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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02C
管理番号 1358486
審判番号 不服2018-16160  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-04 
確定日 2020-01-09 
事件の表示 特願2016-224174「近視予防物品及び近視予防セット」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月23日出願公開、特開2017- 40940〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2016-224174号(以下「本件出願」という。)は、2015年(平成27年)6月3日(優先権主張 平成26年6月3日)を国際出願日とする、特願2016-525197号の一部を新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概略は、以下のとおりである。

平成29年5月9日付け:手続補正書
平成29年5月9日付け:上申書
平成29年8月17日付け:拒絶理由通知書
平成29年11月2日付け:手続補正書、意見書
平成30年1月31日付け:拒絶理由通知書
平成30年6月8日付け:意見書
平成30年8月31日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年12月4日付け:審判請求書
平成30年12月4日付け:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年12月4日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年11月2日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の記載のうち請求項1から3は次のとおりである。
「 【請求項1】
眼の眼軸長の伸長に伴う近視の発生を防止又は近視の進行を遅らせるための近視予防用途に用いる物品であって、
近視の発生を防止又は近視の進行を遅らせる350?400nmの波長の光を透過させる光透過部を含み、前記光透過部は、更に400nm超の波長の光を透過する、近視予防物品。
【請求項2】
前記光透過部は、350nm未満の波長の光を透過しない、請求項1に記載の近視予防物品。
【請求項3】
視力矯正具、眼保護具、顔保護具、日除け、表示装置、窓、壁、光源の覆い又はコーティング材である、請求項1又は2に記載の近視予防物品。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
なお、下線は補正箇所を示す。
「 眼の眼軸長の伸長に伴う近視の発生を防止又は近視の進行を遅らせるための近視予防用途に用いる視力矯正具又は眼保護具からなる物品であって、
近視の発生を防止又は近視の進行を遅らせる350?400nmの波長の光を透過させる光透過部を含み、前記光透過部は、350nm未満の波長の光を透過せず、400nm超の波長の光を透過する、近視予防物品。」

(3)補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1及び2を引用する請求項3において「近視予防用物品」として択一的に記載された、「視力矯正具、眼保護具、顔保護具、日除け、表示装置、窓、壁、光源の覆い又はコーティング材」から、「顔保護具、日除け、表示装置、窓、壁、光源の覆い及びコーティング材」の要素を削除し、新たな請求項1とする補正事項を含むものである。
また、本件補正前の請求項3に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明の、産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は同一である。
したがって、請求項1についてした本件補正は、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が同条6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

2 本件補正後発明
本件補正後発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。

3 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2001-133625号公報(以下「引用文献1」という。)は、本件出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【請求項1】選択的に、より多くの短波長の光波を透過し、より多くの割長い波長を持つ光波の透過を阻止できる、主に閲読等の近距離目視作業に使用され、目と目視作業対象物の間に設置して目視作業対象物をカバーすることに適し、近視の予防や治療に用いられる透明ライトフィルターシート(或いはライトフィルター板、ライトフィルターフィルム)。
・・・中略・・・
【請求項8】請求項1?7に記述されたライトフィルターシートによって作られる、主に閲読等の近距離目視作業中に使用される、近視の予防や治療に用いられるライトフィルター眼鏡、或いは掛けつけ式ライトフィルターレンズ。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、近視または遠視性の屈折異常を予防し、補助的に治療し、閲読等の近距離目視作業中に使用されるライトフィルターシート、板、フィルムとライトフィルター眼鏡及び掛けつけ式ライトフィルター眼鏡レンズに及ぶ。」

ウ 「【0003】
【発明が解決するべき課題】本発明の目的は、近距離の閲読あるいは他の目を使う作業に使用する、閲読距離や使用者の目の屈折と調節状態の影響を受けずに近視を予防または補助治療できるライトフィルター(フィルターシート、板、フィルム)と、近視を予防または補助治療できるライトフィルター眼鏡または掛けつけ式ライトフィルターレンズ、ならびに遠視を予防または補助治療できるライトフィルター(フィルターシート、板、フィルム)と、遠視を予防または補助治療できるライトフィルター眼鏡または掛けつけ式ライトフィルターレンズを供給することにある。」

