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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B |
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管理番号 | 1358489 |
審判番号 | 不服2019-5249 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-04-19 |
確定日 | 2020-01-09 |
事件の表示 | 特願2018-130253「ポリオレフィン樹脂層を備える積層体およびその製造方法ならびに該積層体を備える包装製品」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月25日出願公開、特開2018-165056〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成28年7月1日に出願した特願2016-131893号の一部を平成30年7月9日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年 8月 2日付け:拒絶理由通知書 平成30年11月28日 :意見書、手続補正書の提出 平成31年 1月22日付け:拒絶査定 平成31年 4月19日 :審判請求書の提出、同時に手続補正書の提出 令和 元年 9月26日 :上申書の提出 第2 平成31年4月19日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成31年4月19日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、平成30年11月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「少なくとも、基材層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、金属箔と、熱可塑性樹脂層とをこの順に備える積層体であって、 前記第1のポリオレフィン樹脂層が、5質量%以上100質量%以下のバイオマス由来の低密度ポリエチレン(但し、直鎖状低密度ポリエチレンを除く)と、0質量%以上95質量%以下の化石燃料由来の低密度ポリエチレン(但し、直鎖状低密度ポリエチレンを除く)とで構成されており、 前記熱可塑性樹脂層が、低密度ポリエチレンである、積層体。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「少なくとも、基材層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、金属箔と、熱可塑性樹脂層とをこの順に備える包装製品用積層体であって、 前記第1のポリオレフィン樹脂層が、5質量%以上100質量%以下のバイオマス由来の低密度ポリエチレン(但し、直鎖状低密度ポリエチレンを除く)と、0質量%以上95質量%以下の化石燃料由来の低密度ポリエチレン(但し、直鎖状低密度ポリエチレンを除く)とで構成されており、 前記熱可塑性樹脂層が、化石燃料由来の低密度ポリエチレンであり、かつ、前記包装製品用積層体の最内層に位置している、包装製品用積層体。」 2 補正の適否 上記1より、本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「積層体」について「包装製品用」と限定し、「熱可塑性樹脂層」の「低密度ポリエチレン」を「化石燃料由来の」ものに限定し、「熱可塑性樹脂層」の配置を「前記包装製品用積層体の最内層に位置している」ものに限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)否かについて、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献 (ア)原査定の拒絶の理由、すなわち平成31年1月22日付けで通知した拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、特開2014-133338号公報(平成26年7月24日公開。以下「引用文献」という。)には、図面とともに、次の記載がある。 「【0001】 本発明は、バイオマス由来の樹脂層を備えた積層体に関し、より詳細には、ジオール単位がバイオマス由来のエチレングリコールであるバイオマスポリエステルを含んでなるバイオマスポリエステル樹脂層と、バイオマス由来のエチレンを含むモノマーが重合してなるバイオマス由来のポリオレフィンを含んでなるバイオマスポリオレフィン樹脂層とを有してなる、積層体に関する。」 「【0007】 本発明者らは、ポリオレフィン積層体の原料であるエチレンに着目し、従来の化石燃料から得られるエチレンに代えて、バイオマス由来のエチレンをその原料としたポリオレフィンのバイオマスポリオレフィン樹脂層を有する積層体は、従来の化石燃料から得られるエチレンを用いて製造されたポリオレフィン樹脂の積層体と、機械的特性等の物性面で遜色ないものが得られるとの知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。 【0008】 したがって、本発明の目的は、バイオマス由来のエチレングリコールを用いたカーボンニュートラルなポリエステルを含むバイオマスポリエステル樹脂層と、バイオマス由来のエチレンを用いたカーボンニュートラルなポリオレフィンを含むバイオマスポリオレフィン樹脂層とを有してなる積層体を提供することであって、従来の化石燃料から得られる原料から製造されたポリエステル樹脂層とポリオレフィン樹脂層を有する積層体と、機械的特性等の物性面で遜色ないバイオマス樹脂の積層体を提供することである。」 「【0026】 本発明による積層体は、バイオマス由来のエチレングリコールを用いたカーボンニュートラルなポリエステルを含むバイオマスポリエステル樹脂層と、バイオマス由来のエチレンを用いたカーボンニュートラルなポリオレフィンを含むバイオマスポリオレフィン樹脂層とを有してなる積層体を有することで、カーボンニュートラルなバイオマス樹脂の積層体を実現できる。したがって、従来に比べて化石燃料の使用量を大幅に削減することができ、環境負荷を減らすことができる。また、本発明による積層体は、従来の化石燃料から得られる原料から製造された樹脂の積層体と比べて、機械的特性等の物性面で遜色がないため、従来の樹脂の積層体を代替することができる。」 