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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03F
管理番号 1358432
審判番号 不服2019-1470  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-04 
確定日 2020-01-21 
事件の表示 特願2015-160780「ドライフィルム積層体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月21日出願公開、特開2016- 57612、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成27年8月18日(優先権主張 平成26年9月8日)の出願であって、平成30年4月23日付けで拒絶理由が通知され、同年6月27日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年8月6日付けで拒絶理由が通知され、同年10月11日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年10月25日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成31年2月4日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。


2 本件発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明4」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である。
「 【請求項1】
i.酸の作用によりアルカリ水溶液に可溶となる、フェノール含有樹脂である高分子化合物、放射線又は活性光線の作用により酸を生じる光酸発生剤、及び常圧での沸点が55?250℃の成分を含有する化学増幅ポジ型レジスト材料溶液(ただし、下記一般式(A)で表される構造単位を含有する樹脂を含まない。)を、クリーン度1000以下のクリーンルーム中で、温度5?45℃かつ湿度5?90%に管理された領域内で、支持フィルム上に塗工する工程、
ii.インラインドライヤで40?130℃、1?40分間加熱することにより、支持フィルム上に塗工したレジスト材料から有機溶剤及び揮発分を除去して化学増幅ポジ型レジストドライフィルムを得る工程
を含み、得られた化学増幅ポジ型レジストドライフィルム中に、5?40質量%の、常圧での沸点が55?250℃の成分を含有することを特徴とするドライフィルム積層体の製造方法。
【化1】

(式中、R^(101)は水素原子又はメチル基を示し、R^(102)、R^(103)は、相互に独立に、水素原子、炭素数1?6の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基を示す。尚、R^(102)及びR^(103)が相互に結合して環状構造を形成してもよい。また、kは1?4の整数である。)
【請求項2】
工程iiの後、得られたドライフィルム上に保護フィルムを積層する工程
を含み、保護フィルムのドライフィルムに対する剥離力が1?500gf/24mmであることを特徴とする請求項1記載のドライフィルム積層体の製造方法。
【請求項3】
iii.酸の作用によりアルカリ水溶液に可溶となる、フェノール含有樹脂である高分子化合物、放射線又は活性光線の作用により酸を生じる光酸発生剤、及び常圧での沸点が55?250℃の成分を含有する化学増幅ポジ型レジスト材料溶液(ただし、下記一般式(A)で表される構造単位を含有する樹脂を含まない。)を、クリーン度1000以下のクリーンルーム中で、温度5?45℃かつ湿度5?90%に管理された領域内で、支持フィルム上に0.05?1,000m/minの速度で塗工する工程、
iv.インラインドライヤで40?130℃、1?40分間加熱することにより、支持フィルム上に塗工したレジスト材料から有機溶剤及び揮発分を除去して化学増幅ポジ型レジストドライフィルムを得る工程、
v.連続的に得られた積層体をロールフィルム化する工程
を含み、得られた化学増幅ポジ型レジストドライフィルム中に、5?40質量%の、常圧での沸点が55?250℃の成分を含有することを特徴とするドライフィルム積層体の製造方法。
【化2】

(式中、R^(101)は水素原子又はメチル基を示し、R^(102)、R^(103)は、相互に独立に、水素原子、炭素数1?6の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基を示す。尚、R^(102)及びR^(103)が相互に結合して環状構造を形成してもよい。また、kは1?4の整数である。)
【請求項4】
工程vの後、得られたドライフィルム上に保護フィルムを積層する工程
を含み、保護フィルムのドライフィルムに対する剥離力が1?500gf/24mmであることを特徴とする請求項3記載のドライフィルム積層体の製造方法。」


3 原査定の概要
原査定の拒絶理由の概要は、本願の請求項1?10に係る発明は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

なお、引用文献1及び周知技術を示す文献として示された引用文献2?4は、以下のとおりである。

引用文献1:国際公開第2005/091074号
引用文献2:国際公開第2008/065827号
引用文献3:特開2007-272087号公報
引用文献4:特開平6-35190号公報


4 引用文献の記載事項及び引用発明
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶理由に引用され、本願優先権主張の日前の2005年(平成17年)9月29日に頒布された刊行物である引用文献1(国際公開第2005/091074号)には、以下の記載事項がある。なお、引用文献に付されていた下線を省き、合議体が引用発明の認定等に用いた箇所に、新たに下線を付した。

