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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
審判 査定不服 出願日、優先日、請求日 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01S
管理番号 1357970
審判番号 不服2018-2586  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-23 
確定日 2019-12-18 
事件の表示 特願2015- 23903「発光デバイスおよびその作製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 2日出願公開、特開2015-122529〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2006年(平成18年)6月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年(平成17年)6月1日、米国)を国際出願日とする特願2008-514810号(以下「原出願」という。)の一部を2015年(平成27年)2月10日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、次のとおりである。
平成27年11月17日付け:拒絶理由通知書
平成28年 6月 1日 :意見書・手続補正書
平成28年11月16日付け:拒絶理由通知書(最後)
平成29年 6月13日 :意見書
平成29年 9月29日付け:拒絶査定
平成30年 2月23日 :審判請求書・手続補正書
平成30年11月 2日付け:拒絶理由通知書(最初)
令和 元年 5月27日 :意見書・手続補正書

以下、「2005年(平成17年)6月1日」を「優先権主張日」といい、「2006年(平成18年)6月1日」を「原出願日」といい、「2015年(平成27年)2月10日」を「現実の出願日」という。

第2 平成30年11月2日付け拒絶理由通知書における拒絶理由の概要
当審が通知した上記拒絶理由は、概略、次の内容を含むものである。
1 本願は分割出願であるところ、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本願明細書等」という。)の記載は、原出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「原出願当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内にない事項を含むから、本願は、分割要件を満たしていない。よって、本願の出願日は、現実の出願日である平成27年2月10日である。
そうすると、原出願についての出願公表公報である引用文献1に記載された発明が、特許法第29条第1項第3号に該当する発明となる。
そして、本願の請求項1?34に係る発明は、引用文献1に記載された発明であり、又は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願の請求項1?34に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
2 仮に、本願が分割要件を満たしているとしても、本願の請求項1?34に係る発明は、優先権主張日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2008-543089号公報
2.国際公開第1998/19375号

第3 当審の判断
当審は、本願が分割要件を満たしていないから、本願の出願日は現実の出願日であると判断する。そして、本願の請求項1に係る発明は、現実の出願日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、当該引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないと判断する。
さらに、当審は、本願が仮に分割要件を満たしているとしても、本願の請求項1に係る発明は、優先権主張日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は、次のとおりである。

1 本願発明の認定
(1)本願の請求項1?31に記載された事項は、令和元年5月27日に提出された手続補正書により補正された請求項1?31に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである。
「レーザダイオードまたは発光ダイオードを含む発光デバイスであって、
平坦な半極性III族窒化物薄膜であって、窒化ガリウム(GaN)基板の平坦な半極性表面上に成長されるInGaNを含む一つ以上の半極性III族窒化物活性層を含む、半極性III族窒化物薄膜を備え、
前記GaN基板は、異種基板またはGaN基板上の厚さが少なくとも10μmのGaNテンプレートを含み、バルクGaN基板から切り出され、
前記半極性III族窒化物薄膜の上面はデバイス領域上方の基板の主表面に対して実質的に平行であり、
前記半極性表面が方位{10-13}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、278A/cm^(2)以下の駆動電流密度で1.53mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度であり、
前記半極性表面が方位{10-11}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、333.3A/cm^(2)以下の駆動電流密度で0.630mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度であることを特徴とするデバイス。」

以下、便宜上、請求項1の記載を次のとおり分説することとし、各特定事項を、特定事項Aなどという。
A レーザダイオードまたは発光ダイオードを含む発光デバイスであって、
B 平坦な半極性III族窒化物薄膜であって、窒化ガリウム(GaN)基板の平坦な半極性表面上に成長されるInGaNを含む一つ以上の半極性III族窒化物活性層を含む、半極性III族窒化物薄膜を備え、
C 前記GaN基板は、異種基板またはGaN基板上の厚さが少なくとも10μmのGaNテンプレートを含み、バルクGaN基板から切り出され、
D 前記半極性III族窒化物薄膜の上面はデバイス領域上方の基板の主表面に対して実質的に平行であり、
E 前記半極性表面が方位{10-13}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、278A/cm^(2)以下の駆動電流密度で1.53mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度であり、
F 前記半極性表面が方位{10-11}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、333.3A/cm^(2)以下の駆動電流密度で0.630mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度である
G ことを特徴とするデバイス。

(2)ところで、特定事項Cは、「前記GaN基板」を特定するものと解されるけれども、「異種基板またはGaN基板上の厚さが少なくとも10μmのGaNテンプレートを含み」と「バルクGaN基板から切り出され」との相互関係が理解し難い。加えて、「バルクGaN基板から切り出され」という文言それ自体についても、「バルクGaN基板」が、既に「GaN基板」であるにもかかわらず、そこから、さらに「GaN基板」を「切り出す」という内容になってしまっているため、理解し難い。
そこで、本願明細書等の記載を参酌する。

ア 本願明細書等には、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同じ。)。
「最適な半極性成長方位を選択した後に、工程406にて、適当な基板を選択しなければならない。この基板は成長すべき構造と格子整合が取れた組成を持つ自立の半極性窒化物ウェーハであることが理想である。しかしながら、基板はMgAl_(2)O_(4)(スピネル)或いはAl_(2)O_(3)(サファイヤ)のような異種材料である場合の方が多い。場合によっては、異種基板は窒化物テンプレート層で被覆されるが、このテンプレート層はHVPE、MOCVD、MBE、液相エピタキシャル成長法(LPE)、化学ビームエピタキシャル成長法(CBE)プラズマ増殖化学気相成長法(PECVD)、昇華あるいはスパッタ法を含むがこれに限定されるものではなく、全ての適当な成長技術を用いて成膜される。テンプレート層の組成は成膜すべき構造の組成とは正確には一致する必要はない。テンプレート層の厚さは数ナノメートル(この場合は核形成層またはバッファー層とよばれる。)から数10或いは数100マイクロメータの範囲に及ぶ。テンプレート層は必ず必要なものではないが、テンプレートを用いると一般に均一性が改善され、半極性窒化物デバイスの歩留まりが向上する。この技術開示の記述の以下の部分では、本発明の実施のためにHVPE成長半極性GaNテンプレートを用いる場合を記述するが、本発明の技術範囲を制限するものではなく、例示を目的とする。」(【0037】)、
「MOCVDを用いて半極性(Ga,Al,In,B)N薄膜およびヘテロ構造を成長するために、テンプレートとしてこれら平坦なHVPE成長半極性GaN層を用いて、いくつかの異なる半極性方位上に半極性(Ga,Al,In,B)NLEDを成長して作製した。特に、{100}スピネル上の{10-11}GaNテンプレート上、{1-100}サファイヤ上の{10-13}GaNテンプレート上、および{110}スピネル上の{10-13}GaNテンプレート上の半極性LEDを実験的に例示することに成功した。」(【0044】)、
「さらに、サファイヤとスピネル以外の基板を半極性テンプレートの成長に用いることも出来る。本発明の技術範囲は全ての可能な基板の全ての可能な結晶学的方位上に半極性(Ga,Al,In,B)N薄膜、ヘテロ構造、およびデバイスの成長と作製を含むものである。このような基板としてシリコンカーバイド、窒化ガリウム、シリコン、酸化亜鉛、窒化ホウ素、アルミ酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ゲルマニウム、窒化アルミニウム、ガリウム酸リチウム、部分置換されたスピネル、およびγ-LiAlO_(2)構造を共有する4元四面体酸化物を含むがこれに限定されるものではない。」(【0068】)、
「上記実施形態および他の実施形態は、異種基板上に成長した半極性(Ga,Al,In,B)N薄膜、ヘテロ構造、およびデバイスについての考察であった。だが、理想的には基板は、成長すべき構造に格子整合した組成をもつ、自立した半極性窒化物ウェーハである。自立した半極性窒化物ウェーハは厚い半極性窒化物層から異種基板を除去することによって、またはバルク窒化物インゴット或いはボールを個々の半極性窒化物ウェーハに切り出すことによって、または他の可能な結晶の成長またはウェーハ製造技術によって作ることが出来る。本発明の技術範囲は全ての可能な結晶の成長方法とウェーハ製造技術を用いて作られる、全ての可能な自立した半極性窒化物ウェーハ上に半極性(Ga,Al,In,B)N薄膜、ヘテロ構造、およびデバイスを成長することと作製することを含むものである。」(【0071】)

イ 上記アによれば、本願明細書等は、基板として、(i)異種基板に窒化物テンプレート層を被覆したもの、(ii)異種基板そのもの(上記(i)において窒化物テンプレート層を用いなかったもの)、(iii)厚い半極性窒化物層から異種基板を除去したもの、(iv)バルク窒化物インゴット或いはボールから半極性窒化物ウェーハを切り出したもの、(v)GaN基板に窒化物テンプレート層を被覆したもの、を記載していると認められる。
しかるに、特定事項Cの文言を上記(i)?(v)と対比しつつみれば、特定事項Cが特定する「前記GaN基板」は、(i)又は(v)に対応する「異種基板」又は「GaN基板」「上の厚さが少なくとも10μmのGaNテンプレートを含」んだ「前記GaN基板」と、(iv)に対応する「バルクGaN」インゴット或いはボールから「切り出され」た「前記GaN基板」と、を少なくとも含むと解するのが相当であり、本願明細書等の他の記載をみても、この理解に反する記載はない。

(3)次に、特定事項Eは「発光ダイオードを含む前記デバイス」との文言を含む一方、特定事項Aは「レーザダイオードまたは発光ダイオードを含む発光デバイス」との文言を含んでおり、この両者が一致していない。
そのため、特定事項Aにおける「発光デバイス」として「レーザダイオード」を想定したときに、特定事項Eをどのように解すればよいのかが問題となるところ、その文言に照らせば、
「前記半極性表面が方位{10-13}を有するとき」の「半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度」が、「発光デバイス」が「レーザダイオード」であるときに、
(i) 何も特定されていない、と解するか、
(ii) レーザダイオードからなる発光デバイス(特定事項Eの「発光ダイオードを含む前記デバイス」が「レーザダイオード」を排除しないと解することになる。)が、「青色光を発光し、278A/cm^(2)以下の駆動電流密度で1.53mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度」である、と解するか、
のいずれかが考えられる。
そこで、特定事項Eは、上記(i)及び(ii)のいずれか一方を少なくとも含むと解するのが相当である。

