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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B60K 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 B60K |
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管理番号 | 1358525 |
審判番号 | 不服2018-9887 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-07-19 |
確定日 | 2020-01-06 |
事件の表示 | 特願2015-533751号「液体タンクのための過圧適応性という安全特性を有したベントバルブ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月 3日国際公開、WO2014/049584、平成27年12月17日国内公表、特表2015-535770号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)9月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年9月28日、仏国)を国際出願日とする特許出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。 平成27年 5月26日 :翻訳文提出 平成27年 5月29日 :手続補正書の提出 平成29年 7月24日付け:拒絶理由通知書 平成29年10月30日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年 3月 8日付け:拒絶査定 平成30年 7月19日 :審判請求書、手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。) 平成30年 7月20日 :手続補正書(方式)の提出 第2 補正の適否について 1 本件補正の内容 (1)平成29年10月30日提出の手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1?12は、以下のとおりである。 「 【請求項1】 囲まれたスペース(10)を備えた、液体タンクのためのベントバルブ(1)であって、 -前記液体タンクのロールオーバー時に前記ベントバルブを自動的に閉塞するという「ROV」機能を実行するためのROV手段(22、24、26)と、 -所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するためのOFP手段(44、46)と、 -所定のしきい値を超えた過圧の発生時に外部雰囲気へとガスを放出し得るという「OPR」機能を実行するためのOPR手段(28、30、32)と、 -前記液体タンク内の圧力が雰囲気圧力を下回ったときに前記液体タンク内へとエアを流入させ得るという「バイパス」機能を実行するためのバイパス手段(36、38、40、42)と、 を具備し、 当該ベントバルブが前記ROV手段により閉塞されると、前記「OPR」機能が実行可能となることを特徴とするベントバルブ。 【請求項2】 前記囲まれたスペース(10)が、前記外部雰囲気に連通した上チャンバ(12)と、前記液体タンクの内部に連通した下チャンバ(14)と、前記上チャンバ(12)と前記下チャンバ(14)とを分離する中間チャンバ(16)と、を備えていることを特徴とする、請求項1記載のベントバルブ。 【請求項3】 前記「OPR」機能を実行する前記OPR手段が、ボール(30)のような閉塞部材によって通常閉とされる「OPR」オリフィス(28)を備え、 前記閉塞部材が、スプリング(32)のような弾性手段の作用を受けていることを特徴とする、請求項2に記載のベントバルブ。 【請求項4】 前記「OPR」オリフィスが、前記下チャンバ(14)と前記上チャンバ(12)とを連通させることを特徴とする、請求項3に記載のベントバルブ。 【請求項5】 前記「OPR」オリフィスが、前記下チャンバ(14)と前記中間チャンバ(16)とを連通させることを特徴とする、請求項3に記載のベントバルブ。 【請求項6】 前記「ROV」機能を実行する前記ROV手段が、前記下チャンバ(14)と前記中間チャンバ(16)とを連通させる「ROV」オリフィス(26)を閉塞させ得るフロート(22)を備えていることを特徴とする、請求項2?5のいずれか1項に記載のベントバルブ。 【請求項7】 前記「OFP」機能を実行する前記OFP手段が、前記中間チャンバ(16)と前記上チャンバ(12)とを連通させる「OFP」オリフィス(44)を閉塞させ得る部材(46;460)を備えていることを特徴とする、請求項2?6のいずれか1項に記載のベントバルブ。 