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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B21D
管理番号 1358369
審判番号 不服2019-15076  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-11 
確定日 2020-01-21 
事件の表示 特願2018-54134「加工機の安全装置」拒絶査定不服審判事件〔令和1年10月3日出願公開、特開2019-166529、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は、平成30年3月22日の出願であって、令和元年5月20日付けで拒絶理由通知がされ、令和元年7月18日に意見書が提出され、令和元年7月30日付けで拒絶理由通知がされ、令和元年9月24日に手続補正書及び意見書が提出され、令和元年10月17日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、令和元年11月11日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1-4に係る発明は、以下の引用文献1、3及び4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.米国特許第6243011号明細書
2.特許第5221567号公報
3.特開平7-275942号公報
4.米国特許出願公開第2016/327639号明細書


第3 本願発明
本願請求項1-4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は、令和元年9月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
上部テーブルが下部テーブルへと移動して、前記上部テーブルに装着された金型と前記下部テーブルに装着された金型とで材料を挟んで曲げ加工する加工機における前記上部テーブルにおける、前記上部テーブルの移動方向と直交する方向の第1の側に取り付けられた侵入物検出装置を備え、
前記侵入物検出装置は、
所定の周波数を有する高周波信号に基づいてパルス状の高周波光を生成し、前記上部テーブルと前記下部テーブルとの間に前記高周波光を投光する投光部と、
入射されるパルス状の高周波光に基づいて受光信号を生成する受光部と、
前記上部テーブルと前記下部テーブルとの間に侵入物が存在するときに、前記投光部が投光した高周波光と、前記投光部が投光した高周波光が前記侵入物で反射して前記受光部が受光したパルス状の反射光との位相差、または、前記高周波信号と、前記投光部が投光した高周波光が前記侵入物で反射して前記受光部が受光したパルス状の反射光に基づいて生成した受光信号との位相差に基づいて、前記侵入物検出装置から前記侵入物までの距離を算出する距離算出部と、
前記上部テーブルまたは前記下部テーブルに金型を装着可能な最大範囲における前記侵入物検出装置から前記第1の側とは反対側の第2の側の端部までの最長端部距離と、前記侵入物検出装置から前記材料の曲げ加工時に前記上部テーブルまたは前記下部テーブルに実際に装着されている金型の前記第2の側の端部までの距離と、前記上部テーブルまたは前記下部テーブルの前記第2の側の端部までの距離とのうちのいずれかを基準距離とし、前記距離算出部が算出した距離が前記基準距離以内でなければ、前記加工機による曲げ加工の動作を許可する動作許可信号を出力し、前記距離算出部が算出した距離が前記基準距離以内であれば、前記動作許可信号の出力を停止する動作許可信号出力部と、
を備える加工機の安全装置。
【請求項2】
前記受光部が生成する受光信号のレベルを検出する光量検出部をさらに備え、
前記受光部が生成する受光信号のレベルは、前記上部テーブルと前記下部テーブルとの間に侵入物が存在しない通常状態では所定のレベル未満であり、
前記動作許可信号出力部は、前記光量検出部によって検出される前記受光信号のレベルが前記所定のレベル以上であって、前記距離算出部が算出した距離が前記基準距離以内であるとき、前記動作許可信号の出力を停止する
請求項1に記載の加工機の安全装置。
【請求項3】
上部テーブルが下部テーブルへと移動して、前記上部テーブルに装着された金型と前記下部テーブルに装着された金型とで材料を挟んで曲げ加工する加工機における前記上部テーブルにおける、前記上部テーブルの移動方向と直交する方向の第1の側に取り付けられた侵入物検出装置と、
前記上部テーブルにおける前記第1の側とは反対側の第2の側に取り付けられた反射板と、
を備え、
前記侵入物検出装置は、
所定の周波数を有する高周波信号に基づいてパルス状の高周波光を生成し、前記上部テーブルと前記下部テーブルとの間に前記高周波光を投光する投光部と、
入射されるパルス状の高周波光に基づいて受光信号を生成する受光部と、
前記投光部が投光した高周波光と、前記投光部が投光した高周波光が前記反射板で反射して前記受光部が受光したパルス状の反射光との位相差、または、前記高周波信号と、前記投光部が投光した高周波光が前記反射板で反射して前記受光部が受光したパルス状の反射光に基づいて生成した受光信号との位相差に基づいて、前記侵入物検出装置から前記反射板までの基準距離を算出する距離算出部と、
前記距離算出部が前記基準距離を算出する通常状態であれば、前記加工機による曲げ加工の動作を許可する動作許可信号を出力し、前記距離算出部が前記基準距離よりも短い距離を算出するか距離を算出できない異常状態であれば、前記動作許可信号の出力を停止する動作許可信号出力部と、
を備える加工機の安全装置。
【請求項4】
前記受光部が生成する受光信号のレベルを検出する光量検出部をさらに備え、
前記受光部が生成する受光信号のレベルは、前記上部テーブルと前記下部テーブルとの間に侵入物が存在しない状態では所定のレベル以上であり、
前記動作許可信号出力部は、前記光量検出部によって検出される前記受光信号のレベルが前記所定のレベル未満であるとき、前記動作許可信号の出力を停止する
請求項3に記載の加工機の安全装置。」