(4)特定事項Fについても、上記(3)と同様の議論が成り立つ。
すなわち、特定事項Aにおける「発光デバイス」として「レーザダイオード」を想定したときに、特定事項Fをどのように理解すればよいのかが問題となるところ、その文言に照らせば、
「前記半極性表面が方位{10-11}を有するとき」の「半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度」が、「発光デバイス」が「レーザダイオード」であるときに、
(i) 何も特定されていない、と解するか、
(ii) レーザダイオードからなる発光デバイス(特定事項Fの「発光ダイオードを含む前記デバイス」が「レーザダイオード」を排除しないと解することになる。)が、「青色光を発光し、333.3A/cm^(2)以下の駆動電流密度で0.630mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度」である、と解するか、
のいずれかが考えられる。
そこで、特定事項Fは、上記(i)及び(ii)のいずれか一方を少なくとも含むと解するのが相当である。

(5)このような次第で、当審は、上記(2)?(4)で認定した解釈を踏まえた上で、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)を、上記(1)で摘記したとおりに認定する。
以下、特定事項E及びFについて、上記(3)及び(4)における(i)の解釈を「解釈1」といい、同(ii)の解釈を「解釈2」ということにする。

2 本願の出願日に対する判断
(1)判断基準
本願は分割出願であるところ、本願の出願日が原出願日に遡及するためには、本願が分割要件を満たすことを要する。
そして、本願が分割要件を満たすためには、本願明細書等の記載が、当業者によって原出願当初明細書等のすべての記載を総合して導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入していないことを要すると解される。

(2)本願明細書等に記載された技術的事項
そこで、本願明細書等の記載から検討する。
ア 本願発明の特定事項は、以下のとおり理解される。
(ア)特定事項Aからみて、本願発明は、「レーザダイオード」を対象とする発明でもよいし、「発光ダイオード」を対象とする発明でもよい。

(イ)特定事項Cは、上記1(2)イのとおり、「異種基板」又は「GaN基板」「上の厚さが少なくとも10μmのGaNテンプレートを含」んだ「前記GaN基板」と、「バルクGaN」インゴット或いはボールから「切り出され」た「前記GaN基板」と、を少なくとも含むと解されるところ、このうち、「異種基板」を含む態様の場合、その「異種基板」は、GaN基板以外の基板であれば適宜のものでよい。

(ウ)特定事項Eにつき解釈2をとる場合、上記1(3)のとおり、特定事項Eは、「発光ダイオード」のみならず、「レーザダイオード」においても、「前記半極性表面が方位{10-13}を有するとき」の「半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度」が、「青色光を発光し、278A/cm^(2)以下の駆動電流密度で1.53mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度」であることを特定する。
すなわち、特定事項Eは、発光デバイスが、発光ダイオードであっても、レーザダイオードであっても、同じ数値特性(方位{10-13}、278A/cm^(2)以下の駆動電流密度、1.53mWの出力パワー)を満たすことを特定する。

(エ)特定事項Fにつき解釈2をとる場合、上記1(4)のとおり、特定事項Fは、「発光ダイオード」のみならず、「レーザダイオード」においても、「前記半極性表面が方位{10-11}を有するとき」の「半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度」が、「青色光を発光し、333.3A/cm^(2)以下の駆動電流密度で0.630mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度」であることを特定する。
すなわち、特定事項Fは、発光デバイスが、発光ダイオードであっても、レーザダイオードであっても、同じ数値特性(方位{10-11}、333.3A/cm^(2)以下の駆動電流密度、0.630mWの出力パワー)を満たすことを特定する。

イ 上記ア及び本願発明の各特定事項によれば、本願発明は、次の技術的事項を含むものと認められる。
(ア)GaN基板が異種基板を含む態様であるときにおいて、異種基板が適宜のものであっても、特定事項E及び特定事項Fが特定する数値特性が得られるという技術的事項(以下「技術的事項1」という。)。
なお、技術的事項1は、特定事項E及びFの解釈として解釈1をとるか解釈2をとるかによらず、本願発明に含まれるものである。

(イ)特定事項E及びFにつき解釈2をとる場合、発光デバイスが、レーザダイオードであっても、特定事項E及び特定事項Fが特定する数値特性が得られるという技術的事項(以下「技術的事項2」という。)。
なお、技術的事項2は、特定事項E及びFの解釈として解釈1をとる場合は、本願発明に含まれないことになる。

(3)原出願当初明細書等の記載について
次に、原出願当初明細書等の記載を検討する。
ア 原出願当初明細書等の記載
原出願当初明細書等には、次の記載がある。
(ア)「最適な半極性成長方位を選択した後に、工程406にて、適当な基板を選択しなければならない。この基板は成長すべき構造と格子整合が取れた組成を持つ自立の半極性窒化物ウェーハであることが理想である。しかしながら、基板はMgAl_(2)O_(4)(スピネル)或いはAl_(2)O_(3)(サファイヤ)のような異種材料である場合の方が多い。場合によっては、異種基板は窒化物テンプレート層で被覆されるが、このテンプレート層はHVPE、MOCVD、MBE、液相エピタキシャル成長法(LPE)、化学ビームエピタキシャル成長法(CBE)プラズマ増殖化学気相成長法(PECVD)、昇華あるいはスパッタ法を含むがこれに限定されるものではなく、全ての適当な成長技術を用いて成膜される。テンプレート層の組成は成膜すべき構造の組成とは正確には一致する必要はない。テンプレート層の厚さは数ナノメートル(この場合は核形成層またはバッファー層とよばれる。)から数10或いは数100マイクロメータの範囲に及ぶ。テンプレート層は必ず必要なものではないが、テンプレートを用いると一般に均一性が改善され、半極性窒化物デバイスの歩留まりが向上する。この技術開示の記述の以下の部分では、本発明の実施のためにHVPE成長半極性GaNテンプレートを用いる場合を記述するが、本発明の技術範囲を制限するものではなく、例示を目的とする。」(【0035】)

(イ)「要約すると、平坦な半極性窒化物テンプレートに関する次の4つの例が実験的に示されている。」(【0040】)、
「1.指定された方向にミスカットした{100}スピネル上の{10-11}GaN。」(【0041】)、
「2.{110}スピネル上の{10-13}GaN。」(【0042】)、
「3.{1-100}サファイヤ上の{11-22}GaN。」(【0043】)、
「4.{1-100}サファイヤ上の{10-13}GaN。」(【0044】)、
「これら半極性面の結晶の品質は成長温度と圧力にはほとんど依存しない。{10-11}および{10-13}方位は10Torrから1,000Torrの間の圧力と900℃から1,200℃の間の温度で成長したが、全体の結晶の品質には差異は少なかった。このように圧力と温度の範囲が広いということは、特定の基板上に成長するとき、これら半極性面は非常に安定であることを示している。特定の基板と特定の半極性面との間のエピタキシャルの関係は、薄膜を作製するために用いられる成長システムのタイプに関わらず当てはまる。しかしながらこれらの面を成長するための最適な反応装置条件は、個々の反応装置の設計と成長方法によって変わる。」(【0045】)、
「MOCVDを用いて半極性(Ga,Al,In,B)N薄膜およびヘテロ構造を成長するために、テンプレートとしてこれら平坦なHVPE成長半極性GaN層を用いて、いくつかの異なる半極性方位上に半極性(Ga,Al,In,B)NLEDを成長して作製した。特に、{100}スピネル上の{10-11}GaNテンプレート上、{1-100}サファイヤ上の{10-13}GaNテンプレート上、および{110}スピネル上の{10-13}GaNテンプレート上の半極性LEDを実験的に例示することに成功した。」(【0046】)

(ウ)「図5に示すように、第1の例である半極性LED構造は{100}スピネル基板504上の厚さ10μmのHVPE成長{10-11}GaNテンプレート502上に、MOCVDによって再成長した。垂直型MOCVD反応装置を用いて行われた再成長は、2.0μmの厚さのSiドープ、n型GaNベース層506の成長から始まった。活性領域508は厚さ16nm、SiドープのGaNバリヤ層と厚さ4nm、InGaN量子井戸を積層した5周期の多重量子井戸(MQW)からなっている。厚さ16nm、アンドープGaNバリヤ層510を低温度で成膜して、前記のInGaNのMQW構造をキャップして、成長の後半で活性領域からInGaNが蒸発解離するのを防ぐ。次に厚さ300nmのMgドープp型GaN層512を成膜する。この構造を厚さ40nm、Mg高ドープp^(+)型GaNコンタクト層514でキャップする。」(【0047】)、


「成長に続いて、300×300μm^(2)ダイオードメサを塩素ベースの反応性イオンエッチング(RIE)で切り出す。p型GaNおよびn型GaNの電極516および518としてそれぞれPd/Au(20/200nm)およびAl/Au(20/200nm)が用いられた。半極性LED構造の概略的な断面および{10-11}面520が図5に示されている。ダイオードの電気的特性と発光特性をデバイスのウェーハ上検査手段を用いて測定した。典型的なLEDの電流-電圧(I-V)特性600を図6に示す。直流(dc)条件で測定した相対光パワーは、スピネル基板を通して裏面へ出射される光を、校正された大面積Siフォトダイオードを用いて測定した。LEDのエレクトロルミネッセンス(EL)スペクトルと出射光出力が駆動電流の関数として測定され、それぞれ図7と8に示されている。全ての測定は室温で行われた。」(【0048】)、
「図6に示すように、ダイオードのI-V特性600は直列抵抗6.9Ωであり、低いターンオン電圧3.1Vを示す。ELスペクトルも30から200mAの範囲の駆動電流にて測定された。図7に示すように、デバイスは全ての駆動電流に対して439nmの青色スペクトル領域で発光スペクトル700-710を示し、ピークシフトは認められない。発光スペクトル700-710はそれぞれ駆動電流30mA-200mAに対応している。駆動電流を増加しても発光ピークにブルーシフトが生じないことは、この波長領域で同様の駆動電流領域で動作するc面LEDにおいて通常ブルーシフト現象が観察されることと対比すべきことである。」(【0049】)、

「最後に、ウェーハ上出力パワーと外部量子効率がdc駆動電流の関数として測定された。図8に示すように、出力パワー800は駆動電流が10mAから300mAに増加するにつれてほぼ直線的に増加した。順方向電流が20mAのときの出力パワーは11μWであり、対応する外部量子効率(EQE)802は0.02%であった。630μWものDCパワーが300mAの駆動電流のときに測定された。駆動電流が増加すると共にEQEは増加し、200mAで0.081%という最大値をとり、そこで順方向電流が200mAを超えて増大すると共にやや減少した。駆動電流の増加と共にEQEの大幅な減少が起こらないことは、この波長領域で同様の駆動電流領域で動作するc面LEDにおいて通常観察されるEQEの大幅な減少がおこる現象と対比すべきことである。」(【0050】)

