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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N
管理番号 1358269
審判番号 不服2018-14920  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-08 
確定日 2019-12-26 
事件の表示 特願2017-134666「水処理剤組成物、水処理剤組成物の製造方法および水処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月 7日出願公開、特開2017-214406〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年8月28日に出願した特願2013-176913号の一部を平成29年7月10日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の経緯は以下の通りである。

平成29年7月10日 :補正書、上申書の提出
平成30年3月 9日付け :拒絶理由通知書
同年5月17日 :意見書、手続補正書の提出
同年8月27日付け :拒絶査定
同年11月8日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成31年3月11日 :上申書の提出
令和 元年5月 8日付け :拒絶理由通知書
同年7月 4日 :意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1に記載された発明は、令和元年7月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの、

「【請求項1】
臭素と、スルファミン酸化合物と、を含む次亜臭素酸の安定化組成物と、
式(1)の単量体単位と式(3)の単量体単位とからなる二元共重合体と、
がpH13.2以上で一剤化されて配合されていることを特徴とする水処理剤組成物。
【化1】

(式(1)中、R^(1)は水素原子またはメチル基を表し、X^(1)は水素原子、1価もしくは2価の金属原子、アンモニウム基または有機アンモニウム基を表す。)
【化2】

(式(3)中、R^(4)は水素原子またはメチル基を表し、X^(4)はアルキルスルホン酸基もしくはその塩、または、アリールスルホン酸基もしくはその塩を表し、塩の場合は1価もしくは2価の金属塩、アンモニウム塩または有機アンモニウム塩である。)」というものである(以下、「本願発明」という。)。


第3 当審で通知した拒絶の理由
当審で通知した拒絶の理由の1つは、概略、以下のとおりのものと認める。

この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明及び刊行物2?10に記載された周知の技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1 :国際公開第2003/096810号
刊行物2 :特開2013-136609号公報
刊行物3 :特表平11-506139号公報
刊行物4 :特表2006-504774号公報
刊行物5 :特表2002-516827号公報
刊行物6 :特開2002-338411号公報
刊行物7 :特開2004-267896号公報
刊行物8 :特開2004-149466号公報
刊行物9 :特開2013-010718号公報
刊行物10 :特開2000-354856号公報


第4 当審の判断
当審は、当審で通知した拒絶の理由のとおり、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明及び刊行物4?7、9、10に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。
理由は以下のとおりである。


刊行物1 :国際公開第2003/096810号
刊行物4 :特表2006-504774号公報
刊行物5 :特表2002-516827号公報
刊行物6 :特開2002-338411号公報
刊行物7 :特開2004-267896号公報
刊行物9 :特開2013-010718号公報
刊行物10 :特開2000-354856号公報

なお、刊行物4?7、9、10は、本願出願時の技術常識を示すための文献である。

1.引用刊行物の記載
(1)刊行物1:国際公開第2003/096810号
当審の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である上記刊行物1には、以下の記載がある。

