• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特174条1項  F15B
管理番号 1358392
審判番号 無効2018-800058  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-05-11 
確定日 2019-12-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第6291518号発明「流体圧シリンダ及びクランプ装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6291518号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 主な手続の経緯
本件特許第6291518号の請求項1ないし5に係る発明についての出願の主な手続の経緯は、以下のとおりである。
平成23年10月 7日 特願2011-222846号(以下「原々々
出願」という。)の出願
平成25年 7月26日 原々々出願の一部を新たに特許出願(特願20
13-155444号、以下「原々出願」とい
う。)として出願
平成27年 9月24日 原々出願の一部を新たに特許出願(特願201
5-186531号、以下「原出願」という。
)として出願
平成28年 4月11日 原出願の一部を新たに本件特許に係る特許出願
(特願2016-78545号、以下「本件出
願」という。)として出願
平成28年 5月10日 手続補正書の提出
平成29年 5月30日 拒絶理由(新規事項等)の通知
平成29年10月 5日 意見書の提出
平成30年 2月16日 本件特許の特許権の設定登録
平成30年 3月14日 本件特許の特許公報発行(特許第629151
8号公報)
平成30年 5月11日 本件無効審判の請求
平成30年 7月27日 審判事件答弁書の提出
平成30年 8月31日 審理事項の通知
平成30年10月 1日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
平成30年10月 1日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
平成30年10月15日 口頭審理
平成30年11月 2日 審決の予告
なお、審決の予告に対する応答はなかった。

第2 本件特許の請求項1ないし5に係る発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
シリンダ本体と、
前記シリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と、
前記出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の流体室と、
前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と、
前記エア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備えた流体圧シリンダであって、
前記開閉弁機構は、
前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着され、小径軸部と前記小径軸部に対して前記流体室の反対側に設けられた大径軸部とが一体成形された弁体本体を含む弁体と、
前記弁体の前記大径軸部を前記流体室側に弾性付勢して前記弁体を前記流体室側に進出させた状態に保持する弾性部材と、
前記シリンダ本体の前記装着孔の途中部に設けられ、前記弁体本体の前記小径軸部が挿通される貫通孔を有する環状部材と、
前記装着孔の開放側部分に固定され、前記弁体本体の前記大径軸部が内嵌される凹穴を有するキャップ部材と、
前記環状部材と前記キャップ部材との間に形成され、前記弁体を収容する収容室と、
前記環状部材の径方向に延びるように形成され、前記収容室を前記エア通路の前記一端部側に連通させる第1エア通路と、
前記キャップ部材に形成され、前記収容室を前記エア通路の前記他端部側に連通させる第2エア通路とを含み、
前記出力部材が所定の位置にない場合、前記開閉弁機構は、前記弁体を前記流体室に進出させた状態に保持し、前記第1エア通路と前記第2エア通路とを開く開放状態を維持し、
前記出力部材が所定の位置に達したときに、前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を前記第1エア通路と前記第2エア通路とを閉じる閉弁状態に切り換え、前記エア通路のエア圧を介して前記出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成したことを特徴とする流体圧シリンダ。
【請求項2】
前記開閉弁機構は、前記弁体に当接可能な弁座をさらに備え、
前記弁体は、前記弁体本体に外嵌状に装着され且つ前記弁座に接近・離隔可能な可動弁体を備えることを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。
【請求項3】
前記小径軸部の外周側に設けられ、前記流体室と前記収容室との間をシールする第1シール部材と、
前記キャップ部材により塞がれた前記装着孔の内部と外界との間をシールする第2シール部材とをさらに備えた、請求項1または請求項2に記載の流体圧シリンダ。
【請求項4】
前記所定の位置が、前記出力部材の上昇限界位置、作動途中位置、下降限界位置のうちの何れかの位置であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の流体圧シリンダ。
【請求項5】
前記出力部材からなるクランプロッドを備え、請求項4に記載の流体圧シリンダによりクランプロッドを駆動するように構成したことを特徴とするクランプ装置。」

第3 無効理由、無効理由に対する答弁及び証拠方法
1.請求人の主張する請求の趣旨並びに無効理由1及び2
審判請求書(以下「請求書」という。)及び平成30年10月1日付け口頭審理陳述要領書(以下「請求人要領書」という。)によれば、請求人の主張する請求の趣旨は、本件特許発明1ないし5についての特許を無効とする、との審決を求めるものであり、その無効理由1及び2の概要は以下のとおりである。

(1)無効理由1(特許法第17条の2第3項)
被請求人が平成28年5月10日提出の手続補正書でした補正(以下「本件補正」という。)は、本件出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項に規定される要件を満足していないから(新規事項の追加)、本件特許発明1ないし5は、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由2(特許法第36条第6項第1号)
本件特許発明1ないし5は、当初明細書等の発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから(サポート要件違反)、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

2.被請求人の主張する答弁の趣旨
平成30年7月27日付け審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)、平成30年10月1日付け口頭審理陳述要領書(以下「被請求人要領書」という。)によれば、被請求人の答弁の趣旨は、本件審判請求は成り立たない、との審決を求めるものである。

3.証拠方法
(1)請求人の証拠方法
請求人は審判請求書とともに、証拠方法として以下の甲1-1ないし5-4を提出している。また、請求人要領書とともに、甲6を提出している。
甲1-1:本件出願の願書に最初に添付した明細書
甲1-2:本件出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲
甲1-3:本件出願の願書に最初に添付した図面
甲2 :米国特許第2949098号明細書及びその翻訳文
甲3-1:平成29年第193号事実実験公正証書(公証人下野恭裕作成)
甲3-2:LL-RM/RN リニアシリンダ断面構造図、2010年(平
成22年)6月3日作成の写し
甲3-3:平成29年第156号事実実験公正証書(公証人杉垣公基作成)
甲3-4:リニアシリンダカタログ、株式会社コスメック、2010年(平
成22年)5月作成、表紙、5?6ページ、23?24ページ、
27?28ページ、45?46ページ、裏表紙の写し
甲4 :Sensing Link clamp,リンククランプ 複動
7MPa,model CLM カタログ、パスカルエンジニア
リング株式会社、2018年(平成30年)3月28日出力、
137?174ページの写し
甲5-1:原出願の平成27年10月23日提出の手続補正書
甲5-2:原出願の平成27年11月20日付けの拒絶理由通知書
甲5-3:原出願の平成27年12月24日提出の意見書
甲5-4:原出願の平成28年1月7日付けの拒絶査定
甲6 :本件出願の平成28年5月10日提出の手続補正書

