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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1358556
審判番号 不服2019-12662  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-09-24 
確定日 2020-01-06 
事件の表示 特願2019- 84313「レーザ加工システム」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月 3日出願公開,特開2019-169719〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年11月16日に出願した特願2010-256217号(以下「原出願」という。)の一部を平成28年4月26日に新たな特許出願とした特願2016-87866号の一部を平成28年11月14日に新たな特許出願とした特願2016-221841号の一部を平成30年4月20日に新たな特許出願とした特願2018-81524号の一部を平成30年6月28日に新たな特許出願とした特願2018-123505号の一部を平成30年10月3日に新たな特許出願とした特願2018-188410号の一部を平成30年11月20日に新たな特許出願とした特願2018-217612号の一部を平成31年4月25日に新たな特許出願としたものであり,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
令和 元年 5月15日:拒絶理由通知(起案日)
令和 元年 6月 5日:意見書
令和 元年 6月20日:拒絶査定(起案日)
令和 元年 9月24日:審判請求

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。
「【請求項1】
チップ強度の向上を図るレーザ加工システムにおいて,
観察用光源から出射された照明光を,コンデンスレンズを経てウェハのデバイス面に照射し前記ウェハのアライメントを行う観察光学部と,
前記ウェハの内部における前記ウェハの厚さの中間位置よりも前記ウェハのデバイス面側の位置であって前記デバイス面から50μmよりも前記ウェハの裏面側の位置に集光点を設定し,前記コンデンスレンズを通して前記ウェハの裏面側から照射してレーザ光を集光させ,前記集光点から延びるクラックが前記ウェハの裏面にまで到達しないレーザ改質領域形成手段と,
前記デバイス面をウェハチャックに真空吸着して前記集光点を含む前記レーザ光が透過した領域を一様に研削除去し,前記集光点から延びた亀裂を残して前記ウェハの最終厚みを50μm以下とするために,前記集光点の深さを正確に制御する前記コンデンスレンズの微動手段と,
を備える,レーザ加工システム。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1に係る発明は,原出願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,その原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

1.国際公開第03/77295号
2.特開2005-175147号公報
3.特開2005-86111号公報
4.特開2007-165706号公報
5.特開2006-12902号公報
6.特開2007-235068号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
(1)引用文献1には,以下の事項が記載されている。
「技術分野
本発明は,半導体デバイスの製造工程等において半導体基板等の基板を分割するために使用される基板の分割方法に関する。」(第1ページ3?5行)

「背景技術
近年の半導体デバイスの小型化に伴い,半導体デバイスの製造工程において,半導体基板が数10μm程度の厚さにまで薄型化されることがある。このように薄型化された半導体基板をブレードにより切断し分割すると,半導体基板が厚い場合に比べてチッピングやクラッキングの発生が増加し,半導体基板を分割することで得られる半導体チップの歩留まりが低下するという問題がある。」(第1ページ第6?11行)

「図14は,実施例1に係るレーザ加工装置の概略構成図である。
・・・
図23Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図23Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。
図24Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しない場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である。
図24Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しない場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。
図25Aは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面の裏面側のエッジ部に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達している場合を説明するための図である.。
図25Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面の裏面側のエッジ部に溶融処理領域が残存する場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図である。」(第4ページ第13行?第5ページ第21行)

「さて,本実施形態において多光子吸収により形成される改質領域としては,次の(1)?(3)がある。
(1)改質領域が1つ又は複数のクラックを含むクラック領域の場合
<途中省略>
(2)改質領域が溶融処理領域の場合
<途中省略>
(3)改質領域が屈折率変化領域の場合」(第8ページ第24行?第13ページ第16行)

