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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02B
管理番号 1359507
審判番号 不服2018-14599  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-02 
確定日 2020-02-04 
事件の表示 特願2014-111030「ガスで駆動される内燃機関のガス状混合物に点火するための点火装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月18日出願公開、特開2014-238089〕について、次のとおり審決す る。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年5月29日(パリ条約による優先権主張2013年(平成25年)6月5日(DE)ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成29年11月16日付け(発送日:平成29年11月20日)で拒絶理由が通知され、その指定期間内の平成30年2月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成30年6月25日付け(発送日:平成30年7月2日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成30年11月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成30年11月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年11月2日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、審判請求人により付されたものである。)
「ガスを用いて駆動される内燃機関の主燃焼室(11)においてガス状混合物に点火するための点火装置(1)であり、当該点火装置(1)は、予燃焼室(4)を形成する内部凹所(3)であって、前記予燃焼室(4)においてガス状混合物に点火を行うための点火火花を提供する装置(6)を備える内部凹所を有するハウジング(2)を有しており、当該ハウジング(2)は、前記主燃焼室(11)において前記ガス状混合物に点火を行うために、点火トーチを前記予燃焼室(4)から前記主燃焼室(11)内へと通過させるためのオーバーフロー開口部(10)を有している点火装置において、前記内部凹所(3)は前記オーバーフロー開口部(10)に向かって断面に関して拡大する領域(8)を有しており、
前記領域(8)は、シリンダ状部分(7)を起点として円錐状に拡大す る、底部(9)を備える内部凹所を有しており、前記底部の上方に、概ね径方向外側に延在する多数の孔が設けられており、当該多数の孔は前記ハウジング(2)の外壁を貫通しているか、
あるいは、前記領域(8)はシリンダ状部分を起点とする内部凹所であって、当該内部凹所の外部輪郭が球面キャップ状に形成されている内部凹所を有しており、前記外部輪郭のキャップ外面に、概ね径方向外側に延在する孔が設けられており、当該孔は前記ハウジング(2)の外壁を貫通しており、
前記領域(8)の内径が、全体として前記シリンダ状部分(7)の内径よりも大きく、
前記オーバーフロー開口部(10)の向きは、前記点火トーチが前記オーバーフロー開口部を通過する際に、前記主燃焼室に設けられているピストンの下降移動の方向において衝撃を受けるように選択されていることを特徴とする点火装置(1)。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年2月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「ガスを用いて駆動される内燃機関の主燃焼室(11)においてガス状混合物に点火するための点火装置(1)であり、当該点火装置(1)は、予燃焼室(4)を形成する内部凹所(3)であって、前記予燃焼室(4)においてガス状混合物に点火を行うための点火火花を提供する装置(6)を備える内部凹所を有するハウジング(2)を有しており、当該ハウジング(2)は、前記主燃焼室(11)において前記ガス状混合物に点火を行うために、点火トーチを前記予燃焼室(4)から前記主燃焼室(11)内へと通過させるためのオーバーフロー開口部(10)を有している点火装置において、前記内部凹所(3)は前記オーバーフロー開口部(10)に向かって断面に関して拡大する領域(8)を有しており、
前記領域(8)は、シリンダ状部分(7)を起点として円錐状に拡大する、底部(9)を備える内部凹所を有しており、前記領域(8)の内径が、全体として前記シリンダ状部分(7)の内径よりも大きいことを特徴とする点火装置(1)。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「領域(8)」について、「底部の上方に、概ね径方向外側に延在する多数の孔が設けられており、当該多数の孔はハウジング(2)の外壁を貫通しているか、あるいは、領域(8)はシリンダ状部分を起点とする内部凹所であって、当該内部凹所の外部輪郭が球面キャップ状に形成されている内部凹所を有しており、前記外部輪郭のキャップ外面に、概ね径方向外側に延在する孔が設けられており、当該孔は前記ハウジング(2)の外壁を貫通しており、」との限定を付加するものであり、また、「オーバーフロー開口部(10)」について、「オーバーフロー開口部(10)の向きは、点火トーチが前記オーバーフロー開口部を通過する際に、主燃焼室に設けられているピストンの下降移動の方向において衝撃を受けるように選択されている」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるか)について、以下検討する。

