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審決分類 審判 査定不服 その他 特許、登録しない。 C07K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1358945
審判番号 不服2018-13610  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-12 
確定日 2020-01-15 
事件の表示 特願2016-164394「インビボで標的指向抗体を用いるがん療法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 2日出願公開、特開2017- 43609〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年8月25日の出願であって、平成23年7月4日を国際出願日とする特願2013-517099号(優先権主張 平成22年7月6日 米国、平成22年7月6日 欧州特許庁)の一部を特許法第44条第1項の規定に基づいて分割出願したものであり、平成29年6月30日付けで特許法50条の2の通知を伴う拒絶理由通知がなされ、平成30年1月11日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月5日付けで平成30年1月11日の手続補正について補正の却下の決定及び同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。


第2 本願発明
平成30年10月12日付け手続補正における補正事項は、いずれも明りょうでない記載の釈明に該当すると認められる。したがって、本願の請求項1?20に係る発明は、平成30年10月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)及び請求項6に係る発明(以下、「本願発明6」という)は、請求項1及び6に記載される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
インビボで腫瘍の成長を阻害する抗体であって、腫瘍の細胞がクローディン6(CLDN6)を発現し、抗体がCLDN6に結合する能力を有する抗体。」

「【請求項6】
(i)アクセッション番号DSM ACC3059(GT512muMAB 36A)、DSM ACC3058(GT512muMAB 27A)、またはDSM ACC3057(GT512muMAB 5F2D2)の下で寄託されたクローンによって産生されるまたは前記クローンから得ることができる抗体、
(ii)(i)の抗体のキメラ化形態である抗体またはヒト化形態である抗体、
(iii)(i)の抗体の特異性を有する抗体、および
(iv)(i)の抗体の抗原結合部分または抗原結合部位を含み、(i)の抗体の抗原結合部分または抗原結合部位が、(i)の抗体の可変領域を含む抗体、
から成る群より選択される抗体。」


第3 当審の判断
1.原査定の拒絶の理由
原査定は、
(同日出願)本願の請求項1ないし11、19及び20に係る発明は、同一出願人が同日出願した下記の出願1に係る発明と同一と認められるから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない、
(新規性)本願の請求項1ないし5、7、8、及び10ないし20に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、
(進歩性)本願の請求項1ないし20に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、という拒絶の理由を含むものである。

出願1: 特願2013-517099号 (特許6263386号)
引用文献2: 国際公開第2009/087978号

3.(同日出願)の理由
本願の原出願であって、特許6263386号として特許された出願1の請求項1に係る発明(以下、「出願1発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
(i)アクセッション番号DSM ACC3059(GT512muMAB 36A)、DSM ACC3058(GT512muMAB 27A)、またはDSM ACC3057(GT512muMAB 5F2D2)の下で寄託されたクローンによって産生されるまたは前記クローンから得ることができる抗体、
(ii)(i)の抗体のキメラ化形態である抗体、および
(iii)(i)の抗体のヒト化形態である抗体、
から成る群より選択されるものであり、CLDN6と結合するとともに、インビボでCLDN6を発現する腫瘍細胞の成長を阻害する、抗体。」

本願発明6と出願1発明を対比すると、両者は、
「(i)アクセッション番号DSM ACC3059(GT512muMAB 36A)、DSM ACC3058(GT512muMAB 27A)、またはDSM ACC3057(GT512muMAB 5F2D2)の下で寄託されたクローンによって産生されるまたは前記クローンから得ることができる抗体、
(ii)(i)の抗体のキメラ化形態である抗体またはヒト化形態である抗体、
・・・・
から成る群より選択される抗体。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
抗体の機能について、本願発明では特定されていないのに対して、出願1発明では「CLDN6と結合するとともに、インビボでCLDN6を発現する腫瘍細胞の成長を阻害する」と特定されている点。

