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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B05C
管理番号 1358063
審判番号 不服2019-14906  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-06 
確定日 2020-01-07 
事件の表示 特願2017-127416「塗工装置及び塗工膜の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月 1日出願公開、特開2018-167254、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成29年6月29日(優先権主張 平成29年3月29日)の出願であって、平成31年2月15日付けで拒絶理由通知がされ、同年4月23日付けで手続補正がされ、令和1年8月2日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年11月6日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 原査定の概要

原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1-3に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2015-128772号公報


第3 本願発明

本願請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、出願時の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりである。

「【請求項1】
相対的に移動する被塗工物に塗工液を塗工する塗工ローラであって、外周面に凹部を有する塗工ローラと、
チャンバーを有し前記塗工ローラの外周面の少なくとも前記凹部に前記チャンバー内の前記塗工液を供給する供給部とを備え、
前記塗工ローラを回転させつつ、前記凹部に供給された塗工液を前記被塗工物に接触させることにより、前記塗工液を前記被塗工物に塗工して塗工膜を形成するように構成され、
前記供給部は、前記塗工液を擦り切るように前記チャンバーから前記塗工ローラの外周面に向けて突出し、且つ、前記塗工ローラに圧接されている第1のブレード部材と、該第1のブレード部材よりも前記塗工ローラの回転方向上流側にて前記塗工液の漏出を抑制するように前記チャンバーから前記塗工ローラの外周面に向けて突出し、且つ、前記塗工ローラに圧接されている第2のブレード部材とを備え、
前記塗工ローラの軸方向に沿って視たとき、前記塗工ローラに圧接されていない状態での前記第2のブレード部材の突出方向に沿った前記第2のブレード部材の基端と前記塗工ローラとの間の距離よりも、前記第2のブレード部材の前記基端から先端までの長さの方が、0.1?5mm長く構成された、塗工装置。
【請求項2】
前記第1のブレード部材と前記塗工ローラとの接触部分よりも、前記チャンバー内の前記塗工液の最上部の方が高く位置するように構成された、請求項1に記載の塗工装置。
【請求項3】
相対的に移動する被塗工物に塗工液を塗工する塗工ローラであって、外周面に凹部を有する塗工ローラを回転させつつ、前記凹部に供給された塗工液を前記被塗工物に接触させることにより、前記塗工液を前記被塗工物に塗工して塗工膜を形成する塗工工程を備え、
前記塗工工程は、
チャンバーを有し前記塗工ローラの外周面の少なくとも前記凹部に前記チャンバー内の前記塗工液を供給する供給部を用い、前記塗工ローラの外周面の少なくとも前記凹部に、前記チャンバー内の前記塗工液を供給する供給工程を有し、
前記供給部は、前記塗工液を擦り切るように前記チャンバーから前記塗工ローラの外周面に向けて突出し、且つ、前記塗工ローラに圧接されている第1のブレード部材と、該第1のブレード部材よりも前記塗工ローラの回転方向上流側にて前記塗工液の漏出を抑制するように前記チャンバーから前記塗工ローラの外周面に向けて突出し、且つ、前記塗工ローラに圧接されている第2のブレード部材とを備え、
前記塗工ローラの軸方向に沿って視たとき、前記塗工ローラに圧接されていない状態での前記第2のブレード部材の突出方向に沿った前記第2のブレード部材の基端と前記塗工ローラとの間の距離よりも、前記第2のブレード部材の前記基端から先端までの長さの方を、0.1?5mm長くする、塗工膜の製造方法。」


第4 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明

1 引用文献1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は合議体が付したものである。)

