性を得ることができる。」

11 甲第11号証について
(1) 記載事項
甲第11号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

ア 「【0003】
従来、MIセンサは、例えば、特許公報3693119号公報に記載されているように、パルスの立上り時間・立下り時間を周波数換算した場合に0.2GHzとなるパルス電流を感磁ワイヤへ印加し、ワイヤ径が30μmで長さが1.5mmと長めの場合、反磁界を利用して高感度となる場合であるが、感度35mV/G、測定レンジ0.9kA/mであった。また、ワイヤ径が30μmで長さが0.6mmと短めの場合、反磁界を利用して広い測定レンジとなる場合であるが、感度2mV/G、測定レンジ3.6kA/mが得られている。これより、MIセンサの感度と測定レンジは、上記のような背反の関係を有するため両方を同時に向上させることは困難であり、実際の使用に対して制限があった。
ここで、高周波電流を更に高周波化することにより、感度を高めることが試みられている。L.V.Panina等によるJournal of Magnetism and Magnetic Materials,272-276(2004),1452-1459には、アモルファスワイヤに0.5?2.2GHzの正弦波電流を印加し、アモルファスワイヤの両端からのインピーダンスを測定した結果が開示されている。それによると、高周波化により感度の向上は見受けられるが測定レンジに関しては0.0125A/m(1Oe)と著しく低く、更には、高周波化しても測定レンジが広がらない問題があり、感度と測定レンジの両方を同時に向上させることはできていなかった。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、小型で磁気センサとして感度が高く、測定レンジの大きなMIセンサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、高周波電流の周波数、波形、検出方式、感磁ワイヤ等に関して種々の検討を加えた結果、スピンの回転現象を直接検出する検出コイルを使用する方式においてアモルファス感磁ワイヤに対し従来より高い高周波の電流を印加することにより、スピン回転運動を電流印加とともに均一かつ一斉に、かつ、鋭く首ふり運動させることで、高感度化と高測定レンジ化を達成することができるのではないかと着想した。そして、具体的にはアモルファスワイヤへの印加する電流を従来より高い所定の周波数としつつ、出力の方式を検出コイル方式とすることにより本発明を完成した。
【0008】
具体的には請求項1に記載の発明のマグネトインピーダンスセンサは、零磁歪となる軟磁性合金のアモルファスからなる感磁ワイヤと前記感磁ワイヤの周囲に絶縁物を介して検出コイルを有し、前記感磁ワイヤに高周波電流を印加することで、外部磁場に応じて検出コイルより発生する電圧を検出するマグネトインピーダンス素子と、前記マグネトインピーダンス素子に高周波電流を供給する電流供給装置と、検出コイルからの出力を信号処理する信号処理回路を有するマグネトインピーダンスセンサにおいて、前記感磁ワイヤは少なくともワイヤの円周方向にスピン配列した表面層を有し、前記高周波電流は0.3以上、1.0GHz以下の周波数を有することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の構成を取ることによって、優れた効果を得ることができた理由はさだかではないが、得られた結果から次のように推論する。
まず、高周波電流における周波数が0.3以上、1.0GHzの範囲内で優れた感度がえられる理由について推論する。
検出コイルで検知される電圧はdφ/dtに比例することが知られている。まず、感磁ワイヤに高周波電流が印加されると感磁ワイヤの円周方向に磁場が作られる。ワイヤ中のスピンは外部磁場の向きから電流により作られた円周方向磁場の方向に回転する。電流により作られる円周方向磁場(Hφ)の時間変化dHφ/dtが大きいほど、すなわち、大きい周波数の電流が印加されるほどワイヤ中のスピンの回転は速くなる。このスピンの回転速度はdφ/dtに相当するため、検出コイルに検知される電圧は大きくなり高感度となると思われる。
【0010】
しかしながら、一般的には、高周波になるほど表皮深さが浅くなるため、そこを流れる表皮電流により形成される円周方向磁場に反応するスピンの絶対量、つまりφが小さくなり、検出コイルで検知される電圧dφ/dtが小さくなる作用を有するため、感度が周波数
に対してどのような挙動をしめすかは予測は難しかった。
【0011】
結果的に、後述するように0から0.5GHzまでは周波数を上げていくと、感度が上昇していることを考慮すると、以下のような感磁ワイヤ内の内部応力が作用していたのではないかと思われる。
一般的に、感磁ワイヤ中の内部応力は径方向に対し、表層部では大きく内部では小さくなる。スピンの首ふり運動は印加されている高周波電流の周波数に応じた表皮深さ内で起こるが、ある程度までの高周波の場合では、表皮深さが厚いため、その表皮深さ内の内部応力分布の不均一さにより、そこでの各スピンが異なる振る舞いで運動する。各スピンが異なる振る舞いで首ふり運動を行えば、センサとしての感度は小さくなると思われる。逆に、0.3GHz以上の高周波の場合では、表皮深さが薄くなり内部応力の不均一さが減少するため、スピン回転運動が電流印加とともに均一かつ一斉に、かつ、鋭く首ふり運動をする現象が発現すると思われる。
【0012】
以上のように、メカニズムはさだかではないが、一つの推論として周波数を上げれば上げるほど感度が上昇する点は説明することができるが、現実には周波数が0.5GHzを超えるとピークを迎え、その後は減少している。これは、このようなピークの存在は予想外のことであり、これはスピン共鳴現象によるスピンの波化によると思われる。スピン全体が波化することで、スピンの一斉回転が阻害されることで周波数の向上による効果が失われ、1GHzを超えたところで十分な感度か得られなくなったものと思われる。
本発明者等は、このような複数の作用が交錯する予測性の困難な現象において、感度において1GHz近傍において周波数において最適領域の存在を初めて発見したものである。
【0013】
一方、高周波電流における周波数が0.3以上、1.0GHzの範囲内で優れた測定レンジがえられる理由について推論する。
測定レンジは高周波化しても変わらないと思われていたが、実際は、かなり広い領域で上昇を発見した。これは、後から考えるに以下の理由ではないかと推測する。
例えば、感磁ワイヤにおいて、高周波電流が高周波になるほど、表皮効果により感磁ワイヤに流れる電流の表皮深さが浅くなる。表皮深さが浅くなるほど、上述のように感磁ワイヤの表面付近の内部応力の作用が大きくなる。内部応力が大きいほど異方性磁界が大きいため測定レンジが大きくなるためと思われる。また、周波数が0.5GHz以上で測定レンジの増加がほぼ飽和するのは、その周波数以上では表皮深さが非常に薄くなっていため、内部応力の変化が飽和したためと思われる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明は、出力の検出方式として検出コイルを採用し、零磁歪となる軟磁性合金のアモルファスからなる感磁ワイヤが、少なくともワイヤの円周方向にスピン配列した表面層を有する状態で、周波数換算で0.3以上、1.0GHz以下と従来より高い周波数の高周波電流を印加することにより、従来のマグネトインピーダンスセンサのおける感度と測定レンジを同時に向上することができる。」

ウ 「【0021】
ここでの周波数は、図3(a)に示すようにパルス電流波形10中のパルスの立ち上がり、若しくは、立ち下りの時間Δtを求め、そのΔtを、図3(b)に示すように、波の4分の1周期に相当するとして求めたものである。次に、サンプルタイミング調整回路41により前記パルス電流が立ち上がったあと、所定のタイミングでアナログスイッチ42を短時間スイッチをオンーオフする。これによりアナログスイッチ42は、検出コイル22に発生した外部磁場に対応した電圧をサンプリングし増幅器43に伝える。パルス電流を遮断するとき(立ち下がりのとき)も同様のことが行える。この構成は一例であり、公知の感磁ワイヤ中の磁化の変化を検出コイルで検知するタイプのMIセンサの電子回路においても同様の効果を得ることができる。」

【図3】


エ 「【0022】
本実施例でのMI特性の測定、及び、感度と測定レンジの算出方法について説明する。図4は試料1のアモルファスワイヤをMIセンサに組み込み最大磁場±0.3kA/m、10Hz中に設置し、感磁ワイヤに周波数0.3GHzに相当する80mAのパルス電流を入力し、検出コイルに発生した電圧信号を上記センサにより信号処理された電圧を測定したものである。なお、ここではパルスの立ち上がり部で検出したが、立ち下がり部でもよく、両方でも良い。測定レンジは、ゼロ磁場を中心に直線性が1%F.S.以下になる磁場とした。なお、直線性の評価の方法は、JISB0155の番号2623の方法を用いた。感度は測定レンジ間における出力電圧の傾きとした。」

【図4】


(2) 甲第11号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第11号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「MIセンサにおいて、パルス電流を高周波化することにより、感度を高めることが試みられていたが、高周波化により感度の向上は見受けられるが測定レンジが広がらないという問題があったところ、出力の方式を検出コイル方式として、少なくともワイヤの円周方向にスピン配列した表面層を有する、零磁歪となる軟磁性合金のアモルファスからなる感磁ワイヤを用いることとし、換算周波数(パルスの立ち上がり、若しくは、立ち下りの時間Δtを、波の4分の1周期に相当するとして求めた周波数)が0.3以上、1.0GHz以下という従来より高い周波数の高周波電流を印加することで、MIセンサにおける感度と測定レンジを同時に向上することができた。」

12 甲第12号証について
(1) 記載事項
甲第12号証には、以下の記載がある。なお、丸中に数字の記載は「(1)」のように表した。下線は合議体が付したものである。

第793頁左欄第38行ないし右欄第19行
「2. アモルファスワイヤおよび実験回路
Fig.1は,零磁歪アモルファスワイヤ(Fe_(4.35)Co_(68.15)Si_(12.5)B_(15),λ≒-10^(-7),30μm径,2mm長,40kg/mm^(2)張力下475℃1分間アニール)に被覆導線を30ターン直接巻にしてパルス列電流をワイヤとコイルに直列に通電することにより非対称MI効果を得る回路である。この僅かに負の磁歪と強い張力アニールにより,ワイヤは円周方向に異方性磁界H_(k)≒600A/m(約7.6Oe)を持っている。また,ワイヤの電極づけは半田付けによって行った。
本実験では以上の回路を用い,基礎特性を調べるためワイヤ長さ方向に直流外部磁界H_(ex)を印加しその時のワイヤ両端電圧を測定する実験を行った。
3. 実験結果
Fig.2は,Fig.1の回路でパルス発振電源を使用し,パルス半値幅10ns,パルス電流高さ50mA,パルス繰り返し周波数f=1MHzにおけるワイヤ両端パルス電圧高さ|e_(p)|とワイヤ長さ方向直流磁界Hexの関係を測定した結果である。(1)はコイル電流がワイヤ電流の向きに対して左廻りの場合(Left rot.)であり,(2)は右回り(Right rot.)の場合である。(3)はコイルを短絡した場合である。
この結果,(3)ではH_(ex)の正負に対して|e_(p)|は対称であるが,(1)と(2)では互いに逆の非対称MI効果となっている。」

(2) 甲第12号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第12号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「零磁歪アモルファスワイヤ(Fe_(4.35)Co_(68.15)Si_(12.5)B_(15)、λ≒-10^(-7)、30μm径、2mm長、40kg/mm^(2)張力下475℃1分間アニール)に被覆導線を30ターン直接巻にしてパルス列電流をワイヤとコイルに直列に通電し、(1)コイル電流がワイヤ電流の向きに対して左廻りの場合、(2)右回りの場合、(3)コイルを短絡した場合のそれぞれについて、ワイヤ両端パルス電圧高さ|e_(p)|とワイヤ長さ方向直流磁界H_(ex)の関係を測定した結果、(3)ではH_(ex)の正負に対して|e_(p)|は対称であるが、(1)と(2)では互いに逆の非対称MI効果となった。」

13 甲第13号証について
(1) 記載事項
甲第13号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

「[0005] 特許文献1は、基板上に形成した平面パターンと、該平面パターン上に設けたアモルファスワイヤー(感磁ワイヤー)を固定する絶縁体上に山なりに形成した立体パターンとからなる検出コイルを備えたMI素子を提案している。これにより、基板に感磁ワイヤーを収納する溝を機械加工していたときよりも、検出コイルを感磁ワイヤーへより安定的に近接させることができ、基板を溝加工しないため基板の材質選択自由度や歩留りが向上するという効果に加えて、MI素子全体の小型化等が図れる。
[0006] もっとも、素子の小型化の要求は益々高度化している。検出コイルを備えたMI素子において、さらなる小型化を図りつつ従来と同等以上の出力を確保するには、検出コイルを密に巻くファインピッチ化が必要となる。」

(2) 甲第13号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第13号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「検出コイルを感磁ワイヤーへ近接させることでMI素子全体の小型化が図れるが、検出コイルを備えたMI素子において、さらなる小型化を図りつつ従来と同等以上の出力を確保するには、検出コイルを密に巻くファインピッチ化が必要となる。」

14 甲第14号証について
(1) 記載事項
甲第14号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

ア 明細書第5頁第4行ないし第7行
「 上記構成より成る第7発明の電磁コイル付マグネト・インピ一ダンス・センサ素子は、前記第6発明において、前記電磁コイルの捲線内径が、前記感磁体のワイヤ径に対して1.005ないし10倍に設定されているので、高感度化を実現するという効果を奏する。」

イ 明細書第13頁第1行ないし第6行
「 電磁コイル3の捲線内径に対するアモルファスワイヤの径の比は、1.005ないし10の範囲内に設定され、アモルファスワイヤの径がφ10μm?100μmの範囲内において設定されるので、アモルファスワイヤの径がφ10μmの時は電磁コイル3の捲線内径は10.05μm?100μmの範囲内で設定され、アモルファスワイヤの径がφ100μmの時は電磁コイル3の捲線内径は100.5μm?1000μmの範囲内で設定される。」

(2) 甲第14号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第14号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「電磁コイル付マグネト・インピ一ダンス・センサ素子において、アモルファスワイヤの径がφ10μmの時、電磁コイルの捲線内径を10.05μm?100μmの範囲内で設定すれば、高感度化を実現できる。」

15 甲第15号証について
(1) 記載事項
甲第15号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

