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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1359198
審判番号 不服2019-160  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-08 
確定日 2020-01-23 
事件の表示 特願2015-525178「感光性樹脂組成物、支持体付き感光性フィルム、多層プリント配線板及び半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月 8日国際公開、WO2015/002071〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)6月26日(優先権主張 2013年(平成25年)7月4日、以下「本件優先日」という。)を国際出願日とする出願であって、平成30年4月18日付けで拒絶理由が通知され、同年7月5日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年10月2日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し平成31年1月8日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。


2 本件発明
本願の請求項1?17に係る発明は、平成30年7月5日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は次のとおりの発明である。
「 (A)エポキシ樹脂、
(B)活性エステル硬化剤、シアネートエステル硬化剤及びベンゾオキサジン硬化剤からなる群から選択される1種以上の硬化剤、
(C)(メタ)アクリレート構造を有する化合物、並びに
(E)無機充填材
を含有し、
感光性樹脂組成物の不揮発成分を100質量%とした場合、(E)無機充填材の含有量が50質量%以上である、感光性樹脂組成物。」

なお、平成31年1月8日に提出された手続補正書は、特許請求の範囲を補正するものではない。


3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された、以下の引用文献4に記載された発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とする拒絶理由を含むものである。

引用文献4:特開平10-142797号公報


4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
(1)引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本件優先日前の平成10年5月29日に頒布された刊行物である特開平10-142797号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を加えた。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱硬化性樹脂成分として、少なくとも(a)多官能性シアン酸エステル化合物を含み、光硬化性樹脂成分として、少なくとも(b)不飽和基含有ポリカルボン酸樹脂と(c)エチレン性不飽和モノマーの3成分を含み、更に(d)光重合開始剤、(e)熱硬化触媒を混合して得られる塗料組成物において、(a)成分の溶解度が低い(f)有機溶剤に(a)成分を懸濁分散をさせて得られた上記塗料組成物溶液を、被覆物の上に塗布し、溶剤を乾燥除去した後、まず(b)と(c)成分の不飽和基の一部又は全部を光で選択的に硬化し、次いで現像液で未硬化部分を除去してから、(a)成分の融点より高い温度で(a)成分の懸濁した樹脂分を加熱・溶融させると共に(a)成分及び(b+c)成分を熱硬化することを特徴とする耐熱性光選択熱硬化塗料。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は耐熱性光選択熱硬化塗料に関し、特にプリント配線板の上に塗布して永久保護被膜として使用できる、耐熱性、吸湿及びプレッシャークッカー処理後の電気絶縁性、耐薬品性等に優れた耐熱性光選択熱硬化塗料に関する。

(中略)

【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の液状光選択熱硬化塗料の耐熱性、特にガラス転移温度を向上させてプリント配線板の高温での加工時の被膜のキズ、圧力がかかった場合の剥離などによる不良を低減するとともに、吸湿或いはプレッシャークッカー処理後の電気絶縁性を改善し、パッケージ等のプリント配線板の永久保護被膜として用いることにより信頼性を大幅に改善することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記問題点を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、熱硬化性樹脂成分として、少なくとも(a)多官能性シアン酸エステル化合物を含み、光硬化性樹脂成分として、少なくとも(b)カルボキシル基含有ポリカルボン酸樹脂と(c)エチレン性不飽和モノマーを含み、更に(d)光重合開始剤、(e)熱硬化触媒を混合して得られる塗料組成物において、(a)成分の溶解度の低い(f)有機溶剤を用いることにより、(a)成分を懸濁均一分散して得られる上記塗料組成物溶液をプリント配線板等の被覆物の上に塗布し、溶剤を乾燥除去した後、まず(b)と(c)成分の不飽和基の一部又は全部を光で選択的に硬化し、次いで現像液で未硬化部分を除去してから、(a)成分の融点より高い温度で加熱し、(a)成分の懸濁した樹脂を溶融させると共に、(a)成分及び(b+c)成分を熱硬化することにより、上記問題点を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。」

ウ 「【0008】本発明の構成成分である(a)多官能性シアン酸エステル化合物とは、下記一般式(1)で示される。
一般式 : R_(1)(O-C≡N)_(m) ・・・・・・・ (1)
(式中のmは2以上、通常5以下の整数であり、R_(1 )は芳香族性の有機基であって、上記のシアナト基は該有機基R_(1) の芳香環に直接結合しているもの)
【0009】具体的に例示すると、1,3 -又は1,4 -ジシアナトベンゼン、1,3,5 -トリシアナトベンゼン、1,3 -、1,4 -、1,6 -、1,8 -、2,6 -又は2,7 -ジシアナトナフタレン、1,3,6 -トリシアナトナフタレン、4,4 -ジシアナトビフェニル、ビス(4-ジシアナトフェニル)メタン、2,2 -ビス(4-シアナトフェニル)プロパン、2,2 -ビス(3,5 -ジブロモ-4-シアナトフェニル)プロパン、ビス(4-シアナトフェニル)エーテル、ビス(4-シアナトフェニル)チオエーテル、ビス(4-シアナトフェニル)スルホン、トリス(4-シアナトフェニル)ホスファイト、トリス(4-シアナトフェニル)ホスフェート、およびノボラックとハロゲン化シアンとの反応により得られるシアネート類などである。

