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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する F16C
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する F16C
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する F16C
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C
管理番号 1357943
審判番号 訂正2019-390107  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2019-09-12 
確定日 2019-12-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3724480号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3724480号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、5について訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
特許第3724480号に係る発明は、2001年(平成13年)7月18日(優先権主張 2000年7月18日 日本国(JP)、2000年7月31日 日本国(JP)、2000年7月31日 日本国(JP)、2000年10月13日 日本国(JP)、2000年11月2日 日本国(JP)、2000年11月24日 日本国(JP)、2001年2月20日 日本国(JP)、2001年3月19日 日本国(JP)、2001年5月16日 日本国(JP)、2001年6月14日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、平成17年9月30日に特許権の設定登録がされ、その後、令和1年9月12日に本件訂正審判請求がされたものである。

第2 請求について
1 請求の趣旨
本件審判請求の趣旨は、特許第3724480号の明細書を、本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものである。

2 訂正の内容
本件訂正審判請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、次のとおりである(下線は、訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、「軌道面をそれぞれ有する外方部材及び内方部材と、前記外方部材及び内方部材の軌道面間に配置され、前記外方部材または内方部材の回転もしくは直線運動により前記軌道面上を転動する転動体とを備えた転動装置であって、
前記外方部材および/又は内方部材がω相を有するTi-15Mo-5Zr-3Alから構成され、かつ前記ω相の結晶粒子の大きさが1μm以下であることを特徴とする転動装置。」に訂正する(請求項1を直接的に引用する2?4についても同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を、「軌道面をそれぞれ有する外方部材及び内方部材と、前記外方部材および前記内方部材の軌道面間に配置され、前記外方部材または内方部材の回転もしくは直線運動により前記軌道面上を転動する転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成された開口を遮蔽するシールド板とを備えた転動装置であって、前記外方部材および/又は内方部材がTi-15Mo-5Zr-3Al又はTi-15V-3Cr-3Sn-3Alから構成され、かつ前記シールド板が純度99.5%以上のチタンから形成されていることを特徴とする転動装置。」に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書段落【0002】の「海水をす扱う機械」との記載を「海水を扱う機械」に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書段落【0011】を、「第1の本発明に係る転動装置は、軌道面をそれぞれ有する外方部材及び内方部材と、前記外方部材及び内方部材の軌道面間に配置され、前記外方部材または内方部材の回転もしくは直線運動により前記軌道面上を転動する転動体とを備えた転動装置であって、
前記外方部材および/又は内方部材がω相を有するTi-15Mo-5Zr-3Alから構成され、かつ前記ω相の結晶粒子の大きさが1μm以下であることを特徴とする。
第2の本発明に係る転動装置は、軌道面をそれぞれ有する外方部材及び内方部材と、前記外方部材および前記内方部材の軌道面間に配置され、前記外方部材または内方部材の回転もしくは直線運動により前記軌道面上を転動する転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成された開口を遮蔽するシールド板とを備えた転動装置であって、前記外方部材および/又は内方部材がTi-15Mo-5Zr-3Al又はTi-15V-3Cr-3Sn-3Alから構成され、かつ前記シールド板が純度99.5%以上のチタンから形成されていることを特徴とする。」に訂正する。

(5)訂正事項5
明細書段落【0050】の【表1】を次のように訂正する。


(6)訂正事項6
明細書段落【0052】、【0053】及び【0055】の「実施例に相当するNo.1?6」を「実施例に相当するNo.3?4及び参考例に相当するNo.1?2及び5?6」に訂正する。

(7)訂正事項7
明細書段落【0059】の【表2A】を次のように訂正する。


(8)訂正事項8
明細書段落【0061】、【0062】及び【0063】の「実施例に相当するNo.1?6」を「実施例に相当するNo.13?14及び参考例に相当するNo.11?12及び15?16」に訂正し、同【0061】、【0062】及び【0063】の「No.1?6」を「No.11?16」に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書段落【0068】の「各保持器のの摩耗比」を「各保持器の摩耗比」に訂正する。

(10)訂正事項10
明細書段落【0075】の【表5】を次のように訂正する。


(11)訂正事項11
明細書段落【0083】の【表6】を次のように訂正する。


(12)訂正事項12
明細書段落【0093】の「実施例に相当するNo.1?10、13」を「実施例に相当するNo.2?8及び参考例に相当するNo.1、9?10、13」に訂正する。

(13)訂正事項13
明細書段落【0126】の【表10】を次のように訂正する。


(14)訂正事項14
明細書段落【0127】の「実施例に相当するNo.13?29」を「実施例に相当するNo.14?24,27?29及び参考例に相当するNo.13、25?26」に訂正する。

(15)訂正事項15
明細書段落【0134】の【表12】を次にように訂正する。


(16)訂正事項16
明細書段落【0136】の「実施例に相当するNo.1?12」を「実施例に相当するNo.1?6,9及び参考例に相当するNo.7、8、10及び11」に訂正する。

(17)訂正事項17
明細書段落【0136】及び【0137】の「No.1?12の」を「No.1?11の」に訂正する。

(18)訂正事項18
明細書段落【0142】の【表13】を次のように訂正する。


(19)訂正事項19
明細書段落【0145】の「実施例に相当するNo.1?26」を「実施例に相当するNo.12?13、17?18及び22?23及び参考例に相当するNo.14?16、19?21及び24?26」に訂正する。

(20)訂正事項20
明細書段落【0155】の【表14】を次にように訂正する。


(21)訂正事項21
明細書段落【0169】の「実施例に相当するNo.1?6」を「実施例に相当するNo.3?4及び参考例に相当するNo.1?2及び5?6」に訂正する。

(22)訂正事項22
明細書段落【0205】の【表15】を次にように訂正する。


(23)訂正事項23
明細書段落【0206】及び【0208】の「実施例に相当するNo.1?10」を「実施例に相当するNo.3、6?10及び参考例に相当するNo.1?2及び4?5」に訂正する。

(24)訂正事項24
明細書段落【0213】の【表16】を次のように訂正する。


(25)訂正事項25
明細書段落【0215】の「実施例に相当するNo.1?8」を「実施例に相当するNo.3?6及び参考例に相当するNo.1?2及び7?8」に訂正する。

(26)訂正事項26
明細書段落【0223】の【表17】を次のように訂正する。


(27)訂正事項27
明細書段落【0227】、【0228】及び【0229】の「実施例であるNo.1?10」を「実施例であるNo.1?6及び参考例であるNo.7?10」に訂正する。

(28)訂正事項28
明細書段落【0231】の「実施例であるNo.4,5,8」を「実施例であるNo.4,5及び参考例であるNo.8]に訂正する。

なお、訂正前の請求項1?4は一群の請求項に該当するから、訂正事項1に係る請求項1?4についての訂正は、一群の請求項である請求項〔1?4〕について請求されている。
また、訂正事項3?28に係る明細書についての訂正は、一群の請求項である請求項〔1?4〕について請求されている。
さらに、訂正事項2、3、9?11,15?19、22、23及び26?28に係る明細書についての訂正は、請求項5について請求されている。
よって、本件訂正は、請求項〔1?4〕、5について請求されている。

第3 当審の判断
1 訂正事項1について
(1)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「ω相を有するβ型チタン合金、ω相を有するnearβ型チタン合金、ω装を有するα+β型チタン合金のいずれか1種類のチタン合金」について、「ω相を有するTi-15Mo-5Zr-3Al」に限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正前明細書の段落【0086】?【0097】には、ω相を有するβ型チタン合金、ω相を有するnearβ型チタン合金、ω相を有するα+β型チタン合金のいずれか1種類のチタン合金」の実施例として「ω相を有するTi-15Mo-5Zr-3Al」が記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項に規定する要件を満たす。
また、訂正事項1は、請求項1に係る発明の発明特定事項である、「ω相を有するβ型チタン合金、ω相を有するnearβ型チタン合金、ω相を有するα+β型チタン合金のいずれか1種類のチタン合金」について、「ω相を有するTi-15Mo-5Zr-3Al」に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項に規定する要件を満たす。
(3)独立特許要件
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び請求項1を直接的に引用する請求項2?4に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする新たな理由は見いだせないから、訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

2 訂正事項2について
(1)訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項5に係る発明の発明特定事項である「β型チタン合金、nearβ型チタン合金、α+β型チタン合金のいずれか1種類のチタン合金」について、「Ti-15Mo-5Zr-3Al又はTi-15V-3Cr-3Sn-3Al」に限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正前明細書の段落【0217】?【0230】及び【0232】には、「ω相を有するβ型チタン合金、ω相を有するnearβ型チタン合金、ω相を有するα+β型チタン合金のいずれか1種類のチタン合金」の実施例として、「Ti-15Mo-5Zr-3Al又はTi-15V-3Cr-3Sn-3Al」が記載されている。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第126条第5項に規定する要件を満たす。
また、訂正事項2は、請求項5に係る発明の発明特定事項である、「β型チタン合金、nearβ型チタン合金、α+β型チタン合金のいずれか1種類のチタン合金」について、「Ti-15Mo-5Zr-3Al又はTi-15V-3Cr-3Sn-3Al」に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項に規定する要件を満たす。
(3)独立特許要件
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項5に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする新たな理由は見いだせないから、訂正事項2は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

3 訂正事項3について
(1)訂正の目的
訂正前明細書の段落【0002】の「海水をす扱う機械」が、日本語として適切ではなく、「海水を扱う機械」の誤記であることは明白であるから、訂正事項3は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、明細書の明白な誤記を本来の表記に訂正するにすぎず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項3は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。
(3)独立特許要件
訂正事項3は、明細書の明白な誤記を本来の表記に訂正するにすぎず、独立特許要件を満たさなくなるような事情は存在しないから、特許法第126条第7項の規定に適合する。

4 訂正事項4について
(1)訂正の目的
訂正事項4は、訂正前明細書の段落【0011】の記載を訂正事項1及び2により訂正される請求項1及び5の記載に整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1及び2が、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは、上記1及び2で説示のとおりであるから、訂正事項4も同様に、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

5 訂正事項5について
(1)訂正の目的
訂正事項5は、訂正前明細書の段落【0050】の【表1】を、訂正事項1によって訂正される特許請求の範囲の記載内容と整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、訂正前明細書に実施例として記載されている例を、訂正事項1によって訂正される特許請求の範囲の記載内容に整合させて参考例とするものにすぎず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項5は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

6 訂正事項6について
(1)訂正の目的
訂正事項6は、訂正前明細書の段落【0052】、【0053】及び【0055】の記載を訂正事項5によって訂正される訂正明細書の段落【0050】の【表1】の記載内容に整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6は、訂正前明細書の段落【0052】、【0053】及び【0055】の記載を訂正事項5によって訂正される訂正明細書の段落【0050】の【表1】の記載内容に整合させるためのものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項6は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

7 訂正事項7について
(1)訂正の目的
訂正事項7は、訂正前明細書の段落【0059】の【表2A】を、訂正事項1によって訂正される特許請求の範囲の記載内容と整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項7は、訂正前明細書に実施例として記載されている例を、訂正事項1によって訂正される特許請求の範囲の記載内容に整合させて参考例とするものにすぎず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項7は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

8 訂正事項8について
(1)訂正の目的
訂正事項8のうち、明細書段落【0061】、【0062】及び【0063】の「実施例に相当するNo.1?6」を「実施例に相当するNo.13?14及び参考例に相当するNo.11?12及び15?16」とする訂正は、訂正前明細書の段落【0061】、【0062】及び【0063】の記載を訂正事項7によって訂正される訂正明細書の段落【0059】の【表2A】の記載内容に整合させるためのものであり、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
また、訂正事項8のうち、明細書段落【0061】、【0062】及び【0063】の「No.1?6」を「No.11?16」とする訂正は、訂正前明細書の段落【0061】、【0062】及び【0063】の「No.1?6」が、明細書の段落【0059】の【表2A】の記載内容から「No.11?16」の誤記であることは明白であるから、訂正事項8は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるともいえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項8は、訂正前明細書の段落【0061】、【0062】及び【0063】の記載を訂正事項7によって訂正される訂正明細書の段落【0059】の【表2A】の記載内容に整合させるためのものであるとともに、明細書の明白な誤記を本来の表記に訂正するものにすぎず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項8は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。
(3)独立特許要件
訂正事項8のうち、明細書段落【0061】、【0062】及び【0063】の「No.1?6」を「No.11?16」とする訂正は、明細書の明白な誤記を本来の表記に訂正するにすぎず、独立特許要件を満たさなくなるような事情は存在しないから、特許法第126条第7項の規定に適合する。

9 訂正事項9について
(1)訂正の目的
訂正前明細書の段落【0068】の「各保持器のの摩耗比」が、日本語として適切ではなく、「各保持器の摩耗比」の誤記であることは明白であるから、訂正事項9は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項9は、明細書の明白な誤記を本来の表記に訂正するにすぎず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項9は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。
(3)独立特許要件
訂正事項9は、明細書の明白な誤記を本来の表記に訂正するにすぎず、独立特許要件を満たさなくなるような事情は存在しないから、特許法第126条第7項の規定に適合する。

10 訂正事項10について
(1)訂正の目的
訂正事項10は、訂正前明細書の段落【0075】の【表5】を、訂正事項1及び2によって訂正される特許請求の範囲の記載内容と整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項10は、訂正前明細書に実施例として記載されている例を、訂正事項1及び2によって訂正される特許請求の範囲の記載内容に整合させて参考例とするものにすぎず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項10は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

11 訂正事項11について
(1)訂正の目的
訂正事項11は、訂正前明細書の段落【0083】の【表6】を、訂正事項1及び2によって訂正される特許請求の範囲の記載内容と整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項11は、訂正前明細書に実施例として記載されている例を、訂正事項1及び2によって訂正される特許請求の範囲の記載内容に整合させて参考例とするものにすぎず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項11は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

12 訂正事項12について
(1)訂正の目的
訂正事項12は、訂正前明細書の段落【0093】の記載内容を訂正事項1により訂正される請求項1の記載内容に整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項12は、訂正前明細書に実施例として記載されている例を、訂正事項1によって訂正される特許請求の範囲の記載内容に整合させて参考例とするものにすぎず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項12は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

13 訂正事項13について
(1)訂正の目的
訂正事項13は、訂正前明細書の段落【0126】の【表10】を、訂正事項1によって訂正される特許請求の範囲の記載内容と整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項13は、訂正前明細書に実施例として記載されている例を、訂正事項1によって訂正される特許請求の範囲の記載内容に整合させて参考例とするものにすぎず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項13は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

14 訂正事項14について
(1)訂正の目的
訂正事項14は、訂正前明細書の段落【0127】の記載を、訂正事項13によって訂正される訂正明細書の段落【0126】の【表10】の記載内容に整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項14は、訂正前明細書の段落【0127】の記載を訂正事項13によって訂正される訂正明細書の段落【0126】の【表10】の記載内容に整合させるためのものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項14は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

15 訂正事項15について
(1)訂正の目的
訂正事項15は、訂正前明細書の段落【0134】の【表12】を、訂正事項1及び2によって訂正される特許請求の範囲の記載内容と整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項15は、訂正前明細書に実施例として記載されている例を、訂正事項1及び2によって訂正される特許請求の範囲の記載内容に整合させて参考例とするものにすぎず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項15は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

16 訂正事項16について
(1)訂正の目的
訂正事項16は、訂正前明細書の段落【0136】の記載を訂正事項15によって訂正される訂正後明細書の段落【0134】の【表12】の記載内容に整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項16は、訂正前明細書段落【0136】の記載を訂正事項15によって訂正される訂正明細書の段落【0134】の【表12】の記載内容に整合させるためのものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項16は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

17 訂正事項17について
(1)訂正の目的
訂正事項17は、訂正前明細書の段落【0136】及び【0137】の記載を、訂正事項15によって訂正される訂正明細書の段落【0134】の【表12】の記載内容に整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項17は、訂正前明細書の段落【0136】及び【0137】の記載を、訂正事項15によって訂正される訂正明細書の段落【0134】の【表12】の記載内容に整合させるためのものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項17は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

18 訂正事項18について
(1)訂正の目的
訂正事項18は、訂正前明細書の段落【0142】の【表13】を、訂正事項1及び2によって訂正される特許請求の範囲の記載内容と整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項18は、訂正前明細書に実施例として記載されている例を、訂正事項1及び2によって訂正される特許請求の範囲の記載内容に整合させて参考例とするものにすぎず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項18は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

