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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16H
管理番号 1358023
審判番号 不服2019-1511  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-04 
確定日 2020-01-14 
事件の表示 特願2017-530535「デファレンシャルケース」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月 2日国際公開、WO2017/017805、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年7月29日を国際出願日とする出願であって、平成30年8月27日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年10月1日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年12月10日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成31年2月4日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年12月10日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1ないし5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用例(1:特開2010-242930号公報、及び、2:特開昭55-139176号公報)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第3 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、平成30年10月1日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される発明であり、そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。

(本願発明1)
「デファレンシャルギア組のためのケースであって、
軸周りに回転可能であって前記デファレンシャルギア組を支持するキャリアであって、前記軸周りに円筒面をなす嵌合面と、前記嵌合面から径方向に突出し、軸方向に向いた当接面と径方向に外方に向いた外周面とを有したフランジと、を備えたキャリアと、
前記キャリアと組み合わせて前記デファレンシャルギア組を収容する室を画するカバーであって、前記フランジの外周に嵌合するべく軸方向に突出してその端面を前記当接面と軸方向に揃わせるように寸法づけられ且つその内周面を前記フランジの前記外周面に密に接するように寸法づけられた縁部を備えたカバーと、
前記嵌合面に嵌合する内周面と、前記当接面に少なくとも部分的に当接する背面と、前記軸周りのトルクを受容するためのギア歯とを備えたリングギアと、
前記キャリア、前記カバーおよび前記リングギアを一体に結合する溶接金属と、
を備え、
前記キャリアの前記当接面、前記カバーの前記端面および前記リングギアの前記背面の何れか一以上は、外方に露出して前記背面と前記当接面との界面に達する環状の開先を保持するべく寸法づけられ、前記溶接金属は前記開先を埋めている、
ケース。」

なお、本願発明2ないし5は、本願発明1を減縮した発明である。

第4 引用例、引用発明等
1.引用例1の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例1には、図面とともに次の事項が記載されている。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動機構を支持して該差動機構との間でトルク伝達を行う第1デフケースと、差動機構との間でトルク伝達しない第2デフケースと、リングギヤとが、それぞれ別体に構成されて互いに一体的に溶接接合されているディファレンシャルギヤにおいて、
前記第1デフケースの第1接合部が前記第2デフケースの第2接合部よりも外周側に位置するように重ね合わされているとともに、それ等の両接合部に対面するように前記リングギヤが配設され、その対面部分において該第1デフケース、第2デフケース、およびリングギヤの3部材が互いに一体的に溶接接合されている
ことを特徴とするディファレンシャルギヤ。
【請求項2】
前記第1デフケースは、中心線Oに対して直交するピニオンシャフトを介してピニオンギヤを回転可能に支持しているとともに、該ピニオンギヤと噛み合う一方のサイドギヤを前記中心線Oまわりに相対回転可能に保持している一方、
前記第2デフケースは、前記ピニオンシャフトを挟んで前記一方のサイドギヤが配設された側と反対側において前記第1デフケースに配設され、前記ピニオンギヤと噛み合う他方のサイドギヤを前記中心線Oまわりに相対回転可能に保持しており、
前記ピニオンギヤおよび前記一対のサイドギヤを含んで前記差動機構が構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のディファレンシャルギヤ。
【請求項3】
前記リングギヤは、前記第1デフケースの外周側に配設されるもので、
該第1デフケースには外向きフランジが一体に設けられているとともに、該外向きフランジには貫通穴が設けられている一方、
前記第2デフケースには前記貫通穴内に挿入される接合突部が設けられており、
前記外向きフランジを挟んで前記第2デフケースと反対側に、該外向きフランジおよび前記接合突部に対面するように前記リングギヤが配設され、その対面部分で一体的に溶接接合されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のディファレンシャルギヤ。」

