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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1358093
審判番号 不服2018-16211  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-05 
確定日 2020-01-07 
事件の表示 特願2014-144037「偏光性積層フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年2月4日出願公開,特開2016-20955,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2014-144037号(以下「本件出願」という。)は,平成26年7月14日の出願であって,その後の手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成30年 4月25日付け:拒絶理由通知書
平成30年 6月27日付け:意見書
平成30年 6月27日付け:手続補正書
平成30年 8月24日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年12月 5日付け:審判請求書
平成30年12月 5日付け:手続補正書

2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は,概略,本件出願の請求項1?請求項5に係る発明(平成30年6月27日付け手続補正書による補正後のもの)は,本件出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:国際公開第2013/146644号
引用文献2:特開2013-254067号公報
引用文献3:国際公開第2013/191102号
引用文献4:特開2012-173544号公報
引用文献5:特開2013-178356号公報
なお,主引用例は引用文献1であり,引用文献2?引用文献5は周知技術を示す文献として引用されたものである。

3 本願発明
本件出願の請求項1?請求項4に係る発明は,平成30年12月5日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1?請求項4に記載された事項によって特定されるとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
結晶性樹脂で構成され,折り畳み型結晶構造部を含有する基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程と,
前記積層フィルムを120℃以上の温度で乾式延伸して延伸フィルムを得る第1延伸工程と,
前記延伸フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色して偏光子層を形成することにより偏光性積層フィルムを得る染色工程と,
を含み,
前記染色工程は,延伸フィルムを1.5倍以上の倍率で湿式延伸する第2延伸工程を含み,
前記染色工程は,
二色性色素を含有する液に延伸フィルムを浸漬する色素吸着工程と,
架橋剤を含有する第1液に色素吸着工程後の延伸フィルムを浸漬する第1色素固定化工程と,
架橋剤を含有する第2液に第1色素固定化工程後の延伸フィルムを浸漬する第2色素固定化工程と,
を含み,
二色性色素を含有する液及び/又は架橋剤を含有する第1液に浸漬しながら前記第2延伸工程を実施し,
前記積層フィルムに対してなされる延伸の総延伸倍率が4倍以上4.8倍以下である,偏光性積層フィルムの製造方法。

【請求項2】
前記結晶性樹脂は,鎖状ポリオレフィン系樹脂又はポリアミド系樹脂である,請求項1に記載の製造方法。

【請求項3】
前記基材フィルムは,結晶化度が20?90%である,請求項1又は2に記載の製造方法。

【請求項4】
前記第1延伸工程において前記積層フィルムに対してなされる延伸の倍率が,1.5倍以上3倍未満である,請求項1?3のいずれか1項に記載の製造方法。」

第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(国際公開第2013/146644号)は,本件出願前に日本国内又は外国において,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は,偏光子層を有する偏光性積層フィルム又は偏光板の製造中間体として好適に用いることができる積層フィルムに関する。また本発明は,偏光性積層フィルムの製造方法及び偏光板の製造方法に関する。
背景技術
[0002] 偏光板は,液晶表示装置における偏光の供給素子として,また偏光の検出素子として広く用いられている。
…(省略)…
[0003] しかしながら,偏光フィルムは,ポリビニルアルコール系樹脂のフィルム原反(通常,厚み75μm程度)を延伸,染色して製造されており,延伸後のフィルムの厚みは,通常30μm程度である。これ以上の薄膜化は,延伸時のフィルムが破断し易くなる等の生産性の問題があり困難であった。
[0004] そこで,基材フィルム上にポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液を塗工することでポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得た後,これを基材フィルムごと延伸し,次いで染色することによりポリビニルアルコール系樹脂層を偏光子層として,偏光子層を有する積層体(偏光性積層フィルム)や偏光板を製造する方法が提案されている〔例えば,特開2000-338329号公報(特許文献1),特開2009-098653号公報(特許文献2),特開2009-93074号公報(特許文献3)及び特開2011-100161号公報(特許文献4)〕。
…(省略)…
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0006] 上述のような,ポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液の塗工によって基材フィルム上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る工程を含む方法においては,塗工液からなる層(塗工層)が形成された基材フィルムを乾燥させて塗工層中の溶剤を除去する工程が必須となる。しかしながら,乾燥中に,基材フィルムにシワや折れ込み等の欠陥が発生したり,この欠陥部分に塗工液が溜まって乾燥不良が生じたりすることがあった。
[0007] そこで本発明の目的は,ポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液の基材フィルムへの塗工及びこれに続く乾燥によって形成されたポリビニルアルコール系樹脂層を備える積層フィルムであって,基材フィルムに生じ得るシワ又は折れ込み等の欠陥及びこれに伴う塗工層の乾燥不良が十分に抑制されている積層フィルムを提供することにある。
…(省略)…
課題を解決するための手段
[0009] 本発明は,以下のとおりである。
…(省略)…
[0016] [8] 熱可塑性樹脂フィルムを加熱処理して基材フィルムを得る基材フィルム準備工程と,
得られる基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液を塗工した後,乾燥させることによりポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程と,
得られる積層フィルムを一軸延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と,
得られる延伸フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色して偏光子層を形成することにより偏光性積層フィルムを得る染色工程と,
を備え,
前記基材フィルム準備工程は,前記樹脂層形成工程における乾燥温度以上の温度で前記熱可塑性樹脂フィルムを加熱処理する工程を含む,偏光性積層フィルムの製造方法。
…(省略)…
発明の効果
[0022]
…(省略)…
[0023] また本発明によれば,80℃における引張弾性率が140MPa以上である耐熱性に優れた基材フィルムを用いたことにより,上記のような不具合を伴うことなく積層フィルムを製造することができるとともに,この積層フィルムを用いて,延伸性及び染色性を損なうことなく,効率的に偏光性積層フィルム又は偏光板を製造することができる。」

