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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C01B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
管理番号 1358623
異議申立番号 異議2018-700032  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-15 
確定日 2019-11-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6165965号発明「シーメンス炉用のガス分配器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6165965号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正することを認める。 特許第6165965号の請求項1?5、7?9、11?13に係る特許を維持する。 特許第6165965号の請求項6及び10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6165965号は、平成26年3月19日(優先権主張外国庁受理 平成25年4月9日 ドイツ(DE))を国際出願日とする特願2016-506830号の特許請求の範囲に記載された請求項1?13に係る発明について、平成29年6月30日に設定登録がされ、同年7月19日に登録公報が発行されたものであり、その後、その全請求項に係る特許に対し、平成30年1月15日に川島順(以下「申立人」という。)により本件特許異議の申立てがされ、その後の経緯は次のとおりである。
平成30年 4月 5日付け 取消理由通知書
同年 7月 6日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 8月 7日 申立人による意見書の提出
同年 9月20日付け 取消理由通知書
同年12月20日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
平成31年 3月15日付け 訂正拒絶理由通知書
令和 1年 5月 7日 特許権者による意見書及び訂正請求書の手続
補正書の提出
同年 5月29日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年 8月30日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 9月25日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年10月11日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

なお、平成30年12月20日付けの特許権者による訂正請求について、申立人に期間を指定して意見を求めたが応答はなかった。


第2 訂正の適否の判断
1 訂正の内容
(1)令和1年10月11日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は、特許請求の範囲について、次の訂正事項1?17を含む(下線部は訂正箇所)。
なお、本件訂正請求により、平成30年7月6日付け訂正請求、令和1年5月7日付け手続補正によって補正された平成30年12月20日付け訂正請求、令和1年8月30日付け訂正請求はいずれも取り下げられたものとみなす。

ア 訂正事項1
請求項1に係る「容易に脱着可能な固定手段を用いて互いに気密に接続される少なくとも2つのセグメントと、少なくとも1つのガス入口孔および少なくとも1つのガス出口孔とを備え、」を、「容易に脱着可能な固定手段を用いて互いに気密に接続された少なくとも2つのセグメントからなり、少なくとも1つのガス入口孔およびそれぞれのセグメントに1つずつ設けられたガス出口孔を備え、」と訂正する。

イ 訂正事項2
請求項1に係る「および/または、」を、「および、」と訂正する。

ウ 訂正事項3
請求項1に係る「ガス分配器であって、」を、「リング型のガス分配器であって、」と訂正する。

エ 訂正事項4
請求項1に係る「ガス分配器の少なくとも1つのガス出口孔のそれぞれが、炉の1つのガス入口孔に連通接続される、」を、「ガス分配器のガス出口孔のそれぞれが、炉のベースプレートのそれぞれ1つのガス入口孔に連通接続される、」と訂正する。

オ 訂正事項5
請求項2に係る「少なくとも1つのガス出口孔が、ガスを炉ノズルに給送するのに役立つ、」を、「ガス出口孔が、ガスを炉ノズルに給送するのに役立つ、」と訂正する。

カ 訂正事項6
請求項6を削除する。

キ 訂正事項7
請求項7の「容易に脱着可能な固定手段を用いて互いに気密に接続される少なくとも2つのセグメントと、少なくとも1つのガス入口孔および少なくとも1つのガス出口孔とを備え、」を、「容易に脱着可能な固定手段を用いて互いに気密に接続された少なくとも2つのセグメントからなり、それぞれのセグメントに1つずつ設けられたガス入口孔および少なくとも1つのガス出口孔を備え、」と訂正する。

ク 訂正事項8
請求項7に係る「ガス分配器であって、」を、「リング型の排ガス捕集器であって、」と訂正する。

ケ 訂正事項9
請求項7に係る「ガス分配器は、容易に脱着可能な固定手段を用いて多結晶シリコンを析出するための炉に取り付けることができ、」を、「排ガス捕集器は、容易に脱着可能な固定手段を用いて多結晶シリコンを析出するための炉に取り付けることができ、」と訂正する。