19 訂正事項19について
(1)訂正の目的
訂正事項19は、訂正前明細書の段落【0145】の記載を、訂正事項18によって訂正される訂正明細書の段落【0142】の【表13】の記載内容に整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項19は、訂正前明細書の段落【0145】の記載を、訂正事項18によって訂正される訂正明細書の段落【0142】の【表13】の記載内容に整合させるためのものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項19は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

20 訂正事項20について
(1)訂正の目的
訂正事項20は、訂正前明細書の段落【0155】の【表14】を、訂正事項1によって訂正される特許請求の範囲の記載内容と整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項20は、訂正前明細書に実施例として記載されている例を、訂正事項1によって訂正される特許請求の範囲の記載内容に整合させて参考例とするものにすぎず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項20は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

21 訂正事項21について
(1)訂正の目的
訂正事項21は、訂正前明細書の段落【0169】の記載を、訂正事項20によって訂正される訂正明細書の段落【0155】の【表14】の記載内容に整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項21は、訂正前明細書の段落【0169】の記載を、訂正事項20によって訂正される訂正明細書の段落【0155】の【表14】の記載内容に整合させるためのものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項21は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

22 訂正事項22について
(1)訂正の目的
訂正事項22は、訂正前明細書の段落【0205】の【表15】を、訂正事項1及び2によって訂正される特許請求の範囲の記載内容と整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項22は、訂正前明細書に実施例として記載されている例を、訂正事項1及び2によって訂正される特許請求の範囲の記載内容に整合させて参考例とするものにすぎず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項22は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

23 訂正事項23について
(1)訂正の目的
訂正事項23は、訂正前明細書段落【0206】及び【0208】の記載を、訂正事項22によって訂正される訂正明細書の段落【0205】の【表15】の記載内容に整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項23は、訂正前明細書の段落【0206】及び【0208】の記載を、訂正事項22によって訂正される訂正明細書の段落【0205】の【表15】の記載内容に整合させるためのものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項23は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

24 訂正事項24について
(1)訂正の目的
訂正事項24は、訂正前明細書の段落【0213】の【表16】を、訂正事項1によって訂正される特許請求の範囲の記載内容と整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項24は、訂正前明細書に実施例として記載されている例を、訂正事項1によって訂正される特許請求の範囲の記載内容に整合させて参考例とするものにすぎず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項24は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

25 訂正事項25について
(1)訂正の目的
訂正事項25は、訂正前明細書段落【0215】の記載を、訂正事項24によって訂正される訂正明細書の段落【0213】の【表16】の記載内容に整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項25は、訂正前明細書の段落【0215】の記載を、訂正事項24によって訂正される訂正明細書の段落【0213】の【表16】の記載内容に整合させるためのものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項25は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

26 訂正事項26について
(1)訂正の目的
訂正事項26は、訂正前明細書の段落【0223】の【表17】を、訂正事項1及び2によって訂正される特許請求の範囲の記載内容と整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項26は、訂正前明細書に実施例として記載されている例を、訂正事項1及び2によって訂正される特許請求の範囲の記載内容に整合させて、参考例とするものにすぎず、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項26は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

27 訂正事項27について
(1)訂正の目的
訂正事項27は、訂正前明細書段落【0227】、【0228】及び【0229】の記載を、訂正事項26によって訂正される訂正明細書の段落【0223】の【表17】の記載内容に整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項27は、訂正前明細書の段落【0227】、【0228】及び【0229】の記載を、訂正事項26によって訂正される訂正明細書の段落【0223】の【表17】の記載内容に整合させるためのものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項27は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

28 訂正事項28について
(1)訂正の目的
訂正事項28は、訂正前明細書の段落【0231】の記載を、訂正事項26によって訂正される訂正明細書の段落【0223】の【表17】の記載内容に整合させるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
(2)新規事項追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項28は、訂正前明細書の段落【0231】の記載を、訂正事項26によって訂正される訂正明細書の段落【0223】の【表17】の記載内容に整合させるためのものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項28は、特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たす。

第4 むすび
以上のとおり、本件訂正審判に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項から第7項までの規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
転動装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道面をそれぞれ有する外方部材及び内方部材と、前記外方部材及び内方部材の軌道面間に配置され、前記外方部材または内方部材の回転もしくは直線運動により前記軌道面上を転動する転動体とを備えた転動装置であって、
前記外方部材および/又は内方部材がω相を有するTi-15Mo-5Zr-3Alから構成され、かつ前記ω相の結晶粒子の大きさが1μm以下であることを特徴とする転動装置。
【請求項2】
前記ω相の結晶粒子の大きさが800nm以下であることを特徴とする請求項1記載の転動装置。
【請求項3】
前記ω相の結晶粒子の大きさが10nm以下であることを特徴とする請求項1記載の転動装置。
【請求項4】
前記転動体は、チタン合金、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニア系セラミックス、アルミナ系セラミックス、サイアロン系セラミックスのうちいずれか1種類の材料から構成されることを特徴とする請求項1記載の転動装置。
【請求項5】
軌道面をそれぞれ有する外方部材及び内方部材と、前記外方部材および前記内方部材の軌道面間に配置され、前記外方部材または内方部材の回転もしくは直線運動により前記軌道面上を転動する転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成された開口を遮蔽するシールド板とを備えた転動装置であって、前記外方部材および/又は内方部材がTi-15Mo-5Zr-3Al又はTi-15V-3Cr-3Sn-3Alから構成され、かつ前記シールド板が純度99.5%以上のチタンから形成されていることを特徴とする転動装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明は、転がり軸受、ボールねじ、リニアガイド等の転動装置に関し、特に、半導体製造装置、化学繊維製造機、液晶パネル製造装置、電子線或いはX線を用いる機器等での使用に好適な転動装置に関する。
【0002】
背景技術
玉軸受等の転がり軸受は、その軌道輪や転動体が高炭素クロム軸受鋼、肌焼鋼等の鉄鋼材料から形成されるのが一般的であるが、転がり軸受の使用環境は多種多様である。従って、食品機械や化学繊維製造機のように水や海水を扱う機械では、軸受内部に侵入した水や海水によって軌道輪や転動体の表面に錆が発生し、使用不能となることがあるため、軌道輪や転動体をSUS440C等のオーステナイト系ステンレス鋼から形成した転がり軸受が主に使用されている。
【0003】
このような転がり軸受は、水や海水に対する耐食性は良好であるが、硫酸等の酸性液やアルカリ性液などの化学薬品に対しては耐食性が良好であるとは言い難い。このため、硫酸等の酸性液やアルカリ性液などの化学薬品を扱う機械、例えば半導体製造装置や液晶パネル製造装置などでは、軌道輪がチタン合金で形成された転がり軸受を使用している場合が多い。しかし、チタン合金は通常の溶体化処理や時効処理を施しただけでは表面硬さが不足し、そのままでは転がり軸受の軌道輪材料として使用することができない。このため、チタン合金を転がり軸受の軌道輪材料として用いる場合には、何らかの方法でチタン合金の表面硬さを強化する必要がある。
チタン合金の表面硬さを強化する方法としては、従来、β型チタン合金の表面硬さをHv600以上の表面硬さに強化する方法が特開平11-223221号公報に開示されている。しかしながら、この公報に開示された方法によるとβ型チタン合金のβ相にα相を過剰に析出させねばならず、α相はβ相よりも耐食性に劣るため、使用環境によっては耐食性が不十分となる場合がある。また、上記公報に開示された方法では、冷間加工後にショットピーニングを施す必要があり、冷間加工やショットピーニング等の工程が増えることによりコストアップを招くという問題もある。
【0004】
また、半導体製造工程で使用される機器、例えば電子ビーム描画装置やウエハ検査装置では、ウエハ上に回路パターンを描画する手段として、従来、レーザ光を使用していたが、回路パターンの微細化に伴い、近年では、レーザ光よりも短波長で高分解能の電子線が使用されるようになってきている。このような電子線を用いた電子ビーム描画装置やウエハ検査装置などでは、周辺磁場に乱れがあると電子線が容易に曲げられてしまい、描画精度や検査精度の低下を招くことがある。従って、このような装置に転がり軸受を用いる場合には、軌道輪の回転によって周辺磁場が乱れることのない転がり軸受は必要とされ、このような要求を満たすため、転がり軸受の軌道輪材料として、非磁性ステンレス鋼やベリリウム銅を用いることが検討されている。
【0005】
しかし、非磁性ステンレス鋼はその透磁率が1.04?1.002程度であるため、転がり軸受の軌道輪材料として非磁性ステンレス鋼を用いた場合には、軌道輪が僅かに磁化するだけでも周辺磁場に乱れを生じさせる可能性がある。一方、ベリリウム銅はその透磁率が1.001以下であり、非磁性ステンレス鋼のように周辺磁場に乱れを生じさせる可能性は低いが、ベリリウム銅を構成する元素やその化合物の一部が環境負荷物質と認識されているため、使用に際して制約を受けることがある。また、今後、更に環境問題が重視されることが予測され、ベリリウム銅そのものの使用が制限される可能性もある。さらに、ベリリウム銅は最大硬さがHv400程度であり、高負荷の使用では早期摩耗が生じ易いという問題もある。
【0006】
本発明の目的
本発明の第1の目的は、より腐食性の強い環境下でも長期にわたって良好に使用できる転動装置を提供することである。
【0007】
本発明の第2の目的は、硫酸等の強酸性液や強アルカリ性液を扱う機械での使用に好適な転動装置を提供することである。
【0008】
本発明の第3の目的は、非磁性が要求される環境下でも長期にわたって良好に使用できる転動装置を提供することである。
【0009】
本発明の第4の目的は、ウエハ検査装置や核磁気共鳴診断装置のような、電子線あるいはX線を用いる機器での使用に好適な転動装置を提供することである。
【0010】
本発明の第5の目的は、グリース等の潤滑剤を使用できない環境下でも長期にわたって良好に使用できる転動装置を提供することである。
【0011】
本発明の概要
第1の本発明に係る転動装置は、軌道面をそれぞれ有する外方部材及び内方部材と、前記外方部材及び内方部材の軌道面間に配置され、前記外方部材または内方部材の回転もしくは直線運動により前記軌道面上を転動する転動体とを備えた転動装置であって、前記外方部材および/又は内方部材がω相を有するTi-15Mo-5Zr-3Alから構成され、かつ前記ω相の結晶粒子の大きさが1μm以下であることを特徴とする。
第2の本発明に係る転動装置は、軌道面をそれぞれ有する外方部材及び内方部材と、前記外方部材および前記内方部材の軌道面間に配置され、前記外方部材または内方部材の回転もしくは直線運動により前記軌道面上を転動する転動体と、前記外方部材と内方部材との間に形成された開口を遮蔽するシールド板とを備えた転動装置であって、前記外方部材および/又は内方部材がTi-15Mo-5Zr-3Al又はTi-15V-3Cr-3Sn-3Alから構成され、かつ前記シールド板が純度99.5%以上のチタンから形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の好適な実施態様において、前記外方部材および/又は前記内方部材はHv400以上でHv600未満の軌道面硬さを有している。また、外方部材および/又は内方部材はHv420以上、好ましくはHv450以上の芯部硬さを有する共に酸素化合物層を表面に有し、該酸素化合物層はルチル型TiO_(2)を含むチタン酸化物からなり且つ20nm以上、好ましくは50nm以上の厚さを有している。
【0013】
本発明の好適な実施態様において、転動体はチタン合金、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニア系セラミックス、アルミナ系セラミックス、サイアロン系セラミックスのうちいずれか1種類の材料から構成される。
【0014】
本発明の別の好適な実施態様において、転動装置は転動体を保持する保持器をさらに備え、該保持器は20W/(m・K)以上の熱伝導率を有している。また、保持器は、好ましくは、銅、テルル銅、黄銅、アルミ青銅、リン青銅、洋白、キュプロニッケル、ベリリウム銅のうちいずれか1種類の材料から構成される。
【0015】
本発明の別の好適な実施態様において、外方部材、内方部材、転動体の少なくとも1つがβ型チタン合金、nearβ型チタン合金、α+β型チタン合金のいずれかで構成され、外方部材及び内方部材の軌道面は結晶粒子の大きさが1μm以下、好ましくは800nm以下、さらに好ましくは10nm以下のω相を有している。
【0016】
本発明の別の好適な実施態様において、外方部材および/又は内方部材は軌道面上に硬質膜を有している。硬質膜はTiN,TiC,TiCN,TiAlN,CrN,SiC,ダイヤモンドライクカーボンのうち少なくとも1種類の材料から構成され、硬質膜が形成される軌道面は、Hv350以上、好ましくはHv450以上の表面硬さを有している。また、外方部材および/又は内方部材は、前記硬質膜上に0.1μm?10μm、好ましくは0.1μm?5μmの潤滑性膜を有している。
【0017】
本発明の別の好適な実施態様において、転動体は超硬合金又はサーメットから構成され、かつ35W/(m・K)以上、好ましくは50W/(m・K)以上の熱伝導率を有している。
【0018】
本発明の別の好適な実施態様において、転動体は鉄鋼材料から構成され、かつ耐食性を持つ表面硬化層を軌道面に有し、表面硬化層は、転動体を構成する母材の表面にクロム拡散浸透処理または窒化処理を施して形成されている。
【0019】
本発明の別の好適な実施態様において、チタン合金は、そのヤング率をE(Gpa)、前記軌道面から転動体直径の2/100?5/100に相当する深さ位置までの最小硬さをH(Hv)としたとき、3.7≦(H/E)、好ましくは4.0≦(H/E)、さらに好ましくは(H/E)≦4.5の条件を満たすチタン合金である。
【0020】
本発明の別の好適な実施態様において、前記外方部材及び内方部材の線膨張係数α_(1)と前記転動体の線膨張係数α_(2)との比α_(2)/α_(1)が0.4?1.3の範囲内である。
【0021】
本発明の別の好適な実施態様において、外方部材と内方部材との間に形成された開口を遮蔽するシールド板は純度99.5%以上のチタンから形成され、外方部材および内方部材はTiOx(ただし、0<x<2)からなる酸化被膜を表面に有している。
【0022】
β型チタン合金およびα+β型チタン合金は、α相がβ相へ変態する温度付近からチタン合金を溶体化処理して金属組織をほぼβ相にした後、チタン合金に時効処理を施すと、β相にα相が微細に析出することによって硬さが増大する。しかし、α相を時効処理によって析出させた場合には、α相の析出に伴ってβ安定化合金元素がβ相中に濃縮される。このため、α相の析出量が多くなると、α相とβ相の耐食性の違いにより局部的な腐食が起こり易くなる。従って、より腐食性の強い環境下でも好適に使用し得るようにするためには、β型チタン合金あるα+β型チタン合金中のβ相をある程度残留させる必要があるが、β相はα相に比べ軟質のため、β相の量が多すぎると耐食性は良好となるものの耐摩耗性が不足する。
【0023】
本発明者らは、チタン合金の溶体化処理及び時効処理について鋭意研究を行ったところ、チタン合金の表面硬さがHv400以上でHv600未満となるように、チタン合金に低温酸化処理を溶体化処理後に施すことによって、転がり軸受の軌道輪材料として良好なチタン合金が得られることを見出した。ここで、Hv400以上600未満という硬さは、特殊環境用軸受材料として従来から使用されているSUS630やYHD50(商標名)などのステンレス鋼と同程度の硬さであるため、それほど高荷重が負荷されない環境下では、軌道輪受材料として十分に使用可能である。
【0024】
軌道輪が転動体と接触する部分の表面は接触楕円と呼ばれる楕円形であり、その面積は非常に小さい。このため、軌道輪に応力が加わった場合には接触楕円に非常に大きな面圧が作用する。このことは、転がり軸受の軌道輪がチタン合金(ヤング率:約110Gpa)から形成され、かつ転動体がステンレス鋼(ヤング率:約200Gpa)から形成されている場合には、転動体よりも軌道輪のほうが大きく変形し、転動体と接触する接触楕円の面積が大きくなることを意味している。計算上では、チタン合金製軌道輪の接触楕円の面積は、ステンレス鋼製軌道輪のそれよりも大きく、チタン合金製軌道輪の接触楕円における最大接触面圧は、ステンレス鋼製軌道輪のそれよりも0.8倍程度になる。従って、チタン合金製軌道輪は、ステンレス鋼製軌道輪よりも転動体との接触面積が大きくなるため、接触面圧が下がり、転がり疲労が緩和されるので良好である。
【0025】
しかし、チタン合金製軌道輪の表面硬さがHv400未満になると、面圧が低くても、摩耗が急激に生じやすくなる。また、ゴミなどの異物が混入した際に圧痕が生じやすくなり、転がり軸受の寿命が短くなる。従って、チタン合金製軌道輪は表面硬さがHv400以上である必要があるが、より耐摩耗性が要求される場合には、チタン合金製軌道輪の表面硬さをHv450以上とすることが好ましい。更に、より耐食性或いは耐摩耗性が要求される場合には、窒化処理或いは酸化処理などの表面硬化熱処理によってチタン合金により高い硬度と耐食性を持たせることができる。
【0026】
チタン合金の透磁率は1.001以下であり、この値は、ほぼ完全な非磁性に近い値である。従って、軌道輪の回転によって周辺磁場が影響を受けないので、電子線やX線を用いる機器に良好に使用できるが、転動体や保持器が非磁性体でない場合には、これらが磁化することによって前述した装置の精度が低下する原因となる。従って、転動装置にほぼ完全な非磁性が要求される場合には、転動体や保持器の透磁率もチタン合金製軌道輪の透磁率と同様に1.001以下とする必要がある。
【0027】
透磁率が1.001以下の転動体材料としては、チタン合金を始め、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニア系セラミックス、アルミナ系セラミックス、サイアロン系セラミックス等のセラミックスあるいはチタン合金などがある。また、透磁率が1.001以下の保持器材料としては、ポリアミド、フッ素樹脂等の樹脂あるいは黄銅、SUS304等の非磁性金属などがある。
【0028】
これらの材料を子細に考察すると、SUS304に代表されるステンレス鋼製保持器では、プレス加工時の加工誘起変態によってマルテンサイトが形成される。このため、保持器が磁化されやすくなり、保持器の回転によって磁場変動が大きくなる可能性がある。更に、近年では、非磁性ステンレス鋼の比透磁率1.01?1.1より低い透磁率、具体的には1.001程度が要求されており、非磁性ステンレス製保持器の使用が制限される場合もある。従って、転動体をセラミックス製とし、保持器を銅系合金製とすることが望ましい。
【0029】
チタン合金はほぼ完全な非磁性体であり、セラミックスも完全な非磁性体である。一方、銅合金は非磁性ステンレス鋼よりも透磁率の小さい非磁性材料で、比透磁率が1.001以下である。このため、磁場環境下で使用しても保持器の回転によって磁場変動が生じないため、非磁性環境下で使用される転動装置の金属製保持器として好適である。
【0030】
また、潤滑油やグリースを使用できない環境下や電子線機器や半導体製造装置のような非磁性且つ真空環境下で且つグリースを使用できないような状況でも、銅合金は自己潤滑性を有するため、転動体との接触面及び軌道輪案内面での摩擦特性が向上し、摩耗量が少ない。
【0031】
また、銅合金製の保持器は熱伝導率が大きく、摺動案内面での熱の蓄積が生じないため、凝着摩耗を抑制することができる。さらに、銅合金は放熱性が高く、保持器の回転に伴って放熱が促進され、軸受の温度上昇を抑制することができる。これに対し、軌道輪がチタン合金製、保持器がSUS304等のオーステナイト系非磁性ステンレス鋼製である場合には、SUS304の熱伝導率と比熱が小さいため、保持器と軌道輪案内面との間の摺動箇所で局部的に著しく温度が上昇し、軌道輪の凝着摩耗が生じやすい。SUS304等のオーステナイト系非磁性ステンレス鋼の熱伝導率が16W/(m・K)であることから、銅合金製保持器としては20W/(m・K)以上、更に望ましくは35W/(m・K)以上の熱伝導率を有する銅合金製保持器とすることが好ましい。
【0032】
銅合金の種類としては、純銅、テルル銅、黄銅、快削黄銅、高力黄銅、アルミ青銅等の銅合金鋳物、又は純銅、テルル銅、リン青銅、洋白、キュプロニッケルのような展伸用銅合金、或いは析出硬化型のベリリウム銅等、熱伝導率が20W/(m・K)以上の銅合金であれば何れも好適に使用できる。但し、純銅あるいはテルル銅のような低合金は、強度や硬さが低いので、特に耐摩耗性を重視する場合には、これらを除いた銅合金を使用するのが望ましい。
【0033】
酸化処理や窒化処理などの表面処理は、化合層の厚さの確保および侵入した元素の拡散促進のため、600℃以上の高温での処理が必要とされている。しかし、チタン合金を酸素あるいは酸素元を有するガス中で所定の時間加熱すると、チタンは酸素との親和力が強いため、400?600℃の比較的低い温度でも表面にTiO_(2)、Ti_(3)O等の酸素化合物を生成する。
【0034】
酸化処理によってチタン合金の表面に生成されるTiO_(2)等の酸素化合物は、化学的に非常に安定な物質である。一方、チタン合金はその表面が転動体等の摺動により極めて活性になりやすく、それによって凝着摩耗などを生じやすいため、耐摩耗性に劣ると考えられている。しかし、チタン合金に酸化処理を施すことにより表面が化学的に極めて安定した化合物によって覆われるため、表面の活性化が抑制され、その結果として焼付きが起こりにくくなり、摺動性および耐摩耗性が向上する。
【0035】
また、酸化処理によってチタン合金の表面に形成される酸素化合物層の厚さが20nm以上になると、負荷容量が増加し、摺動性および耐摩耗性の効果が著しく向上する。ただし、酸素化合物層の厚さが20nm未満であると、耐摩耗性および摺動性を向上させる効果が小さい。よって、酸素化合物層の厚さは20nm以上とすることが望ましい。また、より良好な耐摩耗性および摺動性を得るためには、酸素化合物層の厚さを50nm以上とすることが好ましい。
【0036】
チタン合金を700℃以上の高温で酸化処理すると、チタン合金の表面に生成される酸素化合物層は硬度の高いルチル型TiO_(2)が主となり、酸素化合物層の厚さも増大する。このため、高負荷に対する耐久性は向上するが、その反面、チタン合金の表面粗さが劣化し、軸受の回転トルクが上昇してしまう場合がある。また、TiO_(2)を主成分とする酸素化合物層は脆く、母材から剥離し易い。
【0037】
一方、チタン合金を400?600℃の低温で酸化処理すると、チタン合金の表面に形成される酸素化合物層は、ルチル型TiO_(2)とTi_(3)O等のTiOx酸化物(x;0<x<2)およびTiとが混在する状態になり、ルチル型TiO_(2)を主とする酸素化合物層に比べて緻密となる。このため、酸化処理後の表面粗さが良好になり、その結果として、軸受の回転トルクも低くなり、化合物層の脱離などが生じにくい。
【0038】
図10Aは、β型チタン合金およびα+β型チタン合金の硬化法として、一般に行われる溶体化処理と時効処理の熱処理工程を示したものであり、この熱処理方法では、チタン合金が急激に酸化しやすいため、高真空雰囲気あるいはアルゴン等の不活性ガス雰囲気で加熱されることが多い。
【0039】
図10Bは、高温でのガス酸化処理を示したものである。この場合、酸化処理後にそのまま使用される場合が多いが、溶体化処理と時効処理をせずに高温で長時間加熱するため、芯部硬さが低くなり、転がり寿命に悪影響を及ぼす場合がある。また、前述したように表面粗さの劣化や化合物層の脆化を引き起こすおそれもある。
【0040】
図10Cは、溶体化処理されたチタン合金を400?600℃の低温で酸化処理する方法を示したものである。400?600℃という酸化処理温度は、β型チタン合金およびα+β型チタン合金を溶体化処理後に時効処理するときの温度と同一温度範囲内にあるため、酸化処理と時効処理を兼ねることができる。そのため、工数増加によるコストアップを招くこともない。
【0041】
また、時効処理によってチタン合金の表面だけでなく、チタン合金の芯部硬さもHv420以上まで向上するため、転がり寿命が向上する。また、処理温度が低いため、熱変形が小さく、軌道輪の寸法精度を低下させる可能性が少ない。ただし、芯部硬さがHv420未満であると、表面に酸素化合物層を有していても軸受の転がり寿命を延長させる効果は少ないため、時効処理を兼ねる酸化処理によって得られる芯部硬さをHv420以上とすることが望ましい。また、より安定した転がり寿命の延長効果を得るためには、チタン合金の芯部硬さをHv450以上とすることが好ましい。
【0042】
酸化処理を行うガス雰囲気は、酸素あるいは酸素元を有するガス中で行う。例えば、大気中、90%N_(2)+10%O_(2)ガス中あるいはArガスに所定量のH_(2)Oガスを混合させたガス中などである。ただし、酸化処理を施すことによって、表面にルチル型TiO_(2)を含み、厚さが20nm以上の酸素化合物層を形成することができれば、酸化処理雰囲気のガスの種類は問わない。また、急激な酸化を防ぐため、加熱炉内を減圧した状態で前記ガスを使用し、酸化処理を行うこともできる。
【0043】
酸化処理を施すチタン合金としては、溶体化処理と時効処理によって硬度が上昇するα+β型チタン合金あるいはβ型チタン合金が好適に使用し得る。たとえば、Ti-6Al-4V、Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al、Ti-22V-4Al、Ti-15Mo-5Zr-3Alなどである。ただし、酸化処理を施すことによって、表面にルチル型TiO_(2)を含み、厚さが20nm以上の酸素化合物層を形成し、芯部硬さがHv420以上となるチタン合金であれば、種類は問わない。
【0044】
本発明の説明
添付図面を参照して、本発明の転動装置をより詳細に説明する。
【0045】
図1は、本発明の一実施形態に係る転がり軸受の断面図である。図1に示される転がり軸受は、呼び番号6001(内径12mm、外径28mm、幅8mm)の玉軸受であって、外輪1、内輪2、転動体3、保持器4及びシール5を備えて構成されている。
【0046】
軌道輪1,2は、Ti-6Al-4V、Ti-15Mo-5Zr-3Al、Ti-15Mo-5Zr等のうちいずれか1種類のチタン合金から形成されている。球状の転動体3は軌道輪1,2の一方が回転すると軌道輪1,2の転動面1a,2a上を転がり運動する。
転動体3は窒化珪素から形成され、転動体3を保持する保持器4はフッ素樹脂から形成されている。
【0047】
チタン合金からなる軌道輪1,2は、所定の形状に切削加工された後、溶体化処理及び時効処理が施されている。軌道輪1,2の転動面1a,2aは、溶体化処理及び時効処理を施した後に研削加工が施されている。溶体化処理は、チタン合金がTi-6Al-4Vである場合には950℃?1000℃の温度で、またチタン合金がTi-15Mo-5Zr-3AlまたはTi-15Mo-5Zrの場合には800℃?850℃の温度でチタン合金を1時間保持した後、チタン合金を水冷して溶体化処理を行った。
【0048】
チタン合金の時効処理は、全て350℃?500℃、3時間?40時間の処理条件で行った。冷却は、通常空冷で行ったが、析出組織を微細にして、硬さを向上させる必要があるチタン合金については、炉冷によって冷却速度を遅くした。また、より均一微細にα相を析出させる必要があるチタン合金については、まず425℃、17時間の条件で時効処理し、さらに475℃、7時間の条件で時効処理する、二段時効処理を用いた。
【0049】
[耐食性試験]
表1に示される軌道輪材料で試験片を作製し、作製した各試験片に対して次のような耐食性試験を行った。すなわち、表1の各試験片を約25℃の5N-H_(2)SO_(4)硫酸液中に浸漬し、硫酸液に浸漬する前と硫酸液に約24時間浸漬した後の試験片の重量を測定し、硫酸液による重量の減少量を評価した。
【0050】
【表1】