(1)特許法36条6項2号(明確性)について
ア 本件補正後の請求項1には、「オーバーフロー開口部(10)の向きは、点火トーチが前記オーバーフロー開口部を通過する際に、主燃焼室に設けられているピストンの下降移動の方向において衝撃を受けるように選択されている」との記載において、点火トーチが前記オーバーフロー開口部を通過する際に、「主燃焼室に設けられているピストンの下降移動の方向において衝撃を受けるように選択されている」という記載が意味する事項が明確でない。本願の発明の詳細な説明には、オーバーフロー開口部の向きに関し、その段落【0017】に「本発明のさらなる構成によれば拡大する領域は、シリンダ状部分を起点として円錐状に拡大する、底部を備える内部凹所を有しており、当該底部の上方に、概ね径方向外側に延在する多数の孔が設けられており、当該多数の孔はハウジングの外壁を貫通している。」と記載され、段落【0020】に「本発明のさらなる構成によれば、オーバーフロー開口部を形成する孔は、シリンダ状部分の長手方向中心軸に対する直角とは異なる角度で設けられている。このときオーバーフロー開口部の向きは好適に、点火トーチがオーバーフロー開口部を通過する際に、主燃焼室に設けられているピストンの下降移動の方向において衝撃を受けるように選択されている。点火トーチはそれにより、希薄混合気運転時でも発火力のある主燃焼室内のガス状混合物に向かってガイドされる。」と記載されており、そして図1には、オーバーフロー開口部(10)は、長手方向中心軸(図の一点鎖線)に対して直角ではなく主燃焼室(11)側に向いた方向(図面の斜め下方)であることが示されている。しかしながら、「ピストンの下降移動の方向において衝撃を受けるように」という記載について、何が衝撃を受け、その衝撃を受ける部位がどこであるのか等、技術常識を踏まえても、当該記載の技術的事項を明確に把握することができない。したがって、上記記載事項及び図示内容を総合しても、本件補正後の請求項1の「オーバーフロー開口部(10)の向きは、点火トーチが前記オーバーフロー開口部を通過する際に、主燃焼室に設けられているピストンの下降移動の方向において衝撃を受けるように選択されている」という記載は明確であるとはいえない。

イ 小括
よって、本件補正後の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合しない。

(2)特許法29条2項(進歩性)について
本件補正後の請求項1の「オーバーフロー開口部(10)の向きは、点火トーチが前記オーバーフロー開口部を通過する際に、主燃焼室に設けられているピストンの下降移動の方向において衝撃を受けるように選択されていること」との記載は、上述のとおり明確ではないが、「オーバーフロー開口部(10)の向きは、点火トーチが主燃焼室に設けられているピストンに衝突する向きに選択されていること」と理解することもできる。
そこで、当該理解のもと、本件補正後の請求項1は明確であると仮定し、予備的に特許法29条2項について、以下検討する。

ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記第2の[理由]1(1)に記載したとおりのものである。

イ 引用文献、引用発明等
(ア)引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2011-518980号公報(以下「引用文献1」という。)には、「燃焼機関の副室ユニット」について、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審において付した。以下、同様。)

