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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01L
管理番号 1359611
異議申立番号 異議2019-700943  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-22 
確定日 2020-02-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第6517440号発明「締付け実習装置、締付け実習方法、締付け実習プログラムおよび締付け実習システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6517440号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6517440号の請求項1-10に係る特許についての出願は、平成29年6月7日(優先日:平成28年6月30日)に国際出願され、平成31年4月26日にその特許権の設定登録がされ、令和元年5月22日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許の全請求項に対し、令和元年11月22日に特許異議申立人本間賢一は特許異議の申立てを行った。


2 本件発明
特許第6517440号の請求項1-10の特許に係る発明(以下、「本件発明1-10」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
ねじの表面状態が異なる複数のボルトと、
締付け工具を用いたナットの締付けにより前記ボルトに生じる軸力を検出する軸力センサーと、
前記軸力センサーからのセンサー出力を受け、前記ボルトの表面状態を含む識別情報と検出された軸力とを関係付けるとともに前記ボルト同士の軸力の大小を表す対比図形出力を生成する処理手段と、
を備えることを特徴とする締付け実習装置。
【請求項2】
さらに、前記処理手段に接続され、前記処理手段から受けた前記対比図形出力を表示する表示手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の締付け実習装置。
【請求項3】
複数の前記ボルトを一列に並べて配置させるとともに、前記ボルトおよび前記軸力センサーを内部に収納して支持する支持ケースを備え、
前記処理手段は、前記支持ケースへの前記ボルトの配列に応じて、前記識別情報を配列した前記対比図形出力を生成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の締付け実習装置。
【請求項4】
配置された前記ボルトの前記識別情報を記憶する記憶部を備え、
前記処理手段は、軸力の検出を契機に、前記記憶部から検出した前記ボルトの前記識別情報を読み出して、前記対比図形出力を生成することを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の締付け実習装置。
【請求項5】
前記識別情報には、前記ボルトの表面状態を示すトルク係数が含まれ、
前記処理手段は、前記対比図形出力の軸力表示に対し前記トルク係数を関連付けて表示することを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の締付け実習装置。
【請求項6】
前記処理手段は、検出された前記軸力と前記ボルトの識別情報から締付けトルクを算出し、前記ボルト同士の前記締付けトルクの大小を示す情報を含む前記対比図形出力を生成することを特徴とする、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の締付け実習装置。
【請求項7】
ねじの表面状態が異なる複数のボルトに対して締付け工具を用いてナットを締付ける工程と、
前記ナットの締付けにより前記ボルトに生じる軸力を軸力センサーで検出する工程と、
前記軸力センサーのセンサー出力を取り込む工程と、
前記ボルトの表面状態を含む識別情報とその軸力情報とを関係付けるとともに、前記ボルト同士の軸力の大小を表す対比図形出力を生成する工程と、
を含むことを特徴とする締付け実習方法。
【請求項8】
締付け実習装置のコンピュータに実行させる締付け実習プログラムであって、
ねじの表面状態が異なる複数のボルトに対して締付け工具を用いて締付けられるナットの締付けにより前記ボルトに生じる軸力のセンサー出力を軸力センサーで取り込み、
前記ボルトの表面状態を含む識別情報とその軸力とを関係付けるとともに、前記ボルト同士の軸力の大小を表す対比図形出力を生成する、
機能を前記コンピュータに実行させることを特徴とする締付け実習プログラム。
【請求項9】
検出された前記軸力と前記ボルトの識別情報から締付けトルクを算出し、
前記ボルト同士の前記締付けトルクの大小を示す情報を含む前記対比図形出力を生成する、
機能を前記コンピュータに実行させることを特徴とする、請求項8に記載の締付け実習プログラム。
【請求項10】
ボルトに対するナットの締付けを実習する締付け実習システムであって、
ねじの表面状態が異なる複数のボルトと、締付け工具を用いたナットの締付けにより前記ボルトに生じる軸力を検出する軸力センサーとを備える締付け実習部と、
前記軸力センサーと接続され、センサー出力を受け、前記ボルトの表面状態を含む識別情報と検出された軸力とを関係付けるとともに前記ボルト同士の軸力の大小を表す対比図形出力を生成する処理手段と、
前記処理手段と接続され、前記対比図形出力を表示するモニターと、
を備えることを特徴とする締付け実習システム。」