コ 訂正事項10
請求項7に係る「ガス分配器の少なくとも1つのガス入口孔が、炉からの排ガスを給送するために設けられ、少なくとも1つのガス入口孔のそれぞれが、炉の1つの排ガス孔に接続され、」を、「排ガス捕集器のガス入口孔のそれぞれが、炉からの排ガスを給送するために設けられ、ガス入口孔のそれぞれが、炉のベースプレートのそれぞれ1つの排ガス孔に接続され、」と訂正する。

サ 訂正事項11
請求項7に係る「ガス分配器の少なくとも1つのガス出口孔が、ガス分配器から排ガスを除去するのに役立つ、ガス分配器。」を、「排ガス捕集器の少なくとも1つのガス出口孔が、排ガス捕集器から排ガスを除去するのに役立つ、排ガス捕集器。」と訂正する。

シ 訂正事項12
請求項8に係る「請求項7に記載のガス分配器。」を、「請求項7に記載の排ガス捕集器。」と訂正する。

ス 訂正事項13
請求項9に係る「炉の排ガス孔からガス分配器までの接続管が同一形状を有する、請求項7または8に記載のガス分配器。」を、「炉の排ガス孔から排ガス捕集器までの接続管が同一形状を有する、請求項7または8に記載の排ガス捕集器。」と訂正する。

セ 訂正事項14
請求項10を削除する。

ソ 訂正事項15
請求項11の「請求項1から6のいずれか一項に記載」を、「請求項1から5のいずれか一項に記載」と訂正する。

タ 訂正事項16
請求項12の「請求項7から10のいずれか一項に記載の少なくとも1つのガス分配器を含む、」を、「請求項7から9のいずれか一項に記載の少なくとも1つの排ガス捕集器を含む、」と訂正する。

チ 訂正事項17
請求項13の「請求項1から6のいずれか一項に記載の少なくとも1つのガス分配器と、請求項7から10のいずれか一項に記載の少なくとも1つのガス分配器とを含む、」を、「請求項1から5のいずれか一項に記載の少なくとも1つのガス分配器と、請求項7から9のいずれか一項に記載の少なくとも1つの排ガス捕集器とを含む、」と訂正する。