(相違点1)について
本願発明6と出願1発明は、いずれも「アクセッション番号DSM ACC3059(GT512muMAB 36A)、DSM ACC3058(GT512muMAB 27A)、またはDSM ACC3057(GT512muMAB 5F2D2)の下で寄託されたクローンによって産生されるまたは前記クローンから得ることができる抗体」であるか、これらのキメラ化形態またはヒト化形態の抗体に関するものであり、両者は抗体という物(タンパク質)としては全く同じであるから、当然、同じ機能を有するものである。
したがって、抗体の機能の特定の有無は両者の実質的な相違点とはならず、本願発明6は出願1発明と同一である。

なお、審判請求人は令和元年5月16日付け上申書において補正案を示しており、この補正案の請求項6には「CLDN6への結合によって前記腫瘍の成長を阻害する抗体であって」と、抗体の機能が特定されているが、上述のとおり、補正案の請求項6に記載された発明も、出願1発明と同一である。

4.(新規性)の理由
(1)引用文献2の記載
本願の優先日前の公知文献である引用文献2には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。
ア 「[0191][実施例7] 抗CLDN6抗体の抗腫瘍活性の評価
AE49-11抗体の抗腫瘍活性の評価
AE49-11抗体のサブクラスはIgG2bであるが、先行研究において、IgG2aの方がADCC活性が強いとの報告(非特許文献[10]、[11])があったことから、薬効増強を意図して、抗体のFc領域をIgG2aに変換したAE49-11抗体(「AE49-11/mIgG2a」と命名、H鎖アミノ酸配列(配列番号[52])、L鎖アミノ酸配列(配列番号[53])を発現するベクターを構築し、CHO-DG44細胞にて発現、精製した。本AE49-11/mIgG2a抗体の結合活性が元のIgG2b抗体とほぼ同等であることは、フローサイトメトリーにて確認し、本抗体を用いて、in vivo抗腫瘍実験を以下の通り実施した。
[0192] (1)PA-1皮下移植モデル
PA-1細胞をHanks’ Balanced Salt Solution (HBSS)にて5 x 10 ^(7) cell/mlに調製し、前日に抗アシアロGM1抗体100μl(和光純薬社、1バイアルを1mlの注射用蒸留水で溶解後、4mlの生理的食塩水を添加)を腹腔内投与したSCIDマウス(メス、9週齢、日本チャールス・リバー社)の腹部皮下へ200μl移植した。移植後23日目よりAE49-11/mIgG2a抗体を週1回、4週間、尾静脈より投与した。抗体は生理食塩液にて5 mg/mlに調製し50 mg/kgにて投与した。陰性対照として生理食塩液 (vehicle)を同様に投与した。1群5匹にて試験を行った。抗腫瘍活性は腫瘍体積で評価した。腫瘍体積(mm^(3))、腫瘍体積変化量、及び腫瘍増殖抑制効果(%)は以下のように算出した。
腫瘍体積(mm^(3)) = 腫瘍長径×腫瘍短径×腫瘍短径×1/2腫瘍体積変化量(mm^(3)) = 測定時の腫瘍体積 - 投与開始時の腫瘍体積
腫瘍増殖抑制率(%) = {1 -(薬剤投与群の腫瘍体積変化量の平均値 / vehicle投与群の腫瘍体積変化量の平均値)}×100
[0193] 試験の結果、AE49-11/mIgG2a抗体は50 mg/kg投与群でvehicle投与群に対して腫瘍増殖を抑制する傾向を示した。投与開始1, 2, 3, 4週間後の腫瘍増殖抑制率は49.5%, 31.1%, 29.9%, 17.9%であり、投与開始早期での腫瘍増殖抑制効果が強い傾向が観察された。
[0194] (2)NUGC-3皮下移植モデル
引き続いて、NUGC-3皮下移植モデルでの薬効を検討した。本モデルにおける薬効試験を行うにあたっては、フコーストランスポーターをノックアウトしたCHO-DXB11S細胞でAE49-11/mIgG2a抗体を発現、精製した抗体(低フコース型AE49-11/mIgG2a抗体)を用いて薬効試験を行った。
[0195] NUGC-3細胞をHanks’ Balanced Salt Solution (HBSS)にて5 x 10 ^(7) cell/mlに調製し、SCIDマウス(メス、12週齢、日本チャールス・リバー社)の腹部皮下へ200 μl移植した。移植後11日目に腫瘍体積と体重で2群に群分けし、移植後11日目、17日目、24日目に各群に低フコース型AE49-11/mIgG2a抗体とvehicleを尾静脈より投与した。抗体はvehicleにて5 mg/mlに調製し50 mg/kgにて投与した。Vehicleは、100 mM Glycine (pH2.7)とその10分の1量の1 M Tris-HCl (pH9.0)の混合溶液を、elution bufferをD-PBS (-)として、PD-10カラムにてbuffer置換したものを0.22 μm filter滅菌して使用した。
[0196] 1群8匹にて試験を行った。抗腫瘍活性は延命効果で評価した。 試験の結果、低フコース型AE49-11/mIgG2a抗体はvehicle投与群に対して延命効果を有することが示された。
以上から抗CLDN6抗体がヒト臨床において抗腫瘍活性を示す可能性が示唆された。」