・「【請求項1】
燃焼機関のシリンダにおける副室ユニットであり、副室及び該副室に接続される細長いノズル室を有し、該副室を該シリンダの主燃焼空間に接続するために該ノズル室の一端に多数の開口群を備える副室ユニットであって、
前記ノズル室は、少なくとも前記開口群の位置で拡大される部分であり、前記ノズル室の横断方向におけるその径が前記開口群と前記副室との間にある部分の径よりも大きい部分を含む、
ことを特徴とする副室ユニット。
【請求項2】
前記ノズル室における前記拡大された部分の最も広い場所の径は、前記開口群と前記副室との間にある部分の径の1.25?1.65倍だけ大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載の副室ユニット。
【請求項3】
前記ノズル室における前記拡大された部分は、前記開口群に向かって滑らかに膨張するように配置される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の副室ユニット。
【請求項4】
前記ノズル室における前記拡大された部分は、前記開口群から前記副室に向かって収束する錐台を含むように形成され、且つ、
前記錐台の錐角は、15度より小さく、好適には、約10度である、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の副室ユニット。
【請求項5】
前記開口群の縁群は、前記ノズル室の側で丸められる、
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の副室ユニット。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に従った燃焼機関のシリンダにおける副室(pre-chamber)ユニットに関する。」
・「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、特に、そのノズル室及びそれら開口群の耐久性を向上させるために使用され得る副室構造を提供することである。別の目的は、流れ技術及びその燃焼反応の進行の観点で有利となる、その副室からそのシリンダの主燃焼空間へのガス供給をもたらし、その結果、良好な性能を保証することである。更なる目的は、製造技術の観点で有利となる解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的群は、主に、請求項1に記載される方法であり、他の請求項群で更なる詳細が記載される方法によって実現される。
【0008】
本発明によると、そのノズル室は、少なくともそれら開口群の位置で拡大される部分を含み、そのノズル室の横断方向におけるその径は、それら開口群とその副室との間にある部分の径よりも大きい。このようにして、それら開口群の間の距離は、より長いものとなり、そのことは、そのノズル室及びそれら開口群を含むその部分の耐久性を向上させる傾向があり、また、その内側にあるそれら開口群を機械加工し易くする。
【0009】
そのノズル室の拡大された部分における最も広い場所の径が、それら開口群とその副室との間にある部分の径よりも約1.25?1.65倍だけ大きい場合に、製造の観点で有利な解決策が得られる。
【0010】
流れ技術の観点から、それら開口群に向かって滑らかに膨張するようにそのノズル室の拡大部分を配置することが好適である。実際には、そのノズル室の拡大部分は、好適には、それら開口群からその副室に向かって収束する錐台(truncated cone)を構成するように形成される。その場合、その錐台の錐角(coning angle)は、好適には、15度より小さく、好適には、約10度である。
【0011】
耐久性の面で不利となる鋭い角度及び鋭い縁を避けるために、それら開口群の縁群は、そのノズル室の側で丸められる。これは、その室におけるこの部分の拡大された形状及びそれら開口群の間の増大された距離のために、より実行し易いものとなっている。
【0012】
その拡大部は、好適には、そのノズル室の全長の50%以上を構成する。これは、そのノズル室の滑らかな形状を確保するのに寄与する。」
・「【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に従って形成される、開口群を含む副室ユニットの一部を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図において、参照符号1は、副室ユニットを参照し、それは、実際の副室2の部分を含み、その副室2にノズル室3が接続され、そのノズル室は、シリンダの主燃焼空間5に開放されている多くの開口群4を含む。明瞭化のため、そのシリンダ、そのシリンダヘッド、及びその副室の上部は、ここでは詳細には示されていない。
【0016】
実際には、その図に従った副室ユニット1は、例えば、特に米国特許第4426966号明細書で示されるようにノズル室3が個別の構成要素とされる等、様々な方法で実施され得る。同様に、そのシリンダヘッド上におけるその副室ユニットの全体的な支持は、様々な方法で実施され得る。同じことが、その副室ユニットの上部(図示せず。)、すなわち、主燃焼空間5に対して最も外側にある部分にも当てはまり、そこには、それぞれの解決策に従って、パイロット燃料噴射手段、グローエレメント、又はスパークプラグ等の点火手段が提供される。それらはここでは詳細に示されていないが、本発明は、実際には、ノズル室3の構造及び形状に関するので、本発明は、それら他の構造群に関連する選択肢及び解決策に関係なく適用され得る。
【0017】
通常、ノズル室3は、細長く極めて狭い通路であり、その一端には開口群4が位置付けられている。本発明によると、ノズル室3は、副室2に接続される部分3aと、その部分3aに比べて拡大或いは拡張された、開口群4のための部分3bとを含む。その部分3bは、部分的に錐台として形成され、それにより、その錐角は、製造技術及びその流れの観点で有利となる約10度となるように選択される。その解決策は、それら開口群4の間のより大きな距離を可能にする。それら開口群の内縁群4aは、好適には、丸められる。これらの全ては、その構造の耐久性及び機能を向上させる傾向にある。」

