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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01G
管理番号 1359957
審判番号 不服2019-4680  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-08 
確定日 2020-02-13 
事件の表示 特願2015- 62717「作物栽培装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月20日出願公開、特開2016-182040〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月25日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 9月11日 拒絶理由通知(同年9月18日発送)
平成30年11月 2日 意見書・手続補正書
平成30年12月28日 拒絶査定(平成31年1月8日送達)
平成31年 4月 8日 審判請求書・手続補正書


第2 平成31年4月8日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年4月8日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「左右に長手方向を有する育成棚が平行状態として前後方向に複数並べられて多段構成された作物栽培装置であって、
各育成棚には、走行移動するための車輪と、この車輪を駆動するための駆動軸と、この駆動軸を駆動する固定駆動部と、が設けられ、
前記固定駆動部から着脱可能とされて、複数の前記育成棚を駆動可能な取外駆動部が設けられ、
前記取外駆動部は、前記各育成棚に設けられたそれぞれの前記固定駆動部に対して着脱可能とされており、
前記固定駆動部は、複数の前記育成棚におけるそれぞれの同じ側に設けられていることを特徴とする作物栽培装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成30年11月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「左右に長手方向を有する育成棚が平行状態として前後方向に複数並べられて多段構成された作物栽培装置であって、
各育成棚には、走行移動するための車輪と、この車輪を駆動するための駆動軸と、この駆動軸を駆動する固定駆動部と、が設けられ、
前記固定駆動部から着脱可能とされて、複数の前記育成棚を駆動可能な取外駆動部が設けられ、
前記取外駆動部は、前記各育成棚に設けられたそれぞれの前記固定駆動部に対して着脱可能とされていることを特徴とする作物栽培装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「固定駆動部」について、「前記固定駆動部は、複数の前記育成棚におけるそれぞれの同じ側に設けられて」いることに限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2015-53927号公報(平成27年3月23日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(下線は審決で付した。以下同様)。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、トマト等の作物の栽培において、育成棚を用いて、作物の生育状態に応じて、最適な環境を作物に与える作物育成システムに関する。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような育成棚は、人が作業するときの通路部分の面積を有効活用することを目的としており、栽培期間や作物の生育ステージに関係なく、移動するものであった。このため、生育ステージに対して、効果的な栽植密度にはなっていなかった。また、コンベアを用いた技術では、作物の間隔を制御するための構造が複雑となり、作物の生長に合わせた移動や株間の間隔制御が難しい。
【0007】
また、植物の生長過程に応じて、植物の株間を調整する特許文献2の技術では、植物を支持する支持体やその支持体を駆動させる駆動手段が複雑であり、大掛かりなシステムとなるため、導入が難しく、コストも多大にかかる。さらに、あらかじめ設計によって定められたパターンでのみ栽植密度が変更可能であるものの、季節ごとに変化する光環境に対応できるような柔軟性がない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、簡単な構成で、育成棚間の間隔を制御し、より栽植密度が高く、高い収穫量が見込める作物育成システムを提供することにある。」

(ウ)「【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る作物育成システムの育成棚を側面から見た図である。
【図2】本発明の実施形態に係る作物育成システムの育成棚を正面から見た図である。
【図3】本発明の実施形態に係る作物育成システムの育成棚を複数台連ねたときの側面から見た図である。
【図4】本発明の実施形態に係る作物育成システムの育成棚を複数台連ねたときの上面から見た図である。
【図5】本発明の実施形態に係る作物育成システムの育成棚を台車に載せた状態を側面から見た図である。
・・・」