3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として以下の甲第1号証-甲第5号証(以下「甲1」-「甲5」という。)を提出して、請求項1-10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号により取り消すべきものである旨主張している。

(1)甲第1号証:特開2015-215473号公報
(2)甲第2号証:米谷俊一、「コンポーネント技術 特集 ねじ締結と摩擦係数」、ヤマハ発動機技報、第38号、2004年9月1日発行、ヤマハ発動機株式会社
(3)甲第3号証:特開2015-141345号公報
(4)甲第4号証:特開2015-68823号公報
(5)甲第5号証:特開2008-281129号公報


4 文献の記載
(1)甲1には、次の事項が記載されている。(下線は当審による。以下同様。)
「【0001】
本発明は、ボルト締め付け実習装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、配管同士の接続部のフランジなどの締結体をボルトで締め付ける際に、適切なボルトの締め付けを実習することができるボルト締め付け実習装置に関する。本発明のボルト締め付け実習装置は、例えば、ボルトを締結体に締め付ける際のトルクの管理の教育講習、ボルトを締結体に締め付ける前の締め付けトルクの確認などの際に好適に使用することができる。」

「【0009】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、熟練した作業者を必要とせず、トルクレンチ、ハンドスパナなどの締め付け工具を用いてプラントなどにおける配管同士のフランジなどの締結体をボルトで締め付ける際に、ボルトを締め付ける際の締付力と実際に締め付けるときのトルクとの関係を実習者に的確に把握させることができるボルト締め付け実習装置を提供することを目的とする。」

「【0019】
締結体を締め付ける際に用いられる締め付け具としてボルトが用いられる。本発明のボルト締め付け実習装置は、ボルトのみならずナットを締め付ける実習をする際にも好適に使用することができる。したがって、本明細書では、締め付け具として便宜上ボルトが記載されているが、当該ボルトの概念には、当該ボルトのみならずナットが包含される。」

「【0022】
図1は、本発明のボルト締め付け実習装置の一実施態様を示す概略説明図である。図1に示されるボルト締め付け実習装置は、主として、ボルト締め付け練習手段1と演算手段5と表示手段6を備えている。
【0023】
ボルト締め付け練習手段1は、トルク検知体3と、締め付け工具(図示せず)を取り付けるための工具取付け部2と、当該工具取付け部2に締め付け工具を取り付けて工具取付け部2を締め付けた際に発生する歪を検知するための歪ゲージ4とを有する。
【0024】
ボルト締め付け練習手段1において、トルク検知体3の一端に工具取付け部2が配設されており、トルク検知体3の他端が固定されている。また、トルク検知体3の外周面には、歪ゲージ4が取り付けられている。
【0025】
工具取付け部2は、実際のボルトの締め付け作業に使用されるボルトに対応する形状および大きさを有することが好ましい。工具取付け部2は、実際のボルトの締め付け作業に使用されるボルトと同様に、通常、その断面形状が六角形を有する。工具取付け部2は、実際のボルトの締め付け作業に準じて実習することができるようにするために、トルク検知体3に着脱可能に配設され、実際のボルトの締め付け作業に使用されるボルトに対応する形状および大きさを有する工具取付け部と交換可能に構成されていてもよい。このように工具取付け部2をトルク検知体3に着脱可能にするとともに他の工具取付け部と交換可能に配設したとき、実際に使用されるボルトと同様の形状および大きさを有する工具取付け部2に交換することにより、実習者は、実際のボルトの締め付け作業に即した実習をすることができる。
【0026】
トルク検知体3の一端には工具取付け部2が配設されており、当該トルク検知体3の他端は、図示されていないが、固定配置されている。したがって、工具取付け部2に締め付け工具を取り付け、例えば、図1に示される矢印A方向(時計回り)に締め付け工具を回転させることによってボルトの締め付け操作を行なったとき、一端が固定配置されているトルク検知体3には応力が発生するため、当該トルク検知体3が変形する。トルク検知体3が変形することによって生じる歪は、締め付け工具を回転させることによってボルトの締め付け操作を行なう際の応力(トルク)と比例関係にある。
【0027】
締め付け工具を回転させることによってボルトの締め付けを行なったとき、トルク検知体3に歪が発生する。当該発生した歪により、トルク検知体3の電気抵抗が変化することから、歪ゲージ4では、通電によってトルク検知体3の微弱な電圧変化を検知することができる。歪ゲージ4で検出された電圧の変化は、電気信号として電線(図示せず)を介して演算手段5に伝達される。
【0028】
演算手段5は、ボルト締め付け練習手段1の工具取付け部2を締め付ける際に発生した歪を歪ゲージ4で読み取ることによって得られた情報をデータ化させるための手段である。演算手段5では、歪ゲージ4から伝達された電気信号の強度(電圧)に基づいてトルク検知体3に加えられた応力が算出される。演算手段5として、例えば、コンピュータなどを好適に用いることができる。演算手段5でデータ化された応力のデータは、例えば、電子データとして電線(図示せず)を介して表示手段6に伝達される。
【0029】
表示手段6は、演算手段5でデータ化されたデータを視認化させるための手段である。表示手段6として、例えば、応力を具体的な数値として表示することができるデジタル液晶モニタなどのモニタを用いることができる。」

