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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1359505
審判番号 不服2018-13654  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-12 
確定日 2020-02-05 
事件の表示 特願2016-530875「自動車の燃焼制御内燃機関の燃料圧センサを備える燃料圧システムを検査する方法及び自動車の燃焼制御内燃機関用の装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年5月21日国際公開、WO2015/070984、平成28年12月8日国内公表、特表2016-538461〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、2014年(平成26年)11月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年11月15日、(DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年5月9日(発送日) :拒絶理由通知書
平成29年8月4日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年1月9日(発送日) :拒絶理由通知書
平成30年4月2日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年8月14日(発送日) :拒絶査定
平成30年10月12日 :審判請求書、手続補正書の提出

そして、本願の請求項1ないし10に係る発明は、明りようでない記載の釈明を目的とした平成30年10月12日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
燃焼制御の作動中に少なくとも1回の検査サイクルで燃料圧が作動圧力値(11、12)から検査圧力値(13、14)に変更され、作動圧力に依存する測定項目の、作動圧力値(11、12)に割り当てられた初期測定値(17)が検知され、燃料圧が検査圧力値(13、14)に変化した後、作動圧力に依存する前記測定項目の現在値(16)が検知される、自動車の燃焼制御内燃機関の、燃料圧センサ(10)を備える燃料圧システムを検査する方法であって、
前記現在値(16)と前記初期測定値(17)とがパーセンテージ値に変換されることによって互いに関連付けされ、前記初期測定値(17)には100%のパーセンテージ値が割り当てられ、設定値(15)のパーセンテージ値が前記測定項目に割り当てられ、次いで、
設定値(15)と現在値(16)の前記パーセンテージ値が互いに比較され、前記現在値(16)のパーセンテージ値と前記設定値(15)のパーセンテージ値との偏差が所定の許容差を超えるとエラーが検知される
方法。」

第2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


引用文献1.特開2006-307671号公報
引用文献2.特開2007-303467号公報

第3 引用文献
1 引用文献1
本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された上記引用文献1(特開2006-307671号公報)には、「内燃機関の燃料噴射装置」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。

(1)「【0001】
本発明は、燃料を燃焼室に噴射する内燃機関の燃料噴射装置に関し、特に、燃料噴射系の異常を診断する燃料噴射装置に関する。」

(2)「【0005】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、異常判定のための圧力センサを別個に設けることなく、燃料圧力センサの異常を適切に診断することができる内燃機関の燃料噴射装置を提供することを目的とする。」