イ 「発明を実施するための形態
[0025] 以下,実施の形態を示して本発明に係る積層フィルム及びその製造方法,並びに,偏光性積層フィルムの製造方法及び偏光板の製造方法について詳細に説明する。
[0026] <積層フィルム>
図1は,本発明に係る積層フィルムの層構成の一例を示す概略断面図である。図1に示される積層フィルム100は,熱可塑性樹脂からなる基材フィルム101と,基材フィルム101上に積層されるポリビニルアルコール系樹脂層102とから構成される。
…(省略)…
[0034] 〔1〕基材フィルム
基材フィルム101は,80℃における引張弾性率が140MPa以上である熱可塑性樹脂からなるフィルムである。塗工層乾燥時における上記のような不具合をより効果的に抑制する観点から,80℃における引張弾性率は,好ましくは150MPa以上であり,より好ましくは155MPa以上である。
…(省略)…
[0071] 〔2〕ポリビニルアルコール系樹脂層
ポリビニルアルコール系樹脂層102は,ポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液を基材フィルム101に塗工した後,乾燥させることによって形成される層であり,延伸工程S30及び染色工程S40を経て偏光子層302となる層である。
…(省略)…
[0075] また,本実施形態の偏光性積層フィルムの製造方法は,下記工程:
80℃における引張弾性率が140MPa以上である熱可塑性樹脂フィルムからなる基材フィルムを準備する基材フィルム準備工程S10,
基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液を塗工した後,乾燥させることによりポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程S20,
得られる積層フィルムを一軸延伸して延伸フィルムを得る延伸工程S30,
得られる延伸フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色して偏光子層を形成することにより偏光性積層フィルムを得る染色工程S40,
をこの順で含む。
…(省略)…
[0077] 以下,S10?S40の各工程についてより詳細に説明する。
〔1〕基材フィルム準備工程S10
本工程は,80℃における引張弾性率が140MPa以上(好ましくは150MPa以上,より好ましくは155MPa以上)である熱可塑性樹脂フィルムからなる基材フィルム101を準備する工程である。上でも触れたが,このような基材フィルム101を得るための有効な方法として,
1)熱可塑性樹脂フィルムを,後の樹脂層形成工程S20における乾燥温度以上の温度で加熱処理する方法,及び
2)熱可塑性樹脂フィルムにおける少なくともポリビニルアルコール系樹脂層が形成される面の表層101aの結晶化度を58%以上(好ましくは59%以上,より好ましくは60%以上)に高める方法,
を挙げることができる。
…(省略)…
[0079] このように,基材フィルム準備工程S10は,熱可塑性樹脂フィルムを後の樹脂層形成工程S20における乾燥温度以上の温度で加熱処理して基材フィルム101を得る工程(以下,「加熱処理工程S10-a」という。),又は,少なくとも上記表層101a(後の樹脂層形成工程S20においてポリビニルアルコール系樹脂層102が形成される面の表層)が,造核剤を含有する結晶性熱可塑性樹脂で構成される熱可塑性樹脂フィルムから
なる基材フィルム101を準備する工程(以下,「造核剤添加工程S10-b」という。)からなることができる。基材フィルム準備工程S10は,加熱処理工程S10-a及び造核剤添加工程S10-bの両方を含んでいてもよい。
…(省略)…
[0082] 樹脂層形成工程S20における乾燥温度以上の温度で熱可塑性樹脂フィルムを加熱処理(アニール)することにより,熱可塑性樹脂フィルムの結晶化が進行して,得られる基材フィルム101の耐熱性が向上する。
…(省略)…
[0105] 〔2〕樹脂層形成工程S20
本工程は,基材フィルム101の少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層102を形成して積層フィルム100を得る工程である。
…(省略)…