「【請求項1】
外周面に多数の微細なセルを有し、回転動作により上記セル内の塗工液をシート材に転写する版胴と、
上記塗工液を貯溜する液溜部を有し、上記版胴の外周面の一部を上記塗工液に浸すように上記液溜部に収容配置し、上記塗工液を上記液溜部に対して流出入させる流入通路及び流出通路が上記液溜部の一端側と他端側とに離間して設けられた塗工チャンバーと、
上記液溜部に貯溜された塗工液を上記流入通路及び流出通路を介して循環させる塗工液循環手段と、
上記塗工チャンバーの流入通路側に設けられ、プレート先端が上記版胴の外周面に摺接して上記液溜部の版胴回転方向上流側をシールするシールプレートと、
上記塗工チャンバーの流出通路側に設けられ、ブレード先端が上記版胴の外周面に摺接して上記液溜部の版胴回転方向下流側をシールするとともに、上記版胴が上記ブレード先端を通過する際に塗工液を上記セル以外に付着しないように掻き取るドクターブレードとを備えた塗工装置であって、
上記塗工液循環手段は、上記ドクターブレードのブレード先端と上記版胴の外周面との摺接箇所が上記液溜部内の塗工液に常時浸されるように塗工液を循環させ、且つ、上記液溜部を循環する塗工液を上記ドクターブレードのブレード先端よりも上方の位置において大気に開放させるように構成されていることを特徴とする塗工装置。
【請求項2】
請求項1に記載の塗工装置であって、
上記流出通路は、上記液溜部の上側に設けられ、且つ、上下方向に延び、
上記流出通路の上端開口には、上記液溜部の塗工液を排出する排出配管が接続され、
該排出配管における上記排出通路との接続部分寄りの位置には、上記排出配管の内部と外部とを連通させて上記液溜部を循環する塗工液を大気に開放させる連通部が形成されていることを特徴とする塗工装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の塗工装置であって、
上記塗工液循環手段は、上記液溜部の全領域が満たされるように塗工液を循環させることを特徴とする塗工装置。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、シート材に塗工液を塗工する塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一般的な塗工装置は、特許文献1に開示されているように、外周面に多数の微細なセルを有する版胴と、塗工液を貯溜する液溜部を有する塗工チャンバーとを備えていて、上記液溜部内の塗工液を塗工液循環装置で循環させつつ、上記版胴を回転させて当該版胴の外周面に上記液溜部内の塗工液を付着させ、セル以外に付着した余分な塗工液をドクターブレードにより除去した版胴の外周面をシート材に接触させることにより、上記セル内の塗工液を上記シート材に転写するようにしている。
【0003】
そして、上記塗工装置の液溜部は、下側部分が塗工液で満たされる一方、上側部分が空気層になっていて、上記ドクターブレードのブレード先端が上記版胴の外周面と接触した状態で常時液溜部の空気層に晒される構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4171223号(段落0011?0016欄、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、塗工装置には、版胴のセル内に気泡が混入すると塗工液をシート材へ転写する際に塗工ムラが生じてしまうという課題がある。
【0006】
そこで、塗工液をシート材へ転写する前にセル内の気泡を無くす必要があるが、多くの塗工装置では、版胴を回転させながら上記セルを液溜部の塗工液に浸している途中の段階で順次上記セル内の気泡と塗工液との置換が行われるものと考えられていて、上記ドクターブレードは、セル以外に付着した余分な塗工液を除去するだけのものと考えられていた。
【0007】
これに対し、本発明者等は、版胴を回転させながら上記セルを上記液溜部内の塗工液に浸している途中の段階において順次セル内の気泡と塗工液とを置換するという考え方だけではなく、セル内の気泡と塗工液との置換にドクターブレードのブレード先端周辺に位置するセルも活用できないかということに着目して研究を進めた。即ち、セルがドクターブレードのブレード先端を通過する際、或いは、通過する直前の段階でもセル内における気泡と塗工液との置換を促進できないかという観点で検討を行った。
【0008】
そして、本発明者等は、特許文献1の如きドクターブレードのブレード先端を空気層に晒すという考え方を根本的に見直し、液溜部内を循環する塗工液の流量を増やして液溜部内を塗工液で充満させ、ドクターブレードのブレード先端を液溜部内の塗工液に常時浸すということを試みた。すると、ドクターブレードのブレード先端周辺の圧力が高くなり、ドクターブレードのブレード先端周辺におけるセル内の気泡と塗工液との置換が促進されるという知見を得るに至った。
【0009】
しかし、上述の構成では、液溜部内の圧力が高くなり過ぎてしまい、版胴の外周面と液溜部開口周縁との間のシール部分から塗工液が漏れてしまうことが懸念された。また、塗工液の流量が増えることにより液溜部内及び排出通路が満たされてしまうと、サイフォン現象により、液溜部内の圧力が下がってしまい、液溜部内を高圧状態に保てず、かえってセル内の気泡と塗工液との置換を促進させることができなくなってしまうこともあった。
【0010】
つまり、本発明者等は、液溜部内を循環する塗工液の流量を単に増やして上記液溜部内の圧力を高くするだけではうまくいかないことを理解した。
【0011】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、版胴と塗工チャンバーとの間からの塗工液の液漏れを防ぎ、且つ、セル内の気泡と塗工液との置換を促進させることができ、セル内の気泡を無くして高品質なシート材への塗工が可能な塗工装置を提供することにある。」

