• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1357978
審判番号 不服2018-14814  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-07 
確定日 2019-12-18 
事件の表示 特願2015-559498「被験者からバイタルサイン情報を決定する装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月 4日国際公開、WO2014/131850、平成28年 3月22日国内公表、特表2016-508401〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)2月27日(パリ条約による優先権主張 2013年2月28日 米国、2013年2月28日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成29年12月20日付けで拒絶理由が通知され、平成30年3月20日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年7月9日付けで拒絶査定されたところ、同年11月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成30年11月7日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年11月7日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項13の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「被験者からバイタルサイン情報を決定する方法において、
撮像野から放射を検出するステップと、
前記撮像野の異なる領域から前記被験者のバイタルサイン情報を含む特性パラメータを決定するステップと、
前記異なる領域から得られる前記特性パラメータのスペクトルエネルギー分布を決定するステップと、
前記エネルギー分布に基づき前記撮像野の少なくとも1つの領域を選択するステップであって、前記個別の特性パラメータの0及び1又は2ヘルツの間の前記スペクトルエネルギーが、全体の周波数帯域のスペクトルエネルギーの所定のパーセンテージより大きい又は所定の周波数帯域のスペクトルエネルギーより大きい場合、前記少なくとも1つの領域が選択される、ステップと、
前記少なくとも1つの選択された領域から前記特性パラメータに基づき前記バイタルサイン情報を算出するステップとを有する、方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年3月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項13の記載は次のとおりである。

「被験者からバイタルサイン情報を決定する方法において、
撮像野から放射を検出するステップと、
前記撮像野の異なる領域から前記被験者のバイタルサイン情報を含む特性パラメータを決定するステップと、
前記異なる領域から得られる前記特性パラメータのスペクトルエネルギー分布を決定するステップと、
前記エネルギー分布に基づき前記撮像野の少なくとも1つの領域を選択するステップであって、前記個別の特性パラメータの所定の周波数帯域の前記スペクトルエネルギーが所定の閾値レベルを超える場合、前記少なくとも1つの領域が選択される、ステップと、
前記少なくとも1つの選択された領域から前記特性パラメータに基づき前記バイタルサイン情報を算出するステップとを有する、方法。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項13に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記個別の特性パラメータの所定の周波数帯域のスペクトルエネルギーが所定の閾値レベルを超える場合」を、「前記個別の特性パラメータの0及び1又は2ヘルツの間のスペクトルエネルギーが、全体の周波数帯域のスペクトルエネルギーの所定のパーセンテージより大きい又は所定の周波数帯域のスペクトルエネルギーより大きい場合」である旨の限定を付加するものであって、補正前の請求項13に記載された発明と補正後の請求項13に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項13に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2012-519527号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(引1a)「【0040】
図2に示される方法の実施形態において、デジタルカメラ2に関する適切な設定を決定するため、初期化フェーズがまず完了される(ステップ17)。このため、デジタル画像のシーケンスがキャプチャされる間、データ処理デバイス3は、デジタルカメラ2のカメラチャネルのフレームレート、露出時間、画素クロック(これは、画素値が取得されるレートを決定する)及びゲインのうちの少なくとも1つを変化させる。このシーケンスの各画像の少なくとも部分の(空間的な)平均輝度が決定され、平均輝度における周期的変動の大きさが、設定の各新しい値に関して決定される。少なくともスペクトルの範囲、特に低周波範囲に含まれる大きさが最も小さいような設定が、本方法における後続の使用のために選択される。少なくとも画像の一部の空間平均輝度を決定する代わりに、個別の画素の輝度変動が決定されることができる。デジタルカメラ2の設定を選択する効果は、本方法の残りが適用される画像のシーケンスからできるだけ可能な範囲において、周期的なバックグラウンド照明変動が無くなる点にある。」