(2)被請求人の証拠方法
被請求人は答弁書とともに、証拠方法として乙1ないし4を提出している。
乙1:特開2001-87991号公報
乙2:特開2003-305626号公報
乙3:特開2009-125821号公報
乙4:本件出願の平成29年10月5日提出の意見書

第4 当事者の主張
1.無効理由1について
[請求人]
(1)当初明細書等(甲1-1ないし3)には、流体圧導入室(油圧導入室)を設けるとともに、弁体を流体室の流体圧により出力部材側へ進出させた状態に保持する構成が開示されている(当初明細書等【請求項1】等)。そして、弁体を出力部材側へ進出させた状態に保持する構成として、スプリングで例示された弾性部材(当初明細書等【請求項7】【0074】【0075】【図11】【図12】)を開示している実施例2は、流体圧を用いる技術的事項を必須構成としており、補助的な役割として弾性部材が記載されているにすぎない。
しかも、上記の実施例2の作用効果は、油圧によって弁体を進出状態に保持させることを前提した実施例1(当初明細書等の請求項1にかかる発明の実施例)の作用効果(当初明細書等【0072】の「信頼性と耐久性の面で有利である」)と、同一である。すなわち、上記実施例2の作用効果として、「実施例1の油圧シリンダと同様の効果が得られる」と明記されている(当初明細書等【0075】の最終文)。
さらには、上記実施例1及び2のみならず、実施例3ないし実施例8の各実施例においても、全て、弁体を進出状態に保持させるために、油圧を用いることを必須の構成としており、油圧を用いない構成については記載も示唆もない。
このように、当初明細書等には、弾性部材を補助的に用いる場合であっても、弁体を出力部材側へ進出させてこれを保持するための構成としては、流体室の流体圧を用いる構成が必須のものとされているのである。
すなわち、当初明細書等には、弁体を進出状態に保持するにあたり、流体圧(油圧)を前提とした構成に弾性部材(スプリング)を補助的に付加することが記載されているものの、弾性部材(スプリング)のみにより弁体を出力部材側へ進出させた状態に保持するとの技術的事項は、記載も示唆もないのである。(請求書第9ページ第2行ないし第10ページ第2行)

(2)


上図に示すように、時間とともに、アンクランプ油室15及び油圧導入室53の圧力が上昇していき、弁体51に下向きの大きな力(Fa)が作用する場合において、弁体51を進出状態に保持できるのは、上記の力(Fa)よりも大きい上向きの力(Fb)が存在するからである。
すなわち、仮に、下左図に示された前記の油圧導入室53(及び油圧導入路54)を無くした場合には(下右図を参照)、上記の上向きの力(Fb)が無くなる。この場合、弁体51は、上記油室15の圧力が上昇したときに、下向きの大きな力(Fa)によって押し下げられてしまい、進出状態を保持できなくなる。
それゆえ、上記油室15の圧力が前記の設定充填圧力(例えば、7MPa)やその近傍の高圧領域に到達した場合でも「弁体51を弾性部材(スプリング53a)の付勢力(上図の水色↑)のみで進出保持可能である」との技術的事項を、当業者が当初明細書等から導くことはできない。(請求書第11ページ第14行ないし第12ページ第12行)


(3)知財高判平成28年8月24日・平成27年(行ケ)第10245号においては
「自明な事項というには、その手段が明細書に記載されているに等しいと認められるものでなければならず、単に、他にも手段があり得るという程度では足りない。上記のとおり、当初明細書等には、便座昇降装置以外の手段については何らの記載も示唆もないのであり、他の手段が、当業者であれば一義的に導けるほど明らかであるとする根拠も見当たらない。・・・。しかしながら、上記の自明な事項の解釈からいって、他に公知技術があるからといって当該公知技術が明細書に実質的に記載されていることになるものでないことは、明らかである。」
として、他に手段があり得るとか、他に公知技術があるからといって、実質的に記載されていることにはならないのである。
また、知財高判平成18年12月20日・平成17年(行ケ)第10832号においては
「すなわち、明細書又は図面の記載から見て、ある事項が自明であるというためには、ある周知技術を前提とすれば、当業者が、明細書又は図面の記載から、当該事項を容易に理解認識できるというだけでなく、たとえ周知技術であろうと、明細書又は図面の記載を、当該技術と結び付けて理解しようとするための契機(示唆)が必要であると解すべきである。」
として、周知技術であっても、当初明細書等の記載を、当該技術と結びつけて理解しようとするための契機(示唆)が必要なのである。(請求人要領書第4ページ第8行ないし第5ページ第1行)

(4)当初明細書等の実施例2の記載からは、上記圧縮コイルスプリング53a単独で弁体本体58Aをアンクランプ油室15に進出させた状態に保持することが可能なものであることは当業者にとって自明ではない。それのみならず、技術常識や周知技術等を勘案しても、当初明細書等の実施例2の記載には、弁体を進出させた状態に保持するために、流体室の流体圧を用いることを必須の構成としているとしか理解できない。(請求人要領書第5ページ第10ないし15行)

(5)仮に、「流体圧導入室」を備えず「弾性部材」のみで弁体を進出させる構成が技術常識であったとしても、当初明細書等に当該技術常識が記載されているかどうかは別の問題である。
すなわち、上記で引用した裁判例記載のとおり、公知であるからといっても、当初明細等に記載されたことにはならないし、技術常識であっても当該技術と結びつけて理解しようとする契機(示唆)が必要である。
しかしながら、当初明細書等には当該契機(示唆)は一切存在しない。(請求人要領書第6ページ第23行ないし第7ページ第4行)

(6)当初明細書等からは、弁体を進出させた状態に保持するためには、流体室(及び流体圧導入室)の流体圧を必須の構成としているとしか当業者には理解できず、流体圧を利用することなく、弁体を進出させた状態に保持する技術的事項が記載されていると理解することはできない。
したがって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、「弾性部材単独構造」は新たな技術的事項を導入するものである。
よって、本件発明1ないし5は、特許法17条の2第3項の規定に反して登録されたものである。(請求人要領書第8ページ第10ないし17行)

