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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1359214
審判番号 不服2019-576  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-16 
確定日 2020-01-30 
事件の表示 特願2016-530337「中波長赤外線アブレーションを用いるウェハ剥離」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月 5日国際公開,WO2015/014265,平成28年 8月25日国内公表,特表2016-525801〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成26年7月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年8月1日(平成25年8月1日),アメリカ合衆国,2014年3月27日(平成26年3月27日),アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成30年 3月 9日付け:拒絶理由通知
平成30年 5月14日 :意見書・手続補正書
平成30年 9月20日付け:拒絶査定
平成31年 1月16日 :審判請求書・手続補正書(以下,この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
平成31年 1月17日 :手続補足書
令和 元年 6月11日 :上申書

2 本件補正について
(1) 本件補正の内容
ア 平成30年5月14日提出の手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1ないし請求項17は,以下のとおりである。
「【請求項1】
デバイス・ウェハを操作する方法であって,
シリコン・ハンドラ・ウェハの表面上に金属材料の膜を堆積させることによって,剥離可能層として機能する,約5nmから約200nmまでの範囲の厚さを有する金属層を形成することと,
前記金属層及びデバイス・ウェハの表面の少なくとも一方の上にポリマー接着剤層を形成することと,
別個のウェハである前記デバイス・ウェハと前記シリコン・ハンドラ・ウェハとを前記ポリマー接着剤層によって接合することと,
前記シリコン・ハンドラ・ウェハに接合されたままで前記デバイス・ウェハを加工することと,
前記シリコン・ハンドラ・ウェハを通して前記金属層を赤外線エネルギーで照射して前記金属層を実質的に又は完全に気化させ,前記デバイス・ウェハを前記剥離層の前記実質的な又は完全な気化の直接的結果として前記シリコン・ハンドラ・ウェハから剥離させることによって,前記デバイス・ウェハと前記シリコン・ハンドラ・ウェハとを分離することと,
を含み,
前記赤外線エネルギーの波長が約1.12μmから約5μmまでの範囲にある,
方法。
【請求項2】
前記金属層を照射することが,
パルス赤外線レーザ・ビームを前記シリコン・ハンドラ・ウェハの表面に向けることと,
前記パルス赤外線レーザ・ビームで前記シリコン・ハンドラ・ウェハの表面全域を走査して前記金属層を実質的に又は完全に気化させることと,
を含む,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
デバイス・ウェハと,
シリコン・ハンドラ・ウェハと,
前記デバイス・ウェハと前記シリコン・ハンドラ・ウェハとの間に配置され,前記デバイス・ウェハと前記シリコン・ハンドラ・ウェハとを接合する接合構造体と,
を含み,
前記接合構造体は,
前記シリコン・ハンドラ・ウェハの表面に形成され,剥離可能層として機能し,約5nmから約200nmまでの範囲の厚さを有する金属層と,
前記金属層及びデバイス・ウェハの表面の少なくとも一方の上に形成されたポリマー接着剤層と
を含み,
前記金属層は,前記シリコン・ハンドラ・ウェハを通して赤外線レーザ・エネルギーに曝されると赤外線アブレーションによって実質的に又は完全に気化して,前記金属層の前記赤外線アブレーションの直接的結果として前記シリコン・ハンドラ・ウェハから前記デバイス・ウェハが剥離して分離するように構成され,
前記赤外線エネルギーの波長は,約1.12μmから約5μmまでの範囲にある,
積層構造体。
【請求項4】
前記金属層が,前記シリコン・ハンドラ・ウェハの表面上に直接形成される,請求項3に記載の積層構造体。
【請求項5】
前記ポリマー接着剤層が,前記赤外線エネルギーを反射するように構成された充填剤粒子を含む,請求項3に記載の積層構造体。
【請求項6】
前記接合構造体と前記デバイス・ウェハとの間に配置され,前記赤外線エネルギーを前記デバイス・ウェハから遠ざけるように反射して,前記デバイス・ウェハを前記赤外線エネルギーで照射されないように保護する,反射性層をさらに含む,請求項3に記載の積層構造体。
【請求項7】
前記シリコン・ハンドラ・ウェハの表面上に形成され,前記シリコン・ハンドラ・ウェハのゆがみを軽減するように構成された応力補償層をさらに含む,請求項3に記載の積層構造体。
【請求項8】
前記応力補償層が,(i)前記接合構造体と前記シリコン・ハンドラ・ウェハとの間に配置されるもの,及び(ii)前記シリコン・ハンドラ・ウェハの,前記金属層が形成される表面とは反対側の表面上に形成されるもの,のうちの少なくとも一方である,請求項7に記載の積層構造体。
【請求項9】
請求項3に記載の積層構造体を検査する方法であって,ヒートシンク又はコールドプレートを前記シリコン・ハンドラ・ウェハに熱的に結合することと,ウェハ・レベルの検査プローブを用いて前記デバイス・ウェハを検査して,前記デバイス・ウェハ上の活性回路を電気的に検査することと,を含む方法。
【請求項10】
前記ポリマー接着剤層はさらに剥離可能層として機能し,前記金属層を赤外線エネルギーで照射することは,前記ポリマー接着剤層と前記金属層の間の界面において前記ポリマー接着剤層の少なくとも一部を気化させることを含む,請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記接合構造体と前記デバイス・ウェハとの間に,前記赤外線エネルギーを前記デバイス・ウェハから遠ざけるように反射して,前記デバイス・ウェハを前記赤外線エネルギーで照射されないように保護する反射性層を形成することをさらに含む,請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記シリコン・ハンドラ・ウェハの表面上に,前記シリコン・ハンドラ・ウェハのゆがみを軽減するように構成された応力補償層を形成することをさらに含む,請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記応力補償層が,(i)前記シリコン・ハンドラ・ウェハの,前記金属層が形成される表面,及び(ii)前記シリコン・ハンドラ・ウェハの,前記金属層が形成される表面とは反対側の表面,のうちの少なくとも一方の上に形成される,請求項12に記載の方法。
【請求項14】
第1の真空チャック及び第2の真空チャックを含む真空システムと,
赤外線レーザ走査システムと
を含む装置であって,
前記真空システムは,前記第1の真空チャックを介して真空吸引力を印加して,積層構造体を所定位置に保持するように構成され,
前記積層構造体は,デバイス・ウェハと,シリコン・ハンドラ・ウェハと,前記デバイス・ウェハと前記シリコン・ハンドラ・ウェハとの間に配置され,前記デバイス・ウェハと前記シリコン・ハンドラ・ウェハとを接合する接合構造体であって,(i)前記シリコン・ハンドラ・ウェハの表面に形成され,剥離可能層として機能し,約5nmから約200nmまでの範囲の厚さを有する金属層と,(ii)前記金属層及びデバイス・ウェハの表面の少なくとも一方の上に形成されたポリマー接着剤層とを含む接合構造体と,を具えるものであり,
前記積層構造体は,前記第1の真空チャックを介して前記真空吸引力が前記デバイス・ウェハに印加されることによって所定位置に保持され,
前記赤外線レーザ走査システムは,パルス赤外線レーザ・ビームを前記シリコン・ハンドラ・ウェハの裏面に当てて,約1.12μmから約5μmまでの範囲の波長を有する赤外線エネルギーで前記金属層を照射し,赤外線レーザ・アブレーションにより前記金属層を実質的に又は完全に気化させ,それにより,前記金属層の前記赤外線レーザ・アブレーションの直接的結果として前記シリコン・ハンドラ・ウェハから前記デバイス・ウェハが剥離して分離するように構成され,
前記真空システムは,前記接合構造体の赤外線アブレーションの後で前記第2の真空チャックを前記シリコン・ハンドラ・ウェハに接触するように配置し,前記第2の真空チャックを介して真空吸引力を印加して,前記デバイス・ウェハから前記シリコン・ハンドラ・ウェハを引き離すように構成される,
