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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C12N 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C12N |
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管理番号 | 1359559 |
異議申立番号 | 異議2019-700490 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-06-19 |
確定日 | 2020-01-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6440785号発明「アナモックスプロセス長期停止時のアナモックス菌活性保持方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6440785号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6440785号の請求項1,2に係る特許を維持する。 特許第6440785号の請求項3に係る特許についての特許異議申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6440785号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成29年7月26日に出願され、平成30年11月30日にその特許権の設定登録がされ、平成30年12月19日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は概ね次のとおりである。 令和1年 6月19日 特許異議申立人 笹井 栄治による請求項1? 3に係る特許に対する特許異議の申立て 令和1年 8月15日付け 取消理由通知書の送付 令和1年10月10日 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 令和1年10月24日付け 訂正請求があった旨の通知書の送付 (特許法第120条の5第5項) なお、上記訂正請求があった旨の通知書に対して、特許異議申立人より意見書は提出されなかった。 第2 訂正の適否 1.訂正の内容 訂正前の一群の請求項〔1-3〕に対して請求された、令和1年10月10日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は、次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において 「アナモックス槽内のアナモックス菌によって実施されるアナモックスプロセスが前記アナモックス菌に対する基質の供給停止によって常温で3週間以上停止する際、2週間以内に、10?1000mg-N/Lの硝酸塩を前記アナモックス槽内に添加することによって、前記アナモックス槽内の還元雰囲気下で亜硝酸が生成されるとともに、前記アナモックス菌の一部が前記基質不足による自己分解を起して微量のアンモニアが生成されて、前記亜硝酸と前記アンモニアとによってアナモックス反応が起こるようにし、かつ前記アナモックスプロセスの停止から46日以内に前記アナモックスプロセスを再開することを特徴とするアナモックスプロセス長期停止時のアナモックス菌活性保持方法。」(訂正前)を、 「アナモックス槽内のアナモックス菌によって実施されるアナモックスプロセスが前記アナモックス菌に対する基質の供給停止によって常温で3週間以上停止する際、2週間以内に、10?1000mg-N/Lの硝酸塩を前記アナモックス槽内に添加することによって、前記アナモックス槽内の還元雰囲気下で亜硝酸が生成されるとともに、前記アナモックス菌の一部が前記基質不足による自己分解を起して微量のアンモニアが生成されて、前記亜硝酸と前記アンモニアとによってアナモックス反応が起こるようにし、かつ前記アナモックスプロセスの停止から46日以内に前記アナモックスプロセスを再開し、ここで、停止前の前記アナモックス槽内のpHを7.5?7.7、水温を25?27℃に維持し、停止中の前記アナモックス槽内のpHを7.3?7.5、水温を18?25℃に維持することを特徴とするアナモックスプロセス長期停止時のアナモックス菌活性保持方法。」(訂正後)に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 訂正事項1は「アナモックスプロセス長期停止時のアナモックス菌活性保持方法」において、該長期停止の「停止前」と「停止中」とでアナモックス槽内を維持する条件が変わること、その条件が「停止前」は「pHを7.5?7.7、水温を25?27℃」であり、停止中は「pHを7.3?7.5、水温を18?25℃」であることを特定するものである。 