(中略)

【0012】次に、本発明で使用される(b)成分である不飽和基含有ポリカルボン酸樹脂について説明する。(b)成分は、カルボキシル基と(メタ)アクリロイル基などの不飽和基を分子内に有する樹脂である。これらは一般に公知の製造法により得られるものが使用できる。例えば、特開平1-139619に示される、カルボキシル基含有アクリル樹脂とグリシジル(メタ)アクリレートとを反応して得られる不飽和基含有樹脂、特開平1-289820に記載の酸基含有アクリル系樹脂と脂環式エポキシ基含有不飽和化合物との反応物、特開平8-41150 に記載の(メタ)アクリル酸とラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを必須成分とするビニル共重合体のカルボキシル基の一部に、脂環式エポキシ基含有(メタ)アクリレートを反応させた不飽和基含有樹脂、特開昭61-243869 に記載のノボラック型エポキシ化合物と不飽和モノカルボン酸との反応物に飽和又は不飽和多塩基酸無水物を反応させて得られる樹脂などが挙げられる。不飽和基含有ポリカルボン酸樹脂は必ずしもこれらに限定されるものではない。本発明の(b)成分の使用量は20?80重量%、好ましくは25?70重量%である。量が少ない場合、希アルカリでの現像性に欠ける。量が多いと硬化後の塗膜の耐熱性、吸湿及びプレッシャークッカー後の電気絶縁性が悪くなる。

(中略)

【0014】次に本発明で使用される(c)成分の、エチレン性不飽和モノマーとしては、まず2価以上のアルコールの(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。使用されるアルコール類としては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,10-デカンジオール、シクロヘプタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のポリエチレングリコール類;ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のポリプロピレングリコール類;キシレンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ビフェノール、カテコール、レジゾルシノール、ピロガロール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリットール、ジペンタエリスリットール、トリペンタエリスリットール、ソルビトール、グルコース、ブタントリオール、1,2,6-トリヒドロキシヘキサン、1,2,4-ベンゼントリオール等が挙げられる。

(中略)

【0016】本発明には光で重合させるために光重合開始剤(成分d)が使用される。例えばベンジル、ジアセチル等のα-ジケトン類、ベンゾイル等のアシロイン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のアシロインエーテル類、チオキサントン、2,4 -ジエチルチオキサントン等のチオキサントン類、ベンゾフェノン、4,4 ′-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、アセトフェノン、2,2 ′-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、p-メトキシアセトフェノン等のアセトフェノン類、アントラキノン、1,4 -ナフトキノン等のキノン類、ジ-t-ブチルパーオキサイド等の過酸化物などが1種或いは2種以上組み合わせて使用される。使用量は、 0.1?20重量%、好ましくは 0.2?10重量%である。

(中略)

【0018】本発明の塗料組成物には、組成物本来の物性が損なわれない範囲で、所望に応じて種々の添加物を配合することができる。これらの添加物としては、多官能の液状或いは固形エポキシ樹脂類;不飽和ポリエステルなどの重合性二重結合含有モノマー類及びそのプレポリマー類;ポリブタジエン、エポキシ化ブタジエン、マレイン化ブタジエン、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリクロロプレン、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリイソプレン、ブチルゴム、フッ素ゴム、天然ゴムなどの低分子量液状?高分子量の elasticなゴム類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ-4-メチルペンテン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン-プロピレン共重合体、4-フッ化エチレン-6-フッ化エチレン共重合体類;ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエステル、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドなどの高分子量ポリマー及びそれらの低分子量プレポリマーもしくはオリゴマー;ポリウレタン、多官能性マレイミド類などが例示され、適宜使用される。また、その他、公知の無機及び有機の充填剤、染料、顔料、増粘剤、滑剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、カップリング剤、光増感剤、難燃剤、光沢剤、熱重合禁止剤、チキソ性付与剤などの各種添加剤が、所望に応じて適宜組合せて用いられる。必要により反応基を有する化合物は硬化剤、触媒が適宜配合される。
【0019】本発明の耐熱性光選択熱硬化塗料樹脂組成物は、それ自体加熱により硬化するが硬化速度が遅く、作業性、経済性などに劣るため多官能性シアン酸エステル化合物等の(e)熱硬化触媒を用いる。具体的に例示すると、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫等のオクチル酸塩、ジオクチル酸オキサイド、その他の有機錫酸化物、アセチルアセトン鉄等、公知の触媒が挙げられる。使用量は、0.01?5 重量%、好ましくは0.02?3 重量%である。」