[0114] 〔3〕プライマー層形成工程
上述のように,基材フィルム101とポリビニルアルコール系樹脂層102との密着性を向上させるために,基材フィルム準備工程S10と樹脂層形成工程S20との間に,基材フィルム101における上記塗工液が塗工される面にプライマー層を形成する工程を設けてもよい。プライマー層は,プライマー層形成用塗工液を基材フィルム101に塗工した後,乾燥させることにより形成することができる。
…(省略)…
[0132] 〔4〕延伸工程S30
本工程は,基材フィルム101及びポリビニルアルコール系樹脂層102からなる積層フィルム100を一軸延伸して延伸フィルム200を得る工程である(図2参照)。積層フィルム100の延伸倍率は,所望する偏光特性に応じて適宜選択することができるが,好ましくは,積層フィルム100の元長に対して5倍超17倍以下であり,より好ましくは5倍超8倍以下である。延伸倍率が5倍以下であると,ポリビニルアルコール系樹脂層102が十分に配向しないため,染色工程S40を経て得られる偏光子層302の偏光度が十分に高くならないことがある。一方,延伸倍率が17倍を超えると,延伸時にフィルムの破断が生じ易くなるとともに,延伸フィルム200の厚みが必要以上に薄くなり,後工程での加工性及び取扱性が低下するおそれがある。
…(省略)…
[0134] 延伸処理は,フィルム長手方向(フィルム搬送方向)に延伸する縦延伸であることができるほか,フィルム幅方向に延伸する横延伸又は斜め延伸などであってもよい。縦延伸方式としては,ロール間延伸,圧縮延伸などが挙げられ,横延伸方式としては,テンター法などが挙げられる。延伸処理は,湿潤式延伸方法,乾式延伸方法のいずれも採用できるが,乾式延伸方法を用いる方が,延伸温度を広い範囲から選択することができる点で好ましい。
…(省略)…
[0142] なお,染色工程S40を延伸工程S30の前又は同時に行うことも可能であるが,ポリビニルアルコール系樹脂層に吸着させた二色性色素を良好に配向させることができるよう,延伸工程S30における延伸処理の少なくとも一部を実施した後に染色工程S40を実施することが好ましい。この場合における実施態様としては,1)目標の倍率で延伸処理を行った後,延伸処理を伴うことなく染色工程S40を実施する態様,2)目標より低い倍率で延伸処理を行った後,染色工程S40における染色処理(染色工程S40が架橋処理工程を含む場合,染色処理及び/又は架橋処理)中に,トータルの倍率が目標の倍率となるように延伸処理を行う,3)目標より低い倍率で延伸処理を行った後,染色工程S40における染色処理(染色工程S40が架橋処理工程を含む場合,染色処理及び/又は架橋処理)中に,トータルの倍率が目標の倍率に達しない程度まで延伸処理を行い,次いで,トータルの倍率が目標の倍率となるように延伸処理を行う態様等を挙げることができる。
[0143] 染色工程S40は,染色処理に引き続いて実施される架橋処理工程を含むことができる。
…(省略)…
[0182] <実施例1>
(1)基材フィルムの作製
エチレンユニットを約5重量%含むプロピレン/エチレンのランダム共重合体(住友化学(株)製「住友ノーブレン W151」,融点Tm=138℃)からなる樹脂層の両側に,プロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレン(住友化学(株)製「住友ノーブレンFLX80E4」,融点Tm=163℃)からなる樹脂層が配置された3層構造の長尺のポリプロピレン系多層フィルムを,多層押出成形機を用いた共押出成形により作製した。このポリプロピレン系多層フィルムの合計厚みは100μmであり,各層の厚み比(FLX80E4/W151/FLX80E4)は3/4/3であった。
[0183] 次に,上記ポリプロピレン系多層フィルムの加熱処理を行った。具体的にはまず,このポリプロピレン系多層フィルムを搬送しながら,70℃の熱ロールに10秒間程度接触させた後(加熱処理1段目),80℃のオーブン内に1分間(加熱処理2段目),次いで100℃のオーブン内に1分間(加熱処理3段目)滞留させて加熱処理を行い,基材フィルムを得た。本加熱処理工程における加熱処理最大温度は,3段目の100℃である。この基材フィルムにつき,80℃における引張弾性率及び表層の結晶化度を求め,表1に示す結果を得た。
