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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21F |
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管理番号 | 1360043 |
審判番号 | 不服2019-1787 |
総通号数 | 244 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-04-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-02-07 |
確定日 | 2020-02-21 |
事件の表示 | 特願2012-238353「放射性物質の吸着材の製造方法及び放射性物質の除去方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月13日出願公開、特開2013-117524〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年10月29日(優先権主張平成23年10月31日)の出願であって、平成28年9月29日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成29年2月3日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年7月18日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成29年11月24日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年5月21日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成30年7月27日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年10月24日付けで拒絶査定がなされ、同査定の謄本は平成30年11月7日に請求人に送達された。これに対して、平成31年2月7日受付の拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成31年2月20日付けの手続補正指令書(方式)(謄本発送日平成31年2月27日)が通知され、これに対して、平成31年4月5日に手続補正書(方式)が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?5に係る発明は、平成30年7月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1?3に係る発明(以下「本願発明1」などという。)は次のとおりのものである(下線は補正箇所を表す。)。 「【請求項1】 桐を、無酸素囲気中にて、撹拌しながら、250℃?700℃の範囲の温度にて炭化して天然の微細構造を維持した炭化物を作成し、当該炭化物を粉砕して放射性物質の吸着材を作成することを特徴とするヨウ素、セシウム及びストロンチウム放射性物質の吸着材の製造方法。 【請求項2】 もみ殻を、無酸素囲気中にて、撹拌しながら、300℃?700℃の範囲の温度にて炭化して天然の微細構造を維持した炭化物を作成し、当該炭化物を粉砕して放射性物質の吸着材を作成することを特徴とするヨウ素、セシウム及びストロンチウム放射性物質の吸着材の製造方法。 【請求項3】 杉を、無酸素囲気中にて、撹拌しながら、300℃?700℃の範囲の温度にて炭化して天然の微細構造を維持した炭化物を作成し、当該炭化物を粉砕して放射性物質の吸着材を作成することを特徴とするヨウ素、セシウム及びストロンチウム放射性物質の吸着材の製造方法。」 (本願発明の判断の基準日について) この出願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴い、平成23年10月31日に出願した特願2011-239167号を先の出願として、平成24年10月29日に出願されたものである。 しかしながら、本願発明1?3を特定するための事項である「ストロンチウム放射性物質」を吸着することは、上記先の出願(特願2011-239167号)の願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書又は図面に記載されていないため、本願発明1?3は、現実の出願日である平成24年10月29日を基準として特許法第29条に係る判断をしている。 