第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は理解の便のため、当審で付与した。

ア.「【0018】図1は本発明による安全装置を装備されたプレスブレーキを示している。プレスブレーキは、サイドフレーム1に固定された上部固定テーブル3と、内蔵シリンダ装置により上下動される下部可動テーブル5とを有している。上部固定テーブル3の下端に上部金型(パンチ)7が装着され、下部可動テーブル5の上部に下部金型(ダイ)9が装着され、上部金型7と下部金型9との間に曲げ加工空間11が画定されている。
【0019】曲げ加工空間11の水平方向の一方の側には下部可動テーブル5に取り付けられたマウント部材13によりと紫外線投光器15と受光センサ17とが配置されている。紫外線投光器15と受光センサ17とは、隣合わせに近接配置されて一つのケース19にパッケージされ、一つの検出器として取り扱われ、紫外線投光器15は曲げ加工空間11に対して紫外線を放射するよう、また受光センサ17は曲げ加工空間11よりの光線を受光するよう、取り付け方向を選定されている。」

イ.「【0023】紫外線投光器15と受光センサ17は駆動制御装置25に接続され、駆動制御装置25は、紫外線投光器15を所定の周波数をもってパルス発光駆動し、紫外線投光器15の駆動周波数と同一の周波数特性をもって受光センサ17の受光量を処理し、所定のしきい値以上の受光量があれば、下部可動テーブル5の駆動制御装置27へ停止指令を出力する。
【0024】駆動制御装置27は停止指令を入力すると、下部可動テーブル5を上下駆動する内蔵シリンダ装置(図示省略)の動作を緊急停止する。
【0025】上述の如き構成によれば、図2に示されているように、紫外線投光器15より曲げ加工空間11へ紫外線が照射され、この曲げ加工空間11に白色軍手など蛍光物を含有した作業手袋Hを着用した作業者の手があると、この作業手袋Hに紫外線が当たり、紫外線は作業手袋Hが含有している蛍光物の物理的効果により長波長光に変化して可視光となる。これにより紫外線の作業手袋Hよりの反射光が可視光とし受光センサ17に入射し、受光センサ17がこれに感応する。この時には受光センサ17の感知受光量は所定のしきい値以上になり、駆動制御装置25は下部可動テーブル5の駆動制御装置27へ停止指令を出力する。
【0026】これに対し、曲げ加工空間11に曲げ加工素材のみが存在している場合には、曲げ加工素材に紫外線投光器15よりの紫外線が当たっても、曲げ加工素材は蛍光物を含んでいないことにより、これよりの紫外線の反射光が可視光になることがなく、受光センサ17の感知受光量が所定のしきい値以上になることがない。
【0027】この場合には、駆動制御装置25が駆動制御装置27へ停止指令を出力することがない。
【0028】従って、箱曲げなどにおいて、曲げ加工素材が折り曲げ起立片を有していても、安全装置の誤動作により金型移動が不必要に停止することがなくなり、この種の曲げ加工も、安全に、しかも能率よく行われるようになる。」

