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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60W
管理番号 1360308
審判番号 不服2019-565  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-16 
確定日 2020-03-05 
事件の表示 特願2015-48648「作業車両」拒絶査定不服審判事件〔平成28年9月23日出願公開、特開2016-168883〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月11日の出願であって、その手続きの経緯は以下のとおりである。
平成30年4月6日付け(同年4月17日発送):拒絶理由通知書
平成30年6月14日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年9月13日付け(同年10月16日発送) :拒絶査定
平成31年1月16日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成31年1月16日の手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成31年1月16日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1についてみると、本件補正により補正される前の(すなわち、平成30年6月14日に提出された手続補正書による)下記の(1)の記載を下記の(2)の記載に補正するものである(下線は補正箇所を示す。)。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1

「【請求項1】
自車位置を検出する自車位置検出モジュールと、
目標走行経路を算定する経路算定部と、
前記自車位置と前記目標走行経路とに基づいて自動走行を実行する自動走行制御部と、
手動操作される手動走行操作ユニットと、
前記手動走行操作ユニットからの操作信号に基づいて手動走行を実行する手動走行制御部と、
車両の手動停止を条件として前記手動走行制御部による手動走行から前記自動走行制御部による自動走行への移行を実行する第1制御部と、
前記自動走行制御部による自動走行から前記手動走行制御部による手動走行への移行時に、自動運転から手動運転に切り替えられる際の遷移状態である手動運転牽制モードを設定し、車両の強制停止を実行する第2制御部と、
前記手動走行操作ユニットからの中断指令に応答して前記自動走行制御部による自動走行を一時的に中断させる自動運転中断モードに設定し車両の強制停止を実行するとともに、前記手動走行操作ユニットからの再開指令に応答して、前記自動運転中断モードを自動運転モードに変更し、前記自動走行制御部による自動走行を再開させる第3制御部と、を備えた作業車両。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1

「【請求項1】
自車位置を検出する自車位置検出モジュールと、
目標走行経路を算定する経路算定部と、
前記自車位置と前記目標走行経路とに基づいて自動走行を実行する自動走行制御部と、
手動操作される手動走行操作ユニットと、
前記手動走行操作ユニットからの操作信号に基づいて手動走行を実行する手動走行制御部と、
車両の手動停止を条件として前記手動走行制御部による手動走行から前記自動走行制御部による自動走行への移行を実行する第1制御部と、
前記自動走行制御部による自動走行から前記手動走行制御部による手動走行への移行時に、自動運転から手動運転に切り替えられる際の遷移状態である手動運転牽制モードを設定し、車両の強制停止を実行する第2制御部と、
前記手動走行操作ユニットからの中断指令に応答して前記自動走行制御部による自動走行を一時的に中断させる自動運転中断モードに設定し車両の強制停止を実行するとともに、前記手動走行操作ユニットからの再開指令に応答して、前記自動運転中断モードを、手動運転モードから自動運転モードへの移行の際に介するモードである自動運転許可モードを介することなく、自動運転モードに変更し、前記自動走行制御部による自動走行を再開させる第3制御部と、を備えた作業車両。」

2 本件補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明における「前記自動運転中断モードを自動運転モードに変更し」という発明特定事項について、「手動運転モードから自動運転モードへの移行の際に介するモードである自動運転許可モードを介することなく、」という事項を付加して限定することにより特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

3 独立特許要件
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2014-180894号公報(以下「引用文献1」という。)には、「走行車両」に関して、図面(特に図3及び4)とともに次の記載がある(なお、下線部は当審が付与したものである。以下同様。)。

(ア)「【0001】
本発明は、自動走行を可能とする走行車両において、自動走行モードと手動走行モードとの切り換えがスムーズに行えるようにするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行車両の一例としてトラクタに自動操舵制御手段とGPS位置情報算出手段を備えて、設定経路に沿って自動的に走行させて作業を可能としたトラクタが公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
トラクタを自動的に走行させるために、自律走行手段を設けて、圃場内の所定領域を目標とする経路で自律走行させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-186309号公報」