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、 本願発明1?3は、本願出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、引用文献1、3に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、 というものを含んでいる。 引用文献1:特開2007-286023号公報 引用文献3:国際公開第2011/096444号 引用文献5:小林真、木炭・竹炭を用いた土壌中からの放射性セシウムの除去の可能性、大気環境学会誌、日本、公益社団法人大気環境学会、2011年9月12日、第46巻第4号,P.217-223 第4 引用例に記載された事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された引用文献は、次のとおりである。 引用例1 原査定の上記引用文献1 引用例2 原査定の上記引用文献3 引用例3 原査定の上記引用文献5 1 引用例1 (1)引用例1に記載の事項 引用例1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審にて付与。以下同様。)。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、原子力発電所、研究所、病院などで核燃料を使用する設備の排気もしくは換気系などの気相中に含まれる放射性よう素および放射性よう素化合物を捕集するために用いる吸着材に関するものである。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0003】 従来、添着活性炭は、400℃程度で低温炭化されたヤシガラ炭をさらに800℃から900℃の高温度中で水蒸気賦活処理後、よう化カリウムまたはよう化第一すずあるいはテトラエチレンジアミンなどの添着剤の溶液に浸漬後、乾燥させて製造されるという手間の掛かる製造工程を経たものであるため、経費が掛かり、大変高価なものとなっていた。 【0004】 また、近年、原料であるヤシガラ炭は海外からの輸入であるため、将来に渡り安定した供給と、また、これまでのような低価格で入手できるということの保証は無く多少の不安が残る状況となってきている。 【0005】 本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、その目的とするところは、身近にあってしかも安価に得られる豊富な木質系材料を吸着材の素材として用いようとすることであり、さらには手間の掛からない簡単な製造方法で生産できる放射性よう素およびその化合物の吸着材を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0006】 上記目的を達成するために、本発明者らは、豊富に得られる身近な木質系材料として、国内各地の山間部に放置されているスギ間伐材や、里山で繁茂し利用先を求められている竹材に着目したものである。そして、これらの木質系材料の木炭および竹炭(以下これらを炭化物という)は、炭化温度によって固有の性質・特性を大きく変化させることは公知のことであり、既に、本発明者らは溶液中におけるよう素吸着量に対しては炭化温度:500℃?800℃のヒノキ木炭が最大値を示すとの結論を実験的に得ていることから(加藤、山根、石原:第5回廃棄物学会研究発表会講演論文集、p.182(1994))、気相中の放射性よう素および放射性よう素化合物に対してもこの範囲における特定の炭化温度で優れた吸着性能を示すはずであるとの推測で、鋭意試験研究を行なった結果、その事実を確認したことにより本発明の完成に至ったものである。 【0007】 すなわち、スギ材および竹材の木質系材料を500℃?800℃の炭化温度で炭化して得られた炭化物が気相中の放射性よう素化合物に対して最も優れた吸着性能を示したころ(審決注;「こと」の誤記と認める。)から、この炭化温度の範囲で得られた炭化物を気相中の放射性よう素および放射性よう素化合物の吸着・捕集材として用いることを特定事項とするものである。 【0008】 一般的に、スギ材、竹材などの木質系材料は、不活性もしくは低酸素濃度の雰囲気で加熱されると、水分蒸発?熱分解・炭化?炭素化という過程を経て炭化物になるが、200℃を超えたあたりから材料自身を構成する多糖類のセルロースやヘミセルロースと芳香族重合化合物のリグニンなどの有機物の熱分解が徐々に起こり始めて、300℃?400℃程度までに急激な質量減少を起こす。その後の800℃程度までは緩やかな質量減少となり、1000℃近くまで極僅かながら減少するという変化を辿る。この変化の過程では、炭化物中の固定炭素の含有率は次第に高くなり、加熱温度(炭化温度という)に対する固定炭素の含有率を示す線図において、400℃を過ぎたあたりの500℃?800℃の範囲で変曲点を示すようになる。 