【0051】
[転がり寿命試験]
次に、表1に示される材料で試験用の転がり軸受を作製し、作製した各試験軸受に対して、次のような転がり寿命試験を5重量%濃度のNaCl水溶液中で行った。すなわち、図2に示されるように、試験機の回転軸13に試験軸受10をセットした後、試験軸受10にスプリング14とワイヤ15とによって約19.6Nのアキシアル荷重と約49Nのアキシアル荷重を負荷し、この状態でモータ12により回転軸13を約1000rpmの速度で回転させた。そして、試験軸受の内輪を所定の回数だけ回転させた後、転動面の摩耗量を測定した。
耐食性試験の試験結果(重量減少量)を表1に、また耐食性試験の試験結果とチタン合金の表面硬さとの関係を図3に示す。
【0052】
表1及び図3からわかるように、本発明の実施例に相当するNo.3?4及び参考例に相当するNo.1?2及び5?6は、比較例であるNo.6’?8’に比較して硫酸液中での重量減少量が低い値を示している。これは、No.6’?8’は軌道輪がステンレス鋼やベリリウム銅から形成されているのに対し、No.1?6は軌道輪がチタン合金から形成されているためである。
【0053】
また、本発明の実施例に相当するNo.3?4及び参考例に相当するNo.1?2及び5?6は、比較例であるNo.3’?5’に比較して硫酸液中での重量減少量が低い値を示している。これは、No.3’?5’はチタン合金製軌道輪の表面硬さがHv600以上であるのに対し、No.1?6はチタン合金製軌道輪の表面硬さがHv600未満のためである。
【0054】
次に、転がり寿命試験の試験結果(転がり寿命比)を表1に、また転がり寿命試験の試験結果とチタン合金製軌道輪の表面硬さとの関係を図4に示す。なお、表1及び図4の転がり寿命比は、No.1’の転がり寿命を1として評価した場合の比較値である。
【0055】
表1及び図4からわかるように、本発明の実施例に相当するNo.3?4及び参考例に相当するNo.1?2及び5?6は、比較例であるNo.1’及び2’に比較して、塩水中での転がり寿命比が高い数値を示している。これは、No.1’?2’はチタン合金製軌道輪の表面硬さがHv400未満であるのに対し、No.1?6はチタン合金製軌道輪の表面硬さがHv400以上のためである。
【0056】
以上のことから、転がり軸受の軌道輪をチタン合金製とし、軌道輪材料の表面硬さをHv600未満でHv400以上とすることにより、塩水や硫酸等の腐食性流体に対して耐食性が要求される環境下でも長期にわたって好適に使用できる転がり軸受を得られることがわかる。
【0057】
[磁束密度変化測定試験]
表2A及び表2Bに示される材料で試験用の転がり軸受を作製し、作製した各試験軸受に対して次のような磁束密度変化測定試験を行った。すなわち、図5に示されるように、永久磁石16の磁界中に配置された回転軸13に試験軸受10を取り付けた後、回転軸13を約500rpmの速度で回転させ、そのときの磁束密度の変化をテスラーメータ17で測定した。そして、テスラーメータ17の出力(図6参照)が最大で0.1mT以上になったものを磁束密度の変化が有りとし、0.1mT未満のものを磁束密度の変化が無しとした。
【0058】
磁束密度変化測定試験の試験結果を表2Aに、また表2Aに示した材料の透磁率を表2Bに示す。
【0059】
【表2A】

【0060】
【表2B】

【0061】
表2Aの試験結果からわかるように、本発明の実施例に相当するNo.13?14及び参考例に相当するNo.11?12及び15?16は、比較例であるNo.11’及び14’に比較して磁束密度の変化が小さい。これは、No.11’及び14’は保持器がSUS304で形成されているのに対し、No.11?16は保持器が樹脂で形成されているためである。
【0062】
また、本発明の実施例に相当するNo.13?14及び参考例に相当するNo.11?12及び15?16は、比較例であるNo.12’及び13’に比較して磁束密度の変化が小さい。これは、No.12’及び13’は転動体がSUS440Cで形成されているのに対し、No.11?16は転動体が窒化珪素等のセラミックスで形成されているためである。
【0063】
さらに、本発明の実施例に相当するNo.13?14及び参考例に相当するNo.11?12及び15?16は、比較例であるNo.15’に比較して磁束密度の変化が小さい。これは、No.15’は軌道輪が非磁性ステンレス鋼で形成されているのに対し、No.11?16は軌道輪がチタン合金で形成されているためである。
【0064】
したがって、軌道輪をチタン合金製とし、転動体をセラミックス製とし、保持器を樹脂製とすることにより、軸受の回転によって周辺磁場の磁束密度が大きく変化することがないので、非磁性が要求される環境下での使用に良好な転がり軸受を得られることがわかる。
[保持器摩耗試験]
表3に示される材料で保持器を作製し、これを軌道輪がTi-15Mo-5Zr-3Alからなり、転動体がSi_(3)N_(4)からなる試験軸受に組み込み、保持器の摩耗試験を実施した。具体的には、回転速度:200rpm、ラジアル負荷荷重:49.0N、アキシアル負荷荷重:19.6N、真空度:1×10^(-5)Torr、潤滑:無潤滑の条件で各試験軸受を回転させた。そして、試験軸受を回転させる前の保持器の重量と試験軸受の回転が1×10^(7)に達した時点で保持器の重量とを測定し、その差を保持器の摩耗量として評価した。
【0065】
【表3】

