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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B43K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B43K
管理番号 1359564
異議申立番号 異議2019-700472  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-06-12 
確定日 2020-01-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6436679号発明「ノック式筆記具」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6436679号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 特許第6436679号の請求項1,3に係る特許を維持する。 特許第6436679号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6436679号の請求項1ないし3に係る特許(以下,「本件特許」という。)についての出願は,平成26年8月8日に出願され,平成30年11月22日にその特許権の設定登録がされ,平成30年12月12日に特許掲載公報が発行された。その後,本件特許について,令和1年6月12日に特許異議申立人村山玉恵(以下,「申立人」という。)により本件特許の全請求項に対して特許異議の申立てがされ,当審において,令和1年9月6日付けで取消理由が通知された。特許権者は,その指定期間内である令和1年11月11日に意見書の提出及び訂正の請求(以下,「本件訂正請求」という。また,本件訂正請求に係る訂正を,「本件訂正」という。)を行い,その訂正の請求に対して,申立人は,令和1年12月17日に意見書(以下,「申立人意見書」という。)を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は,「特許第6436679号の特許請求の範囲を,本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?3について訂正することを求める。」ものである(以下,「本件特許第6436679号の明細書」,「本件特許第6436679号の特許請求の範囲」及び「本件特許第6436679号の図面」を,それぞれ,「本件特許明細書」,「本件特許請求の範囲」及び「本件特許図面」という。また,「本件特許明細書」,「本件特許請求の範囲」及び「本件特許図面」を総称して,「本件特許明細書等」という。)。

2 訂正の内容
本件訂正の内容は,以下のとおりである(下線は,訂正箇所を示す。)

(1) 訂正事項1
本件特許請求の範囲の請求項1における
「該カムの内部は,前記挿入部の進入を阻止する形状を有する」との記載を,
「該カムの内部に,前記挿入部の進入を阻止する形状として,径方向内側に突出する複数のリブが設けられている」に訂正する。

(2) 訂正事項2
本件特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3) 訂正事項3
本件特許請求の範囲の請求項3における
「請求項2に記載のノック式筆記具。」との記載を,
「請求項1に記載のノック式筆記具。」に訂正する。

3 本件訂正請求に対する当審における判断
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的について
(ア) 訂正事項1は,請求項1について,「カムの内部」の「挿入部の進入を阻止する形状」が,「径方向内側に突出する複数のリブ」であることを具体的に特定して限定するものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ) また,訂正事項1は,請求項1の記載を引用する請求項3の記載についても実質的に訂正するものであるが,訂正前の請求項3は,訂正前の請求項2を引用しており,訂正前の請求項2の記載においては,「複数のリブ」が,単に,「カム部の内部に,径方向内側に突出する」ものであり,その機能が特定されていなかったものが,「挿入部の進入を阻止する」ためのものであることを特定するものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
(ア) 上記ア(ア)から明らかなように,訂正事項1は,請求項1について,「カムの内部」の「挿入部の進入を阻止する形状」が,「径方向内側に突出する複数のリブ」であることを具体的に特定して限定するものであって,訂正前後の発明において,カテゴリーや発明の対象を変更するものではない。
したがって,訂正事項1は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(イ) また,訂正事項1は,請求項1の記載を引用する請求項3の記載についても実質的に訂正するものであるが,上記ア(イ)から明らかなように,訂正事項1は,「複数のリブ」が,「挿入部の進入を阻止する」ためのものであることを特定するものであって,訂正前後の発明において,カテゴリーや発明の対象を変更するものではない。
したがって,訂正事項1は,請求項3についても,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。

ウ 本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
(ア) 本件特許明細書には,以下の記載がある。
「【0033】
カム部82bの内部には,4つのリブ86が周方向に等間隔に形成されている。各リブ86は径方向内側に突出し且つ前後方向に延在している。リブ86は,アンダーカットとならないような形状を有する。なお,アンダーカットとは,成形品を金型から取り出すとき,金型に引っ掛かってしまう凸状又は凹状の部分を意味する。
【0034】
回転子8bの挿入部81bを他の回転子8bのカム部82bの内部に挿入しようとすると,挿入部81bの後端がリブ86の前端に衝突するので,挿入部81bのカム部82bへの進入が妨げられ,ひいては回転子8b同士の連結が阻止される。図5は,本発明の実施形態に係る回転子8b同士の連結が阻止される様子を示す。カム部82bの内部にリブ86を形成することで,カム部82bの肉厚の増加を最小限にしつつ,回転子8b同士の連結を阻止することができる。」
(イ) 上記(ア)の摘記事項から,本件特許明細書等には,カム部82bの内部に形成されている4つのリブ86に,他の回転子8bの挿入部81bの後端が衝突することで,挿入部81bのカム部82bへの進入が妨げられることが記載されていることが開示されているものと認められる。
したがって,訂正事項1は,本件特許明細書等に記載した事項の範囲内でするものであって,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2は,請求項2を削除するものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないこと,及び新規事項の追加に該当しないことは明らかであるから,特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3は,「請求項2」を引用していた訂正前の請求項3について,上記訂正事項2により請求項2を削除することに伴い,「請求項1」を引用するものとして,引用請求項の整合を図るものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また,請求項3が請求項1を引用するようになっても,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないこと,及び新規事項の追加に該当しないことは,上記(1)イ(イ)及び上記(1)ウで検討したとおりであるから,訂正事項3は,特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4) 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては,訂正前の全ての請求項1ないし3に係る特許が特許異議の申立ての対象とされているため,訂正事項1ないし3に関して,特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

(5) 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1ないし3は,請求項2及び3が請求項1を直接又は間接に引用する関係にあり,前記訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して,請求項2及び3が同様に訂正されるものであるから,特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり,本件訂正請求は,当該一群の請求項1ないし3に対して請求されたものである。

4 小括
以上のとおりであるから,特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされた本件訂正は,同条第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり,本件訂正請求は認容されるから,本件特許の請求項1及び3に係る発明(以下,それぞれを「本件訂正発明1」及び「本件訂正発明3」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1及び3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
軸筒の内周面に形成された外カムと,
前記軸筒から後方に突出し,カム面が形成されたノック棒と,
前記軸筒内に配設された回転子であって,前記ノック棒に挿入される挿入部と,前記ノック棒と係合するカム部とを有し,前記カム部には,前記カム面と相補的な形状のカム受け面と,内カムとが形成され,該内カムは,前記カム面が前記カム受け面を押圧することによって該回転子が周方向に回転すると,前記外カムと前後方向に係合し又は該係合が解除されるように構成される,回転子と
から成るノック機構を備えたノック式筆記具において,
前記カム部の内部が中空であり,該カム部の内部の短手方向の断面形状が円であり,該円の直径が前記挿入部の外径よりも大きく,該カム部の内部に,前記挿入部の進入を阻止する形状として,径方向内側に突出する複数のリブが設けられていることを特徴とする,ノック式筆記具。
【請求項3】
前記リブの周方向位置が前記内カムの周方向位置と異なっている,請求項1に記載のノック式筆記具。」

第4 申立人が提出した証拠
申立人は,特許異議申立書において以下の甲第1号証ないし甲第11号証を提出している。

甲第1号証:特開2007-30279号公報
甲第2号証:登録実用新案第3159535号公報
甲第3号証:特開2005-74980号公報
甲第4号証:特開2006-264314号公報
甲第5号証:特開2004-351735号公報
甲第6号証:特開2001-323957号公報
甲第7号証:特開2014-91239号公報
甲第8号証:特開2011-152797号公報
甲第9号証:白石順一郎,『射出成形用金型』,第2版,昭和59年8月29日発行
甲第10号証:特開平11-277980号公報
甲第11号証:実願平1-17730号(実開平2-108087号)のマイクロフィルム

以下,甲第1号証ないし甲第11号証を,それぞれ,「甲1」ないし「甲11」という。

第5 甲1ないし甲11の記載事項,引用発明等
1 甲1について
(1) 甲1の記載
甲1には,以下の記載がある。なお,下線は認定に用いた箇所を強調するために当審において付加したものである(以下,第5の項において同様。)。
ア 「【0006】
本発明の実施の形態を図1?図6に示し詳細に説明する。軸筒1は,前軸2と後軸3から構成されており,それら前軸2と後軸3とは螺着などの手段によって着脱自在に固定されている。その前軸2の表面には,ゴム状弾性体などからなるグリップ部材4が装着されており,筆記の際における滑り防止効果と共に疲労の軽減などを向上させているが,前軸2の表面に微細な凹凸などを形成することによって滑り止め効果を持たせても良い。
また,後軸3の後部には,頭冠5が凹凸嵌合(後述する係合孔3aと係合18aとの嵌合)などの手段によって装着・固定されており,その頂部近傍を後軸3の後端部から露出させている。その頭冠5について詳述する。半透明な樹脂成形品からなる頭冠5の前方部には,前記後軸3に嵌まり込む筒状部6が形成されており,後端部には筒状部6よりも大なる径を有する鍔部7が形成されているが,その鍔部7は1側面部に向かって傾斜した状態で形成されている。そして,その鍔部7の低い側の前記筒状部6には,固定部8が突出した状態で形成されており,その固定部8には,筒状部6の長手方向に向かって溝部9が形成されているが,その溝部9の底部には微小突起10が形成されている。また,前記鍔部7の低い側にはその鍔部7の傾斜に沿って,かつ,湾曲した状態で装飾片11が延設形成されており,その装飾片11の端部近傍の下面には係止突起12が形成されているが,その係止突起12の端部には前方に向かって突出した係止爪13が形成されていると共に,横方向に長い楕円形状の係止突起12となっているが,真円であっても良いし,四角形や五角形といった多角形であっても良い。
符号14?符号17は,この頭冠5を後軸3に装着したときの,頭冠5の後軸3に対する振れやがたつきを防止する突起(符号17は,突起16と反対側の突起)であって,また,符号18は頭冠5の後軸3の係合孔3aと係合し,その後軸3に対する抜けを防止する係合突起であって,その係合突起18は前方かつ内径方向に向かって傾斜している。後軸3に対して装着しやすくすると共に,装着後においては抜けにくい構造としているのである。
【0007】
また,前記頭冠5の中間部の側面には,貫通孔19が対向した位置に形成されている。さらに,頭冠5の内面の中間部であって貫通孔19の上端に接する状態で内面鍔部20が形成されており,その内面鍔部20の1部(当審注:「1部」は「一部」の誤記である。)には,切り欠き部(係合受部)21が形成されている。また,鍔部20の前方には,深溝部22と浅溝部23が形成されており,前記深溝部22の後端部は内面鍔部20まで達している。
【0008】
前記頭冠5には,ノック24が前後動可能に配置されている。そのノック24について説明する。ノック24の前方には,縮径部25が形成されており,その中間部には前記頭冠5に形成された切り欠き部21に対して係合し前後動する突起(係合部)26が形成されている。また,縮径部25には,コの字型に切り欠くことによって形成され,径方向に変形可能な係止片27が対向した位置に形成されている。その係止片27の後部には,外方向に突出した係止爪28が形成されている。そして,この係止爪28は,前記頭冠5に形成された貫通孔19に嵌まり込み,前後動し得るようになっている。さらに,縮径部25の前端面には,山型状の傾斜面29が円周上形成されている。
また,頭冠5の内側であって,前記ノック24の前方には回転子30が前後動可能に,かつ,回転可能に配置されている。その回転子30の外周部には,複数の突起31が形成されており,その突起31の後端部には傾斜面32が形成されている。そして,突起31は,頭冠5に形成されている浅溝部22(当審注:図6の記載を参酌すると,「深溝部22」の誤記と解される。)を前後動し得るように係合している。一方,突起31の後端部に形成されている傾斜面32は,ノック24に形成されている山型状の傾斜面29と当接している。即ち,ノック24が押圧され,前方に移動する前記回転子30も追従して前方に移動する。所謂,本例においては,上記の構成を採ることによってデビットカム機構と称されるカム機構を構成している。」