【0009】 すなわち、上記500℃?800℃の温度域の木炭化の過程では、生じた熱分解物の主鎖の切断および解重合や縮重合によって芳香族化が起こり、さらには架橋反応によって多環芳香族化合物の扁平は微小炭素体が形成されるなどの活発な化学反応や物理的変化が起こっている。そのため、炭化温度:500℃?800℃の炭化物の表面や内部は非常に活性な状態にあって、官能基および吸着に適した細孔などが多数存在すると推測され、気相中の放射性よう素およびその化合物は容易に化学的もしくは物理的に吸着・捕集されることになる。 【0010】 また、このときの炭化物内部の炭素構造は、前記微小炭素体が数層に重なり合って数Åの大きさになったもの(これを結晶子という)の集合体であって、とくに上記温度範囲ではこの集合体の構成の状態は微妙に変化して炭化物の性質・特性に強く影響を及ぼす結果となることから、目的とする性質・機能を有する炭化物を製造するためには、これらの木質系材料を加熱する炭化温度や炭化時間および雰囲気を正確に制御できるようにする。 【0011】 すなわち、これらの炭化物は、前述した材料内部における化学的・物理的変化が確実に進行するよう加熱処理されることであって、そのためには材料が上記水分蒸発?熱分解・木炭化?安定化(ここでは炭素化を炭素構造の安定化とし安定化という)の過程を経るようプログラム管理された製造方法とすることである。」 ウ 「【0016】 図1は、本発明の実施形態に係わる吸着材の製造に用いる炭化処理プログラムであって、炭化炉内の温度もしくは材料の温度と処理時間の関係を示したものである。この場合の温度と時間は予め設定したプログラムによって管理される値であって、計測される温度は炭化される木質系材料(以下、これを被処理材という)自身の温度とすることが望ましい。このプログラムは被処理材が乾燥?熱分解・木炭化?安定化?自然冷却の工程を経るよう設定されるものである。 【0017】 先ず吸着材の素材となる被処理材の適当量を炭化炉内に充填し、外気温から100℃程度(ステップ1)まで、t1時間かけて徐々に昇温させる。この時間:t1は、被処理材の大きさおよび充填量によって決められるが、通常は1時間?3時間程度とする。 【0018】 上記被処理材が100℃程度近くに到達したら、この被処理材中に含まれる水分をさらに蒸発させるため、この温度を所定のt2時間(ステップ2)まで保持するようプログラムを設定する。この時間:t1?t2も被処理材の大きさ、充填量および含水率によって決められ、通常は1時間?3時間程度でよいが、例えば直径10cmの丸太で、60%と高い含水率の場合には、半日程度の長時間を必要とすることもある。 【0019】 上記被処理材の乾燥が終了すると熱分解・木炭化の工程に入り、被処理材を本発明の吸着材を製造する炭化温度(ステップ3)まで昇温させる。本発明の吸着材の製造において、この段階が最も重要な工程であって、上記被処理材の内部で起こる有機物の熱分解と解重合・縮重合および芳香族化、架橋結合などによって炭化物の構成要素である微小炭素体が多数形成されて行く。このステップ3の炭化温度としては500℃?800℃の範囲の温度が選らばれるが、実験からは600℃が最も好ましい炭化温度である。実際に本発明者らは、炭化温度:600℃のスギ木炭について、この微小炭素体が著しく発達している状況を透過型電顕写真の観察で確認している。このステップ3の炭化温度を与える時間:t2?t3は、最も的確に設定されなければならない時間であって、通常ならば昇温速度が2℃/min?3℃/minとなるよう、4時間?5時間程度となるが、被処理材の大きさによってはこれより長く設定されることもある。 【0020】 上記被処理材の熱分解・木炭化の工程を終了するとステップ4の安定化の工程に入る。ここは、被処理材内部で起こる種々の化学的・物理的変化を被処理材全体にむらなく均一に起こさせるための工程であって、炭化炉内もしくは被処理材自身の温度を、本発明の吸着材を製造する炭化温度を所定時間のt4まで維持する。この時間:t3?t4は1時間以上が必要であり、通常は2時間程度とする。 【0021】 このステップ4の後は、炭化物となった被処理材を炭化炉内から取出すことになるが、炉内温度が50℃程度に到達するまで炉内を自然冷却する。この時間:t4?t5は、外気温度により異なるものの通常であれば半日?1日程度となる。強制的に冷却すればこの時間はさらに短縮することもできる。 【0022】 以上の手順で製造された本発明の炭化物を、本発明の吸着材として用いるには、これらを破砕して適当大きさの粒径、もしくは粉末に調製するか、あるいは粉末に調製後、適当なバインダーを添加して圧縮成形して造粒すればよいし、あるいは特定の形状・大きさの板状体、ブロック体、ハニカム状体などに成形して用いてもよく、使用形態について特に限定するものではない。」 