[0184] (2)プライマー層及びポリビニルアルコール系樹脂層の形成(積層フィルムの作製)
ポリビニルアルコール粉末(日本合成化学工業(株)製「Z-200」,平均重合度1100,平均ケン化度99.5モル%)を95℃の熱水に溶解し,濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液に架橋剤(田岡化学工業(株)製「スミレーズレジン650」)をポリビニルアルコールの固形分2重量部に対して1重量部の割合で混合して,プライマー層形成用塗工液を得た。
[0185] また,ポリビニルアルコール粉末((株)クラレ製「PVA124」,平均重合度2400,平均ケン化度98.0?99.0モル%)を95℃の熱水に溶解し,濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液であるポリビニルアルコール系樹脂層形成用の塗工液を調製した。
[0186] 次に,上記(1)で加熱処理が施された基材フィルムを連続的に搬送しながら,その片面にコロナ処理を施し,次いでコロナ処理された面に,マイクログラビアコーターを用いて上記プライマー層用塗工液を連続的に塗工し,80℃で3分間乾燥させることにより,厚み0.2μmのプライマー層を形成した。引き続き,フィルムを搬送しながら,プライマー層上にカンマコーターを用いて上記ポリビニルアルコール系樹脂層形成用の塗工液を連続的に塗工し,90℃で1分間,70℃で3分間,次いで60℃で4分間乾燥させることにより,プライマー層上に厚み10.0μmのポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得た。
[0187] プライマー層形成工程における乾燥時の最大温度は,上述のとおり80℃であり,樹脂層形成工程における乾燥時の最大温度は90℃である。いずれの乾燥工程においても,基材フィルムにシワや折れ込み等の欠陥は生じず,問題なく乾燥を行うことができた。
[0188] (3)延伸フィルムの作製
上記(2)で得られた積層フィルムを連続的に搬送しながら,ロール間空中延伸装置を用いて160℃の延伸温度で縦方向(フィルム搬送方向)に5.8倍の倍率で自由端一軸延伸を施して,延伸フィルムとした。延伸フィルムにおけるポリビニルアルコール系樹脂層の厚みは5.0μmであった。延伸処理において特に不具合は認められなかった。
[0189] (4)偏光性積層フィルムの作製
上記(3)で得られた延伸フィルムを連続的に搬送しながら,60℃の温水浴に滞留時間が60秒間となるように浸漬した後,ヨウ素とヨウ化カリウムとを含む30℃の染色溶液に滞留時間が150秒間程度となるように浸漬してポリビニルアルコール系樹脂層の染色処理を行い,次いで,10℃の純水で余分な染色溶液を洗い流した。引き続き,ホウ酸とヨウ化カリウムとを含む76℃の架橋溶液に滞留時間が600秒間となるように浸漬して架橋処理を行った。その後,10℃の純水で4秒間洗浄し,80℃で300秒間乾燥させることにより偏光性積層フィルムを得た。
[0190] (5)偏光板の作製
ポリビニルアルコール粉末((株)クラレ製「KL-318」,平均重合度1800)を95℃の熱水に溶解し,濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液に架橋剤(田岡化学工業(株)製「スミレーズレジン650」)をポリビニルアルコールの固形分2重量部に対して1重量部の割合で混合し,接着剤溶液とした。
[0191] 次に,上記(4)で得られた偏光性積層フィルムを連続的に搬送しながら,上記接着剤溶液を偏光子層上に塗工した後,貼合面にケン化処理が施されたトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(コニカミノルタオプト(株)製「KC4UY」,厚み40μm)を偏光子層上の接着剤溶液塗工面に貼合し,一対の貼合ロール間に通すことにより圧着して,貼合フィルムを得た。次いで,貼合フィルムから基材フィルムを剥離除去して,偏光子層上に接着剤層を介してTACフィルムからなる保護フィルムが積層された偏光板を得た。このとき,基材フィルムは容易に剥離することができた。
…(省略)…
[0220][表1]