装置。
【請求項15】
前記赤外線レーザ走査システムが,パルス赤外線レーザ・ビームを前記シリコン・ハンドラ・ウェハの前記裏面にらせん形走査パターンで当てる,請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記赤外線レーザ走査システムが,パルス赤外線レーザ・ビームを前記シリコン・ハンドラ・ウェハの前記裏面に,前記シリコン・ハンドラ・ウェハの前記裏面を前後に横切るつづら折り形走査パターンで当てる,請求項14に記載の装置。
【請求項17】
前記赤外線レーザ走査システムが,パルス赤外線レーザ・ビームを,パルス・レーザ・ビーム・スポットが重なった状態で当てる,請求項14に記載の装置。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項17(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明17」という。)は,以下のとおりである。(下線は,補正箇所である。)
「【請求項1】
デバイス・ウェハを操作する方法であって,
シリコン・ハンドラ・ウェハの表面上に金属材料の膜を堆積させることによって,剥離可能層として機能する,5nmから200nmまでの範囲の厚さを有する金属層を形成することと,
前記金属層及びデバイス・ウェハの表面の少なくとも一方の上にポリマー接着剤層を形成することと,
別個のウェハである前記デバイス・ウェハと前記シリコン・ハンドラ・ウェハとを前記ポリマー接着剤層によって接合することと,
前記シリコン・ハンドラ・ウェハに接合されたままで前記デバイス・ウェハを加工することと,
前記シリコン・ハンドラ・ウェハを通して前記金属層を赤外線エネルギーで照射して前記金属層を実質的に又は完全に気化させ,前記デバイス・ウェハを前記金属層の前記実質的な又は完全な気化の直接的結果として前記シリコン・ハンドラ・ウェハから剥離させることによって,前記デバイス・ウェハと前記シリコン・ハンドラ・ウェハとを分離することと,
を含み,
前記赤外線エネルギーの波長が1.12μmから5μmまでの範囲にある,
方法。
【請求項2】
前記金属層を照射することが,
パルス赤外線レーザ・ビームを前記シリコン・ハンドラ・ウェハの表面に向けることと,
前記パルス赤外線レーザ・ビームで前記シリコン・ハンドラ・ウェハの表面全域を走査して前記金属層を実質的に又は完全に気化させることと,
を含む,請求項1に記載の方法。
【請求項3】
デバイス・ウェハと,
シリコン・ハンドラ・ウェハと,
前記デバイス・ウェハと前記シリコン・ハンドラ・ウェハとの間に配置され,前記デバイス・ウェハと前記シリコン・ハンドラ・ウェハとを接合する接合構造体と,
を含み,
前記接合構造体は,
前記シリコン・ハンドラ・ウェハの表面に形成され,剥離可能層として機能し,5nmから200nmまでの範囲の厚さを有する金属層と,
前記金属層及びデバイス・ウェハの表面の少なくとも一方の上に形成されたポリマー接着剤層と
を含み,
前記金属層は,前記シリコン・ハンドラ・ウェハを通して赤外線レーザ・エネルギーに曝されると赤外線アブレーションによって実質的に又は完全に気化して,前記金属層の前記赤外線アブレーションの直接的結果として前記シリコン・ハンドラ・ウェハから前記デバイス・ウェハが剥離して分離するように構成され,
前記赤外線エネルギーの波長は,1.12μmから5μmまでの範囲にある,
積層構造体。
【請求項4】
前記金属層が,前記シリコン・ハンドラ・ウェハの表面上に直接形成される,請求項3に記載の積層構造体。
【請求項5】
前記ポリマー接着剤層が,前記赤外線エネルギーを反射するように構成された充填剤粒子を含む,請求項3に記載の積層構造体。
【請求項6】
前記接合構造体と前記デバイス・ウェハとの間に配置され,前記赤外線エネルギーを前記デバイス・ウェハから遠ざけるように反射して,前記デバイス・ウェハを前記赤外線エネルギーで照射されないように保護する,反射性層をさらに含む,請求項3に記載の積層構造体。
【請求項7】
前記シリコン・ハンドラ・ウェハの表面上に形成され,前記シリコン・ハンドラ・ウェハのゆがみを軽減するように構成された応力補償層をさらに含む,請求項3に記載の積層構造体。
【請求項8】
前記応力補償層が,(i)前記接合構造体と前記シリコン・ハンドラ・ウェハとの間に配置されるもの,及び(ii)前記シリコン・ハンドラ・ウェハの,前記金属層が形成される表面とは反対側の表面上に形成されるもの,のうちの少なくとも一方である,請求項7に記載の積層構造体。
【請求項9】
請求項3に記載の積層構造体を検査する方法であって,ヒートシンク又はコールドプレートを前記シリコン・ハンドラ・ウェハに熱的に結合することと,ウェハ・レベルの検査プローブを用いて前記デバイス・ウェハを検査して,前記デバイス・ウェハ上の活性回路を電気的に検査することと,を含む方法。
【請求項10】
前記ポリマー接着剤層はさらに剥離可能層として機能し,前記金属層を赤外線エネルギーで照射することは,前記ポリマー接着剤層と前記金属層の間の界面において前記ポリマー接着剤層の少なくとも一部を気化させることを含む,請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記接合構造体と前記デバイス・ウェハとの間に,前記赤外線エネルギーを前記デバイス・ウェハから遠ざけるように反射して,前記デバイス・ウェハを前記赤外線エネルギーで照射されないように保護する反射性層を形成することをさらに含む,請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記シリコン・ハンドラ・ウェハの表面上に,前記シリコン・ハンドラ・ウェハのゆがみを軽減するように構成された応力補償層を形成することをさらに含む,請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記応力補償層が,(i)前記シリコン・ハンドラ・ウェハの,前記金属層が形成される表面,及び(ii)前記シリコン・ハンドラ・ウェハの,前記金属層が形成される表面とは反対側の表面,のうちの少なくとも一方の上に形成される,請求項12に記載の方法。
【請求項14】
第1の真空チャック及び第2の真空チャックを含む真空システムと,
赤外線レーザ走査システムと
を含む装置であって,
前記真空システムは,前記第1の真空チャックを介して真空吸引力を印加して,積層構造体を所定位置に保持するように構成され,
前記積層構造体は,デバイス・ウェハと,シリコン・ハンドラ・ウェハと,前記デバイス・ウェハと前記シリコン・ハンドラ・ウェハとの間に配置され,前記デバイス・ウェハと前記シリコン・ハンドラ・ウェハとを接合する接合構造体であって,(i)前記シリコン・ハンドラ・ウェハの表面に形成され,剥離可能層として機能し,5nmから200nmまでの範囲の厚さを有する金属層と,(ii)前記金属層及びデバイス・ウェハの表面の少なくとも一方の上に形成されたポリマー接着剤層とを含む接合構造体と,を具えるものであり,
前記積層構造体は,前記第1の真空チャックを介して前記真空吸引力が前記デバイス・ウェハに印加されることによって所定位置に保持され,
前記赤外線レーザ走査システムは,パルス赤外線レーザ・ビームを前記シリコン・ハンドラ・ウェハの裏面に当てて,1.12μmから5μmまでの範囲の波長を有する赤外線エネルギーで前記金属層を照射し,赤外線レーザ・アブレーションにより前記金属層を実質的に又は完全に気化させ,それにより,前記金属層の前記赤外線レーザ・アブレーションの直接的結果として前記シリコン・ハンドラ・ウェハから前記デバイス・ウェハが剥離して分離するように構成され,
前記真空システムは,前記接合構造体の赤外線アブレーションの後で前記第2の真空チャックを前記シリコン・ハンドラ・ウェハに接触するように配置し,前記第2の真空チャックを介して真空吸引力を印加して,前記デバイス・ウェハから前記シリコン・ハンドラ・ウェハを引き離すように構成される,
装置。
【請求項15】
前記赤外線レーザ走査システムが,パルス赤外線レーザ・ビームを前記シリコン・ハンドラ・ウェハの前記裏面にらせん形走査パターンで当てる,請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記赤外線レーザ走査システムが,パルス赤外線レーザ・ビームを前記シリコン・ハンドラ・ウェハの前記裏面に,前記シリコン・ハンドラ・ウェハの前記裏面を前後に横切るつづら折り形走査パターンで当てる,請求項14に記載の装置。
【請求項17】
前記赤外線レーザ走査システムが,パルス赤外線レーザ・ビームを,パルス・レーザ・ビーム・スポットが重なった状態で当てる,請求項14に記載の装置。」