エ 「【0031】
【実施例】以下に実施例、比較例で本発明を具体的に説明する。尚、『部』及び『%』は特に断らない限り重量基準である。
【0032】<成分(a):多官能性シアン酸エステルプレポリマーの合成>

(中略)

【0033】合成例2
1,4-ジシアナトベンゼン 1,000部を 140℃で熔融させ、撹拌しながら7時間反応させ重量平均分子量 1,200、融点69℃のプレポリマー(成分A-2)を得た。これをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解し、溶液とした。
【0034】<成分(b):不飽和基含有カルボン酸樹脂の合成>
合成例3
フラスコに温度計、撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び窒素吹込管を取り付け、これにプロピレングリコールモノメチルエーテル 1,000部、t-ブチルパーオキサイド 20部を仕込んだ。撹拌しながら90℃に昇温後、メタクリル酸 310部、メタクリル酸メチル 120部、ラクトン変性2-ヒドロキシエチルメタクリレート90部をビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート 22部と共に、滴下ロートで窒素雰囲気のフラスコ中に3時間かけて滴下し、更に7時間熟成させてカルボキシル基を有するビニル共重合体溶液を得た。
【0035】この溶液にエポキシシクロヘキサンメタノールのアクリル酸エステル[商品名:サイクロマーA200 、ダイセル化学工業(株)製] 365部、ジメチルベンジルアミン 3.5部、ハイドロキノンモノメチルエーテル 1.8部を加え、 100℃にて撹拌しながら空気雰囲気下で16時間エポキシ基の開環付加反応を行い、酸価53.1、固形分濃度49.7%、樹脂1kg当たりの不飽和基2.23mol、数平均分子量7200(スチレン換算)の不飽和基含有樹脂(固形成分をB-1とする、融点70℃以上)溶液を得た。

(中略)

【0040】実施例1?5、比較例1?7
前述樹脂成分(a)の A-1,A-2 、成分(b)の B-1?B-5 および(c)成分として、テトラエチレングリコールジアクリレート(成分C-1とする)及びトリメチロールプロパントリアクリレート(成分C-2とする)、(d)成分として2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン(成分D-1とする)、カチオン系光重合開始剤として芳香族スルホニウム塩[商品名:サンエイド SI-100L、三新化学工業(株)製、成分D-2とする)、(e)成分としてアセチルアセトン鉄(成分E-1とする)、オクチル酸亜鉛(成分E-2とする)を用いた。
【0041】更に、その他の成分としてエポキシ樹脂を使用した。エポキシ樹脂としては、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:ESCN220F 、住友化学(株)製、成分G-1とする)及び脂環式液状エポキシ樹脂(商品名:セロキサイド2021、ダイセル化学工業(株)製、成分G-2とする)及び脂環式固形エポキシ樹脂(商品名: EHPE3150 、ダイセル化学工業(株)製、成分G-3とする)を用いた。また、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン(成分G-4とする)、フタロシアニングリーン(成分G-5とする)、2-エチルイミダゾール(成分G-6とする)、ジシアンジアミド(成分G-7とする)、ベンゾインイソブチルエーテル(成分G-8とする)及びシリカ(成分G-9とする)も使用した。
【0042】これらを表1に示す組成で配合し、3本ロールで混練して粘稠な塗料を得た。この時、(a)成分を懸濁させる溶剤であるプロピレングリコールモノメチルエーテルを添加して溶液中の(a)成分を懸濁させる溶剤の割合を調整した。なお、表1の(*1, *2) の記載は下記によった。
*1 : 貧溶媒
a成分の溶解度が小さく、懸濁する溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル)の溶剤中の割合。
*2 : 溶液状態
溶液とした時の外観を目視にて観察した。
【0043】
【表1】