【0066】
ここで使用した試験軸受のチタン合金製軌道輪は、Hv480以上の表面硬さを得るために、800?850℃×1時間の条件で溶体化処理した後、水冷し、次いで425℃×20時間の条件で1回目の時効硬化処理を施し、さらに475℃×7時間の条件で2回目の時効硬化処理を施したチタン合金から形成したものである。
【0067】
表3のNo.33「エコブラス」は三宝伸銅工業株式会社製の商品名である。
【0068】
保持器摩耗試験の試験結果(摩耗比)を表4に示す。表4における各保持器の摩耗比は、No.21’の摩耗量を1として評価した場合の比較値である。
【0069】
【表4】

【0070】
表4の試験結果からわかるように、本発明の実施例に相当するNo.21?35は、比較例であるNo.21’に比較して摩耗比が低い値を示している。これは、No.21’は保持器材料(ステンレス鋼)の熱伝導率が20W/(m・K)未満であるのに対し、No.21?35は保持器材料(銅合金)の熱伝導率が20W/(m・K)以上のためである。
【0071】
また、本発明の実施例に相当するNo.21?35は、比較例であるNo.22’に比較して磁束密度の変化が小さい。これは、No.22’は保持器材料の比透磁率が1.001を超える値であるのに対し、No.21?35は保持器材料の比透磁率が1.001以下のためである。
【0072】
したがって、保持器材料の熱伝導率を20W/(m・K)以上とし、かつ保持器材料の比透磁率を1.001以下とすることにより、グリース等の潤滑剤を使用できず、かつ非磁性が要求される環境下でも好適に使用できる転がり軸受を得ることができる。
【0073】
[摩耗評価試験]
表5に示される材料で直径50mmの円板状試験片を作製し、各試験片に対して摩耗評価試験を実施した。具体的には、図7に示すように、円板状試験片33の表面に負荷荷重を窒化珪素製転動体31を介して負荷し、試験片33への負荷荷重を20N?90Nの範囲で徐々に上昇させながら黄銅製保持器32を1000rpmの速度で回転させた。そして、保持器32の回転抵抗が0.69N・mに達した時点での負荷荷重を焼付荷重として評価すると共に試験片表面の最大摩耗痕深さを測定した。このとき、負荷荷重が98Nを超えても保持器32の回転抵抗が0.69N・mに達しなかった場合には、負荷荷重が98Nに達した時点を保持器32の回転抵抗として焼付荷重を評価した。
【0074】
摩耗評価試験によって得られた各試験片の焼付荷重と最大摩耗痕深さを表5に示す。
【0075】
【表5】

【0076】
表5の試験結果からわかるように、No.36?43のチタン合金製試験片は、No.36’及びNo.39’のチタン合金製試験片に比較して焼付荷重が大きい。これは、No.36’及びNo.39’のチタン合金製試験片はその表面に酸素化合物層が形成されていないのに対し、No.36?43のチタン合金製試験片はその表面に酸素化合物層が形成されているためである。
【0077】
また、No.36?43のチタン合金製試験片は、No.38’のチタン合金製試験片に比較して、負荷荷重が98Nに達した時点での保持器の回転抵抗が小さい。これは、No.38’チタン合金製試験片は酸素化合物層がTiOx(0<x<2)を含んでいないのに対し、No.36?43のチタン合金製試験片は酸素化合物層がTiO_(2)とTiOxとを含んでいるためである。
【0078】
さらに、No.36?43のチタン合金製試験片は、No.40’及びNo.41’のチタン合金製試験片に比較して焼付荷重が大きい。これは、No.40’及びNo.41’のチタン合金製試験片は酸素化合物層の厚さが20nm未満であるのに対し、No.36?43のチタン合金製試験片は酸素化合物層の厚さが20nm以上であるためである。
【0079】
また、No.36?43のチタン合金製試験片は、No.37’のチタン合金製試験片に比較して焼付荷重が大きい。これは、No.37’のチタン合金製試験片は酸素化合物層の厚さが110nmであるのに対し、No.36?43のチタン合金製試験片は酸素化合物層の厚さが95nm以下であるためである。
【0080】
以上のことから、チタン合金製軌道輪の表面にTiOxを含む酸素化合物層を形成することにより、チタン合金製軌道輪の耐摩耗性を高められることがわかる。また、酸素化合物層の厚さを20nm以上で95nm以下することにより、チタン合金製軌道輪の耐摩耗性をさらに高められることがわかる。
【0081】
表5に示した酸素化合物層の厚さとチタン合金製試験片の最大摩耗痕深さとの関係を図8に示す。同図に示されるように、酸素化合物層の厚さが20nm以上になると最大摩耗痕深さが約2μm以下となり、酸素化合物層の厚さが50nm以上になると最大摩耗痕深さが約1μm以下となる。したがって、酸素化合物層の厚さを20?95nm、好ましくは50?95nmとすることにより、チタン合金製軌道輪の耐摩耗性をより高めることができる。
【0082】
[転がり寿命試験]
表6に示される材料で軌道輪を作製し、これを転動体がSi_(3)N_(4)からなり,保持器がフッ素樹脂からなる試験軸受に組み込み、転がり軸受の水中転がり寿命試験をラジアル荷重:98N、アキシアル荷重:20N、回転速度:1000rpm、潤滑:無潤滑の条件で行った。
上記の水中転がり寿命試験によって得られた各試験軸受の転がり寿命を表6に示す。表6の転がり寿命比は、No.44’の転がり寿命を1として評価した場合の比較値である。
【0083】
【表6】

【0084】
表6の試験結果からもわかるように、No.36?43の試験軸受は、No.36’及びNo.39’の試験軸受に比較して、転がり寿命比が高い値を示している。これは、No.36’及びNo.39’の試験軸受はチタン合金製軌道輪の表面に酸素化合物層が形成されていないのに対し、No.36?43の試験軸受はチタン合金製軌道輪の表面に酸素化合物層が形成されているためである。また、No.36?43の試験軸受は、No.38’の試験軸受に比較して、転がり寿命比が高い値を示している。これは、No.38’の試験軸受は酸素化合物層にTiOx(0<x<2)が含まれていないのに対し、No.36?43の試験軸受は酸素化合物層にTiOx(0<x<2)が含まれているためである。さらに、No.36?43の試験軸受は、No.40’及びNo.41’の試験軸受は比較して転がり寿命が優れている。これは、No.40’及びNo.41’の試験軸受は酸素化合物層の厚さが20nm未満であるのに対し、No.36?43の試験軸受は酸素化合物層の厚さが20nm以上であるためである。
【0085】
表6に示した各試験軸受の転がり寿命比とチタン合金製軌道輪の芯部硬さとの関係を図9に示す。同図に示されるように、チタン合金製軌道輪の芯部硬さがHv420未満では軸受の転がり寿命が比較値で2.0程度となるが、チタン合金製軌道輪の芯部硬さがHv420以上では軸受の転がり寿命が比較値で3.5程度となる。したがって、チタン合金製軌道輪の芯部硬さをHv420以上とすることにより、転がり軸受の転がり寿命を高められることがわかる。
【0086】
次に、表7に示す材料で試験片を作製し、No.1?14の試験片に対して同表に示す条件で溶体化処理と時効処理を施した。そして、これらの試験片を用いて、ω相の粒子径の測定、ビッカース硬さ試験、塩水噴霧試験、サバン式摩耗試験を行った。
【0087】
【表7】

【0088】
[ω相の粒子径測定]
透過型電子顕微鏡による観察用の試験片を用いて、日本電子(株)製の透過型電子顕微鏡「JEM-2010」により、暗視野像にて試験片断面の結晶組織を観察し、ω相の粒子径を測定した。観察の結果、チタン合金の結晶組織は、No.1?10,13では、(β+ω)相または(β+ω+α)相となっていたが、No.11では(β+α)相となっていた。
【0089】
[ビッカース硬さ試験]
試験片の断面を鏡面状態に研磨した後、マイクロビッカース硬度測定器により試験片の鏡面に圧子を当て、荷重100gの条件で測定した。
[塩水噴霧試験]
「JIS Z2371」に準拠し、温度35℃で5重量%濃度のNaCl水溶液を用い、1週間経過後の試験片の外観を目視にて観察した。この観察により、錆の発生が認められなかったものを耐食性が良好(○)、錆の発生が認められたものを耐食性が不良(×)と評価した。
【0090】
[サバン式摩耗試験]
図11A及び図11Bに示すように、前述のようにして作製した各種合金からなる固定試験片21と、Si_(3)N_(4)からなる回転試験片22とをサバン式摩耗試験機に取り付け、荷重用の重りとバランス用の重りとにより固定試験片21を回転試験片22の外周面に押し付けながら、無潤滑で、回転試験片22を固定試験片21に対して回転させた。固定試験片21の寸法は、19mm×19mm×厚さ3mmであり、リング状の回転試験片22の寸法は、外径45mm、厚さ6mm、幅6mmである。
【0091】
回転条件は、押しつけ荷重を39.2Nとし、固定試験片21に対する回転試験片22の回転速度を周速度で2.6m/sとし、回転試験片22の回転距離を400mとした。この回転に伴う固定試験片21の摩耗体積を測定し、各サンプルに付いて、No.11の摩耗体積を1とした時の比を「摩耗比」として算出した。
これらの試験結果を表8に示す。
【0092】
【表8】

【0093】
表8の試験結果からわかるように、本発明の実施例に相当するNo.2?8及び参考例に相当するNo.1、9?10,13では、粒径が1μm以下のω相を有する結晶組織のチタン合金を用いることによって、ω相を有さない結晶組織のチタン合金を用いた場合(No.11)、ω相の粒径が1μmを超える場合(No.12)、およびBe-Cu合金を用いた場合(No.15)よりも硬くて耐摩耗性に優れ、耐食性も良好となる。なお、ステンレス鋼を用いた場合(No.14)は、硬さおよび耐摩耗性は良好であったが、塩水での耐食性に劣っていた。
【0094】
No.5では、時効処理の温度が475℃とω相析出温度より高いが、炉内で徐冷することにより時効処理後の冷却速度を遅くしているため、冷却中の300?450℃の温度域でω相が析出し、(β+ω+α)相になったと考えられる。
【0095】
No.7および8では、冷間圧延によって多量の塑性歪みがチタン合金に導入されるため、徐冷時にω相の核が多数位置に発生し、冷間圧延をしない場合(No.5)と比較してチタン合金中のω相存在率(体積比)が大きくなる。これにより、より硬さが硬く、耐摩耗性も特に良好であった。
【0096】
No.13は、ω相の粒径が10nm以下と比較的小さかったため、No.1?10よりは硬さおよび耐摩耗性が少し劣るものであったが、転がり軸受の軌道輪や転動体として使用できる範囲内であった。
【0097】
以上のことから、内輪(軌道部材)2、外輪(軌道部材)1、転動体3、保持器4からなる転がり軸受において、内輪2および外輪1をNo.1?10,13の試験片と同様にして作製することにより、粒子径1μm以下のω相を有する結晶組織のチタン合金からなる内輪2および外輪1が得られる。そして、この内輪2および外輪1と、例えばSi_(3)N_(4)等のセラミックス製の転動体3と、必要に応じてプラスチック製等の保持器4を組み合わせることにより、腐食性環境下や非磁性が要求される環境下での用途に好適な転がり軸受が得られる。
【0098】
図12は、本発明の他の実施形態である深溝玉軸受(軸受型番:608)の断面図である。同図において、外輪1及び内輪2は、Ti-6Al-4V等のα+β型チタン合金またはTi-15Mo-5Zr-3Al、Ti-15Mo-5Zr-3Al等のα+β型チタン合金から形成されている。外輪1と内輪2との間に配設された転動体3は、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニア、アルミナ等のセラミックスから形成されている。転動体3が転動する軌道輪1,2の軌道面には、硬質膜6が形成されている。この硬質膜6はTiN、CrN,TiAlN、ダイヤモンドライクカーボン等からなり、硬質膜6の表面には二硫化モリブデン、二硫化タングステン、官能基を有する含フッ素重合体等からなる潤滑性膜7が形成されている。
【0099】
前記チタン合金は、ビッカース硬さHv350以上の硬さを得るために、所定の形状に切削加工された後、第1または第2の方法により硬化処理が施されている。
【0100】
第1の方法はチタン合金に溶体化処理及び時効処理を施してHv350以上の硬さを得る方法であり、第2の方法はチタン合金にガス窒化処理を施してHv350以上の硬さを得る方法である。
【0101】
第1の方法において、チタン合金がTi-6Al-4Vである場合は、チタン合金を950?1000℃の温度雰囲気中に約1時間置き、その後、チタン合金を水冷して溶体化処理を行う。また、チタン合金がTi-15Mo-5Zr-3AlまたはTi-15Mo-5Zr-3Alである場合は、チタン合金を800?850℃の温度雰囲気中に約1時間置き、その後、チタン合金を水冷して溶体化処理を行う。
【0102】
チタン合金のβ相から硬度の高いα相を析出させる場合には、溶体化処理を行った後、チタン合金を350?500℃の温度雰囲気中に約3?40時間置き、チタン合金を時効処理する。時効処理の時間を調整することによって、チタン合金の硬さが調整される。時効処理によるチタン合金の冷却は、通常、空冷によって行われるが、チタン合金の硬さをより硬くするためには、β相からα相をより微細に析出させるために、チタン合金を炉内で徐冷するのが望ましい。
【0103】
第2の方法でHv350以上の硬さを得る場合には、チタン合金表面の酸化を防ぐために、チタン合金を真空状態の炉内で変態点より低い温度で加熱する。このとき、炉内圧力が0.133Paを上回ると炉内の残留酸素とチタンとが化学反応してチタン合金の表面に窒化処理を阻害する酸化物膜が生成される。従って、チタン合金を窒化処理してHv350以上の硬さを得る場合には、図13に示すように、炉内圧力を0.133Pa以下とする。
【0104】
チタン合金の窒化処理温度が高いと、チタンと窒素との反応性が良好となる。これに伴いチタン合金内に侵入した窒素の拡散速度も速くなり、その結果として、窒素拡散層がチタン合金の表層部に形成されるが、窒化処理温度が変態点(α相からβ相へ変態する温度)以上であると結晶粒が急激に大きくなり、軌道綸の疲労強度に影響を及ぼす。従って、チタン合金を窒素ガスあるいはNH_(3)等の処理ガスで窒化処理する場合には、窒化処理温度を変態点より5?200℃程度低い温度とする。
【0105】
窒素ガスあるいはNH_(3)等の処理ガスでチタン合金を窒化処理する場合、処理ガスの圧力が高過ぎるとチタン合金表面の窒化が急激に進行し、チタン合金の表面に形成される窒化層が粗くて脆いものとなる。それを避けるためには、炉内のガス圧は、1333Pa以下にすることが望ましい。また、冷却時も酸化を防ぐために、所定のガス圧に保持したまま炉内で冷却することが望ましい。
【0106】
次に、外輪1及び内輪2の軌道面に硬質膜6を形成する方法について説明する。
【0107】
硬質膜6の形成は、アーク蒸着法を利用した被膜処理装置(図14参照)を用いて行った。具体的には、まず、回転軸47を有する回転テーブル42に試験軸受を載置した。次に、真空ポンプ46により真空槽41内を排気して圧力を1×10^(-4)Pa以下とした状態で、気体導入口44からArガスを導入しながら1対の陰極43,43に対してDCバイアスの印加を行うことにより、Arによるイオンボンバードを行い、ワーク48(外輪1及び内輪2)のクリーニングを行った。
【0108】
次に、ワーク48の温度を400?500℃とし、Ti系の硬質膜6を設ける場合にはTi材を、Cr系の硬質膜6を設ける場合にはCr材を、それぞれターゲット49,50に取り付けた。そして、回転テーブル42を回転させながら、ターゲット49,50に-200?-300V,80?150Aのバイアスを印加した。
【0109】
また、窒化物系の硬質膜6を設ける場合はプロセスガスとして窒素ガス、炭化物系の硬質膜6を設ける場合はプロセスガスとしてメタンガス(CH_(4))を、気体導入口45から導入して、回転テーブル42を回転させながら、ターゲット49,50に同様のDCバイアスを印加した。
【0110】
このような操作により、外輪1の少なくとも内周面全体と内輪2の少なくとも外周面全体とに、硬質膜6を設けることができた。硬質膜6の膜厚は、処理時間により調整した。
【0111】
ガス窒化処理を施したものについては、ガス窒化処理により表面に形成された窒素化合物層を仕上げ研磨により取り除き、窒素拡散層を表出させ表面硬さをHv550以上とし、その上層に硬質膜6を形成した。
【0112】
硬質膜6を形成する方法は、上記のような方法に限定されるものではなく、例えば、HCDイオンプレーティング法,スパッタリング法,プラズマCVD法等を採用してもよい。
【0113】
次に、硬質膜の剥離寿命を評価した結果について説明する。使用した軸受は、上記と同様の方法によって製造したスラスト玉軸受(軸受型番:51305)である。
【0114】
図15に示すように、スラスト寿命試験機の回転軸51に、外輪1,内輪2,転動体3,保持器4を備えるスラスト玉軸受52を装着し、ハウジング53内に潤滑油を満たした状態で回転試験を負荷荷重:9800N、回転速度:1000rpm、保持器材質:黄銅、転動体材質:窒化珪素、潤滑剤:#68タービン油(68cSt/40℃)の条件で行った。
【0115】
外輪1及び内輪2の母材の表面硬さHv、硬質膜の種類、剥離寿命の結果を、それぞれ表9に示す。
【0116】
【表9】