・「【0001】
本発明はディファレンシャルギヤに係り、特に、差動機構を支持してトルク伝達する第1デフケース、差動機構との間でトルク伝達しない第2デフケース、およびリングギヤが、それぞれ別体に構成されて互いに一体的に溶接接合されているディファレンシャルギヤの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デフケースが中心線O方向において第1デフケースおよび第2デフケースに2分割され、その内部にピニオンギヤや一対のサイドギヤ等の差動機構を収容しているとともに、デフケースの外部にリングギヤが設けられ、それ等の第1デフケース、第2デフケース、およびリングギヤが互いに一体的に溶接接合されているディファレンシャルギヤが、例えば車両の左右輪の差動を許容する差動歯車装置などに用いられている。これは、例えば4ピニオン型や鍛造構造のディファレンシャルギヤ、或いは差動制限機構付きディファレンシャルギヤ(LSD)などで、組付の都合や製造上の制約等によりデフケースを2分割する必要があるためである。特許文献1に記載のディファレンシャルギヤはその一例で、第1デフケースおよび第2デフケースの接合部が互いに重ね合わされて一体的に溶接接合されており、その接合部分の外周側に更にリングギヤが一体的に溶接接合されているとともに、接合部分の内側にピニオンシャフトが取り付けられている。また、特許文献2には、ピニオンシャフトが取り付けられてピニオンギヤを回転可能に支持している第1デフケースと、ピニオンギヤを支持しない第2デフケースとが、互いに一体的に溶接接合されているとともに、更にその接合部分の近くにリングギヤが一体的に溶接接合されている。」

・「【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、差動機構を支持してその差動機構との間でトルク伝達を行う第1デフケースと、差動機構との間でトルク伝達しない第2デフケースと、リングギヤとが、それぞれ別体に構成されて互いに一体的に溶接接合されているディファレンシャルギヤにおいて、前記第1デフケースの第1接合部が前記第2デフケースの第2接合部よりも外周側に位置するように重ね合わされているとともに、それ等の両接合部に対面するように前記リングギヤが配設され、その対面部分において第1デフケース、第2デフケース、およびリングギヤの3部材が互いに一体的に溶接接合されていることを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明のディファレンシャルギヤにおいて、(a) 前記第1デフケースは、中心線Oに対して直交するピニオンシャフトを介してピニオンギヤを回転可能に支持しているとともに、そのピニオンギヤと噛み合う一方のサイドギヤを前記中心線Oまわりに相対回転可能に保持している一方、(b) 前記第2デフケースは、前記ピニオンシャフトを挟んで前記一方のサイドギヤが配設された側と反対側において前記第1デフケースに配設され、前記ピニオンギヤと噛み合う他方のサイドギヤを前記中心線Oまわりに相対回転可能に保持しており、(c) 前記ピニオンギヤおよび前記一対のサイドギヤを含んで前記差動機構が構成されていることを特徴とする。
【0008】
第3発明は、第1発明または第2発明のディファレンシャルギヤにおいて、(a) 前記リングギヤは、前記第1デフケースの外周側に配設されるもので、(b) その第1デフケースには外向きフランジが一体に設けられているとともに、その外向きフランジには貫通穴が設けられている一方、(c) 前記第2デフケースには前記貫通穴内に挿入される接合突部が設けられており、(d) 前記外向きフランジを挟んで前記第2デフケースと反対側に、その外向きフランジおよび前記接合突部に対面するように前記リングギヤが配設され、その対面部分で一体的に溶接接合されていることを特徴とする。すなわち、第1デフケースに設けられた外向きフランジの貫通穴よりも外周側部分は第1発明の第1接合部として機能し、第2デフケースに設けられた接合突部は第1発明の第2接合部として機能する。
【発明の効果】
【0009】
このようなディファレンシャルギヤにおいては、第1デフケースの第1接合部が第2デフケースの第2接合部よりも外周側に位置するように重ね合わされているとともに、それ等の両接合部に対面するようにリングギヤが配設され、その対面部分において第1デフケース、第2デフケース、およびリングギヤの3部材が互いに一体的に溶接接合されているため、それ等を1回の溶接作業で溶接接合でき、製造コストが低減される。また、差動機構を支持していてリングギヤとその差動機構との間のトルク伝達を行う第1デフケースの第1接合部が、トルク伝達しない第2デフケースの第2接合部よりも外周側に位置しているため、溶接接合強度が同じであっても径差分だけ第1デフケースとリングギヤとの間の伝達トルク容量が大きくなり、第2デフケースの第2接合部を外周側に位置させて溶接接合する場合に比較して強度的に有利であるとともに、トルク伝達が行われる第1デフケースとリングギヤとの溶接状態を外部から目視で確認することが可能で信頼性が向上する。
【0010】
第3発明は、差動機構を支持している第1デフケースの外周側にリングギヤが配設される場合で、装置がコンパクトに構成されるとともに、その第1デフケースに外向きフランジが設けられるとともに貫通穴が形成され、第2デフケースに設けられた接合突部が貫通穴内に挿入されることにより、その接合突部が第2接合部として機能し、外向きフランジの貫通穴よりも外周側部分が第1接合部として機能する。すなわち、第1デフケースの外周側にリングギヤを配設して装置をコンパクトに構成しつつ、第1デフケースの第1接合部が第2デフケースの第2接合部よりも外周側に位置する状態で溶接接合することが可能となり、第1デフケースとリングギヤとの間の伝達トルク容量を十分に確保することができる。」