(7)仮に、「装着される圧縮コイルスプリング53aの圧縮の度合いを必要に応じて大きくすることで、弁体本体58Aを付勢する上向きの付勢力を大きくすることができる。また、圧縮コイルスプリング53aのばね定数を増大させることによっても、上向きの付勢力を大きくすることができる。」(13頁10?13行)との主張が技術的に正しいとしても、当該主張を導く記載は、当初明細書等には皆無である。
しかも、圧縮コイルスプリングの付勢力を大きくすることは、弾性部材が必然的に大きくなることから、「流体圧シリンダを小型化することができる。」(段落【0022】)との当初明細書等に記載の作用効果と矛盾するのである。それゆえ、当業者は、圧縮コイルスプリングの付勢力を増して弾性部材のみで弁体を進出させることが本件発明に包含されると認識することはない。(請求人要領書第9ページ第14ないし25行)

[被請求人]
(1)請求人は、本件発明の1つの例示(実施例)にすぎない「実施例2」の記載を都合よく解釈することで「流体圧導入室」が必須の構成であると主張する(9?22頁)。
しかし、特許法第17条の2第3項所定の要件の判断においては、補正された事項が「当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項」に該当するか否かを判断する必要がある(知財高判平成20年5月30日(平成18年(行ケ)10563号大合議判決)ところ、請求人の主張は「実施例2」の記載内容の分析のみに終始しており、段落【0122】の「開閉弁機構の構造も例示であって、これらの開閉弁機構に限定されるものではなく」等を看過し、結局のところ、当初明細書等の全ての記載を総合した判断に基づくものとはいえないから失当である。(答弁書第5ページ第6ないし16行)

(2)実施例2に示された「圧縮コイルスプリング53a」は、それ単独で弁体本体58Aを付勢してアンクランプ油室15に進出させることが可能なものであることは当業者にとって自明であり、「流体圧導入室」を備えず「弾性部材」のみで弁体を進出させる構成は技術常識ともいえる事項である。当初明細書等の段落【0122】には「種々の開閉弁機構を採用することができる」とも記載され、「流体圧導入室」を備えない「開閉弁機構」への変形も当然に予定された範囲のものである。よって、「前記弁体の前記大径軸部を前記流体室側に弾性付勢して前記弁体を前記流体室側に進出させた状態に保持する弾性部材」は、「本件の当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項」に該当する。(答弁書第11ページ第12ないし20行)

(3)当初明細書等に記載の「小径軸部58a」は、その名が示すとおり、可能な範囲で「小径」であることが求められるところ、油圧導入室53を設けない場合、弁体本体58Aに油圧導入路54を設ける必要がないため、弁体本体58Aの構造を簡素化し、小径軸部58aの径を縮小することができる。この結果、小径軸部58aの断面積を縮小し、アンクランプ油室15の圧力による下向きの力(Fa)を小さくすることができる。
同じく当初明細書等に記載の「弾性部材」としての「圧縮コイルスプリング53a」についても、その名のとおり、圧縮して装着されることによって上向きの力(Fb)を生じさせる。装着される圧縮コイルスプリング53aの圧縮の度合いを必要に応じて大きくすることで、弁体本体58Aを付勢する上向きの付勢力を大きくすることができる。また、圧縮コイルスプリング53aのばね定数を増大させることによっても、上向きの付勢力を大きくすることができる。
このように、「小径軸部58a」の径を小さくしたり、「圧縮コイルスプリング53a」の圧縮の度合いやばね定数を大きくすることで、油圧による下向きの力よりも弾性部材による上向きの付勢力を大きくして、「弾性部材」の付勢力のみによって「弁体を流体室に進出させた状態に保持」する(構成要件1C)ことが可能である。「小径軸部58a」の径を小さくしたり、「圧縮コイルスプリング53a」の圧縮の度合いやばね定数を大きくすることは、段落【0122】における「種々の開閉弁機構」として当然に予定された範囲にすぎないものであるから、「弾性部材」の付勢力のみによって「弁体を流体室に進出させた状態に保持」することも、本件特許の当初明細書等に記載の事項の範囲内であることは当然である。(答弁書第13ページ第2ないし23行)

(4)被請求人は、単に「弾性部材単独構造」が周知慣用技術であるから当初明細書に記載された事項の範囲内であると説明しているわけではない。本件特許の実施例2の記載は、単に丸3(当審注記:丸の中に3。以下同じ。)(「油圧」と「弾性力」の併用)の具体例を明示するのみならず、丸1(「油圧」単独)を丸3(「油圧」と「弾性力」の併用)に改変すること、すなわち「弁体を付勢する要素」を変更することをも明示していることを見逃してはならない。「弁体を付勢する要素」の具体例として「油圧」と「弾性力」とが明示され、「油圧」という要素を単独で用いること(実施例1等)と、「油圧」と「弾性力」という要素を併用すること(実施例2)とが明示されているときに、「弾性力」を単独で用いること、すなわち「弾性部材単独構造」を採用することは、段落【0122】の記載に基づいて開閉弁機構を改変するに際して当業者が極めて自然に行なうことである。
よって、「弾性部材単独構造」は、本件特許の当初明細書等に記載されているのと同然であると当業者が理解する事項であるといわなければならない。(被請求人要領書第4ページ第18行ないし第5ページ第4行)

(5)被請求人は、実施例2の記載と段落【0122】の記載のみに基づいて「弾性部材単独構造」が当初明細書に記載された事項の範囲内の事項であると反論しているわけではないことは上述のとおりである。
上記「ア」項において説明したとおり、「弾性部材単独構造」は当初明細書の実施例1等の記載も併せて考えれば、当業者にとって記載されたも同然の事項である。すなわち、「弾性部材単独構造」は、本件の当初明細書の記載を総合して導かれる事項であり、当初明細書に記載された範囲内の事項である。(被請求人要領書第5ページ第16ないし22行)

2.無効理由2について
[請求人]
(1)当初明細書等(甲1-1ないし3)には、流体圧を用いずに弁体を進出保持する構成についての記載はないところ、本件発明1に係る補正後の明細書及び図面(以下「本件明細書等」という。)も当初明細書等と同旨であり、流体圧を用いずに弁体を進出保持する構成についての記載はない。
また、弁体の大径軸部の外周部分を弾性部材により付勢して進出保持する構成についても、前述したとおり当初明細書等には記載も示唆もなく、本件明細書等においても、大径軸部の外周部分を付勢する構成は記載も示唆もされていない。本件明細書等に開示されている構成は、弁体本体58Aの下部に形成された小径の凹穴58dを付勢する構成のみである。
それゆえ、弁体を進出保持するに際して、流体圧を不要とする(必須の構成としない)本件発明1は、本件明細書等の発明の詳細な説明に記載したものではなく、サポート要件を充足しないものである。(請求書第26ページ第14行ないし第27ページ第3行)

