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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D04H
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D04H
審判 全部申し立て 2項進歩性  D04H
管理番号 1359550
異議申立番号 異議2019-700364  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-26 
確定日 2019-12-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6428868号発明「網状構造体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6428868号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6428868号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6428868号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成28年4月28日に出願した特願2016-91090号(優先権主張 平成27年4月28日、平成28年2月8日)の一部を平成29年7月11日に新たな特許出願としたものであって、平成30年11月9日に特許権の設定登録がされ、平成30年11月28日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

平成31年4月26日:特許異議申立人吉野世史子(以下「申立人」という。)よる特許異議の申立て
令和元年7月24日付け:取消理由通知書
令和元年9月27日:特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
令和元年11月7日:申立人による意見書の提出

第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
令和元年9月27日の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6428868号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?5について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。

(訂正事項)
特許請求の範囲の請求項1に
「前記オリフィスは、複数の中実断面繊維用オリフィスと複数の中空断面繊維用オリフィスとを含み、
前記中実断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチと前記中空断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチとの差が2mm以下である、網状構造体の製造方法。」とあるのを、
「前記オリフィスは、複数の中実断面繊維用オリフィスと複数の中空断面繊維用オリフィスとを含み、
前記ノズルにおける前記オリフィスの孔は、前記中実断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるa群、前記中実断面繊維用オリフィスの孔と前記中空断面繊維用オリフィスの孔が混在して厚さ方向に複数列配置されて構成されるab群、および前記中空断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるb群の3つの群からなるか、あるいは、前記中実断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるα群、および前記中空断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるβ群の2つの群からなり、
前記中実断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチと前記中空断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチとの差が2mm以下である、網状構造体の製造方法。」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2?5も同様に訂正する。)

なお、訂正前の請求項1?5は、請求項2?5が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1?5について請求されている。

2 訂正の適否
(1)訂正の目的
上記訂正事項は、訂正前の「オリフィス」について、「前記ノズルにおける前記オリフィスの孔は、前記中実断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるa群、前記中実断面繊維用オリフィスの孔と前記中空断面繊維用オリフィスの孔が混在して厚さ方向に複数列配置されて構成されるab群、および前記中空断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるb群の3つの群からなるか、あるいは、前記中実断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるα群、および前記中空断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるβ群の2つの群からな」るものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項は、上記(1)のとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

(3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項は、本件特許明細書の【0040】及び【0041】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕についての訂正を認める。


第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1?5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されると以下のおりのものである。

「【請求項1】
複数のオリフィスでかつ異なるオリフィス孔径を複数有する多列ノズルよりポリエステル系熱可塑性エラストマーをノズルオリフィスに分配し、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点より20℃以上120℃未満高い紡糸温度で、前記ノズルより下方に向け吐出させ、溶融状態で互いに連続線状体を接触させて融着させ3次元構造を形成することにより、網状構造体を得る網状構造体の製造方法であって、
前記オリフィスは、複数の中実断面繊維用オリフィスと複数の中空断面繊維用オリフィスとを含み、
前記ノズルにおける前記オリフィスの孔は、前記中実断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるa群、前記中実断面繊維用オリフィスの孔と前記中空断面繊維用オリフィスの孔が混在して厚さ方向に複数列配置されて構成されるab群、および前記中空断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるb群の3つの群からなるか、あるいは、前記中実断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるα群、および前記中空断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるβ群の2つの群からなり、
前記中実断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチと前記中空断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチとの差が2mm以下である、網状構造体の製造方法。
【請求項2】
前記中実断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチと前記中空断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチとの差が1mm以下である、請求項1に記載の網状構造体の製造方法。
【請求項3】
前記中実断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチと前記中空断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチとの差が0mmである、請求項1に記載の網状構造体の製造方法。
【請求項4】
前記中実断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチおよび前記中空断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチがいずれも4mm以上12mm以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の網状構造体の製造方法。
【請求項5】
前記中実断面繊維用オリフィスの前記オリフィス孔径が1.5mm以下であり、前記中空断面繊維用オリフィスの前記オリフィス孔径が2mm以上である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の網状構造体の製造方法。」

第4 当審の判断
1 取消理由概要
本件訂正前の請求項1?5に対して通知した、令和元年7月24日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。

