• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01S
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01S
管理番号 1359350
審判番号 不服2018-16256  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-06 
確定日 2020-01-28 
事件の表示 特願2016-572399「車両ライダシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月17日国際公開、WO2015/189025、平成29年 8月31日国内公表、特表2017-524911〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)5月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年(平成26年)6月11日 独国)を国際出願日とする外国語特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年12月 9日 :翻訳文提出
平成29年 1月26日 :手続補正書の提出
平成29年11月29日付け:拒絶理由通知書
平成30年 3月12日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 7月27日付け:拒絶査定
(査定の謄本の送達日:平成30年8月6日)
平成30年12月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 平成30年12月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年12月6日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「車両ライダシステム(101,201)であって、
レーザパルスを放出するパルスレーザ(103)と、
前記レーザパルスを検出対象の対象物(109)の方向に偏向するための、変位可能に配置された少なくとも1つのミラー(105)と、
前記対象物(109)によって反射された前記レーザパルスを検出するための受光器(111,205)と、
を備えており、
前記受光器(111,205)は、前記反射されたレーザパルスを検出するため、および、偏向された前記レーザパルスを用いて照射可能な領域(107)の画像を撮像するためのCMOS互換イメージセンサ(113)を備えており、
前記CMOS互換イメージセンサ(113)は、テクスチャ加工またはコーティングによって表面改質されたシリコンをセンサ材料として含む、
ことを特徴とする車両ライダシステム(101,201)。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年3月12日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「車両ライダシステム(101,201)であって、
レーザパルスを放出するパルスレーザ(103)と、
前記レーザパルスを検出対象の対象物(109)の方向に偏向するための、変位可能に配置された少なくとも1つのミラー(105)と、
前記対象物(109)によって反射された前記レーザパルスを検出するための受光器(111,205)と、
を備えており、
前記受光器(111,205)は、前記反射されたレーザパルスを検出するため、および、偏向された前記レーザパルスを用いて照射可能な領域(107)の画像を撮像するためのCMOS互換イメージセンサ(113)を備えており、
前記CMOS互換イメージセンサ(113)は、ドープおよび/または表面改質されたシリコンをセンサ材料として含む、
ことを特徴とする車両ライダシステム(101,201)。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、「CMOS互換イメージセンサ(113)」が含む「センサ材料」の内容について、上記のとおり限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項(下線は、当審で付した。)
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2004-529343号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

「【0001】
本発明は、画像解析装置に関し、詳細には衝突警告および回避システムのための画像解析装置に関する。」

「【0015】
それゆえ、簡単な技術を用いて車両の周囲の視野にわたって物体への距離を測定できるが、誤った警告と正しい警告とが互いから容易に区別されるようにする、低コストで信頼性のある画像検出および解析装置が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、光源と、該光源で対象となる視野を照射するための手段と、解析されることになる視野から反射される光を受光するための受光光学系と、受光光学系から受光される光を検出するための多領域光検出器であって、該光検出器の複数の領域は別々に動作させることができる、多領域光検出器と、光源の照射のタイミングおよび方向と、光検出器の動作とを同期させるための制御電子回路と、照射される全ての方向に対して光源から検出器の動作部までの光信号の移動時間を測定し、該移動時間から距離を導出するための処理手段と、導出された距離が所定の閾値よりも短い場合に、警告を発生するための手段とを備える画像解析システムを提供する。」

「【0020】
このようにして、システムは、衝突回避システムとして用いることができ、衝突の危険があるときには画像が変更される。2次元の光検出器を画像取り込みシステムのための検出器として用いることができ、結果として、画像取り込みシステムと距離測定システムとの間が完全に整合され、コストも削減される。次に、フォトダイオードアレイは、光入力に応答してアレイのフォトダイオードに電荷を蓄積し、次に、画像データを取り込むために(従来どおりに)読み出す第1のモードと、選択された個々のフォトダイオードあるいは一群のフォトダイオードから光生成信号が移動時間測定回路に送られて距離データが取り込まれる第2のモードとで動作できる。」

