• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A44C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A44C
管理番号 1358992
審判番号 不服2017-17982  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-04 
確定日 2020-01-14 
事件の表示 特願2015-120838「栓、封止部材、封止具、留置、止める」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月 5日出願公開、特開2017- 648〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年6月16日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 4月 6日付 :拒絶理由通知書
平成29年 5月19日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 6月29日付 :拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
平成29年 8月 8日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年10月31日付 :平成29年8月8日提出の手続補正書でした手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定
平成29年12月 4日 :審判請求書、手続補正書、意見書の提出
平成30年10月29日付 :拒絶理由通知書
平成30年12月12日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 4月22日付 :拒絶理由通知書
令和 元年 6月10日 :手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、令和元年6月10日付の手続補正書により補正(以下、「本件補正」という。)された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「開く、閉じる、取り外し、添付又は、はめ込みを行うことが出来る封止、開放、又は密閉の機能、作用、又は構造を有した開閉口において、納入口に挿入する封止部材の中央の中心位から下部に設けられる山形、又は円錐形に溝、又は切り欠きを設定し、磁石、突出構成し、挿入する時、又は可動する時、栓、封止部材、封止具、留置、又は止めるとなる、構造、作用、又は機能と為す事が出来る特徴とする品。」

第3 当審における拒絶の理由
当審が平成31年4月22日付で通知した拒絶理由のうちの理由3は、この出願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確でないから、この出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないという理由を含むものであり、理由4は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった登録実用新案第3014010号公報(以下、「引用文献1」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないという理由を含むものである。

第4 特許法第36条第6項第2号に規定する要件について
本願発明は、上記第2に示すとおりのものであり、この本願発明は、下記の点において、明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1に記載された「開閉口」と「納入口」とが、同じ「口」を意味するのか関連しているものの異なる「口」を意味するのか不明である。本願発明は、「…開閉口において、納入口に挿入する封止部材…」と特定しているが、この開閉口における納入口とは、「開閉口」と「納入口」との関係が不明であるため、明確でない。
この点について、平成31年4月22日付で通知した拒絶理由(以下、「先の拒絶理由」という。)では、「請求項1に記載された『開閉口』と『納入口』とが、同じ『口』を意味するのか関連しているものの異なる『口』を意味するのか不明である」(先の拒絶理由の理由3(3))と不明な点を通知したが、本件補正により補正された請求項1においても、同様の事項が記載されており、依然として明確でない。また、上記第1に示すとおり、請求人は、先の拒絶理由に対し、手続補正は行ったが、意見書は提出しておらず、上記不明な点について何ら釈明をしていないから、本願発明は依然として明確でない。

(2)請求項1に記載された「封止部材の中央の中心位から下部」の「中央の中心位」とは、どのようなことを意味するのか不明であり、封止部材のどのような位置から下部を特定しているのか発明の詳細な説明をみても不明である。
この点について、先の拒絶理由では、「請求項1に記載された『封止部材の中央の中心位から下部』の『中央の中心位』とは、どのようなことを意味するのか不明であり、封止部材のどのような位置から下部を特定しているのか発明の詳細な説明をみても不明である」(先の拒絶理由の理由3(5))と不明な点を通知したが、本件補正により補正された請求項1においても、同様の事項が記載されており、また、上記不明な点について、意見書による釈明もないから、本願発明は、依然として、明確でない。

(3)請求項1に記載された「山形、又は円錐形に溝、又は切り欠き」とは、「山形」、「円錐形に溝」、「切り欠き」のいずれかという意味か、「山形の溝」、「円錐形の溝」、「山形の切り欠き」、「円錐形の切り欠き」のいずれかという意味か、あるいはそのほかの意味か不明である。また、後者である場合に「円錐形の溝」とは、どのような溝であるのか不明である。
この点について、先の拒絶理由では、「請求項1に記載された『山形、又は円錐形に溝、又は切り欠き』とは、『山形』、『円錐形に溝』、『切り欠き』のいずれかという意味か、『山形の溝』、『円錐形の溝』、『山形の切り欠き』、『円錐形の切り欠き』のいずれかという意味か不明である。また、後者である場合に『円錐形の溝』とは、どのような溝であるのか不明である」(先の拒絶理由の理由3(6))と不明な点を通知したが、本件補正により補正された請求項1においても、同様の事項が記載されており、また、上記不明な点について、意見書による釈明もないから、本願発明は、依然として、明確でない。