ア 「【0040】
(第1の実施の形態)
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る磁気センサ回路のブロック図である。図3の磁気センサ回路は、半導体装置、例えば、一つのICチップに搭載されるのが好ましいものである。図3は、半導体装置に接続されるMI素子を合わせて示している。
【0041】
図3を参照するに、本実施の形態に係る磁気センサ回路10は、パルス発生回路11、パルス電流供給回路12、遅延回路13、サンプルホールド回路14、増幅回路15、温度検出回路16、および温度補償回路18から構成される。磁気センサ回路10にはMI素子26が接続されている。MI素子26は、その入力側がパルス電流供給回路12の出力側に接続され、その出力側がサンプルホールド回路14に接続されている。
【0042】
パルス発生回路11は、パルス信号をパルス電流供給回路12に定期的に出力する。パルス発生回路11は、例えばマルチバイブレータや水晶発振器を用いた発振回路等から構成される。パルス信号は、パルス幅が数十nsec程度であり、パルス間隔は所望の応答速度に応じて適宜設定される。
【0043】
パルス電流供給回路12は、パルス信号を電流増幅し、半導体装置に接続されたMI素子26のアモルファスワイヤ27に励磁電流を供給する。励磁電流は、パルス信号と同じ時間幅のパルス状の電流である。また、パルス電流供給回路12は、励磁電流と同時に遅延回路13にタイミング信号を出力する。
【0044】
MI素子26は、アモルファスワイヤ27と、その回りを巻回する検知コイル28から構成される。MI素子26は、いわゆるインダクタンス方式によりアモルファスワイヤ27に印加された磁界強度を検出する。アモルファスワイヤ27は、長さ約数mm、直径数十μmの軟磁性のアモルファス磁性体から構成される。アモルファス磁性体には、例えば、FeBや、CoB、FeNiSiB等を用いることができる。アモルファスワイヤ27に替えて軟磁性薄膜あるいは軟磁性薄体を用いてもよい。検知コイル28は、アモルファスワイヤ27の回りに、例えば10ターン?100ターン巻回される。
【0045】
アモルファスワイヤ27に励磁電流が流れるとMI効果により検知コイル28に検知信号が誘起される。検知信号の波高値は、アモルファスワイヤ27に印加される磁界のうち、アモルファスワイヤ27の長手方向に沿った成分の強度に比例する。後述するように、検知信号は、励磁電流の立ち上がりと立ち下がりの各々に対応するピークを有する。いずれのピークを用いてもよいが、波高値が大きなピークを用いることがS/N比が良好な点でよい。本実施の形態では、励磁電流の立ち上がりに対応する検知信号のピークを用いる。
【0046】
一方、遅延回路13では、タイミング信号を所定の遅延時間だけ遅らせて、スイッチ回路20の制御入力部20aに出力する。遅延時間は、例えば、数nsec?数十nsecに設定する。
【0047】
サンプルホールド回路14は、スイッチ回路20と、基準電圧源21と、ホールド用のコンデンサ22から構成される。スイッチ回路20は、制御入力部20aに入力されたタイミング信号によりオン-オフ動作を行い検知信号をコンデンサ22に出力する。
【0048】
コンデンサ22は一端が基準電圧源21および検知コイルの一端に接続され、他端がスイッチ回路20に接続されている。コンデンサ22は検知信号を保持する機能を有する。
【0049】
図4(A)?(D)は、動作タイミングおよび波形を示す図である。図4(A)は励磁電流、図4(B)は遅延回路により遅延されたタイミング信号、図4(C)は検知コイルに誘起された検知信号、図4(D)はホールド信号を示す。
【0050】
図4(A)?(D)を参照するに、図4(A)に示す励磁電流に対して、図4(B)に示すタイミング信号は、励磁電流の立ち上がりから所定時間Δtだけ遅延されて“High”から“Low”になる。スイッチ回路20はタイミング信号の状態に応じてオン-オフが制御される。すなわち、タイミング信号が“High”の状態で、スイッチ回路20がオン(導通)となり、タイミング信号が“High”の間は、検知コイル28から、図4(C)に示す検知信号がコンデンサ22に供給されコンデンサ22の電位が上昇する。
【0051】
そして、タイミング信号が“Low”になると、スイッチ回路がオフとなり、図4(D)に示すように、その時点の検知コイル28の電圧がコンデンサ22に保持される。コンデンサ22は、他方の電極が基準電圧(V_(DD)/2)に設定されているので、コンデンサ22の電圧は、(検知信号の保持された波高値)+V_(DD)/2となる(以下、コンデンサ22の電圧を「ホールド信号」という。)。
【0052】
ところで、スイッチ回路20のオン抵抗やオンオフの閾値が温度特性により変化する場合、ホールド信号の電圧変動が生じ、磁気センサ回路の出力信号が変動するおそれがある。このような場合、磁気センサ回路の磁界強度や方位の検出精度が低下する。さらに、励磁電流の大きさや立ち上がり時間等も温度変化により変動するおそれがあり、高精度の磁界強度の検出を行うためには、磁気センサ回路を構成する素子の温度特性を総合的に補償する必要がある。磁気センサ回路10をIC、例えばCMOS型ICあるいはCMOSトランジスタとバイポーラトランジスタの混載型IC等に形成した場合もかかる温度特性が問題になるおそれがある。
【0053】
本実施の形態に係る磁気センサ回路10は、サンプルホールド回路14の出力側に温度検出回路16および温度補償回路18を設け、ホールド信号の電圧変動を補償することで、上記の問題点を解決したものである。磁気センサ回路10の温度検出回路16および温度補償回路18は、スイッチ回路20をICにアナログスイッチとして搭載した場合に特に有効である。」

【図3】

【図4】


イ 「【0059】
磁気センサ回路10は、その温度特性、例えば磁気センサ回路のスイッチ回路20のオン抵抗の温度特性やスイッチ回路20のオンオフの閾値の温度特性等によりホールド信号の電圧変動が生じることがある。本実施の形態に係る磁気センサ回路10は、このような場合であっても、温度変化に起因するホールド信号の電圧変動を、サンプルホールド回路14の出力側に接続した温度検出回路16および温度補償回路18により温度補償する。温度検出回路16には、温度変化に対して、出力する温度信号の変化方向を切換える温度信号極性切換回路17が設けられている。温度信号極性切換回路17を設けることで、温度変化方向に対してホールド信号の電圧値の変化方向に応じて温度信号の電圧値の増減方向を設定できるので、磁気センサ回路の特性に応じて確実に温度補償が可能となる。
【0060】
また、本実施の形態に係る磁気センサ回路10は、ホールド信号がほぼ直流の信号なので温度補償が容易となり、かつ高精度の温度補償が可能となる。次に本実施の形態に係る実施例を説明する。
【0061】
[実施例]
図5は、本発明の第1の実施の形態に係る実施例の磁気センサ回路の回路図である。図5の磁気センサ回路は、半導体装置、例えば一つのICチップに搭載されるのが好ましいものである。図5は、磁気センサ回路のうち、サンプルホールド回路から下流の回路を示しており、磁気センサ回路に接続されたMI素子を合わせて示している。図5に示す磁気センサ回路は、温度上昇にしたがって、ホールド信号の電圧が増加する場合の設定になっている。
…(略)…
【0069】
温度検出回路43は、カレントミラー回路を構成する2つのPMOSトランジスタM1、M2と、ダイオード接続された2つのPNPトランジスタQ1、Q2、演算増幅器A15?A18、抵抗18?23、および温度信号極性切換回路47から構成される。
…(略)…
【0075】
演算増幅器A18は、先に説明した演算増幅器A11と同様に電源電圧VDDの1/2の電圧を出力する。すなわち、演算増幅器A18の非反転入力端子は、直列抵抗R22とR23の接続点に接続されている。直列に接続された抵抗R22とR23は一端が電源に接続され、他端が接地されている。抵抗R22またはR23のどちらか一方、または両方にトリミング手段を設けている。これは、基準温度において、抵抗R22またはR23をトリミングすることにより、零磁界におけるサンプルホールド電圧を電源電圧VDDの1/2に調整するオフセット調整を行うためである。このため、演算増幅器A18の出力電圧は電源電圧VDDの1/2の電圧にオフセット電圧が加わった電圧となる。演算増幅器A18の出力端子は抵抗R21を介して、演算増幅器A17の反転入力端子に接続される。」

【図5】


(2) 甲第15号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第15号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「アモルファスワイヤ27とその回りを巻回する検知コイル28から構成されるMI素子26と、MI素子26の入力側に接続されるパルス電流供給回路12と、MI素子26の出力側に接続され、スイッチ回路20、基準電圧源21及びホールド用のコンデンサ22から構成されるサンプルホールド回路14とを備えた磁気センサ回路10において(段落0041、0044、0047)、
スイッチ回路20のオン抵抗やオンオフの閾値が温度特性により変化する場合、ホールド信号の電圧変動が生じ、磁気センサ回路の出力信号が変動するおそれがあるため、この問題点を解決するため、サンプルホールド回路14の出力側に温度検出回路16および温度補償回路18を設け、ホールド信号の電圧変動を補償するようにし(段落0052、0053)、
更に、温度検出回路に、基準温度において零磁界におけるサンプルホールド電圧を電源電圧VDDの1/2に調整するオフセット調整を行うため、抵抗のトリミング手段を設ける(段落0069、0075)。」

16 甲第16号証について
(1) 記載事項
甲第16号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

ア 「【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところで、高感度の磁界センサは、概ね地磁気以下の微小磁界を検出することを目的としているのであるが、設計された検出磁界に比べて遙かに大きい磁界を磁気的外乱として、一度受けてしまうと、その外乱磁界が無くなった後であっても、外乱を受ける前、本来、検出できていた微少磁界に対する出力、検出感度が変化してしまうことがある。あるいは、パルス的な不要な出力成分が本来の出力に混入してしまう状態になることがある。前者の時間的に継続するゼロ点からのズレがオフセットと呼ばれ、後者のパルス的な短時間の出力変化はノイズと呼ばれている。ノイズの発生原因の1つとしては、磁性薄膜の磁区構造によるバルクハウゼンノイズが知られている。
【0008】例えば、方位計として地磁気センサを用いたカーナビゲーション装置を有する自動車が、鉄道線路の踏切を通過した際には、地磁気の10倍以上の磁界(外乱磁界)を受けることになる。すると、正しい方位を示さなくなるおそれがある。これは強い外部磁界により、磁界センサの心臓部である、磁性体コアの磁区構造が安定構造では無く、準安定構造に変化し、そのままの状態を維持しているためと考えられる(オフセットの状態)。
【0009】このようなオフセットの問題は、直交フラックスゲートセンサや、磁気インピーダンスセンサにおいて特に深刻である。すなわち、磁性体コアに直接通電した電流により励磁を行う直交フラックスゲートセンサや、磁気インピーダンスセンサにおいては、この直接通電による磁界で、磁区構造が元の状態に復帰することがないといえるからである。
【0010】このような実状のもとに本発明は創案されたものであって、その目的は、磁性体コア薄膜に直接電流を通電する直交フラックス方式の磁界センサ、及び磁気インピーダンス効果磁界センサにおいて、一時的に大きな外乱磁界を受けたことにより発生する出力異常をすみやかに短時間で除去することができる磁界センサを提供することを目的とする。」

イ 「【0022】本発明の磁界センサ1は、磁性体コア10の長手方向(α方向)と同一方向の外部磁界成分Hexを検出することができるようになっており、そのため、磁性体コア10周辺近傍には、図1に示されるように外部磁界Hexを検出するための検出コイル20が巻回されている。なお、本発明における検出コイルとは、誘導電流、電圧を直接検出するコイルとしては、従来の磁界センサで磁界検出のために用いられている負帰還検出コイルとして使用することも、もちろん可能である。さらに、磁性体コア10周辺近傍には、図1に示されるように、前記磁性体コア10を長手方向に強制的に磁化させて、一旦生じたオフセットを消去させるためのオフセット消去用コイル70が巻回されている。」

【図1】


(2) 甲第16号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第16号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「磁気インピーダンス効果磁界センサにおいて、一時的に大きな外乱磁界を受けたことにより発生するオフセットを除去するため、磁性体コア周辺近傍に、前記磁性体コアを長手方向に強制的に磁化させて、一旦生じたオフセットを消去させるためのオフセット消去用コイルを巻回する。」

17 甲第17号証について
(1) 記載事項
甲第17号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

「【0021】
磁石からの磁力を検知して予め設定された閾値を超えた磁力を検知した場合に磁石を検出したと判定する磁石検知装置24又は24aにおいて、パチンコ遊技機3に対する不正磁石を広範囲に検出しようとすると磁石検知装置24又は24aの検知感度を高くする必要がある。
【0022】
検知感度を高くするために、磁石検出装置24又は24aの出力の検出閾値を低くしていくと磁石検知装置24又は24aを設置する環境の温度変化が無視できなくなる。この温度変化による影響は、磁石検知装置24又は24aに搭載された磁気検出素子の温度ドリフト特性により発生する。この影響で、磁気検出素子に磁石を近づけなくても温度の変化で素子の磁気出力値が変化してしまう。磁気検出素子には、ホール素子や磁気抵抗素子、MI素子などがある。
【0023】
磁石検知装置24又は24aは、磁気がない状態の磁気検出素子の磁気出力値と磁気がある状態(磁石を近づけた状態)の磁気出力値の差が閾値を超えた場合に磁石を検出したと判定してオン出力をする装置なので、検知感度を高くするために検出閾値を低くしていくと、周辺温度の変化により、磁気がない状態にもかかわらず磁気検出素子の磁気出力値が変わることがあり、正しく磁石を検知してオン出力ができなくなるという課題がある。
【0024】
特に本願における磁石検知装置は、パチンコ遊技機に取り付けることを目的としており、パチンコ遊技機の主基盤や大型液晶などの影響で周辺温度の変化は無視できない。
【0025】
…(略)…
【0026】
一般的には、温度センサなどを使って温度変化をモニタしてこの温度ドリフト特性を補正する方法があるが、この方法では、温度センサ追加によるコストや温度センサ自体の特性バラツキを補正するための調整コストなどが必要になり、磁気検出装置のコストアップにつながってしまう。また、この方法では、パチンコ機の主基板や大型液晶、モータなどの磁気オフセット変化を補正することができない。」

(2) 甲第17号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第17号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「MI素子などの磁気検出素子において、温度変化により磁気出力値が変化してしまうため、これを補正するため、温度センサなどを使って温度変化をモニタしてこの温度ドリフト特性を補正する方法が一般的である。」

18 甲第18号証について
(1) 記載事項
甲第18号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

第87頁第1行ないし第3行
「はじめに
ナノ結晶磁性材料に発現する軟磁性特性は、Herzerによって提唱されたランダム磁気異方性(Random Anisotropy Model)で解釈され、保磁力が粒径の6乗に比例する関係が示されている。」

(2) 甲第18号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第18号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「ナノ結晶磁性材料に発現する軟磁性特性は、Herzerによって提唱されたランダム磁気異方性で解釈される。」

19 甲第19号証について
(1) 記載事項
甲第19号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものであり、訳文は請求人が記載したものを参考に合議体が作成したものである。

第373頁第3行ないし第5行
「6.3.4 Conventional stress annealing
The conventional annealing method with the presence of an applied stress during the annealing process is known as the conventional stress annealing method [182,183].
(訳文: 慣用の応力アニール法
慣用の応力アニール法として、慣用のアニール法をアニール処理中に応力を印加して行う方法が知られている。)」

(2) 甲第19号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第19号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「アニール法において、アニール処理中に応力を印加することが慣用となっている。」

20 甲第20号証について
(1) 記載事項
甲第20号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

