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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G21F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G21F
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 G21F
管理番号 1359418
審判番号 不服2019-2302  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-20 
確定日 2020-02-26 
事件の表示 特願2014-170090「放射性物質を含む飛灰の処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月 4日出願公開、特開2016- 45098、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年8月25日の出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。

平成30年 2月 7日付け:拒絶理由通知書
平成30年 3月 8日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 6月20日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
平成30年 7月11日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年11月26日付け:平成30年7月11日の手続補正について
の補正の却下の決定、拒絶査定(原査定)
平成31年 2月20日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成30年11月26日付けの補正の却下の決定及び原査定の概要
1 平成30年11月26日付けの補正の却下の決定の概要は以下のとおりである。

平成30年7月11日付け手続補正書による補正により、請求項5において、「嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)の飛灰を捕集する集塵機」を用いることが特定された。しかし、願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落4に「飛灰は一般に粒径数ミクロンで嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)と小さく飛散しやすい」といった一般論的記載や、段落20に「集塵機2にはバグフィルタ等を用いることができ、粒径が数ミクロンで嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)と小さい飛灰Aを捕集することができるものを使用する。」といった記載はあるものの、0.2?0.4g/cm^(3)の飛灰のみを選択的に捕集する集塵機については記載されておらず、また出願時の技術常識を考慮しても、出願当初明細書等の記載から自明な事項であるとも認められない。

したがって、この補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
よって、この補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により上記結論のとおり決定する。

2 原査定(平成30年11月26日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

●理由1
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

・請求項 1-5
平成30年3月8日付け手続補正書により、請求項1は以下のように補正された。
「放射性物質を含み、嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)以下の飛灰を油圧プレス機によって加圧成型し、 該加圧成型によって得られた成型品を解砕することを特徴とする放射性物質を含む飛灰の処理方法。」

しかし上記記載では、嵩密度が「0.2g/cm^(3)以上」0.4g/cm^(3)以下であることを特定しようとしているのか、嵩密度が「0.2?0.4」g/cm^(3)以下であることを特定しようとしているのか(嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)程度のものよりも小さいものを集塵する、という趣旨のことを特定しているのか)明確でないものと認められる。
請求項1を引用する請求項2-4及び同様の記載を含む請求項5も同様である。

・請求項 1-4
請求項1の「放射性物質を含み、嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)以下の飛灰を油圧プレス機によって加圧成型」するとの特定が、嵩密度が「0.2?0.4g/cm^(3)以下」の飛灰「のみ」を加圧成型することを特定しようとしているのか、0.2?0.4g/cm^(3)以下の飛灰を「含む」ことを特定しようとしているのか、明確でないものと認められる。
請求項1を引用する請求項2-4も同様である。

・請求項 5
請求項5の「放射性物質を含み、嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)以下の飛灰を捕集する集塵機」との特定について検討するに、一般に、どの程度の粒径の灰を補集できるかによって集塵機を特定することはあるものと認められるが(間接的に、フィルタの構造・特性を特定していると認めることができる場合が多いものと認められる)、嵩密度によって集塵機を特定することによって、集塵機の形状や構造等について、具体的にどの部分がどのように特定されたこととなるのか、理解することが困難である。
してみれば、請求項5に係る発明は明確でないものと認められる。

●理由2
平成30年3月8日付け手続補正書でした補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

・請求項 1-4
平成30年3月8日付け手続補正書により、請求項1は以下のように補正された。
「放射性物質を含み、嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)以下の飛灰を油圧プレス機によって加圧成型し、
該加圧成型によって得られた成型品を解砕することを特徴とする放射性物質を含む飛灰の処理方法。」

補正後の請求項1の記載は、上記理由1で検討したように明確でないものと認められるが、上記「放射性物質を含み、嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)以下の飛灰を油圧プレス機によって加圧成型」するとの特定が、嵩密度が「0.2?0.4g/cm^(3)以下」の飛灰「のみ」を加圧成型することを特定しようとしているものであるならば、以下のような理由により、新規事項の追加に該当するものと認められる。

同日付け意見書によれば、補正の根拠となるのは、明細書の段落[0020]の記載とのことである。
「集塵機2にはバグフィルタ等を用いることができ、粒径が数ミクロンで嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)と小さい飛灰Aを捕集することができるものを使用する。」(段落[0020])

