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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J |
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管理番号 | 1359603 |
異議申立番号 | 異議2019-700966 |
総通号数 | 243 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-03-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-11-28 |
確定日 | 2020-02-14 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6523576号発明「発泡成形用マスターバッチ及び発泡成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6523576号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6523576号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、2018(平成30)年9月28日(優先権主張 平成29年10月13日)を国際出願日とする出願であって、令和1年5月10日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年6月5日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月28日に特許異議申立人 川本 秋枝(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ベースレジン、熱膨張性マイクロカプセルを含有する発泡成形用マスターバッチであって、 真比重が0.80g/cm^(3)以上、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が20?90であり、 前記ベースレジンは、EPDM樹脂を含有し、 前記ベースレジン100重量部に対して、前記熱膨張性マイクロカプセルを40?300重量部含有し、 前記EPDM樹脂は、エチレン含有量が50?72重量%である ことを特徴とする発泡成形用マスターバッチ。 【請求項2】 EPDM樹脂は、ジエン含有量が2.3?9.5重量%であることを特徴とする請求項1記載の発泡成形用マスターバッチ。 【請求項3】 熱膨張性マイクロカプセルは、重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包されており、 前記シェルは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及び塩化ビニリデンから選択される少なくとも1種からなる重合性モノマーを含有するモノマー混合物を重合させてなる重合体からなる ことを特徴とする請求項1又は2記載の発泡成形用マスターバッチ。 【請求項4】 熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度が180℃以下であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の発泡成形用マスターバッチ。 【請求項5】 請求項1、2、3又は4記載の発泡成形用マスターバッチを用いてなることを特徴とする発泡成形体。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和1年11月28日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1-1(甲1を主引用文献とし、甲2及び5を副引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献等に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由1-2(甲3を主引用文献とし、甲1を副引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献等に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 申立理由2(甲3に基づく新規性) 本件特許の請求項1、2及び5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献等に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 4 申立理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 5 証拠方法 甲第1号証:特開2010-275335号公報 甲第2号証:特開2015-107877号公報 甲第3号証:中国特許出願公開第104844944号明細書(なお、特許異議申立書においては、証拠方法として「中国特許第104844944号明細書」と表記しつつ、特許異議申立書に甲第3号証として「中国特許出願公開第104844944号明細書」を添付しているため、甲第3号証としての証拠が公開公報である「中国特許出願公開第104844944号明細書」なのか、公告公報である「中国特許第104844944号明細書」なのか明らかではないが、「中国特許第104844944号明細書」は「中国特許出願公開第104844944号明細書」の公告公報に相当し、職権で取り調べたところによれば特許異議申立人が訳文を提出して取調べを求めている箇所は両方にあること及び上述のとおり特許異議申立人は甲第3号証として公開公報を提出していることから、特許異議申立書における甲第3号証は、「中国特許出願公開第104844944号明細書」であるとして扱う。) 甲第4号証:日本大百科全書 3(ENCYCLOPEDIA NIPPONICA 2001 1995年7月10日 二版第二刷発行)、527頁 甲第5号証:ゴム配合データハンドブック 初版(昭和62年4月25日 初版第1刷発行)、366頁 甲第6号証:ゴム・エラストマー活用ノート 増補改訂(1999年8月15日 増補改訂版第1刷発行)、102?105頁 甲第7号証:プラスチックス 2016年9月号(日本プラスチック工業連盟誌 発行日 平成28年9月10日)、31頁 なお、甲号証の表記は、おおむね特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第4 当審の判断 1 甲1ないし7に記載された事項等 (1)甲1に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項 甲1には、「ゴム成形体およびゴム成形体の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。 ・「【請求項1】 エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体に対し、少なくともシリカを含んだ充填剤,熱膨張カプセルが配合された高分子材料組成物を押出し成形して成る基体と、その基体表面に被覆された被覆層と、を備えた成形体を加熱により架橋して得られ、 前記充填剤は、エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体100phrに対して150phr?300phr配合されたことを特徴とするゴム成形体。」 ・「【0029】 本実施の形態におけるゴム成形体およびその製造方法は、少なくともエチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体(以下、EPDMと称する),充填剤,熱膨張カプセルが配合された高分子材料組成物を押出し成形して成る基体と、その基体表面を被覆する被覆層と、を備えた成形体(架橋される前の成形体;以下、架橋前成形体と称する)を用いるものであって、その架橋前成形体を加熱により架橋して得られるゴム成形体に関するものである。 【0030】 前記の加熱架橋工程時の熱により熱膨張カプセルが熱膨張するが、被覆層により熱膨張カプセルの破裂が抑制され、開口凹部が形成され難くなる。前記の熱膨張によって熱膨張由来粗面が形成され、ゴム成形体表面には艶消し調等の意匠が付与される。 【0031】 本実施形態の基体に用いる高分子材料組成物,基体表面に被覆される被覆層組成物においては、例えば以下に示すようなEPDM,充填剤,熱膨張カプセルや被覆層組成物だけでなく、使用目的に応じて各種添加剤を適宜配合しても良い。 【0032】 <高分子材料> [EPDM(エチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体)] EPDMにおいては、α‐オレフィンとして、例えばプロピレン、1‐ブテン、1‐ペンテン、1‐ヘキセン、4‐メチル‐1‐ペンテン、1‐オクテン、1‐デセン等が挙げられ、好ましくはプロピレンとする。もちろん、前記のα‐オレフィン群のなかから複数のものを選択し、例えばプロピレンと1‐ブテンの如く組み合わせて使用しても良い。 【0033】 また、ポリエン共重合体が5‐エチリデン‐2‐ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5‐ビニル‐2‐ノルボルネン、ノルボルナジエン、メチルテトラヒドロインデン等の環状の非共役ポリエンであるものや、1,4ヘキサジエン、7‐メチル‐1,6‐オクタジエン、4‐エチリデン‐1,7ウンデカジエン、4,8‐ジメチル‐1,4,8‐デカトリエン等の鎖状の非共役ポリエンであるものが挙げられる。これら各非共役ポリエンは、単独、または2種類以上組み合わせたものでも良く、その構成単位(EPDMにおける非共役ポリエンの含有比率)は例えば1wt%?20wt%とし、好ましくは1wt%?15wt%、より好ましくは5wt%?11wt%である。このようなEPDMとしては、例えば住友化学社製のエスプレン7456を適用することができる。」 ・「【0041】 [熱膨張カプセル] 前記の熱膨張カプセルとしては、押出し成形後の架橋前成形体を加熱架橋する際の熱により膨張し得るものが適用される。例えば、前記の加熱架橋工程の熱により気体を発生し得る液体(例えば、低沸点の炭化水素,塩素化炭化水素)を熱可塑性樹脂の殻壁(例えば、球状の殻壁)内に充填したもの(熱膨張性の熱可塑性樹脂粒子)であって、真比重0.1以下,粒径(メディアン径)5μm?100μmとし、その液体が膨張開始温度以上の温度の熱により膨張し始め、目的とするゴム成形体内にて熱膨張セル(例えば30μm?300μmの熱膨張セル)を形成する液体封入熱可塑性樹脂粒子が挙げられる。 【0042】 前記の熱膨張カプセルの膨張開始温度や最大膨張温度は、高分子材料組成物の押出し成形工程,被覆層組成物の被覆・乾燥工程,加熱架橋工程の温度等に応じて選択される。すなわち、押出し成形工程や被覆・乾燥工程で発生する熱では熱膨張せず、加熱架橋工程での熱により熱膨張するものを適用することが好ましい。 【0043】 例えば加熱架橋温度が110℃?200℃に設定される場合、最大膨張温度は110℃?200℃が好ましく、より好ましくは130℃?190℃となる。なお、膨張開始温度や最大膨張温度が低過ぎると(例えば110℃未満の場合)、押出し成形された基体表面に被覆層を形成する前、例えば被覆層組成物の塗布工程や乾燥工程で発生する熱により熱膨張カプセルが意に反して膨張し、開口凹部が形成され得る可能性がある。また、最大膨張温度が高過ぎると(例えば200℃超の場合)、加熱架橋工程時の熱が加えられても熱膨張カプセルの膨張が不足し、ゴム成形体表面において目的とする熱膨張由来粗面が形成されない可能性がある。 【0044】 さらに、前記の熱膨張カプセルの最大膨張温度が加熱架橋温度よりも十分低い場合(例えば、加熱架橋温度のピーク温度が170℃程度の場合、120℃?150℃程度)には、該加熱架橋工程時に熱膨張セルによる構造が形成された後、架橋されたゴム成形体が得られることから、たとえ生産工程上において生じ得る加熱架橋温度のバラツキがあっても、該ゴム成形体の比重のバラツキが生じることは殆どない。換言すれば、安定した比重でスポンジゴムを生産することが可能となる。 【0045】 前記の熱膨張カプセルの殻壁を構成する熱可塑性樹脂の成分としては、好ましくは(メタ)アクリルニトリル重合体や、(メタ)アクリルニトリルを多く含有する重合体が挙げられ、それら重合体に対するモノマー(いわゆる相手側のモノマー;コモノマー)として、ハロゲン化ビニル,ハロゲン化ビニリデン,スチレン系モノマー,(メタ)アクリレート系モノマー,酢酸ビニル,ブタジエン,ビニルピリジン,クロロプレン等のモノマーが挙げられる。 【0046】 なお、前記の殻壁は、未架橋であることが好ましいが、例えば一般的なジビニルベンゼン,エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の架橋剤により架橋されたものであっても良い。また、膨張カプセル内に充填される液体としては、例えばn‐ペンタン,イソペンタン,ネオペンタン,ブタン,イソブタン,ヘキサン,石油エーテル等の炭化水素類や、塩化メチル,ジクロロエチレン,トリクロロエタン,トリクロルエチレン等の塩素化炭化水素類が挙げられる。 【0047】 熱膨張カプセルの更なる具体例としては、大日精化工業社製のダイフォームH750Dの他、同シリーズであるH770D,H850D,M430を好適に使用することができる。また、例えば、松本油脂社製のマツモトマイクロスフェアーF80S-D,F85-D,F100-D,F105-D,F82-Dや、スウェーデン国・エクスパンセル社製のEXPANCEL091DU-80,092DU-120等を適用することもできる。