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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1360005
審判番号 不服2016-16991  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-14 
確定日 2020-03-10 
事件の表示 特願2015-508893「β-アミロイドの体外的減少のための新規組成物及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月31日国際公開、WO2013/162387、平成27年 5月28日国内公表、特表2015-515491〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)1月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年4月26日 米国(US)、2013年1月30日 フィリピン(PH))を国際出願日とする特許出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年12月25日 :手続補正書の提出
平成27年11月30日付け:拒絶理由の通知
平成28年 4月 5日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 7月 8日付け:拒絶査定
同年11月14日 :拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書の提 出
平成29年11月 6日付け:拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。 )の通知
平成30年 3月 7日 :意見書及び手続補正書の提出

第2 本願発明について
本願の請求項1?5に係る発明は、平成30年3月7日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載されている事項により特定されるとおりのものであると認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「患者のβアミロイドレベルの誘導に関連する病的症状の治療用の改良された透析液製剤を製造する方法であって、
該方法は、(a)捕捉結合剤としての以下の構造を有する四量体ペプチド及びキャリアを含む組成物を調製する工程と、
(b)前記組成物を透析緩衝液と混合する工程とを含み、
前記キャリアは、ポリ(エチレングリコール)架橋キャリアゲルである方法。



第3 当審拒絶理由について
当審拒絶理由は、要するに、本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である下記引用文献1及び8に基いて、引用文献1に記載の発明を主たる引用発明として当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由(理由1)を含むものである。

引用文献1:米国特許出願公開第2007/0010435号明細書
引用文献8:Current Alzheimer Research,2008年,Vol.5,No.1,p.26-32

第4 当審の認定・判断
1.引用文献の記載事項
引用文献1には、以下の事項(1-1)?(1-7)が記載されている。(なお、引用文献1は英語文献であるため、以下には当審による翻訳文を示す。また、下線は当審による。)

(1-1)「1.患者の体液中の遊離アミロイドβに結合する化合物を、そのような治療を必要とする患者に治療有効量で投与することを含む、アミロイド疾患に罹患した患者を治療する方法。
・・・
16.フィルター、膜又はカラムを介して患者の血液をろ過し、それにより循環するアミロイドβを患者から除去することを含む、そのような治療を必要とする患者のアミロイド疾患を治療する方法。
・・・
27.前記患者の血液をろ過する方法は、血液透析、血漿潅流及び血液濾過から選択されることを特徴とする請求項16に記載の方法。」(Claims)
(1-2)「[0002] 本発明は、ヒトのアミロイド疾患を治療するための方法に関するものである。具体的には、本発明は、体液中のアミロイドβ(Aβ)ペプチドのレベルを低減する方法に関するものであり、例えば、Aβと結合可能な化合物の投与や、遊離のAβを除去するためのカラムや膜を介した血液透析に関している。」
(1-3)「[0003] アミロイド疾患(タンパク質折り畳みの障害)、又はアミロイドーシスは、影響を受ける器官において、異常な不溶性交差βシート繊維やアミロイド堆積物として存在するAβペプチドを含む、ペプチドの蓄積を特徴とするものである。アミロイド疾患としては、限定はしないが、アルツハイマー病、2型糖尿病、ハンチントン病、パーキンソン病、慢性炎症を挙げることができる。・・・」
(1-4)「[0011] 本発明は、アミロイド疾病は、患者の体液からAβペプチドを除去することによって治療することができるという発見に部分的に基づくものである。これは、遊離Aβに結合させるために、Aβと結合する化合物を投与することによって達成できる。遊離Aβは、透析によって患者の血流から除去することもできる。いずれの方法も、影響される器官からのAβ流出をもたらし、結果として患者のアミロイド負荷量を低減することができる。 」
(1-5)「Aβ結合化合物
[0053] 本明細書中のAβ「結合化合物」又はAβ「リガンド」とは、Aβ1-40及びAβ1-42を含む、Aβと結合する分子である。例示的なリガンドは表1に示すとおりであり、モノクローナル抗体やそのフラグメント、合成リガンドなども含まれ、これらはAβに特異的に結合する。
・・・
[0056] 化合物の1つ以上は、第2部分に結合されてもよい。そのような部分は、分解を抑制する、及び/又は半減期を増大する、毒性を減少する、免疫原性を減少する、血液脳関門を越えた輸送を促進する、又はAβリガンドの生物学的活性を増大する、ような分子であり得る。例示的な媒体には、ヒト血清アルブミン、・・・、直鎖状の高分子(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、・・・が含まれる。リガンドは、直接又はリンカーを介して、そのような第2部分に結合することができる。・・・」
(1-6)「透析
[0077] 代替の実施形態では、遊離のAβの低減は、患者に化合物を投与するのではなく、患者の血液からAβタンパク質を除去するために、カラム及び/又は膜を介して患者の血液を透析することによって達成される。・・・
[0079] 血液透析は、進行した慢性の腎不全を治療するために使用される最も一般的な方法である。それは、半透膜によって分離され2区画から構成されている。一方の区画には血液が充填されており、他方には特定のミネラルと水の溶液が充填されている(透析槽と呼ぶ)。・・・
[0080] 本発明で使用するに当たり、Aβ結合化合物は、透析槽に添加される。半透膜は、10,000ダルトンの分子量をカットオフするものであってよい。血液中の可溶性の遊離のAβモノマー及びダイマーは透析槽に拡散し、Aβ結合化合物に結合する。その後、Aβは、拡散によって血液に戻ることはない。」
(1-7)「実施例4
アルツハイマー病患者におけるアポリポ蛋白質E3(ApoE3)血液透析治療
[0128] 本実施例では、透析槽にapoE3を添加して膜を介して血液透析を行った場合と、処置しなかった場合やapoE3を添加せずに血液透析を行った場合とを比較することによって、Aβの血液透析によるアルツハイマー病患者への治療効果を評価する。・・・
・・・
[0130] 組換えapoE3又は脂質化組換えapoE3を、透析槽に添加した。その濃度は、必ずしも、透析装置の血液隔室から拡散する全ての遊離Aβに結合するのに必要とされるよりも大きいか、異なっていなければならないものではない。治療の前に、遊離の血漿中Aβが各患者で測定され、透析槽への添加量は、apoE3のAβに対する公知の親和性を考慮に入れて、そのデータに基づいて算出された。ApoE3は実施例1に記載のように調製された。半透膜は、10,000ダルトンの分子量をカットオフするものである。血液中の可溶性の遊離のAβモノマー、ダイマー及びオリゴマーは透析槽に拡散し、apoE3に結合する。その後、Aβは、拡散によって血液に戻ることはない。」