(エ)「ここには示していないが、{100}スピネル上の{10-11}GaNテンプレート上に成長した青色(?439nmピーク)半極性LEDと、一緒に搭載した{0001}サファイヤ上の{0001}GaNテンプレート上に成長したc面LEDとに関してフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを比較した。「一緒に搭載」とは、c面テンプレートが半極性テンプレートと同時にMOCVD反応装置に搭載されることを意味し、2つのテンプレートは成長の期間中同じ支持台上に載せられていることを意味する。半極性LEDのPLスペクトルは一緒に搭載のc面LEDのPLスペクトルと非常に似ていた。このことは半極性In_(x)Ga_(1-x)N薄膜およびc面In_(x)Ga_(1-x)N薄膜のインジウムの取り込み効率は同等であることを意味している。この結果は、半極性面に沿って不純物の強い取り込みがあることを示すものであり、半極性面に沿った横方向エピタキシャルオーバーグロスに関する以前の研究結果と一致する[参考文献26、27]。」(【0051】)

(オ)「{100}スピネル上の{10-11}GaNテンプレート上に成長した青色(?439nmピーク)LEDに加えて、図9は{1-100}サファイヤ基板904上の{10-13}GaNテンプレート902上に成長した緑色(?525nmピーク)LED900を示す。この半極性LED構造900は{1-100}サファイヤ904上の厚さ10μm、HVPE成長{10-13}GaNテンプレート902上にMOCVDを用いて再成長されたものである。再成長は従来の水平なガス流を持つMOCVD反応装置内で行われ、まず厚さ500nm、Siドープ、n型GaNのベース層906の成長から始まった。活性領域908は厚さ8nm、アンドープGaNバリヤ層と厚さ4nmのInGaN量子井戸を5周期積層した多重量子井戸(MQW)から成っている。厚さ20nm、Mgドープ、p型AlGaNバリヤ層910が低温で成膜され、これにより前記のInGaNのMQW構造をキャップして、成長の後半で活性領域908からInGaNが蒸発解離するのを予防する。この構造は厚さ200nmのMgドープ、p型GaN912でキャップされる。」(【0052】)、


「成長の後で、300×300μm^(2)のダイオードメサが塩素ベースのRIEによって切り出される。p型GaNおよびn型GaNの電極914および916としてそれぞれPd/Au(5/6nm)およびTi/Al/Ni/Au(20/100/20/300nm)を用いた。図9は半極性LED構造の概略的断面と{10-13}面918とを示す。ダイオードの電気的特性と発光特性をデバイスのウェーハ上検査手段を用いて測定した。典型的なLEDの電流-電圧(I-V)特性1000を図10に示す。直流(dc)条件で測定した相対光パワーは、サファイヤ基板を通して裏面へ出射される光を、校正された大面積Siフォトダイオードを用いて測定した。LEDのエレクトロルミネッセンス(EL)スペクトルと出射光出力が駆動電流の関数として測定されて、それぞれ図11と12に示されている。全ての測定は室温で行われた。」(【0053】)、
「図10に示すように、ダイオードのI-V特性1000は直列抵抗14.3Ωを持ち、低いターンオン電圧3.2Vを示す。ELスペクトルも30から200mAの範囲の駆動電流にて測定された。図11に示すように、ELスペクトル1100はデバイス900が緑色スペクトル領域で発光し、20mAでの528nmから200mAでの522nmまで少しだけしかピークシフトしないことを示している。駆動電流を増加しても発光ピークに大きなブルーシフトが生じないことは、この波長領域で同様の駆動電流領域で動作するc面LEDにおいて通常大きなブルーシフト現象が観察されることと対比すべきことである。」(【0054】)、

「ウェーハ上出力パワーと外部量子効率もdc駆動電流の関数として測定された。図12に示すように、出力パワー1200は駆動電流が10mAから250mAに増加するにつれてほぼ直線的に増加した。順方向電流が20mAのときの出力パワー1200は19.3μWであり、対応する外部量子効率(EQE)1202は0.041%であった。264μWものDCパワーが250mAの駆動電流のときに測定された。駆動電流が増加すると共にEQE1202は増加し、120mAで0.052%という最大値をとり、順方向電流が120mAを超えて増大すると共に少ししか減少しなかった。駆動電流の増加と共にEQE1202の大幅な減少が起こらないことは、この波長領域で同様の駆動電流領域で動作するc面LEDにおいて通常観察されるEQE1202の大幅な減少がおこる現象と対比すべきことである。」(【0055】)


(カ)「最後に、図13は{110}スピネル基板1304上の{10-13}GaNテンプレート1302上に再成長した青色(?440nmピーク)半極性LED1300を示す。垂直型MOCVD反応炉を用いて行われた再成長は、まず2.0μmの厚さのSiドープ、n型GaNベース層1306を成長した。活性領域1308は厚さ16nm、SiドープのGaNバリヤ層と厚さ4nm、InGaN量子井戸を積層した5周期の多重量子井戸(MQW)からなっている。厚さ16nm、アンドープGaNバリヤ層1310を低温で成膜して、これにより前記のInGaNのMQW構造をキャップして、成長の後半で活性領域1308からInGaNが蒸発解離するのを防ぐ。次に厚さ300nmのMgドープ、p型GaN層1312を成膜する。この構造を厚さ40nm、Mg高ドープ、p^(+)型GaNコンタクト層1314でキャップする。」(【0056】)、


「成長に続いて、300×300μm^(2)ダイオードメサを塩素ベースのRIEで切り出す。p型GaNおよびn型GaNの電極1316および1318として、それぞれPd/Au(20/200nm)およびAl/Au(20/200nm)が用いられた。半極性LED構造の概略的な断面および{10-13}面1320が図13に示されている。ダイオードの電気的特性と発光特性をデバイスのウェーハ上検査手段を用いて測定した。直流(dc)条件で測定した相対光パワーは、スピネル基板を通して裏面へ出射される光を、校正された大面積Siフォトダイオードを用いて測定した。ここには示していないが、I-V特性と駆動電流の関数としてのELスペクトルは{100}スピネル上の{10-11}GaNテンプレート上に成長した青色(?439nmピーク)半極性LEDと同様であった。LEDの出射光出力が駆動電流の関数として測定されて、図14に示されている。全ての測定は室温で行われた。」(【0057】)、
「図14に示すように、出力パワー1400は駆動電流が10mAから90mAへ増加するときほぼ直線的に増加し、それからは250mAまでサブリニアに増加した。20mAの順方向電流における出力パワー1400は190μWであり、対応する外部量子効率(EQE)1402が0.34%であった。250mAの駆動電流において1.53mWという高いDC出力が測定された。EQE1402は駆動電流の増加と共に増加し、50mAで最大値0.41%をとり、それから順方向電流が50mAを超えて増加すると大きく減少する。このように駆動電流が増大するとEQE1402が大きく減少することは、{100}スピネル上の{10-11}GaNテンプレート上に成長した(?439nmピーク)半極性LED、および{1-100}サファイヤ上の{10-13}GaNテンプレートの上に成長した緑色(?525nm)半極性LEDにおけるEQE1402ではこの減少が見られないことと対比すべきことである。しかしながら、これら他の2つの半極性LEDにくらべて、この半極性LEDはピーク出力パワー1400およびピークEQE1402の値が大幅に高いことを示し、c面窒化物技術との競争において明確にその可能性を示すものである。」(【0058】)


(キ)「上記のデバイス構造は半極性InGaNベースのLEDを機能させた最初の報告を構成するものである。要約すると、本発明は2つの異なる半極性方位上で、3つの異なる基板上で、かつ2つの異なるスペクトル領域で動作する半極性LEDを実証して見せたことである。これらは{100}スピネル上の{10-11}GaNテンプレート上に成長した青色(?439nmピーク)半極性LED、{1-100}サファイヤ上の{10-13}GaNテンプレートの上に成長した緑色(?525nm)半極性LED、および{100}スピネル上の{10-13}GaNテンプレート上に成長した青色(?440nmピーク)半極性LEDを含んでいる。これら3つの例を示すことは例示の目的だけであり、本発明を他の成長方位或いはデバイス構造へ応用する可能性を制限するものであると解釈してはならない。」(【0059】の前段)

(ク)「可能な変更と変形
技術に関する説明の項で記載したデバイスは発光ダイオードを含むものであった。しかしながら、本発明の技術範囲はいかなる半極性(Ga,Al,In,B)Nデバイスの成長と作製をも含むものである。したがってデバイス構造はLEDに限定されているのではない。本発明の方法を用いて成長され、作製されることが出来る他の可能性のある半極性デバイスは端面発光レーザダイオード(EEL)、垂直共振器面発光レーザダイオード(VCSEL)、共振器つきLED(RCLED)、微小共振器LED(MCLED)、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)、ヘテロ接合電界効果トランジスタ(HFET)、および可視、紫外、および近紫外フォトデテクタを含んでいる。さらにこれらの例や他の可能性は、半極性(Ga,Al,In,B)Nデバイスの利点の全てを所有している。この可能性のあるデバイスのリストは、例示することのみを目的としており、本発明の応用に関して制限するものではない。むしろ、本発明は、半極性方向に沿って、あるいは半極性面上に成長した全ての窒化物ベースのデバイスを請求項に含むものである。」(【0059】の後段)、
「とくに、本発明は(Ga,Al,In,B)Nレーザダイオードの設計と作製に大きな利点を提供することができる。そのような利点は、特に図15に示すような概念上のデバイス1500のような、特に大きな圧電電界を持つ長波長レーザダイオードにおいて重要である。更には、理論的な計算が示すように、異方性歪が誘起する、重い正孔バンドと軽い正孔バンドの分離によって、圧縮歪In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸に対する正孔の有効質量は結晶角が増加することにより単調に減少する[参考文献9]。圧縮歪In_(x)Ga_(1-x)N量子井戸に対する多体光学利得の自己無撞着の計算結果はピーク利得が正孔の有効質量に極めて敏感であり、この利得が結晶角の増加と共に単調に増加することを示唆している[参考文献17、18]。このように、通常の窒化物ベースのレーザダイオードにおいて光学利得を発生するために必要な高いキャリア密度は、半極性方位上に、特にθ=90°に近い結晶角を持つ方位上にレーザ構造を成長することによって低減できる。」(【0060】)、
「このことは図15に示したレーザダイオード1500の設計に反映されている。われわれが実験的に示した半極性方位の中で、{10-11}方位1501は最大の結晶角(θ=62.0°)を持ち、最も大きな光学利得の改善を提供するものである。{100}スピネル基板1502を用いて{10-11}半極性GaNテンプレート1504を成長し、そこで上記のようにn-GaN層1506の再成長を行う。次にn-AlGaN/GaNクラッド層1508を成長し、その上にn-GaN導波路層1510を成長する。次にMQW活性層1512を成長し、そのMQW活性層1512上にp-GaN導波路層1514が成長される。そこでもう1つのクラッド層1516を成長し、p-GaNコンタクト層を成長する。Ni/Au電極1520およびTi/Al/Ni/Au電極1522が成膜される。」(【0061】)