・図1には、部材1(副室ユニット)の全体を構成するハウジング(図面の斜線部分)が示されており、同様に、部材4(開口)は前記ハウジングの外壁を貫通している点、部材3b(開口群4のための部分)は底部を備える内部凹所を有している点、複数の部材4(開口)は、底部の上方に、概ね径方向外側に延在するよう設けられている点、部材3a及び部材3b(開口群のための部分)の外部輪郭が球面キャップ状に形成されており、前記外部輪郭のキャップ外面に、部材4(開口群)が設けられている点、部材4(開口群)の向きは、部材1(副室ユニット)の長手方向中心軸に対する直角よりも部材5(主燃焼空間)側に向いた方向に設けられている点、が示されている。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「ガス供給をして駆動される燃焼機関の主燃焼空間5において希薄な燃料混合物に点火するための副室ユニット1であり、当該副室ユニット1は、副室2及び副室に接続される細長いノズル室3であって、前記副室2及び前記副室に接続される細長いノズル室3において希薄な燃料混合物に点火を行うためのスパークプラグを備える前記副室2及び副室に接続される細長いノズル室3を有するハウジングを有しており、当該ハウジングは、前記主燃焼空間5において前記希薄な燃料混合物に点火を行うために、燃焼反応が前記副室2及び前記副室に接続される細長いノズル室3から前記主燃焼空間5に進行するための開口群4を有している副室ユニット1において、
前記副室2及び副室に接続される細長いノズル室3は、前記開口群4に向かって径が拡大する開口群4のための部分3bを有しており、前記開口群のための部分3bは、前記副室2に接続される部分3aに続く部分的に錐台として拡大する、底部を備える内部凹所を有しており、前記底部の上方に、概ね径方向外側に延在する複数の開口群4が設けられており、当該複数の開口群4は前記ハウジングの外壁を貫通しているか、
あるいは、前記開口群のための部分3bは前記副室に接続される部分3aに続く内部凹所であって、当該内部凹所の外部輪郭が球面キャップ状に形成されている内部凹所を有しており、前記外部輪郭のキャップ外面に、概ね径方向外側に延在する開口群4が設けられており、当該開口群4は前記ハウジングの外壁を貫通しており、
前記開口群4のための部分3bの径が、前記副室に接続される部分3aの径よりも大きい部分を含み、
前記開口群4の向きは、前記副室ユニット1の長手方向中心軸に対する直角よりも前記主燃焼空間5側に向いた方向に設けられている副室ユニット 1。」

(イ)当審で新たに引用する、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2004-251213号公報(以下「引用文献2」という。)には、「副室式内燃機関」について、図面(特に図1を参照。)とともに、次の記載がある。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
主燃焼室及び副室を有する副室式内燃機関において、ピストン頂面を平面で構成し、副室に連通し且つ主燃焼室内に火炎ジェットを噴射するノズルは、噴射された火炎ジェットが、ピストン頂面の中心からピストン半径寸法の1/2以上半径方向外方へ離隔した位置に衝突する様に構成されていることを特徴とする副室式内燃機関。」

・「【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、燃焼の均一化によって燃焼効率の向上を図り、NOx及び未燃炭化水素の排出量を低減させる副室式内燃機関を提供することを目的としている。」
・「【0015】
図1において、全体を符号Aで示す副室式ガスエンジンAは、シリンダライナ1内を上下に摺動するピストン2とシリンダライナ1を含むシリンダブロック3の上方にガスケット4を介して取付けられたシリンダヘッド5を有している。
【0016】
ピストン2の上端であるピストン頂面2aは平面で構成されている。一方、シリンダヘッド5の前記ピストン頂面2aとで主燃焼室(キャビティー)6が形成される領域5aも図示の例では平面に形成されている。したがって、上死点における主燃焼室6はトップクリアランスに等しく円盤状空間に形成されている。
【0017】
シリンダヘッド5の主燃焼室6を形成する領域5aの中央上方には、副室ホルダ7Hが領域5aにノズル7の先端を突出させるように格納されている。
【0018】
またノズル7の先端には図2に示すように、4つの噴孔7aが周方向に等分割角度に配置され、上死点近傍においてその4つの噴孔7aから噴射された火炎ジェットが、ピストン頂面2aの中心からピストン半径寸法Dpの1/2以上半径方向外方へ離隔した位置に衝突し、ピストン2のクレビス部(ピストンの外周で上縁部)2bまで到達する様に構成されている。
【0019】
前記4つの噴孔7aは副室ホルダ7H内に形成された副室8に連通してい る。」

