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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1359608
異議申立番号 異議2019-700867  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-06 
確定日 2020-02-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6508247号発明「光学フィルターならびに該光学フィルターを用いた固体撮像装置およびカメラモジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6508247号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特許第6508247号の請求項1?請求項7に係る特許(以下「本件特許」という。)についての特許出願は,2012年(平成24年)10月12日(先の出願に基づく優先権主張 平成23年10月14日及び平成24年9月27日)を国際出願日とする特願2013-538577号の一部を平成29年4月14日に新たな特許出願(特願2017-80522号)としたものであって,平成31年4月12日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について,令和元年5月8日に特許掲載公報が発行されたところ,発行の日から6月以内である令和元年11月6日に特許異議申立人 石井 良夫(以下「特許異議申立人」という。)から,全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。

2 本件特許発明
本件特許の請求項1?請求項7に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」から「本件特許発明7」という。)は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1?請求項7に記載された事項によって特定されるとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
620nm以上760nm以下の波長領域に吸収極大を有するスクアリリウム系化合物(A)と,690nm以上780nm以下の波長領域に吸収極大を有し,かつ,該スクアリリウム系化合物(A)の蛍光を吸収する化合物(B)とを含有する光学フィルターであって,
前記化合物(B)が,フタロシアニン系化合物(B-1)およびシアニン系化合物(B-2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であること,ならびに,
波長560?800nmの範囲において,該光学フィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Xa)と,該光学フィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Xb)との差の絶対値が,20nm未満であること
を特徴とする光学フィルター。
【請求項2】
前記スクアリリウム系化合物(A)が,下記式(I)または(II)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルター。
【化1】

[式(I)中,R^(a),R^(b)およびYは,下記(i)または(ii)の条件を満たす。
(i)複数あるR^(a)は,独立に水素原子,ハロゲン原子,スルホ基,水酸基,シアノ基,ニトロ基,カルボキシ基,リン酸基,-L^(1)または-NR^(e)R^(f)基(R^(e)およびR^(f)は,それぞれ独立に水素原子,-L^(a),-L^(b),-L^(c),-L^(d)または-L^(e)を表す。)を表し,
複数あるR^(b)は,独立に水素原子,ハロゲン原子,スルホ基,水酸基,シアノ基,ニトロ基,カルボキシ基,リン酸基,-L^(1)または-NR^(g)R^(h)基(R^(g)およびR^(h)は,それぞれ独立に水素原子,-L^(a),-L^(b),-L^(c),-L^(d),-L^(e)または-C(O)R^(i)基(R^(i)は,-L^(a),-L^(b),-L^(c),-L^(d)または-L^(e)を表す。)を表す。)を表し,
複数あるYは,独立に-NR^(j)R^(k)基(R^(j)およびR^(k)は,それぞれ独立に水素原子,-L^(a),-L^(b),-L^(c),-L^(d)または-L^(e)を表す。)を表し,
L^(1)は,
(L^(a))置換基Lを有してもよい炭素数1?9の脂肪族炭化水素基,
(L^(b))置換基Lを有してもよい炭素数1?9のハロゲン置換アルキル基,
(L^(c))置換基Lを有してもよい炭素数3?14の脂環式炭化水素基,
(L^(d))置換基Lを有してもよい炭素数6?14の芳香族炭化水素基,
(L^(e))置換基Lを有してもよい炭素数3?14の複素環基,
(L^(f))置換基Lを有してもよい炭素数1?9のアルコキシ基,
(L^(g))置換基Lを有してもよい炭素数1?9のアシル基,または
(L^(h))置換基Lを有してもよい炭素数1?9のアルコキシカルボニル基
を表し,置換基Lは,炭素数1?9の脂肪族炭化水素基,炭素数1?9のハロゲン置換アルキル基,炭素数3?14の脂環式炭化水素基,炭素数6?14の芳香族炭化水素基および炭素数3?14の複素環基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり,前記L^(a)?L^(h)は,さらにハロゲン原子,スルホ基,水酸基,シアノ基,ニトロ基,カルボキシ基,リン酸基およびアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子もしくは基を有していてもよい。
(ii)1つのベンゼン環上の2つのR^(a)のうちの少なくとも1つが,同じベンゼン環上のYと相互に結合して,窒素原子を少なくとも1つ含む構成原子数5または6の複素環を形成し,該複素環は置換基を有していてもよく,
R^(b)および前記複素環の形成に関与しないR^(a)は,それぞれ独立に前記条件(i)のR^(b)およびR^(a)と同義である。]
【化2】