(2)補正の適否について
本件補正は,本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ,本件補正前の請求項1の「前記剥離層」を,本件補正後の請求項1の「前記金属層」と補正することは,誤記の訂正を目的とするものと認められる。
また,本件補正前の請求項1,3,14から「約」を削除する補正は,拒絶査定において,「請求項1,3,14には,『約5nmから約200nm』および『約1.12μmから約5μm』と記載されているが,『約』があるため,該当する範囲が不明瞭となっている」との指摘に対応するものであるから,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものと認められる。
そうしてみると,本件補正は,特許法17条の2第5項3号及び第4号に掲げる,誤記の訂正を目的,及び,明りょうでない記載の釈明を目的とする補正である。
したがって,本件補正は適法になされたものである 。

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1に係る発明は,本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1及び引用文献2に記載された発明及び周知技術に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1.国際公開第2011/159456号
引用文献2.特開2012-109538号公報

4 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には,以下の事項が記載されている。(日本語訳は当審が付加した。)
ア 「Field
The present invention is related generally to the field of wafer support systems. In particular, the present invention is related to a light to heat conversion layer for use in a wafer support system.
Background
In the semiconductor industry, the demand for higher packaging density and lower cost has increased in recent years. In order to achieve this goal, the substrate, such as a wafer, must be thinned a substantial degree while minimizing the potential that the substrate will break. A challenge to thinning substrates is that it can be difficult to preserve the substrate integrity when it is ground using traditional grinding methods, due in part to the handling of the thin substrates during the fabrication process. Therefore, there is a need for temporarily supporting the substrate during grinding and during fabrication processing. There are currently several concepts used in the field of temporary bonding and support. Most if not all use adhesives, waxes, etc. as an interlayer.
One method currently used for temporarily supporting a substrate is the Wafer Support System (WSS) for ultra thin substrate back-grinding developed by 3M Company located in St. Paul, MN. This technique utilizes a light transmitting support, such as a glass carrier, having a photothermal conversion layer temporarily coated on the light transmitting support. The light transmitting support is positioned on the substrate such that the photothermal conversion layer is positioned between the light transmitting support and the substrate. In some embodiments, a joining layer is disposed on the substrate such that the photothermal conversion layer is actually in contact with the joining layer. The photothermal conversion layer and the joining layer thus temporarily bond the substrate to the light transmitting support during grinding operations and subsequent processing steps. After the grinding operations and substrate processing steps are completed, the substrate and joining layer are de-bonded from the light transmitting support by applying radiation energy to the photothermal conversion layer. The application of the radiation energy causes the photothermal conversion layer to decompose, allowing separation of the light transmitting support from the joining layer and the substrate.
Current photothermal conversion layers include organic binders, such as for example, carbon in an acrylate binder. One potential limitation of using organic binders in photothermal conversion layers is the inherent thermal limitation of organic binders. 」(第1ページ第9行-第2ページ第9行)
((発明の分野)
本発明は一般的にウェーハ支持システムの分野に関する。具体的には,本発明はウェーハ支持システムで使用される変換層を加熱する光に関する。
背景技術
半導体業界では,高実装密度及び低コストへの要求が近年増加している。この目標を達成するために,ウェーハ等の基板が壊れる可能性を極力抑えながらも,基板はかなりの程度薄くしなければならない。基板を薄くするための課題は,一つには製造プロセス中に薄い基板を取り扱かうため,従来の研削方法を使用して研削すると基板の一体性を維持するのが困難であり得ることである。したがって,研削中及び製造プロセス中に一時的に基板を支持する必要がある。一時的な接着及び支持の分野で現在使用される概念がいくつか存在する。全てとはいえないにしてもほとんどの場合において,中間層として接着剤,ワックス等を使用する。
一時的に基板を支持するために現在使用される1つの方法は,St.Paul,MNに所在する3M Companyによって開発された超薄型基板の裏面研削用のWafer Support System(WSS)である。この技術は,光透過性支持体に一時的にコーティングされた光熱変換層を有するガラスキャリヤ等の光透過性支持体を利用する。光熱変換層が光透過性支持体と基板との間に位置するように,光透過性支持体が基板に位置決めされる。いくらかの実施形態では,光熱変換層が接合層と実際に接触するように,接合層が基板に配置される。光熱変換層及び接合層はこのようにして,研削作業中及び続く処理工程中に基板を光透過性支持体に一時的に接着させる。研削作業及び基板処理工程の終了後,基板及び接合層は放射エネルギーを光熱変換層に照射することによって光透過性支持体から脱接着される。放射エネルギーの適用によって光熱変換層が分解され,光透過性支持体が接合層及び基板から分離される。
現在の光熱変換層は,例えば,アクリレート結合剤中の炭素等の有機結合剤を含む。光熱変換層に有機結合剤を使用する1つの潜在的限界は,有機結合剤固有の熱限界である。)

イ 「FIGS, la, lb, lc and 1d show various embodiments of the laminated body of the present invention. In the laminated body 1 of FIG. la, a substrate 2 to be ground, a joining layer 3, a photothermal conversion layer 4 and a light transmitting support 5 are laminated in this order. 」(第3ページ26-29行)
(図1a,1b,1c及び1dは,本発明の積層体の様々な実施形態を示す。図1aの積層体1では,基板2は研削され,接合層3,光熱変換層4及び光透過性支持体5はこの順番に積層される。)