エ 「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の技術方案は、透明ライトフィルターシート、フィルター板、フィルターフィルム、或いはライトフィルター眼鏡または眼鏡フレームに掛けられる掛けつけ式ライトフィルターレンズを含めた、閲読時に閲読材料と目との間に適当に設置できる透明ライトフィルターを利用して、それぞれ波長が割に長い光波分画を部分、或いは全部ろ過して取り除き、閲読時に使用すれば、近距離閲読による近視や近視性屈折異常を予防や補助治療(治療を含める)できる。同様なアイディアに基づき、ライトフィルターシート、フィルター板、フィルターフィルム、或いはライトフィルター眼鏡または眼鏡フレームに掛けられる掛けつけ式ライトフィルターレンズを含めた、閲読時に閲読材料と目との間に適当に設置できる透明ライトフィルターを利用して、それぞれ波長が割に短い光波分画を部分、或いは全部ろ過して取り除き、これも閲読時に使用すれば、遠視性屈折異常を予防や補助治療(治療を含める)できる。次は、それぞれ近視性屈折異常と遠視性屈折異常の予防や治療について本発明の技術方案を一歩深く説明する。
【0006】
【発明の実施の形態】閲読中の近視予防や治療について、用いられる透明ライトフィルターはその特徴として、割合に短い波長を持つ光を全部または大部分透過しながら、割合に長い波長を持つ光(ここではいわゆるライトフィルターの非透過光)を部分、或いは大全部または全部吸収または反射(即ちろ過)する、または、割合に短い波長を持つ光に対し相対的に割に高い透過率を、割合に長い波長を持つ光に相対的に割に低い透過率を示し、両者の透過率の比が1.5対1前後以上で、例えば2:1、或いは3:1、或いは4:1、或いは更に高く、例えば8:1であることができる。一般的にこの比が高いほど効果が高い。いわゆる割に短い波長は、590ミリミクロン以下の波長で、例えば580或いは560以下、或いは555以下、或いは550以下、或いは540以下、或いは535?500ミリミクロン以下であることができる。透過させた波長は低いほど目の調節刺激が軽くなり、相対に割合に大きい集中が調節反応に対する促進作用を導け、このことにより調節遅れを低下させることに有利である。しかしながら、これと同時に透過させた波長が低いほど刺激調節用のスペクトルが狭くなり、狭すぎた場合、目のマイナスフィードバックメカニズムに基づく調節誤差が大きくなり、これで集中の調節反応に対する促進作用に相殺する。従って、目の持つマイナスフィードバックメカニズムという特徴を元に、採光条件を考慮に入れて全部或いは部分的に透過させる波長の上限値を確定する。普通570ミリミクロン前後にすればライトフィルターはより良い通用性があるが、閲読に使用する場合、近視予防や補助治療の効果が割に普通的である。しかし上限を550、或いは540、或いは540?490ミリミクロンにすると、閲読中の近視治療効果を一定の程度で増大でき、そして調節能力が割合に強い目ではその効果が更に良くなる。490ミリミクロンより更に短い波長ではその効果が顕著に低下する。いわゆる部分、或いは大部分、或いは全部吸収または反射する波長が割に長い光波とは、その波長の下限は上述した割に短い波長の上限波長とそれぞれ対応する。例えば、570、560、555、540、535?500、或いは540?490ミリミクロン、或いは590前後、或いは580前後、或いは580?600、或いは600?650ミリミクロンであることができる。650ミリミクロンより高かった場合その効果が著しく低下する。特別に、本発明の、閲読中の近視予防や治療に用いられるライトフィルターの特性は、いわゆる低透過バンドを透過するろ過光であり、即ち透過或いは主に透過させる光の波長が580?380ミリミクロンという範囲にある、例えば570?430(水色或いは青色)、560?480(青グリーン)、570?490(グリーン)。上述のバンド透過フィルターはより一層目の色差を減少し、視覚の明快さを高めることができる。指摘すべきこととして、本発明に記述したライトフィルターは、前述の波長が割に長い光波を部分、あるいは大部分、或いは全部ろ過して取り除く以外に、また近赤外部分の光線をろ過して取り除くことが望ましい。