(2)一群の請求項について
訂正前の請求項2?6、11、13は、請求項1を直接または間接的に引用し、訂正前の請求項8?10、12、13は、請求項7を直接または間接的に引用している。
したがって、請求項1、7に係る訂正事項を含む本訂正請求は、両請求項を引用する請求項13があることから、一群の請求項1?13について請求するものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項8?13、16、17について(訂正前の「ガス分配器」を「排ガス捕集器」とする訂正について)
これらの訂正は、訂正前の請求項7?9、12、13に係る「ガス分配器」を「排ガス捕集器」とする訂正を含むものである。本件特許明細書には、シーメンス炉内にガスを導入するための「ガス分配器」の発明、及び、シーメンス炉からの排ガスを除去するための「排ガス捕集器」に関する発明が開示されている(段落【0001】、【0029】?【0035】、【0055】、【0056】)。そして、当審が、令和1年5月29日付け取消理由通知書(決定の予告)において、その審理の対象であった設定登録時の請求項7?10、12、13における「ガス分配器」なる表現が、本件特許明細書の段落【0033】や【0056】に記載されている上記「排ガス捕集器」に係る発明に関する説明と整合していないから、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていないとの取消理由(取消理由2)を通知したのに対して、特許権者がそれを解消するために当該訂正を行ったものと認められる。
そうすると、上記訂正事項に係る「ガス分配器」を「排ガス捕集器」とする訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であると認めるのが相当である。そして、これらの訂正は上記のとおり特許明細書に記載されている技術的事項であるから新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項1?5、7、8、10について(ただし、「ガス分配器」を「排ガス捕集器」とする訂正を除く。)
これらの訂正は、請求項1、2に記載されたガス分配器におけるガス出口孔、または、請求項7に記載された排ガス捕集器におけるガス入口孔について、その配置や取付け構造を限定するものである。例えば、訂正事項1では請求項1に係るガス分配器におけるガス出口孔が、訂正事項7では請求項7に係る排ガス捕集機におけるガス入口孔が、それぞれのセグメントに1つずつ設けられる点が特定されている。また、訂正事項3、8は、ガス分配器又は排ガス捕集器をリング型のものに限定するものである。また、訂正事項4、10は炉のガス入口孔、及び、排ガス孔は底部のベースプレートに設けられる点が特定されている。してみると、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認めるのが相当である。
そして、上記配置や取付け構造は、本件特許明細書の【0029】?【0033】、【0036】、【0037】、及び、【図1】?【図4】に示されたものであるから、当該訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項6、14について
これらの訂正は、請求項6及び請求項10を削除するものである。してみると、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項15?17について(ただし、「ガス分配器」を「排ガス捕集器」とする訂正を除く。)
これらの訂正は、請求項6、10の削除に伴い、請求項11?13において、選択的に引用する請求項の一部を削除するものである。してみると、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)なお、本件においては、請求項1?13の全てに対して特許異議の申し立てがなされているので、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)は適用されない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?13に係る発明(以下、請求項の番号に対応して「本件発明1」ないし「本件発明13」という。また、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)は、令和1年10月11日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
容易に脱着可能な固定手段を用いて互いに気密に接続された少なくとも2つのセグメントからなり、少なくとも1つのガス入口孔およびそれぞれのセグメントに1つずつ設けられたガス出口孔を備え、ガスを輸送できる、リング型のガス分配器であって、ガス分配器は、容易に脱着可能な固定手段を用いて多結晶シリコンを析出するための炉に取り付けることができ、ガス分配器のガス出口孔のそれぞれが、炉のベースプレートのそれぞれ1つのガス入口孔に連通接続される、および、ガス分配器の少なくとも1つのガス入口孔のそれぞれが、炉の媒体供給部の1つのガス給送管に連通接続される、ガス分配器。
【請求項2】
ガスを炉内に導入するのに適しており、少なくとも1つのガス入口孔が、ガスを給送するために設けられ、ガス給送管に接続され、ガス出口孔が、ガスを炉ノズルに給送するのに役立つ、請求項1に記載のガス分配器。
【請求項3】
容易に脱着可能な固定手段がフランジ接続部である、請求項1または2に記載のガス分配器。
【請求項4】
ガス分配器からノズルまでの給送管が、同一形状を有する、請求項1または2に記載のガス分配器。
【請求項5】
給送管が垂直に延びる、請求項4に記載のガス分配器。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
容易に脱着可能な固定手段を用いて互いに気密に接続された少なくとも2つのセグメントからなり、それぞれのセグメントに1つずつ設けられたガス入口孔および少なくとも1つのガス出口孔を備え、ガスを輸送できる、リング型の排ガス捕集器であって、排ガス捕集器は、容易に脱着可能な固定手段を用いて多結晶シリコンを析出するための炉に取り付けることができ、排ガス捕集器のガス入口孔のそれぞれが、炉からの排ガスを給送するために設けられ、ガス入口孔のそれぞれが、炉のベースプレートのそれぞれ1つの排ガス孔に接続され、排ガス捕集器の少なくとも1つのガス出口孔が、排ガス捕集器から排ガスを除去するのに役立つ、排ガス捕集器。
【請求項8】
容易に脱着可能な固定手段がフランジ接続部である、請求項7に記載の排ガス捕集器。
【請求項9】
炉の排ガス孔から排ガス捕集器までの接続管が同一形状を有する、請求項7または8に記載の排ガス捕集器。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
請求項1から5のいずれか一項に記載の少なくとも1つのガス分配器を含む、多結晶シリコンを析出するための炉。
【請求項12】
請求項7から9のいずれか一項に記載の少なくとも1つの排ガス捕集器を含む、多結晶シリコンを析出するための炉。
【請求項13】
請求項1から5のいずれか一項に記載の少なくとも1つのガス分配器と、請求項7から9のいずれか一項に記載の少なくとも1つの排ガス捕集器とを含む、多結晶シリコンを析出するための炉。」