イ 「【図2】



ウ 「【図6】



エ 甲1の記載を総合すれば,甲1には,ノック式ボールペンが開示されていることは明らかである。

オ 図2からは,回転子30について以下のことが看取できる。
(ア) 回転子30の一部が,ノック24内に挿入されていること(以下,このノック24内に挿入されている回転子30の一部を,挿入部と称する。)。
(イ) 回転子30はノック式ボールペンの長手方向に長く,内部が中空部であること。
(ウ) 当該中空部の短手方向の幅は,長手方向の大部分で前記挿入部の短手方向の幅よりも短く,ボールペンリフィル33側でわずかに幅が広い箇所があるが,その箇所の回転子30の長手方向における長さは,挿入部に比して非常に短いこと。

(2) 甲1発明
上記(1)の事項から,甲1には,以下の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「頭冠5の中間部の側面には,貫通孔19が対向した位置に形成され,さらに,頭冠5の内面の中間部であって貫通孔19の上端に接する状態で内面鍔部20が形成されており,その内面鍔部20の一部には,切り欠き部21が形成されており,また,鍔部20の前方には,深溝部22と浅溝部23が形成されており,前記深溝部22の後端部は内面鍔部20まで達しており,
前記頭冠5には,ノック24が前後動可能に配置され,ノック24の前方には,縮径部25が形成されており,その中間部には前記頭冠5に形成された切り欠き部21に対して係合し前後動する突起26が形成され,縮径部25の前端面には,山型状の傾斜面29が円周上形成され,
頭冠5の内側であって,前記ノック24の前方には回転子30が前後動可能に,かつ,回転可能に配置され,その回転子30の外周部には,複数の突起31が形成されており,その突起31の後端部には傾斜面32が形成され,そして,突起31は,頭冠5に形成されている深溝部22を前後動し得るように係合しており,一方,突起31の後端部に形成されている傾斜面32は,ノック24に形成されている山型状の傾斜面29と当接しており,ノック24が押圧され,前方に移動する前記回転子30も追従して前方に移動し,デビットカム機構と称されるカム機構を有しているノック式ボールペンであって,
回転子30の一部が,ノック24内に挿入される挿入部であり,回転子30はノック式ボールペンの長手方向に長く,内部が中空部であり,当該中空部の短手方向の幅は,長手方向の大部分で前記挿入部の短手方向の幅よりも短く,ボールペンリフィル33側でわずかに幅が広い箇所があるが,その箇所の回転子30の長手方向における長さは,挿入部に比して非常に短い,
ノック式ボールペン。」

2 甲2について
(1) 甲2の記載事項
甲2には,以下の記載がある。
ア 「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】
略円筒状に形成され,後端に凸部と凹部で形成される波形形状が施されるとともに,クリップが一体に連設された軸筒と,
略円筒状に形成され,前記軸筒に内設されるとともに,後部が前記軸筒の後端から突出している円筒状部材と,
前記円筒状部材から後方に突出し,押圧操作により筆記可能状態に切り替えるノック部材と,
を有することを特徴とするノック式筆記具。
【請求項2】
前記軸筒に内在し,先端にペン先部を有する筆記具用のリフィールと,
前記リフィールを後方に付勢する弾発部材と,
前記円筒状部材の内周面に設けられた山部と溝部を有するカム部と,
略円筒状に形成され,外周面から外方に向けて突出するとともに前記カム部に係合可能に形成される突起部を有し,前記リフィールの後端部を保持する保持手段を有する回転子と,
前記ノック部材の前端縁周上に連続して山形状に設けられ,前記突起部と係合可能に形成される山形状カム部と,
を有することを特徴とする請求項2記載のノック式筆記具。」

イ 「【0010】
ノック式ボールペン1は,略円筒状に形成された軸筒2を有し,後方にはクリップ2aが軸筒と一体的に形成されている。把持部には軟質材料により形成されるグリップ3が設けられている。グリップ3は,後端を曲線状に形成している。軸筒2の把持部2bには,グリップの曲線形状と相似形に形成される段部2b1が設けられている。そして,グリップ3は,軸筒先端に螺合される先口4と軸筒2の段部2b1とで狭持して固定されている。
【0011】
軸筒2の内部には,ボールペンのリフィール5が設けられている。リフィール5は,図示しない筆記インクが充填されるインクタンク5aと,インクタンク5aと接続するボールペンチップ5bとから構成される。そして,インクタンク5aの前方に形成される段部5a1と,先口4内に形成される段部4aとの間には,弾発部材であるコイルスプリング6が設けられている。コイルスプリング6の付勢力により,リフィール5は後方に付勢されている。
【0012】
一方,軸筒2の後方部位には,ノック部材7が外方に向けて突出形成されている。このノック部材7を押圧操作すると,後述するノック機構の作用によりボールペンチップ5bが先口4から出入し,筆記可能状態と解除状態を切替操作することができる。
【0013】
ノック式ボールペン1のノック機構は,リフィール5(インクタンク5a)の後部を保持する保持手段8aを有し,外方に板状の突起8bが複数形成される回転子8と,軸筒2の後部に内設する円筒状部材9の内周面に形成された山部9aと溝部9bより構成されるカム部90と,有底筒状に形成され,外周に形成された突起7aと溝部9bとにより前後方向に移動自在にガイドされるノック部材7の開口側である前端周縁に形成される山形状の山形状カム部7bとで構成される公知のノック機構である。概略説明すると,ノック部材7の押圧によりノック部材7はコイルスプリング6の付勢力に反して前進する。すると,溝部9bにガイドされる回転子8の突起8bが溝9a(当審注:「溝9a」は,「溝部9b」の誤記であると認められる。)によるガイド規制が解除される。そして,山形状カム部7bと突起8bの後端部傾斜形状8b1とが係合した後,後端部傾斜形状8b1が山部9aに沿って移動する。そして,突起8b(後端部傾斜形状8b1)が山部9aに形成される段部に係合する。このとき,ボールペンチップ5bは先口4から突出した状態となり,筆記可能状態となる。筆記可能状態を解除するには,再度ノック部材7を押圧操作する。すると,突起8b(後端部傾斜形状8b1)と山部9aの係合が解除される。その後,山形状カム部7bと突起8bの後端部傾斜形状8b1とが係合する。そして,後端部傾斜形状8b1が山部9aに沿って移動した後,コイルスプリング6の付勢力に従って突起8bは溝部9bの溝に沿って後退することとなる。
【0014】
本考案に係るノック式ボールペン1では,円筒状部材9にカム部90が形成されている。この円筒状部材9は,略円筒状に形成される。円筒状部材9の前端は軸筒2の内部に形成される段部2cに突き当てられる。そして,円筒状部材9の外周面に環状に突出形成される環状突起9cと,この環状突起9cと対応して軸筒2内周に環状に形成される環状突起2dとの嵌合作用により,円筒状部材9は,軸筒2内に固定されている。」

ウ 「【図4】



エ 図4からは,回転子8の一部が,ノック部材7の開口に挿入されることが看取できる。以下,ノック部材7の開口に挿入される回転子8の部分を「挿入部」と称する。

オ 上記アで摘記した【請求項2】の「回転子」は,上記イで摘記した箇所における「回転子8」と同じものであることは明らかであるから,回転子8は,略円筒状に形成されるものである。

カ 図4からは,回転子8は,ノック式ボールペン1の長手方向に長い形状を有しており,前記長手方向に直交する方向が,回転子8の短手方向であることが把握できる。そして,回転子8が略円筒形である(上記オ)ことを踏まえると,回転子8の挿入部を除いた部分の内部は中空であり,この中空の部分の短手方向の断面形状は,中空の部分の内径に相当する直径を有する円であること,挿入部の短手方向の断面形状は,円筒の厚み(外径と内径の差の半分)に相当する太さを有する円環であること,前記円のうち,リフィール5の保持手段8a(当審注:図4の右側に記載されている「8b」は,「8a」の誤記である。)の部分の径と前記円環の外径とを比較すると,当該円の径の方が大きいことが把握できる。

(2) 甲2発明
上記(1)の事項から,甲2には,以下の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

「略円筒状に形成された軸筒2を有し,
前記軸筒2の内部には,ボールペンのリフィール5が設けられ,
軸筒2の後方部位には,ノック部材7が外方に向けて突出形成され,
ノック機構を有し,該ノック機構は,
略円筒状に形成され,リフィール5の後部を保持する保持手段8aを有し,外方に板状の突起8bが複数形成される回転子8と,
軸筒2の後部に内設し,略円筒状に形成される円筒状部材9の内周面に形成された山部9aと溝部9bより構成されるカム部90と,
有底筒状に形成され,外周に形成された突起7aと溝部9bとにより前後方向に移動自在にガイドされるノック部材7の開口側である前端周縁に形成される山形状の山形状カム部7bと,で構成され,
ノック部材7の押圧によりノック部材7は前進し,すると,溝部9bにガイドされる回転子8の突起8bが溝部9bによるガイド規制が解除され,
山形状カム部7bと突起8bの後端部傾斜形状8b1とが係合した後,後端部傾斜形状8b1が山部9aに沿って移動し,そして,突起8bが山部9aに形成される段部に係合し,このとき,ボールペンチップ5bは先口4から突出した状態となって筆記可能状態となり,
筆記可能状態を解除するには,再度ノック部材7を押圧操作し,すると,突起8bと山部9aの係合が解除され,その後,山形状カム部7bと突起8bの後端部傾斜形状8b1とが係合する,
ノック式ボールペン1であって,
前記回転子8は前記ノック部材の開口に挿入される挿入部を有し,挿入部の短手方向の断面形状は円環であり,前記回転子8の挿入部を除いた部分の内部は中空であり,この中空の部分の短手方向の断面形状は円であり,前記円のうち,リフィール5の保持手段8aの部分の円の径が,前記円環の外径よりも大きい,
ノック式ボールペン1。」

