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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1358662
異議申立番号 異議2019-700677  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-27 
確定日 2020-01-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6475901号発明「半導体加工用粘着テープおよび半導体装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6475901号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6475901号(以下,その特許明細書を「本件明細書」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は,平成31年2月8日にその特許権の設定登録がされ,平成31年2月27日に特許掲載公報が発行された。その後,その特許に対し,令和元年8月27日に特許異議申立人 森川真帆(以下,「申立人」という。)は,特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6475901号の請求項1ないし4の特許に係る発明(以下,「本件発明1」ないし「本件発明4」という。又,「本件発明1」ないし「本件発明4」をまとめて「本件特許発明」という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
23℃におけるヤング率が1000MPa以上の基材と、基材の少なくとも一方の面側に設けられた粘着剤層とを有する粘着テープであって、
前記粘着剤層の厚みを(N)[μm]、クリープ量を(C)[μm]としたときの、(N)と(C)との積(N)×(C)が、30℃において500以上、かつ、60℃において9000以下である、半導体加工用粘着テープ。
【請求項2】
前記粘着剤層の30℃におけるせん断貯蔵弾性率が0.03MPa以上であり、60℃におけるせん断貯蔵弾性率が0.20MPa以下である、請求項1に記載の半導体加工用粘着テープ。
【請求項3】
前記粘着剤層の厚さが100μm以下である、請求項1または2に記載の半導体加工用粘着テープ。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の半導体加工用粘着テープを、半導体ウエハの表面に貼付する工程と、
前記半導体ウエハの表面側から溝を形成し、又は前記半導体ウエハの表面若しくは裏面から半導体ウエハ内部に改質領域を形成する工程と、
前記粘着テープが表面に貼付され、かつ前記溝又は前記改質領域が形成された半導体ウエハを、裏面側から研削して、前記溝又は前記改質領域を起点として複数のチップに個片化させる工程と、
前記複数のチップから前記粘着テープを剥離する工程と、
を備える半導体装置の製造方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は,主たる証拠として特開2014-75560号公報(以下,「甲第1号証」という。)並びに技術常識を示す証拠として日本レオロジー学会編 講座・レオロジー,(株)高分子刊行会,1993年9月1日第1版第2刷発行,第47頁ないし第49頁(以下,「甲第2号証」という。)及び松下裕秀 他7名,高分子の構造と物性,株式会社講談社,2014年7月20日第3刷発行,第452頁(以下,「甲第3号証」という。)を根拠として,請求項1ないし4に係る特許は特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし4に係る特許は取り消すべきものである旨主張するとともに,請求項1ないし4に係る特許は発明の詳細な説明に記載されたものでないとして,請求項1ないし4に係る特許は同法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであるから,請求項1ないし4に係る特許は取り消すべきものである旨主張する。

第4 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
1 甲号証の記載
(1)甲第1号証の記載
甲第1号証には,図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は,当審で付与した。以下同じ。)