イ 「



ウ 「図面の簡単な説明
[0016] ・・・・
[図15]図15は、NUGC-3皮下移植モデルにおけるAE49-11抗体の抗腫瘍活性の評価結果を示す(細線:vehicle iv、太線:低フコースAE49-11(50mg/kg,iv))。 」


(2)引用発明A
上記(1)より、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。
「in vivo抗腫瘍実験であるNUGC-3皮下移植モデル実験において抗腫瘍活性を有する、抗CLDN6抗体である低フコース型AE49-11/mIgG2a抗体。」

(3)対比、判断
本願発明1と引用発明Aを対比する。
引用発明Aの「抗CLDN6抗体である低フコース型AE49-11/mIgG2a抗体」はCLDN6に結合する能力を有するといえるから、両者は、
「CLDN6に結合する能力を有する抗体。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点a)
抗体の機能について、本願発明1では「腫瘍の細胞がクローディン6(CLDN6)を発現」する腫瘍において「インビボで腫瘍の成長を阻害する」ことが特定されているのに対して、引用発明Aはin vivo抗腫瘍実験であるNUGC-3皮下移植モデル実験において抗腫瘍活性を有するものである点。

(相違点a)について
引用文献2の図3(摘記せず)に記載されるように、NUGC-3はCLDN6を高発現する腫瘍細胞であるから、in vivo抗腫瘍実験であるNUGC-3皮下移植モデル実験で抗腫瘍活性を有することは、本願発明1にいう「腫瘍の細胞がクローディン6(CLDN6)を発現」する腫瘍において「インビボで腫瘍の成長を阻害する」ことであると認められる。
したがって、相違点aは実質的な相違点ではない。

5.(進歩性)の理由
(1)引用文献2の記載
本願の優先日前の公知文献である引用文献2には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。

ア 「請求の範囲
[1]細胞膜上に発現したClaudin6(CLDN6)に結合する抗体。
[2]ADCC活性を有する請求項1または2いずれかに記載の抗CLDN6抗体。
[3]CDC活性を有する請求項1または2いずれかに記載の抗CLDN6抗体。」

イ 「要約:本発明は、細胞膜上に発現したClaudin6(CLDN6)に結合する抗体に関する。本発明の抗体は、細胞膜表面上にネイティブな形で存在するhuman CLDN6を認識し、human CLDN6を高発現する癌細胞株に対してADCC、CDC活性による細胞障害活性を示す。また、本発明の抗体は、トキシンとのコンジュゲーションによりhuman CLDN6高発現癌細胞株に対して細胞増殖抑制作用を有する。human CLDN6は、正常組織でその発現が認められないのに対して、腫瘍組織(肺腺癌、胃癌、卵巣癌)で発現亢進しているため、抗CLDN6抗体は、human CLDN6高発現腫瘍に対して高度に集積することが予想され、非常に有効な抗腫瘍剤となり得る。」

ウ 「[0003] Human CLDN6トランスクリプトが癌で高発現していることは、非特許文献5(Hewitt, et al., BMC Cancer 2006, 6:186)、或いは特許文献1(WO2003/088808)などにより公知となっていた。また、癌におけるヒト及びマウスCLDN6の蛋白レベルでの発現については、非特許文献6(Osanai, et al., Cancer Sci 2007, 98: 1557)及び非特許文献7(Azadeh Arabzadeh, et al, BMC Cancer 2007, 7: 196)において、記載が認められる。」