「[実施例1]
本発明に係る基板の分割方法の実施例1について説明する。実施例1では,基板1をシリコンウェハ(厚さ350μm,外径4インチ)とし (以下,実施例1では「基板1」を「半導体基板1」という),デバイス製作プロセスにおいて半導体基板1の表面3に複数の機能素子がマトリックス状に形成されたものを対象とする。
まず,半導体基板1の内部に切断起点領域を形成する工程について説明するが,その説明に先立って,切断起点領域を形成する工程において使用されるレーザ加工装置について,図14を参照して説明する。図14はレーザ加工装置100の概略構成図である。
レーザ加工装置100は,レーザ光 Lを発生するレーザ光源101と,レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と,レーザ光 Lの反射機能を有しかつレーザ光 Lの光軸の向きを 90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と,ダイクロイックミラー103で反射されたレーザ光 Lを集光する集光用レンズ105と,集光用レンズ105で集光されたレーザ光 Lが照射される半導体基板1が載置される載置台107と,載置台107を X軸方向に移動させるための X軸ステージ109と,載置台107を X軸方向に直交する Y軸方向に移動させるための Y軸ステージ111と,載置台107を X軸及び Y軸方向に直交する Z軸方向に移動させるための Z軸ステージ113と,これら3つのステージ109,111,113の移動を制御するステージ制御部115とを備える。
Z軸方向は半導体基板1の表面3と直交する方向なので,半導体基板1に入射するレーザ光 Lの焦点深度の方向となる。よって,Z軸ステージ113を Z軸方向に移動させることにより,半導体基板1の内部にレーザ光 Lの集光点 Pを合わせることができる。
<途中省略>
レーザ加工装置100はさらに,載置台107に載置された半導体基板1を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と,ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ119とを備える。ビームスプリッタ119と集光用レンズ105との間にダイクロイックミラー103が配置されている。ビームスプリッタ119は可視光線の約半分を反射し残りの半分を透過する機能を有しかつ可視光線の光軸の向きを90°変えるように配置されている。観察用光源117から発生した可視光線はビームスプリッタ119で約半分が反射され,この反射された可視光線がダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105を透過し,半導体基板1の切断予定ライン5等を含む表面3を照明する。
レーザ加工装置100はさらに,ビームスプリッタ119,ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結像レンズ123を備える。撮像素子121としては例えば C C Dカメラがある。切断予定ライン5等を含む表面3を照明した可視光線の反射光は,集光用レンズ105,ダイクロイックミラー103,ビームスプリッタ119を透過し,結像レンズ123で結像されて撮像素子121で撮像され,撮像データとなる。
レーザ加工装置100はさらに,撮像素子121から出力された撮像データが入力される撮像データ処理部125と,レーザ加工装置100全体を制御する全体制御部127と,モニタ129とを備える。撮像データ処理部125は,撮像データを基にして観察用光源117で発生した可視光の焦点を表面3上に合わせるための焦点データを演算する。この焦点データを基にしてステージ制御部115がZ軸ステージ113を移動制御することにより,可視光の焦点が表面3に合うようにする。よって,撮像データ処理部125はオートフォーカスユニットとして機能する。また,撮像データ処理部125は,撮像データを基にして表面3の拡大画像等の画像データを演算する。この画像データは全体制御部127に送られ,全体制御部で各種処理がなされ,モニタ129に送られる。これにより,モニタ129に拡大画像等が表示される。
全体制御部127には,ステージ制御部115からのデータ,撮像データ処理部125からの画像データ等が入力し,これらのデータも基にしてレーザ光源制御部102,観察用光源117及びステージ制御部115を制御することにより,レーザ加工装置100全体を制御する。よって,全体制御部127はコンピューユニットとして機能する。
続いて,上述したレーザ加工装置100を使用した場合の切断起点領域を形成する工程について,図14及び図15を参照して説明する。図15は,切断起点領域を形成する工程を説明するためのフローチャートである。
<途中省略>
実施例1では,上述した切断起点領域を形成する工程において,半導体基板1の内部の表面3側に近い位置に切断起点領域が形成され,この切断起点領域を起点として半導体基板1の厚さ方向に割れが発生している。
<途中省略>
なお,「半導体基板1の内部の表面3側に近い位置に切断起点領域が形成される」とは,切断起点領域を構成する溶融処理領域等の改質領域が,半導体基板1の厚さ方向における中心位置(厚さの半分の位置)から表面3側に偏倚して形成されることを意味する。
<途中省略>
次に,半導体基板1を研磨する工程について,図17?図21を参照して説明する。図17?21は,半導体基板を研磨する工程を含む各工程を説明するための図である。なお,実施例1では,半導体基板1が厚さ350μmから厚さ50μmに薄型化される。
図17に示すように,上記切断起点領域形成後の半導体基板1の表面3に保護フィルム20が貼り付けられる。保護フィルム20は,半導体基板1の表面3に形成されている機能素子19を保護すると共に,半導体基板1を保持するためのものである。続いて,図18に示すように,半導体基板1の裏面21が平面研削され,この平面研削後に裏面21にケミカルエッチングが施されて,半導体基板1が50μmに薄型化される。これにより,すなわち半導体基板1の裏面21の研磨により,切断起点領域を起点として発生した割れ15に裏面21が達して,機能素子19それぞれを有する半導体チップ25に半導体基板1が分割される。
<途中省略>
また,半導体基板を研磨する工程においては,半導体基板1の裏面21にケミカルエッチングを施すため,半導体基板1を分割することで得られる半導体チップ25の裏面をより平滑化することができる。さらに,切断起点領域を起点として発生した割れ15による半導体基板1の切断面が互いに密着しているため,図22に示すように,当該切断面の裏面側のエッジ部のみが選択的にエッチングされ面取り29が形成される。したがって,半導体基板1を分割することで得られる半導体チップ25の抗折強度を向上させることができる共に,半導体チップ25におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することが可能となる。なお,半導体基板を研磨する工程後の半導体チップ25と溶融処理領域13との関係としては,図23A?図25Bに示すものがある。各図に示す半導体チップ25には,後述するそれぞれの効果が存在するため,種々様々な目的に応じて使い分けることができる。ここで,図23 A,図24 A及び図25 Aは,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達している場合であり,図23 B,図24 B及び図25 Bは,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達していない場合である。図23 B,図24 B及び図25 Bの場合にも,半導体基板を研磨する工程後には,割れ15が半導体基板15の表面3に達する。
図23 A及び図23 Bに示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存する半導体チップ25は,その切断面が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ25の抗折強度が向上する。
図24 A及び図24 Bに示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存しない半導体チップ25は,溶融処理領域13が半導体デバイスに好影響を与えないような場合に有効である。
図25 A及び図25 Bに示すように,溶融処理領域13が切断面の裏面側のエッジ部に残存する半導体チップ25は,当該エッジ部が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ25のエッジ部を面取りした場合と同様に,エッジ部におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することができる。また,図23 A,図24 A及び図25 Aに示すように,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達している場合に比べ,図23 B,図24 B及び図25 Bに示すように半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達していない場合の方が,半導体基板を研磨する工程後に得られる半導体チップ25の切断面の直進性がより向上する。
<途中省略>
[実施例2]
<途中省略>
また,レーザ光 Lの照射は,サファイア基板1の表面3側から行ってもよいし,裏面21側から行ってもよい。
<途中省略>
なお,サファイア基板1に換えてAlN基板やGaAs基板を用いた場合の基板の分割においても,上記同様の効果を奏する。
産業上の利用可能性
以上説明したように,本発明によれば,チッピングやクラッキングの発生を防止して,基板を薄型化し且つ基板を分割することが可能になる。」(第14ページ第19行?第26ページ第14行)

「特許請求の範囲
1.基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記基板の内部に多光子吸収による改質領域を形成し,この改質領域によって,前記基板の切断予定ラインに沿って前記基板のレーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成する工程と,
前記切断起点領域を形成する工程後,前記基板が所定の厚さとなるよう前記基板を研磨する工程と,
を備えることを特徴とする基板の分割方法。
2.前記基板は半導体基板であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の基板の分割方法。
3.前記改質領域は,溶融処理した領域であることを特徴とする請求の範囲第2項記載の基板の分割方法。
4.前記基板は絶縁基板であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の基板の分割方法。
5.前記基板の表面には機能素子が形成されており,
前記基板を研磨する工程では前記基板の裏面を研磨する,
ことを特徴とする請求の範囲第1項?第4項のいずれか1項記載の基板の分割方法。
6.前記基板を研磨する工程は,前記基板の裏面にケミカルエッチングを施す工程を含むことを特徴とする請求の範囲第5項記載の基板の分割方法。」(第27ページ第1?20行)













(2)上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されていることが認められる。
ア 引用文献1に記載された発明は,近年の半導体デバイスの小型化に伴い,半導体デバイスの製造工程において,半導体基板が数10μm程度の厚さにまで薄型化されることがあることを背景技術とするものであること。

イ 引用文献1の実施例1は,引用文献1の特許請求の範囲に記載された発明の実施例であること。

ウ 実施例1では,基板1をシリコンウェハ(厚さ350μm,外径4インチ)とし (以下,実施例1では「基板1」を「半導体基板1」という),デバイス製作プロセスにおいて半導体基板1の表面3に複数の機能素子がマトリックス状に形成されたものを対象とすること。

