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審決分類 |
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C07C 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C07C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C07C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C07C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C07C |
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管理番号 | 1359533 |
異議申立番号 | 異議2018-700827 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-10-11 |
確定日 | 2019-12-20 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6309828号発明「環境汚染物質を低減させた高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸エチルエステル及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6309828号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6309828号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6309828号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、2013年5月14日(優先権主張 2012年5月14日)を国際出願日とする特願2013-546117号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成26年6月3日に新たな特許出願としたものであって、平成30年3月23日にその特許権の設定登録がなされ、同年4月11日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許の全請求項について、同年10月11日に特許異議申立人 小原 淳史(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。 本件特許異議申立事件における手続の経緯は次のとおりである。 平成30年10月11日 :異議申立書、甲第1?18号証の提出 平成31年 1月 4日付け:取消理由通知 同年 3月11日 :訂正請求書の提出 同日 :意見書、乙第1?5号証の提出 (特許権者) 同年 3月27日付け:特許法第120条の5第5項に基づく 通知書 令和 1年 5月 7日 :意見書、参考資料1?10の提出 (申立人) 同年 7月 5日付け:取消理由通知(決定の予告) 同年 9月 9日 :訂正請求書の提出 同日 :意見書、乙第6?9号証の提出 (特許権者) 同年 9月18日付け:特許法第120条の5第5項に基づく 通知書 同年10月25日 :意見書、参考資料1?4の提出 (申立人) なお、平成31年3月11日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否 1 訂正の趣旨 本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求めるものである。 2 訂正の内容 本件訂正の内容は、以下の訂正事項1?2のとおりである。(なお、下線は訂正箇所を示す。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「魚油を原料油とし、エイコサペンタエン酸を含有する、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステルであって、含まれるダイオキシン類のうち、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の含有量が0.05pg-TEQ/g未満、コプラナーPCB(Co-PCB)が0.03pg-TEQ/g未満であり、脂肪酸中に占めるエイコサペンタエン酸の濃度が95面積%以上である、医薬品、サプリメント、食品、化粧品または、飼料のための、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル。」 とあるのを、 「魚油を原料油とし、エイコサペンタエン酸を含有する、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステルであって、 含まれるダイオキシン類のうち、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の含有量が0.05pg-TEQ/g未満、コプラナーPCB(Co-PCB)が0.03pg-TEQ/g未満であり、 含まれる臭素化難燃剤の含有量が、BDE-49の量が0.05ng/g未満、又は、BDE-100の量が0.03ng/g未満であり、 脂肪酸中に占めるエイコサペンタエン酸の濃度が97面積%以上である、医薬品、サプリメント、食品、化粧品または、飼料のための、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル。」 に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び請求項3についても同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に、 「脂肪酸中に占める高度不飽和脂肪酸の濃度が96面積%以上である、請求項1又は2の高度不飽和脂肪酸のエチルエステル。」 とあるのを、 「Co-PCBが0.02pg-TEQ/g未満もしくは0.01pg-TEQ/g未満であるか、 BDE-17が0.05ng/g未満、0.03ng/g未満もしくは0.02ng/g未満であるか、 BDE-28が0.05ng/g未満、0.03ng/g未満もしくは0.02ng/g未満であるか、 BDE-47が0.05ng/g未満、0.03ng/g未満もしくは0.02ng/g未満であるか、 BDE-49が0.03ng/g未満もしくは0.02ng/g未満であるか、 BDE-66が0.05ng/g未満、0.03ng/g未満もしくは0.02ng/g未満であるか、 BDE-99が0.05ng/g未満もしくは0.03ng/g未満であるか、 BDE-100が0.02ng/g未満であるか、又は BDE-154が0.05ng/g未満である、 請求項1又は2の高度不飽和脂肪酸のエチルエステル。」 に訂正する。 3 訂正の目的の適否 (1)訂正事項1について ア 訂正事項1のうち「95」との記載を「97」とする訂正は、訂正前の請求項1に記載された脂肪酸中に占めるエイコサペンタエン酸の濃度の下限値について「95面積%以上」であったのを「97面積%以上」としたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 訂正事項1のうち「含まれる臭素化難燃剤の含有量が、BDE-49の量が0.05ng/g未満、又は、BDE-100の量が0.03ng/g未満であり、」との記載を追加する訂正は、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステルに含まれる物質を特定するとともにそれらの上限値をそれぞれ限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 ウ よって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正事項2のうち、訂正前の請求項3の「脂肪酸中に占める高度不飽和脂肪酸の濃度が96面積%以上である」との記載を削除する訂正は、請求項3が引用する請求項1の訂正(上記(1)ア)により、前記濃度の下限値が訂正前の96面積%より高い97面積%とされたため矛盾することとなった記載を削除することで、前記濃度の下限値について96面積%以上から97面積%以上にしたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 訂正事項2のうち、「Co-PCBが0.02pg-TEQ/g未満もしくは0.01pg-TEQ/g未満であるか、・・・又はBDE-154が0.05ng/g未満である」との記載を追加する訂正は、高度不飽和脂肪酸のエチルエステルに含まれる物質を特定するとともにそれらの上限値をそれぞれ限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 ウ よって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 4 新規事項の追加の有無 (1)訂正事項1について ア 本件特許明細書【0019】に「高度不飽和脂肪酸、例えば、EPAエチルエステル及び/又はDHAエチルエステルの濃度を80面積%以上、85面積%以上、90面積%以上、95面積%以上さらに96面積%以上の純度に高め」との記載があり(なお、EPAはエイコサペンタエン酸のことである)、実施例6に「EPA純度97%のEPAエチルエステルを製造した」(【0035】)との記載がある。 ここで、実施例6の「EPA純度97%」との記載が、EPAエチルエステルの濃度が97面積%であることと同義であることは【0019】の記載から明らかである。 したがって、訂正事項1のうち、脂肪酸中に占めるエイコサペンタエン酸の濃度の下限値についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものである。 イ 本件特許明細書【0017】に「臭素化難燃剤では、BDE-100、BDE-49、BDE-99、BDE-47などを指標とすると、これらを0.05μg/g未満、好ましくは0.03μg/g未満、さらに0.02μg/g未満に低下させることができる」との記載があり、【0019】に「臭素化難燃剤では、BDE-47の量で0.18ng/g未満、BDE-100の量で0.03ng/g未満、BDE-49の量で0.05ng/g未満、又は、BDE-99の量で0.05ng/g未満に低下させることができる。BDE-100、BDE-49、BDE-99、BDE-47を0.05μg/g未満、好ましくは0.03μg/g未満、さらに0.02μg/g未満に低下させることができる」との記載がある。 ここで、上記【0017】及び【0019】には、「μg/g未満」と「ng/g未満」の記載があるが、【0019】の記載では、含有量を「ng/g未満」に低下させることができるとの記載に続けて、「好ましく」はとして、「μg/g未満」に低下させることができると、むしろ大きい量を上限とした範囲に低下させることが好ましいという矛盾する記載がされていること、実施例8で臭素化難燃剤の含有量を測定した結果を示した表10(【0041】)には、臭素化難燃剤の含有量について全て「ng/g」で記載していることからみて、【0017】及び【0019】の「μg/g未満」はいずれも「ng/g未満」の誤記であると理解できる。 そして、上記表10には、BDE-49が0.0111ng/g未満、BDE-100が0.0222ng/g未満であることが記載されている。 したがって、訂正事項1のうち、含まれる臭素化難燃剤とその含有量についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものである。 ウ よって、訂正事項1は、新規事項を追加するものではない。 (2)訂正事項2について ア 訂正事項2のうち、脂肪酸中に占めるエイコサペンタエン酸の濃度の下限値についての訂正は、上記(1)アのとおり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものである。 イ 本件特許明細書には、上記(1)イで指摘した事項に加えて、【0017】に「コプラナーPCBも0.2pg-TEQ/g未満、さらに0.1pg-TEQ/g未満、0.05pg-TEQ/g未満、0.02pg-TEQ/g未満、0.01pg-TEQ/g未満まで低下させることができる」との記載があり、【0019】に「コプラナーPCBも0.1pg-TEQ/g未満、さらに0.03pg-TEQ/g未満、0.01pg-TEQ/g未満まで低下させることができる」との記載がある。 また、表10には、BDE-17が0.0111ng/g未満、BDE-28が0.0111ng/g未満、BDE-47が0.0111ng/g未満、BDE-49が0.0111ng/g未満、BDE-66が0.0111ng/g未満、BDE-99が0.0222ng/g未満、BDE-100が0.0222ng/g未満、BDE-154が0.0333ng/g未満であることが記載されている。 したがって、訂正事項2のうち、高度不飽和脂肪酸のエチルエステルに含まれる物質についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものである。 ウ よって、訂正事項2は、新規事項を追加するものではない。 5 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否 上記3及び4で検討したとおり、訂正事項1及び2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内において、脂肪酸中に占めるエイコサペンタエン酸の濃度の下限値を限定し、含まれる物質を特定するとともにそれらの上限値をそれぞれ限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 6 一群の請求項について 訂正前の請求項1?3について、請求項2及び3はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項1?3に係る本件訂正は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。 