また、引用文献8には、以下の事項(8-1)?(8-4)が記載されている。(なお、引用文献8は英語文献であるため、以下には当審による翻訳文を示す。また、下線は当審による。)

(8-1)「アルツハイマー病(AD)は、脳に不溶性及び有毒なアミロイドペプチド(Aβ)が沈着することによって引き起こされ、記憶喪失及び他の関連する神経変性症状を引き起こす。今日まで、AD治療の選択肢と戦略は限られている。これまでの研究で、脳から、したがって血液からのアミロイド斑の除去が、疾患の進行を停止及び/又は遅延させるのに有効であり得ることが示されている。 Aβ-42配列に由来する小ペプチド、特にKLVFFは、Aβペプチドの有効な結合剤であることが示されており、したがって疾患の進行を遅延させるのに有用であり得る。本発明者らは、このペプチドのレトロ逆型(RI)であるffvlkを異なるフォーマットで作製することにより、この特性を利用した。我々はポリエチレングリコール(PEG)を用い、RIペプチドと重合かつ架橋した新しいデトックスゲルシステムを提案する。本発明者らは、RIペプチドを組み込んだデトックスゲルは、周囲環境からAβペプチドを捕捉するための「流し台」のように作用するという仮説を立てた。我々は、これらのデトックスゲルのビオチン化Aβ-42ペプチドを捕捉する能力について、インビトロで試験を行った。その結果、デトックスゲルが、効果的かつ不可逆的にAβ-42ペプチドに結合することが確認された。四量体のRIペプチドを組み込んだゲルは、最大の結合能力を示した。このデトックスゲルは、毒性を有するアミロイドペプチドを脳から激減させる治療戦略の潜在的候補であり得る。」(Abstract)
(8-2)「材料及び方法
a)ゲルの調製
プラセボゲルは、8アームのPEG-NH2(MW-10,000)及びVS-PEG-NHS(MW-3、-400、SH-PEG-SHはNektar Therapeutics Inc、ALから)を用いて作製した。2%ゲルについては、約1.5×10^(-6)モルのPEGを使用した。1.2倍のモル比のVS-PEG-NHSを8アームPEG溶液に非常にゆっくり添加(滴下)し、軽く振とうさせて混合し、室温で2時間放置して反応を完了させた。この反応はPEG-VS_(8)を生成し、これを1.5mLのポリプロピレンチューブに分配した。デトックスゲルについては、ゲル当たり4×10^(-7)モルのペプチドを適切な試験管に添加し、反応を6時間進行させた。このようにして、ペプチドを8アームPEGのうち2-3本のアームに付着させた。この時点で、我々はPEG-ペプチド_(3)-VS_(5)を有していた。プラセボ(コントロール)ゲルについては、PB(20mM、pH=8.0)を使用した。反応は2-12時間進行させた。最後の工程のために、3.25×10^(-7)モルの「ジスルフィドリンカー」(HS-PEG_(3、-400)-SH)が各チューブに添加され、混合してゲルを形成させた。ゲルを-4℃で保存し、0.005%アジ化ナトリウムを含むPBに浸漬した。各ゲルは100μlの容量であり、1.5mlのポリプロピレンチューブ内で作製された。全ての実験において2%(PEG)ゲルを使用した。