【0117】
表9の外輪1及び内輪2の母材は、β型チタン合金Ti-15Mo-5Zr-3Alである。また、剥離寿命の判定は、加速度ピックアップにより検出した振動レベルが、初期値の5倍に達した時点を寿命とした。そして、生材(硬化処理を施していない母材)にTiNからなる硬質膜を被覆したもの(表9のNo.1’)の寿命を1とした比較値により示した。
【0118】
母材の表面硬さHvと硬質膜の剥離寿命との関係を図16に示す。図16から分かるように、母材の表面硬さがHv350以上であると、硬質膜の剥離寿命が向上し、Hv450以上であると、より大きく向上した。
【0119】
表9および図16からわかるように、本発明の実施例に相当するNo.1?12は、比較例であるNo.3’及びNo.4’に比較して硬質膜の剥離寿命比が高い値を示している。これは、No.3’及びNo.4’の軸受は硬質膜が形成される軌道面の表面硬さがHv290以下であるのに対し、No.1?12の軸受は硬質膜が形成される軌道面の表面硬さがHv350以上となっているためである。
【0120】
表9に示すNo.1?4とNo.9?12とを比較すると、No.1?4の剥離寿命比はNo.9?12の剥離寿命比よりも高い数値を示していることがわかる。これは、No.9?12の軸受は軌道面の表面硬さがHv376以下であるのに対し、No.1?4の軸受は軌道面の表面硬さがHv450以上となっているためである。
【0121】
したがって、硬質膜が形成される軌道面の表面硬さをHv350以上、好ましくはHv450以上とすることによって、硬質膜の耐久性を高めることができ、硬質膜の早期剥離等を防止できる。
【0122】
次に、真空雰囲気での転がり軸受の耐久性を評価した結果について説明する。使用した軸受は、上記と同様の方法によって製造した深溝玉軸受(軸受型番:608、内径8mm×外径22mm×幅7mm)である。
【0123】
真空耐久試験装置の真空チャンバ61内の軸受ハウジング62に、外輪1,内輪2,転動体3を備える深溝玉軸受10を装着して(図17参照)、真空環境下における耐久試験を行った。なお、モータ63の回転は、磁気シールユニット64を介して試験軸受10に導入されるようになっている。また、アキシアル荷重がコイルばね65により試験軸受10に負荷され、試験軸受10の回転トルクは図示しないストレインゲージを貼り付けた板ばね66により測定されるようになっている。さらに、真空チャンバ61内の真空排気は、図示しないターボ分子ポンプやイオンポンプ等により行われる。
【0124】
このときの試験条件は、下記の通りである。
【0125】
アキシアル荷重:49N
回転速度 :1000rpm
真空度 :10^(-5)Pa以下
外輪1及び内輪2の母材の種類、母材に施した硬化処理の種類、母材の表面硬さHv、硬質膜6の種類、潤滑性膜7の種類、転動体3の材質、寿命(真空耐久試験の結果)を、それぞれ表10に示す。なお、潤滑性膜の種類の欄における「DFO」とは、官能基を有する含弗素重合体を意味する。また、寿命は、生材(硬化処理を施していない母材)にTiNからなる硬質膜を被覆したもの(表10のNo.3’)の寿命を1とした相対値により示した。
【0126】
【表10】

【0127】
表10からわかるように、本発明の実施例に相当するNo.14?24,27?29及び参考例に相当するNo.13、25?26は、比較例であるNo.3’に比較して真空中での寿命比が高い値を示している。これは、No.3’の軸受は軌道面の表面硬さがHv290以下であるのに対し、No.13?29の軸受は軌道面の表面硬さがHv350以上となっているためである。また、本発明の実施例に相当するNo.14?24,27?29及び参考例に相当するNo.13、25?26は、比較例であるNo.4’に比較して真空中での寿命比が高い値を示している。これは、No.4’の軸受は潤滑膜がチタン合金製軌道輪の軌道面上に直接形成されているのに対し、No.13?29の軸受は潤滑膜が軌道面上に形成された硬質膜の表面に形成されているためである。
【0128】
したがって、チタン合金製軌道輪の軌道面上に硬質膜を形成し、この硬質膜の表面に潤滑膜を形成することによって、グリース等の潤滑剤が使用できない真空雰囲気でも長期にわたって良好に使用できる転がり軸受を得られることがわかる。
【0129】
母材としては、α+β型チタン合金であるTi-6Al-4Vと、β型チタン合金であるTi-15Mo-5Zr-3Al及びTi-15Mo-5Zrとを用いているが、母材の表面硬さをHv350以上、好ましくはHv450以上にできるのであれば、チタン合金の種類は前記のものに限定されず、他の種類のチタン合金も使用可能である。
【0130】
チタン合金製軌道輪の溶体化処理条件と時効処理条件を表11に示す。
【0131】
【表11】

【0132】
[真空回転試験]
表11に示されるチタン合金製軌道輪と表12に示す材料からなる転動体とを用いて試験軸受を作製し、各試験軸受に対して真空下での耐摩耗性試験を行った。具体的には、各試験軸受に対して真空下で回転試験をアキシアル荷重:19.6N、回転速度:1000rpm、潤滑:無潤滑の条件で行い、1×10^(7)回転した後の各軌道輪の摩耗量を、No.1’の摩耗量を1とした時の比を「摩耗比」として算出した。
【0133】
真空回転試験の試験結果を表12に示す。
【0134】
【表12】

【0135】
表12に示す各軌道輪の摩耗比は、No.1’の摩耗量を1として評価した場合の比較値である。
【0136】
表12の試験結果からわかるように、本発明の実施例に相当するNo.1?6,9及び参考例に相当するNo.7、8、10及び11は、比較例であるNo.1’に比較して寿命比が高い値を示している。これは、No.1’の転がり軸受は転動体の材質がSiN_(4)であるのに対し、No.1?11の転がり軸受は転動体の材質が超硬合金またはサーメットとなっているためである。
【0137】
また、No.1?11の軸受は、比較例であるNo.2’及びNo.3’に比較して寿命比が高い値を示している。これは、No.2’及びNo.3’の軸受は超硬合金またはサーメットの熱伝導率が31W/(m・K)以下であるのに対し、No.1?11の転がり軸受は超硬合金またはサーメットの熱伝導率が35W/(m・K)以上となっているためである。
【0138】
したがって、転動体を超硬合金またはサーメットから形成し、かつ超硬合金またはサーメットの熱伝導率が35W/(m・K)以上とすることにより、真空雰囲気でも長期にわたって良好に使用できる転がり軸受を得られることがわかる。
【0139】
表12に示した摩耗比と超硬合金またはサーメットの熱伝導率との関係を図18に示す。同図に示すように、超硬合金またはサーメットの熱伝導率が50W/(m・K)に達するまでは熱伝導率が高いほどチタン合金製軌道輪の摩耗比が上昇するが、超硬合金またはサーメットの熱伝導率が50W/(m・K)を超えると熱伝導率が高くなってもチタン製軌道輪の摩耗比はそれほど上昇しない。
【0140】
このことから、転動体を超硬合金またはサーメットから形成する場合には、超硬合金またはサーメットの熱伝導率を30?50W/(m・K)の範囲内とすることが望ましい。
【0141】
表13に示す材料で試験用の転がり軸受を作製し、作製した各試験軸受に対して、次のような塩水転がり試験と磁束密度変化測定試験を実施した。なお、表13の軌道輪材質A、B、C、Gは表11に示した材料であり、また転動体材質NR8はWC-Ni系超硬合金、NR11はWC-Ni-Cr系超硬合金、DUX30はTiC-TaN-Ni-Mo系サーメットである。
【0142】
【表13】

【0143】
[塩水転がり試験]
図2に示す試験装置を用い、各試験軸受に対して5重量%濃度のNaCl水溶液中での転がり寿命試験を行い、各軌道輪の摩耗比と錆発生の有無を調べた。このときの試験条件は以下の通りである。
【0144】
ラジアル荷重:49.2N
アキシアル荷重:19.2N
回転速度:1000rpm
潤滑:無潤滑
[磁束密度変化測定試験]
図5に示されるように、永久磁石16の磁界中に配置された回転軸13に試験軸受10を取り付けた後、回転軸13を約500rpmの速度で回転させ、そのときの磁束密度の変化をテスラーメータ17で測定した。そして、図6に示すテスラーメータの出力が最大で0.1mT以上になったものを磁束密度の変化が有りとし、0.1mT未満のものを磁束密度の変化が無しとした。
【0145】
これらの試験結果を表13に示す。同表の試験結果からわかるように、本発明の実施例に相当するNo.12?13、17?18及び22?23及び参考例に相当するNo.14?16、19?21及び24?26では、塩水による腐食性環境下でも、優れた耐摩耗性を示し、勿論、錆の発生は認められなかった。また、磁束密度の変化も全くないことから、非磁性にも優れていることが確認された。
【0146】
超硬合金やサーメットは、セラミックスに相当する高硬度(Hv900以上)であり、且つ高融点であるため、潤滑条件が厳しくても、凝着や摩耗が生じにくい。また、高硬度であるために、加工時の塑性変形量が非常に小さく、微小な凹凸が生じにくい。このため、極めて高い精度の転動体を製造し得る。また、靱性については、セラミックスより高いので、製造時に割れや欠けが生じにくく、衝撃荷重に対しても破損しにくい。
【0147】
転動体材料として熱伝導率が35W/(m・K)以上の超硬合金やサーメットを用いることで、軌道輪と転動体との接触面での発熱量が抑えられ、チタン合金製軌道輪の凝着摩耗を抑制することができる。また、超硬合金やサーメットはセラミックスに比較してヤング率が大きいので、転動体と軌道輪との接触面積が小さくなり、回転トルクを抑制して回転特性を安定させることができる。
【0148】
超硬合金及びサーメットは、周期律表で第IVa族、第Va族、第VIa族に属する9種類の金属、即ちW、Mo、Cr、Ta、Nb、V、Hf、Zr、Tiの炭化物を対象とし、これら炭化物粉末をFe、Co、Ni等の鉄族金属を用いて焼結結合した合金である。サーメットは、このうち、主にTiC、TiN、或いはTiCNをNiで結合した焼結合金である。
【0149】
超硬合金を、合金系で分類すると、WC-Co系、WC-Cr_(3)C_(2)-Co系、WC-TaC-Co系、WC-TiC-Co系、WC-NbC-Co系、WC-TaC-NbC-Co系、WC-TiC-TaC-NbC-Co系、WC-TiC-TaC-Co系、WC-ZrC-Co系、WC-TiC-ZrC-Co系、WC-TaC-VC-Co系、WC-Cr_(3)C_(2)-Co系、WC-TiC-Cr_(3)C_(2)-Co系等がある。また、耐食性を向上させたものには、WC-Ni系、WC-Co-Ni系、WC-Cr_(3)C_(2)-Mo_(2)C-Ni系、WC-Ti(C,N)-TaC系、WC-Ti(C,N)系、Cr_(3)C_(2)-Ni系等がある。
【0150】
WC-Co系の代表的な組成は、W:Co:C=70.41?91.06:3.0?25.0:4.59?5.94である。WC-TaC-NbC-Co系の代表的な組成は、W:Co:Ta:Nb:C=65.7?86.3:5.8?25.0:1.4?3.1:0.3?1.5:4.7?5.8である。WC-TiC-TaC-NbC-Co系の代表的な組成は、W:Co:Ta:Ti:Nb:C=65.0?75.3:6.0?10.7:5.2?7.2:3.2?11.0:1.6?2.4:6.2?7.6である。WC-TaC-Co系の代表的な組成は、W:Co:Ta:C=53.51?90.30:3.5?25.0:0.30?25.33:4.59?5.90である。WC-TiC-Co系の代表的な組成は、W:Co:Ti:C=57.27?78.86:4.0?13.0:3.20?25.59:5.88?10.14である。WC-TiC-TaC-Co系の代表的な組成は、W:Co:Ta:Ti:C=47.38?87.31:3.0?10.0:0.94?9.38:0.12?25.59:5.96?10.15である。
【0151】
サーメットは、TiC-Ni系、TiC-Mo-Ni系、TiC-Co系、TiC-Mo_(2)C-Ni系、TiC-Mo_(2)C-ZrC-Ni系、TiC-Mo_(2)C-Co系、Mo_(2)C-Ni系、Ti(C,N)-Mo_(2)C-Ni系、TiC-TiN-Mo_(2)C-Ni系、TiC-TiN-Mo_(2)C-Co系、TiC-TiN-Mo_(2)C-TaC-Ni系、TiC-TiN-Mo_(2)C-WC-TaC-Ni系、TiC-WC-Ni系、Ti(C,N)-WC-Ni系、TiC-Mo系、Ti(C,N)-Mo系等がある。ここで、Ti(C,N)-Mo_(2)C-Ni系、Ti(C,N)-WC-Ni系、或いはTi(C,N)-Mo系は、TiC-Mo_(2)C-Ni系、TiC-WC-Ni系、或いはTiC-Mo系を窒素ガス(N_(2))中で焼結した合金である。
【0152】
サーメットの代表的な組成は、TiC-30%Ni、TiC-10%Mo-30%Ni、TiC-20%Mo-30%Ni、TiC-30%Mo-30%Ni、TiC-11%Mo_(2)C-24%Ni、TiC-30%Mo_(2)C-20%Ni、TiC-19%Mo_(2)C-24%Ni、TiC-8%Mo_(2)C-15%Ni、Ti(C,N)-25%Mo_(2)C-15%Ni、TiC-14%TiN-19%Mo_(2)C-24%Ni、TiC_(0.7)N_(0.3)-11%Mo_(2)C-24%Ni、TiC_(0.7)N_(0.3)-19%Mo_(2)C-24%Ni、TiC_(0.7)N_(0.3)-27%Mo_(2)C-24%Ni、TiC-20%Mo-15%Ni、TiC-30%Mo-15%Ni等である。
【0153】
なお、転動体の超硬合金やサーメットの成分系を変えることによって、高耐食性、非磁性に対応することができる。また、本発明の転がり軸受を高速回転用として使用する場合には、転動体材料として、密度が小さいサーメットを用いるのが望ましい。また、本発明の転がり軸受に高負荷が負荷される場合や衝撃荷重が付与される場合には、転動体材料として、より高靱性な超硬合金を使用するのが望ましい。
【0154】
表14に示される材料で試験用の転がり軸受(内径:12mm、外径:28mm、幅:8mm、玉径:4.76mm、玉数:8)を作製し、作製した各試験軸受に対して、次のような耐衝撃性試験と転がり寿命試験を行った。
【0155】
【表14】