上記事項より、甲1には次の発明が記載されているものと認められる。(以下、「引用発明」という。)

「実際に使用されるボルトと同様の形状および大きさを有する工具取付け部2と、(【0025】)
一端に工具取付け部2が配設されており、締め付け工具を回転させることによってボルトの締め付け操作を行なう際の応力(トルク)と比例関係にある歪を生じるトルク検知体3と(【0026】)、通電によってトルク検知体3の微弱な電圧変化を検知する歪ゲージ4と(【0027】)、
歪ゲージ4から伝達された電気信号の強度(電圧)に基づいてトルク検知体3に加えられた応力を算出する演算手段5と、(【0028】)
を有する、ボルトを締め付ける際の締付力と実際に締め付けるときのトルクとの関係を実習者に的確に把握させることができるボルト締め付け実習装置(【0009】)。」

(2)甲2には、次の事項が記載されている。
「・・・ねじにオイルを塗布すると、締め付ける力が軽くなることは体感できるが、軸力が実際どれだけ増加したかはわからない。・・・適切な軸力を確保することは、ねじ締結でもっとも重要なことのひとつであり、座面やねじ面の摩擦係数を把握しコントロールすることがポイントになる。」(5 締付けトルクと軸力)

「・・・以上の結果から、締め付けトルクの指示値を決めるときは、ボルトのメッキの種類、座面やめねじの材質、表面処理を十分に考慮すべきことがわかる。」(7 摩擦係数の計測例)

「・・・摩擦の特殊性を考えると、開発者自らが、ねじの軸力や摩擦係数を実際に計測し体で感じとることが大切だと思う。」(8 おわりに)

(3)甲3には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、フランジ締付け実習システムに関する。さらに詳しくは、本発明は、配管同士の接続部のフランジを締付ける際に適切なボルトの締付けを実習することができるフランジ締付け実習システムに関する。」

「【0012】
本発明のフランジ締付け実習システムは前記構成を有するので、当該フランジ締付け実習システムを用いることにより、配管同士の接続部のフランジをボルトで締付ける際に必要な技術を実習者に実習させることができる。また、本発明のフランジ締付け実習システムを用いることにより、配管同士の接続部のフランジをボルトで締付けているときに、実際のフランジの締付け現場では目視することができない各ボルトの軸力を各ボルトの歪を通じて視覚によって認識することができる。」