(1a)「請求の範囲
1.塩素系酸化剤、スルファミン酸化合物及アニオン性ポリマー又はホスホン酸化合物を含有することを特徴とするスライム防止用組成物。
2.アニオン性ポリマーが、500?50,000の重量平均分子量を有する請求項1記載のスライム防止用組成物。
3.スライム防止用組成物が、12以上のpHを有し、かつ該組成物の総重量に対し、(a)有効塩素含有量1-8重量%の次亜塩素酸ナトリウム、(b)1.5-99重量%のスルファミン酸、(c)2.5-20重量%の水酸化ナトリウム及び(d)固形分濃度0.5-4重量%のアニオン性ポリマー少なくとも1種又は固形分濃度0.5-4重量%のホスフォン酸化合物少なくとも1種よりなることを特徴とする請求項1記載のスライム防止用組成物。
…(略)…
5.アニオン性ポリマーが、ポリマレイン酸、ポリアクリル酸、アクリル酸と2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸との共重合物、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合物、アクリル酸とイソプレンスルホン酸との共重合物、アクリル酸とメタクリル酸2-ヒドロキシエチルの共重合物、アクリル酸とメタクリル酸2-ヒドロキシエチルとイソプレンスルホン酸の共重合物及びマレイン酸とペンテンとの共重合物ならびに前記アニオン性ポリマーのアル力リ金属塩及び前記アニオン性ポリマーのアル力リ土類金属塩からなる群から選ばれる重合物の少なくとも1種であり、かつ500?50,000の重量平均分子量を有することを特徴とする請求項3記載のスライム防止用組成物。
6.塩素系酸化剤が、塩素、次亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸アルカリ金属塩及ぴ塩素酸アル力リ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のスライム防止用組成物。
…(略)…
9.水系に、塩素系酸化剤、スルファミン酸化合物及びアニオン性ポリマー又はホスホン酸化合物よりなるスライム防止用組成物を添加することを特徴とする水系のスライム防止方法。
10.スライム防止用組成物が、12以上のpHを有し、かつ該組成物の総重量に対し、(a)有効塩素含有量1-8重量%の次亜塩素酸ナトリウム、(b)1.5-9重量%のスルファミン酸、(c)2.5-20重量%の水酸化ナトリ ウム及び(d)固形分濃度0.5-4重量%のアニオン性ポリマー少なくとも1種又は固形分濃度0.5-4重量%のホスフォン酸化合物少なくとも1種よりなることを特徴とする請求項9記載のスライム防止方法。
11.スライム防止用組成物が、A、B2成分よりなり、成分Aがその総重量に対し(a)有効塩素含有量1-8重量%の次亜塩素酸ナトリ ウム、(b)1.5-9重量%のスルファミン酸、(c)2.5-20重量%の水酸化ナトリウムよりなり、成分Bがその総重量に対し(d)固形分濃度10-60重量%のアニオン性ポリマー少なくとも1種又は固形分濃度10-60%のホスフォン酸化合物少なくとも1種よりなり、かつ成分AのpHが12以上であることを特徴とする請求項9記載のスライム防止方法。…(略)…」 (下線は、当審にて追加した。以下同様。)

(1b)「技術分野
本発明は、スライム防止用組成物及びスライム防止方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、冷却水系、蓄熱水系、紙パルプ工程水系、集じん水系、スクラバー水系などにおいて、少量の薬剤を用いてスライムに起因する障害を効果的に防止することができるスライム防止用組成物及びスライム防止方法に関する。」(第1頁第4行?同頁第9行)

(1c)「1液型薬剤とする場合は、塩素系酸化剤の安定性を保っために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリを添加して、pH12以上に調整することが好ましく、pH13以上に調整することがより好ましい。2液型薬剤とする場合は、同様に塩素系酸化剤を含有する剤をpH12以上に調整することが好ましく、pH13以上に調整することがより好ましい。」(第7頁第26行?第8頁第1行)

(1d)「実施例7
有効塩素12重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液40重量%、スルファミン酸8重量%、アニオン性ポリマー又はホスホン酸10%、残りは水酸化ナトリウム及び水の配合組成物を作成した。水酸化ナトリウムの仕込み量を変えることにより配合剤のpHを調製した。遮光して40℃の恒温槽に保存し、一定期間後の有効塩素濃度を測定した。
有効塩素の測定にはHACH社製の残留塩素計ならびに専用試薬を用いた。ポリマレイン酸はグレートレイクスケミカル社のベルクレン(重量平均分子量2730)、マレイン酸-イソブチレン共重合物は(株)クラレのイソバン(重量平均分子量10800)、アクリル酸-ヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸共重合物は(株)日本触媒のアクリアックGL(重量平均分子量10700)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸は、モンサント社のデクエスト2010、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸はバイエル社のバイヒビットAM、ヒドロキシホスホノ酢酸はグレートレイクスケミカル社のベルコア575を用いた。
結果を表4に示す。

第4表に見られるように、次亜塩素酸ナトリウム溶液はpH14で、1ヶ月で約60%、3ヶ月で約20%しか有効塩素が残留していなかった。一方、今回作成したいずれの製剤もpHが高い領域において安定性が高く、pH12では3力月後において50%以上、pH13では3ヶ月後において90%以上の高い有効塩素の残留が確認された。一方、pH11では非常に不安定であることが確認された。以上のように、塩素系殺菌剤、スルファミン酸若しくはその塩、及びアニオン性ポリマー又はホスホン酸若しくはその塩を含有する製剤の安定性はpHに依存しており、pH12以上において高い安定性が得られることが分った。」(第18頁10行?第20頁第9行)

(2)刊行物4:特表2006-504774号公報
当審の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である上記刊行物4には、以下の記載がある。