(1)(新規性)請求項1?5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)(進歩性)請求項1?5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証?甲第3号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)(サポート要件)請求項1?5に係る特許は、複数の中実断面繊維用オリフィスと複数の中空断面繊維用オリフィスとの配列については、何ら特定されていないから、両面で異なるクッション性能を有する網状構造体であることは特定されておらず、本件発明の課題を解決しないものも含んでいるから、特許法第36条第6項第1に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

<刊行物>
甲第1号証:特開平7-324273号公報
甲第2号証:特開平7-189105号公報
甲第3号証:特開2004-218116号公報
以下、「甲第1号証」等を単に「甲1」等という。

また、請求人は令和元年11月7日の意見書に以下の証拠を添付している。
甲第4号証:特許第3344514号公報
参考資料1:特許第3314837号公報
参考資料2:特許第3346506号公報
参考資料3:特開2001-55656号公報

2 取消理由についての判断
(1)本件発明1の新規性進歩性について
ア 甲1に記載された発明
甲1の実施例1(【0018】?【0021】)には、
「幅50cm、長さ5cmのノズル有効面に幅方向の孔間ピッチをを5mmとし、長さ方向に5mm間隔でオリフィス形状が外径2mm、内径1.6mmでトリプルブリッジの中空形成性断面の中空形成オリフィスと、φ0.5mmの丸断面オリフィスを交互に配列し、長さ方向の列間のずれを5mmにした各孔が千鳥配列となったノズルを用い、得られた熱可塑性弾性樹脂原料(ポリエステル系エラストマーA-1及びA-2)とを2本の押出機にて別々に溶融し、A-1をシ-ス成分に、A-2をコア成分となるように(シ-ス/コア:50/50重量比で単孔吐出量2.0g/分孔)トリプルブリッジの中空形成オリフィスへ供給し、丸孔オリフィスへはA-1のみ(単孔吐出量0.5g/分孔)を供給して、溶融温度240℃にてノズル下方に吐出させ、ノズル面10cm下に冷却水を配し、幅60cmのステンレス製エンドレスネットを平行に5cm間隔で一対の引取りコンベアを水面上に一部出るように配して、該溶融状態の吐出線状を曲がりくねらせル-プを形成して接触部分を融着させつつ3次元網状構造を形成しつつ、両面を引取りコンベアで挟み込みつつ毎分1mの速度で25℃の冷却水中へ引込み固化させた後、所定の大きさに切断して、次いで厚みの80%まで圧縮して100℃の熱風にて20分疑似結晶化処理した、異繊度混合網状体の製造方法。」
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