【請求項8】 前記「OFP」オリフィス(44)を閉塞させ得る前記部材が、自身の重量の作用を受けるディスク(46)とされている、あるいは、スプリング(461)のような弾性戻り手段によって、前記「OFP」オリフィス(44)を閉塞する向きに付勢されたディスク(460)とされている、ことを特徴とする、請求項7に記載のベントバルブ。 【請求項9】 前記「バイパス」機能を実行する前記バイパス手段が、前記上チャンバ(12)と前記中間チャンバ(16)とを連通させる「バイパス」オリフィス(36)を備え、 この「バイパス」オリフィス(36)が、ボールのような閉塞部材(38)によって閉塞され得ることを特徴とする、請求項2?8のいずれか1項に記載のベントバルブ。 【請求項10】 前記閉塞部材(38)が、前記「バイパス」オリフィスに連通したベント(40)内に配置されたスプリングのような弾性戻り手段の作用によって、通常状態においては閉塞位置に維持されていることを特徴とする、請求項9に記載のベントバルブ。 【請求項11】 前記ベント(40)の一端(42)が開口し、前記上チャンバ(12)とパイプ(20)とを介して外部雰囲気に連通されていることを特徴とする、請求項10に記載のベントバルブ。 【請求項12】 単一のパイプ(48)を具備し、 この単一のパイプ(48)の中に、前記バイパス手段および前記OPR手段が配置され、 前記単一のパイプ(48)が、スプリング(50)によって付勢されたボールのような2つの閉塞部材(30、38)を備えていることを特徴とする、請求項10または11に記載のベントバルブ。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?12(以下「本件補正発明1?12」という。)は、以下のとおりである(下線部は、補正箇所を示す。)。 「 【請求項1】 囲まれたスペース(10)を備えた、液体タンクのためのベントバルブ(1)であって、 -前記液体タンクのロールオーバー時に前記ベントバルブを自動的に閉塞するという「ROV」機能を実行するためのROV手段(22、24、26)と、 -所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するためのOFP手段と、 -所定のしきい値を超えた過圧の発生時に外部雰囲気へとガスを放出し得るという「OPR」機能を実行するためのOPR手段(28、30、32)と、 -前記液体タンク内の圧力が雰囲気圧力を下回ったときに前記液体タンク内へとエアを流入させ得るという「バイパス」機能を実行するためのバイパス手段(36、38、40、42)と、 を具備し、 当該ベントバルブが前記ROV手段により閉塞されると、前記「OPR」機能が実行可能となることを特徴とするベントバルブ。 【請求項2】 前記囲まれたスペース(10)が、前記外部雰囲気に連通した上チャンバ(12)と、前記液体タンクの内部に連通した下チャンバ(14)と、前記上チャンバ(12)と前記下チャンバ(14)とを分離する中間チャンバ(16)と、を備えていることを特徴とする、請求項1記載のベントバルブ。 【請求項3】 前記「OPR」機能を実行する前記OPR手段が、ボール(30)のような閉塞部材によって通常閉とされる「OPR」オリフィス(28)を備え、 前記閉塞部材が、スプリング(32)のような弾性手段の作用を受けていることを特徴とする、請求項2に記載のベントバルブ。 【請求項4】 前記「OPR」オリフィスが、前記下チャンバ(14)と前記上チャンバ(12)とを連通させることを特徴とする、請求項3に記載のベントバルブ。 【請求項5】 前記「OPR」オリフィスが、前記下チャンバ(14)と前記中間チャンバ(16)とを連通させることを特徴とする、請求項3に記載のベントバルブ。 【請求項6】 前記「ROV」機能を実行する前記ROV手段が、前記下チャンバ(14)と前記中間チャンバ(16)とを連通させる「ROV」オリフィス(26)を閉塞させ得るフロート(22)を備えていることを特徴とする、請求項2?5のいずれか1項に記載のベントバルブ。 【請求項7】 前記「OFP」機能を実行する前記OFP手段が、前記中間チャンバ(16)と前記上チャンバ(12)とを連通させる「OFP」オリフィス(44)を閉塞させ得る部材(46;460)を備えていることを特徴とする、請求項2?6のいずれか1項に記載のベントバルブ。 【請求項8】 前記「OFP」オリフィス(44)を閉塞させ得る前記部材が、自身の重量の作用を受けるディスク(46)とされている、あるいは、スプリング(461)のような弾性戻り手段によって、前記「OFP」オリフィス(44)を閉塞する向きに付勢されたディスク(460)とされている、ことを特徴とする、請求項7に記載のベントバルブ。 