(4a)「【請求項1】 水を含んでなり、その中の溶液において(i)塩素の共同使用を含むかもしくは含まない塩化臭素又は塩化臭素と臭素に由来する160,000ppm(wt/wt)より高い活性臭素含有率、ならびに(ii)スルファミン酸の塩基過剰(overbased)アルカリ金属塩を有する水性殺生物剤組成物であって、ここで(i)及び(ii)の相対的割合が、(i)及び(ii)からの窒素対活性臭素の原子比が0.93より大きくなるようなものであり、且つここで組成物のpHが少なくとも7である水性殺生物剤組成物。
…(略)…
【請求項21】
(a)臭素、塩化臭素又は塩化臭素と臭素の混合物から生成する活性臭素の水溶液を(b)スルファミン酸のアルカリ金属塩及び/又はスルファミン酸、アルカリ金属塩基及び水あるいは(1)スルファミン酸のアルカリ金属塩及び/又はスルファミン酸、(2)アルカリ金属塩基及び(3)水から形成せしめられるスルファミン酸のアルカリ金属塩の水溶液と共に含んでなり、該活性臭素の水溶液は少なくとも7のpHを有し、且つここで(a)及び(b)の量は、(i)活性臭素の水溶液中の活性臭素の含有率が160,000ppm(wt/wt)より高く、(ii)(a)及び(b)からの窒素対活性臭素の原子比が、塩化臭素なしで臭素が用いられる場合に1より大きく、臭素と共にもしくは臭素なしで塩化臭素が用いられる場合には0.93より大きくなるような量である濃厚液体殺生物剤組成物。
…(略))…。」

(4b)「【0001】 背景
臭素に基づく殺生物剤は、冷却水の微生物抑制及び廃棄物処理システムの消毒のために塩素化-脱塩素化を超える殺生物的利点が証明された。水処理産業はこれらの利点を比較的高いpH値において原価効率の高い管理であり、アンモニアの存在下で殺生物活性における損失がほとんどなく、且つバクテリア、藻類及び軟体動物の有効な抑制であると認めている。」

(4c)「【0012】 本発明
本発明は、中でも、同じ成分から形成され、かくして恐らく濃度に関する以外は同じかもしくは非常に類似の化学組成を有する現在商業的に入手可能なもっと希薄な殺生物性水溶液よりさえ高い、驚くほど高い保存安定性を有する非常に濃厚な活性臭素-含有殺生物性水溶液を提供する。
…(略)…。」

(4d)「【0083】 以下の追加の実施例は例示の目的で示され、制限ではない。
[実施例11?17]
【0084】
上記の一般的方法を用いて種々の組成物を調製し、得られる組成物の活性臭素含有率を分析的に決定した。用いられた条件及び得られた結果(臭気及び蒸気についての観察ならびに溶液中の活性臭素の初期含有率)を表6にまとめ、表中でSA_(eq)はスルフアミン酸対ハロゲンのモル比を示す。
【0085】
【表6】

…(略)…
【0087】 …(略)…
[実施例14]
【0088】 臭素、苛性アルカリ(50%水酸化ナトリウム)及びスルファミン酸ナトリウム
500mLのフラスコに26.0gのスルファミン酸及び50gの水を入れた。このスラリに35.0gの50%水酸化ナトリウムを加えた。酸がナトリウム塩に転換されるとともに、それはより容易に水溶液中に溶解された。臭素(37.0g)及び50%水酸化ナトリウム(30.0g)を、11?13のpHを保持する速度で溶液中に共-供給した。すべての臭素及び苛性アルカリが加えられた後、保存のために内容物を琥珀色のビンに移した。溶液の試料のデンプン-ヨウ素滴定は、それが19.6%の活性臭素濃度を有することを示した。臭素溶液の分析は、まだその活性臭素含有率の95%より多くを含有した。
[実施例15]
【0089】 中性pHにおける臭素、苛性アルカリ及びスルファミン酸ナトリウム
500mLのフラスコに26.0gのスルファミン酸及び50gの水を入れた。この攪拌されたスラリに30.9gの50%水酸化ナトリウムを加え、それは初期pHを約12に上昇させた。次いでスルファミン酸は溶液中に溶解した。pHが約7に低下するまで臭素(37.7g)を溶液中に供給し、その時点に50%水酸化ナトリウム(10.9g)を共-供給してpHを6?9に保持した。5mLの0.01N水酸化ナトリウムを用い、最終的pHを約7±0.5とした。次いで内容物を保存のために琥珀色のビンに移した。この溶液の試料のデンプン-ヨウ素滴定は、それが26.7%の活性臭素含有率を有することを示した。周囲温度における6週間の保存の後の溶液の分析は、安定化された臭素溶液がまだその活性臭素含有率の95%より多くを含有することを示した。」