(引1b)「【0045】
次に、各測定ゾーン25に関して、測定ゾーン25の画像点に対応する画素の時間変化する平均輝度を表す信号28が生成される(ステップ27)。シーケンス19の各画像に対して、測定ゾーン25に含まれると決定される画素の平均輝度が形成される。シーケンス19の各画像が、時間における点を表すので、時間変化する(離散時間)信号28がこうして得られる。図2の図示された実施形態において、1つの測定ゾーン25が選択される。その結果、唯一の信号28が生成される。体の一部に可能性として対応するより多くの画像セグメント23があり、その結果、複数の測定ゾーン25がある場合、複数の信号28も存在することになる。
【0046】
すると、測定ゾーン25の画像点に対応する画素の時間変化する平均輝度における少なくとも変動を表す追加的な信号30を生み出すよう、各第1の信号28がその平均値に中心化される(ステップ29)。変形例において、このステップ29は、ステップ20に代替的に含まれる訂正信号との相関分離も有する。異なる変形例において、このステップ29は、フィルタリング動作、例えば信号の微分に対応するフィルタリング動作を有する。第1の信号のダイナミックレンジの1%のオーダーの変動を抽出する他の変形例も可能である。
【0047】
その後、少なくとも注目する生体(一般に人間)に関する典型的な心拍値及び/又は呼吸数値を有することが知られる範囲において、信号30のスペクトルの1つ又は複数の局所最大を決定するため、基本的な信号処理技術が用いられる(ステップ31)。」

(引1c)「【0066】
図4A及び図4Bは、システム1の機能を制御する追加的な方法を示す。この機能は、画像セグメント化機能、又はアンビエントシステム及びビデオ表示システム8のうちの少なくとも1つを用いて知覚可能な出力をレンダリングする機能とすることができる。
【0067】
この方法はここでも、デジタルカメラ2に関する適切な設定を決定する初期化フェーズ47で始まる。デジタル画像のシーケンスがキャプチャされる間、データ処理デバイス3は、デジタルカメラ2のフレームレート及び露出時間の少なくとも1つを変化させる。シーケンスの各画像の少なくとも一部の(空間的な)平均輝度が決定され、平均輝度における周期的変動の大きさが、この設定の各新しい値に対して決定される。少なくともスペクトルの範囲、特に低周波範囲内の大きさが最小であるような設定が、この方法における後続の使用のために選択される。画像の少なくとも一部の空間平均輝度を決定する代わりに、個別の画素の輝度変動が決定されることができる。
【0068】
初期化フェーズ47の後、時間における連続点で撮られる画像のシーケンス48が得られる(ステップ49)。画像のシーケンス48は、時間における連続点でキャプチャされるシーンを表す。これは、規則的又は不規則な間隔とすることができる。シーンは一般に、複数の人間を含む。
【0069】
次のステップ50において、画像48は、非周期的バックグラウンド信号を除去するため処理される。このために、画像48の一部又は全部の時間変化する平均輝度に対応する訂正信号が形成される。図示される実施形態において、画像48の画素データはその後、訂正信号から相関分離させられる。例えばカメラの運動を補償するため、追加的な画像処理がこのステップ50で行われることができる。
【0070】
図3の方法のように、各々の画像48に対してグリッドが置かれる(ステップ51)。このグリッドは、複数の測定ゾーン又は電位測定ゾーンへと各画像を分割する。各測定ゾーンは、複数の画像点、即ち複数の画素位置を含む。
【0071】
その後、すべての測定ゾーンが選択される(ステップ52)。各測定ゾーンに関して、画像点に対応する画像48における画素の輝度値の時間変化する空間平均に対応する個別の信号53a?nが、確立される。
【0072】
各第1の信号53a?nは、関連付けられる測定ゾーンの画像点に対応する画素の時間変化する平均輝度における少なくとも変動を表す追加的な信号55a?nを得るため、その平均値に関して中心化される(ステップ54)。変形例において、このステップ54も、ステップ50に代替的に含まれる訂正信号との相関分離を有する。異なる変形例において、このステップ54は、フィルタリング動作、例えば信号の微分に対応するフィルタリング動作を有する。第1の信号のダイナミックレンジの1%のオーダーで変動を抽出する他の変形例も可能である。
【0073】
信号55a?nのスペクトルが特定の範囲内で局所最大を持つ周波数が、その後決定される(ステップ56)。これらは、周波数に基づき画像48をセグメント化するため、その後互いに比較される(ステップ57)。言い換えると、それらが隣接する場合、少なくとも特定の精度で共通の周波数において局所最大を持つ信号55に関連付けられる測定ゾーンが、一緒にクラスター化される。
【0074】
結果は、関連付けられる周波数値及び位置情報を持つ画像セグメントのテーブル58である。
【0075】
間隔を置いて配置されるセグメントが、実質的に同じ周波数値に関連付けられることが起こりうる。その場合、そのセグメントにおける測定ゾーンに関連付けられる追加的な信号55a?nの少なくとも1つの位相が決定される(ステップ59)。少なくとも、共通の周波数において局所最大を伴うスペクトルを持つ追加的な信号55a?nに関連付けられる測定ゾーンが、位相に基づきクラスター化される(ステップ60)。これは、信号の少なくとも特定の周波数要素が、特定の所定の精度で互いに同相にあるかを決定することを伴う。一般に、位相比較は、以前に決定された支配的な周波数に対応する周波数要素に関して実行されることになる(ステップ56)。
【0076】
効率さのため、測定ゾーンに関して得られる信号が共通の周波数において個別の局所最大を伴うスペクトルを持つ場合にのみ、測定ゾーンの信号の少なくとも特定の周波数要素が、追加的な測定ゾーンの信号の同じ周波数要素と同相にあるかどうかの決定が実行される。別の実施形態において、しかしながら、画像48により覆われる全体の領域の位相マップが製作される。」