(3)「【0007】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、高圧の燃料を貯蔵する蓄圧室(コモンレール7)と、蓄圧室に貯蔵された燃料を噴射するインジェクタ8と、インジェクタ8から噴射すべき目標燃料噴射量QINJを設定する目標燃料噴射量設定手段(ECU2,図2のステップ4)と、蓄圧室内の燃料の圧力(レール圧RP)を検出する燃料圧力センサ31と、設定された目標燃料噴射量QINJおよび検出された燃料の圧力に基づいて、インジェクタ8の燃料噴射時間TINJを設定する燃料噴射時間設定手段(ECU2,図2のステップ5)と、蓄圧室内の燃料の圧力を制御する燃料圧力制御手段(高圧ポンプ9,リリーフ弁11)と、燃料圧力制御手段により蓄圧室内の燃料の圧力を変化させるとともに、燃料の圧力を変化させたときの、目標燃料噴射量QINJとインジェクタ8から実際に噴射された実燃料噴射量QINJACTとのずれに起因して変動するパラメータ(F/B補正量ΔQF/B)に基づいて、燃料圧力センサ31およびインジェクタ8を含む燃料噴射系20の異常を診断する燃料噴射系異常診断手段(ECU2,図5のステップ31)と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この内燃機関の燃料噴射装置によれば、インジェクタから噴射すべき目標燃料噴射量が、目標燃料噴射量設定手段によって設定されるとともに、この目標燃料噴射量と燃料圧力センサで検出された蓄圧室内の燃料の圧力に基づき、燃料噴時間設定手段によって、インジェクタの燃料噴射時間が設定される。そして、この燃料噴射時間に基づいて、インジェクタによる燃料の噴射が行われる。また、燃料圧力制御手段によって蓄圧室内の燃料の圧力を変化させたときの、目標燃料噴射量とインジェクタから実際に噴射された実燃料噴射量とのずれに起因して変動するパラメータに基づき、燃料噴射系異常診断手段によって、燃料圧力センサおよびインジェクタを含む燃料噴射系の異常が診断される。
【0009】
以上のように、この燃料噴射装置では、目標燃料噴射量と蓄圧室内の燃料の圧力に基づいて燃料噴射時間を設定し、設定した燃料噴射時間に基づいて、インジェクタから燃料を噴射するので、蓄圧室内の燃料の圧力を検出する燃料圧力センサおよびインジェクタを含む燃料噴射系が正常であれば、インジェクタから実際に噴射される実燃料噴射量は目標燃料噴射量とほぼ一致する。一方、燃料噴射系に異常が生じた場合、例えば燃料圧力センサに異常がある場合には、その検出値が実際の燃料圧力に対してずれるため、この検出値に基づいて設定された燃料噴射時間が、適正値からずれることによって、実燃料噴射量が目標燃料噴射量に対してずれてしまう。また、例えばインジェクタに異常がある場合には、燃料噴射時間が正しく設定されても、やはり実燃料噴射量が目標燃料噴射量に対してずれてしまう。
【0010】
したがって、燃料圧力が変化した場合、燃料噴射系が正常であれば、実燃料噴射量が目標燃料噴射量に対してほぼ一致する状態に保たれる一方、燃料圧力センサまたはインジェクタが異常であれば、実燃料噴射量が目標燃料噴射量に対してずれることになる。このような観点から、本発明によれば、圧力制御手段によって燃料圧力を変化させるとともに、そのときの実燃料噴射量と目標燃料噴射量とのずれに起因して変動するパラメータに基づいて、燃料噴射系の異常を診断するので、この診断を適切に行うことができる。また、蓄圧室に異常判定のための圧力センサを別個に設ける必要がなくなるので、それにより、製造コストを削減することができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射装置1において、内燃機関のアイドル運転時に、内燃機関の回転数(エンジン回転数NE)が、目標アイドル回転数NECMDになるように目標燃料噴射量QINJを補正するための補正量(F/B補正量ΔQF/B)を算出するアイドルフィードバック補正手段(ECU2,図2のステップ3)をさらに備え、パラメータは、アイドル運転時において、燃料圧力制御手段により蓄圧室内の燃料の圧力を変化させたときに、アイドルフィードバック補正手段によって算出された補正量であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、内燃機関のアイドル運転時には、アイドルフィードバック補正手段によって補正量が算出され、この補正量により目標燃料噴射量が補正されることによって、内燃機関の回転数が目標アイドル回転数になるように制御される。
【0013】
アイドル運転時に、実燃料噴射量が目標燃料噴射量に対してずれると、アイドル回転数もまた、目標アイドル回転数に対してずれるため、アイドルフィードバック補正手段は、このずれを補償するように補正量を算出する。したがって、この補正量を、実燃料噴射量の目標燃料噴射量に対するずれに起因して変動するパラメータとして用いることができ、燃料圧力制御手段により燃料圧力を変化させたときに算出された補正量に基づいて、燃料噴射系の異常診断を適切に行うことができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の燃料噴射装置1において、インジェクタ8の異常を診断するインジェクタ異常診断手段(ECU2,図8のステップ41)をさらに備え、燃料噴射系異常診断手段は、燃料噴射系20が異常であると診断(図5のステップ31:YES)し、且つインジェクタ異常診断手段によりインジェクタ8が正常であると診断したとき(図8のステップ41:YES)に、燃料圧力センサ31が異常であると診断する(図5のステップ35)ことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、インジェクタ異常診断手段によって燃料噴射系のうちのインジェクタの異常が診断される。また、燃料噴射系異常診断手段によって燃料噴射系が異常であると判定され、且つインジェクタが正常であると判定されたときには、燃料噴射系のうちの燃料圧力センサが異常であると特定することができる。」