ウ.上記ア.の「図1は本発明による安全装置を装備されたプレスブレーキを示している。プレスブレーキは、サイドフレーム1に固定された上部固定テーブル3と、内蔵シリンダ装置により上下動される下部可動テーブル5とを有している。上部固定テーブル3の下端に上部金型(パンチ)7が装着され、下部可動テーブル5の上部に下部金型(ダイ)9が装着され、上部金型7と下部金型9との間に曲げ加工空間11が画定されている。」という記載、上記イ.の「曲げ加工素材」という記載、上記ア.の「曲げ加工空間11の水平方向の一方の側には下部可動テーブル5に取り付けられたマウント部材13によりと紫外線投光器15と受光センサ17とが配置されている。紫外線投光器15と受光センサ17とは、隣合わせに近接配置されて一つのケース19にパッケージされ、一つの検出器として取り扱われ、紫外線投光器15は曲げ加工空間11に対して紫外線を放射するよう、また受光センサ17は曲げ加工空間11よりの光線を受光するよう、取り付け方向を選定されている。」という記載から、下部可動テーブル5が上部固定テーブル3へと移動して、前記上部固定テーブル3に装着された上部金型(パンチ)7 と前記下部可動テーブル5に装着された下部金型(ダイ)9とで曲げ加工素材を挟んで曲げ加工するプレスブレーキにおける前記下部可動テーブル5は、水平方向の一方の側に配置されている検出器を備えていることがわかる。

エ.上記ア.の「紫外線投光器15と受光センサ17とは、隣合わせに近接配置されて一つのケース19にパッケージされ、一つの検出器として取り扱われ、紫外線投光器15は曲げ加工空間11に対して紫外線を放射するよう、また受光センサ17は曲げ加工空間11よりの光線を受光するよう、取り付け方向を選定されている。」という記載、上記イ.の「駆動制御装置25は、紫外線投光器15を所定の周波数をもってパルス発光駆動し」という記載、上記ア.の「上部金型7と下部金型9との間に曲げ加工空間11が画定されている。」という記載から、検出器は、所定の周波数を有するパルス状の紫外線を生成し、上部金型7と下部金型9との間の曲げ加工空間11に前記紫外線を投光する投光器15と、放射されるパルス状の紫外線を受光する受光センサ17とを備えていることがわかる。

オ.したがって、上記引用文献3には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「下部可動テーブル5が上部固定テーブル3へと移動して、前記上部固定テーブル3に装着された上部金型(パンチ)7 と前記下部可動テーブル5に装着された下部金型(ダイ)9とで曲げ加工素材を挟んで曲げ加工するプレスブレーキにおける前記下部可動テーブル5は、水平方向の一方の側に配置されている検出器を備え、
前記検出器は、
所定の周波数を有するパルス状の紫外線を生成し、上部金型7と下部金型9との間の曲げ加工空間11に前記紫外線を投光する投光器15と、
放射されるパルス状の紫外線を受光する受光センサ17とを備え、
受光センサ17の感知受光量が所定のしきい値以上になると、下部可動テーブル5の駆動制御装置27へ停止指令を出力する駆動制御装置25と、
を備えるプレスブレーキの安全装置。」