(引1d)「【0079】
第2の用途は、ある環境62、例えば部屋(図5を参照)においてクラスタリングステップ60、57を用いて検出される生体を位置決めすることを含む。この部屋には、カメラ2、照明ユニット10?12及びビデオ表示システム8が配置される。図5の例において、第1の領域63は、1人の人の位置に対応し、第2の領域64は、第2の人の位置に対応する。
【0080】
コントローラ9及び従って照明ユニット10?12は、ターゲットが領域63,64の1つに対応すると決定されるかどうかに基づき、空間ターゲットにより区別される空間的にターゲットとされた出力を提供するよう制御される(ステップ66)。より詳細には、領域63、64に存在すると決定された個人の心拍数及び/又は呼吸数に基づき、出力が適合される。こうして、第1の領域63に向けられる光が、第2の領域64に向けられる光とは異なる特性を持つことができる。差は、光、輝度、照明変動のダイナミクス等の任意の1つを含むことができる。」

イ 引用文献1に記載された発明
(ア)上記(引1a)及び(引1b)より、「図2の図示された実施形態において」は、「少なくとも注目する生体(一般に人間)に関する典型的な心拍値及び/又は呼吸数値を有することが知られる範囲において、信号30のスペクトルの1つ又は複数の局所最大を決定するため、基本的な信号処理技術が用いられる」ものであり、この「信号処理技術」は、(引1c)及び(引1d)に記載された「信号55a?nのスペクトルが特定の範囲内で局所最大を持つ周波数」において用いられることは明らかであるから、「周波数に基づき画像48をセグメント化するため、その後互いに比較されるステップ57」は、「少なくとも注目する生体(一般に人間)に関する典型的な心拍値及び/又は呼吸数値を有することが知られる範囲において」、「周波数に基づき画像48をセグメント化するため、その後互いに比較されるステップ57」を有していると認められる。