第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 令和1年9月25日付け取消理由通知書(決定の予告)について
(1)取消理由の概要
当審が、令和1年9月25日付けの取消理由通知書(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
審理の対象である、令和1年8月30日付けの訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1において、「ガスの出口の開口」と「ガス出口孔」の関係が明らかでない。仮に、両者が同じものを意味するのであれば、「ガス出口孔」は、セグメントと同様に少なくとも2つ存在することになるから、請求項1に記載された「少なくとも1つのガス出口孔」との記載と整合しない。また、そもそもガス出口孔が1つの場合まで「ガス分配器」と呼ぶことは技術的に矛盾している。
したがって、請求項1及びこれを引用する請求項2?5、11に係る発明は明確でないから、本件の請求項1?5、11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)当審の判断
本件訂正によって、当該取消理由通知書において指摘された、令和1年8月30日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1における「ガスの出口の開口」なる記載はなくなったので、同項における「ガスの出口の開口」と「ガス出口孔」との関係に関する記載不備は解消した。
したがって、当該拒絶理由通知書で指摘した特許法第36条第6項第2号違反に係る取消理由は理由がない。

2 平成30年4月5日付け取消理由通知書について
(1)取消理由の概要
当審が、平成30年4月5日付けの取消理由通知書で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
設定登録された特許における請求項1?13に係る発明は、本件特許明細書の段落【0020】?【0027】に記載されているとおり、シリコン破砕物が給送孔および排ガス孔に落下し、ガス管またはガス分配器を閉塞することを課題とし、段落【0046】に記載されているとおり、該シリコン破砕物を簡素化された除去および洗浄によって、除去するという作用効果を奏するものと認められるところ、例えば【図4】に示されるガス分配器(排ガス捕集器)が炉蓋に取り付けられている場合には、ガス分配器にシリコン破砕物が落下しない。すなわち、ガス分配器(排ガス捕集器)の配置について特定のない請求項1?13に係る発明は、上記課題を有さず、上記作用効果を奏しないものを含むものであるから、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲」のものとはいえない。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)当審の判断
本件発明1に係る「ガス分配器」は、「ガス出口孔のそれぞれが、炉のベースプレートのそれぞれ1つのガス入口孔に連通接続される」ものであり、また、本件発明7に係る「排ガス捕集器」は、「ガス入口孔のそれぞれが、炉のベースプレートのそれぞれ1つの排ガス孔に接続され」るものであるから、それぞれガス分配器又は排ガス捕集器へのシリコン粉砕物の落下が問題となり得る構造であると認められる。そして、発明の詳細な説明の記載から、当業者は本件発明1、7が上記(1)に記載の課題を解決できることを認識できる。
したがって、当該取消理由通知書で指摘した特許法第36条第6項第1号違反に係る取消理由は理由がない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人の主張について
申立人は、甲第1?10号証を提出し、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲について以下の主張をする。
(1)請求項1?13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明あるいは甲第3号証等に開示された周知技術とに基いて、当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきものである。

2 申立人が提出した各号証に記載された事項
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証(特開2009-149495号公報。以下、「甲1」という。)は、多結晶シリコン製造装置に関し、多結晶シリコンを析出するための反応炉の底部側に設けられた基台の下方側に2種類のガス分配器(原料ガス供給のための第一のガス分配器、及び、ガス排出のための第二のガス分配器)が接続された多結晶シリコンを析出させるための炉を開示している(請求項1、【0019】?【0021】、図1?3を参照)。
甲1に記載の上記「第一のガス分配器」および「第二のガス分配器」は、それぞれ本件発明の「ガス分配器」及び「排ガス捕集器」に相当するから、甲1には、下記引用発明1A及び引用発明1Bが、それぞれ開示されているものと認められる。
「少なくとも1つのガス入口孔及び少なくとも1つのガス出口孔とを備え、
ガスを輸送できるガス分配器であって、
ガス分配器は、多結晶シリコンを析出するための炉に取り付けることができ、
ガス分配器のガス出口孔のそれぞれが、炉のそれぞれ1つのガス入口孔に連通接続される、および、ガス分配器の少なくとも1つのガス入口孔のそれぞれが、炉の媒体供給部の1つのガス給送管に連通接続される、
ガス分配器。」(「引用発明1A」)