エ レーザ加工装置100は,半導体基板1の内部に切断起点領域を形成する工程において使用されること。

オ レーザ加工装置100は,レーザ光 Lを発生するレーザ光源101と,レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と,レーザ光 Lの反射機能を有しかつレーザ光 Lの光軸の向きを 90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と,ダイクロイックミラー103で反射されたレーザ光 Lを集光する集光用レンズ105と,集光用レンズ105で集光されたレーザ光 Lが照射される半導体基板1が載置される載置台107と,載置台107を X軸方向に移動させるための X軸ステージ109と,載置台107を X軸方向に直交する Y軸方向に移動させるための Y軸ステージ111と,載置台107を X軸及び Y軸方向に直交する Z軸方向に移動させるための Z軸ステージ113と,これら3つのステージ109,111,113の移動を制御するステージ制御部115とを備え,
Z軸方向は半導体基板1の表面3と直交する方向なので,半導体基板1に入射するレーザ光 Lの焦点深度の方向となることから,Z軸ステージ113を Z軸方向に移動させることにより,半導体基板1の内部にレーザ光 Lの集光点 Pを合わせることができること。

カ レーザ加工装置100はさらに,載置台107に載置された半導体基板1を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と,ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ119とを備え,観察用光源117から発生した可視光線は,半導体基板1の切断予定ライン5等を含む表面3を照明すること。

キ レーザ加工装置100はさらに,ビームスプリッタ119,ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結像レンズ123を備え,切断予定ライン5等を含む表面3を照明した可視光線の反射光は,集光用レンズ105,ダイクロイックミラー103,ビームスプリッタ119を透過し,結像レンズ123で結像されて撮像素子121で撮像され,撮像データとなること。

ク 基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記基板の内部に多光子吸収による改質領域を形成し,この改質領域によって,前記基板の切断予定ラインに沿って前記基板のレーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成する工程として,実施例1では,半導体基板1の内部の表面3側に近い位置に切断起点領域が形成され,この切断起点領域を起点として半導体基板1の厚さ方向に割れが発生しており,ここで,「半導体基板1の内部の表面3側に近い位置に切断起点領域が形成される」とは,切断起点領域を構成する溶融処理領域等の改質領域が,半導体基板1の厚さ方向における中心位置(厚さの半分の位置)から表面3側に偏倚して形成されることを意味すること。

ケ 実施例1では,半導体基板1が厚さ350μmから厚さ50μmに薄型化されること。

コ 上記切断起点領域形成後の半導体基板1の表面3に保護フィルム20を貼り付け,続いて,半導体基板1の裏面21を平面研削し,この平面研削後に裏面21にケミカルエッチングを施して,半導体基板1を50μmに薄型化することにより,すなわち半導体基板1の裏面21の研磨により,切断起点領域を起点として発生した割れ15に裏面21が達して,機能素子19それぞれを有する半導体チップ25に半導体基板1が分割されること。

サ 半導体基板を研磨する工程において,半導体基板1の裏面21にケミカルエッチングを施すと,半導体基板1を分割することで得られる半導体チップ25の裏面をより平滑化することができ,さらに,切断起点領域を起点として発生した割れ15による半導体基板1の切断面が互いに密着しているため,当該切断面の裏面側のエッジ部のみが選択的にエッチングされ面取り29が形成されることから,半導体基板1を分割することで得られる半導体チップ25の抗折強度を向上させることができる共に,半導体チップ25におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することが可能となること。

シ 本実施形態において多光子吸収により形成される改質領域としては,「(1)改質領域が1つ又は複数のクラックを含むクラック領域の場合」,「(2)改質領域が溶融処理領域の場合」,及び「(3)改質領域が屈折率変化領域の場合」があり,さらに,半導体基板を研磨する工程後の半導体チップ25と溶融処理領域13との関係としては,それぞれの効果が存在するため,種々様々な目的に応じて使い分けることができること。

ス 図24Bは,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの切断面内に溶融処理領域が残存しない場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れが表面に達していない場合を説明するための図であって,図24Bに示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存しない半導体チップ25は,溶融処理領域13が半導体デバイスに好影響を与えないような場合に有効であること。

セ 図24Bから,実施例1に係る半導体基板の研磨において,溶融処理領域13を含む領域を一様に研削除去すること,及び,当該研磨する工程の後に,前記溶融処理領域13から延びた割れ15が研磨後の半導体基板に残っていることを見て取ることができること。

ソ レーザ光 Lの照射は,サファイア基板1の表面3側から行ってもよいし,裏面21側から行ってもよく,サファイア基板1に換えてAlN基板やGaAs基板を用いた場合の基板の分割においても,上記同様の効果を奏すること。

(3)引用発明
したがって,引用文献1には,引用文献1の実施例1において用いられるレーザ加工装置100として,以下の発明が記載されている。(以下「引用発明」という。)
「レーザ光 Lを発生するレーザ光源101と,レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と,レーザ光 Lの反射機能を有しかつレーザ光 Lの光軸の向きを 90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と,ダイクロイックミラー103で反射されたレーザ光 Lを集光する集光用レンズ105と,
集光用レンズ105で集光されたレーザ光 Lが照射されるシリコンウェハが載置される載置台107と,
載置台107を X軸方向に移動させるための X軸ステージ109と,載置台107を X軸方向に直交する Y軸方向に移動させるための Y軸ステージ111と,載置台107を X軸及び Y軸方向に直交する Z軸方向に移動させるための Z軸ステージ113と,これら3つのステージ109,111,113の移動を制御するステージ制御部115と,
載置台107に載置されたシリコンウェハの切断予定ライン5等を含む表面3を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と,ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ119と,ビームスプリッタ119,ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結像レンズ123と,
を備えた,表面3に複数の機能素子がマトリックス状に形成されたシリコンウェハ(厚さ350μm,外径4インチ)の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記基板の内部に多光子吸収による改質領域を形成し,この改質領域によって,前記基板の切断予定ラインに沿って前記基板のレーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成する工程切断起点領域を形成する工程において使用されるレーザ加工装置であって,
前記切断起点領域を形成する工程において,シリコンウェハの内部の表面3側に近い位置に切断起点領域が形成され,この切断起点領域を起点としてシリコンウェハの厚さ方向に割れが発生しており,ここで,シリコンウェハの内部の表面3側に近い位置に切断起点領域が形成されるとは,切断起点領域を構成する溶融処理領域等の改質領域が,シリコンウェハの厚さ方向における中心位置(厚さの半分の位置)から表面3側に偏倚して形成されることを意味するものであり,
上記切断起点領域形成後のシリコンウェハの表面3に保護フィルム20を貼り付けた後のシリコンウェハの裏面21を研磨する工程の後に,溶融処理領域13から延びた割れ15が前記研磨後のシリコンウェハに残るように,溶融処理領域13を含む領域を一様に平面研削除去し,この平面研削後に裏面21にケミカルエッチングを施して,シリコンウェハを50μmに薄型化することにより,切断起点領域を起点として発生した割れ15は裏面21に達して,機能素子19それぞれを有する半導体チップ25にシリコンウェハが分割されるものであって,
前記ケミカルエッチングは,シリコンウェハを分割することで得られる半導体チップ25の裏面をより平滑化することができ,さらに,切断起点領域を起点として発生した割れ15によるシリコンウェハの切断面が互いに密着しているため,当該切断面の裏面側のエッジ部のみが選択的にエッチングされ面取り29が形成されることから,シリコンウェハを分割することで得られる半導体チップ25の抗折強度を向上させることができる共に,半導体チップ25におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することを可能とするものであり,
さらに,溶融処理領域13が切断面内に残存しないことで,溶融処理領域13が半導体デバイスに好ましくない影響を与えない,
レーザ加工装置。」