(2)当初明細書には、段落【0021】と【0022】に発明の効果が明記され、「信頼性や耐久性」が発明の必須の課題ないし目的であることが明記されているから、被請求人の主張には理由がない。(請求人要領書第11ページ第5ないし7行)

(3)段落【0021】に記載のとおり、流体圧シリンダの小型化においても、「開閉弁機構は、弁体と弁座と流体圧導入室と流体圧導入路とを備え」ることをその必須の構成としているのである。
したがって、仮に被請求人の主張するとおり、「信頼性や耐久性の向上」と「小型化」が異なる課題であり、いずれか1つの課題が解決すれば足りるとしても、いずれの課題の解決にも弁体を進出させた状態に保持するために、流体室の流体圧を用いることを必須の構成としている(段落【0021】【0022】)ことから、被請求人の主張には理由がない。(請求人要領書第11ページ第21ないし28行)

[被請求人]
(1)本件特許の出願当初の明細書(段落【0011】等)には、
・「出力部材が所定の位置に達したことをシリンダ本体内のエア通路のエア圧の圧力変化を介して確実に検知可能で小型化可能な流体圧シリンダ及びクランプ装置を提供すること」、
・「出力部材の所定の位置を検出する信頼性や耐久性を向上し得る流体圧シリンダ及びクランプ装置を提供すること」
という別個独立の2つの課題ないし目的が並列的に示されており、そのうち少なくとも1つが達成されればよいのであるから、「信頼性と耐久性を確保する」ことが必ずしも必須の課題ないし目的ということはできない。
また、仮に「信頼性や耐久性を向上」させることが必須の課題ないし目的であるとしても、本件発明は「流体圧導入室」を備えないものの、この目的に反するものではない。
よって、「流体圧導入室」を備えない本件発明は、出願当初の明細書等に記載の発明の目的を達しないとする請求人の主張は到底成り立たない。(答弁書第5ページ第22行ないし第6ページ第7行)

(2)本件発明は、「弁体をシリンダ本体に形成した装着孔に組み込むことで、開閉弁機構をシリンダ本体内に組み込むことができるため、流体圧シリンダを小型化することができる」とともに、「出力部材が所定の位置に達したとき、出力部材により弁体を移動させて開閉弁機構の開閉状態を確実に切り換えるため、エア通路のエア圧を介して出力部材の所定の位置を確実に検知可能である」ものであるため、「出力部材が所定の位置に達したことをシリンダ本体内のエア通路のエア圧の圧力変化を介して確実に検知可能で小型化可能な流体圧シリンダ及びクランプ装置を提供する」という、当初明細書等に記載された少なくとも1つの目的を達成しており、当初明細書に記載の範囲を超えるものではない。(答弁書第16ページ第12ないし20行)

(3)本件発明によれば、上述のとおり、「弁体」の移動距離を短くすることができるので、特許文献2(乙2)に記載の構造と比較して、「弁体」の摺動部の摩耗を抑制し、長期間使用した場合にエア通路を閉止する性能の低下を抑制することが可能である。すなわち、本件発明は、「流体圧導入室」を備えない状態においても、段落【0009】の「エア通路を閉止する性能が低下」(特許文献2)という課題を解決し、「信頼性や耐久性を向上」の目的(段落【0011】)に反しないものである。(答弁書第17ページ第10ないし16行)

第5 当審の判断
1.当初明細書等に記載された発明について
当初明細書等には以下のとおり記載されている(ただし下線部は当審で付与したものである。以下同じ。)。
(1)特許請求の範囲
「【請求項1】
シリンダ本体と、このシリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と、この出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の流体室とを有する流体圧シリンダにおいて、
前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と、このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え、
前記開閉弁機構は、前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着され且つ先端部が前記流体室に突出する弁体と、この弁体が当接可能な弁座と、前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と、前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備え、
前記出力部材が所定の位置に達したときに、前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え、前記エア通路のエア圧を介して前記出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成したことを特徴とする流体圧シリンダ。
【請求項2】
前記流体室に流体圧が供給された状態において、前記開閉弁機構は前記弁体が前記弁座から離隔した開弁状態を維持し、
前記流体室の流体圧がドレン圧に切り換えられ且つ前記出力部材が前記所定位置に達した時に、前記開閉弁機構は、前記弁体が前記弁座に当接した閉弁状態に切り換えられることを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。
【請求項3】
前記流体室に流体圧が供給されている場合、前記開閉弁機構は前記弁体が前記弁座に当接した閉弁状態を維持し、
前記流体室の流体圧がドレン圧に切り換えられ且つ前記出力部材が前記所定位置に達した時に、前記開閉弁機構は、前記弁体が前記弁座から離隔した開弁状態に切り換えられることを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。
【請求項4】
前記開閉弁機構は、前記シリンダ本体に形成された前記装着孔に挿入螺合され且つ前記弁体が進退可能に挿入されたキャップ部材を備え、
前記キャップ部材に、前記出力部材側端部に前記弁座が形成され、前記キャップ部材と前記弁体との間に前記流体圧導入室が形成されたことを特徴とする請求項2に記載の流体圧シリンダ。
【請求項5】
前記弁体は、弁体本体と、この弁体本体に外嵌状に装着され且つ前記弁座に接近・離隔可能な可動弁体とを備え、前記弁体本体と前記可動弁体との間にシール部材が設けられたことを特徴とする請求項4に記載の流体圧シリンダ。
【請求項6】
前記開閉弁機構の流体圧導入路は、前記弁体に貫通状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。
【請求項7】
前記開閉弁機構は、前記弁体を前記出力部材側に弾性付勢する弾性部材を有することを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。
【請求項8】
前記所定の位置が、前記出力部材の上昇限界位置、作動途中位置、下降限界位置のうちの何れかの位置であることを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。
【請求項9】
前記出力部材からなるクランプロッドを備え、請求項8に記載の流体圧シリンダによりクランプロッドを駆動するように構成したことを特徴とするクランプ装置。」