「【0003】
フラックスゲートセンサのうち、平行フラックスゲートセンサは、磁気コアおよびピックアップコイルの他に、磁気コアを励磁するための励磁コイルを有している。このような平行フラックスゲートセンサでは、励磁コイルに例えば交流電流を通電することにより、励磁コイルに電流の変化に対応して磁束が発生し、この磁束によって磁気コアが周期的に飽和する。
この平行フラックスゲートセンサは、このように磁気コアと、励磁コイルおよびピックアップコイルの2つのコイルを有することから構造が複雑になる。また、平行フラックスゲートセンサは、磁気コアを励磁する際に反磁界の影響を受けることから励磁効率が低くなる。このため、反磁界による励磁効率の低下を補うべく素子サイズを大きくする必要があり、小型化が難しい。
【0004】
…(略)…
【0005】
一方、直交フラックスゲートセンサや、表皮効果によるインピーダンス変化を利用した磁気インピーダンス型磁気センサ(MIセンサ)は、磁気コアに直接励磁電流を通電し、磁気コアの周回方向に励振することにより磁化の回転に比例した電圧を検出する。このため、磁気コアの励振に際して反磁界の影響を受けにくく、素子長を短くできる特徴を有し、薄膜プロセスで作製することにより小型化、集積化が可能となる。(例えば、特許文献3、非特許文献1、2参照。)また、これらのセンサは、磁気コアに直接通電する構造のため、励磁周波数の高周波化が可能であり、応答速度を速くできるといった利点を有していることから、交流磁界の検出に適している特徴を有する。
【0006】
ところで、このように直交フラックスゲートセンサは、平行フラックスゲートセンサに比べて利点を有するが、いずれのセンサにおいても次のような問題がある。
すなわち、これらのセンサでは、磁気コアのヒステリシス特性に起因して、センサ出力にも僅かではあるがヒステリシスが生じ、そのままではリニアリティが悪いため、これを補正するための負帰還回路を構成する必要があり、検出回路が複雑になるといった問題がある。
そこで、フラックスゲートセンサについて、ヒステリシスの影響を回避した磁界検出方法として以下のような方法が開示されている(例えば、特許文献4、5、非特許文献3、4参照)。」

(2) 甲第20号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第20号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「直交フラックスゲートセンサや、表皮効果によるインピーダンス変化を利用した磁気インピーダンス型磁気センサ(MIセンサ)では、磁気コアのヒステリシス特性に起因して、センサ出力にも僅かではあるがヒステリシスが生じ、そのままではリニアリティが悪い。」

21 甲第21号証について
(1) 記載事項
甲第21号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

第3833頁左欄第12行ないし右欄第1行
「[0004] ところで、磁気センサの測定精度の向上のためには、オフセットの低減、出力信号のバラツキの低減、及びリニアリティ(出力線形性)の向上が必要となる。リニアリティの向上のためには、磁気抵抗効果素子のヒステリシスの低減が必要となる。磁気抵抗効果素子のヒステリシスを低減した磁気センサの応用例として、フリー磁性層にバイアス磁界を印加するハードバイアス層を有するGMR素子を備えた薄膜磁気ヘッドが提案されている(例えば、特許文献1参照)。」

(2) 甲第21号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第21号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「磁気抵抗効果素子を用いた磁気センサにおいて、測定精度の向上のためには、オフセットの低減、出力信号のバラツキの低減、及びリニアリティ(出力線形性)の向上が必要となり、リニアリティの向上のためには、磁気抵抗効果素子のヒステリシスの低減が必要となる。」

22 甲第22号証について
(1) 第1章の記載事項
甲第22号証の第1章(毛利佳年雄執筆“新しい磁気センサの基礎(1) アモルファス磁気合金ワイヤの大バルクハウゼン効果と磁気インピーダンス効果・MIセンサ”)には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

ア 第15頁第13行ないし第17頁第2行
「大バルクハウゼン効果の発見とセキュリティセンサへの実用化ものがたり
アモルファス合金ワイヤは、1976年にアライドケミカル社のオハンドリー博士が、超急冷鋼単ロールの表面に細い溝を形成する方法で約40cmの鉄系サンプルを作成し、磁壁が長さ方向に伝播することを発見した。このときのサンプルは、ワイヤとしては形状が未熟なものであった。その後、大阪大学の大中教授が、超急冷単ロールの内側に水を溜めて回転させ、その水中に溶融原料を石英ノズルから噴射させる水中超急冷法によって、断面が真円形で直径の一様なアモルファスワイヤの作成法を考案した。…(略)…
この水中急冷法のアモルファス合金ワイヤの作成法は、ワイヤの物性研究とともに、東北大学の増本研究室で実用レベルまで発展した。そして1981年に、繊維会社のユニチカ(株)によって実用化され市販が開始された。…(略)…
このあっという間の実用化への開発研究の中で、ハンフリー教授との集中的な議論を通して、新素材アモルファス磁性ワイヤの磁区構造モデルを確立していった。その着眼点は、水中超急冷過程でアモルファスワイヤの表面層から固化して表面に圧縮応力が残留すること、ワイヤの内部は徐冷されてワイヤ長さ方向に張力が残留すること(ワイヤ長さ方向に圧縮力と張力が平衡すること)、アモルファスワイヤは強靱弾性体のため強い応力を残留し、このため磁壁エネルギー密度が高く、磁束反転はアモルファスワイヤの内心部を微小な磁壁はワイヤ長さ方向に走ることで行われる。この磁区モデルは、九州工業大学の山崎教授グループによるアモルファスワイヤ断面のカー効果磁区観察によって検証されている。これは、周知のシクスタス・トンクスの実験(張力を印加したパーマロイワイヤで磁壁がワイヤ長さ方向に走る(伝播する)が、水中超急冷で出来たアモルファスワイヤでは張力を印加しなくても実現していることを意味する。」

イ 第17頁第7行ないし第15行
「 図4は、筆者とハンフリー教授、山崎次郎教授で確立したアモルファスワイヤの磁区モデルである。このモデル化の論理および検証は、コラムでも述べたように、以下の考察に拠っている。

1) 水中急冷過程において、アモルファスワイヤの表面層から固化して表面に圧縮応力が残留する。表面の磁区観察では、鉄系アモルファスワイヤ(正磁歪)では「迷路磁区パターン」が現れ、コバルトアモルファスワイヤ(負磁歪)では「竹の節(バンブー)パターン」が現れる。
2) ワイヤの内心部は徐冷されてワイヤ長さ方向に張力が残留する。ワイヤ内心部では、ワイヤ長さ方向に磁気異方性(一軸異方性)が誘導されている。…(略)…」

【図4】


図4には、アモルファス合金ワイヤの表面層には概ね周方向の磁区が存在し、内心部には軸方向の磁区が存在することが示されている。

ウ 第25頁第24行ないし第35行
「(2) ピコテスラ分解能の超高感度マイクロ磁気センサ
磁気センサの内部磁気雑音は、磁壁移動のバルクハウゼン跳躍で生じる。図4のアモルファスワイヤの磁区構造においては、ワイヤの長さ方向に磁気異方性をもつ内心部で、磁壁が発生し易くとくにワイヤ両端部で静磁エネルギーを緩和するための多数のスパイク磁区が発生し、その磁壁変動が内部磁気雑音の発生源になる。FGセンサは、このため磁界検出感度の限界が0.1μG程度である。
これに対して、MIセンサは表皮効果によってアモルファスワイヤの内心部の磁化変化を使用しないため、内部磁気雑音の発生が極めて小さい。また、パルス磁気インピーダンス効果は、一方向パルス列通電で動作するため、パルス列の平均磁界(直流バイアス磁界)によりワイヤ円周方向が単磁区状態になり、磁壁が存在せずバルクハウゼン雑音が発生しない。このため、磁気雑音は磁化ベクトルの回転雑音のみとなり、MIセンサの磁界検出感度は、理論的にfT/Hz^(1/2)(10^(-12)G/Hz^(1/2))に達する。MIセンサ回路全体では、電子回路雑音(ノーマルモードノイズ、コモンモードノイズ)が加わるため、フィルタ回路などの雑音抑制技術を用い、第5章では1ピコテスラ磁界検出分解能のMIセンサの原理を回折センサの構成と脳磁気や細胞組織磁気などの生体磁気等の応用計測が述べられている。」

エ 第26頁第20行ないし第35行
「(3) 超高感度(高線形性・無ヒステリシス性)
磁気センサの磁界検出性能は、高感度と高精度の2面があり、感度は磁界の変化量に対する出力電圧の変化量で表され、磁界の検出特性の直線性(線形性)や磁界の増減に対するヒステリシス性とは独立に評価される場合がある。…(略)…
アモルファスワイヤのパルス通電磁気インピーダンス効果では、ワイヤの円周方向に一軸異方性と単磁区状態を付与し、その中でワイヤ長さ方向の外部磁界Hexで傾斜した磁化ベクトルを、ワイヤ通電パルスの円周パルス磁界で円周方向に回転させるため、ワイヤ検出コイルの誘起パルス電圧の高さが正確にHexに比例する。すなわち、原理的に高線形磁界検出特性を持っている。したがって、無ヒステリシスであり、MIセンサは、超小型・超高感度・超高精度特性を兼備している。」

オ 第27頁第4行ないし第25行
「(4) 直流磁界(0Hz)からGHzの磁界が検出可能な超高速応答特性
磁気インピーダンス効果は、アモルファスワイヤ合金の表皮効果(表皮厚さはδ=(2ρ/ωμ)^(1/2);ρは電気抵抗率で130μΩ-cm、ωは通電電流の角周波数、μはワイヤ断面円周方向の最大微分透磁率)を利用するため、ωの理論的上限がない。とくにパルス通電磁気インピーダンス効果は、ワイヤの単磁区状態で動作するため、磁壁共振域での損失がなく高周波動作に適している。高周波通電でのアモルファスワイヤの実験も多く報告されており、10GHz通電の磁気インピーダンス効果の測定や50GHz通電での測定も行われている。
FGセンサやMIセンサは、通信技術での搬送波(キャリア)に対応する交流やパルスなどの通電を利用するため、「変調型センサ」と呼ばれているが、一般的には、この搬送波の周波数の10分の1程度までの周波数の信号(磁界)が検出(復調)される。同期検波などの信号処理技術を用いれば、数分の1程度の信号が復調される。このアナログ通信技術のレベルでは、MIセンサの搬送波が10GHzとすれば、数GHzまでの周波数の磁界が検出可能である。高周波磁界信号としては、たとえば核融合炉内のプラズマ電流が13.5MHzであるので、その周波数の磁界を検出することでプラズマ電流の非接触検出ができる。また、携帯電話の電子アンテナとしては、2.45GHzなどのマイクロ波高周波磁界を検出することになる。
したがって、MIセンサは、超小型・超高感度・超高精度・超高速応答・超低消費電力性を兼備したマイクロ磁気センサである。」

(2) 第5章の記載事項
甲第22号証の第5章(内山剛執筆“ピコテスラMIセンサと医用生体計測”)には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

第121頁第10行ないし第123頁第27行
「1 高周波MI効果
渦電流により磁壁移動が抑制される高周波励磁により、MI素子のインピーダンス変化は顕著に生ずる。携帯電話やスマートフォンに内蔵されている、電子コンパスとしてIC化されている、CMOS回路ではパルス通電による高周波励磁を実現している。アモルフスワイヤ素子の高周波通電による磁束変化を説明するために、図1にアモルファスワイヤ素子の磁区構造と印加外部磁界H_(ex)、および円周方向の交流磁束密度B_(φ)^(ac)の関係を示す。図1(a)のようにH_(ex)を印加しない状態では、ワイヤ表面層の磁化ベクトルM_(0)は、円周方向(磁化容易軸方向)を向いている。また、図1(b)のように、ワイヤ長手方向図1(c)にH_(ex)を与えると、M_(0)はワイヤ軸(z軸)からθの角度へ向きが変化する。さらに、図1(c)は、H_(ex)を印加した状態で、アモルファスワイヤに微小交流電流i_(ac)=-i_(0)e^(jωτ)を通電すると、M_(0)の回転(横方向)および磁壁移動に応じた磁化の変化により、B_(φ)^(ac)が生ずることを示している。
磁壁移動よりも、回転磁化に依存したインピーダンスの変化を利用していると考えられる高周波MI効果の理論解析として、横方向の透磁率(transverse permeability)μ_(t)を用いた解析方法がある。μ_(t)は、磁化ベクトルの横方向に交流磁界を印加した場合の透磁率であり、μ_(t)に依存して変化する素子のインピーダンスは次式で与えられる。
Z_(w)=Z_(w0)cos^(2)θ
Z_(w0)=(1+j)R_(dc)(a/2δ) (5.1)
δ=(2ρ/μ_(t)ω)^(1・2)
ここで、μ_(t)の方向性を考慮すれば、図2(a)のワイヤ円周方向の磁界h_(φ)とM_(0)横方向の磁界h_(t)の関係、および図2(b)の、ワイヤ円周方向の磁束変化ΔB_(φ)とΔB_(t)の関係から、ΔB_(φ)=μ_(t)h_(t)cos^(2)θとなるため、円周方向の磁束変化に比例するZ_(w)にcos^(2)θの項が表れる。この式より、H_(ex)により決定される磁化ベクトルの向き(角度θ)に依存して、高周波通電によるインピーダンス変化が生ずることが考えられる。一方、μ_(t)(=1+4πχ)の磁界に対する変化は、(5.2)式により与えられる。
…(略)…、H_(k)は異方性磁界、…(略)…。ω_(1)とω_(2)は、H_(ex)(あるいはH_(ex)による磁化ベクトルの角度(θ)に依存するが、ω_(1)およびω_(2)よりωが十分に高い、高周波励磁の場合は、μ_(t)が外部磁界にほとんど依存しないことになる。例えば、FeCoSiB張力アニールワイヤでは、通電周波数を20MHz以上とすれば、H_(ex)がH_(k)(≒1Oe)以下の範囲でμ_(t)の変化は小さい。
…(略)…これまで、アモルファスワイヤの表面インピーダンスの解析に使用されている、τ=0.2の場合に50MHz以上の高周波領域で、実験値とμ_(t)による理論解析値との一致が良いことが確認できる。したがって、高周波励磁によるMIセンサを設計する上でμ_(t)を用いた解析方法は定量的に参考になることが分かる。」

【図1】


(3) 甲第22号証についてのまとめ
上記(1)及び(2)によれば、甲第22号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「アモルファス合金ワイヤの水中急冷過程においてワイヤの表面層から固化して表面に圧縮応力が残留し、ワイヤの内心部は徐冷されてワイヤ長さ方向に張力が残留するという考察に基づき、アモルファス合金ワイヤの磁区モデルとして、表面層に概ね周方向の磁区が存在し、内心部に軸方向の磁区が存在するという磁区モデルが確立され、このモデルはアモルファスワイヤ断面のカー効果磁区観察によって検証されている(第15頁第13行ないし第17頁第2行、第17頁第7行ないし第15行)。
このモデルの磁区構造においては、ワイヤの長さ方向に磁気異方性をもつ内心部で、磁壁が発生し易くとくにワイヤ両端部で静磁エネルギーを緩和するための多数のスパイク磁区が発生し、その磁壁変動が内部磁気雑音の発生源となるが、MIセンサは表皮効果によってアモルファスワイヤの内心部の磁化変化を使用しないため、内部磁気雑音の発生が極めて小さい(第25頁第24行ないし第35行)。
また、アモルファスワイヤのパルス通電磁気インピーダンス効果では、ワイヤの円周方向に一軸異方性と単磁区状態を付与し、その中でワイヤ長さ方向の外部磁界Hexで傾斜した磁化ベクトルを、ワイヤ通電パルスの円周パルス磁界で円周方向に回転させるため、ワイヤ検出コイルの誘起パルス電圧の高さが正確にHexに比例して原理的に高線形磁界検出特性を持つこととなり、したがって、無ヒステリシスとなる(第26頁第20行ないし第35行)。
更に、磁気インピーダンス効果は、アモルファスワイヤ合金の表皮効果(表皮厚さはδ=(2ρ/ωμ)^(1/2);ρは電気抵抗率で130μΩ-cm、ωは通電電流の角周波数、μはワイヤ断面円周方向の最大微分透磁率)を利用するため、ωの理論的上限がなく、とくにパルス通電磁気インピーダンス効果は、ワイヤの単磁区状態で動作するため、磁壁共振域での損失がなく高周波動作に適しており、一般的には、この周波数の10分の1程度までの周波数の信号(磁界)が検出(復調)されることから、10GHzの通電によって数GHzまでの周波数の磁界が検出可能となって超高速応答性を実現でき、10GHz通電の磁気インピーダンス効果の測定や50GHz通電での測定など、高周波通電でのアモルファスワイヤの実験も多く報告されている(第27頁第4行ないし第25行)。
アモルファスワイヤ素子に外部磁界H_(ex)を印加しない状態では、ワイヤ表面層の磁化ベクトルM_(0)は、円周方向(磁化容易軸方向)を向いており、これにワイヤ長手方向のH_(ex)を与えると、M_(0)はワイヤ軸(z軸)からθの角度へ向きが変化し、さらに、H_(ex)を印加した状態で、アモルファスワイヤに微小交流電流を通電すると、M_(0)の回転(横方向)及び磁壁移動に応じた磁化の変化により、交流磁束密度B_(φ)^(ac)が生ずる。磁壁移動よりも、回転磁化に依存したインピーダンスの変化を利用していると考えられる高周波MI効果の理論解析として、横方向の透磁率(transverse permeability)μ_(t)を用いた解析方法が定量的に参考になる(第121頁第10行ないし第123頁第27行)。」