[式(II)中,Xは,O,S,Se,N-R^(c)またはC-R^(d)R^(d)を表し,
複数あるR^(c)は,独立に水素原子,-L^(a),-L^(b),-L^(c),-L^(d)または-L^(e)を表し,
複数あるR^(d)は,独立に水素原子,ハロゲン原子,スルホ基,水酸基,シアノ基,ニトロ基,カルボキシ基,リン酸基,-L^(1)または-NR^(e)R^(f)基を表し,隣り合うR^(d)同士は連結して置換基を有していてもよい環を形成してもよく,
L^(a)?L^(e),L^(1),R^(e)およびR^(f)は,前記式(I)において定義したL^(a)?L^(e),L^(1),R^(e)およびR^(f)と同義である。]
【請求項3】
アゾメチン系化合物,インドール系化合物,ベンゾトリアゾール系化合物およびトリアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の近紫外線吸収剤をさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルター。
【請求項4】
さらに近赤外線反射膜を有することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の光学フィルター。
【請求項5】
固体撮像装置用であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の光学フィルター。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載の光学フィルターを具備することを特徴とする固体撮像装置。
【請求項7】
請求項1?5のいずれか1項に記載の光学フィルターを具備することを特徴とするカメラモジュール。」

3 特許異議申立の概要
特許異議申立人は,証拠として甲1?甲14を提出するとともに,本件特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,同法113条1項2号に該当し,取り消されるべきものである,と主張する。
ここで,甲1?甲14は,以下のものである。なお,主引用例は甲1である。
甲1:特開2008-250022号公報
甲2:特開2003-35818号公報
甲3:特開2005-156935号公報
甲4:特開2010-32867号公報
甲5:特開2006-106570号公報
甲6:特開2011-133532号公報
甲7:特開2011-144280号公報
甲8:特開平1-228960号公報
甲9:中澄博行 他1,「様々な分野で応用可能な広範囲波長領域の光を吸収するスクアリリウム系機能性色素」,有機合成化学協会誌,Vol.66 No.5 2008,2008年5月1日発行,477?487頁
甲10:特開2007-334325号公報
甲11:特開2010-15155号公報
甲12:特開2011-164286号公報
甲13:特開2011-100084号公報
甲14:特開2007-271745号公報

第2 当合議体の判断
1 甲1号証等の記載及び甲1発明
(1) 甲1の記載
先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【請求項1】
下記一般式(I)で表されるシアニン化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする光学フィルター。
【化1】

(式中,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(5)及びR^(6)は,それぞれ独立に,炭素原子数1?10のアルキル基,炭素原子数6?30のアリール基,炭素原子数7?30のアリールアルキル基又は下記一般式(II)で表される置換基を表し,R^(3)とR^(4),及びR^(5)とR^(6)は,互いに結合して環構造を形成していてもよく,R^(21),R^(22)及びR^(23)は,それぞれ独立に,水素原子,水酸基,ハロゲン原子,シアノ基,ジフェニルアミノ基,炭素原子数1?10のアルキル基,炭素原子数6?30のアリール基又は炭素原子数7?30のアリールアルキル基を表し,該アルキル基又はアリールアルキル基のアルキレン部分は,-O-,-S-,-CO-,-COO-,-OCO-,-CH=CH-,-NHCO-又は-CONH-で置換されていてもよく,R^(21),R^(22)及びR^(23)のうち,隣接する置換基は互いに結合して環構造を形成していてもよい。nは,0,2又は3であり,An^(q-)はq価のアニオンを表し,qは1又は2であり,pは電荷を中性に保つ係数を表す。)
【化2】

(式中,R^(a)?R^(i)は,各々独立に,水素原子又は炭素原子数1?4のアルキル基を表し,該アルキル基中のメチレン基は,-O-又は-CO-で置換されていてもよく,Z^(1)は,直接結合又は炭素原子数1?8のアルキレン基を表し,該アルキレン基中のメチレン基は,-O-,-S-,-CO-,-COO-,-OCO-,-SO_(2)-,-NH-,-CONH-,-NHCO-,-N=CH-又は-CH=CH-で置換されていてもよく,Mは,Fe,Co,Ni,Ti,Cu,Zn,Zr,Cr,Mo,Os,Mn,Ru,Sn,Pd,Rh,Pt又はIrを表す。)
【請求項2】
上記一般式(I)で表されるシアニン化合物が下記一般式(III)で表されるシアニン化合物である請求項1記載の光学フィルター。
【化3】

(式中,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6),R^(23),An^(q-),q及びpは,上記一般式(I)と同じである。)
【請求項3】
上記一般式(I)で表されるシアニン化合物が下記一般式(IV)で表されるシアニン化合物である請求項1記載の光学フィルター。
【化4】

(式中,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6),R^(21),R^(22),R^(23),An^(q-),q及びpは,上記一般式(I)と同じであり,R^(21),R^(22)及びR^(23)は,互いに異なっていてもよく,隣接する置換基が連結して環構造を形成していてもよい。)
【請求項4】
上記一般式(I)で表されるシアニン化合物が下記一般式(V)で表されるシアニン化合物である請求項1記載の光学フィルター。
【化5】