「【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの研削工程において好適な表面保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高集積化に伴い、半導体チップの薄型化及び極小化の要求は激化している。極めて薄い半導体チップを得てデバイスに実装しようとする際、チップに分割する前の半導体ウエハ等のワーク(加工対象物)を研削することで薄型化する方法が採用されている。ただし、この場合、(1)薄型化したワークの取扱時の破損のリスクや、(2)ワークをチップに分割した後におけるチップの破損のリスクが存在する。
【0003】
上記(1)のリスクを回避する、ワークをチップへ分割する方法として、「先ダイシング法」と呼ばれるワークの分割方法が知られている。「先ダイシング法」とは、分割予定ラインに沿ってワークの表側に溝を形成し、ワークの裏面側から少なくとも溝に到達するまで、ワークを研削等の薄化処理を行ってチップに分割する方法である。
例えば、特許文献1には、シリコン基板の表面側にペレットの分割予定境界線に沿って溝を形成し、形成した溝の内壁面に樹脂膜を設け、シリコン基板の裏面側から溝に到達するまで、シリコン基板を切削して、シリコン基板を複数のペレットに分割させる方法が開示されている。
【0004】
このような方法は、ワークの薄化処理を行った後にチップへの分割を行う通常のプロセスに比べ、薄化処理したワークを取り扱う必要がないため、ワークの破損等のリスクを無くすことができる点で優れている。
【0005】
また、上記(2)のリスクに関しては、チップの抗折強度が劣ることが破損の要因となる。
チップの抗折強度を向上させるワークの分割方法として、特許文献2に開示されるような「ステルスダイシング(登録商標)」という方法が知られている。
ステルスダイシングとは、レーザ光によりワーク内部に改質領域を形成し、ワークに力を加えることで、当該改質領域が切断起点となってワークが切断してチップを作成する方法である。
より具体的には、ワークの一方の面に伸張性のフィルムを装着し、ワークの該フィルムが形成された面とは反対の面をレーザ光入射面として、ワークの内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより多光子吸収による改質領域を形成する。そして、この改質領域によって、ワークの切断予定ラインに沿って前記レーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成し、前記フィルムを伸張させることにより、前記切断起点領域を起点としてワークを複数の部分に、互いに間隔が空くようにワークを切断し、チップを得ることができる。
【0006】
このような方法は、回転ブレードによってワークを切削する処理を伴わないため、チップ端部に微小な欠けが発生する現象、いわゆるチッピングの発生を抑制でき、チップの抗折強度を向上させることができる。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ワークの裏面研削工程は、研削時に発生する研削屑を洗い流すためにワークを超純水に曝しながら行われる。
特許文献3に開示の方法では、ワークの研削により改質領域が割断される(劈開させられる)と、割断された部分の間隙がごく狭いために、毛細管現象により割断された間隙に水(スラッジ)が比較的強い勢いで浸入することがある。ワークの研削面と逆側の面には、回路等が形成される場合があり、通常表面を保護するために、粘着剤層を有する粘着シートが貼付される。
しかしながら、研削時の振動により間隙に浸入した水(スラッジ)が、粘着剤層とワークの被保護表面との界面にまで浸入し、粘着剤が溶解した水により、被保護表面が汚染されてしまう場合がある。特許文献3には、このような被保護表面の汚染を抑制する方法については何ら検討されていない。
【0010】
本発明は、改質領域が形成されたワークの裏側研削工程の際に用いられる表面保護シートとして好適であって、ワークの裏面研削工程の際に、ワークが割断され形成される間隙からワークの被保護表面に、水の浸入(スラッジ浸入)を抑制して、ワークの被保護表面の汚染を防止し得る表面保護シートを提供することを目的とする。」