(4)請求項1に記載された「挿入する時、又は可動する時」の「可動する」とは、日本語として意味不明であり、「可動する時」とは、「封止部材、或いは封止具」をどのように可動する時なのか不明である。
この点について、先の拒絶理由では、「請求項1に記載された『封止部材、或いは封止具を挿入する時、又は可動する時』の…『可動する時』とは、『封止部材、或いは封止具』をどのようにする時なのか不明である。」(先の拒絶理由の理由3(9))と不明な点を通知したが、本件補正により補正された請求項1においても、同様の事項が記載されており、また、上記不明な点について、意見書による釈明もないから、本願発明は、依然として、明確でない。

(5)請求項1に記載された「栓、封止部材、封止具、留置、又は止めるとなる、構造、作用、又は機能と為す事が出来る」とは、全体的に意味不明であり、何が「為す事が出来る」のか不明であり、また何を特定するのか不明である。
この点について、先の拒絶理由では、「請求項1に記載された『栓、封止部材、封止具、留置、又は、止めるとなる構造、作用又は機能と為す事が出来る』とは、全体的に意味不明であり、何が『為す事が出来る』のか不明であり、また何を特定するのか不明である。」(先の拒絶理由の理由3(10))と不明な点を通知したが、本件補正により補正された請求項1においても、同様の事項が記載されており、また、上記不明な点について、意見書による釈明もないから、本願発明は、依然として、明確でない。

(6)なお、先の拒絶理由で通知した理由ではないため、本審決の理由とするものではないが、令和元年6月10日に提出された手続補正書により補正された請求項1に記載の事項である「磁石、突出構成し」とは、どのような事項を特定しているのか不明である。

第5 特許法第29条第2項に規定する要件について
1 引用文献
(1) 引用文献1(登録実用新案第3014010号公報、平成7年8月1日発行)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。以下同様。)。

ア 「【請求項1】 祈念のために手の回りに巻いて使用する装身具の内部に塩を封入したことを特徴とする祈念用装身具。
【請求項2】 前記装身具が数珠であって、該数珠の数珠玉の内部に塩を封入したことを特徴とする請求項1に記載の祈念用装身具。
【請求項3】 前記塩が前記数珠玉より取り出し可能であることを特徴とする請求項2に記載の祈念用装身具。
【請求項4】 前記数珠玉に、前記塩が収納される空洞部と、該空洞部と数珠玉の外部とを連通する取り出し口と、該取り出し口を開閉可能に塞ぐ蓋部材とを設けることにより、前記塩を前記取り出し口より取り出し可能としたことを特徴とする請求項3に記載の祈念用装身具。
【請求項5】 前記数珠玉が透明な素材よりなることを特徴とする請求項2?4のいずれかに記載の祈念用装身具。
【請求項6】 前記装身具がブレスレットであることを特徴とする請求項1に記載の祈念用装身具。」

イ 「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、例えば数珠やブレスレット等の祈念用装身具に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、魔除祈願、仏の礼拝、あるいは健康祈願等といった祈念のために、数珠、ブレスレット、ミサンガ等の祈念用装身具が用いられている。これらの装身具は、いずれも手の回りに巻いて使用されるものであり、装飾的な要素を持つと共に、魔除等の祈念の効果を期待させるものである。
【0003】
ところで、このような祈念用の装身具を使用している人の中には、魔除や縁起かつぎのために、いわゆる清めの塩を常に身につけておきたいという人が相当数いる。
清めの塩は、葬式の際によく用いられるものであり、例えば、葬式から帰って来る人達が入って来る玄関先に、清めの塩を用意しておき、体に塩をふりかけたりする。また、葬式に参列した人が、香典返しの品物等と共に、清めの塩が入った小袋を受け取る場合もある。この場合、葬式から帰ってきて家の中に入る前に、塩が入った小袋を取り出し、この小袋を破って塩を取り出し、体にふりかけたりする。また、清めの塩は、葬式以外にも、例えば墓参りに用いられたり、スポーツの試合の際に縁起かつぎに用いられることもある。よって、日常生活において、魔除や縁起かつぎのために常に塩を身につけておきたいという要望は多い。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の場合、塩の入った袋等の容器を鞄やポケットの中に入れて持ち歩くしかなかった。従って、塩を常に身につけておくことができず、しかも塩の持ち運びが煩わしく、精神的満足を十分に得ることができなかった。
【0005】
本考案は、前記課題を解決するために案出されたものであり、塩を常に身につけておくことができ、精神的満足が十分に得られ、魔除や縁起かつぎのための装身具として好適な祈念用装身具を提供することを目的とする。」