したがって、この訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。 そして、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の実施例1(段落【0027】)には 「(アナモックスプロセスを3週間以上の長期停止時に硝酸塩添加の事例) アナモックス槽で2.1?2.6kg-N/m^(3)/dの窒素除去速度で処理を約1ヶ月継続した後、運転を停止した。アナモックス槽に、運転停止から約2週間後に500mg-N/Lの硝酸ナトリウムを添加し、そのまま運転停止時から計1.5ヶ月放置した。停止前のpHは7.5?7.7程度に維持しており、停止中のpHは7.3?7.5程度であった。停止前の水温は25?27℃程度に維持しており、停止中の水温は18?25℃程度であった。その後、運転を再開したところ、運転停止前に対して37%の活性比(除去速度)が得られ、菌の活性は低下したものの、死滅することなく活性を保持できた(表1、図1参照)。」と記載され、アナモックス槽内を維持する条件が「停止前」は「pHを7.5?7.7、水温を25?27℃」であり、「停止中」は「pHを7.3?7.5、水温を18?25℃」であることが記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載した範囲内の訂正であると認められ、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもないから、同法120条の5第9項で準用する同法126条第5項及び第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2が同法120条の5第9項で準用する同法126条第5項及び第6項に適合するものであることは明らかである。 3.小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1、2に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 【請求項1】 アナモックス槽内のアナモックス菌によって実施されるアナモックスプロセスが前記アナモックス菌に対する基質の供給停止によって常温で3週間以上停止する際、2週間以内に、10?1000mg-N/Lの硝酸塩を前記アナモックス槽内に添加することによって、前記アナモックス槽内の還元雰囲気下で亜硝酸が生成されるとともに、前記アナモックス菌の一部が前記基質不足による自己分解を起して微量のアンモニアが生成されて、前記亜硝酸と前記アンモニアとによってアナモックス反応が起こるようにし、かつ前記アナモックスプロセスの停止から46日以内に前記アナモックスプロセスを再開し、ここで、停止前の前記アナモックス槽内のpHを7.5?7.7、水温を25?27℃に維持し、停止中の前記アナモックス槽内のpHを7.3?7.5、水温を18?25℃に維持することを特徴とするアナモックスプロセス長期停止時のアナモックス菌活性保持方法。 【請求項2】 前記硝酸塩としては、硝酸ナトリウムまたは硝酸カリウムを用いることを特徴とする請求項1に記載のアナモックスプロセス長期停止時のアナモックス菌活性保持方法。 なお、請求項3は削除された。 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1.取消理由の概要 訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、当審が令和1年8月15日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 1.(新規性)請求項1?3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1?3に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 2.(進歩性)請求項1?3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、請求項1?3に係る発明の特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (文献) 甲第1号証 : 特許第4839538号公報 甲第2号証 : 化学と生物,1965年,Vol.3,No.11,p.569-574 甲第3号証 : 土木学会論文集G(環境),2016年,Vol.72, No.7,p.III_9-III_17 なお、特許異議申立書に記載された、特許異議申立人が主張する取消理由は、上記取消理由通知に記載した取消理由と概ね同様のものである。 2.刊行物の記載 (1)甲第1号証の記載事項 取消理由通知において引用した甲第1号証(以下「甲1」という。他の文献についても同様とする。)には以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。 