「【0076】
図2は、本発明の表面保護シートの用途の一例を示す模式図である。
本発明の表面保護シートは、図2(a)のように、回路等により凹凸部分51が形成された半導体ウエハ等のワーク50の表面保護シートとして好適である。本発明の表面保護シート1を、凹凸が形成された面(凹凸部分51側)に貼付することで、ワークの裏側切削工程において回路等を保護することができる。
【0077】
本発明の表面保護シートをワーク50の凹凸部分51側に貼付する際、ワークは加熱されていることが好ましい。ワークの加熱温度としては、好ましくは40?80℃、より好ましくは45?60℃である。
【0078】
なお、本発明の表面保護シートは、上記要件(c)及び(d)を満たすため、ワーク50の凹凸部分51に粘着剤層12が追従し、ワーク50の凹凸部分51と粘着剤層12との非接触領域を少なくすることができる。その結果、当該非接触領域の存在をきっかけとした粘着剤層12がワーク50から剥離して、剥離した領域にスラッジ浸入が生じる現象を抑制することができる。
【0079】
また、ワーク50には、例えば、特許文献2に記載のステルスダイシング(登録商標)の方法を利用して、改質領域52が形成される。改質領域52の形成は、表面保護シート1をワーク50に貼付する前に行ってもよく、貼付後に行ってもよい。
【0080】
そして、ワーク50の凹凸部分51側に本発明の表面保護シート1を貼付後、ワークの裏側表面50aから切削し、ワークを所望の厚みとする切削工程を経る。
当該切削工程は、発生する切削屑を洗い流すため、ワーク50は超純水に浸しながら行われる。
【0081】
図2(b)のように、ワークの切削が進むにつれ、ワーク50内部の改質領域52が割断され、間隙53が形成される。
従来の表面保護シートを用いた場合、毛細管現象により、この間隙53に水(スラッジ)が浸入し、凹凸部分51側の回路面と粘着剤層12との界面にまで浸入し、ワークの回路面が汚染されるという弊害がある。
しかしながら、本発明の表面保護シートは、上記要件(a)及び(b)を満たすことで、ワークの研削時の振動によって、ワークに貼付した表面保護シートの変形を抑え、ワークの被保護表面のスラッジ浸入を抑制することができる。
【0082】
切削工程終了後、ワークの裏側表面50aにピックアップシート、ダイアタッチメントフィルム等の他のシートを貼着する。ここで、粘着剤層12がエネルギー線硬化性粘着剤組成物からなる場合には、粘着剤層12にエネルギー線を照射して硬化させることで、表面保護シートの粘着力を低減することができ、表面保護シートを容易に除去することができる。
そして、表面保護シートを除去後、ピックアップシート、ダイアタッチメントフィルム等の他のシートに外力を与えることにより、ワークをチップに分割することできる。」

「【0085】
製造例1
〔アクリル系共重合体(1)及び粘着剤組成物(1)の溶液の調製〕
ブチルアクリレート52質量部、メチルメタクリレート20質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート28質量部を、酢酸エチル溶媒中で溶液重合し、非エネルギー線硬化性のアクリル系共重合体を得た。得られた当該アクリル系共重合体の全水酸基数に対して、イソシアネート基数が0.9当量となる量のメタクリロイルオキシエチルイソシアネートを、当該アクリル系共重合体を含む溶液に加えて反応させ、側鎖にエネルギー線重合性基を有する、エネルギー線硬化性のアクリル系共重合体(1)(Mw:100万)を生成した。
そして、このアクリル系共重合体(1)の固形分100質量部に対して、架橋剤として、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製、商品名「コロネートL」)0.5質量部(固形分比)及び光重合開始剤として、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF社製、商品名「イルガキュア184」)0.57質量部(固形分比)を配合して、エネルギー線硬化性粘着剤組成物(1)の溶液を調製した。」

「【0089】
実施例1?9、比較例1?6
表1に示す、製造例1?4のいずれかで調製した粘着剤組成物を、乾燥後の厚みが表1に示す値となるように、シリコーン剥離処理を行ったPETフィルム(リンテック社製、商品名「SP-PET381031」)の剥離処理面に塗布し、100℃で1分間乾燥し、粘着剤層を形成した。そして、当該粘着剤層と表1に示す基材を貼り合わせた後、PETフィルムを除去して、表面保護シートを作製した。
【0090】
実施例及び比較例で用いた基材は、以下のとおりである。
・複層基材A:LDPE(低密度ポリエチレン)/PET(ポリエチレンテレフタレート)/LDPE=27.5μm/25.0μm/27.5μmからなる、合計厚み80μmの複層樹脂フィルムのみからなる基材。
・複層基材B:LDPE/PET/LDPE=27.5μm/50.0μm/27.5μmからなる、合計厚み105μmの複層樹脂フィルム。
・単層基材C:25μmのPETフィルム(三菱樹脂社製、商品名「ダイアホイルT100-25」)からなる単層樹脂フィルム。
・単層基材D:75μmのPETフィルム(東レ社製、商品名「ルミラー#75T60」)からなる単層樹脂フィルム。
・単層基材E:80μmのPBT(ポリブチレンテレフタレート)フィルムからなる単層樹脂フィルム。
・粘着剤層付き基材F:PET/PSA(非エネルギー線硬化性のアクリル系粘着剤(第2の粘着剤層))=25μm/5μmからなる、合計厚み30μmの易接着層付き樹脂フィルム。
・易接着層付き基材G:PET/易接着層(アクリレート変性ポリエステルを主成分とするポリエステル系樹脂溶液にアジリジン系架橋剤を添加したアンカーコート層形成用組成物から形成された層)=25μm/2μmからなる、合計厚み27μmの易接着層付き樹脂フィルム。
・単層基材H:105μmのウレタンアクリレート硬化フィルムからなる単層樹脂フィルム」