3 甲3について
(1) 甲3の記載
甲3には,以下の記載がある。
ア 「【0022】
図4は図1に示す組み上げ状態における筆記具(ボールペン)1の後端部を拡大して示した断面図である。すでに図1に基づいて説明したように,リフィールを構成するインク収容管6の後端部には樹脂により成形された尾栓8が装着されている。この尾栓8の前端部は,インク収容管6の内径部に嵌合できる外径を持った円筒部8aを構成している。また,尾栓8の後端部は,この実施の形態においてはインク収容管6の外径にほぼ等しい外径をもった筒体部8bを構成している。
【0023】
そして,この尾栓8にはインク収容管6の内部と外部とを通気可能にする通気孔が軸芯に沿って貫通して形成されている。この通気孔は,尾栓8の前端部に形成された円筒部8aにおいては細径の通気孔8cになされ,尾栓8の後端部に形成された筒体部8bにおいてはより内径が太い通気孔8dになされている。なお,前記尾栓8のさらに詳細な構成については,図5?図7に基づいて後で詳細に説明する。」

イ 「【0025】
図5?図7は前記した尾栓8の構成を拡大して示したものであり,図5はこれを斜視図で示しており,図6は尾栓8を前端部側から視た正面図で示している。また,図7は図6におけるA-Aより矢印方向に視た断面図で示している。図5?図7に示すように,前記尾栓8の後端部に形成された通気孔8dの内壁には,尾栓の軸芯方向に突出する複数の凸部8eが形成されている。この実施の形態においては前記凸部8eは,線状に形成されたリブ(符号は同じく8eで示す)により構成されており,当該リブ8eが前記尾栓8の軸方向に沿って,かつ周方向に等間隔となるように3か所に形成されている。
【0026】
そして,前記各リブ8eの頂部を結ぶ内接円の直径が,尾栓8の前端部に形成された円筒部8aの外接円の直径,すなわち円筒部8aの外径よりも小さくなる関係になされている。この構成により,すでに説明したように例えばパーツフィーダを利用して,各尾栓の前端および後端の方向を揃えて,自動機に直列状態に供給するような場合においても,尾栓の後端部に次の尾栓の前端部が入り込み,自動機による生産性を阻害するという問題を避けることができるし,この問題を防止するための複雑な工程も不要となる。そして,前記凸部として線状に形成されたリブ8eを採用することで,これを成形する金型にアンダーカットが形成されるのを避けることができ,金型からの尾栓の引き抜き時の抵抗を遥かに緩和させることができる。」

(2) 甲3記載の技術的事項
上記(1)の摘記事項から,甲3には,「筆記具のリフィールを構成するインク収容管6の後端部には樹脂により形成された尾栓8が装着され,前記尾栓8の後端部に形成された通気孔8dの内壁に,尾栓の軸芯方向に突出する複数の凸部8eが形成され,前記凸部8eは,線状に形成されたリブ8eにより構成されており,前記各リブ8eの頂部を結ぶ内接円の直径が,尾栓8の前端部に形成された円筒部8aの外接円の直径,すなわち円筒部8aの外径よりも小さくなる関係になされており,この構成により,パーツフィーダを利用して,各尾栓の前端および後端の方向を揃えて,自動機に直列状態に供給するような場合においても,尾栓の後端部に次の尾栓の前端部が入り込み,自動機による生産性を阻害するという問題を避ける」という技術的事項が記載されているものと認められる。

4 甲4について
(1) 甲4の記載
甲4には,以下の記載がある。
ア 「【0004】
近年,筆記具などに取り付けられているクリップは,ポケットなどに挟む込む機能に加え,高級感を持たせるためにデザインの多様化が図られている。特に,金属製のクリップは高級感を出しやすい材質となっており,それ故に,高級な筆記具においては,金属製のクリップを使用している製品が多い。」

イ 「【0009】
次に,前記頭冠19に固定されているクリップ24について説明する。炭素工具鋼に(Ni+Sn-Co +電解クロメート)めっきを施したクリップ14の後部の両側には,側壁部25がプレス加工によって折り曲げられて形成されており,その側壁部25には内側方向に向けて前記頭冠18の固定溝23に食い込む矢形状の係止突起26も折り曲げられて形成されているが,この係止突起26の折り曲げ角度は側壁部25に対して120度,即ち,係止突起26の端部がクリップ24の裏面に向けて形成されている。係止突起26に角度を設けることによって,クリップ24をキャップ15から離隔する方向に持ち上げた際の,前記頭冠18とクリップ24の緩みを防止している。この角度は前記固定溝23の形状によって変わるが,クリップ24の加工や組立の容易性を考慮すると95度から140度の範囲が好ましい。また,この係止突起26の折り曲げ部には,クリップ24を持ち上げた際の折損を防止するために,R(円弧)を設けて折り曲げるのが望ましい。この矢形状の係止突起26は,クリップ24を頭冠18の後方から前方に向けて組み付けるため,前方に向け末広がりとなっている。つまり,組み立てやすく,組み立てた後においては抜けにくい構成となっている。
また,クリップ24の側壁部25の後方の内側には,クリップ24の長手方向の軸線27対して直行(当審注:「直行」は,「直交」の誤記である。)する内壁部28がプレス加工などの手段によって折り曲げられて形成されている。この内壁部28の幅Aは,前記側壁部25の幅Bの約4分の1程度のものとなっており,その内壁部28の上下には,上方空間部24aと下方空間部24bが形成されている。また,この内壁部28は,前記側壁部25から内側方向に向けて,各々が接近するように形成されているが,接触はしておらず隙間29を形成している。前記めっき処理を施す際に,めっき液を十分にクリップ表面は勿論,側壁部25や内壁部28の裏面にも行き渡らせるようにしたのである。即ち,めっき液の各部位に対する流通性を向上させているのである。更に,前記内壁部28には,クリップ24の裏面に向けて突起28aが形成されている。そして,その突起28aを形成することによって,前記上方空間部24aの幅は,狭められた状態となっており,その狭められた幅Cは後述するクリップ24の玉部30の高さHよりも狭くなっている。また,前記下方空間部24bの幅も玉部30の高さHよりも狭くなるよう形成されている。
符号30は,クリップ24の後端部の裏面に形成された玉部であるが,その玉部30を別部材で構成し,クリップ24に固定しても良い。
【0010】
次に,作用について説明する。大量のクリップ24をめっき容器(層)に投入し攪拌しても,図7に示すように,クリップ24の側壁部25や係止突起26によって形成される空間部31に,後続する他のクリップ24の後部近傍(本例においては,玉部30の近傍)が入り込んでしまうが,そのクリップ24の後端部が前記内壁部28,並びに,突起28aに当接し,極度の入り込みが防止される。その結果,クリップ同士の絡み合いや連結が防止される。尚,前記突起28aは,クリップ24の玉部30が大きい場合には,必ずしも必要はない。玉部30が内壁部28とクリップ24の裏面に形成される隙間に入り込まないように,突起28aを設けているのである。即ち,玉部30が上方空間部24aや下方空間部24bから入り込もうとしても,玉部30の高さHが上方空間部24aの幅Cや下方空間部24bの幅Dよりも大きくなっているため,それらの空間部(24a,24b)に入り込むことができないのである。
ちなみに,図13に示すように,従来技術のものにあっては,クリップ24の側壁部25や係止突起26によって形成される空間部31に,後続する他のクリップ24の後端部が嵌り込んでしまい,その嵌り込んだ部分におけるバレル加工やめっき処理が行われなくなってしまう。」

(2) 甲4記載の技術的事項
上記(1)の摘記事項から,甲4には,「筆記具などに取り付けられるクリップ24の側壁部25の後方の内側に,クリップ24の長手方向の軸栓27に対して直交する内壁部28が形成され,前記内壁部28には,クリップ24の裏面に向けて突起28aが形成されており,大量のクリップ24をめっき容器に投入し攪拌しても,クリップ24の側壁部25や係止突起26によって形成される空間部31に,後続する他のクリップ24の後部近傍が入り込んでしまうが,そのクリップ24の後端部が前記内壁部28,並びに,突起28aに当接し,極度の入り込みが防止され,その結果,クリップ同士の絡み合いや連結が防止される」という技術的事項が記載されているものと認められる。

5 甲5について
(1) 甲5の記載
甲5には,以下の記載がある。
「【0008】
又,前記インキ流通溝7には,コイルスプリング9が配置されている。そのコイルスプリング9について説明する。コイルスプリング9の前方には約1巻きの座巻き部10が形成されており,その中心からは直線部11が前方に向けて延設形成されている。そして,その直線状部11の先端が,前記ボールBに当接している。つまり,その直線状部11の当接によってボールBが吐出部7の内周面にと当接しているのである。
一方,コイルスプリング9の中間部(後方)には,小径部12が形成されている。ちなみに,その小径部12の外径は,他の部分の内径よりも若干小径に形成されている。そして,その小径部12の後方,つまり,コイルスプリング9の後端部には,約2巻きの座巻き部13が形成されているが,その座巻き部13の外径は前記小径部12以外の部分と同様な外径となっている。尚,コイルスプリング9の後端部(座巻き部13)は,ボールペンチップ3の後端部に内方に向けて円周状に形成されたかしめ部14の内周面に当接しており,ボールペンチップ3からの脱落が防止されている。
【0009】
次ぎに,前記コイルスプリング9のボールペンチップ3内への装着方法について説明する。先ず,かしめ部が形成されていないボールペンチップ3の後方から,そのボールペンチップ3の長さよりも長いコイルスプリング9をインキ流通孔7内へと挿着する。つまり,この状態では,コイルスプリング9の後端は,ボールペンチップ3の後端から突出した状態となっている。尚,この際,前記コイルスプリング9は,各々独立した状態にあるので容易に1個ごと分離することができる。次いで,ボールペンチップ3の後端部をかしめ治具15によって押圧し,かしめ部を形成するが,そのかしめ治具15の前方には,前記コイルスプリング9の小径部12よりも若干大径な小径部16が形成されている。即ち,そのかしめ治具15の小径部16を,コイルスプリング9の小径部12に当接させ,此によって,コイルスプリング9を縮めた状態に維持することができ,その縮めた状態でかしめ部14を形成することができるのである(図4参照)。尚,本実施例においては,前記かしめ部14をボールペンチップ3の後端の全周に渡って形成したが,例えば,放射状に3箇所或いは4箇所といった部分的に形成しても良い。かしめ部以外の部分における前記インキパイプとの流通性が良好となり,例えば,脱泡作業をした場合には,ボールペンチップ内の泡を容易にインキパイプ内に導くことができ,除去することができるようになる。」