イ 認定事実
上記アによれば、原出願当初明細書等の記載につき、次の事実が認められる。
(ア){100}スピネル基板504上の厚さ10μmのHVPE成長{10-11}GaNテンプレート502上に、MOCVDによって再成長して形成された、300×300μm^(2)ダイオードメサからなる、青色半極性LEDは、630μWものDCパワーが300mAの駆動電流のときに測定された。300mAの電流が300×300μm^(2)の面積を流れる場合、電流密度は333A/cm^(2)となる。(【0047】?【0050】)

(イ){1-100}サファイヤ基板904上の厚さ10μmのHVPE成長{10-13}GaNテンプレート902上に成長した、300×300μm^(2)のダイオードメサからなる、緑色(?525nmピーク)半極性LED900は、264μWものDCパワーが250mAの駆動電流のときに測定された。250mAの電流が300×300μm^(2)の面積を流れる場合、電流密度は278A/cm^(2)となる。(【0052】?【0055】)

(ウ){110}スピネル基板1304上の{10-13}GaNテンプレート1302上に再成長して形成された、300×300μm^(2)ダイオードメサからなる、青色(?440nmピーク)半極性LED1300は、250mAの駆動電流において1.53mWという高いDC出力が測定された。250mAの電流が300×300μm^(2)の面積を流れる場合、電流密度は278A/cm^(2)となる。(【0056】?【0058】)

(エ){100}スピネル基板1502を用いて{10-11}半極性GaNテンプレート1504を成長し、その上に成長したレーザダイオード1500を設計した。{10-11}方位は、われわれが実験的に示した半極性方位の中で、最大の結晶角を持ち、最も大きな光学利得の改善を提供する。(【0060】)

(4)本願の分割要件に対する判断
ア まず、技術的事項1(上記(2)イ(ア))は、GaN基板が異種基板を含む態様であるときにおいて、異種基板が適宜のものであっても、特定事項E及び特定事項Fが特定する数値特性が得られるというものである。
(ア)しかるに、原出願当初明細書等は、特定事項Eが特定する数値特性が、異種基板として{110}スピネル基板を用いた場合に満たされることを記載する(上記(3)イ(ウ))けれども、異種基板として{110}スピネル基板以外の適宜のものを用いても満たされることを、記載していない。加えて、原出願当初明細書等は、異種基板として{110}スピネル基板以外の適宜のものを用いる場合において、具体的にどのようにすれば、特定事項Eが特定する数値特性を満たすことができるのかも、記載していない。
この点、異種基板として適宜のものであっても、特定事項Eが特定する数値特性が得られるという原出願日当時の技術常識があるとも認められない。

(イ)また、原出願当初明細書等は、特定事項Fが特定する数値特性が、異種基板として{100}スピネル基板を用いた場合に満たされることを記載する(上記(3)イ(ア))けれども、異種基板として{100}スピネル基板以外の適宜のものを用いても満たされることを、記載していない。加えて、原出願当初明細書等は、異種基板として{100}スピネル基板以外の適宜のものを用いる場合において、具体的にどのようにすれば、特定事項Fが特定する数値特性を満たすことができるのかも、記載していない。
この点、異種基板として適宜のものであっても、特定事項Fが特定する数値特性が得られるという原出願日当時における技術常識があるとも認められない。

(ウ)よって、技術的事項1は、当業者によって原出願当初明細書等のすべての記載を総合して導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入していないとはいえないものである。
なお、以上の議論は、特定事項E及びFにつき、解釈1をとる場合でも、解釈2をとる場合でも、成り立つ。

イ 次に、特定事項E及びFにつき解釈2をとる場合を検討するに、技術的事項2(上記(2)イ(イ))は、発光デバイスが、レーザダイオードであっても、特定事項E及び特定事項Fが特定する数値特性が得られるというものである。
(ア)しかるに、原出願当初明細書等は、特定事項Eが特定する数値特性が、発光デバイスが発光ダイオードであるときに満たされることを記載する(上記(3)イ(ウ))けれども、発光デバイスがレーザダイオードであっても満たされることを記載していない。加えて、原出願当初明細書等は、発光デバイスがレーザダイオードである場合において、具体的にどのようにすれば、特定事項Eが特定する数値特性を満たすことができるのかも、記載していない。
この点、レーザダイオードであっても、特定事項Eが特定する数値特性が適宜得られるという原出願日当時における技術常識があるとも認められない。

(イ)また、原出願当初明細書等は、特定事項Fが特定する数値特性が、発光デバイスが発光ダイオードであるときに満たされることを記載する(上記(3)イ(ア))けれども、発光デバイスがレーザダイオードであっても満たされることを記載していない。加えて、原出願当初明細書等は、発光デバイスがレーザダイオードである場合において、具体的にどのようにすれば、特定事項Fが特定する数値特性を満たすことができるのかも、記載していない。
この点、レーザダイオードであっても、特定事項Fが特定する数値特性が適宜得られるという原出願日当時における技術常識があるとも認められない。

(ウ)よって、技術的事項2は、当業者によって原出願当初明細書等のすべての記載を総合して導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入していないとはいえないものである。

ウ 以上によれば、本願は、分割要件を満たさないというべきである。

(5)本願の出願日に対する判断の小括
このように、本願は分割要件を満たさないから、本願の出願日は、現実の出願日(平成27年2月10日)である。

3 引用文献1(特表2008-543089号公報)に記載された発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如について
上記2の認定判断によれば、原出願についての出願公表公報である引用文献1に記載された発明が特許法第29条第1項第3号に該当することとなり、そして、以下のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて新規性ないし進歩性を欠如する。

(1)引用文献1の記載事項の認定
ア 当審拒絶理由が引用した、現実の出願日(2015年(平成27年)2月10日)前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である引用文献1(特表2008-543089号公報)は、原出願当初明細書等の記載そのものを含むところ、引用文献1には、上記2(3)アのとおりの記載がある。

イ 上記アによれば、引用文献1には、次の2つの発明(以下、それぞれ、「引用発明1-1」及び「引用発明1-2」という。)が記載されていると認められる。なお、引用発明1-1及び引用発明1-2の認定に用いた段落番号を参考までに括弧内に記載してある。
[引用発明1-1]
「{100}スピネル基板504上の厚さ10μmのHVPE成長{10-11}GaNテンプレート502上に、MOCVDによって再成長した半極性LEDであって、(【0047】)
垂直型MOCVD反応装置を用いて行われた再成長は、2.0μmの厚さのSiドープ、n型GaNベース層506の成長から始まり、(【0047】)
活性領域508は厚さ16nm、SiドープのGaNバリヤ層と厚さ4nm、InGaN量子井戸を積層した5周期の多重量子井戸(MQW)からなっており、(【0047】)
厚さ16nm、アンドープGaNバリヤ層510を低温度で成膜して、前記のInGaNのMQW構造をキャップして、成長の後半で活性領域からInGaNが蒸発解離するのを防ぎ、(【0047】)
次に厚さ300nmのMgドープp型GaN層512を成膜し、この構造を厚さ40nm、Mg高ドープp^(+)型GaNコンタクト層514でキャップし、(【0047】)
成長に続いて、300×300μm^(2)ダイオードメサを塩素ベースの反応性イオンエッチング(RIE)で切り出し、p型GaNおよびn型GaNの電極516および518としてそれぞれPd/Au(20/200nm)およびAl/Au(20/200nm)が用いられた、半極性LEDであって、(【0048】)
デバイスは全ての駆動電流に対して439nmの青色スペクトル領域で発光スペクトル700-710を示し、(【0049】)
630μWものDCパワーが300mAの駆動電流のときに測定された、(【0050】)
半極性LED。」

[引用発明1-2]
「{110}スピネル基板1304上の{10-13}GaNテンプレート1302上に再成長した青色(?440nmピーク)半極性LED1300であって、(【0056】)
垂直型MOCVD反応炉を用いて行われた再成長は、まず2.0μmの厚さのSiドープ、n型GaNベース層1306を成長し、(【0056】)
活性領域1308は厚さ16nm、SiドープのGaNバリヤ層と厚さ4nm、InGaN量子井戸を積層した5周期の多重量子井戸(MQW)からなっており、(【0056】)
厚さ16nm、アンドープGaNバリヤ層1310を低温で成膜して、これにより前記のInGaNのMQW構造をキャップして、成長の後半で活性領域1308からInGaNが蒸発解離するのを防ぎ、(【0056】)
次に厚さ300nmのMgドープ、p型GaN層1312を成膜し、(【0056】)
この構造を厚さ40nm、Mg高ドープ、p^(+)型GaNコンタクト層1314でキャップし、(【0056】)
成長に続いて、300×300μm^(2)ダイオードメサを塩素ベースのRIEで切り出し、(【0057】)
p型GaNおよびn型GaNの電極1316および1318として、それぞれPd/Au(20/200nm)およびAl/Au(20/200nm)が用いられた、(【0057】)
半極性LEDであって、
250mAの駆動電流において1.53mWという高いDC出力が測定された、(【0058】)
半極性LED。」