「【0092】
<基材のヤング率の測定>
試験速度として、200mm/分を選択し、JIS K-7127(1999)に準拠して、上記基材A?Gのヤング率を測定した。
【0093】
<粘着剤層の貯蔵弾性率の測定>
粘弾性測定装置(Rheometrics社製、装置名「DYNAMIC ANALYZER RDAII」)を用いて、実施例及び比較例で用いた粘着剤組成物の溶液から形成された単層の粘着剤層を積層させて得た直径8mm×厚さ3mmサイズのサンプルを1Hzで23℃、50℃の環境下で貯蔵弾性率G'をねじりせん断法により測定した。」

「【0098】
【表1】



【図2】

上記【表1】から,実施例1ないし7及び9の基材AないしF及びGのヤング率は1600MPa以上であることがわかる。また,このヤング率は,段落【0092】の記載からJIS K-7127(1999)に準拠して測定されたことがわかる。
また,上記【表1】から,実施例1ないし7及び9の粘着剤層の貯蔵弾性率は25℃おいて,0.15もしくは0.20MPaであり,50℃において,0.05もしくは0.09MPaであり,又,厚みは40もしくは60μmであることがわかる。

そうすると,甲第1号証には,以下の発明(以下,「甲第1号証発明」という。)が記載されている。

「ワークの裏側切削工程において回路等を保護することができる表面保護シートであって,
ワークの裏面研削工程の際に,ワークが割断され形成される間隙からワークの被保護表面に,水の浸入(スラッジ浸入)を抑制して,ワークの被保護表面の汚染を防止し得る表面保護シートであり,
表面保護シートは,粘着剤層と基材を貼り合わせており,
基材のヤング率は,JIS K-7127(1999)に準拠した測定で,1600MPa以上であり,
粘拓剤層の厚みは,40もしくは60μmであり,
粘着層の貯蔵弾性率は,25℃おいて,0.15もしくは0.20MPaであり,50℃において,0.05もしくは0.09MPaである,
表面保護シート。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には,図面とともに以下の事項が記載されている。

「 2.3 高分子液体の線形粘弾性測定とデータの見方
2.3.1 測定法の概要
液体の粘弾性は,2.2.7, 2.2.8に示した関数形で表わされ,高分子液体の粘弾性の特徴は,2.3.5で示すとおりである.このような粘弾性挙動を完全に測定するには,広範囲な時間あるいは振動数にわたる測定が必要である.また,緩和時間は物質および温度によって大きく異なるので,目的に応じた時間(振動数)域の装置が要求される.例えば振動数の低過ぎる装置では,粘度あるいは2.3.5で述べるパラメーターくらいの情報しか得られない.粘弾性測定装置の研究は,1970年頃までにだいたい完成し,その後は汎用的なものが精密化されかつ取り扱いが便利になる以外には,特殊なタイプの装置が目的に応じて散発的に制作されている状況である.
線形粘弾性関数を求めるには,試料に微小なずりひずみγ(t)を加えて,発生する応力σ(t)を測定すれば良い.緩和時間が比較的長く,応力が比較的大きい場合,すなわち高分子の溶融体や濃厚溶液では,試料を保持する装置壁を適当に動かして二つの壁の間隙の試料を変形し,壁に作用する力を測定することによって応力を求めることができるので(ギャップ負荷法;gap loading method)実際にひずみと応力を測定することが可能である.この型の装置は,定常流での測定や非線形粘弾性の測定にも用いられ,一般的にレオメーター(rheometer)と呼ばれる.
変形様式としては,図2-6に示すものが用いられる.回転型レオメーターでは,試料を共軸の2個の円筒の間(a),円錐と円板の間(b),あるいは2枚の平行な円板の間(c)に満たし,片方のメンバーを回転させることにより変形を与え,いずれかに作用するトルクを測定して応力を求める.並進型(サンドイッチ型)では,共軸の2個の円筒〔外筒に底のないI型(d)あるいは底のあるII型(e)〕あるいは2枚の平板の間(f)に試料を満たし,片方のメンバーを平行移動させることによりひずみを与え,作用する力から応力を求める.
回転型装置で回転角ΩとトルクMから,ひずみγと応力σを求めるには次式を用いる.