【0156】
表14の内輪及び外輪は下記の(i)?(iv)のいずれかの方法で得られたものである。
【0157】
(i)先ず、α+β型チタン合金であるTi-6Al-4Vからなる素材を、所定形状に切削加工した後、950?1000℃で1時間保持する溶体化処理を行い、水冷した。次に、450℃で20時間保持した後、200℃以下になるまで炉内に放置する時効処理を行った。次に、仕上げの研削加工を行った。これにより、β相からなるマトリックスに微細なα相が分散している結晶組織のチタン合金からなり、表面硬さがHv425?430である内輪および外輪を得た。
【0158】
(ii)先ず、β型チタン合金であるTi-15Mo-5Zr-3Alからなる素材を、所定形状に切削加工した後、800?850℃で1時間保持する溶体化処理を行い、水冷した。次に、425℃で17時間保持した後、さらに475℃で7時間保持した後、200℃以下になるまで炉内に放置する時効処理を行った。次に、仕上げの研削加工を行った。これにより、β相からなるマトリックスに(i)の場合よりも微細なα相が分散している結晶組織のチタン合金からなり、表面硬さがHv475?480である内輪および外輪を得た。
【0159】
(iii)Ti-15Mo-5Zrからなる素材を所定形状に切削加工した後、800?850℃で1時間保持する溶体化処理を行い、水冷した。次に、450℃で20時間保持した後、200℃以下になるまで炉内に放置する時効処理を行った。次に、仕上げの研削加工を行った。これにより、β相からなるマトリックスに(i)の場合よりも微細なα相が分散している結晶組織のチタン合金からなり、表面硬さがHv550?550である内輪および外輪を得た。
【0160】
(iv)先ず、SUS440Cからなる素材を所定形状に切削加工した。次に、保持温度1000?1050℃、油温度60℃の条件で油焼入れを行った後、150?200℃、2時間の条件で焼き戻しを行った。次に、仕上げの研削加工を行った。これにより、SUS440Cからなり表面硬さがHv670?675である内輪および外輪を得た。
【0161】
また、転動体は下記の(v)?(ix)のいずれかの方法で得られたもので、真球度がJIS等級G3以上、表面粗さがRaで0.003μm以下、径相互差が0.05μm以下となるように作製したものである。
【0162】
(v)先ず、SUJ2(高炭素クロム軸受鋼2種)からなる素材を所定形状に切削加工した後、前述のクロム拡散浸透処理(表14には「クロマイジング」と表記)を980?1050℃、10時間の条件で行った。次に、保持温度830?850℃、油温度60℃の条件で油焼入れを行った後、150?200℃、2時間の条件で焼き戻しを行った。次に、仕上げの研削加工を行った。これにより、表面に10?15μm(玉の直径の2?3%に相当する寸法)の深さでクロム拡散層が形成され、表面硬さがHv1050?1100である玉を得た。
【0163】
(vi)先ず、13%Crステンレス鋼(SUS)からなる素材を所定形状に切削加工した。次に、保持温度1000?1050℃、油温度60℃の条件で油焼入れを行った後、150?200℃、2時間の条件で焼き戻しを行った。次に、前述のNv窒化処理(表14には「Nv窒化」と表記)を410?460℃、24?48時間の条件で行った。次に、仕上げの研削加工を行った。これにより、表面に10?15μm(玉の直径の2?3%に相当する寸法)の深さで窒化層が形成され、表面硬さがHv1230?1350である玉を得た。
【0164】
(vii)窒化珪素(Si_(3)N_(4))からなる素材を所定形状に切削加工した後、仕上げの研削加工を行った。これにより、表面硬さがHv1450?1570である玉を得た。
【0165】
(viii)先ず、SUJ2からなる素材を所定形状に切削加工した。次に、保持温度830?850℃、油温度60℃の条件で油焼入れを行った後、150?200℃、2時間の条件で焼き戻しを行った。次に、仕上げの研削加工を行った。これにより、SUJ2からなり表面硬さがHv730?740である玉を得た。
【0166】
(ix)13%Crステンレス鋼からなる素材を所定形状に切削加工した。次に、保持温度1000?1050℃、油温度60℃の条件で油焼入れを行った後、150?200℃、2時間の条件で焼き戻しを行った。次に、仕上げの研削加工を行った。これにより、13%Crステンレス鋼からなり、表面硬さがHv720?730である玉を得た。
[耐衝撃性試験]
耐衝撃性試験は、次の方法で行った。先ず、各試験軸受を衝撃加速度測定機の回転軸に取り付けた。次に、転がり軸受を取付け、19.6Nの予圧をかけた状態でアキシアル方向に種々の高さ(30?100cm)から試験軸受を落下させて、落下時の衝撃加速度を加速度計で測定した。また、この落下を行う前と行った後に、試験軸受を回転させてアキシアル振動加速度(G値)を測定した。
【0167】
この測定の後、落下後のG値と落下前のG値との差が5mG以上となった最小の落下高さを調べ、その落下高さでの衝撃加速度により耐衝撃性を判定した。表14の耐衝撃性評価値は、No.1’の試験結果(落下前後のG値の差が5mG以上となった最小の落下高さでの衝撃加速度)を1として評価した場合の比較値である。
[転がり寿命試験]
試験軸受を下記の条件で回転させながら、転がり軸受に5重量%濃度のNaCl水溶液を1分毎に1ミリリットルの条件で噴霧した。この回転は、アキシアル振動加速度(G値)を常時測定しながら行い、G値が初期値の5倍に達するまでの時間を耐食性転がり寿命とした。表14の耐食性評価値は、No.1’の試験結果(G値が初期値の5倍に達するまでの時間)を1として評価した場合の比較値である。
【0168】
<回転条件>
ラジアル荷重:78N
アキシアル荷重:20N
回転速度:1000rpm
これらの結果を表14に併せて示す。
【0169】
表14の各試験結果からわかるように、本発明の実施例に相当するNo.3?4及び参考例に相当するNo.1?2及び5?6では、比較例であるNo.1’?9’に比較して耐衝撃性および耐食性のいずれものが高い値を示した。
【0170】
チタン合金としては、β型(nearβ型も含む)または(α+β)型のものを用いることが好ましい。これらのチタン合金は、α/β変態点直下あるいは直上の温度から溶体化処理を行ってβ相とした後、350?600℃で時効処理することにより、β相中に微細なα相を析出させる析出硬化によって、硬さをHv400以上とすることができる。
【0171】
転動体としては、次の(a)または(b)の構成が好ましい。
【0172】
(a)高炭素クロム軸受鋼で形成された後に、表面硬化処理としてクロム拡散浸透処理が施されて、耐食性の表面硬化層としてクロム拡散層を有する。
【0173】
(b)クロムを3.0重量%以上(好ましくは8.0重量%以上)有する鉄鋼材料で形成された後に、表面硬化処理として窒化処理が施されて、耐食性の表面硬化層として緻密で均一な窒化層を有する。
【0174】
(a)のクロム拡散浸透処理は例えば次のようにして行う。先ず、高炭素クロム軸受鋼からなる被処理物と、粉末状のクロム(Cr)、粉末状のアルミナ(Al_(2)O_(3))、粉末状の塩化アンモニウム(NH_(4)Cl)が調合された薬剤とを、鋼製のケースに入れて密閉し、このケースを炉内に入れる。次に、ケース内に水素(H_(2))ガスあるいはアルゴン(Ar)を通しながら、炉内を900?1100℃に加熱して所定時間保持する。
【0175】
これにより、ケース内で薬剤が反応して塩化クロム(CrCl_(2))の蒸気が生じる。この塩化クロムが被処理物表面をなす原子と置換反応して、被処理物表面にクロムが拡散浸透する。あるいは、塩化クロムが水素で還元されて析出したクロムが、被処理物表面に拡散浸透する。その結果、被処理物表面にクロム拡散層が形成される。このクロム拡散層は、耐食性を有し、表面硬さはHv1050?1100となる。
【0176】
なお、クロム拡散浸透処理後に徐冷を行うと芯部の硬さは低下するため、この処理後に焼入れおよび焼き戻しを行って芯部を硬くすることが好ましい。
【0177】
(b)の窒化処理は例えば次のようにして行う。先ず、クロムを3.0重量%以上(好ましくは8.0重量%以上)有する鉄鋼材料からなる被処理物に対して、例えばフッ化窒素(NF_(3))ガスを用いて、200?400℃でフッ化処理を行う。次に、アンモニア(NH_(3))ガスを用いて、400?500℃で窒化処理を行う。この方法は、Nv窒化処理(エアウォーター(株)の登録商標)と称されている。
【0178】
この方法では、前処理としてフッ化処理を行うことにより、窒化処理を400?500℃という低温で行っても、非常に緻密で均一な窒化層が形成できる。この窒化層は、耐食性を有し、表面硬さはHv1230?1350となる。また、低温で窒化処理を行うことにより、被処理物の表面に微細な変形が生じることを防止できる。そのため、表面硬化処理によって転動体の寸法精度が劣化することが防止される。
【0179】
なお、クロムを3.0重量%以上(好ましくは8.0重量%以上)有する鉄鋼材料を使用する理由は、表面硬化層の硬さを、良好な耐摩耗性を得るために必要な硬さとするためである。すなわち、(b)の表面硬化層の硬さは、クロムと窒素が微細なクロム窒化物を形成することによって向上するが、クロムの含有率が3.0重量%未満であると、良好な耐摩耗性を得るために必要な硬さが得られない。
【0180】
また、Nv窒化処理によって粗大な共晶炭化物が生じないようにするために、「〔C(%)〕≦-0.05〔Cr(%)〕+1.41」を満たす鉄鋼材料を使用することが好ましい。
【0181】
(a)および(b)の表面硬化層の厚さ(深さ)は、転動体直径の1.5?6%に相当する寸法であって、100μm以下にすることが好ましい。
【0182】
(a)および(b)の処理によって形成された表面硬化層のヤング率は、被処理物であるステンレス鋼や軸受鋼のヤング率(200?210GPa)とほぼ同じであって、セラミックスのヤング率250?400GPaよりも低い。
【0183】
本発明の転がり軸受では、特開平11-223221号公報に記載の転がり軸受と比較して、転動体と軌道輪との接触面積が大きくなって、接触面圧が小さくなる。そのため、回転時に転動体と軌道輪との間に生じる剪断応力が緩和されて、転がり疲労が生じ難くなる。また、外部から衝撃荷重がかかった時に、転動体および軌道輪に微小な圧痕が生じ難くなる。
【0184】
本発明の他の実施形態に係る転がり軸受を図19に示す。同図に示すように、本実施形態の転がり軸受は、チタン合金からなる軌道輪1,2と、軌道輪1,2間に介挿された転動体3と、軌道輪1,2間に封入されたグリースの漏出あるいは異物侵入等を防止するためのシール5とを備えている。
【0185】
軌道輪1,2の素材としては、ヤング率に対する硬さの比(H/E)が3.7以上のチタン合金が使用され、3.7≦(H/E)を満たすチタン合金であればチタン合金の種類を問わず好適に使用し得る。但し、好ましくは、溶体化処理および時効処理による析出硬化によって、高い硬度が得られるα+β型あるいはβ型(nearβ型も含む)チタン合金を使用するのがよい。例えば、α+β型チタン合金Ti-6Al-4V、あるいはβ型チタン合金Ti-22V-4Al、Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al、Ti-15Mo-5Zr-3Alなどである。
【0186】
ここで、例えば、溶体化処理でβ相にし、時効処理によって柔らかいβ相にα相を析出して、少なくとも表面から2?5%Da(Da;転動体直径)までの深さの硬さをHv420以上に設定でき、もって(H/E)を3.7以上にすることが実現される。
【0187】
また、転動体である転動体3は、鉄鋼材料製あるいはセラミックス製の転動体が使用し得る。
【0188】
ただし、耐食性が求められる場合には、転動体3として、ステンレス製あるいはセラミックス製の転動体を使用することが好ましい。特に軽量化が求められる場合には、窒化珪素系、炭化珪素系、酸化アルミニウム系あるいは酸化ジルコニウム系などのセラミックス製の転動体を使用することが好ましい。また、激しい衝撃が負荷される場合には、セラミックスよりも靭性に優れヤング率が低い、SUJ2などの高炭素クロム鋼、SUS440C、13Cr系などのマルテンサイト系ステンレス鋼あるいは、M50に代表される高速度鋼などから構成される鉄鋼材料製の転動体を使用することが好ましい。
【0189】
また、封入されるグリースは、使用可能な温度範囲のものであれば、特に限定はなく、使用し得る。
【0190】
また、上記シール5は、使用可能な温度範囲のものであれば、材質には特に限定はなく使用し得るが、好ましくは、軌道輪1,2の弾性変形にともない弾性変形しやすいニトリルゴムなどのゴム製シールを使用する。
【0191】
次に、上記構成の転がり軸受の作用などについて説明する。
【0192】
上記軌道輪1,2は、チタン合金製の軌道輪であるので、ヤング率が低く、弾性変形しやすい。このため、車輪などから軸受に衝撃が伝達した場合には、軌道輪が局部的に弾性変形をし、衝撃を吸収するばねのような役割を果たすため、機器本体に伝達する衝撃は少なくなる。よって、車椅子などの介護支援器具、ローラーブレイドなどのスポーツ器具、あるいは自転車などのように、車輪からの衝撃あるいは振動が、直接機器本体あるいは使用者に伝達するような用途では、本発明に係る転がり軸受を使用することによって、衝撃あるいは振動が緩和されるため、好適に使用し得る。
【0193】
さらに、チタン合金とすると共に、ヤング率に対する硬さの比(H/E)を3.7以上に設定していることから、耐圧痕性及び転がり寿命が向上する。このため、軸受に衝撃や振動が負荷される場合、あるいは、異物が軸受内に混入するおそれがある場合でも、好適に使用し得る。
【0194】
さらにまた、潤滑剤として、グリースを使用することで、当該グリースが振動・衝撃に対しダンパーとして作用することから、さらに衝撃及び振動の緩和、及び耐圧痕性が向上する。
【0195】
上記実施形態では、転がり軸受として玉軸受を例示しているが、ころ軸受などであっても構わない。
【0196】
以下に示す方法で、本発明に係る転がり軸受を製作した。なお、潤滑剤としてグリースを封入した。
【0197】
軌動輪には、α+β型チタン合金(Ti-6Al-4V)またはβ型チタン合金(Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al、Ti-22V-4Al、Ti-15Mo-5Zr-3Al等)のいずれかを用いて、軸受型番6001の転がり軸受の軌道輪を製作した。旋削加工後に、溶体化処理および時効処理を施し、その後研削加工をした。
【0198】
溶体化処理は、次の方法で行った。すなわち、α+β型チタン合金Ti-6Al-4Vについては、950?1000℃の温度で1時間保持した後、水冷することによって溶体化処理を行った。また、β型チタン合金Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al、Ti-22V-4AlおよびTi-15Mo-5Zr-3Alについては、750?850℃の温度で1時間保持した後、水冷することによって溶体化処理を行った。
【0199】
時効処理に関しては、400℃?600℃の温度で6?30時間保持した後、200℃以下になるまで炉内冷却を施して時効処理を行った。
【0200】
転動体には、窒化珪素系、炭化珪素系、酸化ジルコニウム系および酸化アルミニウム系からなるセラミックス製の転動体および13%Cr系のマルテンサイトステンレス鋼製の転動体を使用した。
【0201】
グリースは、鉱油系グリースを使用した。また、シール5はニトリルゴム製シールを使用し、保持器はポリアミド製保持器を使用した。
【0202】
また、比較例として、マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS440C)、及び析出硬化型ステンレス鋼(SUS630)で、軌道輪を作製した。マルテンサイト系ステンレス鋼(SUS440C)は、900?950℃の温度から油焼入れし、150?200℃で焼戻しを施した。析出硬化型ステンレス鋼(SUS630)920?970℃の温度から溶体化処理し、450?500℃で時効処理をした。
【0203】
上述の条件で製作した各転がり軸受について、耐圧痕性試験及び転がり寿命試験を行った。
[耐圧痕性試験]
耐圧痕性試験は、チタン合金製外輪1を1/4に切断したものを用いた。1/4に切断された軌道輪(外輪1)の軌道面上に直径4.76mmの窒化珪素製球状転動体3を押し当て、この状態で転動体3を介して軌道輪1の軌道面に980Nの荷重を負荷した。そして、負荷荷重が負荷された箇所の軌道面に生じた圧痕の最大深さを測定した。
【0204】
耐圧痕性試験の試験結果(圧痕深さ)を表15に、また耐圧痕性試験の試験結果とH/Eとの関係を図20に示す。
【0205】
【表15】