[0221] 表1中,判定の欄にある「OK」と「NG」の意味は,次のとおりである。
OK:基材フィルムが本発明の規定を満たし,シワや折れ込みのような欠陥を生じることなく,問題なく乾燥できる,
NG:基材フィルムが本発明の規定を満たさず,乾燥時にシワや折れ込みが生じて乾燥不良を起こす。」

ウ 「[図1]



(2) 引用発明
引用文献1の[0182]?[0191]には,実施例1の「偏光板の製造工程」が記載されているところ,このうち,[0182]?[0189]までの工程は,「偏光性積層フィルムの製造方法」と理解することができる。また,[0220]の表1からは,実施例1における「基材フィルムの80℃における引張弾性率は192Mpa,表層の結晶化度は64%」であることが理解される。
そうしてみると,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。なお,製造工程を名称で区別することを目的として,各製造工程に「ポリプロピレン系多層フィルム作製工程」等の名称を付した。
「 エチレンユニットを約5重量%含むプロピレン/エチレンのランダム共重合体(住友化学(株)製「住友ノーブレン W151」,融点Tm=138℃)からなる樹脂層の両側に,プロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレン(住友化学(株)製「住友ノーブレンFLX80E4」,融点Tm=163℃)からなる樹脂層が配置された3層構造の長尺のポリプロピレン系多層フィルムを,多層押出成形機を用いた共押出成形により作製する,ポリプロピレン系多層フィルム作製工程,
ポリプロピレン系多層フィルムを搬送しながら,70℃の熱ロールに10秒間程度接触させた後,80℃のオーブン内に1分間,次いで100℃のオーブン内に1分間滞留させて加熱処理を行い,基材フィルムを得る,基材フィルム作製工程,ここで,基材フィルムの80℃における引張弾性率は192Mpa,表層の結晶化度は64%であり,
基材フィルムのコロナ処理を施した面に厚み0.2μmのプライマー層を形成する,プライマー層形成工程,
プライマー層上に厚み10.0μmのポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る,積層フィルム作製工程,
積層フィルムを連続的に搬送しながら,ロール間空中延伸装置を用いて160℃の延伸温度で縦方向に5.8倍の倍率で自由端一軸延伸を施して,延伸フィルムとする,延伸フィルム作製工程,
延伸フィルムを連続的に搬送しながら,60℃の温水浴に滞留時間が60秒間となるように浸漬した後,ヨウ素とヨウ化カリウムとを含む30℃の染色溶液に滞留時間が150秒間程度となるように浸漬してポリビニルアルコール系樹脂層の染色処理を行い,次いで,10℃の純水で余分な染色溶液を洗い流す,染色処理工程,
引き続き,ホウ酸とヨウ化カリウムとを含む76℃の架橋溶液に滞留時間が600秒間となるように浸漬して架橋処理を行う,架橋処理工程,
10℃の純水で4秒間洗浄し,80℃で300秒間乾燥させる,洗浄及び乾燥工程をこの順に具備する,
偏光性積層フィルムの製造方法。」

(3) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2(特開2013-254067号公報)は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
…(省略)…
画像表示装置全体の薄型化を達成するため,光学積層体の薄型化を図ること,中でも,偏光膜の厚みを低減して薄型偏光子とすることの検討がなされている。薄型偏光子を作製する方法としては,例えば,基材とPVA系樹脂層との積層体を高温で補助的に空中延伸した後に,ホウ酸水中で延伸する方法がある(特許文献1)。この方法によれば,基材とPVA系樹脂層との積層体を従来に比べて高倍率に延伸することができ,その結果,薄型偏光膜を作製することができる。
…(省略)…
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-073563号公報」

(4) 引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3(国際公開第2013/191102号)は,本件出願前に日本国内又は外国において,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ,そこには,以下の記載がある。
ア 「背景技術
[0002] 近年,液晶表示装置が,モバイル型のタブレットやスマートフォンに用いられるようになり,薄型化,軽量化が進んでいる。
…(省略)…
[0004]…(省略)…特許文献2には,非晶性エステル系熱可塑性樹脂基体に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層を含むフィルム積層体をMD方向(フィルム搬送方向)に空中延伸して,配向させたポリビニルアルコールに二色性物質を吸着させることにより,薄型偏光膜を含む光学フィルム積層体を製造する方法が開示されている。
…(省略)…
特許文献
[0007]特許文献1:特開2005-266325号公報
特許文献2:特許第4691205号公報」

イ 「[0180] [実施例1]
…(省略)…
[0183] (延伸工程)
10μm厚のPVA層を含む前記積層体を,95℃の(95℃の空気が流れる)オーブン20中の延伸装置に通して,延伸倍率が2倍になるようにMD方向に空中延伸し,PVA層の厚さが5μmの延伸積層体を作製した。なお,延伸中に基材面の温度を,放射温度計で測定したところ,全面に渡って95℃であった。
…(省略)…
[0185] (架橋工程)
前記着色積層体を,架橋工程中に,着色積層体を非晶性PET基材と一体に,さらにMD方向に延伸し,PVA層の厚さが3μmとなり,基材の厚さが42μmとなった。これを洗浄乾燥して,PVA層の厚さが3μm,基材の厚さが42μmの光学フィルム積層体1を作製した。具体的には,前記架橋工程は,着色積層体を4質量%のホウ酸と5質量%のヨウ化カリウムを含む液温65℃のホウ酸水溶液に設定された処理装置に配備された延伸装置にかけ,30?90秒の範囲内の時間をかけて延伸工程前から架橋工程後までの延伸倍率が3.3倍になるようにMD方向に延伸する工程である。」

