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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01R
管理番号 1359086
審判番号 不服2019-3845  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-22 
確定日 2020-01-16 
事件の表示 特願2015-180744「寿命推定回路およびそれを用いた半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月23日出願公開、特開2017- 58146〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年9月14日の特許出願であって、平成30年9月20日に手続補正書が提出され、平成31年1月24日付けで拒絶査定がなされ、平成31年1月29日に拒絶査定の謄本が送達された。
これに対して、平成31年3月22日に拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書の提出がなされ、その後、令和元年6月24日に上申書が提出されたものである。

第2 平成31年 3月22日にされた補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年3月22日にされた補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲が補正された。本件補正前(平成30年9月20日にされた補正の後をいう。以下同じ。)及び本件補正後の請求項1の記載は、以下のとおりである。下線は、補正箇所を示す。

(1)本件補正前
「パワー素子の寿命を推定する寿命推定回路であって、
前記パワー素子の温度を検出する温度検出器と、
前記温度検出器の検出結果に基づいて、前記パワー素子の温度変化の変曲点を検出する変曲点検出部と、
前記変曲点検出部によって今回検出された変曲点における前記パワー素子の温度と前回検出された変曲点における前記パワー素子の温度との差の絶対値を求める演算部と、
前記演算部によって求められた温度差の絶対値が第1のしきい値温度に到達した第1の温度変化の回数をカウントするカウント回路と、
前記カウント回路のカウント値に基づいて、前記パワー素子の寿命に関連する信号を出力する信号発生部とを備え、
前記変曲点は、前記パワー素子の温度が上昇から下降に転じる点、あるいは当該温度が下降から上昇に転じる点であり、
前記カウント回路は、前記温度差が下限値よりも小さい場合、前記パワー素子の温度変化をカウントしない、寿命推定回路。」

(2)本件補正後
「パワー素子の寿命を推定する寿命推定回路であって、
前記パワー素子の温度を検出する温度検出器と、
前記温度検出器の検出結果に基づいて、前記パワー素子の温度変化の変曲点を検出する変曲点検出部と、
前記変曲点検出部によって今回検出された変曲点における前記パワー素子の温度と前回検出された変曲点における前記パワー素子の温度との差の絶対値を求める演算部と、
前記演算部によって今回求められた温度差の絶対値が第1のしきい値温度より大きい場合、第1の温度変化の回数をインクリメントし、前記今回求められた温度差の絶対値が前記第1のしきい値温度よりも小さい場合、前記第1の温度変化の回数を維持するカウント回路と、
前記カウント回路のカウント値に基づいて、前記パワー素子の寿命に関連する信号を出力する信号発生部とを備え、
前記変曲点は、前記パワー素子の温度が上昇から下降に転じる点、あるいは当該温度が下降から上昇に転じる点である、寿命推定回路。」

2 本件補正の目的
本件補正前の請求項1に係る発明では、「カウント回路」は、「演算部によって求められた温度差の絶対値が第1のしきい値温度に到達した第1の温度変化の回数をカウントする」一方、「前記温度差が下限値よりも小さい場合、前記パワー素子の温度変化をカウントしない」とされていた。すなわち、「温度差の絶対値」が「第1のしきい値温度」に到達しない(「第1のしきい値温度」より小さい)が「下限値」よりは大きい場合、温度変化をカウントするか否かは任意であった。
これに対して、本件補正後の請求項1に係る発明では、「カウント回路」は、「演算部によって今回求められた温度差の絶対値が第1のしきい値温度より大きい場合、第1の温度変化の回数をインクリメントし、前記今回求められた温度差の絶対値が前記第1のしきい値温度よりも小さい場合、前記第1の温度変化の回数を維持する」とされている。これは、「今回求められた温度差の絶対値が第1のしきい値温度より大きい場合」は「第1の温度変化の回数」をカウントし、「第1のしきい値温度よりも小さい場合」はカウントしないことを意味する。
そうすると、本件補正は、「温度差の絶対値」が「第1のしきい値温度」に到達しない(「第1のしきい値温度」より小さい)場合、それが「下限値」より大きければ、温度変化をカウントするか否かは任意としていたものを、温度変化を必ずカウントするものに限定する趣旨と解される。そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明とでは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