(2)明細書
ア.段落0021ないし0023
「請求項1の流体圧シリンダによれば、シリンダ本体内のエア通路を開閉する開閉弁機構を設け、この開閉弁機構は、弁体と弁座と流体圧導入室と流体圧導入路とを備え、弁体をクランプ本体に形成した装着孔に組み込むことで、開閉弁機構をシリンダ本体内に組み込むことができるため、流体圧シリンダを小型化することができる。
前流体圧シリンダの流体室の流体圧を、開閉弁機構の流体圧導入室に流体圧導入路を介して導入可能に構成し、出力部材が所定の位置に達しない状態では、流体室の流体圧を利用して弁体を流体室側に突出した状態に保持することができ、開閉弁機構の開閉状態を保持することができる。流体室の流体圧を利用して弁体を付勢するため、信頼性と耐久性の面で有利である。
出力部材が所定の位置に達したとき、出力部材により弁体を移動させて開閉弁機構の開閉状態を確実に切り換えるため、前記エア通路のエア圧を介して出力部材の所定の位置を確実に検知可能である。」
イ.段落0028
「請求項6の流体圧シリンダによれば、流体圧導入路をシリンダ本体に形成する必要がなく、開閉弁機構をコンパクトに構成することができる。」
ウ.段落0048(実施例1)
「次に、第1開閉弁機構30について説明する。
図2,図7,図9に示すように、第1開閉弁機構30は、第1挿通孔12bの上端部の外周側付近において上端壁部材12の壁部の内部に配設され、第1エア通路21の上流側エア通路21aの下流端部を開閉可能に設けられている。第1開閉弁機構30は、弁体31と、キャップ部材32と、弁座32aと、油圧導入室33(流体圧導入室)と、油圧導入路34(流体圧導入路)と、内部のエア通路35a?35fとを備え、上端壁部材12の装着孔36にキャップ部材32と環状部材37を介して組み込まれている。」
エ.段落0057及び0058(実施例1)
「油圧導入室33が、前記凹穴32bのうちのキャップ部材32と弁体本体38との間に形成され、弁体本体38に貫通状に形成された油圧導入路34を介して、クランプ油室14の筒状部14aに接続されている。油圧導入路34の先端部分には複数の分岐油路34aが形成されている。クランプ油室14に油圧が供給されると、油圧導入路34から油圧導入室33に油圧が導入され、その油圧が弁体本体38を進出方向(ピストンロッド部4c側)へ付勢する。
次に、油圧シリンダ3と第1開閉弁機構30の作用について説明する。
クランプ油室14に油圧が供給され、ピストンロッド部材4aが下降途中又は下降限界位置(クランプ状態)のとき、小径ロッド部4dが第1開閉弁機構30に対向する。そのため、第1開閉弁機構30においては、図9に示すように、油圧導入室33に導入された油圧を弁体31が受圧して弁体本体38が進出状態になり、弁面39vが弁座32aから離隔して閉弁状態から開弁状態に切換わり、エア通路35a?35fが連通状態となる。このとき、係合軸部38cの段部により環状係合部39cが奥方へ押動されるため、確実に閉弁状態から開弁状態になる。尚、閉弁状態から開弁状態への切換えが、『開閉状態の切換え』に相当する。」
オ.段落0069(実施例1)
「次に、油圧シリンダ3と第2開閉弁機構50の作用について説明する。
図1、図3に示すクランプ装置1がアンクランプ状態のとき、アンクランプ油室15に油圧が充填されているため、油圧導入孔54から油圧導入室53へ油圧が導入され、油圧導入室53の油圧により弁体51が上方へ付勢されて上方へ移動し、環状係合部59cと小径軸部58cの段部の係合を介して、可動弁体59も上方へ移動し、環状弁面59vが環状弁座52aから離隔して開弁状態を保持する。」
カ.段落0071(実施例1)
「この油圧シリンダ1によれば、クランプ本体10内のエア通路21,22を開閉する第1,第2開閉弁機構30,50を、シリンダ本体10に形成した装着孔36,56に組み込むことで、第1,第2開閉弁機構30,50をクランプ本体10内に組み込むことができるため、出力部材4の上昇限界位置と下降限界位置を検出可能な油圧シリンダ1を小型化することができる。」
キ.段落0072(実施例1)
「第1開閉弁機構30では、クランプ油室14内の油圧を油圧導入室33に導入し、その油圧を弁体31に作用させて、弁体31を出力部材4側へ突出状態に保持できるため、信頼性と耐久性の面で有利である。第2開閉弁機構についても同様である。」
ク.段落0074及び0075(実施例2)
「実施例1の第2開閉弁機構50を部分的に変更した第2開閉弁機構50Aについて説明する。但し、変更部分についてのみ説明し、同様の部材に同じ符号を付して説明を省略する。図11、図12に示すように、弁体本体58Aの下端部分に下端開放の凹穴58dであって油圧導入室53に開口した凹穴58dが形成され、この凹穴58dと油圧導入室53に圧縮コイルスプリング53aが装着された。弁体本体58Aは、油圧導入室53の油圧によって上方へ付勢されると共に、圧縮コイルスプリング53aによって上方へ付勢されている。
圧縮コイルスプリング53aを設けたため、クランプ状態からアンクランプ状態へ切換える際に、アンクランプ油室15に充填される油圧の圧力が立ち上がるまでの過渡時における、弁体51の作動確実性を高めることができる。尚、第1開閉弁機構30にも、上記と同様に、圧縮スプリングを組み込んでもよい。その他、実施例1の油圧シリンダと同様の効果が得られる。」
ケ.段落0078(実施例3)
「図13に示すアンクランプ状態のとき、アンクランプ油室15に油圧が供給されるため、油圧導入室53に導入される油圧により、弁体本体58と可動弁体59Bとが上方へ付勢されて上昇限界位置になるため、環状弁面59vが環状弁座52aから離隔して開弁状態になる。」
コ.段落0083(実施例4)
「図15に示すように、アンクランプ状態のときは、アンクランプ油室15の油圧が油圧導入室53に導入されるため、第2開閉弁機構50Bと同様に、環状弁面59vが環状弁座52aから離隔して開弁状態となる。クランプ状態のときには、第2開閉弁機構50Bと同様に、環状弁面59vが環状弁座52aに当接して閉弁状態になる。この第2開閉弁機構50Cでは、部品の精度要求が緩和されるため、製作面で有利である。その他、実施例1の油圧シリンダと同様の効果が得られる。」
サ.段落0085(実施例5)
「前記第1開閉弁機構30は、出力部材4が上昇限界位置のとき閉弁状態になり、出力部材4が下降限界位置のとき開弁状態になる。しかし、この第1開閉弁機構30Dは、出力部材4が上昇限界位置のとき開弁状態になり、出力部材4が下降限界位置のとき閉弁状態になる。図17?図24に示すように、第1開閉弁機構30Dは、キャップ部材32と、環状部材37Dと、弁体31Dと、油圧導入室33と、油圧導入路34と、内部のエア通路35a、35b、35g、35hとを備え、上端壁部材12に形成した水平向きの装着孔36に装着したものである。弁体31Dは弁体本体38のみで構成され、弁体本体38は、小径軸部38aと大径軸部38bとを一体形成したものである。」
シ.段落0092(実施例5)
「図19に示すように、クランプ装置1Dがアンクランプ状態で、アンクランプ油室15に油圧が供給された状態で、ピストンロッド部材4aが下昇限界位置でないとき、油圧導入路54から油圧導入室53に油圧が導入され、弁体本体58が上方へ僅かに進出移動するため、環状弁面58cが環状弁座57bに当接して閉弁状態になる。その結果、第2エア通路22のエア圧が上昇するため、出力部材4が下降限界位置から上昇したことを圧力スイッチ22nにより検出する検出することができる。」
ス.段落0099(実施例6)
「アンクランプ油室75に油圧を供給し、クランプ油室74の油圧を抜いたアンクランプ状態においては、図26に示すように、油圧が油圧導入路83から油圧導入室82に導入され、その油圧を受圧する弁体80が下方へ移動し、環状弁面80vが環状弁座81aに当接して閉弁状態になる。その結果、エア通路85s内のエア圧が高くなるから、圧力スイッチ又は圧力センサにより、上昇限界位置から下降したことを検出することができる。」
セ.段落0105及び0106(実施例7)
「このクランプ装置1Fには、ピストンロッド部材90がアンクランプ状態からクランプ状態に移行する(ピストンロッド部材90が下降する)際に、ピストンロッド部材90がツイスト動作を完了したことを検出する為の開閉弁機構50Fが設けられている。
この開閉弁機構50Fは、前記実施例1の第2開閉弁機構50とほぼ同様の構造であるので、同様の部材に同じ符号を付して簡単に説明する。」
ソ.段落0113(実施例8)
「この開閉弁機構30Gは、実施例5の第1開閉弁機構30Dと同様のものであるので同様の部材に同じ符号を付して簡単に説明する。前記実施例7の開閉弁機構50Fは、出力部材4Fがツイスト動作中にはのとき開弁状態になり、出力部材4Fがツイスト動作完了時以降に閉弁状態になる。しかし、この開閉弁機構30Gは、出力部材4Fがツイスト動作中には閉弁状態になり、出力部材4Fがツイスト動作完了時以降に開弁状態になる。」
タ.段落0122
「前記の種々の開閉弁機構の構造も例示であって、これらの開閉弁機構に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の開閉弁機構を採用することができる。」