「【0093】 バイオマスポリオレフィン 本発明において、バイオマス由来のポリオレフィンは、バイオマス由来のエチレンを含むモノマーが重合してなるものである。バイオマス由来のエチレンには、上記の製造方法により得られたものを用いることが好ましい。原料であるモノマーとしてバイオマス由来のエチレンを用いているため、重合されてなるポリオレフィンはバイオマス由来となる。なお、ポリオレフィンの原料モノマーは、バイオマス由来のエチレンを100質量%含むものでなくてもよい。」 「【0100】 本発明において、バイオマス由来のエチレンを含むモノマーの重合方法は、特に限定されず、従来公知の方法により行うことができる。重合温度や重合圧力は、重合方法や重合装置に応じて、適宜調節するのがよい。重合装置についても特に限定されず、従来公知の装置を用いることができる。以下、エチレンを含むモノマーの重合方法の一例を説明する。 【0101】 ポリオレフィン、特に、エチレン重合体やエチレンとα-オレフィンの共重合体の重合方法は、目的とするポリエチレンの種類、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、および直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等の密度や分岐の違いにより、適宜選択することができる。例えば、重合触媒として、チーグラー・ナッタ触媒等のマルチサイト触媒や、メタロセン系触媒等のシングルサイト触媒を用いて、気相重合、スラリー重合、溶液重合、および高圧イオン重合のいずれかの方法により、1段または2段以上の多段で行うことが好ましい。」 「【0111】 バイオマスポリオレフィン樹脂組成物 本発明において、バイオマスポリオレフィン樹脂組成物は、上記のポリオレフィンを主成分として含むものである。バイオマスポリオレフィン樹脂組成物は、バイオマス由来のエチレンをバイオマスポリオレフィン樹脂組成物全体に対して好ましくは5質量%以上、より好ましくは5?95質量%、さらに好ましくは25?75質量%含んでなるものである。バイオマスポリオレフィン樹脂組成物中のバイオマス由来のエチレンの濃度が5質量%以上であれば、従来に比べて化石燃料の使用量を削減することができ、カーボンニュートラルなポリオレフィン積層体を実現できる」 「【0116】 非バイオマスポリオレフィン樹脂層 本発明よる積層体は、非バイオマスポリオレフィン樹脂層をさらに有してもよい。非バイオマスポリオレフィン樹脂層は、化石燃料由来の原料を含む樹脂材料からなる樹脂層であり、バイオマス度は0%である。積層体のコア層およびシール層のいずれか一方のみがバイオマスポリオレフィン樹脂層である場合には、他方は非バイオマスポリオレフィン樹脂層であってもよい。非バイオマスポリオレフィン樹脂層は、非バイオマスポリオレフィン樹脂層は、従来公知の原料を用いて形成することができ、その組成および形成方法は、特に限定されない。積層体が、非バイオマスポリオレフィン樹脂層をさらに有することで、耐熱性、耐圧性、耐水性、ヒートシール性、耐ピンホール性、耐突き刺し性、およびその他の物性を付与ないし向上させることができる。なお、積層体は、非バイオマスポリオレフィン樹脂層を2層以上有してもよい。非バイオマスポリオレフィン樹脂層を2層以上有する場合、それぞれが、同一の組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。」 「【0132】 用途 本発明による積層体は、包装容器や包装袋等の包装製品、化粧シートやトレー等のシート成形品、積層フィルム、光学フィルム、樹脂板、各種ラベル材料、蓋材、およびラミネートチューブ等の各種用途に好適に使用することができ、特に、包装製品が好ましい。」 「【0158】 実施例1 化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.919)とバイオマス由来の高密度ポリエチレン(Braskem社製:SHA7260、MFR:20、密度:0.955、バイオマス度:94.5%)とを50:50でドライブレンドした樹脂を用意した。この樹脂を、紙(純白、坪量30g/m^(2))に15μmの厚みで押出しコーティングを行い、バイオマスPETフィルム(12μm、バイオマス度:14%)と貼り合わせた。 【0159】 次に、バイオマスPETフィルム(12μm、バイオマス度:14%)の内側のコア層として、化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.919)とバイオマス由来の高密度ポリエチレン(Braskem社製:SHA7260、MFR:20、密度:0.955、バイオマス度:94.5%)を50:50でドライブレンドした樹脂を用意した。また、シール層として、化石燃料由来の直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:KC581、MFR:11、密度:0.919)とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)とを67:33でメルトブレンドした樹脂を用意した。バイオマスPETフィルムの内側にアンカーコート剤を介して、上記の樹脂をそれぞれ290℃および320℃の樹脂温で共押し(コア層:15μm、シール層:5μm)にて押出しコーティングし、積層体を得た。押出し層のバイオマス度は44%であった。この積層体を用いて、外寸法20mm×100mm、背シール巾部5mmのピロー袋を作成した。 【0160】 比較例1 紙(純白、坪量30g/m^(2))に化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.919)を厚み15μmで押出しコーティングを行い、バイオマスPETフィルム(12μm、バイオマス度:14%)と貼り合わせた。 【0161】 次に、バイオマスPETフィルム(12μm、バイオマス度:14%)の内側のコア層として、化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.919)を用意した。また、シール層として、化石燃料由来の直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:KC581、MFR:11、密度:0.919)を用意した。バイオマスPETフィルムの内側にアンカーコート剤を介して、上記の樹脂をそれぞれ290℃および320℃の樹脂温で共押し(コア層:15μm、シール層:5μm)にて押出しコーティングし、積層体を得た。