(式中,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6),R^(21),R^(22),R^(23),An^(q-),q及びpは,上記一般式(I)と同じであり,R^(21),R^(22)及びR^(23)は,互いに異なっていてもよく,隣接する置換基が連結して環構造を形成していてもよい。)
【請求項5】
上記一般式(I)及び(III)?(V)で表されるシアニン化合物の少なくとも一種に,さらに極大吸収を550?620nmの範囲に有する化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする光学フィルター。
【請求項6】
上記の極大吸収を550?620nmの範囲に有する化合物が,下記一般式(VI)で表されるシアニン化合物であることを特徴とする請求項5記載の光学フィルター。
【化6】

(式中,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6),R^(21),R^(22),R^(23),An^(q-),q及びpは,上記一般式(I)と同じである。)
【請求項7】
上記の極大吸収を550?620nmの範囲に有する化合物が,下記一般式(VII)で表されるシアニン化合物であることを特徴とする請求項5記載の光学フィルター。
【化7】

(式中,R^(30)及びR^(31)は,それぞれ独立に,水素原子,水酸基,ハロゲン原子,シアノ基,ニトロ基,炭素原子数1?10のアルキル基,炭素原子数6?30のアリール基,炭素原子数7?30のアリールアルキル基又は上記一般式(II)で表される置換基を表し,R^(32),R^(33)及びR^(36)は,それぞれ独立に,水素原子,炭素原子数1?10のアルキル基,炭素原子数6?30のアリール基,炭素原子数7?30のアリールアルキル基又は上記一般式(II)で表される置換基を表し,R^(34)及びR^(35)は,それぞれ独立に,水素原子,炭素原子数1?10のアルキル基,炭素原子数6?30のアリール基,炭素原子数7?30のアリールアルキル基又は上記一般式(II)で表される置換基を表し,R^(34)とR^(35)は,互いに結合して環構造を形成していてもよい。該アルキル基又はアリールアルキル基のアルキレン部分は,-O-,-S-,-CO-,-COO-,-OCO-,-CH=CH-,-NHCO-又は-CONH-で置換されていてもよい。s及びtは,それぞれ独立に,1?4の数であり,An^(q-),q及びpは,上記一般式(I)と同じである。)
【請求項8】
上記の極大吸収を550?620nmの範囲に有する化合物が,下記一般式(VIII)で表されるシアニン化合物であることを特徴とする請求項5記載の光学フィルター。
【化8】


(式中,R^(37)は,水素原子,水酸基,ハロゲン原子,シアノ基,ニトロ基,炭素原子数1?10のアルキル基,炭素原子数6?30のアリール基,炭素原子数7?30のアリールアルキル基又は上記一般式(II)で表される置換基を表し,R^(38)及びR^(39)は,それぞれ独立に,水素原子,炭素原子数1?10のアルキル基,炭素原子数6?30のアリール基,炭素原子数7?30のアリールアルキル基,ハロゲン原子,ニトロ基,シアノ基又は上記一般式(II)で表される置換基を表し,該アルキル基又はアリールアルキル基のアルキレン部分は,-O-,-S-,-CO-,-COO-,-OCO-,-CH=CH-,-NHCO-又は-CONH-で置換されていてもよい。dは,1?4の数であり,An^(q-),q及びpは,上記一般式(I)と同じである。)
【請求項9】
上記シアニン化合物を,単位面積当たり0.1?1000mg/m^(2)含有する請求項1?8のいずれかに記載の光学フィルター。
【請求項10】
画像表示装置用である請求項1?9のいずれかに記載の光学フィルター。
【請求項11】
上記画像表示装置がプラズマディスプレイである請求項10記載の光学フィルター。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,特定の分子構造を有するシアニン化合物を含有する光学フィルターに関する。該シアニン化合物は,特に画像表示装置用の光学フィルターに含有させる光吸収剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
波長450nm?1100nmの範囲に強度の大きい吸収を有する化合物,特に極大吸収(λmax)が550?620nmにある化合物は,DVD±R等の光学記録媒体の光学記録層や,液晶表示装置(LCD),プラズマディスプレイパネル(PDP),エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD),陰極管表示装置(CRT),蛍光表示管,電界放射型ディスプレイ等の画像表示装置用の光学フィルターにおいて,光学要素として用いられている。
【0003】
例えば,画像表示装置における光学要素の用途としては,カラーフィルターの光吸収剤がある。画像表示装置は,赤,青,緑の三原色の光の組合せでカラー画像を表示しているが,カラー画像を表示する光には,緑と赤の間の550?620nm等の表示品質の低下をきたす光が含まれており,また,750?1100nmの赤外リモコンの誤作動の原因となる光も含まれている。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って,本発明の目的は,200?450nm,450?750nm及び750?1100nmのそれぞれの波長領域において急峻な光吸収を有し,画像表示装置用として特に好適な光学フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は,種々検討を重ねた結果,特定の分子構造を持つシアニン化合物が,特定の波長領域において急峻な光吸収を有し,画像表示装置の画像特性を著しく改善しうることを知見した。また,該シアニン化合物は,有機溶媒への溶解性及び耐久性が高く,且つεが高いので,光学フィルターに添加する際の使用量が少なくて済むのでコスト削減が可能になる。
【0009】
本発明は,上記知見に基づいてなされたもので,下記一般式(I)で表されるシアニン化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする光学フィルターを提供することで,上記目的を達成したものである。
【0010】
【化1】