(2) 甲5記載の技術的事項
上記(1)の摘記事項から,甲5には,「ボールペンチップ3内に装着されるコイルスプリング9の中間部(後方)には,外径は,他の部分の内径よりも若干小径に形成されている小径部12が形成されている」という技術的事項が記載されているものと認められる。

6 甲6について
(1) 甲6の記載
甲6には,以下の記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,一端側が縮径されたコイルスプリング,特に,ボールペンのチップ内で転写ボールを後方から付勢するのに適したコイルスプリングに関するものである。」

イ 「【0009】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は,本発明に係るコイルスプリングの一例を示す。コイルスプリングAは,前方側の小径コイル部10と,該小径コイル部10の後方側の大径コイル部20とからなり,一本のスプリング材をスプリング成形機で曲げ加工することにより一体に形成されている。そして,このコイルスプリングAは,図3に示すように,チップ30内に組み付けられて,前記小径コイル部10の前端面を転写ボール32に当接させて,該転写ボール32を付勢する。
【0010】小径コイル部10は,チップ30のインク導入孔31に遊挿し得るように,コイル外径が後方側の大径コイル部20よりも縮径され,小径伸縮コイル部12の前端部に,転写ボール32との接触を安定させるために,密着コイル状の小径座巻部11を形成してなる。
【0011】大径コイル部20は,それ自体の前端側に,上記小径コイル部10の小径伸縮コイル部12と協働して転写ボール32を付勢する大径伸縮コイル部22が形成され,その大径伸縮コイル部22の後端側に,拡径され且つ密着コイル状の大径座巻部21を形成し,該大径座巻部21の開口部の最後端に,侵入規制部21aを一体形成している。
【0012】前記大径座巻部21は,チップ30のへの装填時に,コイルスプリングAをパーツフィーダー40の送出部41に吊るすためのものである(図4参照)。つまり,チップ30への装填時にコイルスプリングAは,大径座巻部21によりって送出部41に吊るされ,その重量バランスにより小径コイル部10側が下方に向けられた状態で,該送出部41から送出される。また,大径座巻部21は,コイルスプリングAがチップ30内に装填されて転写ボール32を後方より付勢した際に,該チップ30内の後述する小突起33aに受け止められる部位に形成されている。
【0013】侵入規制部21aは,大径座巻部21の最後端部に連続して環状に形成され,その径は,小径座巻部11の前端部が軸方向に干渉することで大径座巻部21内に侵入しえない寸法に設定されている。
【0014】すなわち,この侵入規制部21aは,その内径寸法D2’を小径座巻部11の外径寸法D1よりも小さく設定することで,侵入規制部21a内に他のコイルスプリングA’の小径座巻部11が侵入しないようにしている。更に,大径座巻部21の内径面と侵入規制部21aの外径面との隙間Wは,小径座巻部11の外径寸法D1よりも小さく設定し,該隙間Wに他のコイルスプリングA’の小径座巻部11が侵入しないようにしている(図1(b)及び図2(a)参照)。
【0015】尚,本実施の形態では,小径座巻部11の外径寸法D1をφ0.5mm,侵入規制部21aの外径寸法D2をφ0.7mm,大径座巻部21の外径寸法D3をφ1.35mmに設定し,線径をφ0.12mmに設定してある。したがって,小径座巻部11の内径寸法D1’はφ0.26mm,侵入規制部21aの内径寸法D2’はφ0.46mm,上記隙間Wは0.205mmである。
【0016】而して,上記構成のコイルスプリングAは,チップ30への装填のため,図4に示すように,パーツフィーダー40内に多数収められた状態であっても,侵入規制部21aが,他のコイルスプリングA’の小径座巻部11の侵入を,大径座巻部21の開口部で阻止するため,連結してしまうことがない。よって,該コイルスプリングAをパーツフィーダー40により一個づつ供給する作業がスムーズに行え,チップ30の生産性を向上できる。」

(2) 甲6記載の技術的事項
上記(1)の摘記事項から,甲6には,「ボールペンのチップ内で転写ボールを後方から付勢するのに適したコイルスプリングAが,前方側の小径コイル部10と,該小径コイル部10の後方側の大径コイル部20とからなり,小径コイル部10は,密着コイル状の小径座巻部11を形成してなり,大径コイル部20は,拡径され且つ密着コイル状の大径座巻部21を形成し,該大径座巻部21の開口部の最後端に,侵入規制部21aを一体形成しており,侵入規制部21aは,大径座巻部21の最後端部に連続して環状に形成され,その径は,小径座巻部11の前端部が軸方向に干渉することで大径座巻部21内に侵入しえない寸法に設定されており,コイルスプリングAは,パーツフィーダー40内に多数収められた状態であっても,侵入規制部21aが,他のコイルスプリングA’の小径座巻部11の侵入を,大径座巻部21の開口部で阻止するため,連結してしまうことがない」という技術的事項が記載されているものと認められる。

7 甲7について
(1) 甲7の記載
甲7には,以下の記載がある。なお,半角の数字等は全角に修正している。
「【0014】
図4及び図5は,天冠25の内側面をそれぞれ後方斜視図及び底面図で示すものである。
天冠25の内側面のうち,位置決め切欠21cに対応する位置からは,内方に,一対の位置決め突起25aが突出している。この位置決め突起25aの間に間隙が設けられているのは,この部分が空間ではなく実質になっていて厚みを設けてしまうと射出成形時にこの厚み部分に樹脂が十分に充填されない(いわゆる,「ヒケ」という現象)という事態が起こりやすいため,これを回避することを目的としている。この位置決め突起25aの最外部の幅(図5中の「W1」)は,前記位置決め切欠21cの幅(図3中の「W2」)よりやや広く形成されている。また,天冠25の軸心部分には,前記芯金27の後端が螺合されるための雌ネジが切られているネジ孔25bが形成されている。なお,天冠25の内側面ににおいて位置決め切欠21cのある位置を含む3箇所には,内方にやや突出する内方突起25cが等間隔に設けられている。これは,天冠25の外周面に滑り止めないし装飾目的で設けられている外周溝25d(図1,図3,図4参照)を設けるための射出成形時の「ヒケ」を防止するとともに,縮径部21の外周を3方向から押し付けて天冠25の嵌合力を高めるための設計である。これらの内方突起25cは,同様に縮径部21の外周面に等配されている収容溝21d(図6参照)と対応してこれに収容されることになる。」

(2) 甲7記載の技術的事項
上記(1)の摘記事項から,甲7には,「射出成形時に厚み部分に樹脂が十分に充填されない,いわゆる,「ヒケ」という現象が起こりやすいため,これを回避することを目的として,位置決め突起25aの間に隙間を設ける」という技術的事項が記載されているものと認められる。

8 甲8について
(1) 甲8の記載
甲8には,以下の記載がある。
ア 「【0026】
このため,キャップおよび本体部を合成樹脂材を射出成形して製造するような場合,成形品に高い寸法精度が要求され,金型の作成が困難になる。
そこで,例えば,キャップの筒体の内周部に僅かに突出させた気密環を周方向へ向けて全周に渡って設け,キャップを本体部に嵌合させたときに,若干のテーパを設けた本体部によって気密環を僅かに弾性変形させつつ本体部の外周部に押圧して,高い気密性を得る構成が採られる。このため,キャップの筒体の内周部に設ける気密環には真円度が要求される。
ところが,筒体の気密環を設けた部位の外周部に,部分的に突起やリブなどを設けると,射出成形時にヒケや気泡が発生し易く,気密環の真円度が著しく損なわれる。」

イ 「【0042】
ところで,塗布部22の乾燥を防ぐためには,キャップ10の気密環11fが本体軸21の小径部21bの外周部に密接するように,気密環11fの真円度を向上させる必要がある。
本実施形態のキャップ10では,前記したように,リブ12を開口11c近傍の外周部に設けている。則ち,リブ12を気密環11fの設けられた部位から離れた位置に設けている。これにより,キャップ10の射出成形時において,リブ12によって生じるヒケのために気密環11fの真円度が損なわれることがない。」

(2) 甲8記載の技術的事項
上記(1)の摘記事項から,甲8には,「筒体の気密環を設けた部位の外周部に,部分的に突起やリブなどを設けると,射出成形時にヒケや気泡が発生し易くなるので,リブ12を気密環11fの設けられた部位から離れた位置に設けている」という技術的事項が記載されているものと認められる。

9 甲9について
(1) 甲9の記載
甲9には,以下の記載がある。
「成形品の肉厚は原則として均一であってほしい.・・・肉厚が不均一だと収縮も不均等になり,ヒケあるいは好ましくない内部応力を生じて変形やクラックの発生の原因となるからである.」(第19頁2・2・5肉厚)

(2) 甲9記載の技術的事項
上記(1)の摘記事項から,甲9には,「肉厚が不均一だと収縮も不均等になり,ヒケあるいは好ましくない内部応力を生じて変形やクラックの発生の原因となるから,成形品の肉厚は原則として均一とする」という技術的事項が記載されているものと認められる。

10 甲10について
(1) 甲10の記載
甲10には,以下の記載がある。なお,半角の数字等は全角に修正している。
ア 「【0006】
【発明の実施の形態】本発明の実施の具体例を図面に基づいて説明する。図1乃至図2は請求項1乃至2に係る本発明ノック式筆記具の一例を示した縦断正面図であり,1は軸筒,2はこの軸筒1内に進退可能に装填されるリフィール,3は軸筒1の後端側に,ノック軸3-1を後端開口から突出させた状態で組み込み内設される繰出し機構である。この繰出し機構3のノック操作を行うことで,リフィール2を軸筒1内の当初の装填状態から軸筒1前方へとリターンスプリング4の弾発力に抗して前進せしめてペン先2-1を軸筒1先端の先口5から突出させ(図2の状態),又,リターンスプリング4の弾発力によりリフィール2を前記当初の装填状態へと後退せしめてペン先2-1が前記先口5内に没入戻される(図1の状態)ように構成されている。
【0007】軸筒1は,不透明又は透明な合成樹脂材料等から成形され,他の部分より一回り程細く形成した先端側の小径筒部1-1にシリコンゴム等の適宜の滑り止め材料からなるグリップ6を嵌着すると共に,当該小径筒部1-1の先端開口に合成樹脂材料や金属材料等からなる先口5をネジ込みにより着脱可能に装着してなる。又,軸筒1の前記小径筒部1-1の後部から軸筒1の後端側に至る内面断面形状(横断形状)を略三角形,四角形,五角形,六角形等の角形筒状に形成し(図6参照),この角形筒部1-2の後部にリターンスプリング4の前端を掛止させるスプリング掛止部7と,後述する筒状駒体8の前端縁を掛止させる駒掛止部9とを設けてなる。尚,角形筒部1-2が透明な合成樹脂材料から成形されていることで,角形筒部1-2には凸型レンズ効果が現れる。つまり,外観にレンズ効果が現れて美的効果が得られる。更に,軸筒1の前記角形筒部1-2の後部から軸筒1の後端開口に至る内面形状は筒状駒体8の外径と略同径とする内径を有する前半部1-3と,筒状駒体8の外径よりも若干大きい内径を有する後半部1-4から筒方向に段付き円筒状を呈し,筒状駒体8を組み込み内設する際に,筒状駒体8を後半部1-4から前半部1-3に向けて遊嵌状態にて挿入し,その後,該前半部1-3に芯合わせせしめた状態で同前半部1-3に回転不能に圧入定着し得るように形成してなる。そして,後半部1-4における前半部1-3側の内面には環状突起10が形成されており,筒状駒体8を後半部1-4から前半部1-3に組み込み内設した際,筒状駒体8の後端側外面に形成されている環状突起11が前記環状突起10を乗り越え嵌合せしめることで,筒状駒体8が前述した駒掛止部9とによって軸方向に対して不動な状態に定着されるように形成してなる。」