(4)「【0026】
図2は、このアイドル時TINJ算出処理を示している。本処理は、所定の時間ごとに実行される。まず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、アイドルフラグF_IDLEが「1」であるか否かを判別する。このアイドルフラグF_IDLEは、エンジン3がアイドル運転状態にあるか否かを表すものであり、例えば、アクセル開度APがほぼ値0であり、且つエンジン回転数NEが所定回転数NEREF以下のときには、エンジン3がアイドル運転状態にあるとして「1」にセットされる。なお、この所定回転数NEREFは、後述するように実燃料噴射量QINJACTに増大側ずれが生じ、目標アイドル回転数NECMDを上回ったときのエンジン回転数NEのピーク値よりも大きな値に設定されている。
【0027】
上記ステップ1の答がNOで、エンジン3がアイドル運転状態にないときには、そのまま本処理を終了する。一方、ステップ1の答がYESで、エンジン3がアイドル運転状態にあるときには、目標アイドル回転数NECMDから、そのときのエンジン回転数NEを減算することによって、回転数偏差ΔNEを算出する(ステップ2)。
【0028】
次に、上記ステップ2で算出した回転数偏差ΔNEに基づいて、フィードバック補正量(以下「F/B補正量」という)ΔQF/B(パラメータ)を算出する(ステップ3)。このF/B補正量ΔQF/Bは、エンジン回転数NEが目標アイドル回転数NECMDになるように、アイドル運転時用の基本燃料噴射量QBASEを補正するためのものであり、回転数偏差ΔNEに基づき、PIDフィードバック制御によって算出される。
【0029】
次いで、基本燃料噴射量QBASEに、上記ステップ3で算出したF/B補正量ΔQF/Bを加算することによって、目標燃料噴射量QINJを算出する(ステップ4)。
【0030】
次に、上記ステップ4で算出した目標燃料噴射量QINJ、および燃料圧力センサ31によって検出されたレール圧RPに基づき、図3に示すQINJ-TINJマップを検索することによって、燃料噴射時間TINJを算出する(ステップ5)。このQINJ-TINJマップでは、燃料噴射時間TINJは、基本的には目標燃料噴射量QINJが増大するのに応じて、より大きな値に設定される。また、燃料噴射時間TINJは、燃料噴射量QINJが同じ場合、レール圧RPが大きいほど、より小さな値に設定される。インジェクタ8は、算出された燃料噴射時間TINJに基づいて駆動されることにより、実燃料噴射量QINJACTが、算出された燃料噴射量QINJになるように制御される。」