3 独立特許要件についての判断
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献
以下の引用文献は、いずれも原査定の拒絶の理由で引用された公開特許公報であり、その公開日は、いずれも本願の出願日より前である。

引用文献1:特開平8-126337号公報
引用文献2:特開2014-11904号公報

(3)引用文献に記載された事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付した。
「【0003】図8および図9は、例えば特開平3-261877号公報に示された従来のインバータ装置の構成図および電力用半導体素子の寿命を判定するインバータ装置内の制御部の構成図であり、電力用半導体素子内のジャンクション温度の上昇、下降による熱疲労により電力用半導体素子の寿命を推定し、寿命に達した部品を表示することにより、作業者が容易に判断できるようになり、故障を未然に防ぐというもので、以下説明する。
【0004】図8において、100はインバータ装置、200は交流電源、300はインバータ装置100の負荷としての誘導電動機、101は交流電源200からの交流電力を直流電力に変換するコンバータ部、102は直流電力を交流電力に変換するインバータ部、103はコンバータ部101またはインバータ部102で生ずる電圧リプルを吸収する平滑回路部、104はコンバータ部101、インバータ部102及び平滑回路部103とから構成される主回路部である。主回路部104内において、105は整流ダイオード、106は平滑コンデンサ、107はトランジスタ、108はトランジスタ107と逆並列に接続される帰還ダイオードであり、整流ダイオード105、トランジスタ107及び帰還ダイオード108を以下電力用半導体素子と記す。
【0005】また、110はインバータ装置100の出力電流を検出する電流検出部、120はインバータ装置の放熱フィン(図示せず)に取付けられた温度検出部、130は主回路部104を駆動するための制御信号を与える制御部、131は制御部130の指令によりトランジスタ107を駆動するトランジスタ駆動部、140は制御部130での演算結果や設定データ等を表示する表示部である。なお、主回路部104を構成する電力用半導体素子は、図示しない放熱フィンに取付けられている。
【0006】図9において110は電力用半導体素子に流れる電流に応じた電流を検出する電流検出部、120は放熱フィンの温度を検出する放熱フィン温度検出部、20は電流検出部110より得られる検出電流と放熱フィン温度検出部120より得られる検出温度よりトランジスタのジャンクション温度を推定するトランジスタ温度推定部、21はトランジスタのジャンクション温度の変化幅を検出し、トランジスタの疲労程度を示す熱ストレス回数を求めるトランジスタ温度変化幅熱ストレス演算部、22は熱ストレス回数が疲労限界に達したことを判定するトランジスタ寿命判定部、140は熱ストレス回数が疲労限界に達したときアラームを表示する表示部である。図においてダイオード温度推定部30、ダイオード温度変化幅熱ストレス演算部31、ダイオード寿命判定部32は対象をトランジスタからダイオードに置き換えたもので、トランジスタ温度推定部20、トランジスタ温度変化幅熱ストレス演算部21、トランジスタ寿命判定部22と同様の処理を行うものである。」
「【0008】また、図11はトランジスタ温度変化幅熱ストレス演算部21及びダイオード温度変化幅熱ストレス演算部31の演算のフローチャートである。以下、図11を中心に図8ないし図10のトランジスタ107を例として動作の説明をする。図9のトランジスタ温度変化幅熱ストレス演算部21では、トランジスタ温度推定部20で推定した図8のトランジスタ107のジャンクション温度T_(j )の変化が図10の曲線150に示すように上昇から下降、または下降から上昇との極値となったかを確認し、温度変化値の最大値、または最小値と判断し、温度変化幅を求め、この温度変化幅より熱ストレスを演算している。以下具体的な動作を図11のフローによって説明する。図11のステップ411は、トランジスタ107のジャンクション温度T_(j )が最大または最小かをチェックするもので、最大または最小でない場合は、NOに進み無処理でエンドへ抜ける。
【0009】また、トランジスタジャンクション温度T_(j )が最大または最小の場合はYESに進み、ステップ412に於て最小値と次の最大値の差または最大値と次の最小値の差ΔT_(jW)を求め、即ち、図10の、ΔT_(jW1) ,ΔT_(jW2) ,ΔT_(jW3) を求め、次のステップ413で図8のトランジスタ107の寿命を、温度変化に起因する熱ストレスと置換え、1回の温度変化幅に対する熱ストレスを次式により算出し、熱ストレス回数とする。
ΔSt_(1 )=(ΔT_(jW)/ΔT_(js))^(2) ・1/2
ここで、ΔSt_(1 )は1回の温度変化幅に対する熱ストレス回数、ΔT_(jW)は温度変化幅、ΔT_(js)は主回路部104のトランジスタ107の寿命を許容する熱ストレス回数と置き換える際の基準となる基準温度差である。
【0010】次にステップ414により累積値であるトランジスタ温度変化幅熱ストレス回数St_(1)に、1回の温度変化幅による熱ストレス回数ΔSt_(1)を加算し、
St_(1)←St_(1)+ΔSt_(1)
St_(1)を演算し、エンドとなる。上記の様に、トランジスタのジャンクション温度T_(j)が極値となる毎に、トランジスタ温度変化幅熱ストレス回数St_(1)が更新されることになる。
【0011】次いで、図9のトランジスタ寿命判定部22において、上記トランジスタ温度変化幅熱ストレス演算部21で演算したトランジスタ温度変化幅熱ストレス回数St_(1)とあらかじめ設定したトランジスタ107の固有の寿命から求められたトランジスタ許容熱ストレス回数St_(max)と比較することにより、トランジスタ107が疲労に達したか否かを判定し、トランジスタ温度変化幅熱ストレス回数St_(1) が許容熱ストレス回数を越えた場合には、図9の表示部140にてトランジスタ107が寿命となった旨アラーム表示をする。」
「【図8】