エ 「[0008] 課題を解決するための手段
今回、本発明者らはhuman CLDN6 mRNAが成体のあらゆる正常組織でその発現が認められないのに対して、腫瘍組織(肺腺癌、胃癌、卵巣癌)で発現亢進していることを見出した。
[0009] 又、本発明者らは複数の癌細胞株においてhuman CLDN6タンパク質が高発現しており、その蛋白発現はmRNAの発現解析結果と一致することを見出した。
[0010] さらに、本発明者らは細胞膜表面上にネイティブな形で存在するhuman CLDN6を認識するモノクローナル抗体、及びhuman CLDN6を高発現する癌細胞株に対してADCC、CDC活性による細胞障害活性を示すモノクローナル抗体、トキシンとのコンジュゲーションによりhuman CLDN6高発現癌細胞株に対して細胞増殖抑制作用を有するモノクローナル抗体を作製することに成功した。
[0011] また、human CLDN6は、正常組織での発現は認められず、human CLDN6の腫瘍特異性が極めて高いことが明らかとなった。従って、抗CLDN6抗体は、human CLDN6高発現腫瘍に対して高度に集積することが予想され、非常に有効な抗腫瘍剤となり得ることが見い出された。」

オ 「[0156] [実施例3] 癌細胞膜表面上のhuman CLDN6を認識する抗体の作製とその抗体の抗腫瘍活性の測定
実施例1、2において示した通り、human CLDN6蛋白の発現とmRNAの発現は良く相関しており、また、成体の正常組織でのhuman CLDN6 mRNAの発現は腫瘍組織と比較してかなり少ないか、ほぼ無いことが明らかとなった。従って、成体の正常組織でのhuman CLDN6蛋白の発現も腫瘍組織と比較して、ほぼ無いものと推測された。このことは、癌細胞表面上に発現するhuman CLDN6タンパク質を認識する抗体は、極めて腫瘍特異性の高い抗体であることを意味している。そのような抗体を抗腫瘍剤として使用する場合、薬効と副作用の極めて大きな乖離を期待することができ、抗腫瘍剤の標的としてhuman CLDN6が極めて高いポテンシャルを有していることを意味している。
[0157] そこで、実際に癌細胞膜表面上のhuman CLDN6を認識する抗体を作製し、それらの抗体の抗腫瘍効果について評価した。
・・・・
[0175] 3-6. 抗human CLDN6抗体のAntibody-Dependent Cellular Cytotoxicity (ADCC)活性の測定
本発明の抗human CLDN6モノクローナル抗体の肺腺癌細胞株ABC-1および胃癌細胞株AGSに対するADCC活性をクロム放出法で調べた。ABC-1またはAGSを96ウェルプレートに播種し付着させた後、クロム51を添加して培養を数時間続けた。培養液を除去、培養液で細胞を洗浄したのちに新しい培養液を添加した。続いて抗体を添加し、各ウェルにターゲット細胞に比べて約5倍量のエフェクター細胞(NK-92 (ATCC, CRL-2407)にマウスFc-ガンマ受容体3(NM_010188)の細胞外領域およびヒトガンマ鎖(NM_004106)の膜貫通領域と細胞内領域を含むキメラタンパク質を強制発現させた組換え細胞(特願2007-20155))を添加し、プレートを5% CO 2 インキュベーター中で37℃にて4時間静置した。静置後プレートを遠心し、各ウェルより一定量の上清を回収してガンマカウンターWallac 1480を用いて放射活性を測定し、以下の式を用いて特異的クロム遊離率(%)を求めた。
特異的クロム遊離率(%) = (A-C)×100/(B-C)
ここで、Aは各ウェルにおける放射活性、Bは終濃度1% Nonidet P-40で細胞溶解して培地へ放出される放射活性平均値、Cは培地のみ添加した場合における放射活性平均値である。
[0176] その結果、図8、図9に示したように、試験に用いた本発明の抗human CLDN6モノクローナル抗体のうち、特に、AB3-1、AE1-16、AE49-11、AE3-20、AC2-40は、ABC-1、及びAGSに対して非常に強いADCC活性を誘導した。本結果は、human CLDN6を標的とした腫瘍に対する抗体治療が非常に有用であることを示す結果である。
[0177] 3-7. 抗 human CLDN6抗体のComplement-Dependent Cytotoxicity (CDC)活性の測定
抗human CLDN6モノクローナル抗体の肺腺癌細胞株ABC-1に対するCDC活性をクロム放出法で調べた。ABC-1を96ウェルプレートに播種し付着させた後、Chromium-51を添加して培養を数時間続けた。培養液を除去、培養液で細胞を洗浄したのちに新しい培養液を添加した。続いて本発明の抗human CLDN6モノクローナル抗体(AB3-1、AC2-40、AD12-47、AE1-16、AE2-4、AE3-20、AE49-11)およびコントロールマウスIgG1抗体(Cat. No. 553453、BD Biosciences Pharmingen)を終濃度10μg/mLになるように添加した。続いて幼令ウサギ補体(Cat. No. CL3441、Cederlane)を終濃度25%、5%、または1%になるように添加した。プレートを5% CO 2 インキュベーター中で37℃にて1.5時間静置した。静置後プレートを遠心し、各ウェルより一定量の上清を回収してガンマカウンターWallac 1480を用いて放射活性を測定し、3-6.と同様に特異的クロム遊離率(%)を求めた。
[0178] その結果、図10に示すように、試験に用いた本発明の抗human CLDN6モノクローナル抗体のうち特に、AE1-16、AE3-20、AE49-11は強いCDC活性を誘導した。一方対照として用いたマウスIgG1抗体はCDC活性を示さなかった。」