23 甲第25号証について
(1) 記載事項
甲第25号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、高感度、低ノイズ、省電力を可能とする磁気検出装置に関する。
背景技術
[0002] 異物検出、地磁気検出、姿勢把握等のために磁気検出装置が用いられている。最近では、携帯電話、スマートフォンなどの携帯端末等にも超小型の磁気検出装置が搭載されている。このような磁気検出装置の代表例として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)のパルス駆動型検出コイル式磁気インピーダンスセンサがある。
[0003] ここで磁気インピーダンスセンサとは、CoFeSiB系合金等からなる感磁ワイヤ(特にアモルファスワイヤ)に高周波電流を流すと、表皮効果により、そのインピーダンスが外部磁界に応じて変化するというマグネトインピーダンス効果(MI効果)を利用したセンサである。検出コイル式とは、そのインピーダンス変化を感磁ワイヤの周囲に巻回した検出コイルに生じる誘起電圧により検出する方式である。パルス駆動型とは、その感磁ワイヤへ流す高周波電流として、パルス電流を流す型式である。以下では、磁気インピーダンスセンサのみならずパルス駆動型検出コイル式磁気インピーダンスセンサも、適宜、単に「MIセンサ」と呼ぶ。このようなMIセンサに関連した記載は、例えば下記の特許文献にある。
先行技術文献
特許文献
[0004] 特許文献1:特開2008-134236号公報
特許文献2:特開2009-25280号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0005] 基本的に、感磁ワイヤへパルス電流を流すMIセンサの場合、外部磁界に応じて変化する感磁ワイヤのインピーダンス変化を、検出コイルに生じる誘起電圧(信号電圧)に基づき検出する必要がある。従来のMIセンサでは、特許文献1の図2または特許文献2の図2を観れば明らかなように、検出コイルが電子スイッチを介してホールドコンデンサに直結されている。この場合、誘起電圧によって検出コイルを含む回路に流れる電流がホールドコンデンサへ直接充電され、そのホールドコンデンサの両端電圧(ホールド電圧)が増幅されて出力電圧とされていた。このように検出コイルからホールドコンデンサへ直接的に電流を流して、ホールドコンデンサの両極間に生じた電圧を検出するアナログ的な信号検波回路(アナログ型信号検波回路)でも、検出コイルの電気抵抗(R)とホールドコンデンサ(C)の静電容量が相応に小さいときは、MIセンサの検出回路として十分に機能していた。
[0006] ところが最近では、小型化を維持しつつ、さらなるMIセンサの高感度化、低ノイズ化等が要求されるようになってきた。MIセンサの高感度化を図る方策の一つとして、検出コイルの巻線間隔(コイルピッチ)を狭小化するファインピッチ化が考えられる。このファインピッチ化に伴い、検出コイルは、従来のメッキ工法による厚さ5μm程度の厚膜コイルから、蒸着プロセスによる厚さ0.5μm程度の薄膜コイルへ移行されつつある。しかし、このようにファインピッチ化された検出コイルの電気抵抗は、その断面積の減少と長さの増大に応じて、指数関数的に大きくなる。その結果、検出コイルに生じる誘起電圧の増加分よりも、その誘起電圧に基づき検出コイルを含む回路を流れる電流(I)によって生じる電圧降下(IRドロップ)分が大きくなり、ホールド電圧が逆に低下するという現象が生じる。従って、従来のアナログ型信号検波回路のままファインピッチ化を図っても、MIセンサの高感度化は達成できなかった。
[0007] また、MIセンサの低ノイズ化を図る方策の一つとして、ホールドコンデンサの静電容量を増大させることが考えられる。現在販売されているMIセンサに搭載されているホールドコンデンサの静電容量は6pFであるが、これを少なくとも10pFぐらいまで増大させることができれば、ノイズを10?30%程度低減可能である。しかし、従来のアナログ型信号検波回路のまま静電容量を増大させると、パルス電流に対応した極短時間内にホールドコンデンサが十分に充電されず、ホールド電圧が逆に低下し、やはりMIセンサの感度低下を招く。
[0008] さらにMIセンサの省電力化を図る方策の一つとして、感磁ワイヤへ供給する駆動電流の低減化(例えば、パルス幅の狭小化やパルス数の低減化)が考えられる。しかし、従来のアナログ型信号検波回路では、やはり、ホールドコンデンサの充電不足を招き、MIセンサの感度を維持しつつ省電力化を図ることは難しかった。
[0009] 本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、高感度化、低ノイズ化または省電力化等を図れる新タイプの信号検波回路を備えた磁気検出装置を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0010] 本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、パルス駆動型検出コイル式MIセンサの検出コイルとホールドコンデンサの間にバッファー回路を介在させ、その検出コイル側回路のみならずホールドコンデンサ側回路のインピーダンスも大きくすることにより、検出コイル側に生じた高い周波数(換算周波数)の入力信号電圧に追従した出力信号電圧をホールドコンデンサ側回路に生じさせることを思いついた。このようにバッファー回路を介して検出コイルからホールドコンデンサへ信号電圧を伝達するデジタル型信号検波回路を採用することにより、MIセンサの高感度化や低ノイズ化等を大幅に改善し得ることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。」

イ 「[0017] 上述した内容を踏まえて、本発明に係るパルス電流の換算周波数は0.3?3GHzさらには0.4?2GHzであると好ましい。なお、本明細書でいう換算周波数は、パルス電流波形におけるパルスの立上り、若しくは立ち下りの時間Δt(図2A参照)を、4分の1周期とする波形(図2B参照)の周波数(f=1/4Δt)である。」

ウ 「実施例
[0027] 本発明に係る一実施例である磁気検出装置1の回路図を図1に示した。磁気検出装置1は、感磁部10と、パルス発信回路部20と、バッファー回路部30と、サンプルホールド回路部40と、増幅回路部50とからなる。
[0028] 感磁部10は、CoFeSiB系合金のアモルファスワイヤからなる感磁ワイヤ11(感磁体)と、その周囲に巻回された検出コイル12とを有するMI素子からなる。感磁ワイヤ11に後述するパルス電流が供給されると、感磁ワイヤ11の円周方向にパルス的な磁場が生じ、パルス電流の立上り部または立下り部(di/dtが大きく変化する部分)に対応したパルス的な誘起電圧が検出コイル12にも生じる。感磁ワイヤ11の周囲に生じる磁場は外部磁気の影響を受けて変化し、その変化は検出コイル12により検出される誘起電圧の変化となって現れる。この検出コイル12に生じた誘起電圧を的確に検出することにより、感磁ワイヤ11の周囲に生じている外部磁気も精確に把握できるようになる。
[0029] パルス発信回路部20は、パルス発信器21からなり、所定のパルス電流を感磁ワイヤ11に供給している。またパルス発信回路部20は、そのパルス電流を発信するタイミングにほぼ同期した制御信号(電圧)を後述する電子スイッチ41へ供給している。
[0030] バッファー回路部30は、増幅器31からなり、フィードバック(負帰還)回路となっている。増幅器31の入力側は、インピーダンスが実質的に無限大となっている。このため、検出コイル12で生じた誘起電圧は、ほとんど電圧降下することがなく、ほぼそのまま増幅器31へ入力される。一方、増幅器31の出力側は、それ自体のインピーダンスは小さいが、後述するホールドコンデンサ42の静電容量が非常に小さいため、その出力側に接続される回路のインピーダンスも非常に大きくなっている。
[0031] サンプルホールド回路部40は、電子スイッチ41とホールドコンデンサ42からなる。電子スイッチ41は、パルス発信器21からの制御信号に基づき開閉を行う。例えば、電子スイッチ41は、パルス電流が立ち上がる所定時間だけON状態となり、誘起電圧がピーク値となるOFFされる。この電子スイッチのOFF時に、ホールドコンデンサ42の両端に生じていた電圧がホールド電圧として保持される。
[0032] 増幅回路部50は、差動増幅器51からなり、接地電圧に対するホールドコンデンサ42のホールド電圧を増幅して出力する。なお、適宜、増幅回路部50の入力側に高周波フィルタ回路を設けたり、その出力側に低周波フィルタ回路を設けてもよい。
[0033]《試験》
上述したようなバッファー回路部を設けた磁気検出装置(以下、実施例という。)とそれを設けない磁気検出装置(以下、比較例という。)とによる感度およびノイズを測定した一例を以下に示す。この際、感磁ワイヤには、直径:10μm、長さ:0.6mmのCoFeSiB系合金からなるアモルファスワイヤを用いた。パルス電流は、パルス幅:10ns、立上り時間若しくは立下り時間:0.5ns、電流値:150mAの矩形波とし、パルス周波数は50Hzとした。ちなみに、このパルス電流の換算周波数(図2Bに示す4Δtを1周期としたときの周波数)は、上記の立上り時間若しくは立下り時間からわかるように500MHz(0.5GHz)となる。
[0034] コイル幅:0.6mm、コイル巻数:40回、コイルピッチ:7.5μmとした検出コイルと15pFのホールドコンデンサを用いた場合、比較例の感度は16mV/Gであったが、実施例の感度は26mV/Gにまで大幅に上昇した。また同条件下で、比較例のノイズは2mGであったが、実施例の感度は1mGまで大幅に低減した。
[0035] 以上からバッファー回路部を設けることにより、磁気検出装置の高感度化や低ノイズ化を図れることが明らかとなった。」

【図1】


(2) 甲第25号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第25号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「パルス駆動型検出コイル式磁気インピーダンスセンサにおいて、センサの高感度化を図る方策の一つとして、蒸着プロセスにより検出コイルの巻線間隔(コイルピッチ)を狭小化するファインピッチ化が考えられるが、このようにファインピッチ化された検出コイルの電気抵抗は、その断面積の減少と長さの増大に応じて、指数関数的に大きくなり、その結果、検出コイルに生じる誘起電圧の増加分よりも、その誘起電圧に基づき検出コイルを含む回路を流れる電流(I)によって生じる電圧降下(IRドロップ)分が大きくなり、ホールドコンデンサのホールド電圧が逆に低下するという現象が生じてしまうことから(段落0003、0005、0006)、
これを解決するため、センサの検出コイルとホールドコンデンサの間にバッファー回路を介在させ、検出コイル側回路のみならずホールドコンデンサ側回路のインピーダンスも大きくすることで、検出コイル側に生じた高い周波数(換算周波数)の入力信号電圧に追従した出力信号電圧をホールドコンデンサ側回路に生じさせるようにし(段落0010)、
その結果、直径:10μm、長さ:0.6mmのCoFeSiB系合金からなるアモルファスワイヤに、パルス幅:10ns、立上り時間若しくは立下り時間Δt:0.5ns、換算周波数(4Δtを1周期としたときの周波数):500MHz(0.5GHz)であるパルス電流を供給し、コイル幅:0.6mm、コイル巻数:40回、コイルピッチ:7.5μmとした検出コイルに生じた誘起電圧を検出するようにした場合にも、高感度が実現できる(段落0017、0028、0033、0034、0035)。」

24 甲第27号証について
(1) 記載事項
甲第27号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

第463頁左欄第3行ないし第8行
「回路の設計や解析には鉄心の磁化特性を正確な数式で表現できると好都合である。しかし,磁性理論からこれを求めることが困難であるため,Frohlich,Widger氏らによる有理関数近似や,べき関数,指数関数,双曲線関数,フーリエ級数などで近似する方法が一般に用いられている。」

(2) 甲第27号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第27号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「鉄心の磁化特性を数式で表現するため、Frohlich,Widger氏らによる有理関数近似や,べき関数,指数関数,双曲線関数,フーリエ級数などで近似する方法が一般に用いられている。」

25 甲第28号証について
(1) 記載事項
甲第28号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

「【背景技術】
【0002】
食品工場あるいは衣料品工場などの製品検査工程において、製品の中に混入する微小な鉄製の異物を検査する必要がある。この異物検査の手段として、製品中の微小な異物が有するわずかな磁気がコンベアで搬送されるとき、その周辺に微弱な磁場変動が生じるのを磁気センサを利用した磁気検出装置で検出することが一般的に知られている。
【0003】
しかし、上記鉄片のような微小物体が発する磁場は地磁気と異なって、局部的であるため、フラックスゲート磁気センサのような体積の大きなセンサでは空間分解能が低いので検出が困難である。一方、磁気インピーダンスセンサ素子(以下、MI素子という。)からなるMI磁気センサは非常に小型であるため空間分解能が高く、微小物体の検出に適している。
ここで、MI素子は、感磁体であるアモルファスワイヤにパルス電流または高周波電流を印加したときに上記アモルファスワイヤの周囲に巻回した検出コイルに周辺の磁場に対応する電圧を出力するものである。
【0004】
一方、例えば、0.2mm前後の大きさの異物を見つけるためには、所定の距離離れたところから磁気検出装置は地磁気の影響を排除しつつ、さらに地磁気の数千分の一程度に相当する100μG(マイクロガウス)あるいはそれ以下の磁気変動を検出する必要がある。」

(2) 甲第28号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第28号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「磁気インピーダンスセンサ素子(MI素子)からなるMI磁気センサは非常に小型であるため空間分解能が高く、微小物体の検出に適している。例えば、0.2mm前後の大きさの異物を見つけるためには、所定の距離離れたところから磁気検出装置は地磁気の影響を排除しつつ、さらに地磁気の数千分の一程度に相当する100μG(マイクロガウス)あるいはそれ以下の磁気変動を検出する必要がある。」

26 甲第29号証について
(1) 記載事項
甲第29号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

第1891頁左欄第5行ないし第20行
「 Fig.9は、CMOSインバータを6個内蔵した市販のICチップを使用し、2個のインバータでマルチバイブレータ形パルス励磁回路を構成したMIセンサ回路を示す。…(略)…
2個のMI素子には、Fig.6の方式によるパルス磁界バイアスが印加され、バイアスコイルの巻方向を組み合わせることにより、2個のMI素子に印加されるH_(ex)の和をE_(out)にすることも、それぞれの印加磁界の差をE_(out)(磁界差センサ)にすることもできる。この対称型回路構成は,コモンモードノイズを相殺する高精度センサ回路である。」