ア 「技術分野
[0001] 本発明はメッキ造形物の製造に好適なポジ型感放射線性樹脂組成物、該組成物を用いた転写フィルム、およびメッキ造形物の製造方法に関する発明である。

(中略)

発明が解決しようとする課題
[0006] 本発明は、バンプあるいは配線などの厚膜のメッキ造形物を精度よく形成することができる製造方法、この製造方法に好適な感度、解像度などに優れるポジ型感放射線性樹脂組成物、および該組成物を用いた転写フィルムを提供することを課題とする。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明に係るポジ型感放射線性樹脂組成物は、(A)下記一般式(1)および/または(2)で表される構造単位(a)と酸解離性官能基(b)とを含有する重合体、(B)放射線の照射により酸を発生する成分、および(C)有機溶媒を含有することを特徴とする。
[0008] [化1]

[0009](式中、R_(1)は水素原子またはメチル基であり、R_(2)は-(CH_(2))_(n)-であり、nは0?3の整数である。またR_(3)は炭素数1?4のアルキル基であり、mは0?4の整数である。)

(中略)

[0013] 本発明に係るポジ型感放射線性樹脂組成物は、重合体(A)以外のアルカリ可溶性樹脂を含有していてもよい。また、上記組成物は、酸拡散制御剤を含有していてもよい。
本発明に係る転写フィルムは、上記樹脂組成物からなる樹脂膜を有することを特徴とする。また、上記の樹脂膜の膜厚は20?200μmであることが好ましい。

(中略)

発明の効果
[0014] 本発明のポジ型感放射線性組成物は、電解メッキの鋳型となるパターンをマスク寸法に忠実に形成できる。また、この組成物は、電解メッキ段階でも、鋳型となるパターンの形状を正確に転写し、かつマスク寸法に忠実なメッキ造形物を形成でき、しかも感度、解像度などにも優れている。したがって、本発明のポジ型感放射線性成物は、集積回路素子におけるバンプあるいは配線などの厚膜のメッキ造形物の製造に極めて好適に使用することができる。特に、化学式(1)で表される構造単位を有するポジ型感放射線性樹脂組成物は、銅スパッタ基板上での解像性能に優れている。」

イ 「発明を実施するための最良の形態
[0015] 以下、本発明を具体的に説明する。
本発明のポジ型感放射線性樹脂組成物は、(A)特定の構造単位(a)と、酸により解離して酸性となる酸解離性官能基(b)とを含有してなる重合体、(B)放射線の照射により酸を発生する成分、および(C)有機溶媒を含有する組成物である。
本発明に係るポジ型感放射線性樹脂組成物は、露光により酸を発生する成分(以下、「酸発生剤」という。)を含有する。そして、露光により酸が発生すると、この酸の触媒作用により、当該ポジ型感放射線性樹脂組成物からなる樹脂膜(すなわちレジスト被膜)中で化学反応(例えば極性の変化、化学結合の分解など)が起こり、露光部において現像液に対する溶解性が変化する。本発明のポジ型感放射線性樹脂組成物は、この現象を利用して、電解メッキの鋳型となるパターンを形成するものである。
[0016] このパターンの形成機構をさらに説明すると、次のとおりである。酸発生剤へ露光すると酸が発生する。この酸の触媒作用により、上記ポジ型感放射線性樹脂組成物に含まれる酸解離性官能基が反応して、酸性官能基となるとともに、酸解離物質を生じる。その結果、重合体の露光された部分のアルカリ現像液に対する溶解性が増大する。また、この酸解離性官能基の反応は、露光後に加熱(Post Exposure Bake:以下、「PEB」という。)することにより促進される。この酸解離性官能基の反応によって新たに発生した酸は、別の酸解離性官能基の反応に触媒として作用し、酸解離性官能基の反応と酸の発生が次々と“増幅”されることになる。このような化学増幅作用を利用することにより、所定のパターンが高感度(すなわち低露光量)かつ高解像度で形成される。
[0017] 露光したレジスト膜を現像するために用いるアルカリ現像液は、1種または2種以上のアルカリ性化合物を水などに溶解させることにより調製することができる。なおアルカリ現像液による現像処理がなされた後は、通常水洗処理が施される。
重合体(A)
本発明に用いられる重合体(A)は、以下に記載する一般式(1)および/または(2)で表される構造単位(a)と酸解離性官能基(b)とを含有してなる重合体である。
[0018] 構造単位(a)
重合体(A)は、下記一般式(1)および/または(2)で表される構造単位を有することを特徴とする。
[0019] [化3]