7 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?3に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 なお、以下、本件特許の請求項1?3に係る発明を「本件特許発明1」、「本件特許発明2」及び「本件特許発明3」といい、これらをまとめて「本件特許発明」ともいう。 「【請求項1】 魚油を原料油とし、エイコサペンタエン酸を含有する、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステルであって、 含まれるダイオキシン類のうち、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の含有量が0.05pg-TEQ/g未満、コプラナーPCB(Co-PCB)が0.03pg-TEQ/g未満であり、 含まれる臭素化難燃剤の含有量が、BDE-49の量が0.05ng/g未満、又は、BDE-100の量が0.03ng/g未満であり、 脂肪酸中に占めるエイコサペンタエン酸の濃度が97面積%以上である、医薬品、サプリメント、食品、化粧品または、飼料のための、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル。 【請求項2】 さらに、含まれる臭素化難燃剤の含有量がBDE-47の量が0.18ng/g未満、BDE-100の量が0.03ng/g未満、BDE-49の量が0.05ng/g未満、又は、BDE-99の量が0.05ng/g未満である請求項1の高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル。 【請求項3】 Co-PCBが0.02pg-TEQ/g未満もしくは0.01pg-TEQ/g未満であるか、 BDE-17が0.05ng/g未満、0.03ng/g未満もしくは0.02ng/g未満であるか、 BDE-28が0.05ng/g未満、0.03ng/g未満もしくは0.02ng/g未満であるか、 BDE-47が0.05ng/g未満、0.03ng/g未満もしくは0.02ng/g未満であるか、 BDE-49が0.03ng/g未満もしくは0.02ng/g未満であるか、 BDE-66が0.05ng/g未満、0.03ng/g未満もしくは0.02ng/g未満であるか、 BDE-99が0.05ng/g未満もしくは0.03ng/g未満であるか、 BDE-100が0.02ng/g未満であるか、又は BDE-154が0.05ng/g未満である、 請求項1又は2の高度不飽和脂肪酸のエチルエステル。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、当審が平成31年1月4日付けで特許権者に通知した取消理由及び令和1年7月5日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、いずれも次のとおりである。 なお、以下、甲第1号証などを単に「甲1」などという。 (1)理由1(新規性) 本件特許の請求項1、3に係る発明は、本件特許の出願に係る優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1(甲1)、刊行物4(甲4)又は刊行物5(甲5)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1、3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)理由2(進歩性) 本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件特許の出願に係る優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1(甲1)、刊行物4(甲4)又は刊行物5(甲5)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び刊行物10(甲10)に記載の技術的事項に基いて、本件特許の出願に係る優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 甲号証の記載 (1)甲1(小玉 菜央外5名、「ジェネリック医薬品の品質評価(1)-イコサペント酸エチル製剤における官能試験および成分分析試験-」、医療薬学、Vol.38、No.4、2012年、228?236頁)には、次のように記載されている。 ここで、甲1は、甲2(J-STAGEのホームページの写し)からみて、本件特許の優先日である平成24年5月14日より前の平成24年4月10日に頒布された刊行物と認める。 (甲1a)「緒言 近年,我が国の国民医療費は増加の一途をたどっており,薬剤費の圧縮に関しても緊急の課題となっていることから,その一環としてジェネリック医薬品(GE)の使用が勧奨されている・・・ ・・・そこで今回,先の検討で標準製剤の動態パラメータの試験間変動が最も大きかったイコサペント酸エチル(EPA-E)製剤の先発品とそのGE2製品について,・・・成分分析試験,特に本製剤が魚油を原料にしていることから,製品中に混入することが懸念される水銀とダイオキシン類の定量を行った・・・」(228頁左欄1行?229頁左欄33行) (甲1b)「方法 1.対象医薬品 試験対象として,1包(スティック)中に日局EPA-Eを封入した直径約4mmの軟カプセルを45個,総量として900mgのEPA-Eを含む製剤を用いた.先発品としてエパデールS(持田製薬,Lot No.156(以下M1)および163(M2)),前報の調査で比較的標準製剤の動態パラメータが先発品メーカーの値と近い値を示したA社のふたつのロット(A1およびA2)と,動態パラメータが先発品メーカーの値と大きく異なったB社のふたつのロット(B1およびB2)を用いた.・・・ ・・・ 3.成分分析試験 3製剤各2ロットすべてについて,製剤中のEPA-Eの純度を測定した.すなわち,カプセル内のEPA-Eをエタノール(・・・)にて100倍に希釈し,高速液体クロマトグラフ装置(・・・)を装着した質量分析装置(・・・)を用いて定量した.・・・トータルイオンクロマトグラムにおけるイオン面積1000Segment・分を検出限界としてそれ以上の面積をもつピークを検出し,それらのピーク面積の合計を100%として主成分EPA-Eの純度を算出した.・・・また,製剤中の・・・ダイオキシン類については「食品中のダイオキシン類の測定方法暫定ガイドライン」^(13))・・・に従って測定した.・・・ダイオキシン類については,試料10gに2mol/Lの水酸化カリウム水溶液100mLおよびメタノール50mLを加えて1時間室温にて振とうすることにより加水分解した溶液から,ヘキサンを用いて有機物を抽出した.・・・ダイオキシン類を定法に従ってガスクロマトグラフィ-高分解能質量分析装置(・・・)を用いてガイドライン^(13))に定められた14種類のダイオキシン類を定量し,総ダイオキシン類(TEQ)として示した.」(229頁右欄18行?230頁右欄28行) (甲1c)「結果 ・・・ 2.成分分析試験 成分分析試験の結果を表2に示した.主成分のEPA-E含量は6検体全てで約98%であり,日本薬局方に記載されている規定値をいずれの製品も満たしていたが,特段に優れている製品は認められなかった.不純物として検出されたものは,その分子量からオクタデカテトラエン酸エチル,アラキドン酸エチルおよびエイコサテトラエン酸エチル(イコサテトラエン酸エチル)と推定されたが,いずれの不純物も面積比で0.3%以下であった.また,総水銀は全検体で検出限界以下であった.総ダイオキシン類(TEQ)は,M1が0.000081pg-TEQ/g(0.081fg-TEQ/g),M2が0.00016pg-TEQ/g(0.16fg-TEQ/g)であったのに対し,A1/A2は0.012?0.013pg-TEQ/g,B1/B2は0.015?0.030pg-TEQ/gであり,先発品における総ダイオキシン類の含有量が1/100から1/1000低かった.」(231頁右欄9行?232左欄最下行) (甲1d)「 」(232頁表2) (甲1e)「主成分の含量は6検体全てで大きな差は認められなかったが,不純物としてGEの2製品は先発品に比べ100?1000倍のダイオキシン類(TEQ)を含有していた.この量は1日服薬量に換算しても耐容1日摂取量(TDI:4pg-TEQ/kg体重/日)を下回る数値であったが,水道水中の許容ダイオキシン量(0.001pg-TEQ/mL^(15))・・・)を上回るものであった.・・・今回,ダイオキシン類の含有量に製品間で差異が認められた理由として,先発品ではメーカーに対するアンケートで示されたように製造工程中に短工程蒸留を導入しており,原料である魚油中の環境汚染物質の除去を行っていることが影響していると考えられた.」(235頁右欄9?30行) (甲1f)「引用文献 ・・・ 13)“食品中のダイオキシン類の測定方法暫定ガイドライン(平成20年2月)”,厚生労働省,2008年2月. ・・・ 15)厚生科学審議会“水質基準の見直しにおける検討概要(平成15年4月)”,厚生労働省,2003年4月.」(236頁左欄34行?右欄最下行) (2)甲3(食品中のダイオキシン類の測定方法暫定ガイドライン(平成20年2月))には、次のように記載されている。 (甲3a)「ダイオキシン類は、食品汚染物質の中でも社会的関心の高い化学物質であり、健康影響の未然防止の観点から、早急な対策が必要となっている。 本ガイドラインは、食品に係るダイオキシン類の検査の信頼性を確保するため、既存の知見を踏まえ、一般的な技術手法を示したものである。 ・・・ 1.分析対象 本ガイドラインでは、食品試料中のポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDDs)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)とコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCBs)を分析対象物質としている。 ・・・ 3.用語・略語の定義 ダイオキシン類:ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDDs)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)及びコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCBs)を合わせた総称。 コプラナーPCBs:PCBsの中で、PCDDs及びPCDFsと同様の毒性をもつ化合物又はその一群をいう。ただし、本ガイドラインでは毒性等価係数が与えられているオルト位(2,2’,6及び6’)に置換塩素を持たない(ノンオルト:non-ortho)4種類の化合物、オルト位に置換塩素を1個もつ(モノオルト:mono-ortho)8種類の化合物を示す。なお、コプラナーPCBsはダイオキシン様PCBsとも呼ばれる。」(3頁3?25行) (甲3b)「 」(21頁表2-4、表2-5) (甲3c)「5.1.2 毒性当量(2,3,7,8-TCDD Toxic Equivalent Quantity;TEQ)への換算(注53) ダイオキシン類の濃度を毒性当量に換算する場合は、5.1.1で算出した各分析対象物質濃度に表2-6及び2-7に示した毒性等価係数(2,3,7,8-TCDD Toxic Equivalency Factor;TEF)を乗じ、その合計を毒性当量(pg-TEQ/g)とする。個々の異性体の毒性当量については、丸めの操作は行わず、合計値の3けた目を四捨五入し、有効数字2けたで表す。なお、実測濃度が検出下限値未満のものを換算する場合には、0(ゼロ)又は試料における検出下限値の1/2の値等のどの算定法を使用したのかを明記する(6参照)。 」(25頁下から7行?26頁表2-6、表2-7) (3)甲4(鈴木 剛、「ニッスイフロンティア 海の恵みを有効利用して「生活」に貢献」、GLOBAL、2009年8月27日、第63号、2?6頁、日本水産株式会社)には、次のように記載されている。 (甲4a)「世界で初めて高純度EPAの抽出に成功 健康食としての魚介類の有用性は広く知られている。近年ではEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などの高度不飽和脂肪酸が大きな注目を集めている。ともに体内で必要量をつくることができない必須脂肪酸で、他の食用油脂にはほとんど含まれていない。 ・・・ ニッスイではいち早く、このEPAに注目、1970年代から研究に取り組み、1981年には持田製薬株式会社と共同で医薬品化の研究に着手した。そして世界で初めて青魚から高純度のEPAを抽出・精製することに成功した。 1990年には持田製薬がこのEPAを原体とした医薬品「エパデール」を、閉塞性動脈硬化症の適用で新薬の承認を受けて発売。」(2頁左欄1行?右欄8行) (甲4b)「2006年から3年をかけて建設してきた鹿島工場が本格稼動を開始した。ここでは主に魚油の一次蒸留とエチルエステル化を行っている。それをつくば工場に運び、そこからEPAを濃縮・精製し、エパデールの原体となる「EPA-Eニッスイ」に仕上げられる。 鹿島工場では、魚油では初めてとなる短行程蒸留(SPD)方式・連続エステル化工程を採用しているのが特筆すべきテクノロジーである。続いてつくば工場で行われるニッスイが開発した連続高純度精製によって、安全で高品質なEPA医薬品原体が製造される。この技術の組み合わせで魚油中のダイオキシンは水道水の基準濃度以下にまで除去される。」(3頁右欄6?16行) (甲4c)「 」(4頁左欄) (4)甲5(「工場ルポ-日本水産(株)鹿島工場 ファインケミカル事業の中核を担うSPD処理方式でダイオキシンを大幅に削減」、油脂、Vol.62、No.11、2009年、38?39頁)には、次のように記載されている。 (甲5a)「●医薬向けEPA原油を生産 ・・・ ファインケミカル事業の中核を担う同工場内には,オリゴ糖工場,化成品工場,油脂工場と3つの工場が入っている。一番建物の大きい油脂工場では,EPA医薬品「エパデール」の原料となる「EPA-Eニッスイ」,(原料魚油エチルエステル)食品用EPA・DHA,フィッシュコレステールなどを生産している。」