・「【実施例1】
【0021】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用されたディファレンシャルギヤ10を説明する図で、(a) は中心線Oに沿って切断した断面図、(b) は第2デフケースを単独で(a) の右側から見た右側面図、(c) は(a) におけるIC部分の拡大断面図である。ディファレンシャルギヤ10は、中心線O方向において2分割された第1デフケース12および第2デフケース14と、第1デフケース12の外周側に配設されたリングギヤ16とを有し、これ等の第1デフケース12、第2デフケース14、リングギヤ16は何れも中心線Oと同心に配設されている。第1デフケース12は、大径部20および小径部22を有する段付き円筒形状の部材にて構成されており、大径部20の内側に傘歯車式の差動機構24が配設されている。
【0022】
差動機構24は、中心線Oに対して直交する直線状のピニオンシャフト25と、そのピニオンシャフト25の両端部にそれぞれ回転可能に配設された一対のピニオンギヤ26と、その一対のピニオンギヤ26と噛み合う左右一対のサイドギヤ28、34とを備えている。そして、ピニオンシャフト25の両端部が前記第1デフケース12の大径部20に取り付けられており、その第1デフケース12を介してリングギヤ16との間でトルク伝達が行われる。右サイドギヤ28は、ピニオンシャフト25よりも図1(a) の右側に配設されて一対のピニオンギヤ26と噛み合わされており、小径部22によって中心線Oまわりに相対回転可能に保持されている。
【0023】
第2デフケース14は、第1デフケース12の大径部20側の開口端を塞ぐ円環形状の蓋部30と、その蓋部30の内周部から連続して第1デフケース12と反対の左方向へ突き出す円筒部32とを一体に備えており、前記ピニオンギヤ26と噛み合う左サイドギヤ34を中心線Oまわりに相対回転可能に第1デフケース12との間の空間内に保持している。円筒部32は、第1デフケース12の小径部22と略等しい内径寸法で構成されている。ピニオンギヤ26および左右のサイドギヤ28、34は傘歯車にて構成されている。右サイドギヤ28は一方のサイドギヤに相当し、左サイドギヤ34は他方のサイドギヤに相当する。
【0024】
上記第1デフケース12および第2デフケース14は、何れも鍛造加工を主体として所定形状に形成されており、必要に応じて切削加工などによる後加工が行われる。第2デフケース14の蓋部30の外周部には、鍛造加工により第1デフケース12側へ突き出すように部分的に略直角に曲げられた接合突部40が設けられている。この接合突部40は、図1(b) から明らかなように、中心線Oを中心とする円弧形状を成しているとともに、中心線Oまわりに等角度間隔で複数(実施例では3つ)設けられている。また、各接合突部40は、何れも中心線Oまわりにおいて約60°の角度の長さで設けられており、3つの接合突部40の周方向の合計長さは、全周の約1/2である。一方、第1デフケース12の大径部20側の開口端には、中心線Oに対して略直角に外周側へ延び出す外向きフランジ42が鍛造加工により一体に設けられているとともに、その外向きフランジ42の径方向の中間位置には貫通穴44が形成されている。外向きフランジ42の肉厚は上記接合突部40の突出寸法と略同じで、貫通穴44は接合突部40と一致する位置に略同じ大きさ、形状で設けられており、中心線Oを中心とする円弧形状を成しているとともに、約60°の角度の長さを有し、中心線Oまわりに等角度間隔で複数(実施例では3つ)設けられている。貫通穴44は鍛造加工によって形成することもできるが、切削加工或いはプレスの打ち抜き加工等による後加工で形成しても良い。
【0025】
そして、上記3箇所の貫通穴44内にそれぞれ接合突部40が挿入されるとともに、外向きフランジ42を挟んで第2デフケース14と反対側には、それ等の外向きフランジ42の側面および接合突部40の先端面に対し、中心線O方向において対面するようにリングギヤ16が配設され、その対面部分において外周側からレーザビーム溶接が施されることにより、第1デフケース12、第2デフケース14、およびリングギヤ16の3部材が互いに一体的に溶接接合されている。接合突部40の突出寸法は、外向きフランジ42の肉厚と略同じであるため、第2デフケース14の蓋部30が第1デフケース12の先端面に密着するように組み付けられることにより、接合突部40の先端は外向きフランジ42の反対側の面と略面一になり、リングギヤ16と略面接触する状態で適切に溶接接合される。第2デフケース14の蓋部30にはまた、第1デフケース12の大径部20の内周面に略接するように同心に嵌合される円筒形状の補助突部41が一体に設けられており、接合突部40のみの溶接でも第1デフケース12に対して適切に固定される。