[0020](式中、R_(1)は水素原子またはメチル基であり、R_(2)は-(CH_(2))_(n)-であり、nは0?3の整数である。またR_(3)は炭素数1?4のアルキル基であり、mは0?4の整数である。)
この、上記一般式(1)および/または(2)で表される構造単位が重合体(A)に含有されることにより、レジストの基板に対する密着性を高め、メッキ時にメッキ液が基板とレジストとの界面にしみ出すことを防ぐ効果がある。さらにこの構造単位中に含有される置換基の種類および数を調整することにより、フェノール性水酸基の酸性度を変えることができるので、本発明に係る組成物のアルカリ現像液に対する溶解性が調整できる。

(中略)

[0026] 単量体(1’)または(2’)は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。また、単量体(1’)と単量体(2’)は組み合わせて用いてもよい。
酸解離性官能基(b)
重合体(A)に含まれる酸解離性官能基(b)は、酸により解離して酸性官能基を生成する限り特に限定されるものではない。この酸解離性官能基(b)としては、例えば、酸により解離してカルボキシル基を生成する官能基や、酸により解離してフェノール性水酸基を生成する官能基が挙げられる。

(中略)

[0047] 本発明において、重合体(A)は単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
酸発生剤(B)
本発明に用いられる感放射線性酸発生剤(以下、「酸発生剤(B)」という。)は、露光により酸を発生する化合物である。この発生する酸の作用により、重合体(A)中に存在する酸解離性官能基が解離して、例えばカルボキシル基、フェノール性水酸基などの酸性官能基が生成する。その結果、ポジ型感放射線性樹脂組成物から形成された樹脂膜の露光部がアルカリ現像液に易溶性となり、ポジ型のパターンを形成することができる。

(中略)

[0057] 有機溶媒(C)
本発明に係るポジ型感放射線性樹脂組成物は、前述した重合体(A)、酸発生剤(B)、後述する他のアルカリ可溶性樹脂(D)、および必要に応じて配合される添加剤を均一に混合する目的で、有機溶媒(C)で希釈することができる。

(中略)

[0072] 工程(1)で形成する樹脂膜は、本発明に係る樹脂組成物をウェハー上に塗布して乾燥することにより得ることができる。また、後述する本発明に係る転写フィルムを用いて、転写フィルムから樹脂膜をウェハー上に転写することにより得ることもできる。
本発明に係る転写フィルムは、支持フィルム上に上記ポジ型感放射線性樹脂組成物からなる樹脂膜を有する。このような転写フィルムは、支持フィルム上に上記ポジ型感放射線性樹脂組成物を塗布して乾燥することにより作製することができる。上記の組成物を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、スクリーン印刷、アプリケーター法などが挙げられる。また、支持フィルムの材料は、転写フィルムの作製および使用に耐えうる強度を有する限り、特に限定されるものではない。
[0073] 上記転写フィルムは、樹脂膜の厚みを20?200μmとして用いることができる。
本発明に係る転写フィルムは、支持フィルムを剥離して、ポジ型感放射線性樹脂膜とすることができる。上記樹脂膜は、本発明に係る組成物と同様にメッキ造形物の製造に使用することができる。」

ウ 「[0074] 〈重合体(A)の合成〉
〔合成例1〕
p-ヒドロキシフェニルメタクリルアミド20g、p-イソプロペニルフェノール20g、2-ヒドロキシエチルアクリレート20g、イソボロニルアクリレート20g、および2-ベンジル-2-プロピルメタクリレート30gを乳酸エチル150gと混合し、50℃で攪拌し均一溶液とした。この溶液を30分間窒素ガスによりバブリングした後、AIBN4gを添加し、窒素ガスによるバブリングを継続しつつ、反応温度を70℃に維持して7時間重合した。重合終了後、反応溶液を多量のへキサンと混合し、生成した重合体を凝固させた。次いで、重合体をテトラヒドロフランに再溶解した後、再度へキサンにより凝固させる操作を数回繰り返して未反応モノマーを除去し、減圧下50℃で乾燥して白色の重合体A1を得た。