(イ)上記(引1c)には、「画像のシーケンス48」、「画像48」と記載されているが、これらが同じものであることは明らかであるから、「画像48」と用語を統一した。

(ウ)以上(ア)及び(イ)を踏まえると、上記ア(引1a)?(引1d)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 画像セグメント化機能、又はアンビエントシステム及びビデオ表示システム8のうちの少なくとも1つを用いて知覚可能な出力をレンダリングするシステム1の機能を制御する方法であって、
時間における連続点で撮られる画像48を得るステップ49と、
各々の画像48に対して、複数の測定ゾーン又は電位測定ゾーンへと各画像を分割するグリッドを置くステップ51と、
すべての測定ゾーンを選択し、各測定ゾーンに関して、画像点に対応する画像48における画素の輝度値の時間変化する空間平均に対応する個別の信号53a?nを、確立するステップ52と、
各第1の信号53a?nから、関連付けられる測定ゾーンの画像点に対応する画素の時間変化する平均輝度における少なくとも変動を表す追加的な信号55a?nを得るステップ54と、
信号55a?nのスペクトルが特定の範囲内で局所最大を持つ周波数が決定されるステップ56と、
少なくとも注目する生体(一般に人間)に関する典型的な心拍値及び/又は呼吸数値を有することが知られる範囲において、周波数に基づき画像48をセグメント化するため、その後互いに比較されるステップ57と、
セグメントにおける測定ゾーンに関連付けられる追加的な信号55a?nの少なくとも1つの位相が決定されるステップ59と、
共通の周波数において局所最大を伴うスペクトルを持つ追加的な信号55a?nに関連付けられる測定ゾーンが、位相に基づきクラスター化されるステップ60と、
コントローラ9及び照明ユニット10?12は、領域63、64に存在すると決定された個人の心拍数及び/又は呼吸数に基づき、出力が適合するステップ66とを有する
方法。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「領域63、64に存在すると決定された個人」及び「心拍数及び/又は呼吸数」は、本件補正発明の「被験者」及び「バイタルサイン情報」に相当する。引用発明の「システム1の機能を制御する方法」は、「コントローラ9及び照明ユニット10?12は、領域63、64に存在すると決定された個人の心拍数及び/又は呼吸数に基づき、出力が適合するステップ66」を有しており、「出力」の「適合」が「領域63、64に存在すると決定された個人の心拍数及び/又は呼吸数に基づき」行われることから、「ステップ66」においては、「領域63、64に存在すると決定された個人の心拍数及び/又は呼吸数」が決定されていることは明らかである。すると、引用発明の「システム1の機能を制御する方法」は、本件補正発明の「被験者からバイタルサイン情報を決定する方法」に相当する。

(イ)引用発明の「画像48」は、本件補正発明の「撮像野から」「検出」される「放射」に相当するから、引用発明の「時間における連続点で撮られる画像48を得るステップ49」は、本件補正発明の「撮像野から放射を検出するステップ」に相当する。

(ウ)本件補正発明の「特性パラメータ」に関し、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0020】によれば、「・・・検出された画像データのパターン検出に基づき、特性パラメータとして交流信号を決定するよう構成される。・・・」と記載されていることから、「特性パラメータ」は、「検出された画像データのパターン検出に基づき」決定された「交流信号」である。
一方、引用発明は、「各々の画像48に対して、複数の測定ゾーン又は電位測定ゾーンへと各画像を分割するグリッドを置くステップ51と」、「すべての測定ゾーンを選択し、各測定ゾーンに関して、画像点に対応する画像48における画素の輝度値の時間変化する空間平均に対応する個別の信号53a?nを、確立するステップ52と」を有しており、引用発明の「信号53a?n」は、「画像点に対応する画像48における画素の輝度値の時間変化する空間平均に対応する」信号である。
してみれば、引用発明の「信号53a?n」は、本件補正発明の「特性パラメータ」に相当する。
また、引用発明は「各第1の信号53a?nから、関連付けられる測定ゾーンの画像点に対応する画素の時間変化する平均輝度における少なくとも変動を表す追加的な信号55a?nを得」、「信号55a?nのスペクトルが特定の範囲内で局所最大を持つ周波数が決定され」、「少なくとも注目する生体(一般に人間)に関する典型的な心拍値及び/又は呼吸数値を有することが知られる範囲において、周波数に基づき画像48をセグメント化するため、その後互いに比較される」から、引用発明の「信号53a?n」は、「心拍値及び/又は呼吸数値」に関する情報を含んでいるといえる。
すると、引用発明の「各々の画像48に対して、複数の測定ゾーン又は電位測定ゾーンへと各画像を分割するグリッドを置くステップ51と、すべての測定ゾーンを選択し、各測定ゾーンに関して、画像点に対応する画像48における画素の輝度値の時間変化する空間平均に対応する個別の信号53a?nを、確立するステップ52と」は、本件補正発明の「前記撮像野の異なる領域から前記被験者のバイタルサイン情報を含む特性パラメータを決定するステップ」に相当する。

