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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1359083
審判番号 不服2019-1256  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-30 
確定日 2020-01-16 
事件の表示 特願2017-106992「光ファイバ、光ファイバの製造方法、および光ファイバ母材」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月27日出願公開、特開2018-205357〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年5月30日の出願であって、平成30年6月15日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成30年8月22日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成30年10月26日付けで拒絶査定がなされ、同査定の謄本は平成30年11月6日に請求人に送達された。これに対して、平成31年1月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成31年1月30日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年1月30日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項5の記載は、次のように補正された(下線は補正箇所であり、当審で付与。以下同じ。)。

「【請求項5】
コアおよび前記コアの外周に形成されたクラッド層を備え、前記クラッド層にFが添加されている光ファイバの製造方法であって、
前記クラッド層のCl濃度が、前記クラッド層の断面の分布を平均して、0.029wt%以上0.098wt%以下となるように前記クラッド層をCl系ガスで脱水する、光ファイバの製造方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
上記(1)の本件補正の特許請求の範囲の請求項5に対応する、本件補正前の特許請求の範囲の請求項6の記載は次のとおりである。

「【請求項6】
コアおよび前記コアの外周に形成されたクラッド層を備える光ファイバの製造方法であって、
前記クラッド層のCl濃度が、前記クラッド層の断面の分布を平均して、0.029wt%以上0.098wt%以下となるように前記クラッド層をCl系ガスで脱水する、光ファイバの製造方法。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項6に記載された発明を特定するために必要な事項である「クラッド層」について、本件補正事項のとおりの限定を付加するものであって、補正前の請求項6に記載された発明と補正後の請求項5に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項5に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献
ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された引用文献である、特開2012-86999号公報(平成24年5月10日公開)には、図面とともに、次の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアとクラッドからなる石英系の光ファイバであって、
前記コアはゲルマニウムを含まない石英ガラスからなり、
前記クラッドは、前記コアの外周に位置する光学クラッド部と、前記光学クラッド部の外周に位置するジャケット部を有し、
前記光学クラッド部は、フッ素を0.45質量%以上1.50質量%以下含有するとともに、塩素を平均濃度270ppm以上2000ppm以下含有することを特徴とする光ファイバ。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、コアとクラッドが石英ガラスからなる光ファイバであって、ゲルマニウムを含まないコアとフッ素を含む光学クラッド部とを有する構造の光ファイバ及び光ファイバ用ガラス母材の製造方法に関する。」

(ウ)「【0009】
本発明は、コアとクラッドが石英ガラスからなり、ゲルマニウムを含まないコアとフッ素を含む光学クラッド部とを有する光ファイバについて、光学クラッド部に含まれる塩素濃度を多くして光ファイバの伝送損失を低く抑えることができる光ファイバ及び光ファイバ用ガラス母材の製造方法を提供することを目的としている。」