「【0017】
フランジ締付け練習手段1には、フランジA4と、フランジB5と、フランジA4とフランジB5とを締付けるためのボルト6とが設けられている。フランジA4とフランジB5とを強固に締付けるために、複数のボルト6がフランジA4およびフランジB5に配設されている貫通孔(図示せず)に挿入されている。フランジA4およびフランジB5の種類には特に限定がなく、例えば、JIS B2290に規定されているフランジを用いることができる。また、フランジA4とフランジB5とを締付けるためのボルト6に関しても特に限定がなく、フランジA4およびフランジB5に適したボルトを適宜選択して用いることが好ましい。
【0018】
フランジ締付け練習手段1では、実際に実習者によってフランジの取り付け作業が行なわれる。実習者がフランジA4とフランジB5とを各ボルトで締付ける際には、各ボルト6に歪が発生する。当該歪は、ボルト6の締め付けによって発生するボルト6の軸力と比例関係にあることから、例えば、図2に示されるように、ボルト6のねじ山面に歪センサ7を取り付け、ボルト6の締め付けによって発生した歪を当該歪センサ7で測定することにより、ボルト6の軸力を間接的に求めることができる。
【0019】
なお、図2は、本発明のフランジ締付け実習システムに用いられるボルト6に歪センサー7が配設されているときのボルト6の概略説明図である。
【0020】
各ボルト6を締付けることによって発生した歪は、歪センサー7で検知され、歪センサー7で検知された歪は、電気信号として配線8を介して演算手段2に送られる。
【0021】
演算手段2は、各ボルト6を締付けることによって発生した歪をデータ化させるための手段である。演算手段2では、フランジ締付け練習手段1で各ボルト6を締付けることによって発生した各ボルト6の歪がデータ化される。演算手段2としては、例えば、パーソナルコンピュータなどのコンピュータを用いることができる。
【0022】
演算手段2でデータ化されたデータを視認化させるために、演算手段2でデータ化されたデータは、電子データとして配線9を介して表示手段3に送られる。
【0023】
表示手段3は、演算手段2でデータ化されたデータを視認化させるための手段であり、当該表示手段3として、例えば液晶モニタなどのモニタを用いることができる。」

「【0030】
図4は、本発明のフランジ締付け実習システムを用いてボルト6を締付ける際に発生した歪を視認化させたときの画像の一例を示す。図4に示されている画像では、使用されているボルト6の数は8本であり、時計回りに1-8の符号が記載されている。
【0031】
図4に示された結果から、符号7および8が付されている歪が小さいことから、符号7および8におけるボルトの締付け力が小さいことがわかる。したがって、実習者は、図3に示されるように、「データの視認化」によって確認された歪データに基づいて、例えば、表示手段3を見ながら「フランジ締付け練習」にて再度、符号7および8におけるボルトの歪が他のボルトの歪と同等となるように、締付け力を適宜微調整することができる技術を実体験に基づいて身につけることができる。」

図1,2から、「ボルト6」が複数設けられ、その締付けはナットの締付けによるものであることが分かる。また、図4と【0021】【0030】の記載から、演算手段2によって、複数のボルト同士の軸力の大小を表す対比図形出力が生成されていることがわかる。
そうすると、上記事項から、甲3には以下の技術事項(以下、「甲3の技術事項)という。)が記載されているといえる。

「複数のボルト6と、
ナットの締め付けによって発生した歪を測定することにより、ボルト6の軸力を求めることができる歪センサ7と、
複数のボルト同士の軸力の大小を表す対比図形出力が生成される演算手段2と、
が設けられたフランジ締付け実習システム。」

(4)甲4には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
この発明は、ボルトに付加したボルト締付け力(軸力)の表示機能に関する。ボルトの締付け力(軸力)がわかると生産時にボルトの適正締め付けができること、および、保全作業時にボルトのゆるみが容易にかつ正確に把握できる。」