(エ)引用発明の「信号55a?nのスペクトル」は、「各々の画像48に対して、複数の測定ゾーン又は電位測定ゾーンへと各画像を分割」し、分割された「各測定ゾーンに関して、画像点に対応する画像48における画素の輝度値の時間変化する空間平均に対応する個別の信号53a?n」から得られたものである。そして、引用発明の「ステップ56」において、「信号55a?nのスペクトルが特定の範囲内で局所最大を持つ周波数」を「決定」している。また、このステップの「信号55a?nのスペクトル」と、本件補正発明の「前記特性パラメータのスペクトルエネルギー分布」とは、「前記特性パラメータのスペクトル」である点で共通する。
すると、引用発明の「各第1の信号53a?nから、関連付けられる測定ゾーンの画像点に対応する画素の時間変化する平均輝度における少なくとも変動を表す追加的な信号55a?nを得るステップ54と、信号55a?nのスペクトルが特定の範囲内で局所最大を持つ周波数が決定されるステップ56と」、本件補正発明の「前記異なる領域から得られる前記特性パラメータのスペクトルエネルギー分布を決定するステップ」とは、「前記異なる領域から得られる前記特性パラメータのスペクトルを決定するステップ」である点で共通する。

(オ)引用発明は、「ステップ56」で「信号55a?nのスペクトルが特定の範囲内で局所最大を持つ周波数」を「決定」し、「ステップ57」で「周波数に基づき画像48をセグメント化するため、その後互いに比較」しており、「周波数に基づき画像48をセグメント化するため」には、「信号55a?nのスペクトルが特定の範囲内で局所最大を持つ周波数」が「少なくとも注目する生体(一般に人間)に関する典型的な心拍値及び/又は呼吸数値を有することが知られる範囲に」入っている「測定ゾーン」を選択する必要があるから、引用発明の「周波数に基づき画像48をセグメント化するため、その後互いに比較されるステップ57」と、本件補正発明の「前記エネルギー分布に基づき前記撮像野の少なくとも1つの領域を選択するステップであって、前記個別の特性パラメータの0及び1又は2ヘルツの間の前記スペクトルエネルギーが、全体の周波数帯域のスペクトルエネルギーの所定のパーセンテージより大きい又は所定の周波数帯域のスペクトルエネルギーより大きい場合、前記少なくとも1つの領域が選択される、ステップ」とは、「前記スペクトルに基づき前記撮像野の前記領域の少なくとも1つを選択するステップ」である点で共通する。

(カ)上記(ア)で検討したとおり、引用発明は、「ステップ66」においては、「領域63、64に存在すると決定された個人の心拍数及び/又は呼吸数」を決定しており、該決定は、「各測定ゾーンに関して、画像点に対応する画像48における画素の輝度値の時間変化する空間平均に対応する個別の信号53a?n」より算出されているものであるといえるから、引用発明と本件補正発明とは、「前記少なくとも1つの選択された領域から前記特性パラメータに基づき前記バイタルサイン情報を算出する算出ユニットとを有する」点で一致する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「被験者からバイタルサイン情報を決定する方法において、
撮像野から放射を検出するステップと、
前記撮像野の異なる領域から前記被験者のバイタルサイン情報を含む特性パラメータを決定するステップと、
前記異なる領域から得られる前記特性パラメータのスペクトルを決定するステップと、
前記スペクトルに基づき前記撮像野の少なくとも1つの領域を選択するステップと、
前記少なくとも1つの選択された領域から前記特性パラメータに基づき前記バイタルサイン情報を算出するステップとを有する、方法。」

【相違点】前記異なる領域から得られる前記特性パラメータのスペクトルを決定するステップと、前記撮像野の前記少なくとも1つの領域の選択するステップが、本件補正発明は、「前記異なる領域から得られる前記特性パラメータのスペクトルを決定するステップ」において決定される「前記特性パラメータのスペクトル」が、「前記特性パラメータのスペクトルエネルギー分布」であり、「前記撮像野の前記少なくとも1つの領域の選択するステップ」が、「前記特性パラメータのスペクトルエネルギー分布」に基づくものであって、「前記個別の特性パラメータの0及び1又は2ヘルツの間のスペクトルエネルギーが、全体の周波数帯域のスペクトルエネルギーの所定のパーセンテージより大きい又は所定の周波数帯域のスペクトルエネルギーより大きい場合」に選択されるのに対し、引用発明は、「各測定ゾーンに関して、画像点に対応する画像48における画素の輝度値の時間変化する空間平均に対応する個別の信号53a?n」から得られる信号が、「信号55a?nのスペクトル」であって、このスペクトルが、エネルギー分布であるとの特定はなく、また、「周波数に基づき画像48をセグメント化するため、その後互いに比較されるステップ57」において、どのような「画素48」が、「比較」の結果セグメント化されるのか特定されていない点。

