• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B22D
管理番号 1358348
審判番号 不服2019-4915  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-12 
確定日 2020-01-21 
事件の表示 特願2015-147166「連続鋳造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年2月2日出願公開,特開2017-24057,請求項の数(3)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,平成27年7月24日の出願であって,平成30年11月16日付けで拒絶理由通知がされ,平成31年1月24日に意見書が提出され,同年2月1日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年4月12日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成31年2月1日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし3に係る発明は,以下の引用文献1及び2に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:.特開2012-200783号公報
引用文献2:.特開2007-154290号公報

第3 本願発明
本願請求項1ないし3に係る発明(以下,各請求項に係る発明を「本願発明1」などという。)は,願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
質量%で,C:0.02?1.50%,Si:0.005?0.8%,Mn:0.05?3.0%,P:0.02%以下,S:0.001?0.02%,N:0.002?0.008%,O:0.0001?0.015%,Ag:0.0001?0.5%を含有し,残部Fe及び不可避的不純物からなる溶鋼を連続鋳造し,得られた鋳片を,λ/λ_(0)が0.1?0.9となるように,鋳片の厚さ方向中心が凝固した後に圧下を行うことを特徴とする連続鋳造方法。
但し,λは,圧下後の鋳片の,厚さ方向中心におけるデンドライト1次アーム間隔であり,λ_(0)は,圧下を行うことなく鋳造した鋳片の,厚さ方向中心におけるデンドライト1次アーム間隔である。
【請求項2】
質量%で,C:0.02?1.50%,Si:0.005?0.8%,Mn:0.05?3.0%,P:0.02%以下,S:0.001?0.02%,N:0.002?0.008%,O:0.0001?0.015%,Ag:0.0001?0.5%を含有し,残部Fe及び不可避的不純物からなる溶鋼を連続鋳造し,鋳片の厚さ方向中心部温度が固相線温度?(固相線温度-400℃)の範囲内において圧下率5?50%で圧下を行うことを特徴とする連続鋳造方法。
【請求項3】
溶鋼成分は,Feの一部に代えて,質量%で,Ti:0.005?0.03%,Cu:0.05?1.5%,Ni:0.05?5.0%,Cr:0.02?1.0%,Mo:0.02?1.0%,Nb:0.005?0.05%,V:0.005?0.1%およびB:0.0004?0.004%のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の連続鋳造方法。」

第4 引用文献及び引用発明
1.引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には,次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は,凝固組織および凝固二次組織が微細な鋳片の連続鋳造方法,およびその連続鋳造鋳片に関する。」
「【0012】
本発明は,上記の問題に鑑みてなされたものであり,連続鋳造鋳片の凝固組織および凝固二次組織の微細化および均一化を図ることが可能な連続鋳造方法およびこの連続鋳造方法による鋳片を提供することを目的とする。」
「【0022】
(a)鋼板,特に極厚鋼板の機械的特性を向上させるには,鋼板の圧延組織を微細化させると同時に均一化させる必要がある。鋼板圧延組織の微細化および均一化には,界面活性元素を溶鋼中に添加し,鋳片を連続鋳造することが効果的である。界面活性元素は,連続鋳造鋳片の凝固組織および凝固二次組織を微細化し,鋳片内の溶質元素の濃度を均一化させる作用を有する。
・・・(後略)」
「【0057】
4-1-2.第2の構成元素(界面活性元素)
Bi,SnおよびTeの1種以上:合計で0.0001%?0.03%
Bi,SnおよびTeは,いずれも鋼の凝固過程において界面活性元素として作用し,デンドライト状の凝固組織を微細化する効果を有する元素である。これらの元素のうちの1種を含有させるだけでもこの微細化効果を得ることができる。この微細化効果を十分に得るには,これらの元素の含有率を合計で0.0001%以上とする必要がある。また,これらの元素の含有率が合計で0.03%を超えると,これらの元素の粗大な酸化物が生成し,鋼の靱性を低下させる。以上のことから,本発明では,Bi,SnおよびTeの1種以上の含有率を,合計で0.0001%?0.03%とする。
【0058】
4-2.任意元素
Feの一部に代えて,以下の任意元素を含有させてもよい。
・・・(中略)・・・
【0060】
4-2-2.その他の任意元素
・・・(中略)・・・
【0061】
Al:0.001%?1.5%
・・・(中略)・・・
【0062】
Ti:0.005?0.03%
・・・(中略)・・・
【0063】
N:0.01%以下
Nは,鋼に不可避的に含有される不純物であり,・・・含有率は低いほど好ましい。・・・(中略)・・・
【0064】
O:0.006%以下
Oは,鋼に不可避的に含有される不純物であり,・・・含有率は低いほど好ましい。・・・(後略)」
「【0067】
本発明の連続鋳造鋳片の鋳造方法では,上述の鋼組成であり,通常の連続鋳造方法で鋳造した鋳片を,厚さ方向中心部が完全に凝固した直後に圧下用ロール対を使用して圧下する。・・・(後略)」
「【0070】
1.試験条件
1-1.鋳造条件
溶鋼成分:上述の基本構成元素(C,Si,Mn,PおよびS)およびその他の任意元素(Cu,Ni,Al,Ti,NおよびO)が後述する表1に記載された組成に調製された溶鋼を使用し,界面活性元素(Bi,SnおよびTe)およびピン止め効果を有する元素(Mg,Ca,SrおよびBa)(以下,界面活性元素およびピン止め効果を有する元素を総称して「添加金属」ともいう。)については下記の添加方法により添加して表1に示される組成に調製
・・・(中略)・・・
圧下条件:表2に示される歪速度で圧下
【0071】
本試験では,溶鋼成分および圧下条件を変化させて連続鋳造を行い,連続鋳造鋳片を製造した。本発明例の試験において鋳造された溶鋼の成分組成および圧下条件を表1中の試験番号1?8の欄に示し,比較例の試験において鋳造された溶鋼の成分組成および圧下条件を同表中の試験番号9?11の欄に示した。表1において「-」はその元素の含有率が測定限界以下であることを示し,以下,元素について含有率が測定限界以下であることを「含まない」ともいう。」

