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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1358636
異議申立番号 異議2018-700893  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-08 
確定日 2019-12-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6319495号発明「絶縁樹脂材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6319495号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?22〕について訂正することを認める。 特許第6319495号の請求項1?9、11?22に係る特許を維持する。 特許第6319495号の請求項10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件特許6319495号(請求項の数22。以下、「本件特許」という。)は、平成24年11月12日に出願された特願2012-248071号の一部を、平成29年4月5日に新たな特許出願としたものであって、平成30年4月13日に特許権の設定登録がされ、同年5月9日に特許掲載公報が発行されたものである。

2 その後、特許異議申立人 森川真帆(以下、「申立人」という。)により、平成30年11月8日に、請求項1?22に係る本件特許について、特許異議の申立てがされた。

3 本件特許異議の申立てにおける手続きの経緯は、以下のとおりである。

平成30年 11月8日 特許異議申立書
平成31年 1月30日付け 取消理由通知書
平成31年 4月 2日 訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
令和 1年 5月15日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
令和 1年 9月 4日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和 1年10月 2日 訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)

なお、特許法第120条の5第5項の規定により、令和1年5月15日付けで訂正の請求があった旨の通知を申立人に送付したが、申立人からは、意見書の提出は無かった。
そうすると、令和1年10月2日付けの訂正請求書による訂正の請求については、申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるといえる(特許法第120条の5第5項ただし書)から、申立人にさらに意見書を提出する機会を与えなかった。

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和1年10月2日付けでの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項訂正後の請求項1?22について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである。
なお、平成31年4月2日提出の訂正請求書による訂正の請求は、本件訂正の請求がされたことに伴い、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

訂正事項1:特許請求の範囲の請求項1に(i)「無機充填材」と記載されているのを、「シリカ」に訂正し、(ii)発明の対象として記載されている「絶縁樹脂材料」を「絶縁樹脂材料(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)」に訂正する(請求項1を直接または間接的に引用する請求項3?22も同様に訂正する)。
訂正事項2:特許請求の範囲の請求項2に(i)「無機充填材」と記載されているのを、「シリカ」に訂正し、(ii)「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂」と記載されているのを、「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格を有する高分子樹脂」に訂正し、(iii)「前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における」と記載されている前に、「前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨脹係数が3?30ppm/℃であり、かつ」との構成を加入し、「前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨脹係数が3?30ppm/℃であり、かつ前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における」とし、(iv)発明の対象として記載されている「絶縁樹脂材料」を「絶縁樹脂材料(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)」に訂正する(請求項2を直接または間接的に引用する請求項3?5、8?22も同様に訂正する)。
訂正事項3:特許請求の範囲の請求項10を削除する。
訂正事項4:特許請求の範囲の請求項11の従属先を、「請求項1?9のいずれか1項」と訂正する。
訂正事項5:特許請求の範囲の請求項12の従属先を、「請求項1?9、11のいずれか1項」と訂正する。
訂正事項6:特許請求の範囲の請求項13の従属先を、「請求項1、3?9、11、12のいずれか1項」と訂正する。
訂正事項7:特許請求の範囲の請求項14の従属先を、「請求項2又は13」と訂正する。
訂正事項8:特許請求の範囲の請求項16の従属先を、「請求項1?9、11?15のいずれか1項」と訂正する。
訂正事項9:特許請求の範囲の請求項17の従属先を、「請求項1?9、11?15のいずれか1項」と訂正する。
訂正事項10:特許請求の範囲の請求項18の従属先を、「請求項1?9、11?15のいずれか1項」と訂正する。
訂正事項11:特許請求の範囲の請求項19の従属先を、「請求項1?9、11?15のいずれか1項」と訂正する。
訂正事項12:特許請求の範囲の請求項21の従属先を、「請求項1?9、11?15のいずれか1項」と訂正する。

本件訂正請求は、一群の請求項1?22に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1の(i)は、訂正前の請求項1に係る「無機充填材」を「シリカ」へと限定するものである。してみると、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
そして、訂正事項1の(i)は、「無機充填材」を、訂正前の請求項10に規定され、また、本件特許明細書の【0016】に記載された「シリカ」とするものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正事項1の(ii)は、訂正前の請求項1の「絶縁樹脂材料」から「アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料」を除くものである。してみると、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
また、訂正事項1の(ii)は、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2の(i)は、訂正前の請求項2に係る「無機充填材」を「シリカ」へと限定するものである。してみると、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
そして、訂正事項2の(i)は、「無機充填材」を、訂正前の請求項10に規定され、また、本件特許明細書の【0016】に記載された「シリカ」とするものであるから、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正事項2の(ii)は、訂正前の請求項2に「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂」と記載されているのを、「ブタジエン骨格」のみとした「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格を有する高分子樹脂」に限定するものである。してみると、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
また、訂正事項2の(ii)は、訂正前の請求項2に記載された「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂」について、「ブタジエン骨格」を必須に含む態様にしたものであるから、新たな技術的事項を導入するものはなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正事項2の(iii)は、訂正前の請求項2の「前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における」と記載されている前に、「前記絶縁樹脂材料の硬化物の25?150℃における線熱膨脹係数が3?30ppm/℃であり、かつ」との構成を加入し、「前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨脹係数が3?30ppm/℃であり、かつ前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における」とするものである。
これは、絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨脹係数を特定の範囲に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
そして、訂正事項2の(iii)の「前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨脹係数が3?30ppm/℃」については【0038】の「本発明の絶縁樹脂材料の硬化物は、寸法安定性を高めるため、25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり」との記載に基づくものである。してみると、(iii)は、新たな技術的事項を導入するものはなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正事項2の(iv)は、訂正前の請求項2の「絶縁樹脂材料」から「アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料」を除くものである。してみると、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
また、訂正事項2の(iv)は、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項10を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
また、訂正事項3は、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(4)訂正事項4、5、8?12について
訂正事項4は、訂正前の請求項10の削除に伴って、訂正後の請求項11の従属先の規定から係る請求項10を削除するものである。
訂正事項5は、訂正前の請求項10の削除に伴って、訂正後の請求項12の従属先の規定から係る請求項10を削除するものである。
訂正事項8は、訂正前の請求項10の削除に伴って、訂正後の請求項16の従属先の規定から係る請求項10を削除するものである。
訂正事項9は、訂正前の請求項10の削除に伴って、訂正後の請求項17の従属先の規定から係る請求項10を削除するものである。
訂正事項10は、訂正前の請求項10の削除に伴って、訂正後の請求項18の従属先の規定から係る請求項10を削除するものである。
訂正事項11は、訂正前の請求項10の削除に伴って、訂正後の請求項19の従属先の規定から係る請求項10を削除するものである。
訂正事項12は、訂正前の請求項10の削除に伴って、訂正後の請求項21の従属先の規定から係る請求項10を削除するものである。
したがって、これらの訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
また、訂正事項4、5、8?12は、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(5)訂正事項6、7について
訂正事項6のうち、請求項10を削除する訂正は、訂正前の請求項10の削除に伴って、訂正後の請求項13の従属先の規定から係る請求項10を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
訂正事項6のうち、請求項2を削除する訂正は、請求項2に請求項13の構成を加入したことに伴い、請求項13が請求項2を引用すると、何を特定しているか不明瞭となることから、それを釈明するものであり、訂正事項7は、それに伴って、訂正前の請求項14が請求項2を引用する請求項13を引用していたのを、請求項2を引用する形に改めたものに過ぎない。してみると、訂正事項6、7は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると認められる。
また、訂正事項6、7は、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 本件訂正後の請求項1?22に係る発明
上記第2で述べたように、本件訂正は認められるので、本件訂正により訂正された請求項1?22に係る発明(以下「本件訂正発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?22に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである(以下、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

「 【請求項1】
エポキシ樹脂、シリカおよびガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂を含む絶縁樹脂材料であって、
前記シリカの含有量が絶縁樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%であり、
前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり、かつ前記硬化物の25℃における弾性率が0.5?14GPaである、絶縁樹脂材料(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)。
【請求項2】
エポキシ樹脂、シリカおよびガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格を有する高分子樹脂を含む絶縁樹脂材料であって、
前記シリカの含有量が絶縁樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%であり、
前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり、かつ前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数をA(ppm/℃)とし、150℃?220℃における線熱膨張係数をB(ppm/℃)とした場合、0≦B-A≦15である、絶縁樹脂材料(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂の含有量が、絶縁樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し、3?15質量であり、かつ、前記高分子樹脂の含有量が、絶縁樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し、5?30質量%である、請求項1又は2記載の絶縁樹脂材料。
【請求項4】
前記絶縁樹脂材料の硬化物の150℃?220℃における線熱膨張係数が5?32ppm/℃である、請求項1?3のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料。
【請求項5】
前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?10ppm/℃であり、かつ150℃?220℃における線熱膨張係数が5?15ppm/℃であり、
前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃における弾性率が0.5?6GPaである、
請求項1?4のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料。
【請求項6】
前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数をA(ppm/℃)とし、150℃?220℃における線熱膨張係数をB(ppm/℃)とした場合、0≦B-A≦15である、請求項1記載の絶縁樹脂材料。
【請求項7】
前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数をA(ppm/℃)とし、150℃?220℃における線熱膨張係数をB(ppm/℃)とした場合、0≦B-A≦4である、請求項6記載の絶縁樹脂材料。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂が液状エポキシ樹脂である、請求項1?7のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料。
【請求項9】
前記エポキシ樹脂の含有量が、絶縁樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し、1?15質量%である、請求項1又は2記載の絶縁樹脂材料。
【請求項10】(削除)
【請求項11】
前記高分子樹脂の数平均分子量が300?100000である、請求項1?9のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料。
【請求項12】
前記高分子樹脂の数平均分子量が8000?20000である、請求項1?9、11のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料。
【請求項13】
前記高分子樹脂がブタジエン骨格を有する、請求項1、3?9、11、12のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料。
【請求項14】
前記高分子樹脂がさらにイミド骨格およびウレタン骨格を有する、請求項2又は13記載の絶縁樹脂材料。
【請求項15】
前記高分子樹脂の含有量が、絶縁樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し、1?30質量%である、請求項1又は2記載の絶縁樹脂材料。
【請求項16】
請求項1?9、11?15のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料が支持体上に層形成されてなる接着フィルム。
【請求項17】
請求項1?9、11?15のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料を熱硬化してなるシート状硬化物。
【請求項18】
請求項1?9、11?15のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料をシリコンウェハ上に層形成し、熱硬化させることで、シリコンウェハ上にシート状硬化物を形成したときの25℃における反り量が0?5mmであるシート状硬化物。
【請求項19】
請求項1?9、11?15のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料を用いてなるプリント配線板。
【請求項20】
請求項17又は18記載のシート状硬化物上に導体層が形成されているプリント配線板。
【請求項21】
請求項1?9、11?15のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料を用いてなるウエハレベルチップサイズパッケージ。
【請求項22】
請求項17又は18記載のシート状硬化物上に導体層が形成されているウエハレベルチップサイズパッケージ。」

第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件特許1?22に係る特許は、下記(1)?(4)のとおり、特許法第113条第2号、及び同法113条第4号に該当する。証拠方法として、下記(5)の甲第1号証?甲第3号証(以下、単に「甲1」等という。)を提出する。

(1)申立理由1(サポート要件)
本件訂正前の請求項1?22に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、取り消されるべきものであるから、同法113条第4号に該当する。

(2)申立理由2(新規性)(進歩性)
本件訂正前の請求項1?22に係る発明は、甲1に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、または、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(新規性)(進歩性)
本件訂正前の請求項1?22に係る発明は、甲1に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、または、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(4)申立理由4(進歩性)
本件訂正前の請求項1?22に係る発明は、甲2及び甲3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(5)証拠方法
・甲1:特開2012-153885号公報
・甲2:特開2004-123874号公報
・甲3:特開2006-37083号公報

2 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)平成31年1月30日付けの取消理由通知書
理由1(新規性)本件特許の請求項1ないし17に係る発明は、本件特許の原出願の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
理由2(進歩性)本件特許の請求項1ないし17に係る発明は、本件特許の原出願の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
理由3(サポート要件)本件特許の請求項1ないし22に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。



理由1(新規性)、理由2(進歩性)について(甲1を主引用例とした場合)
・請求項 1ないし7、9、11ないし17(新規性)
・請求項 1ないし9、11ないし17(進歩性)
・引用文献等 甲1

理由1(新規性)、理由2(進歩性)について(当審で職権調査により発見した引用文献Aを主引用例とした場合)
・請求項 1ないし7、9、11、13及び15(新規性)
・請求項 1ないし7、9、11、13、15及び16(進歩性)
・引用文献等 引用文献A、引用文献B、参考文献1、参考資料1

理由1(新規性)、理由2(進歩性)について(当審で職権調査により発見した引用文献Bを主引用例とした場合)
・請求項 1、2、4ないし8、10、11、13、15及び17(新規性)
・請求項 1ないし11、13、15及び17(進歩性)
・引用文献等 引用文献B、参考文献1、参考資料1

理由3(サポート要件)について
1 「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂」について、
・請求項1ないし12、15ないし22

2 本件発明2の「前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数をA(ppm/℃)とし、150℃?220℃における線熱膨張係数をB(ppm/℃)とした場合、0≦B-A≦15である、」との特定について
・請求項2ないし3、8ないし22

引用文献等一覧
・甲1:特開2012-153885号公報
・甲2:特開2004-123874号公報
・甲3:特開2006-37083号公報
(合議体が職権調査により発見した引用文献、参考文献、参考情報)
・引用文献A:特開2012-131947号公報
・引用文献B:国際公開第2012/046636号
・参考文献1:特開2006-225545号公報
・参考資料1:株式会社ダイセルのウエブページ「製品紹介 エポリードPB3600」、平成31年1月25日検索、

(2)令和1年9月4日付けの取消理由通知書(決定の予告)
(取消理由a)(明確性)本件訂正発明1?9、11?22は、特許請求の範囲の記載に不備があるために、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。



取消理由a(明確性)
・請求項 1?9、11?22

第5 当審の判断
以下に述べるように、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?9、11?22に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件特許の請求項10に係る特許については、請求項が削除されたので、特許異議の申立てを却下する。
以下、詳述する。

1 令和1年9月4日付けの取消理由通知書(決定の予告)について
(1)取消理由a(明確性)
令和1年9月4日付けの取消理由通知書(決定の予告)では、平成31年4月2日に提出された訂正請求により訂正された請求項1、2に係る発明の「前記無機充填材」とは、この記載より以前に「無機充填材」の記載が無く、また「シリカ」は本件特許明細書の【0016】の「無機充填材としては、特に限定されないが・・・(略)・・・シリカが好ましく」の記載からみて「無機充填材」に包含されるものであるから、これらの異同が明らかではないし、また、同請求項1、2にて「シリカ」を規定しているのか、または「無機充填材」を規定しているのかが特定できないから、発明の範囲が明らかであるとはいえないから、同請求項1、2に係る発明は明確ではなく、同請求項1を直接または間接的に引用する同請求項3?9、11?22、及び同請求項2を直接または間接的に引用する同請求項3?5、8、9、11、12、14?22に係る発明についても上記ア、イと同様に、明確ではない旨、指摘した。
これに対して、前記第2のとおり、本件訂正により、請求項1及び2の「無機充填材」という記載を、「シリカ」と訂正した結果、上記の点に関する明確性要件違反は解消した。

(2)小括
したがって、取消理由a(明確性)によっては、本件訂正発明1?9、11?22に係る特許を取り消すことはできない。

2 平成31年1月30日付けの取消理由通知書について
(1)理由1(新規性)、理由2(進歩性)について(甲1を主引用例とした場合)
ア 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
(ア)甲1に記載された事項
(甲1-1)「【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)水酸化アルミニウムを含有することを特徴とする剥離フィルム用樹脂組成物。
・・・
【請求項4】
剥離フィルム用樹脂組成物の不揮発成分100質量%に対して、(B)水酸化アルミニウムの含有量が5?85質量%であることを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項に記載の剥離フィルム用樹脂組成物。
【請求項5】
(B)水酸化アルミニウムの平均粒径が0.01?5μmであることを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載の剥離フィルム用樹脂組成物。【請求項6】
更に(C)硬化剤を含有することを特徴とする、請求項1?5のいずれか1項に記載の剥離フィルム用樹脂組成物。
【請求項7】
(C)硬化剤がフェノール系硬化剤であることを特徴とする、請求項6に記載の剥離フィルム用樹脂組成物。
・・・
【請求項9】
更に(D)熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする、請求項1?8のいずれか1項に記載の剥離フィルム用樹脂組成物。
【請求項10】
(D)熱可塑性樹脂が、変性ポリイミド樹脂であることを特徴とする、請求項9に記載の剥離フィルム用樹脂組成物。
【請求項11】
前記変性ポリイミド樹脂が分子内にポリブタジエン構造、ウレタン構造及びイミド構造を有することを特徴とする、請求項10に記載の剥離フィルム用樹脂組成物。
【請求項12】
更に(E)硬化促進剤を含有することを特徴とする、請求項1?11のいずれか1項に記載の剥離フィルム用樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1?12のいずれか1項に記載の剥離フィルム用樹脂組成物を含有することを特徴とする、剥離フィルム。
【請求項14】
請求項1?12のいずれか1項に記載の剥離フィルム用樹脂組成物を含有することを特徴とする、支持体付き剥離フィルム。
【請求項15】
請求項1?12のいずれか1項に記載の剥離フィルム用樹脂組成物を用いて製造されたことを特徴とする、回路基板。」

(甲1-2)「【0004】
本発明の課題は、ビルドアップ層の硬化後は高い密着強度を保持し、剥離用加熱処理後においては良好な剥離強度を有する、剥離フィルム用樹脂組成物を提供することである。」