ウ 「One important constituent feature of the laminated body of the present invention is that a photothermal conversion layer is provided somewhere between a substrate to be ground and a light transmitting support. The photothermal conversion layer decomposes upon irradiation with radiation energy such as a laser beam, whereby the substrate can be separated from the support without causing any breakage. The laminated body of the present invention includes a photothermal conversion layer formed of a thin, metal absorbing layer that is optically tuned to absorb laser energy at a specific wavelength. The photothermal conversion layer of the present invention is capable of withstanding fabrication process temperatures equal to the temperatures at which thermal decomposition of the components of the photothermal conversion layer occurs. In one embodiment, the photothermal conversion layer is capable of withstanding temperatures of greater than about 180°C and particularly greater than about 300°C. In addition, the photothermal conversion layer has high chemical resistance and is semi-transparent, allowing for easy location of fiducial marks on the substrate. 」(第4ページ3-16行)
(本発明の積層体の1つの重要な構成要素は,光熱変換層が研削される基板と光透過性支持体との間に設けられることである。光熱変換層はレーザービーム等の放射エネルギーを備える照射で分解し,それによって基板はいかなる破損も引き起こさずに支持体から分離可能である。本発明の積層体は,特定の波長でレーザーエネルギーを吸収するように光学的に調整される薄い金属の吸収層から形成される光熱変換層を含む。本発明の光熱変換層は,光熱変換層の構成要素の熱分解が生じる温度と等しい製造プロセス温度に耐えることができる。一実施形態では,光熱変換層は約180℃を越える,特に約300℃を超える温度に耐えることができる。更に,光熱変換層は高耐薬品性を有し半透明であり,基板上の基準マークの容易な検出が可能である。)

エ 「The light transmitting support is formed of a material capable of transmitting radiation energy, such as a laser beam, and capable of keeping the substrate being ground in a flat state without causing the substrate to break during grinding and conveyance. The light transmittance of the support is not limited as long as it does not prevent the transmittance of a practical intensity level of radiation energy into the photothermal conversion layer to enable the decomposition of the photothermal conversion layer. Examples of useful light transmitting supports include glass plates and acrylic plates. Exemplary glass includes, but is not limited to: quartz, sapphire, and borosilicate.」(第4ページ第24-31行)
(光透過性支持体はレーザービーム等の放射エネルギーが透過可能で,基板が研削及び搬送中に破損することなく,基板がフラットな状態で研削され続けることが可能である材料から形成される。支持体の光透過率は,光熱変換層の分解を可能にするために実用的な強さのレベルの放射エネルギーが光熱変換層に透過するのを防げない限り制限されない。有用な光透過性支持体の実施例としては,ガラスプレート及びアクリルプレートが挙げられる。例示的なガラスとしては,石英,サファイア,及びホウケイ酸が挙げられるがこれらに限定されない。)

オ 「After the substrate has been ground and processed, radiation energy is applied to the photothermal conversion layer in the form of a laser beam or the like and is absorbed and converted into heat energy. The photothermal conversion layer absorbs radiation energy at the wavelength used. The radiation energy is usually a laser beam having a wavelength of about 300 nm to about 11,000 nm and particularly about 300 to nm about 2,000 nm. Specific examples thereof include a YAG laser which emits light at a wavelength of 1,064 nm, a second harmonic generation YAG laser at a wavelength of 532 nm, and a semiconductor laser at a wavelength of from about 780 nm to about 1,300 nm. The heat energy generated abruptly elevates the temperature of the photothermal conversion layer until the temperature reaches the thermal decomposition temperature of the components in the photothermal conversion layer, resulting in heat decomposition and vaporization of the components. The gas generated by the heat decomposition is believed to form a void layer (such as air space) in the photothermal conversion layer and divide the photothermal conversion layer into two parts, whereby the light transmitting support can be separated from the substrate.
Joining Layer
The joining layer is used for fixing the substrate to be ground to the light transmitting support through the photothermal conversion layer. After the separation of the substrate and the light transmitting support by the decomposition of the photothermal conversion layer, a substrate having the joining layer thereon is obtained. Therefore, the joining layer must be easily separated from the substrate, such as by peeling or solvent cleaning. Thus, the joining layer has an adhesive strength high enough to fix the substrate to the photothermal conversion layer and the light transmitting support yet low enough to permit separation from the substrate. Examples of adhesives which can be used as the joining layer in the present invention include, but are not limited to: rubber-base adhesives obtained by dissolving rubber, elastomer or the like in a solvent, one-part thermosetting adhesives based on epoxy, urethane or the like, two-part thermosetting adhesives based on epoxy, urethane, acryl or the like, hot-melt adhesives, ultraviolet (UV)- or electron beam- curable adhesives based on acryl, epoxy or the like, and water dispersion-type adhesives. UV-curable adhesives obtained by adding a photo-polymerization initiator and, if desired, additives to (1) an oligomer having a polymerizable vinyl group, such as urethane acrylate, epoxy acrylate or polyester acrylate, and/or (2) an acrylic or methacrylic monomer are suitably used. Examples of additives include a thickening agent, a plasticizer, a dispersant, a filler, a fire retardant and a heat stabilizing agent. 」(第8ページ第23行-第9ページ第24行)
(基板が研削され処理された後,レーザービーム等の形態で放射エネルギーが光熱変換層に照射され,吸収され熱エネルギーに変換される。光熱変換層は使用する波長で放射エネルギーを吸収する。放射エネルギーは通常,約300nm?約11,000nm,特に約300nm?約2,000nmの波長を有するレーザービームである。それらの具体的な実施例としては,1,064nmの波長で光を放射するYAGレーザー,532nmの波長の二次高調波発生YAGレーザー,及び約780nm?約1,300nmの波長の半導体レーザーが挙げられる。発生した熱エネルギーは,温度が光熱変換層の構成要素の熱分解温度に達するまで,光熱変換層の温度を急激に上昇させ,構成要素の熱分解及び蒸気化が得られる。熱分解によって発生したガスは,光熱変換層に空隙層(エアスペース等)を形成し,光熱変換層を2つに分割すると考えられ,それによって光透過性支持体が基板から分離することができる。
接合層
接合層は,研削される基板を光熱変換層を介して光透過性支持体に固定するために使用される。光熱変換層の分解によって基板及び光透過性支持体が分離した後に,接合層上の基板が得られる。したがって,接合層は剥離,又は溶剤洗浄等によって基板から容易に分離されなければならない。すなわち,接合層は,基板が光熱変換層及び光透過性支持体に固定するように十分に大きい接着強さを有しながらも,基板から分離できるように十分に小さい接着強さを有する。本発明の接合層として使用可能な接着剤の実施例としては,溶媒中にゴム,エラストマー等を溶解することで得られるゴムベース接着剤,エポキシ,ウレタン等ベースの熱硬化型接着剤1部,エポキシ,ウレタン,アクリル等ベースの熱硬化型接着剤2部,ホットメルト接着剤,アクリル,エポキシ等ベースの紫外線(UV)硬化性接着剤又は電子ビーム硬化性接着剤,及び水分散タイプの接着剤が含まれるが,これらに限定されない。光重合開始剤を加えることで得られるUV硬化性接着剤,及び,必要に応じて,(1)ウレタンアクリレート,エポキシアクリレート又はポリエステルアクリレート等の重合可能なビニル基を有するオリゴマーの,及び/又は(2)アクリル又はメタクリルモノマーの,添加剤が好適に使用される。添加剤の実施例としては,増粘剤,可塑剤,分散剤,充填剤,難燃剤,及び熱安定化剤が挙げられる。)