「【0029】
生産現場やメンテナンス現場において、ボルトの締付け管理は、多くはトルクレンチにておこなっているがトルクによる管理は簡単であるものの軸力を直接計測できないので大きな誤差を生じる。ちなみに軸力とトルクの関係は
T=kFd
T:締付けトルク(N・m)
k:トルク係数
F:締付け力(軸力)(N)
d:ねじの呼び形(m)
であらわされるが、この場合kは0.15から0.5程度までばらつく。このシステムを用いることにより正確な締付けが可能となる。
また、メンテナンス時においては経験に頼るハンマリングによる打音検査や軸力計などの電子機器を用いることなく、目視のみで機器を用いた場合以上の軸力の把握が可能となる。」

(5)甲5には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
この発明は、ボルトによる締め付け圧を受けながらボルトの頭部を受け支える座金などの部品(この発明ではこれを受圧部品と言う)、特に、潤滑油を使用して座面との摩擦抵抗を確実に低減できるようにした受圧部品に関する。」

「【0020】
試験設備は、高千穂精機株式会社製のトルク-軸力試験機を使用し、ボルトの締め付けには、第一電通株式会社製のナットランナー(能力127Nm)を用いた。また、軸力の測定は、日計電測株式会社製 LC-50KNG694を用いて行った。
試験は、ナットランナー9によるボルト5の締付速度:4rpm、試験場所の雰囲気温度:室温(22℃)の条件下で実施し、トルク締め付け(締め付けトルク32.4N-m時)でのトルク係数と、トルク締め付け+角度締め付け(締め付けトルク32.4N-mの位置からさらにボルトを回転角が62.5°になるところまで回転)でのトルク係数をT=kFdの式で求めた。T:締め付けトルク(N-m)、k:トルク係数、F:ボルト軸力、d:ボルトサイズである。」


5 当審の判断
(1)本件発明1,7,8,10について
ア 本件発明1と引用発明との対比
引用発明の「一端に工具取付け部2が配設されており、締め付け工具を回転させることによってボルトの締め付け操作を行なう際の応力(トルク)と比例関係にある歪を生じるトルク検知体3と、通電によってトルク検知体3の微弱な電圧変化を検知する歪ゲージ4」と、本件発明1の「締付け工具を用いたナットの締付けにより前記ボルトに生じる軸力を検出する軸力センサー」とは、「締付け工具を用いた締付けにより生じる力を検出する力センサー」である点で共通するといえる。
また、引用発明の「歪ゲージ4から伝達された電気信号の強度(電圧)に基づいてトルク検知体3に加えられた応力を算出する演算手段5」と、本件発明1の「前記軸力センサーからのセンサー出力を受け、前記ボルトの表面状態を含む識別情報と検出された軸力とを関係付けるとともに前記ボルト同士の軸力の大小を表す対比図形出力を生成する処理手段」とは、「前記力センサーからのセンサー出力を受ける処理手段」である点で共通するといえる。
また、引用発明の「ボルト締め付け実習装置」は、本件発明1の「締付け実習装置」に相当する。

してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

[一致点]
「締付け工具を用いた締付けにより生じる力を検出する力センサーと、
前記力センサーからのセンサー出力を受ける処理手段と、
を有する締付け実習装置。」

[相違点]
相違点1:本件発明1においては、「ねじの表面状態が異なる複数のボルト」を備えるのに対し、引用発明が有しているのは「トルク検知体3」の一端に配設され「実際に使用されるボルトと同様の形状および大きさを有する工具取付け部2」であって、「実際に使用されるボルト」ではなく、したがって「ねじの表面状態」はそもそも存在せず、また複数の工具取付け部を含むものでもない点。

相違点2:本件発明1においては、「締付け工具を用いたナットの締付けにより前記ボルトに生じる軸力を検出する軸力センサー」を備えるのに対し、引用発明の「トルク検知体3」と「歪ゲージ4」が検知するのは、上記「工具取付け部2」に取り付けた「締め付け工具を回転させることによってボルトの締め付け操作を行なう際の応力(トルク)」であって、「ナットの締付け」によるものでも、「ボルトに生じる軸力」でもない点。