イ「【0009】繰出し機構3は,軸筒1の後端開口から突出させた状態で進退摺動可能に組み込まれるノック軸3-1と,進退可能で尚且つ回転可能に組み込み内設される回転子3-2とで構成され,ノック軸3-1のノック操作を行うことで,リターンスプリング4の弾発力に抗して回転子3-2を軸筒1前方へ前進させることによって,該回転子3-2周面の後述する係止爪13を筒状駒体8の後述する爪受止め部12の爪摺動溝12-2から離脱せしめると共に回転子3-2を回転させて係止爪13を前記爪受止め部12の係合縁12-1に係合させ(図5(b)並びに図7(b)の状態),又,回転子3-2周面の係止爪13を前記爪受止め部12の係合縁12-1から回転子3-2を回転させることによって自動的に離脱(係合縁12-1に対する係合状態を解除)せしめてリターンスプリング4の弾発力により再び同爪受止め部12の前記爪摺動溝12-2に係合される(図5(a)並びに図7(a)の状態)様になっている。即ち,ノック軸3-1のノック操作を行うことで,回転子3-2をリターンスプリング4に抗して軸筒1前方へ前進させることによって,リフィール2を前進せしめてそのペン先2-1を先口5から突出させた前進位置にリフィール2を保持し(図2の状態),又,回転子3-2をリターンスプリング4の弾発力により後退させることによって,リフィール2を軸筒1内の当初の後退位置に後退戻してペン先2-1を先口5内に没入戻す(図1の状態)動きを成すものである。
【0010】爪受止め部12は,ノック軸3-1をリターンスプリング4に抗して押すノック操作を行なった際,ノック軸3-1に押されて前進する回転子3-2周面の係止爪13をリターンスプリング4との協働で受止めることにより,回転子3-2をその前進限に受止め保持する。即ち,リフィール2のペン先2-1を軸筒1の先口5から突出させたその突出状態を保持する役目と,軸筒1の先口5内に後退戻されたペン先2-1を当該先口5内に保持する役目とを成すもので,軸筒1の後端側内部の前述した前半部1-3に嵌入により定着内在し得る外径にて円筒状に成形された筒状駒体8の内面に,その後端開口側から前方に向けて周方向に鋸歯状に連設傾斜させた係合縁12-1を刻設すると共に,各係合縁12-1の一つ置きの傾斜下端には筒後方に向けて適宜の深さにて切欠せしめた爪摺動溝12-2を設けてなる(図7参照)。
【0011】ノック軸3-1は,軸筒1の後端側における前述した前半部1-3並びに後半部1-4の内径よりも一回り程度細い外径を有する所要の長さに成形され,その前端側の外面には筒状駒体8の爪受止め部12の爪摺動溝12-2全て又はいずれかにスライド自在に係合させる筒方向へ延びる縦爪14を数カ所に設けると共に(図4参照),その前端縁には周方向にジグザグ状に連設傾斜させた爪案内押動部15を設けてなり,更に,前端から後端近傍に向けた軸芯には回転子3-2の後述する軸部3-20を回転可能に挿入する回転子挿入孔16を開設してなる。図中18は,ノック軸3-1に固着又は適宜着脱可能な状態で被嵌状に装着せしめた有底筒状(キャップ状)のノック部であり,このノック部18はその外径を前述した後半部1-4の内径と略同径とし,且つ該後半部1-4に摺動可能に嵌挿されてノック操作時にノック軸3-1を軸芯線上において案内進退させるものである。
【0012】回転子挿入孔16は,回転子3-2の軸部3-20をノック軸3-1の長さと略同じ長さにて回転可能に挿入内在させるものであって,軸部3-20の外径と同径かそれよりも若干大きい内径にて開設され,回転子3-2の軸部3-20が回転可能に挿入内在されるようになっている。
【0013】回転子3-2は,ノック軸3-1のノック操作を行うことにより,リターンスプリング4に抗して軸筒1前方へ向けて前進せしめ,その前進限において周面の係止爪13が筒状駒体8の爪受止め部12の係合縁12-1に係合受止められることで,ペン先2-1を軸筒1の先口5から突出させた前進限にリフィール2を保持せしめ,又,前記爪受止め部12の係合縁12-1に係合受止められている係止爪13が係合縁12-1から離脱されると共に,該係合縁12-1から隣の爪摺動溝12-2方向に回転されて同爪摺動溝12-2に再び摺動内在せしめられることで,リフィール2の前記保持を解除せしめてリターンスプリング4によるリフィール2の後退と共に当初の位置に後退せしめる動きを成すもので,リターンスプリング4の後端を当接させる当接部19を前端縁に拡開状に周設具備し,該当接部19側の周面数カ所には係止爪13を一体に設けると共に,係止爪13を周面に有する前側を除く部位から後方に向けて軸部3-20を同軸一体に突設してなる。尚,係止爪13は,ノック軸3-1の爪案内押動部15に常時係合せしめると共に,ノック軸3-1のノック操作を行うことで,筒状駒体8の爪受止め部12の係合縁12-1と爪摺動溝12-2とに交互に係合せしめるものである(図5参照)。
【0014】軸部3-20は,ノック軸3-1の回転子挿入孔16内全長に回転可能に又は必要に応じて進退可能に挿入内在される程度の外径と長さにて回転子3-2に一体に成形具備され,内部には回転子3-2の前端から開設されたリフィール挿入孔20を有し,その孔底には空気交換用の通気孔21を開設してなる。尚,この通気孔21による空気交換は後述するリフィール抜け止め突起22により同芯上に保持された状態でリフィール挿入孔20に挿入内在されるリフィール2と該リフィール挿入孔20の内周面との間に確保される縦溝等からなる隙間を介して成されるようになっている。
【0015】リフィール挿入孔20は,リフィール2の後端側を挿入内在させるためのものであって,リフィール2のインク収容管2-2の外径よりも若干大きい内径にて回転子3-2の前端から軸部3-20の後端側へ略全長に至る軸芯に開設され,リフィール2の後端側が挿入内在されるようになっている。そして,リフィール挿入孔20の孔底側の内周面数カ所(図では4カ所)に等間隔をおいて筒方向にリブ状に延びるリフィール抜け止め突起22が設けられており,このリフィール抜け止め突起22によって,リフィール挿入孔20に挿入内在されたリフィール2の後端側を4点支持にて同芯上に保持し得るようにしてなる。つまり,リフィール2と回転子3-2との一体化を図り,リターンスプリング4により軸筒1後方へ付勢される回転子3-2と共にリフィール2も軸筒1後方へ付勢されて軸筒1内の当初の位置にリフィール2が収容保持されるようにしてなる。尚,リフィール抜け止め突起22による保持以外ではリフィール挿入孔20に遊嵌状態でリフィール2が挿入内在されるようになっている。
【0016】而して,以上の如く構成した本実施例のノック式筆記具によれば,リフィール2は,その後端側を回転子3-2の前端からノック軸3-1の回転子挿入孔16内全長に挿入される軸部3-20に開設されているリフィール挿入孔20に挿入させた状態で軸筒1内に装填されるように構成してなることから,リフィール2自体の長さL1を変えることなく,軸筒1先端の先口5から軸筒1後端のノック部3-1に至る本体部A全体の長さLを短くすることができる。つまり,リフィール2は,その後端側を軸筒1の後端から突出する繰出し機構3のノック軸3-1の回転子挿入孔16内全長に回転子3-2の軸部3-20と共に挿入された状態で軸筒1内に装填されることから,リフィール2がノック軸3-1の回転子挿入孔16内に挿入された分,本体部A全体の長さLを短くすることが可能になる。」