【図9】

【図10】


(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a インバータ装置100内の制御部130は、電力用半導体素子内のジャンクション温度の上昇、下降による熱疲労により、電力用半導体素子の寿命を判定するものであって、インバータ装置100は、電力変換を行う主回路部104と、主回路部104を駆動するための制御信号を与える制御部130とを含み、主回路部104を構成する電力用半導体素子は、整流ダイオード105、トランジスタ107及び帰還ダイオード108を含み、制御部130は、トランジスタ温度推定部20、トランジスタ温度変化幅熱ストレス演算部21、トランジスタ寿命判定部22を含むものである。(【0003】-【0006】、【図8】-【図9】)。
b トランジスタ温度推定部20は、電流検出部110より得られる検出電流と放熱フィン温度検出部120より得られる検出温度より、電力用半導体素子を構成するトランジスタ107のジャンクション温度を推定するものである(【0004】、【0006】、【図8】-【図9】)。
c トランジスタ温度変化幅熱ストレス演算部21は、トランジスタ温度推定部20で推定したトランジスタ107のジャンクション温度T_(j )の変化が上昇から下降、または下降から上昇との極値となったかを確認して温度変化値の最大値または最小値と判断し、トランジスタ107のジャンクション温度の変化幅を検出して温度変化幅を求め、トランジスタのジャンクション温度T_(j )が極値となる毎に、1回の温度変化幅による熱ストレス回数ΔSt_(1) を累積して、累積値であるトランジスタ温度変化幅熱ストレス回数St_(1 )を演算し、トランジスタの疲労程度を示す熱ストレス回数St_(1 )を求めるものである(【0006】、【0008】-【0010】、【図10】)。
d トランジスタ寿命判定部22は、前記したトランジスタ温度変化幅熱ストレス回数St_(1 )とあらかじめ設定したトランジスタ107の固有の寿命から求められたトランジスタ許容熱ストレス回数St_(max) と比較することにより、トランジスタ107が疲労に達したか否かを判定するものである。(【0006】、【0011】)。
e さらに、トランジスタ寿命判定部22は、熱ストレス回数が疲労限界に達したときに、表示部140にてトランジスタ107が寿命となった旨アラーム表示させるものである(【0006】、【0011】)。