熱膨張カプセルの配合量は、例えば目的とするゴム成形体の比重を考慮して適宜設定することができる。 【0048】 このような熱膨張カプセルをエチレン‐α‐オレフィン・非共役ポリエン共重合体等の高分子材料に添加する場合、その熱膨張カプセルの飛散の防止や分散性の向上を図るために、あらかじめ他の使用材料(例えば、EPDM.充填材等の何れか、または複数のもの)と混合してから用いても良い。この具体例としては、予めオイルコンテント品,EVA,PE等に含有されたものが市販されている。 【0049】 熱膨張カプセルを予め他の使用材料と混合してから用いる場合には、例えば該熱膨張カプセルの混合比率を好ましくは10wt%?99wt%程度(好ましくは10wt%?50wt%)に調整することが挙げられる。また、前記のような熱膨張カプセルは何れか1種類を用いても良く、複数の種類のものを組み合わせて用いても良い。」 イ 甲1発明及び甲1成形体発明 甲1に記載された事項を、【0048】及び【0049】に関して整理すると、甲1には、次の発明(以下、順に「甲1発明」及び「甲1成形体発明」という。)が記載されていると認める。 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲1の記載を摘記しているが、甲1発明及び甲1成形体発明を具体的には認定していないので、当審が最も適切と考える発明を甲1発明及び甲1成形体発明として認定した。 <甲1発明> 「熱膨張カプセルの混合比率を10wt%?50wt%に調整した熱膨張カプセルをEPDMに混合したもの。」 <甲1成形体発明> 「甲1発明を用いてなる発泡成形体。」 (2)甲2に記載された事項 甲2には、「紙送りローラ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【0030】 ただし油展の低エチレンEPDMを使用してもよい。 かかる油展の低エチレンEPDMとしては、これに限定されないが例えば住友化学(株)製のエスプレン7456〔エチレン含量:53質量%、ジエン含量:10.5質量%、油展量:20phr〕等が挙げられる。」 (3)甲3に記載された事項等 ア 甲3に記載された事項 甲3には、「ベースレジンに分散された発泡ミクロスフェア、その製法及び応用」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、原文の摘記は省略し、訳文を摘記する。 ・「[0005] 従来技術のゴムを使用した発泡ミクロスフェアマスターバッチを製造する際における、発泡ミクロスフェアが発泡しやすい、または凝集しやすいという問題を解決するために、低温で混練でき、均一に分散できる発泡ミクロスフェアを含むマスターバッチを提供する。」 ・「[0007] ベースレジンと発泡マイクロスフェアフィラーを含む発泡マイクロスフィアマスターバッチである。ベースレジンは以下の原料、50?900部のゴム、20?100部のエチレン-酢酸ビニル共重合体EVMおよび/またはエチレン-酢酸ビニル共重合体EVA、10?100部のステアリン酸、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル10?100部、1?100部のオイルを含む。発泡性ミクロスフェアは、マスターバッチの総質量の10?90%の量で添加される。」 ・「[0008] 上記の発泡マイクロスフィアマスターバッチでは、ゴムはエチレン-プロピレン二元共重合体、エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン三元共重合体またはエチレン-プロピレン-ジシクロペンタジエン三元共重合体である。エチレン-プロピレン二元共重合体中のプロピレンの質量は、質量百分率で、エチレン-プロピレン二元共重合体の質量の30-40%を占める。エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン三元共重合体またはエチレン-プロピレン-ジシクロペンタジエン三元共重合体は、エチレン対プロピレンの質量比が60:40であり、エチリデンノルボルネンまたはジシクロペンタジエンの質量は、対応する共重合体の4.5重量%以下である。」 ・「[0041] 実施例5 [0042] 50gのエチレン-プロピレン二元共重合体、150gのエチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体、60gのエチレン-酢酸ビニル共重合体、20gのステアリン酸、100gのペンタエリスリトール脂肪酸エステル、20gのナフテンオイル、70gのパラフィンオイルと235gの発泡性ミクロスフェアを均一に混合し、混合物を密閉式ミキサーにより50℃で混練し、押出機から押し出して、粒状化されたマスターバッチS5を得た。 [0043] 本実施例では、エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体中のエチレンとプロピレンの質量比は60:40であり、エチリデンノルボルネンの質量含有量はエチレン-プロピレン-ジシクロペンタジエン共重合体の質量の3%であり、ムーニー粘度ML125℃(1+4)=45である;エチレン-プロピレン二元共重合体中のプロピレンの質量含有量は35%であり、ムーニー粘度ML125℃(1+4)=65であった;エチレン-酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニルの質量含有量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体の質量の31.5%であり、190°C/21.2Nでのメルトフローレートは7g/10分であった;ステアリン酸は、融点が58°Cのゴム工業用グレードである;ペンタエリスリトール脂肪酸エステルの酸価は2mgKOH/gであり、水酸基価は60mgKOH/g、であった;ナフテンオイルおよびパラフィンオイルの40℃における動粘度は585(mm^(2)/s単位)であり、引火点は270°Cであり、ビフェニル環化合物の含有量は0、芳香族含有量は2%未満であった。発泡性ミクロスフェアの比重は0.9g/cm^(3)であり、ミクロスフェアの粒子径は5?45μmであり、日本の松本油脂株式会社製の商品名Microsphere F-1-3KDであった。」 ・「[0062] 評価例 [0063] 上記の実施例および比較例によって調製されたマスターバッチ1.5gを発泡剤として550gのエチレンプロピレンゴムに添加した。175°Cで10分間静置して、発泡、加硫させ、加硫ゴムを得た。」 イ 甲3発明及び甲3成形体発明 甲3に記載された事項を、実施例5に関して整理すると、甲3には、次の発明(以下、順に「甲3発明」及び「甲3成形体発明」という。)が開示されていると認める。 