「【0027】
提案された最も簡単なシステムを図2に示す。
【0028】
レーザ40からの一連のパルスレーザビーム出力が視野41にわたって走査される。走査は、レーザそのものを走査することにより、あるいは好ましくは検流計または圧電ドライブ44などの既知の技法を用いて実現される走査式ミラー42を用いることにより達成される。
【0029】
固定の受光光学系46が、遠隔した物体からの光の全てを収集して、フォトダイオードアレイ48に集束するように配置されている。フォトダイオードアレイ48は、前置増幅器、パルス識別器54およびタイミング電子回路56に接続されている。
【0030】
制御電子回路52が、方位角および仰角(X,Y)のレーザビームの走査と、レーザパルスのタイミングとを制御する。各レーザパルスは、視野41内の物体から反射され、受光光学系46によって集められ、フォトダイオードアレイ48に集束されて、レーザスポットによって照射される物体の一部が集束されているアレイの部分において、電気パルスを生成する。」

「【0055】
図3は、別々のLRFおよびビデオイメージングシステム10、12を示す。ここに記載される手法の特有の利点は、特に受光用ハードウエアを共有することにより、ビデオカメラおよび表面形状測定システムの構成を簡単にできることである。ビデオおよび形状測定システムの組み合わせは、図2のシステムによって実現され、かかるシステムを動作させる方法を説明する。次に、図5を参照して、システムをさらに詳細に説明する。
【0056】
LRFシステムのフォトダイオードアレイは、ビデオカメラのための画像取り込みシステムとして用いられる。この目的のためのフォトダイオードの1つの実現可能な構成の概略図を、図4に示す。簡単にするために、2×2のアレイを示すが、実際にははるかに大きなアレイを使用する。装置は、フォトダイオード画素のアレイ60からなり、各フォトダイオード画素は、フォトダイオード(PD11?PD22)と、関連するトランジスタ(TR11?TR22)とを含み、トランジスタは、アナログスイッチとして動作するように構成され駆動される。
・・・<略>・・・
【0062】
さらに、本発明に記載された基本的な構造は、提案された本発明を説明する目的のために簡略化されていることに留意されたい。実用的なX-Yアドレス方式のフォトダイオードアレイは、通常、チップに電極X1?XnおよびY1?Ynのためのパルスシーケンスを生成するオンチップクロック回路などの多数の改良を含む単一の相補型金属酸化膜半導体(CMOS)の大規模集積回路(LSI)として製造され、付加的な画素や列レベル回路が、光電荷の増幅および検出を改善する。
・・・<略>・・・
【0066】
多重化された移動時間検出器モードよりは、標準的なイメージングモードにおいてアレイを動作させるために、X-Yアドレス方式アレイに印加されるパルスのシーケンスは、従来のビデオ走査シーケンスに戻される。2つのシステムを連続して動作可能とするために、たとえば、フレームにおいて距離測定動作とイメージング動作とを交互に提供できる複合走査シーケンスが適用される。3D走査の取り込みと、従来の画像走査の取り込みとの間でシステムを切り替えることにより、ビデオ画像シーケンスと3Dシーケンスとの両方が収集され、互いに重ね合わされる。
・・・<略>・・・
【0075】
図5は、上記のイメージングおよび距離測定を組み合わせた手法を利用するシステムを示す。図3の場合と同じ参照番号が同じ構成要素を示すために用いられる。」

【図2】


【図5】


(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 引用文献1に記載された技術は、車両の衝突警告および回避システムのための画像解析システムに関するものであり(【0001】、【0016】)、簡単な技術を用いて車両の周囲の視野にわたって物体への距離を測定でき、低コストで信頼性のある画像検出を行うことを課題としたものである(【0015】)。

b システムであって(【0027】、図2)、レーザ40からの一連のパルスレーザビーム出力が視野41にわたって走査され(【0028】)、走査は、走査式ミラー42を用いることにより達成され(【0028】)、各レーザパルスは、視野41内の物体から反射され、受光光学系46によって集められ、フォトダイオードアレイ48に集束される(【0029】、【0030】)、システム。

c イメージングおよび距離測定を組み合わせた手法を利用するシステムであって(【0020】、【0055】、【0066】、【0075】、図2、5)、フォトダイオードアレイは、ビデオカメラのための画像取り込みシステムとして用いられ(【0055】、【0056】)、フォトダイオードアレイは、単一の相補型金属酸化膜半導体(CMOS)の大規模集積回路(LSI)として製造される(【0062】)、システム。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「車両の衝突警告および回避システムのために車両の周囲の視野にわたって物体への距離を測定できるようにした、イメージングおよび距離測定を組み合わせた手法を利用するシステムであって、レーザ40からの一連のパルスレーザビーム出力が視野41にわたって走査され、走査は、走査式ミラー42を用いることにより達成され、各レーザパルスは、視野41内の物体から反射され、受光光学系46によって集められ、フォトダイオードアレイ48に集束され、フォトダイオードアレイ48は、ビデオカメラのための画像取り込みシステムとして用いられ、フォトダイオードアレイ48は、単一の相補型金属酸化膜半導体(CMOS)の大規模集積回路(LSI)として製造される、システム。」