並進型装置では変移xと力Fから次式によって求める.

装置定数K_(1),K_(2)は表2-1にまとめてある.これらの式で,装置(a),(d),(e)では内筒壁上におけるひずみと応カ,(b),(f)では試料の任意の部分における値,(c)では円板の外縁における値が得られる.
市販されている装置は,ほとんど回転型のものである.回転型の装置では,試料を適切に取り付けさえすれば精密な測定が可能である.試料取り付けについては,試料の種類に応じて,装置メーカーごとにノウハウがあるので,装置の選定の際に充分調査することが望ましい.一般的に言って,共軸円筒形の装置は低粘度の液体での測定に向いている.円錐円板形装置は大変形での解析が容易であるが,試料の装着が難しい.平行円板形装置は高粘度の試料の測定に便利である.」

(3)甲第3号証
甲第3号証には,以下の事項が記載されている。

2 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 対比
(ア)甲第1号証発明の「表面保護シート」は,「ワークの裏側切削工程において回路等を保護する」ものであるから,甲第1号証発明の「表面保護シート」は,本件発明1の「半導体加工用粘着テープ」に相当する。また,甲第1号証発明の「基材」及び「粘着剤層」は,それぞれ本件発明1の「基材」及び「粘着剤層」に相当する。

(イ)甲第1号証発明の「表面保護シート」は,「粘着剤層と基材を貼り合わせて」いるから,このことは,本件発明1の「粘着テープ」が「基材の少なくとも一方の面側に設けられた粘着剤層とを有する」ことに相当する。

(ウ)甲第1号証発明の「基材のヤング率は,JIS K-7127(1999)に準拠した測定で,1600MPa以上」であることと,本件発明1の「基材」の「23℃におけるヤング率が1000MPa以上」であることは,「基材」の「ヤング率が1000MPa以上」である点で共通する。

(エ)そうすると,本件発明1と甲第1号証発明は以下の点で一致し,また,相違する。

[一致点]
「ヤング率が1000MPa以上の基材と,基材の少なくとも一方の面側に設けられた粘着剤層とを有する粘着テープ。」

[相違点1]
基材のヤング率が1000MPa以上である点について,本件発明1の「基材」が「23℃におけるヤング率が1000MPa以上」であるのに対して,甲第1号証発明の「基材」のヤング率(1600MPa以上)が如何なる温度でのヤング率であるのか不明である点。

[相違点2]
本件発明1は「前記粘着剤層の厚みを(N)[μm]、クリープ量を(C)[μm]としたときの、(N)と(C)との積(N)×(C)が、30℃において500以上、かつ、60℃において9000以下である」のに対して,甲第1号証発明は,「粘拓剤層の厚みは,40もしくは60μm」であることがわかるものの,30℃及び60℃のクリープ量が示されておらず,厚み(N)とクリープ量(C)との積(N)×(C)の値が如何なる値を示すのか不明である点。