【0026】
リングギヤ16の内周部には、外向きフランジ42の外径と略同じ外径の円筒部46が一体に設けられており、その円筒部46の先端面が中心線O方向において外向きフランジ42の側面および接合突部40の先端面に対面して略接するように配設され、外径が略等しい対面部分に対して外周側から適切に溶接作業を行うことができる。このリングギヤ16の内径寸法は第1デフケース12の大径部20の外径寸法と略同じで、その内周面が大径部20の外周面に略接する状態で同心に嵌合されており、第1デフケース12に対して適切に固定される。図1の(a) 、(c) に示すWは溶接接合部で、中心線Oまわりの全周に隙間無く溶接が行われている。接合突部40は第2接合部に相当し、外向きフランジ42の貫通穴44よりも外周側部分42aは、その接合突部40の外周側に重ね合わされた第1接合部に相当する。
【0027】
このようなディファレンシャルギヤ10は、例えば車両の左右輪の差動を許容する差動歯車装置として用いられ、プロペラシャフトの端部に設けられたドライブピニオン50からリングギヤ16に伝達された回転は、溶接接合部Wから第1デフケース12に伝達され、更にピニオンギヤ26を介して左右一対のサイドギヤ28、34から左右のドライブシャフト52、54へ伝達される。ドライブシャフト52、54は、それぞれサイドギヤ28、34にスプライン等を介して相対回転不能に連結されているとともに、小径部22内或いは円筒部32内を挿通して外部へ延び出すように配設される。上記ドライブピニオン50およびリングギヤ16は、例えばハイポイドギヤにて構成される。
【0028】
ここで、このような本実施例のディファレンシャルギヤ10においては、第1デフケース12の第1接合部すなわち外向きフランジ42の貫通穴44よりも外周側の部分42aが、第2デフケース14の第2接合部すなわち貫通穴44内に挿入される接合突部40の外周側に位置するように径方向に重ね合わされているとともに、中心線O方向においてそれ等の両接合部に対面するようにリングギヤ16が配設され、その対面部分において外周側からレーザビーム溶接が施されることにより、第1デフケース12、第2デフケース14、およびリングギヤ16の3部材が互いに一体的に溶接接合されているため、それ等を1回の溶接作業で溶接接合でき、製造コストが低減される。
【0029】
また、ピニオンギヤ26を支持していてリングギヤ16と差動機構24との間のトルク伝達を行う第1デフケース12の第1接合部、すなわち外向きフランジ42の貫通穴44よりも外周側の部分42aが、第2デフケース14の第2接合部すなわち貫通穴44内に挿入される接合突部40よりも外周側に位置しているため、溶接接合強度が同じであっても径差分だけ第1デフケース12とリングギヤ16との間の伝達トルク容量が大きくなり、第2デフケース14の第2接合部を外周側に位置させて溶接接合する場合に比較して強度的に有利であるとともに、トルク伝達が行われる第1デフケース12とリングギヤ16との溶接状態を外部から目視で確認することが可能で信頼性が向上する。
【0030】
また、本実施例のディファレンシャルギヤ10は、差動機構24を支持している第1デフケース12の外周側にリングギヤ16が配設される場合で、装置が中心線O方向においてコンパクトに構成されるとともに、その第1デフケース12に外向きフランジ42が設けられるとともに貫通穴44が形成され、第2デフケース14に設けられた接合突部40が貫通穴44内に挿入されることにより、その接合突部40が第2接合部として機能し、外向きフランジ42の貫通穴44よりも外周側部分42aが第1接合部として機能する。すなわち、第1デフケース12の外周側にリングギヤ16を配設して装置をコンパクトに構成しつつ、第1デフケース12の第1接合部が第2デフケース14の第2接合部よりも外周側に位置する状態で溶接接合することが可能となり、第1デフケース12とリングギヤ16との間の伝達トルク容量を十分に確保することができる。
【0031】
また、本実施例では、第1デフケース12および第2デフケース14が何れも鍛造加工を主体として所定形状に形成されているため、鋳造に比較して溶接接合が容易(割れ難い)で溶接により適切に一体化できるとともに、強度が高くて薄肉化や軽量化を図ることができる。」