イ 対比
そして、本件発明1と甲1発明とを対比すると、
ア 甲1発明の「丸断面オリフィス」は、その構造及び機能から、本件発明1の「中実断面繊維用オリフィス」に相当し、以下同様に、「トリプルブリッジの中空形成オリフィス」は「中空断面繊維用オリフィス」に、「異繊度混合網状体」は「網状構造体」にそれぞれ相当する。
イ 甲1発明の「幅50cm、長さ5cmのノズル有効面に幅方向の孔間ピッチをを5mmとし、長さ方向に5mm間隔でオリフィス形状が外径2mm、内径1.6mmでトリプルブリッジの中空形成性断面の中空形成オリフィスと、φ0.5mmの丸断面オリフィスを交互に配列し、長さ方向の列間のずれを5mmにした各孔が千鳥配列となったノズル」は、内径1.6mmでトリプルブリッジの中空形成性断面の中空形成オリフィスと、φ0.5mmの丸断面オリフィスを多列に並べたノズルであるから、本件発明1の「複数のオリフィスでかつ異なるオリフィス孔径を複数有する多列ノズル」に相当する。
ウ 甲1発明の「熱可塑性弾性樹脂原料(ポリエステル系エラストマーA-1及びA-2)」は、「A-1」及び「A-2」が共に「ポリエステル系熱可塑性エラストマー」であるから、甲1発明の「A-1をシ-ス成分に、A-2をコア成分となるように(シ-ス/コア:50/50重量比で単孔吐出量2.0g/分孔)トリプルブリッジの中空形成オリフィスへ供給し、丸孔オリフィスへはA-1のみ(単孔吐出量0.5g/分孔)を供給」する態様は、本件発明1の「多列ノズルよりポリエステル系熱可塑性エラストマーをノズルオリフィスに分配」する態様に相当する。
エ 甲1発明の「溶融温度240℃にてノズル下方に吐出させ」る態様は、【請求項5】及び【0014】の記載を参照すると、本件発明1の「前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点より20℃以上120℃未満高い紡糸温度で、前記ノズルより下方に向け吐出させ」る態様に相当する。
オ 甲1発明の「該溶融状態の吐出線状を曲がりくねらせル-プを形成して接触部分を融着させつつ3次元網状構造を形成」することは、本件発明1の「溶融状態で互いに連続線状体を接触させて融着させ3次元構造を形成すること」に相当する。
カ 甲1発明の「幅50cm、長さ5cmのノズル有効面に幅方向の孔間ピッチをを5mmとし、長さ方向に5mm間隔でオリフィス形状が外径2mm、内径1.6mmでトリプルブリッジの中空形成性断面の中空形成オリフィスと、φ0.5mmの丸断面オリフィスを交互に配列し」た態様は、中空形成オリフィスと丸断面オリフィスとを含むことであるから、本件発明1の「前記オリフィスは、複数の中実断面繊維用オリフィスと複数の中空断面繊維用オリフィスとを含」む態様に相当する。
(7)甲1発明の「幅50cm、長さ5cmのノズル有効面に幅方向の孔間ピッチをを5mmとし、長さ方向に5mm間隔でオリフィス形状が外径2mm、内径1.6mmでトリプルブリッジの中空形成性断面の中空形成オリフィスと、φ0.5mmの丸断面オリフィスを交互に配列し」た態様は、中空形成オリフィスの幅方向孔間ピッチが10mm、丸断面オリフィスの幅方向孔間ピッチが10mmであるから、本件発明1の「前記中実断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチと前記中空断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチとの差が2mm以下である」態様に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「複数のオリフィスでかつ異なるオリフィス孔径を複数有する多列ノズルよりポリエステル系熱可塑性エラストマーをノズルオリフィスに分配し、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点より20℃以上120℃未満高い紡糸温度で、前記ノズルより下方に向け吐出させ、溶融状態で互いに連続線状体を接触させて融着させ3次元構造を形成することにより、網状構造体を得る網状構造体の製造方法であって、
前記中実断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチと前記中空断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチとの差が2mm以下である、網状構造体の製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は、「前記ノズルにおける前記オリフィスの孔は、前記中実断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるa群、前記中実断面繊維用オリフィスの孔と前記中空断面繊維用オリフィスの孔が混在して厚さ方向に複数列配置されて構成されるab群、および前記中空断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるb群の3つの群からなるか、あるいは、前記中実断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるα群、および前記中空断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるβ群の2つの群からな」るのに対して、甲1発明は、「外径2mm、内径1.6mmでトリプルブリッジの中空形成性断面の中空形成オリフィスと、φ0.5mmの丸断面オリフィスを交互に配列し」ているもののみである点。

ウ 判断
上記相違点1について検討するに、相違点1は、本件発明が3つの群からなるか、あるいは、2つの群からなる網状構造体の製造方法であるのに対して、甲1発明が1つの群からなる異繊度混合網状体の製造方法であるから、そもそも製造される網状構造体の構造が異なっている。
したがって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。

また、甲2及び甲3には、中実断面繊維用オリフィスの孔のa群、中実断面繊維用オリフィスの孔と中空断面繊維用オリフィスの孔が混在しているab群、および中空断面繊維用オリフィスの孔のb群の3つの群からなる構造体、あるいは、中実断面繊維用オリフィスの孔のα群、および中空断面繊維用オリフィスの孔のβ群の2つの群からな構造体は、何ら示されていない。したがって、甲1発明において、甲2及び3記載の事項に基づいて、a群、ab群、およびb群の3つの群からなる構造体、あるいは、α群、およびβ群の2つの群からなる構造体とすることを当業者が容易になし得たとする理由はない。
さらに、請求人は、令和元年11月7日の意見書において、甲4には、表面層には丸断面(中実)オリフィスを使用し、基本層には中空オリフィスを使用することが記載されている旨主張するが、下記4(3)で詳述するように、甲4に当該事項が記載されているとまではいえない。
そうすると、甲1発明にいて、甲4記載の事項を適用しても、上記相違点1に係る本件発明1の事項とすることが、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