「【発明の効果】
【0017】
第1又は第2の発明では、液溜部の塗工液に常時浸されるドクターブレードに向かって液溜部内の塗工液が版胴の回転に連れ回されて流れるので、液溜部の塗工液の圧力分布がドクターブレード先端周辺で最も高くなり、セルがブレード先端を通過する際に、万が一セル内に気泡が含まれていたとしても、ドクターブレード周辺の高圧状態の塗工液とセルに含まれる気泡とが効果的に置換されるようになり、塗工液のシート材への転写の際に塗工ムラを防ぐことができる。また、液溜部の塗工液は大気に開放されているので、液溜部内を循環させる塗工液の流量を増やしても液溜部内の全体の圧力が高くなり過ぎるといった事態が起こらず、版胴の外周面と液溜部開口周縁との間のシール部分から塗工液が漏れるのを防ぐとともに、サイフォン現象の発生を防いでドクターブレードのブレード先端周辺を高圧状態に保つことができ、気泡と塗工液との置換を促進させることができる。
【0018】
第3の発明では、液溜部に空気層がないので、装置の作動時における振動や版胴の回転による塗工液の拡散作用等によって液溜部内の塗工液の液面が波打たなくなる。したがって、塗工液の液面の波打ちによって引き起こされる塗工液内への気泡の混入を防ぎ、セル内への気泡の混入を防ぐことができる。」

「【0021】
図1乃至図3は、本発明の実施形態に係る塗工装置1を示す。ここで塗工とは、印刷又はコーティングを含む概念を示している。上記塗工装置1は、シート材10にグラビア印刷を行うためのものであり、外周面2aに多数の微細なセル2b(図3にのみ示す)を有する版胴2と、該版胴2の上方から上記版胴2にシート材10を圧着させる圧胴3とを備え、上記版胴2の外周面2a及び圧胴3の外周面3aで上記シート材10を挟み込むとともに上記版胴2及び圧胴3の回転動作により上記シート材10を上記版胴2と上記圧胴3との間を移動させながらセル2b内の塗工液Lをシート材10に転写するようになっている。」

「【0023】
上記版胴2の側方には、上記版胴2の外周面2aに沿って版胴回転軸方向に延びる略直方体形状の塗工チャンバー4が配置されている。該塗工チャンバー4は、塗工液Lを貯溜する液溜部40を有し、上記塗工液Lに浸すように上記液溜部40に上記版胴2の外周面2aの一部を収容している。」

「【0031】
上記塗工チャンバー4の下部(第1流入通路41側)には、板状をなす樹脂製シールプレート5が上記液溜部40の開口下端側周縁から上方に向かって突設されていて、該シールプレート5先端が上記版胴2の外周面2aに摺接して上記第1液溜部40aの版胴回転方向上流側をシールするようになっている。
【0032】
一方、上記塗工チャンバー4の上部(第1流出通路42側)には、板状をなすステンレス製ドクターブレード6が液溜部40の開口上端側周縁から下方に向かって突設されていて、該ドクターブレード6先端が上記版胴2の外周面2aに摺接して上記第2液溜部40bの版胴回転方向下流側をシールするようになっている。
【0033】
さらに、上記塗工チャンバー4の版胴回転軸方向両端部には、一対の樹脂製サイドシール9(図2にのみ示す)が取り付けられていて、各サイドシール9の先端が上記版胴2の外周面2aと摺接して版胴2の回転軸方向両端部をシールするようになっている。
【0034】
そして、上記シールプレート5、ドクターブレード6及びサイドシール9で上記版胴2の外周面2aと液溜部40の開口との間がシールされることにより上記液溜部40が密閉構造になっている。」

