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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K |
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管理番号 | 1358267 |
審判番号 | 不服2018-14763 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-11-06 |
確定日 | 2019-12-26 |
事件の表示 | 特願2015-208837「シールドフィルム、シールドプリント配線板、及び、シールドフィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月24日出願公開、特開2016- 40837〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2012年(平成24年)10月12日(優先権主張 平成23年11月24日)を国際出願日として出願した特願2013-545845号の一部を平成27年10月23日に新たな出願としたものであって、同年11月20日付けで手続補正がなされ、平成28年9月29日付け拒絶理由通知に対して平成29年2月3日付けで手続補正がなされ、同年8月31日付け最後の拒絶理由通知に対して平成30年1月4日付けで手続補正がなされたが、同年7月31日付けで同年1月4日付け手続補正が却下されるとともに拒絶査定がなされた。これに対し、同年11月6日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされた。 第2 平成30年11月6日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成30年11月6日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正 平成30年11月6日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、 本件補正前(平成29年2月3日付けの手続補正)に、 「 【請求項1】 層厚が0.5μm?12μmの金属層と、厚み方向に電気的な導電状態が確保された異方導電性を有し、導電性フィラーが異方導電性接着剤層の全体量に対して3wt%?39wt%の範囲で添加された前記異方導電性接着剤層とを積層状態で備え、 10MHz?10GHzの周波数の信号を伝送する信号伝送系に対する電磁波シールドフィルムとして適用されることを特徴とするシールドフィルム。 【請求項2】 前記金属層が金属箔であることを特徴とする請求項1に記載のシールドフィルム。 【請求項3】 前記金属箔は、銅を主成分としていることを特徴とする請求項2に記載のシールドフィルム。 【請求項4】 前記銅を主成分とする金属箔で形成された金属層と前記異方導電性接着剤層との間に保護金属層を設けたことを特徴とする請求項3に記載のシールドフィルム。 【請求項5】 導電性フィラーは、銅粉、銀粉、ニッケル粉、銀コート銅粉(AgコートCu粉)、金コート銅粉、銀コートニッケル粉(AgコートNi粉)、金コートニッケル粉からなる群のいずれかから選択され、 導電性フィラーの平均粒径は2μm?20μmである、請求項1?4のいずれか1項に記載のシールドフィルム。 【請求項6】 プリント回路が形成されたベース部材と、当該プリント回路を覆って当該ベース部材上に設けられた絶縁フィルムと、を有したプリント配線板と、 前記プリント配線板上に設けられた請求項1乃至5の何れか1項に記載のシールドフィルムと、 を有することを特徴とするシールドプリント配線板。 【請求項7】 前記プリント回路は、グランド用配線パターンを含んでいることを特徴とする請求項6に記載のシールドプリント配線板。 【請求項8】 圧延加工により所定寸法の層厚の金属箔とした後に、その金属箔をエッチングにより0.5μm?12μm内の所定の層厚にする工程と、 前記金属層の一方面に異方導電性接着剤層を形成する工程とを備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のシールドフィルムの製造方法。 