イ 相違点についての判断
(ア)[相違点2]について
甲第1号証発明は,クリープ量について示されていないために,30℃及び60℃の粘着剤層の厚み(N)とクリープ量(C)の積が,[相違点2]に係る値であると認定することはできず,又,半導体加工用粘着テープにおいて,粘着剤層の厚みとクリープ量の積が,[相違点2]に係る値であることが自明の事項であるともいえない。
また,甲第2号証及び甲第3号証には,粘着剤層の厚み(N)とクリープ量(C)の積を,30℃において500以上とすることで,凹凸があるウエハ表面に粘着テープを貼付する際,ウエハ表面の凹凸と粘着剤層とを十分に接触させ,かつ粘着剤層の接着性を適切に発揮させることが可能になり,粘着テープの半導体ウエハへの固定を確実に行い,かつ裏面研削時にウエハ表面を適切に保護することが可能になること,及び60℃において9000以下とすることで,裏面研削時に半導体ウエハの温度がグラインダ等との摩擦により60℃程度にまで上昇した場合でも,ダイシフトを抑制できること(本件明細書【0147】),即ち,特定温度における粘着層の厚さとクリープ量の関係により,裏面研削時のウエハ保護を適切に行うという技術思想は記載されていないから,甲第1号証の「粘着剤層」の厚さとクリープ量の積を[相違点2]に係る値とすることが容易であるとはいえない。
そして,本件発明1は,「粘着剤層」の厚さとクリープ量の積を,[相違点2]に係る値とすることで,「本発明に係る半導体加工用粘着テープは、裏面研削時の応力により変形しにくく、かつ、該応力を適度に緩和する。そのため、裏面研削時のチップの振動または移動を抑制し、チップ同士の衝突を防止できる。その結果、半導体チップにおけるクラックの発生を低減できる。また、凹凸があるウエハ表面に粘着テープを貼付する際、ウエハ表面の凹凸と粘着剤層とを十分に接触させ、かつ粘着剤層の接着性を適切に発揮させることが可能になる。」(本件明細書【0014】)という格別の効果を有するものである。

(イ)申立人の主張について
申立人は,令和元年8月27日に提出された特許異議申立書(以下,「特許異議申立書」という。)において,[相違点2]について,「(2)甲1発明の粘着層の「クリープ量(C)[μm]」の推定」において,「粘着剤層の「貯蔵弾性率」が同程度であれば,粘着剤層の「クリープ量(C)[μm]」も同程度と言える。」(特許異議申立書第28頁10行ないし12行)とした上で,「したがって,甲第1発明の粘着剤層の「クリープ量(C)[μm]」は,本件明細書の段落【0150】に記載された粘着剤層のクリープ量(C)の好ましい範囲,および,実施例7?9,13?14および16?17の粘着剤層のクリープ量の範囲(30℃:65?75μm,60℃:83?107μm)をみたしているといえる。」(特許異議申立書第28頁13行ないし17行)旨主張している。
しかしながら,貯蔵弾性率G'は,粘弾性G^(*)(フックの法則に基づく弾性率と,粘性体の性質に基づく散逸されるエネルギーの二つの要素に起因する。)の弾性の値を表す値であり,一方,クリープ量は,物体に一定の持続応力を与えることによって生じる時間の経過とともに変化するひずみ(変形)の量であるから,クリープ量は,物体の「貯蔵弾性率」だけで決まる量でないことは明らかである。したがって,申立人の上記主張は技術常識に反する主張であるといわざるを得ない。
そうすると,甲第1号証に記載された「粘着剤層」が[相違点2]に係る値を有しているとはいえない。

(ウ)相違点についての判断のまとめ
そうすると,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,甲第1号証発明ではなく,また,甲第1号証発明及び甲第1号証ないし甲第3号証の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって,本件特許の請求項1に係る特許は,特許法第29条第1項3号及び同条第2項の規定に違反してされたものではない。