・図1の図示内容及び技術常識から、「外向きフランジ42」は「径方向に外方に向いた外周面を有する」といえる。

したがって、上記引用例1には、実施例1に係る具体例に注目し、本願発明1に倣って整理すると、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
「差動機構24のためのデフケースであって、
中心線O周りに回転可能であって前記差動機構24を支持する第1デフケース12であって、前記中心線O周りに円筒面をなす大径部20の外周面と、前記大径部20の外周側から径方向に突出し、中心線O方向に向いた外向きフランジ42の側面と径方向の中間位置に形成された貫通穴44と径方向に外方に向いた外周面とを有した外向きフランジ42と、を備えた第1デフケース12と、
前記第1デフケース12に組み付けられて前記差動機構24を収容する第2デフケース14であって、前記外向きフランジ42の径方向の中間位置に形成された貫通穴44内に挿入される接合突部40が蓋部30の外周部に設けられ、接合突部40の突出寸法が外向きフランジ42の肉厚と略同じであるため、第2デフケース14の蓋部30が第1デフケース12の先端面に密着するように組み付けられることにより、接合突部40の先端は外向きフランジ42の反対側の面と略面一になる第2デフケース14と、
前記大径部20の外周側に嵌合する円筒部46の内周面と、前記外向きフランジ42の側面に少なくとも部分的に当接する円筒部46の先端面と、前記中心線O周りの回転がドライブピニオン50から伝達されるための例えばハイポイドギヤとを備えたリングギヤ16と、
前記第1デフケース12、前記第2デフケース14および前記リングギヤ16を一体的に溶接接合する溶接接合部Wと、
を備え、
前記第1デフケース12の前記外向きフランジ42の貫通穴44よりも外周側部分42aの側面および前記第2デフケース14の前記接合突部40の先端面が、前記リングギヤ16の前記円筒部46の先端面と略面接触する状態でその対面部分において外周側からレーザビーム溶接が施されることにより適切に溶接接合される、
デフケース。」

2.引用例2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用例2には、図面とともに次の事項が記載されている。

・「(1)厚肉鋼材を突合せて両面溶接するに当り、開先のルートフエイス部をレーザー溶接した後、常法に従って表面溶接及び裏面溶接を行なうことを特徴とする厚肉鋼材の突合せ両面溶接法。
(2)特許請求の範囲第1項において、厚肉鋼材の突合せ部を、H型、X型又はK型の開先で溶接する方法。
(3)特許請求の範囲第1又は2項において、ルートフエイスを1?3mmにして溶接する方法。
(4)特許請求の範囲第1、2又は3項において、厚肉鋼材を予熱して溶接する方法。」(特許請求の範囲)