ウ 「【図1】



ウ 図1からは,リフィール挿入孔20の内径は,前端側で後端側よりも広くなっていることが看取できる。

(2) 甲10発明
上記(1)の事項から,甲10には,以下の発明(以下,「甲10発明」という。)が記載されているものと認められる。

「繰出し機構3のノック操作を行うことで,リフィール2を軸筒1内の当初の装填状態から軸筒1前方へとリターンスプリング4の弾発力に抗して前進せしめてペン先2-1を軸筒1先端の先口5から突出させ,又,リターンスプリング4の弾発力によりリフィール2を前記当初の装填状態へと後退せしめてペン先2-1が前記先口5内に没入戻されるように構成されているノック式筆記具であって,
繰出し機構3は,軸筒1の後端開口から突出させた状態で進退摺動可能に組み込まれるノック軸3-1と,進退可能で尚且つ回転可能に組み込み内設される回転子3-2とで構成され,ノック軸3-1のノック操作を行うことで,リターンスプリング4の弾発力に抗して回転子3-2を軸筒1前方へ前進させることによって,該回転子3-2周面の係止爪13を筒状駒体8の後述する爪受止め部12の爪摺動溝12-2から離脱せしめると共に回転子3-2を回転させて係止爪13を前記爪受止め部12の係合縁12-1に係合させ,又,回転子3-2周面の係止爪13を前記爪受止め部12の係合縁12-1から回転子3-2を回転させることによって自動的に離脱せしめてリターンスプリング4の弾発力により再び同爪受止め部12の前記爪摺動溝12-2に係合される様になっており,
ノック軸3-1は,その前端側の外面には筒状駒体8の爪受止め部12の爪摺動溝12-2全て又はいずれかにスライド自在に係合させる筒方向へ延びる縦爪14を数カ所に設けると共に,その前端縁には周方向にジグザグ状に連設傾斜させた爪案内押動部15を設けてなり,更に,前端から後端近傍に向けた軸芯には回転子3-2の後述する軸部3-20を回転可能に挿入する回転子挿入孔16を開設してなり,回転子挿入孔16は,回転子3-2の軸部3-20をノック軸3-1の長さと略同じ長さにて回転可能に挿入内在させるものであり,
回転子3-2は,ノック軸3-1のノック操作を行うことにより,リターンスプリング4に抗して軸筒1前方へ向けて前進せしめ,その前進限において周面の係止爪13が筒状駒体8の爪受止め部12の係合縁12-1に係合受止められることで,ペン先2-1を軸筒1の先口5から突出させた前進限にリフィール2を保持せしめ,又,前記爪受止め部12の係合縁12-1に係合受止められている係止爪13が係合縁12-1から離脱されると共に,該係合縁12-1から隣の爪摺動溝12-2方向に回転されて同爪摺動溝12-2に再び摺動内在せしめられることで,リフィール2の前記保持を解除せしめてリターンスプリング4によるリフィール2の後退と共に当初の位置に後退せしめる動きを成すものであり,係止爪13は,ノック軸3-1の爪案内押動部15に常時係合せしめると共に,ノック軸3-1のノック操作を行うことで,筒状駒体8の爪受止め部12の係合縁12-1と爪摺動溝12-2とに交互に係合せしめるものであり,
軸部3-20は,ノック軸3-1の回転子挿入孔16内全長に回転可能に又は必要に応じて進退可能に挿入内在される程度の外径と長さにて回転子3-2に一体に成形具備され,内部には回転子3-2の前端から開設されたリフィール挿入孔20を有し,リフィール挿入孔20は,リフィール2の後端側を挿入内在させるためのものであって,リフィール2のインク収容管2-2の外径よりも若干大きい内径にて回転子3-2の前端から軸部3-20の後端側へ略全長に至る軸芯に開設され,リフィール2の後端側が挿入内在されるようになっており,リフィール挿入孔20の内径は,前端側で後端側よりも広くなっている,
ノック式筆記具。」

11 甲11について
(1) 甲11の記載
甲11には,以下の記載がある。
ア 「【実用新案登録請求の範囲】
押棒カムの押圧力を受けて軸筒内壁に形成したカム面と係脱する回転カム部材の移動によって筆記部材の筆端部が軸筒開口部から出没するノック式筆記具において,回転カム部材3に形成した中空部3a内に筆端部2aとインキ貯蔵部2bを設けてなる筆記部材2を圧入嵌着または,ねじ嵌着などの手段で着脱可能に固定的に取付けるとともに,回転カム部材3の段部3cと軸筒後方段部1aとの間に弾発部材3を掛着したことを特徴とするノック式筆記具。」(第1頁第4?15行)

イ 「軸筒1内に収容される筆記部材2は先端に筆端部2aを有しまた,この筆端部2aへ供給するインキの貯蔵部2bを設けてなるものであって,その後端部を回転カム部材3に穿設した中空部3a内に取付けてある。回転カム部材3の中空部3a内への取付けは,着脱可能に固定的に取付けられるものであれば,どのような取付構造であってもよく例えば,ねじ嵌着でもまた,圧入嵌着でもよい。ここでは,中空部3a内にビード部3a’を設けた圧入嵌着構造にしてあるが,要すれば,着脱可能でかつ,後記する弾発部材Sの弾発力に抗して両者2,3が一体的に移動できるものであることが肝要である。
回転カム部材3は押棒カム4と係合しかつ,後記のカム面6と係脱する突状カム部3bを有し,押棒カム4とともに,軸筒1の内壁に形成した溝5内を移動する。
この関係をより具体的に説明すると,軸筒1の内壁に複数の溝5が設けてあり,この溝5間に連接してカム面6が設けてある。
押棒カム4を押圧して回転カム部材3を溝5から離間させると,係合する両者3,4のカム部の作用で溝5から離間した回転カム部材3は回転し,その突状カム部3bを溝5に連接するカム面6に係合させて係止する。この時,押棒カム4は当然には,復元しないが,溝5内を移動できることから軸方向への移動は確実に可能であって再度,回転カム部材3を押圧することは可能である。
筆記部材2と回転カム部材3は一体的に移動できるので,回転カム部材3の係止状態の実現によって,筆記状態が得られることになる。筆記状態の解除は,押棒カム4を再度,押圧してやればよく,かくすることによって,回転カム部材3はカム面6から離間するとともに回転し,連接する溝5内に没入して元の位置に戻ることになる。
このとき,押棒カム4は回転カム部材3とともに復元するが,このことは,先記の筆記状態を実現した時とは異なり,回転カム部材3にかかる弾発部材Sの弾発力を押棒カム4も受けることになるのでかならず,実現する。
図中Sは,先記のとおり回転カム部材3の段部3cと軸筒1内の後方段部1aとの間に掛着した弾発部材であって,ここではコイルスプリングを利用している。内部に相当の空間が得られるコイルスプリングSの利用はもっとも好ましいことであって,筆記部材2の着脱のさい,筆記部材2との接触が回避し易くまた,段部1a,3c間への掛着も簡便に得られるといった利点がある。なお,このコイルスプリングSの弾発力は,回転カム部材3と筆記部材2が着脱可能であってかつ,一体的に移動できることに配慮して設定されることが好ましく,筆記部材2と回転カム部材3の嵌着構造を考慮して適宜に定めてよい。」(第4頁第2行?第6頁第18行)

ウ 「第1図



エ 第1図からは,段部3cは回転カム部材3の筆端部2a側端部から浅い位置に形成されていることが看取できる。

(2) 甲11発明
上記(1)の事項から,甲11には,以下の発明(以下,「甲11発明」という。)が記載されているものと認められる。

「軸筒1内に収容される筆記部材2は先端に筆端部2aを有しまた,この筆端部2aへ供給するインキの貯蔵部2bを設けてなるものであって,その後端部を回転カム部材3に穿設した中空部3a内に取付けてあり,
回転カム部材3は押棒カム4と係合しかつ,カム面6と係脱する突状カム部3bを有し,押棒カム4とともに,軸筒1の内壁に形成した溝5内を移動し,この溝5間に連接してカム面6が設けてあり,
押棒カム4を押圧して回転カム部材3を溝5から離間させると,係合する両者3,4のカム部の作用で溝5から離間した回転カム部材3は回転し,その突状カム部3bを溝5に連接するカム面6に係合させて係止し,筆記部材2と回転カム部材3は一体的に移動できるので,回転カム部材3の係止状態の実現によって,筆記状態が得られることになり,筆記状態の解除は,押棒カム4を再度,押圧してやればよく,かくすることによって,回転カム部材3はカム面6から離間するとともに回転し,連接する溝5内に没入して元の位置に戻ることになるノック式筆記具であって,
回転カム部材3の段部3cと軸筒1内の後方段部1aとの間に掛着した弾発部材を有し,段部3cは回転カム部材3の筆端部2a側端部から浅い位置に形成されている,
ノック式筆記具。」

第6 取消理由通知書に記載した取消理由について
訂正前の請求項1ないし3に係る発明に対して,令和1年9月6日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は,以下のとおりである。

1 取消理由1(特許法第29条第2項)
(進歩性)本件特許の請求項1及び2に係る発明は,甲2発明と,甲3,甲4及び甲6に記載された技術的事項から導き出される周知技術1とに基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許の請求項3に係る発明は,甲2発明と,上記周知技術1と,甲7,甲8及び甲9に記載された技術的事項から導き出される技術常識に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない特許出願に対してされたものである。

2 取消理由2(特許法第36条第6項第2号)
(明確性)本件特許は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。



(1) 請求項1に対して

請求項1には,「該カム部の内部の短手方向の断面形状が円であり,該円の直径が前記挿入部の外径よりも大きく,該カム部の内部は,前記挿入部の進入を阻止する形状を有する」という記載があるが,「カム部の内部の短手方向の断面形状」を「円」とした上で,「挿入部の進入を阻止する」ためには,前記「円」の「直径」を,「挿入部の外径」よりも小さくしなければならないことは明らかである。
そうすると,「該円の直径が前記挿入部の外径よりも大きく」という記載と矛盾することになる。
よって,請求項1に係る発明は,明確でない。

(2) 請求項2及び3に対して

ア 請求項1には,「該カム部の内部の短手方向の断面形状が円であり」という記載があるが,請求項1を引用する請求項2には,「前記カム部の内部に,径方向内側に突出する複数のリブが形成されている」という記載がある。
カム部の内部に,径方向内側に突出する複数のリブが形成されていれば,カム部の内部の短手方向の断面形状は,円にならないことは明らかであるので,請求項2の記載は,引用する請求項1の記載と矛盾しており,明確でない。
請求項2を引用する請求項3についても同様のことがいえる。

イ 請求項2には,「前記カム部の内部に,径方向内側に突出する複数のリブが形成されている」という記載があるが,この「複数のリブ」がいかなる機能を果たす構造であるのか,不明確である。
請求項2を引用する請求項3についても同様のことがいえる。

ウ 上記ア及びイより,請求項2及び3に係る発明は,明確でない。

第7 当審における判断
1 取消理由1について
(1) 本件特許1について
ア 対比
甲2発明は,上記第5の2(2)で認定したとおりのものであり,本件訂正発明1と,甲2発明とを対比すると,以下のことがいえる。

(ア) 甲2発明においては,「円筒状部材9の内周面に」「山部9aと溝部9bより構成されるカム部90」が形成されている。また,当該「山部9a」に,「回転子8」の「突起8b」が係合すると,筆記可能状態となり,「突起8b」と「山部9a」の係合が解除されると,筆記可能状態が解除されるので,甲2発明の「円筒状部材9」及び「山部9a」は,本件訂正発明1の「軸筒」及び「外カム」に相当する。

(イ) 甲2発明の「ノック部材7」は,「軸筒2」の後方部位に,外方に向けて突出形成されているが,この「外方」は,「ノック式ボールペン1」のペン先とは反対方向を指すことは明らかである。
そして,甲2発明の「ノック部材7」は,「ノック部材7」の「外周に形成された突起7a」と「円筒状部材9の内周面に」形成された「溝部9b」とにより前後方向に移動自在にガイドされることを踏まえると,甲2発明の「ノック部材7」は,「円筒状部材9」のペン先とは反対側の外方から突出形成されているということができる。
さらに,本件訂正発明1の「前記軸筒から後方に突出し」という記載の「後方」という用語について,本件特許明細書の段落【0016】の「ノック式筆記具1の軸線方向に沿ってノック式筆記具1のペン先とは反対側を構成部品の「後」側と定義する。」という記載を踏まえると,「後方」とは,「ノック式筆記具」のペン先とは反対方向のことであると解される。
したがって,本件訂正発明1の「ノック棒」と,甲2発明の「ノック部材7」とは,「前記軸筒から後方に突出」する点でも共通する。