【Fig.9】


(2) 甲第29号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第29号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「2個のインバータでマルチバイブレータ形パルス励磁回路を構成したMIセンサ回路において、2個のMI素子にパルス磁界バイアスが印加されるようにし、それらのバイアスコイルの巻方向を組み合わせることにより、2個のMI素子に印加されるH_(ex)の和をE_(out)にすることも、差をE_(out)(磁界差センサ)にすることもできる。」

27 甲第30号証について
(1) 記載事項
甲第30号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

第1頁左欄第3行ないし第17行
「2 特許請求の範囲
1) 検出すべき電流によって発生される磁界内に配置された第1および第2の少なくも2個の磁電変換素子を有して成り、前記第1の変換素子から電気的出力を取り出すためのリード部材として、前記磁界の変動により電磁誘導電圧が正方向に誘起されるように配置された部材を設け、前記第2の変換素子から電気的出力を取り出すためのリード部材として、前記磁界の変動により電磁誘導電圧が負方向に誘起されるように配置された部材を設け、該誘導電圧が相殺されるように前記両リード部材を接続することにより、第1および第2の磁電変換素子から得られる電気的出力から磁界変動による電磁誘導電圧成分を除去したことを特徴とする電流検出器。」

(2) 甲第30号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第30号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「磁界内に配置された2個の磁電変換素子のそれぞれから電気的出力を取り出すためのリード部材において、磁界の変動により誘起される電磁誘導電圧が相殺されるように両リード部材を接続する。」

28 甲第31号証について
(1) 記載事項
甲第31号証には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

「【0027】
以下に本発明に係る誘導加熱装置および誘導加熱方法の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施形態を示す概要構成図である。この誘導加熱装置10は、電力を供給する電源部30と、供給電流を整流する順変換部40、駆動制御回路20(20m、20s)、負荷コイル部22(22m、22s)、および相互誘導起電力検出手段70とから構成される複数の加熱ユニットとから成る。
【0028】
本実施形態では、複数の誘導加熱コイル56の相互誘導電圧の影響(干渉)により生ずる干渉起電力(相互誘導起電力)を後述する逆極性の相互インダクタンスを発生させる逆結合トランス64により相殺(抑制)しつつ、複数の誘導加熱コイル56に投入する電流の周波数と、電流波形のゼロクロス位置をそれぞれ制御することが可能なインバータ52により個別に電力制御することで、相互誘導電圧の影響を回避するようにしている。これにより、隣接配置された個々の誘導加熱コイル56への投入電力を相互誘導電圧の影響を受ける事無く個別に制御することが可能となり、被加熱物をその要求温度分布となるようにゾーンコントロールすることができる。
【0029】
前記逆結合トランス64は、隣り合う誘導加熱コイル56を有する負荷コイル部22等に備えられ、例えばコイルの巻き方向が逆向きである等により各々の極性が逆になるように向かい合わせに、あるいは図2に示すように直線上に並べて備えられる調整コイル63a,63bにより構成される。つまり、トランスの一次巻線と二次巻線の双方に、対向する方向の電流を流すようにすれば、一次巻線を構成する調整コイル63aと二次巻性を構成する調整コイル63bとの間には、コイルの巻方向、電流の向きを同一とする隣接配置された誘導加熱コイル56間に生ずる相互インダクタンスと逆極性の相互インダクタンスが生ずることとなり、結果として相互誘導電圧(磁場による起電力)の発生を抑制することができるという原理である。」

(2) 甲第31号証についてのまとめ
上記(1)によれば、甲第31号証には、以下の技術事項が記載されていると認められる。

「誘導加熱装置において、複数の誘導加熱コイルの相互誘導電圧の影響(干渉)により生ずる干渉起電力(相互誘導起電力)を、逆極性の相互インダクタンスを発生させる逆結合トランスにより相殺(抑制)する。」


第6 無効理由の理由1(甲第1号証に記載された発明を引用発明とする無効理由)について
1 本件訂正発明1について
(1) 対比
本件訂正発明1と甲1発明(上記第5の1(2)参照。)とを対比すると、以下のとおりである。

ア 甲1発明における「深さ5?200μmの断面略矩形状を呈する溝状の凹部15を設けた素子基板14」が、本件訂正発明1における「基板」に相当する。

イ 甲1発明における「長さ1.0mm、線径20μmのアモルファスワイヤとし、その材質としては、例えば、FeCoSiB、NiFe等を採用することができ」るとされ、「パルス状の電流(パルス電流)を通電」される「感磁体2」が、本件訂正発明1における「導電性を有する磁界検出用磁性ワイヤ」に相当する。

ウ 甲1発明における「該感磁体2の外周に巻回した検出コイル31、32」が、本件訂正発明1における「それ(合議体注:磁界検出用磁性ワイヤ)に巻回した周回コイル」に相当する。

エ 甲1発明における「素子基板14上に形成され」る「感磁体2の両端の2つの電極」が、本件訂正発明1における「ワイヤ通電用の電極2個」に相当する。

オ 甲1発明における「素子基板14上に形成され」る「検出コイル31、32の両端の電極341と電極342」が、本件訂正発明1における「コイル電圧検出用電極2個」に相当する。

カ 上記アないしオによれば、甲1発明における「深さ5?200μmの断面略矩形状を呈する溝状の凹部15を設けた素子基板14上に形成してあ」る、「感磁体2」と「該感磁体2の外周に巻回した検出コイル31、32」とを有する「マグネト・インピーダンス・センサ素子1」、「感磁体2の両端の2つの電極」及び「検出コイル31、32の両端の電極341と電極342」を合わせたものが、本件訂正発明1における「基板上に導電性を有する磁界検出用磁性ワイヤとそれに巻回した周回コイルとワイヤ通電用の電極2個とコイル電圧検出用電極2個を設置した磁界検出素子」に相当するといえる。

キ 甲1発明における「マグネト・インピーダンス・センサ素子1の感磁体2に入力され」る「パルス信号」を発生する「信号発生器52」が、本件訂正発明1における「前記磁性ワイヤにパルス電流を流す手段」に相当する。

ク 甲1発明における「マグネト・インピーダンス・センサ素子1の検出コイル31、32からの出力電圧を、パルス信号の入力に連動して開閉する同期検波531を介して取出し、増幅器532にて増幅するようになって」いる「信号処理部53」が、本件訂正発明1における「パルス電流を流した時に生じるコイル電圧を検知する回路」に相当する。

ケ 甲1発明では、「感磁体2」について、「長さ1.0mm、線径20μmのアモルファスワイヤとし、その材質としては、例えば、FeCoSiB、NiFe等を採用することができ」るとされているが、その磁区構造については特定されていない。
ところで、甲第2号証によれば、MIセンサに使用される感磁ワイヤとして、少なくとも、「磁区構造の違いにより表層部とコア部の2層に分かれ」る構造のものと、「磁壁を全く有さず、ワイヤ表層部で各スピンが一定の円周方向に連続的に配列していると共に、その表層部の内周側である内側部では各スピンがアモルファスワイヤの中心に近づくに従って徐々に円周方向から軸方向に回転していきそのワイヤ中心では軸方向に向く、連続的なスピン配列となる構造(ボルテックススピン構造)」のものの2種類が知られている(上記第5の2(2)参照。)。そうすると、甲1発明における「感磁体2」は、それらのいずれでもあり得るものであり、つまり、甲1発明における「感磁体2」が、「2相の磁区構造を有してな」るものであるのかどうかは明らかでない。
よって、本件訂正発明1では、「磁性ワイヤ」は「円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を有してな」るのに対し、甲1発明では、「感磁体2」が「2相の磁区構造を有してな」るかどうかが不明である点で、両者は相違する。

コ 甲1発明では、「マグネト・インピーダンス・センサ素子1は、感磁体に通電する電流を10ナノ秒以下で立ち下げたときに、検出コイルの両端に発生する誘起電圧の大きさを計測することで作用する磁界強度を計測し得るように構成することが好ましく、10ナノ秒以下で通電電流の立ち下げを実施すれば、およそ0.1GHzの高周波成分を含む電流変化を感磁体に作用することができ」るとされているが、この「感磁体に通電する電流を10ナノ秒以下で立ち下げ」るという事項は、本件特許の明細書に記載された「パルス電流の周波数」の定義である「f=1/2dt(ただし、dtは立上り、立下り瞬間の遷移時間)」(上記第3の2(2)エ参照。)に当てはめると、「パルス電流の周波数」が「50MHz以上」ということに相当する。よって、甲1発明における「感磁体に通電する電流を10ナノ秒以下で立ち下げ」るという事項と、本件訂正発明1における「前記磁性ワイヤに通電するパルス電流は、該周波数は0.5GHz?4.0GHzで」あるという事項とは、「前記磁性ワイヤに通電するパルス電流の周波数は50MHz以上である」という点で共通する。

サ 甲1発明における「検出コイル31、32の捲線内径」が、本件訂正発明1における「コイル内径」に相当し、甲1発明における「検出コイル31、32の線幅及び線間幅」の合計が、本件訂正発明1における「コイルピッチ」に相当する。
よって、本件訂正発明1では、「コイルピッチ10μm以下でコイル内径を25μm以下とする」のに対し、甲1発明では、「検出コイル31、32の線幅及び線間幅は共に25μm」(「コイルピッチ」が50μmであることに相当する。)で「検出コイル31、32の捲線内径」を「66μm」とする点で、両者は相違する。

シ 甲1発明の「微小な磁界を高い感度で検出するマグネト・インピーダンス・センサ素子1を組み込んだセンサ」は、「計測対象磁界を高精度で計測することができる」ものであり、本件訂正発明1の「超高感度マイクロ磁気センサ」とは、「磁気センサ」である点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
上記(1)の対比の結果をまとめると、本件訂正発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

ア 一致点

「基板上に導電性を有する磁界検出用磁性ワイヤとそれに巻回した周回コイルとワイヤ通電用の電極2個とコイル電圧検出用電極2個を設置した磁界検出素子および前記磁性ワイヤにパルス電流を流す手段とパルス電流を流した時に生じるコイル電圧を検知する回路とからなる磁気センサにおいて、
前記磁性ワイヤに通電するパルス電流の周波数は50MHz以上である磁気センサ。」

イ 相違点

(ア) 相違点1
本件訂正発明1の磁気センサは、「超高速スピン回転現象」を利用した「超高感度マイクロ磁気センサ」であるのに対して、甲1発明の磁気センサは、そのようなものではない点。
すなわち、本件訂正発明1では、磁性ワイヤが「円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を有してなり」、磁性ワイヤに通電するパルス電流が「該周波数は0.5GHz?4.0GHzで、該ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上」とされ、「前記磁性ワイヤに前記パルス電流を通電することによって、前記表面磁区内のワイヤ軸方向の磁界により軸方向に傾斜した円周方向スピンを超高速に一斉回転させて、その時に生じる超高速スピン回転現象による前記ワイヤの軸方向の磁化変化のみをコイル出力として取り出し、関係式(1)を使って磁界Hに変換する」、「コイル電圧を外部磁界Hに変換する手段」が設けられているのに対して、甲1発明では、磁性ワイヤが「2相の磁区構造を有してな」るかどうかが不明であり、磁性ワイヤに通電するパルス電流の周波数が「50MHz以上」であって「0.5GHz?4.0GHz」であるとは特定されておらず、該パルス電流が「該ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上」であるとは特定されておらず、「前記磁性ワイヤに前記パルス電流を通電することによって、前記表面磁区内のワイヤ軸方向の磁界により軸方向に傾斜した円周方向スピンを超高速に一斉回転させて、その時に生じる超高速スピン回転現象による前記ワイヤの軸方向の磁化変化のみをコイル出力として取り出」すとは特定されておらず、また、「コイル電圧を外部磁界Hに変換する手段」が設けられているかどうかも不明である点。
なお、上記「関係式(1)」は、「Vs=Vo・L・πD・p・Nc・f・sin(πH/2Hm) (1)」「ここで、Vsはコイル出力電圧、Voは比例定数、制御因子定数としては、Lはワイヤの長さ、Dはワイヤの直径、pはパルス電流の表皮深さ、Ncはコイルの巻き数、fはパルス周波数、Hmはコイル出力電圧が最大値を取る時の外部磁界強度。」である。

(イ) 相違点2
磁性ワイヤが、本件訂正発明1では、「10G以下の異方性磁界」を有するのに対して、甲1発明では、どの程度の異方性磁界を有するかが不明である点。

(ウ) 相違点3
本件訂正発明1では、「コイルピッチ10μm以下でコイル内径を25μm以下とする」のに対し、甲1発明では、「検出コイル31、32の線幅及び線間幅は共に25μm」(「コイルピッチ」が50μmであることに相当する。)で「検出コイル31、32の捲線内径」を「66μm」とする点。

(3) 相違点についての判断
ア 相違点1について

(ア) 甲1発明が相違点1に係る本件訂正発明1の構成を備えるようにするには、甲1発明において、「長さ1.0mm、線径20μmのアモルファスワイヤ」である「感磁体2」として「円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造」を有するものを採用し、「感磁体2」に通電するパルス電流の周波数を「0.5GHz?4.0GHz」、大きさを「ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上」とし、「感磁体2」に該パルス電流を通電することによって「超高速スピン回転現象」を生じさせ、それによる「感磁体2」の「軸方向の磁化変化のみ」をコイル出力として取り出し、「関係式(1)を使って磁界Hに変換する」ようにする必要がある。

(イ) ところで、甲9号証には、「アモルファス磁気マイクロワイヤの巨大磁気インピーダンス(GMI)効果は、駆動交流電流Iacの周波数によって大まかに4つの異なるモードに分けられ」、駆動交流電流の周波数によってGMI効果の挙動が大きく異なるということも記載され、甲第10号証には、「周方向に異方性を有する場合におけるMIの挙動」が電流の「周波数ωに依存して完全に異なりうる」ということも記載されていることに鑑みれば、甲1発明で「50MHz以上」とされているパルス電流の周波数を、本件訂正発明1のように「0.5GHz?4.0GHz」とした場合には、磁気センサの挙動が大きく変化することが考えられるため、そのようにした場合にそのまま磁気センサの機能が維持できるということは直ちには認められない。実際、本件特許の明細書には、MI現象では「周波数が0.5GHz以上に増加すると、90度磁壁の移動は渦電流による電磁ブレーキのため著しく遅くなり、しかも表皮深さpが0.2μm?0.8μmとなって表面磁区の厚み程度となるため、磁壁振動が停止してしまう」という問題があったのに対し、「表面に円周方向スピン配列を持った表面磁区が存在する磁性ワイヤを用いて、GHzの周波数を持ち、かつパルス磁界アニーリング処理を行うのに十分な大きさの電流の励磁パルスを印加し、表皮深さpを表面磁区の厚さdよりも小さくして、円周方向スピンの一斉回転を惹起することで」「超高速スピン回転現象」を「発現」させ、この場合に、「コイル出力電圧Vsと外部磁界H」は、「コイル検出型のMIセンサ」のような「比例関係」ではなく、「関係式(1): Vs=Vo・L・πD・p・Nc・f・sin(πH/2Hm)」「を満たす」ようになるということが記載されているから (上記第3の2(2)ウ参照。)、本件訂正発明1は、パルス電流の周波数を「0.5GHz?4.0GHz」とすることとあわせて、磁性ワイヤとして「円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造」を有するものを採用し、パルス電流の大きさを「ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上」とすることで「超高速スピン回転現象」を発現させ、これによる「ワイヤの軸方向の磁化変化のみ」をコイル出力として取り出せるようにし、更に「コイル出力」を「Vs=Vo・L・πD・p・Nc・f・sin(πH/2Hm) (1)」という「関係式(1)を使って磁界Hに変換する」ことで、「0.5GHz?4.0GHz」という高い周波数でも機能する磁気センサを実現したものと理解することができる。
このことを踏まえると、本件訂正発明1における、磁性ワイヤが「円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を有してな」るという事項、磁性ワイヤに通電するパルス電流の「周波数は0.5GHz?4.0GHzで」あるという事項、パルス電流が「該ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上」とされる事項、及び「前記磁性ワイヤに前記パルス電流を通電することによって、前記表面磁区内のワイヤ軸方向の磁界により軸方向に傾斜した円周方向スピンを超高速に一斉回転させて、その時に生じる超高速スピン回転現象による前記ワイヤの軸方向の磁化変化のみをコイル出力として取り出し、関係式(1)を使って磁界Hに変換する」という事項は、これら全てが相まって初めて、新たな「超高速スピン回転現象」を発現させ、それを検出して磁気センサとして機能させることができるものと理解されるため、かかる「超高速スピン回転現象」を基礎とする本件訂正発明1と従来の「MIセンサ」である甲1発明との対比においては、上記の4つの事項は一体をなすものというべきである。