(ウ)上記(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「電力変換を行う主回路部104と、主回路部104を駆動するための制御信号を与える制御部130とを含むインバータ装置100内において、
主回路部104を構成し、整流ダイオード105、トランジスタ107及び帰還ダイオード108を含む電力用半導体素子の寿命を判定するインバータ装置内の制御部130であって、
電流検出部110より得られる検出電流と放熱フィン温度検出部120より得られる検出温度より、電力用半導体素子を構成するトランジスタ107のジャンクション温度を推定するトランジスタ温度推定部20と、
トランジスタ温度推定部20で推定したトランジスタ107のジャンクション温度T_(j )の変化が上昇から下降、または下降から上昇の極値となったかを確認して温度変化値の最大値または最小値と判断し、
トランジスタ107のジャンクション温度の変化幅を検出し、
トランジスタ107のジャンクション温度T_(j )の1回の温度変化幅による熱ストレス回数ΔSt_(1) を、トランジスタのジャンクション温度T_(j )が極値となる毎に累積して、累積値であるトランジスタ温度変化幅熱ストレス回数St_(1 )を演算し、トランジスタの疲労程度を示す熱ストレス回数St_(1 )を求めるトランジスタ温度変化幅熱ストレス演算部21と、
トランジスタ温度変化幅熱ストレス回数St_(1 )とあらかじめ設定したトランジスタ107の固有の寿命から求められたトランジスタ許容熱ストレス回数St_(max) とを比較することにより、トランジスタ107が疲労に達したか否かを判定し、熱ストレス回数が疲労限界に達したときに、トランジスタ107が寿命となった旨を表示部140にアラーム表示させるトランジスタ寿命判定部22とを含む、
インバータ装置内の制御部130。」

イ 引用文献2
(ア)引用文献2には、以下の記載がある。下線は、当合議体が付した。
「【0004】各電圧変換回路の劣化の進み具合は、単純な使用頻度だけで決まるものではない。電圧変換回路の劣化を進める一つの要因に熱ストレスがある。入力電力の変化に伴い、各電圧変換回路の負荷も変化する。負荷の大きさに依存して発熱量も変化する。発熱量に応じて電圧変換回路自身の温度(IGBTやダイオードの温度)が変化する。温度変化が激しいと劣化が進む。電圧変換回路自身の温度変化が熱ストレスに相当する。本明細書は、多相コンバータにおいて複数の電圧変換回路の熱ストレスの平準化を図り、劣化を抑制する技術を提供する。」
「【0024】全ての電圧変換回路は同じ構成を有するので、電圧変換回路31について説明する。電圧変換回路31は、リアクトル22U、スイッチング素子26U、ダイオード28U、29U、及び、温度センサ27Uで構成される。スイッチング素子26Uとダイオード29Uが直列に接続されている。ダイオード29Uのアノードがスイッチング素子26Uのコレクタに接続しており、カソードは多相コンバータ20の高電圧側(インバータ側)の正極端子に接続している。スイッチング素子26Uのエミッタは多相コンバータ20の負極端子(接地端子)に接続している。スイッチング素子26Uとダイオード29Uの中間点にリアクトル22Uの一端が接続している。リアクトル22Uの他端は多相コンバータ20の低電圧側の正極端子に接続している。もう1つのダイオード28Uは、スイッチング素子26Uと逆並列に接続している。スイッチング素子26Uは、スイッチング素子のOFFへの切換時の逆流電流を逃がすために設けられている。スイッチング素子26Uは、典型的には、IGBTである。」
「【0033】先に述べたように、コントローラ60は、多相コンバータ20を駆動している間、定期的に各電圧変換回路の温度をモニタする。そして、多相コンバータ20を停止した後、各電圧変換回路について、温度変化の変曲点を特定し、隣接する変曲点の間での温度差dTを算出する。そして、温度差dTのヒストグラムを記憶する。なお、コントローラ60は過去のヒストグラムのデータを蓄積しており、多相コンバータ20を停止する毎に新たなデータを加えてヒストグラムを更新する。図4に、特定の電圧変換回路についての温度変化の模式的なグラフを示す。このグラフによると、時刻tsにて多相コンバータ20を起動し、時刻teで終了した。コントローラ60は、グラフから、その間の温度変化における変曲点P1、P2、P3、P4を抽出する。次いでコントローラ60は、隣接する変曲点の間の温度差dT1、dT2、dT3を特定する。コントローラ60は、特定した複数の温度差を、過去のヒストグラムのデータに加える。即ち、ヒストグラムを更新する(S32)。図5にヒストグラムの一例を示す。このヒストグラムでは、第1の階級として温度差dT<20[℃]の範囲が選定され、第2の階級として20[℃]≦温度差dT<40[℃]の範囲が選定され、第3の階級として40[℃]≦温度差dT<60[℃]の範囲が選定され、第4の階級として60[℃]≦温度差dTの範囲が選定されている。コントローラ60は、図4で説明した温度差群dT1、dT2、dT3を加えて図5のヒストグラムを更新する。
【0034】コントローラ60には、また、温度差閾値が予め記録されている。コントローラ60は、温度差閾値以上の温度差におけるヒストグラムの出現頻度の和を算出する。例えば図5では、温度差閾値が40[℃]に定められており、コントローラ60は、温度差が40[℃]以上の階級の出現頻度を合算する。合算したものが、先に述べた発熱頻度に相当する。」
「【0039】実施例では、多相コンバータ20を停止した後に変曲点間の温度差を特定した(図3のステップS32)。コントローラ60は、多相コンバータの駆動中に変曲点を検知し、検知する毎に温度差を特定してもよい。」
「【図1】