【0044】得られた塗料をクシ型パターンを形成した(使用銅張積層板商品名:CCL-HL830 、三菱ガス化学(株)製、パターン間 0.25 mm)基板上にスクリーン印刷法にて30?40μmとなるように塗布し、60℃の熱風乾燥機で15分間乾燥させた。その後、ネガフィルムを密着させ、1,000 mJ/cm^(2)の光を照射してから1%炭酸ナトリウム水溶液で現像し、更に 160℃の熱風乾燥機で60分間熱硬化させ、表面の絶縁被膜を得た。測定結果を表2、3に示した。
【0045】塗膜とした樹脂組成物の特性を以下の方法により評価した。
鉛筆硬度 : JIS K 5400 に準じて評価を行った。
密着性 : JIS K 5400 に準じて、試験片に1mmのごばん目を 100個作成し、セロテープ にて引きはがし試験を行い、ごばん目の剥離状態を観察した。 表中にはテスト後の残存数を示した。
半田耐熱性 : 260℃の半田槽に30秒間浸漬後、塗膜の異常の有無を目視観察した。 ○は良好を示す。
ガラス転移温度 : 塗膜を重ね塗りして厚さ 0.5mm板を作成し、DMA(Differential Mechanical Analysis) にて測定した。
【0046】現像性及び耐酸性 :現像後、現像面を目視で観察すると共に、無電解ニッケルメッキ(pH 4.5 、浸漬 90℃,20分)を行い、ニッケルメッキの付着状態を観察して現像性を判定した。同時にレジスト面の薬品に侵される状態も観察し、耐酸性を見た。
現像性 : ○は良好、 ×は現像せずを示す。
耐酸性 : ○は良好、 △は僅か乃至少し変色、 -は測定せずを示す。
吸湿及びプレッシャークッカー後の電気絶縁性 :前述のクシ型パターンに塗布した試験片を用い、85℃、85%RHで 500時間処理してから25℃、60%RH雰囲気下に10分放置後、及び 121℃、2気圧で 200時間処理してから25℃、60%RHの雰囲気下に90分放置後の絶縁抵抗の値を測定した。
絶縁抵抗 : 0.00> は 1×10^(8) 未満であったことを示す。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】以上の結果から、本発明の耐熱性光選択熱硬化塗料は、密着性に優れ、ガラス転移温度が高く、更に吸湿及びプレッシャークッカー後の電気絶縁性に非常に優れ、且つ耐薬品性にも優れた特性を有することが明らかである。」

オ 「【0050】
【発明の効果】本発明になる耐熱性光選択熱硬化塗料は、密着性、耐熱性、耐薬品性、吸湿およびプレッシャークッカー後の電気絶縁性に優れ、希アルカリ水溶液で現像可能であり、特にプリント配線板用の永久保護被膜として特性の良いものが提供される。」

(2)引用文献4に記載された発明
引用文献4の記載事項イ及び記載事項エに基づけば、引用文献4には、実施例1として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「以下の組成を配合し、混練して得た塗料。
(a)多官能性シアン酸エステル化合物成分(熱硬化性樹脂成分)として、
(成分A-2)1,4-ジシアナトベンゼン1000部を140℃で熔融させ、撹拌しながら7時間反応させて得たプレポリマー 20部
(b)カルボキシル基含有ポリカルボン酸樹脂成分(光硬化性樹脂成分)として、
(成分B-1)フラスコにプロピレングリコールモノメチルエーテル1000部、t-ブチルパーオキサイド20部を仕込み、撹拌しながら90℃に昇温後、メタクリル酸310部、メタクリル酸メチル120部、ラクトン変性2-ヒドロキシエチルメタクリレート90部をビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート22部と共に、窒素雰囲気のフラスコ中に3時間かけて滴下し、更に7時間熟成させてカルボキシル基を有するビニル共重合体溶液を得て、この溶液にエポキシシクロヘキサンメタノールのアクリル酸エステル[商品名:サイクロマーA200、ダイセル化学工業(株)製]365部、ジメチルベンジルアミン3.5部、ハイドロキノンモノメチルエーテル1.8部を加え、100℃にて撹拌しながら空気雰囲気下で16時間エポキシ基の開環付加反応を行って得た不飽和基含有樹脂
65部
(c)エチレン性不飽和モノマー成分(光硬化性樹脂成分)として、
(成分C-1)テトラエチレングリコールジアクリレート 4部
(成分C-2)トリメチロールプロパントリアクリレート 3部
(d)光重合開始剤成分として
(成分D-1)2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン 8部
(e)熱硬化触媒成分として
(成分E-1)アセチルアセトン鉄 0.4部
(成分E-2)オクチル酸亜鉛 0.4部
(g)その他の成分として
(成分G-2)脂環式液状エポキシ樹脂(商品名:セロキサイド2021、ダイセル化学工業(株)製) 6部
(成分G-3)脂環式固形エポキシ樹脂(商品名:EHPE3150、ダイセル化学工業(株)製) 13部
(成分G-4)ビス(4-マレイミドフェニル)メタン 3部
(成分G-5)フタロシアニングリーン 2部
(成分G-8)ベンゾインイソブチルエーテル 5部
(成分G-9)シリカ 10部」