(2)引用発明B
上記(1)のアより、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されていると認められる。
「細胞膜上に発現したClaudin6(CLDN6)に結合する、ADCC活性及びCDC活性を有する抗CLDN6抗体。」

(3)対比、判断
本願発明1と引用発明Bを対比すると、両者は、
「CLDN6に結合する能力を有する抗体。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点b)
抗体の機能について、本願発明1では「腫瘍の細胞がクローディン6(CLDN6)を発現」する腫瘍において「インビボで腫瘍の成長を阻害する」ことが特定されているのに対して、引用発明はADCC活性及びCDC活性を有するものである点。

(相違点b)について
引用発明Bの抗体はADCC活性及びCDC活性、すなわち細胞障害活性を有するものであり、引用発明Bの抗体はこの活性によって、抗体が結合した細胞の成長を阻害することができるといえる。そして、引用文献2には、ADCC活性及びCDC活性が発揮されることを、CLDN6を発現する「肺腺癌細胞株ABC-1」などの癌細胞株を用いて試験し、確認したことが示されていると認められるが、生体で試験したことについて十分に記載されているとはいえない。
しかし、通常、このような癌細胞株を用いた試験における抗体の活性は、生体を用いた試験においても発揮されると考えることが技術常識であり、そのような技術常識に基づいて、引用文献2でも、生体での試験([実施例7])に先立って上記のような細胞株を用いた試験([実施例3])が行われていると認められる。
引用文献2には、CLDN6が癌で高発現していることが記載されており(上記(1)のウ、エ)、引用発明の抗体を生体内のCLDN6を発現する癌細胞に適用すれば、癌細胞に対してADCC活性及びCDC活性、すなわち細胞障害活性が発揮されて癌細胞を障害することが推認される。
そうすると、ADCC活性及びCDC活性を有する引用発明の抗体は、細胞障害の程度に大小はあるとしても、生体内のCLDN6を発現する癌細胞を障害する、すなわち、「腫瘍の細胞がクローディン6(CLDN6)を発現」する腫瘍において「インビボで腫瘍の成長を阻害する」といえる。
したがって、引用発明の抗体の機能について「腫瘍の細胞がクローディン6(CLDN6)を発現」する腫瘍において「インビボで腫瘍の成長を阻害する」ことを特定することは、当業者が容易になし得ることである。