【請求項9】 前記「バイパス」機能を実行する前記バイパス手段が、前記上チャンバ(12)と前記中間チャンバ(16)とを連通させる「バイパス」オリフィス(36)を備え、 この「バイパス」オリフィス(36)が、ボールのような閉塞部材(38)によって閉塞され得ることを特徴とする、請求項2?8のいずれか1項に記載のベントバルブ。 【請求項10】 前記閉塞部材(38)が、前記「バイパス」オリフィスに連通したベント(40)内に配置されたスプリングのような弾性戻り手段の作用によって、通常状態においては閉塞位置に維持されていることを特徴とする、請求項9に記載のベントバルブ。 【請求項11】 前記ベント(40)の一端(42)が開口し、前記上チャンバ(12)とパイプ(20)とを介して外部雰囲気に連通されていることを特徴とする、請求項10に記載のベントバルブ。 【請求項12】 単一のパイプ(48)を具備し、 この単一のパイプ(48)の中に、前記バイパス手段および前記OPR手段が配置され、 前記単一のパイプ(48)が、スプリング(50)によって付勢されたボールのような2つの閉塞部材(30、38)を備えていることを特徴とする、請求項10または11に記載のベントバルブ。」 2 補正の適否について 本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであって、本件補正前の請求項1の「-所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するためのOFP手段(44、46)と、」なる記載を、「-所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するためのOFP手段と、」(以下「本件補正後の補正事項」という。)とするものである。 ここで、本件補正は、以下の「第3」に示す拒絶査定における拒絶の理由に示す事項についてしたものである。 そして、本件補正について請求人は、上記平成30年7月20日付けで提出された手続補正書(方式)の「【本願発明が特許されるべき理由】1.補正の内容」において、「この補正は、「明瞭でない記載の釈明(特許法特許法第17条の2第5項第4号)」に該当する。」と記載している。 そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 また、本件明細書の段落【0011】には、本件補正後の補正事項と同一である「-所定高さを超えてタンクが充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するためのOFP手段と、」との記載があるから、本件補正は、国際出願日における国際特許出願の明細書(以下「本件明細書」という。)、特許請求の範囲及び図面の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。 したがって、本件補正は、同法第17条の2第3項の規定に適合する。 よって、本件補正は、適法になされたものである。 第3 拒絶査定における拒絶の理由の概要 拒絶査定における拒絶の理由(以下「査定理由」という。)は、概略、次の理由を含んでいる。 ●理由1(特許法第36条第4項第1号)について 請求項1に記載された「OFP手段(44、46)」に関して、発明の詳細な説明を精査しても、自身の重量によって通常閉とされ、中間チャンバ圧によって開とされる弁によって、いかにして所定高さを超えてタンクが充填されてしまうことを防止するのか、当業者が適切に理解できるような記載が見当たらない。 燃料補給時における過剰補給防止は、給油の推移によって油面とともに上昇するフロート弁がタンクの排気孔を塞ぐことで、タンク内圧が上昇し、それに対応して油面がフィラーチューブを遡り給油ガンによって検知される構成によって実現するのが通常である(例えば特開2004-36449号公報の[0045]等参照)。出願人が意見書で説明するような「OFP機能」は、これとは明らかに異なるものであり、「当業者であれば、容易に理解できる」たぐいのものとはいえない。 したがって、この出願の発明の詳細な説明には、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が依然として記載されておらず、請求項1?12に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではないから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 ●理由2(特許法第36条第6項第2号)について 請求項1について、「OFP手段(44、46)」が、「所定高さを超えて前記タンクが充填されてしまうことを防止する」とはいかなる意味か不明確である旨の拒絶理由に対して、記載を「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するためのOFP手段(44、46)」と改める補正がなされているが、上記理由1と同様の理由により、「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するためのOFP手段(44、46)」とはいかなるものか、依然として不明確である。 