(エ)「【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る作物育成システムの育成棚100を側面から見た図である。図1を例に、育成棚100について説明する。なお、便宜上、紙面上の右側を前、左側を後ろと記す。
【0018】
育成棚100は、枠体101と、前側車輪102Fと、後側車輪102Rと、第1補強棒103と、第2補強棒104と、駆動モータ105と、駆動モータ用ベルト105Bと、前方距離センサ106Fと、後方距離センサ106Rと、育成鉢部107と、通信ケーブル108と分配部109を備える。
【0019】
枠体101は、上下方向への長方形の形状で構成される。枠体101の下部には、地面上を容易に移動させるための前側車輪102Fと後側車輪102Rが設けられる。枠体の幅D、つまり前側車輪102Fの中心から後側車輪102Rの中心までの長さは、500mmである。第1補強棒103は、枠体101の側面から見て中心部位に上下方向に設けられる。第2補強棒104は、枠体101の上下方向中心よりも下部の部位に横方向に設けられる。駆動モータ105は、第1補強棒103と第2補強棒104が交わる部位に設けられる。駆動モータ用ベルト105Bは、前側車輪102Fと駆動モータ105を繋ぎ、駆動モータ105の動力を前側車輪102Fへ伝達し、前側車輪102Fを駆動させる。前側車輪102Fの回転により、育成棚100が前後方向へ移動する。
【0020】
前方距離センサ106Fは、育成棚100の前側車輪102Fの上側の枠体101の側部に設けられる。後方距離センサ106Rは、育成棚100の後側車輪102Rの上側の枠体101の側部に設けられる。前方距離センサ106Fおよび後方距離センサ106Rはそれぞれ、隣り合う育成棚に設けられた距離センサによる信号に応じて、距離制御部に信号を発信する。例えば、育成棚100の前方距離センサ106Fと育成棚200の後方距離センサ206Rが互いの信号に応じて距離制御部に信号を発信する。
【0021】
育成鉢部107は、育成棚100の下部、かつ前側車輪102Fと後側車輪102Rの間に設けられる。育成鉢部107には、育成植物が定植される。通信ケーブル108は、複数の育成棚とメイン制御部(図示せず)とを電気的に接続している。分配部109は、通信ケーブル108を育成棚100の駆動モータ105へ分配するとともに、隣りの育成棚200へ分配する。なお、育成棚100の地面から分配部109までの高さは1900mmである。育成棚は、移動可能な駆動源である駆動モータを各々有している。通信ケーブル108は、駆動モータ105へ電力を供給するようにしてもよい。また、育成棚100に太陽光発電装置を設置し、電力を供給するようにしてもよい。
【0022】
図2は、本発明の実施形態に係る作物育成システムの育成棚100を正面から見た図である。なお、便宜上、紙面上の左側を左、右側を右と記す。
【0023】
育成棚100の車輪は、駆動軸102Aを備える。例えば、駆動モータ105と駆動モータ用ベルト105Bで繋がれた前側車輪102Fは駆動軸102Aと接続する。駆動軸102Aは、前側車輪102Fの回転に伴って回転する。駆動軸102Aの回転によって、育成棚100の中央車輪102C、右側車輪102Dも回転する。これにより、育成棚100の左右方向における車輪に対して駆動力が一定で与えられるため、安定した移動が可能となる。
【0024】
育成棚100は、さらに手動ハンドル110と、手動ハンドル用ベルト110Bと、駆動軸102Aと、第3補強棒111を備える。手動ハンドル110は、育成棚の上下方向のほぼ中央あたりであって、駆動モータ105が設けられている左側側部と反対側の右側側部に設けられる。手動ハンドル用ベルト110Bは、ピニオンギア(後述する)に接続された駆動軸102Aと手動ハンドル110を繋ぎ、手動ハンドル110による動力を駆動軸102Aを介してピニオンギアに伝える。第3補強棒111は、枠体101の左右方向のほぼ中央あたりに設けられる。なお、手動ハンドル用ベルト110Bと駆動軸102Aの間にはクラッチを設け、駆動モータ105によって車輪が回転しているときには、手動ハンドル用ベルト110Bが動かないように構成してもよい。」

(オ)「【符号の説明】
【0107】
・・・
100,200,100,100,200,300,400,500,600,700,800,140,240,340,440,540,640,740,840,940,150,250,350,450,550,650,750,850,950 育成棚
・・・
105 駆動モータ
・・・
110 手動ハンドル
・・・」