(中略)

[0077] 〔合成例12および13〕
下記表1の組成に従い、化合物の種類と量を変更した他は合成例11の共重合体R1の合成と同様にして、共重合体R2およびR3を合成した。
〈重合体(D)の合成〉
〔合成例14〕
p-イソプロぺニルフェノール30g、2-ヒドロキシエチルアクリレート30g、n-ブチルアクリレート35g、2-メトキシエチルアクリレート5g、およびn-へキシル-1,6-ジメタクリレート1gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート150gと混合し均一溶液とした。この溶液を30分間窒素ガスによりバブリングした後、AIBN4gを添加し、窒素ガスによるバブリングを継続しつつ、反応温度を80℃に維持して6時間重合した。重合終了後、反応溶液を多量のへキサンと混合し、生成した重合体を凝固させた。次いで、重合体をテトラヒドロフランに再溶解した後、再度へキサンにより凝固させる操作を数回繰り返して未反応モノマーを除去し、減圧下50℃で乾燥して白色の重合体D1を得た。

(中略)

実施例1
[0079] 樹脂組成物の調製
重合体(A1)100重量部、酸発生剤(B)4,7-ジ-n-ブトキシナフチルテトラヒドロチオフェニウムトリフルオロメタンスルホネート3重量部、および重合体(D1)20重量部を、有機溶媒(C1)乳酸エチル150重量部、に溶解した後、孔径3μmのテフロン(R)製メンブレンフィルターでろ過して樹脂組成物を調製した。
[0080] 金スパッタ基板の作製
直径4インチのシリコンウェハ基板上に、クロムを厚さが約500Åとなるようにスパッタリングした後、その上に金を厚さが1,000Åとなるようにスパッタリングして、導電層を形成した。以下、この伝導層を形成した基板を「金スパッタ基板」という。
パターンの形成
金スパッタ基板にスピンコーターを用いて、各樹脂組成物を塗布したのち、ホートプレート上にて、120℃で5分間加熱して、厚さ25μmの樹脂膜を形成した。次いで、パターンマスクを介し、超高圧水銀灯(OSRAM社製HBO、出力1,000W)を用いて、300?1500mJ/cm^(2)の紫外光を照射した。露光量は、照度計((株)オーク製作所製UV-M10 (照度計)にプローブUV-35(受光器)をつないだもの)により確認した。露光後、ホットプレート上にて、100℃で5分間PEBを行った。次いで、2.38重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用い、室温で1?5分間浸漬して現像したのち、流水洗浄し、窒素ブローしてパターンを形成した。以下、このパターンを形成した基板を、「パターニング基板(A)」という。
[0081] メッキ造形物の形成
パターニング基板(A)に対して、電解メッキの前処理として、酸素プラズマによるアッシング処理(出力100W、酸素流量100ミリリットル、処理時間1分)を行って、親水化処理を行った。次いで、この基板をシアン金メッキ液(日本エレクトロエンジニヤース(株)製、商品名テンペレックス401)1リットル中に浸漬し、メッキ浴温度42℃、電流密度0.6A/dm^(2)に設定して、約60分間電解メッキを行い、厚さ15?18μmのバンプ用メッキ造形物を形成した。次いで、流水洗浄し、窒素ガスにてブローして乾燥したのち、室温にて、ジメチルスルホキシドとN,N-ジメチルホルムアミドの混合溶液(重量比=50:50)中に5分間浸漬して、樹脂膜部分を剥離し、さらに基板上のメッキ造形物を形成した領域以外の導電層をウエットエッチングにより除去することにより、メッキ造形物を有する基板を得た。以下、このメッキ造形物を有する基板を、「メッキ基板(A)」という。」

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載事項イに基づけば、引用文献1には、転写フィルムの作製方法として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「支持フィルム上にポジ型感放射線性樹脂組成物からなる樹脂膜を有する転写フィルムの作製方法であって、
転写フィルムは、支持フィルム上にポジ型感放射線性樹脂組成物を塗布して乾燥することにより作製され、
ポジ型感放射線性樹脂組成物は、(A)構造単位(a)と、酸により解離して酸性となる酸解離性官能基(b)とを含有してなる重合体、(B)放射線の照射により酸を発生する成分、および(C)有機溶媒を含有する組成物であって、重合体(A)は、以下に記載する一般式(1)および/または(2)で表される構造単位(a)を有し、
一般式(1)および/または(2)で表される構造単位(a)が重合体(A)に含有されることにより、レジストの基板に対する密着性を高め、メッキ時にメッキ液が基板とレジストとの界面にしみ出すことを防ぎ、さらに、構造単位(a)中に含有される置換基の種類及び数を調整することにより、フェノール性水酸基の酸性度を変えることができるので、ポジ型感放射線性樹脂組成物のアルカリ現像液に対する溶解性が調整できる、
転写フィルムの作製方法。
[化3]

