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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1360069
審判番号 不服2018-10537  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-02 
確定日 2020-02-18 
事件の表示 特願2016- 20736「十字靱帯温存型人工膝関節」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 7月14日出願公開、特開2016-127949〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年1月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年9月13日(米国) 2010年1月29日(米国) 2010年8月11日(米国))を国際出願日とする特願2012-551320の一部を平成28年2月5日に新たな特許出願としたものであって、その手続きの主な経緯は以下のとおりである。
平成28年10月 3日付け:拒絶理由通知
平成29年 4月 7日 :意見書、手続補正書の提出
同年 5月31日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知
同年12月 5日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 3月23日付け:拒絶査定
同年 8月 2日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出


第2 平成30年8月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年8月2日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
脛骨の近位部分を少なくとも部分的に置換するための脛骨プロテーゼであって、
(a)前記脛骨の前記近位部分上の切除済み表面に接触するための下方表面と、
(b)前記近位脛骨に形成された空洞部の中に貫通するためのキールであって、前記下方表面から離れるように下方後方角度で延在するキールと、
を備える、前記脛骨プロテーゼにおいて、
前記脛骨プロテーゼの前記下方表面には、セメントマントルを収容するための1つ又は複数の多孔性のポケットが設けられており、前記ポケットが、インプラントと前記セメントマントルとの間における接触面積を増大させるための手段を備えている、脛骨プロテーゼ。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成29年12月5日に補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
脛骨の近位部分を少なくとも部分的に置換するための脛骨プロテーゼであって、
(a)前記脛骨の前記近位部分上の切除済み表面に接触するための下方表面と、
(b)前記近位脛骨に形成された空洞部の中に貫通するためのキールであって、前記下方表面から離れるように下方後方角度で延在するキールと、
を備える、前記脛骨プロテーゼにおいて、
前記脛骨プロテーゼの前記下方表面には、セメントマントルを収容するための1つ又は複数のポケットが設けられており、前記ポケットが、インプラントと前記セメントマントルとの間における接触面積を増大させるための手段を備えている、脛骨プロテーゼ。」

2 補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ポケット」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について、以下に検討する。
3-1 本願補正発明
本願補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

3-2 引用文献の記載事項
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先権主張の日(以下「本願優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭55-133247号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある。
1a:第2頁左上欄第12行?右上欄第6行
「3.発明の詳細な説明
本発明は股の大腿骨の人口器官と相互に相用して、膝関節の代用をする脛骨の人口器官に関する。人口器官は脛骨の上端に入植するよう意図される。本発明の入口器官は概略U型横断面を有する骨髄内ステムを利用する。U型横断面のステムは膝の十字型靭帯の保持を可能にする一方、脛骨人口器官部分の安定性を増大させる。
自然の膝関節は股の大腿骨の下端(ディスタル)と脛骨の上端(プロクシマル)を含んでいる。支持作用が二つの骨瘤の間の、中介軟骨パッド、メニスキにより分離された大腿骨の下方面と脛骨の上方表面帯に生じる。脛骨の大腿骨への連結は骨瘤の間に位置する強く厚い束体である膝の十字靭帯を含む靭帯により備えられる。」

1b:第4頁左上欄第1?19行
「… 脛骨器官10は骨髄内ステム又はスパイク11を備え、そのスパイクはほぼテーパーをなすU型横断面を有し、重要な十字靭帯の通行を可能にする中央孔13の周縁の脛骨皿台12に固着する事ができる。取付け地域はU字型をなし、中央孔13は後方に完全に開いたままであり、十字靭帯の通行を可能にし、且つその作用を妨げない。
スパイク11はテーパー点14に向って幅が減少する一方、一定の半径で、それによりスパイク11が切除した脛骨の骨髄内空部に容易に駆動又は押圧されるようにするのが好ましい。同様に、横断面も点14に向かって厚さを減少する事ができる。何となれば、強さと固さの必要性が皿台12からの距離に従って減ずるからである。従つて、スパイク11は点14から脛骨皿台12への取付け地域に向つて上方及び外方へ傾斜する。スパイク11の侵入先端は鋭く尖つたものより、平坦又はやや丸味をもつほうが好ましい。…」