(3)図面
本件出願に係る発明の実施の形態を説明した図2、3、7、9ないし16、18、19、21、23、24、26、27、30、32、34及び36には、開閉弁機構が油圧導入室及び油圧導入路を有する点が明確に示されていると認められる。

2.本件補正について
本件補正は、当初明細書等の特許請求の範囲(「1.当初明細書等に記載された発明について」の「(1)特許請求の範囲」を参照。)を以下のとおり補正するものである(下線部は補正箇所を示す。)。
「【請求項1】
シリンダ本体と、
前記シリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と、
前記出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の流体室と、
前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と、
前記エア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備えた流体圧シリンダであって、
前記開閉弁機構は、
前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着され、小径軸部と前記小径軸部に対して前記流体室の反対側に設けられた大径軸部とが一体成形された弁体本体を含む弁体と、
前記弁体の前記大径軸部を前記流体室側に弾性付勢して前記弁体を前記流体室側に進出させた状態に保持する弾性部材と、
前記シリンダ本体の前記装着孔の途中部に設けられ、前記弁体本体の前記小径軸部が挿通される貫通孔を有する環状部材と、
前記装着孔の開放側部分に固定され、前記弁体本体の前記大径軸部が内嵌される凹穴を有するキャップ部材と、
前記環状部材と前記キャップ部材との間に形成され、前記弁体を収容する収容室と、 前記環状部材の径方向に延びるように形成され、前記収容室を前記エア通路の前記一端部側に連通させる第1エア通路と、
前記キャップ部材に形成され、前記収容室を前記エア通路の前記他端部側に連通させる第2エア通路とを含み、
前記出力部材が所定の位置にない場合、前記開閉弁機構は、前記弁体を前記流体室に進出させた状態に保持し、前記第1エア通路と前記第2エア通路とを開く開放状態を維持し、
前記出力部材が所定の位置に達したときに、前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を前記第1エア通路と前記第2エア通路とを閉じる閉弁状態に切り換え、前記エア通路のエア圧を介して前記出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成したことを特徴とする流体圧シリンダ。
【請求項2】
前記開閉弁機構は、前記弁体に当接可能な弁座をさらに備え、
前記弁体は、前記弁体本体に外嵌状に装着され且つ前記弁座に接近・離隔可能な可動弁体を備えることを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。
【請求項3】
前記小径軸部の外周側に設けられ、前記流体室と前記収容室との間をシールする第1シール部材と、
前記キャップ部材により塞がれた前記装着孔の内部と外界との間をシールする第2シール部材とをさらに備えた、請求項1または請求項2に記載の流体圧シリンダ。
【請求項4】
前記所定の位置が、前記出力部材の上昇限界位置、作動途中位置、下降限界位置のうちの何れかの位置であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の流体圧シリンダ。
【請求項5】
前記出力部材からなるクランプロッドを備え、請求項4に記載の流体圧シリンダによりクランプロッドを駆動するように構成したことを特徴とするクランプ装置。」

したがって、本件補正は次の(1)ないし(8)を含むものである。
(1)本件補正前の請求項1の「前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着され且つ先端部が前記流体室に突出する弁体」を「前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着され、小径軸部と前記小径軸部に対して前記流体室の反対側に設けられた大径軸部とが一体成形された弁体本体を含む弁体」へと変更する。

(2)本件補正前の請求項1から「この弁体が当接可能な弁座と、前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と、前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路」という発明特定事項を削除し、「前記弁体の前記大径軸部を前記流体室側に弾性付勢して前記弁体を前記流体室側に進出させた状態に保持する弾性部材と、前記シリンダ本体の前記装着孔の途中部に設けられ、前記弁体本体の前記小径軸部が挿通される貫通孔を有する環状部材と、前記装着孔の開放側部分に固定され、前記弁体本体の前記大径軸部が内嵌される凹穴を有するキャップ部材と、前記環状部材と前記キャップ部材との間に形成され、前記弁体を収容する収容室と、前記環状部材の径方向に延びるように形成され、前記収容室を前記エア通路の前記一端部側に連通させる第1エア通路と、前記キャップ部材に形成され、前記収容室を前記エア通路の前記他端部側に連通させる第2エア通路とを含み、前記出力部材が所定の位置にない場合、前記開閉弁機構は、前記弁体を前記流体室に進出させた状態に保持し、前記第1エア通路と前記第2エア通路とを開く開放状態を維持(する)」という発明特定事項を新たに導入する。