(式中、R_(1)は水素原子またはメチル基であり、R_(2)は-(CH_(2))_(n)-であり、nは0?3の整数である。またR_(3)は炭素数1?4のアルキル基であり、mは0?4の整数である。)」


5 対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

(ア)化学増幅ポジ型レジスト材料溶液
引用発明の「ポジ型感放射線性樹脂組成物」は、「(A)構造単位(a)と、酸により解離して酸性となる酸解離性官能基(b)とを含有してなる重合体」である「重合体(A)」、「(B)放射線の照射により酸を発生する成分」及び「(C)有機溶媒」を含有する組成物である。
引用発明の「重合体(A)」は、「一般式(1)および/または(2)で表される構造単位(a)」を有するものであるから、技術的にみて、フェノール含有樹脂であるといえる。また、引用発明の「重合体(A)」は、「酸により解離して酸性となる酸解離性官能基(b)」を有することから、「酸の作用によりアルカリ水溶液に可溶となる」樹脂であるといえる。したがって、引用発明の「重合体(A)」は、本件発明1の「酸の作用によりアルカリ水溶液に可溶となる、フェノール含有樹脂である高分子化合物」に相当する。
また、引用発明の「(B)放射線の照射により酸を発生する成分」は、技術的にみて、本件発明1の「放射線又は活性光線の作用により酸を生じる光酸発生剤」に相当する。
さらに、引用発明の「(C)有機溶媒」は、有機溶媒の沸点に関する技術常識に照らすと、本件発明1の「常圧での沸点が55?250℃の成分」に相当する。
そして、引用発明の「ポジ型感放射線性樹脂組成物」は、「(B)放射線の照射により酸を発生する成分」及び「(A)構造単位(a)と、酸により解離して酸性となる酸解離性官能基(b)とを含有してなる重合体」を含有するものであるから、技術的にみて、本件発明1の「化学増幅ポジ型レジスト」として機能するものといえる。また、引用発明の「ポジ型感放射線性樹脂組成物」は、本件発明1における「一般式(A)で表される構造単位を含有する樹脂」を含んでいない。
以上より、引用発明の「ポジ型感放射線性樹脂組成物」は、本件発明1の「酸の作用によりアルカリ水溶液に可溶となる、フェノール含有樹脂である高分子化合物、放射線又は活性光線の作用により酸を生じる光酸発生剤、及び常圧での沸点が55?250℃の成分を含有する化学増幅ポジ型レジスト材料溶液(ただし、下記一般式(A)で表される構造単位を含有する樹脂を含まない。)」に相当する。

(イ)工程i
引用発明の「支持フィルム上にポジ型感放射線性樹脂組成物を塗布」する工程は、本件発明1の「i」における、「化学増幅ポジ型レジスト材料溶液」を「支持フィルム上に塗工する工程」に相当する。

(ウ)工程ii
引用発明の「ポジ型感放射線性樹脂組成物からなる樹脂膜」は、「支持フィルム上にポジ型感放射線性樹脂組成物を塗布して乾燥することにより作製」されるものである。そうすると、引用発明の「ポジ型感放射線性樹脂組成物からなる樹脂膜」は、本件発明1の「化学増幅ポジ型レジストドライフィルム」に相当する。そして、引用発明の「乾燥する」工程は、技術的にみて、本件発明「ii」の「支持フィルム上に塗工したレジスト材料から有機溶剤及び揮発分を除去して化学増幅ポジ型レジストドライフィルムを得る工程」に相当する。

(エ)ドライフィルム積層体
引用発明の「転写フィルム」は、「支持フィルム上にポジ型感放射線性樹脂組成物からなる樹脂膜を有する」ものであるから、「積層体」であるといえる。
そうすると、本件発明1の「転写フィルム」は、本件発明1の「ドライフィルム積層体」に相当する。また、引用発明の「転写フィルムの作製方法」は、本件発明1の「ドライフィルム積層体の製造方法」に相当する。