よって、請求項1?12に係る発明は、依然として明確であるとはいえないから、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 第4 当審の判断 [●理由1(特許法第36条第4項第1号違反)及び●理由2(特許法第36条第6項第2号違反)について] 1 査定理由に係る本件補正前の請求項1の「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するためのOFP手段(44、46)」なる記載は、上記第2 2において示したように、本件補正後の請求項1において「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するためのOFP手段」に補正されている。 本件補正後の請求項1の当該「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するためのOFP手段」との記載について検討する。 (1)本件明細書の段落【0005】には「通気システムは、さらに、例えば燃料補給時の過剰補給を防止する機能(“Over Filling Prevention”を略して“OFP”と称される機能、あるいは、“ISR”と称される機能)や、・・・様々な機能を実行するための1つまたは複数のデバイスを備えることができる」と記載され、段落【0011】には、本件補正後の補正事項と同一である「-所定高さを超えてタンクが充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するためのOFP手段と、」との記載がある。 しかしながら、本件明細書の段落【0005】の「燃料補給時の過剰補給を防止する機能(“Over Filling Prevention”を略して“OFP”と称される機能、あるいは、“ISR”と称される機能)」との記載、及び、本件補正後の請求項1及び本件明細書の段落【0011】の記載における「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止する」ということ、だけでは、どのようにOFP手段が所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するのか明らかでない。 (2) ア 本件補正後の請求項1における「OFP手段」の備える構成について、本件補正後の請求項1を間接に引用する請求項7には「前記「OFP」機能を実行する前記OFP手段が、前記中間チャンバ(16)と前記上チャンバ(12)とを連通させる「OFP」オリフィス(44)を閉塞させ得る部材(46;460)を備えている」と記載され、請求項1を直接又は間接に引用する請求項8には「前記「OFP」オリフィス(44)を閉塞させ得る前記部材が、自身の重量の作用を受けるディスク(46)とされている、あるいは、例えばスプリング(461)といったような弾性戻り手段によって、前記「OFP」オリフィスを閉塞する向きに付勢されたディスク(460)とされている」と記載されている。 イ 本件明細書には、本件補正後の請求項1における「OFP手段」の備える構成とその機能について、以下の記載がある(下線部は当審で付与。以下同様。)。 ・「 一実施形態においては、「OFP」機能を実行するOFP手段は、中間チャンバと上チャンバとを連通させる「OFP」オリフィスを閉塞させ得る部材を備えている。」(段落【0018】) ・「 一実施形態においては、「OFP」オリフィスを閉塞させ得る部材は、自身の重量の作用を受けるディスクとされている、あるいは、例えばスプリングといったような弾性戻り手段によって、「OFP」オリフィスを閉塞する向きに付勢されたディスクとされている。」(段落【0019】) ・「 ガスの導出を可能とするための第2オリフィスは、「OFP」オリフィス44である。この「OFP」オリフィス44は、中間チャンバ16と上チャンバ12とを連通させるためのものであり、自身の重量の作用によって「OFP」オリフィス44を閉塞する向きに付勢された部材によって、閉塞することができる。図1、2A、2Bの例においては、この部材は、重いディスク46すなわち「OFP」ディスク46とされており、通常閉とされている。「OFP」オリフィス44の開放は、中間チャンバ16内の圧力によって中間チャンバ16内のガスが「OFP」ディスク46を持ち上げるくらいになったときに、得られる。これにより、中間チャンバ16内のガスは、矢印Bによって図示されているようにして、放出される。」