カ 「EXAMPLE 1
A metal-dielectric-metal, multi-layer film stack was coated onto a glass carrier as a photothermal conversion layer. A 151 mm diameter x 0.7 mm thick glass carrier was coated sequentially with chromium, silicon dioxide and aluminum using conventional electron beam physical vapor deposition techniques. The target layer thicknesses were 5 nm for chromium, 149 nm for silicon dioxide and 15 nm for aluminum. Prior to coating the layers, the glass was cleaned with soap and water and treated with an oxygen plasma using conventional techniques.
The glass carrier with the photothermal conversion layer was laminated to a 150 mm diameter silicon wafer using an adhesive joining layer, producing Example 1. The adhesive was in contact with the metal coating of the carrier. 3MR(審決注:Rは,Rに○) Liquid UV-Curable Adhesive LC-3200 (available from the 3M Company, St. Paul, MN) was used as the adhesive joining layer to laminate the carrier and silicon wafer using a 3M wafer support system bonder, model number WSS8101M (available from Tazmo Co., Ltd., Freemont, CA). Pressure was applied by the apparatus flatting disc for 7 seconds during the vacuum bonding step. The adhesive was UV cured for 25 seconds using a Fusion Systems D bulb, 300 watt/inch. After lamination, the glass carrier-silicon wafer laminate was heat aged in an oven at 250°C for 1 hour.Following heat aging, the glass carrier-silicon wafer laminate was laser rastered using a PowerLine E Series laser (available from Rofm-Sinar Technologies, Inc., Stuttgart, Germany) operating at 1,064 nm wavelength. 」(第11ページ第15行-第12ページ第4行)
((実施例1)
光熱変換層として金属-誘電体-金属の多層膜スタックをガラスキャリヤにコーティングした。従来の電子ビーム物理蒸着技術を用いて,直径151mm×厚さ0.7mmのグラスキャリヤにクロミウム,二酸化ケイ素及びアルミニウムを順次コーティングした。目標の層厚さは,クロミウムは5nm,二酸化ケイ素は149nm及びアルミニウムは15nmであった。層を被覆する前に,ガラスを石鹸及び水で洗浄し,従来の技術を用いて酸素プラズマで処理した。
接着剤の接合層を使用して光熱変換層を備えたガラスキャリヤを直径150mmのシリコンウェーハに積層させて,実施例1を生じた。接着剤はキャリヤの金属コーティングと接触していた。3M(登録商標)Liquid UV-Curable Adhesive LC-3200(3M Company(St.Paul,MN)から入手可能)を接着剤の接合層として使用し,3Mのウェーハサポートシステムボンダ,モデル番号WSS8101M(Tazmo Co.,Ltd.(Freemont,CA)から入手可能)を使用してキャリヤ及びシリコンウェーハを積層した。真空接合の工程中に,装置平坦化ディスクで7秒間圧力を加えた。接着剤をFusion Systems D電球,300ワット/インチ(118.11ワット/cm)を使用して,25秒間UV硬化させた。
積層した後,ガラスキャリヤ-シリコンウェーハの積層体を炉内で1時間250℃で熱老化させた。熱老化に続いて,ガラスキャリヤ-シリコンウェーハ積層体は,PowerLine E Seriesレーザー(Rofin-Sinar Technologies,Inc.(Stuttgart,Germany)から入手可能)を使用して1,064nmの波長で操作してレーザーラスターを施した。)

キ 「EXAMPLE 7
A single metal film layer, aluminum, was coated onto an about 2 inch (5.1 cm) x 3 inch (7.6 cm) glass slide as a photothermal conversion layer, using conventional electron beam physical vapor deposition techniques. The target metal layer thickness was 15 nm. The coated glass slide was laminated to a silicon wafer by hand by coating a thin layer of 3MR(審決注:Rは,Rに○) Liquid UV-Curable Adhesive LC-3200 onto the wafer and placing the aluminum coated side of the glass slide on the adhesive. The adhesive was cured as described in Example 1. The glass slide-silicon wafer laminate was laser rastered as described in Example 1. The aluminum photothermal conversion layer decomposed and the glass slide was successfully removed from the silicon wafer. 」(第16ページ第10行-第17ページ第1行)
((実施例7)
従来の電子ビーム物理蒸着技術を用いて,光熱変換層としてアルミニウムの単一金属膜層を約2インチ(5.1cm)×3インチ(7.6cm)のスライドガラスにコーティングした。目標の金属層厚さは15nmであった。3M(登録商標)Liquid UV-Curable Adhesive LC-3200の薄層をウェーハ上にコーティングし,スライドガラスのアルミニウムがコーティングされた側を接着剤に置くことで,被覆されたスライドガラスをシリコンウェーハに手で積層させた。接着剤を実施例1に説明するように硬化させた。実施例1に説明するように,スライドガラス-シリコンウェーハの積層体にレーザーラスターを施した。アルミニウムの光熱変換層が分解され,スライドガラスがシリコンウェーハから問題なく取り除かれた。)

ク 「Claims
1. A laminated body comprising:
a substrate;
a joining layer positioned adjacent the substrate;
a photothermal conversion layer positioned adjacent the joining layer, wherein the photothermal layer comprises a metal absorbing layer; and a light transmitting support positioned adjacent the photothermal conversion layer.
・・・
9. A method of forming a laminated body, the method comprising:
i. coating a photothermal conversion layer comprising a metal absorbing layer onto a light transmitting support;
ii. providing a substrate; and
iii. adhering the substrate to the photothermal conversion layer using a joining layer to form a laminated body.
・・・
14. The laminated body of claim 12 wherein the wavelength of electromagnetic radiation required to decompose the photothermal conversion layer is from about 500 nm to about 2,000 nm.」 (第20ページ第1行-第21ページ第32行)
(特許請求の範囲
【請求項1】
積層体であって,
基板と,
前記基板に隣接して位置する接合層と,
前記接合層に隣接して位置し,金属吸収層を含む光熱変換層と,
前記光熱変換層に隣接して位置する光透過性支持体と,
を含む積層体。
・・・
【請求項9】
積層体を形成する方法であって,
i.金属吸収層を含む光熱変換層を光透過性支持体にコーティングする工程と,
ii.基板を設ける工程と,
iii.接合層を使用して前記基板を前記光熱変換層に接着させて積層体を形成する工程と,
を含む方法。
・・・
【請求項14】
前記光熱変換層を分解するのに必要な電磁放射の波長は,約500nm?約2,000nmである,請求項12に記載の積層体。)

(2)上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されていると認められる。
ア 引用文献1に記載された技術は,一般的にウェーハ支持システムの分野に関するものであり,具体的には,ウェーハ支持システムで使用される変換層を加熱する光に関するものであること。

イ 半導体業界では,高実装密度及び低コストへの要求が近年増加しており,この目標を達成するために,ウェーハ等の基板が壊れる可能性を極力抑えながらも,基板はかなりの程度薄くしなければならないが,従来の研削方法を使用して研削すると基板の一体性を維持するのが困難であるため,研削中及び製造プロセス中に一時的に基板を支持する必要があること。

ウ 一時的に基板を支持するために現在使用される1つの方法は,光透過性支持体に一時的にコーティングされた光熱変換層を有するガラスキャリヤ等の光透過性支持体を利用する方法であって,光熱変換層が光透過性支持体と基板との間に位置するように,光透過性支持体が基板に位置決めされ,いくらかの実施形態では,光熱変換層が接合層と実際に接触するように,接合層が基板に配置され,光熱変換層及び接合層はこのようにして,研削作業中及び続く処理工程中に基板を光透過性支持体に一時的に接着させものであり,研削作業及び基板処理工程の終了後,基板及び接合層は放射エネルギーを光熱変換層に照射することによって,放射エネルギーの適用によって光熱変換層が分解され,光透過性支持体が接合層及び基板から分離されるものであること。