(イ)「【0012】
まず、走行車両の一例としてトラクタ1の全体構成について説明する。但し、走行車両はトラクタに限定するものではなく、複数の走行輪を有して走行可能とし、操舵装置により操舵操作が可能な田植機や乗用管理機や運搬車等であってもよい。」

(ウ)「【0024】
前記キャビン11上にGPS衛星37からの電波を受信する移動GPSアンテナ34が設けられ、移動GPSアンテナ34は移動受信機33と接続され、移動受信機33は制御部30と接続されている。該制御部30には、トラクタ1の走行状態を検出するための手段として、GPS位置算出手段と変位・方位算出手段を備え、ジャイロセンサ31と方位センサ32と移動受信機33と接続している。
【0025】
次に、トラクタ1の走行状態を取得する方法について説明する。
トラクタ1は、機体の姿勢情報を得るためにジャイロセンサ31、および方位センサ32を具備する。
ジャイロセンサ31はトラクタ1の機体前後方向の傾斜(ピッチ)の角速度、機体左右方向の傾斜(ロール)の角速度、および旋回(ヨー)の角速度、を検出するものである。該三つの角速度を積分計算することにより、トラクタ1の機体の前後方向および左右方向への傾斜角度、および旋回角度を求めることが可能である。ジャイロセンサ31の具体例としては、機械式ジャイロセンサ、光学式ジャイロセンサ、流体式ジャイロセンサ、振動式ジャイロセンサ等が挙げられる。ジャイロセンサ31は制御部30に接続され、当該三つの角速度に係る情報を制御部30に入力する。
【0026】
方位センサ32はトラクタ1の向き(進行方向)を検出するものである。方位センサ32の具体例としては磁気方位センサ等が挙げられる。方位センサ32は制御部30に接続され、機体の向きに係る情報を制御部30に入力する。
【0027】
こうして制御部30は、上記ジャイロセンサ31、方位センサ32から取得した信号を変位・方位演算手段により演算し、トラクタ1の姿勢(向き、機体前後方向及び機体左右方向の傾斜、旋回方向)を求める。

【0028】
次に、トラクタ1の位置情報をGPS(グローバル・ポジショニング・システム)を用いて取得する方法について説明する。
GPSは、元来航空機・船舶等の航法支援用として開発されたシステムであって、上空約二万キロメートルを周回する二十四個のGPS衛星(六軌道面に四個ずつ配置)、GPS衛星の追跡と管制を行う管制局、測位を行うための利用者の受信機で構成される。
GPSを用いた測位方法としては、単独測位、相対測位、DGPS(ディファレンシャルGPS)測位、RTK-GPS(リアルタイムキネマティック-GPS)測位など種々の方法が挙げられ、これらいずれの方法を用いることも可能であるが、本実施形態では測定精度の高いRTK-GPS測位方式を採用し、この方法について図1、図3より説明する。
【0029】
RTK-GPS(リアルタイムキネマティック-GPS)測位は、位置が判っている基準局と、位置を求めようとする移動局とで同時にGPS観測を行い、基準局で観測したデータを無線等の方法で移動局にリアルタイムで送信し、基準局の位置成果に基づいて移動局の位置をリアルタイムに求める方法である。
【0030】
本実施形態においては、トラクタ1に移動局となる移動受信機33と移動GPSアンテナ34が配置され、基準局となる固定受信機35と固定GPSアンテナ36が圃場の作業の邪魔にならない所定位置に配設される。本実施形態のRTK-GPS(リアルタイムキネマティック-GPS)測位は、基準局および移動局の両方で位相の測定(相対測位)を行い、基準局の固定受信機35で観測した位相データを移動受信機33に送信する。
【0031】
トラクタ1に配置された移動GPSアンテナ34はGPS衛星37・37・・・からの信号を受信する。この信号は移動受信機33に送信され測位される。そして、同時に基準局となる固定GPSアンテナ36でGPS衛星37・37・・・からの信号を受信し、固定受信機35で測位し移動受信機33に送信し、観測されたデータを解析して移動局の位置を決定する。こうして得られた位置情報は制御部30に送信される。
【0032】
こうして、このトラクタ1における制御部30は、GPS衛星37・37・・・から送信される電波を受信して移動受信機33において設定時間間隔で機体の位置情報を求め、ジャイロセンサ31及び方位センサ32から機体の変位情報および方位情報を求め、これら位置情報と変位情報と方位情報に基づいて機体が予め設定した設定経路に沿って走行するように、操舵アクチュエータ40、主変速アクチュエータ44等を制御する。自動耕耘作業にあっては、ロータリ耕耘装置24を設定深さ(耕深)となるように昇降アクチュエータ48を制御し、設定回転数となるようにエンジンコントローラ60によってエンジン3の回転数を制御する。設定経路および作業態様はキャビン11内の任意位置に配設した自動走行設定手段70により設定する。自動走行設定手段70はタッチパネル等で構成して表示手段49と一体的に構成してもよい。」