例えば、650?1000、或いは650?3000ミリミクロンの波長を持つ光波を部分、あるいは大部分、或いは全部ろ過して取り除く(吸収或いは反射)、或いは700(或いは760)?3000(更に10000)ミリミクロンの波長を持つ光波のみを部分、あるいは大部分、或いは全部ろ過して取り除く(吸収或いは反射)。上述の近赤外線も眼球の成長と近視化を速めるためである。次の数字表は本発明の閲読中に近視予防や治療に用いられるライトフィルターの特性(ライト透過率で表す)についての具体な例を示している。スペクトルの連続性や材料が一般に持つ透過率の漸進変化で、本発明の透過率は通常に、ある波長範囲にある平均値を指す。
【0007】分かるように、本発明の設計構想即ち使用する透明遮光物が短波長の可視光に対し透過率が割に高く、長波長の光に対し透過率が低いことによれば、この設計思想を変えない限り、上の表の数字を適当にチェンジさえすれば、本発明の他の例を多く示せる。但し指摘すべきことは、スペクトルの透過率を変えることは近視予防や治療の効果の変化を起こす。より良い効果をあげるには短波長の光の透過率は0.7以上に、例えば0.8?0.9に、長波長の光の透過率は0.3、例えば0.2或いは0.1以下にすることが望ましい。スペクトルの透過率の特性を連続的に変えれば、更に多くの例を示せる。例えば、その透過率の曲線がそれぞれ図1?4に示された形状の異なる曲線である透明遮光物は、どれも本発明の近視予防や補助治療に用いられるライトフィルター或いはライトフィルター眼鏡レンズとして使用できる。図1?図4では縦軸が透明遮光物の透過率で、任意の単位を取ることができる。このなかで各曲線のピークポイントの透過率が1より小さい(1は透過率が100%であることを表す)。横軸はライトの波長で単位がミリミクロンである。空間を節約するため、図一つに4?5本の、透過率が大きさでそれぞれ独立する透過率曲線を描いた。一本の透過率曲線は本発明による透明遮光物の一つの光学特徴を代表し、それぞれ数字1?5で示される。目の色覚で感知すると、異なる透過率の材料が異なる色を帯びる。例えば、透過率のピーク値が平台型を示す材料ではピーク値の波長はそれぞれ、610以上、580以上、560?610、540?590、580或いは570以下、560以下、570?500、560?490、540以下、520以下、500ミリミクロン以下であるが、他の波長の透過率は割合に低いか、基本的に透過しなく、対応する色は大体、レッド、レッドピンク、イエロー、イエローグリーン、青(水色)、濃い青、グリーン、グリーンブルー、ブルーグリーン、ブルーになる。即ち透過率のピーク値になる波長が長波側より短波側に移行するに連れ、現れる顔色は「暖色」より徐々に「冷色」に変わる。ライトフィルター材料の持つスペクトルの透過率が可視スペクトル内で連続に変わることができるので、色彩もほぼ無限に現れる。本発明では近視予防や治療用の透明ライトフィルターの顔色は基本的に、青(水色)、ブルー、グリーン、青グリーン、グリーン青、青ブルー、ブルーグリーン、イエローグリーン等の「冷色」を主とする。
・・・中略・・・
【0010】本発明のライトフィルターとライトフィルターレンズは閲読に使用する場合、割に長い波長の光線が目に入ることを選択的に阻止或いは減少し、割に長い波長の光線に作られたレチノスポットによる眼球の成長、拡張への刺激作用を軽減できる。これと同時に、割に短い波長の光線に作られたレチノスポットによる目の遠視化プロセスを相対的に強化する。このほか、より少ない長波長光とより多くの短波長光との視覚環境は、調節刺激量を減じ、眼の調節反応量を少なくしながら、閲読時の目の調節負荷を軽くする。また一方、これも調節に対する集中の促進作用を強化することを助け、目の近所目視調節時の遅滞誤差を低下させる。また一部の光線をろ過して取り除くことで、コントラストを適当に減じ、目に入る光線のエネルギーを少なくすることにより目の閲読疲労を軽減する。従って、本発明のライトフィルターとライトフィルター眼鏡に近視への予防や治療効果を持たせる。」