相違点3:本件発明1においては、「前記軸力センサーからのセンサー出力を受け、前記ボルトの表面状態を含む識別情報と検出された軸力とを関係付けるとともに前記ボルト同士の軸力の大小を表す対比図形出力を生成する処理手段」を備えるのに対し、引用発明の「演算手段5」が算出しているのは「トルク検知体3に加えられた応力」(トルク)であって、「ボルトの表面状態を含む識別情報」でも「軸力」でもなく、また大小を対比される複数の値の出力もおこなっていない点。

イ 相違点の検討
(ア)相違点1について
上記甲2には、「ねじ締結」において、「締め付けトルクの指示値を決めるときは、ボルトのメッキの種類、座面やめねじの材質、表面処理を十分に考慮すべきこと」が記載されている。
しかしながら、そもそもボルトを備えていない引用発明においては、「ねじの表面状態」が存在しないのであるから、甲2に記載されているような事項を考慮することの動機が生じ得ないものである。
また、上記甲3の技術事項においては、「フランジ締付け実習システム」において「複数のボルト6」と、「ボルト6の軸力を求めることができる歪センサ7」と、「複数のボルト同士の軸力の大小を表す対比図形出力が生成される演算手段2」とが設けられているが、引用発明はフランジ締付けに関するものではなく、「工具取付け部2」が「トルク検知体3」の一端に配設されて「ボルトを締め付ける際の締付力と実際に締め付けるときのトルクとの関係を実習者に的確に把握させること」を目的とするものであるから、複数のボルトを設けて軸力を対比させることはもちろん、実際のボルトを設けること自体についても動機が生じ得ないものであるといえる。

(イ)相違点2について
上記甲3の技術事項においては、「ボルト6の軸力を求めることができる歪センサ7」が設けられており、また甲4、甲5でもボルトの軸力について言及されている。
しかしながら、引用発明は「工具取付け部2」が「トルク検知体3」の一端に配設されて「ボルトを締め付ける際の締付力と実際に締め付けるときのトルクとの関係を実習者に的確に把握させる」ものであるから、そもそもボルトの軸力が生じる余地は無く(工具取付け部2にも軸力は発生しない。)、軸力を検出する軸力センサーを設けようとする動機が生じ得ないものであるといえる。

(ウ)相違点3について
上記(ア)(イ)で述べたように、引用発明においては、軸力を検出する軸力センサーを設けること、ねじの表面状態を考慮すること、そして複数のボルトを設けて軸力を対比させること、のいずれについても動機が生じ得ないのであるから、処理手段において、「前記軸力センサーからのセンサー出力を受け、前記ボルトの表面状態を含む識別情報と検出された軸力とを関係付けるとともに前記ボルト同士の軸力の大小を表す対比図形出力を生成する」ようにすることについても、動機が生じ得ないものであるといえる。

(エ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書(第24頁13行目?15行目)において、
「したがって、甲第1号証および甲第2号証の上記の記載に基づき、・・・「ねじの表面状態が異なる複数」のボルトを採用することは、当業者であれば容易に想到できるというべきである。」
と主張している。
しかし、上記(ア)で述べたとおり、そもそもボルトを備えておらず、「工具取付け部2」が「トルク検知体3」の一端に配設された引用発明においては、「ねじの表面状態」について考慮することや、実際のボルトを設けること自体についても動機が生じ得ないものであるから、上記主張を採用することはできない。

したがって、本件発明1は、甲1-甲5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明7,8,10は、それぞれ本件発明1に対応する締付け実習方法、締付け実習プログラム、及び締付け実習システムの発明であって、本件発明1と同様に、甲1-甲5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2-6,8,9について
本件発明2-6,9は、本件発明1または本件発明8を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1-甲5に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1-10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1-10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2020-02-12 
出願番号 特願2018-525001(P2018-525001)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 細見 斉子  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 中塚 直樹
関根 裕
登録日 2019-04-26 
登録番号 特許第6517440号(P6517440)
権利者 株式会社バルカー
発明の名称 締付け実習装置、締付け実習方法、締付け実習プログラムおよび締付け実習システム  
代理人 沖田 正樹  
代理人 畝本 正一  
代理人 畝本 卓弥  
代理人 畝本 継立  

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