エ 小括
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。また、甲1?甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

(2)本件発明2?5新規性進歩性について
本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を付加した発明であるから、本件発明2?5は、上記(1)と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるとはいえない。また、甲1?甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

(3)サポート要件について
本件発明1?5は、本件訂正において、a群、ab群、およびb群の3つの群からなる構造体、あるいは、α群、およびβ群の2つの群からなる網状構造体であることが特定されたことにより、解消された。

3 取消理由に採用しなかった異議申立理由
申立人は、本件発明1?5は甲2記載の発明及び甲3記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
(1)甲2に記載された発明
甲2の【0016】の「本発明における長手方向の区間でオリフィスの断面積が異なる列を少なくとも複数有するノズルとは、例えば、長手方向の有効幅50mm、ノズルの幅方向の列の孔間ピッチは10mm一定、列間のピッチが5mm一定の丸断面のオリフィス形状の場合、1列から6列の間はオリフィス径がφ0.5mm、6列から9列の間はφ0.45mm、9列から11列の間はφ0.3mmのように構成する方法や、上記ノズルの列の幅方向のオリフィス径も変えて、例えば幅500mmのノズルでは、9列目と10列目を幅方向の両側10孔をφ0.4mmとして中間の30孔はφ0.3mmのように構成する方法、オリフィスの断面積を変え、列間のピッチ又は孔間のピッチも変えた構成、及び列間と孔間の両方のピッチも変える方法などが例示できる。」中、「ノズルの幅方向の列の孔間ピッチは10mm一定、列間のピッチが5mm一定の丸断面のオリフィス形状の場合」に着目すると、甲2(【請求項3】、【0009】、【0016】)には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。

「多数のノズルオリフィスが配列されており、オリフィスの断面積が丸断面積換算での最大断面積(Sb)と最少の断面積(Ss)との比(Sb/Ss)が1.5以上に異なる配列を2以上有するノズルより、融点より10?80℃高い温度下に溶融状態の熱可塑性弾性樹脂であるポリエステル系エラストマーを下方に向けて吐出させ、融着させて一定の幅と厚みを保形した三次元ランダムループ構造を形成しつつ、引取り装置で挟み込み、ひき続き冷却せしめることによって異繊度網状構造体を一工程で形成するものであって、
ノズルの幅方向の列の孔間ピッチは10mm一定、列間のピッチが5mm一定の丸断面のオリフィス形状の場合、1列から6列の間はオリフィス径がφ0.5mm、6列から9列の間はφ0.45mm、9列から11列の間はφ0.3mmである異繊度網状構造体の製法。」

(2)対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点2>
本件発明1は、「前記ノズルにおける前記オリフィスの孔は、前記中実断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるa群、前記中実断面繊維用オリフィスの孔と前記中空断面繊維用オリフィスの孔が混在して厚さ方向に複数列配置されて構成されるab群、および前記中空断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるb群の3つの群からなるか、あるいは、前記中実断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるα群、および前記中空断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるβ群の2つの群からな」るのに対して、甲2発明は、ノズルの幅方向の列の孔間ピッチは10mm一定、列間のピッチが5mm一定の丸断面のオリフィス形状の場合、1列から6列の間はオリフィス径がφ0.5mm、6列から9列の間はφ0.45mm、9列から11列の間はφ0.3mmである点。

(3)判断
甲2発明のオリフィスの孔は、いづれも中実断面繊維用オリフィスの孔である。
そして、甲2の【0013】に「本発明の網状構造体を構成する線条の断面形状は特には限定されないが、中空断面や異形断面にすることで、抗圧縮性や嵩だか性をを付与できるので低繊度化した表層部を有する本発明においては特に好ましい。」との記載はあるものの、甲1、甲3、甲4を参照しても、a群、ab群、およびb群の3つの群からなる構造体、あるいは、α群、およびβ群の2つの群からなる構造体とする動機付けはない。

(4)本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を付加した発明であるから、本件発明2?5は、上記(1)?(3)と同じ理由により、甲2発明及び甲1、甲3、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)まとめ
したがって、本件発明1?5は、甲2発明及び甲1、甲3、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