…(省略)…
【発明の効果】
【0013】
本発明の光学フィルターに含有されている上記一般式(I)で表されるシアニン化合物は,高いεを有し,300?1100nmの特定の波長領域に急峻な光吸収を示す。また,上記一般式(VI)及び(VII)で表されるシアニン化合物の蛍光を消光するのに有効である。従って,上記シアニン化合物を含有する本発明の光学フィルターは,画像表示用途,特にプラズマディスプレイ用途に好適な光学フィルターである。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下,本発明の光学フィルターを,その好ましい実施形態について詳細に説明する。
…(省略)…
【0032】
本発明の光学フィルターにおいて,上記一般式(I)で表されるシアニン化合物の少なくとも一種に,さらに極大吸収を550?620nmの範囲に有する化合物を少なくとも一種用いて,波長450?750nmの波長を選択的に吸収することができる。
上記極大吸収を550?620nmの範囲に有する化合物としては,特に制限されず,トリメチンシアニン誘導体,スクアリリウム色素誘導体,アゾメチン色素誘導体,キサンテン色素誘導体,アゾ色素誘導体,オキソノール色素誘導体,ベンジリデン色素誘導体,ピロメテン色素誘導体,アゾ金属錯体誘導体,ローダミン色素誘導体,フタロシアニン誘導体,ポルフィリン誘導体,ジピロメテン金属キレート化合物等を用いることができるが,中でも,下記一般式(VI)?(VIII)で表されるシアニン化合物が好ましい。
【0033】
【化15】

(式中,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6),R^(21),R^(22),R^(23),An^(q-),q及びpは,上記一般式(I)と同じである。)
【0034】
【化16】

(式中,R^(30)及びR^(31)は,それぞれ独立に,水素原子,水酸基,ハロゲン原子,ニトロ基,シアノ基,炭素原子数1?10のアルキル基,炭素原子数6?30のアリール基,炭素原子数7?30のアリールアルキル基又は上記一般式(II)で表される置換基を表し,R^(32),R^(33)及びR^(36)は,それぞれ独立に,水素原子,炭素原子数1?10のアルキル基,炭素原子数6?30のアリール基,炭素原子数7?30のアリールアルキル基又は上記一般式(II)で表される置換基を表し,R^(34)及びR^(35)は,それぞれ独立に,水素原子,炭素原子数1?10のアルキル基,炭素原子数6?30のアリール基,炭素原子数7?30のアリールアルキル基又は上記一般式(II)で表される置換基を表し,R^(34)とR^(35)は,互いに結合して環構造を形成していてもよい。該アルキル基又はアリールアルキル基のアルキレン部分は,-O-,-S-,-CO-,-COO-,-OCO-,-CH=CH-,-NHCO-又は-CONH-で置換されていてもよい。s及びtは,それぞれ独立に,1?4の数であり,An^(q-),q及びpは,上記一般式(I)と同じである。)
【0035】
【化17】