(3)本件補正の請求項1の「前記出力部材が所定の位置に達したときに、前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え、前記エア通路のエア圧を介して前記出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成した」を「前記出力部材が所定の位置に達したときに、前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を前記第1エア通路と前記第2エア通路とを閉じる閉弁状態に切り換え、前記エア通路のエア圧を介して前記出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成した」へと変更する。

(4)本件補正前の請求項2ないし7を削除する。

(5)請求項2として
「前記開閉弁機構は、前記弁体に当接可能な弁座をさらに備え、
前記弁体は、前記弁体本体に外嵌状に装着され且つ前記弁座に接近・離隔可能な可動弁体を備えることを特徴とする請求項1に記載の流体圧シリンダ。」
を新たに導入する。

(6)請求項3として
「前記小径軸部の外周側に設けられ、前記流体室と前記収容室との間をシールする第1シール部材と、
前記キャップ部材により塞がれた前記装着孔の内部と外界との間をシールする第2シール部材とをさらに備えた、請求項1または請求項2に記載の流体圧シリンダ。」
を新たに導入する。

(7)本件補正前の請求項8を本件補正後の請求項4とすると共に、本件補正後の請求項1ないし3のいずれかを引用するものとする。

(8)本件補正前の請求項9を本件補正後の請求項5とすると共に、本件補正後の請求項4を引用するものとする。

3.無効理由1及び2についての検討
(1)無効理由1
「1.当初明細書等に記載された発明について」に示したとおり、当初明細書等の特許請求の範囲には、開閉弁機構が流体圧導入室及び流体圧導入室を備える点が明確に記載されており、開閉弁機構が流体圧導入室又は流体圧導入路を備えないで弾性部材のみで弁体を進出させる構成についての記載は全くない。
また、当初明細書等の記載ウないしキ及びケないしソに照らすならば、当初明細書等に記載された実施例1及び3ないし8は、流体室の流体圧によって弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と、流体室と流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備える開閉弁機構を有するものである。
また、当初明細書等の記載クに照らすならば、当初明細書等に記載された実施例2は、アンクランプ油室15に充填される油圧の圧力が立ち上がるまでの過渡時における、弁体51の作動確実性を高める目的で、油圧導入室53の油圧と共に圧縮コイルスプリング53aの弾性力によって弁体本体58Aを上方へ付勢する構成を有するものである。逆に、過渡期以外の時においても、油圧を用いることなく、圧縮コイルスプリングの弾性力のみによって、弁体本体を上方へ付勢するものとは認められない。
また、当初明細書等の記載タは、開閉弁機構の改変を示唆するものではあるが、開閉弁機構の具体的な改変方法については、何ら記載も示唆もしていない。
また、「1.当初明細書等に記載された発明について」で指摘したとおり、本件出願に係る発明の実施の形態を説明した図2、3、7、9ないし16、18、19、21、23、24、26、27、30、32、34及び36には、開閉弁機構が油圧導入室及び油圧導入路を有する点が明確に示されていると認められる。逆に、開閉弁機構が流体圧導入室又は流体圧導入路を備えないで弾性部材のみで弁体を進出させる構成についての記載は図中にも全くない。
以上によれば、当初明細書等には、流体室の流体圧によって弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と、流体室と流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備える開閉弁機構を有する流体圧シリンダの発明のみが記載されており、流体圧導入室又は流体圧導入路を備えないで、弾性部材のみで弁体を進出させる開閉弁機構についての記載は全くなく、示唆もされていないと認められる。
そうすると、本件補正により、本件補正前の請求項1から「この弁体が当接可能な弁座と、前記流体室の流体圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と、前記流体室と前記流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路」という発明特定事項を削除し、「前記弁体の前記大径軸部を前記流体室側に弾性付勢して前記弁体を前記流体室側に進出させた状態に保持する弾性部材」という発明特定事項を新たに導入したことは、当初明細書等のすべての記載を統合して導かれる事項との関係において、新たな技術的意義を追加することを意味する。
したがって、本件補正は当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項に規定される要件を満足していないから、不適法である。

(2)無効理由1に対する被請求人の主張について
ア.被請求人は、実施例2に示された「圧縮コイルスプリング53a」は、それ単独で弁体本体58Aを付勢してアンクランプ油室15に進出させることが可能なものであることは当業者にとって自明であると主張する(上記第4の1.[被請求人](2))が、圧縮コイルスプリング53a単独で弁体本体58Aを付勢してアンクランプ油室15に進出させる構成は、過渡期以外の時も圧縮コイルスプリング単独で弁体本体を付勢するものであって、実施例2とは目的が相違する上、そのようなものは当初明細書等には記載も示唆もされていない。
よって、被請求人の当該主張は採用できない。

イ.被請求人は、「流体圧導入室」を備えず「弾性部材」のみで弁体を進出させる構成は技術常識であると主張する(上記第4の1.[被請求人](2))が、上記の判決にも示されている(上記第4の1.[請求人](3))とおり、ある事項が技術常識であるからといって直ちに当該技術常識が明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものとはいえず、明細書又は図面の記載を、当該技術常識と結び付けて理解しようとするための契機(示唆)が必要である。
ここで、上記のとおり、当初明細書等には、流体圧導入室又は流体圧導入路を備えず、弾性部材のみで弁体を進出させる開閉弁機構についての記載は全くなく、示唆もされていないから、たとえ、流体圧導入室を備えず弾性部材のみで弁体を進出させる構成が周知技術又は技術常識であったとしても、当該構成が当初明細書等に記載された事項の範囲内のものとはいえない。
よって、被請求人の当該主張は採用できない。