(オ)一致点及び相違点
以上より、本件発明1と引用発明とは、
「i.酸の作用によりアルカリ水溶液に可溶となる、フェノール含有樹脂である高分子化合物、放射線又は活性光線の作用により酸を生じる光酸発生剤、及び常圧での沸点が55?250℃の成分を含有する化学増幅ポジ型レジスト材料溶液(ただし、下記一般式(A)で表される構造単位を含有する樹脂を含まない。)を、支持フィルム上に塗工する工程、
ii.支持フィルム上に塗工したレジスト材料から有機溶剤及び揮発分を除去して化学増幅ポジ型レジストドライフィルムを得る工程
を含む、ドライフィルム積層体の製造方法。
【化1】

(式中、R^(101)は水素原子又はメチル基を示し、R^(102)、R^(103)は、相互に独立に、水素原子、炭素数1?6の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基を示す。尚、R^(102)及びR^(103)が相互に結合して環状構造を形成してもよい。また、kは1?4の整数である。)」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]本件発明1は、i.支持フィルム上に塗工する工程が「クリーン度1000以下のクリーンルーム中で、温度5?45℃かつ湿度5?90%に管理された領域内」でなされ、ii.化学増幅ポジ型レジストドライフィルムを得る工程が「インラインドライヤで40?130℃、1?40分間加熱することにより」行われ、その結果、「得られた化学増幅ポジ型レジストドライフィルム中に、5?40質量%の、常圧での沸点が55?250℃の成分を含有する」こととなるのに対し、引用発明はそのように特定されていない点。

イ 判断
(ア)[相違点]について
原査定の拒絶理由において引用された引用文献2(国際公開第2008/065827号)には「厚膜用化学増幅型ポジ型ホトレジスト組成物からなる層の両面に保護膜が形成されたもの」(段落[0161])である「厚膜用化学増幅型ドライフィルム」について、「厚膜用化学増幅型ドライフィルムは、例えば以下のようにして製造することができる。すなわち、上述したように調製した厚膜用化学増幅型ポジ型ホトレジスト組成物の溶液を一方の保護膜上に塗布し、加熱により溶媒を除去することによって所望の塗膜を形成する。乾燥条件は、組成物中の各成分の種類、配合割合、塗布膜厚などによって異なるが、通常は60?100℃で、5?20分間程度である。」(段落[0162])と記載されている。また、原査定の拒絶理由において引用された引用文献3(特開2007-272087号公報)には「ポジ型感放射線性樹脂組成物、及び転写フィルム」(段落【0001】)に関し、「また、上記樹脂組成物を支持フィルム上に塗布して乾燥することにより、感放射線性樹脂膜を有する、本発明の転写フィルムを得ることができる。」、「上記感放射線性樹脂組成物を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、スクリーン印刷、アプリケーター法等が挙げられる。」及び「上記乾燥の条件は、樹脂組成物中の各成分の種類、配合割合、塗布膜厚等によって異なるが、通常は70?140℃で5?20分間程度であり、好ましくは80?130℃で2?10分間程度である。」(段落【0134】)と記載されている。上記記載事項に基づけば、「化学増幅ポジ型レジスト組成物の溶液を支持フィルム上に塗布し、70?100℃で5?20分程度の乾燥条件により溶媒を除去する」ことによりドライフィルム(転写フィルム)を作製することは、本願優先権主張の日前の周知技術であったといえる。
しかしながら、乾燥後に得られるドライフィルム中に含有される、常圧での沸点が55?250℃の成分の含有量は、「樹脂組成物中の各成分の種類、配合割合」等の影響を受けるものであるから、上記周知技術の乾燥条件で乾燥が行われることにより「5?40質量%の、常圧での沸点が55?250℃の成分を含有する」化学増幅ポジ型レジストドライフィルムが得られるということはできない。そして、引用文献2及び引用文献3には、「得られた化学増幅ポジ型レジストドライフィルム中に、5?40質量%の、常圧での沸点が55?250℃の成分を含有する」ようにレジスト材料溶液を塗工する工程及び加熱してレジストドライフィルムを得る工程を実行することについて記載も示唆もなされていない。また、他に、「得られた化学増幅ポジ型レジストドライフィルム中に、5?40質量%の、常圧での沸点が55?250℃の成分を含有する」ようにレジスト材料溶液を塗工する工程及び加熱してレジストドライフィルムを得る工程を実行することが技術常識であったとする根拠も見いだすことができない。さらに、レジスト材料溶液を支持フィルム上に塗工する工程を「クリーン度1000以下のクリーンルーム中で、温度5?45℃かつ湿度5?90%に管理された領域内」で実施することが本願の優先権主張の日前において知られていたということもできない。
そうすると、引用発明の乾燥条件として、上記周知技術を採用したとしても、本件発明1の上記[相違点]に係る構成に至るということはできない。