(3)刊行物5:特表2002-516827号公報
当審の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である上記刊行物5には、以下の記載がある。

(5a)「【請求項1】 濃液状殺生物剤調合物を製造する方法であって、(a)塩化臭素または臭素と(b)スルファミン酸のアルカリ金属塩が入っていて少なくとも約7のpHを有する水溶液を(i)溶液の活性臭素含有量が少なくとも約100,000ppm(重量/重量)で(ii)(a)と(b)に由来する活性臭素に対する窒素の原子比が臭素を用いた時には1より大きくそして塩化臭素を用いた時には0.93より大きいような量で一緒に混合することを含んで成る方法。
…(略)…。」

(5b)「【0001】 (背景)
臭素を基とする殺生物剤(biocides)は、冷却水の微生物防除および廃棄物処理装置の殺菌に関して、塩素化-脱塩素化(chlorination-dechlorination)よりも殺生物的に有利であることが確かめられている。水処理産業では、そのような利点は防除をより高いpH値で費用効果的に行うことができ、殺生物活性をアンモニアの存在下でもほとんど失わずかつ細菌、藻および軟体動物を有効に防除する点にあることが認識されている。」

(5c)「 【0015】
この安定化を受けさせた臭素組成物で臭素または塩化臭素を苛性と一緒に用いることで達成可能な活性ハロゲンのレベルは、次亜塩素酸ナトリウムを臭化ナトリウムに添加した時に得られるレベルに比較して高い。…(略)…その上、本発明の組成物に存在する活性臭素のレベルはそのように高いが、それでも、そのような高いレベルの活性臭素を少なくとも2カ月間に渡って維持しかつ前記期間の間に目に見える蒸気も厭な臭気も発しない殺生物剤組成物を提供することができることも見い出した。」

(5d)「【0022】 (実施例)
この上に示した一般的手順を用いていろいろな組成物を調製しそしてその結果として得た組成物の活性臭素含有量を分析で測定した。用いた条件および得た結果(臭気および蒸気の観察、そして溶液に入っている活性臭素の初期含有量)を表2に要約する。
【0023】
【表2】



(5e)「【0026】 実施例4
臭素と苛性(50%の水酸化ナトリウム)とスルファミン酸ナトリウム
500mLのフラスコにスルファミン酸を26.0gおよび水を50g仕込んだ。このスラリーに50%の水酸化ナトリウムを35.0g加えた。前記酸がナトリウム塩に変わるにつれてより容易に溶解して水溶液が生じた。この溶液に臭素(37.0g)と50%の水酸化ナトリウム(30.0g)をpHが11から13の範囲に維持されるような速度で一緒に供給した。この臭素と苛性の全部を添加し終わった後、その内容物を黄褐色びんに移して貯蔵した。この溶液のサンプルに澱粉-ヨウ素滴定を受けさせた結果、それに入っている活性臭素の濃度は19.6%であることが示された。この臭素溶液を周囲温度で6週間貯蔵した後に分析を行った結果、それにはまだ活性臭素がそれに入っていた活性臭素の95%を越える量で入っていることが示された。
【0027】 実施例5
中性のpHにおける臭素と苛性とスルファミン酸ナトリウム
500mLのフラスコにスルファミン酸を26.0gおよび水を50g仕込んだ。このスラリーを撹拌しながらこれに50%の水酸化ナトリウムを30.9g加えると、初期のpHが約12まで上昇した。その後、前記スルファミン酸が溶解して溶液が生じた。この溶液に臭素(37.7g)をpHが約7にまで降下するまで供給し、pHが約7になった時点でpHが6から9の範囲に維持されるように50%の水酸化ナトリウム(10.9g)を一緒に供給した。0.01Nの水酸化ナトリウムを5mL用いて最終的なpHを約7±0.5に持って行った。その後、その内容物を黄褐色びんに移して貯蔵した。この溶液のサンプルに澱粉-ヨウ素滴定を受けさせた結果、それに入っている活性臭素の含有量は26.7%であることが示された。この溶液を周囲温度で6週間貯蔵した後に分析を行った結果、その安定化を受けさせておいた臭素溶液にはまだ活性臭素がそれに入っていた活性臭素の95%を越える量で入っていることが示された。」

(4)刊行物6:特開2002-338411号公報
当審の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である上記刊行物6には、以下の記載がある。