「少なくとも1つのガス入口孔及び少なくとも1つのガス出口孔とを備え、
ガスを輸送できる排ガス捕集器であって
排ガス捕集器は、多結晶シリコンを析出するための炉に取り付けることができ、
排ガス捕集器のガス入口孔のそれぞれが、炉からの排ガスを給送するために設けられ、
ガス入口孔のそれぞれが、炉のそれぞれ1つの排ガス孔に接続され、
排ガス捕集器の少なくとも1つのガス出口孔が、排ガス捕集器から排ガスを除去するのに役立つ、
排ガス捕集器。」(「引用発明1B」)

(2)甲第2号証、甲第3号証に記載された事項
甲第2号証(米国特許第3188173号明細書。以下、「甲2」という。)には、金属酸化物の製造に用いる装置内に酸素及び金属塩化物を分配供給する部位について、「パイプ41はプレート10に溶接されて、パイプ41の下端においてフランジ(図3参照)に嵌め合わせられる。各フランジ104に対して、酸素及び金属塩化物のためのマニホールド・・・に続くパイプ42上のフランジが固定され、」(第9欄下1行?第10欄9行の翻訳文を参照)なる記載があるように、フランジによりガス分配のための構造を上記装置に固定することが開示されている。
また、甲第3号証(「ガス配管用管継手類総合カタログ 日立金属株式会社」(2017年6月)。以下、「甲3」という。)には、各種形状の管継手が開示されており、一例として、フランジを用いて管同士を接続する点が開示されている。

(3)甲第4?10号証に記載された事項
甲第4号証(特開2002-241120号公報。審査段階における平成28年11月22日付けの拒絶理由通知書で引用された引用文献1)には、炉体の上部に原料ガス供給ノズルを、炉体の底部に反応ガス排出口を有する多結晶シリコン製造用反応炉が開示されている。
また、甲第5号証は、本件特許に対応する米国特許出願(米国出願14/782,855号)に対する米国特許商標庁による2016年12月8日発送のオフィスアクションであり、進歩性欠如の理由において上記甲2を引用している。
さらに、甲第6?10号証は、いずれも、多結晶シリコン棒の製造に関するものであって、析出工程でシリコン棒に発生する破損やクラックについて言及しており、シリコン片の落下についても示唆する文献であると認められる。

3 当審の判断
(1)請求項1?5について
ア 本件発明1と引用発明1Aとを対比すると、両発明は
「少なくとも1つのガス入口孔及び少なくとも1つのガス出口孔とを備え、
ガスを輸送できるガス分配器であって、
ガス分配器は、多結晶シリコンを析出するための炉に取り付けることができ、
ガス分配器のガス出口孔のそれぞれが、炉のそれぞれ1つのガス入口孔に連通接続される、および、ガス分配器の少なくとも1つのガス入口孔のそれぞれが、炉の媒体供給部の1つのガス給送管に連通接続される、
ガス分配器。」である点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。

(相違点1-1)本件発明1は、「それぞれのセグメントに1つずつ設けられたガス出口孔を備え」た、「互いに気密に接続された少なくとも2つのセグメントからな」るのに対して、引用発明1Aは斯かる特定事項を具備する旨が特定されていない点。

イ そこで、上記(相違点1-1)について検討する。
甲2または甲3は、上記2(2)に記載のとおり、接続部に設けたフランジ構造等によって、ガス配管を接続する点について開示するものと認められるが、それぞれにガス出口孔を有するセグメントを気密に接続することによってガス分配器を構成する点については記載されていないし、出願時の技術常識を考慮しても、甲2または甲3における上記記載から、(相違点1-1)に係る構造を導き出すことはできない。また、斯かる点は申立人が提出した他の甲号証及び意見書と共に提出した参考文献(後述)のいずれにも記載ないしは示唆されていないし、当該技術分野における出願時の技術常識であると認めるべき事情もない。
してみると、引用発明1Aにおいて、ガス分配器を上記構造を有する少なくとも2つのセグメントで構成するとの上記相違点(1-1)に係る構造を採用することは、当業者が容易に想到するものとはいえない。
そして、ガス分配器において本件発明1に係る構造を採用することによって、ガス分配器の簡素化された除去及び洗浄によって落下したSi片を除去することができる、分配器の汚れた部分のみを取り外し、この部分のみを洗浄することや交換することが可能である、との特許明細書に記載されている効果を奏するものと認められる。