(エ)「【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る光ファイバの実施形態の例について、図面を参照しつつ説明する。
図1は本実施形態の光ファイバを光軸に垂直な面で切断したときの断面図であり、図2は図1の光ファイバの屈折率分布を示す模式図である。
【0018】
図1に示すように、光ファイバ1は、中心にコア2を有し、その外周にクラッド5を有する。クラッド5は、コア2の外周に位置する光学クラッド部3と、光学クラッド部3の外周に位置するジャケット部4を有する。コア2はゲルマニウムを含まない石英ガラスであり、実質的に純石英であるが、製造の過程で塩素等が微量だけ含まれていてもよい。
【0019】
図2に示すように、光ファイバ1において中心のコア2が最も屈折率が高く、その周囲のクラッド5は、コア2に対する比屈折率差Δnだけ屈折率が低い。
また、具体的な各部の大きさの一例としては、コア2の直径d1が9.6μm、光学クラッド部3の直径d2が48μm、ジャケット部4の直径d3が125μmである。コア2の直径や屈折率分布の形状を適宜設定することにより、光ファイバ1をシングルモードファイバとしたり、マルチモードファイバとすることができる。また、コア2を屈折率の異なる複数層から形成してもよい。
【0020】
光学クラッド部3は、クラッド5のうち、コア2に近い領域であり、光ファイバ1の光伝送特性に大きく関わる部分である。本実施形態の光学クラッド部3は、フッ素を0.45質量%以上1.50質量%以下含有するとともに、塩素を平均濃度270ppm以上2000ppm以下含有する石英ガラスからなる。光学クラッド部3はフッ素が添加されることでコア2に対して屈折率が小さくなるように調節されている。光学クラッド部3のフッ素含有量を0.45質量%以上1.50質量%以下とすることにより、コア2に対する比屈折率差Δnが0.15%?0.50%とされている。例えば、光学クラッド部3のコア2に対する比屈折率差Δnは0.4%である。
【0021】
光学クラッド部3は、平均して塩素を270ppm以上含有する。これにより、光ファイバ1の伝送損失を小さくすることができる。例えば、光学クラッド部3の平均塩素濃度が270ppm以上であると、波長1550nmにおける光ファイバ1の伝送損失が0.176dB/km以下となる。また、光学クラッド部3の平均塩素濃度が2000ppmを超えると、塩素を含有することによる屈折率の上昇が無視できなくなり、その分だけフッ素含有量も増やす必要が生じる。
【0022】
また、光学クラッド部3においてコア2に近いほど塩素濃度が高くなっていてもよい。例えば、光学クラッド部3におけるコア2との境界から波長1550nmのMFD(モードフィールド径)の二倍の直径までの部分では、平均塩素濃度が300ppm以上3000ppm以下の範囲内となっていてもよい。通常のシングルモード光ファイバのMFDは10μm程度であるので、直径20μm程度の範囲がこれに相当する。
【0023】
この光学クラッド部3は、ガラス微粒子堆積体を四塩化珪素を用いて脱水処理し、その後、フッ素を添加して焼結することにより、塩素とフッ素をそれぞれ上記の通り含有する石英ガラスとされている。
【0024】
ジャケット部4は、光学クラッド部3と同じ屈折率を有することが好ましく、光学クラッド部3と同程度のフッ素を含有する石英ガラスであるとよい。但し、ジャケット部4は光学クラッド部3と比較して光ファイバ1の光伝送特性に与える影響が小さいので、光学クラッド部3と異なる屈折率であってもよい。」

(オ)「【実施例】
【0038】
(光学クラッド部の塩素濃度と伝送損失について)
図1に示した光学クラッド部3に含まれる塩素の濃度と、光ファイバ1の伝送損失の関係を調べた。
光学クラッド部3はフッ素を0.45質量%以上1.50質量%以下含有する石英ガラスとして、塩素の平均残留濃度が異なる複数のサンプルを用意した。各サンプルで波長1550nmにおける光ファイバ1の伝送損失を調べ、伝送損失の良好率を算出した。その結果を図8に示す。なお、伝送損失の良好率は、波長1550nmにおける光ファイバ1の伝送損失が0.176dB/km以下である場合を良好として、良好率=(良好長/評価長)×100(%)と算出した。
【0039】
図8に示すように、塩素の平均残留濃度が200ppmまでは良好率がほぼ0%であり、270ppm前後で良好率が急激に変化し、270ppm以上では良好率が50%を越えてほぼ100%となることが判る。つまり、光学クラッド部3の平均塩素濃度が270ppm以上であると、波長1550nmにおける光ファイバ1の伝送損失が0.176dB/km以下となることが判る。
【0040】
(光学クラッド部となるガラス微粒子堆積体の脱水条件について)
図3に示したガラス微粒子堆積体16の脱水処理を行う際の最高温度T_(A)と脱水作用が働く温度T_(eff)以上になる時間の合計Δtを変更し、残留塩素濃度及び伝送損失との関係について調べた。
ガラス微粒子堆積体16の直径は100mm、ガラス微粒子堆積体16の長さは750mmとし、ヒータ長400mmの加熱炉を用いて、ガラス微粒子堆積体16を軸方向に移動させながら全体を加熱して、脱水処理を行った。脱水処理には四塩化珪素を用い、1.0リットル/分の流量で加熱炉内に供給した。脱水処理後、濃度5%程度のSiF4をHeと混合させて流しながらフッ素を添加して焼結し、透明化させた。その透明ガラス体の残留塩素濃度を測定した。また、それを用いて光ファイバ用ガラス母材を作製し、線引きして光ファイバを作製して波長1550nmの伝送損失を測定した。これらの結果を表1に示す。なお、最高温度T_(A)はガラス微粒子堆積体16の異なる測定点における最小の値を代表値として扱った。また、比較例4においては、脱水処理に四塩化珪素を用いず、塩素を2.0リットル/分の流量で加熱炉内に供給した。加熱炉温度は何れも1200℃であり、脱水作用が働く温度T_(eff)は1000℃である。
【0041】
【表1】