…(省略)…
【0043】
本発明の光学フィルターにおいて,上記一般式(I)で表されるシアニン化合物及び上記一般式(VI)?(VIII)で表されるシアニン化合物の使用量は,上記一般式(VI)?(VIII)で表されるシアニン化合物1.0モルに対し,上記一般式(I)で表されるシアニン化合物を好ましくは0.001?2.0モル,さらに好ましくは0.01?1.0モル用いるのが,上記一般式(VI)?(VIII)で表されるシアニン化合物の蛍光が消光するので好ましい。
【0044】
本発明の光学フィルターにおいて,上記一般式(I)で表されるシアニン化合物及び必要に応じて用いられる極大吸収を550?620nmに有する化合物の含有量は,合計で通常0.1?1000mg/m^(2),好ましくは5?100mg/m^(2)である。該含有量が0.1mg/m^(2)未満では,光吸収効果を十分に発揮することができず,1000mg/m^(2)を超えて含有する場合には,フィルターの色目が強くなりすぎて表示品質等を低下させるおそれがあり,さらには,光吸収剤の配合量が増えることにより明度が低下するおそれもある。
…(省略)…
【実施例】
【0067】
以下,評価例,実施例及び比較例等をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら,本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
尚,評価例1は,本発明に係るシアニン化合物の蛍光消光能評価を示し,評価例2は,本発明に係るシアニン化合物及び比較化合物のε値の比較を示す。
また,実施例1?6は,本発明に係るシアニン化合物を含有する光学フィルターの作成例を示し,比較例1は,比較化合物を含有する光学フィルターの作成例を示す。
【0068】
〔評価例1〕蛍光消光能評価
化合物No.4及びNo.12の過塩素酸塩について,化合物No.37の過塩素酸塩に対する蛍光消光能を評価した。評価は,スミペックスLG(住友化学社製アクリル系バインダー,樹脂分40質量%)2.5g,メチルエチルケトン2.5g及びシアニン化合物を〔表1〕の配合で混合して塗工液を調製し,易密着処理した188μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムに,該塗工液をバーコーター#20により塗布した後,100℃で10分間乾燥させて試験片を作成した。該試験片について蛍光スペクトルを測定し,化合物No.37の蛍光のλmax=600nmにおける蛍光強度を1.0としたときの試験溶液の蛍光強度を求めて蛍光消光能評価とした。結果を〔表1〕に示す。
【0069】
【表1】


(当合議体注:化合物No.4,No.12及びNo.37は,それぞれ,一般式(IV),一般式(IV)及び一般式(VI)に対応する,以下の化合物である。)
化合物No.4:

化合物No.12:

化合物No.37:


エ 「【0070】
〔評価例2〕ε値の比較
化合物No.4,No.16及びNo.28の過塩素酸塩並びに下記〔化22〕に示す比較化合物No.1について,ε値を測定して比較した。結果を〔表2〕に示す。
【0071】
【化22】

【0072】
【表2】


(当合議体注:化合物No.16及びNo.28は,それぞれ,一般式(V)及び一般式(III)に対応する,以下の化合物である。)
化合物No.16:

化合物No.28:


オ 「【0073】
〔実施例1〕光学フィルターの作成1
下記の配合にて塗工液を調製し,易密着処理した188μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムに,該塗工液をバーコーター#20により塗布した後,100℃で10分間乾燥させ,ポリエチレンテレフタレートフィルム上に膜厚10μmのフィルム層を有する光学フィルター(シアニン化合物の含有量2.0mg/m^(2))を得た。この光学フィルターについて,日本分光社製紫外可視近赤外分光光度計V-570で吸収スペクトルを測定したところ,λmaxが671nmで半値巾が50nmであった。
【0074】
(配合)
スミペックス LG 2.5g
(住友化学社製アクリル系樹脂バインダー,樹脂分40質量%)
化合物No.4の過塩素酸塩 2mg
メチルエチルケトン 2.5g
【0075】
〔実施例2〕光学フィルターの作成2
化合物No.4の過塩素酸塩に代えて化合物No.16の過塩素酸塩を用いた以外は実施例1と同様にして光学フィルターを作成し,得られた光学フィルターについて,日本分光社製紫外可視近赤外分光光度計V-570で吸収スペクトルを測定したところ,λmaxは764nm,半値巾は50nmであった。
【0076】
〔実施例3〕光学フィルターの作成3
化合物No.4の過塩素酸塩に代えて化合物No.28の過塩素酸塩を用いた以外は実施例1と同様にして光学フィルター(シアニン化合物の含有量2.0mg/m^(2))を作成し,得られた光学フィルターについて,日本分光社製紫外可視近赤外分光光度計V-570で吸収スペクトルを測定したところ,λmaxは450nm,半値巾は50nmであった。
【0077】
〔実施例4〕光学フィルターの作成4
下記の配合にて粘着剤溶液を調製し,易密着処理した188μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムに,該粘着剤溶液をバーコーター#90により塗布した後,100℃で10分間乾燥させ,ポリエチレンテレフタレートフィルム上にフィルム上に厚さ約10μmの粘着剤層を有する光学フィルター(シアニン化合物の含有量2.0mg/m^(2))を得た。この光学フィルターについて,日本分光社製紫外可視近赤外分光光度計V-570で測定したところ,λmaxが671.5nmで半値巾が50nmであった。
【0078】
(配合)
化合物No.4の過塩素酸塩 2.0mg
アクリル系粘着剤(デービーボンド5541:ダイアボンド社製)
20g
メチルエチルケトン 80g
【0079】
〔実施例5〕光学フィルターの作成5
下記の配合をプラストミルで260℃にて5分間溶融混練した。混練後,直径6mmのノズルから押出し水冷却ペレタイザーで色素含有ペレットを得た。このペレットを,電気プレスを用いて250℃で0.25mm厚の薄板(シアニン化合物の含有量2.0mg/m^(2))に成形した。この薄板について,日本分光社製紫外可視近赤外分光光度計V-570で吸収スペクトルを測定したところ,λmaxが672mで半値巾が50nmであった。
【0080】
(配合)
ユーピロンS-3000 100g
(三菱瓦斯化学社製;ポリカーボネート樹脂)
化合物No.4の過塩素酸塩 0.01g
【0081】
〔実施例6〕光学フィルターの作成6
下記の配合にてUVワニスを作成し,易密着処理した188μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムに,該UVワニスをバーコーター#9により塗布した後,80℃で30秒間乾燥させた。その後,赤外線カットフィルムフィルター付き高圧水銀灯にて紫外線を100mJ照射し,硬化膜厚約5μmのフィルター層を有する光学フィルター(シアニン化合物の含有量2.0mg/m^(2))を得た。この光学フィルターについて,日本分光社製紫外可視近赤外分光光度計V-570で吸収スペクトルを測定したところ,λmaxが671.5nmで半値巾が50nmであった。
【0082】
(配合)
アデカオプトマーKRX-571-65 100g
(ADEKA社製UV硬化樹脂,樹脂分80質量%)
化合物No.4の過塩素酸塩 0.5g
メチルエチルケトン 60g
【0083】
〔比較例1〕光学フィルターの作成7
化合物No.4の過塩素酸塩に代えて比較化合物No.1を用いた以外は実施例1と同様にして光学フィルターを作成し,得られた光学フィルターについて,日本分光社製紫外可視近赤外分光光度計V-570で吸収スペクトルを測定したところ,λmaxは689nm,半値巾は70nmであった。
【0084】
〔表1〕に示した評価例1の結果から,上記一般式(I)で表されるシアニン化合物を用いると,上記一般式(VI)で表されるシアニン化合物の蛍光強度が弱くなる,すなわち消光することがわかる。また,評価例2の結果から,上記一般式(I)で表されるシアニン化合物は,高いε値を有するが,比較化合物のε値は低かった。さらに,実施例1?6から明らかなように,上記一般式(I)で表されるシアニン化合物を含有する光学フィルターは,300?1100nmの波長領域において急峻な光吸収を有しており,画像表示装置用の光学フィルターとして好適であるが,比較化合物を含有する光学フィルターは,半値幅が広く,画像表示用の光学フィルターとしては適さない。」