5 対比
本件発明と引用発明を対比する。

(1)エポキシ樹脂
引用発明の「塗料」における「(成分G-2)脂環式液状エポキシ樹脂(商品名:セロキサイド2021、ダイセル化学工業(株)製)」及び「(成分G-3)脂環式固形エポキシ樹脂(商品名:EHPE3150、ダイセル化学工業(株)製)」は、技術的にみて、いずれも、本件発明の「(A)エポキシ樹脂」に相当する。

(2)硬化剤
引用発明の「塗料」における「(成分A-2)1,4-ジシアナトベンゼン1000部を140℃で熔融させ、撹拌しながら7時間反応させて得たプレポリマー」は、「多官能性シアン酸エステル化合物成分(熱硬化性樹脂成分)」である。そうすると、引用発明の「(成分A-2)」は、技術的にみて、本件発明の「シアネートエステル硬化剤」に相当する。
したがって、引用発明の「塗料」は、本件発明の「(B)活性エステル硬化剤、シアネートエステル硬化剤及びベンゾオキサジン硬化剤からなる群から選択される1種以上の硬化剤」を含有するという要件を満たしている。

(3)(メタ)アクリレート構造を有する化合物
引用発明の「塗料」における「(成分C-1)テトラエチレングリコールジアクリレート」及び「(成分C-2)トリメチロールプロパントリアクリレート」は、技術的にみて、いずれも、本件発明の「(C)(メタ)アクリレート構造を有する化合物」に相当する。

(4)無機充填材
引用発明の「塗料」における「(成分G-9)シリカ」は、本願の明細書の段落[0043]の記載からみて、本件発明の「(E)無機充填材」に相当する。

(5)感光性樹脂組成物
引用発明の「塗料」は、「(b)カルボキシル基含有ポリカルボン酸樹脂成分(光硬化性樹脂成分)」、「(c)エチレン性不飽和モノマー成分(光硬化性樹脂成分)」、「(d)光重合開始剤成分」を含む各成分を混合して得られたものである。そうすると、引用発明の「塗料」は、技術的にみて、本件発明の「感光性樹脂組成物」に相当する。


(6)一致点及び相違点
以上より、本件発明と引用発明とは、
「(A)エポキシ樹脂、
(B)活性エステル硬化剤、シアネートエステル硬化剤及びベンゾオキサジン硬化剤からなる群から選択される1種以上の硬化剤、
(C)(メタ)アクリレート構造を有する化合物、並びに
(E)無機充填材
を含有する、感光性樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]無機充填材が、本件発明は、感光性樹脂組成物の不揮発成分を100質量%とした場合、(E)無機充填材の含有量が「50質量%以上」であるのに対し、引用発明は、(成分G-9)シリカの含有量が7.2質量%と計算される点。

合議体注:
不揮発成分139.8 =20+65+4+3+8+0.4+0.4+6+13+3+2+5+10
シリカ含有量7.2% =10÷139.8×100


6 判断
(1)上記[相違点]について
ア 引用文献4の「得られた塗料をクシ型パターンを形成した・・・基板上に・・・塗布し、・・・乾燥させた。その後、・・・光を照射してから・・・現像し、更に熱硬化させ、表面の絶縁被膜を得た。」(記載事項エの段落【0044】)との記載に基づけば、引用発明の「塗料」は、基板表面に絶縁被膜を設けるために用いられるものである。
さらに、引用文献4には、「本発明は耐熱性光選択熱硬化塗料に関し、特にプリント配線板の上に塗布して永久保護被膜として使用できる、耐熱性、吸湿及びプレッシャークッカー処理後の電気絶縁性、耐薬品性等に優れた耐熱性光選択熱硬化塗料に関する。」(記載事項イの段落【0001】)、「本発明の塗料組成物には、組成物本来の物性が損なわれない範囲で、所望に応じて種々の添加物を配合することができる。・・・また、その他、・・・各種添加剤が、所望に応じて適宜組合せて用いられる。」(記載事項ウの段落【0018】)との記載がある。上記記載に基づけば、引用発明の「塗料」に添加された「(成分G-9)シリカ」は、耐熱性光選択熱硬化塗料としての物性が損なわれない範囲で添加されたものと理解することができる。
そうすると、引用発明における(成分G-9)シリカの含有量は、7.2質量%に限られるものではなく、耐熱性光選択熱硬化塗料としての物性が損なわれない範囲で、プリント配線板の上に塗布して使用できる絶縁被膜として所望の機能を果たすよう適宜設定し得るものということができる。