【請求項9】 前記金属層は、アディティブ法により形成される工程を備えたことを特徴とする請求項1に記載のシールドフィルムの製造方法。 【請求項10】 前記アディティブ法として、電解メッキ法及び無電解メッキ法の少なくとも1つを使用して前記金属層を形成したことを特徴とする請求項9に記載のシールドフィルムの製造方法。」とあったところを、 本件補正により、 「 【請求項1】 プリント回路が形成されたベース部材と、当該プリント回路を覆って当該ベース部材上に設けられた絶縁フィルムと、を有したプリント配線板と、 前記プリント配線板上に設けられたシールドフィルムと、 を有するシールドプリント配線板であって、 前記プリント回路は10MHz?10GHzの周波数の信号伝送系を有し、 前記シールドフィルムは、層厚が2μm?12μmの金属層と、厚み方向に電気的な導電状態が確保された異方導電性を有し、厚みが2?15μmであり、導電性フィラーが異方導電性接着剤層の全体量に対して3wt%?39wt%の範囲で添加された前記異方導電性接着剤層とを積層状態で備えることを特徴とするシールドプリント配線板。 【請求項2】 前記金属層が金属箔であることを特徴とする請求項1に記載のシールドプリント配線板。 【請求項3】 前記金属箔は、銅を主成分としていることを特徴とする請求項2に記載のシールドプリント配線板。 【請求項4】 前記銅を主成分とする金属箔で形成された金属層と前記異方導電性接着剤層との間に保護金属層を設けたことを特徴とする請求項3に記載のシールドプリント配線板。 【請求項5】 導電性フィラーは、銅粉、銀粉、ニッケル粉、銀コート銅粉(AgコートCu粉)、金コート銅粉、銀コートニッケル粉(AgコートNi粉)、金コートニッケル粉からなる群より選択され、 導電性フィラーの平均粒径は2μm?20μmである、請求項1?4のいずれか1項に記載のシールドプリント配線板。 【請求項6】 前記プリント回路は、グランド用配線パターンを含んでいることを特徴とする請求項1に記載のシールドプリント配線板。」とするものである。なお、下線は補正箇所を示す。 上記の補正は、 ・本件補正前の請求項1ないし5、8ないし10を削除し、 ・本件補正前の請求項1を引用する請求項6に関して、「10MHz?10GHzの周波数の信号を伝送する信号伝送系」の記載を整理し、また、金属層の層厚について「0.5μm?12μm」を「2μm?12μm」と限定し、そして、異方導電性接着剤層について「厚みが2?15μm」と限定し(本件補正後の請求項1)、 ・本件補正前の請求項2ないし5を引用する請求項6に関して、記載を整理し(本件補正後の請求項2ないし5)、 ・本件補正前の請求項7に関して、請求項の削除に伴い、項番を整理(本件補正後の請求項6) したものである。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除及び同項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、特許請求の範囲の減縮を目的とする本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下検討する。 2.引用文献 原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-294918号公報(以下「引用文献」という。)には、「シールドフィルム及びシールドプリント配線板」に関して、図面と共に以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 (1)「【0001】 本発明は、コンピュータ、携帯電話、通信機器、ビデオカメラなどの装置内等に使用されているプリント配線板に用いることが可能なシールドフィルム、及び、このシールドフィルムを用いたシールドプリント配線板に関するものである。」 (2)「【0010】 本発明のシールドフィルムの前記シールド層においては、前記絶縁層の少なくとも片面に形成された1層以上の金属層と、1層以上の異方導電性接着剤層とを有することが好ましい。上記構成によれば、プリント回路に本発明のシールドフィルムを貼り合せた際、異方導電性接着剤層がグランド回路のパターンと本発明のシールドフィルムにおける金属層とを導電接続させるので、電磁波シールド性を発揮できる。」 (3)「【0018】 金属層3を形成する金属材料としては、銅、アルミ、銀、金などを挙げることができる。金属材料は、求められるシールド特性に応じて適宜選択すればよい。金属層3の形成方法としては、真空蒸着、スパッタリング、CVD法、MO(メタルオーガニック)、メッキなどがあるが、量産性を考慮すれば真空蒸着が望ましく、安価で安定して金属薄膜を得ることができる。また、金属層3は、金属薄膜に限られず、金属箔を用いてもよい。金属層3の厚さは、一般に0.01?10μmとするのが好ましい。0.01μmを下回るとシールド効果が不十分となり、逆に10μmを超えると可撓性が悪くなる。特に可撓性が必要な場合には2μm以下が好ましく、特にシールド効果が必要な場合には10μm以下が好ましい。」 (4)「【0019】 接着剤層4としては、260℃の基板実装(リフロー)に耐えうる耐熱性のある熱硬化性樹脂、好ましくは難燃性の熱硬化性樹脂が用いられ、これに難燃剤や導電性フィラーが添加されており、等方導電性又は異方導電性を有している。接着剤層4の厚さは、5μmから30μmが好ましい。5μmより薄いと十分な密着性が得られず、30μmを超えると柔軟性が損なわれる。なお、接着剤層4が等方導電性である場合には、金属層3はなくてもよい。」 (5)「【0028】 なお、本発明のシールドフィルムは、FPC、COF(チップオンフレックス)、RF(リジットフレックスプリント板)、多層フレキシブル基板、リジット基板などに利用できるが、必ずしもこれらに限られない。なお、FPCに貼付した場合の構造としては、例えば、図2に示すようなシールドプリント配線板10となる。ここで、5はベースフィルム、6はプリント回路、7は絶縁フィルム、8は基体フィルムである。 【0029】 プリント回路6の表面は、信号回路6aとグランド回路6bとからなり、グランド回路6bの少なくとも一部(非絶縁部)6cを除いて、絶縁フィルム7によって被覆されている。絶縁フィルム7は、内部にシールドフィルム1の接着剤層4の一部が流れ込んでいる絶縁除去部7aを有している。これにより、グランド回路6bと金属層3とは電気的に接続される。 ・・・(中略)・・・ 【0032】 上記構成により、グランド回路6bのパターンと上記実施形態のシールドフィルム1における金属層3とを導電接続させるので、電磁波シールド性に優れたシールドプリント配線板10を提供できる。また、35μm以下と非常に薄いフィルムであっても、UL94の垂直燃焼性試験(V規格)に合格するシールドプリント配線板を提供できる。また、基体フィルム8がFPCであるので、電磁波シールド性に優れるとともに、可撓性を有していることから、曲げる必要がある部位において用いることができるシールドプリント配線板10を提供できる。」 (6)「【0033】 図1に示すシールドフィルム1と同様の構成の実施例1?4及び比較例1?4に係るシールドフィルムを作製した。以下、これらの実施例1?4及び比較例1?4に係るシールドフィルムについて説明する。なお、実施例1?4及び比較例1?4に係るシールドフィルムにおいて、絶縁層2として厚さが5μmのエポキシ樹脂からなるもの、金属層3として厚さが0.1μmの銀蒸着層を用いた。接着剤層4の厚さは17μmで、リン含有エポキシ樹脂(難燃性樹脂)100重量部に、メラミンシアヌレートからなる難燃剤を所定量ずつ添加し、さらに銀コート銅粉からなる導電性フィラーを20重量部ずつ添加したものを使用した(表1参照)。」 ・上記(1)によれば、シールドフィルム1は、携帯電話などの装置内に使用されているプリント配線板に用いることが可能なものである。 ・上記(2)及び図2によれば、シールドフィルム1は、金属層3と、グランド回路6bのパターンと金属層3とを導電接続させる異方導電性の接着剤層4とを積層状態で有するものである。また、シールドフィルム1は、電磁波シールド性を発揮できるものである。 ・上記(3)によれば、金属層3の厚さは、0.01?10μmである。 ・上記(4)によれば、接着剤層4の厚さは、5μmから30μmである。 ・上記(5)及び図2によれば、プリント回路6は、信号回路6aとグランド回路6bとからなり、プリント回路6を含む基体フィルム(FPC:フレキシブルプリント配線板)8は、プリント回路6が形成されたベースフィルム5と、グランド回路6bの少なくとも一部6cを除いてプリント回路6の表面を被覆してベースフィルム5上に設けられた絶縁フィルム7とを有するものである。