エ 光熱変換層として,現在は,例えば,アクリレート結合剤中の炭素等の有機結合剤を含むものが使用されているが,光熱変換層として,このような有機結合剤を使用する場合には,有機結合剤固有の熱限界が,潜在的限界としてあること。

オ 引用文献1に記載された技術は,当該熱限界を解決すべき課題としたものであること。

カ 前記課題を解決する発明として,引用文献1の特許請求の範囲には,「積層体であって,基板と,前記基板に隣接して位置する接合層と,前記接合層に隣接して位置し,金属吸収層を含む光熱変換層と,前記光熱変換層に隣接して位置する光透過性支持体と,を含む積層体。」,「積層体を形成する方法であって,i.金属吸収層を含む光熱変換層を光透過性支持体にコーティングする工程と,ii.基板を設ける工程と,iii.接合層を使用して前記基板を前記光熱変換層に接着させて積層体を形成する工程と,を含む方法。」及び「光熱変換層を分解するのに必要な電磁放射の波長は,約500nm?約2,000nmである積層体。」が記載されていること。

キ 引用文献1の特許請求の範囲に記載された発明の積層体は,光熱変換層として,(従来の有機結合剤を使用するのではなく)特定の波長でレーザーエネルギーを吸収するように光学的に調整される薄い金属の吸収層から形成される光熱変換層を使用することで,光熱変換層の構成要素の熱分解が生じる温度と等しい製造プロセス温度,一実施形態では,光熱変換層は約180℃を越える,特に約300℃を超える温度に耐えることができること。

ク 光透過性支持体はレーザービーム等の放射エネルギーが透過可能で,基板が研削及び搬送中に破損することなく,基板がフラットな状態で研削され続けることが可能である材料から形成されること。さらに,支持体の光透過率は,光熱変換層の分解を可能にするために実用的な強さのレベルの放射エネルギーが光熱変換層に透過するのを防げないがない限り制限されないこと。

ケ 有用な光透過性支持体の実施例としては,ガラスプレート及びアクリルプレートが挙げられること,及び,例示的なガラスとしては,石英,サファイア,及びホウケイ酸が挙げられるがこれらに限定されないこと。

コ 基板が研削され処理された後,レーザービーム等の形態で光熱変換層に照射する放射エネルギーは通常,約300nm?約11,000nm,特に約300nm?約2,000nmの波長を有するレーザービームであり,それらの具体的な実施例としては,1,064nmの波長で光を放射するYAGレーザー,532nmの波長の二次高調波発生YAGレーザー,及び約780nm?約1,300nmの波長の半導体レーザーが挙げられること。

サ レーザービーム等の形態で照射された放射エネルギーが,光熱変換層に吸収され熱エネルギーに変換されることで発生した熱エネルギーは,温度が光熱変換層の構成要素の熱分解温度に達するまで,光熱変換層の温度を急激に上昇させ,構成要素の熱分解及び蒸気化が得られ,熱分解によって発生したガスは,光熱変換層に空隙層(エアスペース等)を形成し,光熱変換層を2つに分割すると考えられ,それによって光透過性支持体が基板から分離することができること。

シ 引用文献1の特許請求の範囲に記載された発明の実施例1は,光熱変換層として金属-誘電体-金属の多層膜スタックをガラスキャリヤにコーティングし,接着剤の接合層を使用して光熱変換層を備えたガラスキャリヤを直径150mmのシリコンウェーハに積層させるものであり,3M(登録商標)Liquid UV-Curable Adhesive LC-3200(3M Company(St.Paul,MN)から入手可能)を接着剤の接合層として使用し,接着剤を,Fusion Systems D電球,300ワット/インチ(118.11ワット/cm)を使用して,25秒間UV硬化させ,積層した後,ガラスキャリヤ-シリコンウェーハの積層体を炉内で1時間250℃で熱老化させ,熱老化に続いて,ガラスキャリヤ-シリコンウェーハ積層体は,PowerLine E Seriesレーザー(Rofin-Sinar Technologies,Inc.(Stuttgart,Germany)から入手可能)を使用して1,064nmの波長で操作してレーザーラスターを施すものであること。

ス 引用文献1の特許請求の範囲に記載された発明の実施例7は,従来の電子ビーム物理蒸着技術を用いて,光熱変換層としてアルミニウムの単一金属膜層を約2インチ(5.1cm)×3インチ(7.6cm)のスライドガラスにコーティングし,目標の金属層厚さは15nmであり,3M(登録商標)Liquid UV-Curable Adhesive LC-3200の薄層をウェーハ上にコーティングし,スライドガラスのアルミニウムがコーティングされた側を接着剤に置くことで,被覆されたスライドガラスをシリコンウェーハに手で積層させ,接着剤を実施例1に説明するように硬化させ,実施例1に説明するように,スライドガラス-シリコンウェーハの積層体にレーザーラスターを施すと,アルミニウムの光熱変換層が分解され,スライドガラスがシリコンウェーハから問題なく取り除かれるものであり,驚いたことに,金属が基本的に気化するかなりの高温で起こる光熱変換層のレーザーラスタリングの間,接着層は分解せず,ウェーハ基板上に悪影響は見られなかったこと。

(3)上記(2)アないしスから,引用文献1には,引用文献1の特許請求の範囲に記載された発明の実施例7として,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「シリコンウェーハを操作する方法であって,
電子ビーム物理蒸着技術を用いて,スライドガラスの表面上にアルミニウムをコーティングすることによって,光熱変換層として機能する,15nmの厚さを有する単一金属膜層を形成することと,
前記シリコンウェーハの表面上にLC-3200の薄層を接着剤の接着層として使用して形成することと,
スライドガラスのアルミニウムがコーティングされた側を接着剤に置き,被覆されたスライドガラスをシリコンウェーハに手で積層させ,その後,前記接着剤をUV硬化させることで,前記シリコンウェーハと前記スライドガラスとを前記LC-3200の薄層によって接合することと,
スライドガラス-シリコンウェーハの積層体にレーザーラスターを施して,アルミニウムの光熱変換層を分解させ,前記スライドガラスを前記シリコンウェーハから取り除くことと,
を含み,
金属が基本的に気化するかなりの高温で起こる光熱変換層のレーザラスタリングの間,接着剤層は分解せず,ウェーハ基板上に悪影響は見られないものであり,
前記レーザーラスターのレーザー波長が1,064nmである,
方法。」