ウ 「【0015】
【実施例】
以下、本考案の実施例を図面に基づいて説明する。図1は、実施例の塩入り数珠の斜視図であり、図2は図1におけるA-A断面図である。
塩入り数珠1は、複数の数珠玉10を紐12によってつなげたものであり、数珠玉10の内部には、塩14が取り出し可能に封入されている。
【0016】
図2に示すように、数珠玉10の内部には、紐12が挿通される挿通孔10aが形成されるとともに、この挿通孔10aを包囲するようにして、塩14が収納される空洞部10bが設けられている。また、数珠玉10の外壁部10cには、空洞部10bと数珠玉10の外部とを連通する取り出し口10dが穿設されており、この取り出し口10dには、蓋部材10eが抜き差し自在に差し込まれている。なお、数珠玉10は、例えばアクリル樹脂等のような透明な素材によって形成されている。
【0017】
上記構成を有する塩入り数珠1においては、数珠玉10の内部に塩14が封入されているので、持っているだけで塩14による清めの効果を期待させる。従って、塩入り数珠1を手に巻いて身につけているだけで、常に塩14を身につけておくことができる。この結果、塩14による清めの効果が期待されるので、精神的満足が十分に得られる。また、数珠1とは別に塩の入った袋等の容器を持ち歩く必要が無く、非常に便利である。また、特に葬式の際に塩入り数珠1を身につけていれば、玄関先にわざわざ清めの塩を用意したり、葬儀場で清めの塩をもらって来る必要もなくなるので、非常に便利である。更に、葬儀を催す側としては、わざわざ参列者に清めの塩が入った袋を渡す必要がなくなるので、きわめて経済的である。従って、塩入り数珠1は、魔除や縁起かつぎのための装身具として好適であり、特に葬式の際に好適に用いることができる。
【0018】
また、本実施例においては、数珠玉10から塩14を取り出す場合、蓋部材10eを外して取り出し口を開き、空洞部10bに収納されている塩14を取り出し口10dより取り出せばよい。また、空洞部10bに塩を補給する場合は、取り出し口10dより塩を入れ、蓋部材10eによって取り出し口10dを閉じればよい。従って、葬式から帰ってきて家の中に入る前に、数珠玉10から塩14を取り出して体に振りかけることができる。また、塩14を取り出したり補充することが容易であり、非常に便利である。
【0019】
更に、本実施例では、数珠玉10が透明なアクリルで形成されているので、封入されている塩14が外から見える。従って、より一層安心感が高まり、精神的満足感が増すので好ましい。
以上、本考案の実施例について説明したが、本考案はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本考案の要旨を逸脱しない範囲において、様々なる態様にて実施しうることは勿論である。」

エ 上記アないしウの記載より、以下の事項がわかる。
(ア)引用文献1に記載された数珠玉10には、上記ウより、取り出し口10dが穿設されており(【0016】参照)、この取り出し口10dは、蓋部材10eを外すと開き、蓋部材10eによって閉じられる(【0018】参照)から、数珠玉10は、取り出し口10dを有し、また、取り出し口10dは、開くこと及び閉じることができる。さらに、上記ウより、蓋部材10eを外して、取り出し口10dを開き、取り出し口10dより塩を入れ、蓋部材10eによって取り出し口10dを閉じることにより、数珠玉10の内部に塩14が封入される(【0018】参照)から、この取り出し口10dと蓋部材10eとは、封入し開くものであると理解できる。

(イ)引用文献1に記載された蓋部材10eは、上記ウより、取り出し口10dに抜き差し自在に差し込まれるものであり(【0016】参照)、また蓋部材10eによって取り出し口10dが閉じられる(【0018】参照)ことから、引用文献1には、蓋部材10eを取り出し口10dに差し込むと、蓋部材10eは、取り出し口10dを閉じることができることが記載されている。