この記載から明らかなのは、本願実施例における集塵機2として、「粒径が数ミクロンで嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)と小さい飛灰A」を捕集できるものであるということであって、その後、油圧プレス機によって加圧成型する飛灰Aの「全て」が0.2?0.4g/cm^(3)との条件を満たすことは記載されていたものとも、自明のこととも認めることができない。また、本願明細書の他の記載及び技術常識を考慮しても、油圧プレス機によって加圧成型する飛灰Aの全てが0.2?0.4g/cm^(3)との条件を満たすことは記載されていないし、自明のこととも認められない。
以上のことからみて、請求項1に係る上記補正は、新たな技術的事項を導入しないものと認めることができず、新規事項の追加に該当するものと認められる。

●理由3
この出願の請求項1-5に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・備考
引用文献1については、段落[0003]、[0005]、[0018]、図5を特に参照されたい。引用文献1に記載の発明は、加圧に際して油圧プレス機を使うことについて明記はないものの、加圧を油圧プレス機で行うことは慣用されている手段であり、引用文献1に記載されているに等しい事項であるといえる。また仮にそうではないとしても、当業者が適宜選択できたことである。
また、飛灰の嵩密度については、本願明細書の発明の詳細な説明においてその技術的意義の記載がないことも併せ考慮すれば、設計的事項と評価せざるを得ない。
請求項2、3で特定されている数値限定について、格別の技術的意義は認められず、当業者が適宜設計できたものと認められる。
また、請求項4で特定されている事項については、引用文献1の段落[0003]を特に参照されたい。
してみれば、請求項1-5に係る発明は、引用文献1から、進歩性を有しない。

<引用文献等一覧>
引用文献1.特開2012-026818号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

審判請求時の補正によって、請求項1の「嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)以下の飛灰」が「嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)の飛灰」との事項に補正されたところ、この補正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、出願当初の明細書の【0020】に記載されているから、当該補正は新規事項を追加するものではないと認められる。

また、審判請求時の補正によって、請求項5が削除され、この補正は請求項の削除を目的とするものであり、当該補正は新規事項を追加するものではないと認められる。

第4 本願発明
本願請求項1-4に係る発明(以下「本願発明1」-「本願発明4」という。)は、平成31年2月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「放射性物質を含み、嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)の飛灰を油圧プレス機によって加圧成型し、
該加圧成型によって得られた成型品を解砕することを特徴とする放射性物質を含む飛灰の処理方法。」

なお、本願発明2-4の概要は以下のとおりである。

本願発明2-4は、本願発明1を減縮した発明である。

第5 特許法第36条第6項第2号について
審判請求時の補正により、請求項1の「嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)以下の飛灰」が「嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)の飛灰」との事項に補正されており、請求項1?4に係る発明は明確である。

なお、請求項1の「放射性物質を含み、嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)の飛灰を油圧プレス機によって加圧成型」するとの特定が、嵩密度が「0.2?0.4g/cm^(3)」の飛灰「のみ」を加圧成型することを特定しようとしているとは、請求項の文言上、認められない(下線は当審において付した。以下同様である。)。
そこで、本願明細書を参酌すると、出願当初の明細書の【0020】には「集塵機2にはバグフィルタ等を用いることができ、粒径が数ミクロンで嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)と小さい飛灰Aを捕集することができるものを使用する。」、【0021】には「油圧プレス機3は、供給された飛灰Aを金型内で油圧シリンダにより加圧して直径100mm程度の円柱状に成型する装置であり、汎用の油圧プレス機を用いることができる。油圧シリンダの油圧を調整して成型圧力を変化させることができる。」と記載されている。
しかしながら、この記載からは、集塵機には、粒径が数ミクロンで嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)と小さい飛灰Aを捕集することができるものを使用することは把握できるものの、それ以外の嵩密度の飛灰は捕集しないとは把握できないし、嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)の飛灰のみを選択して油圧シリンダにより加圧することは把握できない。
そうすると、本願明細書から、当該請求項1の記載を、嵩密度が「0.2?0.4g/cm^(3)」の飛灰「のみ」を加圧成型することとの限定解釈することはできないことから、請求項1の当該特定は、嵩密度が「0.2?0.4g/cm^(3)」の飛灰「のみ」を加圧成型することを特定しようとしているとは、本願明細書を参酌したとしても認められない。