エ 「【0031】 また、上記500℃?800℃の温度範囲においても、これを厳密なる限定範囲とするものではなく、これの±100℃程度の範囲は本発明の実施形態と同様の思想考え方となるものである。」 (2)引用例1に記載の発明の認定 上記(1)に記載された事項からみて、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 引用発明1 「放射性よう素および放射性よう素化合物を捕集するために用いる吸着材に関し、 スギ材の木質系材料を500℃?800℃の炭化温度で炭化して得られた炭化物が気相中の放射性よう素化合物に対して最も優れた吸着性能を示したことから、この炭化温度の範囲で得られた炭化物を気相中の放射性よう素および放射性よう素化合物の吸着・捕集材として用いることを特定事項とし、 スギ材などの木質系材料は、不活性もしくは低酸素濃度の雰囲気で加熱されると、水分蒸発?熱分解・炭化?炭素化という過程を経て炭化物になるが、加熱温度(炭化温度という)に対する固定炭素の含有率を示す線図において、400℃を過ぎたあたりの500℃?800℃の範囲で変曲点を示すようになり、すなわち、上記500℃?800℃の温度域の木炭化の過程では、生じた熱分解物の主鎖の切断および解重合や縮重合によって芳香族化が起こり、さらには架橋反応によって多環芳香族化合物の扁平は微小炭素体が形成されるなどの活発な化学反応や物理的変化が起こり、そのため、炭化温度:500℃?800℃の炭化物の表面や内部は非常に活性な状態にあって、官能基および吸着に適した細孔などが多数存在すると推測され、気相中の放射性よう素およびその化合物は容易に化学的もしくは物理的に吸着・捕集されることになり、 これらの炭化物は、前述した材料内部における化学的・物理的変化が確実に進行するよう加熱処理されることであって、そのためには材料が水分蒸発?熱分解・木炭化?安定化(ここでは炭素化を炭素構造の安定化とし安定化という)の過程を経るようプログラム管理された製造方法とし、 これらの炭化物を、吸着材として用いるには、これらを破砕して適当大きさの粒径、もしくは粉末に調製するか、あるいは粉末に調製後、適当なバインダーを添加して圧縮成形して造粒すればよいし、あるいは特定の形状・大きさの板状体、ブロック体、ハニカム状体などに成形して用いてもよく、使用形態について特に限定するものではない、 放射性よう素および放射性よう素化合物を捕集するために用いる吸着材の製造方法。」 2 引用例2 (1)引用例2に記載の事項 引用例2には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「[請求項1]入口及び出口を有すると共に一連の内部空間で炭化される材料(以下「被炭化原料」という)の乾燥・熱分解・蓄熱をこの順で行う一つのキルンの前記内部空間に被炭化原料を供給し、該内部空間に供給された被炭化原料を、外部から酸素を導入させることのない還元雰囲気状態で間接加熱しつつ被炭化原料に蓄熱して含水率を低減したうえで、被炭化原料を間接加熱分解させることで炭化処理を行った炭からなる油乃至ガスの吸着材の製造方法。 [請求項2]前記炭化物は、籾殻炭又は桐炭であることを特徴とする請求項1記載の油乃至ガスの吸着材の製造方法。 ・・・ [請求項4]ガスの吸着材が、籾殻炭からなる場合の前記炭化処理の温度は300?700℃であり、桐炭からなる場合の前記炭化処理温度は300?700℃である請求項1乃至3のいずれか1項記載の油乃至ガスの吸着材の製造方法。 ・・・ [請求項14]キルンの内周面には、キルンの長手方向に沿って螺旋状に延びる螺旋羽を有するとともに、内方に突出する攪拌羽を一以上有することを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項記載の油乃至ガスの吸着材の製造方法。」 イ 「発明が解決しようとする課題 [0016]本発明は、例えば籾殻やおがくず等の有機物を連続的な炭化により製造することが可能であり、優れた油吸着性やガス吸着性を有する油乃至ガス吸着材を提供することを目的とする。」 ウ 「[0083]攪拌羽1bは、複数個設けてもよい。図5に示す例では3個設けてある。また、傾きθを設けておく。なお、θは接線との間の角度としてある8図6)。この傾きθは、有機物の水分含有量によって適宜変化させればよい。図5に示す例では、θ=60゜としてある。撹拌羽1bが傾きを有しない場合(すなわち、θ=90°の場合)には、 撹拌羽で救い上げた炭化素材(例えば籾殻P)はその水分含有量に関係なく必ず水平位置まで持ち上げられる。すなわち、水分含有量がほとんど無くとも水平位置にいたるまで炭化素材は落下しない。また、θ=90°の場合には、含水率に関係なく、戻り量は一定の値になってしまう。特に、乾燥の必要がない炭化素材も戻るため、必要以上の乾燥が行われてしまう。