「【0003】一方、塩素化イソシアヌル酸と同様に酸化力を有する臭素系化合物は、臭素、臭素化ヒダントイン化合物、臭素化イソシアヌル酸等が知られているが、これらの化合物は水に溶解または接触した状態において次亜臭素酸を生成する。この次亜臭素酸もまた殺菌能力を有しているところから、プール、鉱泉、冷却水、飲料水及び廃水の殺菌消毒に使用されてきた。次亜臭素酸は、次亜塩素酸とは異なり高pHにおいても殺菌力を発揮する点、また金属に対する腐食が少ないといった優れた特徴を備えている。」

(5)刊行物7:特開2004-267896号公報
当審の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である上記刊行物7には、以下の記載がある。

「【0002】
【従来の技術】近年、水系のスライム処理に、次亜塩素酸ソーダが使用されている。しかし次亜塩素酸は水系の有機物と反応し、トリハロメタンや芳香族有機塩素化合物類の生成が危惧され、環境上好ましくない。次亜臭素酸は次亜塩素酸にくらべ、アルカリ領域にて殺菌効果を有する状態で存在しやすく、結合臭素となっても殺菌効果があるなど利点がある。また水系を構成する材料への腐食性も次亜臭素酸は次亜塩素酸にくらべ小さいとの報告がある。」

(6)刊行物9:特開2013-010718号公報
当審の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である上記刊行物9には、以下の記載がある。

「【0046】
本発明のスライム剥離方法では、スケール抑制剤、分散剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤、消泡剤などとして公知の化合物を併用して用いても良い。特に本発明のスライム剥離方法では、スライムの粘性により抱き込まれた無機粒子が再分散されるため、これらの無機粒子の再沈着を防止するための分散剤やキレート剤の添加が好ましい、
【0047】
このような分散剤の例として、モノエチレン性不飽和スルホン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体、あるいはモノエチレン性不飽和スルホン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸と他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体などが挙げられる。ここで、モノエチレン性不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸などの1種以上が用いられる。他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルアルキルエステルなどの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル置換(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド;エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ヘキセン、2-エチルヘキセン、ペンテン、イソペンテン、オクテン、イソオクテンなどの炭素数2?8のオレフィン;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなどのビニルアルキルエーテル;マレイン酸アルキルエステルなどがあげられ、その1種または2種以上が用いられる。分散剤の好ましい例は、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と(メタ)アクリル酸の共重合体、3-アリロキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸と(メタ)アクリル酸の共重合体、共役ジエンスルホン化物と(メタ)アクリル酸の共重合体などである。分散剤の分子量は、平均分子量として1,000?100,000が好ましいが、より好ましくは4,000?20、000である。
…(略)…。」

(7)刊行物10:特開2000-354856号公報
当審の拒絶の理由に引用された、本願出願日前に頒布された刊行物である上記刊行物10には、以下の記載がある。

(10a)「【0004】また、冷却水系では、水溶性ポリマーを水処理用薬品の少なくとも一成分として用いるのが通常である。かかる水溶性ポリマーの代表例として、ポリカルボン酸類があり、スケール防止剤、分散剤、防食剤、洗浄剤、凝集剤、その他の機能剤として使用されている。」

(10b)「【0033】本発明で検出対象薬品となり得るポリカルボン酸類は、カルボン酸基及び不飽和二重結合を有する重合性単量体からなる単独重合体や共重合体及びそれらの塩である。このような重合性単量体の若干の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、フマル酸、シトラコン酸、1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸及びそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩や、マレイン酸無水物、1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物、3,6-エポキシ-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、ビシクロ〔2.2.2〕-5-オクテン-2,3-ジカルボン酸無水物、3-メチル-1,2,6-テトラヒドロフタル酸無水物、2-メチル-1,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物等が挙げられる。これらの重合性単量体のうち、特に好ましいのは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸無水物である。
【0034】なお、本発明で検出対象薬品となり得るポリカルボン酸類は、重合体が水溶性である限り、カルボン酸基は含まないが不飽和二重結合を有する重合性単量体の単位を80重量%未満の量で含んでいても良い。このような重合性単量体の若干の例としては、アクリル酸又はメタクリル酸の炭素数1?4のアルキルとのエステル(具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート等)、アクリル酸又はメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル(具体例としては、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等)、その他のアクリル酸又はメタクリル酸のエステル(具体例としては、アクリル酸2-スルホエチル、アクリル酸3-スルホプロピル、アクリル酸2-スルファートエチル、2-N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、メタクリル酸2-スルホエチル、メタクリル酸3-スルホプロピル、メタクリル酸2-スルファートエチル、メタクリル酸ホスホエチル、エチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等)、無置換および置換(メタ)アクリルアミド(具体例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-t-ブチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、3-N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリルアミドグリコール酸等)、(メタ)アクリロニトリル(具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル)、スルホン酸基含有単量体(具体例としては、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、メタリルスルホン酸、1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルスルホン酸等)、
…(略)…。」