(2) 甲1発明
甲1の【0013】に記載された発明の効果,並びに,【請求項5】及び【請求項7】の記載を考慮すると,甲1には,次の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。なお,事案に鑑みて,一般式の符号に関する説明は省略して記載する。
「 一般式(I)で表されるシアニン化合物に,さらに極大吸収を550?620nmの範囲に有する一般式(VII)で表されるシアニン化合物を少なくとも一種含有する光学フィルターであって,
一般式(I)で表されるシアニン化合物は,300?1100nmの特定の波長領域に急峻な光吸収を示し,また,一般式(VII)で表されるシアニン化合物の蛍光を消光するのに有効である,
光学フィルター。
一般式(I):

一般式(VII):



2 対比及び判断
(1) 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると,以下のとおりである。
ア スクアリリウム系化合物(A)
甲1発明の「一般式(VII)で表されるシアニン化合物」は,ポリメチン骨格の両末端に窒素原子を持つ共役系の中央部に,スクアリン酸構造を具備する。
そうしてみると,甲1発明の「一般式(VII)で表されるシアニン化合物」は,「シアニン化合物」としての特徴を具備するとともに,「スクアリリウム化合物」としての特徴も併せ持つものといえる。
したがって,甲1発明の「一般式(VII)で表されるシアニン化合物」は,本件特許発明1の「スクアリリウム系化合物」に相当する。

イ 化合物(B)
甲1発明の「一般式(I)で表されるシアニン化合物」は,その名のとおりシアニン化合物である。また,本件特許発明1の「化合物(B)」の選択肢には,「シアニン系化合物(B-2)」が含まれる。
したがって,甲1発明の「一般式(I)で表されるシアニン化合物」は,本件特許発明1の「化合物(B)」に相当するとともに,「前記化合物(B)が,フタロシアニン系化合物(B-1)およびシアニン系化合物(B-2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であること」という要件も満たす。

ウ 光学フィルター
前記ア及びイの対比結果を考慮すると,甲1発明の「光学フィルター」と本件特許発明1の「光学フィルターは」,「スクアリリウム系化合物(A)と,」「化合物(B)とを含有する」点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
ア 本件特許発明1と甲1発明は,次の構成で一致する。
「 スクアリリウム系化合物(A)と,化合物(B)とを含有する光学フィルターであって,
前記化合物(B)が,フタロシアニン系化合物(B-1)およびシアニン系化合物(B-2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である,
光学フィルター。」