1c:第4頁右下欄第3?9行
「スパイク11の表面は溝、穿孔、リッジ又は同様の物で幾分組織され、それと脛骨の骨或いは介在するセメント骨と相互作用を増大するようにするのが好ましい。更に好ましくは多孔表面を備え、技術的に知られている骨の内方生長を可能にする。更に又脛骨皿台12の下側部分が同様の表面組織か多孔性を備えるのが好ましい。」

続いて、図面を参照しつつ上記の各記載について検討する。
ア)摘記事項1aにおける「人口器官は脛骨の上端に入植する」の「入植」が「移植」を意味することは明らかであるところ、摘記事項1aの「本発明は股の大腿骨の人口器官と相互に相用して、膝関節の代用をする脛骨の人口器官に関する。人口器官は脛骨の上端に入植するよう意図される。本発明の入口器官は概略U型横断面を有する骨髄内ステムを利用する。」、摘記事項1bの「脛骨器官10は骨髄内ステム又はスパイク11を備え、そのスパイクはほぼテーパーをなすU型横断面を有し、重要な十字靭帯の通行を可能にする中央孔13の周縁の脛骨皿台12に固着する事ができる。」の各記載によれば、脛骨器官10は脛骨の上端に移植するためのものであって、スパイク11及び脛骨皿台12を備えるものといえる。
イ)摘記事項1bの「スパイク11が切除した脛骨の骨髄内空部に容易に駆動又は押圧されるようにするのが好ましい。」、「スパイク11の侵入先端は鋭く尖ったものより、平坦又はやや丸味をもつほうが好ましい。」の各記載から、スパイク11は、切除した脛骨の骨髄内空部に押圧されて侵入するためのものであることが分かる。
ウ)摘記事項1bの「取付け地域はU字型をなし、中央孔13は後方に完全に開いたままであり」、「従って、スパイク11は点14から脛骨皿台12への取付け地域に向って上方及び外方へ傾斜する。」の各記載及び第2図の図示内容からみて、少なくともスパイク11の前方の面は、脛骨台12から遠ざかるように下方及び後方に傾斜しつつ延びるものといえる。
エ)摘記事項1cの「セメント骨」が「骨セメント」を意味することは明らかであるので、摘記事項1cの「スパイク11の表面は溝、穿孔、リッジ又は同様の物で幾分組織され、それと脛骨の骨或いは介在するセメント骨と相互作用を増大するようにするのが好ましい。・・・更に又脛骨皿台12の下側部分が同様の表面組織か多孔性を備えるのが好ましい。」なる記載によれば、脛骨台12の下側部分の表面には、骨セメントとの相互作用を増大するための溝、穿孔、リッジ又は同様の表面組織が設けられるものといえる。

以上を総合すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
「脛骨の上端に移植するための脛骨器官10であって、
脛骨皿台12と、
切除した脛骨の骨髄内空部に押圧されて侵入するためのスパイク11であって、スパイク11の前方の面は、脛骨台12から遠ざかるように下方及び後方に傾斜しつつ延びるスパイク11と、
を備える、脛骨器官10において、
脛骨台12の下側部分の表面には、骨セメントとの相互作用を増大するための溝、穿孔、リッジ又は同様の表面組織が設けられる、脛骨器官10。」

(2)引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用され、本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった米国特許第4938769号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の記載がある(括弧内に付記した邦訳は当審による。)。
2a:第1欄第4?7行
「This invention is in the field of prosthetic replacements for human joints. More specifically, the invention is directed to artificial knee joints, especially to the tibial component of such prostheses.」
(本発明は、人の関節のためのプロテーゼ置換の分野に関するものであって、より具体的には、本発明は、人工膝関節、特に、該プロテーゼの脛骨コンポーネントに対するものである。)