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲3の記載を摘記しているが、甲3発明及び甲3成形体発明を具体的には認定していないので、当審が最も適切と考える発明を甲3発明及び甲3成形体発明として認定した。 <甲3発明> 「50gのエチレン-プロピレン二元共重合体、150gのエチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体、60gのエチレン-酢酸ビニル共重合体、20gのステアリン酸、100gのペンタエリスリトール脂肪酸エステル、20gのナフテンオイル、70gのパラフィンオイルと235gの発泡性ミクロスフェアを均一に混合し、混合物を密閉式ミキサーにより50℃で混練し、押出機から押し出して、得た粒状化されたマスターバッチS5。」 <甲3成形体発明> 甲3発明1.5gを発泡剤として550gのエチレンプロピレンゴムに添加し、175°Cで10分間静置して、発泡、加硫させて得た加硫ゴム。」 (4)甲4に記載された事項 甲4には、おおむね次の事項が記載されている(当審注:英字は半角のものも全角で表記している。)。 ・「エチレン・プロピレンゴム ethylene-propylene rubber エチレンとプロピレン(六対四?七対三)をチーグラー-ナッタ触媒で共重合した非晶性高分子。EPRと略称、EPMともいう。これは分子内に二重結合がないので、架橋は過酸化物によって行われる。通常の硫黄(当審注:「いおう」と振り仮名が振られている。)による加硫を可能にするため、エチレンとプロピレンのほかに、第三成分として1・4-ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンなどの非共役ジエンを五%以下加えた三成分共重合体が工業化され、EPDM(ethylene-propylene diene methylene linkage)、あるいはEPT(ethylene-propylene terpolymer)とよばれる。」(第527ページ第1段第5行ないし第2段第2行) (5)甲5に記載された事項 甲5には、おおむね次の事項が記載されている。 ・「 」 (6)甲6に記載された事項 甲6には、おおむね次の事項が記載されている。 ・「エチレン-プロピレンゴム (Ethylene-Propylene Rubber;EPM) ・・・(略)・・・ 」(第102及び第103ページ) ・「エチレン-プロピレン-ジエンゴム (Ethylene-Propylene-Diene Rubber;EPDM) ・・・(略)・・・ 」(第104及び第105ページ) (7)甲7に記載された事項 甲7には、おおむね次の事項が記載されている。 ・「 」(第31ページ) 2 申立理由1-1(甲1を主引用文献とし、甲2及び5を副引用文献とする進歩性)について (1)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明における「熱膨張カプセル」は本件特許発明1における「熱膨張性マイクロカプセル」に相当し、以下同様に、「EPDM」は「(EPDM樹脂を含有する)ベースレジン」に、「(熱膨張カプセルをEPDMに)混合したもの」は「発泡成形用マスターバッチ」に相当する。 甲1発明における「熱膨張カプセルの混合比率を10wt%?50wt%に調整した」ことは、EPDM100重量部に熱膨張性カプセル11?100重量部含有させることに換算されるから、本件特許発明1における「前記ベースレジン100重量部に対して、前記熱膨張性マイクロカプセルを40?300重量部含有し」と重複一致する。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ベースレジン、熱膨張性マイクロカプセルを含有する発泡成形用マスターバッチであって、 前記ベースレジンは、EPDM樹脂を含有し、 前記ベースレジン100重量部に対して、前記熱膨張性マイクロカプセルを40?300重量部含有する発泡成形用マスターバッチ。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1> 本件特許発明1においては、「真比重が0.80g/cm^(3)以上」であるのに対し、甲1発明においては、不明な点。 <相違点2> 本件特許発明1においては、「ムーニー粘度ML1+4(100℃)が20?90」であるのに対し、甲1発明においては、不明な点。 <相違点3> 本件特許発明1においては、「前記EPDM樹脂は、エチレン含有量が50?72重量%である」であるのに対し、甲1発明においては、不明な点。 イ 判断 事案に鑑み、相違点2から検討する。 甲1には、ムーニー粘度ML1+4(100℃)に関する記載はない。 また、甲5には、上記1(5)のとおり、EPDMにZnO、ステアリン酸、促進剤TS、促進剤M、S_(8)、FEFブラック及びプロセスオイルを配合したものにおいて、ムーニー粘度ML1+4(100℃)41?74のものの表面状態及び食込み性が良又は優であることが記載されている。 しかし、甲1発明と甲5に記載されたものは、その組成が全く異なるものであるから、甲1発明に甲5に記載された事項を適用する動機付けはない。 さらに、甲2には、エスプレン7456のエチレン含有量が53%であることは記載されているが、ムーニー粘度ML1+4(100℃)に関する記載はない。 したがって、甲1発明において、甲2及び5に記載された事項を適用して、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明1は、「強い剪断力が加えられる成形や、低い成形温度が求められる成形にも好適に使用可能であり、発泡倍率が高」いという格別顕著な効果を奏するものである。 よって、相違点1及び3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲2及び5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、特許異議申立人は、甲5には、「押出物の表面状態を良好なものとするためには、ムーニー粘度ML1+4(100℃)を41?74にすることが当業者としては技術常識であると記載されている。」と主張するが(特許異議申立書第21ページ)、甲5に記載された事項は、上記1(5)のとおりであり、甲5には上記記載はなく、押出物の表面状態を良好なものとするためには、ムーニー粘度ML1+4(100℃)を41?74にすることが当業者の技術常識であったとはいえない。 