また、シールドプリント配線板10は、シールドフィルム1が基体フィルム(FPC)8に貼付されてなるものである。 ・上記(6)及び表1によれば、接着剤層4は、リン含有エポキシ樹脂100重量部に、難燃剤を10?180重量部添加し、導電性フィラーを20重量部添加したものである。 上記摘示事項及び図面を総合勘案すると、引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「信号回路とグランド回路とからなるプリント回路を含む基体フィルム(FPC)に、シールドフィルムが貼付されてなるシールドプリント配線板であって、 前記プリント回路を含む基体フィルム(FPC)は、前記プリント回路が形成されたベースフィルムと、前記グランド回路の少なくとも一部を除いて前記プリント回路の表面を被覆して前記ベースフィルム上に設けられた絶縁フィルムとを有し、携帯電話などの装置内に使用されるものであり、 前記シールドフィルムは、厚さが0.01?10μmの金属層と、前記グランド回路のパターンと前記金属層とを導電接続させる異方導電性の接着剤層とを積層状態で備え、 前記接着剤層は、厚さが5μmから30μmであり、リン含有エポキシ樹脂100重量部に、難燃剤を10?180重量部添加し、導電性フィラーを20重量部添加したものである、シールドプリント配線板。」 3.対比 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明における「信号回路とグランド回路とからなるプリント回路を含む基体フィルム(FPC)に、シールドフィルムが貼付されてなるシールドプリント配線板であって、前記プリント回路を含む基体フィルム(FPC)は、前記プリント回路が形成されたベースフィルムと、前記グランド回路の少なくとも一部を除いて前記プリント回路の表面を被覆して前記ベースフィルム上に設けられた絶縁フィルムとを有し、携帯電話などの装置内に使用されるものであり」によれば、 (a)引用発明における「プリント回路」、そのプリント回路が形成された「ベースフィルム」、プリント回路の表面を被覆してベースフィルム上に設けられた「絶縁フィルム」、「プリント回路を含む基体フィルム(FPC)」が、それぞれ本願補正発明でいう「プリント回路」、「ベース部材」、「絶縁フィルム」、「プリント配線板」に相当し、 (b)引用発明における、プリント回路を含む基体フィルム(FPC)に貼付されてなる「シールドフィルム」が、本願補正発明でいう「シールドフィルム」に相当する。 (c)そして、引用発明における「シールドプリント配線板」は、本願補正発明でいう「シールドプリント配線板」に相当するものである。 したがって、本願補正発明と引用発明とは、 「プリント回路が形成されたベース部材と、当該プリント回路を覆って当該ベース部材上に設けられた絶縁フィルムと、を有したプリント配線板と、前記プリント配線板上に設けられたシールドフィルムと、を有するシールドプリント配線板」である点で一致する。 (2)引用発明における「前記プリント回路を含む基体フィルム(FPC)は、・・・携帯電話などの装置内に使用されるものであり」によれば、 引用発明における「プリント回路を含む基体フィルム(FPC)」にあっても、携帯電話などの装置内に使用されるものであることから、そのプリント回路(プリント回路が含む信号回路)は当然、所定の周波数の信号を伝送する信号伝送系を有するものである。 したがって、本願補正発明と引用発明とは「前記プリント回路は所定の周波数の信号伝送系を有」するものである点で共通するといえる。 ただし、所定の周波数について、本願補正発明では「10MHz?10GHz」である旨特定するのに対し、引用発明ではそのような明確な特定を有していない点で一応相違している。 (3)引用発明における「前記シールドフィルムは、厚さが0.01?10μmの金属層と、前記グランド回路のパターンと前記金属層とを導電接続させる異方導電性の接着剤層とを積層状態で備え、前記接着剤層は、厚さが5μmから30μmであり、リン含有エポキシ樹脂100重量部に、難燃剤を10?180重量部添加し、導電性フィラーを20重量部添加したものである」によれば、 (a)引用発明における、シールドフィルムが備える「金属層」は、本願補正発明でいう「金属層」に相当する。 (b)引用発明における、シールドフィルムが備える「異方導電性の接着剤層」は、本願補正発明でいう「異方導電性接着剤層」に相当し、 引用発明の「異方導電性の接着剤層」にあっても、グランド回路のパターンと金属層とを導電接続させるものであることから、当然、その厚み方向に電気的な導通状態が確保されてなるものであるといえる。 また、引用発明の「異方導電性の接着剤層」は、リン含有エポキシ樹脂100重量部に、難燃剤を10?180重量部添加し、導電性フィラーを20重量部添加したものであることから、引用発明の「導電性フィラー」は、接着剤層の全体量に対して約6.7wt%?15wt%の範囲で添加されたものであり、本願補正発明で特定する「3wt%?39wt%」の範囲(条件)を満たす。 したがって、本願補正発明と引用発明とは「前記シールドフィルムは、金属層と、厚み方向に電気的な導電状態が確保された異方導電性を有し、導電性フィラーが異方導電性接着剤層の全体量に対して3wt%?39wt%の範囲で添加された前記異方導電性接着剤層とを積層状態で備える」ものである点で共通する。 ただし、金属層の層厚について、本願補正発明は「2μm?12μm」であるのに対し、引用発明は「0.01?10μm」である点で相違している。 また、異方導電性接着剤層の厚みについて、本願補正発明は「2?15μm」であるのに対し、引用発明は「5μmから30μm」である点で相違している。 そうすると、本願補正発明と引用発明とは、 「プリント回路が形成されたベース部材と、当該プリント回路を覆って当該ベース部材上に設けられた絶縁フィルムと、を有したプリント配線板と、 前記プリント配線板上に設けられたシールドフィルムと、 を有するシールドプリント配線板であって、 前記プリント回路は所定の周波数の信号伝送系を有し、 前記シールドフィルムは、金属層と、厚み方向に電気的な導電状態が確保された異方導電性を有し、導電性フィラーが異方導電性接着剤層の全体量に対して3wt%?39wt%の範囲で添加された前記異方導電性接着剤層とを積層状態で備えることを特徴とするシールドプリント配線板。」の点で一致し、 以下の点で相違する。 <相違点1> プリント回路が伝送する信号の所定周波数について、本願補正発明では「10MHz?10GHz」である旨特定するのに対し、引用発明ではそのような明確な特定を有していない点。 <相違点2> 金属層の層厚について、本願補正発明は「2μm?12μm」であるのに対し、引用発明は「0.01?10μm」である点。 <相違点3> 異方導電性接着剤層の厚みについて、本願補正発明は「2?15μm」であるのに対し、引用発明は「5μmから30μm」である点。 4.判断 上記相違点について検討する。 <相違点1>について 引用発明における「シールドフィルム」は、携帯電話などの装置内に使用されるプリント回路を含む基体フィルム(FPC)(すなわち、プリント配線板)に用いられるものであるところ、例えば特開2002-111233号公報の段落【0013】に記載のように、携帯電話内のプリント配線板では通常、数十MHzからGHz帯の周波数の信号を伝送するものであることからすると、携帯電話内に使用されるプリント回路を含む基体フィルム(FPC)におけるプリント回路で伝送される信号の周波数として、本願補正発明で特定する「10MHz?10GHz」の範囲を満たすものとすることは当業者であればごく普通になし得たことである。 <相違点2>について 引用発明における「金属層」の厚さは2?10μmの範囲では一致していることから、この限りにおいて実質的な相違点ではない。また、たとえ相違点にあたるとしても、引用発明(引用文献)における「金属層」の厚さは、上記「第2[理由]2.(3)」によれば、可撓性が必要な場合には2μm以下が好ましく、シールド効果が必要な場合には10μm以下が好ましいのであるから、引用発明における「金属層」の厚さとして特にシールド効果に重きを置いて、本願補正発明で特定する範囲を満たす厚さ(2?10μmの範囲の厚さ)とすることは当業者が容易になし得た事項である。 なお、審判請求人は平成30年1月4日提出の意見書にて「引用文献1には、金属層の厚みを0.01?10μmとすることについて記載されているものの、シールドフィルムの伝送特性については全く言及されていません。また、引用文献1には、当業者が金属層の厚みと伝送特性とを結び付けるための動機付けとなる記載はありません。