(38頁左欄1?11行) (甲5b)「タンクに入れられた魚油は,油脂工場内で,魚油で初めて採用される短行程蒸留方式(SPD)でダイオキシンや遊離脂肪酸,コレステロールを取り除き,精製油を取り出す。・・・ ●ダイオキシンを水道水以下に この製法により,ダイオキシン類は,ごく低濃度まで除去され,最終的には水道水の基準以下の0.001pg/g以下しか残存しないという。 SPD処理された精製魚油は,EPA原料に使用されるものは,連続化エステル製造設備(生産能力年間5,000トン以上)で,金属ナトリウムを触媒にしてエチルエステル化される。その後,つくば工場で連続高純度精製を行い,医薬品原体のEPAエチルエステル(純度97%)が製造される。」(38頁右欄1?21行) (甲5c)「現在,「エパデール」の特許は切れており,後発の製品があるが,約9割のシェアを占めている。その中で「アキレス腱があるとすれば,ダイオキシンが入っていること」と指摘し,「ダイオキシンを製品に移行しないようにするのは,難しかったが,その技術開発に成功した。この問題を解決できたことが,この工場建設を決断した大きなポイントだった」と強調。 そして「ダイオキシン類は,SPD工程にて,魚油の段階でごく低濃度レベルまでに除去され,さらにつくば工場での精製工程を経る事により,製品である医薬品原体『EPA-Eニッスイ』においては,水道水の基準以下しか残存しない」と語った。」(39頁左欄下から3行?右欄16行) (5)甲8(検17 12025 ダイオキシン類)には、次のように記載されている。 なお、甲8は、甲6(厚生労働省ホームページ「水質基準項目と基準値(51項目)」)の「水道水質基準について 水道水質基準、水質管理目標設定項目、要検討項目に設定されている項目は下の表のとおりです。各項目についての詳しい説明は、水質基準の見直しにおける検討概要(平成15年4月)をご覧ください。」にある「水質基準の見直しにおける検討概要」(甲7)中の整理番号12025ダイオキシン類の要検討項目17である。 (甲8a)「一般に、ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)をまとめてダイオキシン類と呼び、コプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)の様なダイオキシン類と同様の毒性を示す物質をダイオキシン類似化合物と呼ぶ。ダイオキシン類対策特別措置法においては、PCDD、PCDF及びコプラナーPCBをダイオキシン類と定義している。(ダイオキシン類パンフレットより)」(1頁1.物質特定情報) (甲8b)「9.水質基準値(案) (1)評価値 平成11年の専門委員会では平成11年の中央環境審議会環境保健部会、生活環境審議会および食品衛生調査会合同部会のダイオキシンの耐容1日摂取量(TDI)評価を踏まえ、評価値について以下のとおり算出している。その後、平成14年6月に厚生労働省のダイオキシンの健康影響評価に関するワーキンググループでTDIの評価がされているが、4pgTEQ/kg/dayを変更する必要性はないと結論されていることから、平成11年の専門委員会での評価値:1pg-TEQ/Lを維持することが適当である。」(4頁下から5行?5頁3行) (6)甲9(土居崎信滋外2名、「健康貢献のための魚油の利用開発」、脂質栄養学、第18巻、第1号、2009年、93?101頁)には、次のように記載されている。 (甲9a)「医薬品用途としては1990年にイワシなどの青魚から抽出精製した高純度EPAエチルエステルが閉塞性動脈硬化症の治療薬「エパデール」(持田製薬株式会社より販売)として認可され、1994年には高脂血症にも適応症が拡大され、現在も服用する患者さんは増加傾向にある。」(94頁16?19行) (甲9b)「一方で、医薬品用にEPAを高純度に濃縮する場合は、TGをエチルエステルにしてから濃縮する方法が用いられている。エチルエステル体のEPA(EPA-E)を濃縮する方法としては、炭素数の違いを利用した精密蒸留、超臨界抽出など、二重結合数の違いを利用した尿素付加、銀錯体、HPLCなどが知られている(Fig.1)。我々は工業的に可能でかつ効率の良い方法を検討し、Fig.2に示した精密蒸留により炭素数20の脂肪酸エチルエステル(C20-E)を濃縮してから尿素付加によりEPA-Eを濃縮精製する方法を開発した^(4))。」(94頁下から2行?95頁5行) Fig.2には、「イワシ油エチルエステル」を精密蒸留に供し、その後尿素付加分離を行い、最終的にEPAエチルエステルが製造できることが記載されている。 (甲9c)「尿素付加分離工程はFig.4に示したような連続式の方法を開発した。・・・この工程によってEPA-Eは90%以上まで濃縮される。しかし本法ではC20:4とEPAの分離は難しいため、より高純度のEPA-Eを得ることはできず、また製品のEPA純度が原料の組成に影響を受けるという欠点がある。そこで、現在は尿素付加法に代えて液体クロマト法を用いている。この方法によると99%以上のEPA-E調製も可能である。」(96頁5?14行) (7)甲10(米国特許出願公開第2010/0267829号明細書)には、次のように記載されている。なお、甲10は英文のため翻訳文で示す。 (甲10a)「[0002]本発明は、食用であるか又は化粧品中に用いるための脂肪又は油を含む混合物中の環境汚染物質の量を低減するための方法に関する。・・・さらに本発明は、上記の方法に従って調製される健康サプリメント、医薬品、化粧品及び動物飼料製品に関する。 ・・・ [0003]DDT(2,2ビス-(p-クロロフェニル)-1,1,1-トリクロロエタン)及びその分解産物は、今日、地球環境のほとんどどこでも見出される。多数の研究も、例えば海洋性生物体の沈殿物中の、しばしば比較的高濃度の環境汚染物質、例えばPCB、ダイオキシン及び臭素化難燃剤、並びに殺虫剤、例えばトキサフェン及びDDT並びにその代謝産物の蓄積に関して報告している。ヒト及び動物の両方に対するこれらの化合物の害毒は、食物及び食料品中の有毒物質の含量についての漸増する問題を引き起こしてきた。生涯に亘る安全レベルより多いダイオキシンの消費は、癌の危険増大を生じ得る。」 (甲10b)「[0005]海産油、例えば魚油中の商業的に重要な多価不飽和脂肪酸は、好ましくはEPA(エイコサペンタエン酸、C20:5n-3)及びDHA(ドコサヘキサエン酸、C22:6n-3)である。・・・多くの目的のために、海産油は、EPA及び/又はDHAの含量を適切なレベルに増大させるために、あるいは生油中に天然に生じるある種のその他の物質の濃度を低減するか又は排除さえするために、精製される必要がある。 [0006]脂肪酸EPA及びDHAはまた、特に製薬及び栄養補助食品産業において漸増的に有益性を提供しつつある。」 (甲10c)「[0024]該ストリッピング法のもう1つ別の好ましい実施形態では、該揮発性作業流体は、高含量の遊離脂肪酸を伴う少なくとも1つの海産油、例えば魚油(低品質海産油)の混合物中に含まれる遊離脂肪酸により構成され、この場合、該油混合物中の該遊離脂肪酸は作業流体として作用する。さらに、それにより同時にそして同一の方法において、該海産油中の環境汚染物質の量を減少させ、遊離脂肪酸の量を低減することが可能である。 ・・・ [0035]本発明の好ましい実施形態では、該揮発性作業流体は、少なくとも1つの短行程蒸留又は分子蒸留過程により、環境汚染物質と一緒にストリッピングされる。」 (甲10d)「[0057]本明細書中で用いる場合、環境汚染物質という用語は、好ましくは、毒性成分及び/又は殺虫剤、例えばポリ塩素化ビフェニル(PCB)、DDT及びその代謝産物、海洋環境中に見出され、潜在的に有害であるか及び/又は有毒であると同定された有機化合物;ポリ塩素化トリフェニル(PCTs)、ジベンゾ-ダイオキシン(PCDDs)及びジベンゾ-フラン(PCDFs)、クロロフェノール及びヘキサクロロシクロヘキサン(HCHs)、トキサフェン、ダイオキシン、臭素化難燃剤、ポリ芳香族炭化水素(PAH)、有機スズ化合物(例えばトリブチルスズ、トリフェニルスズ)並びに有機水銀化合物(例えばメチル水銀)を意味する。」 (甲10e)「[0060]本明細書中で用いる場合、作業流体という用語は、C10?C22脂肪酸及びC1?C4アルコールから構成されるエステル、C10?C22脂肪酸及びC1?C4アミンから構成されるアミド、C10?C22遊離脂肪酸、鉱油、炭化水素及びバイオディーゼルのうちの少なくとも1つを含む、適切な揮発性を有する溶媒、溶媒混合物、組成物及び画分、例えば蒸留工程からの画分を含むものと解釈される。 ・・・ [0062]さらに、本明細書中で用いる場合、ストリッピングという用語は、液体流から気体化合物を除去し、分離し又は(強制的に)追い出すための一般的方法を含むものと解釈される。さらに、本明細書中で好ましい「ストリッピング処理過程」という用語は、1つ以上の蒸留除去又は蒸留方法、例えば短行程蒸留、薄膜蒸留(薄膜ストリッピング又は薄膜(蒸気)ストリッピング)、薄膜降下式蒸留及び分子蒸留、並びに蒸発法により、油又は脂肪中の環境汚染物質の量を低減させるための方法/工程に関するものである。」 (甲10f)「実施例5 魚油混合物-工業的フルスケール工程 [0099]本実施例も、魚油混合物中の汚染物質の量を低減させるための工業的フルスケール工程であって、該魚油混合物に揮発性作業流体を添加する過程と、該混合物を添加された該揮発性作業流体とともに分子蒸留処理過程に付す過程とを含む過程を示し、この場合、該魚油中に存在する環境汚染物質は、該揮発性作業流体とともに該混合物から分離される。 [0100]異なる環境汚染物質を含有する魚油混合物30トン(図2参照)を、脂肪酸エチルエステル混合物(魚油のエチルエステル(6%))の形態の揮発性作業流体に添加した後、それを分子蒸留工程に付した。次に、温度200℃、圧力0.005mbar、混合物流速400kg油/時、加熱表面11m^(2)で、該分子蒸留工程を実行した。処理後、精製製品29.5トンを収集した。結果を図2に示す。該結果は、該魚油混合物中の環境汚染物質の含量が、本発明のストリッピング工程後に強力に低減された、ということを確証する。ストリッピング後は、例えば、該魚油混合物中のPCBの含量は約98%低減され、PCDDの含量は約80%低減され、PCDFの含量は約95%低減され、そしてヘキサクロロシクロヘキサン、TE-PCBの量はそれぞれ、ほとんど無視できた。当業者にとっては、いくつかのその他の脂肪又は油組成物中の汚染物質の量を低減させるために、揮発性作業流体を用いることにより、本発明に従って同一の効果が得られるということは、明らかである。 実施例6 サーモン油 [0101]本実施例では、大西洋産の(アトランティック)サーモンからの新鮮な副産物からの油を、本発明に従って加工処理した。本発明の方法は、揮発性作業流体を油混合物に添加し、そしてさらに該混合物を、添加された該揮発性作業流体とともに分子蒸留処理過程に付す過程を包含する。・・・ [0102]臭素化難燃剤、PCB及びいくつかの塩素化殺虫剤の量に関して、それぞれ蒸留の前及び後に、該油混合物の試料を分析した(以下の表5及び6参照)。 」 (甲10g)「 」(図2) (甲10h)「91.エイコサペンタエン酸(EPA)エチルエステル及びドコサヘキサエン酸(DHA)エチルエステルの少なくとも一方を含む魚油由来の医薬組成物であって、前記医薬組成物は、 魚油中のBDE47の濃度を少なくとも95%減少させること、及び 前記EPA及びDHAの少なくとも一方の濃度を医薬的に有効な濃度に増加させること、により調製され、 前記医薬組成物は、健康補助剤でない。 92.医薬的に有効な量のEPAを含む、請求項91に記載の組成物。」(12頁右欄下から16?5行) (8)甲11(国際公開第2011/080503号)には、次のように記載されている。なお、甲11は英文のため翻訳文で示す。 (甲11a)「本発明の方法によって得られるPUFA生成物も提供される。 本発明の方法によって製造されるPUFA生成物は、高収率で製造され、高い純度を有する。さらに、典型的にはPUFAの蒸留により生じる特有の不純物の含有率が非常に低い。」(5頁13?17行) (甲11b)「本発明人らは、意外にも、既知の油と比較して、環境汚染物質が低減された油を製造できることをも見いだした。・・・ ・・・ ・・・典型的には、ジオキシン、フラン、ジベンゼノ-パラ-ジオキシン及びポリ塩素化ジベンゾフランの総量は、0.325pg/gまで、好ましくは0.3pg/gまで、より好ましくは0.275pg/gまで、さらにより好ましくは0.25pg/gまで、さらにより好ましくは0.225pg/gまで、さらにより好ましくは0.2pg/gまで、最も好ましくは0.185pg/gまでである。・・・ ・・・ このなおさらなる実施形態において、より好ましくは、(a)組成物におけるポリ芳香族炭化水素の総量は、0.05μg/kgまでであり、(b)ジオキシン、フラン、ジベンゼノ-パラ-ジオキシン及びポリ塩素化ジベンゾフランの総量は、0.2pg/gまでであり、かつ(d)ジオキシン、フラン、ジベンゼノ-パラ-ジオキシン、ポリ塩素化ジベンゾフラン及びジオキシン様ポリ塩素化ビフェニルの総量は、0.3pg/gまでである。」(41頁10行?45頁10行) (甲11c)「実施例6 本発明による2つのPUFA生成物に存在する環境汚染物質の量と、蒸留によって調製された同様の油に存在する環境汚染物質との量を比較するための実験を実施した。それらの油の汚染物質プロファイルを以下の表1に示す。 ・・・ 実施例8 本発明の方法の2つのEPAリッチの生成物と、蒸留によって製造されたEPAリッチの油とを比較した。それらのPUFA成分の分析結果(重量%)を以下に示す。 」(54頁14行?56頁最終行) (甲11d)「1.多価不飽和脂肪酸(PUFA)生成物を供給混合物から回収するためのクロマトグラフ分離方法であって、溶離剤として水性アルコールを含有する複数の連結クロマトグラフィーカラムを有する擬似又は実移動床式クロマトグラフィー装置に供給混合物を導入することを含み、前記装置は、少なくとも第1の帯域及び第2の帯域を含む複数の帯域を有し、各帯域は、前記複数の連結クロマトグラフィーカラムからの液体を各帯域から収集することができる抽出液流及び抽残液流を有し、(a)より極性の高い成分とともにPUFA生成物を含有する抽残液流は、第1の帯域におけるカラムから収集されて、第2の帯域における隣接しないカラムに導入され、及び/又は(b)より極性の低い成分とともにPUFA生成物を含有する抽出液流は、第2の帯域におけるカラムから収集されて、第1の帯域における隣接しないカラムに導入され、前記PUFA生成物は、各帯域において供給混合物の異なる成分から分離される、クロマトグラフ分離方法。 ・・・ 6.PUFA生成物が少なくとも1つのω-3 PUFAを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。 7.PUFA生成物がEPA及び/又はDHAを含む、請求項6に記載の方法。 8.前記PUFA生成物に加えて、さらなる二次的なPUFA生成物が前記クロマトグラフ分離方法で回収される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。 9.PUFA生成物はEPAであり、さらなる二次的なPUFA生成物はDHAである、請求項8に記載の方法。」(58頁3?59頁25行) (9)甲12(岩切良次外3名、「超臨界二酸化炭素による魚油中ダイオキシン類の抽出除去」、環境化学、Vol.14、No.2、2004年、253?262頁)には、次のように記載されている。 (甲12a)「本報で検討対象とした魚油は,家畜飼料や養殖魚の餌の原料として,また,業務用食品の原料として広く利用されている・・・2002年及び2003年に公表された農林水産省の報告では,比較的高いレベルのダイオキシン類が魚油中に残留していることが報告されており・・・このように,魚油はその使用用途が広範囲であり,かつそのほとんどが何らかの形で食用目的と関連していることから,ダイオキシン類等の有害物質を魚油中から選択的に取り除く技術を確立することは,食品衛生学上からも重要であると考えられる。 そこで,本研究はこれまでに報告例が少ない超臨界二酸化炭素を用いた魚油中のダイオキシン類の抽出除去について,市販の魚油に標準物質を添加したモデル試料を用いて,選択的かつ効率的に抽出できる最適条件の検討と,その抽出特性について考察を行ったので報告する。」(254頁左欄1?19行) (甲12b)「2.3 試料 本実験に使用した標準物質添加魚油は,menhaden oil(SIGMA,USA)1g当たりに,4,5塩素体PCDD/DFsを1ng,6,7塩素体PCDD/DFsを2ng,8塩素体PCDD/DFを5ng,コプラナーPCBsを2ngとなるように調製したものを用いた。各異性体の添加量の詳細をTable1に示す。また,実試料として国内で販売されている魚油5種類を用いた。」(255頁右欄1?8行) (甲12c)「3.結果と考察 3.1 魚油中ダイオキシン類濃度 Table3に市販品の魚油中ダイオキシン類濃度の測定結果を示す。 本検討ではTEF(Toxic Equivalency Factor)が定められている異性体についてのみ定量を行った。・・・また,Eljarratらによる魚油中PCDD/DFs分析結果では,2.29,2.49,2.65(pg-TEQ/g)であった。以上の結果は,本測定結果と比較してもほぼ同レベルであった。 また,本測定結果は,PCDD/DFsに比べてコプラナーPCBsが数十から数百倍の高いレベルで検出され,これまで報告されている魚介類中の高PCBs蓄積とも一致した。今回の魚油分析の結果は,魚介類中に蓄積しているダイオキシン類の蓄積パターンを反映したものであると考えられた。」(256頁右欄18行?257頁左欄7行) (甲12d)「 」(257頁表3) (10)甲13(「第十五改正日本薬局方」平成18年3月31日)には、次のように記載されている。 (甲13a)「イコサペント酸エチル Ethyl Icosapentate ・・・ 本品は定量するとき,イコサペント酸エチル(C_(22)H_(34)O_(2))96.5?101.0%を含む.」(327頁右欄14?22行) (11)甲14(Organohalogen Compounds,Vol.68(2006),pp.1967?1970)には、次のように記載されている。なお、甲14は英文のため翻訳文で示す。 (甲14a)「魚油は魚肉生産の有益な副生成物であり、食品や飼料補助剤として幅広く用いられている。多価不飽和脂肪酸(PUFA)に富んでいるが、これは哺乳類では合成できない必要不可欠な脂肪である。したがって、PUFAは食事により摂取しなければならない。多価不飽和脂肪酸の重要なカテゴリーであるω-3脂肪酸と呼ばれるエイコサペンタエン酸(EPA、20炭素)とドコサヘキサエン酸(DHA、22炭素)は特に魚油中で高い値を示す。・・・しかしながら、魚油は、ポリ塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン類(PCDD/F)、ポリ塩化ビフェニル類(PCB)、及びポリ臭素化ジフェニルエーテル類(PBDE)等の脂溶性の残留性有機汚染物質(POPs)の主要な供給源となり得る。・・・栄養補給剤及びPUFAの供給源としての魚油カプセルの毎日の服用は、結果として望ましくないPOPsの取り込みをもたらす可能性がある。したがって、最初の調査として、スイス市場で購入可能な6種の魚油含有製品について、指標としてPCB(PCB-28,52,101,138,153及び180)、ダイオキシン様PCB(DL-PCB,PCB-77,81,105,114,118,123,126,156,157,167,169及び189),17 2,3,7,8-置換PCDD及びPCDF、及びPBDE(BDE-28,47,99,100,153,154,183及び209)の含有量を分析した。」(1967頁「Introduction」) (甲14b)「 結果と考察 詳細な結果を表2にまとめる。」(1968頁表1及び1?2行) (甲14c)「図1に6種のサンプルの正規化されたPBDE同族体パターンを、技術的なペンタPDE製品Bromkal70-5、スイスの高原湖の天然魚及びスイスの養殖魚のパターンと共に示した。 ・・・ 」(1968頁下から2行?1969頁1行、表2及び図1) (12)甲15(平成28年(行ケ)第10147号)には、次のように記載されている。 (甲15a)「本件発明は,特性値を表す三つの技術的な変数により示される範囲をもって特定した物を構成要件とするものであり,いわゆるパラメータ発明に関するものであるところ,このような発明において,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するためには,発明の詳細な説明は,その変数が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該変数が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である(知財高裁平成17年11月11日判決,平成17年(行ケ)第10042号,判例時報1911号48頁参照)。」(57頁6?15行) (13)甲16(弁理士・薬学博士 河部 秀男、「特許6309828号記載の発明と公知技術との対比表」、2018年9月1日)には、次のように記載されている。 (甲16a)「 」(2頁表I) (甲16b)「 」(3頁表II) (14)甲17(公立大学法人 宮城大学 食産業学群 食産業学群長兼食産業学研究科長 教授 西川 正純、「特許第6309828号に関する意見書」、2018年9月28日)には、次のように記載されている。 (甲17a)「薄膜蒸留はトリグリセリド体である魚油に含まれる他の揮発性成分の除去に最適な技術であり、魚油からのダイオキシン類(PCDDs、PCDFs及びCo-PCB)除去については本特許出願以前から多くの報告がある(・・・)。エチルエステル体(・・・)にすることで、薄膜蒸留を用いた脂肪酸の種類による分留(・・・)も可能となるため希望の脂肪酸の濃縮に利用されるが(・・・)、そのため、処理条件によっては必要な脂肪酸エチルエステルがダイオキシン類と同じ挙動を示す場合もあり、エチルエステル化してしまうとトリグリセリド体である場合と比べてダイオキシン類の除去が困難になるのは、薄膜蒸留技術の性質上当然の結果である。」(1頁下から9行?2頁2行) (甲17b)「臭素化難燃剤は、ダイオキシン類と同様の化学構造を示し、塩素の代わりに同じハロゲン元素である臭素に置換され、塩素の場合と同じ数の異性体が存在する(・・・)。また、PCB類と同様、準揮発性有機化合物(半揮発性有機化合物)であることから、魚油トリグリセリド体からの薄膜蒸留技術による除去(エチルエステル化前の除去)は非常に効果的である。薄膜蒸留による魚油からの除去が可能であることは、ダイオキシン類と同様報告されている(・・・)。」(2頁下から5行?3頁2行) (甲17c)「しかし、同じ挙動の場合には分離が難しい場合もあることから、魚油に含まれるダイオキシン類や臭素化難燃剤の場合は、エチルエステル化前の魚油(トリグリセリド体)の薄膜蒸留によりできるだけ除去することが効果的である。」(3頁17?20行) (甲17d)「EPA-Eの濃縮としては、精留と液体カラムクロマトグラフィーの組み合わせは有効な方法であるが、ダイオキシン類や臭素化難燃剤の除去としては魚油(トリグリセリド体)の状態における薄膜蒸留の実施が非常に効果的な方法であり、この工程でできるだけ低減化しておくことがより有効であることは以前から知られていたことである。薄膜蒸留によりできるだけダイオキシン類を低減化した魚油であれば、必ずしも特許記載の組み合わせ製法によらない別のEPA-Eの濃縮法であっても濃縮品における低減は十分可能と考えられる。」(4頁1?6行) (甲17e)「薄膜蒸留による魚油からのダイオキシン除去については、薄膜蒸留技術の性質上、温度・真空度・処理量による処理条件最適化、加えて、凝集面洗浄や共沸成分添加の低減技術併用により低減化できる。さらにこれらの操作の繰り返しにより必要なレベルまでの低減化が可能となる。また、ダイオキシン汚染レベルがより低い原料魚油の場合は、薄膜蒸留後、さらには、濃縮工程後の低減化も一層容易である。」(5頁18?22行) (15)甲18(弁理士・薬学博士 河部 秀男、「公立大学法人 宮城大学 西川正純教授への質問および回答集」、2018年10月8日)には、次のように記載されている。 (甲18a)「US特許(甲10号証)においては、臭素化難燃剤が約10倍程度高い魚油を用いています。そのような素材でもSPDの利用により臭素化難燃剤が検出下限未満まで除去されていることが示されています。高含量の魚油であることを考慮すると同程度低減されているということになると思われます。 また、分析精度が異なり、検出下限値が高いため、一見、本特許記載レベルまで達していないように見えますが、US特許は環境汚染物質低減のためのSPD改良法であることから、同程度まで低減されていた可能性が高いと考えます。」(2頁17?22行) (甲18b)「カラムクロマトグラフィーによるエイコサペンタエン酸エチルの濃縮条件におけるダイオキシン類成分の挙動によっては低減可能です。 クロマトグラフィーによるダイオキシン類成分の分析が可能であるという報告があることから、逆相系で保持される成分と考えられ、エイコサペンタエン酸エチル等の脂肪酸エチルは比較的保持は弱い成分であるため、除去は可能と考えられます。」(3頁下から9?5行) (甲18c)「エチルエステル化前の魚油はトリグリセリド体であり、トリグリセリド自身は蒸留操作により留分となることは無く残渣となる成分です。そのため、魚油に含まれる成分で蒸留により留分となるものは効果的に除去されます。トリグリセリド体である魚油をSPD処理することによりダイオキシン類や臭素化難燃剤を効果的に除去できることは既に多くの報告があります。エチルエステル化以降の工程では成分によっては同様の挙動を示す場合もあるため、魚油(エチルエステル化前)の蒸留ほど効果的な低減化は期待できません。 臭素化難燃剤についてもダイオキシン類と同様、魚油の蒸留によりできるだけ低減化しておけば、それ以降の工程を経ても、最終的にも必要な低減化は可能と考えられます。」(4頁8?15行) 3 当審の判断 (1)用語の解釈について ア 本件特許発明の用語の解釈 新規性・進歩性の判断に先立ち、本件特許発明の用語の解釈について検討する。 (ア)脂肪酸について 請求項1には、「エイコサペンタエン酸を含有する、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステルであって、・・・、脂肪酸中に占めるエイコサペンタエン酸の濃度が97面積%以上である」と記載されている。 ここで、「脂肪酸中に占める」とあるところの「脂肪酸」は、請求項1の記載全体からみて、その前に記載されている「高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル」を意味すると解されるから、請求項1の上記「脂肪酸」は「高度不飽和脂肪酸」と「高度不飽和脂肪酸のエチルエステル」の両方を含むものと解される。同様に、「エイコサペンタエン酸」も、「エイコサペンタエン酸」に加えて「エイコサペンタエン酸エチルエステル」の両方を含むものと解される。 このことは、本件特許明細書のエイコサペンタエン酸の純度に関して記載されている下記【0019】、【実施例6】の記載とも整合している。 記 「【0019】・・・高度不飽和脂肪酸、例えば、EPAエチルエステル及び/又はDHAエチルエステルの濃度を80面積%以上、85面積%以上、90面積%以上、95面積%以上さらに96面積%以上の純度に高め、・・・。医薬品としては、EPAエチルエステル及び/又はDHAエチルエステルの濃度が96面積%以上の純度が好ましい。」 「【実施例6】・・・EPA純度97%のEPAエチルエステルを製造した。」 したがって、本件特許発明の新規性及び進歩性の判断にあたっては、「高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸エチルエステル中に占めるエイコサペンタエン酸又はエイコサペンタエン酸エチルエステルの濃度が97面積%以上である」と解釈する。 (イ)ダイオキシン類について a 本件特許の属する魚油を原料とする食品、医薬品等の技術分野における「ダイオキシン類」という用語が一義的に定まらないため、その意味について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日時点の技術常識に基づいて検討する。 b 本件特許明細書【0014】には、「本発明においてダイオキシン類とは、表1に示した、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)及びコプラナーPCB(Co-PCB)の合計を意味し、各成分の含有量を測定し、それぞれの実測値に毒性等量をかけて合計したて算出した毒性等量(pg-TEQ/g)で表した。」