第6 特許法第17条の2第3項について
請求項1-4の「放射性物質を含み、嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)の飛灰を油圧プレス機によって加圧成型」するとの特定が、嵩密度が「0.2?0.4g/cm^(3)」の飛灰「のみ」を加圧成型することを特定しようとしているものとは、上記第5で検討したように、請求項の文言上、また、本願の明細書を参酌したとしても認められない。
そして、出願当初の明細書の【0020】には「集塵機2にはバグフィルタ等を用いることができ、粒径が数ミクロンで嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)と小さい飛灰Aを捕集することができるものを使用する。」、【0021】には「油圧プレス機3は、供給された飛灰Aを金型内で油圧シリンダにより加圧して直径100mm程度の円柱状に成型する装置であり、汎用の油圧プレス機を用いることができる。油圧シリンダの油圧を調整して成型圧力を変化させることができる。」と記載されている。
よって、請求項1-4に係る上記補正は、新たな技術的事項を導入するものとは認めることができず、新規事項の追加に該当するものとは認められない。

第7 特許法第29条第2項について
1 引用文献、引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】
放射性シリコーンオイルを燃焼炉で焼却し、発生した燃焼ガスをセラミックフィルタでろ過したうえ放射性排ガス処理設備を通して大気中に放出する一方、排ガス中に含まれるシリコーンオイル焼却灰をセラミックフィルタから回収し、更に減容処理してペレット状の放射性不燃性廃棄物とすることを特徴とする放射性シリコーンオイルの処理方法。」

(2)「【請求項4】
減容処理が、シリコーンオイル焼却灰を真空中で圧縮成形し、ペレット状の放射性不燃性廃棄物とする方法であることを特徴とする請求項1記載の放射性シリコーンオイルの処理方法。
【請求項5】
圧縮成形物を、さらに粉砕処理することを特徴とする請求項4記載の放射性シリコーンオイルの処理方法。」

(3)「【0003】
このため、放射性物質を含有するオイル類はできるだけ焼却処理することが望まれており、多くのオイルは可燃性雑固体廃棄物の焼却炉中に滴下する等の方法で焼却されてきた。しかしシリコーンオイルは焼却すると非常に微細なシリカ(SiO_(2))粒子を大量に発生するため、バーナ、焼却炉及びその排ガス処理系を閉塞させるおそれがある。しかもこの微細なシリカ粒子からなるシリコーンオイル焼却灰はかさ密度が0.05?0.06g/cm^(3)と非常に小さく嵩張るものであるため、ドラム缶1本分のシリコーンオイルを焼却するとドラム缶19本分のシリコーンオイル焼却灰が発生することとなり、保管すべきドラム缶の数が約20倍に増加するという致命的な問題があった。このためシリコーンオイルについては適切な処分方法がないまま、依然として液体状態のまま保管されているのが実情である。」

(4)「【0018】
図4は減容処理の他の一例を示すブロック図である。この方法では、表面に凹凸を有する2つの金属製ロール間にシリコーンオイル焼却灰を供給し、圧縮成形する。しかしシリコーンオイル焼却灰はかさ密度が小さく内部に大量の空気を含有しているため、単純に圧縮しても内部の空気圧が高まり、うまく圧縮ができない。このため真空中で脱気しながら圧縮成形することにより、ペレット状の固体(放射性不燃性廃棄物)とすることができる。この場合の減容率は、シリコーンオイル焼却灰を1とすると圧縮成形の段階で1/6となるが、圧縮成形品をさらに破砕すれば1/9となり、図3の場合と同様の減容効果を得ることができることとなる。図4の方法は、放射性の排水が発生しない点で図3の方法よりも好ましい。」

(5)したがって、上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「放射性シリコーンオイルを燃焼炉で焼却し、排ガス中に含まれるかさ密度が0.05?0.06g/cm^(3)のシリコーンオイル焼却灰をセラミックフィルタから回収し、
更にシリコーンオイル焼却灰を2つの金属製ロール間に供給し、真空中で脱気しながら圧縮成形する減容処理し、
圧縮成形物を、さらに粉砕処理する放射性シリコーンオイルの処理方法。」