ウ 数字表、図1
数字表:


図1:


(2)引用発明
上記(1)によれば、引用文献1の特許請求の範囲(特に、請求項1及び8)には、近視予防のための「透明ライトフィルターシート」の発明が記載されている。さらに、引用文献1の【0006】?【0008】にかけて【発明の実施の形態】が記載された後、【0010】において、近視予防のための「本発明」の「ライトフィルター」を使用する場合の効果についての総括的な記載がある。
以上総合すれば、引用文献1には、
「選択的に、より多くの短波長の光波を透過し、より多くの割長い波長を持つ光波の透過を阻止できる、主に閲読等の近距離目視作業に使用され、目と目視作業対象物の間に設置して目視作業対象物をカバーすることに適し、近視の予防や治療に用いられる透明ライトフィルターシートによって作られ、
閲読に使用する場合、割に長い波長の光線が目に入ることを選択的に阻止或いは減少し、割に長い波長の光線に作られたレチノスポットによる眼球の成長、拡張への刺激作用を軽減できる、
ライトフィルター眼鏡、或いは掛けつけ式ライトフィルターレンズ。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4 対比及び判断
(1)対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると、以下のとおりである。
ア 視力矯正具又は眼保護具からなる物品、近視予防物品
引用発明の「ライトフィルター眼鏡、或いは掛けつけ式ライトフィルターレンズ」は、「近視の予防や治療に用いられる」ものである。
そうすると、引用発明の「ライトフィルター眼鏡、或いは掛けつけ式ライトフィルターレンズ」は、視力(近視)を矯正する手段を具備するものといえる。
したがって、引用発明の「ライトフィルター眼鏡、或いは掛けつけ式ライトフィルターレンズ」は、本件補正後発明の「視力矯正具又は眼保護具からなる物品」に相当する。
さらに、機能面に着目すると、引用発明の「ライトフィルター眼鏡、或いは掛けつけ式ライトフィルターレンズ」は、本件補正後発明の「近視予防物品」に相当するとともに、本件補正後発明の「近視予防用途に用いる」との要件を満たす。

イ 光透過部の存在について
引用発明の「ライトフィルター眼鏡、或いは掛けつけ式ライトフィルターレンズ」は、「選択的に、より多くの短波長の光波を透過」するものである。したがって、引用発明は、本件補正後発明における「光を透過させる光透過部」に相当する部分を含んでいる。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「 近視予防用途に用いる視力矯正具又は眼保護具からなる物品であって、光を透過させる光透過部を含む、近視予防物品。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で一応相違又は相違する。
(相違点1)
「近視予防用途に用いる視力矯正具又は眼保護具からなる物品」が、本件補正後発明では、「眼の眼軸長の伸長に伴う近視の発生を防止又は近視の進行を遅らせるための」ものであるのに対して、引用発明ではこのような特定がなされていない点。

(相違点2)
「光透過部」が、本件補正後発明では、「近視の発生を防止又は近視の進行を遅らせる350?400nmの波長の」光を透過させる光透過部を含み、前記光透過部は、「350nm未満の波長の光を透過せず、400nm超の波長の光を透過する」のに対して、引用発明では、「選択的に、より多くの短波長の光波を透過し、より多くの割長い波長を持つ光波の透過を阻止できる」と特定されている点。

(3)判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。
ア 相違点2について
相違点2は、光透過部の透過率に関する技術事項であるところ、波長範囲に応じて、以下のとおり整理する。
(ア)近視の発生を防止又は近視の進行を遅らせる350?400nmの波長の光を透過させること
(イ)400nm超の波長の光を透過すること
(ウ)350nm未満の波長の光を透過しないこと