と記載されており、また、食品中の汚染物質であるダイオキシン類の測定方法のガイドラインに関する甲3や、水道水の水質基準に関する甲8からみても(上記(甲3a)、(甲8a))、食品や水道水中の「ダイオキシン類」は、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)及びコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)に大別される物質を意味することが理解できる。 また、魚油を原料とする医薬品の品質評価に関する甲1(上記(甲1a))では、ダイオキシン類の分析を甲3であるガイドラインに従って行ったことが記載されており(上記(甲1b)、(甲1f))、食品などの原料として広く利用されている魚油中のダイオキシン類の除去に関する甲12にも、除去するダイオキシン類について、具体的にはPCDD/DF(なお、甲12全体の記載から、PCDD及びPCDFを意味していることは明らかである。)及びコプラナーPCBであることが記載されている(上記(甲12a)?(甲12d))。 ここで、甲3及び甲8には、コプラナーPCBを3種類のダイオキシン類から区別しようとする記載もあるが(上記(甲3a)、(甲8a))、甲3の上記(甲3a)には、分析対象は食品試料中のPCDDとPCDFとコプラナーPCBであると記載されているように、食品や水道水などに含まれる環境汚染物質という場合に、「ダイオキシン類」という用語からコプラナーPCBのみを対象としないとは考え難い。 c 以上のことから、魚油を原料とする食品、医薬品等の技術分野において「ダイオキシン類」と表現されている場合には、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、及びコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)を意味することは、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載とも、甲3、甲8及び甲12の記載に基づく当該技術分野における技術常識とも合致している。 したがって、以下では、これを前提に検討する。 イ 甲1、甲4及び甲5のダイオキシン類との用語の解釈について 次に、甲1、甲4及び甲5の用語の解釈についても検討する。 (ア)甲1について 甲1は、上記ア(イ)bのとおり、魚油を原料とする医薬品中のダイオキシン類の分析を甲3に従って行ったものであるから、甲1におけるダイオキシン類とは、PCDD、PCDF及びコプラナーPCBのことである。 (イ)甲4について 甲4は、魚油を原料として医薬品に用いるEPA原体を得ることに関し、魚油中のダイオキシンは水道水の基準濃度以下まで除去されることが記載されている(上記(甲4a)、(甲4b))。なお、甲4のダイオキシンとは、水道水の基準濃度以下まで除去との記載からダイオキシン類を意味することは明らかである。 したがって、上記(1)ア(イ)で検討した技術常識のとおり、甲4におけるダイオキシンとは、PCDD、PCDF及びコプラナーPCBを意味するといえる。 (ウ)甲5について 甲5は、甲4と同様に魚油を原料として医薬品に用いるEPAを得ることに関し、魚油中のダイオキシン類は水道水の基準以下しか残存しないことが記載されている(上記(甲5a)、(甲5c))。 したがって、甲4と同様に、甲5におけるダイオキシン類とは、PCDD、PCDF及びコプラナーPCBを意味するといえる。 (2)理由1(新規性)について ア 甲1を主引例とする本件特許発明の新規性について (ア)甲1に記載された発明 甲1は、ジェネリック医薬品と先発品との成分分析に関する文献であり、その分析の対象とする医薬品の一つとして、甲1には、魚油を原料にしている、イコサペント酸エチル(EPA-E)を軟カプセルに封入した製剤であるエパデールS(持田製薬、M1、以下「M1医薬品製剤」ともいう。)について、製剤におけるEPA-Eの純度と不純物の含量の成分分析試験を行った結果が表2に記載されている(上記(甲1a)、(甲1b)及び(甲1d))。 そして、甲1の表2には、M1医薬品製剤について、製剤中のEPA-Eの純度(%)が98.2であり、ダイオキシン類(pg-TEQ/g)が0.000081であることが記載されている。 また、EPA-Eの純度(%)は、面積%であることも、上記(甲1b)の記載から明らかである。 したがって、甲1には次の「甲1発明」が記載されていると認める。 甲1発明: 「魚油を原料とするイコサペンタエン酸エチル(EPA-E)を軟カプセルに封入したM1医薬品製剤であって、製剤中のEPA-Eが98.2面積%であり、ダイオキシン類が0.000081pg-TEQ/gであるM1医薬品製剤。」 (イ)本件特許発明1について a 対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「イコサペンタエン酸エチル(EPA-E)」は、エイコサペンタエン酸エチルエステルと同義であることは自明であり、上記(1)ア(ア)の解釈から、本件特許発明1の「エイコサペンタエン酸」に相当するといえる。 したがって、両発明は次の一致点及び相違点1-1?1-4を有する。 一致点: 「魚油を原料油とし、エイコサペンタエン酸を含有するものであって、ダイオキシン類を含むもの」である点。 相違点1-1: 本件特許発明1は、「エイコサペンタエン酸を含有する、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル」であって、「医薬品、サプリメント、食品、化粧品または、飼料のための、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル」であるのに対し、甲1発明は、「イコサペンタエン酸エチル(EPA-E)を軟カプセルに封入したM1医薬品製剤」である点。 相違点1-2: 本件特許発明1は、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル中に「含まれるダイオキシン類のうち、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の含有量が0.05pg-TEQ/g未満、コプラナーPCB(Co-PCB)が0.03pg-TEQ/g未満」であると特定されているのに対し、甲1発明は、M1医薬品製剤に含まれる「ダイオキシン類が0.000081pg-TEQ/g」であると特定されている点。 相違点1-3: 本件特許発明1は、「脂肪酸中に占めるエイコサペンタエン酸の濃度が97面積%以上」であると特定されているのに対し、甲1発明は、「製剤中のEPA-Eが98.2面積%」であると特定されている点。 相違点1-4: 本件特許発明1は、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル中に「含まれる臭素化難燃剤の含有量が、BDE-49の量が0.05ng/g未満、又は、BDE-100の量が0.03ng/g未満」であると特定されているのに対し、甲1発明は、臭素化難燃剤の有無及び含有量について特定されていない点。 b 判断 事案に鑑み相違点1-4について検討する。 甲1には、M1医薬品製剤は、EPA-Eを主成分として含んでおり、不純物として検出されたものは、オクタデカテトラエン酸エチル、アラキドン酸エチル及びエイコサテトラエン酸エチル(イコサテトラエン酸エチル)と推定されたこと、総水銀は全検体で検出限界以下であったことが記載されている(上記(甲1c))。 しかしながら、甲1発明に臭素化難燃剤が含まれているか不明であり、ましてや、BDE-49又はBDE-100の含有量がどのくらいであるかは全く不明であるから、相違点1-4は、実質的な相違点である。 したがって、本件特許発明1は、相違点1-1?1-3について検討するまでもなく、甲1に記載された発明でない。 (ウ)本件特許発明2?3について 本件特許発明2?3はいずれも本件特許発明1の全ての発明特定事項を含むものである。 そうすると、本件特許発明1が甲1に記載された発明でない以上、本件特許発明2?3も同様に甲1に記載された発明でない。 (エ)小括 したがって、本件特許発明1?3は、甲1に記載された発明であるとはいえない。 イ 甲4を主引例とする本件特許発明の新規性について (ア)甲4に記載された発明 甲4には、魚油を短行程蒸留(SPD)とエチルエステル化を行い、次いでEPA(エイコサペンタエン酸)を連続高純度精製によって濃縮・精製して、医薬品「エパデール」の原体となる「EPA-Eニッスイ」を製造したことが記載されている(上記(甲4a)、(甲4b))。 そして、上記の処理により、魚油中のダイオキシンは水道水の基準濃度以下にまで除去されたこと(上記(甲4b))、「一貫事業による魚油から製品まで」の説明によると、短行程蒸留、エチルエステル化及びEPAの高度精製により、97%EPA医薬品が得られることが示されている(上記(甲4c))。 ここで、上記(甲4c)の「97%EPA医薬品」とは、甲4全体の記載からみて、純度が97%のEPAである医薬品の原体を意味していると理解される。 したがって、甲4には次の「甲4発明」が記載されていると認める。 甲4発明: 「魚油を短行程蒸留(SPD)とエチルエステル化を行い、次いでEPA(エイコサペンタエン酸)を連続高純度精製によって濃縮・精製して得られる医薬品の原体であって、純度が97%のEPAである医薬品の原体であり、ダイオキシンが水道水の基準濃度以下にまで除去されている医薬品の原体。」 (イ)本件特許発明1について a 対比 本件特許発明1と甲4発明とを対比する。 甲4発明の「医薬品の原体」は、魚油を短行程蒸留し、エチルエステル化し、さらにEPAを連続高純度精製処理して得られるものであるところ、連続高純度精製される「EPA(エイコサペンタエン酸)」は、エステル化されたものであり、脱エステル化処理などを行うことは記載されていない。そして、エステル化の程度なども示されていないことを踏まえると、得られる医薬品の原体は、エイコサペンタエン酸又エイコサペンタエン酸エチルエステルを含むものといえる。 そして、上記(1)ア(ア)の解釈から、本件特許発明1の「エイコサペンタエン酸」は、エイコサペンタエン酸又はエイコサペンタエン酸エチルエステルということができる。 また、甲4発明は、ダイオキシンを完全に除去したとはされていないから、ダイオキシン類を含んでいるものといえる。 したがって、両発明は次の一致点及び相違点4-1?4-4を有する。 一致点: 「魚油を原料油とし、エイコサペンタエン酸を含有するものであって、ダイオキシン類を含むもの」である点。 相違点4-1: 本件特許発明1は、「エイコサペンタエン酸を含有する、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル」であって、「医薬品、サプリメント、食品、化粧品または、飼料のための、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル」であるのに対し、甲4発明は、エイコサペンタエン酸又エイコサペンタエン酸エチルエステルを含む「医薬品の原体」である点。 相違点4-2: 本件特許発明1は、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル中に「含まれるダイオキシン類のうち、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の含有量が0.05pg-TEQ/g未満、コプラナーPCB(Co-PCB)が0.03pg-TEQ/g未満」であると特定されているのに対し、甲4発明は、「医薬品の原体」が「ダイオキシンが水道水の基準濃度以下にまで除去されている」と特定されている点。 相違点4-3: 本件特許発明1は、「脂肪酸中に占めるエイコサペンタエン酸の濃度が97面積%以上」であると特定されているのに対し、甲4発明は、「純度が97%のEPAである医薬品の原体」と特定されている点。 相違点4-4: 本件特許発明1は、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル中に「含まれる臭素化難燃剤の含有量が、BDE-49の量が0.05ng/g未満、又は、BDE-100の量が0.03ng/g未満」であると特定されているのに対し、甲4発明は、臭素化難燃剤の有無及び含有量について特定されていない点。 b 判断 事案に鑑み相違点4-4について検討する。 甲4には、安全で高品質なEPA医薬品原体が製造されること、魚油中のダイオキシンは水道水の基準濃度以下にまで除去されたことが記載されている(上記(甲4b))。 しかしながら、甲4発明に臭素化難燃剤が含まれているか不明であり、ましてや、BDE-49又はBDE-100の含有量がどのくらいであるかは全く不明であるから、相違点4-4は、実質的な相違点である。 したがって、本件特許発明1は、相違点4-1?4-3について検討するまでもなく、甲4に記載された発明でない。 (ウ)本件特許発明2?3について 本件特許発明2?3はいずれも本件特許発明1の全ての発明特定事項を含むものである。 そうすると、本件特許発明1が甲4に記載された発明でない以上、本件特許発明2?3も同様に甲4に記載された発明でない。 (エ)小括 したがって、本件特許発明1?3は、甲4に記載された発明であるとはいえない。 ウ 甲5を主引例とする本件特許発明の新規性について (ア)甲5に記載された発明 甲5には、魚油を短行程蒸留方式(SPD)でダイオキシン類などを取り除いた精製油とし、得られた精製魚油を、連続化エステル製造設備でエチルエステル化し、次いで連続高純度精製を行い、医薬品原体のEPAエチルエステル(純度97%)を製造することが記載されている(上記(甲5b))。そして、製品である医薬品原体においては、ダイオキシン類は、最終的に水道水の基準値以下の0.001pg/g以下しか残存しないことも記載されている(上記(甲5b)、(甲5c))。 したがって、甲5には次の「甲5発明」が記載されていると認める。 甲5発明: 「魚油を短行程蒸留方式(SPD)でダイオキシン類を取り除いた精製魚油とし、得られた精製魚油を、連続化エステル製造設備でエチルエステル化し、次いで連続高純度精製を行って得られる、医薬品原体のEPAエチルエステル(純度97%)であって、ダイオキシン類が水道水の基準値以下の0.001pg/g以下しか残存しない医薬品原体のEPAエチルエステル。」 (イ)本件特許発明1について a 対比 本件特許発明1と甲5発明とを対比する。 甲5発明の「EPAエチルエステル」は、エイコサペンタエン酸エチルエステルのことであり、上記(1)ア(ア)の解釈から、本件特許発明1の「エイコサペンタエン酸」に相当するといえる。 そして、魚油がEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などの高度不飽和脂肪酸を含むことも広く知られたことである(上記(甲4a))。 したがって、甲5発明の、魚油を処理して得られる「医薬品原体のEPAエチルエステル」は、本件特許発明1の「魚油を原料とし、エイコサペンタエン酸を含有する、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル」であって、「医薬品、サプリメント、食品、化粧品または、飼料のための、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル」に相当する。 したがって、両発明は次の一致点及び相違点5-1?5-3を有する。 一致点: 「魚油を原料油とし、エイコサペンタエン酸を含有する、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステルであって、ダイオキシン類を含み、医薬品、サプリメント、食品、化粧品または、飼料のための、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル」である点。 相違点5-1: 本件特許発明1は、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル中に「含まれるダイオキシン類のうち、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の含有量が0.05pg-TEQ/g未満、コプラナーPCB(Co-PCB)が0.03pg-TEQ/g未満」であると特定されているのに対し、甲5発明は、「ダイオキシン類が水道水の基準値以下の0.001pg/g以下しか残存しない医薬品原体のEPAエチルエステル」であると特定されている点。 相違点5-2: 本件特許発明1は、「脂肪酸中に占めるエイコサペンタエン酸の濃度が97面積%以上」であると特定されているのに対し、甲5発明は、「医薬品原体のEPAエチルエステル(純度97%)」であると特定されている点。 相違点5-3: 本件特許発明1は、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル中に「含まれる臭素化難燃剤の含有量が、BDE-49の量が0.05ng/g未満、又は、BDE-100の量が0.03ng/g未満」であると特定されているのに対し、甲5発明は、臭素化難燃剤の有無及び含有量について特定されていない点。 b 判断 事案に鑑み相違点5-3について検討する。 甲5には、ダイオキシン類はごく低濃度まで除去されること、水道水の基準以下しか残存しないことが記載されている(上記(甲5b)、(甲5c))。 しかしながら、甲5発明に臭素化難燃剤が含まれているか不明であり、ましてや、BDE-49又はBDE-100の含有量がどのくらいであるかは全く不明であるから、相違点5-3は、実質的な相違点である。 したがって、本件特許発明1は、相違点5-1?5-2について検討するまでもなく、甲5に記載された発明でない。 (ウ)本件特許発明2?3について 本件特許発明2?3はいずれも本件特許発明1の全ての発明特定事項を含むものである。 そうすると、本件特許発明1が甲5に記載された発明でない以上、本件特許発明2?3も同様に甲5に記載された発明でない。 (エ)小括 したがって、本件特許発明1?3は、甲5に記載された発明であるとはいえない。 エ 理由1(新規性)についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明1?3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号により取り消すべきものではない。 (3)理由2(進歩性)について ア 甲1を主引例とする本件特許発明の進歩性について (ア)甲1に記載された発明 甲1発明は、上記(2)ア(ア)で認定したとおりのものである。 (イ)本件特許発明1について a 対比 本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、上記(2)ア(イ)aのとおりである。 b 判断 事案に鑑み相違点1-4について検討する。 (a)甲1には、魚油を原料とする医薬品製剤には、水銀やダイオキシン類が混入するおそれがあること(上記(甲1a))、製造工程中に短行程蒸留を導入して魚油中の環境汚染物質の除去を行っていることが記載されている(上記(甲1e))。 そして、甲10には、医薬品などの原料となる魚油を含む海洋性生物体の沈殿物中に、ダイオキシン類や水銀以外にも、比較的高濃度の環境汚染物質として臭素化難燃剤が蓄積されることが記載されており(上記(甲10a)、(甲10d))、魚油中のダイオキシン類や臭素化難燃剤などの環境汚染物質の量を低減する必要があることも記載されている(上記(甲10b))。また、甲10の実施例6及び表5には、魚油中に含まれる臭素化難燃剤のBDE-100を低減させたことも記載されている(上記(甲10f))。 さらに、臭素化難燃剤に由来する環境汚染物質として、甲10に記載されているBDE-100の他にBDE-49も公知である(必要ならば、厚生労働省の平成16年度研究報告書「ダイオキシン類による食品汚染実態の把握に関する研究」、厚生労働科学研究成果データベース:文献番号200636016B、40頁参照)。 そうすると、甲1発明のM1医薬品製剤は、製造工程中の短行程蒸留で魚油中の環境汚染物質の除去を行っているから、混入するおそれがある公知の環境汚染物質である臭素化難燃剤のBDE-49又はBDE-100も同時に低減されており、甲1発明に含まれるダイオキシン類の含有量が本件特許発明1に含まれるダイオキシン類の含有量よりかなり少ない値であることから、臭素化難燃剤の含有量も本件特許発明1で特定される程度であると予測し、その量を調べて特定することは、当業者であれば容易になし得たこととも一応考えられる。 (b)しかしながら、本件特許明細書の実施例7によれば魚油をエチルエステル化した後に精留により精製すると、ダイオキシン類の種類によってはそれらがEPAエチルエステルと類似の挙動を示し、EPAエチルエステルの濃縮に伴ってダイオキシン類も濃縮してしまうこと、しかしその後のカラム処理では、EPAエチルエステルとダイオキシン類が異なる挙動を示して、EPAエチルエステルを濃縮しつつダイオキシン類を低減できたことが示されている。 一方、臭素化難燃剤については、本件特許権者が令和1年9月9日付け意見書に添付して提出した乙第6号証(日本水産株式会社 中央研究所 健康基盤研究室 廣内勇二 令和元年8月27日作成の実験成績証明書。以下、「乙6」という。)には、ODSカラムを用いたHPLC処理において、EPAエチルエステルと、臭素化難燃剤であるBDE-49又はBDE-100とは、ピーク位置が重なり、いずれも類似の挙動を示して分離できないことが示されている。 また、同乙第9号証(特表2010-508388号公報。以下、「乙9」という。)にも、魚油を活性炭及び膜ろ過により精製処理した場合、ダイオキシン類と臭素化難燃剤とが異なる挙動を示し、前者は低減できたが後者は低減できなかったことが示されている(【表1】、【表2】参照)。 そうすると、魚油の精製やエチルエステル化後の精製における精製工程によって、EPAエチルエステルと、ダイオキシン類又は臭素化難燃剤とは異なる挙動を示し、特に臭素化難燃剤のBDE-49又はBDE-100は、カラム処理においてはダイオキシン類とは異なる挙動を示してEPAエチルエステルから分離できないことからすると、甲1発明のM1医薬品製剤では、短行程蒸留によって魚油中のダイオキシン類がかなり低減されているからといって、臭素化難燃剤も同様にかなり低減されているとか、適宜精製手段を組み合わせたり繰り返したりすることで、臭素化難燃剤のBDE-49又はBDE-100を低減できるとは、当業者といえども予測することは困難である。 したがって、甲1発明において、臭素化難燃剤のBDE-49又はBDE-100に着目して、それらの含有量を低減することや、これらが本件特許発明1で特定される含有量まで除去されていると予測して、その量を調べて特定することが、当業者が容易になし得たこととはいえない。 (c)よって、本件特許発明1は、相違点1-1?1-3について検討するまでもなく、甲1発明及び甲10に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 (ウ)本件特許発明2?3について 本件特許発明2?3はいずれも本件特許発明1の全ての発明特定事項を含むものである。 そうすると、本件特許発明1が甲1に記載された発明及び甲10に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、本件特許発明2?3も、同様の理由により当業者が容易になし得たものとはいえない。 (エ)小括 以上のとおり、本件特許発明1?3は、甲1に記載された発明及び甲10に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 イ 甲4を主引例とする本件特許発明の進歩性について (ア)甲4に記載された発明 甲4発明は、上記(2)イ(ア)で認定したとおりのものである。 (イ)本件特許発明1について a 対比 本件特許発明1と甲4発明との一致点及び相違点は、上記(2)イ(イ)aのとおりである。 b 判断 事案に鑑み相違点4-4について検討する。 甲4には、魚油を短行程蒸留方式・連続エステル化工程と連続高純度精製の組合せで魚油中のダイオキシン類を除去して高純度のEPA医薬品原体を得ることができることが記載されている(上記(甲4a)?(甲4c))。 そして、魚油中のダイオキシン類や臭素化難燃剤などの環境汚染物質の量を低減させる必要があること、BDE-49又はBDE-100が公知の環境汚染物質であることは、上記ア(イ)b(a)で検討したとおりである。 しかしながら、上記ア(イ)b(b)で検討したとおり、魚油の精製やエチルエステル化後の精製における精製工程によって、EPAエチルエステルと、ダイオキシン類又は臭素化難燃剤とは異なる挙動を示し、特に臭素化難燃剤のBDE-49又はBDE-100は、カラム処理においてはダイオキシン類とは異なる挙動を示してEPAエチルエステルから分離できないことからすると、甲4発明の医薬品の原体では、短行程蒸留方式・連続エステル化工程と連続高純度精製の組合せによって魚油中のダイオキシン類がかなり低減されているからといって、臭素化難燃剤も同様にかなり低減されているとか、適宜精製手段を組み合わせたり繰り返したりすることで、臭素化難燃剤のBDE-49又はBDE-100を低減できるとは、当業者といえども予測することは困難である。 そうであれば、甲4発明の医薬品の原体について、臭素化難燃剤のBDE-49又はBDE-100に着目してその含有量が本件特許発明1で特定される量にまで低減したものとすることが動機付けられるとはいえない。 したがって、本件特許発明1は、相違点4-1?4-3について検討するまでもなく、甲4発明及び甲10に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 (ウ)本件特許発明2?3について 本件特許発明2?3はいずれも本件特許発明1の全ての発明特定事項を含むものである。 そうすると、本件特許発明1が甲4に記載された発明及び甲10に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、本件特許発明2?3も、同様の理由により当業者が容易になし得たものとはいえない。 (エ)小括 以上のとおり、本件特許発明1?3は、甲4に記載された発明及び甲10に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 ウ 甲5を主引例とする本件特許発明の進歩性について (ア)甲5に記載された発明 甲5発明は、上記(2)ウ(ア)で認定したとおりのものである。 (イ)本件特許発明1について a 対比 本件特許発明1と甲5発明との一致点及び相違点は、上記(2)ウ(イ)aのとおりである。 b 判断 事案に鑑み相違点5-3について検討する。 甲5には、魚油を短行程蒸留方式でダイオキシン類を除去し、連続エステル化工程でエチルエステル化し、その後、連続高純度精製を行い、高純度の医薬品原体のEPAエチルエステルを製造することが記載されているだけである(上記(甲5b))。 そうすると、上記イ(イ)bで検討したのと同様の理由により、甲5発明の医薬品原体のEPAエチルエステルについて、臭素化難燃剤のBDE-49又はBDE-100に着目してその含有量が本件特許発明1で特定される量にまで低減したものとすることが動機付けられるとはいえない。 したがって、本件特許発明1は、相違点5-1?5-2について検討するまでもなく、甲5発明及び甲10に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 (ウ)本件特許発明2?3について 本件特許発明2?3はいずれも本件特許発明1の全ての発明特定事項を含むものである。 そうすると、本件特許発明1が甲5に記載された発明及び甲10に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、本件特許発明2?3も、同様の理由により当業者が容易になし得たものとはいえない。 (エ)小括 以上のとおり、本件特許発明1?3は、甲5に記載された発明及び甲10に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 エ 申立人の主張について (ア)申立人は、特許異議申立書31頁11行?33頁19行、令和1年5月7日付け意見書の16頁下から5行?22頁14行及び令和1年10月25日付け意見書の4頁下から3行?15頁下から5行において、本件特許発明が進歩性を有していないことに関して、概略次のように主張している。 