(2)引用発明
上記(1)のアないしエより、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる。(以下「引用発明」という。)

「開くこと及び閉じることができる封入し開くものである取り出し口10dにおいて、取り出し口10dに蓋部材10eを差し込むと、蓋部材10eが取り出し口10dを閉じることができる数珠玉10。」

2 対比(一致点、相違点の認定)
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「開くこと及び閉じることができる」は、本願発明の「開く、閉じる、取り外し、添付又は、はめ込みを行うことが出来る」に相当する。
また、引用発明の「封入し開くものである取り出し口10d」は、蓋部材10eが取り出し口10dを封入し、さらに、取り出し口10dを開くことができる機能、作用、構造を有しているといえる。一方、本願発明の発明特定事項である「封止、開放、又は密閉の機能、作用、又は構造を有」することは、本願の明細書の記載(特に【0023】ないし【0025】及び図1ないし図3の記載参照。)より、開口部分からものが出ないように、この開口部分を閉じることができるように構成することと解されるから、引用発明の「封入し開くものである取り出し口10d」は、本願発明の「封止、開放、又は密閉の機能、作用、又は構造を有した開閉口」に相当する。
上記第4(1)に示すように、本願発明の「開閉口」と「納入口」とは、その関係が不明であり、そのため、「開閉口」と「納入口」とは、どのようなものか明確でないが、本願の明細書には、「納入口」に関して、「請求項に記載の品は、種々の品、物品等に納入口を設けている、該納入口から品々、目的物を収める、納まる、入れる。」(【0012】)と記載されていることから、「納入口」とは、「品」に設けた、目的物を品に納めるための開口であると解される。そして、「開閉口」については、本願の請求項1と同様の記載(【0015】)を除いて、明細書等に記載されていないが、その名称からして、開いたり閉じたりすることができる口であると解され、そのような構成として、本願の明細書には「封止部材(…)にて納入口を止め封止した」(【0023】)ことが記載され、納入口を封止部材にて開いたり閉じたりすることができるようにした構成が記載されていることから、何らかの部材により開閉可能とした納入口が「開閉口」であると一応理解できる。これに対し、引用発明の「取り出し口10d」は、数珠玉10の空洞部10bに塩を入れることができる口であり(上記、1(1)ウ参照)、この「取り出し口10d」は、蓋部材10eによって開閉可能であるといえるから、引用発明の「取り出し口10d」は、本願発明の「納入口」と「開閉口」の双方に相当する。
引用発明の「蓋部材10e」は、本願発明の「封止部材」に相当し、本願発明の「挿入する時、又は可動する時」は、封止部材を納入口に挿入する時を含むから、引用発明の「取り出し口10dに蓋部材10eを差し込むと」は、本願発明の「納入口に挿入する封止部材の中央の中心位から下部に設けられる山形、又は円錐形に溝、又は切り欠きを設定し、磁石、突出構成し、挿入する時、又は可動する時」と、「納入口に挿入する封止部材を挿入する時、又は可動する時」である限りで一致する。
本願発明の「栓、封止部材、封止具、留置、又は止めるとなる、構造、作用、又は機能と為す事が出来る」とは、本願の明細書の記載(特に【0023】ないし【0025】及び図1ないし図3の記載参照。)より、封止部材が、納入口を閉じて、この納入口からものが出ないようにすることができることを意味していると解されるから、引用発明の「蓋部材10eが取り出し口10dを閉じることができる」ことは、本願発明の「栓、封止部材、封止具、留置、又は、止めるとなる構造、作用又は機能と為す事が出来る」ことに相当する。
また、引用発明の「数珠玉10」は、本願発明の「品」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、次の[一致点]で一致し、[相違点]で相違する。

[一致点]
「開く、閉じる、取り外し、添付又は、はめ込みを行うことが出来る封止、開放、又は密閉の機能、作用、又は構造を有した開閉口において、納入口に挿入する封止部材を挿入する時、又は可動する時、栓、封止部材、封止具、留置、又は、止めるとなる構造、作用又は機能と為す事が出来る品。」