イ 相違点
本件特許発明1と甲1発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
「スクアリリウム系化合物(A)」が,本件特許発明1は,「620nm以上760nm以下の波長領域に吸収極大を有する」ものであるのに対して,甲1発明は,「極大吸収を550?620nmの範囲に有する」ものである点。

(相違点2)
「化合物(B)」が,本件特許発明1は,「690nm以上780nm以下の波長領域に吸収極大を有し,かつ,該スクアリリウム系化合物(A)の蛍光を吸収する」ものであるのに対して,甲1発明は,「300?1100nmの特定の波長領域に急峻な光吸収を示し,また,一般式(VII)で表されるシアニン化合物の蛍光を消光する」ものである点。

(相違点3)
「光学フィルター」が,本件特許発明1は,「波長560?800nmの範囲において,該光学フィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Xa)と,該光学フィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Xb)との差の絶対値が,20nm未満である」ものであるのに対して,甲1発明は,このように特定されたものではない(シアニン化合物の含有量が,透過率が50%となる波長が存在する程度まで多いとは特定されていない)点。

(3) 判断
事案に鑑みて,相違点1及び相違点2について判断する。
ア 相違点1について
本件特許発明1と甲1発明の相違点のうち,相違点1は,前記(2)イのとおりであるから,本件特許発明1と甲1発明は,620nmの吸収極大において重複している。しかしながら,甲1には,「一般式(VII)で表されるシアニン化合物」であって,かつ,620nmに吸収極大を具備するものは,記載されていない。
また,甲7において,吸収極大が記載されたスクアリリウム化合物は,以下のとおりである。
化合物No.3:吸収極大670nm


化合物No.6:吸収極大637nm


化合物No.9:吸収極大655nm


比較化合物1:吸収極大642nm


化合物A:吸収極大638nm


加えて,甲8において,吸収極大が記載されたスクアリリウム化合物は,以下のとおりである。


さらに,甲9の479頁の右下欄の下から2行?480頁の左上欄8行には,次の記載がある。
「 スクアリリウム系色素の光学特性として最も特徴的なことは,四角酸部位の1,3-位で置換した一般的な対称型スクアリリウム色素では,630-680nmにモル吸光係数が3.0×10^(5)M^(-1)cm^(-1)前後の強い吸収を示すことである。また,両末端がキノリン環を有する場合には,π共役系が拡張されることから730nmまでその極大吸収波長はシフトする。なお,1,2-位で置換したスクアリリウム色素は,1,3-置換体のクロモフォアに比べ,そのπ共役系はベント型となるため極大吸収波長は,著しく短波長側にシフトし,500-600nmになる。」

以上勘案すると,当業者が,甲1発明において,「一般式(VII)で表されるシアニン化合物」であって,かつ,620nmに吸収極大を具備するものを採用することが,実際に可能であったということはできない(当合議体注:吸収極大波長は媒質に依存して変化するものであるが,そうであるからといって,620nmというピンポイントの波長に吸収極大を具備する「一般式(VII)で表されるシアニン化合物」の証拠が存在しないからには,実際に可能であったということはできない。)。むしろ,甲7?甲9の記載から理解されるスクアリリウム色素の吸収極大の波長範囲が,いずれも620nmよりも長波長側にあること,及び置換基の変更によりπ共役系を縮小する化合物設計は,通常,困難であることを勘案すると,現実的にみて,当業者が,「一般式(VII)で表されるシアニン化合物」であって,かつ,620nmに吸収極大を具備するものを設計することには,思い到らないといえる。

さらに進んで検討する。
550?620nmの範囲の吸収極大に関して,甲1の【0003】には,「画像表示装置は,赤,青,緑の三原色の光の組合せでカラー画像を表示しているが,カラー画像を表示する光には,緑と赤の間の550?620nm等の表示品質の低下をきたす光が含まれ」と記載されている。
また,甲2の【0002】及び【0004】には,それぞれ,「プラズマディスプレイパネルのような映像表示用機器は,通常,赤(R),緑(G),青(B)の3原色の光を組み合わせて発光させることにより,カラー画像を表示するが,その際,3原色以外の不要光の存在により,色純度が悪化し,映像のコントラストや色再現性が低下することが問題となっている。」及び「従来のフィルターでは,不要光,特に波長580nm付近の光の選択吸収性が十分でなかったり,蛍光を発したりするため,映像のコントラストや色再現性の点で満足できるものではなかった。」と記載されている。
加えて,甲3の【0002】には,「プラズマディスプレイパネル(PDP)は,ネオン等のガスを2枚のガラス板の間に封入し,放電させて用いる。…(省略)…放電時のネオン光の輝線スペクトルは,オレンジ色光(550?620nm)であり,赤,青,緑の三原色発光の組み合わせで画像表示をする場合,鮮明なカラー画像とならないため,ネオン光を遮蔽する必要がある。」と記載されている。