(ウ) しかしながら、上記4つの事項が相まって新たな「超高速スピン回転現象」を発現させ、それを検出して磁気センサとして機能させるということは、甲第2号証ないし甲第19号証、甲第22号証、甲第25号証及び甲第27号証ないし甲第31号証のいずれにおいても記載も示唆もされておらず、また、本件特許の出願前に技術常識であったということもできない。特に、甲第9号証、甲第10号証、甲第11号証及び甲第22号証では、MIセンサの高速応答や高感度を実現するために、磁性ワイヤに流す電流を高周波化することが記載されているが、周波数を具体的に「0.5GHz?4.0GHz」の範囲とし、かつ、磁性ワイヤを「円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を有してな」るものとし、パルス電流を「該ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上」とし、「前記磁性ワイヤに前記パルス電流を通電することによって、前記表面磁区内のワイヤ軸方向の磁界により軸方向に傾斜した円周方向スピンを超高速に一斉回転させて、その時に生じる超高速スピン回転現象による前記ワイヤの軸方向の磁化変化のみをコイル出力として取り出し、関係式(1)を使って磁界Hに変換する」ということは、記載も示唆もされていない。更に、甲第6号証及び甲第22号証には、上記4つの事項のうち、磁性ワイヤが「円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を有してな」るという事項が開示されていると認められるが、その他の事項は開示されておらず、また、甲第3号証には、上記4つの事項のうち、パルス電流が「該ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上」とされる事項に関連して、「通電する電流値が高いほど高感度になる」という事項が開示されているものの、その他の事項は開示されていない。

(エ) なお、請求人は弁駁書において、本件訂正発明1の磁気センサの基礎とされるいわゆる「GSR効果」について、これが従来の「MI効果」と異なるものであるならば、「磁性ワイヤに流すパルス電流の周波数を数十MHz?数百MHzオーダーの周波数から、GHzオーダーの周波数に上げる途中に、「MI効果」ではなく「GSR効果」が発現するポイントが存在するはずであるが、この点についても本件特許明細書には、何らデータの記載がされていない」とし、「被請求人がいう「新現象GSR効果」が従来のMI効果の延長線上に位置づけられる現象である」、「「GSRセンサ」が従来のMIセンサの範疇に含まれるものである」などの主張をしており(弁駁書第25頁第11行ないし第26頁第9行)、審判請求書、弁駁書等では、上記4つの事項を一体のものとして扱うことなく、従来のMIセンサとの個別の相違点として、その容易想到性を論じている。
この点について検討するに、例えば甲第22号証には、「H_(ex)を印加した状態で、アモルファスワイヤに微小交流電流を通電すると、M_(0)の回転(横方向)及び磁壁移動に応じた磁化の変化により、交流磁束密度B_(φ)^(ac)が生ずる」が、「高周波MI効果」では「磁壁移動よりも、回転磁化に依存したインピーダンスの変化を利用していると考えられ」、また、「アモルファス合金ワイヤ」では「ワイヤの長さ方向に磁気異方性をもつ内心部で、磁壁が発生し易く」、「その磁壁変動が内部磁気雑音の発生源となるが、MIセンサは表皮効果によってアモルファスワイヤの内心部の磁化変化を使用しないため、内部磁気雑音の発生が極めて小さ」く、また、「アモルファスワイヤのパルス通電磁気インピーダンス効果では、ワイヤの円周方向に一軸異方性と単磁区状態を付与し、その中でワイヤ長さ方向の外部磁界Hexで傾斜した磁化ベクトルを、ワイヤ通電パルスの円周パルス磁界で円周方向に回転させる」といったことが記載されており(上記第5の22(3)参照。)、MIセンサにおいても、本件特許の明細書に記載された「表面磁区とコア磁区の間にある90度磁壁の振動であるMI現象(magneto-impedance現象)」ではなく、「GSR現象」のように「表面磁区内のスピンの回転」を検出するものが存在することが把握できるから、請求人が主張するように、「被請求人がいう「新現象GSR効果」が従来のMI効果の延長線上に位置づけられる現象である」という可能性も否定はできない。
しかしながら、仮に上記4つの事項が一体をなすものではなく個別に論じることができるものであるとしても、少なくとも4つの事項のうちの「関係式(1)を使って磁界Hに変換する」という事項については、甲第2号証ないし甲第19号証、甲第22号証、甲第25号証及び甲第27号証ないし甲第31号証のいずれにも開示されていない。

(オ) 「関係式(1)を使って磁界Hに変換する」という事項について、請求人は審判請求書において、「外部磁界と誘起電圧との間の関係を実験的に確認し、関係式として記述することは、当業者が適宜なし得る事項である」との主張をし(審判請求書第45頁第28行)、更に弁駁書においては、「「超高感度マイクロ磁気センサ」は、コイル出力電圧から外部磁界強度を測定するセンサであるから、発明の実施に際して、個別の具体的な「超高感度マイクロ磁気センサ」について、既知の外部磁界強度と該「超高感度マイクロ磁気センサ」に生ずるコイル出力の関係を実験により求め、いわゆる検量線を作成することは当然のこと」であり、「検量線は量による感度(量が一定変化した場合に測定値がどの程度変化するか)の変化を可能な限り小さくするために、サンプル測定の範囲では直線に近いのが望ましいが、そうならない場合は適切な曲線に回帰する等の方法を用いることは周知」であり、「感度の変化を許容し、測定可能な外部磁界強度の範囲を広く取るためには、適切な曲線で近似することが周知技術であり、近似曲線をサイン曲線とすることも常套手段」であるとの主張(弁駁書第14頁第4行ないし第18行)、「コイル電圧をarcsin変換して外部磁界Hを算出することは、従来、直線近似できる領域に限定していた測定範囲を、直線近似から外れる領域にまで単に広げただけであるともいえ、進歩性を肯定する材料にはならない」との主張(弁駁書第16頁第21行ないし第17頁第3行)、甲第27号証の記載によれば「コイル電圧Vsと外部磁界Hとの間に数学的関係式で表される関係を見出すことだけでは特徴とはいえず、進歩性を肯定する材料にならない」との主張(弁駁書第19頁第11行)、及び「甲第11号証の図4には、従来のMIセンサにおいて、印加磁場とセンサ出力電圧との間に正弦関数関係があることを示唆するグラフが記載されている」との主張(弁駁書第19頁第14行)をしている。
ところが、甲第5号証には、「周方向に異方性を有するワイヤをパルス電流によって励起し、出力信号をワイヤに巻回されたピックアップコイルにおいて測定するセンサにおいて、出力信号は非対角インピーダンスZ_(c)(H_(ex))に基づくところ、-H_(K)<H_(ex)<H_(K)(H_(K)はワイヤ特有の異方性磁界、H_(ex)は直流の軸方向磁界)の範囲で、インピーダンスの非対角成分の直線的な磁界挙動を期待することができ、このような特性を線形のセンシングに使用することができる」ということが記載され(上記第5の5(2)参照。)、甲第22号証には、「アモルファスワイヤのパルス通電磁気インピーダンス効果では、ワイヤの円周方向に一軸異方性と単磁区状態を付与し、その中でワイヤ長さ方向の外部磁界Hexで傾斜した磁化ベクトルを、ワイヤ通電パルスの円周パルス磁界で円周方向に回転させるため、ワイヤ検出コイルの誘起パルス電圧の高さが正確にHexに比例して原理的に高線形磁界検出特性を持つこととなり、したがって、無ヒステリシスとなる」ということが記載され(上記第5の22(3)参照。)、また、請求人も審判請求書において「その関係式は、外部磁界(H)の値はsin関数の引数であり、外部磁界とコイルの誘起電圧とが比例するといった本件特許の出願時における技術常識とは異なるものである」と述べているように(審判請求書第46頁第11行)、甲1発明のようなコイル検出型のMIセンサでは、コイルによる検出電圧が外部磁界に比例するということが広く知られており、このようなセンサにおいて、敢えて正弦関数の「検量線」を作成することや、「測定範囲を、直線近似から外れる領域にまで」広げるといったことは、甲1発明及び各甲号証のいずれからも示唆されない。また、甲第11号証の図4が「印加磁場とセンサ出力電圧との間に正弦関数関係があることを示唆する」という請求人の主張については、確かに甲第11号証の図4が正弦関数に近い形状を有していることは見て取れるが、これが「正弦関数」であるということは甲第11号証に記載されていないから、これによって「印加磁場とセンサ出力電圧との間に正弦関数関係があることを示唆する」とまではいうことができない。
そもそも、本件訂正発明1における「関係式(1)」は、単に正弦関数を含むということのみならず、より具体的に、「外部磁界H」及び「コイル出力電圧が最大値を取る時の外部磁界強度Hm」を引数に含む正弦関数に「パルス周波数f」などを掛け合わせた数式として特定されており、そのような「関係式(1)」は、甲第2号証ないし甲第19号証、甲第22号証、甲第25号証及び甲第27号証ないし甲第31号証のいずれからも示唆されるものではない。

(カ) 更に、「関係式(1)を使って磁界Hに変換する」という事項について、請求人は審判請求書において、「その関係式は、外部磁界(H)の値はsin関数の引数であり、外部磁界とコイルの誘起電圧とが比例するといった本件特許の出願時における技術常識とは異なるもの」であり、「このような技術常識から予想される関係とは異なる関係の存在は、そのような関係の存在の根拠となった具体的な実験結果を開示することによって、はじめて、当業者がその関係の存在を理解できるものである」が、「本件特許明細書には、上記式(1)の根拠となり得るような実験結果が一切記載されていない」ため、この関係式は、「進歩性を肯定する材料として考慮されるべきものではない」との主張もしている(審判請求書第46頁第11行ないし第20行)。
しかし、「技術常識から予想される関係とは異なる」、「実験結果が一切記載されていない」などの事情は、請求項に記載されている事項を、進歩性の判断における考慮の対象から除外することの理由とはならない。

(キ) したがって、相違点1に係る本件訂正発明1の構成は、甲1発明、並びに甲第2号証ないし甲第19号証、甲第22号証、甲第25号証及び甲第27号証ないし甲第31号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。

イ 相違点2について

(ア) 甲第5号証には、「周方向に異方性を有するワイヤをパルス電流によって励起し、出力信号をワイヤに巻回されたピックアップコイルにおいて測定するセンサにおいて、出力信号は非対角インピーダンスZ_(c)(H_(ex))に基づくところ、-H_(K)<H_(ex)<H_(K)(H_(K)はワイヤ特有の異方性磁界、H_(ex)は直流の軸方向磁界)の範囲で、インピーダンスの非対角成分の直線的な磁界挙動を期待することができ、このような特性を線形のセンシングに使用することができる」ということが記載され(上記第5の5(2)参照。)、また、甲第10号証には、「最近、ワイヤが通過電流iによって駆動されている間にワイヤの周囲に取り付けられたコイルで検出された電圧応答V_(c)をセンサ用途に利用することが提案されており、この場合、出力信号V_(c)の整流後、磁界±H_(K)(H_(K)は実効的な異方性磁界)の間のほぼ直線的な領域において、反対称的なMI特性を得ることができる」ということが記載されている(上記第5の10(2)参照。)ことから、ワイヤをパルス電流によって励起し、出力信号をワイヤに巻回されたピックアップコイルにおいて測定するセンサにおいて、出力信号が-H_(K)<H_(ex)<H_(K)(H_(K)はワイヤ特有の異方性磁界、H_(ex)は直流の軸方向磁界)の範囲で直線的な磁界挙動を示すこと、換言すれば、出力信号が直線的な挙動を示す磁界の範囲が、ワイヤ特有の異方性磁界に依存するということが、本件特許の出願前において周知であったと認められる。ここで、センサの測定レンジが、センサの出力信号が直線的な挙動を示す磁界の範囲に依存するということも明らかである。

(イ) よって、甲1発明の「微小な磁界を高い感度で検出するマグネト・インピーダンス・センサ素子1を組み込んだセンサ」において、測定レンジを所望のものとするため、つまり、センサの出力信号が直線的な挙動を示す磁界の範囲を所望のものとするために、「マグネト・インピーダンス・センサ素子1」の「感磁体2」である「アモルファスワイヤ」の異方性磁界を選択するということは、当業者が適宜なし得る設計的な事項であって、これを具体的に「10G以下」とすることも、当業者であれば容易になし得たことである。

(ウ) なお、被請求人は口頭審理陳述要領書において、「Hkが10G以下と言うことの臨界的意義について、市販のMIセンサ(AMI306)の磁性ワイヤのHkは20G(本件訂正発明1の【0006】)であることを考慮して、本件訂正発明1においては、測定レンジ2Gから200Gの範囲の用途に対応するためには、最大10Gが望ましいと判断しています」等の説明をしているが(口頭陳述要領書第6頁第27行)、これらの説明において臨界的意義を示す具体的な検証データ等は何ら示されていないから、これらの説明から、磁性ワイヤの異方性磁界を「10G以下」とすることに臨界的意義があるということを把握することはできない。

(エ) したがって、相違点2に係る本件訂正発明1の構成は、甲1発明、並びに甲第5号証及び甲第10号証に記載された周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。

ウ 相違点3について

(ア) 甲第4号証には、「検出コイル3」を備える「MI素子(マグネトインピーダンスセンサ素子)1、パルス発振回路61、信号処理回路62からなるMIセンサ(高性能磁気センサ)6」において「MI素子の小型化、薄型化を達成するためには基板の厚さを薄くするとともに基板上に配設されるバルクのアモルファスワイヤの大きさを小さくする必要があるため、アモルファスワイヤの直径を10μmと小径化し、長さを0.57mmと短くし、その結果、検出コイルの円相当径は16μmと小径化され」るという技術事項が記載されている(上記第5の4(2)参照。)。
そして、甲1発明及び甲第4号証に記載された技術事項は、いずれも「パルス駆動型検出コイル式磁気インピーダンスセンサ」に関するものであり、センサの小型化という共通の課題を有するものでもあるため、甲1発明において、センサの小型化という課題を解決するために、甲第4号証に記載された技術事項を採用し、「感磁体2」の「アモルファスワイヤ」の「線径」を「20μm」から「10μm」に小径化し、「検出コイル31、32」の「円相当内径」を「66μm」から「16μm」に小径化することは、当業者であれば容易に想到し得たことといえる。