(10c)「【0054】実施例1
ポリカルボン酸類を含む複数の化学発光原因物質が共存するモデル試料水を調製するに当たって、ポリカルボン酸類としてアクリル酸単独重合体(平均分子量:4500、以下「A-1」と略す)とアクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/1-ブチルアクリルアミド共重合体(平均分子量:4500、以下「A-2」と略す)を、ポリカルボン酸類以外の化学発光原因物質としては、イソチアゾロン類である5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロンと2-メチル-3-イソチアゾロンの8:2(重量比率)の混合物(以下「A-3」と略す)を用いた。」


2.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、摘記(1a)に、請求項1として「塩素系酸化剤、スルファミン酸化合物及びアニオン性ポリマー又はホスホン酸化合物を含有することを特徴とするスライム防止用組成物」が記載され、当該請求項を引用する請求項3として、「スライム防止用組成物が、12以上のpHを有し、かつ該組成物の総重量に対し、(a) 有効塩素含有量1-8重量%の次亜塩素酸ナトリウム、(b)1.5-99重量%のスルファミン酸、(c)2.5-20重量%の水酸化ナトリウム及び(d)固形分濃度0.5-4重量%のアニオン性ポリマー少なくとも1種よりなることを特徴とする請求項1記載のスライム防止用組成物。」が記載されている。
さらにこれに対応した具体例として摘記(1c)の実施例7には、
「有効塩素12重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液40重量%、スルファミン酸8重量%、アニオン性ポリマー、残りは水酸化ナトリウム及び水の配合組成物を作成した」こと、
アニオン性ポリマーとして「アクリル酸-ヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸共重合物」を用いたこと、
表4には、「次亜塩素酸ナトリウム」、「スルファミン酸」、「水酸化ナトリウム」及び「アクリル酸-ヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸共重合物」をpH14で配合した例が記載されている。

そうすると、刊行物1には、実施例に係る発明として、以下の発明が記載されていると認める。
「スライム防止組成物であって、次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸とアクリル酸-ヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸共重合物を含む、pH14で配合したスライム防止剤組成物」(以下、「引用発明1」という。)。

3.対比・判断
(1)本願発明と引用発明1との対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
摘記(1b)には、刊行物1記載のスライム防止組成物が、冷却水系、蓄熱水系、紙パルプ工程水系、集じん水系、スクラバー水系などにおいてスライムに起因する障害を効果的に防止することができる組成物であると記載されているから、引用発明1の「スライム防止組成物」は、本願発明の「水処理剤組成物」に相当する。
また引用発明1の、「アクリル酸-ヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸共重合物」は、本願発明の「式(1)の単量体単位と式(3)の単量体単位とからなる二元共重合体」と、「アクリル酸を単量体単位として有する重合体」という点で共通する。
さらに、引用発明1の「pH14で配合した」ことは、本願発明の「pH13.2以上で」「配合されている」ことに該当する。

そうすると本願発明と引用発明1とは、「水処理剤組成物であって、スルファミン酸化合物及びアクリル酸を単量体単位として有する重合体を含有し、pH13.2以上で配合されている水処理剤組成物。」である点において一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
水処理剤組成物が、本願発明では一剤化されて配合されているのに対して、引用発明1には、一剤化されているとの特定がない点
<相違点2>
酸化剤として、本願発明では、臭素とスルファミン酸化合物とを含む次亜臭素酸の安定化組成物を用いているのに対して、引用発明1では、次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸とを用いている点
<相違点3>
アクリル酸と共重合させる単量体単位として、本願発明では、式(3)の単量体単位を用いているのに対して、引用発明1では、ヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸を用いている点

(2)相違点の検討
ア.相違点1について
まず、本願発明における「一剤化」について、請求人は、平成30年5月17日の意見書第2頁第29行?第32行において、「「一剤化」とは、「混合物を混合して一剤にする」という一般的な「一剤化」の意味です。」と主張しており、「混合物を混合して一剤にする」という意味であると理解できるので、以下その前提で判断する。
刊行物1の摘記(1c)には、組成物を「1液型」と「2液型」のいずれにすることも可能であると記載されてはいるものの、(1d)の記載から、実施例7においては、実施例1?6のように、有効成分を含むA成分と、ポリマー成分を含むB成分を区別せず、次亜塩素酸ナトリウム水溶液、スルファミン酸、アニオン性ポリマーを混合して配合組成物を得ており、上記スライム組成物は最終的に一剤化されて配合したものであるといえるから、引用発明1の各成分を配合して組成物を得ていることは、本願発明の「一剤化されて配合されている」ことに相当するものといえるためため、相違点1は実質的な相違点ではないか、仮に相違点であるとしても当業者であれば容易に特定できる技術的事項である。