(5)「【0053】
前述したように、燃料噴射時間TINJは、目標燃料噴射量QINJおよびレール圧RPに基づいて算出され(ステップ5)、算出された燃料噴射時間TINJに基づいてインジェクタ8が駆動されることによって、実燃料噴射量QINJACTが目標燃料噴射量QINJになるように制御される。したがって、燃料圧力センサ31が正常であれば、図7(a)に示すように、目標レール圧RPCMDが所定レール圧RPREFから第1レール圧RP1に変化しても、それに応じて燃料噴射時間TINJが適正に算出されることにより、実燃料噴射量QINJACTが目標燃料噴射量QINJにほぼ一致する状態に保たれる。その結果、エンジン回転数NEが目標アイドル回転数NECMDに維持されることによって、F/B補正量ΔQF/Bがほぼ値0になり、目標燃料噴射量QINJは、アイドル運転時用の基本燃料噴射量QBASEにほぼ等しい状態で推移する。
【0054】
これに対し、燃料圧力センサ31に異常が発生し、その出力特性が変化したときには、実際とは異なるレール圧RPが検出され、このレール圧RPに基づいて燃料噴射時間TINJが算出されてしまう。具体的には、図6の破線(b)のように検出値が実際のレール圧RPよりも大きい側にずれている場合には、燃料噴射時間TINJが適正値よりも小さな値に設定されるため、実燃料噴射量QINJACTが、目標燃料噴射量QINJよりも小さい側にずれてしまう(以下「減少側ずれ」という)。
【0055】
その結果、目標レール圧RPCMDを第1レール圧RP1に設定すると、実燃料噴射量QINJACTの減少側ずれにより、図7(b)に示すように、エンジン回転数NEが目標アイドル回転数NECMDを下回るようになる。ECU2は、この回転数の差を補償するようにF/B補正量ΔQF/Bを算出する(ステップ3)ことにより、目標燃料噴射量QINJを増大させることによって、エンジン回転数NEを目標アイドル回転数NECMDに収束させる。
【0056】
一方、図6の破線(c)のように、検出値が実際のレール圧RPよりも小さい側にずれている場合には、燃料噴射時間TINJが適正値よりも大きな値に設定されるため、実燃料噴射量QINJACTが、目標燃料噴射量QINJよりも大きい側にずれてしまう(以下「増大側ずれ」という)。
【0057】
その結果、目標レール圧RPCMDを第1レール圧RP1に設定すると、実燃料噴射量QINJACTの増大側ずれにより、図7(c)に示すように、エンジン回転数NEが目標アイドル回転数NECMDを上回るようになる。ECU2は、この回転数の差を補償するようにF/B補正量ΔQF/Bを算出する(ステップ3)ことにより、目標燃料噴射量QINJを減少させることによって、エンジン回転数NEを目標アイドル回転数NECMDに収束させる。
【0058】
また、インジェクタ8の噴射特性が変化した場合、燃料圧力センサ31が正常で、燃料噴射時間TINJが目標燃料噴射量QINJおよびレール圧RPに基づいて正しく設定されたとしても、目標燃料噴射量QINJに対する実燃料噴射量QINJACTの減少側ずれまたは増大側ずれが同様に生じるおそれがある。その場合も、燃料圧力センサ31が異常の場合と同様、このようなずれに応じて、F/B補正量ΔQF/Bが算出され、目標燃料噴射量QINJが増大側または減少側に補正される。
【0059】
したがって、図4および5の燃料噴射系異常判定処理において、ステップ31の答がNOで、補正量偏差ΔQの絶対値|ΔQ|が所定の範囲内にあるときには、レール圧RPを変化させたときのF/B補正量ΔQF/Bの変化量が小さく、燃料噴射系20は正常であると判定することができる。一方、補正量偏差ΔQが所定の範囲内にないとき(ステップ31:YES)には、F/B補正量ΔQF/Bの変化量が大きく、実燃料噴射量QINJACTに増大側または減少側ずれが生じており、インジェクタ8の噴射特性および燃料圧力センサ31の出力特性の少なくとも一方が大きくずれていて、燃料噴射系20に異常が発生していると判定することができる。また、ステップ35の判別により、補正量偏差ΔQの正負に応じて、燃料噴射系20に増大側ずれおよび減少側ずれのいずれが発生しているかを判定することができる。
【0060】
また、前述したように、第1レール圧RP1および第2レール圧RP2は、レール圧RPの上限付近および下限付近の値にそれぞれ設定されている。これにより、両者RP1,RP2間の差を最大限、大きくすることにより、図6の破線(b)および(c)に示すように、燃焼圧力センサ31に異常が生じた場合、検出値の正常時に対するずれ幅をより大きくすることができ、それにより補正量偏差ΔQがより明確に現れることによって、燃料圧力センサ31の異常をより正確に判別することができる。」

(6)「【0065】
以上のように、本実施形態によれば、レール圧RPを第1レール圧RP1および第2レール圧RP2に変化させたときの補正量偏差ΔQの絶対値|ΔQ|が所定の範囲内にあるときには、F/B補正量ΔQF/Bの変化量が小さく、実燃料噴射量QINJACTが目標燃料噴射量QINJにほぼ一致しており、燃料噴射系20は正常であると判定することができる。一方、補正量偏差ΔQ絶対値|ΔQ|が所定の範囲内にないときには、F/B補正量ΔQF/Bの変化量が大きく、実燃料噴射量QINJACTに増大側または減少側ずれが生じており、インジェクタ8の噴射特性および燃料圧力センサ31の出力特性の少なくとも一方が大きくずれていて、燃料噴射系20に異常が発生していると判定することができる。また、補正量偏差ΔQの正負に応じて、燃料噴射系20に増大側ずれおよび減少側ずれのいずれが発生しているかを判定することができる。」