(カ)【図1】、【図2】、【図3】、【図5】は以下のとおり。
【図1】


【図2】


【図3】


【図5】


(キ)上記(オ)の【符号の説明】には、「110 手動ハンドル」、「105 駆動モータ」、「100,200,100,100,200,300,400,500,600,700,800,140,240,340,440,540,640,740,840,940,150,250,350,450,550,650,750,850,950 育成棚」と記載されていることを踏まえて、上記(カ)の【図1】をみると、育成棚100、200におけるそれぞれの同じ側に駆動モータが設けられていることが看取できる。
また、同様に上記(オ)の記載を踏まえて、上記(カ)の【図2】、【図3】、【図5】をみると、【図5】の操作ハンドル110の形状と略同形状の図形が、【図3】の育成棚100、200、300、400、500、600、700に記載され、そして、【図2】(上記(ウ)の「【図2】本発明の実施形態に係る作物育成システムの育成棚を正面から見た図である。」)から、「駆動モータ105」と「操作ハンドル110」は、育成棚の左右反対側に位置することが看取できることからも、「駆動モータ105」は、育成棚100、200、300、400、500、600、700におけるそれぞれの同じ側に設けられていることが理解できる。

(ク)上記(エ)の「【0022】図2は、本発明の実施形態に係る作物育成システムの育成棚100を正面から見た図である。なお、便宜上、紙面上の左側を左、右側を右と記す。」、及び「【0026】次に、実施形態に係る作物育成システムの育成棚100が複数台ある場合について説明する。図3は、本発明の実施形態に係る作物育成システムの育成棚を複数台連ねたときの側面から見た図である。・・・」との記載を踏まえて、【図2】及び【図3】をみると、左右に長手方向を有する育成棚100?700が平行状態として前後方向に複数並べられて多段構成されたことが看取できる。

(ケ)上記(ア)ないし(ク)からみて、引用文献1には、次の発明が(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。
「左右に長手方向を有する育成棚が平行状態として前後方向に複数並べられて多段構成された作物育成システムであって、
育成棚は、枠体と、枠体の下部に設けた地面上を容易に移動させるための前側車輪と後側車輪と、駆動モータと、駆動モータ用ベルトとを備え、
駆動モータ用ベルトは、前側車輪と駆動モータを繋ぎ、駆動モータ105の動力を前側車輪へ伝達し、前側車輪を駆動させ、
前側車輪は駆動軸と接続し、駆動軸は、前側車輪の回転に伴って回転し、駆動軸の回転によって、育成棚の中央車輪、右側車輪も回転することにより、育成棚100の左右方向における車輪に対して駆動力が一定で与えられるため、安定した移動が可能となるものであって、
駆動モータは、複数の育成棚におけるそれぞれの同じ側に設けられている、
作物育成システム。」

イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開昭59-196009号公報(以下「周知例1」という。)には、次の記載がある。
(ア)「本発明は、土詰、潅水、播種、覆土された育苗箱2を挿入しうる受棚44を多段状にフレーム60に設け、該受棚44は、1段ずつ、ベルト又はチエン56で緩く連結し、前記フレーム60には、最上部の前記受棚44に係合する保持爪57を設け、前記受棚44は、前記フレーム60に取付けた手動ハンドル62を回転させると、前記フレーム60の上部位置に移動するように構成し、かつ、手動ハンドル62の回転軸には、別途設けたモーター66を着脱自在に取付けた育苗箱段積装置、および、前記モーター66は減速機付きで、ケース65に収納され、正逆転可能であり、スイッチ69付き取手68があり、移動車64に取付けられていることを特徴とする前記の装置としたから、育苗箱2は、リフト枠38を一旦上動させると受棚44の肩で、保持爪57をバネ59の弾力に抗して外側に開いて、受棚44と保持爪57の係合を外し、その状態で下降させると第7図の左側のようにベルト又はチエン56はたるんで、受棚44は全て積重ねた状態となり、台車61ごと移動して出芽され、緑化させようとするときは、最上段の受棚44に保持爪57を引掛けて、そのまま下ろすと、第7図の右側の状態に受棚44は調節され、第10図に示したように緑化間隙tが設けられるので支障なく緑化ができ、台車61を、ビニールハウス内に移動させて、手動ハンドル62を回転させると、受棚44は手動で上動して前記tを確保できるが、移動車64を移動させて正逆転モーター66の軸67を角棒63に結合すると、正逆転モーター66により、簡単に受棚44を上昇させうる。」(4頁右下欄11行?5頁右上欄12行)