イ 次に、耐熱性光選択熱硬化塗料としての物性が損なわれない範囲で設定されるべき(成分G-9)シリカの含有量の範囲がどのような範囲のものであるかについて検討する。
例えば、特開2006-28498号公報(平成30年4月18日付け拒絶理由通知における引用文献10)には、「本発明は硬化性組成物に関する。さらに詳しくは、優れた誘電特性と耐熱性を有する硬化物となるエポキシ樹脂系硬化性組成物に関する。」(段落【0001】)、「また、さらに、線膨張係数を下げる目的で必要に応じて、フィラー(F)を添加してもよい。」(段落【0046】)、「これらのフィラーのうち、電気特性(絶縁性及び誘電率等)、耐熱性及び耐薬品性等の観点から、フッ素樹脂パウダー、ポリエーテルスルフォンパウダー及びシリカが好ましく、より好ましくはシリカである。」及び「フィラーの含有量は、特に制限は無いが、硬化性樹脂組成物の重量に基づいて、10?75%が好ましく、より好ましくは15?70%、特に好ましくは20?60%である。すなわち、フィラーの含有量は、硬化性樹脂組成物の重量に基づいて、硬化物の機械的物性の観点から10%以上が好ましく、より好ましくは15%以上、特に好ましくは20%以上であり、また混練性の観点から75%以下が好ましく、より好ましくは70%以下、特に好ましくは60%以下である。」(段落【0049】)、「本発明の硬化性組成物は、プリント配線板材料(例えばビルドアップ用プリント配線板材料)用、または封止材(プリント配線板用等)用の硬化性組成物等として好適に利用でき、該組成物を硬化させて硬化物とすることにより、それぞれプリント配線板材料または封止材を得ることができる。」(段落【0063】)と記載されている。また、特開2011-89038号公報(平成30年4月18日付け拒絶理由通知における引用文献11)には、「本発明は、特定の、エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材を含有する樹脂組成物に関する。」(段落【0001】)、「本発明において使用される(C)シラザン化合物で表面処理後、シランカップリング剤で表面処理された無機充填材は、樹脂組成物から形成される絶縁層の熱膨張率を低下させる目的で配合される」(段落【0029】)、「表面処理が施される無機充填材としては、シリカ、・・・などが挙げられる。なかでも、シリカが好ましく、球状シリカ、無定形シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、合成シリカがより好ましく、球状シリカが更に好ましい。これらは1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。」(段落【0030】)、「無機充填材の含有量の上限値は、硬化物が脆くなることや、ピール強度が低下することを防止するという観点から、樹脂組成物中の不揮発分100質量%に対し、85質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、60質量%が更に好ましい。一方、無機充填材の含有量の下限値は、無機充填材を配合することの効果を十分得るという観点から、樹脂組成物中の不揮発分100質量%に対し、30質量%が好ましく、40質量%がより好ましく、50質量%が更に好ましい。」(段落【0037】)、「特定の多官能エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填材を含有する樹脂組成物により、低熱膨張率を維持しながら、硬化して得られる絶縁層表面の粗度が低く、高いピール強度を有する導体層の形成を可能にし、半田耐熱性に優れた、回路基板の絶縁層形成に好適に使用することができる樹脂組成物及び絶縁樹脂シートが提供できるようになったことは意義深い。」(段落【0090】)と記載されている。さらに、特開2012-211943号公報(原査定における参考文献)には、「本発明は、ソルダーレジストなどに好適に用いられる感光性組成物、並びに、該感光性組成物を用いた感光性フィルム、高精細な永久パターン(保護膜、層間絶縁膜、ソルダーレジストなど)、永久パターン形成方法、及びプリント基板に関する。」(段落【0001】)、「本発明の感光性組成物は、アクリル樹脂と、重合性化合物と、光重合開始剤と、無機充填剤と、分散剤と、を含有してなり、熱架橋剤、有機溶剤、熱可塑性エラストマー、熱硬化促進剤、着色剤、密着促進剤、熱重合禁止剤、さらに必要に応じてその他の成分を含有してもよい。」(段落【0017】)、「前記無機充填剤がシリカ粒子を含有することにより、前記硬化膜の耐熱性を向上させるとともに、前記アクリル樹脂との分散性が良好となり、感光性組成物の粘度を好適な範囲に維持することができ、好適な塗布適性が得られる。」(段落【0051】)、「前記感光性組成物の全固形分中における前記無機充填剤の含有量としては、50質量%以上である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、55質量%?85質量%が好ましく、60質量%?75質量%がより好ましい。」及び「前記含有量が、55質量%未満であると、TCT特性、HAST特性が不十分であることがあり、85質量%を超えると、分散性が不十分であることがある。一方、前記含有量が前記好ましい範囲内であると、分散性、TCT特性及びHAST特性のバランスを維持することができる点で有利である。」(段落【0054】)、「アクリル樹脂と、分散剤と、含有量が50質量%以上でありかつ平均粒子径が0.55μm未満である無機充填剤とを含有する感光性組成物を用いて形成された硬化膜は、耐熱衝撃性(TCT特性)及び電気絶縁性(HAST特性)のいずれにも優れていることがわかる。」(段落【0124】)と記載されている。
これらの記載に基づけば、感光性樹脂組成物におけるシリカ(無機充填剤)の含有量は、少なくとも50?75質量%の範囲であれば、プリント配線板の上に塗布して永久保護被膜を設けるための感光性組成物としての物性が損なわれることがなく、シリカ(無機充填剤)を加えたことによる所望の機能を果たすことができることが技術常識であったといえる。
そうすると、引用発明において、(成分G-9)シリカの含有量を本件発明の上記相違点に係る範囲とすることは、当業者が適宜設定し得る事項である。