(エ)「【0033】
次に、本発明の手動運転(手動走行モード)と自動運転(自動走行モード)の切り換え制御について、図4より説明する。
【0034】
制御部30は、手動走行モード80と自動走行モード81と自動走行準備モード82と手動走行準備モード83と、これらを切り換えるモード切換手段84とを備える。
【0035】
モード切換手段84は、各モードにおいて、後述する移行条件が満たされると、その条件に合うモードへ移行させるための手段である。
【0036】
手動走行モード80は、自動走行設定手段70の設定によるプログラムとは関係なく、ステアリングハンドル4、ブレーキペダル15、クラッチペダル16、主変速レバー17、昇降レバー18、PTO変速レバー19、副変速レバー20、アクセルレバー21、前後進切換レバー22、PTOスイッチ25等の人為的に操作によって、トラクタ1を走行させたり、作業させたり、停止させたりするモードである。手動走行モード80において、自動走行開始条件が満たされると(移行条件1)、モード切換手段84により自動走行準備モード82に移行される。
【0037】
自動走行準備モード82は、手動走行モード80から自動走行モード81への遷移モードであり、エンジン3はアイドル回転数とし、走行停止状態として走行作業開始指令が整うまで待機する。
自動走行準備モード82時において自動走行に必要なデータが揃い、そのデータが異常値ではなく、自動走行開始指示が出されていると(移行条件2)、モード切換手段84により自動走行モード81に移行される。また、自動走行準備モード82時において、自動走行中断条件が満たされていたり、遷移後設定時間以上経過したりしていると(移行条件3)、モード切換手段84により手動走行準備モード83に移行される。即ち、自動走行準備モード82がないと、直接、手動走行モード80から自動走行モード81へ移行してしまうので、遷移途中で異常が生じた場合やGPSの信号の処理中でも自動走行が開始され、作業開始時に乱れることがある。本実施例では自動走行準備モード82があるため、これらを回避して、スムーズな移行が可能となる。
【0038】
自動走行モード81は、自動走行設定手段70により設定した条件に従い、自動的に、予め設定した経路に沿うように、トラクタ1の位置や方向を検知しながら操舵アクチュエータ40やブレーキアクチュエータ41を制御して走行し、設定した速度となるように、エンジン回転数や変速装置を制御し、設定した作業を行うように昇降アクチュエータ48等を制御する。
自動走行モード81時において、自動走行に必要なデータが揃っていなかったり、データが異常値であったり、走行停止が指示されたり、自動走行中断条件が満たされると(移行条件4)、モード切換手段84により手動走行準備モード83に移行される。
【0039】
手動走行準備モード83は、自動走行モード81から手動走行モード80への遷移モードであり、自動走行設定手段70によるプログラムは無視し、エンジン3はアイドル回転数とし、走行を停止させる制御を行う。
手動走行準備モード83時において、手動走行開始条件が満たされると(移行条件5)、モード切換手段84により手動走行モード80に移行される。また、手動走行準備モード83時において、自動走行開始条件が満たされると(移行条件6)、モード切換手段84により手動走行準備モード83(審決注:「自動走行準備モード82」の誤記と認める。)に移行される。即ち、自動走行モード81から手動走行モード80へ直接移行すると、急加速やエンジン回転数の急増の可能性があるので、自動走行モード81から手動走行モード80へ移行する際には、一旦、車速を最低速、エンジン回転数を最低回転数に落として安全を確保してから、手動走行に移行するようにしている。即ち、手動走行準備モード83がないと、直接、自動走行モード81から手動走行モード80へ移行してしまうので、変速操作手段の位置によっては急発進することがあり、アクセルレバー21の位置によってはエンストしたり、高回転となったりし、操舵装置の位置によっては急旋回したりすることがある。手動走行準備モード83を設けることでこれらを防止し、自動走行モード81への復帰も容易にできるようにしている。」