ウ 引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開平8-196571号公報(以下「周知例2」という。)には、次の記載がある。
(ア)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記従来構成の車椅子を「手動走行」させるとき、この車椅子は駆動手段を搭載したままであってその重量は重いため、特に、「手動走行」を長期にわたり行うときには、上記走行輪を回転させるための着座者の負担が無用に大きくなるという問題がある。
【0006】また、上記車椅子は上記したように重いため、これを自動車等によって、いずれかに運搬する場合、この車椅子の積み降ろし等の取り扱い作業がしにくいという問題もある。
【0007】そこで、上記車椅子の「手動走行」時や、車椅子の運搬時には、上記椅子側から一旦駆動手段を取り外すことが考えられる。しかし、この駆動手段を構成している電動機、バッテリ、および制御装置は上記椅子側に個別に取り付けられているため、これらの取り外し作業や、その後の取り付け作業は極めて煩雑であり、かつ、長時間を要するおそれがある。
【0008】また、例えば、多くの車椅子を備えている施設においては、ある車椅子から駆動手段を取り外し、この駆動手段を他の車椅子に用いることができるようにすれば、車椅子の数に比べて駆動手段の数が少なくて足りるなど便利であり、つまり、複数の車椅子にたいし駆動手段を共用させることが考えられる。しかし、上記したように、椅子側に対する駆動手段の着脱作業は煩雑であることから、複数の車椅子にたいし駆動手段を共用させることは極めて困難である。」

(イ)「【0012】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するためのこの発明の車椅子の走行用駆動装置は、着座者2が着座可能な椅子5と、この椅子5を床3上に支持する走行輪17と、この走行輪17の回転駆動用の駆動手段23とを備え、この駆動手段23が動力を出力する電動機40と、この電動機40に電力を供給するバッテリ43と、上記電動機40を電子的に制御する制御装置44とを有した車椅子において、上記電動機40、バッテリ43、および制御装置44が互いに一体化するようこれらを互いに結合させ、これら一体化した駆動手段23を上記椅子5側に対し着脱自在としたものである。
【0013】
【作 用】上記構成による作用は次の如くである。
【0014】電動機40、バッテリ43、および制御装置44が互いに一体化するようこれらを互いに結合させ、これら一体化した駆動手段23を上記椅子5側に対し着脱自在としてある。
【0015】このため、車椅子1を「手動走行」させようとするときには、上記駆動手段23を椅子5側から取り外せばよく、このようにすれば、車椅子1は駆動手段23を搭載していない分、軽量となる。
【0016】また、上記車椅子1を運搬する場合等の取り扱い作業時にも、上記駆動手段23を椅子5側から取り外せばよく、このようにすれば、駆動手段23を搭載していない車椅子1と、駆動手段23とに重量を分散させて、個々に取り扱うことができる。
【0017】しかも、上記車椅子1の椅子5側に対する駆動手段23の着脱作業は、この駆動手段23の電動機40等の構成部品を一体化したままで、できるため、この着脱作業は極めて容易にできる。
【0018】また、上記したように、車椅子1の椅子5側に対する駆動手段23の着脱作業が容易にできることから、例えば、ある車椅子1から駆動手段23を取り外しこの駆動手段23を他の車椅子1に取り付けることが容易にできる。」