【0206】
表15及び図20からわかるように、本発明の実施例に相当するNo.3、6?10及び参考例に相当するNo.1?2及び4?5では、比較例であるNo.1’?4’に比較して、軌道面に生じた圧痕深さが低い値を示している。これは、No.1’?4’の軸受は軌道輪材料の硬さとヤング率の比(H/E)が2.4?3.6であるのに対し、No.1?10の軸受は軌道輪材料の硬さとヤング率の比(H/E)が3.7以上となっているためである。
[転がり寿命試験]
転がり寿命試験は、次の方法で行った。先ず、回転数:500rpm、ラジアル荷重:69N、アキシアル荷重:20Nの条件で内輪を回転させたときの軸受の初期振動値を測定する。次に、転がり軸受を転がり寿命試験機から取り外し、軌道輪の端面を床面に向け、20Nの予圧をかけた状態で軸受を1mの高さから落下させる。その後、軸受を再び転がり寿命試験機にセツトし、前記と同じ条件で内輪を回転させたときの軸受の振動値を測定する。そして、その測定値が初期振動値の5倍を超えた時点を転がり寿命と評価した。
【0207】
転がり寿命試験の試験結果(転がり寿命比)を表15に、また転がり寿命試験の試験結果とH/Eとの関係を図21に示す。表15及び図21の転がり寿命比は、No.4’の転がり寿命を1として評価したときの比較値である。
【0208】
表15及び図21からわかるように、本発明の実施例に相当するNo.3、6?10及び参考例に相当するNo.1?2及び4?5では、比較例であるNo.1’?4’に比較して、転がり寿命比が高い値を示している。これは、No.1’?4’の軸受は軌道輪材料の硬さとヤング率の比(H/E)が2.4?3.6であるのに対し、No.1?10の軸受は軌道輪材料の硬さとヤング率の比(H/E)が3.7以上となっているためである。
【0209】
したがって、チタン合金製軌道輪のH/Eを3.7≦(H/E)とすることにより、チタン合金製軌道輪の耐衝撃性と耐摩耗性を高めることが可能となる。
【0210】
また、上述した耐圧痕性試験および転がり寿命試験の試験結果から明らかなように、H/Eが3.7?4.8の場合と4.8を超える場合とでは効果に大きさ差が認められず、H/Eの値を大きくするためには熱処理やショットピーニングなどの加工を必要とし、その分だけコストの上昇につながるので、チタン合金製軌道輪のH/Eとしては3.7?4.8の範囲内が好ましい。
【0211】
表16に示される材料で試験用の転がり軸受を作製し、各試験軸受に対して次のような転がり寿命試験を実施した。すなわち、各試験軸受の内輪をラジアル荷重:49N、回転速度:1000min^(-1)の条件で回転させたときの振動値を測定し、その測定値が回転開始直後の初期振動値の2倍に達した時点を軸受の転がり寿命として評価した。このとき、周囲温度を図22に示すパターンで変化させた。
【0212】
なお、軌道輪材料がTi-6Al-4Vである場合には、表16に示されるように、920?1000℃の温度で溶体化処理された後、450?550℃の温度で5?20時間の時効処理が施されたチタン合金を使用した。また、軌道輪材料がTi-15Mo-5Zr-3Alである場合には、770?850℃の温度で溶体化処理された後、400?500℃の温度で10?60時間の時効処理が施されたチタン合金を使用した。さらに、軌道輪材料がTi-22V-4Alである場合には、700?800℃の温度で溶体化処理された後、400?500℃の温度で5?40時間の時効処理が施されたチタン合金を使用した。溶体化処理での冷却は水冷で行い、時効処理での冷却は炉冷で行った。
【0213】
【表16】

【0214】
転がり寿命試験の試験結果(転がり寿命比)を表16に、また転がり寿命試験の試験結果と表16に示す線膨張係数比α_(2)/α_(1)(α_(1):軌道輪材料の線膨張係数、α_(2):転動体材料の線膨張係数)との関係を図23に示す。表16及び図23の転がり寿命比は、No.1’の転がり寿命を1として評価した比較値である。
【0215】
表16及び図23からわかるように、本発明の実施例に相当するNo.3?6及び参考例に相当するNo.1?2及び7?8は、比較例であるNo.2’及び3’に比較して、転がり寿命比が高い値を示している。これは、No.2’及び3’は軌道輪材料と転動体材料との線膨張係数比がα_(2)/α_(1)≧1.4であるのに対し、No.1?8は軌道輪材料と転動体材料との線膨張係数比がα_(2)/α_(1)≦1.3となっているためである。また、本発明の実施例に相当するNo.3?6及び参考例に相当するNo.1?2及び7?8は、比較例であるNo.1’,4’?6’に比較して、転がり寿命比が高い値を示している。これは、No.1’,4’?6’は軌道輪材料と転動体材料との線膨張係数比がα_(2)/α_(1)≦0.3であるのに対し、No.1?8は軌道輪材料と転動体材料との線膨張係数比がα_(2)/α_(1)≧0.4となっているためである。
【0216】
したがって、軌道輪材料と転動体材料との線膨張係数比を0.4≦α_(2)/α_(1)≦1.3とすることにより、周囲温度が大きく変動する環境下でも耐久性の優れた転がり寿命が得られることがわかる。また、軌道輪材料と転動体材料との線膨張係数比を0.4≦α_(2)/α_(1)≦1.3とすることにより、軸受内部の隙間や予圧および嵌め合い応力等の変化が緩和されるので、周囲温度に変動があっても軸受の回転性能が安定する。
【0217】
本発明に係る転がり軸受の他の実施形態を図24に示す。同図において、転がり軸受は支持すべき軸(図示せず)の外周面に外嵌固定される内輪2と、この内輪2の外周に設けられた外輪1と、この外輪1と内輪2との間に転動自在に配設された複数の球状転動体3と、これらの球状転動体3を軌道輪11,12の周方向に対して等間隔に保持する保持器4とを備えている。軌道輪11,12の軸方向両端部には、転動体3の両側に形成された開放空間を閉塞するシールド板9が設けられている。
【0218】
ここで、内輪2及び外輪1はHv420以上の硬さを有するチタン合金(例えばα+β型チタン合金、Nearβ型チタン合金、β型チタン合金等)からなり、その比透磁率が1.001以下となっている。また、転動体3は導電性ジルコニア、窒化珪素等のセラミックス、好ましくは導電性セラミックスからなり、その比透磁率が1.001以下となっている。
【0219】
保持器4は、保持器自身に電気絶縁性と自己潤滑性を持たせるために、例えば含フッ素樹脂、PEEK、PEEK-PBI、PPS、TPI、PEN、PFA、ETFE、FEP、PCTFE、ECTFE、PVDF等の樹脂材にPTFE、MAC、黒鉛、N-ラウロ・L-リジン、hBN、弗素雲母等の固体潤滑剤を添加して形成されている。
【0220】
シールド板9は純度99.5%以上のチタンからなり、このシールド板9の比透磁率は1.001以下となっている。また、シールド板9はリング状に形成されており、その外周部には外輪1の内周面に形成されたシールド板保持溝1a,1aに着脱自在に嵌合する嵌合部9aが形成されている。
【0221】
上述のように、内輪2及び外輪1をチタン合金で形成すると共に転動体3をセラミックスで形成すると、内輪2、外輪1及び転動体3の比透磁率が1.001以下となる。これにより、軸受周辺の磁束密度が内輪2または外輪1の回転によって大きく変化することがないので、ウエハ検査装置などの電子線を使用する機器に好適に使用することができる。また、シールド板9を純度99.5%以上のチタンで形成すると、シールド板9の比透磁率が1.001以下となる。これにより、転動体3や保持器4に照射される電子線をシールド板9で遮蔽することが可能となるので、電子線による転動体3のチャージアップを防止してハレーションの発生を防ぐことができる。また、保持器4を樹脂で形成することにより、保持器4の比透磁率が1.001以下となり、電子線が照射されても保持器4が電子線によってチャージアップされることがないので、ハレーションの発生を防ぐことができる。さらに、保持器4を構成する樹脂中に固体潤滑剤を添加して保持器4に自己潤滑性を付与することにより、保持器自身が潤滑剤として機能するので、潤滑油やグリースの使用が困難な真空雰囲気でも良好に使用することができる。
【0222】
表17に示される材料で試験用の転がり軸受を作製し、作製した各試験軸受に対して、次のような磁束密度変化測定試験と軸受摩耗試験を行った。なお、表17に示されるチタン合金(内外輪材質)は、表18に示す条件で溶体化処理と時効処理を施したものを使用した。
【0223】
【表17】