2 対比・判断
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
引用発明の「放射性シリコーンオイル」は、本願発明1の「放射性物質」に、
引用発明の「『排ガス中に含まれる』『シリコーンオイル焼却灰』」は、本願発明1の「飛灰」に、
引用発明の「圧縮成形する」は、本願発明1の「加圧成型し」に、
引用発明の「圧縮成形物を、さらに粉砕処理する」は、本願発明1の「該加圧成型によって得られた成型品を解砕する」に、
引用発明の「『放射性シリコーンオイル』『焼却灰』『の処理方法』」は、本願発明1の「放射性物質を含む飛灰の処理方法」に、
それぞれ相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「放射性物質を含む飛灰を加圧成型し、
該加圧成型によって得られた成型品を解砕する放射性物質を含む飛灰の処理方法。」

(相違点1)
飛灰の嵩密度が、本願発明1は、0.2?0.4g/cm^(3)であるのに対し、引用発明は、0.05?0.06g/cm^(3)である点。

(相違点2)
加圧成型が、本願発明1は、油圧プレス機によるものであるのに対し、引用発明は、2つの金属製ロール間に供給し、真空中で脱気しながら圧縮成形するものである点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点2を先に検討する。
(ア)加圧成型に関する技術において、油圧プレス機は周知技術(必要ならば、特開2007-40872号公報(特に、【0035】参照。)を参照されたい。)である。

(イ)引用発明では「シリコーンオイル焼却灰を2つの金属製ロール間に供給し、真空中で脱気しながら圧縮成形する」と特定されている。
しかしながら、引用発明の2つの金属製ロール間に供給し、真空中で脱気しながら圧縮成形するという特殊な圧縮成形を、周知技術である油圧プレス機に置き換える動機付けは、引用文献1に記載されていない。

(ウ)ここで、特開2007-40872号公報(以下「周知文献」という。)について検討する。

a 周知文献には、図面とともに次の事項が記載されている。
(a)「【0035】
焼却灰の混合率は、全体量に対して0、10、20、30、40、50、70、100重量%の8条件とし、ガラスカレットの粒度は45以下、45?90、90?250(μm)の3条件とした。これらガラスカレット、模擬焼却灰等の混合時に水を全体量に対して10重量%添加し、油圧プレス機((株)リガク製、型式9302/30)を用いて混合物をダイス法(15?20t)により加圧成型し、直径40mm程度、厚さ7?8mm程度の円柱状の成型体を作製した。なお、加圧成型する方法であれば、ダイス法によらなくても良いし、加圧成型する方法でなくても別の成型法でも構わない。【0036】
更に、成型体を焼結温度700、750、800、850、900℃の5条件で2時間焼成して、焼結した。焼結温度を700?900℃に設定したのは、放射性廃棄物は通常約800?900℃で焼却されることから、焼却設備の利用が図れること(それ以上高温にすると設備に負担がかかる)及び省エネルギーで簡便な方法として比較的低温で処理できる技術を開発するため、更には後述するガラスの軟化点等を考慮したものである。図4には焼結温度700、800、900℃、ガラスカレット粒度45μmで焼却灰の混合率を変化させた場合の焼却灰の減容化率を示す。なお、焼却灰のかさ比重は0.4とした。かさ比重とは、焼却灰1mlあたりの重量(g)を示すが、具体的には100mlのメスシリンダーに焼却灰を100mlの目盛りまで入れたときの焼却灰の重量(g)を100(ml)で割ったときの値である。」

(b)「【0058】
更に図11には本発明の一実施例による焼結体の落球試験方法による試験結果を示す。図11(a)は、ガラスカレットの粒度が45μm、焼却灰の割合が40重量%、焼結温度800℃で焼結した場合の焼結体の試験結果を示し、図11(b)は、焼却灰の割合を100重量%とし、その他の条件は、図11(a)と同様とした場合の試験結果を示す。落球試験は、JIS K 7211「硬質プラスチックの落錘衝撃試験」に準じて実施した。試験条件は、上から落とすおもりの重さ(重量)を0.5kg、落下高さを30cmとした。
【0059】
図11(b)に示すように、焼却灰100重量%の焼結体は、粉々になり、焼結前の微粉化状態になるのに対して、図11(a)に示すように、焼却灰の混合率が40重量%の焼結体は、割れても粉々にならないことが確認された。この衝撃試験結果から、焼結体はガラス容器や窓ガラスが割れた状態に近く、固定化できることが確認された。したがって焼却灰の混合率を40?50重量%程度にすれば、放射性廃棄物の焼却灰の減容化のみならず、固化できることで、安定性の面に優れ、取り扱いが簡便、安全になる。なお、焼却灰の減容化は、焼却灰100重量%の焼結体でも達成され、100重量%に近いほど、減容化の効果は大きく、減容化は50%以上に上がることは、図4に示したとおりである。」