その分炭化途中でキルンから出てしまい品質の劣化した炭化物が生成されるおそれが生じる。 それに対して、含水量あるいは炭化素材の種類に応じた粘着力に応じてθを適宜の値に設定すれば、戻し量を任意の量に制御することが可能となる。乾燥しずらいものはθを大きくとればよい。 なお、θは、鋭角に限らず鈍角としてもよい。戻し量に対応したθを設定する。戻し量とθとの関係は予め実験などにより求めておけばよい。 なお、含水量が多い場合には、炭化素材をすくい上げてから頂点に達しても落下しないようにする場合もある。なお、好ましくは、30°<θ<90°である。 また、下流にいくほど含水量は減少するため上流側より下流側のθを小さくすればより短時間での炭化物の製造が可能となる。 ・・・ [0084] 攪拌羽1bは、キルン2の長手方向に、連続的に設けてもよくまた、間欠的に設けてもよい。製造上の容易性などを考慮して適宜選択すればよい。 [0085] 図6に示すように、キルンが回転すると、周内面に設けられた攪拌羽1bによって有機物は、上に持ち上げられる。水分含有量が高い有機物は、粘着性が高い有機物であり、水分含有量が低い有機物は粘着性が低い有機物である。 [0086] 従って、水分含有量が高い有機物は、水分含有量が低い有機物よりも高い位置まで持ち上げられる。図6(A)上段が水分含有量が高い場合であり、図6(B)下段が水分含有量が低い場合である。図6(A)の場合は、高い位置まで持ち上げられた後に有機物は落下する。それに対して図6(B)の場合は、低い位置において有機物は落下する。高い位置から落下した場合には、図6(A)に示すように後ろに戻る有機物は多い。その結果、乾燥工程に滞在する時間は長くなる。一方、低い位置から落下した場合には、後ろに戻る有機物は少ない。その結果、乾燥工程に滞在する時間は短くなる。 [0087] なお、この構造では、攪拌羽の長手方向の間隔は、上流側が下流側よりも大きくすればより滞在時間の差異を大きくすることができる。 [0088] また、この構造では、有機物の水分含有量のみならず、キルン内への有機物の供給量によって羽根の突出量を変化させることにより最適な再生炭を実現することができる。」 エ 「[0125] 上記再生炭の顕微鏡写真を図8?図14に示す。 [0126] いずれの例においても多孔質状態及び繊維質状態を示しており、炭化が極めて良好に行われたことを示している。 ・・・ [0135] この際、籾殻炭の油吸着性能を高めるためには、籾殻の骨格組織が炭化したときに残る細孔構造をきれいな状態で残す必要がある。 「0136」 そこで、内部空間における炭化温度を、300?600℃の範囲で100℃単位で変化させ、その炭化後の細孔構造を、拡大して確認したところ、図15?図18に示すように、400℃、500℃、600℃において、概ね良好な細孔構造を得ることが確認できた。」 オ 上記アにおける「[請求項2]前記炭化物は・・・」の「炭化物」は、[請求項1]における「炭化処理を行った炭」を意味していることは明らかである。 (2)引用例2に記載の発明の認定 上記(1)に記載された事項からみて、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 引用発明2 「入口及び出口を有すると共に一連の内部空間で炭化される材料(以下「被炭化原料」という)の乾燥・熱分解・蓄熱をこの順で行う一つのキルンの前記内部空間に被炭化原料を供給し、該内部空間に供給された被炭化原料を、外部から酸素を導入させることのない還元雰囲気状態で間接加熱しつつ被炭化原料に蓄熱して含水率を低減したうえで、被炭化原料を間接加熱分解させることで炭化処理を行い、 炭化処理を行った炭が、籾殻炭からなる場合の前記炭化処理の温度は300?700℃であり、桐炭からなる場合の前記炭化処理温度は300?700℃であり、 キルンの内周面には、キルンの長手方向に沿って螺旋状に延びる螺旋羽を有するとともに、内方に突出する攪拌羽を一以上有し、 炭は、多孔質状態及び繊維質状態を示しており、炭化が極めて良好に行われ、 籾殻炭の油吸着性能を高めるためには、籾殻の骨格組織が炭化したときに残る細孔構造をきれいな状態で残す必要がある、 炭からなる油乃至ガスの吸着材の製造方法。」 3 引用例3 引用例3には、次の事項が記載されている。 「1. はじめに ・・・ 2011年3月11日の東北関東大地震を切っ掛けとし、福島第一原子力発電所から大量の放射性物質(^(131)I、^(137)Csなど)が放出され、大気や土壌、水、そして植物体などの生態系要素を汚染し始めた(原子力安全保安院,2011)。」(217頁左欄1行?5行) 第5 対比、判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明2を対比する。 