(イ)上記記載から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 電圧変換回路31の温度を直接的に測定するために、電圧変換回路自体に温度センサ27Uが設けられている。(【0024】、【図1】)
b コントローラ60は、定期的に電圧変換回路の温度を温度センサでモニタし、温度変化の変曲点を特定し、隣接する変曲点の間での温度差を算出し、算出された変曲点間の温度差が閾値以上の温度差におけるヒストグラムの出現頻度の和、すなわち、変曲点間の温度差がしきい値を超えた回数の積算値を、電圧変換回路の劣化の進度の指標として用いている。(【0004】、【0033】-【0034】)
c 多相コンバータの駆動中に変曲点を検知し、検知する毎に温度差を特定してもよいとされている。(【0039】)

(4)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「電力用半導体素子」は、「主回路部104を構成」するものであって、「主回路部104」は「電力変換を行う」ものであるから、本件補正発明の「パワー素子」に相当する。
(イ)引用発明の「トランジスタ温度推定部20」及び「トランジスタ温度推定部20で推定したトランジスタ107のジャンクション温度T_(j )」と本件補正発明の「パワー素子の温度を検出する温度検出器」及び「温度検出器の検出結果」とは、ともに、パワー素子の温度を取得するための手段及び当該手段から取得された結果であるから、「パワー素子の温度を取得する温度取得手段」及び「温度取得手段の取得結果」である点で共通する。
(ウ)引用発明の「トランジスタ107のジャンクション温度T_(j)の変化が上昇から下降」の「極値」は、本件補正発明の「変曲点は、パワー素子の温度が上昇から下降に転じる点」に相当し、引用発明の「トランジスタ107のジャンクション温度T_(j)の変化が」「下降から上昇の極値」は、本件補正発明の「変曲点は、パワー素子の温度が」「下降から上昇に転じる点」に相当するから、引用発明の「極値」は本件補正発明の「変曲点」に相当する。
(エ)引用発明の「トランジスタ温度変化幅熱ストレス演算部21」は、まず、「トランジスタ107のジャンクション温度T_(j)の変化が上昇から下降、または下降から上昇の極値となったかを確認し、温度変化値の最大値または最小値と判断」するものであるから、本件補正発明の「パワー素子の温度変化の変曲点を検出する変曲点検出部」に相当する。
(オ)引用発明の「トランジスタ温度変化幅熱ストレス演算部21」は、さらに、温度変化値の最大値または最小値から「トランジスタ107のジャンクション温度の変化幅を検出」するものであるから、本件補正発明の「変曲点検出部によって今回検出された変曲点におけるパワー素子の温度と前回検出された変曲点におけるパワー素子の温度との差の絶対値を求める演算部」にも相当する。
(カ)引用発明の「トランジスタ107のジャンクション温度T_(j )の1回の温度変化幅による熱ストレス回数ΔSt_(1) 」と本件補正発明の「温度差の絶対値が第1のしきい値温度より大きい場合」の「第1の温度変化の回数」とは、ともに「パワー素子の寿命に関連する指標」である点で共通しているから、それらを「累積」する引用発明の「トランジスタ温度変化幅熱ストレス演算部21」と、「インクリメント」する本件補正発明の「カウント回路」とは、ともに「パワー素子の寿命に関連する指標を積算する積算手段」である点で共通し、それらを積算した値である引用発明の「累積値であるトランジスタ温度変化幅熱ストレス回数St_(1)」と本件補正発明の「カウント値」とは、ともに「積算値」である点で共通する。
(キ)引用発明の「トランジスタ寿命判定部22」は、「トランジスタ温度変化幅熱ストレス回数St_(1 )(積算値)とあらかじめ設定したトランジスタ107の固有の寿命から求められたトランジスタ許容熱ストレス回数St_(max) と比較することにより、トランジスタ107が疲労に達したか否かを判定し、熱ストレス回数が疲労限界に達したときに、トランジスタ107が寿命となった旨を表示部140にアラーム表示させる」ものであるから、本件補正発明の「パワー素子の寿命に関連する信号を出力する信号発生部」に相当する。
(ク)引用発明の「インバータ装置内の制御部130」は、電力用半導体素子の寿命を判定するものであるから、本件補正発明の「寿命推定回路」に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「パワー素子の寿命を推定する寿命推定回路であって、
前記パワー素子の温度を取得する温度取得手段と、
前記温度取得手段の取得結果に基づいて、前記パワー素子の温度変化の変曲点を検出する変曲点検出部と、
前記変曲点検出部によって今回検出された変曲点における前記パワー素子の温度と前回検出された変曲点における前記パワー素子の温度との差の絶対値を求める演算部と、
前記演算部によって今回求められた温度差の絶対値から、パワー素子の寿命に関連する指標を積算する積算手段と、
前記積算手段の積算値に基づいて、前記パワー素子の寿命に関連する信号を出力する信号発生部とを備え、
前記変曲点は、前記パワー素子の温度が上昇から下降に転じる点、あるいは当該温度が下降から上昇に転じる点である、寿命推定回路。」