b)ビオチン化Aβペプチドの結合及び安定性試験
レトロ逆型ペプチド(RI)に対するビオチン化Aβペプチド(1-42及び1-40)の結合能をELISAによって分析した。・・・

c)ペプチドの合成
ペプチド合成及び特性評価は、エール大学のWilliam Keck Foundation Biotechnology Research Laboratoryで行った。ペプチドを逆相HPLCで精製し、MALDI-TOFで分析して構造を確認した。
・・・
5.ネイティブAβペプチドのD-アミノ酸16-20の逆配列であるモノマーRIペプチドを4コピー含む、以下の四量体ペプチド


構造4及び5は、a)全てD-アミノ酸、b)ペプチダーゼ耐性のためのアミド化C-末端、c)並行ペプチド鎖への分枝のためのリジン残基、d)強力な結合のための2又は4コピーの結合ペプチド配列、e)溶解性及び結合のための、各配列のN末端における追加のリジン、f)PEGキャリアーに結合するためのシステイン残基、及び、g)構造の可撓性のための各分岐点でのβアラニン残基、を有する。」(第27頁左欄第14?右欄最下行)
(8-3)「結果
・・・
デトックスゲルへのビオチン化Aβ-42ペプチドの結合
次に、ビオチン化Aβ-42ペプチドのデトックスゲルへの結合を、結合溶液中で調べた。・・・。結果は、RIペプチドを含有するゲルが、Aβ-42を特異的かつ不可逆的に結合することを示した(図2)。このような結合は、ネガティブコントロールのゲルや、スクランブルペプチドを組み込んだゲルでは観察されなかった。・・・。我々は、結合が以下の順序であることを見出した:プラセボゲル<モノマーRIゲル<ダイマーRIゲル<テトラマーRIゲル。・・・

図(2) ビオチン化Aβ-42ペプチドのデトックスゲルへの結合。上述のデトックスゲル(RIゲル)及び対照ゲルを用いて、結合実験を行った。結合アッセイは、方法の項に記載したとおりに行った。予め膨潤させた各ゲルを、リン酸緩衝液(10mM、pH7)、ビオチン化Aβ-42ペプチド(1.5μg/ mL)を含有する結合溶液中、37℃でインキュベートした。試料は、0、30、60、90及び120分で回収した。次いで、ゲルを洗浄し、ビオチン化Aβ-42ペプチドを含まない緩衝液中で37℃で4日目までインキュベートした。材料及び方法の項に記載のとおり、ビオチン化Aβ-42ペプチドの培地への放出を評価するために、1日目及び4日目の終わりにサンプルを回収した。4日目の放出のみ、上に表示する。回収したサンプルを96ウェルプレートに設置し、ELISAによってビオチン化Aβ-42ペプチドを定量した。実験を繰り返し、平均±SE(N=3)として計算し、結合溶液におけるpmol Aβ-42/mLとして表示した。ビオチン化Aβ-42ペプチドの段階的濃度を較正標準として使用した。

放出の評価
各実験の終わりに、(ゲルに結合された)Aβの放出又は培地への逆流についての測定を行った。ゲルを数回洗浄し、PBに数日間入れた。培地の試料を4日後に回収し、Aβ-42を測定した。結果は、4日後でさえ、培地中へのAβ-42ペプチドの放出が無視できるか、全くないことを示した。」(第28頁右欄第13行?第29頁右欄第8行)
(8-4)「ADに対するいくつかの治療様式が提案されている。そのような概念の1つは、その循環レベルを妨害することによって、脳におけるプラークの蓄積を阻害することである[14]。したがって、CNSと末梢でAβが平衡するという前提に基づけば、CNSにおいてAβが蓄積されるのではなく、むしろ除去される方に天秤が傾くということはあり得ることである。我々の仮説はこの考え方に基づいている。我々の仮説的治療戦略は、治療薬がBBBを通過する必要がないということである。代わりに、有毒なAβペプチドがBBBを横断し、末梢において捕捉される。我々の現在の結果は、この戦略を支持している。本研究の主要な成果は、Aβ-42ペプチドを捕捉するためのデトックスデポー剤の結合有効性の決定である。別の成果は、ffvlkレトロ逆型ペプチドのPEGゲル上へのコピー数の増加が、インビトロでAβ-42に結合する能力の増加をもたらすという知見である。これらの結果に基づくと、デトックスゲルは、インビボでのアミロイド線維の会合を妨げるために潜在的に使用される可能性がある。」(第31右欄第9?26行)