(甲1-3)「【0009】
<(A)エポキシ樹脂>
本発明における(A)エポキシ樹脂は特に限定はされず、具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、tert-ブチル-カテコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、トリメチロール型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂などが挙げられる。なかでも、初期の密着強度を向上させるという観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂がより好ましい。例えば、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製「jER828EL」)、ナフタレン型2官能エポキシ樹脂(DIC(株)製「HP4032」、「HP4032D])、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂(DIC(株)製「HP4700」、「HP4710」)、ナフトール型エポキシ樹脂(新日鐵化学(株)製「ESN-475V」)、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂(ダイセル化学工業(株)製「PB-3600」)、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC(株)製「HP7200H」)ビフェニル型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製「NC3000H」、「NC3000L」、三菱化学(株)製「YX4000」)などが挙げられる。
【0010】
(A)エポキシ樹脂は1種又は2種以上を併用してもよいが、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が含有される。(A)エポキシ樹脂のうちの少なくとも50質量%以上は1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であるのが好ましい。また、1分子中に2個以上のエポキシ基を有し、温度20℃で液状の芳香族系エポキシ樹脂であるエポキシ樹脂、および1分子中に3個以上のエポキシ基を有し、温度20℃で固体状の芳香族系エポキシ樹脂を含有する態様がより好ましい。なお、本発明でいう芳香族系エポキシ樹脂とは、その分子内に芳香環構造を有するエポキシ樹脂を意味する。またエポキシ当量(g/eq)とは、平均分子量を1分子あたりのエポキシ基数で割った値のことである。エポキシ樹脂として、液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂を使用することで、剥離フィルム用樹脂組成物を剥離フィルムの形態で使用する場合に、十分な可撓性を示し、取扱い性に優れた剥離フィルムを形成できると同時に、剥離フィルム用樹脂組成物の剥離用加熱処理後の剥離性も向上する。
【0011】
(A)エポキシ樹脂の含有量は特に制限はされないが、(A)エポキシ樹脂の含有量の下限値は、硬化用加熱処理後の密着強度を良好に保持するという観点から、剥離フィルム用樹脂組成物の不揮発成分100質量%に対して、5質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましく、9質量%以上が更に好ましく、11質量%以上が更に一層好ましい。一方、(A)エポキシ樹脂の含有量の上限値は、剥離フィルム用樹脂組成物が脆くなるのを防止するという観点から、剥離フィルム用樹脂組成物の不揮発成分100質量%に対して、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。」

(甲1-4)「【0013】
(B)水酸化アルミニウムの含有量は特に制限はされないが、(B)水酸化アルミニウムの含有量の下限値は、剥離用加熱処理後の剥離性を向上させるという観点から、剥離フィルム用樹脂組成物の不揮発成分100質量%に対して、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましく、25質量%以上が更に一層好ましく、30質量%以上が殊更好ましく、35質量%以上が特に好ましく、40質量%以上がとりわけ好ましく、45質量%以上がなおさら好ましい。一方、(B)水酸化アルミニウムの含有量の上限値は、剥離用加熱処理前の密着強度を確保するという観点から、剥離フィルム用樹脂組成物の不揮発成分100質量%に対して、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下が更に好ましく、70質量%以下が更に一層好ましく、65質量%以下が殊更好ましく、60質量%以下が特に好ましい。」

(甲1-5)「【0054】
(D)熱可塑性樹脂の含有量は特に制限はされないが、(D)熱可塑性樹脂の含有量の下限値は、剥離フィルムの可とう性を高めて取り扱い性を向上させ、剥離後の剥離界面の外観を良好にするという観点から、剥離フィルム用樹脂組成物の不揮発成分100質量%に対して、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、15質量%以上が更に一層好ましく、20質量%以上が殊更好ましい。一方、(D)熱可塑性樹脂の含有量の上限値は、剥離用加熱処理後の剥離性が低下するのを防止するという観点から、剥離フィルム用樹脂組成物の不揮発成分100質量%に対して、60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましい。」
・・・
【0058】
<他の成分>
本発明の剥離フィルム用樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて他の成分を配合することができる。他の成分としては、ビニルベンジル化合物、アクリル化合物、マレイミド化合物、ブロックイソシアネート化合物等の熱硬化性樹脂、シリカ、アルミナ等の無機充填材、ゴム粒子、シリコンパウダー、ナイロンパウダー、フッ素パウダー等の有機充填剤、オルベン、ベントン等の増粘剤、シリコーン系、フッ素系、高分子系の消泡剤又はレベリング剤、イミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系、シラン系カップリング剤等の密着性付与剤、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、カーボンブラック等の着色剤、難燃剤等を挙げることができる。」

(甲1-6)「【0061】
<剥離フィルム>
本発明の剥離フィルム用樹脂組成物は、樹脂ワニス状態で支持基板上に塗布し、剥離フィルム用樹脂組成物層を形成して、剥離フィルムとすることができる。また、予め支持体上に形成された剥離フィルムを支持基板に積層して用いることもできる。本発明の剥離フィルムは様々な支持基板に積層させ、剥離用加熱処理によって剥離することができる。支持基板としては主に、ガラスエポキシ基板、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等の基板が挙げられる。
【0062】
<支持体付き剥離フィルム>
本発明の剥離フィルム用樹脂組成物は、樹脂組成物層が支持体上に層形成された支持体付き剥離フィルムの形態で好適に使用することができる。支持体付き剥離フィルムは、当業者に公知の方法に従って、例えば、本発明の樹脂組成物を有機溶剤に溶解した樹脂ワニスを調製し、支持体にこの樹脂ワニスを塗布し、加熱又は熱風吹きつけ等により有機溶剤を乾燥させて樹脂組成物層を形成させることにより製造することができる。
【0063】
支持体は、剥離フィルムを製造する際の支持体となるものであり、最終的には除去されるものである。支持体としては、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、更には離型紙や銅箔、アルミ箔等の金属箔などを挙げることができる。ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー等の耐熱樹脂も使用することができる。なお、銅箔を支持体として使用する場合は、塩化第二鉄、塩化第二銅等のエッチング液でエッチングすることにより除去することができる。支持体はマット(mat)処理、コロナ処理の他、離型処理を施してあってもよいが、剥離性を考慮すると離型処理が施されている方がより好ましい。支持体の厚さは特に限定されないが、10?150μmが好ましく、25?50μmがより好ましい。
・・・
【0065】
乾燥条件は特に限定されないが、剥離フィルムのラミネート性を保持するため、乾燥時に樹脂組成物の硬化をできる限り進行させないことが重要となる。また、剥離フィルム内に有機溶剤が多く残留すると、硬化後に膨れが発生する原因となるため、樹脂組成物中への有機溶剤の含有割合は5質量%以下、好ましくは3質量%以下となるように乾燥させる。具体的な乾燥条件は、樹脂組成物の硬化性や樹脂ワニス中の有機溶媒量によっても異なるが、例えば30?60質量%の有機溶剤を含む樹脂ワニスにおいては、80?120℃で3?13分乾燥させることができる。当業者は、簡単な実験により適宜、好適な乾燥条件を設定することができる。
【0066】
樹脂組成物層の厚さは、取り扱い性を向上させるという観点から、5?500μmの範囲とすることが好ましく、10?200μmの範囲とするのがより好ましく、15?150μmの範囲とするのが更に好ましく、20?100μmの範囲とするのが更に一層好ましい。樹脂組成物層は保護フィルムで保護されていてもよい。保護フィルムで保護することにより、樹脂組成物層表面へのゴミ等の付着やキズを防止することができる。保護フィルムはラミネートの際に剥離される。保護フィルムとしては支持体と同様の材料を用いることができる。保護フィルムの厚さは特に限定されないが、1?40μmの範囲が好ましい。
・・・
【0069】
本発明の支持体付き剥離フィルムは、コアレス基板の製造時において特に有用であり、その一例として以下のような工程をたどる。
(1)支持体付き剥離フィルムを支持基板にラミネートした後、室温付近に冷却し支持体付き剥離フィルムの支持体を剥離する。
(2)剥離フィルムに金属箔をラミネートし、金属箔上にさらにビルドアップ層を形成し、ビルドアップ層を硬化してビルドアップ絶縁層を形成する。ビルドアップ層の硬化用加熱処理の条件は150℃?220℃で20分?180分の範囲で選択され、160℃?200℃で30?120分の範囲が好ましい。硬化用加熱処理後の剥離フィルム用樹脂組成物は、180℃、90分の加熱処理を5回行った後の金属箔に対する密着強度が、ビア形成、メッキ、エッチングなど回路基板製造時において、金属箔を支持基板に固定し続けておく必要があるため、0.25kgf/cm以上が好ましく、0.27kgf/cm以上がより好ましく、0.3kgf/cm以上が更に好ましく、0.33kgf/cm以上が更に一層好ましい。金属箔に使用される金属としては、銅、アルミニウム、金、白金、銀、コバルト、クロム、ニッケル、チタン、タングステン、鉄、スズ、インジウム等が挙げられる。また、金属箔表面はクロメート処理、ニッケル処理、金処理等を施しても良い。また、樹脂付き金属箔を用いることもできる。
(3)ビルドアップ絶縁層にビア形成し、メッキ、エッチングなどを行い回路基板を形成する。必要に応じて、更にビルドアップ層を形成する。
(4)回路基板の形成後、剥離用加熱処理を行い、剥離フィルム用樹脂組成物と金属箔とを剥離する。剥離用加熱処理の温度はビルドアップ絶縁層の硬化温度以上であることが必要であり、例えばリフロー処理などが挙げられる。剥離用加熱処理の処理温度は220℃?300℃の範囲で選択され、230℃?290℃の範囲が好ましく、240℃?280℃の範囲がより好ましい。また、剥離用加熱処理の処理時間は1分?30分の範囲で選択され、1分?25分の範囲が好ましく、1分?20分の範囲がより好ましく、2分?20分の範囲が更に好ましく、3分?15分の範囲が更に一層好ましく、3分?10分の範囲が殊更好ましい。剥離用加熱処理後の剥離フィルム用樹脂組成物は、更に270℃、55秒の加熱処理を5回行った後の金属箔に対する剥離強度が、金属箔を容易に剥離する必要があるため、0.2kgf/cm以下が好ましく、0.1kgf/cm以下がより好ましく、0.08kgf/cm以下が更に好ましく、0.07kgf/cm以下が更に一層好ましく、0.06kgf/cm以下が殊更好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何等限定されるものではない。なお、以下の記載中の「部」は「質量部」を意味する。
【0071】
まず、本明細書での物性評価における測定方法・評価方法について説明する。
【0072】
<熱履歴1(硬化用加熱処理1)後の密着強度の測定と評価>
実施例及び比較例で得られた支持体付き剥離フィルムを銅箔(日鉱金属(株)製 JTC箔)のS面に(株)名機製作所製真空ラミネーターにより、温度100℃、圧力7kgf/cm2、気圧5mmHg以下の条件で片面にラミネートし、銅箔/樹脂組成物層/PETフィルムの3層品をそれぞれ用意した。次いでPETフィルムを剥離し、樹脂組成物層をメックエッチボンドCZ-8100(アゾール類の銅錯体、有機酸を含む表面処理剤)処理済銅張積層板上に、上記と同様にしてラミネートした。そして樹脂組成物層に対して、180℃90分の加熱処理を1回(熱履歴1)行い、評価基板1を作成した。得られた評価基板1を150×30mmの小片に切断し、小片の銅箔部分に、幅10mm、長さ100mmの切込みをいれ、銅箔の一端を剥がしてつかみ具で掴み、インストロン万能試験機を用いて、室温中にて、50mm/分の速度で垂直方向に35mmを引き剥がした。その時の荷重をJIS C6481に準拠して測定し、熱履歴1(180℃、90分の加熱処理を1回行うことに相当)後の密着強度(kgf/cm)とした。0.5kgf/cm未満の場合を「△」とし、0.5kgf/cm以上0.6kgf/cm未満の場合を「○」とし、0.6kgf/cm以上の場合を「◎」とした。
【0073】
<熱履歴2(硬化用加熱処理2)後の密着強度の測定と評価>
更に評価基板1に対し、180℃、90分の加熱処理を4回行い、評価基板2を作成した。得られた評価基板2を上記と同様にしてJIS C6481に準拠して測定し、熱履歴2(都合、180℃、90分の加熱処理を5回行ったことに相当)後の密着強度(kgf/cm)とした。0.2kgf/cmより大きい場合を「○」とした。硬化用加熱処理後に銅箔と絶縁層の間が膨れて浮き上がった場合を「×」とした。
【0074】
<熱履歴3(剥離用加熱処理)後の剥離強度の測定と評価>
更に評価基板2に対し、リフロー炉で、270℃、55秒の加熱処理を5回行い、評価基板3を作成した。得られた評価基板3を上記と同様にしてJIS C6481に準拠して測定し、熱履歴3(都合、180℃、90分の加熱処理を5回行い、270℃、55秒の加熱処理を5回行ったことに相当)後の剥離強度(kgf/cm)とした。0.1kgf/cm未満の場合を「○」とし、0.1kgf/cm以上0.2kgf/cm未満の場合を「△」とし、0.2kgf/cm以上の場合を「×」とした。」

(甲1-7)「【0076】
<製造例1 ポリイミド樹脂の製造(変性ポリイミド樹脂ワニスA) >
反応容器にG-3000(2官能性ヒドロキシル基末端ポリブタジエン、数平均分子量=5047(GPC法)、ヒドロキシル基当量=1798g/eq.、固形分100wt%:日本曹達(株)製)50gと、イプゾール150(芳香族炭化水素系混合溶媒:出光石油化学(株)製)23.5g、ジブチル錫ジラウレート0.005gを混合し均一に溶解させた。均一になったところで50℃に昇温し、更に撹拌しながら、トルエン-2,4-ジイソシアネート(イソシアネート基当量=87.08g/eq.)4.8gを添加し約3時間反応を行った。次いで、この反応物を室温まで冷却してから、これにベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(酸無水物当量=161.1g/eq.)8.96gと、トリエチレンジアミン0.07gと、エチルジグリコールアセテート(ダイセル化学工業(株)社製)40.4gを添加し、攪拌しながら130℃まで昇温し、約4時間反応を行った。FT-IRより2250cm-1のNCOピークの消失の確認を行った。NCOピーク消失の確認をもって反応の終点とみなし、反応物を室温まで降温してから100メッシュの濾布で濾過して変性ポリイミド樹脂(変性ポリイミド樹脂ワニスA)を得た。変性ポリイミド樹脂ワニスAの性状:粘度=7.5Pa・s(25℃、E型粘度計)、酸価=16.9mgKOH/g、固形分=50wt%、数平均分子量=13723、ポリブタジエン構造部分の含有率=50*100/(50+4.8+8.96)=78.4質量% 。
【0077】
<実施例1>
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量180、三菱化学(株)製「jER828EL」)4部、イミダゾール系硬化促進剤(四国化成(株)製、「2P4MZ」)0.1部、変性ポリイミド樹脂ワニスAを40部、MEK20部、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(エポキシ当量280、DIC(株)製、「HP7200H」)6.8部、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製、「H-43S」、平均粒径0.7μm)37部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、樹脂ワニスを作製した。次に、ポリエチレンテレフタレート(厚さ38μm、以下「PET」と略称する。)上に、乾燥後の樹脂組成物の厚みが40μmとなるようにダイコーターにて塗布し、80?120℃(平均100℃)で7分間乾燥した(残留溶媒量約2質量%)。次いで樹脂組成物層の表面に厚さ15μmのポリプロピレンフィルムを貼り合わせながらロール状に巻き取った。ロール状の支持体付き剥離フィルムを幅507mmにスリットし、これより507mm×336mmサイズのシート状の支持体付き剥離フィルムを得た。」

(甲1-8)「【0085】
<実施例9>
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量180、三菱化学(株)製「jER828EL」)4部、イミダゾール系硬化促進剤(四国化成(株)製、「2P4MZ」)0.1部、変性ポリイミド樹脂ワニスAを40部、MEK20部、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(エポキシ当量280、DIC(株)製、「HP7200H」)6.8部、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製、「H-43S」、平均粒径0.7μm)56部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、樹脂ワニスを作製した。その後、実施例1と同様にして支持体付き剥離フィルムを得た。」

(甲1-9)「【0086】
<実施例10>
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量180、三菱化学(株)製「jER828EL」)4部、イミダゾール系硬化促進剤(四国化成(株)製、「2P4MZ」)0.1部、変性ポリイミド樹脂ワニスAを40部、MEK20部、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(エポキシ当量280、DIC(株)製、「HP7200H」)6.8部、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製、「H-43S」、平均粒径0.7μm)18.5部、球形シリカ(アドマテックス(株)製、「SO-C2」、平均粒径0.5μm)18.5部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、樹脂ワニスを作製した。その後、実施例1と同様にして支持体付き剥離フィルムを得た。
・・・
【0088】
<比較例2>
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量180、三菱化学(株)製「jER828EL」)4部、フェノールノボラック樹脂(フェノール性水酸基当量105、DIC(株)製、「TD2090」の不揮発分60質量%のMEKワニス)1部、イミダゾール系硬化促進剤(四国化成(株)製、「2P4MZ」)0.1部、変性ポリイミド樹脂ワニスAを40部、MEK20部、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(エポキシ当量280、DIC(株)製、「HP7200H」)6.8部、球形シリカ(アドマテックス(株)製、「SO-C2」、平均粒径0.5μm)35部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、樹脂組成物ワニスを作製した。その後、実施例1と同様にして接着フィルムを得た。
【0089】
<比較例3>
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量180、三菱化学(株)製「jER828EL」)2部、フェノールノボラック樹脂(フェノール性水酸基当量105、DIC(株)製、「TD2090」の不揮発分60質量%のMEKワニス)2部、イミダゾール系硬化促進剤(四国化成(株)製、「2P4MZ」)0.1部、変性ポリイミド樹脂ワニスAを20部、MEK20部、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(エポキシ当量280、DIC(株)製、「HP7200H」)2.6部、球形シリカ(アドマテックス(株)製、「SO-C2」、平均粒径0.5μm)15部を混合し、高速回転ミキサーで均一に分散して、樹脂組成物ワニスを作製した。その後、実施例1と同様にして接着フィルムを得た。」

(甲1-10)「【0091】
【表1】



(イ)甲1に記載された発明
甲1には、摘記(甲1-1)ないし(甲1-9)、特に摘記(甲1-1)、(甲1-7)、(甲1-8)の記載からみて、以下の発明が記載されている。
「液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量180、三菱化学(株)製「jER828EL」)4部、イミダゾール系硬化促進剤(四国化成(株)製、「2P4MZ」)0.1部、変性ポリイミド樹脂ワニスAを40部、MEK20部、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(エポキシ当量280、DIC(株)製、「HP7200H」)6.8部、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製、「H-43S」、平均粒径0.7μm)56部を混合し、均一に分散した樹脂ワニスであって、
前記変性ポリイミド樹脂ワニスAは、以下に製造される樹脂のポリイミド樹脂のワニスである樹脂ワニス。

<製造例1 ポリイミド樹脂の製造(変性ポリイミド樹脂ワニスA) >
反応容器にG-3000(2官能性ヒドロキシル基末端ポリブタジエン、数平均分子量=5047(GPC法)、ヒドロキシル基当量=1798g/eq.、固形分100wt%:日本曹達(株)製)50gと、イプゾール150(芳香族炭化水素系混合溶媒:出光石油化学(株)製)23.5g、ジブチル錫ジラウレート0.005gを混合し均一に溶解させた。均一になったところで50℃に昇温し、更に撹拌しながら、トルエン-2,4-ジイソシアネート(イソシアネート基当量=87.08g/eq.)4.8gを添加し約3時間反応を行った。次いで、この反応物を室温まで冷却してから、これにベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(酸無水物当量=161.1g/eq.)8.96gと、トリエチレンジアミン0.07gと、エチルジグリコールアセテート(ダイセル化学工業(株)社製)40.4gを添加し、攪拌しながら130℃まで昇温し、約4時間反応を行った。FT-IRより2250cm^(-1)のNCOピークの消失の確認を行った。NCOピーク消失の確認をもって反応の終点とみなし、反応物を室温まで降温してから100メッシュの濾布で濾過して変性ポリイミド樹脂(変性ポリイミド樹脂ワニスA)を得た。変性ポリイミド樹脂ワニスAの性状:粘度=7.5Pa・s(25℃、E型粘度計)、酸価=16.9mgKOH/g、固形分=50wt%、数平均分子量=13723、ポリブタジエン構造部分の含有率=50*100/(50+4.8+8.96)=78.4質量%。」(以下、「甲1発明1」という。)