【0042】
比較例1,2と実施例1では、加熱炉に対してガラス微粒子堆積体を一方方向にトラバースさせて脱水処理を行った。
比較例1は、トラバース速度が最も速く(30mm/分)、最高温度T_(A)が1020℃であり、温度T_(eff)以上になる時間Δtは30分だけであった。その結果、残留塩素濃度は140ppmと少なく、伝送損失の良好率は0%であった。
比較例2は、トラバース速度を20mm/分とし、最高温度T_(A)が1120℃となった。温度T_(eff)以上になる時間Δtは60分となったが、残留塩素濃度は240ppmであり、伝送損失の良好率は5%であった。
実施例3(審決注;「実施例1」の誤記と認める。)は、トラバース速度を10mm/分とし、最高温度T_(A)が1180℃となった。温度T_(eff)以上になる時間Δtは110分と長くなった。その結果、残留塩素濃度は350ppmまで増加し、伝送損失の良好率は100%であった。
【0043】
実施例2,3と比較例3では、加熱炉に対してガラス微粒子堆積体を往復でトラバースさせて脱水処理を行った。
比較例3は、トラバース速度が最も速く(30mm/分)、最高温度T_(A)が1020℃であり、温度T_(eff)以上になる時間Δtは60分であった。時間Δtは比較例1より長くなったが、残留塩素濃度は170ppmと少なく、伝送損失の良好率は0%であった。
実施例2は、トラバース速度を20mm/分とし、最高温度T_(A)が1120℃となった。温度T_(eff)以上になる時間Δtは120分であった。時間Δtは比較例2より長くなって、残留塩素濃度は300ppmとなり、伝送損失の良好率は92%であった。
実施例3は、トラバース速度を10mm/分とし、最高温度T_(A)が1180℃となった。温度T_(eff)以上になる時間Δtは220分であった。その結果、残留塩素濃度は420ppmまで増加し、伝送損失の良好率は100%であった。
【0044】
塩素ガスを用いた比較例4では、他の条件を良好率は100%であった実施例1と同じにして脱水処理を行った。その結果、残留塩素濃度は140ppmと少なく、伝送損失の良好率は0%であった。
【0045】
このように、四塩化珪素を用いて脱水し、そのときの最高温度T_(A)が1180℃、温度T_(eff)以上になる時間Δtが110分以上である実施例1及び実施例3は、残留塩素濃度が高くなって伝送損失の良好率を100%にできることが判った。」

(カ)図8は以下のとおりである。



イ 上記記載及び図面から、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

引用発明
「コアとクラッドからなる石英系の光ファイバであって、
前記コアはゲルマニウムを含まない石英ガラスからなり、
前記クラッドは、前記コアの外周に位置する光学クラッド部と、前記光学クラッド部の外周に位置するジャケット部を有し、
前記光学クラッド部は、フッ素を0.45質量%以上1.50質量%以下含有するとともに、塩素を平均濃度270ppm以上2000ppm以下含有し、
光学クラッド部3は、ガラス微粒子堆積体を四塩化珪素を用いて脱水処理し、その後、フッ素を添加して焼結することにより、塩素とフッ素を含有する石英ガラスとされ、
ジャケット部4は、光学クラッド部3と同じ屈折率を有することが好ましく、光学クラッド部3と同程度のフッ素を含有する石英ガラスであるとよく、
但し、ジャケット部4は光学クラッド部3と比較して光ファイバ1の光伝送特性に与える影響が小さい、
光ファイバの製造方法。」