「【0068】
また、本発明の実施形態では、インナープレート7を設けているが、当該インナープレート7がない構造としてもよい。そして、それに伴って、第2流入通路44、第2流出通路43、第2供給配管85、第2排出配管87及び第2ポンプ83を省略してもよい。」





2 引用文献1に記載された発明

上記1の記載から、引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。

「外周面に多数の微細なセルを有し、回転動作により上記セル内の塗工液をシート材に転写する版胴と、
上記塗工液を貯溜する液溜部を有し、上記版胴の外周面の一部を上記塗工液に浸すように上記液溜部に収容配置し、上記塗工液を上記液溜部に対して流出入させる流入通路及び流出通路が上記液溜部の一端側と他端側とに離間して設けられた塗工チャンバーと、
上記液溜部に貯溜された塗工液を上記流入通路及び流出通路を介して循環させる塗工液循環手段と、
上記塗工チャンバーの流入通路側に設けられ、プレート先端が上記版胴の外周面に摺接して上記液溜部の版胴回転方向上流側をシールするシールプレートと、
上記塗工チャンバーの流出通路側に設けられ、ブレード先端が上記版胴の外周面に摺接して上記液溜部の版胴回転方向下流側をシールするとともに、上記版胴が上記ブレード先端を通過する際に塗工液を上記セル以外に付着しないように掻き取るドクターブレードとを備えた塗工装置であって、
上記塗工液循環手段は、上記ドクターブレードのブレード先端と上記版胴の外周面との摺接箇所が上記液溜部内の塗工液に常時浸されるように塗工液を循環させ、且つ、上記液溜部を循環する塗工液を上記ドクターブレードのブレード先端よりも上方の位置において大気に開放させるように構成されている、塗工装置。」(以下、「引用例装置発明」という。)

「版胴の外周面に多数の微細なセルを有し、回転動作により上記セル内の塗工液をシート材に転写する塗工工程を有し、
前記塗工工程は、
塗工チャンバーに有する、上記塗工液を貯溜する液溜部により、上記版胴の外周面の一部を上記塗工液に浸す工程を有し、
上記塗工チャンバーは、プレート先端が上記版胴の外周面に摺接して上記液溜部の版胴回転方向上流側をシールするシールプレートと、ブレード先端が上記版胴の外周面に摺接して上記液溜部の版胴回転方向下流側をシールするとともに、上記版胴が上記ブレード先端を通過する際に塗工液を上記セル以外に付着しないように掻き取るドクターブレードとを備えているものである、塗工膜の製造方法。」(以下、「引用例方法発明」という。)


第5 対比・判断

1.本願発明1について

本願発明1と引用例装置発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用例装置発明の「版胴」、版胴の外周面に有する「微細なセル」、「塗工チャンバー」はそれぞれ、本願発明1の「塗工ローラ」、塗工ローラの外周面に有する「凹部」、「チャンバー」に相当する。
また、引用例装置発明の「液溜部」は、版胴の外周面の一部を塗工液に浸すようにする、つまり、版胴の外周面に有する微細なセルを塗工液に浸すものであるから、本願発明1の、塗工ローラの外周面の少なくとも凹部にチャンバー内の塗工液を供給する「供給部」に相当することは明らかである。
さらに、引用例装置発明の、ブレード先端が版胴の外周面に摺接して液溜部の版胴回転方向下流側をシールするとともに、版胴が上記ブレード先端を通過する際に塗工液をセル以外に付着しないように掻き取る「ドクターブレード」、プレート先端が版胴の外周面に摺接して液溜部の版胴回転方向上流側をシールする「シールプレート」はそれぞれ、図3における符号5、6の配置から見ても、本願発明1の、塗工液を擦り切るようにチャンバーから塗工ローラの外周面に向けて突出し、且つ、塗工ローラに圧接されている「第1のブレード部材」、第1のブレード部材よりも塗工ローラの回転方向上流側にて塗工液の漏出を抑制するようにチャンバーから塗工ローラの外周面に向けて突出し、且つ、塗工ローラに圧接されている「第2のブレード部材」に相当する。
また、引用例装置発明の塗工装置は、回転動作により版胴の外周面に設けられたセル内の塗工液をシート材に転写するものであるから、「相対的に移動する被塗工物に塗工液を塗工する」ものであって、「前記塗工ローラを回転させつつ、前記凹部に供給された塗工液を前記被塗工物に接触させることにより、前記塗工液を前記被塗工物に塗工して塗工膜を形成する」ものであることも自明である。