イ 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲1発明1を対比する。
甲1発明1の「液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量180、三菱化学(株)製「jER828EL」)、「ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(エポキシ当量280、DIC(株)製、「HP7200H」)」は、本件訂正発明1の「エポキシ樹脂」に相当する。
甲1発明1の「変性ポリイミド樹脂」は、ポリブタジエン骨格を有しているから、本件訂正発明1の「ブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂」に相当する。
甲1発明1の「樹脂ワニス」は、その配合成分からみて絶縁性の樹脂材料であるから、本件訂正発明1の「絶縁樹脂材料」に相当する。
そして、甲1発明1は、樹脂ワニス中にアミン系硬化剤を含むものではないから、本件訂正発明1の「(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)」ことに相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲1発明1は、
「エポキシ樹脂、およびブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂を含む絶縁樹脂材料(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
シリカについて、本件訂正発明1では、「シリカ」の配合を必須とし、さらに「シリカの含有量が絶縁性樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%であり」との特定があるのに対し、甲1発明1では水酸化アルミニウムを56部配合することは特定されているものの、シリカについての特定がない点。

<相違点2>
ブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂について、本件訂正発明1では「ガラス転移温度が30℃以下」との特定があるのに対し、甲1発明1ではこの特定がない点。

<相違点3>
絶縁樹脂材料について、本件訂正発明1では、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり、かつ前記硬化物の25℃における弾性率が0.5?14GPaである」との特定があるのに対し、甲1発明1ではこの特定がない点。

(イ)相違点1の検討
a まず、相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1発明1には、水酸化アルミニウムを含有することは記載されているものの、シリカの配合については何ら特定されていない。そして、甲1発明1の「水酸化アルミニウム」は、実施例9の(B)水酸化アルミニウムの含有量の項からみて、不揮発分の全体量に対して64.44質量%である。してみると、甲1発明において、「水酸化アルミニウム」を「不揮発成分100質量%に対し60?95質量%」含有するとはいえるものの、「シリカの含有量が絶縁性樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%であ」るとはいえない。
以上によれば、相違点1は、実質的な相違点である。
したがって、相違点2、3については検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

b 次に、相違点1の容易想到性について検討する。
甲1には、請求項1にて剥離フィルム用樹脂組成物が「水酸化アルミニウム」を含有することが記載されている。そして、シリカについては他の配合成分として「シリカ、アルミナ等の無機充填材」として配合することができること(摘記(甲1-5)、【0058】)、実施例10や比較例2、3(摘記(甲1-9))においてシリカを配合することが記載されている。また、甲1発明1の「水酸化アルミニウム」は、実施例9の(B)水酸化アルミニウムの含有量の項からみて、不揮発分の全体量に対して64.44質量%であり、水酸化アルミニウムの配合量だけみると、本件訂正発明1の「不揮発成分100質量%に対し60?95質量%」の範囲内であるため、水酸化アルミニウムをシリカに代える動機付けがあるか検討する。
しかしながら、甲1の【表1】において、シリカと水酸化アルミニウムを同程度の配合量で配合する組成物である比較例2と実施例2を比較すると、比較例2はシリカを35質量部、実施例2は水酸化アルミニウムを37質量部配合するものであって、かつ、両者はその他の各配合成分の配合量が同じであるため、比較例2は「熱履歴3後の剥離強度(kgf/cm)」が「×(0.37)」であり、実施例2の「○(0.02)」より劣ることが示されている(摘記(甲1-10)、表1、摘記(甲1-6)、【0074】)。そうすると、甲1には、同程度の配合量でシリカ又は水酸化アルミニウムを配合した樹脂組成物を比較した場合、シリカを用いると、水酸化アルミニウムを配合するよりも「熱履歴3後の剥離強度(kgf/cm)」の物性が劣ることが示されているといえるから、甲1発明1において、水酸化アルミニウムに代えて、水酸化アルミニウムよりも物性が劣るとされるシリカを用いることは、阻害要因があるといえるから、動機付けがあるとはいえない。
そして、本件訂正発明1は、エポキシ樹脂と特定の高分子樹脂を含む絶縁性材料において、大量のシリカを配合した場合でも、弾性の上昇が抑えられ、低弾性率を低線熱膨脹係数の双方の特性に優れた絶縁樹脂材料が得られることを見出したものであり、寸法安定性が高く、かつ反りが小さい、絶縁性材料を提供するという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(【0005】、【0007】)。
そうすると、甲1発明1において、「水酸化アルミニウム」に代えて、「シリカ」を「シリカの含有量が絶縁性樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%」を配合することは、当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって、相違点2、3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件訂正発明2について
(ア)対比
本件訂正発明2と甲1発明1を対比する。
甲1発明1の「液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量180、三菱化学(株)製「jER828EL」)、「ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(エポキシ当量280、DIC(株)製、「HP7200H」)」は、本件訂正発明2の「エポキシ樹脂」に相当する。
甲1発明1の「変性ポリイミド樹脂」は、ポリブタジエン骨格を有しているから、本件訂正発明2の「ブタジエン骨格を有する高分子樹脂」に相当する。
また、甲1発明1の「樹脂ワニス」は、その配合成分からみて絶縁性の樹脂材料であるから、本件訂正発明2の「絶縁樹脂材料」に相当する。
さらに、甲1発明1は、樹脂ワニス中にアミン系硬化剤を含むものではないから、本件訂正発明2の「(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)」ことに相当する。
そうすると、本件訂正発明2と甲1発明1は、
「エポキシ樹脂、およびブタジエン骨格を有する高分子樹脂を含む絶縁樹脂材料(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1’>
シリカについて、本件訂正発明2では、「シリカの含有量が絶縁性樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%であり」との特定があるのに対し、甲1発明1ではこの特定がない点。

<相違点2’>
ブタジエン骨格を有する高分子樹脂について、本件訂正発明2では「ガラス転移温度が30℃以下」との特定があるのに対し、甲1発明1ではこの特定がない点。

<相違点3’>
絶縁樹脂材料について、本件訂正発明2では、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり」との特定があるのに対し、甲1発明1ではこの特定がない点。

<相違点4>
絶縁樹脂材料について、本件訂正発明2では、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数をA(ppm/℃)とし、150℃?220℃における線熱膨張係数をB(ppm/℃)とした場合、0≦B-A≦15である、」との特定があるのに対し、甲1発明1ではこの特定がない点。

(イ)相違点1’の検討
a まず、相違点1’が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
相違点1’については、上記イ(ア)の相違点1と同旨であって、その判断についても同様となり、相違点1’は実質的な相違点である。

b 次に、相違点1’の容易想到性について検討する。
相違点1’については、上記イ(ア)の相違点1と同旨であって、その判断についても同様となり、本件訂正発明2は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件訂正発明2は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件訂正発明3ないし7、9、11ないし17(新規性)、及び本件訂正発明3ないし9、11ないし17(進歩性)について
本件訂正発明3ないし7、9、11ないし17は、本件訂正発明1または2を直接又は間接的に引用するものであるが、上記イ、ウで述べたとおり、本件訂正発明1及び2が甲1に記載された発明であるとはいえない以上、本件訂正発明3ないし7、9、11ないし17についても同様に、甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件訂正発明3ないし9、11ないし17は、本件訂正発明1または2を直接又は間接的に引用するものであるが、上記イ、ウで述べたとおり、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件訂正発明3ないし9、11ないし17についても同様に、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)理由1(新規性)、理由2(進歩性)について(当審で職権調査により発見した引用文献Aを主引用例とした場合)

ア 引用文献Aに記載された事項及び引用文献Aに記載された発明
(ア)引用文献Aに記載された事項
Aア 「【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)無機充填材、(C)ポリブタジエン骨格を有する樹脂を必須成分として含むプリント配線板用エポキシ樹脂組成物であって、無機充填材として、(b1)平均粒径5?100nmの微粒子と、(b2)窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素から選ばれる少なくとも1つとを含有することを特徴とするプリント配線板用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか一に記載のプリント配線板用エポキシ樹脂組成物からなる絶縁層をフィルム上、又は金属箔上に形成してなる樹脂シート。」(請求項1、7)

Aイ 「【0007】
本発明は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、本発明の目的は、繊維基材への含浸性が良好で、放熱性、低熱膨張性、ドリル並びにレーザー孔開け加工性、はんだ耐熱性、銅箔の引き剥がし強度、細線加工性及び信頼性に優れるプリプレグ、及び金属張積層板を作製できるプリント配線用エポキシ樹脂組成物を提供することにある。」

Aウ 「【0010】
【図1】本発明のプリプレグの製造に用いられる含浸塗布設備の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の金属張積層板の製造方法の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の金属張積層板の製造方法の他の一例を示す概略図である。【発明を実施するための形態】
【0011】
(プリント配線板用エポキシ樹脂組成物)
まず、プリント配線板用エポキシ樹脂組成物について説明する。
本発明のプリント配線板用エポキシ樹脂組成物(以下、単に「エポキシ樹脂組成物」という場合がある。)は、(A)エポキシ樹脂、(B)無機充填材、(C)ポリブタジエン骨格を有する樹脂を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、(B)無機充填材は、(b1)平均粒径5?100nmのと、(b2)窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素から選ばれる少なくとも1つを含有するものである。これにより、放熱性の高い無機フィラーを高充填化してもワニスの繊維基材への含浸性が良好となる。また、そのプリプレグ、および金属張積層板は、放熱性、低熱膨張性、ドリルおよびレーザー孔開け加工性、はんだ耐熱性、銅箔の引き剥がし強度、および細線加工性に優れる。(b1)平均粒径5?100nmの微粒子は、無機充填材の高充填化、繊維基材への含浸性を高め、および金属張積層板の成形性を向上させることがでる。従って、金属張積層板のはんだ耐熱性が向上する。また、絶縁樹脂層の放熱性、低熱膨張性、ドリル、並びにレーザー孔開け加工性、および難燃性にも優れる。(b2)窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素から選ばれる少なくとも1つを含有することで、ドリル孔開け加工性がさらに優れ、(C)ポリブタジエン骨格を有する樹脂を含有することで、レーザー孔開け加工性、銅箔の引き剥がし強度、および細線加工性がさらに優れる。さらに、(b3)平均粒径1?10μmの球状アルミナを含有することで、プリント配線板の絶縁信頼性、および半導体装置の放熱性に優れる。【0012】
前記(b1)平均粒径5?100nmの無機微粒子は、多量の無機充填材を繊維基材中に均一に含浸させることができるので、プリプレグ、または金属張積層板の熱膨張係数を小さくすることができる。(b1)平均粒径5?100nmの無機微粒子は、特に限定されないが、例えば、タルク、焼成タルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ、ガラス等のケイ酸塩、酸化チタン、アルミナ、シリカ、溶融シリカ等の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム等の硫酸塩または亜硫酸塩、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、窒化アルミニウムニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化炭素等の窒化物、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等のチタン酸塩等を挙げることができる。これらの中の1種類を単独で用いることもできるし、2種類以上を併用したりすることもできる。
この中でもシリカ、酸化チタン、硫酸バリウム等が、比較的球状で入手しやすく、また金属張積層板の線熱膨張率を下げる点で好ましい。また、分散性の観点から、シリカであることが更に好ましい。
【0013】
前記(b1)平均粒径5?100nmの無機微粒子の形状は、球状であることが好ましい。これにより、含浸性を向上させることができる。球状にする方法は特に限定されないが、例えば、シリカの場合は、燃焼法などの乾式の溶融シリカや沈降法やゲル法などの湿式のゾルゲルシリカなどにより球状にすることができる。
【0014】
前記(b1)平均粒径5?100nmの無機微粒子の配合量は、特に限定されないが、(B)無機充填材の(b2)窒化ホウ素、窒化アルミニウム、および窒化ケイ素の総体積を100体積部とした場合、その100体積部に対して1?40体積部であることが好ましい。さらに、5?25体積部が特に好ましい。これにより無機充填材の分散性と繊維基材への含浸性、および低熱膨張性に優れる。
・・・
【0016】
前記(b2)窒化ホウ素、窒化アルミニウム、および窒化ケイ素は、エポキシ樹脂組成物の硬化物の放熱性を向上し、また、孔開け加工時の孔周辺の放熱性が向上することにより、孔周辺の熱劣化を防止するため孔形状に優れる。特に、窒化ホウ素を用いるとエポキシ樹脂組成物の硬化物の線熱膨張係数を小さくできる。窒化ホウ素は、ドリル孔開け加工性のため、六方晶窒化ホウ素が好ましく、成形性や電気絶縁性等を損なわないよう高純度で粗大粒の少ないものを選ぶことが好ましい。
【0017】
前記(b2)窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素の含有量は、特に限定されないが、エポキシ樹脂組成物全体の固形分基準で15?75重量%であることが好ましく、繊維基材へ含浸性、および金属張積層板にする際の成形性、および放熱性の点から、特に25?65重量%であることが好ましい。」

Aエ 「【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0069】
実施例及び比較例において用いた原材料は以下の通りである。
(1)エポキシ樹脂A:ナフタレン変性クレゾールノボラック型エポキシ樹脂 DIC社製HP-5000、エポキシ当量250
(2)エポキシ樹脂B:ビフェニルジメチレン型エポキシ樹脂 日本化薬社製NC-3000、エポキシ当量275
(3)フェノール系硬化剤:ビフェニルアルキレン型ノボラック樹脂 明和化成社製 MEH-7851-4L、水酸基当量187
(4)ノボラック型シアネート樹脂 ロンザジャパン社製 プリマセットPT-30、シアネート当量124
(5)ビスマレイミド樹脂:ケイアイ化成工業社製 BMI-70
(6)エポキシ化ポリブタジエン:ダイセル化学工業社製 PB-3600
(7)カルボキシル化ポリブタジエン:宇部興産社製 CTBN1300x13NA
(8)ヒドロキシル化ポリブタジエン:出光興産社製 R-45HT
(9)平均粒径5?100nmの微粒子:球状シリカ、トクヤマ社製N SS-5N、平均粒径75nm
(10)窒化ホウ素A:鱗片状、電気化学工業社製 SP-7、平均粒径1.4μm
(11)窒化ホウ素B:粒状、水島鉄工社製の粒状グレートをボールミルで粉砕して平均粒径4.0μmにしたのもの
(12)破砕状アルミナ:日本軽金属工業社製 LS-210、平均粒径3.0μm
(13)球状アルミナ:電気化学工業社製 DAW-05、平均粒径5.0μm
(14)ベーマイト:略立方形状、河合石灰社製 BMB、平均粒径0.5μm
(15)球状シリカ:アドマテックス社製 SO-25R、平均粒径0.5μm
(16)硬化促進剤:四国化成社製 キュアゾール2E4MZ2-エチルー4-メチルイミダゾール)
【0070】
(実施例1)
(1)プリント配線板用エポキシ樹脂組成物含有ワニスの調製
まず、(A)エポキシ樹脂として、エポキシ樹脂A(DIC社製HP-5000)を15重量部、フェノール系硬化剤(明和化成社製 MEH-7851-4L)を15重量部、(b1)平均粒径5?100μmの微粒子(トクヤマ社製 NSS-5N)を5重量部、(b2)として窒化ホウ素Aを30重量部、ベーマイト(河合石灰社製BMB)を15重量部、球状シリカを15重量部、(C)ポリブタジエン骨格を有する樹脂としてエポキシ化ポリブタジエン(ダイセル化学工業社製 PB-3600)を5重量部、硬化促進剤としてイミダゾール化合物(四国化成社製 2E4MZ)を0.5重量部とを、メチルエチルケトン中に溶解・混合させ、高速撹拌装置を用い撹拌して、エポキシ樹脂組成物が固形分基準で70重量%のワニスを得た。
【0071】
(2)プリプレグの作製
前記ワニスをガラス織布(厚さ87μm、日東紡製Eガラス織布、WEA-2116)に含浸し、180℃の加熱炉で2分間乾燥して、プリプレグ中のエポキシ樹脂組成物が固形分基準で約50重量%のプリプレグを得た。
【0072】
(3)金属張積層板の作製
前記プリプレグを4枚重ね、その両面に12μmの銅箔(三井金属鉱業社製、3EC-VLP箔)を重ねて、圧力3MPa、温度220℃で2時間加熱加圧成形し、厚さ0.130mmの両面に銅箔を有する金属張積層板を得た。
【0073】
(4)プリント配線板の製造
両面に銅箔を有する前記金属張積層板を用い、ドリル機で開孔しスルーホールを形成後、無電解メッキで上下銅箔間の導通を図った。
なお、スルーホール壁間は、スルーホール壁間絶縁信頼性を評価するため、スルーホール壁間0.2mmの部分を有する。
両面の銅箔をエッチングすることにより内層回路を両面に形成した(L(導体回路幅(μm))/S(導体回路間幅(μm))=50/50)。
次に、内層回路に過酸化水素水と硫酸を主成分とする薬液(旭電化工業(株)製、テックSO-G)をスプレー吹き付けすることにより、粗化処理による凹凸形成を行った。
【0074】
次に前記プリプレグを内層回路上に真空積層装置を用いて積層し、温度170℃、時間60分間加熱硬化し、積層体を得た。
その後、得られた積層体が有するプリプレグに、炭酸レーザー装置(日立ビアメカニクス(株)製:LG-2G212)を用いてφ60μmの開孔部(ブラインド・ビアホール)を形成し、70℃の膨潤液(アトテックジャパン社製、スウェリングディップ セキュリガント P)に5分間浸漬し、さらに80℃の過マンガン酸カリウム水溶液(アトテックジャパン社製、コンセントレートコンパクト CP)に10分浸漬後、中和して粗化処理を行った。
次に、脱脂、触媒付与、活性化の工程を経た後、無電解銅メッキ皮膜による約0.5μmの給電層を形成した。この給電層表面に、厚さ25μmの紫外線感光性ドライフィルム(旭化成社製、AQ-2558)をホットロールラミネーターにより貼り合わせ、最小線幅/線間が20/20μmのパターンが描画されたクロム蒸着マスク(トウワプロセス社製)を使用して、位置を合わせ、露光装置(ウシオ電機社製UX-1100SM-AJN01)にて露光、炭酸ソーダ水溶液にて現像し、めっきレジストを形成した。
【0075】
次に、給電層を電極として電解銅めっき(奥野製薬社製81-HL)を3A/dm2、30分間行って、厚さ約25μmの銅配線を形成した。ここで2段階剥離機を用いて、前記めっきレジストを剥離した。各薬液は、1段階目のアルカリ水溶液層にはモノエタノールアミン溶液(三菱ガス化学社製R-100)、2段階目の酸化性樹脂エッチング剤には過マンガン酸カリウムと水酸化ナトリウムを主成分とする水溶液(日本マクダーミッド社製、マキュダイザー9275、9276)、中和には酸性アミン水溶液(日本マクダーミッド社製マキュダイザー9279)をそれぞれ用いた。
【0076】
そして、給電層を過硫酸アンモニウム水溶液(メルテックス(株)製、AD-485)に浸漬処理することで、エッチング除去し、配線間の絶縁を確保した。次に、絶縁層を温度200℃、時間60分で最終硬化させ、最後に回路表面にソルダーレジスト(太陽インキ社製、PSR4000/AUS308)を形成し、プリント配線板を得た。
なお、半導体素子の半田バンプ配列に相当する前記プリント配線板の接続用電極部には、ENEPIG処理を施した。
ENEPIG処理は、[1]クリーナー処理、[2]ソフトエッチング処理、[3]酸洗処理、[4]プレディップ処理、[5]パラジウム触媒付与、[6]無電解ニッケルメッキ処理、[7]無電解パラジウムメッキ処理、[8]無電解金メッキ処理の工程で行われた。
【0077】
(5)半導体装置の製造
ENEPIG処理を施されたプリント配線板を50mm×50mmの大きさに切断し使用した。半導体素子(TEGチップ、サイズ15mm×15mm、厚み0.8mm)は、Sn/Pb組成の共晶で形成された半田バンプを有し、半導体素子の回路保護膜はポジ型感光性樹脂(住友ベークライト社製、CRC-8300)で形成されたものを使用した。半導体装置の組み立ては、まず、半田バンプにフラックス材を転写法により均一に塗布し、次にフリップチップボンダー装置を用い、プリント配線板上に加熱圧着により搭載した。次に、IRリフロー炉で半田バンプを溶融接合した後、液状封止樹脂(住友ベークライト社製、CRP-4152S)を充填し、液状封止樹脂を硬化させることで半導体装置を得た。尚、液状封止樹脂の効果条件は、温度150℃、120分の条件であった。
【0078】
<実施例2?7、9および比較例1?2>
表1、及び表2に従い配合した以外は、実施例1と同様にプリプレグ、金属張積層板、プリント配線板、および半導体装置を得た。
前記で得られたプリプレグ、金属張積層板、多層プリント配線板、及び半導体装置について、以下の評価項目の評価を行った。また、実施例及び比較例のエポキシ樹脂組成物の配合組成、各物性値と評価結果を表1、及び2に示す。尚、表中において、各配合量は「重量部」を示す。
【0079】
<実施例8、および比較例3>
表1、及び表2に従い配合した以外は、実施例1と同様に樹脂ワニスを調製した後、以下の方法でプリプレグ、金属張積層板を製造した。
なお、プリント配線板、および半導体装置は、実施例1と同様にして得た。
【0080】
(2)プリプレグの作製
実施例で得られたワニスを38μmのポリエチレンテレフタレート繊維基材(以下、PET基材)上に流延塗布して、温度140℃で時間10分で溶剤を揮発乾燥させて、樹脂層の厚みが30μmになるようにした。前記樹脂層付き繊維基材を、ガラス織布(厚さ87μm、日東紡社製Eガラス織布、WEA-2116)の両面に樹脂層がガラス織布に接するように配し、圧力0.5MPa、温度140℃で1分間の条件で真空加圧式ラミネーター(名機製作所社製MLVP-500)を用い、加熱加圧して、樹脂組成物を含浸させ両面にPET基材を有するプリプレグ得た。
【0081】
(3)金属張積層板の作製
次いで、両面のPET基材を剥離したプリプレグを4枚重ね、その両面に12μmの銅箔(三井金属鉱業社製、3EC-VLP箔)を重ねて、圧力1MPa、温度220℃で2時間加熱加圧成形し、樹脂層の厚み0.4mmの両面に銅箔を有する金属張積層板を得た。
【0082】
【表1】