(段落【0035】) ・「 有利には、「バイパス」機能および「OFP」機能を行うデバイスは、「バイパス」オリフィスおよび「OFP」オリフィスの開口どうしを調和させるような寸法で構成されている。よって、例えば、この例においては例えば通常開とされる「バイパス」オリフィスによって、タンク内部と外部雰囲気との間の圧力差が所定値へと到達するまでガスを放出することができ、そしてその後、そのような所定値を超えたときには、ベント40内におけるボール38の上昇によって「バイパス」オリフィスを閉塞することができ、さらに、ガスの圧力によって、および、その結果としてのガス流によって、、「OFP」ディスク46を持ち上げることができることを、想定することができる。そのような場合、ガスは、矢印A、Bで示す両経路に沿って同時に放出されるのではなく、図2A、2Bに示すように、タンク内部の圧力が上昇した場合に順次的に放出される(最初は、矢印Aだけに沿って放出され、その後、矢印Bだけに沿って放出される)。あるいは、可能であれば、最初は、矢印Aに沿って放出され、その後、矢印A、Bに沿って同時に放出され、最後に、矢印Bだけに沿って放出される。」(段落【0036】) ・「・・・この例においては、「OPR」機能は、「バイパス」機能および「OFP」機能とは完全に独立とされている。「バイパス」機能および「OFP」機能は、上述したようにして実行される。言い換えれば、「OPR」機能が、「バイパス」機能および「OFP」機能を短絡する。」(段落【0037】) ・「 図4、5の例においては、「OPR」機能は、スプリング50とボール30との組合せ作用によって、上述したようにして、実行される。ガスの作用によってオリフィス28が開放されたときには、この例においては、ガスは、図4において矢印Eによって図示されているように、「OFP」オリフィス44によって放出される。これは、「OPR」オリフィス28が開放されたときには、「バイパス」オリフィスが必然的に閉塞され(逆も成立する)、「OPR」オリフィス28を通して流出するガスは、「OFP」オリフィス44だけを介して、導出され得るからである。」(段落【0039】) ・「図6は、バルブ1に関しての、「バイパス」オリフィス36が通常閉とされているとともに「OFP」ディスク460が戻りスプリング461によって付勢されているという実施形態を示している。「OFP」ディスク460のの動作は、上述したものと同様ではあるものの、ディスク460が、このディスク自体の重量だけによって付勢されているのではなく、上チャンバ12内に配置された戻りスプリング461によって「OFP」オリフィスを閉塞する向きに付勢されている点において相違している。よって、この例においては、ディスク460は、重い部材ではない。・・・」(段落【0040】) ウ 上記ア及びイから、本件補正後の請求項1における「OFP手段」が、「前記中間チャンバ(16)と前記上チャンバ(12)とを連通させる「OFP」オリフィス(44)を閉塞させ得る部材(46;460)を備えて」おり、「前記「OFP」オリフィス(44)を閉塞させ得る前記部材」が、「自身の重量の作用を受けるディスク(46)とされている、あるいは、例えばスプリング(461)といったような弾性戻り手段によって、前記「OFP」オリフィスを閉塞する向きに付勢されたディスク(460)とされている」構成を含むことができることが理解できる。 そして、本件補正後の請求項1における「OFP手段」は、構成として「「OFP」オリフィス(44)」、「「OFP」ディスク46」及び「「OFP」ディスク460」を備えることができるものといえる。 エ また、上記イに示すように、本件明細書の段落【0035】には「「OFP」オリフィス44は、中間チャンバ16と上チャンバ12とを連通させるためのものであり、自身の重量の作用によって「OFP」オリフィス44を閉塞する向きに付勢された部材によって、閉塞することができ」、「この部材は、重いディスク46すなわち「OFP」ディスク46とされており、通常閉とされている」ものであって、「「OFP」オリフィス44の開放は、中間チャンバ16内の圧力によって中間チャンバ16内のガスが「OFP」ディスク46を持ち上げるくらいになったときに、得られ」、「これにより、中間チャンバ16内のガスは、矢印Bによって図示されているようにして、放出される」ことが記載され、段落【0036】には、「通常開とされる「バイパス」オリフィスによって、タンク内部と外部雰囲気との間の圧力差が所定値へと到達するまでガスを放出することができ、そしてその後、そのような所定値を超えたときには、ベント40内におけるボール38の上昇によって「バイパス」オリフィスを閉塞することができ、さらに、ガスの圧力によって、および、その結果としてのガス流によって、、「OFP」ディスク46を持ち上げることができる」ことが記載され、段落【0040】には、「「OFP」ディスク460のの動作は、上述したものと同様ではある」ことが記載されている。 