(2)引用発明1-1に基づく新規性欠如
ア 本願発明と引用発明1-1との対比
(ア)本願発明の「レーザダイオードまたは発光ダイオードを含む発光デバイスであって、」との特定事項(特定事項A)について
a 引用発明1-1の「半極性LED」は、本願発明の「発光ダイオードを含む発光デバイス」に相当する。

b よって、引用発明1-1は、本願発明の特定事項Aを備える。

(イ)本願発明の「平坦な半極性III族窒化物薄膜であって、窒化ガリウム(GaN)基板の平坦な半極性表面上に成長されるInGaNを含む一つ以上の半極性III族窒化物活性層を含む、半極性III族窒化物薄膜を備え、」との特定事項(特定事項B)について
a 引用発明1-1の「{100}スピネル基板504上の厚さ10μmのHVPE成長{10-11}GaNテンプレート502」からなる構造は、後記(ウ)のとおり、本願発明の「窒化ガリウム(GaN)基板」に相当する。
また、当該構造は、本願発明でいう「平坦な半極性表面」をもつといえる。

b 引用発明1-1は、「{10-11}GaNテンプレート502上に」、「2.0μmの厚さのSiドープ、n型GaNベース層506」、「厚さ16nm、SiドープのGaNバリヤ層と厚さ4nm、InGaN量子井戸を積層した5周期の多重量子井戸(MQW)」からなる「活性領域508」、「厚さ16nm、アンドープGaNバリヤ層510」、「厚さ300nmのMgドープp型GaN層512」及び「厚さ40nm、Mg高ドープp^(+)型GaNコンタクト層514」を設けたものであるところ、これらの各層は、本願発明でいう「平坦な半極性III族窒化物薄膜」からなるといえる。
さらに、上記aにも照らせば、上記「活性領域508」は、本願発明でいう「窒化ガリウム(GaN)基板の平坦な半極性表面上に成長されるInGaNを含む一つ以上の半極性III族窒化物活性層」であるといえる。

c よって、引用発明1-1は、本願発明の特定事項Bを備える。

(ウ)本願発明の「前記GaN基板は、異種基板またはGaN基板上の厚さが少なくとも10μmのGaNテンプレートを含み、バルクGaN基板から切り出され、」との特定事項(特定事項C)について
a 上記1(2)イのとおり、特定事項Cが特定する「前記GaN基板」は、「異種基板」又は「GaN基板」「上の厚さが少なくとも10μmのGaNテンプレートを含」んだ「前記GaN基板」と、「バルクGaN」インゴット或いはボールから「切り出され」た「前記GaN基板」と、を少なくとも含むと解するのが相当である。
そうすると、引用発明1-1の「{100}スピネル基板504上の厚さ10μmのHVPE成長{10-11}GaNテンプレート502」からなる構造は、本願発明の「窒化ガリウム(GaN)基板」に相当する。

b よって、引用発明1-1は、本願発明の特定事項Cを備える。

(エ)本願発明の「前記半極性III族窒化物薄膜の上面はデバイス領域上方の基板の主表面に対して実質的に平行であり、」との特定事項(特定事項D)について
上記(イ)を踏まえれば、引用発明1-1は、本願発明の特定事項Dを備えるといえる。

(オ)本願発明の「前記半極性表面が方位{10-13}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、278A/cm^(2)以下の駆動電流密度で1.53mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度であり、」との特定事項(特定事項E)について
引用発明1-1は、本願発明の特定事項Eを備えない。

(カ)本願発明の「前記半極性表面が方位{10-11}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、333.3A/cm^(2)以下の駆動電流密度で0.630mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度である」との特定事項(特定事項F)について
引用発明1-1の半極性LEDは、「{10-11}GaNテンプレート502上に、MOCVDによって再成長した」ものであって、「デバイスは全ての駆動電流に対して439nmの青色スペクトル領域で発光スペクトル700-710を示し」、「300×300μm^(2)ダイオードメサ」からなり、「630μWものDCパワーが300mAの駆動電流のときに測定された」ものである(駆動電流密度は、300mA/(300×300μm^(2))=333.3A/cm^(2)となる。)から、特定事項Fを備えるといえる。

(キ)本願発明の「デバイス」との特定事項(特定事項G)について
引用発明1-1の「半極性LED」は、本願発明の「デバイス」に相当する。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本願発明と引用発明1-1とは、
「レーザダイオードまたは発光ダイオードを含む発光デバイスであって、
平坦な半極性III族窒化物薄膜であって、窒化ガリウム(GaN)基板の平坦な半極性表面上に成長されるInGaNを含む一つ以上の半極性III族窒化物活性層を含む、半極性III族窒化物薄膜を備え、
前記GaN基板は、異種基板またはGaN基板上の厚さが少なくとも10μmのGaNテンプレートを含み、バルクGaN基板から切り出され、
前記半極性III族窒化物薄膜の上面はデバイス領域上方の基板の主表面に対して実質的に平行であり、
前記半極性表面が方位{10-11}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、333.3A/cm^(2)以下の駆動電流密度で0.630mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度である
デバイス。」である点で一致し、次の点で一応相違する。

[相違点1]
本願発明は、「前記半極性表面が方位{10-13}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、278A/cm^(2)以下の駆動電流密度で1.53mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度であ」るのに対し、引用発明1-1はそうではない点。

ウ 相違点1の判断
相違点1に係る構成である特定事項Eは、「前記半極性表面が方位{10-13}を有するとき、」に関するものであるから、「前記半極性表面が方位{10-13}を有する」ものではない態様に対しては、何も特定していないことになる。
そして、引用発明1-1は、「前記半極性表面が方位{10-13}を有する」ものではない態様に係るものである。
よって、相違点1は、実質的な相違点でない。

エ 引用発明1-1に基づく新規性欠如についての小括
したがって、本願発明は、引用発明1-1であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。

(3)引用発明1-2に基づく進歩性欠如
ア 対比
(ア)本願発明の「レーザダイオードまたは発光ダイオードを含む発光デバイスであって、」との特定事項(特定事項A)について
a 引用発明1-2の「半極性LED」は、本願発明の「発光ダイオードを含む発光デバイス」に相当する。

b よって、引用発明1-2は、本願発明の特定事項Aを備える。

(イ)本願発明の「平坦な半極性III族窒化物薄膜であって、窒化ガリウム(GaN)基板の平坦な半極性表面上に成長されるInGaNを含む一つ以上の半極性III族窒化物活性層を含む、半極性III族窒化物薄膜を備え、」との特定事項(特定事項B)について
a 引用発明1-2の「{110}スピネル基板1304上の{10-13}GaNテンプレート1302」からなる構造は、後記(ウ)のとおり、「GaNテンプレート」の「厚さが少なくとも10μm」である点を除き、本願発明の「窒化ガリウム(GaN)基板」に相当する。
また、当該構造は、本願発明でいう「平坦な半極性表面」をもつといえる。

b 引用発明1-2は、「{10-13}GaNテンプレート1302上に」、「2.0μmの厚さのSiドープ、n型GaNベース層1306」、「厚さ16nm、SiドープのGaNバリヤ層と厚さ4nm、InGaN量子井戸を積層した5周期の多重量子井戸(MQW)」からなる「活性領域1308」、「厚さ16nm、アンドープGaNバリヤ層1310」、「厚さ300nmのMgドープ、p型GaN層1312」及び「厚さ40nm、Mg高ドープ、p^(+)型GaNコンタクト層1314」を設けたものであるところ、これらの各層は、本願発明でいう「平坦な半極性III族窒化物薄膜」からなるといえる。
さらに、上記aにも照らせば、上記「活性領域1308」は、本願発明でいう「窒化ガリウム(GaN)基板の平坦な半極性表面上に成長されるInGaNを含む一つ以上の半極性III族窒化物活性層」であるといえる。

c よって、引用発明1-2は、本願発明の特定事項Bを備える。

(ウ)本願発明の「前記GaN基板は、異種基板またはGaN基板上の厚さが少なくとも10μmのGaNテンプレートを含み、バルクGaN基板から切り出され、」との特定事項(特定事項C)について
a 上記1(2)イのとおり、特定事項Cが特定する「前記GaN基板」は、「異種基板」又は「GaN基板」「上の厚さが少なくとも10μmのGaNテンプレートを含」んだ「前記GaN基板」と、「バルクGaN」インゴット或いはボールから「切り出され」た「前記GaN基板」と、を少なくとも含むと解するのが相当である。
そうすると、引用発明1-2の「{110}スピネル基板1304上の{10-13}GaNテンプレート1302」からなる構造は、「GaNテンプレート」の「厚さが少なくとも10μm」である点を除き、本願発明の「窒化ガリウム(GaN)基板」に相当する。

b よって、引用発明1-2は、「GaNテンプレート」の「厚さが少なくとも10μm」である点を除き、本願発明の特定事項Cを備える。

(エ)本願発明の「前記半極性III族窒化物薄膜の上面はデバイス領域上方の基板の主表面に対して実質的に平行であり、」との特定事項(特定事項D)について
上記(イ)を踏まえれば、引用発明1-2は、本願発明の特定事項Dを備えるといえる。

(オ)本願発明の「前記半極性表面が方位{10-13}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、278A/cm^(2)以下の駆動電流密度で1.53mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度であり、」との特定事項(特定事項E)について
引用発明1-2の半極性LEDは、「{10-13}GaNテンプレート1302上に再成長した青色(?440nmピーク)」のものであって、「300×300μm^(2)ダイオードメサ」からなり、「250mAの駆動電流において1.53mWという高いDC出力が測定された」ものである(駆動電流密度は、250mA/(300×300μm^(2))=278A/cm^(2)となる。)から、特定事項Eを備えるといえる。

(カ)本願発明の「前記半極性表面が方位{10-11}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、333.3A/cm^(2)以下の駆動電流密度で0.630mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度である」との特定事項(特定事項F)について
引用発明1-2は、本願発明の特定事項Fを備えない。

(キ)本願発明の「デバイス」との特定事項(特定事項G)について
引用発明1-2の「半極性LED」は、本願発明の「デバイス」に相当する。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本願発明と引用発明1-2とは、
「レーザダイオードまたは発光ダイオードを含む発光デバイスであって、
平坦な半極性III族窒化物薄膜であって、窒化ガリウム(GaN)基板の平坦な半極性表面上に成長されるInGaNを含む一つ以上の半極性III族窒化物活性層を含む、半極性III族窒化物薄膜を備え、
前記GaN基板は、異種基板またはGaN基板上のGaNテンプレートを含み、バルクGaN基板から切り出され、
前記半極性III族窒化物薄膜の上面はデバイス領域上方の基板の主表面に対して実質的に平行であり、
前記半極性表面が方位{10-13}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、278A/cm^(2)以下の駆動電流密度で1.53mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度である
デバイス。」である点で一致し、次の点で相違する、又は、一応相違する。

[相違点2]
本願発明は、GaNテンプレートの「厚さが少なくとも10μm」であるのに対し、引用発明1-2は、「{10-13}GaNテンプレート1302」の厚さが不明である点。

[相違点3]
本願発明は、「前記半極性表面が方位{10-11}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、333.3A/cm^(2)以下の駆動電流密度で0.630mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度である」のに対し、引用発明1-2は、そうではない点。