4 申立人が令和元年11月7日の意見書で主張する取消理由について
申立人は、令和元年11月7日の意見書において、本件発明1?5は、甲4に記載された発明、及び甲2、甲3記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨で主張する。

(1)甲4に記載された発明
甲4の請求項3には、以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。
「2以上の組成が異なる熱可塑性弾性樹脂を各成分毎に単独成分の層が複数形成されるように、ノズルから融点より10?80℃高い温度下に溶融状態の熱可塑性樹脂を下方に向けて吐出させ、溶融状態で多数のループを形成し、夫々のループを互いに接触し、融着させて一定の幅と厚みを保形しつつ三次元ランダムループ構造を形成し、引取り装置で挟み込み冷却槽で冷却せしめて2以上の組成が異なる網状構造体を一工程で一体化することを特徴とする多成分網状構造体の製法。」

(2)対比
そして、本件発明1と甲4発明とを対比すると、本件発明1と甲4発明とは、以下の点で少なくとも相違する。

<相違点3>
本件発明1は、「前記ノズルにおける前記オリフィスの孔は、前記中実断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるa群、前記中実断面繊維用オリフィスの孔と前記中空断面繊維用オリフィスの孔が混在して厚さ方向に複数列配置されて構成されるab群、および前記中空断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるb群の3つの群からなるか、あるいは、前記中実断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるα群、および前記中空断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるβ群の2つの群からな」るのに対して、甲4発明は、2以上の組成が異なる熱可塑性弾性樹脂を各成分毎に単独成分の層が複数形成されている点。
<相違点4>
本件発明1は、「前記中実断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチと前記中空断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチとの差が2mm以下である」のに対して、甲4発明は、そのように特定されていない点。

(3)判断
<相違点3について>
申立人は、甲4の【0009】、【0012】、【0013】、【0016】の記載より、表面層には丸断面(中実)オリフィスを使用し、基本層には中空オリフィスを使用することが記載されている旨主張する。
しかし、【0012】には、「クッション材に用いる場合のクッション層の働きは振動吸収と体型保持を受け持つ層(基本層と略す)と、少し柔らかな層として適度の沈み込みにより快適な臀部のタッチを与えて臀部の圧力分布を均一分散化する層(表面層と略す)が一体化されることで、応力や振動を一体で変形し吸収させることが座り心地の向上には必要である。また、複数の表面層と基本層が融着一体化していることで、外力を構造全体で変形し吸収できることで、耐へたり性や耐熱耐久性の低下を防止できる。表面層と基本層が溶融接着されていない場合は、表面層が選択的にへたり易くなるので好ましくない。本発明は、この基本層と表面層に、その必要な機能に応じ任意に各層が異なる熱可塑性弾性樹脂からなる線条で形成され、融着一体化された網状構造体である。上述の機能を発現する好ましい構成は、基本層には硬い(ややモジュラスの高い)回復性の良い、例えば20%から50%のソフトセグメントを含有し、ハ-ドセグメントは剛直なナフタレ-トを含有した熱可塑性弾性樹脂からなる線条で形成し、表面層には柔らかさ(モジュラスのやや低い)と回復性の良好な、例えば50%から70%のソフトセグメントを含有した熱可塑性弾性樹脂からなる線条で形成すること等が例示できる。・・・。なお、機能付与のため、線条成分との兼ね合いで各層の繊度や密度との最適な組合せも任意に選択することができる。」と記載され、【0013】には、「本発明の網状構造体を構成する線条の太さや断面形状は特には限定されないが、好ましい太さは0.01?10mm、より好ましくは0.1?5mmである。断面形状は、中空断面や異形断面にすることで、抗圧縮性や嵩だか性をを付与できるので特に好ましい。抗圧縮性は、用いる熱可塑性弾性樹脂のモジュラスにより調整して、柔らかい熱可塑性弾性樹脂では中空率や異形度を高くして、初期圧縮応力の勾配を調整できるし、ややモジュラスの高い素材では中空率や異形度を低くして、または丸断面として断面2次モ-メントを低くすることで座り心地が良好な抗圧縮性を付与できる。中空断面や異形断面の他の効果として中空率や異形度を高くすることで、同一の抗圧縮性を付与した場合、見掛けの密度を低くできるのでより軽量化が可能となり、自動車等の座席に用いると省エネルギ-化ができ、布団などの場合は、上げ下ろし時の取扱性が向上する。」と記載されており、基本層と表面層で機能付与のため、線条成分との兼ね合いで各層の繊度や密度との最適な組合せも任意に選択すること、及び中空断面や異形断面にし、中空率や異形度を調製することで抗圧縮性や嵩だか性を各層の繊度や密度を調製することが記載されているといえるが、表面層には丸断面(中実)オリフィスを使用し、基本層には中空オリフィスを使用することが記載されているとまではいえない。
ゆえに、申立人の主張は採用できず、相違点3は実質的な相違点である。