【相違点1】
「パワー素子の温度を取得する温度取得手段」及び「温度取得手段の取得結果」が、本件補正発明は、「パワー素子の温度を検出する温度検出手段」及び「温度検出器の検出結果」(パワー素子の温度そのもの)であるのに対し、引用発明は、「電流検出部110より得られる検出電流と放熱フィン温度検出部120より得られる検出温度より、電力用半導体素子を構成するトランジスタ107のジャンクション温度を推定するトランジスタ温度推定部20」及び「トランジスタ温度推定部20で推定したトランジスタ107のジャンクション温度T_(j )」(温度推定値)である点。

【相違点2】
「パワー素子の寿命に関連する指標」が、本件補正発明は、「演算部によって今回求められた温度差の絶対値が第1のしきい値温度より大きい場合」の「第1の温度変化の回数」であるのに対し、引用発明は、「トランジスタ107のジャンクション温度T_(j )の1回の温度変化幅による熱ストレス回数ΔSt_(1) 」である点。

【相違点3】
「パワー素子の寿命に関連する指標を積算する積算手段」が、本件補正発明は、「演算部によって今回求められた温度差の絶対値が第1のしきい値温度より大きい場合、第1の温度変化の回数をインクリメントし、前記今回求められた温度差の絶対値が前記第1のしきい値温度よりも小さい場合、前記第1の温度変化の回数を維持するカウント回路」、すなわち、「パワー素子の寿命に関連する指標」を「インクリメント」する「カウント回路」であるのに対し、引用発明は、「パワー素子の寿命に関連する指標」を累積して「累積値であるトランジスタ温度変化幅熱ストレス回数St_(1 )を演算し、トランジスタの疲労程度を示す熱ストレス回数St_(1 )を求めるトランジスタ温度変化幅熱ストレス演算部21」である点。

【相違点4】
「積算手段の積算値」が、本件補正発明は、「カウント回路のカウント値」であるのに対し、引用発明は、「トランジスタ温度変化幅熱ストレス演算部21」が累積した「累積値であるトランジスタ温度変化幅熱ストレス回数St_(1 )」である点。