ウ 相違点2の判断
引用文献1の【0035】には、「テンプレート層の厚さは数ナノメートル(この場合は核形成層またはバッファー層とよばれる。)から数10或いは数100マイクロメータの範囲に及ぶ。テンプレート層は必ず必要なものではないが、テンプレートを用いると一般に均一性が改善され、半極性窒化物デバイスの歩留まりが向上する。」との記載がある。
よって、引用発明1-2において、「{10-13}GaNテンプレート1302」の「厚さが少なくとも10μm」となるようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。

エ 相違点3の判断
相違点3に係る構成である特定事項Fは、「前記半極性表面が方位{10-11}を有するとき、」に関するものであるから、「前記半極性表面が方位{10-11}を有する」ものではない態様に対しては、何も特定していないことになる。
そして、引用発明1-2は、「前記半極性表面が方位{10-11}を有する」ものではない態様に係るものである。
よって、相違点3は、実質的な相違点でない。

オ 引用発明1-2に基づく進歩性欠如についての小括
したがって、本願発明は、引用発明1-2及び引用文献1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)引用文献1に記載された発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如についての小括
このように、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、引用発明1-2及び引用文献1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 引用文献2(国際公開第1998/19375号)に記載された発明に基づく進歩性欠如
仮に、本願が分割要件を満たし、その結果、本願の出願日が原出願日に遡及すると仮定しても、本願発明は、以下のとおり、優先権主張日前に公知となった引用文献2に記載された発明に基づいて進歩性を欠如する。

(1)本判断の構造について
理由を説示するに先立ち、本判断の構造を述べる。
ア 本願が分割要件を満たすと仮定するということは、上記2(4)アのとおり、異種基板として適宜のものであっても、特定事項E及び特定事項Fが特定する数値特性が得られるという原出願日当時における技術常識が存在することを意味する。
さらに、特定事項E及びFの解釈につき解釈2をとる場合は、本願が分割要件を満たすと仮定するということは、上記2(4)イのとおり、レーザダイオードであっても、特定事項E及びFが特定する数値特性が適宜得られるという原出願日当時における技術常識が存在することを意味する。

イ ここで、本願はパリ条約に基づく優先権主張をしているものであるから、優先権主張の効果が認められるか否か、つまり、進歩性判断の基準時(以下「進歩性判断基準時」という。)がいつであるのかも、問題となる。しかるに、進歩性判断基準時が優先権主張日当時とされるためには、上記アの技術常識が、原出願日当時に存在するのでは足りず、その時点よりも遡った優先権主張日当時において存在していなければならないと解される。
そこで、以下では、本願の優先権主張の効果が認められるものと仮定した上で、本願発明が、優先権主張日より前に公知となった発明に基づき、上記の技術常識を備えた当業者によって容易に発明をすることができたものといえるか否かについて検討する。
なお、上記につき是の結論となるのであれば、本願の優先権主張の効果が認められないと仮定したとしても、結論を左右しない。なぜならば、進歩性判断基準時及び上記の技術常識が存在した時点が、いずれも、優先権主張日当時から原出願日当時に繰り下げられるだけのことだからである。

(2)引用文献2の記載事項の認定
ア 当審拒絶理由通知が引用した、優先権主張日前に頒布された刊行物である引用文献2には、次の記載がある。
(ア)「2-3:第2の型の半導体発光装置」(19頁1行)、
「本発明の第2の型半導体発光装置について説明する。以下の説明における発光領域の定義及びこれが量子井戸構造で構成される例もあることは、上述の本発明の第1の半導体発光装置の説明で述べ事実と同様である。」(19頁2行?4行)、
「本発明の第2の型の半導体発光装置に係わる第1の形態は、少なくとも化合物半導体材料を有して構成され、第一導電型クラッド層及び第二導電型クラッド層と、前記クラッド層に挟まれ且つ井戸層と該井戸層より禁制帯幅の大きい障壁層を有する量子井戸構造を有する活性層領域を少なくとも有する半導体発光装置であって、上記量子井戸活性領域の面方位が(0001)面から70度?90度傾斜した面あるいはこれと等価な面であることを特徴とする半導体発光装置である。この場合、前述した通り、この傾斜角度は5度以内のずれ、裕度を許される。尚、このずれ、裕度が(0001)面からの傾斜方向とは別の傾斜の場合も含まれることも前述した通りである。」(19頁5行?13行)、
「この構成を実現する一形態として、発光素子を構成する半導体層をオフ基板上(上部)でエピタキシャル成長する場合がある。オフ基板とは、例えば六方晶型の結晶構造を有するサファイア基板において通常(0001)面を主面(エピタキシャル成長が行われる面)とするのに対し、主面の結晶面を(0001)面から所定の角度傾けた結晶面とする基板を指す。オフ基板を用いたエピタキシャル成長は、成長した結晶の質(結晶性)や成長時における不純物導入(ドーピング)の点で優れるが、これを本発明に適用する場合は上述の傾斜角度範囲に更に5度の余裕を持たせることができる。この5度の余裕は、活性層のエピタキシャル成長面の角度としきい値キャリア密度の関係を考慮し、求められる動作電流の低減の程度次第ではオフ基板を使用しない場合にも適用できる。」(19頁14行?23行)

(イ)「2-4:第3の型の半導体発光装置」(19頁25行)、
「本発明の第3の型半導体発光装置について説明する。以下の説明における発光領域の定義及びこれが量子井戸構造で構成される例もあることは、上述の本発明の第1の半導体発光装置の説明で述べたとおりである。」(19頁26行?28行)、
「本発明の第3の型の半導体発光装置に係わる第1の形態は、六方晶系半導体材料よりなる量子井戸活性層領域を少なくとも有し、その量子井戸活性層領域の結晶成長方向が[0001]軸(c軸)あるいはこれと等価な軸から3度から70度傾斜した軸に平行であることを特徴とする半導体発光装置。この六方晶系結晶としてはウルツ鉱型結晶が好例である。」(19頁29行?20頁4行)、
「前述の傾斜角度は5度以上が好ましい。更に、この傾斜角度は5度から70度、更には10度以上60度以下の範囲がより好ましい。20度以上55度以下の範囲が更に好ましい範囲である。尚、これらの範囲については図8の説明により具体的に明らかにされよう。」(20頁5行?8行)、
「また、結晶成長の軸を[0001]軸(c軸)から20度より55度の範囲で傾斜した軸に平行に形成した歪み量子井戸構造を採用して半導体レーザ装置とするには、レーザ共振器端面を(-1,2,-1,0)面あるいはこれと等価な面にすることが好ましい。」(20頁9行?12行)、
「以下に、量子井戸層の結晶成長の方位の選択の仕方、および半導体レーザ装置の場合の共振器反射面の取り方を、より具体的に例示する。」(20頁13行?14行)、
「量子井戸層の結晶成長の方位の選択の仕方の具体的例示:
(1)ウルツ鉱型半導体材料より成る歪み量子井戸活性層領域を少なくとも有し、その結晶成長表面が(1,0,-1,N)面(N=1、2、もしくは3)あるいはこれと等価な面から3度、更には5度以内の面である。
(2)ウルツ鉱型半導体材料より成る歪み量予井戸活性層領域を少なくとも有し、その結晶成長表面が(-1,2,-1,N)面(N=3,4,もしくは5)あるいはこれと等価な面から5度以内の面である。」(20頁15行?21行)、
「以下に、量子井戸層の結晶成長の方位の選択の仕方、および半導体レーザ装置の場合の共振器の反射面の取り方をより具体的に例示する。」(20頁22行?23行)、
「半導体レーザ装置の場合の共振器反射面の取り方の具体的例示:
(1)歪み量子井戸活性層領域が半導体レーザ共振器の一部を構成し、その半導体レーザ共振器端面が、歪み量子井戸活性層領域の結晶成長方向の軸および[0001]軸(c軸)の2軸を含む面に平行である。
(2)量子井戸活性層領域または歪み量子井戸活性層領域は半導体レーザ共振器の一部を構成し、その半導体レーザ共振器端面が、量子井戸活性層領域または歪み量子井戸活性層領域の結晶成長方向の軸および[0001]軸(c軸)の2軸を含む面に平行であり、かつ(-1、2、-1、0)面と等価である。
(3)量子井戸活性層領域または歪み量子井戸活性層領域は半導体レーザ共振器の一部を構成し、その半導体レーザ共振器端面が、量子井戸活性層領域または歪み量子井戸活性層領域の結晶成長方向の軸および[0001]軸(c軸)の2軸を含む面に平行であり、かつ(1,0,-1,0)面と等価な面である。」(20頁25行?21頁7行)