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献2には、以下の事項が記載されている。
「主燃焼室及び副室を有する副室式内燃機関において、ピストン頂面を平面で構成し、副室に連通し且つ主燃焼室内に火炎ジェットを噴射するノズルの4つの噴孔7aは、噴射された火炎ジェットが、ピストン頂面の中心からピストン半径寸法の1/2以上半径方向外方へ離隔した位置に衝突する様に構成されている点。」

ウ 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「燃焼機関」は、その作用・機能からみて、前者の「内燃機関」に相当し、以下同様に、「主燃焼空間5」は「主燃焼室(11)」に、「希薄な燃料混合物」は「ガス状混合物」に、「副室ユニット1」は「点火装置(1)」に、「副室2及び副室に接続される細長いノズル室3」は「予燃焼室(4)を形成する内部凹所(3)」、あるいは、単に「予燃焼室(4)」又は「内部凹所(3)」に、「スパークプラグ」は「点火火花を提供する装置(6)」に、「開口群4」は「オーバーフロー開口部(10)」に、「径が拡大する」は「断面に関して拡大する」に、「開口群4のための部分3b」は「領域(8)」に、「副室2に接続される部分3a」は「シリンダ状部分(7)」に、「に続く部分的に錐台に拡大する」は「を起点として円錐状に拡大する」に、「複数の開口群4」は「多数の孔」に、「径」は「内径」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「開口群4のための部分3bの径が、副室2に接続される部分3aの径よりも大きい部分を含み、」と、本願発明の「領域(8)の内径が、全体としてシリンダ状部分(7)の内径よりも大きく、」とは、上記相当関係も併せると、少なくとも「領域(8)の内径が、シリンダ状部分(7)の内径よりも大きい部分を含み、」の限りにおいて一致する。

すると、両者は、
「ガスを用いて駆動される内燃機関の主燃焼室(11)においてガス状混合物に点火するための点火装置(1)であり、当該点火装置(1)は、予燃焼室(4)を形成する内部凹所(3)であって、前記予燃焼室(4)においてガス状混合物に点火を行うための点火火花を提供する装置(6)を備える内部凹所を有するハウジング(2)を有しており、当該ハウジング(2)は、前記主燃焼室(11)において前記ガス状混合物に点火を行うために、点火トーチを前記予燃焼室(4)から前記主燃焼室(11)内へと通過させるためのオーバーフロー開口部(10)を有している点火装置において、
前記内部凹所(3)は前記オーバーフロー開口部(10)に向かって断面に関して拡大する領域(8)を有しており、前記領域(8)は、シリンダ状部分(7)を起点として円錐状に拡大する、底部(9)を備える内部凹所を有しており、前記底部の上方に、概ね径方向外側に延在する多数の孔が設けられており、当該多数の孔は前記ハウジング(2)の外壁を貫通している か、
あるいは、前記領域(8)はシリンダ状部分を起点とする内部凹所であって、当該内部凹所の外部輪郭が球面キャップ状に形成されている内部凹所を有しており、前記外部輪郭のキャップ外面に、概ね径方向外側に延在する孔が設けられており、当該孔は前記ハウジング(2)の外壁を貫通しており、
前記領域(8)の内径が、前記シリンダ状部分(7)の内径よりも大きい部分を含む、点火装置(1)。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:「領域(8)の内径が、シリンダ状部分(7)の内径よりも大きい部分を含む」に関し、本件補正発明は「全体としてシリンダ状部分(7)の内径よりも大きい」のに対し、引用発明は「全体として」であるか不明な点。

相違点2:本件補正発明は「オーバーフロー開口部(10)の向きは、点火トーチがオーバーフロー開口部を通過する際に、主燃焼室に設けられているピストンの下降移動の方向において衝撃を受けるように選択されている」のに対し、引用発明は「開口群の向きは、副室ユニットの長手方向中心軸に対する直角よりも主燃焼空間側に向いた方向に設けられている」点。