(3)対比、判断
本件補正発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「光ファイバ」、「コア」は、それぞれ本件補正発明の「光ファイバ」、「コア」に相当する。

イ 本件明細書において「【0006】本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、水素への暴露によって伝送損失が増大する現象を抑制した光ファイバを提供することを目的とする。」と記載されており、伝送損失を抑制することを目的として、「クラッド層」の「Cl濃度」を規定していることから、当該「クラッド層」は、光ファイバの伝送損失に影響を与える層であると解することが自然である。
そうすると、引用発明において「クラッドは、前記コアの外周に位置する光学クラッド部と、前記光学クラッド部の外周に位置するジャケット部を有し」ているが、「ジャケット部4は光学クラッド部3と比較して光ファイバ1の光伝送特性に与える影響が小さい」ことから、引用発明の「光学クラッド部」が、本件補正発明の「クラッド層」に、実質的に相当するといえる。

ウ 引用発明は、「光学クラッド部は、フッ素を0.45質量%以上1.50質量%以下含有するとともに、塩素を平均濃度270ppm以上2000ppm以下含有し」との構成を有している。当該構成について、フッ素の濃度が質量%で規定されていることや光ファイバにおける技術常識から見て、「ppm」は質量を元にした濃度であると解されるから、当該構成は、本件補正発明の「前記クラッド層にFが添加されている」、及び「前記クラッド層のCl濃度が、前記クラッド層の断面の分布を平均して、0.029wt%以上0.098wt%以下となる」との要件を満たしている。

エ 引用発明において、「光学クラッド部3は、ガラス微粒子堆積体を四塩化珪素を用いて脱水処理」されていることから、本件補正発明の「前記クラッド層をCl系ガスで脱水する」との構成を有している。

オ 上記ア?エから、本件補正発明と引用発明は同一である。

カ また、上記ウにおいて、仮に、引用発明が、本件補正発明の「クラッド層のCl濃度が」「0.029wt%以上0.098wt%以下となる」との明示的な数値限定まで有していないとしても、引用文献における「【0039】図8に示すように、塩素の平均残留濃度が200ppmまでは良好率がほぼ0%であり、270ppm前後で良好率が急激に変化し、270ppm以上では良好率が50%を越えてほぼ100%となることが判る。」 、「【0042】・・・実施例3(審決注;「実施例1」の誤記と認める。)は、・・・残留塩素濃度は350ppmまで増加し、伝送損失の良好率は100%であった。【0043】・・・実施例2は、・・・残留塩素濃度は300ppmとなり、伝送損失の良好率は92%であった。実施例3は、・・・残留塩素濃度は420ppmまで増加し、伝送損失の良好率は100%であった。」との記載から見て、引用発明において、「0.029wt%以上」程度の数値は想定されているといえるし、上限を「0.098wt%以下」程度に設定することは当業者が必要に応じて適宜設定しうる設計事項にすぎない。