[相違点]
本願発明の封止部材は、「封止部材の中央の中心位から下部に設けられる山形、又は円錐形に溝、又は切り欠きを設定し、磁石、突出構成し」ているのに対し、引用発明は、蓋部材10にかかる溝又は切り欠きを設けておらず、また「磁石、突出構成し」ていない点。

3 判断
上記相違点について検討する。
まず、本願発明の上記相違点に係る発明特定事項である「封止部材の中央の中心位から下部に設けられる山形、又は円錐形に溝、又は切り欠きを設定し、磁石、突出構成し」ていることは、上記第4(2)ないし(4)、(6)に示すように、明確であるとはいえない。そこで、本願の明細書及び図面の記載を参酌して、これらの記載により特定される事項を検討する。
まず、本願の明細書には、実施例1ないし3として、「封止部材の中央部の中心から下部に設けられる山形、円錐の溝、切り欠きの設定を持つ。封止部材の挿入時に下部突起体が該溝の空洞部をおして溝が縮む変化構造をなす機能を発揮しスム-ズに挿入できる」(【0023】)、「封止部材の下部分は持ち出し部分が(斜めに突起)玉部の内部内輪に接すし納口を封止(密閉も可)して封止部材の飛び出しを制止している」(【0023】)、「封止部材の挿入可動、移動する際における封止部材の中央部の中心から下部に設けられる山形、円錐の溝、切り欠きの設定部分の変化構造つまり該溝の空洞部をおして溝が縮む変化構造をなしてスム-ズに挿入できる」(【0024】)と記載され、また、この実施例に関連する機構を示す断面図として、次のような図1が示されている(参照番号に対する名称等は、理解のために明細書の【符号の説明】に基づき、当審で付与した。以下同様。)。

まず、封止部材に設定される「封止部材の中央の中心位から下部に設けられる山形、又は円錐形に溝、又は切り欠き」については、上記第3において検討したように、明確であるとはいえないが、図1を含むこれらの記載から、本願発明の封止部材1が納入口に挿入される時に、封止部材が変形し、封止部材の下部に設けられている突起体(図1の記載では、「突止ストパー止め4」と解される。)が納入口を通りやすくするために、設けられる「山形、又は円錐形に溝、又は切り欠き」(図1の記載では、「円錐3」と解される。)と理解できる。さらに封止部材が納入口に挿入された後(図1の状態)では、突起体(突止ストパー止め4)が封止部材の下部で納入口より広がった状態となることにより、封止部材の飛び出し(すなわち、封止部材が納入口から抜けてしまうこと)を制止していると理解でき、本願発明では、この突起体(突止ストパー止め4)を設けることを「突出構成し」と特定しているものと解される。そうすると、本願発明における「封止部材の中央の中心位から下部に設けられる山形、又は円錐形に溝、又は切り欠き」と「突出構成し」たもの(突起体あるいは突止ストパー止め4)とは協働して、封止部材の抜け止めを行う一体不可分の発明特定事項であると理解できる。なお、これらの段落【0023】、【0024】、図1に記載される実施例においては、「磁石」は、用いられてない。
次に、「磁石」に関しては、請求項1の記載からは、他の発明特定事項との関係が不明である。そこで、明細書の記載をみると、実施例7に関して記載された段落【0027】に「玉(品)と封止部材の底辺に磁石と鉄類を設定してストパ-止として封止する」と記載され、実施例8に関して記載された段落【0030】、【0031】に「又球の存在を2か所右、左の在り処に設け該それぞれの機能を示す。まず、左側は磁気を持たせた球を封止部材に設定する溝(溝の底には玉を受けるスットパ-がある)に挿入し該球は自在に可動して封止部材の挿入と共に玉と封止部材の底の鉄に吸い寄せられて玉と封止部材共に球を仲立ちして完封する。」(【0030】、「次に、右側には鉄球を封止部材に設定する溝(溝の底には玉を受けるスットパ-がある)に挿入し該球は自在に可動できる、によって封止部材と玉との底に磁石が設定し該球は封止部材の挿入と共に玉と封止部材の底の磁石に吸い寄せられて玉と封止部材共に球を仲立ちして完封する。」(【0031】)と記載されている。そして、実施例7の機構を示す断面図として、次のような図7を示している。