以上の記載を踏まえると、「「OFP」ディスク46」が、「中間チャンバ16内の圧力によって中間チャンバ16内のガスが「OFP」ディスク46を持ち上げるくらいになったときに」、「中間チャンバ16内のガス」が「放出される」機能を奏し、「「OFP」ディスク460」も同様の機能を奏することまでは理解できる。 しかしながら、本件明細書には上記「「OFP」ディスク46」又は「「OFP」ディスク460」の奏する機能が「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行する」ことにどのような役割を果たすのか記載されていない。 また、「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行する」ことに関し、過給油の防止、すなわち、所定高さを超えて燃料タンクに燃料が充填されてしまうことを防止することを、給油により燃料の液面が一定のレベルに達した段階でフロート体によって通気を遮断又は減少させて燃料タンクの内圧を上昇させ、この内圧の上昇によってフィラーチューブ内の燃料の液面レベルを上昇させて給油ノズル側のセンサに満タンを検知させる構成によって実現することは周知技術といえるが(例えば特開2004-36449号公報の【0045】等参照)、上記「「OFP」ディスク46」又は「「OFP」ディスク460」の奏する機能は、中間チャンバ16内の圧力が上昇すればチャンバ内のガスが放出されることを含むから、当該周知技術である「過給油の防止」のために「燃料タンクの内圧を上昇させ」るための構成を具備して「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行する」ことを阻害するものといえる。 オ 以上のとおりであるから、本件補正後の請求項1における「OFP手段」が、上記ウに記載したように「前記中間チャンバ(16)と前記上チャンバ(12)とを連通させる「OFP」オリフィス(44)を閉塞させ得る部材(46;460)を備えて」おり、「前記「OFP」オリフィス(44)を閉塞させ得る前記部材」が、「自身の重量の作用を受けるディスク(46)とされている、あるいは、例えばスプリング(461)といったような弾性戻り手段によって、前記「OFP」オリフィスを閉塞する向きに付勢されたディスク(460)とされている」構成を含むことができることは理解できたとしても、当該構成で「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行する」ことをどのような構成を備えてどのように実行するものであるのかは、不明である。 (3)上記(1)及び(2)で検討したように、本件補正後の請求項1の上記「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するためのOFP手段」なる記載は、発明の詳細な説明及び上記周知技術を参酌してもなお、どのような構成を備えどのように当該「「OFP」機能」を実行するものか不明である。 また、当該請求項1を直接又は間接に引用する本件補正後の請求項2?12も、上記「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するためのOFP手段」なる記載を含むものであるが、当該請求項2?12の当該記載がどのような構成を備えどのように当該「「OFP」機能」を実行するものか不明である。 (4)なお、請求人は、平成30年7月20日提出の手続補正書(方式)により補正した審判請求書の請求の理由において、以下の旨主張している。 「4.理由2(特許法第36条第6項第2号)の反論 ・・・上記ご指摘も理由1と同様に、「OFP手段(44、46)」についてのご指摘でした。上述したように、「OFP手段(44、46)」から符号(44、46)を削除して「OFP手段」に補正した。この補正によって、上記ご指摘にも該当しないと解される。」 そして、理由1は、以下の主張を含むものである。 「・・・審判請求書と同時に提出した手続補正書によって、請求項1の「OFP手段(44、46)」を「OFP手段」に補正した。すなわち、「OFP手段(44、46)」として特定されていた「OFP手段」を、当業者にとって周知な「OFP手段」とした。この補正によって、請求項1の構成要件の一つである、「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するというOFP機能を実行するためのOFP手段」は、審査官殿からのご指摘のような、「給油の推移によって油面とともに上昇するフロート弁がタンクの排気孔を塞ぐことで、タンク内圧が上昇し、それに対応して油面がフィラーチューブを遡り給油ガンによって検知される構成によって実現する」通常のOFP手段である。