【0083】
【表2】


【0084】
表1、及び表2に示す結果を得るために行った評価項目の内容を以下に示す。
・・・
【0087】
(3)線熱膨張係数
線熱膨張係数は、TMA(熱機械的分析)装置(TAインスツルメント社製、Q400)を用いて、4mm×20mmの試験片を作製し、温度範囲30?300℃、10℃/分、荷重5gの条件で2サイクル目の50?100℃における線膨張係数(CTE)を測定した。尚、サンプルは、各実施例および比較例で得られたプリプレグを2枚用いて、第2樹脂層を向かい合わせて、温度220℃、圧力1MPa、時間120分の条件でプレス積層した後、銅箔を除去したものを用いた。」

Aオ 「【符号の説明】
【0095】
1…基材
2…含浸槽
3…樹脂ワニス
4…ディップロール
5…スクイズロール
6…乾燥機
7…プリプレグ
8…上部ロール
10…樹脂付き金属箔
11…金属箔
12…絶縁樹脂層
20…基材
30…樹脂付き高分子フィルムシート
31…高分子フィルムシート
32…絶縁樹脂層
40…プリプレグ
41…金属箔付きプリプレグ
42…高分子フィルムシート付きプリプレグ
51…金属張積層板
52…金属張積層板」

Aカ 「【図3】




(イ)引用文献Aに記載された発明
摘記AアないしAオ、特に、Aエの実施例1の記載からみて、引用文献Aには以下の発明が記載されている。
「エポキシ樹脂A(ナフタレン変性クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製HP-5000 15重量部、フェノール系硬化剤(明和化成社製 MEH-7851-4L)を15重量部、(b1)平均粒径5?100μmの微粒子、球状シリカ(トクヤマ社製 N SS-5N)を5重量部、(b2)として窒化ホウ素Aを30重量部、ベーマイト(河合石灰社製BMB)を15重量部、シリカとして球状シリカ(SO-25R、平均粒径0.5μm)を15重量部、(C)ポリブタジエン骨格を有する樹脂としてエポキシ化ポリブタジエン(ダイセル化学工業社製 PB-3600)を5重量部、硬化促進剤としてイミダゾール化合物(四国化成社製 2E4MZ)を0.5重量部とを、メチルエチルケトン中に溶解・混合させ、高速撹拌装置を用い撹拌して得た、エポキシ樹脂組成物が固形分基準で70重量%のワニス。」(以下、「引用発明A」という。)

イ 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と引用発明Aを対比する。
引用発明Aの「エポキシ樹脂A」は、本件訂正発明1の「エポキシ樹脂」に相当する。
引用発明Aの「(b1)平均粒径5?100μmの微粒子、球状シリカ(トクヤマ社製 NSS-5N)」、「球状シリカ(SO-25R、平均粒径0.5μm)」は、本件訂正発明1の「シリカ」に相当する。そして、引用発明Aの不揮発分の全含有量が100.5重量部であり、シリカである「(b1)平均粒径5?100μmの微粒子、球状シリカ(トクヤマ社製 NSS-5N)」、「球状シリカ(SO-25R、平均粒径0.5μm)」の含有量の合計が20重量部となって、その含有量の割合は19.9質量%となる。
引用発明Aの「エポキシ化ポリブタジエン(ダイセル化学工業社製 PB-3600)」は、本件明細書の段落【0027】に「ブタジエン骨格を有する高分子樹脂」として記載のあるダイセル化学工業(株)製「PB3600」であり、参考資料1には、株式会社ダイセルのエポリードPB3600が、エポキシ化ポリブタジエンであり、分子量Mnが5900であり、粘度が20?70(Pa・s 45℃)であることが記載されていることから、45℃で粘度が20?70Pa・sの液状を有するのであれば、ガラス転移温度が30℃以下であると解されることから、本件訂正発明1の「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂」に相当する。
引用発明Aの「樹脂ワニス」は、表1の実施例1の評価項目においてスルーホール間の絶縁信頼性を有しており、また、その配合成分からみても絶縁性の樹脂材料であるから、本件訂正発明1の「絶縁樹脂材料」に相当する。
そして、引用発明Aは、樹脂ワニス中にアミン系硬化剤を含むものではないから、本件訂正発明1の「(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)」ことに相当する。
そうすると、本件訂正発明1と引用発明Aは、
「エポキシ樹脂、シリカおよびガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂を含む絶縁樹脂材料(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点A1>
シリカについて、本件訂正発明1では、「シリカの含有量が絶縁性樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%であり」との特定があるのに対し、引用発明Aではシリカを用いることが特定されているものの、含有量の割合が19.9質量%である点。

<相違点A2>
絶縁樹脂材料について、本件訂正発明1では、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり、かつ前記硬化物の25℃における弾性率が0.5?14GPaである」との特定があるのに対し、引用発明Aではこの特定がない点。

(イ)相違点A1の検討
a まず、相違点A1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
引用発明Aのシリカの含有量の割合は19.9質量%となるから、引用発明Aにおいて「不揮発成分100質量%に対し60?95質量%であり」と特定する範囲より少ない。してみると、引用発明Aは、「シリカの含有量が絶縁性樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%であ」るとはいえない。
以上によれば、相違点A1は、実質的な相違点である。
したがって、相違点A2については検討するまでもなく、本件訂正発明1は、引用文献Aに記載された発明であるとはいえない。

b 次に、相違点A1の容易想到性について検討する。
引用文献Aには、請求項1にてプリント配線板樹脂組成物中の無機充填材として「(b1)平均粒径5?100nmの微粒子と、(b2)窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素から選ばれる少なくとも1つを含有する」ことが記載され、引用発明Aにおいて、無機充填材として「(b1)平均粒径5?100μmの微粒子:球状シリカ(トクヤマ社製 N SS-5N)」、「(b2)として窒化ホウ素A」、「ベーマイト(河合石灰社製BMB)」、「球状シリカ」を含有する。そして、引用発明Aの不揮発分の全含有量が100.5重量部であり、無機充填材の含有量の合計が65重量部となって、その含有量の割合は64.7質量%以上となり、無機充填材の全体量からみると、本件訂正発明1の「不揮発成分100質量%に対し60?95質量%」の範囲内である。そこで、引用発明Aにおいて、無機充填材中のシリカを増量させる動機付けがあるかについて検討する。
引用文献Aには、(b1)について、分散性の観点からシリカが好ましいこと(【0012】)、「前記(b1)平均粒径5?100nmの無機微粒子の配合量は、特に限定されないが、(B)無機充填材の(b2)窒化ホウ素、窒化アルミニウム、および窒化ケイ素の総体積を100体積部とした場合、その100体積部に対して1?40体積部であることが好ましい。さらに、5?25体積部が特に好ましい。これにより無機充填材の分散性と繊維基材への含浸性、および低熱膨張性に優れる。」(【0014】)、「前記(b2)窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素の含有量は、特に限定されないが、エポキシ樹脂組成物全体の固形分基準で15?75重量%であること」(【0017】)と記載されている。してみると、引用文献Aでは、(b1)として球形シリカを用いることが記載されているものの、(b2)窒化ホウ素等の100体積部に対し1?40体積部程度であり、かつ、(b2)窒化ホウ素等をエポキシ樹脂組成物全体の固形分基準で15?75重量%配合することが必須であることから、引用発明Aにおいて、(b1)のシリカを増量したとしても、「不揮発成分100質量%に対し60?95質量%」まで配合することが引用文献Aに記載されているとまではいえない。
そして、本件訂正発明1は、熱硬化性樹脂と特定の高分子樹脂を含む絶縁性材料において、大量のシリカを配合した場合でも、弾性の上昇が抑えられ、低弾性率を低線熱膨脹係数の双方の特性に優れた絶縁樹脂材料が得られることを見出したものであり、寸法安定性が高く、かつ反りが小さい、絶縁性材料を提供するという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(【0005】、【0007】)。
そうすると、引用発明Aにおいて、(b1)シリカやその他のシリカを「不揮発成分100質量%に対し60?95質量%」配合することは、当業者が容易に想到することができたということはできない。

また、引用文献B、参考文献1、参考資料1には、ダイセル化学工業(株)製のPB3600が、ポリブタジエン構造を有すること、数平均分子量等の物性が記載されているだけであって、相違点A1に関する記載は何もない。

したがって、相違点A2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、引用文献Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、引用文献Aに記載された発明であるとはいえず、また、引用文献Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件訂正発明2について
(ア)対比
本件訂正発明2と引用発明Aを対比する。
引用発明Aの「エポキシ樹脂A」は、本件訂正発明2の「エポキシ樹脂」に相当する。
引用発明Aの「球状シリカ」は、本件訂正発明1の「シリカ」に相当する。
引用発明Aの「エポキシ化ポリブタジエン(ダイセル化学工業社製 PB-3600)」は、本件明細書の段落【0027】に「ブタジエン骨格を有する高分子樹脂」として記載のあるダイセル化学工業(株)製「PB3600」であり、参考資料1には、株式会社ダイセルのエポリードPB3600が、エポキシ化ポリブタジエンであり、分子量Mnが5900であり、粘度が20?70(Pa・s 45℃)であることが記載されていることから、45℃で粘度が20?70Pa・sの液状を有するのであれば、ガラス転移温度が30℃以下であると解されることから、本件訂正発明2の「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格を有する高分子樹脂」に相当する。 引用発明Aの「樹脂ワニス」は、表1の実施例1の評価項目においてスルーホール間の絶縁信頼性を有しており、また、その配合成分からみても絶縁性の樹脂材料であるから、本件訂正発明2の「絶縁樹脂材料」に相当する。 そして、引用発明Aは、樹脂ワニス中にアミン系硬化剤を含むものではないから、本件訂正発明2の「(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)」ことに相当する。
そうすると、本件訂正発明2と引用発明Aは、
「エポキシ樹脂、シリカおよびガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格を有する高分子樹脂を含む絶縁樹脂材料(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点A1’>
シリカについて、本件訂正発明2では、「シリカの含有量が絶縁性樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%であり」との特定があるのに対し、引用発明Aではシリカを用いることが特定されているものの、含有量の割合が19.9質量%である点。

<相違点A2’>
絶縁樹脂材料について、本件訂正発明2では、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり、かつ前記硬化物の25℃における弾性率が0.5?14GPaである」との特定があるのに対し、引用発明Aではこの特定がない点。

<相違点A3>
絶縁樹脂材料について、本件訂正発明2では、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数をA(ppm/℃)とし、150℃?220℃における線熱膨張係数をB(ppm/℃)とした場合、0≦B-A≦15である」との特定があるのに対し、引用発明Aではこの特定がない点。

(イ)相違点A1’の検討
a まず、相違点A1’が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
相違点A1’については、上記イ(ア)の相違点A1と同じであって、その判断についても同様となり、相違点A1’は実質的な相違点である。

b 次に、相違点A1’の容易想到性について検討する。
相違点A1’については、上記イ(ア)の相違点A1と同じであって、その判断についても同様となり、本件訂正発明2は、引用文献A、引用文献B、参考文献1、参考資料1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件訂正発明2は、引用文献Aに記載された発明であるとはいえず、また、引用文献Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件訂正発明3ないし7、9、11、13及び15(新規性)、及び本件訂正発明3ないし7、9、11、13、15及び16(進歩性)について
本件訂正発明3ないし7、9、11、13及び15は、本件訂正発明1または2を直接又は間接的に引用するものであるが、上記イ、ウで述べたとおり、本件訂正発明1及び2が引用文献Aに記載された発明であるとはいえない以上、本件訂正発明3ないし7、9、11、13及び15についても同様に、引用文献Aに記載された発明であるとはいえない。
また、本件訂正発明3ないし7、9、11、13、15及び16は、本件訂正発明1または2を直接又は間接的に引用するものであるが、上記イ、ウで述べたとおり、引用文献A、引用文献B、参考文献1、参考資料1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件訂正発明3ないし7、9、11、13、15及び16についても同様に、引用文献A、引用文献B、参考文献1、参考資料1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)理由1(新規性)、理由2(進歩性)について(当審で職権調査により発見した引用文献Bを主引用例とした場合)

ア 引用文献Bに記載された事項及び引用文献Bに記載された発明
(ア) 引用文献Bに記載された事項
Bア 「[請求項1](A)液状エポキシ樹脂、(B)アミン硬化剤、(C)アクリル樹脂、および(D)無機充填剤を含有する液状封止樹脂組成物。
[請求項2]前記液状樹脂組成物のうち、(C)アクリル樹脂の含有量が、0.4重量%以上20重量%以下である請求項1記載の液状封止樹脂組成物。
[請求項3]前記(C)アクリル樹脂が、複数の異なるモノマー成分のアクリル共重合体から構成される請求項1又は2に記載の液状封止樹脂組成物。
[請求項4]前記(C)アクリル樹脂が、複数の異なるモノマー成分から構成されるブロックポリマー又はグラフトポリマーである請求項1に記載の液状封止樹脂組成物。
[請求項5]前記(C)アクリル樹脂が、トリブロックポリマーである請求項4に記載の液状封止樹脂組成物。
[請求項6]前記(C)アクリル樹脂が、複数の異なる成分のアクリルポリマーから構成され、少なくとも1つの成分のガラス転移温度が0℃以下であるブロックポリマーである請求項4に記載の液状封止樹脂組成物。
[請求項7]前記(C)アクリル樹脂が、エポキシ樹脂と親和性の高い成分が、ガラス転移温度が0℃以下である成分を挟み込んだ構造を持つトリブロックポリマーである請求項5に記載の液状封止樹脂組成物。
[請求項8]前記(C)アクリル樹脂が、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)及びポリアクリル酸n-ブチル(PnBA)からなるブロックポリマーである請求項4に記載の液状封止樹脂組成物。
[請求項9]ポリメタクリル酸メチル(PMMA)成分の割合が10?50重量%である請求項8に記載の液状封止樹脂組成物。
[請求項10]前記(C)アクリル樹脂の重量平均分子量が5000以上150000以下である請求項1に記載の液状封止樹脂組成物。
[請求項11]前記(B)アミン硬化剤が芳香族ポリアミン型硬化剤である請求項1に記載の液状封止樹脂組成物。
[請求項12]アンダーフィル材用樹脂組成物である請求項1?11のいずれか1項に記載の液状封止樹脂組成物。
[請求項13]請求項1?12のいずれか1項に記載の液状封止樹脂組成物を用いて、半導体素子と基板を封止して作製された半導体装置。
[請求項14]請求項1?11のいずれか1項に記載の液状封止樹脂組成物からなるアンダーフィル材。
[請求項15]半田電極が具備された半導体素子を基板に接続する工程、前記半導体素子と前記基板の間に請求項1に記載の液状樹脂組成物を充填する工程、及び充填した前記液状樹脂組成物を硬化させる工程を有する半導体装置の製造方法。
[請求項16]請求項1に記載の(A)液状エポキシ樹脂(B)アミン硬化剤、(C)アクリル樹脂、及び(D)無機充填剤を配合する工程、分散混練する工程、及び真空脱泡処理する工程を有するアンダーフィル材の製造方法。」