また、甲3、4、6及び7に記載された事項は、上記1(3)、(4)、(6)及び(7)のとおりであり、甲3、4、6及び7には、ムーニー粘度ML1+4(100℃)に関する記載はないから、甲1発明において、甲2及び5に記載された事項に加え、甲3、4、6及び7に記載された事項を考慮しても、本件特許発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件特許発明2ないし4について 本件特許発明2ないし4は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲2及び5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、本件特許発明2ないし4は、甲1発明及び甲2ないし7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明5について 本件特許発明5は請求項1を直接又は間接的に引用する「発泡成形体」の発明であり、甲1発明並びに甲2及び5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない本件特許発明1を用いてなる発明であるから、甲1成形体発明並びに甲2及び5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、本件特許発明5は、甲1成形体発明及び甲2ないし7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)まとめ したがって、申立理由1-1によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由1-2(甲3を主引用文献とし、甲1を副引用文献とする進歩性)及び申立理由2(甲3に基づく新規性)について 申立理由1-2及び申立理由2は、いずれも甲3発明又は甲3成形体発明を主引用発明とする理由であるから、まとめて検討する。 (1)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲3発明を対比する。 甲3発明における「発泡性ミクロスフェア」は本件特許発明1における「熱膨張性マイクロカプセル」に相当する。 甲3発明における「粒状化されたマスターバッチS5」は本件特許発明1における「発泡成形用マスターバッチ」に相当する。 甲3発明における「エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体」はEPDM樹脂であるから、甲3発明における「50gのエチレン-プロピレン二元共重合体、150gのエチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体、60gのエチレン-酢酸ビニル共重合体」は「(EPDM樹脂を含有する)ベースレジン」に相当する。 甲3発明における「50gのエチレン-プロピレン二元共重合体、150gのエチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体、60gのエチレン-酢酸ビニル共重合体」の重量は260gであり、同じく「発泡性ミクロスフェア」の重量は235gであるから、「50gのエチレン-プロピレン二元共重合体、150gのエチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体、60gのエチレン-酢酸ビニル共重合体」の重量を100重量部とした場合、「発泡性ミクロスフェア」は約90重量部(235/260×100=90.38・・・)となり、本件特許発明1における「前記ベースレジン100重量部に対して、前記熱膨張性マイクロカプセルを40?300重量部含有し」の条件を満足する。 甲3の[0043]によると、甲3発明における「エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体」のエチレン体プロピレンの質量比は60:40であり、エチリデンノルボルネンの質量は、対応する共重合体の3重量%であるから、「エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン共重合体」中のエチレン含量は58.2重量%((100-3)×60/(60+40)=58.2)と計算され、本件特許発明1における「前記EPDM樹脂は、エチレン含量が50?72重量%である」の条件を満足する。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ベースレジン、熱膨張性マイクロカプセルを含有する発泡成形用マスターバッチであって、 前記ベースレジンは、EPDM樹脂を含有し、 前記ベースレジン100重量部に対して、前記熱膨張性マイクロカプセルを40?300重量部含有し、 前記EPDM樹脂は、エチレン含量が50?72重量%である発泡成形用マスターバッチ。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点4> 本件特許発明1においては、「真比重が0.80g/cm^(3)以上」であるのに対し、甲3発明においては、不明な点。 <相違点5> 本件特許発明1においては、「ムーニー粘度ML1+4(100℃)が20?90」であるのに対し、甲3発明においては、不明な点。 イ 判断 事案に鑑み、相違点5から検討する。 甲3には、ムーニー粘度ML1+4(100℃)に関する記載はない。 また、甲3発明のような組成のマスターバッチのムーニー粘度ML1+4(100℃)が20?90であることは技術常識ではない。 したがって、甲3発明におけるムーニー粘度ML1+4(100℃)が20?90であることが確実であるとはいえないし、また、蓋然性が高いともいえない。 よって、相違点5は実質的な相違点である。 そして、甲1に記載された事項は、上記1(1)のとおりであり、甲1にも、ムーニー粘度ML1+4(100℃)に関する記載はない。 したがって、甲3発明において、甲1に記載された事項を適用して、相違点5に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明1は、「強い剪断力が加えられる成形や、低い成形温度が求められる成形にも好適に使用可能であり、発泡倍率が高」いという格別顕著な効果を奏するものである。 よって、相違点4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明であるとはいえないし、甲3発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 なお、特許異議申立人は、甲3に関して、「混練後の混練物を押し出していることから、混練物のムーニー粘度1+4(100℃)が41?74であるのは確実である。すなわち、混練物が粒状化されたマスターバッチS5のムーニー粘度1+4(100℃)が41?74であるのは確実であるといえる。」と主張するが(特許異議申立書第27ページ)、混練後の混練物を押し出しているからといって、混練物のムーニー粘度1+4(100℃)が41?74であることが確実であるとはいえない。 