(オ)「【0040】
次に、各モードへの具体的な移行制御を説明する。
まず、手動操作でトラクタ1を圃場内の作業開始位置に移動する。エンジン3が作動され、機体の走行が停止され、手動走行モード80とした状態において自動走行を開始する場合、制御部30は、自動走行開始条件が満たされているか判断する。つまり、車速が設定速度(この設定速度は急発進しないような遅い速度で、例えば1km/h)以下で、前後進切換レバー22が中立、かつ、クラッチペダル16、ブレーキペダル15、パーキングレバー39が操作されていない、かつ、副変速レバー20が低速位置、かつ、エンジン回転数が設定回転数以上(この設定回転数はエンジン3が作動している最低回転数で、例えば250rpm以上)、かつ、ステアリングハンドル4が直進位置(以下「直進位置」は殆ど旋回しない略直進状態の位置とする)、かつ、トラクタに異常が発生していない状態で、自動・手動切換スイッチ71がオン(自動走行)に切り換えられているかを判断する。この自動走行開始条件(移行条件1)を満たしていると、自動走行準備モード82に移行される。
前記トラクタの異常とは、バッテリの電圧が設定値(最低作動電圧)以下であったり、油圧が設定値(最低作動圧)以下であったり、冷却水の温度が設定値(オーバーヒート水温)以上であったり、センサが反応していない場合等である。
【0041】
自動走行準備モード82に移行すると、自動走行に必要なデータがすべて揃っているか、自動走行中断条件を満たしているか、自動走行準備モード82に移行後設定時間(例えば1秒)以上経過したか、判断し、自動走行に必要なデータがすべて揃っていると(移行条件2)、自動走行モード81に移行し、自動走行中断条件を満たしている場合、または、自動走行準備モード82に移行後、設定時間以上経過した場合(移行条件3)、手動走行準備モード83に移行する。
【0042】
前記自動走行に必要なデータとしては、走行経路データや作業データやGPSからの位置データやジャイロセンサ31と方位センサ32からのデータ等である。
【0043】
また、前記自動走行中断条件とは、前後進切換レバー22が中立位置以外の位置にある、または、クラッチペダル16またはブレーキペダル15またはパーキングレバー39が操作されている、または、副変速レバー20が低速位置以外の位置、または、エンジン回転数が設定回転数未満(例えば250rpm未満)、または、トラクタに異常が発生した場合、または、自動・手動切換スイッチ71がオフに切り換えられた場合、または、PTOスイッチ25がオンまたはオフに操作された場合である。つまり、自動走行準備モード82に移行後に、作業者が手動操作を行うと、自動走行が中断されるようにして、手動操作を優先させている。
【0044】
自動走行が開始されて自動走行モード81に移行した状態においては、制御部30は、自動走行に必要なデータが揃わないか、または、自動走行に必要なデータが異常な値となっていないか、または、自動走行中断条件を満たしているか、または、自動走行停止を指示されたか(移行条件4)、判断し、これらのいずれか一つの条件が満たされると手動走行準備モード83に移行する。
自動走行に必要なデータが揃わない場合とは、走行経路データや作業データが消去されたり、変更された場合や、GPSからの位置データが届かない場合や、ジャイロセンサ31や方位センサ32からのデータが入力されない場合等である。
自動走行停止を指示された場合とは、自動走行プログラムが終了した場合や、自動走行設定手段70を用いて停止指令(プログラム)をした場合や、設定値等を変更した場合や、遠隔操作で停止が指示された場合等である。
【0045】
自動走行が中断されたりして手動走行準備モード83に移行すると、手動走行開始条件が満たされたか、自動走行開始条件が満たされたか判断する。手動走行開始条件が満たされると(移行条件5)手動走行モード80への移行を許可し、自動走行開始条件が満たされると(移行条件6)自動走行準備モード82への移行を許可する。
手動走行開始条件とは、前後進切換レバー22が中立で、主変速レバー17が最低速位置から設定範囲内の位置に変速され、アクセルレバー21が低回転域(例えば、最大回転数の50パーセント以下)にセットされ、自動・手動切換スイッチ71がオフ(手動)になっていることである。こうして、エンジン3が低回転で機体が停止しているときに手動走行モード80に移行できるようにして、急発進や急旋回等が生じないようにしている。
【0046】
以上のように、GPS衛星37から送信される電波を受信して機体の位置を算出するGPS位置算出手段と、操舵装置を回動する操舵駆動手段となる操舵アクチュエータ40と、エンジン回転制御手段となるエンジンコントローラ60と、変速手段となる主変速アクチュエータ44と副変速アクチュエータ47と、これらを制御する制御部30を備え、前記機体の位置に基づいて設定経路に沿って走行するように前記操舵駆動手段、エンジン回転制御手段及び変速手段を制御して自動走行可能とする自動走行モード81と、変速操作手段となる主変速レバー17と副変速レバー20、操舵操作手段となるステアリングハンドル4及びエンジン回転操作手段となるアクセルレバー21の人為的操作に応じて前記機体の走行を可能とする手動走行モード80とを備える走行車両において、制御部30には自動走行モード81と手動走行モード80を切り換えるモード切換操作手段となる自動・手動切換スイッチ71が接続され、自動・手動切換スイッチ71が手動から自動に切り換えられると、車速が設定速度以下、かつ、操舵装置が略直進位置、かつ、前後進切換手段が中立、かつ、クラッチがオフ(クラッチペダル16が非操作)、かつ、ブレーキがオフ(ブレーキペダル15及びパーキングレバー39が非操作)、かつ、副変速装置が低速位置、かつ、トラクタに異常がなく、かつ、エンジン回転数が設定回転数以上の場合、自動走行準備モード82に切り換わり、自動走行にかかる必要なデータがそろうと、自動走行モード81となり自動走行が開始されるので、手動走行モード80から自動走行モード81に切り換わる途中で、自動走行準備モード82に切り換わり、急発進や急旋回することなくスムーズに自動走行が開始される。」