(3)引用発明1との対比
本件補正発明と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「作物育成システム」は、「左右に長手方向を有する育成棚が平行状態として前後方向に複数並べられて多段構成された」ものであって、装置を含んでいるから、本件補正発明の「作物栽培装置」に相当する。

イ 引用発明1の「前側車輪」、「後側車輪」、「中央車輪」及び「右側車輪」は、本件補正発明の「走行移動するための車輪」に相当することは明らかである。
引用発明1において、「駆動軸は、前側車輪の回転に伴って回転し、駆動軸の回転によって、育成棚の中央車輪、右側車輪も回転することにより、育成棚の左右方向における車輪に対して駆動力が一定で与えられるため、安定した移動が可能となるものであ」ることからみて、引用発明1の「駆動軸」は、本件補正発明の「車輪を駆動するための駆動軸」に相当する。

ウ 引用発明1において、「駆動モータ用ベルトは、前側車輪と駆動モータを繋ぎ、駆動モータの動力を前側車輪102Fへ伝達し、前側車輪を駆動させ」ることから、「駆動モータ」と「駆動モータ用ベルト」は、「駆動部」ということができる。
さらに、「駆動軸は、前側車輪の回転に伴って回転」するから、「駆動モータ」と「駆動モータ用ベルト」は、前側車輪を介して「駆動軸を駆動している。」
してみると、引用発明1の「駆動モータ」と「駆動モータ用ベルト」と、本件補正発明の「駆動軸を駆動する固定駆動部」とは、「駆動軸を駆動する駆動部」で共通する。

エ 引用発明1の「複数の前記育成棚におけるそれぞれの同じ側に設けられている」「駆動モータ」と、本件補正発明の「前記固定駆動部は、複数の前記育成棚におけるそれぞれの同じ側に設けられている」こととは、「駆動部は、複数の育成棚におけるそれぞれの同じ側に設けられている」ことで共通する。

オ 上記アないしエからみて、本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
〔一致点〕
左右に長手方向を有する育成棚が平行状態として前後方向に複数並べられて多段構成された作物栽培装置であって、
各育成棚には、走行移動するための車輪と、この車輪を駆動するための駆動軸と、この駆動軸を駆動する駆動部と、が設けられ、
前記駆動部は、複数の前記育成棚におけるそれぞれの同じ側に設けられている作物栽培装置。

〔相違点〕
駆動部について、本件補正発明は、固定駆動部と、各育成棚に設けられたそれぞれの固定駆動部に対して着脱可能とされた取外駆動部とに分かれているのに対し、引用発明1は、固定駆動部と、固定駆動部に着脱可能な取外駆動部に分かれていない点。

(4)判断
以下、上記相違点について検討する。
ア 駆動軸を駆動する駆動部において、駆動モータ側(取外駆動部)を着脱可能とすることは、引用文献2または3に記載されているように、本件特許の出願前に周知の技術である。
また、上記周知技術のその他の例として、実願昭51-113100号(実開昭53-31623号)のマイクロフィルム(以下「周知例3」という。)も挙げることができ、周知例3には、「本考案は必要に応じて特定の移動棚に着脱自在にモーターを装着して自動運転を可能にする移動棚に関するものである。」(明細書1頁下から4?2行)、「駆動用モーター10は比較的小型の直流用のものが用いられ、その底面には支持板8に突出した駆動軸20と相対する位置に駆動モーターに軸止されたソケット22が設けられ、底面の隣接する2隅にはマグネットチャック23、23と他の2隅にはサポート24、24が固装されている。」(明細書4頁4?9行)、「また本考案の方式では各移動棚毎にモーターを必要としないので製造価格も安くなり、また本実施例のマグネットチャックを使用すれば着脱自在であるため簡単である。」(明細書12頁1?5行)と記載されている。
したがって、引用発明1の駆動部において、上記周知技術のように、電動モータ側を分離して着脱可能とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
そして、駆動部から駆動モータ側を分離して着脱可能とした場合、分離された側を固定するための固定部となるものが必須の構成であることは自明であるから、駆動モータ側を取外駆動部とし、駆動モータ側以外の部分が固定駆動部となることは、上記周知技術を適用したことによって、必然的に採用されるべき構成である。