ア 引用発明2は、「桐炭からなる場合」とあるから、「桐」を炭化させていることは明らかであり、また、「外部から酸素を導入させることのない還元雰囲気状態で・・・炭化処理を行」うので、本願発明1の「桐を、無酸素囲気中にて」「炭化して」「炭化物を作成し」との構成を有している。 イ 引用発明2は、「キルンの内周面には、・・・内方に突出する攪拌羽を一以上有する」ので、被炭化材料を攪拌していることは明らかであるから、本願発明1の「撹拌しながら」との構成を有している。 ウ 引用発明2は、「桐炭からなる場合の前記炭化処理温度は300?700℃であ」るから、本願発明1の「250℃?700℃の範囲の温度にて炭化して」との構成を満たしている。 エ 引用発明2の「油乃至ガスの吸着材」は、本願発明1の「ヨウ素、セシウム及びストロンチウム放射性物質の吸着材」と、「吸着材」の点で共通する。 オ 上記ア?エから、本願発明1と引用発明2とは、 以下の点で一致・相違する。 (一致点) 「桐を、無酸素囲気中にて、撹拌しながら、250℃?700℃の範囲の温度にて炭化して炭化物を作成し、吸着材を作成する、吸着材の製造方法。」 (相違点1) 炭化物に関して、本願発明1は「天然の微細構造を維持し」ているのに対し、引用発明2は「多孔質状態及び繊維質状態を示しており、炭化が極めて良好に行われ、籾殻炭の油吸着性能を高めるためには、籾殻の骨格組織が炭化したときに残る細孔構造をきれいな状態で残す必要がある」点。 (相違点2) 炭化物に関して、本願発明1は「粉砕して」いるのに対し、引用発明2はそのような特定がなされていない点。 (相違点3) 吸着材に関して、本願発明1は「ヨウ素、セシウム及びストロンチウム放射性物質の吸着材」であるのに対し、引用発明2は「油乃至ガスの吸着材」である点。 (2)判断 ア 相違点1について 引用発明2において、「多孔質状態及び繊維質状態を示しており、炭化が極めて良好に行われ」ていること、また、「籾殻の骨格組織が炭化したときに残る細孔構造をきれいな状態で残す必要がある」ことから、桐を炭化する場合にも、同様に炭化が行われ、桐の骨格組織が炭化したときに残る細孔構造が残っていると解されるから、「天然の微細構造を維持し」ているといえる。 したがって、相違点1は実質的な相違点であるとはいえない。 仮に、相違点であるとしても、炭を吸着材として用いる場合に、細孔構造が必要であることは技術常識であるから、「天然の微細構造を維持」するようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。 イ 相違点2について 吸着材として用いる際に、使用形態等を勘案して、吸着材を粉砕することは、引用文献1に記載されているように常套手段にすぎず、引用発明2において、吸着材を粉砕することは当業者が必要に応じて適宜選択しうる設計事項にすぎない。 ウ 相違点3について 炭等の吸着材で放射性物質を吸着することは、引用文献1に記載されており、引用発明2の吸着材も、引用文献1に記載されたものと同様の炭から構成されているわけであるから、当該吸着材を放射性物質の吸着材として用いるようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。 そして、核燃料の使用から発生する放射性物質としては、引用文献1に記載されたヨウ素だけではなく、セシウム、ストロンチウムも当業者に広く知られているから(例えば、引用例3参照)、吸着材の対象としてヨウ素に加えて、セシウム及びストロンチウムを選択することは格別なこととはいえず、当業者が適宜選択しうる事項である。 また、本願発明1は、引用発明2と比較して、上記相違点1、2は一応存在するものの、炭化物として、放射性物質の吸着性に影響を与えるような大きな差異があるとはいえず、本願発明1と引用発明2の間に、放射性物質の吸着性に関する効果について顕著な差異はないというべきであり、本願発明1の効果は、引用発明2及び周知技術から当業者が予測しうる程度のものである。 加えて、本願発明1において、吸着材の対象としてヨウ素、セシウム及びストロンチウムを選択していることにより、本願発明1の製造方法自体に特別な手段や方法を追加しているとはいえず、上記吸着材の対象の限定が、本願発明1の製造方法の構成に何らかの影響を与えているとはいえない。 エ したがって、本願発明1は、引用発明2及び引用文献1に記載された事項から当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。 2 本願発明2について (1)対比 本願発明2と引用発明2を対比する。 ア 引用発明2は、「籾殻炭からなる場合」とあるから、「籾殻」を炭化させていることは明らかであり、また、「外部から酸素を導入させることのない還元雰囲気状態で・・・炭化処理を行」うので、本願発明2の「もみ殻を、無酸素囲気中にて」「炭化して」「炭化物を作成し」との構成を有している。 