(イ)本件発明1の効果について
本願明細書の段落【0010】の記載に基づけば、本件発明1の効果は、「簡便な作業工程で、可撓性及び寸法安定性を有する化学増幅ポジ型レジストドライフィルムを作製する」ことができるというものであり、段落【0004】及び段落【0072】の記載によれば、「フェノール単位の含有量が多い高分子化合物は、固く脆いために、フィルム化した際に、可撓性が得られず、クラックが発生する問題を有していた」ところ、「沸点55?250℃の成分を5?40質量%」「含有することにより、好適に化学増幅ポジ型レジストドライフィルム層を形成することができる。上記沸点成分が5質量%未満の場合、得られたドライフィルムが固くなり、クラックが発生する場合があるため、好ましくない。上記沸点成分が40質量%を超える含有量の場合、ドライフィルムとならず、支持フィルム上に化学増幅ポジ型レジストドライフィルムを固定できない場合が発生するため、好ましくない。」というものである。
一方、引用発明は「フェノール性水酸基」を有する「重合体(A)」を含有するポジ型感放射線性樹脂組成物を「乾燥する」工程を含む転写フィルムの作製方法であるが、引用文献1には、乾燥する工程を実行することにより、乾燥して得られた転写フィルムのポジ型感放射線性樹脂組成物からなる樹脂膜における「常圧での沸点が55?250℃の成分」の含有量が「5?40質量%」となるとの効果が得られることについて、記載も示唆もない。そうすると、引用発明が本件発明1と同じ効果を奏する蓋然性が高いということができない。また、そのような効果を奏することを、当業者が予測し得たということもできない。

ウ むすび
以上のとおりであるから、本件発明1は、当業者であっても、引用発明及び上記周知技術に基づいて容易に発明できたものということはできない。
したがって、本件発明1が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。

(2)本件発明2?4
本件発明2は、本件発明1と同じ、i.支持フィルム上に塗工する工程が「クリーン度1000以下のクリーンルーム中で、温度5?45℃かつ湿度5?90%に管理された領域内」でなされ、ii.化学増幅ポジ型レジストドライフィルムを得る工程が「インラインドライヤで40?130℃、1?40分間加熱することにより」行われ、各工程が、「得られた化学増幅ポジ型レジストドライフィルム中に、5?40質量%の、常圧での沸点が55?250℃の成分を含有する」ように実行されるという要件を具備するものである。また、本件発明3及び本件発明4は、iii.支持フィルム上に塗工する工程が、本件発明1のi.支持フィルム上に塗工する工程と同じ「クリーン度1000以下のクリーンルーム中で、温度5?45℃かつ湿度5?90%に管理された領域内」でなされ、iv.化学増幅ポジ型レジストドライフィルムを得る工程が、本件発明1のii.化学増幅ポジ型レジストドライフィルムを得る工程と同じ「インラインドライヤで40?130℃、1?40分間加熱することにより」行われるものであり、各工程が、「得られた化学増幅ポジ型レジストドライフィルム中に、5?40質量%の、常圧での沸点が55?250℃の成分を含有する」ように実行される点で共通する要件を有している。そうすると、本件発明2?4も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び上記周知技術に基づいて容易に発明できたものということはできない。


6 むすび
以上のとおり、本件発明1?4は、当業者が引用発明及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-01-06 
出願番号 特願2015-160780(P2015-160780)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G03F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 塚田 剛士  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 高松 大
宮澤 浩
発明の名称 ドライフィルム積層体の製造方法  
代理人 重松 沙織  
代理人 小島 隆司  
代理人 正木 克彦  
代理人 小林 克成  
代理人 石川 武史  

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