イ 引用文献6
(ア)当審において新たに引用した文献である、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特表2013-505587号公報(以下「引用文献6」という。)には、次の記載がある。
「【0002】
(背景)
光と半導体材料の相互作用は、重要な革新となっている。シリコン撮像素子は、デジタルカメラ、光学マウス、ビデオカメラ、携帯電話等の種々の技術において使用されている。電荷結合素子(CCD)は、デジタル撮像において広く使用され、後に、性能が向上した相補型金属酸化膜半導体(CMOS)撮像素子によって改良された。CMOSセンサは、一般的には、シリコンから製造され、可視入射光を光電流に変換し、最終的には、デジタル画像に変換することができる。しかしながら、シリコンは、約1.1eVのバンドギャップを有する間接バンドギャップ半導体であるため、赤外線入射電磁放射を検出するためのシリコンベースの技術は、問題となっている。したがって、約1100nm超の波長を有する電磁放射の吸収は、シリコン内では非常に低い。」

「【0031】
感光撮像素子は、正面照射(FSI)または裏面照射(BSI)素子であることができ、両構造タイプに対して、利点および不利点が存在する。一般的FSI撮像素子では、入射光は、最初に、トランジスタおよび金属回路を通過することによって、半導体素子に入る。しかしながら、光は、撮像素子の光感知部分に入る前に、トランジスタおよび回路から散乱し、したがって、光学損失および雑音を生じさせる可能性がある。レンズは、FSI画素の上側に配置され、入射光を素子の光感知能動的領域に指向および集束させ、したがって、部分的に、回路を回避することができる。一側面では、レンズは、U形レンズである可能性がある。一方、BSI撮像素子は、素子の反対側に延在する接合部の空乏領域を有するように構成される。一側面では、例えば、入射光は、光感知部分を介して、素子に入り、回路に到達する前にほとんど吸収される。BSI設計は、撮像素子に対して、より小さい画素構造および高曲線因子を可能にする。前述のように、本開示は、いずれの構成にも適応することができる。また、本開示の側面による素子は、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)撮像素子構造または電荷結合素子(CCD)撮像素子構造内に組み込むことができることを理解されたい。
【0032】
一側面では、図1に示されるように、感光ダイオード10は、少なくとも1つの接合部を形成する複数のドープ領域14、16を有する、半導体基板12と、半導体基板に連結され、電磁放射と相互作用するように設置される、少なくとも1つのテクスチャ加工領域18とを含むことができる。異なるドープ領域は、素子に応じて、同一ドーピングプロファイルまたは異なるドーピングプロファイルを有することができる。そのような構造は、光が複数のドープ領域の方向から半導体基板に入る、FSI設計である。図1に示される素子は、3つのドープ領域を含有するが、1つ以上のドープ領域を含有する側面も、本範囲内で検討されることに留意されたい。加えて、いくつかの側面では、半導体基板は、ドープされることができ、したがって、ドープ領域であると見なされることができる。また、感光ダイオードは、BSI構造とともに構成されることができる、したがって、電磁放射は、テクスチャ加工領域の方向から半導体基板に入るであろうことに留意されたい。
【0033】
本開示の側面による種々の素子は、従来の感光素子に勝る増加した量子効率を呈することができる。量子効率のいかなる増加も、信号対雑音比に大きな差異をもたらす。より複雑な構造は、増加した量子効率だけではなく、また、画素毎の良好な均一性を提供することができる。加えて、本開示の素子は、従来の感光素子と比較して、増加した応答性を呈する。例えば、一側面では、応答性は、100μm未満厚の半導体基板の場合、1000nm超の波長に対して、0.8A/W以上となることができる。
・・・<略>・・・
【0035】
種々の半導体材料は、本開示の側面による、素子および方法併用するために想定される。そのような半導体材料の非限定的実施例は、第IV族材料、第II族および第VI族からの材料から成る化合物および合金、第IIIおよび第V族からの材料から成る化合物および合金、ならびにそれらの組み合わせを含むことができる。より具体的には、例示的第IV族材料は、シリコン、炭素(例えば、ダイヤモンド)、ゲルマニウム、およびそれらの組み合わせを含むことができる。第IV族材料の種々の例示的組み合わせは、炭化ケイ素(SiC)およびシリコンゲルマニウム(SiGe)を含むことができる。一具体的側面では、半導体材料は、シリコンである、またはそれを含むことができる。例示的シリコン材料は、非晶質シリコン(a-Si)、微結晶シリコン、多晶質シリコン、およびナノ結晶シリコン、ならびに他の結晶タイプを含むことができる。別の側面では、半導体材料は、シリコン、炭素、ゲルマニウム、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、ヒ化インジウムガリウム、ヒ化アルミニウムガリウム、およびそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含むことができる。」