イ 引用発明2は、「キルンの内周面には、・・・内方に突出する攪拌羽を一以上有する」ので、被炭化材料を攪拌していることは明らかであるから、本願発明2の「撹拌しながら」との構成を有している。 ウ 引用発明2は、「籾殻炭からなる場合の前記炭化処理の温度は300?700℃であ」るから、本願発明2の「300℃?700℃の範囲の温度にて炭化して」との構成を満たしている。 エ 引用発明2の「油乃至ガスの吸着材」は、本願発明2の「ヨウ素、セシウム及びストロンチウム放射性物質の吸着材」と、「吸着材」の点で共通する。 オ 上記ア?エから、本願発明2と引用発明2とは、 以下の点で一致・相違する。 (一致点) 「もみ殻を、無酸素囲気中にて、撹拌しながら、300℃?700℃の範囲の温度にて炭化して炭化物を作成し、吸着材を作成する、吸着材の製造方法。」 (相違点4) 炭化物に関して、本願発明2は「天然の微細構造を維持し」ているのに対し、引用発明2は「多孔質状態及び繊維質状態を示しており、炭化が極めて良好に行われ、籾殻炭の油吸着性能を高めるためには、籾殻の骨格組織が炭化したときに残る細孔構造をきれいな状態で残す必要がある」点。 (相違点5) 炭化物に関して、本願発明2は「粉砕して」いるのに対し、引用発明2はそのような特定がなされていない点。 (相違点6) 吸着材に関して、本願発明2は「ヨウ素、セシウム及びストロンチウム放射性物質の吸着材」であるのに対し、引用発明2は「油乃至ガスの吸着材」である点。 (2)判断 ア 相違点4について 引用発明2において、「多孔質状態及び繊維質状態を示しており、炭化が極めて良好に行われ」ていること、また、「籾殻の骨格組織が炭化したときに残る細孔構造をきれいな状態で残す必要がある」ことから、「天然の微細構造を維持し」ているといえる。 したがって、相違点4は実質的な相違点であるとはいえない。 仮に、相違点であるとしても、炭を吸着材として用いる場合に、細孔構造が必要であることは技術常識であるから、「天然の微細構造を維持」するようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。 イ 相違点5について 相違点5は、上記相違点2と同様であるから、上記1(2)イと同様である。 ウ 相違点6について 相違点6は、上記相違点3と同様であるから、上記1(2)ウと同様である。 エ したがって、本願発明2は、引用発明2及び引用文献1に記載された事項から当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。 3 本願発明3について (1)対比 本願発明3と引用発明1を対比する。 ア 引用発明1の「スギ材」は、本願発明3の「杉」に相当する。 イ 引用発明1において「不活性もしくは低酸素濃度の雰囲気で加熱される」ことから、当該構成は、本願発明3の「無酸素囲気中にて」に相当する。 ウ 引用発明1において「500℃?800℃の炭化温度で炭化して」いることから、当該構成は、本願発明3の「300℃?700℃の範囲の温度にて炭化して」「炭化物を作成し」との構成を満たしている。 エ 引用発明1において「これらの炭化物を、吸着材として用いるには、これらを破砕して適当大きさの粒径、もしくは粉末に調製する」ことから、当該構成は、本願発明1の「炭化物を粉砕して」に相当する。 オ 引用発明1の「放射性よう素および放射性よう素化合物を捕集するために用いる吸着材」は、本願発明1の「ヨウ素、セシウム及びストロンチウム放射性物質の吸着材」と、「ヨウ素放射性物質の吸着材」の点で共通する。 カ 上記ア?オから、本願発明3と引用発明1とは、 以下の点で一致・相違する。 (一致点) 「杉を、無酸素囲気中にて、300℃?700℃の範囲の温度にて炭化して炭化物を作成し、当該炭化物を粉砕して放射性物質の吸着材を作成する、ヨウ素放射性物質の吸着材の製造方法。」 (相違点7) 本願発明3は「撹拌しながら」炭化しているのに対し、引用発明1はそのような特定がなされていない点。 (相違点8) 炭化物に関して、本願発明3は「天然の微細構造を維持し」ているのに対し、引用発明1は「炭化物の表面や内部は非常に活性な状態にあって、官能基および吸着に適した細孔などが多数存在すると推測され、気相中の放射性よう素およびその化合物は容易に化学的もしくは物理的に吸着・捕集されることにな」る点。 (相違点9) 吸着材に関して、本願発明3は「ヨウ素、セシウム及びストロンチウム放射性物質の吸着材」であるのに対し、引用発明1は「放射性よう素および放射性よう素化合物を捕集するために用いる吸着材」である点。 (2)判断 ア 相違点7について 炭化するに際し、乾燥や炭化の程度を調整するために撹拌することは、引用文献2に記載されているように(第4の2(1)ウ参照)、常套手段にすぎず、引用発明1の炭化の工程において、撹拌を行うようにすることは当業者が当業者が必要に応じて適宜設定しうる設計事項にすぎない。 