また、甲2、4、6及び7に記載された事項は、上記1(2)、(4)、(6)及び(7)のとおりであり、甲2、4、6及び7には、ムーニー粘度ML1+4(100℃)に関する記載はないし、甲5に記載された事項は、上記1(5)のとおりであり、甲3発明と甲5に記載されたものは、その組成が全く異なるものであって、甲3発明に甲5に記載された事項を適用する動機付けはないから、甲3発明において、甲1に記載された事項に加え、甲2及び4ないし7に記載された事項を考慮しても、本件特許発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件特許発明2について 本件特許発明2は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明であるとはいえないし、甲3発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 なお、本件特許発明2は、甲3発明並びに甲1、2及び4ないし7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明3及び4について 本件特許発明3及び4は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、本件特許発明3及び4は、甲3発明並びに甲1、2及び4ないし7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)本件特許発明5について 本件特許発明5は請求項1を直接又は間接的に引用する「発泡成形体」の発明であり、甲3発明であるとはいえない本件特許発明1を用いてなる発明であるから、甲3成形体発明であるとはいえない。 また、本件特許発明5は甲3発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない本件特許発明1を用いてなる発明であるから、甲3成形体発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、本件特許発明5は、甲3成形体発明並びに甲1、2及び4ないし7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (5)まとめ したがって、申立理由1-2及び申立理由2によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立理由3(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。 (3)発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、おおむね次の記載がある。 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、強い剪断力が加えられる成形や、低い成形温度が求められる成形にも好適に使用可能であり、発泡倍率が高く、かつ、外観品質が良好な発泡成形体を製造することが可能な発泡成形用マスターバッチに関する。また、該発泡成形用マスターバッチを用いた発泡成形体に関する。 【背景技術】 【0002】 プラスチック発泡体は、発泡体の素材と形成された気泡の状態に応じて遮熱性、断熱性、遮音性、吸音性、防振性、軽量化等を発現させることができることから、様々な用途で用いられている。このようなプラスチック発泡体を製造する方法としては、化学発泡剤を含有するマスターバッチを加熱することで発泡させ、成形する方法が挙げられる。しかし、化学発泡剤を含有するマスターバッチは、加熱しても発泡しないことがあり、射出発泡成形機内で発泡剤が急激に分解するおそれがある等の問題があり、取り扱いが難しかった。また、樹脂の種類によっては充分な発泡倍率を得ることができず、成形体として所望の硬度を得ることが困難な場合があった。 ・・・(略)・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は、強い剪断力が加えられる成形や、低い成形温度が求められる成形にも好適に使用可能であり、発泡倍率が高く、かつ、外観品質が良好な発泡成形体を製造することが可能な発泡成形用マスターバッチを提供することを目的とする。また、該発泡成形用マスターバッチを用いた発泡成形体を提供することを目的とする。」 ・「【0010】 本発明者らは鋭意検討した結果、ベースレジンとしてEPDM樹脂、発泡成分として熱膨張性マイクロカプセルを用い、熱膨張性マイクロカプセル及びベースレジンの含有量、ムーニー粘度を所定の範囲内とした場合、強い剪断力が加えられる成形や、低い成形温度が求められる成形にも好適に使用可能となることを見出した。また、発泡倍率が高く、かつ、外観品質が良好な発泡成形体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。 【0011】 本発明の発泡成形用マスターバッチは、ベースレジンを含有する。 本発明では、上記ベースレジンとして、EPDM樹脂(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)を用いる。これにより、外観品質が良好な発泡成形体を製造することができる。 【0012】 上記EPDM樹脂は、ムーニー粘度ML1+4(100℃)の好ましい下限が5、好ましい上限が70である。 上記ムーニー粘度を5以上とすることで、発泡成形用マスターバッチのハンドリング性を向上させることすることができ、70以下とすることで、発泡成形用マスターバッチの加工性を改善することができる。 上記ムーニー粘度のより好ましい下限は10、より好ましい上限は60である。 なお、ムーニー粘度とは、JIS K6300に規定された方法によって測定され、粘度を表す指標として用いられる。ML1+4において、MはムーニーのM、Lはローター形状のL、(1+4)は予熱時間の1分とローターの回転時間の4分を意味している。また、「(100℃)」は100℃で測定されたことを意味する。 【0013】 上記EPDM樹脂は、エチレン含有量(EPDM樹脂全体に対するエチレン成分の重量%)の好ましい下限が50重量%、好ましい上限が72重量%である。 エチレン含有量が上記範囲内であるEPDM樹脂を使用することで、成形性や熱膨張性マイクロカプセルの分散性を向上させることができる。上記エチレン含有量のより好ましい下限は55重量%、より好ましい上限は65重量%である。 なお、上記EPDM樹脂のプロピレン含有量(EPDM樹脂全体に対するプロピレン成分の重量%)は、20?50重量%であることが好ましい。」 ・「【0020】 本発明の発泡成形用マスターバッチは、熱膨張性マイクロカプセルを含有する。 本発明の発泡成形用マスターバッチにおける上記熱膨張性マイクロカプセルの含有量の下限は、ベースレジン100重量部に対して40重量部、上限は300重量部である。上記熱膨張性マイクロカプセルの含有量を40重量部以上とすることで、所望の発泡倍率を得ることができる。上記熱膨張性マイクロカプセルの含有量を300重量部以下とすることで、マスターバッチ作製時の発泡を防止して、結果として発泡成形品の発泡倍率を向上させることができる。