「【0048】
本開示の側面による、テクスチャ加工領域は、感光素子に、特に、より長い波長(すなわち、赤外線)において、素子内で入射電磁放射の複数の通過に触れさせることを可能にする。そのような内部反射は、半導体基板の厚さを上回る有効吸収長を増加させる。本吸収長の増加は、素子の量子効率を増加させ、信号対雑音比の改善につながる。」

【図1】


(イ)上記記載から、引用文献6には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 引用文献6に記載された技術は、CMOSセンサに関するものであり(【0002】)、従来の感光素子に勝る増加した量子効率を呈することができ、信号対雑音比の改善につながるようにすることを課題としたものである(【0033】、【0048】)。

b 感光ダイオード10は、電磁放射と相互作用するように設置される、少なくとも1つのテクスチャ加工領域18を含み(【0032】)、BSI構造とともに構成されて、電磁放射は、テクスチャ加工領域の方向から半導体基板に入り(【0032】)、感光ダイオード10は、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)撮像素子構造を組み込むことができ(【0031】)、素子に用いられるために想定される半導体材料はシリコンを含む(【0002】、【0035】)。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献6には、次の技術が記載されていると認められる。

「感光ダイオード10は、電磁放射と相互作用するように設置される、少なくとも1つのテクスチャ加工領域18を含み、BSI構造とともに構成されて、電磁放射は、テクスチャ加工領域の方向から半導体基板に入り、感光ダイオード10は、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)撮像素子構造を組み込むことができ、素子に用いられるために想定される半導体材料はシリコンを含む技術」

ウ 引用文献7
(ア)当審において新たに引用した文献である、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平4-240770号公報(以下「引用文献7」という。)には、次の記載がある。

「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、固体撮像素子をアクリル樹脂等の透明合成樹脂でパッケージングした合成樹脂型パッケージの固体撮像装置の改良に関する。」

「【0004】そこで、この発明の目的は、鮮明な画像が得られる合成樹脂型パッケージの固体撮像装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、第1の発明の固体撮像素子を設置した状態のリードフレームを透明合成樹脂でパッケージングした固体撮像装置において、上記リードフレームにおける固体撮像素子を設置する箇所に表面が水平な台座を設けて、この台座に設置された固体撮像素子の表面と上記透明合成樹脂の水平な表面との距離を上記固体撮像素子が十分保護される範囲内にあって最短距離になるように設定したことを特徴としている。また、第2の発明は、上記第1の発明の固体撮像装置において、上記透明合成樹脂との境界面を有すると共に、この境界面における反射率が零になるように厚みと屈折率とが設定され無反射膜を上記固体撮像素子の表面に設けたことを特徴としている。」