2b:第4欄第28?34行
「With reference first to FIG.1, a tibial prosthesis 14 of this invention includes modular tibial component 10 and bearing insert 11. The bearing insert is adapted to mate with femoral component 95 of a total knee prosthesis. The modular tibial component 10, in turn, includes tibial tray 12, in-bone anchorage assembly 13, and fasteners 23, 33, and 43. …」
(まず図1を参照すると、本発明の脛骨プロテーゼ14は、モジュール式の脛骨コンポーネント10と、支持インサート11を含む。支持インサートは、人工膝関節の大腿骨コンポーネント95と係合するように適合される。また、モジュール式の脛骨コンポーネント10は、脛骨トレイ12、骨内固定アセンブリ13、及びファスナー23、33、43を含む。)

2c:第5欄最終行?第6欄第14行
「… The tibial tray also has a distal side 55, most completely shown in FIGS.4-6. Although not required, it is preferred that distal side 55 carry a narrow, axially raised flange 56 about its periphery. When the tray is properly positioned with respect to the prepared tibia, flange 56 acts as a stand-off, permitting application of a layer of an appropriate adherent between the gone surface and distal side 55. Such adherents are well known in the art and include poly(methylmethacrylate) bone cements, for example.
It is also preferred that distal side 55 include one or more walled recesses 57. When so included, it is especially preferred that recess walls 58 be angled acutely as shown in FIG. 5, thereby providing interlocking fixation of tray 12 to the tibia, e.g., via bone cement. …」
(脛骨トレイはまた、図4-6において最もよく示される、遠位面55を備える。必須ではないが、遠位面55はその外周に、軸方向に突出した幅狭のフランジ56を有することが好ましい。準備された脛骨に対し、トレイが適切に位置決めされると、フランジ56はスタンドオフとして作用し、骨面と遠位面55との間に適切な接着剤層の適用を可能にする。そのような接着剤は、当技術分野でよく知られており、例えば、ポリ(メタクリル酸メチル)骨セメントが挙げられる。
また、遠位面55が、1つ又は複数の壁付き凹部57を有することも好ましい。その場合、図5に示すように、凹部壁58は鋭角であることが特に好ましく、これにより、脛骨トレイ12は脛骨に対し、例えば、骨セメントを介して係止固定される。」

上記の各記載から、引用文献2には、次の事項が記載されているものといえる。
ア)脛骨プロテーゼ14は、脛骨トレイ12を含む(摘記事項2b)。
イ)脛骨トレイ12の遠位面55には、1つ又は複数の壁付き凹部57が設けられる(摘記事項2c)。
ウ)摘記事項2cの「骨面と遠位面55との間に適切な接着剤層の適用を可能にする。そのような接着剤は・・・ポリ(メタクリル酸メチル)骨セメント」の記載から、遠位面55における壁付き凹部57は、骨セメントの層が適用されるものである。
エ)摘記事項2cの「凹部壁58は鋭角であることが特に好ましく、これにより、脛骨トレイ12は脛骨に対し、例えば、骨セメントを介して係止固定される。」の記載から、壁付き凹部57の凹部壁58は鋭角であり、脛骨トレイ12の遠位面55は、脛骨に対し、骨セメントを介して係止固定されるものである。

以上を総合すると、引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
「脛骨プロテーゼ14であって、脛骨プロテーゼ14の脛骨トレイ12の遠位面55には、骨セメントの層が適用される、1つ又は複数の壁付き凹部57が設けられ、壁付き凹部57の凹部壁58は鋭角であり、脛骨トレイ12の遠位面55は、脛骨に対し、骨セメントを介して係止固定される、脛骨プロテーゼ14。」