(5) 特許文献1の記載
引用文献2において「特許文献1」として挙げられた特開2012-073563号公報(以下「特許文献1」という。)は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,次の記載がある。なお,引用文献3において「特許文献2」として挙げられた特許第4691205号公報は,特許文献1に対応する特許掲載公報である。
「【0030】
図20のグラフを参照されたい。これは,本発明者らがこうした研究結果を基礎に創意した本発明の空中高温の延伸倍率と総合延伸倍率(以下,「総延伸倍率」という。)との関係を端的に表したものである。横軸は自由端一軸による延伸温度130℃の空中延伸倍率である。縦軸の総延伸倍率は,以下に述べる自由端一軸による空中高温延伸を含む2段階の延伸処理によって,空中高温延伸前の長さである元長を1として,最終的に元長が何倍延伸されたかを表す総延伸倍率である。例えば,延伸温度130℃の空中高温延伸による延伸倍率が2倍であって,次の延伸倍率が3倍であれば,総延伸倍率は6倍(2×3=6)になる。空中高温延伸に続く第2段の延伸方法は,延伸温度65℃のホウ酸水溶液中における自由端一軸延伸(以下,ホウ酸水溶液に浸漬させながら延伸する処理を「ホウ酸水中延伸」という。)である。
…(省略)…
【0048】
本発明の実施態様は,以下のとおりである。
本発明は,連続ウェブの非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に二色性物質を配向させたPVA系樹脂からなる薄型高機能偏光膜が製膜された光学フィルム積層体の製造方法であって,前記非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材と該非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜されたPVA系樹脂層とを含む積層体に対する空中補助延伸によって,配向させたPVA系樹脂層からなる延伸中間生成物を含む延伸積層体を生成する工程と,前記延伸積層体に対する二色性物質の吸着によって,二色性物質を配向させたPVA系樹脂層からなる着色中間生成物を含む着色積層体を生成する工程と,前記着色積層体に対するホウ酸水中延伸によって,二色性物質を配向させたPVA系樹脂からなる薄型高機能偏光膜を含む光学フィルム積層体を生成する工程とを含む光学フィルム積層体の製造方法に関するものである。」
(当合議体注:図20は以下の図である。)
図20:


2 対比及び判断
(1) 対比
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 基材フィルム
引用発明は,「エチレンユニットを約5重量%含むプロピレン/エチレンのランダム共重合体(住友化学(株)製「住友ノーブレン W151」,融点Tm=138℃)からなる樹脂層の両側に,プロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレン(住友化学(株)製「住友ノーブレンFLX80E4」,融点Tm=163℃)からなる樹脂層が配置された3層構造の長尺のポリプロピレン系多層フィルムを,多層押出成形機を用いた共押出成形により作製する,ポリプロピレン系多層フィルム作製工程」及び「ポリプロピレン系多層フィルムを搬送しながら,70℃の熱ロールに10秒間程度接触させた後,80℃のオーブン内に1分間,次いで100℃のオーブン内に1分間滞留させて加熱処理を行い,基材フィルムを得る,基材フィルム作製工程」を具備する。また,引用発明の「基材フィルムの80℃における引張弾性率は192Mpa,表層の結晶化度は64%であ」る。
ここで,引用発明の「ポリプロピレン系多層フィルム作製工程」において使用されている「ポリプロピレン系多層フィルム」の材料は,本件出願の明細書の【0089】に記載された「基材フィルム」のものと同一である。
そうしてみると,引用発明の「基材フィルム」は,本願発明1でいう「結晶性樹脂で構成され」たものである。
さらに,引用発明の「基材フィルム」の「表層の結晶化度は64%」であるから,引用発明の「基材フィルム」の「表層」は,技術的にみて,64%の結晶構造部と,36%の非晶質構造部からなるといえる。
加えて,引用発明の「基材フィルム作製工程」における「加熱処理」は,「搬送しながら」行われるとしても,その温度は「基材フィルム」が延伸されるには不十分な温度である。したがって,引用発明の「加熱処理」に伴い進行する,「基材フィルム」の「表層の結晶化」は,特定方向への配向性が高いものではなく,引用発明の「基材フィルム」は,本願発明1でいう「折り畳み型結晶構造部を含有する」ものといえる。
以上のとおりであるから,引用発明の「基材フィルム」は,本願発明1の,「結晶性樹脂で構成され,折り畳み型結晶構造部を含有する」という要件を満たす,「基材フィルム」に相当する。

イ 樹脂層形成工程
引用発明は,「基材フィルムのコロナ処理を施した面に厚み0.2μmのプライマー層を形成する,プライマー層形成工程」及び「プライマー層上に厚み10.0μmのポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る,積層フィルム作製工程」を具備する。
ここで,引用発明の「ポリビニルアルコール系樹脂層」は,その文言が意味するとおりのものである。また,引用発明の「プライマー層形成工程」及び「積層フィルム作製工程」からなる工程は,「基材フィルム」の一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る工程といえる。
そうしてみると,引用発明の「ポリビニルアルコール系樹脂層」及び「積層フィルム」は,本願発明1の「ポリビニルアルコール系樹脂層」及び「積層フィルム」に相当する。また,引用発明の「プライマー層形成工程」及び「積層フィルム作製工程」からなる工程は,本願発明1の,「基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る」とされる,「樹脂層形成工程」に相当する。