(7)「【0071】
また、実施形態では、レール圧RPを、所定レール圧RPREFよりも大きな第1レール圧RP1と小さな第2レール圧RP1とに変化させることによって、補正量偏差ΔQが明確に現れるようにしているが、これに限定されることなく、レール圧RPを、所定レール圧RPREFから他の1つの値に変化させ、そのときのF/B補正量ΔQF/Bの値の大きさおよび符号に応じて、燃料噴射系20の異常を診断してもよい。」

上記記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「アイドルフィードバック補正手段の作動中に少なくとも1回の検査サイクルで燃料圧力が所定レール圧RPREFから第1レール圧RP1に変更され、レール圧RPに依存する燃料噴射量の、前記所定レール圧RPREFに割り当てられた基本燃料噴射量QBASEが検知され、前記燃料圧力が前記第1レール圧RP1に変化した後、前記レール圧RPに依存する前記燃料噴射量の実燃料噴射量QINJACTが検知される、車両のアイドルフィードバック補正手段エンジンの、燃料圧力センサを備える燃料噴射系を異常診断する方法であって、
前記目標燃料噴射量QINJと前記実燃料噴射量QINJACTが互いに比較され、前記実燃料噴射量QINJACTと前記目標燃料噴射量QINJとのずれが所定の範囲内にないと異常が発生していると判定する
方法。」(以下、「引用発明」という。)

2 引用文献2
本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された上記引用文献2(特開2007-303467号公報)には、「自動車診断方法および自動車制御装置」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。

「【0014】
一般的に、規格化特性値によって、適応特性値が初期値からしきい値の方向にどの程度まで適応され変化、あるいは偏差しているかを表すことができる。その場合に、規格化特性値は、例えばパーセントで、あるいは0と±1の間の値として表すことができる。規格化特性値は、一の適応特性値から導き出しても良いし、例えば、後述するように、システムの動作の妥当性を示す値として、複数の適応特性値から導き出しても良い。」

上記記載から、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

「一般的に、規格化特性値によって、適応特性値が初期値からしきい値の方向にどの程度まで適応され変化、あるいは偏差しているかを表すことができ、その場合に、規格化特性値は、パーセントで表すことができること。」

第4 当審の判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「燃料圧力」は、本願発明の「燃料圧」に相当し、以下同様に、「所定レール圧RPREF」は「作動圧力値」に、「第1レール圧RP1」は「検査圧力値」に、「レール圧RP」は「作動圧力」に、「車両」は「自動車」に、「エンジン」は「内燃機関」に、「燃料圧力センサ」は「燃料圧センサ」に、「燃料噴射系」は「燃料圧システム」に、「異常診断」は「検査」に、「ずれ」は「偏差」に、「所定の範囲内にない」は「許容差を超える」に、「異常が発生していると判定する」は「エラーが検知される」に、それぞれ相当する。
また、本願明細書の段落【0006】の「燃焼制御は、例えばラムダ制御、燃焼室圧力制御、燃焼プロセス制御、回転数制御、又はトルク制御によって行われる。エンジンは、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン、ガスエンジンなどである。」という記載から、本願発明の「燃焼制御」には回転数制御が含まれる。そして、引用発明の「アイドルフィードバック補正手段」は、回転数制御であるから、本願発明の「燃焼制御」に相当する。
また、本願明細書の段落【0007】の「適切な測定変数の例は、燃料噴射時間、供給される燃料質量、供給される燃料容積である。燃料噴射時間の制御変数の下記の記述は、燃料質量、燃料容積などの別の適宜の測定変数にも同様に当てはまる。以下で燃料噴射時間に言及する場合、それは一例であると理解されたい。」という記載から、本願発明の「測定項目」(測定変数)には「供給される燃料質量」及び「供給される燃料容積」が含まれる。そして、引用発明の「燃料噴射量」は、供給される燃料質量又は供給される燃料容積であるから、本願発明の「測定項目」に相当する。
そして、引用発明の「基本燃料噴射量QBASE」は、本願発明の「初期測定値」に相当し、同様に、「実燃料噴射量QINJACT」は「現在値」に相当し、「目標燃料噴射量QINJ」は「設定値」に相当する。
したがって、引用発明の「目標燃料噴射量QINJと実燃料噴射量QINJACTが互いに比較され、前記実燃料噴射量QINJACTと前記目標燃料噴射量QINJとのずれが所定の範囲内にないと異常が発生していると判定する」ことは、本願発明の「設定値と現在値の前記パーセンテージ値が互いに比較され、前記現在値のパーセンテージ値と前記設定値のパーセンテージ値との偏差が所定の許容差を超えるとエラーが検知される」ことと、「設定値と現在値の値が互いに比較され、前記現在値の値と前記設定値の値との偏差が許容差を超えるとエラーが検知される」という限りにおいて一致する。

