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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B65D
管理番号 1359123
審判番号 不服2019-8184  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-19 
確定日 2020-02-12 
事件の表示 特願2016-528756「樹脂製キャップ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月23日国際公開、WO2015/194040、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年6月20日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 6月26日付け:拒絶理由通知書
平成30年 8月29日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年11月 5日付け:拒絶理由通知書
平成31年 1月10日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 3月15日付け:拒絶査定(原査定)
令和 元年 6月19日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定(平成31年3月15日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-3に係る発明は、以下の引用文献1-3に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2004-520233号公報
2.特開2014-069828号公報
3.登録実用新案第3068023号公報


第3 本願発明
本願請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、令和元年6月19日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
容器口部に装着され、
天板部と、
前記天板部の周縁から垂下する筒部と、
前記天板部の内面に形成され、前記容器口部の外周面と接触するアウターリングと、
前記天板部の内面に形成され、前記容器口部の内周面と接触するインナーリングと、を備える樹脂製キャップであって、
前記容器口部の少なくとも先端部に、内周面側から切り欠かれることで薄肉化された薄肉部が形成されており、
前記インナーリングが複数形成されており、
前記容器口部は、前記薄肉部と、前記薄肉化がされていない本体部とを先端からこの順に有し、複数の前記インナーリングのうち、少なくとも一つは前記薄肉部における前記容器口部の内周面と接触して剛性が低下した前記薄肉部を前記容器口部の内倒れを抑制するように支持し、少なくとも一つは前記本体部と接触する樹脂製キャップ。
【請求項2】
前記薄肉部は、先端に向かって厚みが漸減するように形成されている請求項1記載の樹脂製キャップ。
【請求項3】
前記アウターリングは、先端に向かって厚みが漸減するように内周面側から斜めに切り欠かれており、
平面視において、前記アウターリングの基部の径方向内側の端部は、前記容器口部の先端の径方向外側の端部よりも内側となるように構成されている請求項1または2に記載の樹脂製キャップ。」


第4 引用文献、引用発明等
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、容器密閉アセンブリのための改善された密封に関する。本発明は、炭酸飲料用容器および非炭酸飲料用容器の密封といったような、容器を密封して実質的に気密および液密な状態にするのに特に適用可能である。」
「【0006】
本発明は、容器密閉アセンブリを提供する。前記容器密閉アセンブリは、
側壁を有する容器頸部であって、前記側壁は前記容器頸部の一端に開口部と、前記開口部の周りに沿って伸びているリップとを規定し、そして前記リップに近い前記側壁の内面は内側に向かって次第に傾斜している前記容器頸部と、
前記頸部用の密閉部材であって、ベース部分とスカート部分とを有する前記密閉部材と、
前記頸部上の第1のネジ山と、
前記密閉部材のスカートの内面上の第2のネジ山と、
前記第1のネジ山および第2のネジ山は、利用者が、蓋を前記頸部上で回転させることによって、前記密閉部材を固定し、取り外したり、前記頸部上の密封位置に再固定できるように構成されており、
前記密閉部材のスカート部分と実質的に同心円状に前記密閉部材の内側のベース部分から伸びている密封プラグであって、前記密封プラグはその外面上に複数の円周方向の密封リブを有し、そして前記密封リブは、前記密閉部材が前記容器頸部に固定されたときに前記容器頸部の内面と咬合する前記密封プラグと、
前記密封プラグと前記密閉部材のスカートとの間の少なくとも1つの可撓性密封フィンであって、前記密閉部材が前記容器頸部に固定されたときに前記容器のリップと咬合する前記可撓性密封フィンと、
前記密閉部材の内面上の少なくとも1つの円周方向の密封リブであって、前記密閉部材が前記容器頸部に固定されたときに前記リップに近接した前記容器頸部の外面と咬合する前記密封リブと、
を含んでなる。
【0007】
本発明による密閉アセンブリは、成形プラスチックまたはガラス製炭酸飲料用びんの如き炭酸飲料用容器に適用されることが好ましい。」
「【0030】
密閉部材2は、ベース3と、スカート4とを含んでなる。容器頸部1の末端は、丸みのある表面の滑らかなリップ5になっている。従来技術において、このリップは、図1の「従来技術」部分において斜線で示されている弾性ライナー6と共に耐圧密封を実現している。
【0031】
図1および2?5を見てみると、本発明による改善された密封構造は、前記リップに隣接した前記容器頸部の、内側に向かって次第に傾斜している内面7を含んでなる。円筒形の密封プラグ8は、前記密閉キャップのベースから下向きに突き出しており、それ自身、前記頸部の内面に対して実質的に平行に傾斜している。しかしながら、前記密封プラグと前記容器頸部との間に単純な締まりばめが設けられる代わりに、前記密封プラグの外面に、実質的に円周に沿って連続している密封リブ9が2つ設けられている。環状密封リブ9は、実質的に正三角形の断面を有し、応力を受けない状態での高さが約150μmである。しかしながら、環状密封リブ9は、通常はリブ9よりも硬い材料(ガラスまたはPET)でできている前記容器頸部に押し付けられると、図に示されるように変形して耐圧密封を実現する。前記密封リブの寸法が小さいことにより、耐圧密封を実現するために前記密封プラグに大きな力を加えることを必要とせずに、耐圧密封を実現することができる。
【0032】
前記密閉スカートと前記密封プラグとの間には、2つの可撓性密封フィン10、11が、前記密閉部材のベースから下向きに2mm程伸びている。これらの密封フィンは互いに反対方向に屈曲し、密封位置に達したときには前記容器リップの丸みを帯びた上端の両側に実質的に対称的に密封を実現していることになる。密封フィン10、11をそれぞれに対応する係止面12、13に密着させることにより、密封が確保される。
【0033】
最後に、前記密閉部材のベースに近い前記密閉部材のすそ部に別の環状密封リブ14が設けられており、前記リップに近い容器密閉部材の外面と咬合する。応力を受けていない状態での密封リブ14の形状および大きさは、密封リブ9にとって好ましい範囲の形状および寸法とほぼ同じであることが好ましい。ここでも、密封リブ14の寸法が小さいことにより、大きな密封力を必要とすること無く、効果的な密封を実現することができる。さらに、使用時には、密封リブ14は、前記密封プラグ上の前記密閉部材のベースの最も近くに位置する密封リブ15の実質的に反対側に位置する。密封リブ14、15は、協力して前記容器リップを締め付けることによって、全温度圧力範囲にわたって非常に効果的な密封を実現している。
【0034】
前記構成によって、図3においてA?Eで示される5つの独立した円周方向の密封表面が規定される。これらの表面における接触圧力(MPa)を、有限要素解析によって演算した。これらの演算は、前記密閉部材には慣用のポリエチレン材料が用いられ、前記容器頸部には慣用のPETが用いられ、そして前記容器頸部の寸法は一般的な炭酸飲料の容器の頸部と同じであると仮定して行われた。計算値(MPa)は以下の通りである。」
【図1】から、スカート4がベース3の周縁から垂下していることが看取できる。
【図1】と【図2】を合わせみると、密封プラグ8と可撓性密封フィン10、11とがベース3の内面に形成されていることが看取できる。
【図2】から、密封プラグ8に設けられた環状密封リブ9が、容器頸部1の、内側に向かって次第に傾斜している内面7に押し付けられていることが看取できる。
【図2】から、丸みのある表面の滑らかなリップ5と、内側に向かって次第に傾斜している内面7を有する部分と、それらが形成されていない部分とを容器頸部1の先端からこの順に有していることが看取できる。