(イ) また、甲第25号証には、「パルス駆動型検出コイル式磁気インピーダンスセンサにおいて、センサの高感度化を図る方策の一つとして、蒸着プロセスにより検出コイルの巻線間隔(コイルピッチ)を狭小化するファインピッチ化が考えられるが、このようにファインピッチ化された検出コイルの電気抵抗は、その断面積の減少と長さの増大に応じて、指数関数的に大きくなり、その結果、検出コイルに生じる誘起電圧の増加分よりも、その誘起電圧に基づき検出コイルを含む回路を流れる電流(I)によって生じる電圧降下(IRドロップ)分が大きくなり、ホールドコンデンサのホールド電圧が逆に低下するという現象が生じてしまうことから、これを解決するため、センサの検出コイルとホールドコンデンサの間にバッファー回路を介在させ、検出コイル側回路のみならずホールドコンデンサ側回路のインピーダンスも大きくすることで、検出コイル側に生じた高い周波数(換算周波数)の入力信号電圧に追従した出力信号電圧をホールドコンデンサ側回路に生じさせるようにし、その結果、直径:10μm、長さ:0.6mmのCoFeSiB系合金からなるアモルファスワイヤに、パルス幅:10ns、立上り時間若しくは立下り時間Δt:0.5ns、換算周波数(4Δtを1周期としたときの周波数):500MHz(0.5GHz)であるパルス電流を供給し、コイル幅:0.6mm、コイル巻数:40回、コイルピッチ:7.5μmとした検出コイルに生じた誘起電圧を検出するようにした場合にも、高感度が実現できる」という技術事項が記載されている(上記第5の23(2)参照。)。
そして、甲1発明及び甲第25号証に記載された技術事項は、いずれも「パルス駆動型検出コイル式磁気インピーダンスセンサ」に関するものであり、センサの高感度化という共通の課題を有するものでもあるため、甲1発明において、センサの高感度化という課題を解決するために、甲第25号証に記載された技術事項を採用し、「検出コイル31、32」の「コイルピッチ」つまり「線幅及び線間幅」の合計を、「50μm」から「7.5μm」にファインピッチ化することは、当業者であれば容易に想到し得たことといえる。

(ウ) なお、被請求人は答弁書において、「請求人の指摘する先行技術(甲第1号証、甲第4号証、甲第13号証および甲第22号証)はすべてMHzパルスとコイル抵抗が1Ω程度のメッキ式コイルの組み合わせである。これらの先行技術においては、メッキプロセスによって形成されたメッキ式コイルが採用されている。メッキプロセスによる微細化には限界があり、メッキ式コイルの場合はコイル内径30μm、コイルピッチ15μmが限界である。MHzパルスを通電する場合は十分信号を検出できる大きさであるが、GHzパルスを通電する場合には、コイル内径が大きすぎて信号検出には十分ではない。」、「本件発明者は、GHzパルスを通電する場合、電子スピンが作る磁化は、高速回転することはできるが、その変化量は小さくなるので、マイクロコイルすなわちコイルピッチが密でコイル内径が小さいコイルでワイヤとの電磁結合を強化する必要があり、GHzパルスとマイクロコイルの組み合わせは必須であると気づいた。2013年から2015年までの2年間にかけて名古屋大学と共同で蒸着膜プロセスによる蒸着式マイクロコイル製作技術の開発に成功し、これによりコイル内径25μm以下、コイルピッチ10μm以下のマイクロコイルを実現した。」、「本件発明者は、パルス対応型バッファー回路と言う特別な回路を発明、採用して初めてGHzパルスとマイクロコイルの組み合わせを実現したのである。この点に進歩性がある。」等の主張をしている(答弁書第6頁第15行ないし第7頁第2行)。
しかしながら、被請求人の主張にある「蒸着膜プロセスによる蒸着式マイクロコイル製作技術」及び「パルス対応型バッファー回路と言う特別な回路」は、いずれも甲第25号証で示唆されており、上記(イ)で述べたように、甲1発明において甲第25号証に記載された技術事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことといえるから、被請求人の上記主張は採用することができない。

(エ) 上記(ア)及び(イ)のように、甲1発明において、甲第4号証に記載された技術事項及び甲第25号証に記載された技術事項をそれぞれ採用した場合に、相違点3に係る本件訂正発明1の構成を備えるようになることは明らかである。
したがって、相違点3に係る本件訂正発明1の構成は、甲1発明、甲第4号証に記載された技術事項及び甲第25号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。

(4) 本件訂正発明1についてのまとめ
上記(3)アのとおり、相違点1に係る本件訂正発明1の構成は、甲1発明、並びに甲第2号証ないし甲第19号証、甲第22号証、甲第25号証及び甲第27号証ないし甲第31号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。
よって、本件訂正発明1は、甲1発明、並びに甲第2号証ないし甲第19号証、甲第22号証、甲第25号証及び甲第27号証ないし甲第31号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

2 本件訂正発明3ないし本件訂正発明8について
本件訂正発明3ないし本件訂正発明8は、本件訂正発明1の構成を全て含むから、少なくとも本件訂正発明1と甲1発明との相違点1ないし相違点3(上記1(2)イ(ア)ないし(ウ)参照。)の点で、甲1発明と相違する。
そして、上記1(3)アのとおり、相違点1に係る本件訂正発明1の構成は、甲1発明、並びに甲第2号証ないし甲第19号証、甲第22号証、甲第25号証及び甲第27号証ないし甲第31号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではないから、相違点1に係る本件訂正発明3ないし本件訂正発明8の構成も同様である。
したがって、本件訂正発明3ないし本件訂正発明8は、甲1発明、並びに甲第2号証ないし甲第19号証、甲第22号証、甲第25号証及び甲第27号証ないし甲第31号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び本件訂正発明3ないし本件訂正発明8は、甲1発明、並びに甲第2号証ないし甲第19号証、甲第22号証、甲第25号証及び甲第27号証ないし甲第31号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
したがって、本件訂正発明1及び本件訂正発明3ないし本件訂正発明8についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。


第7 無効理由の理由2(甲第4号証に記載された発明を引用発明とする無効理由)について
1 本件訂正発明1について
(1) 対比
本件訂正発明1と甲4発明(上記第5の4(2)参照。)とを対比すると、以下のとおりである。

ア 甲4発明における「非磁性体からなる基板11」が、本件訂正発明1における「基板」に相当する。

イ 甲4発明における「MI素子1中の感磁ワイヤ」であって、「パルス電流」を「供給」され、かつ「零磁歪であり、合金組成は(Co_(94)Fe_(6))_(72.5)Si_(12.5)B_(15))であって、主相がアモルファス相からなり、回転液中紡糸法で作製され」る「アモルファスワイヤ2」が、本件訂正発明1における「導電性を有する磁界検出用磁性ワイヤ」に相当する。

ウ 甲4発明における「基板表面の平坦面に配列された複数の第1導体膜311からなる平面パターン31」と「絶縁体4の外表面と平面パターン31の表面とに渡って形成されると共にアモルファスワイヤ2を横断するように配列された複数の第2導体膜321からなる立体パターン32」とが「一体となって」形成される「15回の巻数からなる螺旋状の検出コイル3」が、本件訂正発明1における「それ(合議体注:磁界検出用磁性ワイヤ)に巻回した周回コイル」に相当する。

エ 甲4発明における「基板11の平坦面上に焼き付けられているアモルファスワイヤ2の端子51と検出コイル3の端子52とからなる計4個の電極5」が、本件訂正発明1における「ワイヤ通電用の電極2個とコイル電圧検出用電極2個」に相当する。

オ 上記アないしエによれば、甲4発明における「非磁性体からなる基板11、基板表面の平坦面に配列された複数の第1導体膜311からなる平面パターン31、複数の第1導体膜311を横断するように平面パターン31の配列方向に沿って配設された断面円形状のアモルファスワイヤ2、アモルファスワイヤ2の外周面を覆うとともに、アモルファスワイヤ2を平面パターン31上に固定する絶縁体4、絶縁体4の外表面と平面パターン31の表面とに渡って形成されると共にアモルファスワイヤ2を横断するように配列された複数の第2導体膜321からなる立体パターン32、及び基板11の平坦面上に焼き付けられているアモルファスワイヤ2の端子51と検出コイル3の端子52とからなる計4個の電極5を備え」る「MI素子(マグネトインピーダンスセンサ素子)1」が、本件訂正発明1における「基板上に導電性を有する磁界検出用磁性ワイヤとそれに巻回した周回コイルとワイヤ通電用の電極2個とコイル電圧検出用電極2個を設置した磁界検出素子」に相当するといえる。

カ 甲4発明における「MI素子1中の感磁ワイヤであるアモルファスワイヤ2へ供給」される「パルス電流」を発生する「パルス発振回路61」が、本件訂正発明1における「前記磁性ワイヤにパルス電流を流す手段」に相当する。

キ 甲4発明における「サンプルタイミング調整回路621により前記パルス電流の立下り時に、所定のタイミングでアナログスイッチ622を短時間スイッチをオンーオフし、これによりアナログスイッチ622は、検出コイル3に発生した外部磁場に対応した電圧をサンプリングして増幅器623に伝える」ようになっている「信号処理回路62」が、本件訂正発明1における「パルス電流を流した時に生じるコイル電圧を検知する回路」に相当する。

ク 甲4発明では、「アモルファスワイヤ2」について、「合金組成は(Co_(94)Fe_(6))_(72.5)Si_(12.5)B_(15))であって、主相がアモルファス相からなり、回転液中紡糸法で作製され」、「直径を10μmと」するとされているが、その磁区構造については特定されていない。
ところで、甲第2号証によれば、MIセンサに使用される感磁ワイヤとして、少なくとも、「磁区構造の違いにより表層部とコア部の2層に分かれ」る構造のものと、「磁壁を全く有さず、ワイヤ表層部で各スピンが一定の円周方向に連続的に配列していると共に、その表層部の内周側である内側部では各スピンがアモルファスワイヤの中心に近づくに従って徐々に円周方向から軸方向に回転していきそのワイヤ中心では軸方向に向く、連続的なスピン配列となる構造(ボルテックススピン構造)」のものの2種類が知られている(上記第5の2(2)参照。)。そうすると、甲4発明における「アモルファスワイヤ2」は、それらのいずれでもあり得るものであり、つまり、甲4発明における「アモルファスワイヤ2」が、「2相の磁区構造を有してな」るものであるのかどうかは明らかでない。
よって、本件訂正発明1では、「磁性ワイヤ」は「円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を有してな」るのに対し、甲4発明では、「アモルファスワイヤ2」が「2相の磁区構造を有してな」るかどうかが不明である点で、両者は相違する。

ケ 甲4発明では、「パルス発振回路61により発生した約200MHz相当の高周波で170mAのパルス電流をMI素子1中の感磁ワイヤであるアモルファスワイヤ2へ供給」し、「ここでの周波数は、パルス電流波形7中のパルスの立ち上がり、若しくは、立ち下りの時間Δtを求め、そのΔtを波の4分の1周期に相当するとして求めたものであ」るとされているが、この「パルス電流波形7中のパルスの立ち上がり、若しくは、立ち下りの時間Δtを求め、そのΔtを波の4分の1周期に相当する」とする「周波数」の定義と、本件特許の明細書に記載された「f=1/2dt(ただし、dtは立上り、立下り瞬間の遷移時間)」という「パルス電流の周波数」の定義(上記第3の2(2)エ参照。)とを比べると、甲4発明の定義による周波数を2倍にしたものが、本件特許の明細書に記載された定義による周波数に相当するということが理解できる。すなわち、甲4発明における「パルス電流」の周波数である「約200MHz相当」は、本件特許の明細書に記載された定義によれば「約400MHz」であり、よって、磁性ワイヤに通電するパルス電流の周波数が、本件訂正発明1では「0.5GHz?4.0GHz」であるのに対し、甲4発明では「約400MHz」である点で、両者は相違する。

コ 甲4発明における「検出コイルの円相当径は16μmと小径化され」るという事項が、本件訂正発明1における「コイル内径を25μm以下とする」という事項に相当する。

サ 甲4発明では、「アモルファスワイヤ」の「長さ」が「0.57mm」であり、その周囲に形成される「螺旋状の検出コイル3」が「15回の巻数からなる」とされているから、「螺旋状の検出コイル3」の「コイルピッチ」は、0.57/15=0.038mmよりは小さいと理解できる。
よって、「コイルピッチ」が、本件訂正発明1では、それぞれ「10μm以下」であるのに対し、本件訂正発明1では、「0.038mmよりは小さい」とされている点で、両者は相違する。

シ 甲4発明の「MIセンサ(高性能磁気センサ)6」と本件訂正発明1の「超高感度マイクロ磁気センサ」とは、「磁気センサ」である点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
上記(1)の対比の結果をまとめると、本件訂正発明1と甲4発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

ア 一致点

「基板上に導電性を有する磁界検出用磁性ワイヤとそれに巻回した周回コイルとワイヤ通電用の電極2個とコイル電圧検出用電極2個を設置した磁界検出素子および前記磁性ワイヤにパルス電流を流す手段とパルス電流を流した時に生じるコイル電圧を検知する回路とからなる磁気センサにおいて、
前記コイルはコイル内径を25μm以下とする磁気センサ。」

イ 相違点

(ア) 相違点1
本件訂正発明1の磁気センサは、「超高速スピン回転現象」を利用した「超高感度マイクロ磁気センサ」であるのに対して、甲4発明の磁気センサは、そのようなものではない点。
すなわち、本件訂正発明1では、磁性ワイヤが「円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を有してなり」、磁性ワイヤに通電するパルス電流が「該周波数は0.5GHz?4.0GHzで、該ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上」とされ、「前記磁性ワイヤに前記パルス電流を通電することによって、前記表面磁区内のワイヤ軸方向の磁界により軸方向に傾斜した円周方向スピンを超高速に一斉回転させて、その時に生じる超高速スピン回転現象による前記ワイヤの軸方向の磁化変化のみをコイル出力として取り出し、関係式(1)を使って磁界Hに変換する」、「コイル電圧を外部磁界Hに変換する手段」が設けられているのに対して、甲4発明では、磁性ワイヤが「2相の磁区構造を有してな」るかどうかが不明であり、磁性ワイヤに通電するパルス電流の周波数が「約400MHz」であって「0.5GHz?4.0GHz」ではなく、該パルス電流が「該ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上」であるとは特定されておらず、「前記磁性ワイヤに前記パルス電流を通電することによって、前記表面磁区内のワイヤ軸方向の磁界により軸方向に傾斜した円周方向スピンを超高速に一斉回転させて、その時に生じる超高速スピン回転現象による前記ワイヤの軸方向の磁化変化のみをコイル出力として取り出」すとは特定されておらず、また、「コイル電圧を外部磁界Hに変換する手段」が設けられているかどうかも不明である点。
なお、上記「関係式(1)」は、「Vs=Vo・L・πD・p・Nc・f・sin(πH/2Hm) (1)」「ここで、Vsはコイル出力電圧、Voは比例定数、制御因子定数としては、Lはワイヤの長さ、Dはワイヤの直径、pはパルス電流の表皮深さ、Ncはコイルの巻き数、fはパルス周波数、Hmはコイル出力電圧が最大値を取る時の外部磁界強度。」である。