押出し層のバイオマス度は0%であった。この積層体を用いて、外寸法20mm×100mm、背シール巾部5mmのピロー袋を作成した。 【0162】 実施例1および比較例1で得られた各積層体を、幅15mm、長さ200mmに切り出し、シール温度は110?180℃、シール圧力は30N/cm^(2)、シール時間は1秒でヒートシールした。この試験片を引張試験機(テンシロンRTC-125A、オリエンテック社製)を用いて、引張速度300mm/分でT時剥離強度の測定を行い、シールが開始される温度を特定した。測定結果は、下記の表3に示される通りであった。 【表3】 【0163】 実施例2 バイオマス由来のPETフィルム(厚さ12μm、バイオマス度:14%)に、化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)50質量部とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)50質量部とをドライブレンドした樹脂を、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(15μm)、アルミ箔(日本製箔社製:1N30材、厚さ7μm)と貼合した。さらに、アルミ箔上に、化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)50質量部とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)50質量部とをドライブレンドした樹脂を、押し出しラミネート法により、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(30μm)て、積層体を得た。 【0164】 比較例2 バイオマス由来のPETフィルム(厚さ12μm、バイオマス度:14%)に、化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)を、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(15μm)、アルミ箔(日本製箔社製:1N30材、厚さ7μm)と貼合した。さらに、アルミ箔上に、化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)を、押し出しラミネート法により、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(30μm)て、積層体を得た。 【0165】 実施例2および比較例2で得られた各積層体を、幅15mm、長さ200mmに切り出して試験片とした。PETフィルムとアルミ箔の間を剥離し、引張試験機(テンシロンRTC-125A、オリエンテック社製)を用いて、T時剥離強度の測定を行った。この測定における引張速度は50mm/分であった。測定結果は、下記の表4に示される通りであった。 【0166】 実施例2および比較例2で得られた各積層体を、試験条件をシール圧力は30N/cm^(2)、シール時間は1秒、シール温度は170℃、引張速度は300mm/分とした以外は上記と同様の条件で、シール強度を測定した。測定結果は、下記の表に示される通りであった。 【表4】 」 (イ)上記(ア)の段落【0163】に記載された実施例2に着目して技術常識を踏まえて整理すると、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「バイオマス由来のPETフィルム(厚さ12μm、バイオマス度:14%)に、化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)50質量部とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)50質量部とをドライブレンドした樹脂を、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(15μm)、アルミ箔(日本製箔社製:1N30材、厚さ7μm)と貼合して、さらに、アルミ箔上に、化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)50質量部とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)50質量部とをドライブレンドした樹脂を、押し出しラミネート法により、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(30μm)て得た、積層体。」 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明は、「バイオマス由来のPETフィルム(厚さ12μm、バイオマス度:14%)」と「化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)50質量部とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)50質量部とをドライブレンドした樹脂を、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(15μm)」たものと「アルミ箔(日本製箔社製:1N30材、厚さ7μm)」と「化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)50質量部とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)50質量部とをドライブレンドした樹脂を、押し出しラミネート法により、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(30μm)」たものとがこの順に積層されていることは明らかである。 (イ)引用発明の「バイオマス由来のPETフィルム(厚さ12μm、バイオマス度:14%)」は、本件補正発明の「基材層」に相当する。 (ウ)引用発明の「化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)50質量部とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)50質量部とをドライブレンドした樹脂を、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(15μm)」たものは、本件補正発明の「第1のポリオレフィン樹脂層」に相当する。 (エ)引用発明の「アルミ箔(日本製箔社製:1N30材、厚さ7μm)」は、本件補正発明の「金属箔」に相当する。 (オ)引用発明の「化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)50質量部とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)50質量部とをドライブレンドした樹脂を、押し出しラミネート法により、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(30μm)」たものは、「ポリエチレン」が熱可塑性樹脂であるから、本件補正発明の「熱可塑性樹脂層」に相当する。 イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点] 「少なくとも、基材層と、第1のポリオレフィン樹脂層と、金属箔と、熱可塑性樹脂層とをこの順に備える積層体。」 [相違点1] 本件補正発明は、「積層体」が「包装製品用」であり、「熱可塑性樹脂層」が「包装製品用積層体の最内層に位置している」のに対して、引用発明は、積層体が包装製品用であること、及び、熱可塑性樹脂層が包装製品用積層体の最内層に位置していることが、特定されていない点。 [相違点2] 「第1のポリオレフィン樹脂層」について、本件補正発明は、「5質量%以上100質量%以下のバイオマス由来の低密度ポリエチレン(但し、直鎖状低密度ポリエチレンを除く)と、0質量%以上95質量%以下の化石燃料由来の低密度ポリエチレン(但し、直鎖状低密度ポリエチレンを除く)とで構成されて」いるのに対して、引用発明は、「化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)50質量部とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)50質量部とをドライブレンドした樹脂を、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(15μm)」たものである点。 「相違点3」 「熱可塑性樹脂層」について、本件補正発明は、「化石燃料由来の低密度ポリエチレン」であるのに対して、引用発明は、「化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)50質量部とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)50質量部とをドライブレンドした樹脂を、押し出しラミネート法により、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(30μm)」たものである点。 (4)判断 以下、相違点について検討する。 ア 相違点1について 上記(2)ア(ア)に摘記した、引用文献の段落【0132】には、用途として、「特に、包装製品が好ましい」との記載がある。 また、引用文献の実施例1の記載に着目すると、「積層体」を用いて「ピロー袋」を作成しており、「シール層として、化石燃料由来の直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:KC581、MFR:11、密度:0.919)とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)とを67:33でメルトブレンドした樹脂」を用いたものが記載されている。 以上のことを勘案して、引用発明の積層体の用途を包装製品用とすることは当業者が容易に想到し得たことである。そして、その際は、引用文献の実施例1の記載に倣うと、引用発明の「化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)50質量部とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)50質量部とをドライブレンドした樹脂を、押し出しラミネート法により、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(30μm)」たものは、シール層であって、積層体の最内層に位置させることとなる。 イ 相違点2について まず、引用発明の「化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)」は、「日本ポリエチレン社製:LC701」が高圧法低密度ポリエチレンであるから(例えば、特開2007-168178号公報の段落【0056】参照)、本件補正発明の「化石燃料由来の低密度ポリエチレン(但し、直鎖状低密度ポリエチレンを除く)」に相当し、その含有量である「50質量部」は本件補正発明の「0質量%以上95質量%以下」の範囲内の値である。 次に、引用発明の「バイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)」について検討すると、引用文献の段落【0101】には、「ポリオレフィン」は「高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、および直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等」を適宜選択することができる旨の記載があり、段落【0111】には、そのようなポリオレフィンをバイオマスポリオレフィン樹脂組成物として使用する旨が記載されており、バイオマスポリオレフィン樹脂組成物として低密度ポリエチレン(LDPE)を用いることが示唆されている。そして、引用発明は、バイオマス由来のポリエチレンとして、「直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)」を使用しているが、上記示唆に従って、「直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)」に代えて、「低密度ポリエチレン(LDPE)」を採用することは、当業者にとって格別困難なこととは認められない。また、その含有量は「50質量部」であるから、「5質量%以上100質量%以下」の範囲内で質量%を適宜調整することは設計的事項である。 