ウ 出願人は、平成30年7月5日に提出した意見書において、「引用文献10は、無機フィラーの含有量が、硬化性樹脂組成物の重量に基づいて、10%?75%、特に好ましくは20?60%であることを開示していますが(段落[0046]?[0049])、その上限値は、混練性の観点から定まるものとされており(段落[0049])、可能な限り低充填で済ませる方が好ましいことを教示します。」、「引用文献11は、無機充填材の含有量が、樹脂組成物中の不揮発分100質量%に対し、30?85質量%であることを開示していますが(段落[0037])、その上限値は、硬化物が脆くなることや、ピール強度が低下することを防止するという観点から60質量%が更に好ましいとされており(段落[0037])、可能な限り低充填で済ませる方が好ましいことを教示します。」、「そして、引用文献1?5、8及び9に記載の技術(引用発明)に対し、引用文献10及び11に記載の技術を適用することを考えた場合、そもそも引用文献1?5、8及び9に記載の技術では、無機充填材は低充填であり、当業者は、引用文献10及び11の上記教示に接したとしても、可能な限り低充填で済ませる方が好ましいことを把握しますから、無機充填材の含有量をさらに増大させる動機付けを獲得することはできません。」と主張している。
しかし、引用文献10には「硬化物の機械的物性の観点から10%以上が好ましく」(段落【0049】)と記載されており、引用文献11には「無機充填材の含有量の下限値は、無機充填材を配合することの効果を十分得るという観点から、樹脂組成物中の不揮発分100質量%に対し、30質量%が好ましく」(段落【0037】)と記載されている。また、引用文献10に記載された上限値は「75%」(段落【0049】)であり、引用文献11に記載された上限値は「85質量%」(段落【0037】)である。
そうすると、引用文献10及び引用文献11の記載に基づけば、無機充填剤を所定の含有量とすることで、組成物の混練性や硬化物が脆くなるといった問題を生じさせず、無機充填剤を添加したことによる効果が発揮されることが示されているといえる。そして、引用文献10及び引用文献11に示される技術常識を理解していた当業者が、引用発明において(成分G-9)シリカの含有量を調整するにあたり、下限値を下回る7.2質量%の含有量を増大することを考慮しないとは考え難い。
よって、平成30年7月5日に提出された出願人の、「無機充填材の含有量をさらに増大させる動機付けを獲得することはできません」とする主張は採用することができない。

(2)効果について
本願明細書の段落[0008]には、発明の効果として、「本発明によれば、感光性を有しながら、絶縁信頼性に優れ、多層プリント配線板のビルドアップ層に好適な物性を有する樹脂組成物を提供することができる。更には、本発明の感光性樹脂組成物は、誘電特性に優れ、消費電力が抑えられたビルドアップ層を提供することができ、耐水性や耐熱性に優れたビルドアップ層を提供することができる。」と記載されている。上記記載に基づけば、本件発明の効果は、「感光性を有しながら、絶縁信頼性に優れ、誘電特性に優れ、消費電力が抑えられ、耐水性や耐熱性に優れた、多層プリント配線板のビルドアップ層に好適な物性を有する樹脂組成物を提供すること」であるといえる。
一方、引用文献4の記載事項エの「表2」によれば、引用発明は、現像性が「○」(良好)とされていることから、良好な感光性を有しているといえる。さらに、引用文献4には「本発明の耐熱性光選択熱硬化塗料は、密着性に優れ、ガラス転移温度が高く、更に吸湿及びプレッシャークッカー後の電気絶縁性に非常に優れ、且つ耐薬品性にも優れた特性を有する」(記載事項エの段落【0049】)、「本発明になる耐熱性光選択熱硬化塗料は、密着性、耐熱性、耐薬品性、吸湿およびプレッシャークッカー後の電気絶縁性に優れ、希アルカリ水溶液で現像可能であり、特にプリント配線板用の永久保護被膜として特性の良いものが提供される。」(記載事項オ)と記載されていることから、引用発明は、絶縁信頼性及び誘電特性に優れ、消費電力が抑えられ、耐水性や耐熱性に優れた絶縁被膜を提供することができるといえる。そして、これらの物性を備えることから、多層プリント配線板の層間絶縁層にも適したものであることは明らかである。
そうすると、本件発明の効果は、引用文献4の記載から当業者が予測できた範囲のものであり、格別なものということができない。