してみると、本願発明1と引用例装置発明との間の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「相対的に移動する被塗工物に塗工液を塗工する塗工ローラであって、外周面に凹部を有する塗工ローラと、
チャンバーを有し前記塗工ローラの外周面の少なくとも前記凹部に前記チャンバー内の前記塗工液を供給する供給部とを備え、
前記塗工ローラを回転させつつ、前記凹部に供給された塗工液を前記被塗工物に接触させることにより、前記塗工液を前記被塗工物に塗工して塗工膜を形成するように構成され、
前記供給部は、前記塗工液を擦り切るように前記チャンバーから前記塗工ローラの外周面に向けて突出し、且つ、前記塗工ローラに圧接されている第1のブレード部材と、該第1のブレード部材よりも前記塗工ローラの回転方向上流側にて前記塗工液の漏出を抑制するように前記チャンバーから前記塗工ローラの外周面に向けて突出し、且つ、前記塗工ローラに圧接されている第2のブレード部材とを備えた、塗工装置」

<相違点>
・相違点1
第2のブレード部材の長さに関して、本願発明1は、「前記塗工ローラの軸方向に沿って視たとき、前記塗工ローラに圧接されていない状態での前記第2のブレード部材の突出方向に沿った前記第2のブレード部材の基端と前記塗工ローラとの間の距離よりも、前記第2のブレード部材の前記基端から先端までの長さの方が、0.1?5mm長く構成された」ものであるのに対し、引用例装置発明にはそのような特定がない点。

相違点1について検討する。

引用文献1には、「シールプレート(第2のブレード部材)」の長さについては何ら記載がない。そして、「シールプレート(第2のブレード部材)」の長さが、塗工ローラに圧接されていない状態でのシールプレート(第2のブレード部材)の突出方向に沿った、シールブレード(第2のブレード部材)の基端と塗工ローラとの間の距離よりも、シールブレード(第2のブレード部材)の基端から先端までの長さの方が、0.1?5mm長くすることが、当該技術分野において自明あるいは周知の技術であったものといえる根拠もない。
もっとも、塗工ローラに圧接されていない状態でのシールプレート(第2のブレード部材)の突出方向に沿った、シールブレード(第2のブレード部材)の基端と塗工ローラとの間の距離(以下、単に「基端と塗工ローラの距離」という。と、シールブレード(第2のブレード部材)の基端から先端までの長さ(以下、単に「基端から先端までの長さ」という。)が同じである場合、シール性が劣る(このことは、本願の試験例における、W-Lが0mmの例からも明らか)ため、基端と塗工ローラの距離よりも、基端から先端までの長さのほうが長くなるであろうことは、当該技術分野において自明であるものと考えられる。
しかしながら、本願発明1は、段落【0009】、【0057】や、試験例1、2で示されているように、基端と塗工ローラの距離よりも、基端から先端までの長さのほうを長くするものの、その長さは短いものとする方が、第2のブレード部材と塗工ローラとの間から塗工液に気泡が混入することが抑制される、との効果を奏するものであり、この効果は、引用文献1には記載も示唆もされておらず、かつ、当該技術分野において自明の効果であったものということもできない。
してみれば、本願発明1は、当業者であっても、引用例装置発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2について

本願発明2も、本願発明1の「前記塗工ローラの軸方向に沿って視たとき、前記塗工ローラに圧接されていない状態での前記第2のブレード部材の突出方向に沿った前記第2のブレード部材の基端と前記塗工ローラとの間の距離よりも、前記第2のブレード部材の前記基端から先端までの長さの方が、0.1?5mm長く構成された」との同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用例装置発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明3について