2.引用文献1について
上記引用文献1の第5欄66行から第6欄第3行には、「When the scanning beam of protective field 48 encounters the operator's trousers 54 a diffuse reflection is created, a very small part of the beam emitted by the reflection light scanner 46 returns to a receiver, where it is detected and evaluated.」[保護フィールド48の走査ビームが操作者のズボン54に当たると、拡散反射生じ、反射光スキャナー46によって放出されたビームの非常に僅かな部分が戻り、受信機がこれを検出して評価する。]([]内は合議体が作成した翻訳文。以下同じ。)と記載されており、当該記載から、反射光スキャナー46からビームを放出して、保護フィールド48内へ操作者が侵入した場合に、操作者のズボン54からの拡散反射を受信して、それを評価するという技術的事項が記載されている。

3.引用文献4について
上記引用文献4の段落[0110]には、「FIG. 7 shows a light grid 1 in accordance with the time of flight principle having at least one light transmitter 2 which transmits light signals or consecutive light pulses 3 into a measured zone 5 and having at least one light receiver 4 which receives the light signals or light pulses 3 reflected from the measured zone and supplies them in the form of received electrical signals to a control and evaluation unit 7 which determines a distance signal representative of the distance 8 of objects 6 from the light grid 1 from the time between the transmission and the reception of the light signals or light pulses 3 while taking account of the speed of light, wherein the light receiver 4 has at least one single photon avalanche diode 9.」[図7は、飛行時間の原理に従う光格子1を示しており、光格子1は、測定領域5内に光信号又は連続する光パルス3を送信する少なくとも1つの光発信器2と、測定領域から反射された光信号または光パルス3を受信し、受信した光信号を電気信号の形態で制御及び評価ユニット7に供給する少なくとも1つの受光器4とを有し、制御・評価ユニット7は、光の速度及び光信号や光パルス3の送受信間の時間から光格子1から物体6までの距離8を表す距離信号を決定し、受光器4は、少なくとも1つの単一光子アバランシェダイオード9を備えている。]と記載されており、当該記載から、光発信器2から光パルス3を送信し、物体6からの反射光を受光器4で受信し、光の速度と光パルスの送受信間の時間から光発信器2から物体6までの距離8を算出するという技術的事項が記載されている。


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
引用発明において「下部可動テーブル5が上部固定テーブル3へと移動」することと、本願発明1において「上部テーブルが下部テーブルへと移動」することは、「上部のテーブルと下部のテーブルが相対的に移動」する点で一致する。
また、引用発明の「前記上部固定テーブル3に装着された上部金型(パンチ)7」と本願発明1の「前記上部テーブルに装着された金型」は、「前記上部のテーブルに装着された金型」という点で一致し、同様に、「前記下部可動テーブル5に装着された下部金型(ダイ)9」と「前記下部テーブルに装着された金型」は、「前記下部のテーブルに装着された金型」という点で一致する。
そして、引用発明の「曲げ加工素材」が本願発明1の「材料」に相当し、「プレスブレーキ」が「加工機」に相当することは明かである。
引用発明において「前記下部可動テーブル5は、水平方向の一方の側に配置されている検出器」を備えることと、本願発明1において「前記上部テーブルにおける、前記上部テーブルの移動方向と直交する方向の第1の側に取り付けられた侵入物検知装置」を備えることは、「可動するテーブルにおける、テーブルの移動方向と直交する方向の第1の側に取り付けられた侵入物検出装置」を備える点で一致する。
引用発明の「所定の周波数を有するパルス状の紫外線を生成し、上部金型7と下部金型9との間の曲げ加工空間11に前記紫外線を投光する投光器15」と本願発明1の「所定の周波数を有する高周波信号に基づいてパルス状の高周波光を生成し、前記上部テーブルと前記下部テーブルとの間に前記高周波光を投光する投光部」とを対比すると、上部金型7と下部金型9の間の曲げ加工空間11は上部固定テーブル3と下部可動テーブル5の間でもあるから、両者は「所定の周波数を有するパルス状の光を生成し、前記上部のテーブルと前記下部のテーブルとの間に前記光を投光する投光部」を限度として一致している。
引用発明の「放射されるパルス状の紫外線を受光する受光センサ17」と、本願発明1の「入射されるパルス状の高周波光に基づいて受光信号を生成する受光部」とを対比すると、検出器は受光センサ17の感知受光量が所定のしきい値以上となるか判定しており、受光した光は受光信号に変換されていると解されるから、両者は、「入射されるパルス状の光に基づいて受光信号を生成する受光部」を限度として一致する。
引用発明の「受光センサ17の感知受光量が所定のしきい値以上になると、下部可動テーブル5の駆動制御装置27へ停止指令を出力する駆動制御装置25」と本願発明1の「前記距離算出部が算出した距離が前記基準距離以内であれば、前記動作許可信号の出力を停止する動作許可信号出力部」とを対比すると、停止指令を出力することや動作許可信号の出力を停止することは、加工機の動作を停止させることとなるから、両者は、「加工機の動作を停止させる装置」を限度として一致する。