(3)引用文献3
当審において周知例として新たに引用する、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2006-192266号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある(下線は、理解のため当審で付した。以下同じ。)。
3a:「【0002】
〔開示分野〕
本願の開示内容は、概して、インプラント可能な整形外科用ベアリング(orthopaedic bearing)およびその製造方法に関するものである。」

3b:「【0033】
次に、特に図3を参照すると、金属部品16は、金属体28を有し、この金属体28は、ステンレススチール、コバルト、クロム、チタンなど、インプラント可能な金属から作られている。金属体は、その上に多孔性コーティング30が設けられている。この多孔性コーティング30により、骨が、金属部品16の裏面32およびキール22の中へと容易に成長できる。さらに、骨セメントを使用する場合、この多孔性コーティング30により、金属部品16の裏面32およびキール22への固着がよくなる。多孔性コーティング30は、高分子複合材料14を成型する面34にも設けられる。成型工程中に、ポリマー層26は、多孔性コーティング30に押し込まれる、あるいは多孔性コーティング30と互いにかみ合い、これにより、ポリマー層26と多孔性コーティングとの間の機械的な結合をよくする。多孔性コーティング30として利用できる多孔性コーティングの1つは、Porocoat(登録商標)Porous Coatingであり、インディアナ州、ワルシャワのDePuy Orthopaedicsから市販されている。」

(4)引用文献4
当審において周知例として新たに引用する、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2005-177474号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。
4a:「【技術分野】
【0001】
本発明は、概して多孔質表面が付着した整形外科インプラント、更に具体的にはそのようなインプラントの疲労強度の向上、に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の関節の一部の置換のための整形外科インプラントは周知であり、例えばコバルト-クロム-モリブデン又はチタンから構築されうる。同様に、当該インプラント上に多孔質表面を供し、直接的な骨成長(bone ingrowth)及び当該インプラントとの相互嵌合を可能にすることにより固定を促進させることも知られている。あるいは、当該多孔質表面は、内部に骨セメントを受け入れ、骨セメントとの機械的なインターロックを増強することもできる。当該多孔質表面層は、典型的に多数の小さな金属粒子、例えばビーズ又はワイヤーメッシュの形態をとる。一般に、当該多孔質表面層は、当該インプラントと焼結、拡散接合、又は溶接される。これらの工程は、当該インプラント及び粒子を、多孔質表面層とインプラントボディがそれらの相互の接触点で一緒に、融解、溶融又は接合するのに十分な温度に加熱することを必要とする。」

3-3 対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。
ア)引用発明1の「脛骨器官10」は、その用語ないし機能からみて、本願補正発明の「脛骨プロテーゼ」に相当し、同様に、「脛骨の上端」は「脛骨の近位部分」に相当する。
また、脛骨器官10を移植するに当たり、損傷した脛骨の上端を少なくとも部分的に切除した上で、その切除面に脛骨器官10を移植することは、人工膝関節の分野における技術常識であって、斯かる技術常識及び上記の相当関係によれば、引用発明1の「脛骨の上端に移植するための脛骨器官10」は、本願補正発明の「脛骨の近位部分を少なくとも部分的に置換するための脛骨プロテーゼ」に相当する。
イ)引用発明1の「脛骨器官10」は、「脛骨皿台12」を備えるのであるから、「脛骨台12の下側部分の表面」をも備えるものといえるところ、上記の技術常識を踏まえれば、当該「下側部分の表面」は、その「骨セメントとの相互作用」という機能からみて、本願補正発明の「脛骨の前記近位部分上の切除済み表面に接触するための下方表面」に相当する。
ウ)引用発明1の「切除した脛骨の骨髄内空部」、「押圧されて侵入する」、「スパイク11」は、その形状、機能等からみて、本願補正発明の「近位脛骨に形成された空洞部の中」、「貫通する」、「キール」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1の「スパイク11」では、少なくともその「前方の面は、脛骨台12から遠ざかるように下方及び後方に傾斜しつつ延びる」というのであるから、引用発明1の「スパイク11」は、「前記下方表面から離れるように下方後方角度で延在する」点で、本願補正発明の「キール」と一致する。
エ)引用発明1の「溝、穿孔、リッジ又は同様の表面組織」は、その表面の凹凸構造における凹部分に一部の骨セメントが収容されることにより、「骨セメントとの相互作用を増大」していることは、技術的に明らかである。
よって、引用発明1の「骨セメントとの相互作用を増大するための溝、穿孔、リッジ又は同様の表面組織」は、“セメントマントルを収容するための1つ又は複数の表面構造”である点で、本願補正発明の「セメントマントルを収容するための1つ又は複数の多孔性のポケット」と共通する。