a 本件特許明細書の表10に、原料油(イワシ油)、SPD処理を行ったSPD油、及びエチルエステル中の臭素化難燃剤の濃度が記載されているところ、SPD油とエチルエステル中の濃度はほとんど変化しておらず、このことは魚油中の臭素化難燃剤は短行程蒸留だけで低減されることを示す。 そして、上記(甲16a)のとおり、甲10の臭素化難燃剤の減少度は、本件特許明細書の実施例と同等であり、このことは魚油中の臭素化難燃剤は蒸留により十分低減できることを示しており、原料油中の臭素化難燃剤が本件特許明細書の実施例と同程度に低濃度であれば、蒸留により本件特許発明で特定する程度まで低減できることを示している。 これらのことは、甲17及び甲18においても、宮城大学 西川正純教授の見解として示されている(上記(甲17a)、(甲17c)、(甲18b)?(甲18c))。 そうすると、原料を精製して、不純物の少ない組成物を得るために、より不純物の少ない原料を用いることや、蒸留により不純物を少なくした原料を再蒸留することでさらに少なくできることは当業者の技術常識といえる。 そして、甲14には、汚染レベルが低い魚油(S5)が示されており(上記(甲14b)、(甲14c))、これを原料とすることで、甲1発明、甲4発明又は甲5発明において、本件特許発明で特定する程度まで低減できると予測することができ、容易に低減化を達成することができる。 b 本件特許明細書の表10は、カラム処理前(SPD油)とカラム処理後(エチルエステル)の臭素化難燃剤の含有量がほとんど変化しておらず、EPAエチルエステルの精製により臭素化難燃剤が濃縮されていないことを示しているから、BDE-49又はBDE-100はカラム処理により分離できないことを示す乙6は、本件特許明細書の表10と矛盾しており、進歩性を判断するための証拠として採用すべきでない。 また、本件特許明細書の実施例8は、臭素化難燃剤の低減だけであり、実施例4、6、7はダイオキシン類の低減だけであるように、両者が同時に低減されることは示されていない。一方で、本件特許明細書には、短行程蒸留処理さえすれば、両者が共に低減されるという技術思想が説明されている。 したがって、ダイオキシン類を低減させても、臭素化難燃剤は低減しない場合が示されている乙9によっても、当業者は、本件特許発明よりもダイオキシン類が大幅に低減されている甲1発明、甲4発明又は甲5発明は、臭素化難燃剤も同様に除去されていると容易に想到できる。 c 臭素化難燃剤は、本件特許の優先日前から環境汚染物質として知られており、これらを低減させる動機付けはあったといえる。 本件特許発明は、物の発明であるから、精製工程を繰り返したりいくつもの精製技術を組み合わせたりすることの困難性の主張は失当であり、依然として進歩性を有していない。 (イ)申立人の上記主張について検討する。 aについて 本件特許明細書の表10は、魚油を短行程蒸留してからエチルエステル化し、その後EPAエチルエステルを精留及びカラム処理によって精製処理した場合に、臭素化難燃剤が本件特許発明で特定されるng/gのレベルにまで低減できたことを示すものであるから、短行程蒸留のみで低減できることを示すものではない。 また、甲16における臭素化難燃剤の減少度の比較は、魚油の蒸留による除去効果について比較したものであって、その後のEPAエチルエステルの精製手段に係わらず、臭素化難燃剤が短行程蒸留のみで低減できることを示したものとはいえない。 よって、申立人の主張は採用できない bについて 乙6は、ODSカラムを用いたHPLC処理において、従来認識されていなかったEPAエチルエステルとBDE-49又はBDE-100のピークが重なるという事実をμgオーダーの実験で示したものであるから、本件特許明細書の表10の実施例8による方法で臭素化難燃剤をng/gのレベルまで低減できたことと矛盾する結果が示されているとはいえない。 そして、本件特許明細書全体の記載から、短行程蒸留さえすればダイオキシン類と臭素化難燃剤の両方が低減されるという技術思想が示されているとはいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 cについて 上記ア(イ)bなどで検討したとおり、臭素化難燃剤を低減させる動機付けがあったとしても、甲1発明、甲4発明又は甲5発明において、本件特許発明で特定される程度にまで臭素化難燃剤の含有量が低減されていると予測することや低減させることは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。 そして、物の発明であっても、公知の技術的事項からその物を得ることが導き出されない以上、その物が容易になし得たものということはできない。 よって、申立人の主張は採用できない。 オ 理由2(進歩性)についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号により取り消すべきものではない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 申立理由の概要 訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、申立人が主張した特許異議申立理由のうち、取消理由通知において採用しなかった理由の要旨は、次のとおりである。 (1)理由1(進歩性) 本件特許の請求項1及び3に係る発明は、本件特許の出願に係る優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲9又は甲10に記載された発明に基いて、本件特許の出願に係る優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1又は3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)理由2(実施可能要件) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (3)理由3(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (4)理由4(明確性要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 甲号証の記載 前記第4 2のとおりである。 3 当審の判断 (1)理由1(進歩性)について ア 甲9を主引例とする本件特許発明の進歩性について (ア)甲9に記載された発明 甲9には、魚油中のEPAを医薬品用に高純度に濃縮することに関して、精密蒸留により炭素数20の脂肪酸エチルエステルを濃縮してから液体クロマト法により、99%以上に濃縮されたEPA-Eの調製が可能であることが記載されている(前記(甲9a)?(甲9c))。 したがって、甲9には次の「甲9発明」が記載されていると認める。 甲9発明: 「魚油を原料とする医薬品用のEPA-Eであって、99%以上に濃縮されたEPA-E。」 (イ)本件特許発明1について a 対比 本件特許発明1と甲9発明とを対比する。 甲9発明の「EPA-E」は、前記第4 3(1)ア(ア)の解釈から、本件特許発明1の「エイコサペンタエン酸」に相当するといえる。 したがって、両発明は次の一致点及び相違点9-1?9-4を有する。 一致点: 「魚油を原料油とし、エイコサペンタエン酸を含有するもの」である点。 相違点9-1: 本件特許発明1は、「エイコサペンタエン酸を含有する、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル」であって、「医薬品、サプリメント、食品、化粧品または、飼料のための、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル」であるのに対し、甲9発明は、「医薬品用のEPA-E」である点。 相違点9-2: 本件特許発明1は、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル中に「含まれるダイオキシン類のうち、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の含有量が0.05pg-TEQ/g未満、コプラナーPCB(Co-PCB)が0.03pg-TEQ/g未満」であると特定されているのに対し、甲9発明は、ダイオキシン類の有無及び含有量について特定されていない点。 相違点9-3: 本件特許発明1は、「脂肪酸中に占めるエイコサペンタエン酸の濃度が97面積%以上」と特定されているのに対し、甲9発明は、「99%以上に濃縮されたEPA-E」と特定されている点。 相違点9-4: 本件特許発明1は、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル中に「含まれる臭素化難燃剤の含有量が、BDE-49の量が0.05ng/g未満、又は、BDE-100の量が0.03ng/g未満」であると特定されているのに対し、甲9発明は、臭素化難燃剤の有無及び含有量について特定されていない点。 b 判断 事案に鑑み相違点9-4について検討する。 甲9には、医薬品用に、魚油から抽出した高純度EPA-Eについて記載されているが(前記(甲9a)、(甲9b))、甲9全体を参酌しも、甲9発明に、ダイオキシン類や臭素化難燃剤などが含まれているかについては記載されておらず、ましてや、BDE-49又はBDE-100の含有量がどのくらいであるかは全く不明である。 そして、前記第4 3(3)ア?ウで検討したのと同様の理由により、甲9発明のEPA-Eについて、臭素化難燃剤のBDE-49又はBDE-100に着目してその含有量が本件特許発明1で特定される量にまで低減したものとすることが動機付けられるとはいえない。 したがって、本件特許発明1は、相違点9-1?9-3について検討するまでもなく、甲9発明に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 (ウ)本件特許発明2?3について 本件特許発明2?3はいずれも本件特許発明1の全ての発明特定事項を含むものである。 そうすると、本件特許発明1が甲9に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、本件特許発明2?3も、同様の理由により当業者が容易になし得たものとはいえない。 (エ)申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書の27頁下から12行?28頁下から6行及び33頁下から10?9行において、甲9に記載された発明について、甲4及び甲5に記載された魚油を短行程蒸留で蒸留し、その後エチルエステル化を行って得られたエチルエステルを用いて、さらに精密蒸留により濃縮してから液体クロマト法を用いることにより、純度99%以上のEPAを製造することは容易に想到し得ることであり、そのようにして得られたEPA中のダイオキシン類は、本件特許発明の特定を満たしている蓋然性が高いこと、甲18には、ダイオキシン類の除去は薄膜蒸留が特に有効であることが記載されている旨主張する。 しかしながら、本件特許発明は、「含まれる臭素化難燃剤の含有量が、BDE-49の量が0.05ng/g未満、又は、BDE-100の量が0.03ng/g未満であり」との発明特定事項を有するものであり、この点は、上記(イ)bのとおり、当業者が容易になし得たものとはいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 (オ)小括 以上のとおり、本件特許発明1?3は、甲9に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 イ 甲10を主引例とする本件特許発明の進歩性について (ア)甲10に記載された発明 甲10の前記(甲10h)からみて、甲10には次の「甲10発明」が記載されていると認める。 甲10発明: 「EPAエチルエステルを含む魚油由来の医薬組成物であって、魚油中のBDE47の濃度を少なくとも95%減少させ、EPAの濃度を医薬的に有効な濃度に増加させることにより調製され、健康補助剤ではない医薬組成物。」 (イ)本件特許発明1について a 対比 本件特許発明1と甲10発明とを対比する。 甲10発明の「EPAエチルエステル」は、前記第4 3(1)ア(ア)の解釈から、本件特許発明1の「エイコサペンタエン酸」に相当するといえる。 したがって、両発明は次の一致点及び相違点10-1?10-4を有する。 一致点: 「魚油を原料油とし、エイコサペンタエン酸を含有するもの」である点。 相違点10-1: 本件特許発明1は、「エイコサペンタエン酸を含有する、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル」であって、「医薬品、サプリメント、食品、化粧品または、飼料のための、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル」であるのに対し、甲10発明は、「EPAエチルエステルを含む」「健康補助剤ではない医薬組成物」である点。 相違点10-2: 本件特許発明1は、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル中に「含まれるダイオキシン類のうち、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の含有量が0.05pg-TEQ/g未満、コプラナーPCB(Co-PCB)が0.03pg-TEQ/g未満」であると特定されているのに対し、甲10発明は、ダイオキシン類の有無及び含有量について特定されていない点。 相違点10-3: 本件特許発明1は、「脂肪酸中に占めるエイコサペンタエン酸の濃度が97面積%以上」と特定されているのに対し、甲10発明は、「EPAの濃度を医薬的に有効な濃度に増加させることにより調製され」ると特定されている点。 相違点10-4: 本件特許発明1は、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル中に「含まれる臭素化難燃剤の含有量が、BDE-49の量が0.05ng/g未満、又は、BDE-100の量が0.03ng/g未満」であると特定されているのに対し、甲10発明は、「魚油中のBDE47の濃度を少なくとも95%減少させ」ると特定されている点。 b 判断 事案に鑑み相違点10-4について検討する。 