Bイ 「[0007]本発明によれば、フリップチップ方式の半導体装置のアンダーフィル材として、低熱線膨張かつ室温低弾性率で、高い信頼性を有し、狭ギャップへの充填性に優れる液状樹脂組成物を提供することができる。
・・・
[0010]以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる(A)液状エポキシ樹脂としては、一分子中にエポキシ基を2個以上有するものであれば特に分子量や構造は限定されるものではない。例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、ジアミノジフェニルメタン型グリシジルアミン、アミノフェノール型グリシジルアミンなどの芳香族グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリフェノールプロパン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂などのアラルキル型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、アリサイクリックジエポキシ-アジペイドなどの脂環式エポキシなどの脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。
・・・
[0012]本発明の液状樹脂組成物は、室温で液状であるので、(A)エポキシ樹脂として、1種の(A)エポキシ樹脂のみを含む場合は、その1種の(A)エポキシ樹脂は、室温で液状であり、また、2種以上の(A)エポキシ樹脂を含む場合は、それら2種以上の(A)エポキシ樹脂全部の混合物が、室温で液状である。そのため、(A)エポキシ樹脂が、2種以上の(A)エポキシ樹脂の組合せの場合、(A)エポキシ樹脂は、全てが室温で液状のエポキシ樹脂の組合せであってもよく、あるいは、一部が室温で固形のエポキシ樹脂あっても他の室温で液状のエポキシ樹脂と混合することにより、混合物が室温で液状となるのであれば、室温で液状のエポキシ樹脂と室温で固形のエポキシ樹脂との組合せであってもよい。なお、(A)エポキシ樹脂が、2種以上のエポキシ樹脂が組合せの場合、必ずしも、使用する全てのエポキシ樹脂を混合してから、他の成分と混合して、液状樹脂組成物を製造する必要はなく、使用するエポキシ樹脂を別々に混合して、液状樹脂組成物を製造してもよい。本発明で、(A)エポキシ樹脂が、室温で液状であるとは、エポキシ樹脂成分(A)として使用する全てのエポキシ樹脂を混合した場合に、その混合物が室温で液状になるということである。
本発明において、室温で液状であるが、室温とは25℃を指し、また、液状とは樹脂組成物が流動性を有していることを指す。
[0013]前記(A)エポキシ樹脂の含有量は、特に限定されないが、本発明の液状樹脂組成物全体の5重量%以上30重量%以下が好ましく、特に5重量%以上20重量%以下が好ましい。含有量が前記範囲内であると、反応性や組成物の耐熱性や機械的強度、封止時の流動特性に優れる。」

Bウ 「[0016]本発明に用いる(C)アクリル樹脂は、樹脂組成物を低弾性率化させることができ、エポキシ樹脂に溶解できれば、成分は、限定されるものではないが、メタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルのモノマーを重合させて得られる重合体であることが好ましい。
・・・
[0018]A-B-Aタイプのトリブロック共重合体の重合体ブロックAは、トリブロック共重合体をエポキシ樹脂に溶解させるためにエポキシ樹脂との親和性が高く、ハンドリング性を向上させるためにガラス転移温度が室温以上であることが好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジルなどから選択したモノマーから構成される重合体ブロックであり、好ましくは、メタクリル酸メチル重合体ブロックである。
重合体ブロックBは、低弾性率効果を発揮するためにガラス転移温度が0℃以下であることが好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルなどから選択したモノマーから構成される重合体ブロックであり、好ましくは、アクリル酸n-ブチル重合体ブロックである。
[0019]A-B-Aタイプのトリブロック共重合体において、重合体ブロックAと重合体ブロックBの比率については、どのような割合についても選択できるが、好ましくは、重合体ブロックBが50?90重量%、より好ましくは、60?80重量%である。重合体ブロックBは、低弾性率効果を示す成分であり、より多く含まれる方が、低弾性率化でき有利である。しかし重合体ブロックBのみになるとエポキシ樹脂への親和性が悪くなり、エポキシ樹脂へ溶解できなくなる。そのため、重合体ブロックAが10重量%以上含まれる事が好ましく、20重量%以上含まれることがより好ましい。
[0020](C)アクリル樹脂の重量平均分子量は、好ましくは5000以上150000以下、より好ましくは、10000以上100000以下である。
[0021] (C)アクリル樹脂の添加量は、特に制限されるものではないが、上記液状樹脂組成物に対して、好ましくは0.2重量%以上30重量%以下であり、より好ましくは0.4重量%以上20重量%以下である。(C)アクリル樹脂の添加量が上記下限値未満の場合は低弾性率の効果が得られない恐れがある。一方、添加量が上記上限値を超える場合は均一分散させることが困難となり、樹脂組成物全体が脆くなる恐れがある。
[0022]本発明に用いる(D)無機充填剤は、破壊靭性などの機械的強度、熱時寸法安定性、耐湿性を向上することから、半導体装置の信頼性を特に向上することができる。
前記(D)無機充填剤としては、例えばタルク、焼成クレー、未焼成クレー、マイカ、ガラスなどのケイ酸塩、酸化チタン、アルミナ、溶融シリカ(溶融球状シリカ、溶融破砕シリカ)、合成シリカ、結晶シリカなどのシリカ粉末の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどの水酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウムなどの硫酸塩または亜硫酸塩、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウムなどのホウ酸塩、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素などの窒化物などを用いることができる。これらの(D)無機充填剤は、1種単独でも2種以上の組合せでも良い。これらの中でも樹脂組成物の耐熱性、耐湿性、強度などを向上できることから溶融シリカ、結晶シリカ、又は合成シリカ粉末が好ましい。前記(D)無機充填剤の形状は、特に限定されないが、粘度・流動特性の観点から形状は球状であることが好ましい。
[0023] 前記(D)無機充填剤の最大粒子径および平均粒子径は特に限定されないが、最大粒子径が25μm以下、かつ平均粒子径が0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。前記最大粒子径を前記上限値以下とすることにより液状封止樹脂組成物が半導体装置へ流動する際のフィラー詰まりによる部分的な未充填や充填不良を抑制する効果が高くなる。また前記平均粒子径を前記下限値以上にすることにより、液状封止樹脂組成物の粘度が適度に低下し、充填性が向上する。
(D)無機充填剤の配合量は、特に制限されるものではないが、上記液状樹脂組成物に対して、好ましくは30?80重量%であり、より好ましくは50?75重量%である。(D)無機充填剤の配合量が上記下限値未満の場合は線膨張係数が大きくなりすぎる恐れがあり、上記上限値を超える場合は弾性率が大きくなりすぎる恐れがある。
[0024]本発明の液状封止樹脂組成物が硬化した際の25℃での線膨張係数は15?33ppm/℃であることが好ましく、20?26ppm/℃であることがさらに好ましい。、また、本件の液状封止樹脂組成物が硬化した際の25℃での弾性率は3?10Gpaであることが好ましく、4?7Gpaであることがさらに好ましい。」

Bエ 「[0028] 以下、実施例について説明する。配合量は重量部である。
[実施例1]
(A)液状エポキシ樹脂として、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を100重量部、(B)アミン硬化剤として、芳香族1級アミン型硬化剤を32重量部、(C)アクリル樹脂として、トリブロックアクリル樹脂C11を2重量部、無機充填剤を270重量部、シランカップリング剤としてエポキシシランカップリング剤を4重量部、希釈剤を5重量部、着色剤を0.05重量部、配合し、プラネタリーミキサーと3本ロールを用いて混合し、真空脱泡処理することにより液状封止樹脂組成物を作製した。得られた液状封止樹脂組成物について、以下の評価方法により評価した。
[0029][評価方法]
・粘度:TV-E型粘度計にて、25℃で5rpmの条件で測定を実施した。単位はPa・sである。
・ガラス転移温度、線膨張係数:熱機械分析装置(TMA)を用いて、四角柱状に硬化(硬化条件:150℃、120分)した液状封止樹脂組成物を測定し、ガラス転移温度および線膨張係数(-10℃?10℃までの線膨張係数の平均値)を測定した。
・弾性率:粘弾性測定装置(DMA)を用いて、板状に硬化(硬化条件:150℃、120分)した液状封止樹脂組成物を測定し、室温(25℃)での弾性率を測定した。
[0030]上記で得られた液状封止樹脂組成物を半導体装置の基板とチップの間に充填、封止し、液状封止樹脂組成物の充填性試験、耐リフロー試験および温度サイクル試験を実施した。結果を表1に記載した。
試験、評価に使用した半導体装置の構成部材は以下のとおりである。
チップとしては、日立超LSI社製PHASE-2TEGウエハー(ウエハー厚さ0.72mm)にチップの回路保護膜としてポリイミドを用い、半田バンプとしてSn/Ag/Cu組成の無鉛半田を形成したものを15mm×15mmに切断し使用した。
基板には、住友ベークライト(株)製FR5相当の0.8mmtのガラスエポキシ基板をベースとして用い、その両面に太陽インキ製造(株)製ソルダーレジストPSR4000/AUS308を形成し、片面に上記の半田バンプ配列に相当する金メッキパッドを形成したものを50mm×50mmの大きさに切断し使用した。接続用のフラックスにはTSF-6502(Kester製、ロジン系フラックス)を使用した。
半導体装置の組立は、まず充分平滑な金属またはガラス板にドクターブレードを用いてフラックスを50μm厚程度に均一塗布し、次にフリップチップボンダーを用いてフラックス膜にチップの回路面を軽く接触させたのちに離し、半田バンプにフラックスを転写させ、次にチップを基板上に圧着させた。IRリフロー炉で加熱処理し半田バンプを溶融接合して作製した。溶融接合後に洗浄液を用いて洗浄を実施した。液状封止樹脂組成物の充填、封止方法は、作製したチップを搭載した基板を110℃の熱板上で加熱し、チップの一辺に作製した液状封止樹脂組成物を塗布し隙間充填させた後、150℃のオーブンで120分間液状封止樹脂組成物を加熱硬化し、評価試験用のチップ厚さ0.72mmの半導体装置を得た。
[0031]・充填性:上記作製した半導体装置について、超音波探傷装置を用いて、液状封止樹脂組成物を充填した部分のボイドの発生を確認し、充填不良ボイドが観察されない場合は良好、観察された場合は不良と判定した。
・耐リフロー性:上記作製した半導体装置をJEDECレベル3の吸湿処理(30℃、相対湿度60%で192時間処理)を行った後、IRリフロー処理(ピーク温度260℃)を3回行い、超音波探傷装置にて半導体装置内部での液状封止樹脂組成物の剥離の有無を確認し、さらに光学顕微鏡を用いてチップ側面部の液状封止樹脂組成物表面にある亀裂の有無を観察した。剥離および亀裂が無い場合は○、剥離又は亀裂が有る場合は×と表示した。
・温度サイクル試験:温度サイクル試験としては、上記のリフロー試験を行った半導体装置に(-55℃/30分)と(125℃/30分)の冷熱サイクル処理を施し、250サイクル毎に超音波探傷装置にて半導体装置内部の半導体チップと液状樹脂組成物界面の剥離の有無を確認し、さらに光学顕微鏡を用いてチップ側面部の液状樹脂組成物表面を観察し、亀裂の有無を観測した。上記温度サイクル試験は最終的に1000サイクルまで実施した。亀裂又は剥離のあるものを「×」で、亀裂及び剥離のないものを「○」で表示した。
以上の結果を表1に詳細にまとめた。
[0032][実施例2?5]
(C)アクリル樹脂の成分割合又は配合量を変え、(D)無機充填剤の配合量を変えた以外は、実施例1と同様の方法によって、液状樹脂組成物を作製した。成分割合の異なるアクリル樹脂は、下記トリブロックアクリル樹脂C12、C13を用いた。得られた液状樹脂組成物を用いて、実施例1と同様に評価した。詳細な配合、液状樹脂組成物および半導体装置の評価結果を表1にまとめた。
[0033][比較例1]
(C)アクリル樹脂を配合しないものであり、実施例1と同様の方法によって液状樹脂組成物を得た。得られた液状樹脂組成物を用いて実施例1と同様に評価した。詳細な配合、液状樹脂組成物および半導体装置の評価結果を表1にまとめた。
[比較例2]
(C)アクリル樹脂の代わりに、液状ポリブタジエンを配合したこと以外は、実施例2と同様の方法によって液状樹脂組成物を得た。得られた液状樹脂組成物を用いて実施例1と同様に評価した。詳細な配合、液状樹脂組成物および半導体装置の評価結果を表1にまとめた。
[比較例3]
(C)アクリル樹脂の代わりに、アクリルゴム粒子を配合し、配合量および(D)無機添加剤の配合量を変えた以外は、実施例と同様の方法によって液状樹脂組成物を得た。得られた液状樹脂組成物を用いて実施例1と同様に評価した。詳細な配合、液状樹脂組成物および半導体装置の評価結果を表1にまとめた。
[0034]実施例では、以下の材料を使用した。
・ビスフェノールF型エポキシ樹脂:大日本インキ化学工業(株)製、EXA-830LVP、ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂、エポキシ当量161
・芳香族1級アミン型硬化剤:日本化薬(株)製、カヤハード-AA、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、アミン当量63.5
・アクリル樹脂:トリブロックアクリル樹脂C11、クラレ(株)製 LA2140E、A-B-A型アクリルトリブロック共重合体、PMMA(ポリメタクリル酸メチル、ガラス転移温度:100?120℃)-PnBA(ポリアクリル酸n-ブチル、ガラス転移温度:-40?-50℃)-PMMA)、PMMA割合20重量%、Mw=80000
・アクリル樹脂:トリブロックアクリル樹脂C12、クラレ(株)製 LA2250、A-B-A型アクリルトリブロック共重合体、PMMA(ポリメタクリル酸メチル、ガラス転移温度:100?120℃)-PnBA(ポリアクリル酸n-ブチル、ガラス転移温度:-40?-50℃)-PMMA)、PMMA割合30重量%、Mw=80000
・アクリル樹脂:トリブロックアクリル樹脂C13、クラレ(株)製 LA4285、A-B-A型アクリルトリブロック共重合体、PMMA(ポリメタクリル酸メチル、ガラス転移温度:100?120℃)-PnBA(ポリアクリル酸n-ブチル、ガラス転移温度:-40?-50℃)-PMMA)、PMMA割合50重量%、Mw=80000
・液状ポリブタジエン:ダイセル化学工業(株)製、PB3600
・アクリルゴム粒子:三菱レイヨン(株)製 KW8815
・無機充填剤(合成球状シリカ):アドマテクス(株)製、アドマファインSO-E3、合成球状シリカ、平均粒径1μm
・エポキシシランカップリング剤:信越化学工業(株)製、KBM403E、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
・着色剤:三菱化学(株)製、MA-600 カーボンブラック
・希釈剤:東京化成工業(株)製、(試薬)BCSA、エチレングリコールモノ-ノルマル-ブチルエーテルアセテート
[0035]本発明において、アクリル樹脂を含まない比較例1では、温度サイクル試験中に剥離が発生した。
比較例2のようにアクリル樹脂の代わりに、液状のゴム成分が含まれる場合は、弾性率は低下するものの、ガラス転移温度も低下してしまい、耐リフロー試験にて剥離が発生した。耐リフロー試験にて剥離が発生したため、その後の温度サイクル試験は実施しなかった。
比較例3のようにアクリル樹脂の代わりに、アクリルゴム粒子が含まれる場合は、アクリル樹脂と同程度の弾性率にするためには、添加量が多くする必要があるため、樹脂粘度が非常に高くなってしまい、ボイドなく充填する事ができなかった。そのため、耐リフロー試験および温度サイクル試験は実施しなかった。
これに対して、実施例1?5については、アクリル樹脂を含有するため、低弾性率かつ低熱線膨張が達成され、温度サイクル試験において剥離および亀裂が発生しなかった。
アクリル樹脂を含む液状樹脂組成物は、低弾性率、低熱線膨張を達成し、半導体装置の信頼性を改善することができた。
[0036]
[表1]




(イ)引用文献Bに記載された発明
摘記BアないしBエ、特にBエの[0031]、[0032]、表1の実施例2からみて、以下の発明が記載されている。

「(A)液状エポキシ樹脂として、下記のビスフェノールF型エポキシ樹脂を100重量部、(B)アミン硬化剤として、芳香族1級アミン型硬化剤を32重量部、(C)アクリル樹脂として、下記のトリブロックアクリル樹脂C11を10重量部、下記の無機充填剤を285重量部、シランカップリング剤としてエポキシシランカップリング剤を4重量部、希釈剤を5重量部、着色剤を0.05重量部、配合した液状封止樹脂組成物。

・ビスフェノールF型エポキシ樹脂:大日本インキ化学工業(株)製、EXA-830LVP、ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂、エポキシ当量161
・トリブロックアクリル樹脂C11、クラレ(株)製 LA2140E、A-B-A型アクリルトリブロック共重合体、PMMA(ポリメタクリル酸メチル、ガラス転移温度:100?120℃)-PnBA(ポリアクリル酸n-ブチル、ガラス転移温度:-40?-50℃)-PMMA)、PMMA割合20重量%、Mw=80000
・無機充填剤(合成球状シリカ):アドマテクス(株)製、アドマファインSO-E3、合成球状シリカ、平均粒径1μm」(以下、「引用発明B-1」という。)

また、摘記Bア?Bエ、特にBエの[0031]、[0032]、表1の比較例2からみて、以下の発明も記載されている。
「(A)液状エポキシ樹脂として、下記のビスフェノールF型エポキシ樹脂を100重量部、(B)アミン硬化剤として、芳香族1級アミン型硬化剤を32重量部、下記の液状ポリブタジエンを10重量部、下記の無機充填剤を285重量部、シランカップリング剤としてエポキシシランカップリング剤を4重量部、希釈剤を5重量部、着色剤を0.05重量部、配合した液状封止樹脂組成物。

・ビスフェノールF型エポキシ樹脂:大日本インキ化学工業(株)製、EXA-830LVP、ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂、エポキシ当量161
・液状ポリブタジエン:ダイセル化学工業(株)製、PB3600
・無機充填剤(合成球状シリカ):アドマテクス(株)製、アドマファインSO-E3、合成球状シリカ、平均粒径1μm」(以下、「引用発明B-2」という。)