その一方、「OFP」オリフィス44と「OFP」ディスク46とは、OFP手段に含まれ得る構成要素の一部であるが、給油前から給油時にかけて通常は閉鎖され、給油の推移によってタンク内と中間チャンパ16内のガス圧力が上昇すると開放されるものである(請求項7、8参照)。すなわち、「OFP」オリフィス44と「OFP」ディスク46とは、OFP手段に含まれ得る構成要素の一部として、ガスの流通経路を形成している。 したがって、請求項1に記載された「OFP機能」は、本願明細書の段落「0005」に記載されているように、燃料補給時の過剰補給を防止する機能であって、当業者にとって周知なものにすぎない。」 当該主張について検討する。 上記(1)において検討したとおり、本件明細書【0005】の記載、及び、本件補正後の請求項1及び段落【0011】の記載における「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止する」という記載では、どのようにOFP手段が所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するのか明らかでない。 また、上記(2)ウ及びエにおいて検討したとおり、本件補正後の請求項1における「OFP手段」は、構成として「「OFP」オリフィス(44)」、「「OFP」ディスク46」及び「「OFP」ディスク460」を備えることができるものといえ、「「OFP」ディスク46」が、「中間チャンバ16内の圧力によって中間チャンバ16内のガスが「OFP」ディスク46を持ち上げるくらいになったときに」、「中間チャンバ16内のガス」が「放出される」機能を奏し、「「OFP」ディスク460」も同様の機能を奏することまでは理解できる。 しかしながら、本件明細書には上記「「OFP」ディスク46」又は「「OFP」ディスク460」の奏する機能が「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行する」ことにどのような役割を果たすのか記載されていない。 そして、上記「「OFP」ディスク46」又は「「OFP」ディスク460」の奏する機能は、中間チャンバ16内の圧力が上昇すればチャンバ内のガスが放出されることを含むから、上記周知技術である「過給油の防止」のために「燃料タンクの内圧を上昇させ」るための構成を具備して「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行する」ことを阻害するものといえる。 そうすると、請求人が主張するように「OFP機能」が当業者にとって周知なものであったとしても、構成として「「OFP」オリフィス(44)」、「「OFP」ディスク46」及び「「OFP」ディスク460」を備えることができる本件補正後の請求項1における「OFP手段」がどのような構成を備えどのように当該「OFP機能」を実行するものか不明である。 したがって、本件補正後の請求項1の「所定高さを超えて前記液体タンクに液体が充填されてしまうことを防止するという「OFP」機能を実行するためのOFP手段」なる記載は、発明の詳細な説明及び上記周知技術を参酌してもなお、どのような構成を備えどのように当該「OFP機能」を実行するものか不明であるから、出願人の上記主張は採用できない。 (5)小括 したがって、この出願の発明の詳細な説明には、請求項1?12に係る発明について、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が依然として記載されておらず、発明の詳細な説明の記載が「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と定める特許法施行規則第24条の2の規定に適合するものでないから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 また、本願の請求項1?12の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が、同条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2019-08-01 |
結審通知日 | 2019-08-05 |
審決日 | 2019-08-19 |
出願番号 | 特願2015-533751(P2015-533751) |
審決分類 |
P
1
8・
574-
Z
(B60K)
P 1 8・ 537- Z (B60K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 結城 健太郎 |
特許庁審判長 |
島田 信一 |
特許庁審判官 |
中川 真一 岡▲さき▼ 潤 |
発明の名称 | 液体タンクのための過圧適応性という安全特性を有したベントバルブ |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 実広 信哉 |