したがって、当業者は、引用文献1の記載に基づいて、シールドフィルムの伝送特性を改善するために金属層の厚みを2?12μmとすることへは相当し得ないと考えます。また、本願発明では、異方導電性接着剤層を有するシールドフィルムにおいて金属層の厚みの下限を2μmとすることにより優れた伝送特性が十分に確保されます。」旨を主張している。 しかしながら、信号の高速伝送を実現するためにシールド材の金属層の厚さを数μm以上とすることは、例えば特開2010-108789号公報(金属層18の厚さを2μm以上とする点。段落【0004】ないし【0009】、【0044】、図13及び14を参照。)に記載されているように、周知の技術事項であり、引用発明における「金属層」の厚さとして信号の高速伝送を考慮して上記相違点2の構成とすることも、当業者が容易になし得た事項である。 よって、請求人の主張は採用できない。 <相違点3>について 引用発明における「接着剤層」の厚さは5?15μmの範囲では一致していることから、この限りにおいて実質的な相違点ではない。また、たとえ相違点にあたるとしても、引用発明(引用文献)における「接着剤層」の厚さは、上記「第2[理由]2.(4)」によれば、5μmより薄いと十分な密着性が得られず、30μmを超えると柔軟性が損なわれるのであるから、引用発明における「接着剤層」の厚さとして柔軟性を考慮して、本願補正発明で特定する範囲を満たす厚さ(5?15μmの範囲の厚さ)とすることは当業者が容易になし得た事項である。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項から当業者が容易になし得たものである。 そして、本願補正発明の作用効果も、引用文献及び周知の技術事項から当業者が予測できる範囲のものである。 5.むすび 以上のとおり、本件補正の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成30年11月6日付けの手続補正は上記のとおり却下され、また、同年1月4日付けの手続補正も同年7月31日付けで却下されているので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成29年2月3日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されたものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。 「 【請求項1】 層厚が0.5μm?12μmの金属層と、厚み方向に電気的な導電状態が確保された異方導電性を有し、導電性フィラーが異方導電性接着剤層の全体量に対して3wt%?39wt%の範囲で添加された前記異方導電性接着剤層とを積層状態で備え、 10MHz?10GHzの周波数の信号を伝送する信号伝送系に対する電磁波シールドフィルムとして適用されることを特徴とするシールドフィルム。」 2.引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献の記載事項は、上記「第2[理由]2.(1)ないし(6)」に記載したとおりであり、上記「第2[理由]2.」に記載した摘示事項及び図面を総合勘案すると、引用文献には次の発明(以下「引用発明a」という。)が記載されている。 「厚さが0.01?10μmの金属層と、グランド回路のパターンと前記金属層とを導電接続させる異方導電性の接着剤層とを積層状態で備え、前記接着剤層は、リン含有エポキシ樹脂100重量部に、難燃剤を10?180重量部添加し、導電性フィラーを20重量部添加したものである、シールドフィルムであって、 前記シールドフィルムは、携帯電話などの装置内に使用されているプリント配線板に用いることが可能なものであり、電磁波シールド性を発揮できるものである、シールドフィルム。」 3.対比 そこで、本願発明と引用発明aとを対比する。 (1)引用発明aにおける「厚さが0.01?10μmの金属層と、グランド回路のパターンと前記金属層とを導電接続させる異方導電性の接着剤層とを積層状態で備え、前記接着剤層は、リン含有エポキシ樹脂100重量部に、難燃剤を10?180重量部添加し、導電性フィラーを20重量部添加したものである、シールドフィルム」によれば、 (a)引用発明aにおける、シールドフィルムが備える「金属層」は、本願発明でいう「金属層」に相当する。 (b)引用発明aにおける、シールドフィルムが備える「異方導電性の接着剤層」は、本願発明でいう「異方導電性接着剤層」に相当し、 引用発明aの「異方導電性の接着剤層」にあっても、グランド回路のパターンと金属層とを導電接続させるものであることから、当然、その厚み方向に電気的な導通状態が確保されてなるものであるといえる。 また、引用発明aの「異方導電性の接着剤層」は、リン含有エポキシ樹脂100重量部に、難燃剤を10?180重量部添加し、導電性フィラーを20重量部添加したものであることから、引用発明aの「導電性フィラー」は、接着剤層の全体量に対して約6.7?15wt%の範囲で添加されたものであり、本願発明で特定する「3wt%?39wt%」の範囲(条件)を満たす。 したがって、本願発明と引用発明aとは「金属層と、厚み方向に電気的な導電状態が確保された異方導電性を有し、導電性フィラーが異方導電性接着剤層の全体量に対して3wt%?39wt%の範囲で添加された前記異方導電性接着剤層とを積層状態で備え」る「シールドフィルム」である点で共通する。 ただし、金属層の層厚について、本願発明は「0.5μm?12μm」であるのに対し、引用発明aは「0.01?10μm」である点で相違している。 (2)引用発明aにおける「前記シールドフィルムは、携帯電話などの装置内に使用されているプリント配線板に用いることが可能なものであり、電磁波シールド性を発揮できるものである」によれば、 引用発明aにおける「シールドフィルム」は、携帯電話などの装置内に使用されているプリント配線板に対して電磁波シールド性を発揮するものであり、また、そのプリント配線板は当然、所定の周波数の信号を伝送する信号伝送系を有するものである。 したがって、本願発明と引用発明aとは「所定の周波数の信号を伝送する信号伝送系に対する電磁波シールドフィルムとして適用される」ものである点で共通するといえる。 ただし、所定の周波数について、本願発明では「10MHz?10GHz」である旨特定するのに対し、引用発明aではそのような明確な特定を有していない点で一応相違している。 そうすると、本願発明と引用発明aとは、 「金属層と、厚み方向に電気的な導電状態が確保された異方導電性を有し、導電性フィラーが異方導電性接着剤層の全体量に対して3wt%?39wt%の範囲で添加された前記異方導電性接着剤層とを積層状態で備え、 所定の周波数の信号を伝送する信号伝送系に対する電磁波シールドフィルムとして適用されることを特徴とするシールドフィルム。」の点で一致し、 以下の点で相違する。 <相違点4> 金属層の層厚について、本願発明は「0.5μm?12μm」であるのに対し、引用発明aは「0.01?10μm」である点。 <相違点5> 電磁波シールドする信号の所定周波数について、本願発明では「10MHz?10GHz」である旨特定するのに対し、引用発明aではそのような明確な特定を有していない点。 4.判断 上記<相違点4>は、上記「第2[理由]4.」で<相違点2>として検討したように、実質的な相違点ではないか、たとえ相違点にあたるとしても、当業者が容易になし得た事項であり、上記<相違点5>は、上記「第2[理由]4.」で<相違点1>として検討したように、当業者であればごく普通になし得たことである。 したがって、本願発明は、引用発明a及び周知の技術事項から当業者が容易になし得たものである。 そして、本願発明の作用効果も、引用文献及び周知の技術事項から当業者が予測できる範囲のものである。 5.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-10-25 |
結審通知日 | 2019-10-29 |
審決日 | 2019-11-11 |
出願番号 | 特願2015-208837(P2015-208837) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H05K)
P 1 8・ 575- Z (H05K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 久松 和之 |
特許庁審判長 |
井上 信一 |
特許庁審判官 |
須原 宏光 佐々木 洋 |
発明の名称 | シールドフィルム、シールドプリント配線板、及び、シールドフィルムの製造方法 |
代理人 | 特許業務法人深見特許事務所 |