【0072】の表1




【0073】の表2




2.引用文献1記載の技術的事項
上記1.に示す記載事項からみて,引用文献1には,以下の技術的事項が記載されているということができる。
(1)表1の試験番号1の鋳片は,溶鋼の成分組成が質量%で,C:0.06%,Si:0.14%,Mn:1.54%,P:0.006%,S:0.002%,Al:0.025%,Ti:0.014%,N:0.0036%,O:0.0033%,Bi:0.0011%を含有し,残部Fe及び不可避不純物からなること(【0070】ないし【0072】)。

(2)Al及びTiは,Feの一部に代える任意元素であり(【0061】及び【0062】),N及びOは,鋼に不可避的に含有される不純物であること(【0063】及び【0064】)。

(3)表1の試験番号1の鋳片は,連続鋳造により製造され(【0071】),鋳片の厚さ方向中心部が凝固した直後に圧下されること(【0067】)。

(4)表1の試験番号1の鋳片は,デンドライト1次アーム間隔の比λ/λ_(0)が0.7となること(【0073】)。

3.引用発明
上記2.に示す引用文献1記載の技術的事項をまとめると,引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。
「質量%で,C:0.06%,Si:0.14%,Mn:1.54%,P:0.006%,S:0.002%,Al:0.025%,Ti:0.014%,N:0.0036%,O:0.0033%,Bi:0.0011%を含有し,残部Fe及び不可避不純物からなる溶鋼を連続鋳造し,得られた鋳片を,デンドライト1次アーム間隔の比λ/λ_(0)が0.7となるように,鋳片の厚さ方向中心部が凝固した直後に圧下を行う試験番号1の鋳片の製造方法。」

第5 対比及び判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア.引用発明において「C:0.06%」を含有することは,本願発明1において「C:0.02?1.50%」を含有することに相当し,以下同様に,「Si:0.14%」は「Si:0.005?0.8%」に,「Mn:1.54%」は「Mn:0.05?3.0%」に,「P:0.006%」は「P:0.02%以下」に,「S:0.002%」は「S:0.001?0.02%」に,「N:0.0036%」は「N:0.002?0.008%」に,「O:0.0033%」は「O:0.0001?0.015%」に,それぞれ相当する。

イ.引用発明のλが,圧下後の鋳片の,厚さ方向中心におけるデンドライト1次アーム間隔を意味し,λ_(0)が,圧下を行うことなく鋳造した鋳片の,厚さ方向中心におけるデンドライト1次アーム間隔を意味することは明らかであるから,引用発明において「デンドライト1次アーム間隔の比λ/λ_(0)が0.7となる」ことは,本願発明1において「λ/λ_(0)が0.1?0.9となる」ことに相当する。