上記記載事項及び図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

<引用発明>
「機体の位置情報を求める移動受信機33と、
設定経路を設定する自動走行設定手段70と、
前記機体の位置情報と前記設定経路とに基づいて自動走行を実行する制御部30と、
手動操作される自動・手動切換スイッチ71と、
前記自動・手動切換スイッチ71からの操作信号に基づいて手動走行モード80を実行するモード切換手段84と、
車両の走行停止状態を条件として前記モード切換手段84による手動走行モード80から前記モード切換手段84による自動走行モード81への移行を実行する制御部30と、
前記モード切換手段84による自動走行モード81から前記前記モード切換手段84による手動走行モード80への移行時に、自動走行モード81から手動走行モード80に切り替えられる際の遷移状態である手動走行準備モード83を設定し、車両の走行を停止させる制御を行う制御部30と、
前記自動・手動切換スイッチ71がオフに切り換えられたことに応答して前記モード切換手段84による自動走行モード81を一時的に中断させる手動走行準備モード83に設定し車両の走行を停止させる制御を行うとともに、前記自動・手動切換スイッチ71が手動から自動に切り換わることに応答して、前記手動走行準備モード83を、自動走行モード81に変更し、前記モード切換手段84による自動走行モード81を再開させる制御部30と、を備えたトラクタ1。」

イ 引用文献2
同じく原査定に引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平2-282566号公報(以下「引用文献2」という。)には、「コンクリート床仕上げロボットの制御方式」に関して、次の記載がある。