(5)相違点についての判断
ア 相違点1について
取得対象となる温度を直接測定するか、間接的に推定するかは当業者が適宜選択し得た事項であって、例えば引用文献2には、上記(3)イ(イ)aのとおり、電圧変換回路31の温度を直接測定するために、電圧変換回路自体に温度センサ27Uが設けたことが記載されている。そうすると、引用発明においても、例えば引用文献2記載の技術のように、取得対象となる温度を直接測定することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、「パワー素子の温度を取得する温度取得手段」について、引用発明において、パワー素子の温度を直接測定する構成を採用すれば、引用発明の「トランジスタ温度推定部20で推定したトランジスタ107のジャンクション温度T_(j )」は、本件補正発明の「温度検出器の検出結果」に相当するものになる。

イ 相違点2-4について
引用文献2には、上記(3)イ(イ)b-cのとおり、定期的に電圧変換回路の温度を温度センサでモニタし、温度変化の変曲点を特定し、隣接する変曲点の間での温度差を算出し、算出された変曲点間の温度差が閾値以上の温度差におけるヒストグラムの出現頻度の和、すなわち、変曲点間の温度差がしきい値を超えた回数の積算値を、電圧変換回路の劣化の進度の指標として用いること、及び、多相コンバータの駆動中に変曲点を検知し、検知する毎に温度差を特定してもよいこと、が記載されている。
引用発明と、引用文献2に記載された技術とは、いずれも、電子回路の寿命/劣化に関する指標を用いる点で共通するものであって、しかも、多相コンバータの駆動中にデータ更新しても良いとされているものであるから、「パワー素子の寿命に関連する指標」について、引用発明において、引用文献2に記載された、変曲点間の温度差がしきい値を超えた回数を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、「パワー素子の寿命に関連する指標」について、引用発明において、変曲点間の温度差がしきい値を超えた回数を採用すれば、引用発明の「トランジスタ温度変化幅熱ストレス演算部21」は、本件補正発明の「カウント回路」に相当するものとなり、引用発明の「累積値であるトランジスタ温度変化幅熱ストレス回数St_(1 )」は、本件補正発明の「カウント回路のカウント値」に相当するものとなる。

ウ 作用効果について
本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものであって、格別顕著なものということはできない。

(6)請求人の主張
請求人は、審判請求書及び上申書において、主として、引用文献2に開示されている構成と本件補正発明の「カウント回路」とでは、その構成や作用が全く異なるので、引用文献2の記載から本件補正発明の「カウント回路」を導き出すことは不可能である旨を主張している。
しかしながら、上記(4)-(5)で検討したとおり、「パワー素子の寿命に関連する指標」について、引用発明において、引用文献2に記載された指標を採用することは当業者が容易になし得たことであって、引用発明において引用文献2に記載された指標を採用すれば、引用発明の「トランジスタ温度変化幅熱ストレス演算部21」は、本件補正発明の「カウント回路」と同等の機能を奏するものとなるのであるから、請求人の主張は採用できない。

(7)独立特許要件についての判断の結論
そうすると、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正の却下の決定のむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし14に係る発明は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である以下の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開平8-126337号公報(再掲)
引用文献2:特開2014-11904号公報(再掲)

3 引用文献の記載事項
引用文献1及び2の記載事項は、前記第2[理由]3(3)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]3で検討した本件補正発明から、「温度差の絶対値が第1のしきい値温度よりも小さい場合、第1の温度変化の回数を維持する」(温度変化の回数としてカウントしない)との限定をはずし、温度差の絶対値が下限値と第1のしきい値温度との間である場合について、温度変化の回数としてカウントするかしないかを任意としたものである。
そして、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記の限定を付加した本件補正発明は、前記第2[理由]3(4)-(5)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうすると、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-13 
結審通知日 2019-11-19 
審決日 2019-12-03 
出願番号 特願2015-180744(P2015-180744)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01R)
P 1 8・ 121- Z (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 島▲崎▼ 純一  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 濱野 隆
関根 裕
発明の名称 寿命推定回路およびそれを用いた半導体装置  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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