そして、甲1?3には、a群、ab群、およびb群の3つの群からなる構造体、あるいは、α群、およびβ群の2つの群からな構造体とすることは何ら示されておらず、甲4発明において、上記相違点3に係る本件発明1の事項とすることを当業者が容易になし得たとする理由はない。

<相違点4について>
本件発明1は、「本発明の両面のどちらから加圧しても圧縮耐久性の差が小さい網状構造体を得るためには、中実断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチと中空断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチの差を小さくする必要がある。幅方向孔間ピッチの差が小さいと耐久性の差が小さくなる理由の全容は明らかになっている訳では無いが、以下のように推測される。」(【0043】)と記載されているように、「前記中実断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチと前記中空断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチとの差が2mm以下」とすることで、中実断面繊維用オリフィスの孔からなる群で形成された3次元構造と中空断面繊維用オリフィスの孔からなる群で形成された3次元構造との耐久性の差が小さくなるというものであるところ、甲1?4には、当該事項は何ら記載されていない。
そして、孔間ピッチの差が、嵩密度及び圧縮耐久性に影響を及ぼすことが技術常識であり、甲4発明において、耐久性の差が小さくすることが自明の課題であったとしても、上記相違点4に係る本件発明1の事項とすることを当業者が容易に想到し得たとする理由はない。

(4)本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を付加した発明であるから、本件発明2?5は、上記(1)?(3)と同じ理由により、甲4発明及び甲1?甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)まとめ
したがって、本件発明1?5は、甲4発明及び甲1?甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のオリフィスでかつ異なるオリフィス孔径を複数有する多列ノズルよりポリエステル系熱可塑性エラストマーをノズルオリフィスに分配し、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点より20℃以上120℃未満高い紡糸温度で、前記ノズルより下方に向け吐出させ、溶融状態で互いに連続線状体を接触させて融着させ3次元構造を形成することにより、網状構造体を得る網状構造体の製造方法であって、
前記オリフィスは、複数の中実断面繊維用オリフィスと複数の中空断面繊維用オリフィスとを含み、
前記ノズルにおける前記オリフィスの孔は、前記中実断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるa群、前記中実断面繊維用オリフィスの孔と前記中空断面繊維用オリフィスの孔が混在して厚さ方向に複数列配置されて構成されるab混在群、および前記中空断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるb群の3つの群からなるか、あるいは、前記中実断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるα群、および前記中空断面繊維用オリフィスの孔が厚さ方向に複数列配置されて構成されるβ群の2つの群からなり、
前記中実断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチと前記中空断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチとの差が2mm以下である、網状構造体の製造方法。
【請求項2】
前記中実断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチと前記中空断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチとの差が1mm以下である、請求項1に記載の網状構造体の製造方法。
【請求項3】
前記中実断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチと前記中空断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチとの差が0mmである、請求項1に記載の網状構造体の製造方法。
【請求項4】
前記中実断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチおよび前記中空断面繊維用オリフィスの幅方向孔間ピッチがいずれも4mm以上12mm以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の網状構造体の製造方法。
【請求項5】
前記中実断面繊維用オリフィスの前記オリフィス孔径が1.5mm以下であり、前記中空断面繊維用オリフィスの前記オリフィス孔径が2mm以上である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の網状構造体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-12-16 
出願番号 特願2017-135601(P2017-135601)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (D04H)
P 1 651・ 121- YAA (D04H)
P 1 651・ 537- YAA (D04H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小石 真弓  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 佐々木 正章
杉山 悟史
登録日 2018-11-09 
登録番号 特許第6428868号(P6428868)
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 網状構造体の製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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