2 引用文献2の記載
(1)引用文献2には,以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体装置や電子部品等のチップを製造するダイシング装置及びダイシング方法に関するもので,特にレーザー光を利用したダイシング装置及びダイシング方法に関するものである。」

「【0015】
ウェーハ移動部11は,レーザーダイシング装置10の本体ベース16に設けられたXYZθテーブル12,XYZθテーブル12に載置されダイシングシートSを介してフレームFにマウントされたウェーハWを吸着保持する吸着ステージ13等からなっている。このウェーハ移動部11によって,ウェーハWが図のXYZθ方向に精密に移動される。
【0016】
レーザー光学部20は,レーザー発振器21,コリメートレンズ22,ハーフミラー23,コンデンスレンズ(集光レンズ)24,レーザー光をウェーハWに対して平行に微小移動させる駆動手段25等で構成されている。
【0017】
また,観察光学部30は,観察用光源31,コリメートレンズ32,ハーフミラー33,コンデンスレンズ34,観察手段としてのCCDカメラ35,画像処理装置38,テレビモニタ36等で構成されている。
【0018】
レーザー光学部20では,レーザー発振器21から発振されたレーザー光はコリメートレンズ22,ハーフミラー23,コンデンスレンズ24等の光学系を経てウェーハWの内部に集光される。ここでは,集光点におけるピークパワー密度が1×10^(8)(W/cm^(2) )以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で,ダイシングシートに対して透過性を有するレーザー光が用いられる。集光点のZ方向位置は,後出のZ微動手段27によるコンデンスレンズ24のZ方向微動によって調整される。」

「【0020】
この撮像データは画像処理部38に入力され,ウェーハWのアライメントに用いられるとともに,制御部50を経てテレビモニタ36に写し出される。」

「【0025】
図2は,駆動手段25の細部を説明する概念図である。駆動手段25は,コンデンスレンズ24を保持するレンズフレーム26,レンズフレーム26の上面に取り付けられレンズフレーム26を図のZ方向に微小移動させるZ微動手段27,Z微動手段27を保持する保持フレーム28,保持フレーム28をウェーハWと平行に微小移動させるリニア微動手段であるPZ1,PZ2,及び後出のPZ3,PZ4,PZ5等からなっている。
【0026】
Z微動手段27には電圧印加によって伸縮する圧電素子が用いられている。この圧電素子の伸縮によってコンデンスレンズ24がZ方向に微小送りされて,レーザー光の集光点のZ方向位置が精密に位置決めされるようになっている。」

(2)上記記載から,引用文献2には,以下の技術が記載されていると認められる。
ア 半導体装置や電子部品等のチップを製造する,レーザー光を利用したダイシング装置において,ウェーハWを,レーザーダイシング装置10の本体ベース16に設けられたXYZθテーブル12によるXYZθ方向への精密に移動させるのに加えて,コンデンスレンズ24のZ微動手段27によるZ方向微動によって集光点のZ方向位置を調整すること。

イ 半導体装置や電子部品等のチップを製造する,レーザー光を利用したダイシング装置において,撮像データが,ウェーハWのアライメントに用いられること。

3 引用文献3の記載
(1)引用文献3には,以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
表面に機能素子が形成された半導体基板を切断予定ラインに沿って切断する半導体基板の切断方法であって,
前記半導体基板の裏面を研磨して前記半導体基板を第1の厚さにする工程と,
前記半導体基板を第1の厚さにした後に,前記半導体基板の裏面をレーザ光入射面として前記半導体基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することで改質領域を形成し,その改質領域によって,前記切断予定ラインに沿って前記レーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成する工程と,
前記切断起点領域を形成した後に,前記半導体基板の裏面を研磨して前記半導体基板を第2の厚さにする工程とを備えることを特徴とする半導体基板の切断方法。」

「【0041】
切断予定ライン5を設定した後,図14(b)に示すように,裏面17をレーザ光入射面としてシリコンウェハ11の内部に集光点Pを合わせて,上述した多光子吸収が生じる条件でレーザ光Lを照射し,載置台20の移動により切断予定ライン5に沿って集光点Pを相対移動させる。これにより,図14(c)に示すように,シリコンウェハ11の内部には,切断予定ライン5に沿って溶融処理領域13により切断起点領域8が形成される。
【0042】
続いて,図15(a)に示すように,シリコンウェハ11及び保護フィルム18が固定されたガラスプレート19を載置台20から取り外し,図15(b)に示すように,厚さ150μm(第1の厚さ)のシリコンウェハ11の裏面17を平面研削して,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する。この切断起点領域8形成後の裏面17の平面研削においては,平面研削開始後に切断起点領域8を起点として発生した割れ21がシリコンウェハ11の表面3と裏面17とに到達するため,割れ21が裏面17に到達した状態で裏面17を更に平面研削していくことになる。そして,シリコンウェハ11が厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化された際には,シリコンウェハ11が切断予定ライン5に沿って精度良く切断される。これにより,機能素子15を1つ有した半導体チップ22を複数得ることができる。」

「【0047】
以上のようなシリコンウェハ11の切断方法においては,表面3に機能素子15が形成された厚さ350μmのシリコンウェハ11を加工対象物とし,その裏面17を研磨してシリコンウェハ11を厚さ150μm(第1の厚さ)に薄型化する。その後,裏面17をレーザ光入射面としてシリコンウェハ11の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射する。これにより,シリコンウェハ11の内部で多光子吸収を生じさせ,切断予定ライン5に沿ってシリコンウェハ11の内部に溶融処理領域13による切断起点領域8を形成する。このとき,シリコンウェハ11は厚さ150μm(第1の厚さ)に薄型化されているため,薄型化されなかった場合に比べ,シリコンウェハ11内部の所望の位置に精度良く切断起点領域8を形成することができる。また,シリコンウェハ11の裏面17をレーザ光入射面とするため,表面3に形成された機能素子15によりレーザ光の入射が妨げられるようなこともない。」