甲10には、魚油中の臭素化難燃剤について、甲10発明で特定されるBDE47以外のBDE100についても、揮発性作業流体を添加した分子蒸留により、処理前の1.0μg/kg(=ng/g)を、蒸留後に0.2μg/kg未満に減少させたことが記載されている(前記(甲10f))。 しかしながら、甲10全体を参酌しても、甲10には、臭素化難燃剤を除去した後の魚油について、エチルエステル化し、EPAの濃度を増加させたこと、得られたEPAエチルエステル中の臭素化難燃剤については、具体的に記載されたところはない。 そして、前記第4 3(3)ア?ウで検討したのと同様の理由により、甲10発明のEPAエチルエステルについて、臭素化難燃剤のBDE-49又はBDE-100に着目してその含有量が本件特許発明1で特定される量にまで低減したものとすることが動機付けられるとはいえない。 したがって、本件特許発明1は、相違点10-1?10-3について検討するまでもなく、甲10発明に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 (ウ)本件特許発明2?3について 本件特許発明2?3はいずれも本件特許発明1の全ての発明特定事項を含むものである。 そうすると、本件特許発明1が甲10に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、本件特許発明2?3も、同様の理由により当業者が容易になし得たものとはいえない。 (エ)申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書の28頁下から5行?31頁10行及び33頁下から10?9行において、以下の旨を主張する。 エイコサペンタン酸エステルの医薬的に有効な濃度は、日本薬局方(前記(甲13a))に規定されている96.5%以上の濃度であることは技術常識である。 魚油中のダイオキシン類を蒸留法により低減することは甲10により、カラムクロマトグラフィーにより低減することは甲11(前記(甲11c)、(甲11d))により、それぞれ公知であるところ、本件特許発明のダイオキシン類の低減方法はこれら公知の方法の組合せであり、甲16(前記(甲16a))の本件特許発明と甲10の実施例の比較から、両者の除去効果はほとんど差がつかない。不純物の少ない製品を得るために、不純物の少ない原料を用いることは自明な技術であり、不純物の少ない原料を用いる場合、より低減化も容易であるから(前記(甲17e))、甲10に記載の方法において、甲12(前記(甲12d))に記載の汚染物質の少ない魚油(Fish Oil 1)を用いることで、本件特許発明で特定する程度まで低減されたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 しかしながら、本件特許発明は、「含まれる臭素化難燃剤の含有量が、BDE-49の量が0.05ng/g未満、又は、BDE-100の量が0.03ng/g未満であり」との発明特定事項を有するものであり、この点は、上記(イ)bのとおり、当業者が容易になし得たものとはいえない。 よって、申立人の主張は採用できない。 (オ)小括 以上のとおり、本件特許発明1?3は、甲10に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。 ウ 理由1(進歩性)についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明1?3についての、申立人の上記理由1(進歩性)には、理由がない。 (2)理由2(実施可能要件)について ア 本件特許発明は、エイコサペンタエン酸を含有する高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステルという物の発明であるから、本件特許発明が実施可能要件を満たすといえるためには、その物を作れ、かつ、その物を使用できるように記載されていることが必要である。 これについて、本件特許明細書には、魚油を短行程蒸留して、ダイオキシン類の総含有量を低減し、それを原料としエチルエステルを得、これを精留及びカラムクロマトグラフ処理することで、エチルエステル中のダイオキシン類及び臭素化難燃剤をさらに低下し、本件特許発明で特定する含有量のものが得られることが、【0008】、【0016】?【0019】、及び実施例で説明されている。 そして、エイコサペンタエン酸を含有する高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステルを、医薬品、サプリメント、食品、化粧品又は飼料として使用できることは自明な事項である。 よって、発明の詳細な説明は、本件特許発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。 イ 申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書の33頁下から7行?35頁28行において、本件特許発明は、実施例に示されるように極めて汚染物質の少ない魚油を原料として製造されたものであるのに対し、本件特許発明は、原料である魚油中のダイオキシン類及び臭素化難燃剤の含有量が特定されておらず、本件特許明細書には、原料の魚油の入手方法や特性に関する記載は一切なされていないから、当業者は本件特許発明を実施できない旨主張する。 また、申立人は、甲12には、日本で入手できる魚油として例示される5例中4例までが、実施例で用いられた魚油よりダイオキシン類が大きく上回っていることが示されているから(前記(甲12d))、通常日本で入手し得る原料を用いた場合、当業者は本件特許発明を実施できないことも指摘する。 しかしながら、本件特許明細書の【0013】に「これらの油脂を本発明の原料油として用いる場合、分子蒸留又は短行程蒸留に付す前に、前処理をしてもよい。このような前処理としては、脱ガム工程、活性白土や活性炭を用いた脱色工程、水洗工程などが例示される。」と説明されており、原料である魚油を予め精製処理してもよいことが説明されている。 また、申立人が、甲17及び甲18を示して主張するように、魚油を短行程蒸留することでダイオキシン類や臭素化難燃剤を低減できることは、当業者における技術常識であるといえるから、短行程蒸留を繰り返して汚染物質の少ない魚油を得てから、実施例に示される方法により、本件特許発明の物を製造できるといえる。 そして、甲12は、1例であっても汚染物質の極めて少ない魚油を示しているのであるから、当業者が入手できないということもできない。 よって、申立人の主張は採用できない。 ウ 理由2(実施可能要件)についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明1?3についての、申立人の上記理由2(実施可能要件)には、理由がない。 (3)理由3(サポート要件)及び理由4(明確性要件)について ア 本件特許発明の解決しようとする課題は、本件特許明細書の全体の記載、特に【0007】の記載からみて、ダイオキシン類及び臭素化難燃剤の含有量が少なく、エイコサペンタエン酸の濃度が97面積%以上である、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステルを提供することにあると認める。 そして、上記(2)アのとおり、本件特許明細書には、ダイオキシン類及び臭素化難燃剤の含有量の少ない高純度のエチルエステルを得ることについて、一般的な記載及び具体的な実施例を伴って説明されている。 よって、本件特許発明は、発明の詳細な説明において、課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものである。 イ 申立人の主張について (ア)申立人は、特許異議申立書の35頁29行?38頁26行において、以下の旨を主張する。 a 魚油を原料として得られる高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステルにおけるダイオキシン類の濃度は、原料油中のダイオキシン類の濃度に強く影響を受けるという特徴を持つのに対し、本件特許明細書の実施例は、特定の魚油を唯一の具体例として用いているのみであり、甲12に5例中4例で示されるような日本で容易に入手できる魚油を原料とした場合は検証されていないため、「魚油を原料油とし」という点において、本件特許発明は、いわゆるサポート要件に違反しているとともに、魚油原料中のダイオキシン類の濃度を特定していない点で、本件特許発明は不明確である。 b 本件特許発明は、ダイオキシン類及び臭素化難燃剤類の含有量の上限値のみが規定された数値範囲により特定されているから、それぞれの含有量が0の場合を含むものであるのに対し、実施例では、検出限界値未満の場合を0としており、具体的に0であるものは記載されていない。 また、本件特許発明は、脂肪酸中に占めるエイコサペンタエン酸の濃度が97面積%以上と特定されているのに対し、具体例は一つしか記載されていない。 甲15に判示されるように(前記(甲15a))、本件特許発明は、「特許出願時の技術常識を参酌して,当該変数が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載することを要する案件」であるといえるが、具体例は僅かであるから、いわゆるサポート要件に違反している。 (イ)そこで、上記主張について検討する。 aについて 上記(2)イでも述べたとおり、当業者は、汚染物質の少ない魚油を入手できるといえるから、本件特許発明の課題を解決し得るといえる。そして、本件特許発明が属する技術分野において、EPAを含有する高度不飽和脂肪酸又はそのエチルエステルを得るための原料の魚油がどのようなものであるかを、当業者は明確に理解できる。 よって、申立人の主張は採用できない。 bについて 本件特許発明の解決しようとする課題は、ダイオキシン類及び臭素化難燃剤の含有量の少ない高純度のエチルエステルを提供することであって、ダイオキシン類、臭素化難燃剤及びEPAのそれぞれが、個別に特定の含有量の範囲であるもの(あるいは全く含まないもの)を提供することではない。 よって、申立人の主張は採用できない。 ウ 理由3(サポート要件)及び理由4(明確性要件)についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明1?3についての、申立人の上記理由3(サポート要件)及び理由4(明確性要件)には、理由がない。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 魚油を原料油とし、エイコサペンタエン酸を含有する、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステルであって、 含まれるダイオキシン類のうち、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の含有量が0.05pg-TEQ/g未満、コプラナーPCB(Co-PCB)が0.03pg-TEQ/g未満であり、 含まれる臭素化難燃剤の含有量が、BDE-49の量が0.05ng/g未満、又は、BDE-100の量が0.03ng/g未満であり、 脂肪酸中に占めるエイコサペンタエン酸の濃度が97面積%以上である、医薬品、サプリメント、食品、化粧品または、飼料のための、高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル。 【請求項2】 さらに、含まれる臭素化難燃剤の含有量がBDE-47の量が0.18ng/g未満、BDE-100の量が0.03ng/g未満、BDE-49の量が0.05ng/g未満、又は、BDE-99の量が0.05ng/g未満である請求項1の高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸のエチルエステル。 【請求項3】 Co-PCBが0.02pg-TEQ/g未満もしくは0.01pg-TEQ/g未満であるか、 BDE-17が0.05ng/g未満、0.03ng/g未満もしくは0.02ng/g未満であるか、 BDE-28が0.05ng/g未満、0.03ng/g未満もしくは0.02ng/g未満であるか、 BDE-47が0.05ng/g未満、0.03ng/g未満もしくは0.02ng/g未満であるか、 BDE-49が0.03ng/g未満もしくは0.02ng/g未満であるか、 BDE-66が0.05ng/g未満、0.03ng/g未満もしくは0.02ng/g未満であるか、 BDE-99が0.05ng/g未満もしくは0.03ng/g未満であるか、 BDE-100が0.02ng/g未満であるか、又は BDE-154が0.05ng/g未満である、 請求項1又は2の高度不飽和脂肪酸のエチルエステル。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-12-06 |
出願番号 | 特願2014-114769(P2014-114769) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C07C)
P 1 651・ 536- YAA (C07C) P 1 651・ 537- YAA (C07C) P 1 651・ 113- YAA (C07C) P 1 651・ 851- YAA (C07C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 村守 宏文、緒形 友美、杉江 渉、中島 芳人 |
特許庁審判長 |
佐々木 秀次 |
特許庁審判官 |
瀬良 聡機 関 美祝 |
登録日 | 2018-03-23 |
登録番号 | 特許第6309828号(P6309828) |
権利者 | 日本水産株式会社 |
発明の名称 | 環境汚染物質を低減させた高度不飽和脂肪酸又は高度不飽和脂肪酸エチルエステル及びその製造方法 |
代理人 | 中西 基晴 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 寺地 拓己 |
代理人 | 寺地 拓己 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 一宮 維幸 |
代理人 | 宮前 徹 |
代理人 | 中西 基晴 |
代理人 | 宮前 徹 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 一宮 維幸 |