2.引用発明の認定
上記記載事項(1-1)及び(1-6)によると、引用文献1には、血液透析によって患者の血液をろ過し、それにより循環するアミロイドβを患者から除去することを含む、アミロイド疾患を治療する方法が記載されており(請求項27及び段落[0077])、特に、上記記載事項(1-6)には、透析槽に「ミネラルと水の溶液」、すなわち、透析液が充填されていること(段落[0079])、当該透析槽にアミロイドβ結合化合物を添加すること(段落[0080])、及び血液中の可溶性の遊離のアミロイドβは、透析槽に拡散し、アミロイドβ結合化合物に結合し、血液に戻ることがないこと(段落[0080])、が記載されている。また、アミロイドβ結合化合物としてapoE3を用いた具体的な実施例も示されている(上記記載事項(1-7))。
そうすると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「アミロイド疾患の治療用の透析液を製造する方法であって、該方法は、アミロイドβ結合化合物を透析槽に添加する工程を含む、方法」

3.対比
以下、本願発明と引用発明とを対比する。

ア 上記記載事項(1-3)によると、引用発明における「アミロイド疾患」には、アルツハイマー病、2型糖尿病、ハンチントン病、パーキンソン病などが包含されているところ、本願明細書段落【0042】の記載によると、本願発明における「βアミロイドレベルの誘導に関連する病的症状」には、アルツハイマー病、糖尿病、パーキンソン病、ハンチントン病などが包含される。したがって、両者は実質的に同じ疾患を意味しているといえ、引用発明における「アミロイド疾患」は、本願発明における「βアミロイドレベルの誘導に関連する病的症状」に相当する。

イ 透析液が緩衝液であることは当業者に自明な事項であるから、引用発明における「透析槽に添加する工程」は、本願発明における「透析緩衝液と混合する工程」に相当する。

ウ 本願発明における「捕捉結合剤としての以下の構造を有する四量体ペプチド及びキャリアを含む組成物」(構造式は省略)は、段落【0071】等の記載からも明らかなように、「βアミロイド」を捕捉するために配合される成分であり、引用発明における「アミロイドβ結合化合物」も、同様に「βアミロイド」を捕捉するための成分であるから、両者は「βアミロイドを捕捉する成分」である点で一致する。

上記ア?ウを総合すると、上記両発明は次の点で一致し、次の点で相違すると認められる。

<一致点>
「患者のβアミロイドレベルの誘導に関連する病的症状の治療用の改良された透析液製剤を製造する方法であって、
該方法は、βアミロイドを捕捉する成分を透析緩衝液と混合する工程を含む、
方法。」

<相違点>
相違点1:
「βアミロイドを捕捉する成分」が、本願発明においては、以下の構造を有する四量体ペプチド(以下、「四量体ペプチドA」という。)及び「ポリ(エチレングリコール)架橋キャリアゲル」を含む「組成物」であるのに対し、引用発明においては、「アミロイドβ結合化合物」である点。


相違点2:
本願発明においては、上記四量体ペプチドAと架橋キャリアゲルを含む組成物を「調製する工程」が含まれていることが特定されているのに対し、引用発明においてはそのことが特定されていない点。

4.相違点についての判断
以下、相違点1及び2についてまとめて検討する。

上記記載事項(8-1)及び(8-4)によると、引用文献8には、Aβ-42ペプチドに結合するデトックスゲルを用いることによって、アルツハイマー病患者の末梢(血液)からアミロイドβを除去して、アルツハイマー病の進行を遅延させることが記載されている。そして、引用文献8では、上記デトックスゲルとして、上記四量体ペプチドAと共にポリエチレングリコールを架橋することによって調製されたデトックスゲル(以下、「四量体Aデトックスゲル」という。)が記載されており(上記記載事項(8-2))、この四量体Aデトックスゲルが、単量体ペプチドや二量体ペプチドを用いたデトックスゲルよりも、Aβ-42に対して優れた結合能を有していることが示されるとともに、不可逆的にAβ-42と結合することも示されている(上記記載事項(8-1)、(8-3))。
ここで、上記四量体Aデトックスゲルは、上記四量体ペプチドAと共にポリエチレングリコールを架橋することによって調製されたデトックスゲルであるから、本願発明における「四量体ペプチドA」及び「ポリ(エチレングリコール)架橋キャリアゲル」を含むとされる「組成物」に相当する。
そこで、引用発明において、上記四量体Aデトックスゲルを調製し、「アミロイドβ結合化合物」として用いることが当業者にとって容易に想到し得たことであったかについて検討する。