イ 本件訂正発明1について(引用発明B-1)
(ア) 引用発明B-1との対比
本件訂正発明1と引用発明B-1を対比する。
引用発明B-1の「下記のビスフェノールF型エポキシ樹脂」、「下記の無機充填剤である無機充填剤(合成球状シリカ):アドマテクス(株)製、アドマファインSO-E3、合成球状シリカ、平均粒径1μm」は、それぞれ本件訂正発明1の「エポキシ樹脂」、「シリカ」に相当する。
引用発明B-1の「(C)アクリル樹脂として、下記のトリブロックアクリル樹脂C11」は、「クラレ(株)製 LA2140E、A-B-A型アクリルトリブロック共重合体、PMMA(ポリメタクリル酸メチル、ガラス転移温度:100?120℃)-PnBA(ポリアクリル酸n-ブチル、ガラス転移温度:-40?-50℃)-PMMA)、PMMA割合20重量%、Mw=80000」であり、アクリル骨格を有し、「ガラス転移温度:-40?-50℃」を示すものであるから、本件訂正発明1の「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂」に相当する。
また、引用発明B-1のシリカの含有量について、希釈剤の量を除いて計算すると、65.96質量%=約66質量%であるから、本件訂正発明1のシリカの含有量の範囲と重複する。
引用発明B-1の「液状封止樹脂組成物」は、配合成分からみて本件訂正発明1の「絶縁樹脂材料」に相当する。

そうすると、本件訂正発明1と引用発明B-1は、
「エポキシ樹脂、シリカおよびガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂を含む絶縁樹脂材料であって、
前記シリカの含有量が絶縁性樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%である、絶縁樹脂材料。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点B1>
絶縁樹脂材料について、本件訂正発明1では、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり、かつ前記硬化物の25℃における弾性率が0.5?14GPaである」との特定があるのに対し、引用発明B-1ではこの特定がない点。

<相違点B2>
アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除くことについて、本件訂正発明1では、絶縁樹脂材料が「アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く」との特定されているのに対し、引用発明B-1ではアミン硬化剤として、芳香族1級アミン型硬化剤を用いている点。

(イ)相違点B2の検討
a 事案に鑑み、まず、相違点B2が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
引用発明B-1には、「芳香族1級アミン型硬化剤を32重量部」配合することが特定されている。ここで、芳香族1級アミン型硬化剤は、アミン硬化剤に包含されるものであり、引用発明B-1の「液状封止樹脂組成物」は、配合成分からみて本件訂正発明1の「絶縁樹脂材料」に相当するから、引用発明B-1の絶縁樹脂材料は、「アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く」とはいえない。
以上によれば、相違点B2は、実質的な相違点である。
したがって、相違点B1については検討するまでもなく、本件訂正発明1は、引用文献Bに記載された発明であるとはいえない。

b 次に、相違点B2の容易想到性について検討する。
引用文献Bには、「(B)アミン硬化剤」の配合を必須としているから(請求項1)、引用発明B-1にてアミン硬化剤である「芳香族1級アミン型硬化剤」を除くことは、阻害要因があるといえる。
そして、本件訂正発明1は、熱硬化性樹脂と特定の高分子樹脂を含む絶縁性材料において、大量の無機充填材を配合した場合でも、弾性の上昇が抑えられ、低弾性率と低線熱膨脹係数の双方の特性に優れた絶縁樹脂材料が得られることを見出したものであり、寸法安定性が高く、かつ反りが小さい、絶縁性材料を提供するという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(【0005】、【0007】)。
そうすると、引用発明B-1において、「アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く」ことは、当業者が容易に想到することができたということはできない。

また、参考文献1、参考資料1には、ダイセル化学社製のエポリードPB3600が、ポリブタジエン構造を有すること、数平均分子量等の物性が記載されているだけであって、相違点B2に関する記載は何もない。

したがって、相違点B1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、引用文献Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)引用発明B-1の小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、引用文献Bに記載された発明であるとはいえず、また、引用文献B、参考文献1、参考資料1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件訂正発明1について(引用発明B-2)
(ア)引用発明B-2との対比
引用発明B-1と引用発明B-2とは、配合成分において、引用発明B-1の「トリブロックアクリル樹脂C1」が、引用発明B-2では「液状ポリブタジエン:ダイセル化学工業(株)製、PB3600」に置き換わった点で異なるものである。
本件訂正発明1と引用発明B-2を対比する。
引用発明B-2の「下記のビスフェノールF型エポキシ樹脂」、「下記の無機充填剤である無機充填剤(合成球状シリカ):アドマテクス(株)製、アドマファインSO-E3、合成球状シリカ、平均粒径1μm」は、それぞれ本件訂正発明1の「エポキシ樹脂」、「シリカ」に相当する。
また、引用発明B-1と異なる「下記の液状ポリブタジエン」である「液状ポリブタジエン:ダイセル化学工業(株)製、PB3600」は、液状のポリブタジエンであり、本件明細書の段落【0027】に「ブタジエン骨格を有する高分子樹脂」として記載のあるダイセル化学工業(株)製「PB3600」であるから、本件訂正発明1の「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂」に相当する。
また、引用発明B-2のシリカの含有量について、希釈剤の量を除いて計算すると、65.96質量%=約66質量%であるから、本件訂正発明1のシリカの含有量の範囲と重複する。
引用発明B-2の「液状封止樹脂組成物」は、配合成分からみて本件訂正発明1の「絶縁樹脂材料」に相当する。

そうすると、本件訂正発明1と引用発明B-2は、
「エポキシ樹脂、シリカおよびガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂を含む絶縁樹脂材料であって、
前記無機充填材の含有量が絶縁樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%である絶縁樹脂材料」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点B3>
絶縁樹脂材料について、本件訂正発明1では、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり、かつ前記硬化物の25℃における弾性率が0.5?14GPaである」との特定があるのに対し、引用発明B-2ではこの特定がない点。

<相違点B4>
アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除くことについて、本件訂正発明1では、絶縁樹脂材料が「アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く」との特定があるのに対し、引用発明B-2ではアミン硬化剤として、芳香族1級アミン型硬化剤を用いている点。

(イ)相違点B4の検討
a 事案に鑑み、まず、相違点B4が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
引用発明B-2には、「芳香族1級アミン型硬化剤を32重量部」配合することが特定されている。ここで、芳香族1級アミン型硬化剤は、アミン硬化剤に包含されるものであり、引用発明B-2の「液状封止樹脂組成物」は、配合成分からみて本件訂正発明1の「絶縁樹脂材料」に相当するから、引用発明B-2の絶縁樹脂材料は、「アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く」とはいえない。
以上によれば、相違点B4は、実質的な相違点である。
したがって、相違点B3については検討するまでもなく、本件訂正発明1は、引用文献Bに記載された発明であるとはいえない。

b 次に、相違点B4の容易想到性について検討する。
引用文献Bには、「(B)アミン硬化剤」の配合を必須としているから(請求項1)、引用発明B-2にてアミン硬化剤である「芳香族1級アミン型硬化剤」を除くことは、阻害要因があるといえる。
そして、本件訂正発明1は、熱硬化性樹脂と特定の高分子樹脂を含む絶縁性材料において、大量の無機充填材を配合した場合でも、弾性の上昇が抑えられ、低弾性率と低線熱膨脹係数の双方の特性に優れた絶縁樹脂材料が得られることを見出したものであり、寸法安定性が高く、かつ反りが小さい、絶縁性材料を提供するという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(【0005】、【0007】)。
そうすると、引用発明B-2において、「アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く」ことは、当業者が容易に想到することができたということはできない。

また、参考文献1、参考資料1には、ダイセル化学社製のエポリードPB3600が、ポリブタジエン構造を有すること、数平均分子量等の物性が記載されているだけであって、相違点B4に関する記載は何もない。

したがって、相違点B3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、引用文献Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、引用文献Bに記載された発明であるとはいえず、また、引用文献Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件訂正発明2について(引用発明B-1)
(ア)対比
本件訂正発明2と引用発明B-1を対比する。
引用発明B-1の「下記のビスフェノールF型エポキシ樹脂」、「下記の無機充填剤である無機充填剤(合成球状シリカ):アドマテクス(株)製、アドマファインSO-E3、合成球状シリカ、平均粒径1μm」は、それぞれ本件訂正発明2の「エポキシ樹脂」、「シリカ」に相当する。
引用発明B-1の「(C)アクリル樹脂として、下記のトリブロックアクリル樹脂C11」は、「クラレ(株)製 LA2140E、A-B-A型アクリルトリブロック共重合体、PMMA(ポリメタクリル酸メチル、ガラス転移温度:100?120℃)-PnBA(ポリアクリル酸n-ブチル、ガラス転移温度:-40?-50℃)-PMMA)、PMMA割合20重量%、Mw=80000」であり、「ガラス転移温度:-40?-50℃」を示すものであるから、本件訂正発明2の「ガラス転移温度が30℃以下の高分子樹脂」に相当する。
また、引用発明B-1のシリカの含有量について、希釈剤の量を除いて計算すると、65.96質量%=約66質量%であるから、本件訂正発明2のシリカの含有量の範囲と重複する。
引用発明B-2の「液状封止樹脂組成物」は、配合成分からみて本件訂正発明2の「絶縁樹脂材料」に相当する。

そうすると、本件訂正発明2と引用発明B-1は、
「エポキシ樹脂、シリカおよびガラス転移温度が30℃以下の高分子樹脂を含む絶縁樹脂材料であって、
前記シリカの含有量が絶縁性樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%である、絶縁樹脂材料。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点B5>
高分子樹脂について、本件訂正発明2では、「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格を有する高分子樹脂」とあるのに対し、引用発明B-1では、「ガラス転移温度が30℃以下のアクリル骨格を有する高分子樹脂」である点。

<相違点B1’>
絶縁樹脂材料について、本件訂正発明2では、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり」との特定があるのに対し、引用発明B-1ではこの特定がない点。

<相違点B2’>
アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除くことについて、本件訂正発明2では、絶縁樹脂材料が「アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く」との特定があるのに対し、引用発明B-1ではアミン硬化剤として、芳香族1級アミン型硬化剤を用いている点。

<相違点B6>
絶縁樹脂材料について、本件訂正発明2では、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数をA(ppm/℃)とし、150℃?220℃における線熱膨張係数をB(ppm/℃)とした場合、0≦B-A≦15である、」との特定があるのに対し、引用発明B-1ではこの特定がない点。

(イ)相違点B2’の検討
a 事案に鑑み、まず、相違点B2’が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
相違点B2’については、上記イ(ア)の相違点B2と同旨であって、その判断についても同様となり、相違点B2’は実質的な相違点である。

b 次に、相違点B2’の容易想到性について検討する。
相違点B2’については、上記イ(ア)の相違点B2と同旨であって、その判断についても同様となり、本件訂正発明2は、引用文献B、参考文献1、参考資料1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)引用発明B-1の小括
以上のとおり、本件訂正発明2は、引用文献Bに記載された発明であるとはいえず、また、引用文献Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件訂正発明2について(引用発明B-2)
(ア)対比
引用発明B-1と引用発明B-2とは、配合成分において、引用発明B-1の「トリブロックアクリル樹脂C11」が、引用発明B-2では「液状ポリブタジエン:ダイセル化学工業(株)製、PB3600」に置き換わった点で異なるものである。
本件訂正発明2と引用発明B-2を対比する。

引用発明B-2の「下記のビスフェノールF型エポキシ樹脂」、「下記の無機充填剤である無機充填剤(合成球状シリカ):アドマテクス(株)製、アドマファインSO-E3、合成球状シリカ、平均粒径1μm」は、それぞれ本件訂正発明2の「エポキシ樹脂」、「シリカ」に相当する。
引用発明B-2の「液状ポリブタジエン:ダイセル化学工業(株)製、PB3600」は、ブタジエン骨格を有し、「ガラス転移温度:-40?-50℃」を示すものであるから、本件訂正発明2の「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格を有する高分子樹脂」に相当する。
また、引用発明B-2のシリカの含有量について、希釈剤の量を除いて計算すると、65.96質量%=約66質量%であるから、本件訂正発明2のシリカの含有量の範囲と重複する。
引用発明B-2の「液状封止樹脂組成物」は、配合成分からみて本件訂正発明2の「絶縁樹脂材料」に相当する。

そうすると、本件訂正発明2と引用発明B-2は、
「エポキシ樹脂、シリカおよびガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格を有する高分子樹脂を含む絶縁樹脂材料であって、
前記シリカの含有量が絶縁性樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%である、絶縁樹脂材料。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点B1’’>
絶縁樹脂材料について、本件訂正発明2では、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり」との特定があるのに対し、引用発明B-1ではこの特定がない点。

<相違点B2’’>
アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除くことについて、本件訂正発明1では、絶縁樹脂材料が「アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く」との特定があるのに対し、引用発明B-1ではアミン硬化剤として、芳香族1級アミン型硬化剤を用いている点。

<相違点B6’>
絶縁樹脂材料について、本件訂正発明2では、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数をA(ppm/℃)とし、150℃?220℃における線熱膨張係数をB(ppm/℃)とした場合、0≦B-A≦15である、」との特定があるのに対し、引用発明B-1ではこの特定がない点。

(イ)引用発明B-2と相違点B2’’の検討
a 事案に鑑み、まず、相違点B2’’が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
相違点B2’’については、上記イ(ア)の相違点B2と同旨であって、その判断についても同様となり、相違点B2’’は実質的な相違点である。

b 次に、相違点B2’’の容易想到性について検討する。
相違点B2’’については、上記イ(ア)の相違点B2と同旨であって、その判断についても同様となり、本件訂正発明2は、引用文献B、参考文献1、参考資料1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)引用発明B-2の小括
以上のとおり、本件訂正発明2は、引用文献Bに記載された発明であるとはいえず、また、引用文献B、参考文献1、参考資料1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ 本件訂正発明4ないし8、10、11、13、15及び17(新規性)、及び本件訂正発明3ないし11、13、15及び17(進歩性)について
本件訂正発明4ないし8、10、11、13、15及び17、本件訂正発明1または2を直接又は間接的に引用するものであるが、上記イ?オで述べたとおり、本件訂正発明1及び2が引用文献Bに記載された発明であるとはいえない以上、本件訂正発明4ないし8、10、11、13、15及び17についても同様に、引用文献Bに記載された発明であるとはいえない。
また、本件訂正発明3ないし11、13、15及び17は、本件訂正発明1または2を直接又は間接的に引用するものであるが、上記イ?オで述べたとおり、引用文献B、参考文献1、参考資料1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件訂正発明3ないし11、13、15及び17についても同様に、引用文献B、参考文献1、参考資料1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)理由3(サポート要件)について
ア 「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂」について、

(ア)本件訂正発明の課題は、段落【0004】に記載のあるとおり、「寸法安定性が高く、かつ反りが小さい絶縁樹脂材料を提供すること」である。 そして、本件の請求項1の「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂」、請求項2に係る発明の「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格を有する高分子樹脂」について、発明の詳細な説明には、【0023】ないし【0028】に説明がある。また、実施例は、ポリブタジエン骨格、イミド骨格、ウレタン骨格を有する、数平均分子量13723、ガラス転移温度-10℃の特定の樹脂を使用した具体例のみであるが、該ポリブタジエン骨格等を有する特定の樹脂を用い、かつ、シリカの含有量が75質量%超あるいは80質量%超と高い場合であっても、特定範囲の線熱膨脹係数(寸法安定性)と特定範囲の弾性率(反り)の双方を実現しうる例(【0065】、【0077】)を実施例として記載している。
そうすると、当業者であれば、上記実施例で用いたもの以外の「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂」または「ガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格を有する高分子樹脂」を用いることによっても、寸法安定性が高く、かつ反りが小さい絶縁樹脂材料を得ることが理解できるといえる。
そして、ブタジエン骨格に代えて、または加えて、「カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格」を有する高分子樹脂を採用した場合に、発明課題の可否まで影響する程、他の成分との相溶性が著しく変化するものとは考えにくい。
以上のとおり、本件明細書の記載を総合すれば、本件訂正発明1及び2は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件訂正発明1及び2の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
そうすると、本件訂正発明1又は2は、当業者が課題を解決できると認識できる。
これらの発明に係る本件訂正発明1又は2を直接又は間接的に引用する本件訂正発明3ないし9、11、12、15ないし22についても同様である。

(イ)小括
よって、理由3はその理由がなく、請求項1ないし9、11、12、15ないし22に係る発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たすものであるから、これらの特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。

イ 本件訂正発明2の「前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数をA(ppm/℃)とし、150℃?220℃における線熱膨張係数をB(ppm/℃)とした場合、0≦B-A≦15である、」との特定について

(ア)令和1年10月2日付けで提出した訂正請求書において、本件訂正発明2に、
「前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり、かつ」とする点を追加する訂正を行った。
ここで、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数」は、すなわち線熱膨脹係数Aの値であるので、訂正後の本件訂正発明2は、線熱膨脹係数Aの数値が特定されたことにより、実施例の値と大きく異なるものとまではいえない。
以上のとおり、本件明細書の記載を総合すれば、本件訂正発明2は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術蔵敷に照らして発明の詳細な説明の記載により本件訂正発明2の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
そうすると、本件訂正発明2は、当業者が課題を解決できると認識できる。
これらの発明に係る本件訂正発明2を直接又は間接的に引用する本件訂正発明3ないし9、11、12、15ないし22についても同様である。

(イ)小括
よって、理由3はその理由がなく、請求項2ないし3、8ないし22に係る発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たすものであるから、これらの特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。

第6 取消理由で採用しなかった特許異議の申立理由
1 取消理由で採用しなかった特許異議の申立理由の概要
(1)本件訂正前の請求項1?22に係る発明は、甲2及び甲3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)証拠方法
・甲2:特開2004-123874号公報
・甲3:特開2006-37083号公報

2 当審の判断
(1)申立理由4(進歩性)について(甲2を主引用例とした場合)

ア 甲2に記載された事項及び甲2に記載された発明
(ア)甲2に記載された事項
(甲2-1) 「【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)フェノ-ル樹脂、(C)シリカ、(D)ゴム成分及び(E)硬化促進剤を含有する樹脂組成物において、前記樹脂組成物中のシリカ含有量が50?85重量%であり、(D)ゴム成分が、両末端にアミノ基を有する芳香族ポリアミドオリゴマーと両末端にカルボキシル基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体との重縮合により得られる重量平均分子量が10,000?1,000,000のエラストマーを必須成分とするものであり、前記樹脂組成物中の前記エラストマ-の含有量が5?20重量%であることを特徴とするフィルム形成用樹脂組成物。」