イ.相違点2について
刊行物4の摘記(4b)には、臭素に基づく殺組生物剤が、冷却水の微生物抑制及び廃棄物処理ステムの消毒のために塩素化-脱塩素化を超える殺生物的利点を有し、その利点が比較的高いpHで発揮されることが示されており、摘記(4d)では実際に、臭素とスルファミン酸ナトリウムを用いて安定的な活性臭素含有溶液を作製しているし、同様に刊行物5の摘記(5b)(5c)には、臭素を基とする殺生物剤は、冷却水の微生物防除および廃棄物処理装置の殺菌に関して、塩素化-脱塩素化よりも殺生物的に有利であり、そのような利点は防除をより高いpHで行うことを可能にすることが示され、摘記(5e)では実際に、 臭素とスルファミン酸ナトリウムを用いて安定的な活性臭素含有溶液を作製しているから、

・塩素系のものよりも臭素を始めとする臭素系の殺生物剤の方が、殺生物特性において優れていること(以下、「技術常識1」という。)
・臭素を始めとする臭素系の殺生物剤をスルファミン酸化合物と併用することで安定性の高い殺生物性の組成物が得られること(以下、「技術常識2」という。)

は技術常識となっていたことが理解できる。

また刊行物6には、臭素を始めとする酸化力を有する臭素系化合物を水に溶かすことによって生じる次亜臭素酸は、次亜塩素酸より高いpHで殺菌力を発揮し、金属腐食性が少ないことが示され、刊行物7にも、次亜臭素酸を用いた水処理用殺生物剤は、高いpHでも殺菌力を有し、かつ金属等水系構成材料に対する腐食性が低いという利点があることが示されているから、
本願出願時点で、次亜臭素酸を用いた水処理用殺生物剤は、次亜塩素酸系とは異なり、高いpHでも殺菌力を有し、かつ金属等水系構成材料に対する腐食性が低いという利点があることも技術常識であったと理解できる。

以上に鑑みると、引用発明1において、より高い殺生物特性を示し、高いpHでも殺菌力を有し、かつ金属等水系構成材料に対する腐食性が低いスライム防止組成物を得るために、塩素系酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムに替えて、臭素を始めとする臭素系の酸化剤を用いることや、その際に安定なスライム防止組成物を得るために、スルファミン化合物と併用することは、上記技術常識を有する当業者であれば容易になし得る技術的事項であるといえる。
そして臭素は、臭素系の酸化剤として代表的なものの1つであり、実際に臭素をスルファミン酸化合物とを併用することで安定性の高い殺生物剤の組成物を構成したことが摘記(4d)、(5e)に記載されていることから、臭素系酸化剤として臭素を選択すること自体、当業者であれば当然なし得る技術的事項である。

ウ.相違点3について
刊行物1の摘記(1a)の請求の範囲5には、スライム防止用組成物に使用されるアニオン性ポリマーとして、「アクリル酸-ヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸共重合物」と同列に扱われる重合体として、アクリル酸と、本願発明の式(3)で表される単量体単位である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合物が記載されている。
また、刊行物9には、スライム剥離剤に分散剤として添加する重合体の好ましい例として、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と(メタ)アクリル酸の共重合体が、3-アリロキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸と(メタ)アクリル酸の共重合体と同列に記載されている。
さらに刊行物10の摘記(10a)、(10b)には、水処理用薬品中に、スケール防止剤や分散剤等の機能を目的に添加されるポリカルボン酸類に共重合させる成分として、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸が、1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルスルホン酸と同列に扱われており、実施例として摘記(10c)にアクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸/1-ブチルアクリルアミド共重合体という、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合成分として用いた例も記載されている。
本願発明の重合体と同様に(本願明細書【0028】)刊行物1、9及び10の上記記載から明らかなように、スケール防止性や分散性を付与するために用いられる、(メタ)アクリル酸系を始めとするポリカルボン酸系の重合体において、共重合成分として、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸がヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸と同列に扱われた成分であることは技術常識であり、引用発明1において、スケール防止性や分散性を付与するために用いられるポリマーのアクリル酸に共重合させる成分として、ヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸に替えて2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸とすることは、当業者が容易になし得た技術的事項であるといえる。