イ 相違点8について 引用発明1において、「炭化物の表面や内部は非常に活性な状態にあって、官能基および吸着に適した細孔などが多数存在すると推測され、気相中の放射性よう素およびその化合物は容易に化学的もしくは物理的に吸着・捕集される」ようにしていることから、炭化物の細孔が存在できるように製造していることは明らかであり、杉本来の天然の微細構造が維持されている蓋然性がきわめて高い。したがって、相違点8は実質的な相違点であるとはいえない。 仮に、相違点であるとしても、引用発明1は「吸着に適した細孔などが多数存在する」ようにしているから、杉本来の「天然の微細構造を維持」するようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。 ウ 相違点9について 核燃料の使用から発生する放射性物質としては、引用発明1におけるヨウ素だけではなく、セシウム、ストロンチウムも当業者に広く知られているから(例えば、引用例3参照)、吸着材の対象としてヨウ素に加えて、セシウム及びストロンチウムを選択することは格別なこととはいえず、当業者が適宜選択しうる事項である。 そして、本願発明3は、引用発明1と比較して、上記相違点7、8は一応存在するものの、炭化物として放射性物質の吸着性に影響を与えるような大きな差異があるとはいえず、本願発明3と引用発明1の間に、放射性物質の吸着性に関する効果について顕著な差異はないというべきであり、本願発明3の効果は、引用発明1から当業者が予測しうる程度のものである。 加えて、本願発明3において、吸着材の対象としてヨウ素、セシウム及びストロンチウムを選択していることにより、本願発明1の製造方法自体に特別な手段や方法を追加しているとはいえず、上記吸着材の対象の限定が、本願発明1の製造方法の構成に何らかの影響を与えているとはいえない。 エ したがって、本願発明3は、引用発明1から当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。 4 請求人の主張について 請求人は、平成31年4月5日付け手続補正書において、 「3.本願が特許されるべき理由 ●理由1(特許法第29条第2項)について 本願請求項発明は、本願所定の製法で作成した炭化物は、ヨウ素、セシウムのみならずストロンチウムの吸着特性を有していることを見出し、ヨウ素、セシウム及びストロンチウム放射物質の吸着剤という用途の拡大を図ったところに特徴を有しています。 特性の発見に基づく用途の拡大については進歩性が認められることについては多くの判例が認めるところであります。 なお、本願所定の製法で作成した炭化物が何故かかかる特性を有するに至るかは不明であるが、撹拌をと伴うため桐などから発生する水あるいは水蒸気が桐などから脱離し、健全な炭化が進行するためではないかと推測される。」 旨主張している。 当該主張について検討するに、上記1(2)ウ、2(2)ウ、3(2)ウで説示したように、炭等の吸着材で放射性物質を吸着することが引用文献1に記載されており、さらに、核燃料の使用から発生する放射性物質としては、ヨウ素だけではなくセシウム、ストロンチウムも当業者に広く知られていることから、その吸着対象として、ヨウ素、セシウム、ストロンチウムを選択することは格別のこととはいえない。また、吸着対象として、ヨウ素、セシウム、ストロンチウムを選択した場合の効果についても、本願発明1?3の吸着材としての炭化物及びその製造方法は、引用発明1又は2の炭化物及びその製造方法と、吸着性に影響を与える部分において実質的に相違しないから、顕著な効果の差異もないというべきであり、本願発明の効果は、引用発明1又は2から、当業者が予測しうる程度のことにすぎない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1?3は、引用文献1、2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-12-23 |
結審通知日 | 2019-12-25 |
審決日 | 2020-01-08 |
出願番号 | 特願2012-238353(P2012-238353) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G21F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 林 靖、▲吉▼川 康史 |
特許庁審判長 |
小松 徹三 |
特許庁審判官 |
星野 浩一 井上 博之 |
発明の名称 | 放射性物質の吸着材の製造方法及び放射性物質の除去方法 |
代理人 | 福森 久夫 |
代理人 | 福森 久夫 |