(ア)及び(イ)について
引用文献1の【0006】の数字表は、「本発明」の「閲読中に近視予防や治療に用いられるライトフィルターの特性(ライト透過率で表す)についての具体な例を示している。そして、その例1?例3は、波長範囲380?450nmにおける透過率が0.7より大きい具体例であって、本件補正後発明における「350?400nmの波長の光を透過させる」及び「400nm超の波長の光を透過する」との要件を満たすものである。
(当合議体注:当該数字表に関して、波長の単位ミリミクロンが「nm」と同義であること、透過率が例えば、0.7の場合、これが「70%」を意味することは明らかである。また、本願明細書の【0025】の記載から、透過率が30%以上であれば、「透過する」ということができる。)
以上によれば、本件補正後発明の「350?400nmの波長の光を透過させる」及び「400nm超の波長の光を透過する」との構成は、引用文献1の上記数字表に実質的に記載された事項である。そうすると、上記(ア)及び(イ)に係る相違点は実質的な相違点とはいえない。(当合議体注:本件補正後発明の「350?400nmの波長の光を透過させる」及び「400nm超の波長の光を透過する」との構成は、引用文献1の図1等に記載された各透過率曲線(1?5)からも把握される事項である。)
あるいは、上記数字表の上記具体例の記載に接した当業者が、引用発明において、波長範囲380?450nmにおける透過率を70%より大きく設計すること(例:80%とすること)により、本件補正後発明の「350?400nmの波長の光を透過させる」及び「400nm超の波長の光を透過する」との構成に想到することは容易になし得たことである。
ところで、引用文献1には、本件補正後発明の「近視の発生を防止又は近視の進行を遅らせる350?400nmの波長の光」、すなわち、「350?400nmの波長の光」が「近視の発生を防止又は近視の進行を遅らせる」機能を有する点について記載されていない。しかしながら、上記機能は、「350?400nmの波長の光」が有する固有の性質であるから、上述のとおり、当業者が「350?400nmの波長の光を透過させる」との構成に想到することが容易である以上、「近視の発生を防止又は近視の進行を遅らせる350?400nmの波長の光を透過させる」との構成に想到することもまた容易である。
なお、「350?400nm」という数値範囲の技術的意義及び当該数値範囲の下限値の意義は後述するとおりである。

(ウ)について
引用発明の「ライトフィルター眼鏡、或いは掛けつけ式ライトフィルターレンズ」は、「選択的に、より多くの短波長の光波を透過し、より多くの割長い波長を持つ光波の透過を阻止できる、主に閲読等の近距離目視作業に使用され、目と目視作業対象物の間に設置して目視作業対象物をカバーすることに適し、近視の予防や治療に用いられる」ものであることから、透過する光波の波長範囲の下限値は特定されていない。
ここで、以下に示すとおり、380nmを下回る紫外線が目に好ましくないことは技術常識である。
a 波長350nm以下の紫外線が人の目に有害であること
(例えば、特開2002-127289号公報(【0005】)及び特開2001-337634号公報(【0003】)参照。)
b UV-BやUV-Cが目に白内障等の原因になったり、目の疲労障害等をもたらすこと
(例えば、特開2010-53200号公報(【0015】)及び国際公開第97/18270号(明細書第1頁第16行?第20行(空行は数えていない。)参照。)
c 米国国家規格協会(ANSI)に基づき、UV遮蔽コンタクトレンズにおける1級レンズに対して、UVC、UVBのみならず、UVA(315?380nm)の波長領域の光波を90%以上遮蔽しなければならないことが定められていること
(例えば、国際公開第2013/086077号(1頁31行?2頁3行)参照。)
そうすると、上記技術常識を心得た当業者は、引用発明の「ライトフィルター眼鏡、或いは掛けつけ式ライトフィルターレンズ」において、380nmを下回るUVA領域のどこか(315?380nmのどこか)の波長をカットオフ波長とし、それ以下の紫外線をカットするように設計すると考えられ、当該「350nm」という値は、当業者における選択肢の一つに過ぎないといえる。
したがって、引用発明において、相違点2の(ウ)に係る構成を採用することは、上記技術常識を有する当業者が容易に想到し得ることである。