そうすると、両発明は以下の点で一致し、また相違する。

(一致点)
「上部のテーブルと下部のテーブルが相対的に移動して、前記上部のテーブルに装着された金型と前記下部のテーブルに装着された金型とで材料を挟んで曲げ加工する加工機における可動するテーブルにおける、テーブルの移動方向と直交する方向の第1の側に取り付けられた侵入物検出装置を備え、
前記侵入物検出装置は、
所定の周波数を有するパルス状の光を生成し、前記上部のテーブルと前記下部のテーブルとの間に前記光を投光する投光部と、
入射されるパルス状の光に基づいて受光信号を生成する受光部と、
加工機の動作を停止させる装置と、
を備える加工機の安全装置。」

(相違点1)
上部テーブルと下部テーブルの相対的な移動に関し、本願発明1は、「上部テーブルが下部テーブルへと移動」するのに対し、引用発明では、「下部可動テーブル5が上部固定テーブル3へと移動」する点。

(相違点2)
光の送受信に関し、本願発明1は、「所定の周波数を有する高周波信号に基づいてパルス状の高周波光を生成」し、高周波光が受光部で受光されるのに対し、引用発明は「所定の周波数を有するパルス状の紫外線を生成」し、パルス状の紫外線を受光センサ17で受光するするものの、所定の周波数を有する高周波信号に基づいて、高周波光を生成し、高周波光を受光しているか不明な点。

(相違点3)
本願発明1は、「前記上部テーブルと前記下部テーブルとの間に侵入物が存在するときに、前記投光部が投光した高周波光と、前記投光部が投光した高周波光が前記侵入物で反射して前記受光部が受光したパルス状の反射光との位相差、または、前記高周波信号と、前記投光部が投光した高周波光が前記侵入物で反射して前記受光部が受光したパルス状の反射光に基づいて生成した受光信号との位相差に基づいて、前記侵入物検出装置から前記侵入物までの距離を算出する距離算出部」を有するとともに、「前記上部テーブルまたは前記下部テーブルに金型を装着可能な最大範囲における前記侵入物検出装置から前記第1の側とは反対側の第2の側の端部までの最長端部距離と、前記侵入物検出装置から前記材料の曲げ加工時に前記上部テーブルまたは前記下部テーブルに実際に装着されている金型の前記第2の側の端部までの距離と、前記上部テーブルまたは前記下部テーブルの前記第2の側の端部までの距離とのうちのいずれかを基準距離とし、前記距離算出部が算出した距離が前記基準距離以内でなければ、前記加工機による曲げ加工の動作を許可する動作許可信号を出力し、前記距離算出部が算出した距離が前記基準距離以内であれば、前記動作許可信号の出力を停止する動作許可信号出力部」を有する。これに対し、引用発明は、受光センサの感知受光量に基づき駆動制御するものであって、位相差によって距離を算出する距離算出部や距離に基づいて動作許可信号を出力・停止する動作許可信号出力部を有していない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点3から検討する。
引用発明には、上記相違点3に係る位相差によって算出した、侵入物検出装置から加工機に侵入した物体までの距離に基づいて、加工機の動作の許可・停止を判断するという事項は記載されておらず、当該事項は、上記第4.2及び第4.3.で記載した引用文献1及び引用文献4にも記載されていない。また、本願発明1は当該事項により、光の揺らぎまたは回折等に起因する加工機の誤動作が発生しにくいという効果を有するが、そのような効果は引用文献1、3及び4のいずれにも記載も示唆もない。したがって、引用発明において、上記相違点3に係る構成を採用することは当業者であっても容易に想到できたものではない。