(2)上記記載から,引用文献3には,以下の技術が記載されていると認められる。
ア 半導体基板の裏面をレーザ光入射面として前記半導体基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することで改質領域を形成し,その改質領域によって,前記切断予定ラインに沿って前記レーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成し,続いて,前記半導体基板の裏面を平面研削する方法が,表面に機能素子が形成された半導体基板を切断予定ラインに沿って切断する半導体基板の切断方法において行われていたこと。

イ シリコンウェハ11の裏面17をレーザ光入射面とすると,表面3に形成された機能素子15によりレーザ光の入射が妨げられるようなことがないこと。

4 引用文献4の記載
(1)引用文献4には,以下の事項が記載されている。
「【0028】
次に,半導体ウエハの裏面(回路形成面と反対側の面,第2主面)を研削して,半導体ウエハの厚さを所定の厚さ,例えば100μm未満,80μm未満または60μm未満とする(図1のバックグラインド工程P4)。このバックグラインドでは,以下に説明する粗研削および仕上げ研削を順次行う。
【0029】
まず,図2に示すように,半導体ウエハ1の裏面を粗研削する。半導体ウエハ1をグラインダ装置に搬送し,半導体ウエハ1の回路形成面をチャックテーブル2に真空吸着した後,半導体ウエハ1の裏面に回転する第1研削材3(例えば研磨微粉の粒度#320から#360:研磨または研削砥粒の径を表す粒度#は砥石等を製造する際のダイヤモンド砥石をふるいにかける際のふるいの目の大きさに対応する。言い換えると,主要な砥粒の径に対応する。例を示すと,#280の粒径はほぼ100μm程度,#360の粒径はほぼ40から60μm程度,#2000の粒径はほぼ4から6μm程度,#4000の粒径はほぼ2から4μm程度,#8000の粒径はほぼ0.2μm程度である。本願では,これに準拠して,砥粒の径を記載する。なお,#320以下に関してはJIS規格がある。)を押し当てて粗研削することにより,半導体ウエハ1の厚さを所定の厚さ(第2の厚さ)まで減少させる。第1研削材3は,固定砥粒を有する研削材であり,この粗研削により半導体ウエハ1は,例えば600から700μm程度研削される。また,この粗研削により残る半導体ウエハ1の第2の厚さは,例えば140μm未満が適切な範囲と考えられる(他の条件によってはこの範囲に限定されないことはもとよりである)。また,量産に適した範囲としては120μm未満が考えられるが,さらに100μm未満の範囲が最も好適と考えられる。半導体ウエハ1の回路形成面には粘着テープBT1が貼り付けてあるので,集積回路が破壊されることはない。なお,上記第1研削材3の粒度範囲は一般的なプロセスでは,#100以上#700未満が適切と考えられる。
【0030】
続いて,半導体ウエハ1の裏面を仕上げ研削する。ここでは前記図2と同様のグラインダ装置を用いて半導体ウエハ1の回路形成面をチャックテーブルに真空吸着した後,半導体ウエハ1の裏面に回転する第2研削材(例えば研磨微粉の粒度#1500から#2000)を押し当てて仕上げ研削することにより,上記粗研削時に生じた半導体ウエハ1の裏面の歪みを除去すると同時に,半導体ウエハ1の厚さを所定の厚さ(第3の厚さ)まで減少させる。第2研削材は,固定砥粒を有する研削材であり,この仕上げ研削により半導体ウエハ1は,例えば25から40μm程度研削される。また,この仕上げ研削により残る半導体ウエハ1の第3の厚さは,例えば100μm未満が適切な範囲と考えられる(他の条件によってはこの範囲に限定されないことはもとよりである)。また,量産に適した範囲としては80μm未満が考えられるが,さらに60μm未満の範囲が最も好適と考えられる。」

(2)上記記載から,引用文献4には,以下の技術が記載されていると認められる。
半導体ウエハ1の裏面を研削する際に,グラインダ装置を用いて半導体ウエハ1の回路形成面をチャックテーブルに真空吸着した後,半導体ウエハ1の裏面に回転する研削材を押し当てて所定の厚さまで減少させることが行われていたこと。

5 引用文献5の記載
(1)引用文献5には,以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
表面に格子状に形成された分割予定ラインによって区画された領域に機能素子が形成されたウエーハを,分割予定ラインに沿って個々のチップに分割するウエーハの加工方法であって,
ウエーハの裏面側から分割予定ラインに沿ってウエーハに対して透過性を有するレーザー光線を照射し,ウエーハの表面からチップの仕上がり厚さに相当する位置より裏面側に変質層を形成する変質層形成工程と,
分割予定ラインに沿って変質層が形成されたウエーハに外力を付与し,ウエーハを分割予定ラインに沿って個々のチップに分割する分割工程と,
個々のチップに分割されたウエーハの裏面を研削し,チップの仕上がり厚さに形成する裏面研削工程と,を含む,
ことを特徴とするウエーハの加工方法。」

「【0016】
次に,研磨加工された半導体ウエーハ2の裏面2b側からウエーハに対して透過性を有するパルスレーザー光線を分割予定ラインに沿って照射し,半導体ウエーハ2の内部に分割予定ラインに沿って表面2aからチップの仕上がり厚さに相当する位置より裏面2a側に変質層を形成する変質層形成工程を実施する。この変質層形成工程は,図4乃至6に示すレーザー加工装置5を用いて実施する。図4乃至図6に示すレーザー加工装置5は,被加工物を保持するチャックテーブル51と,該チャックテーブル51上に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52と,チャックテーブル51上に保持された被加工物を撮像する撮像手段53を具備している。チャックテーブル51は,被加工物を吸引保持するように構成されており,図示しない移動機構によって図4において矢印Xで示す加工送り方向および矢印Yで示す割り出し送り方向に移動せしめられるようになっている。」

「【0033】
上述したように分割工程を実施したならば,個々のチップに分割されたウエーハの裏面を研削し,チップの仕上がり厚さに形成する裏面研削工程を実施する。この裏面研削工程は,図14に示す研削装置8によって実施する。即ち,研削装置8のチャックテーブル81上に個々の半導体チップ20に分割された半導体ウエーハ2の保護テープ3側を載置し(従って,半導体ウエーハ2は裏面2bが上側となる),図示しない吸引手段によってチャックテーブル81上に半導体ウエーハ2を吸着保持する。そして,チャックテーブル81を例えば300rpmで回転し,研削砥石82を備えた研削工具83を例えば6000rpmで回転しつつ図14において下方に所定の速度で研削送りする。この研削送りは,図15に示すように半導体チップ20の仕上がり厚さSに達するまで実施する。この結果,半導体ウエーハ2に形成された変質層210は研削されて除去され,半導体ウエーハ2は半導体チップ20の仕上がり厚さSに形成される。従って,図16に示すように半導体チップ20の側面には上記変質層形成工程によって形成された変質層が残留しないため,半導体チップ20の抗折強度が低下することはなく,1000MPa以上の抗折強度を確保することができる。
以上のようにして裏面研削工程が実施されたならば,個々の半導体チップ20に分割された半導体ウエーハ2は,半導体チップ20をピックアップするピックアップ工程に搬送される。」