(3)審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、審判請求書の請求の理由の3(1)において、「今般の拒絶査定においては、引用文献10、11は、無機充填材の含有量の下限値に関する周知技術としては挙げられていません。」、「進歩性欠如の理由を変更することは審判請求人に対して新たな拒絶の理由を通知するものに他ならず、本件の審査が適法になされたとはいえません。特に、前回拒絶理由において引用された文献(引用文献10、11)が周知技術の一例であると信じた出願人にとって、周知技術の一例が撤回されたうえで別の例として引用文献1が新たに挙げられ、結果として周知技術の認定が改められることはまさに不意打ちであり、今般の拒絶査定は、出願人に対し審判請求という過度の負担を強いるものといわざるを得ません。」と主張している。
本件発明は、出願人が「特許請求の範囲の請求項1において、感光性樹脂組成物が(E)成分として無機充填材を含むこと、及び、当該無機充填材の含有量の下限が50質量%であることを特定する補正を行いました。この補正の根拠は、従前の請求項10、12、当初明細書の段落[0050]及び実施例の記載等にあります。」(意見書)と説明していたとおり、概略、平成30年4月18日付けで拒絶理由が通知された時点における請求項10を介して請求項1の記載を引用した請求項12に係る発明をさらに限定したものにあたる。そして、平成30年4月18日付けで通知された、これらの請求項に係る発明に対して引用文献4を主引用発明とする拒絶理由は、請求項1及び請求項10については、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないというものであり、請求項12については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであった。そして、「無機充填剤の含有量をどの程度とするかは、当業者の通常の創作能力により適宜設定する設計事項である。」とのみ説示していたのであるから、審判請求人が主張するような「周知技術の一例が撤回されたうえで別の例として引用文献1が新たに挙げられ、結果として周知技術の認定が改められる」という審査経緯を経たものとみることができない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用することができない。

イ 審判請求人は、審判請求書の請求の理由の3(2-1)において、「原査定は、「適宜最適化する設計事項」についてその根拠を実質的に示していません。」、「引用文献1に接したとしても、シリカ、タルク、炭酸カル
シウム等を高充填で(例えば組成物中の含有量が50質量%以上となるように)組成物に添加することに動機付けられることはありません。」、「引用文献1に記載の技術は、原査定において指摘された「適宜最適化する設計事項」の一例に該当するものではなく、周知技術の認定に誤りがあるものと思料いたします。そして、斯かる誤りは原査定の結論に影響を与えることは明らかですから原査定は取り消されてしかるべきものです。」と主張している。
しかし、前記(1)アに記載したとおり、引用文献4の記載に基づけば、引用発明における(成分G-9)シリカの含有量は、耐熱性光選択熱硬化塗料としての物性が損なわれない範囲で、プリント配線板の上に塗布して使用できる絶縁被膜として所望の機能を果たすよう適宜設定し得るものであると、理解することができる。
したがって、審判請求人の上記主張は採用することができない。

ウ 審判請求人は、審判請求書の請求の理由の3(2-2)において、「原査定は、本件発明の課題を的確に理解したものではない点において誤りがあり、また、上述のとおり、原査定において本件発明の課題につき認定された事項はすべて否定されましたので、前回拒絶理由を維持する理由はなくなったことから、原査定は取り消されてしかるべきものと思料いたします。」と主張している。
しかしながら、拒絶理由は、本件発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというものであって、本件発明における審判請求人が主張するような「本件発明の課題」に基づくものではない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用することができない。

エ 審判請求人は、審判請求書の請求の理由の3(2-3)において、「本件発明の効果は、主引例である引用文献1、2、3、4、5、8、9に記載の技術のいずれから出発したとしても当業者が予期し得たものではなく、さらに引用文献1を参照したとしても予期し得たものではありませんから、本件発明の進歩性を推認するうえで参酌されてしかるべきものです。これに対し、原査定は、本件発明の効果を看過した点において誤りであり取り消されてしかるべきものです。」と主張している。
しかしながら、既に前記(2)に記載したとおり、本件発明の効果は、引用文献4の記載から当業者が予測できた範囲のものであり、格別なものということができない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用することができない。


7 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用発明及び引用文献4の記載事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-25 
結審通知日 2019-11-26 
審決日 2019-12-09 
出願番号 特願2015-525178(P2015-525178)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 真隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 高松 大
宮澤 浩
発明の名称 感光性樹脂組成物、支持体付き感光性フィルム、多層プリント配線板及び半導体装置  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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