(4)審判請求人の主張について
審判請求人は令和元年5月16日付け上申書において補正案を示し、次の点を主張している。
ア 引用文献2における[実施例3]の3-8の[0181]の記載を根拠として、実施例3では、CLDN6結合抗体18種類について「抗体単独では何れも抗腫瘍効果は観察されない」ことが報告されている。

イ 引用文献2における[実施例7]の記載を根拠として、インビボにおける抗腫瘍活性について、「AE49-11/mIgG2a」抗体の結果のみから、それを拡張した技術的思想を把握することは困難である。引用文献2において、抗体「AE49-11/mIgG2a」は、CLDN6のみならずCLDN4とも結合していることから、引例2の実施例7のインビボの結果は、CLDN6との結合に起因するものであるか確実であるとは言えない。

ア について
引用文献2の [実施例3]の3-8の実験は「Mab-ZAPを用いた抗human CLDN6抗体の抗腫瘍効果の評価」であって、「Human CLDN6を標的としたイムノトキシンが抗腫瘍活性を示すことができるかについて、Mab-ZAP (Advanced Targeting Systems社) を用いて評価した。Mab-ZAPはヤギ抗マウスIgGのサポリン(saporin)標識体である。サポリンはリボソームにおけるタンパク質合成阻害を作用機作とするタンパク質性の毒素である。全ての抗体がイムノトキシンを作製するのに適している訳ではなく、イムノトキシンとして薬効の強い抗体もあればそうでないものもあることが知られている(非特許文献9;Kohls and Lappi, BioTechniques 2000, 28 (1): 162)。そこで、今回取得した抗human CLDN6結合抗体18種類のイムノトキシンとしてのポテンシャルについて、Mab-ZAPを用いて評価した。」([0179])と記載されるように、この実験は、毒素であるサポリンとヤギ抗マウスIgGとの融合タンパク質Mab-ZAPを抗CLDN6抗体に結合させた『イムノトキシン』の抗腫瘍活性を評価するものであって、この実験で評価する抗腫瘍活性は毒素に基づくものであるから、迅速に発揮され、しかも相当程度に高いレベルのものと認められる。一方、抗体のADCC活性やCDC活性のような細胞障害活性に基づく抗腫瘍活性は、サポリンのような毒素の抗腫瘍活性と比較した場合、それほど迅速であるとも高いともいえない。つまり、この実験で採用された抗腫瘍活性の評価方法で、ADCC活性やCDC活性に基づく抗腫瘍活性が正しく評価できるとは認められない。
そうすると、引用文献2の[0181]の「Mab-ZAP単独、或いは抗体単独では何れも抗腫瘍効果は観察されないのに対し、AE1-16抗体、或いはAE49-11抗体とMab-ZAPとの共存在下において、ABC-1およびAGSに対して非常に強い抗腫瘍効果が観察された。」の記載における “抗腫瘍効果は観察されない”の記載が、[実施例3]の3-6、3-7の実験で確認されたADCC活性やCDC活性に基づいて、引用発明の抗体がインビボで腫瘍の成長を阻害するといえるとの判断を否定するものとはいえない。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。

イ について
引用文献2の[実施例7]には、抗体「AE49-11/mIgG2a」を用いたインビボの試験結果に基づいて、「以上から抗CLDN6抗体がヒト臨床において抗腫瘍活性を示す可能性が示唆された。」と結論付けており、当業者であれば、引用文献2の[実施例7]の記載から、抗体「AE49-11/mIgG2a」だけでなく、抗CLDN6抗体である引用発明の抗体がインビボで抗腫瘍活性を発揮することを理解するといえる。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。
なお、本願発明1及び上申書に示された補正案の請求項1には、抗体がCLDN4に結合しないことは特定されていない。

6.小活
したがって、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、本願の請求項6に係る発明は、同法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものである。


第4 むすび
以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-08-13 
結審通知日 2019-08-20 
審決日 2019-09-03 
出願番号 特願2016-164394(P2016-164394)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
P 1 8・ 113- Z (C07K)
P 1 8・ 5- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 巌  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 中島 庸子
高堀 栄二
発明の名称 インビボで標的指向抗体を用いるがん療法  
代理人 速水 進治  
代理人 速水 進治  

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