(ウ) 甲2発明においては,「ノック部材7」は押圧によって前進し,「ノック部材7」の「山形状カム部7b」は,「回転子8」の「突起8bの後端部傾斜形状8b1と」「係合した後」,「後端部傾斜形状8b1が山部9aに沿って移動」して,「筆記可能状態」となるが,このとき,「山形状カム部7b」が,「後端部傾斜形状8b1」を押圧することは明らかである。
また,「後端部傾斜形状8b1が山部9aに沿って移動」する際には,「回転子8」自体が周方向に回転していることも明らかである。
したがって,甲2発明の「山形状カム部7b」は,本件訂正発明1の「カム面」に相当し,本件訂正発明1の「ノック棒」と,甲2発明の「ノック部材7」とは,「カム面が形成され」る点でも共通する。

(エ) 甲2発明の「回転子8」は,本件訂正発明1の「回転子」に相当する。

(オ) 甲2発明においては,「回転子8」の「突起8b」が,「円筒状部材9」の「溝部9b」によってガイドされることから,「回転子8」は,「円筒状部材9」内に配設されるものといえる。
したがって,本件訂正発明1の「回転子」と,甲2発明の「回転子8」とは,「前記軸筒内に配設され」る点でも共通する。

(カ) 甲2発明の「前記ノック部材の開口に挿入される挿入部」は,本件訂正発明1の「前記ノック棒に挿入される挿入部」に相当する。

(キ) 上記(ウ)で検討した事項から,甲2発明の「後端部傾斜形状8b1」は,本件訂正発明1の「カム受け面」に相当する。
また,上記(ア)で検討した事項から,甲2発明の「突起8b」は,本件訂正発明1の「内カム」に相当する。
そして,甲2発明において,「回転子8の挿入部を除いた部分」に,「後端部傾斜形状8b1」と「突起8b」が形成されていることから,「回転子8の挿入部を除いた部分」が,本件訂正発明1の「前記ノック棒と係合するカム部」に相当する。
さらに,甲2発明においては,筆記可能状態になるときには,回転子8が周方向に回転する(上記(ウ))ので,筆記可能状態が解除されるときにも,回転子8が周方向に回転することは明らかである。
してみると,本件訂正発明1の「回転子」と,甲2発明の「回転子8」とは,「前記ノック棒と係合するカム部とを有し,前記カム部には,前記カム面と相補的な形状のカム受け面と,内カムとが形成され,該内カムは,前記カム面が前記カム受け面を押圧することによって該回転子が周方向に回転すると,前記外カムと前後方向に係合し又は該係合が解除されるように構成される」点でも共通する。

(ク) 本件訂正発明1の「ノック機構」と,甲2発明の「ノック機構」とは,「外カム」と「ノック棒」と「回転子」とからなる点で共通する。

(ケ) 「ボールペン」は,「筆記具」の下位概念に相当するので,甲2発明の「ノック式ボールペン1」は,本件訂正発明1の「ノック式筆記具」に相当する。

(コ) 甲2発明において,挿入部の短手方向の断面は円環であるから,「円環の外径」は,「挿入部」の「外径」と言い換えることができる。
また,甲2発明の「回転子8の挿入部を除いた部分」が,本件訂正発明1の「前記ノック棒と係合するカム部」に相当する(上記(キ))ことを踏まえると,甲2発明において「前記回転子8の挿入部を除いた部分の内部は中空であり,この中空の部分の短手方向の断面形状は円であ」ることは,本件訂正発明1において「前記カム部の内部が中空であり,該カム部の内部の短手方向の断面形状が円であ」ることに相当する。
そうすると,甲2発明の「前記円のうち,リフィール5の保持手段8aの部分の円の径が,前記円環の外径よりも大きい」ことは,本件訂正発明1の「該円の直径が前記挿入部の外径よりも大き」いことに相当する。

(サ) 上記(ア)ないし(コ)より,本件訂正発明1と甲2発明とは,以下の点で一致する。

[一致点]
「軸筒の内周面に形成された外カムと,
前記軸筒から後方に突出し,カム面が形成されたノック棒と,
前記軸筒内に配設された回転子であって,前記ノック棒に挿入される挿入部と,前記ノック棒と係合するカム部とを有し,前記カム部には,カム受け面と,内カムとが形成され,該内カムは,前記カム面が前記カム受け面を押圧することによって該回転子が周方向に回転すると,前記外カムと前後方向に係合し又は該係合が解除されるように構成される,回転子とから成るノック機構を備えたノック式筆記具において,
前記カム部の内部が中空であり,該カム部の内部の短手方向の断面形状が円であり,該円の直径が前記挿入部の外径よりも大きい,ノック式筆記具。」

(シ) そして,両者の発明は,以下の点で相違する。

[相違点1]
本件訂正発明1の「カム受け面」は,「カム面と相補的な形状」であるのに対して,甲2発明の「後端部傾斜形状8b1」は,「山形状カム部7b」と係合するもの(上記(ウ))ではあるが,相補的な形状であるとは特定されていない点。

[相違点2]
本件訂正発明1においては,「カム部の内部に,前記挿入部の進入を阻止する形状として,径方向内側に突出する複数のリブが設けられている」のに対して,甲2発明においては,そのような複数のリブが設けられているとは特定されていない点。

イ 相違点に対する判断
(ア) 相違点1について
a 上記ア(ウ)で説示したように,甲2発明の「後端部傾斜形状8b1」は,「山形状カム部7b」と「係合」するものである。
ここで,「相補」とは,「互いの欠けた部分を補いあうこと」(広辞苑第六版)を意味し,異なる部品の面が「係合」するということは,互いに欠けた部分が存在し,それらが補いあう状態にあるものと解されるところ,甲2発明の「山形状カム部7b」と「係合」する「後端部傾斜形状8b1」は,「山形状カム部7b」と相補的な形状を有するということができる。
してみると,上記相違点1は,実際には相違点ではない。
b また,「係合」するからといって,「後端部傾斜形状8b1」は,「山形状カム部7b」と相補的な形状を有するとはいえないとしても,上記ア(ウ)及び同(キ)で説示したように,甲2発明は,「山形状カム部7b」が,「後端部傾斜形状8b1と」「係合した後」,「回転子8」が回転し,筆記可能状態となったり,逆に,筆記可能状態が解除されるものであるところ,「山形状カム部7b」と「後端部傾斜形状8b1」とは,回転子8を回転させることができるような形状である。
そして,本件特許明細書の段落【0023】?【0028】の記載を参酌すると,本件訂正発明1の「カム受け面」が,「カム面と相補的な形状」であることによって奏される作用・機能は,甲2発明の「後端部傾斜形状8b1」が,「山形状カム部7b」と係合することによって奏される作用・機能と同じである。
してみると,甲2発明の「後端部傾斜形状8b1」の形状を,本件訂正発明1と同じ作用・機能が奏される範囲で,適宜設計することは,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず,「後端部傾斜形状8b1」を,「山形状カム部7b」と相補的な形状とし,本件訂正発明1の相違点1に係る発明特定事項となすことは,当業者が適宜なし得る設計変更にすぎない。

(イ) 相違点2について
a 甲2発明の回転子8の挿入部の外径が,リフィールの保持手段8aの内部の中空の部分の内径よりも小さいという形状に照らせば,自動機によるノック式筆記具の組立に際して,回転子8の挿入部が,他の回転子8の保持手段8a側から内部に進入し得るという課題は,当業者であれば想起可能なものであるとはいうことができる。
そして,甲3,甲4及び甲6には,それぞれ,上記第5の3(2),同4(2)及び同6(2)で認定したとおりの技術的事項が記載されており,甲4及び甲6には,部材同士の連結を防止するために,複数のリブを形成することは記載されていないので,甲4又は甲6記載の技術的事項を適用しても,本件訂正発明1の上記相違点2に係る発明特定事項をなすことはできない。
ここで,甲3には,複数のリブによって尾栓同士が連結してしまうことを防止することが開示されているが,リフィール5と挿入部がほぼ同等の太さを備えていることが甲2の図4から把握できることを踏まえると,甲2発明に対して,甲3記載の技術的事項を適用し,保持手段8aからの挿入部の進入を阻止しようとすると,リフィール5そのものが保持手段8aに入らなくなってしまい,保持手段8aの機能が損なわれることなるから,甲2発明に対して,甲3記載の技術的事項を適用することには,阻害要因があるといえる。
b また,挿入部の進入を阻止するためであれば,単に,進入される部分の壁面の厚みを増すようにして内径を小さくすることで足りるが,本件訂正発明1は,射出成形で部品を成形する際に発生する「ヒケ」と呼ばれる成形不良の発生の抑制を考慮して,カム部の肉厚をできるだけ薄くすることをも課題として,挿入部の進入防止のために複数のリブを形成するという技術的手段を採用しているから,本件訂正発明1は,上記相違点2に係る発明特定事項により,ヒケの発生を防止するために回転子の厚みを薄くしつつ,複数のリブによって,他の回転子の挿入部の進入を阻止できるという顕著な効果が奏されるものといえる。
そうすると,たとえ,甲2発明に対して,甲3記載の技術的事項を適用できたとしても,ヒケの発生を抑制するという,当業者であっても予測できない顕著な効果が奏されるので,本件訂正発明1の上記相違点2に係る発明特定事項は,当業者が容易に想到できるものということはできない。

ウ 小括
以上のとおりであるから,本件訂正発明1は,甲2発明及び甲3,甲4,甲6記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 本件訂正発明3について
本件訂正発明3は,本件訂正発明1を引用し,本件訂正発明1をさらに限定するものである。
したがって,本件訂正発明1と同様の理由により,甲2発明及び甲3,甲4,甲6記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

2 取消理由2について
(1) 本件訂正後の請求項1は,「前記カム部の内部が中空であり,該カム部の内部の短手方向の断面形状が円であり,該円の直径が前記挿入部の外径よりも大きく,該カム部の内部に,前記挿入部の進入を阻止する形状として,径方向内側に突出する複数のリブが設けられている」ことを特定しているが,この「該カム部の内部の短手方向の断面形状が円」という記載における「円」とは,カム部の内部に複数のリブが設けられていない状態の断面形状を意味していることは明らかであるから,「該カム部の内部に,前記挿入部の進入を阻止する形状として,径方向内側に突出する複数のリブが設けられている」との記載は,「前記カム部の内部が中空であり,該カム部の内部の短手方向の断面形状が円であり,該円の直径が前記挿入部の外径よりも大きく」という記載と矛盾するものではない。
また,本件訂正後の請求項1の記載からは,「径方向内側に突出する複数のリブ」が,「前記挿入部の進入を阻止する形状」として機能することが明確である。