ウ.被請求人は、当初明細書等の段落【0122】には「種々の開閉弁機構を採用することができる」とも記載され、「流体圧導入室」を備えない「開閉弁機構」(以下「弾性部材単独構造」という。)への変形も当然に予定された範囲内のものと主張する(上記第4の1.[被請求人](2))が、仮に弾性部材単独構造が当初明細書等の記載から自明な事項であるならば、当業者が、当初明細書等の段落0122の記載に基づいて、油圧と弾性力を併用する実施例2の改変を試みた場合に、種々の改変の中から弾性部材単独構造を選択することは極めて当然であった、当業者であれば間違いなく選択した、という根拠が必要である。
しかし、上記のとおり、実施例1ないし8のいずれも油圧を単独で又は弾性力と併用する形で用いるものであり、油圧を用いず弾性力のみを用いるものは当初明細書等には記載も示唆もされていないのであるから、実施例2の改変を試みた場合に弾性部材単独構造を選択する契機は全くないと認められる。
よって、被請求人の当該主張は採用できない。

また、本件補正は、第5の2.(1)及び(2)のとおり「弾性部材単独構造」を選択するとともに、「弁体本体」に「小径軸部」と「大径軸部とが一体形成された」事項を特定するものである。
ここで、流体圧導入室を備える場合には、第4の1.[請求人](2)で示されたように、弁体に作用する油圧による力の差を発生させるために、弁体本体に小径軸部及び大径軸部が一体形成されていることが必須の構成であることは自明であるが、「弾性部材単独構造」においては、乙第3号証に示されているように、小径軸部及び大径軸部は必ずしも必要ではない。
そうすると被請求人の主張は「弾性部材単独構造」への言及にとどまり、「弾性部材単独構造」を採用しつつ、更に「弁体本体」に「小径軸部」と「大径軸部とが一体形成された」事項を特定する、本件補正に基づくものとは認められない。

エ.被請求人は、「圧縮コイルスプリング53a」のばね定数等を大きくすることで、油圧による下向きの力よりも弾性部材による上向きの付勢力を大きくして、「弾性部材」の付勢力のみによって「弁体を流体室に進出させた状態に保持」することは可能であり、このことは、段落【0122】における「種々の開閉弁機構」として当然に予定された範囲にすぎないと主張する(上記第4の1.[被請求人](3))が、仮に「圧縮コイルスプリング53a」のばね定数等を大きくすることで、弾性部材による上向きの付勢力を大きくできる事項が技術的には正しいとしても、当該事項は当初明細書等には記載も示唆もされていない。
よって、被請求人の当該主張は採用できない。

オ.被請求人は、実施例2と段落【0122】の記載に加えて、実施例1等の記載も併せて考えれば、「弾性部材単独構造」は当初明細書に記載された事項の範囲内の事項であると主張する(上記第4の1.[被請求人](4)及び(5))が、実施例1が油圧を用いるものであり、実施例2が油圧と弾性力を併用するものである以上、実施例1及び2に接した当業者であれば、両実施例に共通する油圧が必須の構成であり、実施例2にのみ用いられている弾性力は任意付加的な構成であると解することがむしろ自然であって、弾性部材単独構造へと改変することが自明であるとは認められない。
よって、被請求人の主張は採用できない。

(3)無効理由2
当初明細書等の記載アないしタに照らすならば、当初明細書等には、流体圧シリンダの開閉弁機構を信頼性と耐久性の面で有利とするという発明の課題を解決する目的で、流体室の流体圧によって弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と、流体室と流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備える開閉弁機構を有する流体圧シリンダの発明のみが記載されていると認められる。
また、流体圧導入室又は流体圧導入路を備えないで弾性部材のみで弁体を進出させる開閉弁機構についての記載は全くなく、示唆もされていない。そうすると、流体圧導入室及び流体圧導入路を備える開閉弁機構は、信頼性と耐久性の面で有利とするという発明の課題を解決するための必須の構成であると認められる。
したがって、当該必須の構成が記載されていない、本件特許発明1ないし5は、当初明細書等による裏付けを欠くものであり、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満足していない。

(4)無効理由2に対する被請求人の主張について
被請求人は、当初明細書等には、流体圧シリンダにおいて、エア圧の圧力変化を確実に検知可能で小型化可能とすること、及び、出力部材の位置検出の信頼性や耐久性を向上すること、という別個独立の2つの目的が記載されており、本件特許発明1ないし5は、「エア圧の圧力変化を確実に検知可能で小型化可能とする」という、当初明細書等に記載された少なくとも1つの目的を達成している(上記第4の2.[被請求人](1)及び(2))、また、本件特許発明1ないし5は、弁体の移動距離を短くすることができるので、「耐久性や信頼性の向上」という目的に反しない(上記第4の2.[被請求人](3))と主張する。
ここで、当初明細書等の記載アに照らせば、本件出願においては、開閉弁機構の弁体をシリンダ本体に形成した装着孔に組み込むことで、開閉弁機構をシリンダ本体内に組み込む構成を実現することにより、「流体圧シリンダの小型化」という発明の目的の一つを達成していると認められる。
しかし、本件出願の発明の目的の一つを上記構成を採ることにより実現していることと、本件特許発明1ないし5の、流体圧導入室及び流体圧導入路を備えず、圧縮コイルスプリングの弾性力のみにより弁体本体を付勢する開閉弁機構が、本件出願の明細書の発明の詳細な説明に記載されているか否かということは全く別問題であって、そのような開閉弁機構が当初明細書等には記載も示唆もされていないことは、上記「(1)無効理由1」で説示したとおりである。
また、当初明細書等には、「耐久性や信頼性の向上」という目的を達成するものとして、流体室の流体圧によって弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する流体圧導入室と、流体室と流体圧導入室とを連通させる流体圧導入路とを備える開閉弁機構を有する流体圧シリンダの発明しか記載されていない以上、本件特許発明1ないし5は、弁体の移動距離を短くすることができるので、上記目的に反しないという主張が技術的には正しいとしても、特許発明1ないし5は当初明細書等に裏付けられているものとはいえない。
よって、被請求人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、無効理由1及び2は理由があるから、本件特許発明1ないし5に係る特許は、特許法第17条の2第3項の規定及び特許法第36条第6項第1号の既定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第1号及び第4号に該当し、無効とすべきものである。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-01-21 
結審通知日 2019-01-24 
審決日 2019-02-05 
出願番号 特願2016-78545(P2016-78545)
審決分類 P 1 113・ 55- Z (F15B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 青山 純  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 平岩 正一
篠原 将之
登録日 2018-02-16 
登録番号 特許第6291518号(P6291518)
発明の名称 流体圧シリンダ及びクランプ装置  
代理人 高橋 智洋  
代理人 佐々木 眞人  
代理人 井上 裕史  
代理人 深見 久郎  
代理人 松田 将治  
代理人 別城 信太郎  
代理人 田上 洋平  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