イ 相違点1について
引用発明の「ライトフィルター眼鏡、或いは掛けつけ式ライトフィルターレンズ」は、「選択的に、より多くの短波長の光波を透過し、より多くの割長い波長を持つ光波の透過を阻止できる」ものである。そして、長い波長を持つ光波の透過の阻止に関して、引用文献1の【0006】及び【0010】には、それぞれ、「指摘すべきこととして、本発明に記述したライトフィルターは、前述の波長が割に長い光波を部分、あるいは大部分、或いは全部ろ過して取り除く以外に、また近赤外部分の光線をろ過して取り除くことが望ましい。・・・中略・・・上述の近赤外線も眼球の成長と近視化を速めるためである。」及び「本発明のライトフィルターとライトフィルターレンズは閲読に使用する場合、割に長い波長の光線が目に入ることを選択的に阻止或いは減少し、割に長い波長の光線に作られたレチノスポットによる眼球の成長、拡張への刺激作用を軽減できる。」と記載されている。
これらの記載からみて、引用発明の「ライトフィルター眼鏡、或いは掛けつけ式ライトフィルターレンズ」は、少なくとも「眼の眼軸長の伸長に伴う近視の進行を遅らせるための」ものであるといえる。(当合議体注:下線は当合議体で付した。)
以上によれば、引用発明は、本件補正後発明の「眼の眼軸長の伸長に伴う近視の発生を防止又は近視の進行を遅らせるための」との構成を実質的に具備している。
そうしてみると、相違点1は、実質的な相違点ではない。
あるいは、仮に、引用文献1には、本件補正後発明の「眼の眼軸長の伸長に伴う近視の発生を防止又は近視の進行を遅らせる」との技術思想が記載されていないとしても、上記アで検討したように、技術常識を心得た当業者は、引用発明において、「350?400nmの波長の光を透過させる」との構成に容易に想到し得るのであるから、その結果として、引用発明に係る「ライトフィルター眼鏡、或いは掛けつけ式ライトフィルターレンズ」の使用者は、「眼の眼軸長の伸長に伴う近視の発生を防止又は近視の進行を遅らせる」との恩恵を享受できることになる。

(4)本件補正後発明の効果・数値(範囲)の意義
ア 効果について
本願明細書の【0042】には、本件補正後発明が奏する効果について、「凡そ350?400nmの範囲の波長のみからなる紫外線を受けた眼の眼軸長の伸長の度合いが、紫外線を全ての波長にわたりほぼ完全に受けなかった眼に比べて、有意に小さくなった。」ことが記載されている。
しかしながら、上記「ア(ア)及び(イ)について」で述べたとおり、引用文献1には、本件補正後発明の「350?400nmの波長の光を透過させる」との構成が実質的に記載されているのであるから、その結果として、引用発明も上記効果を奏することとなる。あるいは、引用発明において、本件補正後発明の「350?400nmの波長の光を透過させる」との構成に想到することが容易である以上、上記効果を奏する発明に想到することは当業者が容易になし得たことである。

イ 数値(範囲)の意義について
本願明細書の図1?図3に示された検証結果をみても、眼軸長の伸張の度合いを抑制する効果が、350?400nmのうちのどの波長帯の光波に起因するものであるのかは明らかでないから、本願補正後発明で特定された「350nm」の数値(透過波長範囲の下限値の意味合いを有する。)に臨界的な意義は認められない。
なお、本願明細書の【0037】の記載を考慮すると、本願補正後発明の「350nm」という値は、「315nm超400nm以下」の範囲に設定されるべきカットオフ波長の選択肢の一つとして、【0038】に記載された既存の製品「Artiflex」が有していたカットオフ波長を参考にしたものであると考えることもできる。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件補正後発明は、技術常識を心得た当業者が、引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 補正の却下の決定の結び
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論の通り決定する。

第3 本願発明
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1?6に係る発明は、平成29年11月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、前記「第2」1(1)に記載されるとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本件優先日前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2001-133625号公報(原査定における「引用文献2」)

3 引用文献の記載及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は、前記「第2」3に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記「第2」の[理由]4で検討した本件補正後発明から、「視力矯正具又は眼保護具からなる」及び「350nm未満の波長の光を透過せず」との限定事項を除いたものである。(以下、除いた限定事項を「削除対象限定事項」という。)
ここで、本願発明の発明と特定するための事項を全て含み、さらに削除対象限定事項を付加したものに相当する本件補正後発明は、前記「第2」[理由]4で検討したとおり、周知技術等を心得た当業者が、引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
そうすると、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものでもある。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-06 
結審通知日 2019-11-12 
審決日 2019-11-26 
出願番号 特願2016-224174(P2016-224174)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川島 徹  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 里村 利光
高松 大
発明の名称 近視予防物品及び近視予防セット  
代理人 吉村 俊一  

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