(3)本願発明1のむすび
したがって、上記相違点1及び2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献1、3及び4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

2.本願発明2について
本願発明2も、本願発明1と同じ相違点1ないし3を有するから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1、3及び4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明3について
(1)対比
本願発明3と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
引用発明において「下部可動テーブル5が上部固定テーブル3へと移動」することと、本願発明3において「上部テーブルが下部テーブルへと移動」することは、「上部のテーブルと下部のテーブルが相対的に移動」する点で一致する。
また、引用発明の「前記上部固定テーブル3に装着された上部金型(パンチ)7」と本願発明3の「前記上部テーブルに装着された金型」は、「前記上部のテーブルに装着された金型」という点で一致し、同様に、「前記下部可動テーブル5に装着された下部金型(ダイ)9」と「前記下部テーブルに装着された金型」は、「前記下部のテーブルに装着された金型」という点で一致する。
そして、引用発明の「曲げ加工素材」が本願発明3の「材料」に相当し、「プレスブレーキ」が「加工機」に相当することは明かである。
引用発明において「前記下部可動テーブル5は、水平方向の一方の側に配置されている検出器」を備えることと、本願発明3において「前記上部テーブルにおける、前記上部テーブルの移動方向と直交する方向の第1の側に取り付けられた侵入物検知装置」を備えることは、「可動するテーブルにおける、テーブルの移動方向と直交する方向の第1の側に取り付けられた侵入物検出装置」を備える点で一致する。
引用発明の「所定の周波数を有するパルス状の紫外線を生成し、上部金型7と下部金型9との間の曲げ加工空間11に前記紫外線を投光する投光器15」と本願発明3の「所定の周波数を有する高周波信号に基づいてパルス状の高周波光を生成し、前記上部テーブルと前記下部テーブルとの間に前記高周波光を投光する投光部」とを対比すると、上部金型7と下部金型9の間の曲げ加工空間11は上部固定テーブル3と下部可動テーブル5の間でもあるから、両者は「所定の周波数を有するパルス状の光を生成し、前記上部のテーブルと前記下部のテーブルとの間に前記光を投光する投光部」を限度として一致している。
引用発明の「放射されるパルス状の紫外線を受光する受光センサ17」と、本願発明3の「入射されるパルス状の高周波光に基づいて受光信号を生成する受光部」とを対比すると、検出器は受光センサ17の感知受光量が所定のしきい値以上となるか判定しており、受光した光は受光信号に変換されていると解されるから、両者は、「入射されるパルス状の光に基づいて受光信号を生成する受光部」を限度として一致する。
引用発明の「受光センサ17の感知受光量が所定のしきい値以上になると、下部可動テーブル5の駆動制御装置27へ停止指令を出力する駆動制御装置25」と本願発明3の「前記距離算出部が前記基準距離を算出する通常状態であれば、前記加工機による曲げ加工の動作を許可する動作許可信号を出力し、前記距離算出部が前記基準距離よりも短い距離を算出するか距離を算出できない異常状態であれば、前記動作許可信号の出力を停止する動作許可信号出力部」とを対比すると、停止指令を出力することや動作許可信号の出力を停止することは、加工機の動作を停止させることとなるから、両者は、「加工機の動作を停止させる装置」を限度として一致する。