上記熱膨張性マイクロカプセルの含有量の好ましい下限は65重量部、好ましい上限は150重量部である。」 ・「【0055】本発明の発泡成形用マスターバッチの真比重の下限は0.80g/cm^(3)である。上記真比重が0.80g/cm^(3)未満であると、マスターバッチ中にある熱膨張性マイクロカプセルが膨れていることを意味するので、成形後に得られる成形品の発泡倍率が低下する。上記真比重の好ましい下限は0.90g/cm^(3)、好ましい上限は1.0g/cm^(3)である。 上記真比重とは、空孔を除いた素材のみの比重をいい、20℃におけるマスターバッチの単位体積の質量と、それと等体積の4℃における水の質量との比を表す。上記真比重は、JIS K 7112 A法(水中置換法)に準拠した方法により測定することができる。」 ・「【0056】 本発明の発泡成形用マスターバッチのムーニー粘度ML1+4(100℃)は、下限が20、上限が90である。 上記ムーニー粘度を20以上とすることで、マスターバッチ同士の合着等を防止してハンドリング性を向上させることができ、90以下とすることで、マトリックス樹脂との混練性を向上させることができる。好ましい下限は40、好ましい上限は85である。」 ・「【発明を実施するための形態】 【0065】 以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。 【0066】 (熱膨張性マイクロカプセルの作製) 重合反応容器に、水300重量部と、調整剤として塩化ナトリウム89重量部、水溶性重合禁止剤として亜硝酸ナトリウム0.07重量部、分散安定剤としてコロイダルシリカ(旭電化社製)8重量部及びポリビニルピロリドン(BASF社製)0.3重量部を投入し、水性分散媒体を調製した。次いで、表1に示す重合性モノマー、揮発性膨張剤、重合開始剤からなる油性混合液を水性分散媒体に添加、混合することにより、分散液を調製した。全分散液は15kgである。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器(20L)内へ仕込み、加圧(0.2MPa)し、60℃で20時間反応させることにより、反応生成物を調製した。得られた反応生成物について、遠心分離機にて脱水と水洗を繰り返した後、乾燥して熱膨張性マイクロカプセル(No.1?3)を得た。 【0067】 (実施例1?9、比較例1?3) (マスターバッチペレットの作製) 表2に示すベースレジン、熱膨張性マイクロカプセル、プロセスオイル(出光興産社製、ダイアナプロセスオイルPW-90、パラフィン系プロセスオイル)と、滑剤としてステアリン酸5重量部とを加圧ニーダーにて70℃で5分間混練した。その後、混練物をロール機にてロール温度60℃、ロール速度20rpm、ロール間距離1cmにて5分間混合し、厚さ1cmのシート状マスターバッチを得た。 また、EPDMとしては以下のものを用いた。 EPDM(1):ムーニー粘度[ML1+4(100℃)]8、エチレン含有量54重量%、ジエン成分:ENB、ジエン含有量7.6重量%、プロピレン含有量38.4重量% EPDM(2):ムーニー粘度[ML1+4(100℃)]24、エチレン含有量51重量%、ジエン成分:ENB、ジエン含有量8.1重量%、プロピレン含有量40.9重量% EPDM(3):ムーニー粘度[ML1+4(100℃)]40、エチレン含有量56重量%、ジエン成分:ENB、ジエン含有量4.7重量%、プロピレン含有量39.3重量% EPDM(4):ムーニー粘度[ML1+4(100℃)]44、エチレン含有量50重量%、ジエン成分:DCPD、ジエン含有量5.0重量%、プロピレン含有量45.0重量% 【0068】 (比較例4) (マスターバッチペレットの作製) 表2に示すベースレジン100重量部と、滑剤として脂肪酸エステル10重量部とをバンバリーミキサーで混練し、約100℃になったところで、得られた熱膨張性マイクロカプセルを表2に示す配合量で添加し、更に30秒間混練して押し出すと同時にペレット化し、マスターバッチペレットを得た。なお、表2中のLDPEは低密度ポリエチレンを表す。 【0069】 (比較例5) 表2に示すベースレジン、熱膨張性マイクロカプセル、プロセスオイル(出光興産社製、ダイアナプロセスオイルPW-90、パラフィン系プロセスオイル)と、滑剤としてステアリン酸5重量部とを加圧ニーダーにて120℃で5分間混練した。その後、混練物をロール機にてロール温度80℃、ロール速度20rpm、ロール間距離1cmにて5分間混合し、厚さ1cmのシート状マスターバッチを得た。 また、EPDMとしては以下のものを用いた。 EPDM(1):ムーニー粘度[ML1+4(100℃)]8、エチレン含有量54重量%、ジエン成分:ENB、ジエン含有量7.6重量%、プロピレン含有量38.4重量% 【0070】 (発泡成形体の製造) EPDM樹脂(エチレン含有量63重量%、ジエン含有量4.4重量%)100重量部、その他添加剤(酸化亜鉛、ステアリン酸、カーボンブラック、重質炭酸カルシウム、パラフィンオイル)335重量部、硫黄1重量部及び加硫促進剤4重量部を混合したEPDM組成物を予め調製した。得られたマスターバッチペレットと、予め調整したEPDM組成物100重量部とを混合し、得られた混合ペレットを押出成形機のホッパーに供給して溶融混練し、押出成形を行い、板状の成形体を得た。なお、押出条件は、金型温度:80℃とした。押出成型により得られた板状の成型体を熱風オーブン(エスペック社製)にて200℃にて5分間加熱し発泡成形体を得た。 【0071】 (評価) 熱膨張性マイクロカプセル(No.1?3)、及び、実施例1?9及び比較例1?5で得られた成形体について、下記性能を評価した。結果を表1及び表2に示した。なお、比較例2については、マスターバッチ化ができなかったため、以降の評価は行わなかった。 【0072】 (1)熱膨張性マイクロカプセルの評価 (1-1)体積平均粒子径 粒度分布径測定器(LA-910、HORIBA社製)を用い、体積平均粒子径を測定した。 【0073】 (1-2)発泡開始温度、最大発泡温度、最大変位量 熱機械分析装置(TMA)(TMA2940、TA instruments社製)を用い、発泡開始温度(Ts)、最大変位量(Dmax)及び最大発泡温度(Tmax)を測定した。具体的には、試料25μgを直径7mm、深さ1mmのアルミ製容器に入れ、上から0.1Nの力を加えた状態で、5℃/minの昇温速度で80℃から220℃まで加熱し、測定端子の垂直方向における変位を測定し、変位が上がり始める温度を発泡開始温度、その変位の最大値を最大変位量とし、最大変位量における温度を最大発泡温度とした。 【0074】 【表1】 【0075】 (2)マスターバッチの評価 (2-1)真比重の測定 比重計MD-200S(ミラージュ社製)を用いてマスターバッチペレットの真比重をJIS K 7112 A法(水中置換法)に準拠した方法により計測した。 