本願発明3と引用例方法発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用例方法発明の「版胴」、版胴の外周面に有する「微細なセル」、「塗工チャンバー」はそれぞれ、本願発明3の「塗工ローラ」、塗工ローラの外周面に有する「凹部」、「チャンバー」に相当する。
また、引用例方法発明の「液溜部」は、版胴の外周面の一部を塗工液に浸すようにする、つまり、版胴の外周面に有する微細なセルを塗工液に浸すものであるから、本願発明3の、塗工ローラの外周面の少なくとも凹部にチャンバー内の塗工液を供給する「供給部」に相当することは明らかである。
さらに、引用例方法発明の、ブレード先端が版胴の外周面に摺接して液溜部の版胴回転方向下流側をシールするとともに、版胴が上記ブレード先端を通過する際に塗工液をセル以外に付着しないように掻き取る「ドクターブレード」、プレート先端が版胴の外周面に摺接して液溜部の版胴回転方向上流側をシールする「シールプレート」はそれぞれ、図3における符号5、6の配置から見ても、本願発明3の、塗工液を擦り切るようにチャンバーから塗工ローラの外周面に向けて突出し、且つ、塗工ローラに圧接されている「第1のブレード部材」、第1のブレード部材よりも塗工ローラの回転方向上流側にて塗工液の漏出を抑制するようにチャンバーから塗工ローラの外周面に向けて突出し、且つ、塗工ローラに圧接されている「第2のブレード部材」に相当する。
また、引用例方法発明の塗工装置は、回転動作により版胴の外周面に設けられたセル内の塗工液をシート材に転写するものであるから、「相対的に移動する被塗工物に塗工液を塗工する」ものであって、「前記塗工ローラを回転させつつ、前記凹部に供給された塗工液を前記被塗工物に接触させることにより、前記塗工液を前記被塗工物に塗工して塗工膜を形成する」ものであることも自明である。

してみると、本願発明3と引用例方法発明との間の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「相対的に移動する被塗工物に塗工液を塗工する塗工ローラであって、外周面に凹部を有する塗工ローラを回転させつつ、前記凹部に供給された塗工液を前記被塗工物に接触させることにより、前記塗工液を前記被塗工物に塗工して塗工膜を形成する塗工工程を備え、
前記塗工工程は、
チャンバーを有し前記塗工ローラの外周面の少なくとも前記凹部に前記チャンバー内の前記塗工液を供給する供給部を用い、前記塗工ローラの外周面の少なくとも前記凹部に、前記チャンバー内の前記塗工液を供給する供給工程を有し、
前記供給部は、前記塗工液を擦り切るように前記チャンバーから前記塗工ローラの外周面に向けて突出し、且つ、前記塗工ローラに圧接されている第1のブレード部材と、該第1のブレード部材よりも前記塗工ローラの回転方向上流側にて前記塗工液の漏出を抑制するように前記チャンバーから前記塗工ローラの外周面に向けて突出し、且つ、前記塗工ローラに圧接されている第2のブレード部材とを備えた、塗工膜の製造方法」

<相違点>
・相違点2
第2のブレード部材の長さに関して、本願発明3は、「前記塗工ローラの軸方向に沿って視たとき、前記塗工ローラに圧接されていない状態での前記第2のブレード部材の突出方向に沿った前記第2のブレード部材の基端と前記塗工ローラとの間の距離よりも、前記第2のブレード部材の前記基端から先端までの長さの方が、0.1?5mm長く構成された」ものであるのに対し、引用例方法発明にはそのような特定がない点。

相違点2について検討する。
相違点2は、上記1の相違点1と同じである。
したがって、上記1の検討と同様に、本願発明3は、当業者であっても、引用例方法発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 むすび

以上のとおり、本願発明1-3は、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-12-11 
出願番号 特願2017-127416(P2017-127416)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B05C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鏡 宣宏  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 大畑 通隆
植前 充司
発明の名称 塗工装置及び塗工膜の製造方法  
代理人 特許業務法人藤本パートナーズ  

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