ウ したがって、本件発明1は、引用発明1Aと甲第2号証に記載された発明あるいは甲第3号証等に開示された周知技術とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
請求項1を引用し、さらに発明特定事項を付加する請求項2?5に係る発明も同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)請求項7?9について
ア 本件発明7と引用発明1Bとを対比すると、両発明は
「少なくとも1つのガス入口孔及び少なくとも1つのガス出口孔とを備え、
ガスを輸送できる排ガス捕集器であって
排ガス捕集器は、多結晶シリコンを析出するための炉に取り付けることができ、
排ガス捕集器のガス入口孔のそれぞれが、炉からの排ガスを給送するために設けられ、
ガス入口孔のそれぞれが、炉のそれぞれ1つの排ガス孔に接続され、
排ガス捕集器の少なくとも1つのガス出口孔が、排ガス捕集器から排ガスを除去するのに役立つ、
排ガス捕集器。」である点で一致し、少なくとも、下記の点で相違する。

(相違点2-1)本件発明7は、「それぞれのセグメントに1つずつ設けられたガス入口孔」を備えた、「互いに気密に接続された少なくとも2つのセグメントからな」るのに対して、引用発明1Bは斯かる特定事項を具備する旨が特定されていない点。

イ そして、上記(1)イで引用発明1Aに係るガス分配器についての検討と同様の理由によって、引用発明1Bに係る排ガス捕集器において、相違点2-1に係る構造を採用することは当業者が容易に想到するところではない。

ウ したがって、本件発明7は、引用発明1Bと甲第2号証に記載された発明あるいは甲第3号証等に開示された周知技術とに基いて、当業者が容易に想到することができたものではない。
請求項7を引用し、さらに発明特定事項を付加する請求項8、9に係る発明も同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)請求項11?13について
請求項1?5、または、請求項7?9を引用する請求項11?13に係る発明も、上記(1)、(2)で検討した理由と同様の理由によって、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)請求項6、10について
本件訂正請求によって、上記請求項は削除された。