イ また、引用発明1において、駆動モータ及び駆動モータ用ベルト(駆動部)は、通常、各育成棚毎に同一な構造を採用するであろうから、駆動モータ側を分離して着脱可能とした場合(取外駆動部とした場合)においても、取外駆動部及び固定駆動部は、各育成棚に、それぞれ同一の構造のものが設けられることとなり、結果的に、取外駆動部は、各育成棚に設けられたそれぞれの固定駆動部に対して着脱可能となると認められる。
この点について、上記周知例2には、【発明が解決しようとする課題】として、「【0008】また、例えば、多くの車椅子を備えている施設においては、ある車椅子から駆動手段を取り外し、この駆動手段を他の車椅子に用いることができるようにすれば、車椅子の数に比べて駆動手段の数が少なくて足りるなど便利であり、つまり、複数の車椅子にたいし駆動手段を共用させることが考えられる。」(上記(2)ウ(ア))と、また、【作用】として、「【0018】・・・ある車椅子1から駆動手段23を取り外しこの駆動手段23を他の車椅子1に取り付けることが容易にできる。」(上記(2)ウ(イ))と記載され、また、上記周知例3には、上記アのとおり「また本考案の方式では各移動棚毎にモーターを必要としないので製造価格も安くなり、また本実施例のマグネットチャックを使用すれば着脱自在であるため簡単である。」と記載されているように、駆動モータ側を着脱可能にすることによって、取外駆動部を複数の固定駆動部のそれぞれに対して着脱可能とすることは、上記周知技術が備える周知な機能ともいえる。

ウ したがって、引用発明1に上記周知技術を適用することによって、上記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

エ 請求人の主張について
(ア)請求人は、審判請求書(3.(2))において、引用文献1には、育成棚100?育成棚700において、駆動モータが同じ側に設けられている点についての示唆や説明はなく、図面の開示状況からみて、駆動モータがどのように取り付けられているかの開示や示唆はないと言える旨、主張している。
しかしながら、上記(2)ア(ク)で説示したとおり、図1、図2、図3、図5からみて、駆動モータが同じ側に設けられていることは、引用文献1に記載されているといえる。
また、意見書(4.)において、例えば複数の育成棚に設けられた固定駆動部に対して、それぞれ取外駆動部を着脱可能である点に想到しえたとしても、『前記取外駆動部は、・・・それぞれの前記固定駆動部に対して着脱可能』とされている点についてまで想到しえるものではないと思料します。」と主張している。
しかしながら、この点についても、上記イで説示したとおり、電動モータを着脱可能としたことによって、必然的に採用されることであって、また、該着脱可能としたことによって奏される周知な機能にすぎない。
よって、請求人の主張は採用できない。

オ 小括
したがって、本件補正発明は、当業者が引用発明1及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明
1 本願発明
平成31年4月8日にされた手続補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成30年11月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2015053927号公報
引用文献2:特開昭59-196009号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開平8-196571号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2014-210155号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1?3の記載事項は、上記第2の[理由]2(2)ア?ウに記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由2]2で検討した本件補正発明から、「前記固定駆動部は、複数の前記育成棚におけるそれぞれの同じ側に設けられている」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-06 
結審通知日 2019-12-10 
審決日 2019-12-25 
出願番号 特願2015-62717(P2015-62717)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A01G)
P 1 8・ 121- Z (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田辺 義拓  
特許庁審判長 秋田 将行
特許庁審判官 大塚 裕一
住田 秀弘
発明の名称 作物栽培装置  
代理人 西澤 和純  
代理人 酒井 太一  
代理人 飯田 雅人  

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