「【0009】また、上記固体撮像素子11の表面には例えばMgF_(2)で成る無反射膜18を形成する。この無反射膜18とは次のような膜である。いま、膜の上側(光が入射して来る側)の媒質の屈折率をn1,膜の屈折率をn,膜の厚みをd,膜の下側(光が向かって行く側)の媒質の屈折率をn2とすると、d=λ/4(λは光の波長)n=(n1・n2)12の関係にあるときには膜とこの膜の上側の媒質との境界面での反射率は“0”となることが知られている。但し、その場合、膜の下側の媒質から膜へ光が入射する場合の反射率は“0”とはならない。すなわち、上記関係を満たすような厚みdと屈折率nとを有する膜を無反射膜と言うのである。本実施例の場合には、上記上側の媒質は透明合成樹脂14であり、下側の媒質は固体撮像素子11の主面側を覆う防護膜(図示せず)である。したがって、無反射膜18の屈折率nは、透明合成樹脂14の屈折率と上記保護膜の屈折率の積の平方根となるようにすればよい。つまり、上述のような厚みdと屈折率nとを有する無反射膜18を固体撮像素子11の保護膜上に形成することによって、無反射膜18と透明合成樹脂14との境界面(以下、単に無反射膜18の表面と言う)での反射率を“0”とすることができるのである。
・・・<略>・・・
【0013】以上のことから、被写体から放射されて透明合成樹脂14および無反射膜18を透過して固体撮像素子11に向かって光が入射された場合には、固体撮像素子11のある光電変換部19には上記遮光部分からの外部反射入射光(ロ)および内部反射入射光(ハ)は入射されないことになる。しかも、この2種の入射光のうち固体撮像素子11で反射される際の反射角度によっては直接入射光(イ)の入射位置からずれた位置に入射し易い外部反射入射光(ロ)の光量は、内部反射入射光(ハ)に転化されて少なくなっている。したがって、各光電変換部で光電変換して得られた信号は、夫々の光電変換部に入射された直接入射光(イ)の光量を正しく表す信号となるのである。つまり、各光電変換部からの信号は被写体からの直接入射光(イ)の光量の空間分布をより正しく表しているといえる。したがって、上記各光電変換部による光電変換によって得られる信号が上記外部反射入射光(ロ)の影響によって偽信号となることが防止されて、鮮明な画像が得られるのである。」

(イ)上記記載から、引用文献7には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 引用文献7に記載された技術は、固体撮像装置に関するものであり(【0001】)、鮮明な画像が得られる合成樹脂型パッケージの固体撮像装置を提供することを課題としたものである(【0004】、【0013】)。

b 無反射膜18を固体撮像素子11の表面に設けた(【0005】、【0009】)。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献7には、次の技術が記載されていると認められる。

「無反射膜18を固体撮像素子11の表面に設けた技術」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。(下線は、当審で付した。)
(ア)引用発明の「レーザ40」は、パルスレーザビームを出力するものであるから、本件補正発明の「レーザパルスを放出するパルスレーザ(103)」に相当する。
(イ)引用発明の「走査式ミラー42」は、各レーザパルスが視野41内の物体から反射されるように、レーザ40からの一連のパルスレーザビーム出力が視野41にわたって走査される際に用いられるものであるから、本件補正発明の「前記レーザパルスを検出対象の対象物(109)の方向に偏向するための、変位可能に配置された少なくとも1つのミラー(105)」に相当する。
(ウ)引用発明の「フォトダイオードアレイ48」は、レーザパルスが、視野41内の物体から反射され、受光光学系46によって集められて集束されるものであるから、本件補正発明の「前記対象物(109)によって反射された前記レーザパルスを検出するための受光器(111,205)」に相当する。
(エ)引用文献1には、図5に示される「車両の衝突警告および回避システムのために車両の周囲の視野にわたって物体への距離を測定できるようにした、イメージングおよび距離測定を組み合わせた手法を利用するシステム」は、図2のシステムによって実現されること(【0055】、【0075】)が記載されているから、引用発明の「イメージングおよび距離測定を組み合わせた手法を利用するシステム」が、「レーザ40」、「走査式ミラー42」、「フォトダイオードアレイ48」を備えているといえる。それゆえ、引用発明における、「イメージングおよび距離測定を組み合わせた手法を利用するシステム」の「フォトダイオードアレイ48」が、「ビデオカメラのための画像取り込みシステムとして用いられ、フォトダイオードアレイは、単一の相補型金属酸化膜半導体(CMOS)の大規模集積回路(LSI)として製造される」ことが、本件補正発明における、「前記受光器(111,205)は、前記反射されたレーザパルスを検出するため、および、偏向された前記レーザパルスを用いて照射可能な領域(107)の画像を撮像するためのCMOS互換イメージセンサ(113)を備えている」ことに相当する。
(オ)引用発明の「車両の衝突警告および回避システムのために車両の周囲の視野にわたって物体への距離を測定できるようにした、イメージングおよび距離測定を組み合わせた手法を利用するシステム」は、「レーザ40」、「走査式ミラー42」、「フォトダイオードアレイ48」からなるライダの構成を備えたものであるから、引用発明の「イメージングおよび距離測定を組み合わせた手法を利用するシステム」は、本件補正発明の「車両ライダシステム(101,201)」に相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「車両ライダシステム(101,201)であって、
レーザパルスを放出するパルスレーザ(103)と、
前記レーザパルスを検出対象の対象物(109)の方向に偏向するための、変位可能に配置された少なくとも1つのミラー(105)と、
前記対象物(109)によって反射された前記レーザパルスを検出するための受光器(111,205)と、
を備えており、
前記受光器(111,205)は、前記反射されたレーザパルスを検出するため、および、偏向された前記レーザパルスを用いて照射可能な領域(107)の画像を撮像するためのCMOS互換イメージセンサ(113)を備えていることを特徴とする車両ライダシステム(101,201)。」