(2)上記記載から,引用文献5には,以下の技術が記載されていると認められる。
ア 半導体ウエーハ2の裏面2b側からウエーハに対して透過性を有するパルスレーザー光線を分割予定ラインに沿って照射し,半導体ウエーハ2の内部に分割予定ラインに沿って表面2aからチップの仕上がり厚さに相当する位置より裏面2a側に変質層を形成する変質層形成工程を実施すること。

イ 半導体チップ20の側面に変質層形成工程によって形成された変質層が残留しないように,半導体ウエーハ2に形成された変質層210を研削して除去することで,半導体チップ20の抗折強度が低下することがなくなり,抗折強度を確保することができること。

6 引用文献6の記載
(1)引用文献6には,以下の事項が記載されている。
「【0100】
先ず,平面加工装置10Aを使用して,ウェーハWの裏面を加工し(研削及び研磨),厚さT2まで加工する(ステップS10)。すなわち,第1の機械加工ステップにおいて,ウェーハの最終加工厚さT1より50?500μm厚い厚さT2までウェーハの裏面を加工する。これにより,ダイシング後のウェーハWの機械的強度が大幅に向上する。したがって,ダイシング後に各工程に使用される装置間を搬送される際,多少の衝撃や振動を受けても,内部の改質領域Kを起点として割段されてしまうような不具合は激減又は皆無となる。
【0101】
この厚さT2は,最終加工厚さT1より100?300μm厚いことがより好ましく,最終加工厚さT1より150?250μm厚いことが更に好ましい。
【0102】
図13は,表面(下面)に既述の保護用シート21が貼着されたウェーハWの断面図である。同図において,ウェーハWは,裏面が加工された後に最終加工厚さT1より厚い厚さT2になっている。
【0103】
次いで,レーザーダイシング装置10B使用して,ウェーハWの裏面(上面)よりレーザー光Lを照射して,ウェーハWの内部へ改質領域K,K…を形成する(ステップS20)。この改質領域K,K…のウェーハWの厚さ方向の位置は,ウェーハの表面(下面)より厚さ方向にT1までの距離の位置であることが好ましい。このような厚さ方向に改質領域が形成されれば,ウェーハの割断が容易となる。
【0104】
次いで,平面加工装置10Cを使用して,ウェーハWの裏面を加工し(研削及び研磨),最終加工厚さT1まで加工する(ステップS30)。」

(2)上記記載から,引用文献6には,以下の技術が記載されていると認められる。
レーザーダイシング装置10B使用して,ウェーハWの裏面(上面)よりレーザー光Lを照射して,ウェーハWの内部へ改質領域K,K…を形成し,次いで,平面加工装置10Cを使用して,ウェーハWの裏面を加工し(研削及び研磨),最終加工厚さT1まで加工すること。

第5 対比
1 本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
(1)引用発明の「レーザ加工装置」は,本願発明の「レーザ加工システム」に相当する。

(2)引用発明の「観察用光源117」,「載置台107に載置されたシリコンウェハの切断予定ライン5等を含む表面3を可視光線により照明するために可視光線」,「集光用レンズ105」,「シリコンウェハ」,及び「『複数の機能素子がマトリックス状に形成された』『表面3』」は,それぞれ,本願発明の「観察用光源」,「照明光」,「コンデンスレンズ」,「ウェハ」,及び「デバイス面」に相当する。
したがって,引用発明の「載置台107に載置されたシリコンウェハの切断予定ライン5等を含む表面3を可視光線により照明するために可視光線を発生する観察用光源117と,ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された可視光用のビームスプリッタ119と,ビームスプリッタ119,ダイクロイックミラー103及び集光用レンズ105と同じ光軸上に配置された撮像素子121及び結像レンズ123」を含む構造は,本願発明の「観察用光源から出射された照明光を,コンデンスレンズを経てウェハのデバイス面に照射する観察光学部」に相当する。

(3)引用発明の,「集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記基板の内部に多光子吸収による改質領域を形成し」との構成から,引用発明の「改質領域」は,「集光点」の位置に形成されることが理解される。
そして,引用発明の「切断起点領域を構成する溶融処理領域等の改質領域」は,「シリコンウェハの厚さ方向における中心位置(厚さの半分の位置)から表面3側に偏倚して形成される」のであるから,引用発明の「集光用レンズ105」は,その集光点を,シリコンウェハの内部における前記シリコンウェハの厚さの中間位置よりも前記シリコンウェハの表面3側の位置に設定している。
さらに,引用発明は,「シリコンウェハを50μmに薄型化する」ものであって,かつ,「溶融処理領域13が切断面内に残存しない」のであるから,当該溶融処理領域を形成する際の集光点が,シリコンウェハの表面から50μmよりも前記シリコンウェハの裏面側の位置に設定されていることは明らかである。
しかも,引用発明は,「シリコンウェハの裏面21を研磨する工程の後に,溶融処理領域13から延びた割れ15が前記研磨後のシリコンウェハに残るように,溶融処理領域13を含む領域を一様に平面研削除去し,この平面研削後に裏面21にケミカルエッチングを施して,シリコンウェハを50μmに薄型化することにより,切断起点領域を起点として発生した割れ15は裏面21に達」するものであるから,シリコンウェハの裏面21を研磨する工程の「前」,すなわち,「集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記基板の内部に多光子吸収による改質領域を形成し」た時点においては,切断起点領域を起点として発生した割れ15は裏面21に達していない。
上記を総合すると,引用発明の「レーザ光 Lを発生するレーザ光源101と,レーザ光Lの出力やパルス幅等を調節するためにレーザ光源101を制御するレーザ光源制御部102と,レーザ光 Lの反射機能を有しかつレーザ光 Lの光軸の向きを 90°変えるように配置されたダイクロイックミラー103と,ダイクロイックミラー103で反射されたレーザ光 Lを集光する集光用レンズ105と」を含む構造と,
本願発明の「前記ウェハの内部における前記ウェハの厚さの中間位置よりも前記ウェハのデバイス面側の位置であって前記デバイス面から50μmよりも前記ウェハの裏面側の位置に集光点を設定し,前記コンデンスレンズを通して前記ウェハの裏面側から照射してレーザ光を集光させ,前記集光点から延びるクラックが前記ウェハの裏面にまで到達しないレーザ改質領域形成手段」とは,
「前記ウェハの内部における前記ウェハの厚さの中間位置よりも前記ウェハのデバイス面側の位置であって前記デバイス面から50μmよりも前記ウェハの裏面側の位置に集光点を設定し,前記コンデンスレンズを通して前記ウェハの一方の面側から照射してレーザ光を集光させ,前記集光点から延びるクラックが前記ウェハの裏面にまで到達しないレーザ改質領域形成手段」である点で一致すると認められる。