・「第1?4図は本発明を採用した溶接工程を例示する要部断面説明図で、厚肉母材A及びBの突合せ部をH字状に開先加工して溶接する場合を示している。即ち本発明では厚肉母材A及びBのルートフエイス部A1及びB1を突合わせ(第1図)、表側或は裏側からレーザー溶接を行なう(第2図)。レーザー溶接とは、周知の通りレーザー光線を集中レンズによつて一点に集中させ、この部分に発生する熱を利用して溶接するもので、厚肉母材の突合せ部の比較的奥深い位置になるルートフエイス部に対しても、溶接熱を容易且つ確実に集中させることができる。従つて他の開先部に熱影響を及ぼすことなく、ルートフエイス部のみを確実に溶接することができ、しかも裏だれ等も殆んど起こらない。尚レーザー溶接では、先に述べた如く総溶接入熱が比較的少ないから、開先面を予め予熱して溶接すれば一層好ましい結果が得られる。
その後常法に従つて裏面(図では下側)溶接(第3図)及び表面(図では上側)溶接(第4図)を行なうが、ルートフエイス部の溶接が既に終了しているから、裏面溶接で表側の開先奥部に裏だれが生じる恐れもない。従つてその後ガウジング処理することなく(よつて中間焼鈍及びグラインダ処理も不要)、直ちに表側溶接を行なうことができる。この結果ガウジング処理、中間焼鈍及びグラインダ処理に要する労力と時間が解消され、溶接能率を大幅に向上し得ることになつた。しかも中間焼鈍の為の大規模な熱処理設備も不要であるから、設備面においてもまたその運転、維持費の面からしても経済的な負担を著しく軽減できる。
尚本発明においてルートフエイス部をレーザー溶接した後の表・裏面の溶接手段は格別限定されず、公知のMIG溶接法、サブマージアーク溶接法、TIG溶接法、エレクトロスラグ溶接法等を適宜採用することができ、また溶接姿勢についても、下側開先部を上向溶接し上側開先部を下向溶接する方法、或は一方の開先部を下向溶接した後母材を反転して他方の開先部も下向溶接する方法等を適宜採用することができる。また第1?4図では開先形状をH型にした場合を示したが、第5,6図に示す如くX型或はK型の開先形状を採用した場合もまつたく同様で、要はレーザー溶接が可能な程度の比較的短いルートフエイスを有する限り開先形状は適宜変更することができる。この場合のルートフエイスの幅は1?3mmが最も好ましく、1mm未満では開先加工が困難になり、一方3mmを越えるとレーザーの出力が大きくなりすぎる傾向がある。」(2頁左下欄7行-3頁左上欄14行)

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
その機能・構造等からして、引用発明1の「差動機構24」は本願発明1の「デファレンシャルギア組」に相当し、同様に、「デフケース」は「ケース」に、「中心線O」は「軸」に、「第1デフケース12」は「キャリア」に、「大径部20の外周面」は「嵌合面」に、「外向きフランジ42の側面」は「当接面」に、「外向きフランジ42」は「フランジ」に、「第1デフケース12に組み付けられて」は「キャリアと組み合わせて」に、「差動機構24を収容する」は「デファレンシャルギア組を収容する室を画する」に、「第2デフケース14」は「カバー」に、「円筒部46の内周面」は「内周面」に、「円筒部46の先端面」は「背面」に、「中心線O周りの回転がドライブピニオン50から伝達される」は「軸周りのトルクを受容する」に、「例えばハイポイドギヤ」は「ギア歯」に、「リングギヤ16」は「リングギア」に、「一体的に溶接接合する」は「一体に結合する」に、「溶接接合部W」は「溶接金属」に、それぞれ相当する。

また、本願発明1の「カバー」の「前記フランジの外周に嵌合するべく軸方向に突出してその端面を前記当接面と軸方向に揃わせるように寸法づけられ且つその内周面を前記フランジの前記外周面に密に接するように寸法づけられた縁部を備えた」態様と、引用発明1の「第2デフケース14」の「前記外向きフランジ42の径方向の中間位置に形成された貫通穴44内に挿入される接合突部40が蓋部30の外周部に設けられ、接合突部40の突出寸法が外向きフランジ42の肉厚と略同じであるため、第2デフケース14の蓋部30が第1デフケース12の先端面に密着するように組み付けられることにより、接合突部40の先端は外向きフランジ42の反対側の面と略面一になる」態様とは、「軸方向に突出してその端面を前記当接面と軸方向に揃わせるように寸法づけられた部分を備えた」点において一致している。
そして、本願発明1の「前記キャリアの前記当接面、前記カバーの前記端面および前記リングギアの前記背面の何れか一以上は、外方に露出して前記背面と前記当接面との界面に達する環状の開先を保持するべく寸法づけられ、前記溶接金属は前記開先を埋めている」態様と、引用発明1の「前記第1デフケース12の前記外向きフランジ42の貫通穴44よりも外周側部分42aの側面および前記第2デフケース14の前記接合突部40の先端面が、前記リングギヤ16の前記円筒部46の先端面と略面接触する状態でその対面部分において外周側からレーザビーム溶接が施されることにより適切に溶接接合される」態様とは、「所定の溶接の態様」の点において一致している。

したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「デファレンシャルギア組のためのケースであって、
軸周りに回転可能であって前記デファレンシャルギア組を支持するキャリアであって、前記軸周りに円筒面をなす嵌合面と、前記嵌合面から径方向に突出し、軸方向に向いた当接面と径方向に外方に向いた外周面とを有したフランジと、を備えたキャリアと、
前記キャリアと組み合わせて前記デファレンシャルギア組を収容する室を画するカバーであって、軸方向に突出してその端面を前記当接面と軸方向に揃わせるように寸法づけられた部分を備えたカバーと、
前記嵌合面に嵌合する内周面と、前記当接面に少なくとも部分的に当接する背面と、前記軸周りのトルクを受容するためのギア歯とを備えたリングギアと、
前記キャリア、前記カバーおよび前記リングギアを一体に結合する溶接金属と、
を備え、
所定の溶接の態様を有する、
ケース。」

(相違点)
(相違点1) 「カバー」及び「第2デフケース14」における「軸方向に突出してその端面を前記当接面と軸方向に揃わせるように寸法づけられた部分」に関し、本願発明1は、「前記フランジの外周に嵌合するべく軸方向に突出してその端面を前記当接面と軸方向に揃わせるように寸法づけられ且つその内周面を前記フランジの前記外周面に密に接するように寸法づけられた縁部を備えた」のに対し、引用発明では、「前記外向きフランジ42の径方向の中間位置に形成された貫通穴44内に挿入される接合突部40が蓋部30の外周部に設けられ、接合突部40の突出寸法が外向きフランジ42の肉厚と略同じであるため、第2デフケース14の蓋部30が第1デフケース12の先端面に密着するように組み付けられることにより、接合突部40の先端は外向きフランジ42の反対側の面と略面一になる」点。