エ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
引用発明において、その目的である、開口群の間の距離を長くし耐久性を向上させることを踏まえれば、開口群を有する底部付近の径を最大としていることは自明であって、底部の形状は必ずしも明確ではないものの、錐台形状に拡大されていることからも部分3bの概ね全ての領域で、部分3aの内径より大きいといえる。そして、部分3bの底部の形状は、上記目的達成の範囲内において、例えば、底部形状を平面として、部分3b全ての両域の内径を部分3aの内径より大きくし、上記相違点に係る発明特定事項とすることは、当該発明が属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)にとって、容易想到の範囲内の設計変更といえる。そして、審判請求書等をみても、上記判断を覆すに足る主張は見当たらない。

(イ)相違点2について
引用文献2には、燃焼の均一化によって燃焼効率の向上を図り、NOx及び未燃炭化水素の排出量を低減させることを目的として、「主燃焼室及び副室を有する副室式内燃機関において、ピストン頂面を平面で構成し、副室に連通し且つ主燃焼室内に火炎ジェットを噴射するノズルの4つの噴孔7aは、噴射された火炎ジェットが、ピストン頂面の中心からピストン半径寸法の1/2以上半径方向外方へ離隔した位置に衝突する様に構成されている点。」(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。
ここで、引用発明と引用文献2記載事項とは主燃焼室の方向に向いた複数の開口を有する副室を有する内燃機関に関する技術という点で共通していること、また、内燃機関において燃焼効率の向上は当該技術分野において出願前周知の技術課題といえることを踏まえると、引用発明において、引用文献2記載事項を適用して、副室ユニットの長手方向中心軸に対する直角よりも主燃焼空間側に向いた方向に設けられている開口群の向きを、点火トーチが主燃焼室のピストンに衝突する向きとなるように構成し、上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項に想到することは、当業者に容易である。

そして、これら相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明全体の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2記載事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず格別顕著なものがあるとはいえない。

オ 小括
したがって、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができな い。

3 本件補正についてのむすび
前記第2の[理由]2(1)イの小活のとおり、本件補正後の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号に適合しないから、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に特許法36条6項2号に適合するとしても、前記第2の[理由]2(2)オで小括のとおり、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年11月2日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年2月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし8に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1: 特表2011-518980号公報

3 引用文献1について
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「領域(8)」について、「底部の上方に、概ね径方向外側に延在する多数の孔が設けられており、当該多数の孔はハウジング(2)の外壁を貫通しているか、あるいは、領域(8)はシリンダ状部分を起点とする内部凹所であって、当該内部凹所の外部輪郭が球面キャップ状に形成されている内部凹所を有しており、前記外部輪郭のキャップ外面に、概ね径方向外側に延在する孔が設けられており、当該孔は前記ハウジング(2)の外壁を貫通しており、」との限定を削除するものであり、また、「オーバーフロー開口部(10)」について、「オーバーフロー開口部(10)の向きは、点火トーチが前記オーバーフロー開口部を通過する際に、主燃焼室に設けられているピストンの下降移動の方向において衝撃を受けるように選択されている」との限定を削除するものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、前記第2の[理由]2(2)ウに記載された「相違点1」と同じ下記の点で相違し、その余で一致する。

相違点:「領域(8)の内径が、シリンダ状部分(7)の内径よりも大きい部分を含む」に関し、本件補正発明は「全体としてシリンダ状部分(7)の内径よりも大きい」のに対し、引用発明は「全体として」であるか不明な 点。

上記相違点について検討するに、前記第2の[理由]2(2)エ(ア)「相違点1について」 に示すとおり、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明に基づき、当業者に容易想到の範囲内のものといえる。
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-09-04 
結審通知日 2019-09-09 
審決日 2019-09-24 
出願番号 特願2014-111030(P2014-111030)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (F02B)
P 1 8・ 572- WZ (F02B)
P 1 8・ 121- WZ (F02B)
P 1 8・ 537- WZ (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 麻乃  
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 渋谷 善弘
齊藤 公志郎
発明の名称 ガスで駆動される内燃機関のガス状混合物に点火するための点火装置  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  

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