(甲2-2)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フィルム形成用樹脂組成物及びこれを厚さ10?150μmのフィルム状に形成してなるフィルム状接着剤に関する。このフィルム形成用樹脂組成物及びフィルム状接着剤は、主にビルドアップ多層プリント配線板の絶縁樹脂層等に適する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電気・電子機器における急速な小型化、高性能化にともないプリント配線板においては高密度化が進展してきた。この状況において、多層配線板においては、導体回路層と絶縁樹脂層とを交互に積層し、層間接続の必要な部分にのみ、ブラインドホールを用いて導通するビルドアップ方式が伸長してきた。このビルドアップ多層配線板においては、積層された各配線層間の電気的接続を取るため、スルホールめっき、ビアホールめっきが用いられるが、冷熱サイクルが加えられたときの膨張・収縮応力により、スルーホール部、ビアホール部にクラック、剥離が発生しないことが重要である。更に、ビルドアップ多層配線板においては、半田リフロー等により半導体部品が実装されるが、半田実装の際に導体回路層と絶縁樹脂層の間に剥離が生じないことが重要である。絶縁樹脂層に用いられるビルドアップ絶縁材料が優れた冷熱サイクル信頼性、半田耐熱性を発現するためには、低応力性(低熱膨張性、低弾性率)、機械的強度(高破断伸び、高強度(最大点応力))、部材との密着性、耐熱性等に優れていることが重要である。なかでも、低熱膨張性、高破断伸びが重要であると考えられている。
・・・
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、冷熱サイクル信頼性、半田耐熱性、耐湿信頼性に優れ、加えて高周波域での低誘電率、低誘電正接の面で優れたフィルム状接着剤を与えるフィルム形成用樹脂組成物を提供することにある。他の目的は、硬化前段階での優れたフィルム支持性を有するフィルム状接着剤を与えるフィルム形成用樹脂組成物を提供することにある。また、他の目的は、上記特性を有するフィルム状接着剤を提供することにある。また、上記フィルム状接着剤の硬化物を提供することを目的とする。更に、導体回路層と絶縁樹脂層
とを交互に積み上げたビルドアップ多層プリント配線板の絶縁樹脂層等に適したフィルム形成用樹脂組成物又はフィルム状接着剤を提供することを目的とする。」


(甲2-3)「【0017】
組成物中のシリカの含有量は、低熱膨張化、低誘電正接化、高強度化の観点からは多いほど良いが、組成物中の50?85重量%、好ましくは60?70重量%である。50重量%より少ないと低熱膨張化、高強度化が十分ではないため、冷熱サイクル信頼性、半田耐熱性の低下を招くことに加えて、低誘電正接化が発現しない。85重量%より多いとフィルム状接着剤としたときの溶融粘度が増大して、絶縁層としてのラミネ-ト充填性、密着性が低下したり、絶縁層の表面状態が悪くなったりする。
【0018】
本発明で使用する(D)成分のゴム成分は、両末端にアミノ基を有する芳香族ポリアミドオリゴマーと両末端にカルボキシル基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体との重縮合により得られるエラストマー(G)を必須成分とする。中でも式(1)で表される両末端にアミノ基を有する芳香族ポリアミドオリゴマーと、式(2)で表される両末端にカルボキシル基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体との重縮合により得られるエラストマーを使用することが好ましい。式(1)及び式(2)において、a、b、c、dはそれぞれ平均重合度であり、a>0、b>0、a+b≧1、c≧1、d≧1である。個々の成分は、式(1)及び式(2)に示した順番に配列する必要はなく、それぞれ独立し、任意に配列することができ、ブロック状又はランダム状に存在してもよい。aとbのモル比については、a/(a+b)=0.05?0.95の範囲が、cとdのモル比については、c/(c+d)=0.05?0.95の範囲がよい。
【0019】
両末端にアミノ基を有する芳香族ポリアミドオリゴマーは、芳香族ジアミン成分と芳香族ジカルボン酸成分の重縮合によって得られる。オリゴマーの両末端基をアミノ基とするには、芳香族ジアミン成分を芳香族ジカルボン酸成分より過剰量で縮合反応することにより達成できる。この両末端にアミノ基を有する芳香族ポリアミドオリゴマーの製造に使用する芳香族ジアミン成分としては、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、3,4’-ジアミノジフェニルエーテルである。これらの芳香族ジアミン成分は1種又は2種以上を用いることができる。
【0020】
また、芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、2-ヒドロキシテレフタル酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、イソフタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸である。これらの芳香族ジカルボン酸成分は1種又は2種以上を用いることができる。なお、式(1)で表される芳香族ポリアミドオリゴマーは、芳香族ジアミン成分としての3,4’-ジアミノジフェニルエーテルと、芳香族ジカルボン酸成分としてのイソフタル酸及び5-ヒドロキシイソフタル酸との重縮合によって得られる。
【0021】
このエラストマー(G)の重量平均分子量は10,000?1,000,000、好ましくは20,000?500,000である。重量平均分子量が10,000より小さいとフィルム形成用樹脂組成物として、耐熱性、機械的強度、可とう性の低下を招くのに加えて、硬化前段階でのフィルム支持性の低下を招く。1,000,000より大きいと有機溶剤への溶解性、エポキシ樹脂、フェノ-ル樹脂との相溶性、等の作業性の低下を招くのに加えて、フィルム状接着剤としたときの溶融粘度が増大して、絶縁層としてのラミネ-ト充填性、密着性が低下したり、絶縁層の表面状態が悪くなったりする。なお、ここでの重量平均分子量は、GPC測定によるポリスチレン換算の値である。
【0022】
このエラストマー(G)の含有量は、組成物中の5?20重量%、好ましくは10?15重量%である。5重量%より少ないとフィルム形成用樹脂組成物として、破断伸び等の機械物性の低下により、冷熱サイクル信頼性、半田耐熱性の低下を招くのに加えて、硬化前段階でのフィルム支持性の低下を招く。20重量%より多いと有機溶剤への溶解性、エポキシ樹脂、フェノ-ル樹脂との相溶性等の作業性の低下を招くのに加えて、フィルム状接着剤としたときの溶融粘度が増大して、絶縁層としてのラミネ-ト充填性、密着性が低下したり、絶縁層の表面状態が悪くなったりする。さらに、耐熱性、機械的強度の低下により、冷熱サイクル信頼性、半田耐熱性の低下を招く。
【0023】
本発明で使用する(D)成分のゴム成分としては、必須成分である上記エラストマー(G)以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、好ましくは全ゴム成分中の20重量%以下の範囲で公知のゴムを用いてもよい。かかるゴムとしては、例えば、ポリブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、変性アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリルゴム等が挙げられる。これらのゴムは1種又は2種以上を用いることができる。また、本発明の(D)ゴム成分として用いるゴムの純度については、耐湿信頼性向上の観点より、イオン性不純物の少ないものがよい。」

(甲2-4)「【0034】
また、本発明のフィルム状接着剤は、溶剤を含まない本発明のフィルム形成用樹脂組成物を、支持材としてのベースフィルム上に加熱溶融状態にて塗布後、冷却する方法を用いても差し支えない。
【0035】
用いられる支持材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、アルミ箔、銅箔、離型紙等が挙げられる。支持材の厚みとしては10?100μmが一般的である。
【0036】
また、本発明のフィルム状接着剤は、支持材としてのベースフィルム上に貼り合わされた後、貼り合わされていないもう一方の面を、保護材としてのフィルムで覆い、ロール状に巻き取って保存することもできる。」

(甲2-5)
「【0040】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
フィルム形成用樹脂組成物を得るために使用した原料とその略号を以下に示す。
【0041】
(A)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂(1):ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコ-ト828EL、ジャパンエポキシレジン製;エポキシ当量 189、液状)
(B)フェノ-ル樹脂
硬化剤(1):フェノールノボラック(PSM-6200、群栄化学工業製;フェノール性水酸基当量 105、軟化点 81℃)
(C)シリカ
シリカ(1):FB-1SDX、電気化学工業製、球状、平均粒径1.7μm
シリカ(2):SFP-20X、電気化学工業製、球状、平均粒径1.1μm
シリカ(3):QS-3、三菱レイヨン製、球状、平均粒径2.7μm
シリカ(4):QS-2、三菱レイヨン製、球状、平均粒径1.3μm
【0042】
(D)ゴム成分
合成ゴム(1):式(1)で表される両末端にアミノ基を有する芳香族ポリアミドオリゴマーと、式(2)で表される両末端にカルボキシル基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体との重縮合により得られるエラストマー(日本化薬製、重量平均分子量50000)
【0043】
合成ゴム(2):カルボキシル化ブタジエン-メタクリル酸-アクリロニトリル共重合体ゴム(JSR製、PNR-1H;重量平均分子量300000、但し、当該材料固形分17重量%、メチルエチルケトン83重量%のワニスであるPNR-1HSK17の形態にて使用)
【0044】
(E)硬化促進剤
硬化促進剤(1):2-エチル-4-メチルイミダゾール(四国化成工業製、キュアゾール2E4MZ)
【0045】
なお、本実施例に使用した合成ゴム(1)は、特開2001-49082号公報に記載された方法に基づいて作られたものを用いた。すなわち、両末端にアミノ基を有する芳香族ポリアミドオリゴマーと、両末端にカルボキシル基を有するブタジエンーアクリロニトリル共重合体との重縮合により得たものである。
すなわち、所定量のイソフタル酸、3,4’-オキシジアニリン、5-ヒドロキシイソフタル酸、塩化リチウム、塩化カルシウム、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ピリジンを攪拌装置付きの容器中にて、攪拌溶解させた後、亜リン酸トリフェニルを加えて、90℃で所定時間反応させて、両末端にアミノ基を有する芳香族ポリアミドオリゴマーを生成させた。これに、両末端にカルボキシル基を有するブタジエンーアクリロニトリル共重合体(Hycar CTBN、BF Goodrich製、ブタジエン-アクリロニトリル部に含有するアクリロニトリル成分が17mol%で、分子量が約3600)をNMPに溶かした溶液を加えて、更に所定時間反応させた後、室温に冷却、この反応液をメタノールに投入して、本実施例に使用した合成ゴム(1)を析出させた。この析出ポリマーについて、更にメタノール洗浄、メタノール還流を行い精製した。このポリマーの固有粘度は0.49dl/g(ジメチルアセトアミド、25℃)であった。その他の合成ゴム(2)は市販品を用いた。
【0046】
上記原料を表1、2に示す割合で配合した。まず、シリカ、硬化促進剤以外の成分を配合し、攪拌装置付きの容器中にて、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を用いて攪拌、溶解した。なお、合成ゴム(2)を用いた場合のみ、合成ゴム(2)の市販品がメチルエチルケトン(MEK)のワニス形態であったため、当該市販品のMEK含有分だけMEKを含むDMF/MEKの混合溶剤中で、シリカ、硬化促進剤以外の成分を配合し、攪拌、溶解した。その後、ワニス中にシリカを配合し、攪拌、分散させた。さらに、ワニス中に硬化促進剤を配合し、攪拌、溶解した。最後にワニスのろ過を行い、フィルム形成用樹脂組成物ワニスを作製した。このフィルム形成用樹脂組成物ワニスを、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(厚さ50μm)上に、乾燥後の厚さが50μmになる様に塗布、80℃?130℃で5分乾燥させることにより、フィルム状接着剤を得た。
・・・
【0048】
(フィルム支持性)
フィルム状接着剤(硬化前)を、PETフィルム(厚さ50μm)に載った状態で180度折り曲げた際のクラックの発生状況により評価した。クラックが発生しない場合を◎、クラックが入るが連続クラックには至らず、フィルム状として取り扱える場合を○、クラックにより破断し、フィルム状として取り扱えない場合を×と表示した。
なお、フィルム状接着剤(硬化前)のフィルム支持性については溶剤残存率の影響が大きく、溶剤残存率が高いほどフィルム支持性が良好な傾向にある。したがって、全ての実施例、比較例について、フィルム状接着剤(硬化前)の溶剤残存率が3重量%以下であることを確認した。溶剤残存率は、200℃雰囲気にて60分乾燥した際の重量減少率の測定により求めた。
【0049】
(熱膨張係数、ガラス転移温度)
フィルム状接着剤を180℃にて1時間の硬化をすることにより試験片を得た。
熱機械的分析装置(TMA)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で求めた。
熱膨張係数α1は0?40℃の平均変化率で定義した。
【0050】
(引張試験)
フィルム状接着剤を180℃にて1時間の硬化をすることにより試験片を得た。
テンシロン試験機を用いた引張試験により、引張速度5mm/分の条件にて、弾性率、強度、破断伸びを求めた。
【0051】
(銅箔ピール強度)
フィルム状接着剤を、バッチ式真空ラミネーターを用いて、圧着温度を70?120℃の範囲にて材料が融着することなくラミネートできる温度にそれぞれ設定し、圧着圧力0.1MPa、気圧400Pa以下の条件で、厚さ18μmの銅箔のS面(シャイニー面)に片面ラミネートした。この様にして得られた銅箔付きフィルム状接着剤を、180℃にて1時間の硬化を行った。
更に、この様にして得られた銅箔付き硬化物において、樹脂硬化物側の面を、支持材としてのリジッド基板に接着剤を用いて接着した。
JIS C 6481(引きはがし強さ)に基づき、しかるべき形状の試験片を作成し、ストログラフ試験機を用いて、銅箔を90度方向に速度50mm/分の条件にて引張ることにより、90度銅箔ピール強度を測定した。
【0052】
(耐湿信頼性試験:HAST)
フィルム状接着剤として、乾燥後の厚さが30μmのものを準備した。このフィルム状接着剤を、バッチ式真空ラミネーターを用いて、圧着温度を70?120℃の範囲にて材料が融着することなくラミネートできる温度にそれぞれ設定し、圧着圧力0.1MPa、気圧400Pa以下の条件で、HAST用の櫛形電極付き絶縁板(陽極、陰極1組の櫛形電極(銅配線)の組み合わせにより、陽極と陰極が交互にL/S=150μm/150μmで位置した厚さ18μmの銅配線を搭載した絶縁板)に片面ラミネートした。この様にして得られた樹脂ラミネート後の櫛形電極付き絶縁板を、180℃にて1時間の硬化をすることにより試験片を得た。
この試験片を130℃/85%RHの環境のもとで10Vの電圧をかけ、経時における短絡の有無を測定することにより、耐湿信頼性(HAST)を評価した。表3、4には(不良が発生した試験片の個数/試行試験片の個数)を示した。
【0053】
(サーマルショック信頼性試験:TS)
フィルム状接着剤として、乾燥後の厚さが30μmのものを準備した。このフィルム状接着剤を、バッチ式真空ラミネーターを用いて、圧着温度を70?120℃の範囲にて材料が融着することなくラミネートできる温度にそれぞれ設定し、圧着圧力0.1MPa、気圧400Pa以下の条件で、TS用試験板に片面ラミネートした。この様にして得られた樹脂ラミネート後のTS用試験板を、180℃にて1時間の硬化をすることにより試験片を得た。
この試験片を、冷熱衝撃試験機を用いて、液相浸漬-65℃,5分と、150℃,5分の冷熱サイクルを与えた際に、それぞれの累積サイクル数における、樹脂クラックの発生を測定することにより、サーマルショック信頼性(TS)を評価した。表3、4には(不良が発生した試験片の個数/試行試験片の個数)を示した。
TS用試験板は、FR-4上に18μm厚の銅製ダンベルのパターンを搭載したものである。銅製ダンベルの幅は90μmであり、これが400μm間隔で整列したパタ-ンである。試験片1枚あたりの銅製ダンベルの数は1350個である。試験片1枚あたりのダンベル近傍の樹脂クラックが14個以上(1350個中1%以上)になったときにその試験片を不良とみなした。
【0054】
(半田耐熱性試験)
フィルム状接着剤として、乾燥後の厚さが30μmのものを準備した。このフィルム状接着剤を、バッチ式真空ラミネーターを用いて、圧着温度を70?120℃の範囲にて材料が融着することなくラミネートできる温度にそれぞれ設定し、圧着圧力0.1MPa、気圧400Pa以下の条件で、厚さ18μmの銅箔のS面(シャイニー面)に片面ラミネートした。この様にして得られた銅箔付きフィルム状接着剤を、180℃にて1時間の硬化を行った。
更に、この様にして得られた銅箔付き硬化物を50mm角に切り取り試験片を作成し、85℃、85%RHの条件にて168時間吸湿させた。なお、銅箔付き硬化物を吸湿機に入れる際には、反り防止のため、銅箔側を両面粘着テープにて、支持材としてのリジッド基板に仮固定した(半田浸漬の際にはリジッド基板から銅箔付き硬化物が剥がせる様に)。
所定条件吸湿後、リジッド基板から剥がした銅箔付き硬化物の試験片を、260℃、60秒、半田浴に浸漬し、銅箔面のふくれ、はがれの有無を目視により調べた。表3、4には(不良が発生した試験片の個数/試行試験片の個数)を示した。
【0055】
(誘電率、誘電正接)
乾燥後の厚さが50μmのフィルム状接着剤1枚を、バッチ式真空ラミネーターを用いて、圧着温度を70?120℃の範囲にて材料が融着することなくラミネートできる温度にそれぞれ設定し、圧着圧力0.1MPa、気圧400Pa以下の条件で、同一サンプルでさらに1枚のフィルム状接着剤(厚さ50μm)にラミネートした。その上に、同一サンプルでさらに1枚のフィルム状接着剤(厚さ50μm)にラミネートするといった操作を繰り返し、合計6枚分(厚さ300μm相当)が積み重なったフィルム状サンプルを得た。この様にして得られたフィルム状サンプルを、180℃にて1時間の硬化をすることにより試験片を得た。
この試験片を、HEWLETT PACKARD製の誘電特性測定装置を用いて、TE01δモ-ド摂動法により、周波数3GHzの条件にて、誘電率(ε)、誘電正接(tanδ)の測定を行った。ここでの誘電率(ε)は、誘電体(樹脂組成物)の誘電率の、真空の誘電率ε0に対する比で示した。装置の補正は、誘電率、誘電正接が既知の標準資料(厚さ330μm)を用いて行った。
【0056】
(ラミネ-ト充填性)
サーマルショック信頼性(TS)の評価に用いた試験板と同じものを用いて評価を行った。すなわち、FR-4上に18μm厚の銅製ダンベルのパターンを搭載したものである(銅製ダンベルの幅は90μm、これが400μm間隔で整列したパタ-ン。試験片1枚あたりの銅製ダンベルの数は1350個)。
フィルム状接着剤を、バッチ式真空ラミネーターを用いて、圧着温度70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃の6水準にて、圧着圧力0.1MPa、気圧400Pa以下の条件で、前記試験板に片面ラミネートした。この様にして得られた樹脂ラミネート後の試験板を、180℃にて1時間の硬化をすることにより試験片を得た。
この試験片を、目視及び顕微鏡観察にて、ダンベル近傍が剥離なく樹脂組成物で充填されていること、樹脂組成物の表面状態が平滑であること、樹脂組成物に融着がないこと、の3項目を基準に評価を行った。前記6水準の温度において、少なくとも1水準の温度にて、3項目全てを満足することができた場合を○、それ以外の場合を×と表示した。」