ウ 第1延伸工程
引用発明は,「積層フィルムを連続的に搬送しながら,ロール間空中延伸装置を用いて160℃の延伸温度で縦方向に5.8倍の倍率で自由端一軸延伸を施して,延伸フィルムとする,延伸フィルム作製工程」を具備する。
ここで,本願発明1でいう「乾式延伸」には,空中延伸が含まれる(本件出願の明細書の【0056】参照。)。
そうしてみると,引用発明の「自由端一軸延伸」及び「延伸フィルム」は,本願発明1の「乾式延伸」及び「延伸フィルム」に相当する。また,引用発明の「延伸フィルム作製工程」は,本願発明1の,「前記積層フィルムを120℃以上の温度で乾式延伸して延伸フィルムを得る」とされる「第1延伸工程」に相当する。

エ 染色工程
引用発明は,「積層フィルムを…延伸フィルムとする,延伸フィルム作製工程」,「延伸フィルムを連続的に搬送しながら,60℃の温水浴に滞留時間が60秒間となるように浸漬した後,ヨウ素とヨウ化カリウムとを含む30℃の染色溶液に滞留時間が150秒間程度となるように浸漬してポリビニルアルコール系樹脂層の染色処理を行い,次いで,10℃の純水で余分な染色溶液を洗い流す,染色処理工程」及び「ホウ酸とヨウ化カリウムとを含む76℃の架橋溶液に滞留時間が600秒間となるように浸漬して架橋処理を行う,架橋処理工程」を具備する。
ここで,引用発明の「ヨウ素」が,二色性色素であること,引用発明の「染色処理工程」により,引用発明の「ポリビニルアルコール系樹脂層」が偏光子として機能する層となること,及び引用発明の「染色処理工程」及び「架橋処理工程」によって,引用発明の「延伸フィルム」が,偏光性を持った積層フィルムとなることは,技術的にみて明らかである。
そうしてみると,引用発明の「染色処理工程」及び「架橋処理工程」からなる工程は,本願発明1の,「前記延伸フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色して偏光子層を形成することにより偏光性積層フィルムを得る」とされる,「染色工程」に相当する。

ところで,引用発明の「染色処理工程」は,「延伸フィルムを連続的に搬送しながら」行われるものであるから,搬送に伴うテンションにより,染色溶液中において,僅かながらも,ある程度,湿式延伸されることは明らかである。
そうしてみると,引用発明の「染色処理工程」と本願発明1の「第2延伸工程」は,「延伸フィルムを」「湿式延伸する第2延伸工程を含み」という点で共通する。また,引用発明は,本願発明1の「二色性色素を含有する液及び/又は架橋剤を含有する第1液に浸漬しながら前記第2延伸工程を実施し」という要件を満たす。

さらに,引用発明の「染色処理工程」において,「ヨウ素」を含有する「染色溶液」に「延伸フィルム」を「浸漬」すると,「ポリビニルアルコール系樹脂層」に「ヨウ素」が吸着することは,技術常識である。
そうしてみると,引用発明の「染色処理工程」は,本願発明1の,「二色性色素を含有する液に延伸フィルムを浸漬する」とされる「色素吸着工程」に相当する。

加えて,引用発明の「架橋処理工程」において,「ホウ酸とヨウ化カリウム」を含有する「架橋溶液」に「ヨウ素」が吸着した後の「延伸フィルム」を「浸漬」すると,「ポリビニルアルコール系樹脂層」に「ヨウ素」が固定化することも,技術常識である。
そうしてみると,引用発明の「架橋処理工程」と本願発明1の「架橋剤を含有する第1液に色素吸着工程後の延伸フィルムを浸漬する第1色素固定化工程」及び「架橋剤を含有する第2液に第1色素固定化工程後の延伸フィルムを浸漬する第2色素固定化工程」とは,「架橋剤を含有する」「液に色素吸着工程後の延伸フィルムを浸漬する」「色素固定化工程」の点で共通する。

オ 偏光性積層フィルムの製造方法
以上の対比結果,及び,引用発明及び本願発明1の全体構成からみて,引用発明の「偏光性積層フィルムの製造方法」は,本願発明1の,「樹脂層形成工程と」,「第1延伸工程と」,「染色工程と」,「を含み」とされる,「偏光性積層フィルムの製造方法」に相当する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明1と引用発明は,次の構成で一致する。
「 結晶性樹脂で構成され,折り畳み型結晶構造部を含有する基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程と,
前記積層フィルムを120℃以上の温度で乾式延伸して延伸フィルムを得る第1延伸工程と,
前記延伸フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色して偏光子層を形成することにより偏光性積層フィルムを得る染色工程と,
を含み,
前記染色工程は,湿式延伸する第2延伸工程を含み,
前記染色工程は,
二色性色素を含有する液に延伸フィルムを浸漬する色素吸着工程と,
架橋剤を含有する1液に色素吸着工程後の延伸フィルムを浸漬する色素固定化工程と,
を含む,
偏光性積層フィルムの製造方法。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明は,次の点で相違する。
(相違点1)
「第2延伸工程」が,本願発明1は,「延伸フィルムを1.5倍以上の倍率で」湿式延伸するものであるのに対して,引用発明は,搬送に伴うテンションによる程度の倍率のものである点。
また,「積層フィルムに対してなされる延伸の総延伸倍率」が,本願発明1は,「4倍以上4.8倍以下である」のに対して,引用発明は,「5.8倍」を超える点。