そうすると、両発明は以下の点で一致し、また相違する。

(一致点)
「上部のテーブルと下部のテーブルが相対的に移動して、前記上部のテーブルに装着された金型と前記下部のテーブルに装着された金型とで材料を挟んで曲げ加工する加工機における可動するテーブルにおける、テーブルの移動方向と直交する方向の第1の側に取り付けられた侵入物検出装置を備え、
前記侵入物検出装置は、
所定の周波数を有するパルス状の光を生成し、前記上部のテーブルと前記下部のテーブルとの間に前記光を投光する投光部と、
入射されるパルス状の光に基づいて受光信号を生成する受光部と、
加工機の動作を停止させる装置と、
を備える加工機の安全装置。」

(相違点4)
上部テーブルと下部テーブルの相対的な移動に関し、本願発明3は、「上部テーブルが下部テーブルへと移動」するのに対し、引用発明では、「下部可動テーブル5が上部固定テーブル3へと移動」する点。

(相違点5)
本願発明3は、「前記上部テーブルにおける前記第1の側とは反対側の第2の側に取り付けられた反射板」を有するのに対し、引用発明では、そのような反射板が設けられていない点。

(相違点6)
光の送受信に関し、本願発明3は、「所定の周波数を有する高周波信号に基づいてパルス状の高周波光を生成」し、高周波光が受光部で受光されるのに対し、引用発明は「所定の周波数を有するパルス状の紫外線を生成」し、パルス状の紫外線を受光センサ17で受光するするものの、所定の周波数を有する高周波信号に基づいて、高周波光を生成し、高周波光を受光しているか不明な点。

(相違点7)
本願発明3は、「前記投光部が投光した高周波光と、前記投光部が投光した高周波光が前記反射板で反射して前記受光部が受光したパルス状の反射光との位相差、または、前記高周波信号と、前記投光部が投光した高周波光が前記反射板で反射して前記受光部が受光したパルス状の反射光に基づいて生成した受光信号との位相差に基づいて、前記侵入物検出装置から前記反射板までの基準距離を算出する距離算出部」を有するとともに、前記距離算出部が前記基準距離を算出する通常状態であれば、前記加工機による曲げ加工の動作を許可する動作許可信号を出力し、前記距離算出部が前記基準距離よりも短い距離を算出するか距離を算出できない異常状態であれば、前記動作許可信号の出力を停止する動作許可信号出力部」を有する。これに対し、引用発明は、受光センサの感知受光量に基づき駆動制御するものであって、位相差によって距離を算出する距離算出部や距離に基づいて動作許可信号を出力・停止する動作許可信号出力部を有していない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点7から検討する。
引用発明には、上記相違点7に係る位相差によって侵入物検出装置が算出した距離が反射板までの基準距離より短いか距離が算出できない場合に、加工機の動作の許可・停止を判断するという事項は記載されておらず、当該事項は、上記第4.2及び第4.3.で記載した引用文献1及び引用文献4にも記載されていない。また、本願発明3は当該事項により、高周波光を吸収する侵入物が存在する異常状態であっても上部テーブルの下降を停止させることができるという効果及び受光部が光軸のぶれに起因して反射光を受光できないことによる誤動作がほとんど発生しないという効果を有するが、そのような効果は引用文献1、3及び4のいずれにも記載も示唆もない。したがって、引用発明において、上記相違点7に係る構成を採用することは当業者であっても容易に想到できたものではない。

(3)本願発明3のむすび
したがって、上記相違点4ないし6について検討するまでもなく、本願発明3は、引用発明及び引用文献1、3及び4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

4.本願発明4について
本願発明4も、本願発明3と同じ相違点4ないし7を有するから、本願発明3と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1、3及び4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-4は、当業者が引用発明及び引用文献1、3及び4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-01-07 
出願番号 特願2018-54134(P2018-54134)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石田 宏之  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 見目 省二
小川 悟史
発明の名称 加工機の安全装置  
代理人 三好 秀和  

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