(甲2-6)「【0059】
【表1】



(甲2-7)「【0059】
【表3】



(イ)甲2に記載された発明
摘記(甲2-1)?(甲2-7)の記載からみて、甲2には、以下の発明が記載されている。
「(A)エポキシ樹脂、(B)フェノ-ル樹脂、(C)シリカ、(D)ゴム成分及び(E)硬化促進剤を含有する樹脂組成物において、前記樹脂組成物中のシリカ含有量が50?85重量%であり、(D)ゴム成分が、両末端にアミノ基を有する芳香族ポリアミドオリゴマーと両末端にカルボキシル基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体との重縮合により得られる重量平均分子量が10,000?1,000,000のエラストマーを必須成分とするものであり、前記樹脂組成物中の前記エラストマ-の含有量が5?20重量%であることを特徴とするフィルム形成用樹脂組成物。」(以下、「甲2発明」という。)

イ 甲3に記載された事項
(甲3-1)「【請求項1】
(A)2官能性ヒドロキシル基末端ポリブタジエン、ジイソシアネート化合物及び四塩基酸無水物を反応させて得られる線状変性ポリイミド樹脂、及び(B)エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、ビスアリルナジイミド樹脂、ビニルベンジルエーテル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂及びビスマレイミドとジアミンの重合物から選択される1種以上の熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物。
・・・
【請求項12】
更に充填材を含有する請求項1?11のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
成分(B)の熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である請求項1?12のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物。」

(甲3-2)「【0001】
本発明は、フレキシブル回路基板に好適な熱硬化性樹脂組成物、並びに該熱硬化性樹脂組成物により製造されるフレキシブル回路基板、接着フィルム及びフレキシブル回路基板用フィルムに関する。本発明は更に、これら熱硬化性樹脂組成物、接着フィルム及びフレキシブル回路基板用フィルムを用いて製造されるフレキシブル回路基板等にも関する。
・・・
【0015】
本発明は、柔軟性および耐折り曲げ性に優れ、更にメッキにより密着強度に優れる導体層が簡便に形成可能な、フレキシブル回路基板及び半導体装置の絶縁材料として有用な熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。」

(甲3-3)「【0033】
本発明における変性ポリイミド樹脂は、上記式(1-a)で表されるポリブタジエン構造及び上記式(1-b)で表されるポリイミド構造の2つの化学構造単位を含む。通常、樹脂組成物に柔軟性を付与するためには、ポリブタジエン樹脂のようなゴム系樹脂を樹脂組成物に直接混合することが一般的であるが、非極性のゴム系樹脂は、極性の高い熱硬化性樹脂組成物中で相分離を起こしやすく、特にゴム系樹脂の含有割合が高い場合は、安定した組成物を得ることが難しい。また、ゴム系樹脂を含有する樹脂組成物は、十分な耐熱性が得られないことが多い。一方、ポリイミド樹脂は耐熱性を有しているとともに、極性が高いために熱硬化性樹脂組成物との相溶性が比較的良好である。本発明の線状変性ポリイミド樹脂は、このポリイミド構造と柔軟性を付与するポリブタジエン構造の双方をひとつの分子内に有するため、柔軟性と耐熱性の両方の特性に優れた材料となり、さらに熱硬化性樹脂との相溶性も良好なため、安定した熱硬化性樹脂組成物を得るのに適した材料となる。」

(甲3-4)「【0090】
[製造例1]
<線状変性ポリイミド樹脂の製造(線状変性ポリイミド樹脂ワニスA)>
反応容器にG-3000(2官能性ヒドロキシル基末端ポリブタジエン、数平均分子量=5047(GPC法)、ヒドロキシル基当量=1798g/eq.、固形分100w%:日本曹達(株)製)50gと、イプゾール150(芳香族炭化水素系混合溶媒:出光石油化学(株)製)23.5g、ジブチル錫ラウレート0.005gを混合し均一に溶解させた。均一になったところで50℃に昇温し、更に撹拌しながら、トルエン-2,4-ジイソシアネート(イソシアネート基当量=87.08g/eq.)4.8gを添加し約3時間反応を行った。次いで、この反応物を室温まで冷却してから、これにベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(酸無水物当量=161.1g/eq.)8.96gと、トリエチレンジアミン0.07gと、エチルジグリコールアセテート(ダイセル化学工業(株)社製)40.4gを添加し、攪拌しながら130℃まで昇温し、約4時間反応を行った。FT-IRより2250cm^(-1)のNCOピークの消失の確認を行った。NCOピーク消失の確認をもって反応の終点とみなし、反応物を室温まで降温してから100メッシュの濾布で濾過して線状変性ポリイミド樹脂(線状変性ポリイミド樹脂ワニスA)を得た。
線状変性ポリイミド樹脂ワニスAの性状:粘度=7.5Pa・s(25℃、E型粘度計)
酸価=16.9mgKOH/g
固形分=50w%
数平均分子量=13723
ポリブタジエン構造部分の含有率=50*100/(50+4.8+8.96)=78.4質量」

(甲3-5)「【0100】
【表1】



ウ 本件訂正発明1について
(ア)甲2発明との対比
本件訂正発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「(A)エポキシ樹脂」は、本件訂正発明1の「エポキシ樹脂」に相当する。
甲2発明の「(C)シリカ」は本件訂正発明1の「シリカ」に相当し、その配合量についても、甲2発明は「前記樹脂組成物中のシリカ含有量が50?85重量%」であるから、本件訂正発明1の「シリカの含有量が絶縁性樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%」と重複する。
甲2発明の「(D)ゴム成分が、両末端にアミノ基を有する芳香族ポリアミドオリゴマーと両末端にカルボキシル基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体との重縮合により得られる重量平均分子量が10,000?1,000,000のエラストマー」について、「エラストマー」は「高分子樹脂」と同義であることから、本件訂正発明1の「ブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂」に相当する。
甲2発明の「フィルム形成用樹脂組成物」は、その配合成分からみて絶縁性の樹脂材料であるから、本件訂正発明1の「絶縁樹脂材料」に相当する。
そして、甲2発明は、フィルム形成用樹脂組成物にアミン系硬化剤を含むものではないから、本件訂正発明1の「(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)」ことに相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲2発明は、
「エポキシ樹脂、シリカおよびブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂を含む絶縁樹脂材料であって、
前記シリカの含有量が絶縁性樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%である、絶縁樹脂材料(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点5>
ブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂について、本件訂正発明1では、「ガラス転移温度が30℃以下」と特定されているのに対し、甲2発明ではこの特定がない点。

<相違点6>
絶縁樹脂材料について、本件訂正発明1では、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり、かつ前記硬化物の25℃における弾性率が0.5?14GPaである」との特定があるのに対し、甲2発明ではこの特定がない点。

(イ)相違点6の検討
事案に鑑み、まず相違点6の容易想到性について検討する。
a 本件明細書の「本発明の絶縁樹脂材料は、ガラス転移温度が30℃以下の高分子樹脂を含有することにより、硬化物の弾性率を低下させることができ、更には導体層と絶縁層とのピール強度を向上させることができる。また、ガラス転移温度が30℃以下の高分子樹脂は、25℃?220℃の広い温度領域において線熱膨張係数が変化しにくく、硬化物の線熱膨張係数の差を低く抑えることができる。」との記載(【0023】)によれば、本件訂正発明1における「前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり」、「かつ前記硬化物の25℃における弾性率が0.5?14GPaである」との各特性は、それぞれ、反り、寸法安定性に関する特性であって、かつ、ガラス転移温度が30℃以下の高分子樹脂に由来するものと解される。
b 一方、甲2発明は、フィルム形成用樹脂組成物に関するものであって、冷熱サイクル信頼性、半田耐熱性、耐湿信頼性に優れ、加えて高周波域での低誘電率、低誘電正接の面で優れたフィルム状接着剤を与えるフィルム形成用樹脂組成物を提供するものであり(摘記(甲2-2)、【0008】)、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノ-ル樹脂、(C)シリカ、(D)ゴム成分及び(E)硬化促進剤を含有する樹脂組成物において、組成物中のシリカの含有量は低熱膨張化の観点から多いほど良く(摘記(甲2-3)、【0017】)、(D)成分のゴム成分は、両末端にアミノ基を有する芳香族ポリアミドオリゴマーと両末端にカルボキシル基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体との重縮合により得られるエラストマー(G)を必須成分とするものであり(摘記(甲2-3)、【0018】)、このエラストマー(G)を含有量が5重量%より少ないとフィルム形成用樹脂組成物として、破断伸び等の機械物性の低下を招くのに加えて、硬化前段階でのフィルム支持性の低下を招くこと(摘記(甲2-3)、【0022】)から、シリカの配合により低熱膨張化に優れるものとなり、エラストマー(G)の配合により、冷熱サイクル信頼性、半田耐熱性に優れるものとなると解される。
甲2には、上記の冷熱サイクル信頼性、半田耐熱性、耐湿信頼性、高周波域での低誘電率、低誘電正接について、甲2発明に係るエポキシ樹脂から作成したフィルム状接着剤を用いて、各種試験片を得た後(摘記(甲2-5)、【0047】)、フィルム支持性、熱膨張係数、ガラス転移温度、引張試験、銅箔ピール強度、耐湿信頼性試験:HAST、サーマルショック信頼性試験:TS、半田耐熱性試験、誘電率、誘電正接、及びラミネ-ト充填性の試験を行うことにより評価したことが記載され、その結果が表3(摘記(甲2-7))に示されている。
以上のとおり、甲2には、冷熱サイクル信頼性、半田耐熱性、耐湿信頼性、高周波域での低誘電率、低誘電正接について記載しているものの、本件訂正発明1の上記の各特性については、なんら記載されていない。また、当業者といえども、甲2における冷熱サイクル信頼性、半田耐熱性、耐湿信頼性、高周波域での低誘電率、低誘電正接についての評価の記載から、本件訂正発明1にける上記の各特性を推認することができるとはいえない。
また、甲3には、フレキシブル回路基板に好適な熱硬化性樹脂組成物であって、(A)2官能性ヒドロキシル基末端ポリブタジエン、ジイソシアネート化合物及び四塩基酸無水物を反応させて得られる線状変性ポリイミド樹脂、(B)エポキシ樹脂、充填材等を配合することにより(摘記甲(3-1)、請求項1、12、13)、柔軟性および耐折り曲げ性に優れ、更にメッキにより密着強度に優れる導体層が簡便に形成可能な、フレキシブル回路基板及び半導体装置の絶縁材料として有用な熱硬化性樹脂組成物を提供することが記載されている(摘記(甲3-2)、【0015】)が、本件訂正発明1における「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり、かつ前記硬化物の25℃における弾性率が0.5?14GPaである」との各特性については、表1を参照しても(摘記(甲3-5))、何ら記載されていない。
以上によれば、甲2発明において、フィルム形成用樹脂組成物を、本件訂正発明1における「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり、かつ前記硬化物の25℃における弾性率が0.5?14GPaである」の特性を有するものとすることが動機付けられるとはいえない。
さらに、甲2と甲3は、技術分野と課題が異なるものであるから、甲2発明の「(D)ゴム成分が、両末端にアミノ基を有する芳香族ポリアミドオリゴマーと両末端にカルボキシル基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体との重縮合により得られる重量平均分子量が10,000?1,000,000のエラストマー」に代えて、甲3の「(A)2官能性ヒドロキシル基末端ポリブタジエン、ジイソシアネート化合物及び四塩基酸無水物を反応させて得られる線状変性ポリイミド樹脂」使用することが、動機付けられるとはいえない。
そして、本件訂正発明1は、エポキシ樹脂と特定の高分子樹脂を含む絶縁性材料において、大量のシリカを配合した場合でも、弾性の上昇が抑えられ、低弾性率を低線熱膨脹係数の双方の特性に優れた絶縁樹脂材料が得られることを見出したものであり、寸法安定性が高く、かつ反りが小さい、絶縁性材料を提供するという、当業者が予測することができない格別顕著な効果を奏するものである(【0005】、【0007】)。
そうすると、本件訂正発明1は、甲2発明と、甲3の記載を組み合わせて、当業者が容易に想到することができたとはいうことができない。
したがって、相違点5について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲2及び甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件訂正発明2について
(ア)甲2発明との対比
本件訂正発明2と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「(A)エポキシ樹脂」は、本件訂正発明2の「エポキシ樹脂」に相当する。
甲2発明の「(C)シリカ」は本件訂正発明2の「シリカ」に相当し、その配合量についても、甲2発明の「前記樹脂組成物中のシリカ含有量が50?85重量%」であるから、本件訂正発明2の「シリカの含有量が絶縁性樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%」と重複する。
甲2発明の「両末端にアミノ基を有する芳香族ポリアミドオリゴマーと両末端にカルボキシル基を有するブタジエン-アクリロニトリル共重合体との重縮合により得られる重量平均分子量が10,000?1,000,000のエラストマー」について、「エラストマー」は「高分子」であることから、本件訂正発明2の「ブタジエン骨格を有する高分子樹脂」に相当する。
甲2発明の「フィルム形成用樹脂組成物」は、その配合成分からみて絶縁性の樹脂材料であるから、本件訂正発明2の「絶縁樹脂材料」に相当する。
そして、甲2発明は、樹脂ワニス中にアミン系硬化剤を含むものではないから、本件訂正発明2の「(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)」ことに相当する。
そうすると、本件訂正発明2と甲2発明は、
「エポキシ樹脂、シリカおよびブタジエン骨格を有する高分子樹脂を含む絶縁樹脂材料であって、
前記シリカの含有量が絶縁性樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%である、絶縁樹脂材料(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点5’>
ブタジエン骨格を有する高分子樹脂について、本件訂正発明2では、「ガラス転移温度が30℃以下」と特定されているのに対し、甲2発明ではこの特定がない点。。

<相違点6’>
絶縁樹脂材料について、本件訂正発明2では、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり」との特定があるのに対し、甲2発明ではこの特定がない点。

<相違点7>
絶縁樹脂材料について、本件訂正発明2では、「絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数をA(ppm/℃)とし、150℃?220℃における線熱膨張係数をB(ppm/℃)とした場合、0≦B-A≦15である、」との特定があるのに対し、甲2発明ではこの特定がない点。

(イ)相違点6’の検討
事案に鑑み、まず相違点6’の容易想到性について検討する。
相違点6’については、上記ウ(ア)の相違点6と同旨であって、その判断についても同様となり、本件訂正発明2は、甲2及び甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、相違点5’、相違点7について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、甲2及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件訂正発明2は、甲2及び甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件訂正発明3?9、11?22について
本件訂正発明3?9、11?22は、本件訂正発明1または2を直接又は間接的に引用するものであるが、上記ウ、エで述べたとおり、本件訂正発明1及び2が、甲2及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件訂正発明3?9、11?22についても同様に、甲2及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?9、11?22に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1?9、11?22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許の請求項10に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人 森川真帆による特許異議の申立てについて、請求項10に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、シリカおよびガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格、カーボネート骨格、アクリル骨格及びシロキサン骨格から選択される1種以上の骨格を有する高分子樹脂を含む絶縁樹脂材料であって、
前記シリカの含有量が絶縁樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%であり、
前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり、かつ前記硬化物の25℃における弾性率が0.5?14GPaである、絶縁樹脂材料(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)。
【請求項2】
エポキシ樹脂、シリカおよびガラス転移温度が30℃以下かつブタジエン骨格を有する高分子樹脂を含む絶縁樹脂材料であって、
前記シリカの含有量が絶縁樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し60?95質量%であり、
前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?30ppm/℃であり、かつ前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数をA(ppm/℃)とし、150℃?220℃における線熱膨張係数をB(ppm/℃)とした場合、0≦B-A≦15である、絶縁樹脂材料(アミン硬化剤を含む絶縁樹脂材料を除く)。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂の含有量が、絶縁樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し、3?15質量であり、かつ、前記高分子樹脂の含有量が、絶縁樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し、5?30質量%である、請求項1又は2記載の絶縁樹脂材料。
【請求項4】
前記絶縁樹脂材料の硬化物の150℃?220℃における線熱膨張係数が5?32ppm/℃である、請求項1?3のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料。
【請求項5】
前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数が3?10ppm/℃であり、かつ150℃?220℃における線熱膨張係数が5?15ppm/℃であり、
前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃における弾性率が0.5?6GPaである、
請求項1?4のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料。
【請求項6】
前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数をA(ppm/℃)とし、150℃?220℃における線熱膨張係数をB(ppm/℃)とした場合、0≦B-A≦15である、請求項1記載の絶縁樹脂材料。
【請求項7】
前記絶縁樹脂材料の硬化物の25℃?150℃における線熱膨張係数をA(ppm/℃)とし、150℃?220℃における線熱膨張係数をB(ppm/℃)とした場合、0≦B-A≦4である、請求項6記載の絶縁樹脂材料。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂が液状エポキシ樹脂である、請求項1?7のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料。
【請求項9】
前記エポキシ樹脂の含有量が、絶縁樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し、1?15質量%である、請求項1又は2記載の絶縁樹脂材料。
【請求項10】(削除)
【請求項11】
前記高分子樹脂の数平均分子量が300?100000である、請求項1?9のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料。
【請求項12】
前記高分子樹脂の数平均分子量が8000?20000である、請求項1?9、11のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料。
【請求項13】
前記高分子樹脂がブタジエン骨格を有する、請求項1、3?9、11、12のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料。
【請求項14】
前記高分子樹脂がさらにイミド骨格およびウレタン骨格を有する、請求項2又は13記載の絶縁樹脂材料。
【請求項15】
前記高分子樹脂の含有量が、絶縁樹脂材料の不揮発成分100質量%に対し、1?30質量%である、請求項1又は2記載の絶縁樹脂材料。
【請求項16】
請求項1?9、11?15のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料が支持体上に層形成されてなる接着フィルム。
【請求項17】
請求項1?9、11?15のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料を熱硬化してなるシート状硬化物。
【請求項18】
請求項1?9、11?15のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料をシリコンウェハ上に層形成し、熱硬化させることで、シリコンウェハ上にシート状硬化物を形成したときの25℃における反り量が0?5mmであるシート状硬化物。
【請求項19】
請求項1?9、11?15のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料を用いてなるプリント配線板。
【請求項20】
請求項17又は18記載のシート状硬化物上に導体層が形成されているプリント配線板。
【請求項21】
請求項1?9、11?15のいずれか1項記載の絶縁樹脂材料を用いてなるウエハレベルチップサイズパッケージ。
【請求項22】
請求項17又は18記載のシート状硬化物上に導体層が形成されているウエハレベルチップサイズパッケージ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-11-25 
出願番号 特願2017-75437(P2017-75437)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤代 亮  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 大▲わき▼ 弘子
佐藤 健史
登録日 2018-04-13 
登録番号 特許第6319495号(P6319495)
権利者 味の素株式会社
発明の名称 絶縁樹脂材料  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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