(2) 申立人は,申立人意見書において,カム部の内部が短手方向に沿った断面形状が,円であることについて,本件特許明細書には,段落【0035】において,カム部の内部にリブを形成することなく,単にカム部の内径を小さくすることによって,挿入部の進入を阻止するようなカム部の内部の短手方向に沿った断面形状を,「円」とすることができることが記載されているものの,リブが形成されたカム部の内部の短手方向に沿った断面形状を「円」と表現した記載は存在しないから,訂正後の請求項1の「カム部の内部の短手方向に沿った断面形状が円であり」とは,字義どおりに解釈すべきであり,そうすると,カム部の内部の断面形状が円であることと,径方向内側に突出する複数のリブが設けられていることとは矛盾するから,本件訂正発明1は不明確である旨主張する。
しかし,本件訂正後の請求項1の記載は,当該円の径が,挿入部の外径よりも大きいことを特定しているものであり,本件特許図面の図1ないし図3の記載に照らせば,リブ86が設けられていない状態におけるカム部82bの内部の短手方向に沿った断面形状が円であることは,本件特許明細書等に記載されているといえるから,申立人の主張を採用することはできない。

(3) 以上のとおりであるから,本件訂正発明1と,本件訂正発明1を引用する本件訂正発明3は明確である。

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人の主張の概要
申立人は,特許異議申立書において,取消理由通知で採用しなかった他の理由を申し立てており,本件訂正により,訂正前の請求項2を,請求項1に組み込むことで,実質的に訂正前の請求項2に係る発明が,本件訂正発明1となり,請求項2は削除されたことを踏まえると,概略,以下のとおり,まとめられる。
(1) 申立理由1(特許法第29条第1項第3号(甲2を引用文献とする新規性欠如))
本件訂正発明1及び3は,甲2発明であり,特許法第29条第1項第3号に該当するから,本件特許は,特許を受けることができない特許出願に対してされたものである。
(2) 申立理由2(特許法第29条第2項)
ア 申立理由2-1(甲1を主たる引用文献とする進歩性欠如)
本件訂正発明1は,甲1発明に対して,甲3の技術的事項を適用することで,当業者が容易になし得たものであるから,本件特許は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない特許出願に対してされたものである。
イ 申立理由2-2(甲10を主たる引用文献とする進歩性欠如)
本件訂正発明1は,甲10発明に対して,甲3の技術的事項を適用することで,当業者が容易になし得たものであるから,本件特許は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない特許出願に対してされたものである。
ウ 申立理由2-3(甲11を主たる引用文献とする進歩性欠如)
本件訂正発明1は,甲11発明に対して,甲3の技術的事項を適用することで,当業者が容易になし得たものであるから,本件特許は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない特許出願に対してされたものである。

なお,申立人が特許異議申立書で述べている,請求項1に対する,甲1,甲2,甲10又は甲11を引用文献とする新規性欠如は,既に理由がないことは明らかである。

2 当審における判断
(1) 申立理由1について
上記第7の1(1)アで検討したとおり,本件訂正発明1と甲2発明との間に上記相違点1及び2が存在する。
なお,申立人は特許異議申立書及び申立人意見書において,図4の記載を根拠に,甲2には,「第1リブ」及び「第2リブ」なる構成が開示されている旨を主張している。
しかし,甲2には,回転子8がリフィール5の保持手段8aを備えることは記載されているものの,そのような保持手段8aが,「複数のリブ」によって実現されていることまでは,明示的な記載はないし,図4にも特段の説明がない線が記載されているだけで,「複数のリブ」を表しているとまでいうことはできない。
仮に,保持手段8aに複数のリブが存在するとしても,挿入部の進入が,複数のリブによって阻止されていることは甲2に記載されていないので,やはり,「カム部の内部に,前記挿入部の進入を阻止する形状として,径方向内側に突出する複数のリブが設けられている」という上記相違点2に係る構成が,甲2に記載されているとはいえない。
以上のとおりであるから,本件訂正発明1と甲2発明との間には相違点3が存在するから,本件訂正発明1は甲2発明ではない。
また,本件訂正発明3は,本件訂正発明1を引用し,本件訂正発明1をさらに限定するものである。
したがって,本件訂正発明1と同様の理由により,本件訂正発明3は,甲2発明ではない。

(2) 申立理由2-1について
ア 対比
甲1発明は,上記第5の1(2)で認定したとおりのものであるから,本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると,少なくとも以下の点で相違する。

[相違点3]
本件訂正発明1においては,「カム部の内部に,前記挿入部の進入を阻止する形状として,径方向内側に突出する複数のリブが設けられている」のに対して,甲1発明においては,そのような複数のリブが設けられているとは特定されていない点。

イ 相違点3に対する判断
甲1発明においては,回転子30が,ノック24内に挿入される挿入部を備えるものの,回転子30内部の中空部の短手方向の幅は,回転子30の長手方向の大部分で前記挿入部の短手方向の幅よりも短く,そのうえ,ボールペンリフィル33側でわずかに幅が広い箇所があるものの,その箇所の回転子30の長手方向における長さは,挿入部に比して非常に短いものである。
そうすると,回転子30の挿入部が,他の回転子30の反対側から中空部に入り込んで,連結してしまうという課題は,甲1に接した当業者であっても想起することができないものである。
したがって,甲3記載の技術的事項を,甲1発明に適用しようとする動機付けが存在しないので,甲1発明に甲3記載の技術的事項を適用し,本件訂正発明1の上記相違点3に係る発明特定事項をなすことは,当業者であっても容易に想到できるものということはできない。

ウ 小括
以上のとおりであるから,本件訂正発明1と甲1発明との間には相違点3が存在し,当該相違点3に係る発明特定事項は,当業者であっても容易に想到できるものではない。
したがって,本件訂正発明1は,甲1発明及び甲3記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3) 申立理由2-2について
ア 対比
甲1発明は,上記第5の10(2)で認定したとおりのものであるから,本件訂正発明1と甲10発明とを対比すると,少なくとも以下の点で相違する。

[相違点4]
本件訂正発明1においては,「カム部の内部に,前記挿入部の進入を阻止する形状として,径方向内側に突出する複数のリブが設けられている」のに対して,甲10発明においては,そのような複数のリブが設けられているとは特定されていない点。

イ 相違点4に対する判断
甲10発明においては,回転子3-2にリフィール挿入孔20が形成されており,当該リフィール挿入孔20の内径が,前端側で後端側よりも広くなっていることは開示されているものの,その径が,回転子3-2の軸部3-20の外径よりも大きいか否かは明示的に特定されていないから,回転子3-2の軸部3-20が,他の回転子3-2のリフィール挿入孔20に入り込んで連結してしまうという課題は,甲10に接した当業者であっても想起することができないものである。
したがって,甲3記載の技術的事項を,甲10発明に適用しようとする動機付けが存在しないので,甲10発明に甲3記載の技術的事項を適用し,本件訂正発明1の上記相違点4に係る発明特定事項をなすことは,当業者であっても容易に想到できるものということはできない。

ウ 小括
以上のとおりであるから,本件訂正発明1と甲10発明との間には相違点4が存在し,当該相違点4に係る発明特定事項は,当業者であっても容易に想到できるものではない。
したがって,本件訂正発明1は,甲10発明及び甲3記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4) 申立理由2-3について
ア 対比
甲1発明は,上記第5の11(2)で認定したとおりのものであるから,本件訂正発明1と甲11発明とを対比すると,少なくとも以下の点で相違する。

[相違点5]
本件訂正発明1においては,「カム部の内部に,前記挿入部の進入を阻止する形状として,径方向内側に突出する複数のリブが設けられている」のに対して,甲11発明においては,そのような複数のリブが設けられているとは特定されていない点。

イ 相違点5に対する判断
甲11発明においては,回転カム部材に,弾発部材が接する段部3cが形成されているが,当該段部3cは回転カム部材3の筆端部2a側端部から浅い位置に形成されており,回転カム部材3が押棒カム4と係合する部分の長さを考慮すると,当該部分が,他の回転カム部材3の反対側から段部3cに入り込んで連結してしまうという課題は,甲11に接した当業者であっても想起することができないものである。
したがって,甲3記載の技術的事項を,甲11発明に適用しようとする動機付けが存在しないので,甲11発明に甲3記載の技術的事項を適用し,本件訂正発明1の上記相違点5に係る発明特定事項をなすことは,当業者であっても容易に想到できるものということはできない。

ウ 小括
以上のとおりであるから,本件訂正発明1と甲11発明との間には相違点5が存在し,当該相違点5に係る発明特定事項は,当業者であっても容易に想到できるものではない。
したがって,本件訂正発明1は,甲11発明及び甲3記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

第8 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立の理由によっては,請求項1及び3に係る特許を取り消すことができない。
また,他にこれら特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件訂正請求により,請求項2は削除されたため,請求項2に係る特許に対する特許異議の申立ての対象は存在しないこととなった。

よって,結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒の内周面に形成された外カムと、
前記軸筒から後方に突出し、カム面が形成されたノック棒と、
前記軸筒内に配設された回転子であって、前記ノック棒に挿入される挿入部と、前記ノック棒と係合するカム部とを有し、前記カム部には、前記カム面と相補的な形状のカム受け面と、内カムとが形成され、該内カムは、前記カム面が前記カム受け面を押圧することによって該回転子が周方向に回転すると、前記外カムと前後方向に係合し又は該係合が解除されるように構成される、回転子と
から成るノック機構を備えたノック式筆記具において、
前記カム部の内部が中空であり、該カム部の内部の短手方向の断面形状が円であり、該円の直径が前記挿入部の外径よりも大きく、該カム部の内部に、前記挿入部の進入を阻止する形状として、径方向内側に突出する複数のリブが設けられていることを特徴とする、ノック式筆記具。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記リブの周方向位置が前記内カムの周方向位置と異なっている、請求項1に記載のノック式筆記具。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-12-27 
出願番号 特願2014-163180(P2014-163180)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B43K)
P 1 651・ 121- YAA (B43K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉田 英一  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 塚本 丈二
清水 康司
登録日 2018-11-22 
登録番号 特許第6436679号(P6436679)
権利者 三菱鉛筆株式会社
発明の名称 ノック式筆記具  
代理人 利根 勇基  
代理人 青木 篤  
代理人 伊藤 健太郎  
代理人 伊藤 公一  
代理人 三橋 真二  
代理人 三橋 真二  
代理人 島田 哲郎  
代理人 伊藤 健太郎  
代理人 青木 篤  
代理人 利根 勇基  
代理人 島田 哲郎  
代理人 伊藤 公一  
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