ア 「【請求項2】 アンモニア性窒素を電子供与体とし、亜硝酸性窒素を電子受容体とする独立栄養性脱窒微生物グラニュールを含む微生物群を保存する方法において、該微生物群を、亜硝酸イオン、硝酸イオン或いはその合計濃度で0.1mg-N/L以上、硝酸イオン濃度5000mg-N/L以下、亜硝酸イオン500mg-N/L以下の、亜硝酸イオン及び/又は硝酸イオンの存在下に保存することを特徴とする独立栄養性脱窒微生物の保存方法。 ・・・・ 【請求項4】 請求項2又は3において、亜硝酸イオン及び/又は硝酸イオンを、保存開始時及び/又は保存中に、該微生物群に添加することを特徴とする独立栄養性脱窒微生物の保存方法。」 イ 「【0005】 この独立栄養性脱窒微生物(以下「ANAMMOX微生物」と称す。)を利用する生物脱窒プロセス(ANAMMOXプロセス)は、Strous, M, et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 50, p.589-596(1998)に報告されており、以下のような反応でアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素が反応して窒素ガスに分解されると考えられている。」 ウ 「【0008】 このANAMMOX微生物の生育条件については、次のようなことが報告されている。 ・・・・ (3)ANAMMOX微生物の活動が可能なpH範囲は6.5?9程度で、最適pHは7?8.5である( Konrad, E et.al. (2001) Arch. Microbiol. Vol.175, p198-207 )」 エ 「【0011】 従来、活動中のANAMMOX微生物に対する酸素の阻害についての報告はなされているが、基質の供給を停止し、ANAMMOX微生物の活性が現れない期間における保存条件に関しての報告はなされていない。そして、基質の供給を再開した際に直ちにANAMMOX微生物が活性を発現することができる適切な保存手法は明らかにされていないことが、ANAMMOX反応による更なる技術開発の妨げとなっていた。 【0012】 本発明は上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ANAMMOX微生物を、その活性を低下させることなく良好な状態で保存する方法、即ち、基質の供給を停止してANAMMOX微生物を保存し、保存後基質の供給を再開した際には直ちに活性を発現させることができる保存方法を提供することを目的とする。 オ 「【0020】 また、亜硝酸イオン及び/又は硝酸イオンの存在下に保存することが、ANAMMOX微生物の活性の維持に効果を発揮する理由は、特に保存環境内に硫酸イオンが存在する場合には以下のメカニズムによるものと考えられるが、硫酸イオンが存在しない場合であっても、硫酸イオンが存在する場合よりはその効果が小さいものの、明らかに効果を発揮することが確認されていることから、以下のメカニズムと複合的に他のメカニズムも働き、活性維持効果が発揮されるものと考えられる。 【0021】 通常、溶存酸素及び亜硝酸イオン、硝酸イオンが存在しない条件で微生物を放置すると、微生物中にわずかに存在している硫酸イオンから硫黄還元物(例えば硫化水素)が発生する。ANAMMOX微生物は硫黄還元物に対して特に敏感に阻害を受け活性が低下する。一方、溶存酸素が存在すると、硫化水素は発生しないが、溶存酸素によりANAMMOX微生物が阻害を受ける。 【0022】 これに対して、保存中に亜硝酸イオン及び/又は硝酸イオンが存在すると、共存する脱窒細菌により穏やかに脱窒反応が進行し、硫化水素は発生せず、ANAMMOX微生物の不活性化も予防できる。」 カ 「【0029】 亜硝酸イオン及び/又は硝酸イオンの存在下に汚泥を保存する方法としては、プロセスの停止後、残留する亜硝酸イオン及び/又は硝酸イオンをそのまま保持した状態で保存を行う方法がある。また、亜硝酸イオン及び/又は硝酸イオンを保存開始時及び/又は保存中に汚泥に添加しても良い。添加する亜硝酸イオン源、硝酸イオン源としては、亜硝酸、亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸塩、硝酸、硝酸ナトリウム等の硝酸塩、亜硝酸イオン及び/又は硝酸イオンを含む生物処理液等が挙げられる。 【0030】 亜硝酸イオン及び/又は硝酸イオンの存在量は少な過ぎると亜硝酸イオン及び/又は硝酸イオンを存在することによる十分な効果を得ることができないため、保存中の汚泥(保存水)中の亜硝酸イオン、硝酸イオン或いはその合計濃度で0.1mg-N/L以上である。硝酸イオンの濃度の上限は、5000mg-N/L以下特に1000mg-N/L以下である。亜硝酸イオンはこのような高濃度では汚泥の活性に悪影響を及ぼすため、500mg-N/L以下特に100mg-N/L以下である。」 