(2)本件発明2ないし4について
本件発明2及び3は,本件発明1に対して,それぞれ「前記粘着剤層の30℃におけるせん断貯蔵弾性率が0.03MPa以上であり、60℃におけるせん断貯蔵弾性率が0.20MPa以下である」及び「前記粘着剤層の厚さが100μm以下である」との技術的事項を追加したものであり,又,本件発明4は,本件発明1ないし3を用いた「半導体装置の製造方法」である。
そうすると,上記(1)に示した理由と同様の理由により,本件発明2ないし4は,甲第1号証発明でなく,又,本件発明2ないし4は,甲第1号証発明及び甲第1号証ないし甲第3号証の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって,本件特許の請求項2ないし4に係る特許は,特許法第29条第1項3号及び同条第2項の規定に違反してされたものではない。

第5 特許法第36条第6項第1号について
1 本件特許発明の課題及び課題を解決するための手段
本件特許発明の課題は「DBG、特にLDBGに用いても、チップのクラックを抑制でき、また、凹凸があるウエハ表面に粘着テープを貼付する際、ウエハ表面の凹凸と粘着剤層とを十分に接触させ、かつ粘着剤層の接着性を適切に発揮させることが可能な半導体加工用粘着テープを提供すること」(本件明細書【0009】)であり,課題を解決する手段として,「23℃におけるヤング率が1000MPa以上の基材と、粘着剤層とを有する粘着テープであって、前記粘着剤層の厚みを(N)[μm]、クリープ量を(C)[μm]としたときの、(N)と(C)との積(N)×(C)が、30℃において500以上、かつ、60℃において9000以下である、半導体加工用粘着テープ。」(本件明細書【0010】),及び,より具体的な記載として「第2実施形態において、粘着剤層の厚みを(N)μm、クリープ量を(C)μmとしたときの、(N)と(C)との積(N)×(C)は、30℃において500以上、かつ、60℃において9000以下である。半導体ウエハの表面には、回路等が形成され通常凹凸がある。30℃における積(N)×(C)を500以上とすることで、凹凸があるウエハ表面に粘着テープを貼付する際、ウエハ表面の凹凸と粘着剤層とを十分に接触させ、かつ粘着剤層の接着性を適切に発揮させることが可能になる。そのため、粘着テープの半導体ウエハへの固定を確実に行い、かつ裏面研削時にウエハ表面を適切に保護することが可能になる。また、グラインダ等よりに半導体ウエハが裏面研削される際、半導体ウエハには、グラインダが押し当てられることによる圧縮応力、およびグラインダが回転することによるせん断応力がかかる。DBGやLDBG等の先ダイシング法では、上述のような裏面研削時の圧縮応力およびせん断応力によってダイシフトが生じることがある。粘着剤層の60℃における積(N)×(C)を9000以下とすることで、裏面研削時に半導体ウエハの温度がグラインダ等との摩擦により60℃程度にまで上昇した場合でも、ダイシフトを抑制できる。」(本件明細書【0147】)ことが記載されている。
ここで,より具体的な記載として,「30℃における積(N)×(C)を500以上とすることで、凹凸があるウエハ表面に粘着テープを貼付する際、ウエハ表面の凹凸と粘着剤層とを十分に接触させ、かつ粘着剤層の接着性を適切に発揮させることが可能になる。そのため、粘着テープの半導体ウエハへの固定を確実に行い、かつ裏面研削時にウエハ表面を適切に保護することが可能になる。」及び「粘着剤層の60℃における積(N)×(C)を9000以下とすることで、裏面研削時に半導体ウエハの温度がグラインダ等との摩擦により60℃程度にまで上昇した場合でも、ダイシフトを抑制できる。」と記載されているのであるから,「前記粘着剤層の厚みを(N)[μm]、クリープ量を(C)[μm]としたときの、(N)と(C)との積(N)×(C)が、30℃において500以上、かつ、60℃において9000以下である」「半導体加工用粘着テープ」が,粘着テープの半導体ウエハへの固定を確実に行い,かつ裏面研削時にウエハ表面を適切に保護し,又,ダイシフトを抑制することによりチップのクラックを抑制することが可能であることは,当業者にとって明らかであり,また,上記(N)と(C)との積の範囲において,本件特許発明の課題を解決できないことが明らかとは認められないから,本件発明1の上記(N)と(C)との積の範囲は,当業者が本件特許発明の課題を解決しうると認識できる範囲であるといえる。