よって、両者は、
「燃焼制御の作動中に少なくとも1回の検査サイクルで燃料圧が作動圧力値から検査圧力値に変更され、作動圧力に依存する測定項目の、作動圧力値に割り当てられた初期測定値が検知され、燃料圧が検査圧力値に変化した後、作動圧力に依存する前記測定項目の現在値が検知される、自動車の燃焼制御内燃機関の、燃料圧センサを備える燃料圧システムを検査する方法であって、
設定値と現在値の値が互いに比較され、前記現在値の値と前記設定値の値との偏差が許容差を超えるとエラーが検知される方法。」
という点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
本願発明は、「現在値と初期測定値とがパーセンテージ値に変換されることによって互いに関連付けされ、前記初期測定値には100%のパーセンテージ値が割り当てられ、設定値のパーセンテージ値が前記測定項目に割り当てられ、次いで、
設定値と現在値の前記パーセンテージ値が互いに比較され、前記現在値のパーセンテージ値と前記設定値のパーセンテージ値との偏差が所定の許容差を超えるとエラーが検知される」のに対し、
引用発明は、「目標燃料噴射量QINJと実燃料噴射量QINJACTが互いに比較され、前記実燃料噴射量QINJACTと前記目標燃料噴射量QINJとのずれが所定の範囲内にないと異常が発生していると判定する」ものではあるが、本願発明のようにパーセンテージ値に変換して比較するように特定されていない点。

2 判断
相違点について検討する。
相違点は、要するに、本願発明においては、現在値と設定値が、初期測定値を100%とするパーセンテージ値に変換して比較されるのに対し、引用発明においては、現在値(引用発明の「実燃料噴射量QINJACT」)と設定値(引用発明の「目標燃料噴射量QINJ」)が、パーセンテージ値に変換されずにそのままの値で比較されるということである。
しかしながら、異常判定において、現在値と設定値を、パーセンテージ値に変換して比較することは、周知慣用の技術手段(以下、「周知慣用技術」という。必要であれば、上記「引用文献2記載事項」、特開2006-220349号公報(特に段落【0083】を参照。)、特開2008-299876号公報(特に段落【0017】を参照。)、特開2010-506269号公報(特に段落【0069】及び【0072】を参照。)及び特開2011-60010号公報(特に段落【0044】を参照。)を参照。)であるから、偏差を求める際にパーセンテージ値に変換して比較するか、そのままの値を使用して比較するかは、当業者が必要に応じて選択し得る設計事項といえる。その際に「初期測定値を100%とするパーセンテージ値」とすることもまた設計事項の範疇である。
そうすると、引用発明において、現在値(引用発明の「実燃料噴射量QINJACT」)と設定値(引用発明の「目標燃料噴射量QINJ」)をパーセンテージ値に変換して比較することにより、相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。
また、本願発明が奏する効果は、引用発明及び周知慣用技術から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
本願発明は、引用発明及び周知慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-09-05 
結審通知日 2019-09-10 
審決日 2019-09-24 
出願番号 特願2016-530875(P2016-530875)
審決分類 P 1 8・ 574- Z (F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 戸田 耕太郎  
特許庁審判長 渋谷 善弘
特許庁審判官 水野 治彦
金澤 俊郎
発明の名称 自動車の燃焼制御内燃機関の燃料圧センサを備える燃料圧システムを検査する方法及び自動車の燃焼制御内燃機関用の装置  
代理人 赤澤 日出夫  

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