(3)効果について
本願発明の効果について検討する。
本願発明の効果は「無機系スライムコントロール剤のスライムコントロール性能の著しい低下を抑制し、無機系スライムコントロール剤である次亜臭素酸と、金属防食剤およびスケール分散剤のうち少なくとも1つとを一剤化することができる」(段落【0017】)というものであるが、刊行物1の摘記(1c)の表4によれば、塩素系酸化剤を用いた場合、高いpHでより安定性の高いスライム防止用組成物が得られること(特に、pH13の場合よりpH14の方が安定性が高いこと)が記載されているし、刊行物4?7についての上記記載から、臭素を始めとする臭素系の殺生物剤が、塩素系の殺生物剤より殺生物特性に優れており、かつスルファミン酸化合物と組み合わせたときに安定であることが、前述のとおり、技術常識として知られていたといえるから、引用発明1において、次亜塩素酸ナトリウムに替えて臭素を始めとする臭素系の殺生物剤を用いた場合にも、当然高いpHでも殺菌力等に優れて安定な組成物が得られることは当業者であれば予測可能である。

(4)請求人の主張について
ア.請求人は、令和元年7月4日付けの意見書の第4頁?第6頁において、本願発明は、「臭素とスルファミン酸化合物とを含む次亜臭素酸の安定化組成物」という「特定の次亜臭素酸安定化組成物」と、「式(1)の単量体単位と式(3)の単量体単位とからなる二元共重合体」という「特定の重合体」とを、「pH13.2以上」という特定のpHで一剤化して配合したことにより、「無機系スライムコントロール剤のスライムコントロール性能の著しい低下を抑制することができる」という顕著な効果が得られる旨主張する。

イ.しかしながら、臭素とスルファミン酸化合物とともに用いられる重合体については、本願の発明の詳細な説明の段落【0062】の【表2】を見る限りでは、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合体を用いた場合と他の重合体(アクリル酸単独重合体及びマレイン酸の単独重合体)との間に、有効臭素残留率等における差違は見られず、何らかの有利な効果を奏することが示されているとは認められない。

ウ.さらに、上記【表2】には、臭素を用いた場合と臭素以外の臭素系殺生物剤(臭化ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムとの併用、あるいは塩化臭素)を用いた場合の実験結果が示されており、有効臭素残留率及びその経時変化に多少の差違はみられるものの、【表2】に示されている組成物は、含有されている化合物やその含有量が異なっているから、これらを単純に比較することはできないし、類似化合物を用いて組成物を構成した場合に、奏する効果に多少の振れ幅があること自体は、一般的によく知られている技術的事項であるから、有効臭素残留率及びその経時変化において差違があることが、当業者の予測を超える格別顕著な効果であると認めることはできない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

エ.また請求人は令和元年7月4日付けの意見書の第5頁、第6頁において、刊行物1には、「臭素とスルファミン酸化合物とを含む次亜臭素酸の安定化組成物」について、何らの記載も示唆もなく、また、「式(1)の単量体単位と式(3)の単量体単位とからなる二元共重合体」に相当する「アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合物」の記載はあるが、実施例の記載はない旨主張する。
しかしながら、上記相違点2及び3において検討したとおり、“臭素系の殺生物剤が、塩素系の殺生物剤より殺生物特性や金属への低腐食性等において優れており、かつスルファミン酸化合物と組み合わせたときに安定であること”、及び“スケール防止性や分散性を付与するために用いられる、(メタ)アクリル酸系を始めとするポリカルボン酸系の重合体において、共重合成分として、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸がヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸と同列に扱われること”は、技術常識であるから、引用発明1において、次亜塩素酸ナトリウムに替えて臭素系の殺生物剤として具体的に実施されている臭素を用いること、また、アクリル酸に共重合させる成分として、ヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸に替えて2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を用いることは当業者が容易になし得る技術的事項であることは前述のとおりである。

オ.したがって、上記請求人の主張はいずれも採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物4?7、9並びに10に記載された技術常識に基いて、本願出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-10-28 
結審通知日 2019-10-29 
審決日 2019-11-11 
出願番号 特願2017-134666(P2017-134666)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桜田 政美福山 則明  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 齊藤 真由美
中島 芳人
発明の名称 水処理剤組成物、水処理剤組成物の製造方法および水処理方法  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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