4 特許異議申立人の意見について
申立人は、平成30年8月7日付け意見書において、平成30年7月6日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、7に係る発明は、甲1に記載の発明と、甲2、甲3等に記載の周知技術とに基づいて進歩性が欠如しているとの主張に加えて、周知技術を示す文献として提出した参考文献7(平成30年9月20日付け取消理由通知書における引用文献1)に基づいて新規性進歩性が欠如する旨の主張をする。
上記申立人による参考文献7に基づく主張について検討するに、同文献は、複数の給気分配管や原料ガス供給管の接続構造や、ガス分配器の多結晶シリコン還元炉への取付構造が開示しているところ、例えば、段落0011に「ウォータージャケットチューブプレートには、リング上に複数配置された原料ガスノズル32が複数の同心リングをなすように設けられ、給気分配管3の一端が原料ガスノズル32に連通し、給気分配管3の他端が原料ガス供給環状管2に連通してる。また、ウォータージャケットチューブプレート10の外側縁部と中心部にはそれぞれ、炉体33の内洞に連通する廃ガス排出管5が接続され、廃ガス排出管5が廃ガス排出環状管4に連通している。」(当審による仮訳)との記載があり、図1の記載からは、上記原料ガスノズル32、給気分配管3、原料ガス供給環状管2がそれぞれフランジ構造で接続されていることが理解できる。そして、参考文献7に記載されている「原料ガスノズル32」、「給気分配管3」、「原料ガス供給環状管2」から構成される部位が本件発明の「ガス分配器」に、「廃ガス排出管5」、「廃ガス排出環状管4」から構成される部位が本件発明の「排ガス捕集器」に相当する。
しかしながら、上記3(1)、(2)で甲1に記載されている発明との対比判断において、(相違点1-1)、(相違点2-1)について検討したのと同様に、参考文献7には、ガス分配器又は排ガス捕集器が「それぞれのセグメントに1つずつ設けられたガス出口孔(または、ガス入口孔)を備え」た、「互いに気密に接続された少なくとも2つのセグメントからな」る点は開示されていない。そして、かかる技術的事項は申立人が提出したいずれの甲号証及び参考文献にも記載ないし示唆されていないし、出願時における技術常識であると認めるべき事情もない。
よって、本件発明1、7は、参考文献7に記載された発明であるとも、参考文献7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。
したがって、申立人による意見書に示された上記主張は、採用することができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5、7?9、11?13に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に上記請求項に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項6、10に係る特許は、訂正により削除されたことにより、同請求項に係る申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容易に脱着可能な固定手段を用いて互いに気密に接続された少なくとも2つのセグメントからなり、少なくとも1つのガス入口孔およびそれぞれのセグメントに1つずつ設けられたガス出口孔を備え、ガスを輸送できる、リング型のガス分配器であって、ガス分配器は、容易に脱着可能な固定手段を用いて多結晶シリコンを析出するための炉に取り付けることができ、ガス分配器のガス出口孔のそれぞれが、炉のベースプレートのそれぞれ1つのガス入口孔に連通接続される、および、ガス分配器の少なくとも1つのガス入口孔のそれぞれが、炉の媒体供給部の1つのガス給送管に連通接続される、ガス分配器。
【請求項2】
ガスを炉内に導入するのに適しており、少なくとも1つのガス入口孔が、ガスを給送するために設けられ、ガス給送管に接続され、ガス出口孔が、ガスを炉ノズルに給送するのに役立つ、請求項1に記載のガス分配器。
【請求項3】
容易に脱着可能な固定手段がフランジ接続部である、請求項1または2に記載のガス分配器。
【請求項4】
ガス分配器からノズルまでの給送管が、同一形状を有する、請求項1または2に記載のガス分配器。
【請求項5】
給送管が垂直に延びる、請求項4に記載のガス分配器。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
容易に脱着可能な固定手段を用いて互いに気密に接続された少なくとも2つのセグメントからなり、それぞれのセグメントに1つずつ設けられたガス入口孔および少なくとも1つのガス出口孔を備え、ガスを輸送できる、リング型の排ガス捕集器であって、排ガス捕集器は、容易に脱着可能な固定手段を用いて多結晶シリコンを析出するための炉に取り付けることができ、排ガス捕集器のガス入口孔のそれぞれが、炉からの排ガスを給送するために設けられ、ガス入口孔のそれぞれが、炉のベースプレートのそれぞれ1つの排ガス孔に接続され、排ガス捕集器の少なくとも1つのガス出口孔が、排ガス捕集器から排ガスを除去するのに役立つ、排ガス捕集器。
【請求項8】
容易に脱着可能な固定手段がフランジ接続部である、請求項7に記載の排ガス捕集器。
【請求項9】
炉の排ガス孔から排ガス捕集器までの接続管が同一形状を有する、請求項7または8に記載の排ガス捕集器。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
請求項1から5のいずれか一項に記載の少なくとも1つのガス分配器を含む、多結晶シリコンを析出するための炉。
【請求項12】
請求項7から9のいずれか一項に記載の少なくとも1つの排ガス捕集器を含む、多結晶シリコンを析出するための炉。
【請求項13】
請求項1から5のいずれか一項に記載の少なくとも1つのガス分配器と、請求項7から9のいずれか一項に記載の少なくとも1つの排ガス捕集器とを含む、多結晶シリコンを析出するための炉。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-19 
出願番号 特願2016-506830(P2016-506830)
審決分類 P 1 651・ 851- YAA (C01B)
P 1 651・ 537- YAA (C01B)
P 1 651・ 113- YAA (C01B)
P 1 651・ 121- YAA (C01B)
P 1 651・ 853- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小野 久子  
特許庁審判長 菊地 則義
特許庁審判官 後藤 政博
服部 智
登録日 2017-06-30 
登録番号 特許第6165965号(P6165965)
権利者 ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
発明の名称 シーメンス炉用のガス分配器  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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