キ 「【0043】 実施例2 実施例1で用いたと同様のパイロットプラントで活動中のANAMMOX微生物グラニュールを20Lポリタンクに導入し、以下の各条件で2?24週間静置状態で保存した。保存開始時pHは8.3で、温度は常温(15?25℃)であった。なお、各グラニュールの濾過液の硝酸イオン濃度及び硫酸イオン濃度を測定したところ、以下の通りであった。 (1) 硝酸イオン濃度0mg-N/L(SO_(4):17mg/L) (2) 硝酸ナトリウム溶液添加により硝酸イオン濃度(N換算)19mg-N/L(SO_(4):17mg/L) (3) 硝酸イオン濃度0mg-N/L(SO_(4):0mg/L) (4) 硝酸ナトリウム溶液添加により硝酸イオン濃度(N換算)19mg-N/L(SO_(4):0mg/L) 【0044】 保存前の活性に対する保存後のANAMMOX微生物のアンモニア除去活性の相対値を、実施例1と同様にして求め、各保存条件における保存後のアンモニア除去活性の相対値を図2に示した。 【0045】 図2より、硫酸イオンの有無に関わらず、保存開始時に硝酸イオンが存在すると存在しない場合に比べて、ANAMMOX微生物の活性が高く維持され、特に硫酸イオンが存在する場合には、その効果が大きいことが明らかである。」 ク「【図2】 (【図2】には、2、4、8、24週後に残存活性があることが示されていると認められる。) (2)甲第2号証の記載事項 甲2の569頁左欄10?15行、及び572頁左欄37行?右欄6行には、細菌が自己消化により分解し、蛋白質等の有機物とアンモニアとを生成することが記載されていると認められる。 (3)甲第3号証の記載事項 甲3のIII_14右欄15?21行には、アナモックス菌と共存する従属栄養脱窒素細菌によって、硝酸から亜硝酸を生成する可能性が記載されていると認められる。 3.引用発明 上記(1)の記載からみて、甲1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「アンモニア性窒素を電子供与体とし、亜硝酸性窒素を電子受容体とするANAMMOX微生物を利用するANAMMOXプロセスにおいて、 基質の供給を停止し、保存開始時pHは8.3で、温度は常温(15?25℃)であるANAMMOX微生物を保存し、保存後2、4、8、24週後に基質の供給を再開する、ANAMMOX微生物の保存方法であって、 硝酸イオンを保存開始時及び/又は保存中に該微生物群に添加し、該微生物を硝酸イオン濃度0.1mg-N/L以上1000mg-N/L以下の存在下に保存することで、基質の供給を再開すると直ちに活性を発現させることができる、ANAMMOX微生物の保存方法。」 4.対比・判断 (1)本件発明1について 本件発明1と引用発明を対比する。 引用発明の「ANAMMOX微生物を利用するANAMMOXプロセス」は本件発明1の「アナモックス槽内のアナモックス菌によって実施されるアナモックスプロセス」に相当する。 また、引用発明の「硝酸イオン」は硝酸塩として添加される場合を包含する(上記(1)カ)から、引用発明の「硝酸イオンを保存開始時及び/又は保存中に該微生物群に添加し、該微生物を硝酸イオン濃度0.1mg-N/L以上1000mg-N/L以下の存在下に保存する」は、本件発明1の「2週間以内に、10?1000mg-N/Lの硝酸塩を前記アナモックス槽内に添加する」と、「基質の供給停止後に、10?1000mg-N/Lの硝酸塩を前記アナモックス槽内に添加する」点で共通する。 さらに、引用発明の「基質の供給を停止し、ANAMMOX微生物を保存開始時pHは8.3で、常温(15?25℃)で保存し、保存後2、4、8、24週後に基質の供給を再開する」は、本件発明1の「前記アナモックス菌に対する基質の供給停止によって常温で3週間以上停止する・・・前記アナモックスプロセスの停止から46日以内に前記アナモックスプロセスを再開する」と、「前記アナモックス菌に対する基質の供給停止によって常温で停止し、前記アナモックスプロセスの停止後に前記アナモックスプロセスを再開する」点で共通する。 そうすると、両者は、 「アナモックス槽内のアナモックス菌によって実施されるアナモックスプロセスが前記アナモックス菌に対する基質の供給停止によって常温で停止し、停止後に、10?1000mg-N/Lの硝酸塩を前記アナモックス槽内に添加し、かつ前記アナモックスプロセスの停止後に前記アナモックスプロセスを再開することを特徴とするアナモックスプロセス長期停止時のアナモックス菌活性保持方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 本件発明1では基質供給の停止が「3週間以上」、基質供給の再開が「46日以内」である、すなわち、基質の停止期間が「3週間(21日)?46日(約6.6週)」であるのに対して、引用発明では基質の停止期間が2、4、8、24週間である点。 (相違点2) 硝酸塩の添加が、本件発明1では基質供給の停止から「2週間以内」であるのに対して、引用発明では「保存開始時及び/又は保存中」ある点。 (相違点3) 本件発明1では、基質供給停止後に硝酸塩を添加することによって「前記アナモックス槽内の還元雰囲気下で亜硝酸が生成されるとともに、前記アナモックス菌の一部が前記基質不足による自己分解を起して微量のアンモニアが生成されて、前記亜硝酸と前記アンモニアとによってアナモックス反応が起こるように」することが特定されている、すなわち、活性保持の「機序」や、硝酸塩を添加する「目的」などが特定されているのに対して、引用発明では特定されていない点。 (相異点4) 本件発明1では、長期停止の「停止前」、「停止中」でアナモックス槽内を維持する条件が変わること、その条件が「停止前」は「pHを7.5?7.7、水温を25?27℃」であり、「停止中」は「pHを7.3?7.5、水温を18?25℃」であることが特定されているのに対して、引用発明は「保存開始時pHは8.3で、常温(15?25℃)であるANAMMOX微生物を保存」する点。 まず、上記(相違点4)について検討する。 甲1には、アナモックス微生物の活動が可能なpH範囲が6.5?9程度で、最適pHは7?8.5であること(上記(1)ウ)は記載されているが、ANAMMOX微生物への基質の供給を停止してアナモックス微生物を保存する際に、保存前と保存中との条件を検討することについては記載も示唆もされておらず、引用発明で採用されている、保存開始時のpH8.3、常温(15?25℃)の条件に替えて、保存前(停止前)と保存中(停止中)それぞれの条件、すなわち、「停止前」は「pHを7.5?7.7、水温を25?27℃」であり、「停止中」は「pHを7.3?7.5、水温を18?25℃」であることを特定することを当業者が容易に想到するとはいえない。 以上のとおり、(相異点4)は容易想到ではなく、そして、本件発明1は長期間アナモックスプロセスが停止した場合でも速やかに処理が再開できるという顕著な効果を奏するものである。 したがって、上記(相異点1)?(相異点3)について判断するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明であるとも、甲1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (2)本件発明2について 本件発明2は本件発明1を引用しており、本件発明1をさらに限定した発明であるから、本件発明1と同様に、本件発明2は甲1に記載された発明であるとも、甲1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、特許法第114条第4項の規定により、本件請求項1、2に係る発明について結論のとおり決定する。 本件請求項3に係る特許は、訂正により削除された。これにより、本件特許の請求項3に対する特許異議申立てについては、対象とする請求項が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 アナモックス槽内のアナモックス菌によって実施されるアナモックスプロセスが前記アナモックス菌に対する基質の供給停止によって常温で3週間以上停止する際、2週間以内に、10?1000mg-N/Lの硝酸塩を前記アナモックス槽内に添加することによって、前記アナモックス槽内の還元雰囲気下で亜硝酸が生成されるとともに、前記アナモックス菌の一部が前記基質不足による自己分解を起して微量のアンモニアが生成されて、前記亜硝酸と前記アンモニアとによってアナモックス反応が起こるようにし、かつ前記アナモックスプロセスの停止から46日以内に前記アナモックスプロセスを再開し、ここで、停止前の前記アナモックス槽内のpHを7.5?7.7、水温を25?27℃に維持し、停止中の前記アナモックス槽内のpHを7.3?7.5、水温を18?25℃に維持することを特徴とするアナモックスプロセス長期停止時のアナモックス菌活性保持方法。 【請求項2】 前記硝酸塩としては、硝酸ナトリウムまたは硝酸カリウムを用いることを特徴とする請求項1に記載のアナモックスプロセス長期停止時のアナモックス菌活性保持方法。 【請求項3】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-12-25 |
出願番号 | 特願2017-144133(P2017-144133) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C12N)
P 1 651・ 121- YAA (C12N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 高山 敏充 |
特許庁審判長 |
田村 聖子 |
特許庁審判官 |
中島 庸子 高堀 栄二 |
登録日 | 2018-11-30 |
登録番号 | 特許第6440785号(P6440785) |
権利者 | 株式会社タクマ |
発明の名称 | アナモックスプロセス長期停止時のアナモックス菌活性保持方法 |
代理人 | 沖中 仁 |
代理人 | 沖中 仁 |
代理人 | 井上 勉 |
代理人 | 井上 勉 |