(4)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、
「4.理由2(特許法第29条第1項第3号)について
(1)本願では、当初明細書の0021?0022段落に記載されている通り、クラッド層が単一の層である場合(図1)や、クラッド層が複数層からなる場合(図2)を含めて、「クラッド層」として定義しております。これに対して、拒絶査定には、「引用文献1に記載の光学クラッド部は、本願発明の「クラッド層」に相当し、」と記載されております。しかしながら、引用文献1の0018段落における「クラッド5は、コア2の外周に位置する光学クラッド部3と、光学クラッド部3の外周に位置するジャケット部4とを有する」との記載を参照すると、引用文献1における光学クラッド部3はクラッド5の一部に過ぎないことは明らかであり、上記認定は引用文献1のジャケット部4の存在を無視したものであります。以上のことを踏まえると、本願における「クラッド層12の断面の分布を平均したCl濃度」と引用文献1における「光学クラッド部3の平均塩素濃度」とは、同一の概念であるとは言えません。」、
「5.理由3(特許法第29条第2項)について
(1)引用文献1の0020段落等では、クラッド5のうち、ジャケット部4を除く光学クラッド部3の平均塩素濃度を規定しております。ところで、引用文献1の0019段落には、寸法の一例として、「コア2の直径d1が9.6μm、光学クラッド部3の直径d2が48μm、ジャケット部4の直径d3が125μm」と記載されております。この寸法から算出すると、ジャケット部4の断面積は光学クラッド部3の断面積の6倍以上大きいことになります。したがって、引用文献1におけるクラッド5(光学クラッド部3とジャケット部4とを合わせた部分)の平均塩素濃度には、ジャケット部4の塩素濃度が非常に大きく寄与することになりますが、引用文献1にはジャケット部4の塩素濃度については何ら記載されておりません。このように、引用文献1では、本願発明1のように、クラッド層全体(すなわち光学クラッド部3およびジャケット部4の全体)の断面の分布を平均したCl濃度を規定することを全く示唆しておらず、引用文献1の開示内容を理解した当業者にとって、本願発明1の構成に想到する動機付けがありません。
(2)それどころか、引用文献1の0024段落には、「ジャケット部4は光学クラッド部3と比較して光ファイバ1の光伝送特性に与える影響が小さい」との記載がありますので、本願発明1のように、クラッド層全体(すなわち光学クラッド部3およびジャケット部4の全体)の断面の分布を平均したCl濃度を規定することをかえって阻害しているものと思料いたします。 」と主張している。
当該主張について検討すると、本件明細書において、「クラッド層」の定義は明記されておらず、「クラッド層」としてどの部分まで含みうるのか必ずしも明らかでない部分はあるものの、本件補正発明の目的は水素への暴露によって伝送損失が増大する現象を抑制した光ファイバを提供することであることから、「クラッド層」として、光ファイバの伝送損失に影響を与える部分を対象としていると解される。したがって、上記(3)イで説示したように、引用発明の「光学クラッド部」が、本件補正発明の「クラッド層」に相当するといえる。
また、仮に、引用発明の「ジャケット部」を含めて、本件補正発明の「クラッド層」に相当するとしたとしても、引用発明は、「【0009】・・・光学クラッド部に含まれる塩素濃度を多くして光ファイバの伝送損失を低く抑えることができる光ファイバ・・・を提供することを目的として」おり、「ジャケット部」に塩素を含有させないようにすることなどを要件としているわけではないから、光ファイバの伝送損失を低く抑えることをより確実にするために、「ジャケット部」を含めて「光学クラッド部」と同様の塩素濃度とすることは、当業者が適宜なし得る程度のことにすぎない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(5)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
又は、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成31年1月30日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本件補正発明に対応する本件補正前の発明は、平成30年8月22日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項6に係る発明であるところ、その請求項6に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項6に記載された事項により特定される、上記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
この出願の請求項6に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、
この出願の請求項6に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
というものである。

3 進歩性について
(1)引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献及びその記載事項は、上記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記クラッド層にFが添加されている」との限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2に記載したとおり、引用発明と同一である、又は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明と同一である、又は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
又は、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-14 
結審通知日 2019-11-19 
審決日 2019-12-02 
出願番号 特願2017-106992(P2017-106992)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井部 紗代子佐藤 宙子  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 井上 博之
山村 浩
発明の名称 光ファイバ、光ファイバの製造方法、および光ファイバ母材  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 清水 雄一郎  
代理人 小室 敏雄  
代理人 棚井 澄雄  
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