(相違点2) 「所定の溶接の態様を有する」点に関し、本願発明1は、「前記キャリアの前記当接面、前記カバーの前記端面および前記リングギアの前記背面の何れか一以上は、外方に露出して前記背面と前記当接面との界面に達する環状の開先を保持するべく寸法づけられ、前記溶接金属は前記開先を埋めている」のに対し、引用発明では、「前記第1デフケース12の前記外向きフランジ42の貫通穴44よりも外周側部分42aの側面および前記第2デフケース14の前記接合突部40の先端面が、前記リングギヤ16の前記円筒部46の先端面と略面接触する状態でその対面部分において外周側からレーザビーム溶接が施されることにより適切に溶接接合される」点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1及び2について、そのうちの、引用発明では、「前記外向きフランジ42の径方向の中間位置に形成された貫通穴44内に挿入される接合突部40が蓋部30の外周部に設けられ」ていること、及び「前記第1デフケース12の前記外向きフランジ42の貫通穴44よりも外周側部分42aの側面および前記第2デフケース14の前記接合突部40の先端面が、前記リングギヤ16の前記円筒部46の先端面と略面接触する状態でその対面部分において外周側からレーザビーム溶接が施されることにより適切に溶接接合される」こと(以下「構成A」という。)について、検討すると、引用例1の段落【0009】には【発明の効果】として「また、差動機構を支持していてリングギヤとその差動機構との間のトルク伝達を行う第1デフケースの第1接合部が、トルク伝達しない第2デフケースの第2接合部よりも外周側に位置しているため、溶接接合強度が同じであっても径差分だけ第1デフケースとリングギヤとの間の伝達トルク容量が大きくなり、第2デフケースの第2接合部を外周側に位置させて溶接接合する場合に比較して強度的に有利であるとともに、トルク伝達が行われる第1デフケースとリングギヤとの溶接状態を外部から目視で確認することが可能で信頼性が向上する。」と記載され、さらに具体的に、段落【0029】に「ピニオンギヤ26を支持していてリングギヤ16と差動機構24との間のトルク伝達を行う第1デフケース12の第1接合部、すなわち外向きフランジ42の貫通穴44よりも外周側の部分42aが、第2デフケース14の第2接合部すなわち貫通穴44内に挿入される接合突部40よりも外周側に位置しているため、溶接接合強度が同じであっても径差分だけ第1デフケース12とリングギヤ16との間の伝達トルク容量が大きくなり、第2デフケース14の第2接合部を外周側に位置させて溶接接合する場合に比較して強度的に有利であるとともに、トルク伝達が行われる第1デフケース12とリングギヤ16との溶接状態を外部から目視で確認することが可能で信頼性が向上する。」と記載されているから、引用発明の構成Aをして相違点1に係る本願発明1の構成とする動機づけがあるとはいえない。さらに、仮に、引用発明の構成Aをして相違点1に係る本願発明1の構成とするべく、例えば、引用発明の第2デフケース14の接合突部40を第1デフケース12の外向きフランジ42の外周側に位置させるようにした場合は、まさに引用例1の段落【0029】に記載された「第2デフケース14の第2接合部を外周側に位置させて溶接接合する場合」に当たり、かかる引用例1の記載によれば、引用発明よりも強度的に不利であるのみならず、外周側では第2デフケース12とリングギヤ16とが接触するのであるから、トルク伝達が行われる第1デフケース12とリングギヤ16との溶接状態を外部から目視で確認することが可能とはいえず、信頼性の点でも不利といえるので(引用例1の段落【0009】及び【0029】の前記記載を参照。)、むしろそのようにする阻害要因があるといえる。
また、相違点1に係る本願発明1の「前記フランジの外周に嵌合するべく軸方向に突出してその端面を前記当接面と軸方向に揃わせるように寸法づけられ且つその内周面を前記フランジの前記外周面に密に接するように寸法づけられた縁部を備えた」構成は、引用例2にも開示されていないところ、本願の明細書の段落【0019】に記載された「縁部の内周面55は、フランジの外周面35に密に接するべく寸法づけられ、以ってキャリア3とカバー5とが径方向に位置決めされる」効果を奏するものであるから、当該構成とすることが単なる設計的事項であるともいえない。
そのうえ、仮に、開先溶接に係る技術的事項が引用例2に記載されているように周知の技術的事項であるとしても、上記相違点2に係る構成の引用発明に、当該周知技術を適用する動機づけがあるとはいえない。
そして、本願の明細書の段落【0031】に「溶接は、例えばレーザー溶接によることができる。図5ないし図10のごとくキャリア3、カバー5およびリングギア7を互いに組み合わせ、その周方向外側から内側に向け、開先15A-15Fの内部にフォーカスしてレーザーを照射し、同時にキャリア3、カバー5およびリングギア7を一体に回転せしめる。すると、図11のごとく開先15A-15Fの内部に溶接金属15Wが溶け込み、3者が互いに接合される。」と記載され、同段落【0034】に「本実施形態によれば、キャリア3とリングギア7とが溶接により直接に接合される。トルクはリングギア7から入力されてキャリア3に伝達されるが、リングギア7がキャリア3に直接に接合され、専ら溶接部がトルクの伝達を担う」と記載されているように、本願発明1においては、相違点2に係る「溶接金属は前記開先を埋めている」溶接の態様であることから、相違点1に係る「(キャリアの)フランジの前記外周面に密に接するように寸法づけられた縁部を備えたカバー」の構成とし得たともいえる。
そうすると、引用発明をして相違点1及び2に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

したがって、本願発明1は、引用発明並びに引用例1及び2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5は、本願発明1を減縮した発明であるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明並びに引用例1及び2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし5は、引用発明並びに引用例1及び2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-12-23 
出願番号 特願2017-530535(P2017-530535)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 塚本 英隆鷲巣 直哉  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 尾崎 和寛
田村 嘉章
発明の名称 デファレンシャルケース  
代理人 三好 秀和  

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