【相違点】
本件補正発明は、「前記CMOS互換イメージセンサ(113)は、テクスチャ加工またはコーティングによって表面改質されたシリコンをセンサ材料として含む」のに対し、引用発明はそのような構成を有していない点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。

ア 引用文献6に記載の「感光ダイオード10」は、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)撮像素子構造を組み込むことができるので、本件補正発明の「CMOS互換イメージセンサ(113)」に相当する。
引用文献6に記載の「感光ダイオード10」は、その半導体材料としてシリコンを含むもの、換言すると、「感光ダイオード10」は、シリコンをセンサ材料として含むものである。引用文献6に記載の「感光ダイオード10」は、BSI構造とともに構成されて、電磁放射は、テクスチャ加工領域の方向から半導体基板に入るものであるから、「感光ダイオード10」の「テクスチャ加工領域」は、「テクスチャ加工によって表面改質された」ものである。
してみると、引用文献6に記載の、「感光ダイオード10は、電磁放射と相互作用するように設置される、少なくとも1つのテクスチャ加工領域18とを含み、BSI構造とともに構成されて、電磁放射は、テクスチャ加工領域の方向から半導体基板に入り」、「素子に用いられるために想定される半導体材料はシリコンを含む」ことが、本件補正発明の「前記CMOS互換イメージセンサ(113)は、テクスチャ加工またはコーティングによって表面改質されたシリコンをセンサ材料として含む」に相当する。
上記(2)イ(イ)aのとおり、引用文献6に記載された技術は、CMOSセンサに関するものであり、従来の感光素子に勝る増加した量子効率を呈することができ、信号対雑音比の改善につながるようにすることを課題としたものである。
引用発明と、引用文献6に記載された技術とは、いずれも、「CMOSセンサ」に関する技術である点で共通するものであり、引用文献6に記載された技術の課題である「従来の感光素子に勝る増加した量子効率を呈することができ、信号対雑音比の改善につながるようにすること」は、引用発明においても内在する課題であるから、引用発明におけるCMOS互換イメージセンサとして、引用文献6に記載された、「電磁放射と相互作用するように設置される、少なくとも1つのテクスチャ加工領域18とを含み、BSI構造とともに構成されて、電磁放射は、テクスチャ加工領域の方向から半導体基板に入り」、「素子に用いられるために想定される半導体材料はシリコンを含む」「感光ダイオード10」を採用することにより、「テクスチャ加工」に係る上記相違点に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 引用文献7に記載の「無反射膜を固体撮像素子の表面に設けた」点は、本件補正発明における、「イメージセンサ(113)は、コーティングによって表面改質された材料をセンサ材料として含む」点に相当する。
上記(2)ウ(イ)aのとおり、引用文献7に記載された技術は、固体撮像装置に関するものであり、鮮明な画像が得られる合成樹脂型パッケージの固体撮像装置を提供することを課題としたものである。
引用発明と、引用文献7に記載された技術とは、いずれも、「固体撮像装置」に関する技術である点で共通するものであり、引用文献7に記載された技術の課題である「従来の感光素子に勝る増加した量子効率を呈することができ、信号対雑音比の改善につながるようにすること」は、引用発明においても内在する課題であるから、引用発明におけるCMOS互換イメージセンサとして、引用文献7に記載された、「無反射膜を固体撮像素子の表面に設けた」「固体撮素子」を採用するにより、「コーティング」に係る上記相違点に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。また、CMOS互換イメージセンサのセンサ材料として「シリコン」を用いる技術は、本願の優先日前に周知慣用の技術であって、CMOS互換イメージセンサのセンサ材料として「シリコン」を採用することは、当業者が、適宜なし得たことである。