(ウ)「2-5:本発明の半導体発光装置に関するその他の補足事項」(21頁9行)、
「上述の半導体発光装置の構成を面発光型発光素子に適用した場合、上述の効果により偏向特性に優れた半導体レーザ装置を構成できることはいうまでもない。」(21頁10行?11行)、
「本発明の第2の型あるいは第3の型の半導体発光装置の代表例においては、窒化ガリウム系半導体の結晶成長面を(0001)面から傾斜させるため、基板主面の結晶面をこれに合わせて結晶成長を行う必要性が考えられる。しかし、実験的にはSiC基板の(0001)主面上に(1,-1,0,0)面を成長面とするGaN結晶が、サファイア基板の(1,-1,0,2)主面上に(1,1,-2,0)面を成長面とするGaN結晶が夫々成長されたデータもある。従って、窒化ガリウム系半導体の結晶成長面と基板主面の結晶面との面指数を合わせる必要はない。」(21頁12行?18行)、
「以上、発光領域を量子井戸構造とした例に基づき本発明の第2の型ならびに第3の型の半導体発光装置の構造に関して説明したが、この構造は量子井戸構造型を有する発光領域に限定されない。本発明は、例えば発光領域を光ガイド層やクラッド層に接合された単一の活性層として形成された場合にも適用できる。」(21頁19行?22行)、
「なお、本発明の第1から第3の型の半導体発光装置に適用される窒化ガリウム系半導体結晶を以下に追加説明する。この半導体材料は、III-V族化合物半導体であり、構成元素として窒素(N)を必ず含むものである。上述の説明においては、窒化ガリウム系半導体と便宜的に呼称したがIII族元素としてガリウム(Ga)が含まれる必要はなく、アルミニウム(Al)、ガリウム、インジウム(In)等のIII族元素の少なくとも1種が含まれていればよい。またV族元素に関しては、窒素以外にも燐(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)等のV族元素が含まれていてもよい。即ち、本発明における窒化ガリウム系半導体を代表例とする化合物半導体は、構成元素として少なくとも窒素を含むIII-V族化合物半導体とも、窒化物半導体とも呼ぶことができる。」(21頁23行?22頁3行)、
「量子井戸構造を構成する半導体材料は、ウルツ鉱型の半導体材料を用い得るが、その代表例は窒化ガリウム系半導体である。代表例をより具体的に示せば、一般式In_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)N_(1-a-b)As_(a)P_(b)、但し、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦a<1、0≦b<1、x+y≦1、a+b<1と表わし得る。」(22頁4行?7行)、
「活性層にたいしては、GaN,InGaN,InGaAlN,GaNP,GaNAs,InGaNP,InGaNAs,GaAlNP、あるいはGaAlNAsなどがその具体例である。井戸層にはGaNあるいはInGaNなどが好ましい。また、クラッドにたいしては、GaAlN,AlN,GaNあるいはInGaAlNなどが代表例である。」(22頁8行?12行)、
「量子井戸半導体積層構造の為の井戸層およびバリア層の厚みなどはその通例に従って良い。一般に井戸層の厚みは2nmより15nm、バリア層の厚みは3nmより15nmの範囲が多用される。好ましくは、井戸層の厚みは2nmより8nm、バリア層の厚みは4nmより8nmの範囲がその例である。」(22頁13行?16行)、
「井戸層およびバリア層からなる上記量子井戸活性層は、井戸層の格子定数がバリア層の格子定数よりも大きく、井戸層に圧縮型の歪みが加わっている状態が好ましい。この井戸層の格子定数が、井戸層の歪みの無い状態と比較して0.6%より2.0%の範囲で大きいことが好ましい。」(22頁17行?20行)、
「こうした半導体積層体形成の為の基板は結晶成長によってその上部にウルツ鉱結晶が得られる基板、例えば、サファイア、GaN、スピネル、SiC、ZnO、MgO、MnO、SiO_(2)、AlNなどが挙げられる。わけてもサファイア基板やGaN基板が代表例である。」(22頁21行?24行)、
「半導体発光装置を製造するに際して、その他の構成は一般に行われている手段を用いて良い。例えば、結晶成長用の基板と量子井戸構造の半導体積層との間に結晶性改善のためのバッファ層を設けることは通常行われている方法に従ってよい。サファイア基板は絶縁性のため、この基板側の電極を取り出す方策、また、半導体積層構造の上部より取り出すもう一方の電極形成のため、いわゆるコンタクト層を設けること、更に結晶性改善のために任意に挿入される層なども通例に従ってよい。このような種々の付加構成、変形構成の適用も本発明の範囲なることは言うまでもない。」(22頁25行?23頁3行)、
「尚、こうした半導体積層構造は、半導体発光装置以外に、正孔の有効質量が低いことを要請される他の半導体装置に用い得ることはいうまでもない。」(23頁4行?5行)

(ウ)「<実施例8>」(37頁10行)、
「第22図は、本発明の第6の実施例である半導体レーザ装置の斜視図、第23A図,第23B図、第23C図,および第23D図はその製造工程を示した断面図である。尚、これらの図は光軸と交わる方向の断面図である。以下、これらの図にしたがって、本発明に係わる半導体レーザ装置およびその製造工程を説明する。」(37頁11行?15行)、


「(1、0、-1、2)面を有するGaN基板51上に、有機金属気相成長(MOVPE)法により、バッファ層(GaN、0.1μm)52を成長した後、n型コンタクト層53(GaN、2μm)、n型クラッド層54(AlGaN、1μm)、GaN(3nm)及びAl_(0.4)Ga_(0.6)N(5nm)の5周期から成る歪み量子井戸活性層55、p型クラッド層56(AlGaN、1μm)、p型コンタクト層57(GaN、0.3μm)を順次形成する(第23A図)。ここで、基板上の結晶成長方向はc面すなわち(0001)からの傾角は43度にする。したがって、結晶成長表面はR面すなわち(1,0,-1,2)となる。」(37頁16行?23行)、
「次に、p型コンタクト層57上にp型電極58を形成する(第23B図)。p型コンタクト層57の表面の一部から、n型コンタクト層53に達するまで通常の方法にてエッチングで除去しする(第23C図)。これはn型電極59を引き出して設けるためである(第23D図)。最後に、レーザ共振器端面60が(-1,2,-1,0)になるようにチップに分離し、共振器を形成することで半導体レーザ装置が得られる。図22に完成された半導体レーザの斜視図を示す。尚、実用に当たっては、更に、発光端面保護の為の保護膜を用いるなど任意である。」(37頁24行?38頁1行)、
「上記実施例の半導体レーザ装置において、閾値電流40mAで発振する青色の半導体レーザ装置が実現できる。」(38頁2行?3行)、
「また、下記基板による結晶成長によって、歪み量子井戸構造の活性層を形成しても、同様に良好な結果が得られた。

」(38頁4行?9行)、
「尚、本発明は、第6の実施例に示した以外の構造にも有効である。例えば、基板はGaNに限らず、ウルツ鉱結晶が得られる基板、例えば、サファイア、スピネル、SiC、ZnO、MgO、MnO、SiO_(2)、あるいはAlN等の基板でも良い。」(当審注:「実施例6」は「第6の実施例」の誤記であると解されるので、誤記を正した上で摘記した。)(38頁11行?13行)

(エ)「産業上の利用可能性」(39頁14行)、
「本願発明に係わる光情報処理装置は、光磁気記録、相変化記録などを用いた光情報処理装置に適用することが出来る。また、本願発明に係わる光源は上述の光情報処理装置に適用することが出来る。本願発明に係わる半導体発光装置は上述の光情報処理装置に適用することが出来ると共に青色、青-青紫色、および青紫色の発光色を持つ光源として用いることが出来る。」(39頁15行?19行)

(オ)「請求の範囲」、
「30.ウルツ鉱型半導体材料より成る歪み量子井戸活性層を少なくとも有し、その歪み量子井戸活性層領域の結晶成長表面が(1,0,-1,N)面(N=1、2、もしくは3)あるいはこれと等価な面から5°以内の面であることを特徴とする半導体発光装置。」(44頁7行?10行)

イ 上記アによれば、引用文献2の請求項30に記載された発明について、次の事実が認められる。
(ア)引用文献2の請求項30には、次の発明が記載されている。
「ウルツ鉱型半導体材料より成る歪み量子井戸活性層を少なくとも有し、その歪み量子井戸活性層領域の結晶成長表面が(1,0,-1,N)面(N=1、2、もしくは3)である半導体発光装置。」

(イ)第6の実施例(<実施例8>)は、半導体レーザ装置に係るものであり、GaN基板が(1,0,-1,2)面、(1,0,-1,3)面又は(1,0,-1,4)面であり、結晶成長表面が、それぞれ、(1,0,-1,2)面、(1,0,-1,3)面又は(1,0,-1,4)面である歪み量子井戸構造の活性層が形成されている。
よって、上記(ア)におけるN=3の場合について、引用文献2には、次の発明が記載されていることになる。
「ウルツ鉱型半導体材料より成る歪み量子井戸活性層を少なくとも有し、その歪み量子井戸活性層領域の結晶成長表面が(1,0,-1,3)面である半導体レーザ装置であって、
(1,0,-1,3)GaN基板上に、前記歪み量子井戸構造の活性層が形成された、半導体レーザ装置。」

(ウ)第6の実施例(<実施例8>)に係る第23A図?第23D図からみて、GaN基板51の(1,0,-1,2)面は平坦であると認められる。
そして、GaN基板51として「(1,0,-1,3)GaN基板」を用いた場合についても平坦か否かにつき差があるとは解されないから、上記(イ)で認定した発明における「GaN基板」の「(1,0,-1,3)面」も平坦であると認められる。
よって、引用文献2には、次の発明が記載されていることになる。
「ウルツ鉱型半導体材料より成る歪み量子井戸活性層を少なくとも有し、その歪み量子井戸活性層領域の結晶成長表面が(1,0,-1,3)面である半導体レーザ装置であって、
(1,0,-1,3)GaN基板上に、前記歪み量子井戸構造の活性層が形成されており、
GaN基板の(1,0,-1,3)面は平坦である、
半導体レーザ装置。」

ウ 上記イ(ウ)をもって、引用文献2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)を認定する。

(3)本願発明と引用発明2との対比
ア 本願発明の「レーザダイオードまたは発光ダイオードを含む発光デバイスであって、」との特定事項(特定事項A)について
(ア)引用発明2の「半導体レーザ装置」は、本願発明の「レーザダイオード」からなる「発光デバイス」に相当する。

(イ)よって、引用発明2は、本願発明の特定事項Aを備える。

イ 本願発明の「平坦な半極性III族窒化物薄膜であって、窒化ガリウム(GaN)基板の平坦な半極性表面上に成長されるInGaNを含む一つ以上の半極性III族窒化物活性層を含む、半極性III族窒化物薄膜を備え、」との特定事項(特定事項B)について
(ア)引用発明2の「GaN基板」は、本願発明の「窒化ガリウム(GaN)基板」に相当する。

(イ)引用発明2の「GaN基板の」「平坦」な「(1,0,-1,3)面」は、上記(ア)にも照らせば、本願発明の「窒化ガリウム(GaN)基板の平坦な半極性表面」に相当する。

(ウ)引用発明2の「ウルツ鉱型半導体材料より成る歪み量子井戸活性層」であって、「その歪み量子井戸活性層領域の結晶成長表面が(1,0,-1,3)面である」「歪み量子井戸活性層」は、技術常識に照らせば、本願発明でいう「一つ以上の半極性III族窒化物活性層」に相当するといえる。

(エ)引用発明2の当該「歪み量子井戸活性層」が、本願発明でいう「窒化ガリウム(GaN)基板の平坦な半極性表面上に成長される」ものであることは、明らかである。

(オ)引用発明2は、「半導体レーザ装置」であって、上記(ウ)のとおり、「一つ以上の半極性III族窒化物活性層」を備えるのであるから、本願発明でいう「半極性III族窒化物薄膜」を備えることも、技術常識に照らして明らかである。
そして、引用発明2が備えると解される当該「半極性III族窒化物薄膜」は、「窒化ガリウム(GaN)基板の平坦な半極性表面」(上記(イ))上に形成されるのであるから、「平坦」であると認められる。