(ア)「第4図において、ロボット全体の制御を行なうCPU等を用いたコントローラ46が設けられ、コントローラ46に対しては第2,3図に示したバンパー38に設けたタッチセンサとしての障害物センサ38、走行距離Lを検出する移動距離センサ48、ロボットの進行方位θを検出するジャイロコンパス等を用いた方位センサ50が接続される。また、コントローラ46に対しては設定パネル52が設けられ、設定パネル52により第1図に示した施工範囲12、即ち施工範囲12を示す幅と奥行の設定、施工条件、即ち走行速度、基準方位、横方向の走行距離Lx、縦方向の走行距離Ly(ラップ幅)、最初旋回ポイントにおける旋回方向等が設定される。更に、コントローラ46に対しては表示パネル54が設けられ、ロボットの制御状態を示すかロボットの走行方位や運転モードの表示を行なう。
一方、コントローラ46による運転制御のため走行輪24L,24Rのそれぞれに設けたモータ56L,56Rの駆動装置58L,58R及びトロウェル部26のトロウェルモータ30を駆動するトロウェル駆動装置60が設けられる。
一方、オペレータによるロボットの運転制御は無線を用いたリモコン方式により行なわれ、このためコントローラ46に対し無線受信機62が設けられ、無線受信機62に対してはオペレータがハンドセットとして保持する無線送信機64が設けられる。」(4ページ左上欄3行ないし右上欄12行)

(イ)「第5図は第4図に示したロボット運転制御用の無線送信機64の一実施例を示す。この無線送信機64にはモード切換スイッチ群、手動運転用スイッチ群、更に自動運転用スイッチ群が設けられる。
即ち、モード切換用スイッチ群には手動スイッチSW1、自動スイッチSW2、教示スイッチSW3、解除スイッチSW4が含まれる。また、手動運転用スイッチ群には前進スイッチSW5、後退スイッチSW6、左旋回スイッチSW7、右旋回スイッチSW8が含まれる。更に自動運転用スイッチ群には開始スイッチSW9、停止スイッチSW10、再開スイッチSW11が含まれる。更に、全てのモードに共通するスイッチとして非常停止スイッチSW12が設けられている。
更に、各スイッチの機能を詳細に説明すると、手動スイッチSW1は手動モードで運転するときに押され、これによりロボット本体の表示パネル54の手動運転表示灯が点灯する。自動スイッチSW2は、自動モードで運転するときに押され、ロボット本体の表示パネル54の自動運転表示が点灯する。教示スイッチSW3は教示モード、即ち設定パネル52を使用して走行パターン、走行速度等を設定する際に使用され、教示スイッチSW3の操作でロボット本体の設定パネル52による設定操作を有効とする。
解除スイッチSW4はバンパー38に設けた障害物センサの検出状態を解除する際に使用する。前進スイッチSW5、後退スイッチSW6はスイッチを押している間、前進、後退が有効となる。左旋回スイッチSW7及び右旋回スイッチSW8についてもスイッチを押している間、旋回が有効となる。
開始スイッチSW9は自動運転を最初に開始する際に操作する。停止スイッチSW10は自動運転を中断する際に操作する。更に、再開スイッチSW11は停止スイッチSW10により自動運転を中断した後に自動運転を開始する際に操作する。」(4ページ右上欄13行ないし右下欄14行)

(ウ)「第8図は第6図のステップS8に示した自動運転の詳細を示したフローチャートである。
この第8図のフローチャートに示す自動運転処理については、前もって設定パネル52を使用して第1図に示した施工範囲12内にジグザグに設定した走行基準線14で成る走行パターン、更に施工範囲12の外側に設定した再開領域20の各々が設定されている。
このような自動運転に必要な各種情報の設定状態で、まずロボットを手動運転により第1図に示す施工範囲12内の開始位置Sに移動して位置決め停止し、続いて自動モードに切換えた状態で開始スイッチSW9を押すと自動モードに切換わって第8図に示す自動運転処理のフローチャートが実行される。
まず、ステップS1で施工範囲12内にあるか否か判定し、開始位置Sは施工範囲内であることからステップS2に進み、自動運転を開始する。」(5ページ左下欄13行ないし右下欄12行)