この点について、引用文献1には、「アミロイドβ結合化合物」として、apoE3ペプチド等が例示されているものの(上記記載事項(1-5)、(1-7))、上記四量体ペプチドAや、上記四量体Aデトックスゲルを使用し得ることは記載されていない。
しかしながら、引用文献1には、「アミロイドβ結合化合物」が「Aβ1-42」に結合する分子であり得ることが記載されているところ(上記記載事項(1-5))、上述のとおり、上記四量体AデトックスゲルはAβ-42に結合するものであり、上記記載事項(8-2)、特にb)の記載によると、引用文献8における「Aβ-42」が引用文献1における「Aβ1-42」と同じ意味であることは自明であるから、引用発明における「アミロイドβ結合化合物」と上記四量体Aデトックスゲルは、同じ配列に結合する分子であるといえる。
また、上記記載事項(1-2)及び(1-4)によると、引用発明は、アミロイド疾患の患者の体液中の遊離アミロイドβペプチドを「アミロイドβ結合化合物」に結合させることによって体液から除去し、それによってアミロイド疾患を治療するものであるのに対し、上述のとおり、上記四量体Aデトックスゲルも同様に、デトックスゲルにアミロイドβを結合させることによってアルツハイマー病患者の末梢(血液)からアミロイドβを除去し、アルツハイマー病の進行を遅延させるものであるから、両者は同様の技術思想に基づいているといえる。
そして、上述のとおり、上記四量体Aデトックスゲルは、上記四量体ペプチドAと共にポリエチレングリコールを架橋することによって調製されるものであるが、引用文献1には、「アミロイドβ結合化合物」の第2部分として、ポリエチレングリコールのような高分子を用いてもよいことが記載されている(上記記載事項(1-5)、特に段落[0056])。
さらに、引用文献8には、上記四量体Aデトックスゲルが、Aβ-42に対して最も優れた結合能を有しており、その結合が不可逆的であることも示されているのであるから、上記のような結合部位及び技術思想の共通性にも着目しつつ、かかる優れた結合能を期待して、引用発明において、上記四量体Aデトックスゲルを調製し、「アミロイドβ結合化合物」として用いることは、当業者が容易に想到し得た事項と認められる。
そして、本願明細書には、実際に上記四量体ペプチドAや、そのポリエチレングリコール架橋物を用いた具体的な試験結果は示されておらず、本願発明の効果が、引用文献から予測し難い格別なものであるとは認められない。

5.審判請求人の主張について
審判請求人は平成30年3月7日付け意見書において、「本願発明の「能動的な試薬」を用いる方法では、多価の能動的な試薬が、より多量のβアミロイド抗原に結合することができ、同時に結合複合体の全体的な強度を増加させることができ、ひいては、より安定な結合複合体の形成をもたらし、血液中のβアミロイドの90%以上を除去することができるという格別の技術効果を奏します。」と記載し、本願発明の効果が格別である旨主張している。
しかしながら、上述のとおり、引用文献8に記載の上記四量体Aデトックスゲルは、本願発明で用いられる「組成物」と同じものであり、上記記載事項(8-3)、特に図(2)に示されるように、アミロイドβに対して優れた結合能を有することも、引用文献8において既に確認されていることである。さらに、図(2)においては、上記四量体Aデトックスゲルが、約90%程度のアミロイドβを捕捉し得ることが実際に確認されているから、仮に本願発明において、血液中のアミロイドβの90%以上を除去できることが示されたとしても、かかる効果を、引用文献から予測し難い格別な効果と認めることはできない。
よって、審判請求人の上記主張を採用できない。

6.小括
上記のとおり、本願発明は、引用文献1及び8に基いて、引用文献1に記載の発明を主たる引用発明として当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-03-28 
結審通知日 2018-04-03 
審決日 2018-04-17 
出願番号 特願2015-508893(P2015-508893)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金子 亜希牧野 晃久  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
安川 聡
発明の名称 β-アミロイドの体外的減少のための新規組成物及びその製造方法  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
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