(イ) 相違点2
磁性ワイヤが、本件訂正発明1では、「10G以下の異方性磁界」を有するのに対して、甲4発明では、どの程度の異方性磁界を有するかが不明である点。

(ウ) 相違点3
コイルの「コイルピッチ」が、本件訂正発明1では、「10μm以下」であるのに対し、甲4発明では、「0.038mmよりは小さい」とされている点。

(3) 相違点についての判断
ア 相違点1について

(ア) 甲4発明が相違点1に係る本件訂正発明1の構成を備えるようにするには、甲4発明において、「アモルファスワイヤ2」として「円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造」を有するものを採用し、「アモルファスワイヤ2」に通電するパルス電流の周波数を「0.5GHz?4.0GHz」、大きさを「ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上」とし、「アモルファスワイヤ2」に該パルス電流を通電することによって「超高速スピン回転現象」を生じさせ、それによる「アモルファスワイヤ2」の「軸方向の磁化変化のみ」をコイル出力として取り出し、「関係式(1)を使って磁界Hに変換する」ようにする必要がある。

(イ) ここで、上記第6の1(3)ア(イ)で述べたのと同様に、本件訂正発明1における、磁性ワイヤが「円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を有してな」るという事項、磁性ワイヤに通電するパルス電流の「周波数は0.5GHz?4.0GHzで」あるという事項、パルス電流が「該ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上」とされる事項、及び「前記磁性ワイヤに前記パルス電流を通電することによって、前記表面磁区内のワイヤ軸方向の磁界により軸方向に傾斜した円周方向スピンを超高速に一斉回転させて、その時に生じる超高速スピン回転現象による前記ワイヤの軸方向の磁化変化のみをコイル出力として取り出し、関係式(1)を使って磁界Hに変換する」という事項は、これら全てが相まって初めて、新たな「超高速スピン回転現象」を発現させ、それを検出して磁気センサとして機能させることができるものと理解されるため、かかる「超高速スピン回転現象」を基礎とする本件訂正発明1と従来の「MIセンサ」である甲4発明との対比においては、上記の4つの事項は一体をなすものというべきである。

(ウ) しかしながら、上記4つの事項が相まって新たな「超高速スピン回転現象」を発現させ、それを検出して磁気センサとして機能させるということは、甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証ないし甲第13号証、甲第15号証ないし甲第22号証、甲第25号及び甲第27号証ないし甲第31号証のいずれにおいても記載も示唆もされておらず、また、本件特許の出願前に技術常識であったということもできない。

(エ) なお、上記第6の1(3)ア(エ)及び(オ)で述べたのと同様、仮に上記4つの事項が一体をなすものではなく個別に論じることができるものであるとしても、少なくとも4つの事項のうちの「関係式(1)を使って磁界Hに変換する」という事項については、甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証ないし甲第13号証、甲第15号証ないし甲第22号証、甲第25号及び甲第27号証ないし甲第31号証のいずれにも開示されていない。

(オ) したがって、相違点1に係る本件訂正発明1の構成は、甲4発明、並びに甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証ないし甲第13号証、甲第15号証ないし甲第22号証、甲第25号及び甲第27号証ないし甲第31号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。

イ 相違点2について

(ア) 上記第6の1(3)イ(ア)で述べたように、ワイヤをパルス電流によって励起し、出力信号をワイヤに巻回されたピックアップコイルにおいて測定するセンサにおいて、出力信号が直線的な挙動を示す磁界の範囲が、ワイヤ特有の異方性磁界に依存するということが、本件特許の出願前において周知であったと認められる。ここで、センサの測定レンジが、センサの出力信号が直線的な挙動を示す磁界の範囲に依存するということも明らかである。

(イ) よって、甲4発明の「MIセンサ(高性能磁気センサ)6」において、測定レンジを所望のものとするため、つまり、センサの出力信号が直線的な挙動を示す磁界の範囲を所望のものとするために、「MI素子1」の「アモルファスワイヤ2」の異方性磁界を選択するということは、当業者が適宜なし得る設計的な事項であって、これを具体的に「10G以下」とすることも、当業者であれば容易になし得たことである。

(ウ) なお、上記第6の1(3)イ(ウ)で述べたように、被請求人の口頭審理陳述要領書における説明からは、磁性ワイヤの異方性磁界を「10G以下」とすることに臨界的意義があるということを把握することはできない。

(エ) したがって、相違点2に係る本件訂正発明1の構成は、甲4発明、並びに甲第5号証及び甲第10号証に記載された周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。

ウ 相違点3について

(ア) 甲第25号証には、「パルス駆動型検出コイル式磁気インピーダンスセンサにおいて、センサの高感度化を図る方策の一つとして、蒸着プロセスにより検出コイルの巻線間隔(コイルピッチ)を狭小化するファインピッチ化が考えられるが、このようにファインピッチ化された検出コイルの電気抵抗は、その断面積の減少と長さの増大に応じて、指数関数的に大きくなり、その結果、検出コイルに生じる誘起電圧の増加分よりも、その誘起電圧に基づき検出コイルを含む回路を流れる電流(I)によって生じる電圧降下(IRドロップ)分が大きくなり、ホールドコンデンサのホールド電圧が逆に低下するという現象が生じてしまうことから、これを解決するため、センサの検出コイルとホールドコンデンサの間にバッファー回路を介在させ、検出コイル側回路のみならずホールドコンデンサ側回路のインピーダンスも大きくすることで、検出コイル側に生じた高い周波数(換算周波数)の入力信号電圧に追従した出力信号電圧をホールドコンデンサ側回路に生じさせるようにし、その結果、直径:10μm、長さ:0.6mmのCoFeSiB系合金からなるアモルファスワイヤに、パルス幅:10ns、立上り時間若しくは立下り時間Δt:0.5ns、換算周波数(4Δtを1周期としたときの周波数):500MHz(0.5GHz)であるパルス電流を供給し、コイル幅:0.6mm、コイル巻数:40回、コイルピッチ:7.5μmとした検出コイルに生じた誘起電圧を検出するようにした場合にも、高感度が実現できる」という技術事項が記載されている(上記第5の23(2)参照。)。
そして、甲4発明及び甲第25号証に記載された技術事項は、いずれも「パルス駆動型検出コイル式磁気インピーダンスセンサ」に関するものであり、センサの高感度化という共通の課題を有するものでもあるため、甲4発明において、センサの高感度化という課題を解決するために、甲第25号証に記載された技術事項を採用し、「検出コイル3」の「コイルピッチ」を「7.5μm」にファインピッチ化することは、当業者であれば容易に想到し得たことといえる。

(ウ) なお、上記第6の1(3)ウ(エ)で述べたように、被請求人の答弁書における主張は採用することができない。

(エ) したがって、相違点3に係る本件訂正発明1の構成は、甲4発明及び甲第25号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものである。

(4) 本件訂正発明1についてのまとめ
上記(3)アのとおり、相違点1に係る本件訂正発明1の構成は、甲4発明、並びに甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証ないし甲第13号証、甲第15号証ないし甲第22号証、甲第25号及び甲第27号証ないし甲第31号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。
よって、本件訂正発明1は、甲4発明、並びに甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証ないし甲第13号証、甲第15号証ないし甲第22号証、甲第25号及び甲第27号証ないし甲第31号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

2 本件訂正発明3ないし本件訂正発明8について
本件訂正発明3ないし本件訂正発明8は、本件訂正発明1の構成を全て含むから、少なくとも本件訂正発明1と甲4発明との相違点1ないし相違点3(上記1(2)イ(ア)ないし(ウ)参照。)の点で、甲4発明と相違する。
そして、上記1(3)アのとおり、相違点1に係る本件訂正発明1の構成は、甲4発明、並びに甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証ないし甲第13号証、甲第15号証ないし甲第22号証、甲第25号及び甲第27号証ないし甲第31号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではないから、相違点1に係る本件訂正発明3ないし本件訂正発明8の構成も同様である。
したがって、本件訂正発明3ないし本件訂正発明8は、甲4発明、並びに甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証ないし甲第13号証、甲第15号証ないし甲第22号証、甲第25号及び甲第27号証ないし甲第31号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び本件訂正発明3ないし本件訂正発明8は、甲4発明、並びに甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証ないし甲第13号証、甲第15号証ないし甲第22号証、甲第25号及び甲第27号証ないし甲第31号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。
したがって、本件訂正発明1及び本件訂正発明3ないし本件訂正発明8についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。


第8 むすび
以上のとおり、本件訂正を認める。
また、本件訂正発明1及び本件訂正発明3ないし本件訂正発明8についての特許は、請求人の主張する無効理由によって無効とすることはできない。
請求項2は、本件訂正により削除されたので、請求項2についての本件審判の請求は、特許法第135条の規定により却下すべきものである。
本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に導電性を有する磁界検出用磁性ワイヤとそれに巻回した周回コイルとワイヤ通電用の電極2個とコイル電圧検出用電極2個を設置した磁界検出素子および前記磁性ワイヤにパルス電流を流す手段とパルス電流を流した時に生じるコイル電圧を検知する回路とコイル電圧を外部磁界Hに変換する手段とからなる磁気センサにおいて、
前記磁性ワイヤは、10G以下の異方性磁界を有し、かつ円周方向スピン配列を持つ表面磁区と軸方向にスピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を有してなり、
前記磁性ワイヤに通電するパルス電流は、該周波数は0.5GHz?4.0GHzで、該ワイヤ表面に異方性磁界の1.5倍以上の円周方向磁界を発生させるのに必要な電流強度以上とし、
前記コイルはコイルピッチ10μm以下でコイル内径を25μm以下とし、
前記磁性ワイヤに前記パルス電流を通電することによって、前記表面磁区内のワイヤ軸方向の磁界により軸方向に傾斜した円周方向スピンを超高速に一斉回転させて、その時に生じる超高速スピン回転現象による前記ワイヤの軸方向の磁化変化のみをコイル出力として取り出し、関係式(1)を使って磁界Hに変換することを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
Vs=Vo・L・πD・p・Nc・f・sin(πH/2Hm) (1)
ここで、Vsはコイル出力電圧、Voは比例定数、制御因子定数としては、Lはワイヤの長さ、Dはワイヤの直径、pはパルス電流の表皮深さ、Ncはコイルの巻き数、fはパルス周波数、Hmはコイル出力電圧が最大値を取る時の外部磁界強度。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載の超高感度マイクロ磁気センサにおいて、
基板上に右巻きコイルの検出素子と左巻きコイルの検出素子の一対または複数対を設置し、左巻コイルと右巻コイルに反対向きに前記パルス電流が流れるように、ワイヤ通電用の電極2個とワイヤ端子を接続し、またコイル電圧検出用電極2個とコイル端子は前記ワイヤには前記パルス電流を通電した時に、右巻きコイルと左巻きコイルの出力電圧が外部磁界に比例した出力電圧が同符号になり、かつ外部磁界がゼロの場合にパルス通電が作る円周方向磁界によって発生する出力電圧が異符号になるように接続することを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
【請求項4】
請求項1に記載の超高感度マイクロ磁気センサにおいて、
前記基板上の前記磁性ワイヤ1本に、パルス電流の流れてくる方向に向けて一対の左巻きコイルの第1コイルと右巻きコイルの第2コイルとを取り付け、
また、前記第1コイルと前記第2コイルのそれぞれに、パルス電流の流れてくる方向に向けて、第1コイル端子と第2コイル端子とを設けて、
第1コイルの第1コイル端子と第2コイルの第1コイル端子とを接続し、
コイル出力電極と第1コイルの第2コイル端子とを接続するとともにコイルグランド電極と第2コイルの第2コイル端子を接続し、
かつ、
前記第1コイルおよび前記第2コイルの前記第1コイル端子と前記第1コイルおよび前記第2コイルの前記第2コイル端子とは前記磁性ワイヤの両側に配置し、
前記コイル出力電極から前記第1コイルの第2コイル端子への配線とコイルグランド電極から前記第2コイルの第2コイル端子への配線が交差していることを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
【請求項5】
請求項1に記載の超高感度マイクロ磁気センサにおいて、
前記基板上の2本の前記磁性ワイヤは、並列かつパルス電流がお互いに反対方向に流れるように接続して配置し、
一の前記磁性ワイヤにパルス電流の流れてくる方向に向けて一対の左巻きコイルの第1コイルと右巻きコイルの第2コイルとを取り付け、
他の前記磁性ワイヤにパルス電流の流れてくる方向に向けて一対の左巻きコイルの第3コイルと右巻きコイルの第4コイルとを取り付け、
また、前記第1コイルと前記第2コイルと前記第3コイルと前記第4コイルのそれぞれに、パルス電流の流れてくる方向に向けて、第1コイル端子と第2コイル端子とを設けて、該コイルのコイル端子間の接続は、前記磁性ワイヤの2本の間に配置し、前記第1コイルの第1コイル端子と前記第4コイルの第2コイル端子を接続し、前記第4コイルの第1コイル端子と前記第2コイルの第1コイル端子を接続し、前記第1コイルの第2コイル端子と前記第3コイルの第2コイル端子を接続し、
前記コイルのコイル端子と接続する電極は、前記2本の磁性ワイヤの両側に配置し、コイル出力電極から前記第3コイルの第1コイル端子への配線とコイルグランド電極から前記第2コイルの第2コイル端子への配線が前記2本の磁性ワイヤの間で交差していることを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
【請求項6】
請求項1、請求項3ないし請求項5のいずれかに記載された超高感度磁気マイクロ磁気センサにおいて、
プログラミング演算電子回路またはソフトプログラム演算の手段を用いて、磁界Hにおけるコイル電圧の測定値から、磁界ゼロにおけるコイル誘導電圧を差し引くことを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
【請求項7】
請求項1、請求項3ないし請求項6のいずれかに記載された超高感度磁気マイクロ磁気センサにおいて、
内蔵した温度センサと温度依存性補正プログラムを使ったVsに対する温度の影響を補正する手段を有することを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
【請求項8】
請求項1、請求項3ないし請求項7のいずれかに記載された超高感度磁気マイクロ磁気センサにおいて、
前記磁界検出素子に使用されている前記磁性ワイヤとして、アモルファス構造またはナノ結晶構造を有していて、小さな結晶磁気異方性とゼロまたは弱負磁歪特性を持つ磁性合金からなる高透磁率磁性ワイヤに対して、引張応力を負荷し軸方向と円周方向に異方性を発生させて、円周方向スピン配列を持つ円周表面磁区と軸方向スピン配列を持つ中央部コア磁区の2相の磁区構造を形成せしめ、さらに十分大きなパルス電流でパルス磁界アニーリング処理を測定毎に行い円周方向に磁化飽和させて磁化履歴を消去することができる磁性ワイヤを用いることを特徴とする超高感度マイクロ磁気センサ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-09-04 
結審通知日 2019-09-09 
審決日 2019-09-24 
出願番号 特願2015-27092(P2015-27092)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (G01R)
P 1 113・ 851- YAA (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川瀬 正巳  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 櫻井 健太
中塚 直樹
登録日 2015-11-20 
登録番号 特許第5839527号(P5839527)
発明の名称 超高感度マイクロ磁気センサ  
代理人 杉村 憲司  
代理人 ▲高▼木 楓子  
代理人 梅林 啓  
代理人 湯村 暁  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 伊藤 剛志  
代理人 杉村 光嗣  
代理人 内海 一成  
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