b したがって、周知文献には、焼却灰を油圧プレス機により加圧成型し、円柱状の成型体を作製しているものの、その後、焼結体として、できる限り、割れても粉々にならないものとして、放射性廃棄物の焼却灰の減容化のみならず、固化できることで、安定性の面に優れ、取り扱いが簡便、安全になる技術事項が記載されているものと認められる。

c そうすると、上記周知文献の技術事項は、油圧プレス機で円柱状の成型体を作製し、焼結体として、できる限り、割れても粉々にならないものとしていることから、上記引用発明に上記周知文献の技術事項を適用すると、油圧プレス機で圧縮成形する減容処理し、圧縮成形物は、できる限り、割れても粉々にならないものとすることになり、そのような適用をすることは、むしろ阻害要因があるといえる。

(エ)さらに、一般的に、
ロール加圧による圧縮成形は、連続処理できるものの、油圧プレス機に比べて加圧ができない(減容率が小さい、例えば、引用文献1の【0018】には「圧縮形成の段階で1/6となる」、本願明細書の【0026】には「ロール加圧力又はロール間隔を変化させても成型品の密度に大きな差はなく、成型品の密度は1g/cm^(3)を超えない」と記載されている。)ものであり、
油圧プレス機は、バッチ処理であり円柱状などの特定の型に成型するものである(例えば、周知文献の【0035】には「直径40mm程度、厚さ7?8mm程度の円柱状の成型体」、本願明細書の【0021】には「油圧プレス機3は、供給された飛灰Aを金型内で油圧シリンダにより加圧して直径100mm程度の円柱状に成型する装置」と記載されている。)ものの、ロール加圧に比べて加圧できる(例えば、本願明細書の【0025】には「成型品Pの密度は成型前の約10倍である2.0g/cm^(3)前後まで増加させることができる。」と記載されている。)ものである。
そうすると、ロール加圧による圧縮成形により、連続処理で大量に処理できるものを、わざわざ、油圧プレス機に換えて、バッチ処理とすることや、油圧プレス機で円柱状などの特定の成型体とし取り扱いが簡便にしたものを、わざわざ、粉砕処理することは、当業者が容易に想到しないと考えるのが自然である。

そのような観点から考えても、引用発明の圧縮成形を油圧プレス機で行うことは、当業者であっても、容易に想到し得たものであるとはいえない。

(オ)したがって、上記相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本願発明2-4について
本願発明2-4も、本願発明1を減縮する発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第8 原査定について
1 理由1(特許法第36条第6項第2号)について
審判請求時の補正により、請求項1の「嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)以下の飛灰」が「嵩密度が0.2?0.4g/cm^(3)の飛灰」との事項に補正され、審判請求時の補正により、請求項5が削除された。
そして、上記第5で検討したように、請求項1-4に係る発明は明確でないとまではいえない。
したがって、原査定の理由1は維持することができない。

2 理由2(特許法第17条の2第3項)について
審判請求時の補正により、請求項5が削除され、当該補正は新規事項を追加するものではないといえる。
また、上記第6で検討したように、請求項1-4に係る上記補正は、新たな技術的事項を導入するものとは認めることができず、新規事項の追加に該当するものと認められない。
したがって、原査定の理由2は維持することができない。

3 理由3(特許法第29条第2項)について
上記第7で検討したように、請求項1-4に係る発明は、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由3を維持することはできない。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-02-13 
出願番号 特願2014-170090(P2014-170090)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G21F)
P 1 8・ 121- WY (G21F)
P 1 8・ 55- WY (G21F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 道祖土 新吾  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 松川 直樹
野村 伸雄
発明の名称 放射性物質を含む飛灰の処理方法  
代理人 中井 潤  

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