(4)引用文献2の記載事項
引用文献2には,以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
光透過性の支持体と,
上記支持体によって支持される被支持基板と,
上記被支持基板における上記支持体によって支持される側の面に設けられている接着層と,
上記支持体と上記被支持基板との間に設けられている,無機物からなる分離層とを備えており,
上記分離層は,上記支持体を介して照射される光を吸収することによって変質するようになっており,
上記分離層における上記接着層に対向する側の面は,平坦になっていることを特徴とする積層体。
【請求項2】
上記無機物が,金属,金属化合物およびカーボンからなる群より選択される1種類以上の無機物であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
上記無機物が,金,白金,パラジウム,コバルト,ロジウム,イリジウム,カルシウム,ルテニウム,オスミウム,マンガン,モリブデン,タングステン,ニオブ,タンテル,ビスマス,アンチモン,鉛,銀,銅,鉄,ニッケル,アルミニウム,チタン,クロム,錫およびこれらの合金,SiO_(2) ,SiN,Si_(3)N_(4),TiN,ならびにカーボンからなる群より選ばれる1種類以上の無機物であることを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
上記支持体が,ガラスまたはシリコンからなることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の積層体。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,支持体と該支持体によって支持される被支持基板とを接着した積層体,およびその積層体の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話,デジタルAV機器およびICカード等の高機能化にともない,搭載される半導体シリコンチップ(以下,チップ)の小型化および薄型化によって,パッケージ内にシリコンを高集積化する要求が高まっている。例えば,CSP(chip size package)またはMCP(multi-chip package)に代表されるような複数のチップをワンパッケージ化する集積回路において,薄型化が求められている。パッケージ内のチップの高集積化を実現するためには,チップの厚さを25?150μmの範囲にまで薄くする必要がある。
【0003】
しかし,チップのベースになる半導体ウエハ(以下,ウエハ)は,研削することにより肉薄になるため,その強度が低下して,ウエハにクラックまたは反りが生じ易くなる。また,薄板化によって強度が低下したウエハを自動搬送することが困難なため,人手によって搬送しなければならず,その取り扱いが煩雑であった。
【0004】
そのため,サポートプレートと呼ばれるガラス,シリコンまたは硬質プラスチック等からなるプレートを,研削するウエハに貼り合わせてウエハの強度を補い,クラックの発生およびウエハの反りを防止するウエハハンドリングシステムが開発されている。ウエハハンドリングシステムによってウエハの強度が補われるので,薄板化したウエハの搬送を自動化することができる。」

ウ 「【0017】
(分離層)
上述のように,本発明に係る積層体は無機物からなる分離層を備えている。当該分離層は,無機物によって構成されることにより,光を吸収することによって変質するようになっており,その結果として,光の照射を受ける前の強度または接着性を失う。よって,わずかな外力を加える(例えば,支持体を持ち上げるなど)ことによって,分離層が破壊されて,支持体と被支持基板とを容易に分離することができる。
【0018】
上記無機物は,光を吸収することによって変質する構成であればよく,例えば,金属,金属化合物およびカーボンからなる群より選択される1種類以上の無機物を好適に用いることができる。金属化合物とは,金属原子を含む化合物を指し,例えば,金属酸化物,金属窒化物であり得る。このような無機物の例示としては,これに限定されるものではないが,金,白金,パラジウム,コバルト,ロジウム,イリジウム,カルシウム,ルテニウム,オスミウム,マンガン,モリブデン,タングステン,ニオブ,タンテル,ビスマス,アンチモン,鉛,銀,銅,鉄,ニッケル,アルミニウム,チタン,クロム,錫及びこれらの合金等の金属,SiO_(2),SiN,Si_(3)N_(4),TiN等の金属化合物,およびカーボンからなる群より選ばれる1種類以上の無機物が挙げられる。」

エ 「【0021】
本明細書において無機化合物が“変質する”とは,当該重合体によって構成されている分離層を,わずかな外力を受けて破壊され得る状態,または分離層と接する構成との接着力が低下した状態にさせる現象を意味する。」

オ 「【0028】
(支持体)
上述のように,支持体は光透過性を有している。これは,積層体の外側から光を照射したときに,当該光が支持体を通過して上記分離層に到達することを目的としている。したがって,支持体は,必ずしもすべての光を透過させる必要はなく,分離層に吸収されるべき(所望の波長を有している)光を透過させることができればよい。
【0029】
また,支持体は,被支持基板を支持する構成である。よって,支持体は,被支持基板を加工および搬送するなどの場合に,被支持基板の破損または変形などを防ぐために必要な強度を有していればよい。
【0030】
支持体の材料としては,ガラスまたはシリコンなどが挙げられるが,上述の目的を果たし得る構成であれば,支持体として採用し得る。」

5 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,以下のとおりとなる。
上記4(2)アないしオの記載に照らして,引用発明は,半導体業界における高実装密度及び低コストへの要求に応える発明であると解されるから,引用発明の「シリコンウェーハ」は,半導体デバイスを製造するためのウェハといえる。すなわち,引用発明の「シリコンウェーハ」は,本願発明1の「デバイス・ウェハ」に相当する。
そうすると,引用発明の「スライドガラス」は,前記「シリコンウェーハ」の研削中及び製造プロセス中に,一時的に基板を支持する光透過性支持体に相当するといえるから,引用発明の「スライドガラス」と,本願発明1の「シリコン・ハンドラ・ウェハ」とは,「ハンドラ・ウェハ」である点で一致する。
さらに,引用発明の「スライドガラス」が,「光透過性支持体」に相当することから,引用発明において,レーザーラスターを施す場合に,当該レーザーが,前記「スライドガラス」を通して照射されることは明らかである。

また,引用発明の「LC-3200の薄層」は,「接着剤の接合層として使用」されるのであるから,「接着剤」であるということができ,さらに,当該「接着剤」は,「UV硬化」するのであるから,技術常識に照らして「ポリマ接着剤」であるということができる。したがって,引用発明の「LC-3200の薄層」は,本願発明1の「ポリマ接着剤層」に相当する。

そして,引用発明における「単一金属膜層」は,本願発明1における「金属層」に相当し,当該「単一金属膜層」は,電子ビーム物理蒸着技術によって蒸着して形成されるから,本願発明1における「金属層」と,引用発明における「単一金属膜層」は,「金属材料の膜を堆積させる」ことによって形成される点で一致する。

さらに,引用発明において,「レーザーラスターを施」すことは,アルミニウムの光熱変換層を,「金属が基本的に気化するかなりの高温」で分解させるものであるから,本願発明1における「金属層」と,引用発明における「単一金属膜層」は,エネルギーの照射により「実質的に又は完全に気化」させ,「前記デバイス・ウェハを前記金属層の前記実質的な又は完全な気化の直接的な結果として」「ハンドラ・ウェハから剥離させることによって,前記デバイス・ウェハと」「ハンドラ・ウェハとを分離」させるものである点で一致する。

してみれば,引用発明の「光熱変換層として機能する」「単一金属層」は,本願発明1の「剥離可能層として機能する」「金属層」に相当する。

なお,引用発明において使用されるレーザー波長は1,064nmであるので,波長が可視光線より長く,約800ナノメートル?1ミリメートルくらいまでとされる赤外線の範疇に含まれ,赤外線エネルギーを照射しているといえる。

(1)一致点
本願発明1と引用発明は,以下の構成において一致する。
「デバイス・ウェハを操作する方法であって,
ハンドラ・ウェハの表面上に金属材料の膜を堆積させることによって,剥離可能層として機能する,5nmから200nmまでの範囲の厚さを有する金属層を形成することと,
前記デバイス・ウェハの表面の上にポリマー接着剤層を形成することと,
別個のウェハである前記デバイス・ウェハと前記ハンドラ・ウェハとを前記ポリマー接着剤層によって接合することと,
前記ハンドラ・ウェハを通して前記金属層を赤外線エネルギーで照射して前記金属層を実質的に又は完全に気化させ,前記デバイス・ウェハを前記金属層の前記実質的な又は完全な気化の直接的結果として前記ハンドラ・ウェハから剥離させることによって,前記デバイス・ウェハと前記ハンドラ・ウェハとを分離することと,
を含む,
方法」

(2)相違点
本願発明1と引用発明は,以下の点で相違する。
ア 相違点1
「ハンドラ・ウェハ」の材質について,本願発明1ではシリコンであるのに対し,引用発明ではガラスである点。

イ 相違点2
本願発明1は,「前記シリコン・ハンドラ・ウェハに接合されたままで前記デバイス・ウェハを加工すること」を含むのに対して,引用発明は,そのような構成が特定されていない点。