以上のことから、引用発明において、バイオマス由来のポリエチレンとして、「直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)」に代えて、「低密度ポリエチレン(LDPE)」を採用して、本件補正発明の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 ウ 相違点3について 引用文献の段落【0116】には、「積層体のコア層およびシール層のいずれか一方のみがバイオマスポリオレフィン樹脂層である場合には、他方は非バイオマスポリオレフィン樹脂層であってもよい。」との記載があり、「シール層」を非バイオマスポリオレフィン樹脂層で構成する態様について示唆されている。また、引用文献の段落【0116】には、「非バイオマスポリオレフィン樹脂層をさらに有することで、耐熱性、耐圧性、耐水性、ヒートシール性、耐ピンホール性、耐突き刺し性、およびその他の物性を付与ないし向上させることができる。」とも記載されており、シール層を非バイオマスポリオレフィン樹脂層で構成する利点についても記載されている。 そして、引用発明には、「化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)50質量部とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)50質量部とをドライブレンドした樹脂を、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(15μm)」たものと「化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)50質量部とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)50質量部とをドライブレンドした樹脂を、押し出しラミネート法により、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(30μm)」たものとにバイオマスポリオレフィン樹脂を含有させているところ、上記アで検討したように、包装製品のシール層として用いる、「化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)50質量部とバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(Braskem社製:SLL318、MFR:2.7、密度:0.918、バイオマス度:87%)50質量部とをドライブレンドした樹脂を、押し出しラミネート法により、アンカーコートを介して300℃の樹脂温で押出し(30μm)」たものについて、ヒートシール性を考慮して、非バイオマスポリオレフィン樹脂として「化石燃料由来の低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製:LC701、MFR:14、密度:0.955)」のみで構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。 エ 本件補正発明が奏する効果について 上記相違点1-3を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献に記載の事項に基づいて予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 オ 請求人の主張について 請求人は、令和元年 9月26日提出の上申書において、上記相違点3に係る本件補正発明の構成とすることの効果として、「最内層に化石燃料由来の低密度ポリエチレンを用いることで、従来の化石燃料由来のみからなる積層体と機械的特性等の物性面で遜色ないものを実現することができます。また、従来の化石燃料由来のみからなる積層体と同等の生産性を実現することや各種用途の要求を実現することもできます。」(3.(3))と主張している。 しかし、引用文献の段落【0116】には、上記ウで検討したように、最内層となる「シール層」が「非バイオマスポリオレフィン樹脂層」である場合には、「バイオマスポリオレフィン樹脂層」である場合に比べて物性面で優れていることが示唆されているから、上記効果は、引用発明及び引用文献に記載の事項から予測できない程度に格別なものではない。 (5)小括 したがって、本件補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 むすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成31年4月19日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年11月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(1)に記載したとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし14に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 3 引用文献 引用文献の記載事項及び引用発明は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、上記本件補正発明から、「積層体」についての「包装製品用」との限定事項、「熱可塑性樹脂層」の構成に係る「化石燃料由来の」ものとの限定事項、及び、「熱可塑性樹脂層」の配置に係る「前記包装製品用積層体の最内層に位置している」との限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様に、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-10-29 |
結審通知日 | 2019-11-01 |
審決日 | 2019-11-28 |
出願番号 | 特願2018-130253(P2018-130253) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B32B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 弘實 由美子、堀内 建吾 |
特許庁審判長 |
久保 克彦 |
特許庁審判官 |
武内 大志 佐々木 正章 |
発明の名称 | ポリオレフィン樹脂層を備える積層体およびその製造方法ならびに該積層体を備える包装製品 |
代理人 | 朝倉 悟 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 小島 一真 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 浅野 真理 |