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「容器頸部に固定され、
ベースと、
前記ベースの周縁から垂下するスカートと、
前記ベースの内面に形成され、容器リップの丸みを帯びた上端の外側の係止面に密着する可撓性密封フィンと、
前記ベースの内面に形成され、容器リップの丸みを帯びた上端の内側の係止面に密着する可撓性密封フィンと、
前記ベースの内面に形成され、前記容器頸部の、内側に向かって次第に傾斜している内面に押し付けられる密封プラグと、を備えるポリエチレン材料が用いられた密閉部材であって、
前記容器頸部は、丸みのある表面の滑らかなリップと、内側に向かって次第に傾斜している内面を有する部分と、それらが形成されていない部分とを先端からこの順に有しているポリエチレン材料が用いられた密閉部材。」


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の「容器頸部」は、本願発明1の「容器口部」に相当する。
イ 引用発明の「容器頸部に固定され」は、本願発明1の「容器口部に装着され」に相当する。
ウ 引用発明の「ベース」は、本願発明1の「天板部」に相当する。
エ 引用発明の「スカート」は、本願発明1の「筒部」に相当する。
オ 引用発明の「容器リップの丸みを帯びた上端の外側の係止面に密着する可撓性密封フィン」は、本願発明1の「容器口部の外周面と接触するアウターリング」に相当する。
カ 引用発明の「容器リップの丸みを帯びた上端の内側の係止面に密着する可撓性密封フィン」、「前記容器頸部の、内側に向かって次第に傾斜している内面に押し付けられる密封プラグ」は、いずれも、本願発明1の「容器口部の内周面と接触するインナーリング」に相当する。
キ 上記カから、引用発明の「容器リップの丸みを帯びた上端の内側の係止面に密着する可撓性密封フィン」と「前記容器頸部の、内側に向かって次第に傾斜している内面に押し付けられる密封プラグ」が本願発明1の「容器口部の内周面と接触するインナーリング」に相当するから、引用発明は、本願発明1の「容器口部の内周面と接触するインナーリング」に相当するものが複数形成されているといえる。
ク 引用発明の「ポリエチレン材料が用いられた密閉部材」は、本願発明1の「樹脂製キャップ」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