(4)引用発明の「Z軸ステージ113」は,シリコンウェハの内部に集光点を合わせてレーザ光を照射して改質領域を形成するレーザ加工装置の「集光用レンズ105で集光されたレーザ光 Lが照射されるシリコンウェハが載置される載置台107」をZ軸方向に移動させるためのものであるから,集光点の深さを正確に制御する微動手段といえる。
そして,引用発明は,「切断起点領域形成後のシリコンウェハの表面3に保護フィルム20を貼り付けた後のシリコンウェハの裏面21を研磨する工程の後に,溶融処理領域13から延びた割れ15が前記研磨後のシリコンウェハに残るように,溶融処理領域13を含む領域を一様に平面研削除去し,この平面研削後に裏面21にケミカルエッチングを施して,シリコンウェハを50μmに薄型化する」ものであるから,集光点の深さに係る前記制御は,集光点を含む領域を一様に研削除去し,前記集光点から延びた割れを残してシリコンウェハの最終厚みを50μm以下とするために行われているといえる。
上記を総合すると,引用発明の「Z軸ステージ113」と,
本願発明の「前記デバイス面をウェハチャックに真空吸着して前記集光点を含む前記レーザ光が透過した領域を一様に研削除去し,前記集光点から延びた亀裂を残して前記ウェハの最終厚みを50μm以下とするために,前記集光点の深さを正確に制御する前記コンデンスレンズの微動手段」とは,
「集光点を含む領域を一様に研削除去し,前記集光点から延びた亀裂を残して前記ウェハの最終厚みを50μm以下とするために,前記集光点の深さを正確に制御する微動手段」である点で一致すると認められる。

2 そうすると,本願発明と引用発明は,以下の構成において一致する。
「レーザ加工システムにおいて,
観察用光源から出射された照明光を,コンデンスレンズを経てウェハのデバイス面に照射する観察光学部と,
前記ウェハの内部における前記ウェハの厚さの中間位置よりも前記ウェハのデバイス面側の位置であって前記デバイス面から50μmよりも前記ウェハの裏面側の位置に集光点を設定し,前記コンデンスレンズを通して前記ウェハの一方の面側から照射してレーザ光を集光させ,前記集光点から延びるクラックが前記ウェハの裏面にまで到達しないレーザ改質領域形成手段と,
前記集光点を含む領域を一様に研削除去し,前記集光点から延びた亀裂を残して前記ウェハの最終厚みを50μm以下とするために,前記集光点の深さを正確に制御する微動手段と,
を備える,レーザ加工システム。」

3 他方,本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(1)相違点1
本願発明は,「チップ強度の向上を図る」レーザ加工システムであるのに対して,引用発明は,「シリコンウェハを分割することで得られる半導体チップ25の抗折強度を向上させることができる共に,半導体チップ25におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することを可能とするものであり,さらに,溶融処理領域13が切断面内に残存しないことで,溶融処理領域13が半導体デバイスに好ましくない影響を与えない」レーザ加工装置である点。

(2)相違点2
観察光学部が,本願発明では,「ウェハのアライメントを行う」ものであるのに対して,引用発明では,そのような特定がされていない点。

(3)相違点3
レーザ光を,本願発明では,「ウェハの裏面側から」照射し,その後の研削除去を,「レーザ光が透過した領域」に対して行うのに対して,引用発明では,そのような特定がされていない点。

(4)相違点4
研削を,本願発明では,「デバイス面をウェハチャックに真空吸着して」行うのに対して,引用発明では,そのような特定がされていない点。

(5)相違点5
集光点の深さの制御を,本願発明では,「コンデンスレンズの微動手段」によって行っているのに対して,引用発明では,「Z軸ステージ113」によって行っている点。

第6 判断
1 相違点1について
引用発明は,「シリコンウェハを分割することで得られる半導体チップ25の抗折強度を向上させることができる共に,半導体チップ25におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することを可能とするもの」である。そして,「抗折強度」の向上,あるいは,「クラッキング」の発生の防止は,いずれも,本願発明の「チップ強度の向上」に含まれる概念である。したがって,引用発明の「レーザ加工装置」は,「チップ強度の向上」を図るという機能を備えていると認められるから,相違点1は実質的なものではない。

2 相違点2について
上記第4の2(2)イのとおり,引用文献2に,半導体装置や電子部品等のチップを製造する,レーザー光を利用したダイシング装置において,撮像データが,ウェーハWのアライメントに用いられていることに照らして,引用発明において,観察光学部を,「ウェハのアライメントを行う」ものとすること,すなわち,相違点2について,本願発明の構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

3 相違点3について
(1)上記第4の1(2)ソのとおり,引用発明が記載されている引用文献1には,レーザ光 Lの照射は,サファイア基板1の表面3側から行ってもよいし,裏面21側から行ってもよく,サファイア基板1に換えてAlN基板やGaAs基板を用いた場合の基板の分割においても,上記同様の効果を奏することが記載されており,当該記載は,引用発明において,レーザ光を,ウェハの表面側から行ってもよいし,裏面側から行ってもよいことを示唆しているものといえる。

(2)さらに,上記第4の3(2)アのとおり,引用文献3に,半導体基板の裏面をレーザ光入射面として前記半導体基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することで改質領域を形成し,その改質領域によって,前記切断予定ラインに沿って前記レーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成し,続いて,前記半導体基板の裏面を平面研削する方法が,表面に機能素子が形成された半導体基板を切断予定ラインに沿って切断する半導体基板の切断方法において行われていたことが記載されており,
上記第4の5(2)アのとおり,引用文献5に,半導体ウエーハ2の裏面2b側からウエーハに対して透過性を有するパルスレーザー光線を分割予定ラインに沿って照射し,半導体ウエーハ2の内部に分割予定ラインに沿って表面2aからチップの仕上がり厚さに相当する位置より裏面2a側に変質層を形成する変質層形成工程を実施することが記載されており,
上記第4の6(2)のとおり,引用文献6に,レーザーダイシング装置10B使用して,ウェーハWの裏面(上面)よりレーザー光Lを照射して,ウェーハWの内部へ改質領域K,K…を形成し,次いで,平面加工装置10Cを使用して,ウェーハWの裏面を加工し(研削及び研磨),最終加工厚さT1まで加工することが記載されており,
下記の周知例1及び2にも,レーザ光を,ウェハの裏面側から照射することが記載されていることに照らして,レーザ光を,ウェハの裏面側から照射することは周知の技術であると認められる。