【0224】
【表18】

【0225】
[磁束密度変化測定試験]
磁束密度変化測定試験は、次のような方法で行った。すなわち、図5に示されるように、永久磁石16の磁界中に配置された回転軸13に試験軸受10を取り付けた後、回転軸13を約200rpmの速度で回転させ、そのときの磁束密度の変化をテスラーメータ17で測定した。そして、図6に示すテスラーメータの出力が最大で0.1mT以上になったものを磁束密度の変化が有りとし、0.1mT未満のものを磁束密度の変化が無しとした。
[軸受摩耗試験]
軸受摩耗試験は、次のような方法で行った。すなわち、図25に示すように、シリコンウエハ33を3個の試験軸受10で支持し、この状態で電子銃32からシリコンウエハ33に電子線を照射しながらシリコンウエハ33のローディング及びアンローディングを行った。そして、シリコンウエハ33のローディング・アンローディングを15万回繰り返し行った後で、試験軸受10の外輪摩耗量を測定した。また、これと同時に、電子線を照射した場合の転がり軸受部分におけるハレーション発生の有無を検出器31で確認した。
【0226】
磁束密度変化測定試験と軸受摩耗試験の試験結果を表17に示す。表17の軸受摩耗試験結果である摩耗比は、No.6’の外輪摩耗量を1として評価した場合の比較値である。
【0227】
表17の試験結果からわかるように、本発明の実施例であるNo.1?6及び参考例であるNo.7?10は、比較例であるNo.6’と比較して外輪表面の摩耗量が低い値を示している。これは、No.6’は軌道輪がベリリウム銅から形成されているのに対し、No.1?10は軌道輪がベリリウム銅よりも硬さの硬いチタン合金から形成されているためである。
【0228】
また、本発明の実施例であるNo.1?6及び参考例であるNo.7?10は、比較例であるNo.4’及び5’と比較して、磁束密度の変化値が小さい値を示している。これは、No.4’及び5’は保持器がSUS304やSPCC等の鉄鋼材料から形成されているのに対し、No.1?10は保持器がフッ素樹脂等の樹脂から形成されているためである。
【0229】
さらに、本発明の実施例であるNo.1?6及び参考例であるNo.7?10は、比較例であるNo.2’及び3’と比較して、電子線によるハレーションの発生確率が低い値を示している。これは、No.2’及び3’の軸受はシールド板がSUS304やSPCC等の鉄鋼材料から形成されているのに対し、No.1?10の軸受はシールド板が純度99.5%以上のチタンから形成されているためである。
【0230】
したがって、軌道輪をチタン合金製とし、転動体をセラミックス製とし、保持器を樹脂製とすると共にシールド板を純度99.5%以上のチタンから形成することによって、耐食性および非磁性が要求される環境下で好適に使用できる転がり軸受を得られることがわかる。
【0231】
本発明の実施例であるNo.4,5及び参考例であるNo.8はセラミックス製転動体の表面にTiN等の硬質被膜を形成した例であり、このようにセラミックス製転動体の表面にTiN等の硬質被膜を形成することにより導電性を確保できる。
【0232】
軌道輪の構成材料として用いられるチタン合金の種類としては、時効処理によって硬化するチタン合金(例えばα+β型チタン合金、Nearβ型チタン合金、β型チタン合金等)が好ましく、具体的には、Ti-6Al-4V、Ti-6246、Ti-15Mo-5Zr-3Al、Ti-22V-4Al、Ti-15Mo-3Cr-3Sn-3Alがあげられる。これ以外にも時効硬化処理によって硬さがHv420以上のチタン合金であれば好適に使用できる。
【0233】
より優れた耐焼付性と耐摩耗性を必要とする場合には、チタン合金を大気中で加熱して酸化処理を施し、チタン合金の表面にTiOx(0<x<2)からなる酸化被膜を形成することにより、軌道輪表面の摺動性をさらに向上させることができる。この場合、酸化処理温度としては、時効処理温度である400?500℃にすることによって、時効硬化処理と酸化処理を同時に行えるとともに、この温度範囲で形成される酸化被膜が極めて緻密となり、密着性が向上するので好適である。また、チタン合金を700?1000℃の温度で溶体化処理し、さらに研磨後に酸化処理を施すと、チタン合金製軌道輪の転動面に酸化被膜を形成することが使用できる。この場合、チタン合金製軌道輪の転動面に超仕上げ加工した後、酸化処理を施すと更に良好な摺動性を得ることができる。
【0234】
ウエハ検査装置などのように電子線を利用する機器では、周囲雰囲気を10^(-4)Pa以上の高真空雰囲気にする必要がある。このため、電子線を利用する機器で使用される転がり軸受では、潤滑剤として潤滑油やグリースを使用できないので、自己潤滑性を有する樹脂で保持器を形成すれば潤滑性を改善でき、転がり軸受の耐摩耗性を向上させることができる。また、保持器を樹脂で形成すると保持器の比透磁率が1.001以下となり、保持器材料によって磁束密度が大きく変化することもないので、電子線を利用した半導体製造装置用として好適である。
【0235】
保持器材料としては、含フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルエーテルケトンとポリベンゾイゾミダ-ルのコポリマー(PEEK-PBI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリエーテルニトリル(PEN)、熱可塑性芳香族ポリアミドイミド、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)等が好適である。
【0236】
これらの樹脂に添加される固体潤滑剤としては、四弗化エチレン樹脂粉末(PTFE)、黒鉛、六方窒化ホウ素(hBN)、フッ素雲母、メラミンシアヌレート(MCA)、層状の結晶構造を有するアミノ酸化合物(N-ラウロ・L-リジン)、弗化黒鉛、弗化ピッチ、二硫化モリブデン(MoS_(2))、二硫化タングステン(WS_(2))のうち少なくとも1種類を使用でき、その中でも特に、PTFE、MAC、黒鉛、N-ラウロ・L-リジン、hBN、フッ素雲母を単独または2種類以上を組み合わせたものが潤滑性の点でより好ましい。
【0237】
転動体を形成するセラミックスや保持器を形成する樹脂は絶縁材であるため、半導体製造装置のウエハ支持部、特に電子線の近傍の画像として見える範囲内に絶縁体が存在すると、絶縁体である転動体や保持器がチャージアップされ、ハレーションを発生させる。
【0238】
また、ウエハを支持する軸受では、軸受自身に導電性がないと、例えば測長SEMの場合では軸受内部に電流が流れなくなるため、所望の画像が得られない。したがって、転動体の構成材料として用いるセラミックスとしては導電性を有するものが望ましく、具体的には、導電性ジルコニア系のセラミックスが好適である。
【0239】
また、窒化珪素系セラミックス、アルミナ系セラミックスのような絶縁性セラミックスの場合には、PVC(Physical Vapor Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)等のコーティング処理によって導電性を有するTiN、TiC、TiCN、TiAlNのようなチタン系のセラミックコーティング被膜を転動体の表面に施すとよい。
【0240】
一方、保持器に関しては、軸受の導電性には影響しないが、上述したように絶縁体であるので電子線が照射されるとハレーションを発生させる。また、保持器の樹脂材は上述のような被膜処理が困難であるため、転動体のような導電性のセラミックコーティングによってチャージアップを防ぐことはできない。そこで、電子線を利用する機器に使用される転がり軸受を金属製のシールド板を備えたシールドタイプの転がり軸受にすることによって、保持器部分がシールド板によって隠れるため、電子線によるハレーションの発生を防止することができる。
【0241】
また、転動体に絶縁性のセラミックスを使用した場合でも、純チタン製のシールド板を使用することによって、周辺磁場に影響を与えることなくハレーションの発生を防止できる。
【0242】
シールド板はプレス成形によって製造されるため、室温での塑性加工が必要である。シールド板に使用される材質は、従来、SUS304に代表されるオーステナイト系のステンレス鋼板、冷間圧延鋼板(JIS SPCC、SPCD、SPCE)であるが、いずれも鋼を主体とした材料であるため、比透磁率が1.001以上であり、周辺磁場に影響を与えてしまう。
【0243】
一方、シールド板を純度99.5%以上のチタンで形成すると、シールド板の比透磁率が1.001以下となる。これにより、シールド板の回転によって周辺磁場に電子線を曲げるような磁束密度の変化が生じることがないので、電子線発生部近傍で使用する転がり軸受のシールド板として好適である。純チタンは、冷間成形性が極めて良好であるため、薄板の製造が可能であり、さらにプレス成形による加工が可能であるので、シールド板を低コストで製造できる。
【0244】
シールド板材料として使用されるチタンとしては、JIS 1?4種のいずれも好適に使用することができ、プレス成形性の観点から、不純物含有量が少ない1種、2種が特に好適である。
【0245】
上述した本発明に係る転動装置の好適な用途としては、以下の通りである。
[非磁性]
半導体素子の高集積化に伴い、ウエハに形成される集積回路パターンの微細化が進行している。半導体製造装置やウエハ検査装置などは、従来、レーザ光を利用していたが、回路パターンの微細化に伴い高分解能が必要となり、レーザ光よりも短波長で高分解能の電子線を利用した装置へと移行しつつある。
【0246】
電子線はわずかな磁場によっても容易に曲げられてしまい、ウエハの描画精度や検査精度を低下させる。このため、電子線を使用することに伴ってウエハの搬送ステージやウエハの支持部等で使用される転がり軸受に非磁性の要求が高まっている。このような電子線を利用した半導体製造装置では、比透磁率が1.01?1.1程度の非磁性ステンレス鋼製転がり軸受を使用すると電子線に影響を及ぼす磁場変動が生じてしまうため、比透磁率が1.001以下のベリリウム銅製転がり軸受を使用している。
【0247】
チタン合金は、比透磁率が1.001以下の完全非磁性材であるので、電子線を利用した半導体製造装置に使用される転がり軸受やリニアガイド等の構成材料として好適である。
【0248】
電子線発生源である電子銃近傍で転がり軸受やリニアガイド等を使用する場合には、転がり軸受の回転運動やリニアガイドの直線運動により磁場変動が生じ、これにより電子線が曲げられるので、転がり軸受やリニアガイドの比透磁率を1.001以下とする必要がある。
【0249】
電子線を利用した半導体製造装置としては、具体的には、測長SEM、ステッパ、電子ビーム描画装置、ウエハ欠陥検査装置等が挙げられ、上記した装置のウエハ支持するホルダやステージ稼動部などに本発明の転動装置を好適に使用できる。
【0250】
また、電子線を利用した計測装置としては、具体的には、電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の分光結晶の回転部や試料ステージ、走査型電子顕微鏡(SEM)、集束イオンビームFIB、透過電子顕微鏡(TEM)、ESCA、オージェ電子分析装置等があげられ、電子発生源に近い箇所の稼働部などに本発明の転動装置を好適に使用できる。
【0251】
また、磁場を使った半導体製造装置としては、強力な永久磁石により磁場をかけながら電圧を印加する方式のエッチング装置などがあげられ、チャンバ内にウエハを搬送する搬送ロボットアームの関節部等に本発明の転動装置を好適に使用できる。
【0252】
強磁界中で使用される転がり軸受、例えばリニアモータカーの超電動マグネット近傍で使用される車軸支承用の転がり軸受は、車軸の回転中は超電動マグネットからの強い磁界を切って回転する。このため、転がり軸受がマルテンサイト鋼などの強磁性体で製作されている場合には、軸受の転動体や軌道輪に渦電流が生じて発熱し、温度上昇に伴って焼付きを生じる恐れがある。
【0253】
このような強磁界で使用される軸受は、非磁性とする必要がある。本発明に係る転がり軸受の軌道輪はチタン合金製から形成され、非磁性鋼よりも比透磁率が低い。従って、渦電流の発生が少なく、好適に使用できる。
【0254】
核磁気共鳴診断装置に使用される転がり軸受は、軸受の回転に伴う磁場の変動が検査精度を低下させる。本発明に係る転がり軸受のチタン合金製軌道輪は、比透磁率が1.001以下の完全非磁性であるので、核磁気共鳴診断装置の回転部等に好適に使用できる。
[耐食性]
ウエハ洗浄装置などに使用される転がり軸受、直動案内装置、ボールねじ等の転動装置の場合は、アンモニア溶液等のアルカリ性液や強酸性液が半導体ウエハの洗浄で使用される。そのため、アルカリ性液や強酸性液の飛散、或いはそれらの蒸気中に暴露されることによる半導体製造工程への不純物の混入が重要な問題となっている。また、エッチング装置は腐食性ガスを使用するので、耐食性が必要となる。
【0255】
本発明に係る転動装置は、アンモニア溶液等のアルカリ性液でも十分な耐食性を有するため、酸化チタンコーティングによって抗菌性を付与させることも可能である。
【0256】
同様に、写真現像機は、現像工程や定着工程で腐食性の薬剤が使用されるので、写真現像機の搬送コンベアの支持軸受や、薬剤を補給するポンプに使用される軸受にも本発明の転がり軸受を好適に使用できる。
[軽量・耐衝撃(ヤング率)]
本発明に係る転がり軸受のチタン合金製軌道輪は、その比重が鋼の約2/3と小さいので、製軌道輪の軽量化を図ることができる。
【0257】
穿孔や切削などを行う歯科機械のハンドピースは、軸に取り付けた歯科用切削工具を300000rpm以上の速度で超高速回転させて使用されるため、軽量性や静穏性など求められる。このため、歯科機械のハンドピースで使用される軸受についても軽量性や低騒音性が要求される。
【0258】
チタン合金製軌道輪は比重が鋼の約2/3と小さいので、ハンドピースが軽量化する。また、軸受の回転トルクも小さくなり、低騒音化が可能になるので、歯科用ハンドピース用の転がり軸受として本発明の転がり軸受を好適に使用できる。
【0259】
また、駆動モータにおいては、回転数を短時間で最高回転数に到達させるために高出力のモータが使用されており、最高回転数で切削等の加工を行う際に実際に要求される出力に対して大幅に出力余裕のある駆動モータが使用される。
【0260】
駆動モータの出力を低減させるには、起動時から最高回転数に到達するまでの立ち上がり時間や最高回転数の低減、駆動モータにより回転駆動する回転軸の慣性力の低減等が考えられるが、立ち上がり時間を長くしたり、最高回転数を低く抑制すると加工効率の低下を招くことから、加工効率を所望の高精度に維持しつつ駆動モータの出力を低減させるためには、回転軸の慣性力を低減させることが最も効果的である。
【0261】
回転軸の慣性力を低減させるためには回転軸の重量を低減させることが必要であり、従来の鉄鋼材料(比重:約7.8)に比べ比重の小さいチタン合金(比重:約4.0?5.0)を使用するのが効果的で、所望の加工効率を損なうことなく装置の小型化や駆動モータの消費電力を低減することができ、好適である。
【0262】
チタン合金製軌道輪は軽量でヤング率が小さいので、一般産業機械用や自動車用トランスミッションなどの駆動系に使用される玉軸受、円筒ころ軸受、円錘ころ軸受、自動調心ころ軸受の軌道輪を軽量化することが可能となり、装置全体を軽量化することが可能である。また、本発明の転がり軸受は軽量であるため、高速回転化と可能となり、好適である。さらに、同一荷重が負荷された場合に軌道輪のヤング率が鋼の1/2と小さく、チタン製軌道輪は転動体と接触する部位の面圧が下がる効果があり、接触部での応力が下がるので、転動疲労強度を増大させることができるという効果がある。
【0263】
その他、工作機械のスピンドル、ターボチャージャなど、dmn=20万以上の高速回転下で使用されるアンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受として本発明の転がり軸受を使用すると高速回転時の慣性力が小さくなるので、好適に使用することができる。
【0264】
回転陽極X線管用の軸受では、軸受を支持する回転陽極の先端に取り付けたターゲットに熱電子を衝突させてX線を発生させるが、ターゲットの帯電を防ぐためには、軸が軸受を介して接地されていなければならない。また、真空、高速、高温の条件にありながらセラミックスではなく、SKH等の耐熱鉄鋼材料が用いられている。本発明に係る転がり軸受は、軽量であるため、高速回転化が可能であり、高温でも硬さ低下がなく、更に導電性を有しているので、回転陽極X線管用軸受として好適に使用できる。この場合、転動体としては導電性を有するセラミックスが好適である。
【0265】
コンピュータや携帯電話などの電子機器製造工程で用いられる部品装着機は、半導体デバイスなどの精密部品を取り出し、基板に装着する作業が高速化され、特に、最近は電子機器自体の小型化の要求に伴い、基板に配置される半導体デバイスが小型化すると共に基板上の集積化が進み、部品を装着する場合の位置決め精度は数μmオーダにまで達している。また、基板の生産効率向上のために取付け速度も増加する傾向にあり、1サイクルが0.5?1.0秒以下となる速度で部品を装着するため、ヘッドを支持する直動装置も高速化している。また、同様に基板に装着された半導体デバイスを回路に接続するワイヤボンダなどでは、直動案内レールのベアリング部を固定し、先端に部品装着用のヘッドなどを固定したレールが上下動する構造となっている。多くの実装機では部品の吸着、基板への装着、固定などの一連の取付け工程を連続して行うため、複数のレールをドラム上に配置し、ドラムを回転させながら連続的に部品を装着していく、マシンガン方式が採用されており、直動レールには部品を装着するための上下動に加え、この上下動に同期したドラムの回転による回転加速度が付与され、レール自重とヘッド自重によって発生する慣性力がレールに曲げモーメントとして作用する。特に、レールの上下動のサイクル時間が0.1秒以下になると、レールに作用する加速度は数G?数十G程度になり、これに加えてドラムの円周方向への加速度も数G程度となる。本発明に係る転動装置は、従来の鋼製のものに比べて大幅に軽量化できるため、レールに負荷される加速度を低減することができ、部品装着機用直動案内装置として好適に使用できる。
【0266】
また、自動車の小型化及び軽量化に伴い、オルタネータ等のエンジン補機類にも小型化及び軽量化と共に高性能化、高出力化が求められ、エンジンの作動時に当たって、例えばオルタネータ用軸受には、使用条件が従来よりも厳しい高速回転に伴う高振動、高荷重(重力加速度で4G?20G位)がベルトを介して同時に作用し、かつ高温条件下(約90?130℃)で使用されている。
【0267】
本発明に係る転がり軸受は軽量であり、上述したエンジン補機類を軽量化できるので好適である。
【0268】
更に、高振動、高荷重、高温の厳しい環境下では、従来の鋼製軸受は、特に、固定輪である外輪負荷圏の最大せん断応力位置近傍に白色組織変化が発生し、この組織変化が起点となり、軸受設計寿命の約1/5?1/20で早期剥離を生じてしまう。本発明に係る転がり軸受のチタン合金製軌道輪は高温でも組織が安定であり、白色組織変化に例示されるような組織変化が生じないので、長寿命化を図ることができる。
[低熱伝導率]
複写機、レーザビームプリンタ(LBP)、ファクシミリなどの事務機器に使用される転がり軸受(例えばLBPの定着部で使用されるヒートロール用軸受や加圧ロール用軸受など)は、例えば200?250℃程度の高温下で使用されるため、さらに使用条件が厳しい(定着部以外の箇所では100?150℃程度)。そのうえ、省資源化のため、定着部のリサイクル使用が要求されている。これに加えて、ヒートロールには、省エネルギ化のために高温のヒートロールから外部に熱を逃がしにくい特性も要求されている。
【0269】
チタン合金は金属材料の中で熱伝導率が小さいので、軌道輪がチタン合金製の転がり軸受をヒートロール用軸受として使用した場合には、軸受を介してヒートロールから外部へ伝わる熱量を低減できる。
[線膨張係数]
ビデオテープレコーダ(VTR)やハードディスク装置(HDD)等の情報記録装置は、再現画像の繊細さ、情報記録量の高密度化が望まれ、高回転精度化が進んでいる。高回転精度化の要求を満たすための軸受として、対向する二つの転がり軸受間に予圧を負荷した、いわゆる組合せ軸受ユニットが用いられている。軸受間に予圧を負荷することにより、主軸の剛性向上、振れ回り減少、共振周波数の回避等の効果が得られる。
【0270】
転がり軸受の転動体を窒化珪素から形成した場合、予圧が減少して主軸の回転精度が低下することがある。これは、軸受の使用温度範囲における転動体の線膨張係数(1?9.0×10^(-6)/K)が軸受鋼やステンレス鋼からなる軌道輪のそれと比較して非常に小さいことに原因がある。即ち、軸受回転時の温度上昇による軌道輪の熱膨張量に対して転動体の熱膨張量が小さく、これに伴い軸受の内部隙間量が増大して、もともと軸受間に負荷してある予圧荷重が減少し、場合によっては完全な予圧抜けになることもある。この予圧抜けにより、軸の剛性低下、軸の振れ回り増大、軸の共振周波数変化などの回転性能低下を引き起こす。
【0271】
また、転動体を窒化珪素から形成した場合のもう1つの問題点として、軸受の耐衝撃性低下が挙げられる。即ち、軸受に過大な衝撃荷重が外部から加わった場合、転動体と軌道輪と転動体との接触部に応力が集中し、その結果として軌道輪の軌道面に微小圧痕が生じる場合がある。この圧痕の発生は、軸受の音響性能や振動性能を著しく低下させ、VTRやHDD等の性能低下を招く。これは、転動体を軸受鋼やステンレス鋼から形成した場合に比較して転動体のヤング率が高く、軌道輪が弾性変形し難いため、軌道面の圧痕発生の原因となる応力集中を顕著にし、圧痕を生じやすくためである。
【0272】
この場合、軌道輪をチタン合金から形成すると軌道輪の線膨張係数が8.0?9.0×10^(-6)/Kとなるので、予圧抜けが生じにくくなる。また、転動体をジルコニア系セラミックスから形成することにより、軌道輪と転動体の線膨張係数の差を小さくすることができるので好適である。
【0273】
また、耐衝撃性については、転動体を軸受鋼やステンレス鋼から形成した場合に比較して転動体のヤング率が低く、過大な衝撃荷重が加わった場合でも応力集中による圧痕の発生が抑制されるため、軸受の音響性能や振動性能を低下させることもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る転がり軸受の縦断面図である。
【図2】転がり軸受の転がり寿命を試験するときに用いられる試験装置を示す図である。
【図3】転がり軸受の耐食性試験結果とチタン合金製軌道輪の表面硬さとの関係を示す図である。
【図4】転がり軸受の転がり寿命試験結果とチタン合金製軌道輪の表面硬さとの関係を示す図である。
【図5】周辺磁場の磁束密度変化を測定するための方法を示す図である。
【図6】図5に示されるテスラーメータから出力される信号波形を示す図である。
【図7】チタン合金製軌道輪の耐摩耗性を試験する方法を示す図である。
【図8】チタン合金製軌道輪の耐摩耗性試験結果と酸素化合物層厚さとの関係を示す図である。
【図9】転がり軸受の転がり寿命試験結果とチタン合金製軌道輪の芯部硬さとの関係を示す図である。
【図10A】チタン合金を硬化させるときの従来方法を示す図である。
【図10B】チタン合金を高温酸化処理により硬化させるときの方法を示す図である。
【図10C】チタン合金を低温酸化処理により硬化させるときの方法を示す図である。
【図11A】サバン式摩耗試験機の側面図である。
【図11B】サバン式摩耗試験機の正面図である。
【図12】本発明の他の実施形態に係る転がり軸受の部分断面図である。
【図13】チタン合金製軌道輪に施されるガス窒化処理を説明するための図である。
【図14】チタン合金製軌道輪の表面に硬質膜を形成する装置の概略図である。
【図15】スラスト転がり軸受の耐久性を試験するときに用いられる試験装置の断面図である。
【図16】チタン合金製軌道輪の表面硬さと同軌道輪の表面に形成された硬質膜の剥離寿命との関係を示す図である。
【図17】ラジアル転がり軸受の真空中での耐久性を試験するための装置の概略図である。
【図18】転動体の熱伝導率と摩耗比との関係を示す図である。
【図19】本発明の他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図20】転がり軸受の耐圧痕性試験結果とH/Eとの関係を示す図である。
【図21】転がり軸受の転がり寿命試験結果とH/Eとの関係を示す図である。
【図22】環境温度の変動パターンを示す図である。
【図23】軌道輪の線膨張係数と転動体の線膨張係数との比と転がり軸受の転がり寿命との関係を示す図である。
【図24】本発明の他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図25】転がり軸受の耐摩耗性試験をするための試験装置の概略図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-11-12 
結審通知日 2019-11-15 
審決日 2019-11-29 
出願番号 特願2002-514278(P2002-514278)
審決分類 P 1 41・ 851- Y (F16C)
P 1 41・ 856- Y (F16C)
P 1 41・ 853- Y (F16C)
P 1 41・ 852- Y (F16C)
最終処分 成立  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 井上 信
尾崎 和寛
登録日 2005-09-30 
登録番号 特許第3724480号(P3724480)
発明の名称 転動装置  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  
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