[一致点]
「容器口部に装着され、
天板部と、
前記天板部の周縁から垂下する筒部と、
前記天板部の内面に形成され、前記容器口部の外周面と接触するアウターリングと、
前記天板部の内面に形成され、前記容器口部の内周面と接触するインナーリングと、を備える樹脂製キャップであって、
前記インナーリングが複数形成されている樹脂製キャップ。」

[相違点1]
本願発明1は、容器口部の少なくとも先端部に、内周面側から切り欠かれることで薄肉化された薄肉部が形成されており、前記容器口部は、前記薄肉部と、前記薄肉化がされていない本体部とを先端からこの順に有しているのに対して、引用発明は、容器口部に、丸みのある表面の滑らかなリップと、内側に向かって次第に傾斜している内面を有する部分とが形成されており、前記容器口部は、丸みのある表面の滑らかなリップと、内側に向かって次第に傾斜している内面を有する部分と、それらが形成されていない部分とを先端からこの順に有している点。

[相違点2]
本願発明1は、複数のインナーリングのうち、少なくとも一つは薄肉部における容器口部の内周面と接触して剛性が低下した前記薄肉部を前記容器口部の内倒れを抑制するように支持しているのに対して、引用発明は、インナーリングが、容器リップの丸みを帯びた上端の内側の係止面に密着しているか、または、容器頸部の内側に向かって次第に傾斜している内面に押し付けられている点。

[相違点3]
本願発明1は、複数のインナーリングのうち、少なくとも一つは薄肉化がされていない本体部と接触しているのに対して、引用発明は、その点が特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、相違点2ついて検討する。
本願発明1で特定される「薄肉部」について、本願明細書には、次の記載がある。
ア 「容器口部の先端部を薄くすると、容器口部の剛性が低下してしまうため、樹脂製キャップを容器口部に装着した際、アウターリングからの圧力によって容器口部の内倒れ(内部への倒れ込み)が生じる場合がある。」(段落【0005】)
イ 「本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、先端部を薄くした容器口部に装着される場合であっても、容器口部の内倒れが生じにくい樹脂製キャップを提供することを目的とする。」(段落【0006】)
ウ 「薄肉化によって剛性が低下した薄肉部に対してインナーリングを接触させることで、アウターリングから薄肉部に加わる圧力と対向する方向から薄肉部を支持(補強)することができるため、容器口部の内倒れを効果的に抑制することができる。」(段落【0006】)
上記記載事項を勘案すると、「薄肉部」とは、アウターリングからの圧力によって容器口部の内倒れが生じてしまう程度に容器口部が薄く構成されている部分であると理解できる。そして、本願発明1では、「インナーリング」が「薄肉部における容器口部の内周面と接触して剛性が低下した前記薄肉部を前記容器口部の内倒れを抑制するように支持している」ことが特定されており、「薄肉部」とは「インナーリング」が支持しなければ容器口部の内倒れを生じてしまう程度の薄さのものであると解するべきであり、「樹脂製キャップ」の「インナーリング」は、そのような「薄肉部」に接触して「内倒れを抑制するように支持」するものである。
これに対して、引用発明で特定される容器リップの丸みを帯びた部分や容器頸部の内側に向かって次第に傾斜している部分について、引用文献1には当該部分が「インナーリング」が支持しなければ容器口部の内倒れを生じてしまう程度に薄く形成されていることは記載ないし示唆されてはいない。特に、引用文献1の段落【0007】において、好ましい容器としてガラス製炭酸飲料用びんが例示されていること、段落【0032】において、「これらの密封フィンは互いに反対方向に屈曲し、密封位置に達したときには前記容器リップの丸みを帯びた上端の両側に実質的に対称的に密封を実現していることになる。」と記載され、容器リップが密封フィンよりも剛性が高いことが示唆されていることから、引用発明で特定される容器リップの丸みを帯びた部分や容器頸部の内側に向かって次第に傾斜している部分はある程度の剛性を有していると理解できる。
よって、引用発明には、薄肉部における容器口部の内周面と接触するインナーリングは存在しないから、上記相違点2は実質的な相違点である。そして、引用発明から、上記相違点2に係る本願発明1の構成を容易に想到することはできない。

したがって、相違点1及び3について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明、拒絶査定において引用された引用文献2に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2、3について
本願発明2、3も、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明、拒絶査定において引用された引用文献2、3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第6 原査定について
上記第5で述べたとおり、本願発明1-3は、拒絶査定において引用された引用文献1-3に基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-01-28 
出願番号 特願2016-528756(P2016-528756)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 加藤 信秀  
特許庁審判長 高山 芳之
特許庁審判官 武内 大志
井上 茂夫
発明の名称 樹脂製キャップ  
代理人 特許業務法人R&C  

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