ウ そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明と引用文献6又は7に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明と引用文献6又は7に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成30年3月12日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1又は2に記載された発明及び周知技術(引用文献3-5)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特表2004-529343号公報
引用文献2:特開2011-089874号公報
引用文献3:特開2011-077498号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2006-186118号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2004-200319号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

(2)その他の文献について
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献3の段落【0113】、【0164】、【図20】には、「固体撮像装置のフォトダイオード15において、P型領域14は、ホウ素(B)がドープされたシリコン半導体層である」ことが記載されている。
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献4の段落【0014】-【0016】、【図1】には、「積層型固体撮像素子において、光電変換層20が、アモルファスシリコンを堆積後にレーザーアニールにて単結晶化されることにより形成される」ことが記載されている。
原査定において周知技術を示す文献として引用された引用文献5の段落【0024】、【0038】-【0039】、【図1(b)】には、「固体撮像素子において、電荷転送部の電荷転送電極が、ドープトアモルファスシリコン膜をアニールして形成された多結晶シリコン膜を含む」ことが記載されている。
当審において新たに引用した文献であり、周知技術を示す文献である引用文献6の段落【0002】、【0031】-【0032】、【0035】、【0057】、【図1】には、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)撮像素子構造を組み込むことができる感光ダイオード10は、複数のドープ領域14、16を有し、素子に用いられるために想定される半導体材料はシリコンを含む」ことが記載されている。

4 対比
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「テクスチャ加工またはコーティングによって表面改質された」に係る限定事項を削除し、「ドープおよび/または表面改質された」という択一的な形式を含む記載を付加したものである。
そうすると、前記第2の[理由]2(3)での対比と同様にして、本願発明と引用文献1に記載された発明との一致点及び相違点は、次のとおりとなる。

【一致点】
「車両ライダシステム(101,201)であって、
レーザパルスを放出するパルスレーザ(103)と、
前記レーザパルスを検出対象の対象物(109)の方向に偏向するための、変位可能に配置された少なくとも1つのミラー(105)と、
前記対象物(109)によって反射された前記レーザパルスを検出するための受光器(111,205)と、
を備えており、
前記受光器(111,205)は、前記反射されたレーザパルスを検出するため、および、偏向された前記レーザパルスを用いて照射可能な領域(107)の画像を撮像するためのCMOS互換イメージセンサ(113)を備えていることを特徴とする車両ライダシステム(101,201)。」

【相違点】
本願発明は、「前記CMOS互換イメージセンサ(113)は、ドープおよび/または表面改質されたシリコンをセンサ材料として含む」のに対し、引用発明はそのような構成を有していない点。

5 判断
上記相違点について検討する。
相違点に係る本願発明の「前記CMOS互換イメージセンサ(113)は、ドープ」「されたシリコンをセンサ材料として含む」という構成について、上記3(2)の引用文献3、5、6に記載されているとおり、イメージセンサは、ドープされたシリコンをセンサ材料として含むという技術的事項は、本願の優先日前において周知技術であったといえる。また、相違点に係る本願発明の「前記CMOS互換イメージセンサ(113)は、」「表面改質されたシリコンをセンサ材料として含む」という構成について、上記3(2)の引用文献4、5に記載されているとおり、イメージセンサは、表面改質(アニール)されたシリコンをセンサ材料として含むという技術的事項は、本願の優先日前において周知技術であったといえる。
引用発明と周知技術とは、いずれも、イメージセンサに関する技術である点で共通するものであり、引用発明のCMOS互換イメージセンサにおいて、周知技術である、「イメージセンサは、ドープされたシリコンをセンサ材料として含む」という技術的事項、および/または、「イメージセンサは、表面改質されたシリコンをセンサ材料として含む」という技術的事項を採用することは、当業者が、容易になし得たことである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-08-23 
結審通知日 2019-08-26 
審決日 2019-09-11 
出願番号 特願2016-572399(P2016-572399)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01S)
P 1 8・ 575- WZ (G01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 請園 信博山下 雅人櫻井 健太  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 濱野 隆
梶田 真也
発明の名称 車両ライダシステム  
代理人 上島 類  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  
代理人 前川 純一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