ウ 相違点3
赤外線エネルギーの波長が,本願発明1では1.12μmから5μmまでの範囲であるのに対し,引用発明では1,064nm(1.064μm)である点。

6 判断
(1)相違点1及び相違点3について,まとめて検討する。
ハンドラ・ウェハの材質として,シリコンを採用することは,引用文献2に記載されているように,本願の優先日前に周知技術であった。引用文献2の分離層は光を吸収することによって変質するものと記載されているが,分離層にアルミニウムなどの金属を用いた場合,レーザを照射することによる変質とは気化を含むと認められるから,引用文献2の「シリコン」からなる「光透過性の支持体」と,引用発明の「スライドガラス」とは,共通する機能を有する部材といえる。
また,引用文献1の上記4(2)クのとおり,引用文献1には,光透過性支持体の材質に関して,レーザービーム等の放射エネルギーが透過可能で,光熱変換層の分解を可能にするために実用的な強さのレベルの放射エネルギーが光熱変換層に透過するのを防げない限り制限されないことが示されている。
さらに,引用文献1の上記4(2)ケのとおり,引用文献1には,有用な光透過性支持体の実施例としては,ガラスプレート及びアクリルプレートが挙げられ,例示的なガラスとしては,石英,サファイア,及びホウケイ酸が挙げられるがこれらに限定されないことも示されている。
してみれば,引用文献1の特許請求の範囲に記載された発明の実施例7に係る発明である引用発明において用いられている「ガラスプレート」は,「光透過性支持体」の一実施例を示したものにすぎず,引用発明において,「光透過性支持体」が「ガラスプレート及びアクリルプレート」のみに限定されていると理解することはできない。
そうすると,引用文献2において,引用発明の「ガラスプレート」と同様の機能を有する部材として,「シリコン」からなる「光透過性の支持体」を使用することが示されていることから,引用発明において,「ガラスプレート」に替えて,前記同様の機能を有する部材である「シリコン」からなる「光透過性の支持体」を使用することは,当業者が適宜なし得たことといえる。
そして,ハンドラ・ウェハの材質としてシリコンを採用した場合,シリコンは1.12μm以上の波長域でないと充分な透過率を得られないことは技術常識(要すれば,以下の周知文献1ないし5の記載を参照されたい。)であるから,引用発明において,「ガラスプレート」を,「シリコン」からなる「光透過性の支持体」に変更した場合に,レーザーラスターのレーザービームの波長を,前記「シリコン」に対して,高い透過性を示す1.12μm以上の波長に変更することは,周知文献1ないし5の記載,並びに,引用文献1の上記4(2)カ,ク及びコの記載に基づいて,当業者が当然になし得たことといえる。
したがって,引用発明において,相違点1及び3について,本願発明1の構成を採用することは,当業者が容易になし得たことと認められる。

・周知文献1:UCS半導体基盤技術研究会「シリコンの科学」,1996年6月28日第1刷発行,発行所:株式会社 リアライズ社,第996ページの「第13章第1節基礎定数」に掲載された「b)波長と吸収率」を示す,以下のFig. 1。




及び,同書第998ページの「e)透過率」を示す,以下のTable 1。




・周知文献2:菅野卓雄,川西剛「半導体大事典」,1999年12月20日初版第1刷発行,発行所:株式会社 工業調査会,第1194ページの,以下の記載。
「2)ケイ素(シリコン)
silicon
ケイ素は最もよく用いられている半導体材料である。通常シリコンと呼ばれている。・・・シリコンは間接半導体で,バンドギャップは室温で1.0eV,・・・間接遷移型バンドギャップを持つので,吸収端直上の1.1?1.4eVの光子エネルギーでは吸収係数は10^(3)cm^(-1)以下と小さい。・・・吸収端は間接遷移であるが,可視光付近のエネルギーでは直接遷移が起きている。」

・周知文献3:特開2013-22731号公報
「【0026】
(サポートプレート12)
サポートプレート12は,有機物材料層11を支持する支持体であり,光透過性を有している。これは,積層体1の外側から光を照射したときに,当該光がサポートプレート12を通過して分離層16に到達することを目的としている。したがって,サポートプレート12は,必ずしも全ての光を透過させる必要はなく,分離層16に吸収されるべき(所望の波長を有している)光を透過させることができればよい。
【0027】
また,サポートプレート12は,有機物材料層11を支持する構成である。よってサポートプレート12は,有機物材料層11への素子等の実装,有機物材料層11の搬送等の場合に,有機物材料層11の破損又は変形を防ぐために必要な強度を有していればよい。
【0028】
以上のような観点から,サポートプレート12としては,ガラス,シリコン,アクリルからなるもの等が挙げられるが,上述の目的を果たし得る構成であれば,サポートプレート12として採用し得る。サポートプレート12がシリコン板である場合には,波長が2μm以上の赤外線を透過させることができる。」

・周知文献4:特開2012-256683号公報
「【0019】
他方,透明絶縁性基板1をLEDの発光波長に対して透明な基板とするには,発光波長に対応して以下のような基板を例示することができる。サファイア基板の場合は波長150nm以上の光を,GaN基板の場合波長365nm以上の光を,SiC基板の場合は波長380nm以上の光を,InGaN基板の場合は波長400nm以上の光を,GaAs基板の場合は波長870nm以上の光を,InP基板の場合は波長920nm以上の光を,Si基板の場合は波長1120nm以上の光を,InGaAs基板の場合は波長950nm以上の光を,In組成の異なるInGaAs基板の場合は例えば波長1670nm以上の光を透過させることができる。すなわち,吸収端波長(バンドギャップ相当波長)がLEDの発光波長よりも小さい材料を選べば良い。」

・周知文献5:特開平6-302840号公報
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
結晶Si太陽電池はアモルファスSi太陽電池に比べ実効変換効率で優れているが,この太陽電池はエネルギースペクトルが1.12μmより長波長の光は吸収して電力変換することができない。日中の地上での太陽エネルギースペクトルは0.5μm付近が最大値になっており,この付近で結晶Siの吸収係数も大きく,結晶Si太陽電池にとっては有利な分布になっている。しかし,太陽エネルギースペクトルは2μm以上の長波長側までも分布している。そして,結晶Siの吸収係数は,短波長側から1.12μmの吸収端(吸収限界)に近づくにつれ指数関数的に減少するので,有効に利用できていない波長領域はかなり多い。」

(2)相違点2について
上記4(2)アないしオの記載に照らして,引用発明は,ウェーハの研削中及び製造プロセス中に一時的に基板を支持する技術における課題を解決するための発明であると解されるから,引用発明において,「前記シリコン・ハンドラ・ウェハに接合されたままで前記デバイス・ウェハを加工すること」を含むものとすること,すなわち,相違点2について,本願発明1の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

(3)効果について
本願発明1が奏する効果についてみても,引用発明及び周知の技術事項から当業者が予測できたものであって,格別顕著なものがあるとはいえない。

7 むすび
以上のとおり,本願発明1は,引用文献1及び引用文献2に記載された発明及び周知技術に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-08-30 
結審通知日 2019-09-03 
審決日 2019-09-20 
出願番号 特願2016-530337(P2016-530337)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内田 正和  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 鈴木 和樹
加藤 浩一
発明の名称 中波長赤外線アブレーションを用いるウェハ剥離  
代理人 上野 剛史  
復代理人 市位 嘉宏  
代理人 太佐 種一  

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