2 申立人の主張について
(1)申立人は,特許異議申立書において「「(N)」および「(C)」がどのような値であっても(例えば,粘着テープの粘着剤層の厚み(N)が1μmと極端に薄く,クリープ量(C)が30℃において6300μm,かつ,60℃において9000μmと極端に大きい場合),「(N)×(C)」が,「30℃のいて500以上,かつ60℃において9000以下」との条件を満たしてさえいれば,「ダイシフト」および「クラック発生率」が低減できることは,技術常識からみて首肯できるものではない。」(特許異議申立書第34頁2行ないし8行)とし「したがって,技術常識を考慮しても,粘着剤層が「(N)×(C)」の規定を満たすことにより,本件発明1が発明の課題を解決できるとは当業者は認識できない。」(特許異議申立書第34頁9行ないし11行)旨主張する。
しかしながら,申立人の主張する上記値は極端な値であって,このような通常採用されないような極端な値をもって,本件発明1の(N)と(C)との積の範囲が,当業者が本件特許発明の課題を解決しうると認識できる範囲でないとはいえない。
そうすると,上記異議申立人の上記主張は採用できない。

(2)申立人は,特許異議申立書において「発明の課題を解決できることが実施例7?17において具体的に確認できる「粘着剤層の厚み(N)」および「クリープ量(C)」のそれぞれの範囲は,
○粘着剤層の厚み(N):20?60[μm]
○クリープ量(C):30℃において65?135[μm],かつ,60℃において83?202[μm]
であるが,本件発明1には,このような「粘着剤層の厚み(N)」および「クリープ量(C)」の範囲が規定されていない。」(特許異議申立書第34頁17行ないし24行)とし,「したがって,技術常識を考慮しても,本件発明1が発明の課題を解決できると当業者は認識できない。」(特許異議申立書第34頁25行ないし26行)旨主張する。
しかしながら,上記1で検討したように,本件明細書には,「30℃における積(N)×(C)を500以上とすることで、凹凸があるウエハ表面に粘着テープを貼付する際、ウエハ表面の凹凸と粘着剤層とを十分に接触させ、かつ粘着剤層の接着性を適切に発揮させることが可能になる。そのため、粘着テープの半導体ウエハへの固定を確実に行い、かつ裏面研削時にウエハ表面を適切に保護することが可能になる。」及び「粘着剤層の60℃における積(N)×(C)を9000以下とすることで、裏面研削時に半導体ウエハの温度がグラインダ等との摩擦により60℃程度にまで上昇した場合でも、ダイシフトを抑制できる。」(本件明細書【0147】)と記載されているのであるから,本件発明1の上記(N)と(C)との積の範囲が,実施例7?17で示された値の範囲を超えるとしても,そのことをもって,本件特許発明の課題を解決できないことが明らかとは認められない。
そうすると,上記異議申立人の上記主張は採用できない。

3 特許法第36条第6項第1号についてのまとめ
以上のとおりであるから,本件特許の請求項1ないし4に係る特許は,特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではない。

第6 むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-12-25 
出願番号 特願2018-543875(P2018-543875)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
P 1 651・ 537- Y (H01L)
P 1 651・ 113- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 正和湯川 洋介  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 加藤 浩一
小田 浩
登録日 2019-02-08 
登録番号 特許第6475901号(P6475901)
権利者 リンテック株式会社
発明の名称 半導体加工用粘着テープおよび半導体装置の製造方法  
代理人 前田・鈴木国際特許業務法人  
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