ウ.引用発明における「試験番号1の鋳片の製造方法」は,「連続鋳造方法」ということができるから,本願発明1の「連続鋳造方法」と一致する。

エ.したがって,本願発明1と引用発明は,以下の点で一致及び相違する。

<一致点>
「質量%で,C:0.02?1.50%,Si:0.005?0.8%,Mn:0.05?3.0%,P:0.02%以下,S:0.001?0.02%,N:0.002?0.008%,O:0.0001?0.015%を含有し,残部Fe及び不可避不純物からなる溶鋼を連続鋳造し,得られた鋳片を,λ/λ_(0)が0.1?0.9となるように,鋳片の厚さ方向中心が凝固した後に圧下を行うことを特徴とする連続鋳造方法。
但し,λは,圧下後の鋳片の,厚さ方向中心におけるデンドライト1次アーム間隔であり,λ_(0)は,圧下を行うことなく鋳造した鋳片の,厚さ方向中心におけるデンドライト1次アーム間隔である。」

<相違点1>
本願発明1の溶鋼はAlを含有していないのに対して,引用発明の溶鋼は「Al:0.025%」を含有している点。

<相違点2>
本願発明1の溶鋼はTiを含有していないのに対して,引用発明の溶鋼は「Ti:0.014%」を含有している点。

<相違点3>
本願発明1の溶鋼はBiを含有していないのに対して,引用発明の溶鋼は「Bi:0.0011%」を含有している点。

<相違点4>
本願発明1の溶鋼は「Ag:0.0001?0.5%」を含有しているのに対して,引用発明の溶鋼はAgを含有していない点。

(2)相違点についての判断
ア.相違点1について
上記第4の2.(2)に示すように,引用発明のAlは,Feの一部に代える任意元素であるから,引用文献1の記載に接した当業者は,引用発明のAlをFeに置き換えることができることを当然に理解するといえる。
したがって,引用発明のAlをFeに置換することは,当業者が容易に想到できた事項である。

イ.相違点2について
本願発明1には,Tiを含有することの特定はないが,本願発明1を引用する本願発明3には,「Feの一部に代えて,質量%で,Ti:0.005?0.03%」を含有することが特定されているから,本願発明1は,Tiを0.005?0.03質量%の範囲で含有することを許容していると解するべきである。
そして,引用発明のTiの含有量は,0.014質量%であり,0.005?0.03質量%の範囲に含まれるから,上記相違点2は,実質的な相違点とはいえない。
また,仮に,本願発明1がTiを含有することを許容しないとしても,上記第4の2.(2)に示すように,引用発明のTiは,Feの一部に代える任意元素であるから,引用発明のTiをFeに置換することは,当業者が容易に想到できた事項である。

ウ.相違点3について
引用発明は,連続鋳造鋳片の凝固組織および凝固二次組織の微細化および均一化を図ることを目的としており(【0012】),鋼板圧延組織の微細化および均一化には,界面活性元素を溶鋼中に添加し,鋳片を連続鋳造することが効果的であるという知見に基づいて発明されたもの(【0022】)である。
そして,相違点3に係る引用発明のBiは,界面活性元素として作用し,デンドライト状の凝固組織を微細化する効果を有する元素である(【0057】)から,引用文献1の記載に接した当業者は,引用発明のBiは,引用発明の目的を達成するための必須元素であると認識し,当該必須元素を引用発明から削除することは想到しないといえる。
また,引用文献2を参照しても,引用発明の必須元素であるBiを削除したり,他の元素に置換することを教示する記載や示唆はないから,相違点3は,当業者が引用発明並びに引用文献1及び2の記載に基づいて容易に想到できたものとはいえない。

エ.小括
上記ウ.に説示するとおり,相違点3は,当業者が引用発明並びに引用文献1及び2の記載に基づいて容易に想到できたものとはいえないから,相違点4について判断するまでもなく,本願発明1は,引用発明並びに引用文献1及び2の記載に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2及び3について
本願発明2の溶鋼は,本願発明1と同様に,「質量%で,C:0.02?1.50%,Si:0.005?0.8%,Mn:0.05?3.0%,P:0.02%以下,S:0.001?0.02%,N:0.002?0.008%,O:0.0001?0.015%,Ag:0.0001?0.5%を含有」するものであり,上記相違点3に係るBiを含有しないから,本願発明2は,本願発明1と同様に,引用発明並びに引用文献1及び2の記載に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
また,本願発明3は,本願発明1又は2を引用する発明であって,本願発明1又は2の発明特定事項を全て含むから,本願発明1又は2と同様に,本願発明3は,引用発明並びに引用文献1及び2の記載に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明1ないし3は,当業者が引用発明並びに引用文献1及び2の記載に基づいて容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-01-06 
出願番号 特願2015-147166(P2015-147166)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B22D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲来▼田 優来  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 中川 隆司
刈間 宏信
発明の名称 連続鋳造方法  
代理人 特許業務法人樹之下知的財産事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