また、実施例8の機構を示す断面図として、次のような図8を示している。

これらの記載から、「磁石」は、その鉄等への吸引力を利用して、封止部材が納入口に挿入された状態で封止部材を保持するために、納入口又は封止部材に設けられたものと解される。そして、これらの段落【0027】、【0030】、【0031】及び図7と図8に記載される実施例においては、「山形、又は円錐形に溝、又は切り欠き」は設けられていない。これは、磁石を用いた実施例7及び8においては、磁石によって封止部材が納入口に挿入された状態で保持されるから、実施例1のように突起体(突止ストパー止め4)を設ける必要がなく、したがって、この突起体(突止ストパー止め4)がスムーズに納入口を通過するための「山形、又は円錐形に溝、又は切り欠き」も設ける必要がないためと理解できる。
また、他の実施例をみても、磁石と突起体(突止ストパー止め4)の両者を有しているものはなく、磁石と「山形、又は円錐形に溝、又は切り欠き」の両者を有しているものもない。
以上のことから、本願明細書には、「封止部材の中央の中心位から下部に設けられる山形、又は円錐形に溝、又は切り欠き」と「突出構成し」たものとが協働して封止部材の抜け止めを行う実施例と「磁石」により封止部材の抜け止めを行う実施例が記載されているが、「封止部材の中央の中心位から下部に設けられる山形、又は円錐形に溝、又は切り欠き」と「磁石」と「突出構成し」たものとが協働して、封止部材の抜け止めを行う実施例は記載されていない。
したがって、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項は、「封止部材の中央の中心位から下部に設けられる山形、又は円錐形に溝、又は切り欠きを設定し」、「突出構成」することと「磁石」を備えることのいずれか1つが選択的であるものを少なくとも包含すると解される。
これに対して、本願の出願前に、開口部分に挿入し、封止する封止部材に、スムーズな挿入ができるように山形の溝、または切り欠きを封止部材の下面に設け、容器開口部の口縁に嵌る突起をもうけた栓は周知技術(周知例として上記拒絶理由通知で示した実願昭55-30859号(実開昭56-131361号)のマイクロフィルム(第1図の円柱状空腔25及び環状凹欠部24の下の上段部55について参照)がある。)であり、引用発明においても、蓋部材10eは、取り出し口10dに挿入されることで、取り出し口10を閉じるものであり、蓋部材10eを取り出し口10dに差し込んだときに、蓋部材10eが意図せず外れることがないようにすると共に、取り出し口10dへの挿入をスムーズに行えるようにするという課題を内在することから、上記周知技術を適用して、引用発明の蓋部材10eが意図せず外れることがないように、取り出し口10dに嵌まるように突起を設けると共に、蓋部材10eの下面にスムーズな挿入ができるように溝、または切り欠きを封止部材の下面に設けることは、当業者が容易になし得たことである。そして、その際に、溝または切り欠きを設ける位置を、封止部材をスムーズに挿入でき、挿入後に納入口を閉じることができるように定めることは当業者が適宜定める事項であって、封止部材に設けた突出との関係で、蓋部材10eの中央の中心とすることは設計事項である。したがって、引用発明の蓋部材10eに周知技術を適用し、本願発明の相違点に係る発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
また、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、上述のとおり、本願発明において、「封止部材の中央の中心位から下部に設けられる山形、又は円錐形に溝、又は切り欠き」と「突出構成し」たものを備えることと、「磁石」を備えることとは選択的であることは明らかであるが、本願発明の「磁石、突出構成し」の「磁石」について検討すると、本願の出願前において、蓋部材を磁石により固定することは、周知技術(周知例として、登録実用新案第3188540号公報(【0062】ないし【0065】及び図9に記載された磁石部材8参照。)、特開2010-269125号公報(【0029】、【図5】に記載された磁石4c参照。)、特開2002-369705号公報(磁石13,14について参照。)がある。)であり、引用発明の蓋部材10eの固定手段として、磁石を用いることは当業者が容易になした事項であるといえる。

第6 むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また本願発明は、同法第29条第2項の規定の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-01 
結審通知日 2019-11-12 
審決日 2019-11-25 
出願番号 特願2015-120838(P2015-120838)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A44C)
P 1 8・ 537- WZ (A44C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 茂  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 柿崎 拓
長馬 望
発明の名称 栓、封止部材、封止具、留置、止める  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