(4)判断
ア 上記相違点について検討する。
スペクトルは、一般に周波数毎の振幅又はエネルギーであって、画像解析等をスペクトルエネルギー分布で行うことは常套手段にすぎない。また、引用発明は「ステップ56」で「信号55a?nのスペクトルが特定の範囲内で局所最大を持つ周波数が決定され」、「ステップ57」で「少なくとも注目する生体(一般に人間)に関する典型的な心拍値及び/又は呼吸数値を有することが知られる範囲において、周波数に基づき画像48をセグメント化するため、その後互いに比較され」ていることから、このステップにおける比較は、「生体(一般に人間)に関する典型的な心拍値及び/又は呼吸数値を有することが知られる範囲」の「周波数」において比較されるものであって、該「周波数」が、「0及び1又は2ヘルツの間の」であることは明らかである。そして、ある周波数において「局所最大を持つ」ということは、周波数帯域全体から見て、その周波数帯域だけが大きいということであるから、上記相違点は、局所最大を持つ周波数を算出してからその周波数が特定の範囲にあるかを判断するか、特定の範囲の周波数が局所最大となるかを判断するかの違いであって、判断を行うに際に、局所最大となる周波数が特定の範囲内にあるか、特定の範囲内に局所最大となる周波数が存在するかの、どちらの方法を選択するかは、当業者において適宜選択されるべき事項であるといえる。
すると、引用発明の「各測定ゾーンに関して、画像点に対応する画像48における画素の輝度値の時間変化する空間平均に対応する個別の信号53a?n」から得られる信号が、「信号55a?nのスペクトル」であって、「周波数に基づき画像48をセグメント化する」ための領域の選択を、「信号55a?nのスペクトルが特定の範囲内で局所最大を持つ周波数」を「決定」し、その周波数が「少なくとも注目する生体(一般に人間)に関する典型的な心拍値及び/又は呼吸数値を有することが知られる範囲」あるか「比較」する方法により行われているものを、「各測定ゾーンに関して、画像点に対応する画像48における画素の輝度値の時間変化する空間平均に対応する個別の信号53a?n」から得られる信号を、「信号55a?n」のスペクトルエネルギー分布とし、「少なくとも注目する生体(一般に人間)に関する典型的な心拍値及び/又は呼吸数値を有することが知られる範囲」の周波数において、「信号55a?n」のスペクトルエネルギー分布が「特定の範囲内で局所最大を持つ」かにより判断する方法に変更することは、当業者が容易に想到できたことであるといえるから、本件補正発明は、引用発明より当業者が容易に想到できたことであるといえる。

イ 本件補正発明の効果について
本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

ウ したがって、本件補正発明は、引用発明に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年11月7日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年3月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項13に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項13に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?13に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1ないし4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
そして、請求項13に係る発明については、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものであると指摘したものである。

引用文献1:特表2012-519527号公報
引用文献2?4: (略)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記個別の特性パラメータの所定の周波数帯域のスペクトルエネルギーが所定の閾値レベルを超える場合」が、「前記個別の特性パラメータの0及び1又は2ヘルツの間のスペクトルエネルギーが、全体の周波数帯域のスペクトルエネルギーの所定のパーセンテージより大きい又は所定の周波数帯域のスペクトルエネルギーより大きい場合」である旨の限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-23 
結審通知日 2019-07-25 
審決日 2019-08-07 
出願番号 特願2015-559498(P2015-559498)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 裕勝荒井 隆一  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
福島 浩司
発明の名称 被験者からバイタルサイン情報を決定する装置及び方法  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 五十嵐 貴裕  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