(カ)よって、引用発明2は、本願発明でいう「平坦な半極性III族窒化物薄膜であって、窒化ガリウム(GaN)基板の平坦な半極性表面上に成長される」「半極性III族窒化物活性層を含む、半極性III族窒化物薄膜を備え」るとの事項を備える。
しかし、引用発明2における「一つ以上の半極性III族窒化物活性層」が、「InGaN」を含んでいるのか不明である。

ウ 本願発明の「前記GaN基板は、異種基板またはGaN基板上の厚さが少なくとも10μmのGaNテンプレートを含み、バルクGaN基板から切り出され、」との特定事項(特定事項C)について
引用発明2は、本願発明の特定事項Cを備えない。

エ 本願発明の「前記半極性III族窒化物薄膜の上面はデバイス領域上方の基板の主表面に対して実質的に平行であり、」との特定事項(特定事項D)について
上記イを踏まえれば、引用発明2は、本願発明の特定事項Dを備えるといえる。

オ 本願発明の「前記半極性表面が方位{10-13}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、278A/cm^(2)以下の駆動電流密度で1.53mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度であり、」との特定事項(特定事項E)について
(ア)引用発明2は、「(1,0,-1,3)GaN基板上」に「歪み量子井戸構造の活性層」を形成するものであるから、本願発明でいう「前記半極性表面が方位{10-13}を有する」ものといえる。

(イ)上記イのとおり、引用発明2は、本願発明でいう「半極性III族窒化物活性層」と「半極性III族窒化物薄膜」を備えているところ、これらには、何らかの「材料特性」及び「貫通転位密度」が存在するはずであるが、その程度は具体的には不明である。

(ウ)よって、本願発明の特定事項Eと引用発明2とは、「前記半極性表面が方位{10-13}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、所定の材料特性および所定の貫通転位密度であ」るとの点で一致する。
しかし、引用発明2における前記「所定の材料特性および所定貫通転位密度」が、「発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、278A/cm^(2)以下の駆動電流密度で1.53mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度」であるのか不明である。

カ 本願発明の「前記半極性表面が方位{10-11}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、333.3A/cm^(2)以下の駆動電流密度で0.630mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度である」との特定事項(特定事項F)について
引用発明2は、本願発明の特定事項Fを備えない。

キ 本願発明の「デバイス」との特定事項(特定事項G)について
引用発明2の「半導体レーザ装置」は、本願発明の「デバイス」に相当する。

(4)一致点及び相違点の認定
上記(3)によれば、本願発明と引用発明2とは、
「レーザダイオードまたは発光ダイオードを含む発光デバイスであって、
平坦な半極性III族窒化物薄膜であって、窒化ガリウム(GaN)基板の平坦な半極性表面上に成長される一つ以上の半極性III族窒化物活性層を含む、半極性III族窒化物薄膜を備え、
前記半極性III族窒化物薄膜の上面はデバイス領域上方の基板の主表面に対して実質的に平行であり、
前記半極性表面が方位{10-13}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、所定の材料特性および所定の貫通転位密度である、
デバイス。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点4]
「一つ以上の半極性III族窒化物活性層」が、本願発明は「InGaN」を含むのに対し、引用発明2はそうであるのか不明である点。

[相違点5]
「前記GaN基板」が、本願発明は「異種基板またはGaN基板上の厚さが少なくとも10μmのGaNテンプレートを含み、バルクGaN基板から切り出され」たものであるのに対し、引用発明2はそうであるのか不明である点。

[相違点6]
「前記半極性表面が方位{10-13}を有するとき」における「半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度」である「所定の材料特性および所定の貫通転位密度」が、本願発明は「発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、278A/cm^(2)以下の駆動電流密度で1.53mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度」であるのに対し、引用発明2はそうであるのか不明である点。

[相違点7]
本願発明は、「前記半極性表面が方位{10-11}を有するとき、半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、333.3A/cm^(2)以下の駆動電流密度で0.630mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度である」のに対し、引用発明2はそうではない点。

(5)相違点4及び相違点6の判断
事案にかんがみ、相違点4及び相違点6から判断する。
ア 引用文献2は、発光色が青色であってもよいこと、及び、活性層がInGaNであってもよいことを記載している(39頁18行、22頁8行)。そして、青色のレーザダイオードの活性層としてInGaNを用いることは、例示するまでもなく、優先権主張日当時における技術常識である。
そうすると、引用発明2において、発光光を青色とするとともに、活性層としてInGaNを用いることは、当業者が適宜なし得たことである。

イ ところで、引用発明2は「レーザダイオード」に係るものであるところ、相違点6に係る構成(特定事項E)は、上記1(3)のとおり、「前記半極性表面が方位{10-13}を有するとき」の「半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度」が、「発光デバイス」が「レーザダイオード」であるときに、
(i) 何も特定されていない、と解するか、(解釈1)
(ii) レーザダイオードからなる発光デバイスが、「青色光を発光し、278A/cm^(2)以下の駆動電流密度で1.53mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度」である、と解するか、(解釈2)
のいずれかが考えられる。

(ア)しかるに、解釈1の場合は、相違点6が実質的な相違点ではないことになる。

(イ)解釈2の場合は、上記(1)ア及びイのとおり、本判断においては、本願が分割要件を満たすと仮定されているとともに優先権主張の効果が認められると仮定されている以上、優先権主張日当時において、レーザダイオードであっても、特定事項Eが特定する数値特性が適宜得られるという技術常識が存在しなければならず、さらに、優先権主張日当時において、異種基板として適宜のものであっても、特定事項Eが特定する数値特性が得られるという技術常識が存在しなければならない。
しかるに、これらの技術常識に照らせば、引用発明2の半導体レーザ装置を、278A/cm^(2)以下の駆動電流密度で1.53mWの出力パワーを有するようにすることは、当業者が適宜設計し得たことであるというべきである。

ウ このように、相違点4は格別ではなく(上記ア)、相違点6は実質的な相違点ではない(上記イ(ア))か、又は、実質的な相違点だとしても格別ではない(上記イ(イ))。

(6)相違点5の判断
ア 相違点5に係る構成は、特定事項Cに関するところ、上記1(2)イのとおり、特定事項Cは、「異種基板」又は「GaN基板」「上の厚さが少なくとも10μmのGaNテンプレートを含」んだ「前記GaN基板」と、「バルクGaN」インゴット或いはボールから「切り出され」た「前記GaN基板」と、を少なくとも含むものである。

イ 引用発明2のGaN基板は、(1,0,-1,3)GaN基板であるところ、それをどのようにして得るのかについて当業者は当然に検討するものといえる。

ウ しかるに、引用文献2は、(0001)面を主面としない基板を得るに当たり、サファイア基板などのオフ基板を用いることを開示する(19頁14行?23行)。そして、サファイア基板などの異種基板を用いる場合において、結晶状態が良好なGaNを得るために、厚いGaN膜を成長させることは、優先権主張日前において周知技術である(例えば、特開2005-119921号公報の【0005】などを参照。)
そうすると、当業者であれば、引用発明2の(1,0,-1,3)GaN基板を得るために、引用文献2の上記記載及び上記周知技術を踏まえて、「異種基板」「上の厚さが少なくとも10μmのGaNテンプレートを含」んだものとして、相違点5の構成に至ることは、格別困難ではない。

エ また、GaN基板を得るに当たり、GaN単結晶インゴットを形成して、それを切断することは、優先権主張日前において周知技術である(例えば、国際公開第99/23693号の請求項34など、特開2000-252217号公報の【0012】などを参照。)し、所望の方位面をもつ単結晶基板をインゴットから切り出すことも周知技術である(例えば、特開平8-309737号公報の【0001】?【0007】などを参照。)。
そうすると、当業者であれば、引用発明2の(1,0,-1,3)GaN基板を得るために、上記各周知技術を踏まえて、「バルクGaN」インゴットから「切り出され」たものとして、相違点5の構成に至ることは、格別困難ではない。

オ 上記ウ又はエの少なくともいずれか1つの理由により、相違点5は格別ではない。

(7)相違点7の判断
ア 相違点7に係る構成である特定事項Fは、「前記半極性表面が方位{10-11}を有するとき、」に関するものであるから、「前記半極性表面が方位{10-11}を有する」ものではない態様については、何も特定していないことになる。
そして、引用発明2は、「前記半極性表面が方位{10-11}を有する」ものではない。
よって、相違点7は、実質的な相違点ではない。

イ 上記アの判断を措くとしても、以下のとおり、相違点7は、格別ではない。
(ア)まず、引用発明2において、相違点7に係る構成のうち、「前記半極性表面が方位{10-11}を有するとき、」に至ることは、当業者が適宜なし得たことである。
すなわち、上記(2)イのとおり、引用発明2は、引用文献2の請求項30に記載された発明に関連するところ、当該請求項30は、「歪み量子井戸活性層領域の結晶成長表面が(1,0,-1,N)面(N=1、2、もしくは3)」であるとしている(引用発明2は、N=3の場合である。)。そうすると、引用文献2は、引用発明2において、N=1としてもよいことを示唆しているといえる。
しかるに、引用発明2において、N=1が採用されれば、GaN基板も(1,0,-1,1)GaN基板が採用されるものと解される。よって、引用発明2において、相違点7に係る構成のうち、「前記半極性表面が方位{10-11}を有するとき、」に至ることは、当業者が適宜なし得たことである。

(イ)そして、相違点7に係る構成のうち、「半極性III族窒化物活性層の一つ以上の材料特性および前記平坦な半極性III族窒化物薄膜の貫通転位密度は、発光ダイオードを含む前記デバイスが、青色光を発光し、333.3A/cm^(2)以下の駆動電流密度で0.630mWの出力パワーを有するような材料特性および貫通転位密度である」ことについては、相違点6の判断(上記(5)イ)においてしたのと同様の理由で、実質的な相違点ではないか、格別ではない。

ウ このように、相違点7は、実質的な相違点ではないか、格別ではない。

(8)引用文献2に記載された発明に基づく進歩性欠如についての小括
したがって、本願発明は、引用発明2に記載された発明、引用文献2に記載された事項及び前記各周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-06-27 
結審通知日 2019-07-02 
審決日 2019-08-01 
出願番号 特願2015-23903(P2015-23903)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (H01S)
P 1 8・ 03- WZ (H01S)
P 1 8・ 121- WZ (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 百瀬 正之  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 野村 伸雄
山村 浩
発明の名称 発光デバイスおよびその作製方法  
代理人 清水 守  
代理人 青木 俊明  
代理人 青木 俊明  
代理人 清水 守  

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