ア 周知例1:特開2009-290052号公報
「【請求項2】
基板の表面に格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されているとともに該ストリートの表面に膜が被覆されているウエーハを,該ストリートに沿って個々のデバイスに分割するウエーハの分割方法であって,
該基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハの裏面側から該基板の内部に集光点を位置付けて該ストリートに沿って照射し,該基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程と,
該変質層形成工程が実施されたウエーハを構成する該基板の裏面を研削し,ウエーハを所定の厚さに形成する裏面研削工程と,
該裏面研削工程が実施されたウエーハの裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程と,
該膜に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側から該ストリートに沿って該膜に照射してレーザー加工溝を形成し,該膜を該ストリートに沿って分断する膜分断工程と,
環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面にウエーハの裏面を貼着した状態で該ダイシングテープを拡張することによりウエーハに外力を付与し,ウエーハを該ストリートに沿って破断するウエーハ破断工程と,を含む,
ことを特徴とするウエーハの分割方法。」

イ 周知例2:特開2005-166728号公報
「【請求項1】
(A)ウエハー基板の一方の面上に窒化物系半導体からなる積層構造部を形成し,分断後に素子となる部位に個々の素子に必要な構造を付与する工程と,
(B)ウエハー基板の一方の面側または他方の面側から,該ウエハー基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,下記(C)の工程の後もウエハー基板として残存する部分の内部に,分断に利用可能な改質領域を分断予定ラインに沿って形成する工程と,
(C)上記(A),(B)の工程よりも後に,ウエハー基板の他方の面を研削および/または研磨してその厚さを薄くする工程とを,
有することを特徴とする,窒化物系半導体素子の製造方法。」

「【0029】
上記(B)の工程では,ウエハー基板のどちらかの面側からレーザ光を照射すればよいが,集光点の深さ(照射側表面からの深さ)を深くする程,照射側表面を通過するレーザ光のビームの外径が大きくなる。従って,既にGaN系結晶層が形成されている場合には,GaN系結晶層を通過するレーザ光のビーム径をより小さくすることや,後述の分断シロの幅を狭くすることを考慮して,図2(a)に示すように,ウエハー基板1の裏面1b側からレーザ光を照射することが好ましい。」

(3)しかも,上記第4の3(2)イのとおり,引用文献3に,シリコンウェハ11の裏面17をレーザ光入射面とすると,表面3に形成された機能素子15によりレーザ光の入射が妨げられるようなことがないことが記載されており,レーザ光を,ウェハの裏面側から照射する動機も知られている。

(4)してみれば,引用発明において,レーザ光を,「ウェハの裏面側から」照射することは,当業者が容易になし得たことである。そして,レーザ光を「ウェハの裏面側から」照射した場合に,その後の研削除去が,「レーザ光が透過した領域」に対して行われることは,その位置関係から必然である。すなわち,相違点3について,本願発明の構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

4 相違点4について
上記第4の4(2)のとおり,引用文献4に,半導体ウエハ1の裏面を研削する際に,グラインダ装置を用いて半導体ウエハ1の回路形成面をチャックテーブルに真空吸着した後,半導体ウエハ1の裏面に回転する研削材を押し当てて所定の厚さまで減少させる技術が記載されていることに照らして,引用発明において,研削を「デバイス面をウェハチャックに真空吸着して」行うこと,すなわち,相違点4について,本願発明の構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

5 相違点5について
上記第4の2(2)アのとおり,引用文献2に,半導体装置や電子部品等のチップを製造する,レーザー光を利用したダイシング装置において,ウェーハWを,レーザーダイシング装置10の本体ベース16に設けられたXYZθテーブル12によるXYZθ方向への精密に移動させるのに加えて,コンデンスレンズ24のZ微動手段27によるZ方向微動によって集光点のZ方向位置を調整する技術が記載されていることに照らして,引用発明において,集光点の深さの制御を,「Z軸ステージ113」に加えて,「コンデンスレンズの微動手段」で行うこと,すなわち,相違点5について,本願発明の構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

6 効果について
上記相違点1ないし5を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献1ないし6に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

7 請求人の主張について
請求人は,審判請求書において,「(キ)しかしながら,令和1年6月5日付け意見書でも主張したとおり,引用文献1の『図23A及び図23Bに示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存する半導体チップ25は,その切断面が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ25の抗折強度が向上する。』(第22頁第4行-第5行)との記載,及び引用文献3の『図19(a),(b)に示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存する半導体チップ22は,その切断面が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ22の抗折強度が向上する』(段落[0050])との記載に照らしてみれば,かかる引用文献1においては,チップの抗折強度を向上させるためには,チップの切断面にレーザ光が透過した部分が残る方が望ましいものとされており,これとは相反する本願発明1の構成(レーザ光が透過した部分をすべて除去する構成)を採用することについては動機付けを欠くばかりでなく,阻害要因が存在するものであることから,審査官の上記(2)アの(カ)の主張は根拠がない。」と主張する。
しかしながら,審判請求人の前記主張は,以下の理由によって採用することはできない。
すなわち,上記第4の1(2)シのとおり,引用文献1には,本実施形態において多光子吸収により形成される改質領域としては,「(1)改質領域が1つ又は複数のクラックを含むクラック領域の場合」,「(2)改質領域が溶融処理領域の場合」,及び「(3)改質領域が屈折率変化領域の場合」があり,さらに,半導体基板を研磨する工程後の半導体チップ25と溶融処理領域13との関係としては,それぞれの効果が存在するため,種々様々な目的に応じて使い分けることができることが記載されている。
そうすると,引用文献1における,「図23A及び図23Bに示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存する半導体チップ25は,その切断面が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ25の抗折強度が向上する。」との記載は,多光子吸収により形成される改質領域が,溶融処理領域の場合において,前記多光子吸収により形成された改質領域である溶融処理領域が,半導体チップ25の抗折強度に与える影響を説明するものにすぎないと理解される。そして,引用文献1には,多光子吸収により形成された改質領域を除く「レーザ光が透過した部分」が,半導体チップ25の抗折強度に与える影響については何ら記載されていない。
したがって,請求人の「かかる引用文献1においては,チップの抗折強度を向上させるためには,チップの切断面にレーザ光が透過した部分が残る方が望ましいものとされており」との主張は,引用文献1の記載に基づかないものであるから採用することはできない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,その原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-08 
結審通知日 2019-11-11 
審決日 2019-11-26 
出願番号 特願2019-84313(P2019-84313)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 剛史  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 西出 隆二
加藤 浩一
発明の名称 レーザ加工システム  
代理人 松浦 憲三  

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