【0076】 (2-2)ムーニー粘度の測定 得られたマスターバッチペレットについて、100℃におけるムーニー粘度をJIS K 6300に準拠した方法で測定した。 【0077】 (3)成形体の評価 (3-1)密度、発泡倍率 発泡前の密度、及び、得られた成形体(発泡後)の密度をJIS K 7112 A法(水中置換法)に準拠した方法により測定した。 また、発泡前後の成形体の密度から発泡倍率を算出した。 【0078】 (3-2)表面性 3D形状測定機(キーエンス社製)により、成型体表面の表面粗さ(Rz)を計測した。判断基準として、その計測値であるRz値が50μm未満を○、50μm≦Rz値≦100μmを△、100μm超を×とした。 【0079】 (3-3)分散性 得られた成形体の断面を電子顕微鏡で目視観察し、下記の判断基準で熱膨張性マイクロカプセルの分散性を評価した。 ○:均一に気泡が分散している。 ×:気泡の分布が均一でない。 【0080】 【表2】 」 (4)判断 発明の詳細な説明の【0001】ないし【0008】によると、本件特許発明1ないし4の解決しようとする課題は、「強い剪断力が加えられる成形や、低い成形温度が求められる成形にも好適に使用可能であり、発泡倍率が高く、かつ、外観品質が良好な発泡成形体を製造することが可能な発泡成形用マスターバッチを提供すること」であり、本件特許発明5の解決しようとする課題は、「該発泡成形用マスターバッチを用いた発泡成形体を提供すること」である(以下、順に「発明の課題1」及び「発明の課題2」という。)。 そして、本件特許発明1の発明特定事項である「真比重が0.8g/cm^(3)以上」、「ムーニー粘度ML1+4(100℃)が20?90であり」、「前記ベースレジンは、EPDM樹脂を含有し」、「前記ベースレジン100重量部に対して、前記熱膨張性マイクロカプセルを40?300重量部含有し」及び「前記EPDM樹脂は、エチレン含有量が50?72重量%である」の技術的意義について、それぞれ、発明の詳細な説明の【0055】、【0056】、【0011】、【0020】及び【0013】に詳細に記載されている。 また、発明の詳細な説明の【0065】ないし【0080】には、具体的な実施例が記載され、当該実施例について、成形体の評価(密度(g/cm^(3))、発泡倍率、表面性及び分散性)が記載され、比較例と対比して、成形体の評価が優れていることも記載されている。 したがって、発明の詳細な説明の上記記載に接した当業者は、本件特許発明1は、発明の課題1を解決できると認識できる範囲のものであると理解するし、請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明5は、発明の課題2を解決できると認識できる範囲のものであると理解する。 よって、本件特許発明1及び5は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきであり、本件特許発明1及び5に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。 また、請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし4も同様であり、本件特許発明2ないし4に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。 (5)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、「本件特許発明1には、熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度の規定はないため、発泡開始温度が100℃未満の熱膨張性マイクロカプセルを含むものである。 また、発泡開始温度が100℃未満の熱膨張性マイクロカプセルを含むマスターバッチは、ムーニー粘度ML1+4(100℃)を測定する際に、予備加熱時に発泡する。発泡した熱膨張性マイクロカプセルは、そのシェルが薄くなり、機械的強度が低下することは技術常識である。そのため、発泡開始温度が100℃未満の熱膨張性マイクロカプセルを含む本件特許発明1は、本発明は、強い剪断力が加えられる成形や、低い成形温度が求められる成形にも好適に使用可能であることができない。 よって、本件特許発明1?5には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するために必要な事項が発明特定事項として十分に反映されていないため、発明の課題を解決できるものではない。」(特許異議申立書第32及び33ページ)と主張する。 そこで、上記主張について検討する。 確かに、本件特許発明1には、熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度の規定はないが、本件特許発明1は「発泡成形用マスターバッチ」に係る発明であるから、本件特許発明1において、ムーニー粘度ML1+4(100℃)を測定する際の予備加熱時や発泡工程に至るまでの途中の工程で発泡が開始されるような熱膨張性マイクロカプセルが除外されていることは、当業者に明らかである。 したがって、本件特許発明1及び請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし5は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するために必要な事項が発明特定事項として十分に反映されていないとはいえず、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (6)まとめ したがって、申立理由3によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび したがって、特許異議申立書に記載した申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-02-04 |
出願番号 | 特願2018-553500(P2018-553500) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C08J)
P 1 651・ 113- Y (C08J) P 1 651・ 121- Y (C08J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 藤田 雅也 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
加藤 友也 植前 充司 |
登録日 | 2019-05-10 |
登録番号 | 特許第6523576号(P6523576) |
権利者 | 積水化学工業株式会社 |
発明の名称 | 発泡成形用マスターバッチ及び発泡成形体 |
代理人 | 特許業務法人 安富国際特許事務所 |