以上によれば、本願補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
脛骨の近位部分を少なくとも部分的に置換するための脛骨プロテーゼであって、
(a)前記脛骨の前記近位部分上の切除済み表面に接触するための下方表面と、
(b)前記近位脛骨に形成された空洞部の中に貫通するためのキールであって、前記下方表面から離れるように下方後方角度で延在するキールと、
を備える、前記脛骨プロテーゼにおいて、
前記脛骨プロテーゼの前記下方表面には、セメントマントルを収容するための1つ又は複数の表面構造が設けられている、脛骨プロテーゼ。

<相違点1>
下方表面における表面構造に関し、本願補正発明では、表面構造が「多孔性のポケット」であって、その「ポケットが、インプラントと前記セメントマントルとの間における接触面積を増大させるための手段を備えている」のに対し、引用発明1では、表面構造が溝、穿孔、リッジ又は同様の表面組織ではあるものの、「ポケット」であるとまでの特定はなく、また、表面構造が、「多孔性」ではないため、「インプラントと前記セメントマントルとの間における接触面積を増大させるための手段を備えている」ものでもない点。

3-4 判断
相違点1について検討する。
引用文献2には、上記3-2(2)で示したとおり、引用発明2として、「脛骨プロテーゼ14であって、脛骨プロテーゼ14の脛骨トレイ12の遠位面55には、骨セメントの層が形成される、1つ又は複数の壁付き凹部57が設けられ、壁付き凹部57の凹部壁58は鋭角であり、脛骨トレイ12の遠位面は、脛骨に対し、骨セメントを介して係止固定される、脛骨プロテーゼ14。」が記載されている。
ここで、引用発明2における「脛骨プロテーゼ14」、「脛骨プロテーゼ14の脛骨トレイ12の遠位面55」、「骨セメントの層が適用される」、「壁付き凹部57」は、それぞれ“脛骨プロテーゼ”、“脛骨プロテーゼの下方表面”、“セメントマントルを収容する”、“ポケット”といえるものであるから、引用発明2は、“脛骨プロテーゼであって、脛骨プロテーゼの下方表面には、セメントマントルを収容する1つ又は複数のポケットを有する、脛骨プロテーゼ。”なる発明を包含する発明ということができる。
他方、例えば、引用文献3に「骨セメントを使用する場合、この多孔性コーティング30により、金属部品16の裏面32およびキール22への固着がよくなる。」(摘記事項3b)と、また、引用文献4に「多孔質表面は、内部に骨セメントを受け入れ、骨セメントとの機械的なインターロックを増強することもできる。」(摘記事項4a)と示されるように、骨セメントによりプロテーゼ(インプラント)を固定するに当たり、プロテーゼの表面を多孔性とすることにより、プロテーゼと骨セメントとの連結が増強されることは、人工関節プロテーゼに関する技術分野において従来より周知の技術手段にすぎず、しかも、このような連結の増強が、多孔性であるプロテーゼ表面と骨セメントとの接触面積の増大に基づくものであることは、摘記事項4aにおける「多孔質表面は、内部に骨セメントを受け入れ」なる上記記載をみるまでもなく、技術的に明らかといえるところである。
引用発明1、引用発明2は、いずれも脛骨プロテーゼという技術分野においても、また、プロテーゼの下方表面にセメントマントルを収容するという課題においても共通するものであるから、引用発明1に引用発明2を適用し、引用発明1における「溝、穿孔、リッジ又は同様の表面組織」の具体的構造を、「ポケット」とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
加えて、引用発明1の「表面組織」は、「骨セメントとの相互作用を増大するための」「表面組織」であることから、引用発明2の適用に当たり、斯かる「骨セメントとの相互作用」のより一層の増大を図るため、上記周知の技術手段をも併せて採用し、「ポケット」を「多孔性」とすることで「ポケットが、インプラントと前記セメントマントルとの間における接触面積を増大させるための手段を備えている」ようにすることも、当業者が必要に応じ適宜になし得た程度のことである。