(エ)「次に、第8図のフローチャートに従った自動運転中に例えば第9図の走行パターン16に示すようにY軸方向の走行基準線14に従った自動運転中にロボットが施工範囲12を外れて再開領域20の範囲内で停止したとする。
具体的には、自動運転中にロボットが異常な動きをして施工範囲12から外れる方向に動いたことをオペレータが見て第5図の無線送信機64に設けた停止スイッチSW10を操作した場合である。
このように自動運転中にロボットが再開領域20の範囲内の停止位置18で停止した場合には、第5図に示した再開スイッチSW11を操作することで自動運転を再開できる。
このような再開スイッチSW11の操作に対し第8図のフローチャートにあっては、まずステップS1でロボットの停止位置18が施工範囲12から外れていることが判別されてステップS9に進み、再開領域20内か否か判定される。このとき再開領域20内にあることから、ステップS10で施工範囲12の境界線に対する停止位置18のずれ量ΔL=ΔLxを検出し、ステップS11で自動運転を開始する。このステップS11における自動運転は、自動運転中の停止のために停止スイッチSW10を押したときに、それまでの自動運転の制御パラメータが全て保持されていることから、保持されている制御パラメータから停止前の走行方向がY軸方向であることを知り、停止位置18から停止前の走行方向、即ちY方向に向けて直進走行する自動運転を行なう。」(6ページ左下欄15行ないし7ページ左上欄8行)

上記記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。

<引用文献2記載事項>
「モード切換用スイッチ群の停止スイッチSW10からの停止操作に応答してコントローラ46による自動運転を一時的に中断させる自動運転中の停止に設定し車両の停止を実行するとともに、前記停止スイッチSW10からの再開指令に応答して、前記自動運転中の停止を、手動運転から自動運転開始への移行の際に介するモードである自動運転モードのステップS1及びステップS2を介することなく、自動運転に変更し、前記コントローラ46による自動運転を再開させるコントローラ46と、を備えたこと」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「機体の位置情報」は、その機能からみて、前者の「自車位置」に相当し、以下同様に、「求める」ことは「検出する」ことに、「移動受信機33」は「自車位置検出モジュール」に、「設定経路」は「目標走行経路」に、「設定する」ことは「算定する」ことに、「自動走行設定手段70」は「経路算定部」に、「制御部30」は「自動走行制御部」、「第1制御部」、「第2制御部」及び「第3制御部」に、「自動・手動切換スイッチ71」は「手動走行操作ユニット」に、「手動走行モード80」は「手動走行」に、「モード切換手段84」は「手動走行制御部」に、「走行停止状態」は「手動停止」に、「自動走行モード81」は「自動走行」に、「手動走行準備モード83」は「手動運転牽制モード」に、「走行を停止させる制御を行う」ことは「強制停止を実行する」ことに、「自動・手動切換スイッチ71がオフに切り換えられたこと」は「手動走行操作ユニットからの中断指令」に、「走行を停止させる制御を行う」ことは「強制停止を実行する」ことに、「自動走行モード81」は「自動運転モード」及び「自動走行」に、「トラクタ1」は「作業車両」に、それぞれ相当する。
また、後者の「手動走行準備モード83」は、作業者の手動操作により自動走行が中断されるときにも用いられることから、前者の「自動運転中断モード」にも相当する。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、次の一致点、相違点がある。