以上勘案すると,甲1発明における,「550?620nm」という波長範囲は,不要光の波長範囲を特定したものと理解される。そうしてみると,たとえ甲1発明が,「極大吸収を550?620nmの範囲に有する一般式(VII)で表されるシアニン化合物を少なくとも一種含有する光学フィルター」という構成を具備するとしても,甲1発明を具体化する当業者が選択する「一般式(VII)で表されるシアニン化合物」は,550?620nmの不要光を吸収しつつも,緑や赤の必要光は吸収しないもの,すなわち,550?620nmの中央付近に吸収極大波長があるものと理解するのが自然である。
したがって,甲1の記載や,甲2及び甲3の記載を考慮すると,当業者が甲1発明を具体化するに際して,極大吸収を620nmに有する一般式(VII)で表されるシアニン化合物を選択する動機付けは,実質的にないといえる。

イ 相違点2について
前記(2)イで述べたとおり,本件特許発明1の「化合物(B)」は,「スクアリリウム系化合物(A)の蛍光を吸収する」ものであるのに対して,甲1発明の「一般式(I)で表されるシアニン化合物」は,「一般式(VII)で表されるシアニン化合物の蛍光を消光するのに有効である」ものである。
ここで,「蛍光を吸収する」ことと,「蛍光を消光する」ことは,同義ではなく,後者は,蛍光それ自体を抑制すること(クエンチング)ことを意味する。そして,例えば,甲2の「本発明のフィルターは,樹脂層中に,上記A成分に加えて,さらに,波長780?1200nmの範囲に光の極大吸収波長を有する化合物(以下,「B成分」ということがある)を含有するものである。このように,樹脂層中にA成分とB成分とを共存させることにより,A成分から発せられる蛍光,特に波長600nm付近の蛍光を抑制することができ,映像のコントラストおよび色再現性を高めることができる。」(【0047】)という記載からも明らかなとおり,たとえ「蛍光を消光する」化合物を選択したとしても,その化合物が「蛍光を吸収する」とは限らない。
甲1発明を具体化する当業者が選択する化合物は,「一般式(VII)で表されるシアニン化合物の蛍光を消光する」化合物であるから,仮に,「一般式(VII)で表されるシアニン化合物の蛍光を消光する」化合物を選択したとしても,相違点2に係る,「スクアリリウム系化合物(A)の蛍光を吸収する」という構成を具備したものに到るとまではいえない。また,仮に,「一般式(VII)で表されるシアニン化合物の蛍光を消光する」化合物を選択したとしても,相違点2に係る「690nm以上780nm以下の波長領域に吸収極大を有し」ている化合物を選択するとも限らないことも,同様である。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は,甲1発明において,吸収極大波長を620nm以上とし,例えば,本件特許発明1のように620nm以上760nm以下とすることは,当業者であれば必要に応じて適宜に設計し得る事項であると主張する。
しかしながら,甲1発明の「一般式(VII)で表されるシアニン化合物」は,「吸収極大を550?620nmの範囲に有する」ものであるから,「550?620nmの範囲」から外れた「一般式(VII)で表されるシアニン化合物」を選択することは,設計的事項ではなく,また,このようにすることに動機付けもない。
かえって,仮に,甲1発明において,「一般式(VII)で表されるシアニン化合物」として,本件特許発明1のように「620nm以上760nm以下の波長領域に吸収極大を有する」化合物を選択したならば,本来必要とされるはずの「赤(R)」の光を吸収することとなる。したがって,甲1発明において,「一般式(VII)で表されるシアニン化合物」として,本件特許発明1のように「620nm以上760nm以下の波長領域に吸収極大を有する」化合物を選択することには阻害要因があるといえる。

エ 小括
以上のとおりであるから,本件特許発明1は,甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4) 本件特許発明2?本件特許発明7について
本件特許発明2?本件特許発明5は,本件特許発明1の「光学フィルター」に対して,さらに他の構成を付加してなる「光学フィルター」である。
したがって,前記(3)で述べたのと同じ理由により,これら発明も,甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
本件特許発明6は,本件特許発明1?本件特許発明5の「光学フィルター」を具備する「固体撮像装置」の発明である。また,本件特許発明7は,本件特許発明1?本件特許発明5の「光学フィルター」を具備する「カメラモジュール」の発明である。
したがって,前記(3)で述べたのと同じ理由により,これら発明も,甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第3 むすび
以上述べたとおりであるから,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,本件特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-02-12 
出願番号 特願2017-80522(P2017-80522)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大竹 秀紀濱野 隆  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 樋口 信宏
関根 洋之
登録日 2019-04-12 
登録番号 特許第6508247号(P6508247)
権利者 JSR株式会社
発明の名称 光学フィルターならびに該光学フィルターを用いた固体撮像装置およびカメラモジュール  
代理人 特許業務法人SSINPAT  

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