そして、本願補正発明の奏する作用効果も、引用発明1、引用発明2及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

3-5 小括
よって、本件補正発明は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし18に係る発明は、平成29年12月5日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由の概要は、この出願の請求項1に係る発明は、本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1、2に記載された発明に基いて、その日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


引用文献1:特開昭55-133247号公報
引用文献2:米国特許第4938769号明細書

3 引用文献の記載事項
引用文献1及び2の記載事項(引用発明1及び2)は、前記第2の[理由]3-2に記載したとおりである。

4 対比
前記第2の[理由]3-3の「対比」における検討を踏まえると、本願発明と引用発明とは、上記の一致点で一致し、次の点で相違する。
<相違点2>
下方表面における表面構造に関し、本願補正発明では、表面構造が「ポケット」であって、その「ポケットが、インプラントと前記セメントマントルとの間における接触面積を増大させるための手段を備えている」のに対し、引用発明1では、表面構造が溝、穿孔、リッジ又は同様の表面組織ではあるものの、「ポケット」であるとまでの特定はなく、また、「ポケットがインプラントと前記セメントマントルとの間における接触面積を増大させるための手段を備えている」ものでもない点。

4 判断
まず、引用発明2における「壁付き凹部57の凹部壁58は鋭角であり、脛骨トレイ12の遠位面は、脛骨に対し、骨セメントを介して係止固定される」事項について検討する。
引用文献2のFig.5を参照すると、引用発明2の「鋭角であ」る「凹部壁58」は、凹部57を囲む単なる垂直壁ではなく、アンダーカット状の凹部57を形成する形状の壁であると把握できる。
引用発明2は、「脛骨トレイ12の遠位面は、脛骨に対し、骨セメントを介して係止固定される」というものであるが、壁付き凹部57を含む遠位面55に骨セメントの層が適用された際、当該壁が凹部壁である場合であれば、凹部57の各内側表面に骨セメントが接触する総面積は、壁が単なる垂直壁である場合に比べて、より大きくなることは、凹部壁58の形状からみて明らかである。
そうすると、引用発明2の「鋭角であ」る「凹部壁58」は、“インプラントと前記セメントマントルとの間における接触面積を増大させるための手段”といえることから、前記第2の[理由]3-4の「判断」での検討も踏まえると、引用発明2は、“脛骨プロテーゼの前記下方表面には、セメントマントルを収容するための1つ又は複数のポケットが設けられており、前記ポケットが、インプラントと前記セメントマントルとの間における接触面積を増大させるための手段を備えている、脛骨プロテーゼ。”と言い換えることができるものである。
そして、引用発明1、引用発明2は、いずれも脛骨プロテーゼという技術分野においても、また、プロテーゼの下方表面にセメントマントルを収容するという課題においても共通するものであるから、引用発明1において引用発明2を適用し、相違点2における本願発明の特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、本願発明の奏する作用効果も、引用発明1及び引用発明2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-09-17 
結審通知日 2019-09-24 
審決日 2019-10-08 
出願番号 特願2016-20736(P2016-20736)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61F)
P 1 8・ 121- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 敏長  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 寺川 ゆりか
関谷 一夫
発明の名称 十字靱帯温存型人工膝関節  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  
代理人 村山 靖彦  
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