〔一致点〕
「自車位置を検出する自車位置検出モジュールと、
目標走行経路を算定する経路算定部と、
前記自車位置と前記目標走行経路とに基づいて自動走行を実行する自動走行制御部と、
手動操作される手動走行操作ユニットと、
前記手動走行操作ユニットからの操作信号に基づいて手動走行を実行する手動走行制御部と、
車両の手動停止を条件として前記手動走行制御部による手動走行から前記自動走行制御部による自動走行への移行を実行する第1制御部と、
前記自動走行制御部による自動走行から前記手動走行制御部による手動走行への移行時に、自動運転から手動運転に切り替えられる際の遷移状態である手動運転牽制モードを設定し、車両の強制停止を実行する第2制御部と、
前記手動走行操作ユニットからの中断指令に応答して前記自動走行制御部による自動走行を一時的に中断させる自動運転中断モードに設定し車両の強制停止を実行するとともに、前記手動走行操作ユニットからの再開指令に応答して、前記自動運転中断モードを、自動運転モードに変更し、前記自動走行制御部による自動走行を再開させる第3制御部と、を備えた点。」

〔相違点〕
本件補正発明は、自動運転中断モードを、「手動運転モードから自動運転モードへの移行の際に介するモードである自動運転許可モードを介することなく、」自動運転モードに変更しているのに対し、
引用発明は、「手動運転モードから自動運転モードへの移行の際に介するモードである自動運転許可モードを介することなく」とは特定されていない点。

(4)当審の判断
上記相違点について検討する。
上記引用文献2記載事項は、「モード切換用スイッチ群の停止スイッチSW10からの停止操作に応答して前記コントローラ46による自動運転を一時的に中断させる自動運転中の停止に設定し車両の停止を実行するとともに、前記停止スイッチSW10からの再開指令に応答して、前記自動運転中の停止を、手動運転から自動運転開始への移行の際に介するモードである自動運転モードのステップS1及びステップS2を介することなく、自動運転に変更し、前記コントローラ46による自動運転を再開させるコントローラ46と、を備えたこと」というものである。
ここで、本件補正発明と引用文献2記載事項とを対比すると、後者の「モード切換用スイッチ群の停止スイッチSW10」は、その機能からみて、前者の「手動走行操作ユニット」に相当し、以下同様に、「停止操作」は「中断指令」に、「コントローラ46」は「自動走行制御部」及び「第3制御部」に、「自動運転」は「自動走行」に、「自動運転中の停止」は「自動運転中断モード」に、「停止」は「強制停止」に、「停止スイッチSW10」は「手動走行操作ユニット」に、「手動運転」は「手動運転モード」に、「自動運転開始」は「自動運転モードへの移行」に、「自動運転モードのステップS1及びステップS2」は「自動運転許可モード」に、「自動運転」は「自動運転モード」に、それぞれ相当する。
したがって、上記引用文献2記載事項は、本件補正発明の用語を用いて、「手動走行操作ユニットからの中断指令に応答して自動走行制御部による自動走行を一時的に中断させる自動運転中断モードに設定し車両の強制停止を実行するとともに、前記手動走行操作ユニットからの再開指令に応答して、前記自動運転中断モードを、手動運転モードから自動運転モードへの移行の際に介するモードである自動運転許可モードを介することなく、自動運転モードに変更し、前記自動走行制御部による自動走行を再開させる第3制御部を備えたこと」と言い換えることができる。
そして、引用発明と上記引用文献2記載事項とは、作業用移動体の自動運転という共通の技術分野において、作業用移動体の自動運転の中断に対処するという共通の課題を解決するものである。
してみれば、上記相違点に係る本件発明の発明特定事項は、引用発明において、引用文献2記載事項を適用することにより、当業者が容易に想到できたものである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明及び引用文献2記載事項から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

以上のように、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正発明は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成31年1月16日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成30年6月14日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1及び2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2014-180894号公報
引用文献2:特開平2-282566号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された、引用文献1及び引用文献2並びにその記載事項は、前記第2の[理由]3(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本件補正発明は、前記第2の[理由]2で検討したとおり、本願発明に発明特定事項を付加して限定したものであるから、本願発明は、本件補正発明の発明特定事項の一部を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]3(3)(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2019-12-27 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-20 
出願番号 特願2015-48648(P2015-48648)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60W)
P 1 8・ 575- Z (B60W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 賢明塩澤 正和神山 貴行  
特許庁審判長 渋谷 善弘
特許庁審判官 齊藤 公志郎
金澤 俊郎
発明の名称 作業車両  
代理人 特許業務法人R&C  

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