(相違点2)
「色素固定化工程」に関して,本願発明1は,「架橋剤を含有する第1液に色素吸着工程後の延伸フィルムを浸漬する第1色素固定化工程と」,「架橋剤を含有する第2液に第1色素固定化工程後の延伸フィルムを浸漬する第2色素固定化工程と」を具備するのに対して,引用発明は,この構成を具備しない(1回の工程である)点。

(3) 判断
事案に鑑みて,相違点1について判断する。
引用文献1の[0132]には,「積層フィルム100の延伸倍率は,所望する偏光特性に応じて適宜選択することができるが,好ましくは,積層フィルム100の元長に対して5倍超17倍以下であり,より好ましくは5倍超8倍以下である。」と記載されている。そして,この記載は,当業者が,「所望する偏光特性」に応じて,引用発明の「延伸フィルム」の総延伸倍率を変更する動機付けとなり得るものである。
しかしながら,引用文献1には,引用発明の「延伸フィルム」の総延伸倍率を「4倍以上4.8倍以下」としても良いとは記載されていないし,また,これを示唆する記載もない。むしろ,引用文献1には,上記の一文において,好ましい延伸倍率の下限値として5倍が挙げられているから,引用文献1の[0132]における,「積層フィルム100の延伸倍率は,所望する偏光特性に応じて適宜選択することができる」という記載は,引用発明の「延伸フィルム」の総延伸倍率を「4倍以上4.8倍以下」とすることの動機付にはならない。
かえって,引用文献1の[0132]には,上記の記載に続いて,「延伸倍率が5倍以下であると,ポリビニルアルコール系樹脂層102が十分に配向しないため,染色工程S40を経て得られる偏光子層302の偏光度が十分に高くならないことがある。」と記載されている。そうしてみると,引用発明の「延伸フィルム」の総延伸倍率を「4倍以上4.8倍以下」とすることには,阻害要因があるといえる。

ところで,引用文献1の[0142]には,「染色工程S40を延伸工程S30の前又は同時に行うことも可能であるが,ポリビニルアルコール系樹脂層に吸着させた二色性色素を良好に配向させることができるよう,延伸工程S30における延伸処理の少なくとも一部を実施した後に染色工程S40を実施することが好ましい。この場合における実施態様としては,…2)目標より低い倍率で延伸処理を行った後,染色工程S40における染色処理(染色工程S40が架橋処理工程を含む場合,染色処理及び/又は架橋処理)中に,トータルの倍率が目標の倍率となるように延伸処理を行う…態様等を挙げることができる。」と記載されている。
上記の記載を考慮すると,引用文献1には,一応,引用発明の「染色処理工程」において,「延伸フィルムを1.5倍以上の倍率で湿式延伸する」ことを動機付ける記載があるといえる。
しかしながら,本件出願前の当業者ならば,引用文献2,引用文献3及び特許文献1に例示されるような,「空中延伸と水中延伸を併用することにより,高い総延伸倍率を達成し,高性能の薄型偏光膜を作製する方法」を,周知技術として心得ている。
そうしてみると,仮に,上記周知技術を心得た当業者が,引用発明の「延伸フィルム作製工程」に加えて,引用発明の「染色処理工程」において「延伸フィルムを1.5倍以上の倍率で湿式延伸する」ことを着想したとしても,その場合には,引用発明の「延伸フィルム」の総延伸倍率を「5.8倍」よりも高めるはずであり,「4倍以上4.8倍以下」に低くすることはないといえる。したがって,たとえ引用発明と上記周知技術を組み合わせたとしても,前記相違点1に係る本願発明1の構成には到らない。

以上のとおりであるから,本願発明1は,引用文献1に記載された発明(及び周知技術)に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。
なお,この点は,原査定の拒絶の理由において挙げられた,引用文献4及び引用文献5に記載された内容を考慮しても,変わらない。

(4) 請求項2?請求項4に係る発明について
本件出願の請求項2?請求項4に係る発明は,いずれも,本願発明1に対してさらに他の発明特定事項を付加してなる,製造方法の発明であるから,相違点1に係る本願発明1の構成を具備するものである。
そうしてみると,前記(3)で述べたのと同じ理由により,これら発明も,引用文献1に記載された発明(及び周知技術)に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。

第3 原査定について
前記「第2」で述べたとおりであるから,原査定の理由を維持することはできない。

第4 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては本件出願を拒絶することはできない。
また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-12-17 
出願番号 特願2014-144037(P2014-144037)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 堀江 留美子中槙 利明瀬川 勝久  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 河原 正
樋口 信宏
発明の名称 偏光性積層フィルムの製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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